特許異議申立
2024-700841
鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造および鉄筋コンクリート構造物の断面修復方法
- 審判番号
- 2024-700841
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-058049
- 登録番号
- 7443410
- 請求日
- 2024年09月04日
- 審決日
- 2025年03月19日
- 公報発行日
- 2025年04月25日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】デンカ株式会社
- 【権利者代理人】田口 昌浩
- 【権利者代理人】伊藤 高志
- 【異議申立人】鈴木 佐知子
- 【異議申立人】田村 奈緒美
- 審判長/審判官
- 審判長 長井 真一
- 審判官 太田 恒明
- 審判官 澤田 真治
- 分類
- P1651.121-Y (E04G) / P1651.537-Y (E04G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7443410号発明「鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造および鉄筋コンクリート構造物の断面修復方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7443410号の請求項1~12に係る特許を維持する。
理由
理 由
1 手続の経緯
特許第7443410号(以下「本件特許」という。)の請求項1~12に係る特許についての出願は、令和4年3月31日に出願され、令和6年2月26日にその特許権の設定登録がされ、同年3月5日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議申立ての経緯は、次のとおりである。
令和6年9月4日:特許異議申立人鈴木佐和子(以下「申立人1」という。)による請求項1~12に係る特許に対する特許異議の申立て(以下「申立1」という。)
令和6年9月5日:特許異議申立人田村奈緒美(以下「申立人2」という。)による請求項1~12に係る特許に対する特許異議の申立て(以下「申立2」という。)
また、その後の手続等の概要は、以下のとおりである。
令和6年12月 3日付け:取消理由通知書
令和7年 1月30日 :意見書(特許権者)
2 本件特許発明
本件特許の請求項1~12に係る発明(以下、それぞれ請求項の番号に合わせて「本件特許発明1」等といい、まとめて「本件特許発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~12に記載された事項により特定される次のとおりのものである。なお、符号A等は分説のため当審で付した。
「 【請求項1】
A 既設鉄筋コンクリート構造物の欠陥部における表層コンクリートを鉄筋の少なくとも一部が露出するまで除去して形成されるコンクリート除去部と、
B 露出した鉄筋の周囲を覆う防錆剤として亜硝酸リチウムを含む断面修復材A、及び該断面修復材Aにプライマー層を介して積層される亜硝酸リチウム非含有断面修復材Bを含む補修材とを有し、
C 該補修材が前記コンクリート除去部に充填されてなる鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造であって、
D 前記プライマー層を形成するためのプライマー層形成材料の不揮発分の塗布量が、5~50g/m2である、
E 鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造。
【請求項2】
F 前記プライマー層が、アクリル系樹脂又はエチレン-酢酸ビニル系樹脂を含有する
E 請求項1に記載の鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造。
【請求項3】
G 前記断面修復材Aの厚みが5~50mmである
E 請求項1又は2に記載の鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造。
【請求項4】
H 前記鉄筋と前記断面修復材Aの間に防錆層をさらに有する
E 請求項1~3のいずれか1項に記載の鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造。
【請求項5】
I 前記防錆層が亜硝酸リチウムを含有する
E 請求項4に記載の鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造。
【請求項6】
J 前記防錆層の塗布量が300~5000kg/m2である
E 請求項4又は5に記載の鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造。
【請求項7】
K 前記断面修復材A及び断面修復材Bの主成分がモルタル組成物である
E 請求項1~6のいずれか1項に記載の鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造。
【請求項8】
L 既設鉄筋コンクリート構造物の欠陥部における表層コンクリートを鉄筋の少なくとも一部が露出するまで除去する工程(I)、
M 露出した鉄筋の周囲を防錆剤として亜硝酸リチウムを含有する断面修復材Aで覆う工程(II)、
N 該断面修復材Aの表面にプライマー層形成材料を塗布し、プライマー層を形成する工程(III)、
O 該プライマー層上に亜硝酸リチウム非含有の断面修復材Bを積層する工程(IV)を有する、鉄筋コンクリート構造物の断面修復方法であって、
P 前記プライマー層形成材料の不揮発分の塗布量が、5~50g/m2である
Q 鉄筋コンクリート構造物の断面修復方法。
【請求項9】
R 前記プライマー層形成材料がアクリル系樹脂又はエチレン-酢酸ビニル系樹脂を含有する
Q 請求項8に記載の鉄筋コンクリート構造物の断面修復方法。
【請求項10】
S 前記工程(II)の後、前記工程(III)の開始前に、3時間以上の保持時間を有する
Q 請求項8又は9に記載の鉄筋コンクリート構造物の断面修復方法。
【請求項11】
T 前記断面修復材Bが吹付法により積層される
Q 請求項8~10のいずれか1項に記載の鉄筋コンクリート構造物の断面修復方法。
【請求項12】
U 前記工程(I)の後、前記工程(II)の前に鉄筋に防錆剤を塗布して、防錆層を形成する工程を有する
Q 請求項8~11のいずれか1項に記載の鉄筋コンクリート構造物の断面修復方法。」
3 特許異議の申立ての理由の概要
(1)申立1の申立理由の概要及び証拠方法
申立人1は、証拠方法として以下の甲第1号証~甲第10号証を提出し、以下の申立理由を主張している。
ア 証拠方法
甲第1号証:特開2007-162233号公報(以下「申立1甲1」という。)
甲第2号証:特開2020-158371号公報(以下「申立1甲2」という。)
甲第3号証:ポゾリスソリューションズ社製品カタログ(マスターエマコS990CI) (以下「申立1甲3」という。)
甲第4号証:特開2019-7279号公報(以下「申立1甲4」という。)
甲第5号証:デンカ社製品カタログ (RIS211E)(以下「申立1甲5」という。)
甲第6号証:特開2003-120041号公報(以下「申立1甲6」という。)
甲第7号証:特開2013-57203号公報(以下「申立1甲7」という。)
甲第8号証:建築工事標準仕様書・同解説15 左官工事(以下「申立1甲8」という。)
甲第9号証:特開2008-156152号公報(以下「申立1甲9」という。)
甲第10号証:JIS ハンドブック11 土木I(以下「申立1甲10」という。)
イ 申立理由の概要
(ア)申立理由1(進歩性)(以下「申立1理由1」という。)
本件特許発明1~12は、申立1甲1~申立1甲10に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件特許発明1~12に係る特許は、同法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消されるべきものである。
(イ)申立理由2(サポート要件)(以下「申立1理由2」という。)
本件特許発明1及び8に記載の「不揮発分」との記載は、本件特許発明が得ようとする効果を奏し得ない構成を含むため、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えているから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものであり、本件特許発明1~12に係る特許は同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。
(ウ)申立理由3(明確性)(以下「申立1理由3」という。)
本件特許発明1及び8に記載の「不揮発分」との記載は、本件特許発明が得ようとする効果を奏し得ない構成を含むため、発明特定事項が技術的に十分特定されていないことが明らかであり、明細書及び図面の記載を考慮しても、当業者が請求項の記載から発明を明確に把握できないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないものであり、本件特許発明1~12に係る特許は同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。
(2)申立2の申立理由の概要及び証拠方法
申立人2は、証拠方法として以下の甲第1号証~甲第8号証を提出し、以下の申立理由を主張している。
ア 証拠方法
甲第1号証:特開2003-120041号公報(以下「申立2甲1」という。)
甲第2号証:特開2008-156152号公報(以下「申立2甲2」という。)
甲第3号証:特開2019-7279号公報(以下「申立2甲3」という。)
甲第4号証:特開2015-6965号公報(以下「申立2甲4」という。)
甲第5号証:特開2013-57203号公報(以下「申立2甲5」という。)
甲第6号証:特開2014-218401号公報(以下「申立2甲6」という。)
甲第7号証:特開2020-158371号公報(以下「申立2甲7」という。)
甲第8号証:特開平3-285882号公報(以下「申立2甲8」という。)
イ 申立理由の概要
本件特許発明1~12は、申立2甲1及び申立2甲2~申立2甲4に記載された事項、申立2甲5及び申立2甲2~申立2甲4に記載された事項、または、申立2甲6、申立2甲2~申立2甲4並びに申立2甲7及び申立2甲8に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件特許発明1~12に係る特許は、同法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消されるべきものである。
4 取消理由の概要
当審において、令和6年12月3日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
(進歩性)請求項1~12に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった申立1甲1に記載された発明並びに申立1甲2~申立1甲5及び申立1甲10に記載された事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
5 甲各号証の記載
(1)申立1甲1
ア 申立1甲1に記載された事項
「【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
図1(a)~(e)は、基礎コンクリート1の補修方法を示す手順を模式的に表した平断面図である。
本発明の既設の基礎コンクリート1を補修する補修方法について順に説明する。
まず、基礎コンクリート1の劣化部(図示しない)を電動ハンマーや高圧洗浄機を使用して撤去する(下地ハツリ工程)。図1(a)に示すように、基礎コンクリート1に幅0.3mm以上のクラック部2が生じている場合には、図1(b)に示すように、クラック部2をその周囲を囲むようにサンダーを使用して切除し、平断面視U字型の凹部3を形成する。また、基礎コンクリート1に鉄筋(図示しない)が露出し、その露出鉄筋に錆びがある場合には金ブラシで錆びを丁寧に除去しておく。
【0018】
次いで、図1(c)に示すように、基礎コンクリート1の表面全面にローラでアルカリ付与剤4を塗布する(アルカリ塗布工程)。アルカリ付与剤4は、亜硝酸リチウム水溶液であって、これを基礎コンクリート1に塗布浸透させることにより中性化の進んだ基礎コンクリート1にアルカリ性を付与して回復させるものである。また、鉄筋の腐食進行を抑制する効果も有している。
【0019】
アルカリ塗布工程後、図1(d)に示すように、基礎コンクリート1に形成した凹部3に、メンテペースト(充填材)5をコテで充填する。メンテペースト5としては、刷毛塗り用のポリマーセメントであり、ハンドミキサーによって予め練り混ぜておく。
また、このメンテペースト5を刷毛で露出鉄筋に塗布することによって露出鉄筋の防錆処理を行う。メンテペースト塗布後は、常温期で12時間、冬期で24時間以上、養生する。
【0020】
上述のように養生したら、基礎コンクリート1の表面にプライマー6を塗布する(プライマー塗布工程)。プライマー6は、水性プライマーを使用し、3倍に希釈した希釈液を作成し塗布する。また、プライマー6はローラと刷毛を使用して2回塗布する。工程間隔は2時間以上とすることが好ましい。プライマー6を塗布したら2時間以上放置して乾燥させる。
【0021】
次いで、図1(e)に示すように、プライマー6塗布後の基礎コンクリート1表面に、モルタル7をコテによって施工厚さに塗り付ける(モルタル塗り付け工程)。具体的に、モルタル7の施工厚さが20mmを越える場合には、まず、その半分の厚さまで塗り付け、その後、繊維補強ネット8を伏せ込み、表面が締まったら残りの厚さのモルタル7を塗り付けて所定厚さとする。
モルタル7としては、繊維が混入したポリマーセメントモルタルを使用することが好ましく、ポリマーセメントモルタルをハンドミキサーによって練り混ぜておく。このようなモルタル7を塗布することにより、基礎コンクリート1の断面のかぶり機能を復旧し、耐力の向上を図ることができる。
補強繊維ネット8としては、繊維シートを使用でき、モルタル7の施工厚さが20mmを越える場合にモルタル7内に介在させることでモルタル7の剥落防止及び修復面の拘束を補強することができる。
なお、塗り付けるモルタル7の施工厚さが5~20mmの場合には、一度の塗り付けで施工が可能であるから補強繊維ネット8を使用しなくて良い。そのため、施工の簡略化を図れる。
【0022】
最後に、モルタル塗り付け面に仕上げ材9を塗布する(仕上げ材塗布工程)。仕上げ材9としては、高弾性樹脂を原料とした仕上げ材を使用することができる。仕上げ材9を塗布することによって防水効果や中性化を低減できる。
【0023】
以上、本発明の実施の形態の基礎の補修方法によれば、基礎コンクリート1の劣化部を撤去し、劣化部を撤去した基礎コンクリート1の表面にアルカリ付与剤4を塗布する。アルカリ付与剤4が基礎コンクリート1に浸透することで中性化の進んだ基礎コンクリート1にアルカリ性を付与して回復させることができる。
そして、プライマー6を塗布してモルタル7との接着性を高めた状態で、モルタル7を塗り付け、さらに仕上げ材8を塗布することにより防水効果及び基礎コンクリート1の中性化をより低減することができる。このようにアルカリ付与剤4、プライマー6、モルタル7及び仕上げ材9を順に塗布し基礎コンクリート1に浸透させることにより、基礎コンクリート1の中性化及び劣化を防止し、簡易に補修することができる。
また、クラック部2が生じている場合に、クラック部2の周囲を切除して凹部3を形成し、凹部3にメンテペースト5を充填するので、クラック部2を確実に補修でき、補強性能の向上を図ることができる。
また、基礎コンクリート1から鉄筋が露出している場合には、下地ハツリ工程後に露出鉄筋の錆びを除去し、さらに、アルカリ塗布工程後に露出鉄筋の防錆処理を行うため、露出鉄筋の防錆が確実とる。
また、モルタル塗り付け工程においては、始めにモルタル7を施工厚さの略半分の厚さまで塗り付けた後、補強繊維ネット8を貼り付け、さらにモルタル7を塗り付けることによって施工厚さとするので、モルタル7内に補強繊維ネット8を介在させることでモルタル7の剥落を防止できるとともに、基礎コンクリート1の補強性能を向上させることができる。」(下線は当審において付した。)
「
[図:0001421370000001.jpg]
」
イ 申立1甲1に記載された発明
上記アによれば、申立1甲1には、次の構造発明及び方法発明(以下「申立1甲1構造発明」及び「申立1甲1方法発明」という。)が記載されているものと認められる(なお、根拠となる段落を当審にて併記した。以下同様。)。
(申立1甲1構造発明)
「既設の基礎コンクリート1を補修する補修構造であって、基礎コンクリート1の劣化部を電動ハンマーや高圧洗浄機を使用して撤去し(下地ハツリ工程)、基礎コンクリート1に幅0.3mm以上のクラック部2が生じている場合には、クラック部2をその周囲を囲むようにサンダーを使用して切除し、形成した平断面視U字型の凹部3と、錆びがある場合には金ブラシで錆びを丁寧に除去した基礎コンクリート1に露出した鉄筋と(【0017】、図1)、
基礎コンクリート1の表面全面にローラで塗布する亜硝酸リチウム水溶液であるアルカリ付与剤4と、からなり、アルカリ付与剤4を基礎コンクリート1に塗布浸透させることにより中性化の進んだ基礎コンクリート1にアルカリ性を付与して回復させ、鉄筋の腐食進行を抑制する効果も有するものであり(【0018】)、
さらに、基礎コンクリート1に形成した凹部3に、充填する刷毛塗り用のポリマーセメントであって露出鉄筋の防錆処理を行うメンテペースト(充填材)5と(【0019】)、
基礎コンクリート1の表面に塗布するプライマー6と(【0020】)、
プライマー6塗布後の基礎コンクリート1表面に繊維補強ネット8を伏せ込んだ施工厚さが20mmを越える繊維が混入したポリマーセメントモルタルからなるモルタル7と(【0021】)、
モルタル塗り付け面に塗布した高弾性樹脂を原料とした仕上げ材9と(【0022】)、からなり、
基礎コンクリート1から鉄筋が露出している場合には、下地ハツリ工程後に露出鉄筋の錆びを除去し、さらに、アルカリ塗布工程後に露出鉄筋の防錆処理を行う(【0023】)
既設の基礎コンクリート1を補修した補修構造(【0017】)。」
(申立1甲1方法発明)
「既設の基礎コンクリート1を補修する補修方法であって、基礎コンクリート1の劣化部を電動ハンマーや高圧洗浄機を使用して撤去し(下地ハツリ工程)、基礎コンクリート1に幅0.3mm以上のクラック部2が生じている場合には、クラック部2をその周囲を囲むようにサンダーを使用して切除し、平断面視U字型の凹部3を形成し、また、基礎コンクリート1に鉄筋が露出し、その露出鉄筋に錆びがある場合には金ブラシで錆びを丁寧に除去しておき(【0017】)、
次いで、基礎コンクリート1の表面全面にローラでアルカリ付与剤4を塗布し(アルカリ塗布工程)、アルカリ付与剤4は、亜硝酸リチウム水溶液であって、これを基礎コンクリート1に塗布浸透させることにより中性化の進んだ基礎コンクリート1にアルカリ性を付与して回復させ、鉄筋の腐食進行を抑制する効果も有するものであり(【0018】)、
アルカリ塗布工程後、基礎コンクリート1に形成した凹部3に、刷毛塗り用のポリマーセメントであるメンテペースト(充填材)5をコテで充填し、このメンテペースト5を刷毛で露出鉄筋に塗布することによって露出鉄筋の防錆処理を行い、メンテペースト塗布後は、常温期で12時間、冬期で24時間以上、養生し(【0019】)、
養生したら、基礎コンクリート1の表面にプライマー6を塗布し(プライマー塗布工程)、プライマー6は、水性プライマーを使用し、3倍に希釈した希釈液を作成し塗布し、プライマー6はローラと刷毛を使用して2回塗布し、工程間隔は2時間以上とすることが好ましく、プライマー6を塗布したら2時間以上放置して乾燥させ(【0020】)、
プライマー6塗布後の基礎コンクリート1表面に、モルタル7をコテによって施工厚さに塗り付け(モルタル塗り付け工程)、モルタル7の施工厚さが20mmを越える場合には、まず、その半分の厚さまで塗り付け、その後、繊維補強ネット8を伏せ込み、表面が締まったら残りの厚さのモルタル7を塗り付けて所定厚さとし、モルタル7としては、繊維が混入したポリマーセメントモルタルを使用することが好ましく(【0021】)、
最後に、モルタル塗り付け面に仕上げ材9を塗布し(仕上げ材塗布工程)、仕上げ材9としては、高弾性樹脂を原料とした仕上げ材を使用することができ(【0022】)、
基礎コンクリート1から鉄筋が露出している場合には、下地ハツリ工程後に露出鉄筋の錆びを除去し、さらに、アルカリ塗布工程後に露出鉄筋の防錆処理を行うため、露出鉄筋の防錆が確実となる(【0023】)
既設の基礎コンクリート1を補修する補修方法(【0017】)。」
(2)申立1甲2
申立1甲2には、「鉄筋腐食を抑制するための亜硝酸塩、特に亜硝酸リチウムを含むポリマーセメントモルタル(【0009】、【0012】、【0027】)。」(以下「申立1甲2記載事項」という。)が記載されている。
(3)申立1甲3
申立1甲3には、「鉄筋防錆材である亜硝酸リチウムを添加して使用するためのポリマーセメントモルタル(1頁)。」(以下「申立1甲3記載事項」という。)が記載されている。
(4)申立1甲4
申立1甲4には、「補修モルタルを施工する前に(【0020】)、コンクリート構造体からなる床本体の上に設けられるプライマー層であって、プライマー層の固形分が7~25質量%であり、プライマーの塗布量を30~100g/m2とし、プライマー層として、アクリル樹脂、スチレン-アクリル共重合樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂等の水系樹脂エマルジョンが用いられること(【0015】~【0017】)。」(以下「申立1甲4記載事項」という。)が記載されている。
(5)申立1甲5
申立1甲5には、「プライマーが下地の躯体コンクリートにコンクリートやモルタルを打ち継ぐ際のコンクリート表面への吸水を抑制するために使用するものであり、耐水性に優れ、プライマーの固形分が45~48質量%であり、これを3倍に希釈して150g/m2塗布すること(1~2頁)。」(以下「申立1甲5記載事項」という。)が記載されている。
(6)申立1甲6
申立1甲6には、「鉄筋の腐食を抑制するために、はつり取られて露出した鉄筋の全面に亜硝酸塩水溶液を塗布すること、亜硝酸塩として亜硝酸リチウムを用いること(【0009】~【0011】)。」(以下「申立1甲6記載事項」という。)が記載されている。
(7)申立1甲7
申立1甲7には、次の構造発明及び方法発明(以下「申立1甲7構造発明」及び「申立1甲7方法発明」という。)が記載されているものと認められる。
(申立1甲7構造発明)
「既設コンクリート構造体10の床版面10aにおいて、既設コンクリート面の劣化部分や老朽化部分を除去し(【0021】)、既設コンクリート構造体10の床版面10aに塗布された(【0022】)亜硝酸塩を含む第2の下塗り材であるポリマーセメントペースト(【0023】、【0030】)、及び、既設コンクリート構造体10の床版面10aに塗布された下塗材上に、上塗り材として設けられた高弾性特殊モルタル7を有し(【0041】)、第2の下塗り材、上塗り材は、既設コンクリート面の劣化部分や老朽化部分を除去した部分に設けられてなる(図4)、補修構造(【0007】)。」
(申立1甲7方法発明)
「既設コンクリート構造体10の床版面10aにおいて、既設コンクリート面の劣化部分や老朽化部分を除去し(【0021】)、既設コンクリート構造体10の床版面10aに、亜硝酸塩を含む第2の下塗り材であるポリマーセメントペーストを塗布すること(【0023】、【0030】)、既設コンクリート構造体10の床版面10aに塗布された下塗材上に、高弾性特殊モルタル7を塗布すること(【0041】)、を有する、コンクリート構造体の劣化抑制をともなう補修方法(【0007】)。」
(8)申立1甲8
申立1甲8には、「モルタル1回塗り、モルタル2回塗り、またはモルタル3回塗りの工程において、下塗り、中塗り、または上塗りに先立ち、吸水調整材を塗ること(表5.2.3~表5.2.13)。」(以下「申立1甲8記載事項」という。)が記載されている。
(9)申立1甲9
申立1甲9には、「コンクリート躯体にモルタルを薄層で施工する場合(【0002】)、ポリマーエマルションを吸水防止プライマーとして予め躯体に塗布・乾燥させ、皮膜化することにより、続いて施工するモルタルのドライアウトを防止すること、一般に使用されているプライマーとしては、エチレン-酢酸ビニル系、スチレン-アクリル系、オールアクリル系などがあること(【0003】)。」(以下「申立1甲9記載事項」という。)が記載されている。
(10)申立1甲10
申立1甲10には、「鉄筋コンクリートで用いられる異形棒鋼の太さが4.23mm~50.8mmであること(1209頁の表4)。」(以下「申立1甲10記載事項」という。)が記載されている。
(11)申立2甲1
申立2甲1には、次の構造発明及び方法発明(以下「申立2甲1構造発明」及び「申立2甲1方法発明」という。)が記載されているものと認められる。
(申立2甲1構造発明)
「塩害で劣化したコンクリート構造物について(【0008】)、修復部分のコンクリートをはつり取った後、はつり取られた部分と断面修復モルタルとの接着界面、及び露出した鉄筋表面の全面に、亜硝酸リチウム25%水溶液を塗布し(【請求項1】、【0033】)、次いで、亜硝酸リチウムを含有するポリマーセメントモルタル(【請求項1】、【0033】)、該ポリマーセメントモルタルにバリヤー層を介して積層される軽量超速硬セメントモルタルを塗布した(【0017】、【0033】)もの、を有し、
バリヤー層を構成するポリマーセメントモルタルには、アクリル・酢酸ビニルビニルバーサテート系樹脂、ポリアクリル酸エステル系樹脂等が含有され(【0017】、【0020】)、
塗布されたポリマーセメントモルタルの厚さは、0.5~3mmであり(【0018】)、
亜硝酸塩水溶液の塗布量が、固形分換算で20~200g/m2程度である(【0012】)、
塩害劣化コンクリートの補修方法で補修したコンクリート構造物(【0007】)。」
(申立2甲1方法発明)
「塩害で劣化したコンクリート構造物について(【0008】)、修復部分のコンクリートをはつり取って、鉄筋表面を露出させ(【請求項1】)、
はつり取られた部分と断面修復モルタルとの接着界面、及び露出した鉄筋表面の全面に、亜硝酸リチウム25%水溶液を塗布し(【請求項1】、【0033】)、次いで、亜硝酸リチウムを含有するポリマーセメントモルタル(【請求項1】、【0033】)、該ポリマーセメントモルタルにバリヤー層を介して積層される軽量超速硬セメントモルタルを塗布し(【0033】)、
バリヤー層を構成するポリマーセメントモルタルには、アクリル・酢酸ビニルビニルバーサテート系樹脂、ポリアクリル酸エステル系樹脂等が含有され(【0020】)、
塗布されたポリマーセメントモルタルの厚さは、0.5~3mmであり(【0018】)、
亜硝酸塩水溶液の塗布量が、固形分換算で20~200g/m2程度であり(【0012】)、
断面修復モルタルを吹き付けで施工する(【0026】)
塩害劣化コンクリート構造物の補修方法(【0007】)。」
(12)申立2甲2
申立2甲2には、「モルタル・コンクリート構造物に、水分散逸を防止し、付着性能を向上させるために酢酸ビニル系樹脂、アクリル系樹脂等のポリマーエマルジョンからなる吸水防止プライマーを塗布すること(【0004】、【0008】、【0009】)、及び、そのポリマーエマルションの塗布量は、固形分換算で5~50g/m2であること(【0011】)。」(以下「申立2甲2記載事項」という。)が記載されている。
(13)申立2甲3
申立2甲3には、「コンクリート構造体からなる床本体の上に、接着性を向上させるためにアクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂等の水系の樹脂エマルジョンから構成されるプライマーを塗布すること(【請求項1】、【0016】)、及び、そのプライマーの塗布量が30g/m2~100g/m2(固形分濃度:7質量%~25質量%)であること(【0019】)、及び、プライマーの塗布が完了してから1時間以上経過した後に、補修モルタル硬化体層を形成すること(【0020】)。」(以下「申立2甲3記載事項」という。)が記載されている。
(14)申立2甲4
申立2甲4には、「コンクリート構造物の一部を除去した箇所に、接着性を向上させるために(メタ)アクリル酸アルキル共重合体を主成分とする合成樹脂エマルジョンを水で希釈したものをプライマーとして塗布すること(【請求項1】、【0024】)、及び、プライマーの塗布量が100~200g/m2であること(【0026】)。」(以下「申立2甲4記載事項」という。)が記載されている。
(15)申立2甲5
申立2甲5には、次の構造発明及び方法発明(以下「申立2甲5構造発明」及び「申立2甲5方法発明」という。)が記載されているものと認められる。
(申立2甲5構造発明)
「既設コンクリート面の劣化部分や異物等の老朽化部分を除去することで、既設コンクリート構造体10内の鉄筋の錆が除去されて形成された部分と(【0021】)、
1回目のポリマーセメントモルタル吹付(第1の下塗材塗布)工程(S102)を行い、下塗材として亜硝酸塩(例えば、亜硝酸ナトリウム)を含むポリマーセメントペースト20を、下地処理を行った既設コンクリート構造体10の床版面10aに塗布し(【0022】、【0023】)、
次に、補強用鉄筋固定(回転固定式アンカー)工程(S103)を行い、既設コンクリート構造体10の床版面10aに補強用鉄筋30を仮固定させ(【0026】)、
次に、仮固定した補強用鉄筋30を、所定のピッチ300mmで補強用鉄筋30にアンカー31(固定金具)を用いて固定し(【0027】)、
次に、2回目のポリマーセメントモルタル吹付(第2の下塗材塗布)工程(ステップS104)を行い、亜硝酸塩を含むポリマーセメントペーストを塗布し(【0030】、【0031】)、次に、ポリマーセメントモルタルコテ塗り(中塗材塗布)工程(ステップS105)を行い、亜硝酸塩を含むポリマーセメントモルタル22を塗布し(【0034】)、次に、ビニロンメッシュ貼付工程を行い(ステップS106)、亜硝酸塩を含むポリマーセメントペーストの塗布と同時に、ビニロンメッシュ40を貼り付け(【0038】、【0039】)、ポリマーセメントペースト20の塗布量は1.8kg/m2であり(【0040】)、次に、高弾性特殊モルタル塗布(上塗材塗布)工程(ステップS107)を行い、亜硝酸塩を含むポリマーセメントペーストと、亜硝酸塩を含まない高弾性特殊モルタル24を塗布した(【0041】)
鉄筋コンクリート構造体の補強部50(【0018】、【0019】)。」
(申立2甲5方法発明)
「既設コンクリート面の劣化部分や異物等の老朽化部分を除去することで、既設コンクリート構造体10内の鉄筋の錆が除去する工程と(【0021】)、
1回目のポリマーセメントモルタル吹付(第1の下塗材塗布)工程(S102)を行い、下塗材として亜硝酸塩(例えば、亜硝酸ナトリウム)を含むポリマーセメントペースト20を、下地処理を行った既設コンクリート構造体10の床版面10aに塗布する工程と(【0022】、【0023】)、
次に、補強用鉄筋固定(回転固定式アンカー)工程(S103)を行い、既設コンクリート構造体10の床版面10aに補強用鉄筋30を仮固定させる工程と(【0026】)、
次に、仮固定した補強用鉄筋30を、所定のピッチ300mmで補強用鉄筋30にアンカー31(固定金具)を用いて固定する工程と(【0027】)、
次に、2回目のポリマーセメントモルタル吹付(第2の下塗材塗布)工程(ステップS104)を行い、亜硝酸塩を含むポリマーセメントペーストを塗布する工程と(【0030】、【0031】)、次に、ポリマーセメントモルタルコテ塗り(中塗材塗布)工程(ステップS105)を行い、亜硝酸塩を含むポリマーセメントモルタル22を塗布する工程と(【0034】)、次に、ビニロンメッシュ貼付工程を行い(ステップS106)、亜硝酸塩を含むポリマーセメントペーストの塗布と同時に、ビニロンメッシュ40を貼り付ける工程と(【0038】、【0039】)、次に、高弾性特殊モルタル塗布(上塗材塗布)工程(ステップS107)を行い、亜硝酸塩を含むポリマーセメントペーストと、亜硝酸塩を含まない高弾性特殊モルタル24を塗布する工程と(【0041】)、からなる
鉄筋コンクリート構造体の補修方法(【0018】~【0020】)。」
(16)申立2甲6
申立2甲6には、次の構造発明及び方法発明(以下「申立2甲6構造発明」及び「申立2甲6方法発明」という。)が記載されているものと認められる
(申立2甲6構造発明)
「躯体コンクリートに下地処理(A)を施し、次いでセメント、最大粒径が0.15mmより大きい骨材、保水剤及びポリマーを含有する下地調整モルタル(a)を施工する工程(B)、下地調整モルタル(a)の表面に再度下地処理(C)を施し、セメント、最大粒径0.15mm以下の骨材、保水剤及びポリマーを含有する仕上げモルタル(b)を施工する工程(D)からなり(【請求項1】)、
下地処理(A)として水、ポリマーディスパージョンまたはエポキシ樹脂プライマーなどを散布し(【0014】)、ポリマーディスパージョンとしては、エチレン酢酸ビニル、又はポリアクリル酸エステルなどを主成分とするものを使用し(【0015】)、
下地調整モルタル(a)の施工厚さは、15mm以上又は15mm末満である(【0019】)、
コンクリート建築物床の補修構造(【0013】)。」
(申立2甲6方法発明)
「躯体コンクリートに下地処理(A)を施し、次いでセメント、最大粒径が0.15mmより大きい骨材、保水剤及びポリマーを含有する下地調整モルタル(a)を施工する工程(B)、下地調整モルタル(a)の表面に再度下地処理(C)を施し、セメント、最大粒径0.15mm以下の骨材、保水剤及びポリマーを含有する仕上げモルタル(b)を施工する工程(D)からなり(【請求項1】)、
下地処理(A)として水、ポリマーディスパージョンまたはエポキシ樹脂プライマーなどを散布し(【0014】)、ポリマーディスパージョンとしては、エチレン酢酸ビニル、又はポリアクリル酸エステルなどを主成分とするものを使用し(【0015】)、
下地調整モルタル(a)の施工厚さは、15mm以上又は15mm末満である(【0019】)、
コンクリート建築物床の補修方法(【0013】)。」
(17)申立2甲7
申立2甲7には、「鉄筋コンクリートの劣化部分のコンクリートを鉄筋が露出するように除去して形成された断面欠損部を、亜硝酸塩を含むポリマーセメントモルタルで埋め戻し(【請求項3】)、防錆処理(【0032】)をすること。」(以下「申立2甲7記載事項」という。)が記載されている。
(18)申立2甲8
申立2甲8には、「鉄筋が露出したコンクリートの欠落部に、亜硝酸塩が添加されたポリマーセメントモルタルからなる改質材を塗布して、鉄筋の腐食を防止すること(3頁右上欄9行目~左下欄3行明)。」(以下「申立2甲8記載事項」という。)が記載されている。
6 当審の判断
(1)取消理由通知に記載した取消理由(特許法第29条第2項)について
ア 本件特許発明1について
(ア)対比
本件特許発明1と申立1甲1構造発明とを対比する。
a 構成Aについて
申立1甲1構造発明の「既設の基礎コンクリート1」、「劣化部」に「形成」された「平断面視U字型の凹部3」で「切除」された部分の「基礎コンクリート1」、「鉄筋」、「基礎コンクリート1に鉄筋が露出」するまで「クラック部2をその周囲を囲むようにサンダーを使用して切除」すること、「平断面視U字型の凹部3」は、それぞれ本件特許発明1の「既設鉄筋コンクリート構造物」、「欠陥部における表層コンクリート」、「鉄筋」、「少なくとも一部が露出するまで除去」すること、「コンクリート除去部」に相当する。
よって、申立1甲1構造発明は本件特許発明1の構成Aに相当する構成を有する。
b 構成Bについて
申立1甲1構造発明の「露出鉄筋の防錆処理を行」う「メンテペースト(充填材)5」、「プライマー6」、「プライマー6塗布後の基礎コンクリート1表面に施工厚さに塗り付け」ること、「ポリマーセメントモルタルからなるモルタル7」、「メンテペースト(充填材)5」と「ポリマーセメントモルタルからなるモルタル7」は、それぞれ本件特許発明1の「露出した鉄筋の周囲を覆う」「断面修復材A」、「プライマー層」、「プライマー層を介して積層される」こと、「亜硝酸リチウム非含有断面修復材B」、「補修材」に相当する。
よって、申立1甲1構造発明と本件特許発明1の構成Bは「露出した鉄筋の周囲を覆う」「断面修復材A、及び該断面修復材Aにプライマー層を介して積層される亜硝酸リチウム非含有断面修復材Bを含む補修材とを有」する点で共通する。
c 構成Cについて
申立1甲1構造発明の「メンテペースト(充填材)5」と「ポリマーセメントモルタルからなるモルタル7」、「基礎コンクリート1に形成した凹部3に、充填する」こと、「補修構造」は、それぞれ本件特許発明1の「該補修材」、「前記コンクリート除去部に充填されてなる」こと、「断面修復構造」に相当する。
よって、申立1甲1構造発明は本件特許発明1の構成Cに相当する構成を有する。
d 構成Eについて
申立1甲1構造発明の「既設の基礎コンクリート1を補修した補修構造」は、本件特許発明1の「鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造」に相当する。
よって、申立1甲1構造発明は本件特許発明1の構成Eに相当する構成を有する。
e 上記a~dによれば、本件特許発明1と申立1甲1構造発明は、以下の一致点及び相違点を有する。
<一致点>
「A 既設鉄筋コンクリート構造物の欠陥部における表層コンクリートを鉄筋の少なくとも一部が露出するまで除去して形成されるコンクリート除去部と、
B’露出した鉄筋の周囲を覆う断面修復材A、及び該断面修復材Aにプライマー層を介して積層される亜硝酸リチウム非含有断面修復材Bを含む補修材とを有し、
C 該補修材が前記コンクリート除去部に充填されてなる鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造である、
E 鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造。」
<相違点1>
「断面修復材A」に関して、
本件特許発明1では、「防錆剤として亜硝酸リチウムを含む」のに対して、
申立1甲1構造発明では、メンテペースト(充填材)5がどのような材料からなっているか不明である点。
<相違点2>
「前記プライマー層を形成するためのプライマー層形成材料」に関して、
本件特許発明1では、「不揮発分の塗布量が、5~50g/m2である」のに対して、
申立1甲1構造発明では、プライマー6の不揮発分の塗布量がどの程度であるのか不明である点。
(イ)判断
・相違点1及び2について
まず、上記相違点1について検討すると、申立1甲1構造発明では、基礎コンクリート1の表面全面にローラで「亜硝酸リチウム」水溶液であるアルカリ付与剤4を塗布しているところ、これは、基礎コンクリート1に塗布浸透させることにより中性化の進んだ基礎コンクリート1にアルカリ性を付与して回復させ、また、鉄筋の腐食進行を抑制する効果も有しており、さらに、「基礎コンクリート1から鉄筋が露出している場合には、下地ハツリ工程後に露出鉄筋の錆びを除去し、さらに、アルカリ塗布工程後に露出鉄筋の防錆処理を行」っていることを勘案すると、上記取消理由通知で指摘したように、鉄筋コンクリートの補修の技術分野において、鉄筋の腐食を防止するため亜硝酸塩である亜硝酸リチウムを含んだポリマーセメントを用いることが周知技術1であるとしても、申立1甲1構造発明のメンテペースト(充填材)5として、鉄筋の腐食を防止するため亜硝酸塩である亜硝酸リチウムを含んだポリマーセメントを採用する動機付けを見出せないから、相違点1に係る構成を採用することは、当業者といえども、申立1甲1構造発明及び上記周知技術1から容易に想到し得る事項であるとはいえない。
さらに、申立人1及び申立人2が提出したその余の証拠をみても、申立1甲1構造発明のメンテペースト(充填材)5として、鉄筋の腐食を防止するため亜硝酸塩である亜硝酸リチウムを含んだポリマーセメントを採用する動機付けとなり得ることが記載又は示唆されたものはない。
また、併せて上記相違点2について検討すると、本件特許発明1における「プライマー層」は、「防錆剤として亜硝酸リチウムを含む断面修復材A」が「亜硝酸リチウム非含有断面修復材Bを含む補修材」と積層される際に、「プライマー層」を介して積層するものであり、「プライマー層形成材料の不揮発分の塗布量が、5~50g/m2」とすることにより、「断面修復材Aと断面修復材Bの密着性が十分となり、かつ亜硝酸イオンの表面コンクリート方向への拡散も抑制される」(【0023】)という技術的意義を有するものであるから、上記取消理由通知で指摘したように、コンクリートやモルタルを積層する際に使用するプライマー層を形成する材料の不揮発分の塗布量を5~50g/m2とすることが周知技術2であるとしても、相違点2に係る構成を採用することは、当業者といえども、申立1甲1構造発明及び上記周知技術2から容易に想到し得る事項であるとはいえない。
さらに、申立人1及び申立人2が提出したその余の証拠をみても、上記技術的意義を有するプライマー層について記載又は示唆されたものはない。
よって、申立1甲1構造発明、上記周知技術1、上記周知技術2並びに申立人1及び申立人2が提出したその余の証拠に記載された事項に基づいて、相違点1及び相違点2に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。
(ウ)申立人1の主張について
申立人1は特許異議申立書において、
「ここで、甲第1号証では「防錆処理を行うためのポリマーセメントであるメンテペースト5」が亜硝酸リチウムを含有するものであることが明記されていないかもしれない。
しかし、甲第2号証では、鉄筋腐食を防止するための亜硝酸塩入りポリマーセメントモルタルが記載されている(甲第2号証の【0008】、【0009】、【0012】、【0027】)。また、甲第3号証では、鉄筋の防錆を必要とする断面修復に利用される亜硝酸リチウム混和用のポリマーセメントが記載されている(甲第3号証の1頁)。
甲第2号証および甲第3号証から明らかなように、防錆効果を有するポリマーセメントとして、亜硝酸リチウム入りポリマーセメントは、当業界において周知技術であり、甲第1号証のメンテペースト5は、亜硝酸リチウム入りである蓋然性が高い、もしくは甲第1号証に、周知技術を適用することを当業者は容易に想到可能である。または、甲第1号証に、亜硝酸リチウム入りポリマーセメントを開示する甲第2号証または甲第3号証を組み合わせることを、当業者は容易に想到可能である。
次に、甲第1号証では、プライマー層を形成するためのプライマー層形成材料の不揮発分の塗布量を、5~50g/m2とすることが明記されていないかもしれない。
しかし、そもそもプライマー層を形成するためのプライマー層形成材料の不揮発分の塗布量を、5~50g/m2とすることは、設計事項である。
もしくは、甲第4号証には、プライマー層の固形分が7~25質量%であり、プライマーの塗布量を30~100g/m2、とする点が記載されており(甲第4号証の【0017】)、この場合、不揮発分に相当する固形分は2.1~25g/m2である。また、甲第5号証には、プライマーの固形分が45~48質量%であり、これを3倍に希釈して150g/m2塗布することが記載されており(甲第5号証の1~2頁)、この場合、不揮発分に相当する固形分は22.5~24g/m2となる。
よって、甲第4号証または甲第5号証に記載されているように、プライマー層を形成するためのプライマー層形成材料の不揮発分の塗布量を5~50g/m2とすることは、当業界において周知技術である。または、甲第1号証において、甲第4号証または甲第5号証を組み合わせることを、当業者は容易に想到可能である。」(29頁1行~同頁26行)と主張している。
しかしながら、上記(イ)で説示したとおり、上記主張は妥当とはいえず採用することができない。
(エ)小括
以上のことから、本件特許発明1は、申立1甲1構造発明、上記周知技術1、上記周知技術2並びに申立人1及び申立人2が提出したその余の証拠に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件特許発明2~7について
本件特許発明2~7については、本件特許発明1の発明特定事項を全て含む発明であるから、上記アと同様の理由により、当業者が容易に想到し得るものではない。
ウ 本件特許発明8について
(ア)対比
本件特許発明8と申立1甲1方法発明とを対比する。
a 構成Lについて
申立1甲1方法発明の「既設の基礎コンクリート1」、「劣化部」に「形成」された「平断面視U字型の凹部3」で「切除」された部分の「基礎コンクリート1」、「鉄筋」、「基礎コンクリート1に」「鉄筋」が「露出」するまで「クラック部2をその周囲を囲むようにサンダーを使用して切除」する工程は、それぞれ本件特許発明8の「既設鉄筋コンクリート構造物」、「欠陥部における表層コンクリート」、「鉄筋」、「少なくとも一部が露出するまで除去する工程(I)」に相当する。
よって、申立1甲1方法発明は本件特許発明8の構成Lに相当する構成を有する。
b 構成Mについて
申立1甲1方法発明の「基礎コンクリート1に鉄筋が露出し」た場合に「基礎コンクリート1に形成した凹部3に、」「メンテペースト(充填材)5をコテで充填し、このメンテペースト5を刷毛で露出鉄筋に塗布することによって露出鉄筋の防錆処理を行」う工程は、本件特許発明8の「露出した鉄筋の周囲を覆う」「断面修復材Aで覆う工程(II)」に相当する。
よって、申立1甲1方法発明と本件特許発明8の構成Mは「露出した鉄筋の周囲を」「断面修復材Aで覆う工程(II)」を有する点で共通する。
c 構成Nについて
申立1甲1方法発明の「メンテペースト塗布後」に「基礎コンクリート1の表面にプライマー6を塗布」すること、「プライマー塗布工程」は、それぞれ本件特許発明8の「該断面修復材Aの表面にプライマー層形成材料を塗布」すること、「プライマー層を形成する工程(III)」に相当する。
よって、申立1甲1方法発明は本件特許発明8の構成Nに相当する構成を有する。
d 構成O及び構成Qについて
申立1甲1方法発明の「プライマー6塗布後の基礎コンクリート1表面に、モルタル7をコテによって施工厚さに塗り付け」る「モルタル塗り付け工程」、「既設の基礎コンクリート1を補修する補修方法」は、それぞれ本件特許発明8の「該プライマー層上に亜硝酸リチウム非含有の断面修復材Bを積層する工程(IV)」、「鉄筋コンクリート構造物の断面修復方法」に相当する。
よって、申立1甲1方法発明は本件特許発明8の構成O及び構成Qに相当する構成を有する。
e 上記a~dによれば、本件特許発明8と申立1甲1方法発明は、以下の一致点及び相違点を有する。
「L 既設鉄筋コンクリート構造物の欠陥部における表層コンクリートを鉄筋の少なくとも一部が露出するまで除去する工程(I)、
M’露出した鉄筋の周囲を断面修復材Aで覆う工程(II)、
N 該断面修復材Aの表面にプライマー層形成材料を塗布し、プライマー層を形成する工程(III)、
O 該プライマー層上に亜硝酸リチウム非含有の断面修復材Bを積層する工程(IV)を有する、鉄筋コンクリート構造物の断面修復方法である、
Q 鉄筋コンクリート構造物の断面修復方法。」
<相違点3>
「断面修復材A」に関して、
本件特許発明8では、「防錆剤として亜硝酸リチウムを含む」のに対して、
申立1甲1方法発明では、メンテペースト(充填材)5がどのような材料からなっているか不明である点。
<相違点4>
「前記プライマー層形成材料」に関して、
本件特許発明8では、「不揮発分の塗布量が、5~50g/m2である」のに対して、
申立1甲1方法発明では、プライマー6の不揮発分の塗布量がどの程度であるのか不明である点。
(イ)判断
・相違点3及び4について
上記ア(イ)で説示したのと同様の理由により、申立1甲1方法発明、上記周知技術1、上記周知技術2並びに申立人1及び申立人2が提出したその余の証拠に記載された事項に基づいて、相違点3及び相違点4に係る本件特許発明8の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。
(ウ)小括
以上のことから、本件特許発明8は、申立1甲1方法発明、上記周知技術1、上記周知技術2並びに申立人1及び申立人2が提出したその余の証拠に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件特許発明9~12について
本件特許発明9~12については、本件特許発明8の発明特定事項を全て含む発明であるから、上記ウと同様の理由により、当業者が容易に想到し得るものではない。
(2)取消理由として採用しなかった特許異議申立理由について
ア 申立1理由1(進歩性)のうち甲7を主引用例とするもの
(ア)本件特許発明1について
本件特許発明1と申立1甲7構造発明とを対比すると、
本件特許発明1では、「既設鉄筋コンクリート構造物の欠陥部における表層コンクリートを鉄筋の少なくとも一部が露出するまで除去して」いるのに対し、申立1甲7構造発明では、既設コンクリート面の劣化部分や老朽化部分を除去し、鉄筋の少なくとも一部が露出しているかが不明である点(相違点5)、本件特許発明1では、「前記プライマー層を形成するためのプライマー層形成材料の不揮発分の塗布量が、5~50g/m2である」のに対し、申立1甲7構造発明では、プライマー層を設けているかが不明であることにより、その不揮発分の塗布量がどの程度であるのかについても不明である点(相違点6)で少なくとも相違する。
上記相違点について検討すると、申立1甲7構造発明では、鉄筋の少なくとも一部が露出しているかが不明であることから、申立1甲7構造発明の「亜硝酸塩を含む第2の下塗り材であるポリマーセメントペースト」は、本件特許発明1の「露出した鉄筋の周囲を覆う防錆剤として」の「亜硝酸リチウムを含む断面修復材A」に相当しない。
また、プライマー層については、上記(1)アの(イ)の説示と同様の理由により、相違点6に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。
(イ)本件特許発明2~7について
本件特許発明2~7については、本件特許発明1の発明特定事項を全て含む発明であるから、上記(ア)と同様の理由により、当業者が容易に想到し得るものではない。
(ウ)本件特許発明8について
本件特許発明8と申立1甲7方法発明とを対比すると、
本件特許発明8では、「既設鉄筋コンクリート構造物の欠陥部における表層コンクリートを鉄筋の少なくとも一部が露出するまで除去」しているのに対し、申立1甲7方法発明では、既設コンクリート面の劣化部分や老朽化部分を除去し、鉄筋の少なくとも一部が露出しているかが不明である点(相違点7)、本件特許発明8では、「前記プライマー層形成材料の不揮発分の塗布量が、5~50g/m2である」のに対し、申立1甲7方法発明では、プライマー層を設けているかが不明であることから、その不揮発分の塗布量がどの程度であるのかについても不明である点(相違点8)で少なくとも相違する。
そうすると、上記(ア)と同様の理由により、本件特許発明8は、当業者が容易に想到し得るものではない。
(エ)本件特許発明9~12について
本件特許発明9~12については、本件特許発明8の発明特定事項を全て含む発明であるから、上記(ウ)と同様の理由により、当業者が容易に想到し得るものではない。
イ 申立1理由2(サポート要件)
(ア)判断基準
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるか否か、また、その記載がなくとも、当業者が出願時の技術常識に照らし、当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(イ)判断
本件特許の特許請求の範囲の記載は、上記2のとおりである。
また、本件特許の発明の詳細な説明の【0021】~【0023】には、次のとおり記載されている。
「【0021】
(プライマー層)
本発明の断面修復構造は、断面修復材Aにプライマー層を介して断面修復材Bが積層されることが特徴である。断面修復材Aと断面修復材Bの間にプライマー層を有することで、断面修復材Aと断面修復材Bの密着性が向上し、断面修復材Aと断面修復材Bの界面の付着力が向上する。
また、プライマー層により、亜硝酸イオンがコンクリート表面31に向けて拡散することがなく、鉄筋20に対する防錆効果が長時間にわたって維持される。
【0022】
プライマー層を構成する材料としては、本発明の効果を奏する範囲であれば、特に限定されないが、上記効果を奏するものとして、アクリル系樹脂又はエチレン-酢酸ビニル系樹脂(以下「EVA」と記載する。)が好適に挙げられる。アクリル系樹脂又はEVAを用いることで、断面修復材Aと断面修復材Bの密着性が向上し、亜硝酸イオンの拡散も抑制される。
アクリル系樹脂としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレート化合物を1種または2種以上重合したもの、さらにこれらのモノマーと共重合可能なスチレン、酢酸ビニル、塩化ビニリデンなどのビニル化合物と共重合させたもの等を用いることができる。なお、(メタ)アクリレートとは、メタクリレート及びアクリレートを意味する。
EVAとしては、エチレンと酢酸ビニルとを公知の方法で共重合したものであればよく、該共重合体中の酢酸ビニル含有量は、好ましくは20~90質量%、さらに好ましくは30~90質量%である。
【0023】
プライマー層の厚みとしては、上記効果を奏する範囲であれば特に限定されないが、プライマー層を形成するためのプライマー層形成材料の不揮発分の塗布量として、5~50g/m2であることが好ましい。プライマー層の厚みがこの範囲内であると、断面修復材Aと断面修復材Bの密着性が十分となり、かつ亜硝酸イオンの表面コンクリート方向への拡散も抑制される。以上の観点から、プライマー層の不揮発分の塗布量は、10g/m2~40g/m2の範囲であることがさらに好ましい。」
そうすると、本件特許発明1~12の「プライマー層」は、「亜硝酸イオンがコンクリート表面31に向けて拡散することがな」いものであることを認識できることは明らかであるし、出願時の技術常識に照らしても、「プライマー層」は、「亜硝酸イオンがコンクリート表面31に向けて拡散することがな」いものであることを認識できるといえる。
そうすると、本件特許発明1~12は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明に当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということができ、申立1理由2により、本件特許発明1~12を取り消すことはできない。
(ウ)申立人1の主張
申立人1は、サポート要件について、「本件特許発明1および8では、プライマー層の「不揮発分」との記載がある。本件特許の発明の詳細な説明では、亜硝酸イオンがコンクリート表面31に向けて拡散することがないことが記載されている(本件特許明細書の【0021】)。亜硝酸イオンは水中に存在し、水とともに拡散すると推測される。とすると、プライマー層としては水の拡散を抑制する効果が求められることが推測されるが、不揮発分が、例えば親水性の物質の場合はそのような水の拡散を抑制することができない可能性がある。
よって、本件特許発明1に記載の「不揮発分」は、本件特許発明において得ようとする効果を奏しない構成も含むものであって、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えている。」(特許異議申立書28頁3行~11行)と主張している。
しかしながら、上記(イ)のとおり、本件特許発明1~12は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明に当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、申立人1の主張は採用できない。
ウ 申立1理由3(明確性)
(ア)判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
(イ)本件特許発明1~12について
本件特許発明1~12についての記載は上記2のとおりであって、それ自体に不明確な記載は見当たらないし、本件明細書の記載や図面とも整合することを踏まえると、請求項1~12の記載が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
(ウ)申立人1の主張
申立人1は、明確性について、「本件特許発明1および8の「不揮発分」について、上記(イ)特許法第36条第6項第1号について、で述べたように、本件特許発明1に記載の「不揮発分」は、本件特許発明において得ようとする効果を奏しない構成も含むものであって、発明特定事項が技術的に十分特定されていないことが明らかであり、明細書及び図面の記載を考慮しても、当業者が請求項の記載から発明を明確に把握できない。」(特許異議申立書28頁13行~17行)と主張している。
しかしながら、上記イ(イ)で摘記した【0021】~【0023】を考慮すれば、「断面修復材Aと断面修復材Bの密着性が十分となり、かつ亜硝酸イオンの表面コンクリート方向への拡散も抑制される」「不揮発分」であることが理解できるから、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえず、申立1理由3により、本件特許発明1~12を取り消すことはできない。
エ 申立2理由1(進歩性)のうち申立2甲1を主引用例とするもの
(ア)本件特許発明1について
本件特許発明1と申立2甲1構造発明とを対比すると、本件特許発明1では、「該断面修復材Aにプライマー層を介して」「亜硝酸リチウム非含有断面修復材Bを含む補修材」を「積層」しているのに対し、申立2甲1構造発明では、プライマー層を設けていない点(相違点9)で少なくとも相違する。
上記相違点について検討すると、プライマー層については、上記(1)アの(イ)の説示と同様の理由により、相違点9に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。
(イ)本件特許発明2~7について
本件特許発明2~7については、本件特許発明1の発明特定事項を全て含む発明であるから、上記(ア)と同様の理由により、当業者が容易に想到し得るものではない。
(ウ)本件特許発明8について
本件特許発明8と申立2甲1方法発明とを対比すると、本件特許発明1では、「該断面修復材Aにプライマー層を介して」「亜硝酸リチウム非含有断面修復材Bを含む補修材」を「積層」しているのに対し、申立2甲1方法発明では、プライマー層を設けていない点(相違点10)で少なくとも相違する。
そうすると、上記(ア)と同様の理由により、本件特許発明8は、当業者が容易に想到し得るものではない。
(エ)本件特許発明9~12について
本件特許発明9~12については、本件特許発明8の発明特定事項を全て含む発明であるから、上記(ウ)と同様の理由により、当業者が容易に想到し得るものではない。
オ 申立2理由1(進歩性)のうち申立2甲5を主引用例とするもの
(ア)本件特許発明1について
本件特許発明1と申立2甲5構造発明とを対比すると、本件特許発明1では、既設鉄筋コンクリート構造物の欠陥部における表層コンクリートを鉄筋の少なくとも一部が露出するまで除去しているのに対し、申立2甲5構造発明では、既設コンクリート面の劣化部分や異物等の老朽化部分を除去することで、鉄筋の少なくとも一部が露出しているかが不明である点(相違点11)、本件特許発明1では、「該断面修復材Aにプライマー層を介して」「亜硝酸リチウム非含有断面修復材Bを含む補修材」を「積層」しているのに対し、申立2甲5構造発明ではプライマー層を設けていない点(相違点12)で少なくとも相違する。
上記相違点について検討すると、上記ア(ア)の説示と同様の理由により、相違点11に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。
また、プライマー層については、上記(1)アの(イ)の説示と同様の理由により、相違点12に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。
(イ)本件特許発明2~7について
本件特許発明2~7については、本件特許発明1の発明特定事項を全て含む発明であるから、上記(ア)と同様の理由により、当業者が容易に想到し得るものではない。
(ウ)本件特許発明8について
本件特許発明8と申立2甲5方法発明とを対比すると、本件特許発明8では、「既設鉄筋コンクリート構造物の欠陥部における表層コンクリートを鉄筋の少なくとも一部が露出するまで除去」しているのに対し、申立2甲5方法発明では、既設コンクリート面の劣化部分や異物等の老朽化部分を除去することで、鉄筋の少なくとも一部が露出しているかが不明である点(相違点13)、本件特許発明8では、「前記プライマー層形成材料の不揮発分の塗布量が、5~50g/m2である」のに対し、申立2甲5方法発明ではプライマー層を設けていない点(相違点14)で少なくとも相違する。
そうすると、上記(ア)と同様の理由により、本件特許発明8は、当業者が容易に想到し得るものではない。
(エ)本件特許発明9~12について
本件特許発明9~12については、本件特許発明8の発明特定事項を全て含む発明であるから、上記(ウ)と同様の理由により、当業者が容易に想到し得るものではない。
カ 申立2理由1(進歩性)のうち申立2甲6を主引用例とするもの
(ア)本件特許発明1について
本件特許発明1と申立2甲6構造発明とを対比すると、本件特許発明1では、「露出した鉄筋の周囲を覆う」「断面修復材A」に「防錆剤として亜硝酸リチウムを含む」のに対し、申立2甲6構造発明では、下地処理(A)で施工される下地調整モルタル(a)に防錆剤として亜硝酸リチウムを含んでいない点(相違点15)、本件特許発明1では、「前記プライマー層を形成するためのプライマー層形成材料の不揮発分の塗布量が、5~50g/m2である」のに対し、申立2甲6構造発明では、下地処理(C)で施工される下地調整モルタル(a)の塗布量が不明である点(相違点16)で少なくとも相違する。
上記相違点について検討すると、申立2甲6構造発明では、下地処理(C)で施工される下地調整モルタル(a)(「プライマー層」に相当)については、下地処理(A)で施工される下地調整モルタル(a)(「断面修復材A」に相当)に防錆剤として亜硝酸リチウムを含んでいないことから、申立2甲6構造発明に上記取消理由通知で指摘した、コンクリートやモルタルを積層する際に使用するプライマー層を形成する材料の不揮発分の塗布量を5~50g/m2とする周知技術2を適用したとしても「断面修復材Aと断面修復材Bの密着性が十分となり、かつ亜硝酸イオンの表面コンクリート方向への拡散も抑制される」(【0023】)という技術的意義を有することはなく、上記(1)アの(イ)の説示と同様の理由により、相違点16に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。
(イ)本件特許発明2~7について
本件特許発明2~7については、本件特許発明1の発明特定事項を全て含む発明であるから、上記(ア)と同様の理由により、当業者が容易に想到し得るものではない。
(ウ)本件特許発明8について
本件特許発明8と申立2甲6方法発明とを対比すると、本件特許発明8では、「露出した鉄筋の周囲を防錆剤として亜硝酸リチウムを含有する断面修復材Aで覆」っているのに対し、申立2甲6方法発明では、下地処理(A)で施工される下地調整モルタル(a)に防錆剤として亜硝酸リチウムを含んでいない点(相違点17)、本件特許発明8では、「前記プライマー層形成材料の不揮発分の塗布量が、5~50g/m2である」のに対し、申立2甲6方法発明では、下地処理(C)で施工される下地調整モルタル(a)の塗布量が不明である点(相違点18)で少なくとも相違する。
そうすると、上記(ア)と同様の理由により、本件特許発明8は、当業者が容易に想到し得るものではない。
(エ)本件特許発明9~12について
本件特許発明9~12については、本件特許発明8の発明特定事項を全て含む発明であるから、上記(ウ)と同様の理由により、当業者が容易に想到し得るものではない。
7 まとめ
以上のとおりであるから、請求項1~12に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由並びに申立人1及び申立人2による特許異議申立書に記載された特許異議申立理由及び証拠によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1~12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2024-700841