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特許拒絶査定不服審判

2024-000162

調光シート

審判番号
2024-000162
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2022-059977外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2024年01月05日
審決日
2025年01月30日
公報発行日
2025年04月25日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .121-Z (G02F)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2022- 59977「調光シート」拒絶査定不服審判事件〔令和 4年 7月 4日出願公開、特開2022- 99340〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論
本件審判の請求は、成り立たない。

理由

目次 ▾ 16項目
理 由

第1 手続の経緯の概要

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本願は、令和2年12月22日を出願日とする特願2020-212480号の一部を令和4年3月31日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯の概要は以下のとおりである。

令和4年11月30日 :上申書の提出
令和5年 6月23日付け:拒絶理由通知書

同年 8月25日 :意見書・手続補正書の提出

同年10月 3日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)

令和6年 1月 5日 :審判請求書の提出

第2 本願発明

本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、令和5年8月25日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1の記載は、次のとおりである。

<本願発明>

「液晶分子および粘度低下剤を含む液晶組成物と、前記液晶組成物を保持する透明高分子層とを有する調光層と、
前記調光層を挟む一対の透明電極層と、を備え、
前記調光層における前記透明高分子層の質量割合は20%以上80%以下であり、
23℃における前記液晶組成物の粘度を基準粘度とするとき、-20℃以上110℃以下の範囲における粘度の最大値が、前記基準粘度の100倍以下であって、かつ、696mPa・s以上7275mPa・s以下であり、
大気圧下における前記液晶組成物のNI点は、100℃以上145℃以下の範囲に含まれる
調光シート。」

第3 原査定における拒絶の理由

原査定の拒絶の理由は、以下の理由を含むものである。

本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である引用文献1に記載された発明、引用文献2~4に記載された技術事項及び周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開平7-92455号公報
引用文献2:特開昭58-8778号公報
引用文献3:特開2001-279244号公報
引用文献4:特開2001-40354号公報
引用文献5:特開昭59-221376号公報(周知技術を示す文献)

第4 各引用文献に記載された事項及び引用発明等の認定

1 引用文献1に記載された事項及び引用発明の認定

(1)引用文献1に記載された事項

原査定の拒絶の理由で引用された、特開平7-92455号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の記載がある(下線は当合議体が付した。以下同様。)。

「【請求項1】 少なくとも一方が透明である一対の電極層の間に、透明樹脂中に液晶組成物および透明液体物質を分散させた調光層を挟持させてなる高分子分散型液晶調光素子において、該調光層が互いに不溶な透明樹脂、液晶組成物および透明液体物質の3要素からなることを特徴とする液晶調光素子。」

「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、光散乱を動作原理とする液晶調光素子に関するものである。更に詳しくは透明樹脂中に液晶組成物及び透明液体物質を分散させた調光層を有する高分子分散型液晶調光素子に関する。」
「【0009】
【課題を解決するための手段】本発明は少なくとも一方が透明である一対の電極層の間に、透明樹脂中に液晶組成物および透明液体物質を分散させた調光層を挟持させてなる高分子分散型液晶調光素子において、該調光層が互いに不溶な透明樹脂、液晶組成物および透明液体物質の3要素からなることを特徴とする液晶調光素子よりなる。
【0010】本発明で用いられる透明樹脂は、液晶組成物および透明液体物質に不溶であるものであれば特に限定はされるものではない。例えば、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、カーボネート系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、その加水分解物、セルロース系樹脂、スチレン系樹脂、アミド系樹脂、ニトリル系樹脂、アセタール系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂などの熱可塑性樹脂または、SBR系ゴム、ブタジエン系ゴム、ブチレン系ゴム、イソプレン系ゴム、アクリル系ゴム、ニトリル系ゴム、ウレタン系ゴム、フッ素系ゴム、クロロプレン系ゴムなどの合成ゴムや天然ゴム、不飽和ポリエステル系樹脂、ウレタン樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂アルキッド樹脂、架橋された熱可塑性樹脂などを好ましく用いることができる。これらの透明樹脂は単独で用いてもよく、2種類以上併用してもよい。
【0011】本発明で用いられる液晶組成物は、透明樹脂および透明液体物質と不溶であるものであればよい。ネマティック液晶、コレステリック液晶、スメクチック液晶など特に限定されるものではないが、ネマティック液晶を特に好ましく用いることができる。」
「【0013】これらの液晶組成物の成分は、単一成分であっても複数成分の混合物であっても良い。たとえば、BDH社製のE-8、E-44やチッソ社製のGR-63などの混合液晶を使用することができる。また、二色性色素などを含有したものであってもよい。用いられる液晶組成物としては、液晶調光素子のコントラストを上げるためには屈折率異方性(△n)の大きい物が好ましい。また、駆動電圧を小さくするためには誘電率異方性(△ε)の大きい物が好ましい。
【0014】本発明で用いられる透明液体物質は、透明樹脂および液晶組成物に不溶であるものであればよい。例えば、水、多価アルコール類、多価アルコール類の誘導体、流動パラフィン類、シリコンオイル類、フッ素オイル類など特に限定されるものではないが、シリコンオイル類、フッ素オイル類を特に好ましく用いることができる。これらの透明液体物質は、単独で用いてもよく2種以上併用してもよい。用いられる透明液体物質としては、沸点が高く揮発性が小さい物、爆発性・毒性が小さく危険性が少ない物、化学的に安定である物が好ましい。
【0015】調光層中での液晶組成物の占める割合は、50%(重量%、以下同様)以上であり好ましくは70%以上である。電界に応答する液晶組成物の占める割合が50%より小さくなると、調光層の電気光学特性が極端に悪化する。
【0016】一方、調光層中での透明液体物質の占める割合は、0.1~45%であり好ましくは1~25%である。透明液体物質の占める割合が0.1%より小さくなると、液晶組成物ー透明液体物質の界面の面積が小さくなって透明液体物質の効果が低減する。45%より大きくなると、相対的に透明樹脂の割合が低下して、調光層の安定性・成形性が低下する。
【0017】また、調光層中の透明樹脂の占める割合は5~49.9%であり、好ましくは20~40%である。」
「【0021】調光層に電界を印加するための2枚の電極層は、その少なくとも一方が透明であることが必要である。電極層の具体例としては、ITO(Indium Tin Oxide)、酸化錫などのような透明な金属酸化物の他に銅、アルミニウムのような導電性金属を使用することができる。また、双方に透明電極を設けると作成された液晶調光素子は透過型となり、光シャッター、投射型ディスプレイなどに使用することができる。
【0022】
【作用】本発明は、透明樹脂、液晶組成物および透明液体物質の3要素よりなる相分離系の調光層を有する高分子分散型液晶調光素子である。この高分子分散型液晶調光素子は、従来の性能を保持しつつ、コントラスト、駆動電圧、ヒステリシス特性を改良されたものである。本発明の液晶調光素子においては、透明樹脂、液晶組成物及び透明液体物質は互いに不溶であるため、透明樹脂ー液晶組成物、液晶組成物ー透明液体物質及び透明樹脂ー透明液体物質の3種の界面が生じる。この3種の界面はそれぞれが光散乱因子となることから、従来の高分子分散型液晶調光素子やエマルジョン型液晶調光素子に比べて、電圧無印加時の調光層の光散乱強度が増大しコントラストが向上する。
【0023】調光層の構造は、透明樹脂、液晶組成物および透明液体物質の組成比、密度、表面張力、溶解パラメーターなどの因子によって変わる。本発明においては、例えば3次元スポンジ状の透明樹脂中に液晶組成物および透明液体物質が分散しているような構造をとっていると思われる。
【0024】第3図は、本発明の液晶調光素子の一例の断面図を示す。第1図、第2図と同様に、液晶調光素子は、対向する一対の電極層(3.1)の間に調光層(3.2)を挟持している。調光層(3.2)は、3次元スポンジ状の透明樹脂(3.3)中に液晶組成物(3.4)および透明液体物質(3.6)が分散した構造を有している。したがって、流動性のある液晶組成物(3.4)及び透明液体物質(3.6)は透明樹脂(3.3)中で安定に保持されている。図に示すように、透明樹脂ー液晶組成物の界面(3.5)に比べて液晶組成物ー透明液体物質の界面(3.7)の割合が大きくなると、液晶組成物ー透明液体物質の界面(3.7)の相互作用が支配的になって、良好な電気光学特性が得られる。」
「【図3】
[図:0001421110000001.jpg]
」

(2)引用発明の認定

前記(1)によれば、引用文献1には、【請求項1】の液晶調光素子であって、【0009】【0024】及び第3図に記載の液晶調光素子において、【0021】に記載の「2枚の電極層」の「双方に透明電極を設ける」態様について、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる(引用発明等の認定に用いた段落番号等を参考までに括弧内に付してある。以下同じ。)。

<引用発明>

「少なくとも一方が透明である一対の電極層の間に、透明樹脂中に液晶組成物および透明液体物質を分散させた調光層を挟持させてなる高分子分散型液晶調光素子において、該調光層が互いに不溶な透明樹脂、液晶組成物および透明液体物質の3要素からなる、液晶調光素子であって、(【請求項1】)
液晶組成物は、透明樹脂および透明液体物質と不溶であるものであればよく、ネマティック液晶、コレステリック液晶、スメクチック液晶など特に限定されるものではなく、(【0011】)
液晶組成物の成分は、単一成分であっても複数成分の混合物であっても良く、(【0013】)
調光層中の透明樹脂の占める割合は20~40重量%であり、(【0017】・【0015】)
2枚の電極層の双方に透明電極を設け、(【0021】)
調光層(3.2)は、3次元スポンジ状の透明樹脂(3.3)中に液晶組成物(3.4)および透明液体物質(3.6)が分散した構造を有しており、流動性のある液晶組成物(3.4)及び透明液体物質(3.6)は透明樹脂(3.3)中で安定に保持されている、(【0024】)
液晶調光素子。」

2 引用文献2に記載された事項及び引用文献2技術事項の認定

(1)引用文献2に記載された事項

原査定の拒絶の理由で引用された、特開昭58-8778号公報(以下「引用文献2」という。)には、以下の記載がある。

「本発明はTN形液晶表示素子に用いる液晶組成物に関し、特に動作温度範囲が広くかつ低温度において高速度動作を可能にした液晶組成物に関するものである。」(第1頁右下欄第19行~第2頁左上欄第2行)

「一方、液晶表示素子が+80℃の高温度で動作させるには、液晶材料の液晶液体転移点(N-I点)は少なくとも80℃以上、望ましくは85℃以上であることが必要である。例えば混合液晶を正則溶液として取扱えば、混合液晶のN-I点(TNI)は成分iのN-I点をTi、モル分率をXiとすると、次式で与えられる。
[図:0001421110000002.jpg]
したがって、混合液晶のN-I点を高くすることは比較的容易である。しかしながら、液晶のN-I点と粘度ηとの間には相関があり、N-I点を高くすると、粘度ηが増大し、粘度ηを小さくするとN-I点が低下するという一般的な傾向が存在する。このため、従来の液晶組成分で高N-I点と低粘度を両立させることは極めて困難であった。」(第2頁左下欄第6行~同頁右下欄第1行)
「以上説明したように自動車用の液晶材料は、-30~+80℃という広い動作温度範囲と、-30℃において0.5秒以下という高速度応答性とを実現するため、下記の特性を満足させなければならなかった。
(1)80℃以上、望ましくは85℃以上のN-I点を有すること。
(2)-30℃の過冷却においてネマチック状態が長期にわたって安定に存在しうること。
(3)0℃において50~60CP以下、-20℃において300CP以下、望ましくは200CP以下の粘度を有すること。
しかしながら、上記特性を有する液晶組成物は現在のところ全く存在しなかった。
したがって本発明は、上記の特性を満足する全く新規の液晶組成物を提供することを目的としている。」(第3頁左上欄第3~19行)
「このような目的を達成するために本発明は、トランス-4-n-プロピル-(4-エチルフェニル)シクロヘキサン、トランス-4-n-ペンチル-(4-シアノフェニル)シクロヘキサン、トランス-4-n-ペンチル-(4′-エチルビフェニル-4)-シクロヘキサン、トランス-4-n-ペンチル-(4′-シアノビフェニル-4)-シクロヘキサン、4-n-プロピルフェニル-4-(トランス-4-n-プロピルシクロヘキシル)ベンゾエートおよび4-(トランス-4-n-プロピルシクロヘキシル)-ビフェニルの6種類の化合物を主成分とするものであり、これらの混合系により、前記(1)~(3)の特性を満足する液晶組成物を得ることを可能にしたものである。
なお、本発明による液晶組成物は、トランス-4-n-プロピル-(4-エチルフェニル)シクロヘキサン(以下PCH32と称する)が29~36モル%、トランス-4-n-ペンチル-(4-シアノフェニル)シクロヘキサン(以下PCH5と称する)が28~35モル%、トランス-4-n-ペンチル-(4′-エチルビフェニル-4)-シクロヘキサン(以下BCH52と称する)が14~18モル%、トランス-4-n-ペンチル-(4′-シアノビフェニル-4)-シクロヘキサン(以下BCH5と称する)が4~7モル%、4-n-プロピルフェニル-4-(トランス-4-n-プロピルシクロヘキシル)ベンゾエート(以下HP33と称する)が3~7モル%および4-(トランス-4-n-ペンチルシクロヘキシル)-4′-(トランス-4-n-プロピルシクロヘキシル)-ビフェニル(以下CBC53と称する)が5~8モル%の範囲内にあるとき、特に有効である。」(第3頁左上欄第20行~同頁左下欄第12行)
「実施例1
PCH32:32モル%、PCH5:33モル%、BCH52:16モル%、BCH5:6モル%、HP33:6モル%およびCBC53:7モル%からなる液晶組成物Iを調製した。そして、メトラー社製のFP5およびFP52形の測定器を用いてN-I点を測定したところ、86.5℃であった。次にこの液晶組成物を東京計器段のEL-1500形回転粘度計を用いて粘度を測定したところ、第3図に特性ηIで示したような温度変化が得られた。ここで比較例として、下記組成の液晶材料
[図:0001421110000003.jpg]
ただし、TNI=84℃
の粘度の温度変化特性ηIIを示した。同図から明らかなように組成物Iの粘度は0℃において59.5CP、-20℃において274CPであり、従来に全くない低粘度を実現することができた。
一般に液晶の粘度は、温度の低下とともに急激に上昇し、粘度の対数を絶対温度の逆数に対してプロットした曲線は、低温度側ほど急勾配となる。したがって、第2図で明らかなように組成物Iの粘度曲線ηIは比較例の粘度曲線ηIIより低粘度側にあるだけでなく、その温度勾配も比較例より小さくなっている。このため、組成物Iと比較例との粘度差は低温度側ほど大となる。実際、組成物Iの粘度ηIは0℃では比較例の粘度ηIIの約0.294倍であるが、-20℃では約0.137倍である。」(第3頁左下欄第15行~第4頁左上欄第11行)
「第3図
[図:0001421110000004.jpg]
」

(2)引用文献2の記載から当業者が把握することができる事項

第3頁左下欄第15行~第4頁左上欄第11行に、第3図における粘度の温度特性ηIIは比較例として記載された液晶材料のものであると記載されていることを踏まえると、第3図から、当業者は、「23℃における比較例の粘度ηIIは約40CPであること」を把握することができる。

また、第3頁左下欄第15行~第4頁左上欄第11行に、「組成物Iの粘度は」「、-20℃において274CPであり、」「組成物Iの粘度ηIは0℃では比較例の粘度ηIIの約0.294倍であるが、-20℃では約0.137倍である」ことが記載されていることから、当業者は、「-20℃における比較例の粘度ηIIは(274CP/約0.137=)約2000CPであること」を把握することができる。

(3)引用文献2技術事項1及び2の認定

前記(1)及び(2)によれば、引用文献2には、比較例に係る液晶材料についての次の技術事項(以下「引用文献2技術事項1」という。)及び6種類の化合物の混合系により、所定の特性を満足する液晶組成物を得ることを可能にした液晶組成物についての次の技術事項(以下「引用文献2技術事項2」という。)が記載されていると認められる。

<引用文献2技術事項1>

「下記組成の液晶材料
[図:0001421110000005.jpg]
は、23℃における粘度ηIIは約40CPであり、-20℃における粘度ηIIは約2000CPであり、TNIが84℃であること。(第3頁左下欄第15行~第4頁左上欄第11行、前記(2))」

<引用文献2技術事項2>

「混合液晶の液晶液体転移点(N-I点)(TNI)は成分iのN-I点をTi、モル分率をXiとすると、次式(以下「式1」という。)で与えられ、
[図:0001421110000006.jpg]
混合液晶のN-I点を高くすることは比較的容易であるが、液晶のN-I点と粘度ηとの間には相関があり、N-I点を高くすると、粘度ηが増大し、粘度ηを小さくするとN-I点が低下するという一般的な傾向が存在しており、(第2頁左下欄第6行~同頁右下欄第1行)
自動車用の液晶材料は、-30~+80℃という広い動作温度範囲と、-30℃において0.5秒以下という高速度応答性とを実現するため、80℃以上、望ましくは85℃以上のN-I点を有すること、0℃において50~60CP以下、-20℃において300CP以下、望ましくは200CP以下の粘度を有すること、の特性を満足させなければならず、(第3頁左上欄第3~14行)
6種類の化合物の混合系により、前記特性を満足する液晶組成物を得ることを可能にし、(第3頁左上欄第20行~同頁右上欄第14行)
液晶の粘度は、温度の低下とともに急激に上昇すること。(第4頁左上欄第2~3行、第3図)」

3 引用文献4に記載された事項及び引用文献4技術事項の認定

(1)引用文献4に記載された事項

原査定の拒絶の理由で引用された、特開2001-40354号公報(以下「引用文献4」という。)には、以下の記載がある。

「【0008】偏光板や配向処理を要さず、明るくコントラストの良い液晶デバイスとして、ポリマー中に液晶滴を分散させた液晶表示素子が特表昭58-501631号公報、米国特許第4435047号明細書、特表昭61-502128号公報、特開昭62-2231号公報等において知られている。(以下、これらの液晶表示素子を総称してPDLCと呼称する)これらは、液晶材料の個々の屈折率とポリマーの屈折率を最適化することや、十分な透明性を得るのに高い電圧を必要とする問題を有していた。一方、低電圧駆動性、高コントラスト、時分割駆動性を可能にする技術として、米国特許第5,304,323号、特開平1-198725号公報があり、液晶材料が連続層を形成し、この連続層中に、高分子物質が三次元網目状に分布した構造を有する液晶表示素子が開示されている。(以下、この液晶表示素子をPN-LCDと呼称する)」

「【0015】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、一般式(I-1)~(I-3)で表される化合物を少なくとも1種以上含有したネマチック液晶組成物、より詳しくは、一般式(I-1)~(I-3)の化合物を1種又は2種以上以上含有するものであり、ナフタレン-2,6-ジイル環を有した化合物、及び環中のいずれかに置換基を有した化合物を含有する新規なネマチック液晶組成物により、更にまた一般式(I-1)~(I-3)以外の化合物と組み合わせることにより、上述のような液晶材料に対する要望を解決あるいは少しでも改善しようとするものであり、これにより上述のような液晶表示素子の特性を改善することにある。詳しくは、相溶性の改善、低温保存の向上等により液晶表示特性の動作温度範囲を拡大し、駆動電圧の低減及びその温度変化を改善し、所定の駆動電圧に対し比較的速い応答性を達成するあるいは改善することにある。また、所望の複屈折率を有する液晶材料によりMIMあるいはTFT-LCDやSTN-LCDの種々の表示特性を改良し、比較的大きな複屈折率を有する液晶材料によりPN-CLDやPDLCの表示特性を改善することにある。また、負の誘電率異方性を特徴とする液晶材料においても、その相溶性の改善、低温保存の向上、ネマチック相-等方性液体相転移温度の改善、駆動電圧の低減及びその温度依存性の改善、所定の駆動電圧に対し比較的速い応答性、比較的小さい複屈折率の達成等により、IPS、VA、MVAモードを用いたTFT-LCDの種々の表示特性を改良することにある。」
「【0020】
【発明の実施の形態】本発明の液晶組成物は、一般式(I-1)~(I-3)で表される化合物からなる液晶成分Aを必須成分として含有する。一般式(I-1)~(I-3)で表される化合物は、非置換又は置換されたナフタレン-2,6-ジイル環を部分構造とする分子構造を特徴としている。この特徴を有する液晶成分Aは、2以下の正の誘電率異方性から比較的大きな負の誘電率異方性を示し、約0.10と小さな複屈折率から約0.40と非常に大きな複屈折率まで幅広い特性を有し、液晶化合物あるいは液晶組成物に混合すると、ネマチック相-等方性液体相転移温度が比較的良好で、相溶性にも優れ、液晶表示特性に対し応答性や駆動電圧等の改善効果を有するかあまり悪化させることがない特徴を有しており、従来の液晶化合物にない優れた特性を有している。特に、W1、W6のいずれかがF、Cl等の極性基で置換されたナフタレン-2,6-ジイル環、W1、W3、W5の組の内2個または3個がF、Cl等の極性基で置換されたナフタレン-2,6-ジイル環、W2、W4、W6の組の内2個または3個がF、Cl等の極性基で置換されたナフタレン-2,6-ジイル環の部分構造を有する化合物が好ましい。本発明の液晶組成物は、一般式(I-1)~(I-3)の化合物からなる液晶成分Aを含有し、+2以上の誘電率異方性を有する化合物からなる液晶成分Bを0~99.9重量%含有し、-10~+2の誘電率異方性を有する化合物からなる液晶成分Cを0~85重量%含有し、該液晶成分Bと該液晶成分Cの総和が0~99.9重量%含有させることで、この効果を有することを見いだした。また、液晶成分Aは、上記の液晶成分Bと液晶成分Cの液晶材料に対して混合したとき、固体相又はスメクチック相-ネマチック相転移温度を特段に低下させたりあるいは低温での保存時間を長くする等、表示温度範囲をより広くさせることができる。」
「【0043】一般式(I-1)~(I-3)において、
(I-ai):R1が炭素原子数1~7のアルキル基又は炭素原子数2~7のアルケニル基である化合物、具体的には、一般式(I-1a)~(I-3ay)の基本構造であって、側鎖基R1が(I-4a)~(I-4g)、(I-4ak)~(I-4aq)、(I-4ay)~(I-4bf)であって、側鎖基R2が(I-4a)~(I-4bf)の化合物、より好ましくは一般式(I-1a)~(I-1k)、(I-1s)~(I-1x)、(I-1ad)~(I-1ak)、(I-2f)、(I-2g)、(I-2k)、(I-2l)、(I-2q)、(I-2x)、(I-2ad)、(I-2ak)~(I-2am)、(I-2av)~(I-2be)、(I-2bl)~(I-2bw)、(I-3a)、(I-3e)、(I-3i)、(I-3j)、(I-3m)、(I-3p)~(I-3r)、(I-3u)、(I-3y)~(I-3ac)、(I-3ag)~(I-3ax)の基本構造の化合物であり、液晶組成物の相溶性の改善、ネマチック相-等方性液体相転移温度の改善や低温保存の向上により動作温度範囲を拡大し、弾性定数及びこれらの比K33/K11やK33/K22を調整することができ、粘度や粘弾性の低減により応答性を向上させ、STN-LCD、TFT-LCD、PDLC、PN-LCD等のより改善された電気光学特性を得ることができる。」
「【0115】上述してきた液晶成分A及び液晶成分Bの効果は、後述する液晶成分Cの含有率が非常に小さい場合においても得ることができる。駆動電圧を特に低くさせる目的のために、液晶成分Cの含有率を10重量%以下にすることができる。この場合、液晶成分Cの粘性を可能な限り低くさせることが好ましく、駆動電圧の上昇がほとんどないか小さい範囲に止まり、応答速度の改善が効率的に得られる。例えば、液晶成分Cが少量の場合、この効果を液晶成分Bで達成させる方法として、一般式(II-1)~(II-5)におけるQ1がF、Cl、-OCF3、-CNである化合物、又は一般式(II-1)~(II-5)におけるY1、Y2がFである化合物、又は一般式(II-2)、(II-3)におけるP1が単結合、-COO-、-C≡C-である化合物、又は一般式(II-1)におけるp1が0である化合物の何れかの化合物を液晶成分Bに含有させることが好ましい。特に、一般式(II-1)~(II-5)におけるQ1がF又は-CN、及び又は一般式(II-1)~(II-5)におけるY1、Y2がFである化合物は好ましい。
【0116】本発明の液晶組成物は、必須成分である液晶成分Aに加えて、-10~2の誘電率異方性を有する化合物からなる液晶成分Cを多くとも85重量%含有させることが好ましい。本発明で述べる-10~2の誘電率異方性を有する液晶化合物の好ましいものとしては、以下に示すものである。即ち、液晶化合物の化学構造は棒状であり、中央部分が1個から4個の六員環を有したコア構造を有し、中央部分長軸方向の両端に位置する六員環が、液晶分子長軸方向に相当する位置で置換された末端基を有し、両端に存在する末端基の両方が非極性基であること、即ち例えばアルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、アルケニル基、アルケニルオキシ基、アルカノイルオキシ基である化合物である。液晶成分Cは、1種以上40種以下の範囲で構成することが好ましく、2種以上20種以下の範囲で構成することがより好ましい。
【0117】この様な視点から、一般式(III-1)~(III-4)で表される化合物におけるより好ましい基本構造の形態は、下記に示す一般式(III-1a)~(III-4ac)で表される化合物である。本発明の液晶成分Cとして、一般式(III-1)~(III-4)で表される化合物から選ばれる化合物を10~100重量%含有することが好ましい。これらの化合物を含有した液晶成分Cは、一般式(I-1)~(I-3)の化合物を含有した液晶成分Aと良く混合する特徴を有し、低温でのネマチック相を改善させるのに有用であり、また所望の複屈折率を調整することができ、TN-LCD、STN-LCD、TFT-LCD、PDLC、PN-LCD等の急峻性や応答性あるいはその温度特性を改良することに優れている。
【0118】この様な視点から、一般式(III-1)~(III-4)で表される化合物におけるより好ましい基本構造の形態は、下記に示す一般式(III-1a)~(III-4ac)で表される化合物である。
【0119】
・・・(中略)・・・
[図:0001421110000007.jpg]
・・・(中略)・・・」
「【0126】一般式(III-1)~(III-4)における側鎖基R4、R5のより好ましい形態は、下記に示す一般式(III-5a)~(III-5bf)で表される化合物である。
【0127】
【化43】
[図:0001421110000008.jpg]
」
「【0147】一般式(III-1)~(III-4)で表される化合物における特に好ましい形態は、以下の化合物を含有する液晶成分Cである。
【0148】液晶成分Cとして、一般式(III-1)~(III-4)の化合物を含有することで、粘度や粘弾性を低減させることができ、比抵抗や電圧保持率が比較的高いという特徴を有する。液晶成分Cの粘度は、可能な限り低い粘度であることが好ましく、本発明の場合、45cp以下が好ましく、30cp以下がより好ましく、20cp以下が更に好ましく、15cp以下が特に好ましい。この様な観点から、好ましい化合物は、(III-ci):基本構造が一般式(III-1a)~(III-1f)、(III-1k)、(III-1s)、(III-2a)~(III-2f)、(III-2i)、(III-2p)、(III-3a)、(III-3h)~(III-3j)、(III-3o)、(III-3p)、(III-3q)、(III-3ac)、(III-3at)~(III-3ax)、(III-3ba)、(III-3bb)、(III-3bf)、(III-3bg)、(III-3bx)~(III-3cb)、(III-3ct)~(III-3cx)で表される化合物、より好ましくは、(III-cii):上記(III-ci)の中で、R4が炭素原子数2~5の直鎖状アルキル基又はCpH2p+1-CH=CH-(CH2)q(p=0、1、2、3 q=0、2)のアルケニル基で、R5が炭素原子数1~5の直鎖状アルキル基又はCpH2p+1-CH=CH-(CH2)q(p=0、1、2、3 q=0、2)のアルケニル基である化合物、更に好ましくは、(III-ciii):両側鎖基が共にアルケニル基であり、基本構造が一般式(III-1a)、(III-1d)、(III-2a)、(III-2f)、(III-2p)、(III-3a)、(III-3h)、(III-3p)、(III-3q)で表される化合物である。」
「【0164】本発明の液晶組成物は、上記一般式(I-1)~(III-4)で表される化合物以外にも、液晶組成物の特性を改善するために、液晶化合物として認識される通常のネマチック液晶、スメクチック液晶、コレステリック液晶などを含有していてもよい。例えば、4個の六員環を有したコア構造の化合物であって、該化合物の液晶相-等方性液体相転移温度が100℃以上を有する化合物を1種又は2種以上含有させることかできる。しかしながら、これらの化合物を多量に用いることはネマチック液晶組成物の特性が低減することになるので、添加量は得られるネマチック液晶組成物の要求特性に応じて制限されるものである。この様な好ましい化合物としては、一般式(II-1)、(II-2)、(II-5)におけるp1が2である化合物、一般式(II-4)におけるp2+p3が2である化合物、一般式(III-1)~(III-3)におけるm1が2である化合物、一般式(III-4)におけるm2+m3が2である化合物があげられる。尚、この場合の繰り返しとなる環B1、B3、環C1、C3、連結基P1、P2、M1は、同じ基でも良く、各々独立的に異なっていても良い。
【0165】結晶相又はスメクチック相-ネマチック相転移温度は、0℃以下がよく、好ましくは-10℃以下、更に好ましくは-20℃以下、特に好ましくは-30℃以下である。ネマチック相-等方性液体相転移温度は、50℃以上、好ましくは60℃以上、より好ましくは70℃以上、更に好ましくは80℃~180℃の範囲である。より小さい或いは中位の複屈折率は、0.02~0.18の範囲が好ましく、より大きい複屈折率は、0.18~0.40の範囲が好ましい。この様なネマチック液晶組成物の特性は、アクティブ・マトリクス形、ツイスティッド・ネマチックあるいはスーパー・ツイスティッド・ネマチック液晶表示装置に用いるのに有用である。」
「【0212】
【実施例】以下、実施例を挙げて本発明を更に詳述するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、以下の実施例の組成物における「%」は『重量%』を意味し、-(CH2)2-と-C2H4-あるいは-(CH2)4-と-C4H8-は同じものとする。
【0213】実施例中、液晶組成物の物性特性及びTN-LCDを構成した液晶表示装置の表示特性は以下の通りである。
TN-I:ネマチック相-等方性液体相転移温度(℃)
続きを表示(全12行)
T→N:固体相又はスメクチック相-ネマチック相転移温度(℃)
△ε:20℃における誘電率異方性
△n:20℃における複屈折率
η :20℃における粘度(c.p.)
Vth:TN-LCDを構成した時の20℃におけるしきい値電圧(V)
V1 :電圧無印加時の光透過率を100%とし、この透過率が1%となる印加電圧(V)
γ :20℃における急峻性、飽和電圧(Vsat)とVthの比
τr=τd:20℃における、0Vから所定の電圧を印加した場合の立ち上がり時間をτrとし、所定の電圧を印加した後電圧無印加にした場合の立ち下がり時間をτdとしたとき、両者が等しくなる時間」
「【0235】(実施例4)
【0236】
【化76】
[図:0001421110000009.jpg]
続きを表示(全28行)
からなるネマチック液晶組成物(3-04)を調製し、この組成物の諸特性を測定した。結果は以下の通りであった。
【0237】
TN-I :125.0℃
T→N : -25. ℃
△ε : +1.0
△n : 0.37(外挿)
【0238】このネマチック液晶組成物は、比較的高いTN-Iに対し非常に大きな複屈折率を有し、正の誘電率異方性を示し、加熱促進テスト後の比抵抗や電圧保持率も良好であり、高視野角で高精細な表示が可能なOCBあるいはECBモードのTFT-LCD用の母体液晶として使用可能な特徴を有している。
【0239】(実施例5)
【0240】
【化77】
[図:0001421110000010.jpg]
からなるネマチック液晶組成物(3-05)を調製し、この組成物の諸特性を測定した。結果は以下の通りであった。
【0241】
TN-I :104.7℃
△ε : 4.5
△n : 0.102
ツイスト角90度のTN-LCD表示特性(セル厚6μm)
Vth : 2.43 V
γ : 1.23
τr=τd : 28.9msec
IPSモードの表示特性(セル厚3μm)
Vth : 4.6 V
γ : 1.77
τr=τd : 20.0msec」
「【0246】(実施例6)
【0247】
【化79】
[図:0001421110000011.jpg]
続きを表示(全18行)
からなるネマチック液晶組成物(3-06)を調製し、この組成物の諸特性を測定した。結果は以下の通りであった。
【0248】
TN-I :101.6℃
T→N : -45. ℃
△ε : 6.5
△n : 0.174
η : 16.5 c.p.
ツイスト角90度のTN-LCD表示特性(セル厚6μm)
Vth : 2.07 V
γ : 1.18
ツイスト角240度のSTN-LCD表示特性
Vth : 2.45 V
γ : 1.015
τr=τd : 170. msec(1/240duty駆動)」

(2)引用文献4技術事項1~3の認定

前記(1)から、引用文献4には、次の技術事項(以下「引用文献4技術事項1」~「引用文献4技術事項3」という。)が記載されていると認められる。

<引用文献4技術事項1>

「相溶性の改善、低温保存の向上等により液晶表示特性の動作温度範囲を拡大し、駆動電圧の低減及びその温度変化を改善し、所定の駆動電圧に対し比較的速い応答性を達成するあるいは改善することを目的として、(【0015】)
液晶組成物が、液晶化合物あるいは液晶組成物に混合すると、ネマチック相-等方性液体相転移温度が比較的良好で、相溶性にも優れ、液晶表示特性に対し応答性や駆動電圧等の改善効果を有するかあまり悪化させることがない特徴を有する、液晶成分Aを必須成分として含有し、+2以上の誘電率異方性を有する化合物からなる液晶成分Bを0~99.9重量%含有し、-10~+2の誘電率異方性を有する化合物からなる液晶成分Cを0~85重量%含有し、該液晶成分Bと該液晶成分Cの総和が0~99.9重量%含有し、(【0020】)
液晶組成物の相溶性の改善、ネマチック相-等方性液体相転移温度の改善や低温保存の向上により動作温度範囲を拡大し、弾性定数及びこれらの比K33/K11やK33/K22を調整することができ、粘度や粘弾性の低減により応答性を向上させ、STN-LCD、TFT-LCD、PDLC、PN-LCD等のより改善された電気光学特性を得ることができ、(【0043】)
液晶組成物の特性を改善するために、液晶相-等方性液体相転移温度が100℃以上を有する化合物を1種又は2種以上含有させることかできること(【0164】)。」

<引用文献4技術事項2>

「一般式(III-1b)で表される化合物を含有した液晶成分Cは、低温でのネマチック相を改善させるのに有用であり、ポリマー中に液晶滴を分散させた液晶表示素子(PDLC)、液晶材料が連続層を形成し、この連続層中に、高分子物質が三次元網目状に分布した構造を有する液晶表示素子(PN-LCD)等の急峻性や応答性あるいはその温度特性を改良することに優れており、(【0117】・【0008】)
[図:0001421110000012.jpg]
一般式(III-1b)における側鎖基R4、R5のより好ましい形態は、一般式「(III-5a)CH3-」、「(III-5c)C3H7-」、「(III-5d)C4H9-」、「(III-5i)C2H5O-」及び「(III-5l)C5H11O-」で表される化合物であり、(【0126】・【0127】)
液晶成分Cとして、一般式(III-1b)の化合物を含有することで、粘度を低減させることができること。(【0148】)」

<引用文献4技術事項3>

「ネマチック相-等方性液体相転移温度TN-Iが100~125℃である液晶組成物が一般的に用いられていること。(【0213】・【0237】・【0241】・【0248】)」

4 引用文献5に記載された事項及び引用文献5技術事項の認定

(1)引用文献5に記載された事項

原査定の拒絶の理由で引用された、特開昭59-221376号公報(以下「引用文献5」という。)には、以下の記載がある。

「<技術分野>
本発明は、広い温度範囲でスタティック駆動のみならず、マルチプレックス駆動も可能なツイステッド・ネマティック(TN)型液晶表示装置に用いる誘電率異方性Δεが正の液晶組成物に関するものである。」(第1頁右下欄第14~19行)
「<従来技術>
液晶の光学効果を用いた表示装置は電卓、時計その他の情報端末機器などに広く使用されているが、その使用温度範囲は室温付近の狭い温度範囲に限られていた。ところが近年、周囲温度変化の激しい自動車内の各種メータ表示、信号表示、屋外用計測器等への用途拡大にともなって、広い液晶温度範囲を有しかつマルチプレックス駆動が可能な液晶材料(広温度用液晶材料)が強く要望されるようになった。しかしながら従来の液晶では、これらの要求を充分に満足することはできないのが実状である。ところでこの様な広温度用液晶材料については、一般的に次に示す特性が要求される。
(1)液晶温度範囲が広いこと。
これは、従来の液晶材料一般に対しても要求されることであるが、温度変化の激しいところに用いられる液晶材料については特に広い温度範囲が要求される。また、液晶の各物性定数は相転移温度付近で急激に変化する。従って、広い液晶温度範囲を有する液晶はそうでない液晶に比べて、実用温度範囲における緒特性の変化が小さいと考えられる。
続きを表示(全16行)
(2)閾値電圧の温度変化が小さいこと。
一般に、TN型液晶表示装置では、閾値電圧近傍では透過率の変化が急激であるため、温度による閾値電圧の変化がコントラスト等の特性に多大な影響を与える。従って、閾値電圧の温度依存性は小さい方が望ましい。特にマルチプレックス駆動の場合、この特性はコントラストの向上に極めて効果的である。ここで液晶セルの法線方向に対する閾値電圧V90%の温度変化を表わすパラメータとしてγを次式のように定義する。
[図:0001421110000013.jpg]
ここで
[図:0001421110000014.jpg]
は各々温度T=-10℃、60℃、25℃における閾値電圧である。またV90%は第1図に示す如く光透過率が90%になるときの電圧値である。上記γは-10℃から60℃の温度範囲でのV90%の1℃当りの変化率を示す。
(3)応答が速いこと、特に低温領域において応答特性に迅速性を有すること。
液晶表示装置の応答特性は一般的に使用する液晶材料の粘性ηに比例するため、応答特性の向上には液晶材料の粘度の低減化を行う必要がある。また粘性の温度依存性は次式で表わされる。
η=η0exp(ΔE/kT)
ここでTは絶対温度、kはボルツマン定数、ΔEは活性化エネルギー、η0は液晶材料より定まる定数である。上式より明らかなように、粘性は温度が低くなるに従って指数関数的に大きくなり、しかもその程度は活性化エネルギーΔEに依存している。従って低温領域で速い応答特性を得るためにはη0及びΔEが小さいものでなければならない。
<発明の目的>
本発明は以上の考察に基いて鋭意研究の結果なされたものであり、液晶温度範囲が広く閾値電圧の温度変化が小さく応答特性の良好な液晶組成物を提供することを目的とする。」(第1頁左下欄第20行~同頁右下欄第2行)
「本発明の組成分は以下の化合物群(I)~(V)の各群より少なくとも1種以上選択された化合物から成る。
[図:0001421110000015.jpg]
[図:0001421110000016.jpg]
(ただし、上記の化合物のアルキル基R1~R19はすべて直鎖状であり、R=CnH2n+1(n=1~7)で表わされる。)
上記の化合物群(I)、(II)は閾値電圧の温度依存性を改善する材料、化合物群(III)は高融点材料、化合物群(IV)は誘電率異方性Δε(ε∥-ε⊥、ε∥:液晶分子に平行な方向の誘電率、ε⊥:液晶分子に垂直な方向の誘電率)≫0の閾値電圧調整用材料(Np材料)、化合物(V)は粘度低減用材料である。以下この分類に従って、上記の成分を選定した経過及び技術的根拠について説明する。」(第2頁右下欄第4行~第3頁左上欄第12行)
「ところで、これらのエステル化合物は、上述したような長所を有する反面、TN型液晶表示装置における応答特性を遅くする。そこでこの点を改善するために各種低粘度材料を検討した。その結果、一般式として
[図:0001421110000017.jpg]
で表わされる化合物の粘度が極めて低いため、混合材料の粘度の低減化に適することが明らかになった。」(第3頁右下欄第14行~第4頁左上欄第3行)

「従って、成分(11)の低粘度材料を用いることにより、応答特性が速く、しかもスメクティックーネマティック相転移温度(TSN)を大幅に下げるために、極めて低い温度においてもネマティック液晶相を示す混合材料が確立される。」(第4頁左下欄第17行~同頁右上欄第4行)

「次に高融点材料について説明する。上記成分(11)は、混合材料の粘度を大幅に低減させる反面、第2表に示したようにTNIが-70℃程度と低いため、この添加により混合物のTNIを大幅に低下させる。そこで、この化合物の使用に際しては高融点材料の併用が必要になってくる。一般的に、高融点材料は長分子であるため、粘度が高い傾向にある。そこで本発明者は、高TNI材料の中で比較的低粘度である材料を選定するために、各種液晶材料のTNIとη20を調べた。第3表に検討した材料の一例を、第2図にはその結果を示す。」(第4頁右上欄第11行~同頁左下欄第1行)

「図から明らかなように各種高融点材料(TNI>100℃)の中で、4-(トランス-4-ペンチルシクロヘキシル)-4’-エチルビフェニル、4-(4-プロピルシクロヘキシル)-4’-メチルフェニルシクロヘキサン、4-(トランス-4―n-ペンチルシクロヘキシル)-4’-トランス-4-n-プロピルシクロヘキシルビフェニールの各材料は、TNIが高く粘度は低いため、広温度用高融点材料として適している。また、粘度の温度依存性を検討したところ、分子内にエステル基等の極性基を含有する化合物、分子末端にシアノ基等の極性基を含有する化合物に比べ、極めて粘度の温度依存性が小さいことが判明した。これらの傾向は表3以外のアルキル基もしくはアルコキシ基を有する材料においてもほぼ同様であった。ゆえに高融点材料として一般式
[図:0001421110000018.jpg]
で表わされる各材料を選定した。」(第4頁右下欄第1行~第5頁左上欄第1行)

「以上のような技術的根拠に基いて上記各成分を混合することにより優れた液晶組成物を作製することができる。」(第5頁右下欄第17~19行)

「第2図
[図:0001421110000019.jpg]
」

(2)引用文献5技術事項の認定

前記(1)から、引用文献5には、次の技術事項(以下「引用文献5技術事項」という。)が記載されていると認められる。

<引用文献5技術事項>

「液晶温度範囲が広く閾値電圧の温度変化が小さく応答特性の良好な液晶組成物を提供することを目的とし、(第2頁左下欄第20行~同頁右下欄第2行)
広温度用液晶材料については、応答が速いこと、特に低温領域において応答特性に迅速性を有することが要求され、(第2頁左上欄第11~13行、同頁左下欄第2~3行)
組成分は、化合物群(I)~(V)の各群より少なくとも1種以上選択された化合物から成り、
[図:0001421110000020.jpg]
[図:0001421110000021.jpg]
(ただし、上記の化合物のアルキル基R1~R19はすべて直鎖状であり、R=CnH2n+1(n=1~7)で表わされる。)(第2頁右下欄第4行~第3頁左上欄第4行)
化合物群(I)、(II)は閾値電圧の温度依存性を改善する材料、化合物群(III)は高融点材料、化合物群(IV)は誘電率異方性Δε(ε∥-ε⊥、ε∥:液晶分子に平行な方向の誘電率、ε⊥:液晶分子に垂直な方向の誘電率)≫0の閾値電圧調整用材料(Np材料)、化合物(V)は粘度低減用材料であり、(第3頁左上欄第5~10行)
成分(11)の低粘度材料を用いることにより、応答特性が速く、しかもスメクティックーネマティック相転移温度(TSN)を大幅に下げるために、極めて低い温度においてもネマティック液晶相を示す混合材料が確立され、(第4頁左上欄第20行~同頁右上欄第4行)
成分(11)は、混合材料の粘度を大幅に低減させる反面、この添加により混合物のTNIを大幅に低下させるため、この化合物の使用に際しては高融点材料の併用が必要になり、高TNI材料の中で比較的低粘度である材料を選定し、(第4頁右上欄第11~19行)
以上のような技術的根拠に基いて上記各成分を混合することにより優れた液晶組成物を作製することができること。(第5頁右下欄第17~19行)」

第5 本願発明と引用発明の対比、一致点及び相違点並びに判断

1 本願発明と引用発明の対比

(1)本願発明の「液晶分子および粘度低下剤を含む液晶組成物と、前記液晶組成物を保持する透明高分子層とを有する調光層と、」「を備え、」との特定事項について

ア 引用発明の「液晶組成物」は、本願発明の「液晶組成物」に相当する。また、引用発明の「液晶組成物」が「液晶分子」を含むことは明らかであるから、本願発明の「液晶組成物」と引用発明の「液晶組成物」は、「液晶分子」「を含む」点で共通するが、当該液晶組成物について、本願発明が「粘度低下剤を含む」のに対して、引用発明は「液晶組成物は、透明樹脂および透明液体物質と不溶であるものであればよく、ネマティック液晶、コレステリック液晶、スメクチック液晶など特に限定されるものではな[い]」ものであるが、粘度低下剤を含むかどうか不明である。

イ 引用発明の「3次元スポンジ状の透明樹脂(3.3)」は、樹脂であることから「高分子」であるといえる。また、引用発明は、「調光層(3.2)は、3次元スポンジ状の透明樹脂(3.3)中に液晶組成物(3.4)および透明液体物質(3.6)が分散した構造を有しており、流動性のある液晶組成物(3.4)及び透明液体物質(3.6)は透明樹脂(3.3)中で安定に保持されている」ものであり、「調光層(3.2)」の構造中、固体のものは「3次元スポンジ状の透明樹脂(3.3)」のみである。そのため、「3次元スポンジ状の透明樹脂(3.3)」が、「調光層(3.2)」の「層」を構成するものであるといえることを踏まえると、引用発明の「3次元スポンジ状の透明樹脂(3.3)」は、本願発明の「透明高分子層」に相当する。

また、引用発明において「流動性のある液晶組成物(3.4)」「は透明樹脂(3.3)中で安定に保持されて」いるものであるため、前記「3次元スポンジ状の透明樹脂(3.3)」は、本願発明でいう「前記液晶組成物を保持する」との特定事項を備える。

ウ 引用発明の「調光層(3.2)」は、本願発明の「調光層」に相当する。

また、引用発明の「調光層(3.2)」は、「3次元スポンジ状の透明樹脂(3.3)中に液晶組成物(3.4)および透明液体物質(3.6)が分散した構造を有して」いることから、本願発明でいう「液晶組成物と、」「透明高分子層とを有する」との特定事項を備える。

エ 前記ア~ウから、本願発明と引用発明は、「液晶分子」「を含む液晶組成物と、前記液晶組成物を保持する透明高分子層とを有する調光層と、」「を備え」る点で共通するが、液晶組成物について、本願発明が「粘度低下剤を含む」のに対して、引用発明は「液晶組成物は、透明樹脂および透明液体物質と不溶であるものであればよく、ネマティック液晶、コレステリック液晶、スメクチック液晶など特に限定されるものではな[い]」ものであるが、粘度低下剤を含むかどうか不明である。

(2)本願発明の「前記調光層を挟む一対の透明電極層と、を備え、」との特定事項について

ア 引用発明の「双方に透明電極を設け[た]」「2枚の電極層」、すなわち、「一対の電極層」は、本願発明の「一対の透明電極層」に相当し、引用発明の「一対の電極層」は、前記「一対の電極層の間に」「調光層を挟持させてなる」ものであるため、本願発明の「前記調光層を挟む」との特定事項を備える。

イ 前記アから、引用発明は、本願発明の前記特定事項を備えている。

(3)本願発明の「前記調光層における前記透明高分子層の質量割合は20%以上80%以下であり、」との特定事項について

引用発明は「調光層中の透明樹脂の占める割合は20~40重量%であ」るから、本願発明の前記特定事項を備える。

(4)本願発明の「23℃における前記液晶組成物の粘度を基準粘度とするとき、-20℃以上110℃以下の範囲における粘度の最大値が、前記基準粘度の100倍以下であって、かつ、696mPa・s以上7275mPa・s以下であり、」との特定事項について

引用発明の液晶組成物の粘度及び23℃における前記液晶組成物の粘度である基準粘度と-20℃以上110℃以下の範囲における粘度の最大値の関係は不明である。

(5)本願発明の「大気圧下における前記液晶組成物のNI点は、100℃以上145℃以下の範囲に含まれる」との特定事項について

引用発明の液晶組成物の大気圧下におけるNI点は不明である。

(6)本願発明の「調光シート。」との特定事項について

引用発明の「液晶調光素子」は、「一対の電極層の間に、透明樹脂中に液晶組成物および透明液体物質を分散させた調光層を挟持させてなる」ものであって、「層」を構成する「電極層」と、同じく「層」を構成する「調光層」からなるものであり、薄板状のものといえるから、引用発明の「液晶調光素子」は、本願発明でいう「シート」であると認められる。

したがって、引用発明の「液晶調光素子」は、本願発明の「調光シート」に相当し、引用発明は、本願発明の前記特定事項を備える。

2 一致点及び相違点の認定

前記1によれば、本願発明と引用発明の一致点及び相違点は以下のとおりとなる。

<一致点>

「液晶分子を含む液晶組成物と、前記液晶組成物を保持する透明高分子層とを有する調光層と、
前記調光層を挟む一対の透明電極層と、を備え、
前記調光層における前記透明高分子層の質量割合は20%以上80%以下である、
調光シート。」である点。

<相違点1>

液晶組成物について、本願発明が「粘度低下剤を含む」のに対して、引用発明は「液晶組成物は、透明樹脂および透明液体物質と不溶であるものであればよく、ネマティック液晶、コレステリック液晶、スメクチック液晶など特に限定されるものではな[い]」ものであるが、粘度低下剤を含むかどうか不明である点。

<相違点2>

本願発明が「23℃における前記液晶組成物の粘度を基準粘度とするとき、-20℃以上110℃以下の範囲における粘度の最大値が、前記基準粘度の100倍以下であって、かつ、696mPa・s以上7275mPa・s以下であ」るのに対して、引用発明の液晶組成物の粘度及び23℃における前記液晶組成物の粘度である基準粘度と-20℃以上110℃以下の範囲における粘度の最大値の関係は不明である点。

<相違点3>

本願発明が「大気圧下における前記液晶組成物のNI点は、100℃以上145℃以下の範囲に含まれる」のに対して、引用発明の液晶組成物の大気圧下におけるNI点は不明である点。

3 判断

相違点1~3について併せて検討する。

(1)引用発明から出発した当業者が相違点1~3に係る本願発明の構成に至るためには、(i)液晶組成物が「粘度低下剤」を含み、(ii)「23℃における前記液晶組成物の粘度を基準粘度とするとき、-20℃以上110℃以下の範囲における粘度の最大値が、前記基準粘度の100倍以下であって、かつ、696mPa・s以上7275mPa・s以下であ」るようにし、(iii)「大気圧下における前記液晶組成物のNI点は、100℃以上145℃以下の範囲に含まれる」ようにすれば足りる。

(2)そこで、上記当業者が(i)~(iii)の構成に至るかについて検討する。

ア まず、液晶組成物の粘度及びNI点について検討すると、引用文献2技術事項2は、液晶のNI点と粘度ηとの間には相関があり、NI点を高くすると、粘度ηが増大し、粘度ηを小さくするとNI点が低下するという一般的な傾向が存在しており、広い動作温度範囲と低温における高速度応答性を実現するために、複数の化合物の混合系からなる液晶組成物を用いることで低温において低粘度であることと高NI点を有するようにすることを両立させるものである。このように、複数の化合物の混合系からなる液晶組成物を用いることで、低温において低粘度であることと高NI点を有するようにすることを両立させることは、引用文献4技術事項1及び引用文献5技術事項にも開示されており、これらを踏まえると、このことは技術常識であるといえる。

そして、液晶調光素子である引用発明においても、調光素子という用途に鑑みれば、外気に触れるため広い動作温度範囲とすることが好ましいことは明らかであるから、引用発明に接した当業者は、引用発明においても低温において低粘度であり、かつ高NI点を有するように、複数の化合物の混合系からなる液晶組成物を設計する動機があるといえる。このことは、引用発明は高分子分散型液晶調光素子であるところ、引用文献4技術事項2は、PDLCやPN-LCD等の液晶として一般式(III-1b)の化合物を含有する液晶成分Cを含むようにして温度特性を改良し、粘度を低減させるようにしていることからも首肯できる。

したがって、引用発明において、複数の化合物の混合系からなる液晶組成物を適宜設計して、低温において低粘度であり、かつ高NI点を有するようにすることは当業者が容易に想到し得ることであり、その際の具体的な粘度やNI点は、使用する液晶素子の構成、想定される使用環境温度に応じて、当業者が適宜設定すべきものである。

イ(ア)次に、前記1(i)の「粘度低下剤」について検討すると、明細書の【0039】には、「液晶組成物は、液晶分子以外の成分を含んでいてもよい。液晶分子以外の成分は、例えば、粘度低下剤、二色性色素、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤や光安定剤等の耐候剤である。」と記載され、同【0044】には、「液晶組成物の基準粘度Vbおよび最大粘度Vmは、液晶組成物が含む液晶分子の種類や、液晶組成物への粘度低下剤の添加の有無および添加量によって調整可能である。粘度低下剤は、液晶組成物の粘度を低下させる機能を有する。特に、粘度低下剤として、液晶組成物の凝固を抑えることで低温柔軟性を向上させる可塑剤を用いることにより、基準粘度Vbに対する最大粘度Vmの比を低下させることができる。こうした粘度低下剤としては、例えば、下記構造式(1)で示されるアルケニル化合物を用いることができる。液晶組成物の異方性や調光シートの光学特性を良好に得るためには、液晶組成物における粘度低下剤の含有割合は、液晶組成物の総質量に対して10%以下であることが好ましい。

【化1】

[図:0001421110000022.jpg]

」と記載され、同【0053】には、実施例として、上記構造式(1)で示したアルケニル化合物(以下「化合物1」という。)を粘度低下剤として用いることが記載されているが、明細書に粘度低下剤の具体例として開示されているのは、化合物1が唯一の化合物である。

ここで、前記【0039】の記載によれば、「粘度低下剤」は、「液晶分子以外の成分」とされているが、前記【0044】の記載からは、本願発明の「粘度低下剤」は少なくとも、明細書に開示されている唯一の化合物である化合物1を含むものと解するほかなく、前記「化合物1」は液晶材料、すなわち、本願発明でいう「液晶分子」である(必要であれば、『高津晴義,“液晶の化学-新しい液晶の合成-”,高分子,公益社団法人高分子学会,2006年8月1日,第55巻,第8号,p.587-590』の「3.ジアルケニル系液晶」に記載の「炭化水素系の5」を参照。)。

そうすると、本願発明の「粘度低下剤」は、明細書に唯一の具体例として開示される化合物1が液晶分子であることからみて、前記【0039】の「液晶分子以外の成分」である旨の記載にかかわらず、液晶分子であることを妨げるものではないと解するほかなく、それを含むことにより液晶組成物の粘度を低下させる機能を有するものであれば足りると解するのが相当である。

なお、明細書の【0046】の「粘度低下剤の添加によって低温での液晶組成物の粘度を低下させることは可能ではあるが、液晶組成物における液晶分子以外の含有物の割合が多くなると、液晶組成物の異方性や調光シートの光学特性の低下が懸念される。」との記載や、「粘度低下剤」として開示される化合物1の誘電率異方性が小さいこと(必要であれば、国際公開第2020/080120号公報の[0096]に「成分B」が「液晶性化合物」であること、同[0098]に「成分Bは、小さな誘電率異方性を有する」こと、[0099]に成分Bの好ましい例である化合物(3―1)として本願発明の化合物1が含まれる一般式が記載されていることを参照。)を踏まえると、本願発明の「液晶分子」は、所定の誘電率異方性を有している液晶分子を意味し、「粘度低下剤」はそのような所定の誘電率異方性を有している液晶分子以外の成分を意味すると解する余地もある。しかしながら、仮にそのように解するとしても、どの程度の誘電率異方性であれば「液晶分子以外の成分」であるといえるのかは、明細書の全記載及び出願時の技術常識を考慮しても不明である。

(イ)前記(ア)を踏まえて検討するに、前記アのように引用発明において複数の化合物の混合系からなる液晶組成物を適宜設計して、低温において低粘度であり、かつ高NI点を実現することは当業者が容易に想到し得ることであるところ、その際の具体的な液晶組成物について、引用文献2技術事項1で使用されている7種類の液晶分子のうち、2~4つ目の液晶分子(それぞれ、「C4H9-」、「CH3-」、「C3H7-」から始まる分子。)(以下「化合物2」~「化合物4」という。)は、次のとおり、前記(ア)及び引用文献4技術事項2を踏まえれば、本願発明でいう「粘度低下剤」として機能するものである。

すなわち、化合物2~4は、引用文献4技術事項2において、液晶成分Cとして、一般式(III-1b)の化合物を含有することで、粘度を低減させることができるとされ、一般式(III-1b)で表される化合物において、側鎖基R4及びR5を、それぞれ、「(III-5d)C4H9-」及び「(III-5i)C2H5O-」(化合物2)、「(III-5a)CH3-」及び「(III-5i)C5H11O-」(化合物3)、「(III-5c)C3H7-」及び「(III-5i)C2H5O-」(化合物4)としたものに相当する。

[図:0001421110000023.jpg]

また、引用文献4技術事項1及び2より、引用文献4技術事項1の液晶組成物は粘度低下剤である液晶成分Cを含むものといえ、引用文献5技術事項も粘度低減用材料である成分(11)を含んでいる。そうすると、液晶組成物の低温における粘度を低減するために液晶組成物が粘度低下剤を含むようにすることもまた技術常識であるといえ、引用発明において、液晶組成物が前記(1)(i)の「粘度低下剤」を含むようにして、相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が適宜なし得ることである。

なお、本願発明の「粘度低下剤」が、前記(ア)で仮定したように、所定の誘電率異方性を有している液晶分子以外の成分、すなわち、誘電率異方性が小さい成分であると解したとしても、引用文献2技術事項1の化合物2~4、引用文献5技術事項の成分(11)は誘電率異方性が小さいものであるから(必要であれば、国際公開第2020/080120号公報の前述した段落の記載及び[0099]に記載の化合物(2-7)及び化合物(2-5)を参照。)、前記相違点1に係る判断を左右するものではない。

ウ 次に、具体的な粘度について検討すると、引用文献2技術事項1は、「23℃における粘度ηIIは約40CPであり、-20℃における粘度ηIIは約2000CPであ」るものであるから、「液晶の粘度は、温度の低下とともに急激に上昇する」ことを踏まえれば、引用文献2技術事項の粘度ηIIは、「-20℃以上110℃以下の範囲における粘度の最大値」が-20℃における約2000CPであり、当該-20℃における粘度ηIIは、23℃における粘度ηIIである約40CPの約50倍となっていることから、前記(ii)の「23℃における前記液晶組成物の粘度を基準粘度とするとき、-20℃以上110℃以下の範囲における粘度の最大値が、前記基準粘度の100倍以下」であることを満たす。

また、引用文献2技術事項1で使用されている単位「CP」が、本願発明の単位「mPa・s」と等しいことを踏まえれば、引用文献2技術事項の「-20℃以上110℃以下の範囲における粘度の最大値」、すなわち、-20℃における粘度約2000CPは、前記(1)(ii)の「-20℃以上110℃以下の範囲における粘度の最大値が、」「696mPa・s以上7275mPa・s以下であ」ることを満たす。

このように、本願発明で特定される粘度は、引用文献2技術事項1で用いられており、値自体が格別のものとは認められないし、当該値が高分子分散型液晶に特有の値であるとも解されない。したがって、前記アのように、引用発明において複数の化合物の混合系からなる液晶組成物を適宜設計して、低温において低粘度であり、かつ高NI点を有するようにするに際し、低温における低粘度の具体的な値として、前記(1)(ii)における「23℃における前記液晶組成物の粘度を基準粘度とするとき、-20℃以上110℃以下の範囲における粘度の最大値が、前記基準粘度の100倍以下であって、かつ、696mPa・s以上7275mPa・s以下であ」るとして、相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が適宜なし得る設計事項にすぎない。

エ また、具体的なNI点について検討すると、引用文献4技術事項3のようにTN-Iが100~125℃である液晶組成物は一般的に用いられている。

ここで、前記TN-Iの値が、本願発明でいう「大気圧下における」液晶組成物のNI点であることは明らかである。

このように、本願発明で特定される液晶組成物のNI点は、引用文献4技術事項3で用いられており、値自体が格別のものとは認められない。また、当該値が高分子分散型液晶に特有の値であるとも解されない。したがって、前記アのように、引用発明において複数の化合物の混合系からなる液晶組成物を適宜設計して、低温において低粘度であり、かつ高NI点を有するようにするに際し、大気圧下における前記液晶組成物のNI点の具体的な値として、前記(1)(iii)における「100℃以上145℃以下の範囲に含まれる」ようにして、相違点3に係る本願発明の構成とすることは、当業者が適宜なし得る設計事項にすぎない。

オ 前記ア~エから、引用発明から出発した当業者は、引用文献2、4、5技術事項を採用することにより、相違点1~3に係る本願発明の構成に容易に至る。

カ なお、前記ア~オの議論に関わらず、前記(1)(ii)、(iii)で特定される粘度及びNI点を実現するための液晶材料の具体的な組成に格別の技術上の意義があれば進歩性が認められる余地があるが、本願発明では具体的な組成が特定されていないばかりか、明細書にも具体的な組成は一切開示がない。したがって、本願発明は、前記(1)(ii)、(iii)で特定される粘度及びNI点を実現するための液晶材料の具体的な組成を発明したものではなく、引用発明において、粘度低下剤を用いて、前記アで示した技術常識に見られるように従来好ましいことが知られている低温時に低粘度であり、高NIであることを特定したにすぎないものであるから、前記技術上の意義を認めることはできず、前記ア~オで説示したとおり、引用発明及び引用文献2、4、5技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 本願発明の効果について

本願発明の効果は、-20℃以上110℃以下の範囲にて調光シートの透明状態と不透明状態との切り換えが良好に可能であること(【0042】)、粘度低下剤により、液晶組成物の粘度を低下させることができること(【0044】)、NI点が100℃以上であれば、高温環境においても液晶分子の配向状態の変化が良好に生じ、透明状態と不透明状態との切り換えが良好に可能であること(【0045】)、NI点が145℃以下であれば、粘度低下剤の添加量を過大にせずとも、最大粘度Vmを基準粘度Vbの100倍以下とすることが可能であるように、低温での液晶組成物の粘度を小さく抑えることができること(【0046】)であると認められる。

しかしながら、当該効果は、液晶のNI点と粘度ηとの間には相関があり、NI点を高くすると、粘度ηが増大し、粘度ηを小さくするとNI点が低下するという一般的な傾向が存在しており、広い動作温度範囲と高速度応答性を実現するために、複数の液晶材料を混合して低温において低粘度であることと高NI点を有するようにすることを両立させる引用文献2技術事項2、引用文献4技術事項1及び引用文献5技術事項から、当業者が予測可能であるといえる。

したがって、本願発明の効果は、本願発明の構成が奏するものとして、引用発明、引用文献2、4、5技術事項に基づいて、当業者が予測し得ない格別顕著なものであるとはいえない。

5 請求人の主張について

(1)請求人は、(i)TN型液晶表示素子と調光素子とは、一方の素子において駆動に好適な粘度を他方の素子に容易に適用できるものではないこと、(ii)液晶組成物のNI点と粘度とには相関があり、NI点を高くすれば粘度も大きくなり、引用文献2技術事項の粘度を保ったままNI点のみを高くすることは不可能であることから、本願発明は引用発明と引用文献2~4技術事項から当業者が容易に発明をすることができたものではない旨を主張している。

(2)そこで、上記主張について検討する。

(i)について、引用発明のような透明樹脂中に液晶組成物および透明液体物質を分散させた調光層を挟持させてなる高分子分散型液晶調光素子においても、引用文献2技術事項2、引用文献4技術事項1及び引用文献5技術事項と同様に、低温において粘度が小さい方が駆動の応答性が良く、低温において低粘度の液晶が好ましいことは明らかである(このことは、請求人も認めているとおりである(審判請求書5頁下から4~2行目参照。)。)。そして、引用発明から出発した当業者は、一般的に好ましいとされる液晶組成物の特性、すなわち、広い動作温度と高速度応答性を踏まえて具体的な液晶組成物を設計する動機があり、液晶層の組成や用途が異なることで適切な粘度が異なるとしても、具体的な液晶層や用途に対して、前記一般的に好ましいとされる液晶組成物の特性を考慮して実験的に適切な粘度を求め、適切な粘度を実現する具体的な液晶組成物を設計することは、当業者にとって格別の困難性を有することとは認められない。

(ii)について、前記3(2)アで説示したとおり、液晶のNI点と粘度ηとの間には相関があり、NI点を高くすると、粘度ηが増大し、粘度ηを小さくするとNI点が低下するという一般的な傾向を踏まえて、広い動作温度範囲と高速度応答性を実現するために、複数の液晶材料を混合して低温において低粘度であることと高NI点を有するようにすることを両立させることは技術常識であり、当該技術常識を踏まえて、前記液晶組成物を設計することが格別の困難性を有することとは認められない。

また、その粘度とNI点の具体的な値について検討しても、前記3(2)ウ及びエで説示したように、本願発明で特定される値はごく一般的な値にすぎないものであり、加えて、その粘度の範囲も広範であることに鑑みれば、引用文献2技術事項1におけるTN型液晶表示素子に適した値とは異なる、透明高分子層を備える調光素子に特に適した値を見い出したものとも認められない。

したがって、請求人の主張は採用できない。

なお、仮に請求人の主張するように、引用発明において引用文献2、4、5技術事項を踏まえても低温における粘度とNI点の設計を行うことが不可能であるとすると、本願の発明の詳細な説明には具体的な材料の組成が一切開示されていないことから、本願発明は実際可能要件を満たさない蓋然性が高いことを付言する。

6 小括

以上によれば、本願発明は、引用発明、引用文献2、4、5技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび

以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

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2024-000162

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