特許異議申立
2024-700003
硫化水素吸収フィルム
- 審判番号
- 2024-700003
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-205565
- 登録番号
- 7300257
- 請求日
- 2024年01月04日
- 審決日
- 2024年03月22日
- 公報発行日
- 2024年04月26日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】共同印刷株式会社
- 【権利者代理人】青木 篤
- 【権利者代理人】三橋 真二
- 【権利者代理人】関根 宣夫
- 【権利者代理人】胡田 尚則
- 【権利者代理人】塩川 和哉
- 【権利者代理人】倉田 佳貴
- 【異議申立人】田中 俊子
- 審判長/審判官
- 審判長 藤原 直欣
- 審判官 西堀 宏之
- 審判官 稲葉 大紀
- 分類
- P1652.121-Y (B32B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第113条第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7300257号発明「硫化水素吸収フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7300257号の請求項1~4、9、11~13に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7300257号(以下「本件特許」という。)の請求項1~13に係る特許についての出願は、平成30年10月31日を出願日とする出願であって、令和5年6月21日にその特許権の設定登録がされ、令和5年6月29日に特許掲載公報が発行された。その後、その請求項1~4、9、11~13に係る特許に対し、令和6年1月4日に特許異議申立人田中俊子(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~4、9、11~13の特許に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~4、9、11~13に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
ガス吸収層及び第一の耐熱層を具備しており、
前記ガス吸収層が、ポリプロピレン系樹脂以外のオレフィン系熱可塑性樹脂、及び前記熱可塑性樹脂に分散している金属系化学吸収剤を含有しており、前記金属系化学吸収剤が、銅、亜鉛、マンガン、コバルト、ニッケルから選択される少なくとも1つの金属を含む金属ケイ酸塩であり、かつ
前記第一の耐熱層が、ポリプロピレン系樹脂で構成されている、
硫化水素吸収フィルム。
【請求項2】
前記ガス吸収層の前記熱可塑性樹脂が、ポリエチレン系樹脂である、請求項1に記載の硫化水素吸収フィルム。
【請求項3】
前記ガス吸収層の前記ポリエチレン系樹脂が、エチレンと、カルボキシル基又はエステル基を有するエチレン系モノマーとの共重合体である、請求項2に記載の硫化水素吸収フィルム。
【請求項4】
前記ガス吸収層の前記共重合体が、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-メチルアクリレート共重合体、エチレン-ビニルアセテート共重合体である、請求項3に記載の硫化水素吸収フィルム。
【請求項9】
前記ガス吸収層の前記第一の耐熱層と反対側に、ポリプロピレン系樹脂で構成されている第二の耐熱層を更に具備している、請求項1~8のいずれか一項に記載の硫化水素吸収フィルム。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の硫化水素吸収フィルム、及び基材層を有し、かつ
前記基材層が、前記ガス吸収層の、前記第一の耐熱層と反対側に積層されている、
包装用積層体。
【請求項12】
前記基材層が、バリア層及び基材樹脂層を有し、かつ
前記バリア層の、前記ガス吸収層と反対側に、基材樹脂層を更に具備している、請求項11に記載の包装用積層体。
【請求項13】
請求項11又は12に記載の包装用積層体を1枚又は複数枚具備しており、かつ
1枚又は複数枚の前記包装用積層体の前記第一の耐熱層側の一部がこの包装用積層体の他の部分又は他のフィルムとヒートシールされていることによって袋状にされている、
包装袋。」
第3 申立理由の概要
申立人は、本件特許の請求項1~4、9、11~13に係る特許に対して、本件特許異議申立書に以下の甲第1号証~甲第3号証(以下「甲1」等という。)を添付して、大要、次の申立理由を主張している。
1 申立理由1(甲1~甲3に基づく進歩性)
本件発明1~4、9、11~13は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の甲1~甲3に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1~4、9、11~13に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
[証拠方法]
甲1:特開2017-1187号公報
甲2:特開2016-112510号公報
甲3:特開2019-10775号公報
第4 当審の判断
1 申立理由1(進歩性)について
(1)甲1に記載された事項・発明
ア 甲1には、次の事項が記載されている(下線は当審で付与したものであり、「・・・」は文章の省略を表す。)。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化物系ガス吸着用積層体に関する。」
(イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0011】
硫化物系ガス用吸着剤は、特許文献1に記載の発明のように、硫化物系ガス吸着剤を単独で用いた場合でも、特許文献2及び3に記載の発明のように、硫化物系ガス吸着剤を樹脂に混練して用いた場合でも、吸着できる硫化物系ガスの量に限りがある。しかしながら、これらの文献に記載の発明においては、硫化物系ガス吸着剤の吸着量が飽和となっているか否かといった硫化物系ガスの吸着状態を把握することができないという問題があった。
【0012】
そこで、本発明は、様々な用途に用いることができ、かつ硫化物系ガス吸着剤による硫化物系ガスの吸着状態を把握することができる、硫化物系ガス吸着用積層体を提供することを目的とする。」
(ウ)「【発明を実施するための形態】
【0016】
《硫化物系ガス吸着用積層体》
本発明の硫化物系ガス吸着用積層体(100)は、図1に示すように、硫化物系ガス吸着層(10)、硫化物系ガス吸着層上の変色層(30)、及び随意の非吸着層(20)を有する。この硫化物系ガス吸着層は、バインダー(12)、及びバインダー中に分散している硫化物系ガス吸着剤(14)を含む。ここで、硫化物系ガスとは、硫化水素ガス、メルカプタン系ガス、例えばメタンチオール、エタンチオール等の硫黄を含む物質のガスをいう。
【0017】
この硫化物系ガス吸着用積層体の硫化物系ガスの吸着に伴う変化を、図2を参照して説明する。図2(a)は、硫化物系ガスを吸着する前の硫化物系ガス吸着用積層体(200a)である。この状態で、硫化物系ガス吸着用積層体(200a)を硫化物系ガス雰囲気下に暴露すると、この硫化物系ガス(H2S)は、硫化物系ガス吸着剤(14)に吸着され、そして図2(b)に示すように、全ての硫化物系ガス吸着剤に硫化物系ガスが吸着されている状態(16)となる。この状態で、硫化物系ガス吸着用積層体(200b)を硫化物系ガス雰囲気下に更に暴露すると、この硫化物系ガス(H2S)が変色層(30)まで到達し、変色層(30)が硫化物系ガスと反応し、そして図2(c)に示すように変色層(30)硫化物系ガス吸着層(10)側が変色した状態(32)となる。この変色を確認することにより、硫化物系ガス吸着剤による硫化物系ガスの吸着状態を把握することができる。変色の確認は、例えば変色層の硫化物系ガス吸着層(10)側の色と、非透過性層(20)側の色とを、目視によって比較することにより行うことができる。
【0018】
また、図3に示すように、本発明の硫化物系ガス吸着用積層体(300)は、硫化物系ガス吸着層(10)の変色層とは反対側に、第1のスキン層(40)を更に有することができる。このスキン層(40)により、フィルム強度、表面粗さ、及びヒートシール性を向上させることができ、かつ吸着剤の脱落を防ぐことができる。さらに、吸着層が高温の処理によって脆化しても、スキン層(40)の存在によって、積層体自体は脆化に強くなる。
【0019】
また、図4に示すように、本発明の硫化物系ガス吸着用積層体(400)は、硫化物系ガス吸着層(10)の第1のスキン層(40a)とは反対側に、第1のスキン層(40b)を更に有することができる。この第2のスキン層(40b)により、フィルム強度を更に向上させることができる。
・・・
【0027】
〈硫化物系ガス吸着層〉
硫化物系ガス吸着層は、バインダー、及びバインダー中に分散している硫化物系ガス吸着剤を含む。
【0028】
硫化物系ガス吸着層の厚みは、吸着性能、成形性、及び弾性の観点から、10μm以上、20μm以上、又は30μm以上であることが好ましく、300μm以下、200μm以下、100μm以下、80μm以下、又は50μm以下であることが好ましい。
【0029】
硫化物系ガス吸着層は、変色層の片側に存在していてもよく、又は変色層の両側に存在していてもよい。硫化物系ガス吸着層が変色層の両側に存在している場合、それぞれの硫化物系ガス吸着層は同一であってもよく、又は異なっていてもよい。
【0030】
硫化物系ガス吸着層が変色層の両側に存在している場合、一方の硫化物系ガス吸着層が硫化物系ガスを吸着できない状態となり、そして硫化物系ガスが変色層と反応している間にも、更なる硫化物系ガス吸着層によって硫化物系ガスを更に吸着することができ、それにより硫化物系ガス吸着用積層体が全体として硫化物系ガスを吸着できない状態となった時と、変色層が変色した時との間のタイムラグを緩和することができる。
【0031】
硫化物系ガス吸着層の成形は、各種の成形方法、例えばプレス成型、インフレーション法、Tダイ法、共押出等の押出成形等により行うことができる。これらの中でも特に、インフレーション法又はTダイ法による成形が特に好ましい。
【0032】
(バインダー)
本発明の硫化物系ガス吸着層に用いられるバインダーは、熱硬化性樹脂、及び/又は熱可塑性樹脂を含むことができる。
【0033】
熱硬化性樹脂としては、随意の樹脂を用いることができ、例えばフェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0034】
熱可塑性樹脂としては、例えばポリオレフィン系樹脂、飽和又は不飽和ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、及びこれらの誘導体が挙げられる。ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン(例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、エチレン-アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン-メタクリル酸共重合体(EMAA)、エチレン-エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン-メチルアクリレート共重合体(EMA)、エチレンビニルアセテート共重合体(EVA)、カルボン酸変性ポリエチレン、カルボン酸変性エチレンビニルアセテート共重合体など)、ポリプロピレン(例えば、ポリプロピレン(PP)ホモポリマー、ランダムポリプロピレン(ランダムPP)、ブロックポリプロピレン(ブロックPP)、塩素化ポリプロピレン、カルボン酸変性ポリプロピレン)、ポリブテンなどが挙げられる。
【0035】
また、硫化物系ガス吸着層の硫化物系ガスの透過性を高める観点から、熱可塑性樹脂として芳香族ビニル-ジエン系共重合体、及びオレフィン系熱可塑性エラストマーを用いてもよい。
【0036】
芳香族ビニル-ジエン系共重合体は、芳香族ビニルモノマー由来の繰返し単位及びジエンモノマー由来の繰返し単位を有する共重合体を意味する。バインダーが芳香族ビニル-ジエン系共重合体を含むことによって、硫化物系ガスの吸着性能を向上させることができる。理論に拘束されるものではないが、これは、芳香族ビニル-ジエン系共重合体に対して硫化物系ガスの透過性が高いことに起因していると推測される。このような芳香族ビニル-ジエン系共重合体としては、特開2014-200751号公報に挙げられているものを用いることができる。
【0037】
オレフィン系熱可塑性エラストマーは、高温で流動化して成形が可能であり、常温ではゴム弾性を示す材料である。バインダーがオレフィン系熱可塑性エラストマーを含むことによって、硫化物系ガスの吸着性能を向上させることができる。理論に拘束されるものではないが、これは、オレフィン系熱可塑性エラストマーに対して硫化物系ガスの透過性が高いことに起因していると推測される。
【0038】
(硫化物系ガス吸着剤)
本発明で用いる硫化物系ガス吸着剤は、硫化物系ガスを化学的にかつ/又は物理的に吸着する無機吸着剤である。好ましくは、本発明で用いる硫化物系ガス吸着剤は化学吸着剤であり、その表面で硫化物系ガスと反応して他の硫化物を形成することにより吸着する、硫化物を配位結合によって吸着する等の吸着機構を有する無機吸着剤である。硫化物系ガス吸着剤としては物理吸着剤を用いることもできる。
【0039】
この無機吸着剤は、バインダー樹脂100質量部に対して、混練性及び吸着性能を考慮して、0.1質量部以上、1質量部以上、3質量部以上、5質量部以上又は10質量部以上含むことが好ましく、500質量部以下、300質量部以下、100質量部以下、50質量部以下、40質量部以下、又は30質量部以下で含むことが好ましい。
【0040】
このような無機吸着剤のうち、物理吸着剤の例としては、酸化アルミニウム、生石灰、シリカゲル、無機の分子篩等を挙げることができる。無機の分子篩の例としては、限定されないが、アルミノケイ酸塩鉱物、クレー、多孔質ガラス、微細孔性活性炭、ゼオライト、活性炭、又は水等の小分子を拡散させることが可能な開口構造をもつ化合物を挙げることができる。
【0041】
化学吸着剤の例としては、銅、鉄、亜鉛、マンガン、コバルト、ニッケル、ジルコニウム、及びランタノイド元素から選ばれる少なくとも1種の金属を含む化合物又は塩が挙げられる。ジルコニウム及びランタノイド元素の化合物については、特にこれらの水酸化物又は含水酸化物を挙げることができ、例えば特開平1-223968号公報に記載の吸着剤を挙げることができる。また、亜鉛及びマンガンの化合物については、これらの金属イオンを担持させた4価金属リン酸塩を挙げることができ、例えば特開平10-155883号公報に記載の吸着剤を挙げることができる。ただし、このような化学吸着剤を用いた場合には、吸着層の脆化を促進させる場合がある。
【0042】
特に好ましい化学吸着剤としては、銅、亜鉛、マンガン、コバルト、ニッケルから選ばれる少なくとも1種の金属を含む金属ケイ酸塩であり、さらに好ましくは金属とケイ素の元素組成(モル)比が、金属/ケイ素=0.60~0.80の範囲となるものである。このような無機吸着剤は、金属塩とケイ酸アルカリ塩とを反応させて製造することができる。上記金属塩としては、銅、亜鉛、マンガン、コバルト、ニッケルから選ばれる少なくとも1種の金属の、硫酸、塩酸、硝酸等の無機塩、及び/又はギ酸、酢酸、シュウ酸などの有機塩を用いることができる。これらの内で、金属として好ましいのは銅(I)、銅(II)、亜鉛(I)である。上記ケイ酸塩としては、M2O・nSiO2・xH2O(ここで、式中Mは1価アルカリ金属を表し、nは1以上、かつxは0以上である。)の式のケイ酸アルカリ塩をあげることができる。最も好ましい金属ケイ酸塩は、硫酸銅(II)とケイ酸ナトリウムとの反応生成物である銅(II)ケイ酸塩であり、例えば特開2011-104274号公報に記載のものである。また、市販品では、東亞合成株式会社のケスモン(商標)NS-10C、及びNS-20C等が挙げられる。ただし、このような無機吸着剤を用いた場合には、吸着層の脆化を特に促進させる場合がある。
・・・
【0048】
〈第1のスキン層〉
第1のスキン層は、硫化物系ガス吸着層の変色層とは反対側に、積層されている層である。この第1のスキン層は、高いフィルム強度、低い表面粗さ、及び高いヒートシール性を積層体に与えることができる。さらに、第1のスキン層は高温処理による脆化に対する抵抗力を積層体に与えることができる。表面粗さに関しては、第1スキン層の算術平均粗さRaは、ISO4287に準拠して測定した場合に、好ましくは2.00μm以下、1.50μm以下、又は1.00μm以下である。
【0049】
ヒートシール性に関しては、第1のスキン層同士をヒートシールした場合に、その密着強度は、JIS K6854-1による90度剥離法に準拠して測定した値が、好ましくは4.0N/15mm以上、6.0N/15mm以上、又は8.0N/15mm以上である。ヒートシールする際の温度は、スキン層の材料に応じて、80~150℃であることが好ましい。
【0050】
第1のスキン層は、硫化物系ガス吸着層のバインダーに関して挙げた樹脂を含むことができ、硫化物系ガスの吸着性能を向上させる観点から、芳香族ビニル-ジエン系共重合体、及び/又はオレフィン系熱可塑性エラストマーを含有することが好ましい。
【0051】
第1のスキン層の成形は、硫化物系ガス吸着層に関して挙げた成形方法により行うことができる。
【0052】
〈第2のスキン層〉
第2のスキン層は、硫化物系ガス吸着層と変色層との間に積層されている層である。第2のスキン層は、第1のスキン層と同じ材料で構成されていてもよく、又は異なる材料で構成されていてもよい。また、第2のスキン層の成形は、第1のスキン層に関して挙げた成形方法により行うことができる。
【0053】
〈変色層〉
変色層は、硫化物系ガスと反応して変色する、硫化物系ガス吸着層上の層である。硫化物系ガス吸着層が硫化物系ガスを吸着できないこととなった後に、この変色層が硫化物系ガスと反応して変色することにより、本発明の硫化物系ガス吸着用積層体が硫化物系ガス吸着できない状態となっていることを認識することができる。
【0054】
変色層としては、硫化物系ガスとの反応により変色する層であれば特に限定されず、例えば銅、銀、及び鉄並びにそれらの化合物が挙げられる。化合物としては、例えば酸化物等が挙げられる。
【0055】
変色層は、蒸着等の手段により積層させることができる。蒸着としては、例えば物理蒸着法、化学蒸着法等が挙げられる。
【0056】
〈非透過性層〉
非透過性層は、図1に示すように、変色層の硫化物系ガス吸着層とは反対側に積層されている随意の層である。特に、非透過性層は、変色層の硫化物系ガス吸着層とは反対側から気体を侵入させないことにより、変色層が硫化物系ガス吸着層とは反対側で変色することを防止することができる。
【0057】
更に、この非透過性層は、変色層を積層させるための変色層支持体として用いることもできる。
【0058】
非透過性層は、例えばポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリフッ化ビニル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリビニルアルコール(PVA)、等の非透過性樹脂を含むことができる。
・・・
【0070】
《硫化物系ガス吸着用積層体の使用方法》
本発明の硫化物系ガス吸着用積層体は、硫化物系固体電解質を用いる全固体型リチウム電池内で用いることで、内部で発生する硫化水素を吸着し、電池の性能を長期間維持させることができる。また、本発明の積層体をLED素子の付近、又はLEDパッケージ若しくはリードフレームの裏に配置することで、LED素子及び銀のリフレクタ部品等の周辺部材の腐食を防止することができる。硫化物系ガスの発生する場所で用いる機器、例えば工場内の生産機械を制御するための回路基板、並びに工場内で用いる表示装置及び通信機の付近に本発明の積層体を用いることで、それらが含む金属部材、例えば銀又は銅の端子の腐食を防止することができる。さらに、硫化物系ガスの濃度が高い下水道、排水処理施設等の金属部材やコンクリート材の付近に本発明の積層体を配置することで、それらの腐食を防止することができる。
【0071】
上記の場合、特定の実施態様においては、本発明の積層体のスキン層をヒートシールすることによって、積層体を使用対象物に付着させることができる。また、本発明の積層体を袋状に形成し、この袋に、例えば銀や銅を含む基板部品を入れて、それを保管又は輸送することで、基板部品等の腐食を防ぐことができる。
【0072】
さらに、本発明の積層体を特開昭62-64737号公報に記載の食品包装用のフィルムのように用いることができる。例えば、従来のレトルトパウチでは、生の魚介類等を加熱殺菌すると、硫化水素が発生し、この硫化水素によって内容食品特有の風味が失われ、硫化水素の異臭が残存し、商品価値を著しく低下させてしまう。このような場合、本発明の積層体を用いてレトルトパウチを構成する、又は本発明の積層体を内部に封入することにより、発生した硫化水素を吸着することが可能であるため、内容物の風味の劣化を抑制することができる。
【実施例】
【0073】
実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0074】
1.硫化物系ガス吸着層用ペレットの作製
硫化物系ガス吸着剤(ケスモンNS-20C、東亞合成株式会社)5kg、及びバインダーとしてのポリエチレン(ペトロセン202、東ソー株式会社)5kgを10Lニーダーで混練し、「ペレット1」を得た。次いで、上記「ペレット1」を二軸押し出し機(PCM30、株式会社池貝)で再混練し「ペレット2」を得た。
【0075】
2.スキン層及び硫化物系ガス吸着層の作製
下記の構成のフィルムを3層インフレーション製膜機によって作製した。
第1のスキン層12μm/硫化物系ガス吸着層48μm/第2のスキン層12μm
第1及び第2のスキン層:ポリエチレン(ペトロセン170R、東ソー株式会社)
硫化物系ガス吸着層:「ペレット2」2kgとポリエチレン(ペトロセン170R、東ソー株式会社)98kgのブレンド
【0076】
3.変色層及び非透過性層の作製
非透過性層としてのPETフィルム(50μm)上に、変色層としての銅パターンを蒸着により4mm径で形成した。」
(エ)「
【図1】
[図:0001409195000001.jpg]
【図3】
[図:0001409195000002.jpg]
【図4】
[図:0001409195000003.jpg]
」
イ 甲1に記載された発明
上記アの記載を参酌し、特に図4に係る実施の形態に着目すると、甲1には以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「非透過性層20、変色層30、第2のスキン層40b、硫化物系ガス吸着層10、及び第1のスキン層40aを具備しており、
硫化物系ガス吸着層10が、ポリエチレンと当該ポリエチレンに分散している硫化物系ガス吸収剤を含有しており、当該硫化物系ガス吸収剤がケスモンNS-20Cであり、かつ
前記第1のスキン層40a及び第2のスキン層40bが、ポリエチレン樹脂で構成されている、
硫化物系ガス吸収フィルム。」
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「第1のスキン層40a」は、「高温処理による脆化に対する抵抗力を積層体に与えることができる」(甲1【0048】)ものであるから、本件発明1の「第一の耐熱層」に相当する。
甲1発明の「硫化物系ガス吸着層10」は、本件発明1の「ガス吸収層」に相当する。
甲1発明の「硫化物系ガス吸着層10」に含まれる「ポリエチレン」は、本件発明1の「ポリプロピレン系樹脂以外のオレフィン系熱可塑性樹脂」に相当する。
甲1発明の「硫化物系ガス吸着剤」である「ケスモンNS-20C」は、銅を含む金属ケイ酸塩(甲2【0058】を参照。)であるから、当該「硫化物系ガス吸着剤」、「ケスモンNS-20C」はそれぞれ、本件発明1の「金属系化学吸収剤」、「銅、亜鉛、マンガン、コバルト、ニッケルから選択される少なくとも1つの金属を含む金属ケイ酸塩」に相当する。
甲1発明の「硫化物系ガス吸収フィルム」は、硫化水素を吸収対象とするものであり(甲1【0016】、【0070】~【0072】)、本件発明1の「硫化水素吸収フィルム」に相当する。
以上のことから、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、次の通りである。
【一致点】
「ガス吸収層及び第一の耐熱層を具備しており、
前記ガス吸収層が、ポリプロピレン系樹脂以外のオレフィン系熱可塑性樹脂、及び前記熱可塑性樹脂に分散している金属系化学吸収剤を含有しており、前記金属系化学吸収剤が、銅、亜鉛、マンガン、コバルト、ニッケルから選択される少なくとも1つの金属を含む金属ケイ酸塩である、硫化水素吸収フィルム。」
【相違点】
本件発明1は、「第一の耐熱層が、ポリプロピレン系樹脂で構成されている」のに対して、甲1発明は、「第1のスキン層40a」が「ポリエチレン樹脂で構成されている」点。
イ 判断
(ア)甲1には、「第1のスキン層は、硫化物系ガス吸着層のバインダーに関して挙げた樹脂を含むことができ、硫化物系ガスの吸着性能を向上させる観点から、・・・オレフィン系熱可塑性エラストマーを含有することが好ましい。」(【0050】)とされており、加えて甲1と同様に硫化物系ガス吸収積層体を開示する甲2の吸着層の説明には、「吸着層は、硫化物を吸着する無機吸着剤及びバインダーを含む。バインダーとしては、第1または第2のスキン層に用いることができる熱可塑性樹脂と同じ樹脂を用いることができ、上記のオレフィン系エラストマーを用いてもよい。」(【0038】)と記載されているから、当該技術分野においては、甲1発明を含め、バインダーとしてポリエチレンを採用する際には、第1のスキン層もポリエチレンを採用することが通常であり、少なくとも、一方をポリプロピレンとすること、具体的には、スキン層をポリプロピレン系樹脂とし、吸着層をポリプロピレン系樹脂以外のオレフィン系熱可塑性樹脂の組合せとすることは、甲1及び甲2に記載も示唆もなく、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
(イ)申立人は、「甲1号証には、・・・第1のスキン層に使用されたポリエチレンの代わりに、ポリプロピレンを使用することを阻害するような事情はない」こと、及び「ポリエチレンと比較して、ポリプロピレンの方が融点及び軟化点が高く、耐熱性が優れていることは技術常識である」ことから、「スキン層の耐熱性を高めて硫化物系ガス吸着用積層体の高温環境における脆化を抑制することを目的として、甲第1号証の実施例の第1のスキン層に使用されているポリエチレンの代わりに、甲第1号証及び甲第2号証に開示されたポリプロピレンを用いることは、当業者にとって容易であり、これを阻害する要因なく、これによる効果も予想外のものではない。」(異議申立書第25~27ページ)と主張している。
しかしながら、上記(ア)で述べたとおり、甲1発明において敢えて第1のスキン層のみをポリプロピレン系樹脂とすることの動機付けはないから、上記申立人の主張は採用できない。
(ウ)よって、本件発明1は、甲1発明及び甲2記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件発明2~4、9、11~13について
本件発明2~4、9、11~13は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記(2)で述べたことと同様に、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第5 むすび
以上のとおり、特許異議の申立の理由及び証拠によっては、請求項1~4、9、11~13に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~4、9、11~13に係る特許を取り消すべき理由は発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2024-700003