特許拒絶査定不服審判
2023-019589
光変調素子
- 審判番号
- 2023-019589
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2021-542546
- 請求日
- 2023年11月20日
- 審決日
- 2025年03月06日
- 公報発行日
- 2025年08月29日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】エルジー・ケム・リミテッド
- 【請求人代理人】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 藤田 年彦
- 審判官 野村 伸雄
- 審判官 吉野 三寛
- 分類
- P18 .121-Z (G02F) / P18 .575-Z (G02F)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項、特許法第159条第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2021-542546「光変調素子」拒絶査定不服審判事件〔令和2年9月10日国際公開、WO2020/180086、令和4年4月20日国内公表、特表2022-522614〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2020年(令和2年)3月3日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2019年3月7日、韓国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯の概要は以下のとおりである。
令和4年 5月23日付け:拒絶理由通知書
同年 8月31日 :意見書及び手続補正書の提出
同年12月23日付け:拒絶理由通知書
令和5年 4月 3日 :意見書及び手続補正書の提出
同年 7月12日付け:拒絶査定
同年11月20日 :審判請求書及び手続補正書の提出
令和6年 1月30日付け:前置報告書
同年 4月26日 :上申書の提出
同年12月 9日 :面接審理
第2 令和5年11月20日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和5年11月20日にされた手続補正書による補正を却下する。
[理由]
1 本件補正の内容
(1) 本件補正後の特許請求の範囲の記載
令和5年11月20日にされた手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、以下のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。)。
「ネマチック液晶及び二色性染料を含み、電圧が印加されない状態で透過モードを、電圧が印加された状態で散乱モードを具現する第1光変調層及び
ネマチック液晶及び二色性染料を含み、電圧が印加されない状態で透過モードを、電圧が印加された状態で散乱モードを具現する第2光変調層を含み、
前記第1光変調層と前記第2光変調層は、互いに重畳して配置され、
前記第1光変調層及び前記第2光変調層がそれぞれヘイズ可変層であり、
前記ヘイズ可変層は、外部エネルギーの印加に応じてヘイズの異なる第1の状態と第2の状態との間で切り替えられ、前記第1の状態と前記第2の状態とのヘイズの差が10%以上であり、
光変調素子の下記数式1で計算される明暗比(CR)が10以上であり、下記数式2で計算されるヘイズの差(△H)が82%以上であり、
前記第1光変調層と前記第2光変調層にそれぞれ含まれる前記二色性染料の濃度は、0.01wt%~5wt%の範囲内であり、
前記第1光変調層と前記第2光変調層の厚さは、それぞれ4μm~25μm範囲内であり、
前記第1光変調層の両側に対向配置された第1基板と第2基板、及び、前記第2光変調層の両側に対向配置された第3基板と第4基板をさらに含み、前記第1基板、前記第2基板、前記第3基板及び前記第4基板は、それぞれ基材層、電極層及び垂直配向膜を順次に含み、
前記第2基板と前記第3基板は、粘着剤又は接着剤を媒介に付着されており、
[数式2]
△H=H(60V)-H(0V)
数式2で、
H(0V)は、前記第1光変調層と前記第2光変調層にそれぞれ電圧が印加されない状態での前記光変調素子のヘイズ(%)であり、
H(60V)は、前記第1光変調層と前記第2光変調層にそれぞれ60Vの電圧が印加された状態での前記光変調素子のヘイズ(%)であり、
[数式1]
CR=T(0V)/T(60V)
数式1で、
T(0V)は、前記第1光変調層と前記第2光変調層にそれぞれ電圧が印加されない状態での前記光変調素子の全体透過率(%)であり、
T(60V)は、前記第1光変調層と前記第2光変調層にそれぞれ60Vの電圧が印加された状態での前記光変調素子の全体透過率(%)である、
光変調素子。」
(2) 本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の、令和5年4月3日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は以下のとおりである。
「ネマチック液晶及び二色性染料を含み、電圧が印加されない状態で透過モードを、電圧が印加された状態で散乱モードを具現する第1光変調層及び
ネマチック液晶及び二色性染料を含み、電圧が印加されない状態で透過モードを、電圧が印加された状態で散乱モードを具現する第2光変調層を含み、
前記第1光変調層と前記第2光変調層は、互いに重畳して配置され、
前記第1光変調層及び前記第2光変調層がそれぞれヘイズ可変層であり、
前記ヘイズ可変層は、外部エネルギーの印加に応じてヘイズの異なる第1の状態と第2の状態との間で切り替えられ、前記第1の状態と前記第2の状態とのヘイズの差が10%以上であり、
光変調素子の下記数式1で計算される明暗比(CR)が10以上であり、下記数式2で計算されるヘイズの差(△H)が82%以上であり、
[数式2]
△H=H(60V)-H(0V)
数式2で、
H(0V)は、前記第1光変調層と前記第2光変調層にそれぞれ電圧が印加されない状態での前記光変調素子のヘイズ(%)であり、
H(60V)は、前記第1光変調層と前記第2光変調層にそれぞれ60Vの電圧が印加された状態での前記光変調素子のヘイズ(%)であり、
[数式1]
CR=T(0V)/T(60V)
数式1で、
T(0V)は、前記第1光変調層と前記第2光変調層にそれぞれ電圧が印加されない状態での前記光変調素子の全体透過率(%)であり、
T(60V)は、前記第1光変調層と前記第2光変調層にそれぞれ60Vの電圧が印加された状態での前記光変調素子の全体透過率(%)である、
光変調素子。」
2 本件補正の適否
(1) 本件補正で請求項1についてする補正は、以下のとおりである。
ア 本件補正前の請求項1に記載された「二色性染料」について、「前記第1光変調層と前記第2光変調層にそれぞれ含まれる前記二色性染料の濃度は、0.01wt%~5wt%の範囲内であり」という限定を付加するものである。
イ 本件補正前の請求項1に記載された第1光変調層及び第2光変調層について、「前記第1光変調層と前記第2光変調層の厚さは、それぞれ4μm~25μm範囲内であり」という限定を付加するものである。
ウ 本件補正前の請求項1に記載された光変調素子の構成について、「前記第1光変調層の両側に対向配置された第1基板と第2基板、及び、前記第2光変調層の両側に対向配置された第3基板と第4基板をさらに含み、前記第1基板、前記第2基板、前記第3基板及び前記第4基板は、それぞれ基材層、電極層及び垂直配向膜を順次に含み」及び「前記第2基板と前記第3基板は、粘着剤又は接着剤を媒介に付着されており」という限定を付加するものである。
そして、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正で請求項1についてする補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下に検討する。
(2) 本件補正発明の認定
本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)は、前記1(1)に記載された事項により特定されるとおりのものと認められる。
(3) 引用文献に記載された事項及び引用発明等の認定
ア 引用文献1の記載及び引用発明の認定
(ア) 引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に発行された文献である特表2018-522260号公報(以下「引用文献1」という。)には、次の記載がある(下線は当審が付した。以下同じ。)。
「【請求項1】
外部エネルギーの印加によって透明モードと散乱モードとの間をスイッチングし、液晶化合物及び非イオン性化合物を含む液晶層を有する液晶セル。
【請求項2】
前記液晶化合物は、誘電率異方性が負数である請求項1に記載の液晶セル。」
「【請求項10】
前記液晶層は、異方性染料をさらに含む請求項1から9のいずれか一項に記載の液晶セル。
【請求項11】
前記液晶層は、ヘイズが10%未満である透明モード及びヘイズが10%以上である散乱モードとの間をスイッチングすることができるように形成された請求項1から10のいずれか一項に記載の液晶セル。
【請求項12】
前記液晶層は、外部エネルギーが印加されない状態で透明モードであり、外部エネルギーが印加される場合、散乱モードにスイッチングできるように形成された請求項1から11のいずれか一項に記載の液晶セル。
【請求項14】
前記液晶層の両側に対向配置された二つの基板をさらに含む請求項1から13のいずれか一項に記載の液晶セル。
【請求項15】
前記液晶層の両側に対向配置された二つの垂直配向膜をさらに含む請求項1から14のいずれか一項に記載の液晶セル。
【請求項16】
前記液晶層の両側に配置された二つの電極層をさらに含む請求項1から15のいずれか一項に記載の液晶セル。
【請求項17】
請求項1から16のいずれか一項に記載の液晶セルを含むスマートウィンドウ。」
「【0007】
本発明は、液晶セルに関する。例示的な液晶セルは、透明モードと散乱モードとの間をスイッチングすることができる。一つの例示で、前記液晶セルは、外部エネルギーの印加によって透明モードと散乱モードとの間をスイッチングすることができる。本明細書において、外部エネルギーの印加は、例えば、電圧の印加を意味し得る。」
「【0014】
一つの例示で、前記液晶化合物としては、ネマチック相液晶化合物を使用することができる。前記ネマチック相液晶化合物としては、常用ネマチック液晶を使用することができる。具体的に、前記ネマチック相液晶化合物は、下記化学式1で表示される化合物であり得る。」
「【0105】
前記液晶層は、異方性染料をさらに含むことができる。異方性染料は、例えば、散乱モードでの透過度を減少させることで、液晶セルの透過度可変特性を向上させることができる。本明細書で用語「染料」は、可視光領域、例えば、400nm~700nmの波長範囲内で少なくとも一部または全体範囲内の光を集中的に吸収及び/または変形させることができる物質を意味することができ、用語「異方性染料」は、前記可視光領域の少なくとも一部または全体範囲で光の異方性吸収が可能な物質を意味し得る。
【0106】
異方性染料としては、例えば、液晶の整列状態によって整列される特性を有すると知られている公知の染料を選択して使用することができる。異方性染料としては、例えば、黒色染料(black dye)を使用することができる。このような染料としては、例えば、アゾ染料またはアントラキノン染料などとして公知されているが、これに制限されるものではない。
【0107】
本発明では、EHDI特性を具現するための添加剤として非イオン性化合物を使用することで、従来のイオン性化合物のみを使用する場合に比して、異方性染料の添加時に変色が少なくて透過率可変特性を一層極大化させることができる。
【0108】
前記異方性染料の含量は、本発明の目的を考慮して適切に選択することができる。一つの例示で、異方性染料は、液晶化合物100重量部対比、0~3重量部の割合で含まれることができる。具体的に、異方性染料は、液晶化合物100重量部対比、0重量部超過、0.1重量部以上、0.2重量部以上、0.4重量部以上、0.6重量部以上、0.8重量部以上または1.0重量部以上の割合で、3重量部未満、2.5重量部以下、2.0重量部以下、1.5重量部以下または1.2重量部以下の割合で含まれることができる。」
「【0138】
液晶セルは、液晶層の両側に対向配置された二つの垂直配向膜をさらに含むことができる。この場合、液晶セルは、対向配置された二つの垂直配向膜及び前記対向配置された二つの垂直配向膜の間に存在する前記液晶層を含むことができる。液晶層が前記対向配置された二つの基板、前記対向配置された二つの電極層及び対向配置された二つの垂直配向膜を全て含む場合、図4に示したように、液晶セルは、垂直配向膜401A、401B、電極層301A、301B及び基板201A、201Bの順に液晶層101にさらに隣接するように配置され得る。」
「【0156】
【表1】
[図:0001425180000001.jpg]
」
「【0149】
<実施例1>
DSM(Dynamic Scattering Mode)液晶組成物の製造
10mLバイアル(vial)に、HCCH社製の液晶(HNG726200-100、誘電率異方性:-4.0、屈折率異方性:0.225)3.60g、及び液晶添加剤としてPropylene carbonate(20℃での誘電率:66.14、(David R.Lide)Handbook of Organic Solvents(CRC Press/1994.12.01))0.40g(約10重量%)を添加した後、100℃で24時間の間撹拌して液晶組成物を製造した。
【0150】
DSM(Dynamic Scattering Mode)液晶セルの製造
セル内側にITO透明電極層及び垂直配向膜が順次に形成されて、セル間隔が9μmであるガラステストセルに毛細管現象を利用して前記製造された液晶組成物を注入して、面積2.2cmx4.0cm及び間隔9μmである液晶セルを製造した。」
「【0160】
<実施例4>
DSM(Dynamic Scattering Mode)液晶組成物の製造
10mLバイアル(vial)に液晶(HNG726200-100、HCCH社製、誘電率異方性:-4.0、屈折率異方性:0.225)3.6g、及び添加剤として反応性メソゲン(RM1)(HCM-008、HCCH社製)0.4g及び異方性染料(X12、BASF社製)0.04gを添加した後、100℃で24時間の間撹拌して液晶組成物を製造した。
【0161】
DSM(Dynamic Scattering Mode)液晶セルの製造
ITO(Indium Tin Oxide)透明電極層と垂直配向膜が順次形成されている2枚のPC(polycarbonate)フィルムを、前記垂直配向膜が互いに対向し、間隔が約9μm程度になるように離隔配置させた後に、前記離隔配置された2枚のPCフィルムの間に製造された液晶組成物を注入し、エッジ(edge)をシーリングして面積2.2cmx4.0cm及び間隔9μmである液晶セルを製作した。前記で垂直配向膜としては、垂直配向組成物(Nissan5661)をITO透明電極層上にコーティングし、100℃以上の温度で5分以上塑性を進行させたものを使用した。
【0162】
<実施例5~実施例8>
液晶添加剤の種類及び含量を下記表2のように調節したこと以外は、実施例1と同一に液晶セルを製造した。」
「【0163】
【表2】
[図:0001425180000002.jpg]
」
「【0177】
【表4】
[図:0001425180000003.jpg]
」
「【0181】
【表6】
[図:0001425180000004.jpg]
」
「【図4】
[図:0001425180000005.jpg]
」
「【図8】
[図:0001425180000006.jpg]
」
(イ) 引用文献1の記載より把握できる事項
a 前記(ア)の【図8】より、実施例5の液晶セルにおいて、電圧0Vのときのヘイズは、略0%であることが把握できる。
b 前記(ア)の【0162】の記載によれば、実施例5は、「液晶添加剤の種類及び含量を下記表2のように調節したこと以外は、実施例1と同一に液晶セルを製造した」ものであるから、実施例5に係る液晶セルの厚さは、9μmと認められる。なお、当該「実施例1」との記載が、「実施例4」の誤記であるとしても、実施例4においても、その液晶セルの厚さは、9μmである。
(ウ) 引用発明の認定
前記(ア)及び(イ)によれば、図4に示された実施例5の液晶セルを含むスマートウィンドウについて、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる(引用発明の認定に用いた段落番号等を参考までに括弧内に付してある。以下同じ。)。
<引用発明>
「液晶セルを含むスマートウィンドウであって、(【請求項17】)
前記液晶セルは、外部エネルギーの印加によって透明モードと散乱モードとの間をスイッチングし、液晶化合物及び非イオン性化合物を含む液晶層を有し、(【請求項1】)
前記液晶化合物は、誘電率異方性が負数であり、(【請求項2】)
前記液晶層は、異方性染料をさらに含み、(【請求項10】)
前記液晶層は、ヘイズが10%未満である透明モード及びヘイズが10%以上である散乱モードとの間をスイッチングすることができるように形成され、(【請求項11】)
前記液晶層は、外部エネルギーが印加されない状態で透明モードであり、外部エネルギーが印加される場合、散乱モードにスイッチングできるように形成され、(【請求項12】)
前記液晶層の両側に対向配置された二つの基板をさらに含み、(【請求項14】)
前記液晶層の両側に対向配置された二つの垂直配向膜をさらに含み、(【請求項15】)
前記液晶層の両側に配置された二つの電極層をさらに含み、(【請求項16】)
外部エネルギーの印加は、電圧の印加を意味し、(【0007】)
前記液晶化合物としては、ネマチック相液晶化合物を使用し、(【0014】)
異方性染料は、散乱モードでの透過度を減少させることで、液晶セルの透過度可変特性を向上させ、可視光領域の少なくとも一部または全体範囲で光の異方性吸収が可能な物質を意味し、(【0105】)
液晶セルは、垂直配向膜401A、401B、電極層301A、301B及び基板201A、201Bの順に液晶層101にさらに隣接するように配置され、(【0138】)
異方性染料は、1wt%添加され、(【0162】の【表2】)
Haze(60V)は、95.7%であり、(【0177】の【表4】)
Haze(0V)は、略0%であり、(前記(イ)a)
液晶セルの厚さは、9μmである、(前記(イ)b)
スマートウィンドウ。」
イ 周知技術の認定
以下の事項は、本願の優先日前における周知技術と認められる。
(ア) 「光変調素子を積層して、コントラスト比を高めること。」
すなわち、原査定の拒絶の理由において周知技術を示す文献として引用された特開平5-333323号公報には、印加電圧に応じて光の透過率が上昇する液晶素子であって(【0001】及び【0004】)、いわゆる高分子分散型液晶が記載されているところ(【0003】)、コントラストを高くするには、液晶素子Lを複数枚積層して使用すればよいことが記載されている(【0045】)。また、同実願平3-14883号(実開平4-112228号)のマイクロフィルムには、電圧を印加した際に光透過状態となり、電圧を印加しない際に光散乱状態となり(【0002】)、光散乱状態と光透過状態との間で可逆的双安定性を有する(【0005】)、いわゆる高分子分散型液晶素子が記載されているところ(【0007】)、コントラストを上げるために積層して用いてもよいことが記載されている(【0009】)。
ここで、光変調素子におけるコントラスト比とは、最も明るい状態(透過モード)と最も暗い状態(散乱モード)の輝度(明るさ)の比率、すなわち、透過モードの光透過率を散乱モードの光透過率で除算したものであり、光変調素子の構造や可逆的双安定等の機能に依存しない値であると理解できるから、前記周知技術を示す文献に記載された光変調素子の構造や機能等に関わらず、前記周知技術を把握することができる。
(イ) 「光変調素子の積層に際し、粘着剤又は接着剤で接着すること。」
すなわち、韓国公開特許第10-2018-0121425号公報の[0125]、[0158]及び図4、特開2019-20511号公報の【0028】、図1及び2には、光変調素子の積層に際し、粘着剤又は接着剤で接着することが記載されており、このような構成は周知技術ということができる。
(4) 本件補正発明と引用発明の対比
ア 本件補正発明と引用発明を対比すると、以下のとおりである。
(ア) 本件補正発明の「ネマチック液晶及び二色性染料を含み、電圧が印加されない状態で透過モードを、電圧が印加された状態で散乱モードを具現する第1光変調層」「を含み、」との特定事項について
a 引用発明の「液晶化合物」は、「ネマチック相液晶化合物を使用」するものであるから、本件補正発明の「ネマチック液晶」に相当する。
b 引用発明の「異方性染料」は、本件補正発明の「二色性染料」に相当する。すなわち、引用発明の「異方性染料」は、「可視光領域の少なくとも一部または全体範囲で光の異方性吸収が可能な物質を意味」し、当該「異方性吸収」とは、ある方向に吸収があり、それと垂直な方向には吸収がないことと理解できるところ、「二色性染料」とは、ある方向からは着色して見え、それと垂直な方向からは無色に見える染料であることは技術常識であり、着色して見えるとは所定波長の光を吸収していることと理解できる。したがって、引用発明でいう「異方性」の意味するところは、実質的に「二色性」を意味するといえる。
c 引用発明の「液晶層」は、「外部エネルギーが印加されない状態で透明モードであり、外部エネルギーが印加される場合、散乱モードにスイッチングできるように形成され」ているところ、光を変調するものと理解できるから、本件補正発明の「第1光変調層」に相当するといえる。そして、当該「外部エネルギー」について、「外部エネルギーの印加は、電圧の印加を意味し」ている。そうすると、引用発明の「液晶層」は、本件補正発明でいう「電圧が印加されない状態で透過モードを、電圧が印加された状態で散乱モードを具現する」との前記特定事項を満たしている。
d したがって、引用発明は、本件補正発明の前記特定事項を満たしている。
(イ) 本件補正発明の「ネマチック液晶及び二色性染料を含み、電圧が印加されない状態で透過モードを、電圧が印加された状態で散乱モードを具現する第2光変調層を含み、」との特定事項について
引用発明は、本件補正発明の「第2光変調層」に相当する構成を有していない。
(ウ) 本件補正発明の「前記第1光変調層と前記第2光変調層は、互いに重畳して配置され、」との特定事項について
引用発明は、本件補正発明の「第2光変調層」に相当する構成を有していないから、本件補正発明の前記特定事項を備えるものではない。
(エ) 本件補正発明の「前記第1光変調層及び前記第2光変調層がそれぞれヘイズ可変層であり、」及び「前記ヘイズ可変層は、外部エネルギーの印加に応じてヘイズの異なる第1の状態と第2の状態との間で切り替えられ、前記第1の状態と前記第2の状態とのヘイズの差が10%以上であり、」との特定事項について
a 引用発明の「液晶層」は、「ヘイズが10%未満である透明モード及びヘイズが10%以上である散乱モードとの間をスイッチングすることができるように形成され」ている。したがって、本件補正発明の前記特定事項と引用発明とは、「前記第1光変調層」「が」「ヘイズ可変層であり、」との点で共通する。
b 引用発明の「液晶層」は、「外部エネルギーが印加されない状態で透明モードであり、外部エネルギーが印加される場合、散乱モードにスイッチングできるように形成され」ている。そうすると、引用発明の「透明モード」及び「散乱モード」は、それぞれ本件補正発明の「第1の状態」及び「第2の状態」に相当し、引用発明の「液晶層」は、本件補正発明でいう「外部エネルギーの印加に応じてヘイズの異なる第1の状態と第2の状態との間で切り替えられ」るものと理解できる。そして、引用発明の「液晶層」は、「Haze(60V)は、95.7%であり」、「Haze(0V)は、略0%であ」るから、本件補正発明の「前記第1の状態と前記第2の状態とのヘイズの差が10%以上であり、」との前記特定事項を満たしている。
c 以上により、本件補正発明の前記特定事項と引用発明とは、「前記第1光変調層」「が」「ヘイズ可変層であり、」、「前記ヘイズ可変層は、外部エネルギーの印加に応じてヘイズの異なる第1の状態と第2の状態との間で切り替えられ、前記第1の状態と前記第2の状態とのヘイズの差が10%以上であり、」との点で共通する。
(オ) 本件補正発明の「光変調素子の下記数式1で計算される明暗比(CR)が10以上であり、下記数式2で計算されるヘイズの差(△H)が82%以上であり、」、「[数式2]
△H=H(60V)-H(0V)
数式2で、
H(0V)は、前記第1光変調層と前記第2光変調層にそれぞれ電圧が印加されない状態での前記光変調素子のヘイズ(%)であり、
H(60V)は、前記第1光変調層と前記第2光変調層にそれぞれ60Vの電圧が印加された状態での前記光変調素子のヘイズ(%)であり、
[数式1]
CR=T(0V)/T(60V)
数式1で、
T(0V)は、前記第1光変調層と前記第2光変調層にそれぞれ電圧が印加されない状態での前記光変調素子の全体透過率(%)であり、
T(60V)は、前記第1光変調層と前記第2光変調層にそれぞれ60Vの電圧が印加された状態での前記光変調素子の全体透過率(%)である」との特定事項について
引用発明は、「液晶セルを含むスマートウィンドウ」であるところ、当該「液晶セル」は、「外部エネルギーの印加によって透明モードと散乱モードとの間をスイッチング」するものであるから、当該「スマートウィンドウ」は、液晶セルと用いて光を変調するものと理解できる。したがって、引用発明の「スマートウィンドウ」は、本件補正発明の「光変調素子」に相当するといえる。
しかしながら、引用発明の「スマートウィンドウ」において、その明暗比及びヘイズの差は不明である。
(カ) 本件補正発明の「前記第1光変調層と前記第2光変調層にそれぞれ含まれる前記二色性染料の濃度は、0.01wt%~5wt%の範囲内であり、」との特定事項について
引用発明の「液晶層」は、「異方性染料をさらに含」むところ、その濃度は「1wt%」である。
したがって、本件補正発明の前記特定事項と引用発明とは、「前記第1光変調層」「に」「含まれる前記二色性染料の濃度は、」「1wt%」「であり、」との点で共通する。
(キ) 本件補正発明の「前記第1光変調層と前記第2光変調層の厚さは、それぞれ4μm~25μm範囲内であり、」との特定事項について
引用発明の「液晶層」の厚さは、「9μmであ」るから、本件補正発明の前記特定事項と引用発明とは、「前記第1光変調層」「の厚さは、」「9μm」「であり、」との点で共通する。
(ク) 本件補正発明の「前記第1光変調層の両側に対向配置された第1基板と第2基板、及び、前記第2光変調層の両側に対向配置された第3基板と第4基板をさらに含み、前記第1基板、前記第2基板、前記第3基板及び前記第4基板は、それぞれ基材層、電極層及び垂直配向膜を順次に含み、」との特定事項について
引用発明は、「前記液晶層の両側に対向配置された二つの基板をさらに含み、前記液晶層の両側に対向配置された二つの垂直配向膜をさらに含み、前記液晶層の両側に配置された二つの電極層をさらに含」むものであり、「液晶セルは、垂直配向膜401A、401B、電極層301A、301B及び基板201A、201Bの順に液晶層101にさらに隣接するように配置され」るものであるから、引用発明の「液晶層」の両側には、順に「垂直配向膜」、「電極層」及び「基板」が配置されていると理解できる。
そうすると、引用発明の「対向配置された二つの基板」の内の一方の基板、「電極層」及び「垂直配向膜」は、本件補正発明の「第1基板」に相当し、「対向配置された二つの基板」の内の他方の基板、「電極層」及び「垂直配向膜」は、本件補正発明の「第2基板」に相当するといえる。
したがって、本件補正発明の前記特定事項と引用発明とは、「前記第1光変調層の両側に対向配置された第1基板と第2基板」「をさらに含み、」前記第1基板、前記第2基板」「は、それぞれ基材層、電極層及び垂直配向膜を順次に含み、」との点で共通する。
(ケ) 本件補正発明の「前記第2基板と前記第3基板は、粘着剤又は接着剤を媒介に付着されており、」との特定事項について
引用発明は、本件補正発明の「第2光変調層」に相当する構成を有していないから、本件補正発明の前記特定事項を備えるものではない。
イ 前記アより、本件補正発明と引用発明の一致点及び相違点は、下記のとおりである。
<一致点>
「ネマチック液晶及び二色性染料を含み、電圧が印加されない状態で透過モードを、電圧が印加された状態で散乱モードを具現する第1光変調層を含み、
前記第1光変調層がヘイズ可変層であり、
前記ヘイズ可変層は、外部エネルギーの印加に応じてヘイズの異なる第1の状態と第2の状態との間で切り替えられ、前記第1の状態と前記第2の状態とのヘイズの差が10%以上であり、
前記第1光変調層に含まれる前記二色性染料の濃度は、1wt%であり、
前記第1光変調層の厚さは、9μmであり、
前記第1光変調層の両側に対向配置された第1基板と第2基板をさらに含み、前記第1基板、前記第2基板は、それぞれ基材層、電極層及び垂直配向膜を順次に含む、
光変調素子。」
<相違点>
・相違点1
(i) 本件補正発明は、「ネマチック液晶及び二色性染料を含み、電圧が印加されない状態で透過モードを、電圧が印加された状態で散乱モードを具現する第2光変調層」を含み、
(ii) 当該「第2光変調層」に含まれる「二色性染料」の濃度は、「0.01wt%~5wt%の範囲内であり」、
(iii) 当該「第2光変調層」の厚さは、「4μm~25μm範囲内であり」、
(iv) 当該「第2光変調層」は、「ヘイズ可変層であり」、「前記ヘイズ可変層は、外部エネルギーの印加に応じてヘイズの異なる第1の状態と第2の状態との間で切り替えられ、前記第1の状態と前記第2の状態とのヘイズの差が10%以上であり」、「前記第2光変調層の両側に対向配置された第3基板と第4基板をさらに含み、」「前記第3基板及び前記第4基板は、それぞれ基材層、電極層及び垂直配向膜を順次に含み」、
(v) 「前記第1光変調層と前記第2光変調層は、互いに重畳して配置され」、「前記第2基板と前記第3基板は、粘着剤又は接着剤を媒介に付着されて」いるのに対し、
引用発明は、そのような第2液晶層を有していない点。
・相違点2
「光変調素子」について、本件補正発明は、「光変調素子の下記数式1で計算される明暗比(CR)が10以上であり、下記数式2で計算されるヘイズの差(△H)が82%以上」、「[数式2]
△H=H(60V)-H(0V)
数式2で、
H(0V)は、前記第1光変調層と前記第2光変調層にそれぞれ電圧が印加されない状態での前記光変調素子のヘイズ(%)であり、
H(60V)は、前記第1光変調層と前記第2光変調層にそれぞれ60Vの電圧が印加された状態での前記光変調素子のヘイズ(%)であり、
[数式1]
CR=T(0V)/T(60V)
数式1で、
T(0V)は、前記第1光変調層と前記第2光変調層にそれぞれ電圧が印加されない状態での前記光変調素子の全体透過率(%)であり、
T(60V)は、前記第1光変調層と前記第2光変調層にそれぞれ60Vの電圧が印加された状態での前記光変調素子の全体透過率(%)である」のに対し、引用発明の明暗比(CR)及びヘイズの差(△H)は、不明である点。
(5) 相違点の検討
ア 相違点1について
(ア) 引用発明から出発して相違点1に係る本件補正発明の構成に至るというには、先ず、引用発明に含まれる液晶セルを2つとし、当該2つの液晶セルを積層する必要があるから、そのようにいえるかについて検討する。
a 引用発明の「液晶層」は、「異方性染料をさらに含[む]」ものであるところ、当該「異方性染料」は、「散乱モードでの透過度を減少させることで、液晶セルの透過度可変特性の向上させ」る、すなわちコントラストを向上させるものと理解できる。
b 他方、前記2(3)イ(ア)のとおり、コントラストを向上させるために光変調素子を積層することは周知技術であるところ、引用発明が異方性染料をさらに含み、コントラストを向上させていることに鑑みれば、引用発明のコントラストを向上させるために周知技術を適用し、引用発明を積層された2つの液晶セルを含むスマートウィンドウとする動機はあるといえる。
c ここで、2つ目の液晶セルに含まれる液晶層の構成は、元から含まれる液晶セルの液晶層と同様の構成とすることが自然であるから、相違点1の(i)~(iv)は、周知技術を適用して2つ目の液晶セルを用意することにより自然と満たされる構成といえる。
d また、2つの液晶セルを積層するに際し、両者が何らかの手段により固定されることは当然のことといえるから、前記2(3)イ(イ)のような周知技術を用いて接着することは、2つの液晶セルを積層するに際して当業者が適宜なし得た事項といえ、前記cのとおり、2つの液晶セルの構成を同様とすることに鑑みれば、結果として、相違点1の(v)は満たされることとなる。
(イ) 以上のとおりであるから、引用発明に周知技術を適用して、2つの液晶セルを積層したスマートウィンドウ(以下「2液晶セルスマートウィンドウ」という。)を構成し、相違点1に係る本件補正発明の構成を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たことである。
イ 相違点2について
一般に調光素子は、透過光の散乱(ヘイズ)や透過量(光透過率)を調整する(切りかえる)素子であるから、その機能として、光透過モードのヘイズ及び光透過率と光散乱モードのヘイズ及び光透過率は、当然所定の値に設定されるものであるところ、光散乱モードにおけるヘイズ及び光透過率をどの程度の値とするかは、調光素子に求められる特性に応じて当業者が適宜設計し得る事項といえる。したがって、前記2液晶セルスマートウィンドウにおいて、そのヘイズ及び光透過率を設定し、相違点2に係る本件補正発明の値が満たされるものとすることは、以下のとおり、当業者が容易になし得たことといえる。
(ア) 相違点2に係る[数式1]及び[数式2]について
[数式1]は、透過モード(0V)の光透過率を散乱モード(60V)の光透過率で除算した、いわゆる明暗比(コントラスト比)を定義し、[数式2]は、散乱モード(60V)のヘイズから透過モード(0V)のヘイズを減算し、ヘイズの差を定義している。
他方、引用文献1に記載された各実施例において、その特性の測定に印加電圧60Vが記載されていることに鑑みれば、引用発明に60Vの電圧を印加したときを「散乱モード」して構成することは、当業者が容易になし得たことといえる。
(イ) 「明暗比(CR)が10以上」との特定事項について
「明暗比(CR)が10以上」であることの技術的意義について、本件明細書の記載を参酌すると、「前記光変調素子は、下記数式1で計算される明暗比(CR)が10以上であってもよい。」(【0021】)と記載されるのみであるから、明暗比は高い方がよいことの意味として、その下限を10としたものと理解されるところ、前記アのとおり、コントラストを向上させるために周知技術を適用することに鑑みれば、コントラスト比、すなわち明暗比(CR)を、例えば、特開2017-31379号公報の【0081】に記載されているように、視覚的効果に鑑みて10以上とすることは、当業者が適宜なし得た設計的事項といえる。
(ウ) 「ヘイズの差(△H)が82%以上」との特定事項について
「ヘイズの差(△H)が82%以上」であることの技術的意義について、本件明細書の記載を参酌すると、「前記光変調素子は、下記数式2で計算されるヘイズ差(△H)が50%以上であってもよい。前記ヘイズ差は、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上又は82%以上であってもよい。」(【0025】)と記載されるのみであるから、ヘイズの差(△H)は大きい方がよいことの意味として、その下限を82%としたものと理解されるところ、引用発明の「液晶セル」は、「Haze(60V)は、95.7%であり」、「Haze(0V)は、略0%である」から、そのヘイズの差は少なくとも90%を超えるものであり、このような液晶セルが積層されることを踏まえると、2液晶セルスマートウィンドウのヘイズの差は、82%を超えるものと理解することが自然である。したがって、2液晶セルスマートウィンドウは、相違点2に係る前記(ウ)の特定事項を満たしているものといえる。
(エ) 相違点2のまとめ
以上のとおりであるから、相違点2に係る本件補正発明に特定される事項は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易になし得たことといえる。
ウ 総合検討
前記のとおり、相違点1及び2に係る本件補正発明の構成は当業者が容易になし得たものであり、当該相違点を備える本件補正発明の効果は、本件補正発明の構成が奏するものとして、引用発明及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。
(6) 請求人の主張について
審判請求書、上申書及び面接審理における請求人の主張は、下記のとおり、前記判断を左右するものではない。
ア 請求人は、二色性染料の濃度は、0.01wt%~5wt%の範囲内であり、第1光変調層と第2光変調層の厚さは、それぞれ4μm~25μm範囲内であり、光変調層の積層について、引用文献1には記載も示唆もされていない旨を主張している(審判請求書)。
しかしながら、前記(3)ア(ア)の【0163】の【表2】及び【0161】には、それぞれ、二色性染料の濃度が1wt%、液晶層の厚さが9μmの液晶セルが記載されている。また、液晶セルの積層については、前記(5)アに説示のとおりである。したがって、請求人の前記主張は、前記判断を左右するものでない。
イ 請求人は、引用文献1に記載された発明は、透明モードにおける透過率が大きいことを望ましいとしており(【0062】)、液晶を積層すると透過モードにおける透過率は低下するから、引用文献1に記載された発明に液晶を積層するような構成を適用することには阻害要因がある旨を主張している(上申書、面接審理)。
しかしながら、引用文献1の【0062】には、「液晶層内で液晶添加剤の適切な溶解度が確保されない場合、液晶セルの欠陥になり得、例えば、液晶セルが透明モードを具現する場合、透過率を減少させるかまたはヘイズを増加させる問題点がある。本発明によれば、EHDI特性を具現する液晶添加剤として塩の代りに非イオン性化合物を使用することで、前記のような問題点を解消することができる。」と記載されており、液晶層内で液晶添加剤の適切な溶解度が確保されない場合には透過率が減少するという問題点が記載されているのであって、透過率が大きいことを望ましいとする記載ではないから、請求人の前記主張は採用し得ないものである。
ウ 請求人は、引用文献1に記載された発明に、引用文献2又は引用文献3に記載された事項を適用することには、阻害要因又は前提の構造が異なることにより組み合わせ得ない事由が有る旨を主張している。
すなわち、引用文献1には、高分子分散液晶(PDLC)を利用した通常透明モード素子は、駆動電圧が高くて露光特性による残留ヘイズ水準の変動及びヘイズ特性低下などの問題があると記載されている(【0004】)のに対し、引用文献2に記載された光変調素子は、高分子分散型液晶である旨を述べ、また、引用文献1に記載された液晶セルは、外部エネルギーの印加によって透明モードと散乱モードとの間をスイッチングするものである(【0007】)のに対し、引用文献3には、可逆的双安定な光変調素子が記載されている旨を述べている(上申書、面接審理)。
しかしながら、前記2(3)イ(ア)に説示のとおり、引用文献2及び3の記載より把握される、光変調素子を積層してコントラストを高めるという周知技術は、光変調素子の構造や機能に関わらず把握できるものであるから、請求人の前記主張は採用し得ないものである。
(7) 小括
したがって、本件補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものである。
3 本件補正についてのむすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、前記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明の認定
本件補正は、前記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1~12に係る発明は、令和5年4月3日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~12に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記第2の[理由]1(2)において本件補正前の請求項1として記載された事項により特定されるとおりのものである。
2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、以下の理由を含むものである。
本願発明は、その出願の優先日前に頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である下記引用文献1に記載された引用発明及び周知技術に基づいて、その出願の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1:特表2018-522260号公報
引用文献2:特開平5-333323号公報(周知技術を示す文献)
引用文献3:実願平3-14883号(実開平4-112228号)のマイクロフィルム(周知技術を示す文献)
3 引用文献に記載された事項及び引用発明の認定
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1に記載された事項及び引用発明の認定は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。
4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「二色性染料の濃度」について、「前記第1光変調層と前記第2光変調層にそれぞれ含まれる前記二色性染料の濃度は、0.01wt%~5wt%の範囲内であり、」という限定事項を削除し、「光変調層」について、「前記第1光変調層と前記第2光変調層の厚さは、それぞれ4μm~25μm範囲内であり、」という限定事項を削除し、「光変調素子」の構成について、「前記第1光変調層の両側に対向配置された第1基板と第2基板、及び、前記第2光変調層の両側に対向配置された第3基板と第4基板をさらに含み、前記第1基板、前記第2基板、前記第3基板及び前記第4基板は、それぞれ基材層、電極層及び垂直配向膜を順次に含み、」及び「前記第2基板と前記第3基板は、粘着剤又は接着剤を媒介に付着されており、」という限定事項を削除したものである。
そして、削除された前記限定事項は、前記第2の2(4)イの相違点1(ii)~(v)に係る事項であるから、本願発明と引用発明の相違点は、前記第2の2(4)イの相違点1(i)、(iv)の前半、(v)の前半及び相違点2のみであり、当該相違点に係る本願発明の構成が、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に想到し得たものであることは、前記第2の2(5)ア及びイのとおりである。
したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-019589