特許拒絶査定不服審判
2023-007984
自己発熱エレクトロクロミック・デバイス及びその製造
- 審判番号
- 2023-007984
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2021-109854外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2023年05月16日
- 審決日
- 2025年04月22日
- 公報発行日
- 2025年10月31日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 分類
- P18 .121-WZ (G02F)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2021-109854「自己発熱エレクトロクロミック・デバイス及びその製造」拒絶査定不服審判事件〔令和 4年 1月18日出願公開、特開2022- 13899〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2021年(令和3年)7月1日(優先権主張 令和2年7月1日、米国)の出願であって、その手続の経緯は次のとおりである。
令和 4年 8月 2日付け:拒絶理由通知書
令和 4年10月17日 :意見書、手続補正書の提出
令和 4年12月28日付け:拒絶査定
令和 5年 5月16日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和 5年12月11日 :上申書の提出
令和 6年 8月 8日付け:拒絶理由通知書(以下「当審拒絶理由通知
書」という。)
令和 6年10月10日 :意見書、誤訳訂正書(以下、この誤訳訂正
書による補正を「本件補正」という。)の
提出
令和 7年 1月 7日 :当合議体の問合せに対する回答
第2 本願発明の認定
本願の請求項1~8に係る発明(その請求項1に係る発明を、以下「本願発明」という。)は、本件補正後の請求項1~8に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1の記載は、次のとおりである。
<請求項1>
「エレクトロクロミック・デバイスであって、
互いに付着された下部基板及び下部電極層と、
互いに付着された上部基板及び上部電極層と、
前記下部電極層の内面の第1の部分に配置されたエレクトロクロミック層と、
前記上部電極層の内面の第1の部分に配置された電荷蓄積層と、
前記エレクトロクロミック層と前記電荷蓄積層の間に配置され、前記エレクトロクロミック層と前記電荷蓄積層に挟まれた電解質層であって、前記下部電極層、前記エレクトロクロミック層、前記電解質層、前記電荷蓄積層及び前記上部電極層が、前記下部基板と前記上部基板に挟まれ、前記下部電極層及び前記上部電極層が、前記エレクトロクロミック・デバイスの光透過率の変化を生じさせる遷移電圧を受け取るように構成され、前記電解質層が、固体ポリマー電解質を含み、前記固体ポリマー電解質が、少なくとも10,000ダルトンの平均分子量の複数の架橋された極性結晶性ポリマーを含む、電解質層と、
前記下部基板から遠い方の前記下部電極層の第2の部分の内面に設置された2つの第1の高導電性バーであって、前記下部電極層の内面の第1の部分は、前記下部電極層の内面の第2の部分と異なり、前記2つの第1の高導電性バーに印加される第1の熱電圧に応じて前記下部電極層に電流を発生させて前記エレクトロクロミック・デバイスの温度を変化させるように構成される、2つの第1の高導電性バーと、
前記上部基板から遠い方の前記上部電極層の表面に設置された2つの第2の高導電性バーであって、前記2つの第2の高導電性バーに印加される第2の熱電圧に応じて前記上部電極層に電流を発生させて前記エレクトロクロミック・デバイスの温度を変化させるように構成される、2つの第2の高導電性バーと、
を備え、
前記下部電極層と平行な1つの平面上の前記2つの第1の高導電性バー及び前記2つの第2の高導電性バーの各上面視が互いに分離され、
前記2つの第1の高導電性バーが、前記下部電極層の隣り合う2つの縁部に沿ってそれぞれ設置され、L字形のパターンを形成し、前記2つの第2の高導電性バーが、前記上部電極層の隣り合う2つの縁部に沿ってそれぞれ設置され、L字形のパターンを形成した、エレクトロクロミック・デバイス。」
第3 当審拒絶理由通知書における拒絶の理由
本願発明に対応する本件補正前の請求項4に係る発明に対する拒絶の理由は、以下の内容を含むものである。
(進歩性)本件補正前の請求項4に係る発明は、その優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である下記の引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。
記
1.米国特許出願公開第2003/0227663号明細書
3.特表2000-506278号公報(周知技術を示す文献)
4.特表2017―509765号公報(周知技術を示す文献)
5.特表2020-509529号公報(周知技術を示す文献)
6.特開2018-190647号公報(周知技術を示す文献)
第4 引用文献1の記載及び引用発明の認定
1 引用文献1に記載された事項
当審拒絶理由通知書で引用された引用文献1(米国特許出願公開第2003/0227663号明細書)には、次の事項が記載されている(以下、当合議体が作成した訳を摘記する。下線は当合議体が付した。)。
「【請求項43】着色機能と加熱機能の両方を有する透明発色デバイスであって、
(a)電解質媒体を囲む空洞を画定する一対の対向する透明導電体と、
(b)前記透明導電体のうち少なくとも1つの外面上にある透明基板と、
(c)少なくとも2つのバスバーが接触する少なくとも1つの透明導電体であって、前記透明導電体に接触する前記2つのバスバーが離隔関係で配置されて前記デバイスの一部を画定し、前記一部が着色あるいは加熱される、少なくとも1つの透明導電体と、
(d)前記デバイスを着色または加熱するために選択的に電圧を印加する手段を提供するコントローラとを備える、透明発色デバイス。
【請求項44】前記デバイスが、各導電体の外面上にそれぞれある2つの透明基板を備える、請求項43に記載の透明発色デバイス。
【請求項45】透明導電体のうち少なくとも1つの上に配置されたエレクトロクロミック層をさらに含む、請求項43に記載の透明発色デバイス。
【請求項46】前記電解質媒体が発色性である、請求項43に記載の透明発色デバイス。
【請求項47】前記コントローラが、(i)透明導電体のうち第1のものに接触する、2つのバスバーのうち少なくとも1つと、透明導電体のうち第2のものに接触する、2つのバスバーのうち少なくとも1つとの間に、電位を生成することによって前記デバイスの着色を生じさせ、(ii)透明導電体のうち少なくとも1つに接触する少なくとも2つのバスバーの間に電位を生成することによって前記デバイスの加熱を生じさせるように選択的にコントロールされる電気回路を有している請求項43に記載の透明発色デバイス。」
「【発明の要旨】
【0015】
上述した、さまざまな窓ガラスの用途で使用される発色ガラスの問題は、電解質によって分離された一対の対向ガラス基板を有するアセンブリの所定の範囲で選択的に効果的に色が変化する透明発色アセンブリを提供することにより、本発明の原理で解決される。基板の対向する表面には導電性透明コーティングが形成され、少なくとも一方の面の導電性コーティングは中断され、好ましくはシルバーフリットからなる1セットのバスバーが個々に備えられた個別のエリアを形成する。少なくとも一方の導電体層の上には、エレクトロクロミック電極層が重ねられる。絶縁性接着シーラントは、2つの基板を分離し、バスバーのセットを互いに絶縁し、電解質およびエレクトロクロミック層に露出しないようにし、これにより、各バスバーセットは個別に通電可能となり、それぞれの個別のエリアで色の変化に作用する。都合のよいことに、エレクトロクロミック層は遷移金属酸化物あるいは少なくとも1種の繊維金属酸化物、好ましくは酸化タングステンを含む混合物を有することができ、一方で、対向面上の対向電極層は酸化物あるいは酸化物の混合物を有することができる。好ましい混合物は、少なくとも3種の酸化物を有し、そのうち2種が遷移金属、残りの1種がアルカリ金属であることが好ましい。各バスバーの一部は、有利なことに、対向面から、基板のそれぞれのエッジを超えて延び、優れた機械的な安定性を与える端子電極用のコネクタを形成する。
【0016】
さらに、本発明において、例えば、基本的に遷移酸化金属から選択される無機のEC電極及び対向電極を採用することにより、発色デバイスのリーク電流を少なくするという特性を選択することが重要であり、遷移酸化金属の例としては、少なくとも、EC電極としては部分的に酸化タングステン、酸化モリブデンを含み、対向電極としては部分的に酸化バナジウム、酸化ニッケル、酸化マンガン、酸化ニオブ、酸化チタンを含み、また固体高分子マトリックス電解質を使用する場合は、電解質の溶媒および/または可塑剤としてスルホランまたはその誘導電体を全体的あるいは部分的に使用する。さらに、電解質の水含有量は、好ましくは2000ppm未満、より好ましくは100ppm未満、最も好ましくは10ppm未満である。EC電極及び対向電極はさらに、Li、Na、Ba、Ca、K、CsおよびRbの酸化物などのアルカリ金属でドーピングすることができる。」
「【0034】
図12は、エレクトロクロミック機能と加熱機能の両方を有する、本発明のエレクトロクロミックデバイスを示す。」
「【0084】
自動車の後部にあるガラス(または後部窓)には、一般的に、霜取り用ヒーターバーがある。これらの位置は、発色デバイス用のバスバーの位置に合致し、これを通した見え方に影響を与えないようにしている。さらに、いくつかのバスバーの位置は、必要であれば、選択したエリアのみ着色するように仕切ることができる。加熱ストリップは、電解質を通過するワイヤに置き換えることができる。しかしながら、不活性で非多孔質のコーティングは、電解質あるいはセル内のいずれかの成分とも反応せず、同時に、熱伝導を相当程度まで遮断せず、これらのワイヤを不動態化することに注意する必要がある。一般に、これらのワイヤは100℃、好ましくは75℃より高温に加熱すべきではない。
【0085】
エレクトロクロミックパネルを加熱する他の新規な方法は、透明導電体をヒーターとして使用し、またECデバイスに電力を供給する電気通路として使用することである。この一般的な概念は、米国特許出願第09/347807号に記載されているが、その説明は、ECデバイスの2つの対向する導電体に印加する異なる電圧をどのようにしてコントロールするかに関するものである。これを実際に行うことは、セル内の電圧が色と共に変化するため困難である。」
「【0087】
例として、図10はECデバイスの側面図を示す。ここで、A、B、C及びDは、図9の同じ記号が付いた4つの接続線に対応する。接続線Eは他の電極からのものであり、ここでは1つのバスバーのみが全周に使用されている。この図は、基板(S)160、161、透明導電体(TC)162、163、エレクトロクロミック層(EC)164、対向電極層(CE)165及び電解質(E)166を示す。・・・略・・・」
「【0134】
従って、この方法と利点は、あらゆる発色デバイスのシールに使用することができる。
実施例5
ECデバイスの電力供給に同じ透明導電体を使用してEC動作と加熱現象の両方を示すデバイス
【0135】
11×11インチ(28cm×28cm)のECウィンドウデバイス(デバイス1)を、片方の電極にインジウムスズ酸化物(ITO、15Ω/スクエア、Applied Films Corp、コロラド州ロングモント)を使用し、他方の電極にTCO12(AFG社、テネシー州キングスポート)を使用して、作製した。タングステン酸リチウム(Li0.5W)Oxである酸化タングステンのコーティングをITOガラスの上に蒸着した。(リチウムが酸化物として存在するため、これは酸化タングステンの還元型ではない。)焼成されたコーティングの厚さは580nmであった。前記コーティングは湿度の高い雰囲気で焼成され、その後、250℃まで加熱処理された。使用した蒸着と前駆物質の詳細は、PCT97/05791の比較例1に見ることができる。この開示は参考文献としてここに組み込まれている。次に、コーティングは基板の周辺エリア(約10mmの幅)からエッチングされた。セルは、一方の基板の周囲にエポキシを塗布し、導電性の側を互いに対向させることによって作製された。このエポキシは、300マイクロメートル(直径)の球状ガラスビーズを含有していた。スペーサが、2つの基板の間に300マイクロメートルの分離を提供しており、これが電解質の厚さになる。電解質の好ましい厚さは、37マイクロメートルから約5mmの間である。このエポキシを、エッチングしたエリアに塗布した。図12に示すように、約5mmのオフセットを各基板の2つのエッジに沿って形成しながら、第2のTEC15基板175を第1の基板174の上に降下した。エポキシを、高温(典型的には80~200℃の範囲)で硬化させた。典型的な硬化時間は、10分~数時間である。上側の基板175は、角から約10mm離れた対角線に沿った位置に、直径が1.6mmの穴を2つ有した。電解質をこれらの穴の1つから注入し、空洞を充填した。電解質は、0.35%のフェロセン、10.5%のLiCF3SO3、48.9%のPC、32.6%のスルホラン、および約540、000の分子量を有する7.65%のポリメチルメタクリレートを含んでいた(すべて重量%)。次に、これらの穴をテフロンプラグによってシールし、続いて矩形状のガラスカバースライド171、172をUV硬化性接着剤で固着した(図12)。シーリングは、まず、穴のエリアと厚さ1mm(約1cm四方)のガラスカバープレートを、Dow Corning (MI) Z6030シランをベースにしたプライマーで下塗りすることによって行われる。次に、カバープレートを、UV硬化性接着剤を使って接着し、穴をブロックする。続いて、他の熱硬化エポキシを使用してカバープレートの両サイドをシールし、環境バリアをさらに向上させる。これに代えて、プラグエリアを金属キャップでシールしてもよく、これは例4で説明する。
【0136】
各基板のエッジは突出しており、そこに導電性バスバーを半田付けし、図12に示すようにワイヤA、B、C、Dに接続した。ワイヤAとワイヤCが一緒にピグテールされ、ワイヤBとワイヤDが一緒にピグテールされた。A+Cを1.2Vの直流電源の正端子に接続し、BおよびDを負端子に接続すると、デバイスが着色され、極性を逆にすると(そして電位を-0.6Vに下げると)、デバイスは元の値の無色になった。次に、すべてのワイヤを互いに非接続状態にし、電源からも非接続状態にした。ワイヤAとワイヤCを12Vの直流電源の正と負にそれぞれ接続すると、電流が回路に流れ、ガラスの表面温度が上昇した。
実施例6
酸化タングステンエレクトロクロミック層および酸化バナジウム挿入対向電極を備えたエレクトロクロミックデバイス(デバイス4)の作製。このデバイスは、電極間の抵抗をコントロールすることによるシェードバンドの概念を示す。
【0137】
11×11インチ(28cm×28cm)のECウィンドウデバイス180を、図13に示すように、TEC15とTEC8(Pilkington LOF社、オハイオ州トレド)を使用して製造した。ガラス基板181、182を符号Sで示し、導電性コーティング183、184を符号TCで示す。TEC15を使って酸化タングステン185をコーティングし、TEC8を使って対向電極186をコーティングした。各透明基板は、図示するように、2つの対向するエッジに対して平行に延在する一対のバスバー187、188を有する。これらのバスバー187、188を電気ワイヤ189~192に接続した。エレクトロクロミックコーティングEC185は酸化タングステンであり、対向電極CE186は酸化バナジウムである。これらのコーティングされた基板は、電解質193によって分離される。・・・略・・・」
図10、図12及び図13は、以下のとおりである。
[図:0001427129000001.jpg]
[図:0001427129000002.jpg]
2 引用文献1の記載から当業者が把握できる事項
請求項43に記載された透明発色デバイスについて、当業者は、次の事項を把握できると認められる。
(1) 図12に係るエレクトロクロミックデバイス(以下「図12エレクトロクロミックデバイス」という。)は、「ECデバイスの電力供給に同じ透明導電体を使用してEC動作と加熱現象の両方を示すデバイス」(【0134】)であることから、当業者は、請求項43に記載された透明発色デバイスの一例が図12エレクトロクロミックデバイスであることを把握できる。
そして、当該請求項43は、「透明発色デバイス」を構成する部材として、「電解質媒体を囲む空洞を画定する一対の対向する透明導電体」、「前記透明導電体のうち少なくとも1つの外面上にある透明基板」、「少なくとも2つのバスバー」、「少なくとも1つの透明導電体」及び「コントローラ」を特定するものであるところ、当業者は、当該請求項43に記載された透明発色デバイスを構成する各部材を、上記特定されたとおりに把握することができる一方で、図12エレクトロクロミックデバイスを踏まえて、適宜具体化して把握することもできるといえる。
(2)ア そこで、まず、請求項43に記載された「電解質媒体を囲む空洞を画定する一対の対向する透明導電体」及び「前記透明導電体のうち少なくとも1つの外面上にある透明基板」についてみると、図12エレクトロクロミックデバイスは、第1の基板174と第2の基板175を備えているところ、「ECウィンドウデバイス(デバイス1)を、片方の電極にインジウムスズ酸化物(ITO、15Ω/スクエア・・・)を使用し、他方の電極にTCO12・・・を使用して、作製した。」及び「図12に示すように、・・・第2のTEC15基板175を第1の基板174の上に降下した。」(【0135】)といった記載に照らせば、これらの第1の基板174と第2の基板175は、いずれも、「透明基板」上に「透明導電体」がコーティングされたものであると解される。
そうすると、当業者は、請求項43に記載された「電解質媒体を囲む空洞を画定する一対の対向する透明導電体」及び「前記透明導電体のうち少なくとも1つの外面上にある透明基板」を把握するに当たっては、(i)「透明基板」が2つ存在すること、(ii)「一対の対向する透明導電体」が、これらの2つの「透明基板」に対応してそれぞれコーティングされていることを把握でき、さらに以上を換言すれば、透明導電体は透明基板にコーティングされて、第1の透明導電性基板174と第2の透明導電性基板175を構成しており、第1の透明導電性基板174と第2の透明導電性基板175が、それぞれの透明導電体を内面にして対向していることを把握できるといえる。
イ また、当業者は、図12エレクトロクロミックデバイスが、請求項44(前記デバイスが、各導電体の外面上にそれぞれある2つの透明基板を備えること)の記載にも対応することを把握できる。
(3)ア 次に、請求項43に記載された「少なくとも2つのバスバーが接触する少なくとも1つの透明導電体であって、前記透明導電体に接触する前記2つのバスバーが離隔関係で配置されて前記デバイスの一部を画定」しているという事項について、図12エレクトロクロミックデバイスをみると、「図12に示すように、約5mmのオフセットを各基板の2つのエッジに沿って形成しながら、第2のTEC15基板175を第1の基板174の上に降下した」こと(【0135】)、「各基板のエッジは突出しており、そこに導電性バスバーを半田付けし、図12に示すようにワイヤA、B、C、Dに接続した」こと(【0136】)が記載されている。
このように、図12エレクトロクロミックデバイスでは、第1の透明導電性基板174及び第2の透明導電性基板175上に、つまり、請求項43に記載された「一対の対向する透明導電体」上に、導電性バスバーを半田付けしている、つまり、接触させているといえることから、当該請求項43に記載された「少なくとも2つのバスバーが接触する少なくとも1つの透明導電体」における「少なくとも1つの透明導電体」は、上記「一対の対向する透明導電体」にほかならないことが理解できる。
イ(ア) そして、前記(2)にも照らせば、当業者は、上記の請求項43に記載された「少なくとも2つのバスバーが接触する少なくとも1つの透明導電体であって、前記透明導電体に接触する前記2つのバスバーが離隔関係で配置されて前記デバイスの一部を画定」しているという事項を把握するに当たっては、第1の透明導電性基板174と第2の透明導電性基板175が、各基板の2つのエッジが突出するように重ねられていること、「バスバー」はそれらの突出されたエッジにそれぞれ半田付けされていることを把握できる。加えて、図12からは、図12エレクトロクロミックデバイスでは、第1の透明導電性基板174及び第2の透明導電性基板175がいずれも矩形状となっていることが把握できるとともに、第1の透明導電性基板174の一方のエッジ(以下「エッジb」という。)にワイヤBに接続されたバスバー(以下「バスバーBb」という。)が設けられ、他方のエッジ(以下「エッジd」という。)にワイヤDに接続されたバスバー(以下「バスバーBd」という。)が設けられているのが見て取れる。さらに、上記のとおり、「バスバー」は各基板の2つの突出されたエッジにそれぞれ設けられていることを併せ踏まえれば、図12エレクトロクロミックデバイスでは、第1の透明導電性基板174のみならず、第2の透明導電性基板175についても、一方のエッジ(以下「エッジa」という。)にワイヤAに接続されたバスバー(以下「バスバーBa」という。)が設けられ、他方のエッジ(以下「エッジc」という。)にワイヤCに接続されたバスバー(以下「バスバーBc」という。)が設けられていることが把握できる。
以上をまとめると、当業者は、上記の事項を把握するに当たっては、矩形状の第1の透明導電性基板174と矩形状の第2の透明導電性基板175が、第1の透明導電性基板174の一方のエッジb及び他方のエッジdと第2の透明導電性基板175の一方のエッジaと他方のエッジcのいずれもが突出するように重ねられていること、第1の透明導電性基板174のエッジbにワイヤBに接続されたバスバーBbが設けられているとともに、エッジdにワイヤDに接続されたバスバーBdが設けられていること、第2の透明導電性基板175のエッジaにワイヤAに接続されたバスバーBaが設けられているとともに、エッジcにワイヤCに接続されたバスバーBcが設けられていること、を把握できるといえる。
(イ) ところで、前記(ア)のとおり、図12エレクトロクロミックデバイスでは、第1の透明導電性基板174(エッジbとエッジdを備えている。)と第2の透明導電性基板175(エッジaとエッジcを備えている。)が、エッジa~エッジdのいずれもが突出するように配置され、そのように突出したエッジa~dにそれぞれバスバーBa~Bdが設けられている態様(以下「全突出態様」という。)となっている。
そして、図12エレクトロクロミックデバイスで全突出態様が採用されている技術的意味は、重ね合わせ済みの各基板からエッジが突出されていれば、導電性バスバーをこれらのエッジに設ける際に都合がよいことにあると解されるのであり、このことは、【0135】及び【0136】に記載された製法では、導電性バスバーの各基板のエッジへの半田付けのタイミングが、第2の透明導電性基板175と第1の透明導電性基板174を重ねる前になっているのではなく、重ねた後になっていることからみて明らかである。
(4) 請求項43に記載された「透明発色デバイス」は、図12エレクトロクロミックデバイスでは、エレクトロクロミックデバイスであって、「タングステン酸リチウム(Li0.5W)Oxである酸化タングステンのコーティングをITOガラスの上に蒸着した。(リチウムが酸化物として存在するため、これは酸化タングステンの還元型ではない。)」(【0135】)とされているから、当業者は、当該「透明発色デバイス」が、請求項45に記載された「透明導電体のうち少なくとも1つに配置されたエレクトロクロミック層をさらに含」んでおり、ここでいう「透明導電体のうち少なくとも1つ」が第1の透明導電性基板174の透明導電体であること、つまり、エレクトロクロミック層が配置された透明導電体は第1の透明導電性基板174の透明導電体であることを把握できるとともに、ここでの「配置」が間に層を介在しない直接的なものであること、つまり、エレクトロクロミック層は透明導電体に直接的に配置されており、その透明導電体は第1の透明導電性基板174の透明導電体であることを把握できる。
さらに、【0136】の記載に照らせば、図12エレクトロクロミックデバイスが、請求項47の記載にも対応することを把握できる。
3 引用発明の認定
前記1及び2によれば、引用文献1には、請求項44、45及び47の記載を引用する請求項43に記載された透明発色デバイスについて、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる(引用発明の認定に用いた段落番号等を参考までに括弧内に付した。)。
<引用発明>
「着色機能と加熱機能の両方を有する透明発色デバイスであって、
(a)電解質媒体を囲む空洞を画定する一対の対向する透明導電体と、
(b)前記透明導電体のうち少なくとも1つの外面上にある透明基板と、
(c)少なくとも2つのバスバーが接触する少なくとも1つの透明導電体であって、前記透明導電体に接触する前記2つのバスバーが離隔関係で配置されて前記デバイスの一部を画定し、前記一部が着色あるいは加熱される、少なくとも1つの透明導電体と、
(d)前記デバイスを着色または加熱するために選択的に電圧を印加する手段を提供するコントローラとを備える、
透明発色デバイスであって、(【請求項43】)
前記デバイスが、各導電体の外面上にそれぞれある2つの透明基板を備え、(【請求項44】)
透明導電体のうち少なくとも1つの上に配置されたエレクトロクロミック層をさらに含み、(【請求項45】)
前記コントローラが、(i)透明導電体のうち第1のものに接触する、2つのバスバーのうち少なくとも1つと、透明導電体のうち第2のものに接触する、2つのバスバーのうち少なくとも1つとの間に、電位を生成することによって前記デバイスの着色を生じさせ、(ii)透明導電体のうち少なくとも1つに接触する少なくとも2つのバスバーの間に電位を生成することによって前記デバイスの加熱を生じさせるように選択的にコントロールされる電気回路を有しており、(【請求項47】)
前記透明導電体は前記透明基板にコーティングされて、矩形状の第1の透明導電性基板174と矩形状の第2の透明導電性基板175を構成しており、
第1の透明導電性基板174と第2の透明導電性基板175が、それぞれの透明導電体を内面にして対向しており、(前記2(2)、同(3)イ(ア))
エレクトロクロミック層は透明導電体に直接的に配置されており、その透明導電体は第1の透明導電性基板174の透明導電体であり、(前記2(4))
前記少なくとも2つのバスバーが接触する少なくとも1つの透明導電体は、第1の透明導電性基板174と第2の透明導電性基板175の透明導電体であり、(前記2(3)ア)
矩形状の第1の透明導電性基板174と矩形状の第2の透明導電性基板175が、第1の透明導電性基板174の一方のエッジb及び他方のエッジdと第2の透明導電性基板175の一方のエッジaと他方のエッジcのいずれもが突出するように重ねられており、
第1の透明導電性基板174のエッジbにワイヤBに接続されたバスバーBbが設けられているとともに、エッジdにワイヤDに接続されたバスバーBdが設けられており、
第2の透明導電性基板175のエッジaにワイヤAに接続されたバスバーBaが設けられているとともに、エッジcにワイヤCに接続されたバスバーBcが設けられている、(前記2(3)イ(ア))
透明発色デバイス。」
第5 本願発明と引用発明との対比・判断
1 対比、一致点及び相違点の認定
(1) 本願発明と引用発明を対比すると、以下のとおりである。
ア 基本的な事項について
引用発明の「第1の透明導電性基板174」「の透明基板」は、本願発明の「下部基板」に、
引用発明の「第1の透明導電性基板174」「の透明導電体」は、「前記透明基板にコーティングされ」るものであるとともに、「電位を生成することによって前記デバイスの着色を生じさせ」るものであるといえるから、本願発明の「下部電極層」に、
引用発明の「第2の透明導電性基板175」「の透明基板」は、本願発明の「上部基板」に、
引用発明の「第2の透明導電性基板175の透明導電体」は、上記「第1の透明導電性基板174」「の透明導電体」と同様の理由も踏まえれば、本願発明の「上部電極層」に、
引用発明の「エレクトロクロミック層」は、本願発明の「エレクトロクロミック層」に、
引用発明の「ワイヤBに接続されたバスバーBb」と「ワイヤDに接続されたバスバーBd」は、いずれも「第1の透明導電性基板174」に「接続され」るものであるから、本願発明の「2つの第1の高導電性バー」に、
引用発明の「ワイヤAに接続されたバスバーBa」と「ワイヤCに接続されたバスバーBc」は、いずれも「第2の透明導電性基板175」に「接続され」るものであるから、本願発明の「2つの第2の高導電性バー」に、
引用発明の「エレクトロクロミック層」を含む「透明発色デバイス」は、本願発明の「エレクトロクロミック・デバイス」に、
それぞれ相当する。
イ 本願発明の「互いに付着された下部基板及び下部電極層と、互いに付着された上部基板及び上部電極層と、」「を備え、」との特定事項について
引用発明は、「前記透明導電体は前記透明基板にコーティングされて、矩形状の第1の透明導電性基板174と矩形状の第2の透明導電性基板175を構成し」ていることから、前記アにも照らせば、本願発明でいう「互いに付着された下部基板及び下部電極層と、互いに付着された上部基板及び上部電極層」を備えているといえる。
したがって、引用発明は、上記特定事項を満たす。
ウ 本願発明の「前記下部電極層の内面の第1の部分に配置されたエレクトロクロミック層と、」「を備え、」との特定事項について
(ア) 対比を行うに先立ち、本願発明の「下部電極層の内面の第1の部分」の意味について検討すると、本願発明には、当該「下部電極層の内面の第1の部分」に「エレクトロクロミック層」が配置されているとともに、「前記下部基板から遠い方の前記下部電極層の第2の部分の内面」に「2つの第1の高導電性バー」が設置されていることが特定されている。そして、本願明細書及び図面(以下、これらを合わせて「本願明細書等」という。)の【0043】には、電極層の「外面」とは、エレクトロクロミック・デバイス300の内部(たとえば、電解質層303)から遠い方に向いている電極層の面を指すとされており、そのため、下部基板330から遠い方の下部電極層301の面が下部電極層301の内面になるとされているとともに、電極層の「内面」とは、エレクトロクロミック・デバイス300の内部の方に向いている電極層の面を指すとされている。このように、「下部電極層の内面」とは、「下部電極層」の面のうち、エレクトロクロミック・デバイス300の内部側の面を意味しているところ、「前記下部基板から遠い方の前記下部電極層」の「内面」も、結局のところ、同じ面を意味していると解されることから、本願発明では、「下部電極層の内面」のうち、「第1の部分」に「エレクトロクロミック層」が配置されており、「第2の部分」に「2つの第1の高導電性バー」が設置されていると解して差し支えない。
(イ) これを引用発明についてみると、引用発明の「第1の透明導電性基板174」の「透明導電体」(本願発明の「下部電極層」に相当。)には、「エレクトロクロミック層」が直接的に配置されているとともに、「バスバーBb」と「バスバーBd」が接触されているところ、これらが直接的に配置ないし接触される「透明導電体」の面が、「第1の透明導電性基板174」の「透明基板」側とは反対側の面であることは明らかであり、また、引用発明では、「第1の透明導電性基板174と第2の透明導電性基板175が、それぞれの透明導電体を内面にして対向して」いる。
そうすると、引用発明の当該「エレクトロクロミック層」、並びに「バスバーBb」及び「バスバーBd」は、いずれも、本願発明でいう「下部電極層の内面」に直接的に配置ないし設置されているといえるし、それぞれ、「第1の部分」及び「第2の部分」に配置ないし設置されているともいえることにもなる。
(ウ) したがって、引用発明は、上記特定事項を満たす。
エ 本願発明の「前記上部電極層の内面の第1の部分に配置された電荷蓄積層と、」「を備え、」との特定事項について
(ア) 前記ウ(イ)のとおり、引用発明の「第1の透明導電性基板174」の「透明導電体」(本願発明の「下部電極層」に相当。)には、本願発明でいう「内面の第1の部分」が観念できるところ、引用発明では、「第1の透明導電性基板174と第2の透明導電性基板175が、それぞれの透明導電体を内面にして対向して」いることから、引用発明の「第2の透明導電性基板175」の「透明導電体」(本願発明の「上部電極層」に相当。)にも、「内面の第1の部分」を観念できるといえる。そして、引用発明では、「エレクトロクロミック層」が「第1の透明導電性基板174の透明導電体」に直接的に配置されており、「一対の対向する透明導電体」が「電解質媒体を囲む空洞を画定する」ところ、「電解質媒体」が層を構成していることが技術常識に照らして明らかである。
そうすると、結局、引用発明では、「第1の透明導電性基板174」の「透明導電体」、それに直接的に配置された「エレクトロクロミック層」、「電解質媒体」を構成する層、「第2の透明導電性基板175」の「透明導電体」が、この順に配置されているといえる。
(イ) 本願発明の「電荷蓄積層」は、「前記エレクトロクロミック層と前記電荷蓄積層の間に配置され、前記エレクトロクロミック層と前記電荷蓄積層に挟まれた電解質層」との特定事項にも照らせば、「電解質層」と「上部電極層」の間に配置されていることになるところ、後記オ(ア)のとおり、引用発明の「電解質媒体」を構成する層は本願発明の「電解質層」に相当することにも照らせば、本願発明では、「前記上部電極層の内面の第1の部分に配置された」(「電解質層」と「上部電極層」の間に配置される)「電荷蓄積層」を備えるのに対し、引用発明では、本願発明でいう「前記上部電極層の内面の第1の部分に配置された」ものとして、「電解質媒体」を構成する層が存在するものの、本願発明でいう(「電解質層」と「上部電極層」の間に配置される)「電荷蓄積層」に相当する構成が存在するのかは不明である。
オ 本願発明の「前記エレクトロクロミック層と前記電荷蓄積層の間に配置され、前記エレクトロクロミック層と前記電荷蓄積層に挟まれた電解質層であって、前記下部電極層、前記エレクトロクロミック層、前記電解質層、前記電荷蓄積層及び前記上部電極層が、前記下部基板と前記上部基板に挟まれ、前記下部電極層及び前記上部電極層が、前記エレクトロクロミック・デバイスの光透過率の変化を生じさせる遷移電圧を受け取るように構成され、前記電解質層が、固体ポリマー電解質を含み、前記固体ポリマー電解質が、少なくとも10,000ダルトンの平均分子量の複数の架橋された極性結晶性ポリマーを含む、電解質層と、」「を備え、」との特定事項について
前記特定事項は、(i)「電解質層」が「前記エレクトロクロミック層と前記電荷蓄積層の間に配置され、前記エレクトロクロミック層と前記電荷蓄積層に挟まれ」ており、「固体ポリマー電解質を含み、前記固体ポリマー電解質が、少なくとも10,000ダルトンの平均分子量の複数の架橋された極性結晶性ポリマーを含む」ものであること、(ii)「前記下部電極層、前記エレクトロクロミック層、前記電解質層、前記電荷蓄積層及び前記上部電極層が、前記下部基板と前記上部基板に挟まれ」ていること、(iii)「前記下部電極層及び前記上部電極層が、前記エレクトロクロミック・デバイスの光透過率の変化を生じさせる遷移電圧を受け取るように構成され」ていること、を特定するものであるから、以下、それぞれについて検討する。
(ア) (i)の「電解質層」が「前記エレクトロクロミック層と前記電荷蓄積層の間に配置され、前記エレクトロクロミック層と前記電荷蓄積層に挟まれ」ており、「固体ポリマー電解質を含み、前記固体ポリマー電解質が、少なくとも10,000ダルトンの平均分子量の複数の架橋された極性結晶性ポリマーを含む」ものであることについて
前記エ(ア)で説示した引用発明の「電解質媒体」を構成する層は、本願発明の「電解質層」に相当する。そして、同じく前記エ(ア)によれば、引用発明は、本願発明でいう「電荷蓄積層」を備えているか明らかでないことから、当該「電解質媒体」を構成する層が、本願発明でいう「前記エレクトロクロミック層と前記電荷蓄積層の間に配置され、前記エレクトロクロミック層と前記電荷蓄積層に挟まれ」ているのかは不明であるし、また、「固体ポリマー電解質を含み、前記固体ポリマー電解質が、少なくとも10,000ダルトンの平均分子量の複数の架橋された極性結晶性ポリマーを含む」ものであるのかも不明である。
(イ) (ii)の「前記下部電極層、前記エレクトロクロミック層、前記電解質層、前記電荷蓄積層及び前記上部電極層が、前記下部基板と前記上部基板に挟まれ」ていることについて
前記エ(ア)のとおり、引用発明は、「第1の透明導電性基板174」の「透明導電体」、それに直接的に配置された「エレクトロクロミック層」、「電解質媒体」を構成する層、「第2の透明導電性基板175」の「透明導電体」が、この順に配置されていることから、本願発明と引用発明とは、「前記下部電極層、前記エレクトロクロミック層、前記電解質層」「及び前記上部電極層が、前記下部基板と前記上部基板に挟まれ」ている点で共通する。
(ウ) (iii)の「前記下部電極層及び前記上部電極層が、前記エレクトロクロミック・デバイスの光透過率の変化を生じさせる遷移電圧を受け取るように構成され」ていることについて
引用発明は、「透明導電体のうち第1のものに接触する、2つのバスバーのうち少なくとも1つと、透明導電体のうち第2のものに接触する、2つのバスバーのうち少なくとも1つとの間に、電位を生成することによって前記デバイスの着色を生じさせ」るものであり、「透明導電体のうち第1のもの」及び「透明導電体のうち第2のもの」が、それぞれ、第1の透明導電性基板174の透明導電体(本願発明の「下部電極層」に相当。)及び第2の透明導電性基板175(本願発明の「上部電極層」に相当。)の透明導電体に対応すると解して差し支えないことから、引用発明は、本願発明でいう「前記下部電極層及び前記上部電極層が、前記エレクトロクロミック・デバイスの光透過率の変化を生じさせる遷移電圧を受け取るように構成され」ているものといえる。
(エ) 小括
したがって、本願発明と引用発明とは、「電解質層であって、」「前記下部電極層、前記エレクトロクロミック層、前記電解質層」「及び前記上部電極層が、前記下部基板と前記上部基板に挟まれ、前記下部電極層及び前記上部電極層が、前記エレクトロクロミック・デバイスの光透過率の変化を生じさせる遷移電圧を受け取るように構成され」る「電解質層」を備える点で共通するが、「電解質層」の材質について、本願発明は、「固体ポリマー電解質を含み、前記固体ポリマー電解質が、少なくとも10,000ダルトンの平均分子量の複数の架橋された極性結晶性ポリマーを含む」ものであるのに対し、引用発明は、そのようなものか不明であり、「電解質層」の配置される場所について、本願発明は、「前記エレクトロクロミック層と前記電荷蓄積層の間に配置され、前記エレクトロクロミック層と前記電荷蓄積層に挟まれた」ものであり、「前記下部電極層、前記エレクトロクロミック層、前記電解質層、前記電荷蓄積層及び前記上部電極層が、前記下部基板と前記上部基板に挟まれ」ているのに対し、引用発明は、「第1の透明導電性基板174」の「透明導電体」、それに直接的に配置された「エレクトロクロミック層」、「電解質媒体」を構成する層、「第2の透明導電性基板175」の「透明導電体」が、この順に配置されている。
カ 本願発明の「前記下部基板から遠い方の前記下部電極層の第2の部分の内面に設置された2つの第1の高導電性バーであって、前記下部電極層の内面の第1の部分は、前記下部電極層の内面の第2の部分と異なり、前記2つの第1の高導電性バーに印加される第1の熱電圧に応じて前記下部電極層に電流を発生させて前記エレクトロクロミック・デバイスの温度を変化させるように構成される、2つの第1の高導電性バーと、」「を備え、」との特定事項について
(ア) 引用発明の「バスバーBb」と「バスバーBd」(いずれも、本願発明の「第1の高導電性バー」に相当。)は、前記ウ(ア)及び同(イ)のとおり、本願発明でいう「前記下部基板から遠い方の前記下部電極層」の「内面」に設置されているとともに「第2の部分」に設置されているといえることから、本願発明でいう「前記下部基板から遠い方の前記下部電極層の第2の部分の内面に設置された2つの」ものであって、「前記下部電極層の内面の第1の部分は、前記下部電極層の内面の第2の部分と異な」るものといえる。
そうすると、引用発明の「バスバーBb」と「バスバーBd」は、本願発明でいう「前記下部基板から遠い方の前記下部電極層の第2の部分の内面に設置された2つの」ものといえる。
(イ) そして、引用発明は、「透明導電体のうち少なくとも1つに接触する少なくとも2つのバスバーの間に電位を生成することによって前記デバイスの加熱を生じさせ」ることから、「バスバーBb」と「バスバーBd」は、本願発明でいう「前記2つの第1の高導電性バーに印加される第1の熱電圧に応じて前記下部電極層に電流を発生させて前記エレクトロクロミック・デバイスの温度を変化させるように構成される、2つの」ものともいえる。
(ウ) したがって、引用発明は、上記特定事項を満たす。
キ 本願発明の「前記上部基板から遠い方の前記上部電極層の表面に設置された2つの第2の高導電性バーであって、前記2つの第2の高導電性バーに印加される第2の熱電圧に応じて前記上部電極層に電流を発生させて前記エレクトロクロミック・デバイスの温度を変化させるように構成される、2つの第2の高導電性バーと、を備え、」との特定事項について
引用発明の「バスバーBa」と「バスバーBc」(いずれも、本願発明の「第2の高導電性バー」に相当。)は、「第2の透明導電性基板175」に設けられているところ、前記ウ(ア)及び同(イ)と同様の理由で、当該「バスバーBa」と「バスバーBc」は、本願発明でいう「前記上部基板から遠い方の前記上部電極層の表面に設置された2つの」ものといえる。
そして、前記カ(イ)と同様の理由で、当該「バスバーBa」と「バスバーBc」は、本願発明でいう「前記2つの第2の高導電性バーに印加される第2の熱電圧に応じて前記上部電極層に電流を発生させて前記エレクトロクロミック・デバイスの温度を変化させるように構成される、2つの」ものといえる。
したがって、引用発明は、上記特定事項を満たす。
ク 本願発明の「前記下部電極層と平行な1つの平面上の前記2つの第1の高導電性バー及び前記2つの第2の高導電性バーの各上面視が互いに分離され、前記2つの第1の高導電性バーが、前記下部電極層の隣り合う2つの縁部に沿ってそれぞれ設置され、L字形のパターンを形成し、前記2つの第2の高導電性バーが、前記上部電極層の隣り合う2つの縁部に沿ってそれぞれ設置され、L字形のパターンを形成した、」との特定事項について
引用発明は、「矩形状の第1の透明導電性基板174と矩形状の第2の透明導電性基板175が、第1の透明導電性基板174の一方のエッジb及び他方のエッジdと第2の透明導電性基板175の一方のエッジaと他方のエッジcのいずれもが突出するように重ねられており、第1の透明導電性基板174のエッジbにワイヤBに接続されたバスバーBbが設けられているとともに、エッジdにワイヤDに接続されたバスバーBdが設けられており、第2の透明導電性基板175のエッジaにワイヤAに接続されたバスバーBaが設けられているとともに、エッジcにワイヤCに接続されたバスバーBcが設けられている」ものである。
(2) 以上によれば、本願発明と引用発明とは、次の点で一致し、次の点で一応相違するか、又は相違する。
【一致点】
「エレクトロクロミック・デバイスであって、
互いに付着された下部基板及び下部電極層と、
互いに付着された上部基板及び上部電極層と、
前記下部電極層の内面の第1の部分に配置されたエレクトロクロミック層と、
電解質層であって、前記下部電極層、前記エレクトロクロミック層、前記電解質層及び前記上部電極層が、前記下部基板と前記上部基板に挟まれ、前記下部電極層及び前記上部電極層が、前記エレクトロクロミック・デバイスの光透過率の変化を生じさせる遷移電圧を受け取るように構成される、電解質層と、
前記下部基板から遠い方の前記下部電極層の第2の部分の内面に設置された2つの第1の高導電性バーであって、前記下部電極層の内面の第1の部分は、前記下部電極層の内面の第2の部分と異なり、前記2つの第1の高導電性バーに印加される第1の熱電圧に応じて前記下部電極層に電流を発生させて前記エレクトロクロミック・デバイスの温度を変化させるように構成される、2つの第1の高導電性バーと、
前記上部基板から遠い方の前記上部電極層の表面に設置された2つの第2の高導電性バーであって、前記2つの第2の高導電性バーに印加される第2の熱電圧に応じて前記上部電極層に電流を発生させて前記エレクトロクロミック・デバイスの温度を変化させるように構成される、2つの第2の高導電性バーと、
を備える、
エレクトロクロミック・デバイス。」
【相違点1】
本願発明では、「前記上部電極層の内面の第1の部分に配置された」(「電解質層」と「上部電極層」の間に配置される)「電荷蓄積層」を備えるのに対し、引用発明では、本願発明でいう「前記上部電極層の内面の第1の部分に配置された」ものとして、「電解質媒体」を構成する層が存在するものの、本願発明でいう(「電解質層」と「上部電極層」の間に配置される)「電荷蓄積層」に相当する構成が存在するのかは不明である点。
【相違点2】
「電解質層」の材質について、本願発明は、「ポリマー電解質が、少なくとも10,000ダルトンの平均分子量の複数の架橋された極性結晶性ポリマーを含む」ものであるのに対し、引用発明は、そのようなものか不明である点。
【相違点3】
「電解質層」の配置される場所について、本願発明は、「前記エレクトロクロミック層と前記電荷蓄積層の間に配置され、前記エレクトロクロミック層と前記電荷蓄積層に挟まれた」ものであり、「前記下部電極層、前記エレクトロクロミック層、前記電解質層、前記電荷蓄積層及び前記上部電極層が、前記下部基板と前記上部基板に挟まれ」ているのに対し、引用発明は、「第1の透明導電性基板174」の「透明導電体」、それに直接的に配置された「エレクトロクロミック層」、「電解質媒体」を構成する層、「第2の透明導電性基板175」の「透明導電体」が、この順に配置されている点。
【相違点4】
本願発明は、「前記下部電極層と平行な1つの平面上の前記2つの第1の高導電性バー及び前記2つの第2の高導電性バーの各上面視が互いに分離され、前記2つの第1の高導電性バーが、前記下部電極層の隣り合う2つの縁部に沿ってそれぞれ設置され、L字形のパターンを形成し、前記2つの第2の高導電性バーが、前記上部電極層の隣り合う2つの縁部に沿ってそれぞれ設置され、L字形のパターンを形成した」ものであるのに対し、引用発明は、「矩形状の第1の透明導電性基板174と矩形状の第2の透明導電性基板175が、第1の透明導電性基板174の一方のエッジb及び他方のエッジdと第2の透明導電性基板175の一方のエッジaと他方のエッジcのいずれもが突出するように重ねられており、第1の透明導電性基板174のエッジbにワイヤBに接続されたバスバーBbが設けられているとともに、エッジdにワイヤDに接続されたバスバーBdが設けられており、第2の透明導電性基板175のエッジaにワイヤAに接続されたバスバーBaが設けられているとともに、エッジcにワイヤCに接続されたバスバーBcが設けられている」点。
2 判断
(1) 相違点1及び3について
引用発明から出発した当業者が相違点1及び3に係る本願発明の構成に至るためには、引用発明において「第1の透明導電性基板174」の「透明導電体」、それに直接的に配置された「エレクトロクロミック層」、「電解質媒体」を構成する層、「第2の透明導電性基板175」の「透明導電体」が、この順に配置されているところを、「電解質媒体」を構成する層と「第2の透明導電性基板175」の「透明導電体」との間に、本願発明でいう「電荷蓄積層」を配置すれば足りる。
そこで検討すると、引用発明は、エレクトロクロミック層を含んでいる透明発色デバイスであるところ、エレクトロクロミックデバイスには、エレクトロクロミック物質とは逆の酸化還元反応をする対向電極が設けられることが通常採用されており(引用文献1の【0015】及び【0016】や【0137】にも「対向電極」の記載がある。)、また、この対向電極は、電解質を介してエレクトロクロミック物質と対向電極の間でイオンをやりとりするというエレクトロクロミックデバイスの作動機構からも明らかなとおり、電解質と(エレクトロクロミック物質が設けられていない側の)透明電極層の間に設けられている(引用文献1の図13の対向電極CE186もそうなっている。)。そして、対向電極に電荷蓄積能があることも通常である(必要ならば、特開2000-506278号公報(6頁下から11行~7頁12行)参照。)と認められる。
そうすると、引用発明において、上記のとおり通常採用されている対向電極を、通常とおりに採用すれば、「電解質媒体」を構成する層と「第2の透明導電性基板175」の「透明導電体」との間に、電荷蓄積能がある対向電極を設ける構成、すなわち、相違点1及び3に係る構成に至ることになるといえる。また、仮にそうでないとしても、相違点1及び3に係る本願発明の構成に至ることは、エレクトロクロミックデバイスについての上記説示した技術常識に照らして、当業者が適宜なし得たことにすぎないといえる。
(2) 相違点2について
引用発明の透明発色デバイスは、「電解質媒体」を構成する層を備えるものであり、当業者は、具体的にどのような電解質を用いるか決定するものといえる。そして、引用文献1の【0016】には、固体高分子マトリックス電解質を使用することが記載されている。
しかるに、固体高分子電解質として、架橋された複数の極性固体ポリマーを含む固体ポリマー電解質は、周知技術(必要ならば、特表2017-509765号公報(【0058】)、特表2020-509529号公報(【0036】)及び特開2018-190647号公報(請求項3)を参照。)であると認められる。
そうすると、引用発明における具体的な電解質として、上記周知技術を採用して、架橋された複数の極性固体ポリマーを含む固体ポリマー電解質という構成とすることは、当業者が適宜なし得た事項にすぎないといえる。
(3) 相違点4について
ア 引用発明から出発した当業者が相違点4に係る本願発明の構成に至るためには、「矩形状の第1の透明導電性基板174」と「矩形状の第2の透明導電性基板175」の重ね方を、「第1の透明導電性基板174の一方のエッジb及び他方のエッジdと第2の透明導電性基板175の一方のエッジaと他方のエッジcのいずれもが突出するように」されたものとするのではなく、「矩形状の第1の透明導電性基板174」とそれに上面視で完全に重なり合っている「矩形状の第2の透明導電性基板175」とを、それらの対角線方向に互いにずらすようにされるものとし(その結果として、L字状に突出した第1の透明導電性基板174の透明導電体上の領域(以下「第1L字状領域」という。)と、L字状に突出した第2の透明導電性基板175の透明導電体上の領域(以下「第2L字状領域」という。)が得られることになる。)、その上で、第1L字状領域を構成する一方の直線状領域及び他方の直線状領域に、それぞれバスバーBb及びBdを互いに接触しないように設けるとともに、第2L字状領域を構成する一方の直線状領域及び他方の直線状領域に、それぞれバスバーBa及びBcを互いに接触しないように設ければ足りる。
そこで、以下、上記当業者がそのように構成するかについて検討する。
イ まず、引用発明では、前記アでも説示したとおり、「矩形状の第1の透明導電性基板174と矩形状の第2の透明導電性基板175が、第1の透明導電性基板174の一方のエッジb及び他方のエッジdと第2の透明導電性基板175の一方のエッジaと他方のエッジcのいずれもが突出するように重ねられており、第1の透明導電性基板174のエッジbにワイヤBに接続されたバスバーBbが設けられているとともに、エッジdにワイヤDに接続されたバスバーBdが設けられており、第2の透明導電性基板175のエッジaにワイヤAに接続されたバスバーBaが設けられているとともに、エッジcにワイヤCに接続されたバスバーBcが設けられている」ところ、そのようにした技術的意味は、前記第4の2(3)イ(イ)のとおり、重ね合わせ済みの各透明導電性基板からエッジが突出されていれば、導電性バスバーをこれらのエッジに設ける際に都合がよいことにある。
また、引用発明は、「(ii)透明導電体のうち少なくとも1つに接触する少なくとも2つのバスバーの間に電位を生成することによって前記デバイスの加熱を生じさせる」ものであり、この加熱は、透明導電体をヒーターとして利用することによるものである(【0085】)ことから、第1の透明導電性基板174に設けられたバスバーBbとバスバーBdは、透明導電体上において互いに接触しないように設けられる必要があるとともに、これらのバスバー間に流れる電流が当該透明導電体の全体に行き渡るように設けられるのが望ましいことが明らかであり、以上については、第2の透明導電性基板175に設けられたバスバーBaとバスバーBdについても同様であるといえる。
ウ 前記イのとおり、引用発明における「第1の透明導電性基板174」及び「第2の透明導電性基板175」の重ね合わせ方とバスバーの設け方は、重ね合わせ済みの各透明基板からエッジを突出させているのでバスバーを設ける際に製造上都合がよいという技術的観点と、バスバー同士を互いに接触させず透明導電体上の全体に電流が行き渡るように設けて透明導電体をヒーターとして利用するという技術的観点から採用されていることが当業者にとって理解できるのであり、そうである以上、引用発明から出発した当業者は、上記の2つの技術的観点を満たすような「第1の透明導電性基板174」及び「第2の透明導電性基板175」の重ね合わせ方とバスバーの設け方であれば、それが想定されるのであれば、引用発明におけるもの以外であっても、適宜採用できるというべきである。
しかるに、そのような「第1の透明導電性基板174」及び「第2の透明導電性基板175」の重ね合わせ方とバスバーの設け方として想定できるものは、引用発明で採用されている構成のほかには、前記アで説示したところの、「矩形状の第1の透明導電性基板174」とそれと上面視で完全に重なり合っている「矩形状の第2の透明導電性基板175」とを、それらの対角線方向に互いにずらすようにした上で、それにより得られた第1L字状領域及び第2L字状領域について、第1L字状領域を構成する一方の直線状領域及び他方の直線状領域に、それぞれバスバーBb及びBdを互いに接触しないように設けるとともに、第2L字状領域を構成する一方の直線状領域及び他方の直線状領域に、それぞれバスバーBa及びBcを互いに接触しないように設ける態様に限られるといってよく、このような態様は、単純であって、当業者が自然に想定できるといえる。そのため、引用発明から出発した当業者は、相違点4に係る本願発明の構成に容易に至るといえる。
(4) 本願発明の効果について
本願発明の効果のうち、環境温度が最適作動温度よりも低いときには、電極層で発生した熱によって作動温度が上昇し、それによって、エレクトロクロミック・デバイスのスイッチング速度及び動作を改善することができるという効果(【0083】)は、相違点に係る効果ではなく、引用発明も奏するものであるから、当業者にとって格別顕著なものとはいえない。
そして、強化された機械的特性を有するネットワークを形成することができるという効果(【0050】)は、架橋されていないポリマーに比べ架橋されたポリマーは機械的な強度が高まることが技術常識であることに照らせば、引用発明及び前記周知技術に基づいて、当業者にとって予測される範囲内のものにすぎないし、いずれにせよ、引用発明に前記周知技術を採用したことにより生じる相乗効果とはいえないから、当業者にとって格別顕著なものとはいえない。
また、本願明細書等の【0063】には、相違点4に係る本願発明の構成に関して、第1及び第2の高導電性バーをL字形のパターンに形成した際に、上部電極層と下部電極層の間の短絡を避けるために、下部電極層の上部に垂直の方向からみたときに、第1の高導電性バーと第2の高導電性バーを互いに分離できることが記載されている。しかしながら、この内容は、本願発明の上記構成のように高導電性バーをL字形のパターンに形成した場合であっても、上面視で第1の高導電性バーと第2の高導電性バーを互いに分離するように構成すれば、上部電極層と下部電極層の間の短絡を避けられるということを意味しているにすぎない、つまり、上記のようにL字形のパターンに形成した際においても当然に問題となる両電極層間の短絡を避けるためには、どのような工夫ができるのかを明らかにしているにすぎないのであり、L字形のパターンに形成することによって、両電極層間の短絡をより防ぎやすくなるといった積極的な効果を意味するとは解されない。そして、第1及び第2の高導電性バーを本願発明の上記構成のように配置した場合においては、これが両高導電性バー同士の間隔を増す要因となる以上、両電極層間の短絡を避けられることは当業者が予測し得ることといえる。
以上のとおりであるから、本願発明の効果は、本願発明の構成が奏するものとして、引用発明及び周知技術に基づいて当業者にとって予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということもできない。
(5) 請求人の主張について
ア 請求人は、引用発明から出発した当業者が、相違点4に係る本願発明の構成に至らない旨主張し、その根拠として、引用文献1には、当該構成が記載も示唆もされていないことを挙げるが、前記(3)で説示したとおりである。
イ 請求人は、相違点4に係る本願発明の構成に係る2つのバスバーをL字形にした配置(以下「L字形配置」といい、本願明細書等の図5Bに対応する。)が、2つのバスバーをそれぞれ対向する2つの縁部に設けた配置(以下「平行配置」といい、本願明細書等の図5Aに対応する。)よりも、効率的に均一に被加熱対象を加熱できる可能性がある旨主張し、その根拠として、平行配置では、電流が流れる方向が1つの主な方向となり、場合によっては所定の領域にのみ流れやすくなる一方で、L字形配置では、電流の流れる方向が多方向であることを挙げるとともに、このようなL字形配置の効果は、特に被加熱対象のアスペクト比が大きい場合に有効であることを挙げる。
[図:0001427129000003.jpg]
[図:0001427129000004.jpg]
(ア) しかしながら、まず、本願明細書等には、請求人が主張するところの、相違点4に係る本願発明の構成により、効率的で均一に被加熱対象を加熱できる可能性があることについては記載されていない(前記(4)のとおり、本願明細書等の【0063】の記載も、L字形配置に形成することによって、両電極層間の短絡をより防ぎやすくなるといった積極的な効果を意味するとは解されない。)ことから、請求人の主張は、本願明細書等の記載に基づくものではない。
(イ) この点をさておくとしても、請求人の主張は、以下のとおり、技術常識に照らして首肯できるものでもない。
請求人の主張は、判然としないものの、平行配置では、その配置の対称性に照らして、電流が流れる1つの主な方向というものが存在するがゆえに、電流が流れにくい領域が存在してしまうことがある一方で、L字形配置では、そのような方向が存在しないがゆえに、電流が流れにくい領域が存在しない、というものであると解される。しかしながら、バスバーの長さが、それの配置されている電極層の辺の長さに比べて相当程度小さいといった事情があればさておき、そのような事情の存在が想定されているとは言い難い本願発明のL字形配置において、請求人の主張する要因が存在することを根拠付ける技術常識が存在する証拠はない。そして、L字形配置と平行配置では、請求人が主張するように電流の流れる方向の多様性の程度に差があるとしても、そのことは、むしろ、L字形配置の方が平行配置よりも被加熱対象の加熱の均一性が低下してしまうことを意味するといえる。すなわち、本願発明における発熱のメカニズムは、いわゆる抵抗加熱であると解されるところ、L字形配置では、一の電極層上において、電流が流れる経路の長さが、平行配置とは異なり、必然的に互いに大きく異なることになるから、その結果として、経路ごとに抵抗の値が異なることになり、それに応じて定まる発熱量も異なってしまうことからみて明らかである。
このように、請求人が主張する要因を根拠付ける技術常識が存在するとはいえない一方で、抵抗加熱の均一性の観点においてはL字形配置が平行配置と比べて不利と考えられることから、請求人が主張する効果は、技術常識に照らして首肯できるものではない。
請求人は、L字形配置の効果が、特に被加熱対象のアスペクト比が大きい場合に有効であるとも主張するが、前記(ア)で説示したとおり、本願明細書等の記載に基づくものではないし、それをおくとしても、上記したとおり、そのような効果があるとは認められない。さらにいえば、仮に、そのような効果が存在するとしても、本願発明には、被加熱対象のアスペクト比が大きいことは特定されていないから、請求人の主張は、本願発明の特定事項に基づかないものに帰することになる。
(ウ) さらに請求人は、L字形配置において、2つの高導電性バーを電極層の異なる面(下部電極層であれば内面と側面)に配置すると、被加熱対象が全体としてより均一に加熱される可能性がある旨主張するが、同様の議論が成り立つほか、むしろ、本願発明には、第1の高導電性バーが、2つとも「下部電極層の第2の部分の内面」に設置されており、第2の高導電性バーが、2つとも「前記上部電極層の表面」に設置されていることが特定されていることから、請求人の主張は、本願発明の特定事項に整合しないものともいえる。
ウ 請求人は、判然としないものの、前記イ(ウ)で主張したところの、L字形配置において、2つの高導電性バーを電極層の異なる面に配置することによって、容易に短絡の原因となるブリッジ電流経路を防ぐ効果がある旨主張しているようである。
しかしながら、本願明細書等には、上記のような2つの高導電性バーの配置の仕方については記載されていない。さらに、この配置の仕方が本願発明の特定事項と整合しないことも、前記イ(ウ)で説示したとおりである。
(6) 小括
以上によれば、本願発明は、引用発明及び前記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-007984