特許拒絶査定不服審判
2023-010575
調光積層体及び調光積層体用樹脂スペーサ
- 審判番号
- 2023-010575
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-512013外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2023年06月26日
- 審決日
- 2025年06月13日
- 公報発行日
- 2025年09月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】積水化学工業株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人大阪フロント特許事務所
- 分類
- P18 .121-WZ (G02F)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019-512013「調光積層体及び調光積層体用樹脂スペーサ」拒絶査定不服審判事件〔令和元年7月25日国際公開、WO2019/142719〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
1 手続の経緯
本願は2019年(平成31年)1月10日(優先権主張 平成30年1月17日。以下「優先日」という。)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。
令和4年 9月 1日付け:拒絶理由通知書
同年11月10日 :意見書及び手続補正書の提出
令和5年 1月27日付け:拒絶理由通知書(最後)
同年 3月 1日 :意見書及び手続補正書の提出
同年 5月12日付け:補正の却下の決定及び拒絶査定(以下「原査定」という。)
同年 6月26日 :審判請求書及び手続補正書の提出
同年 8月 1日付け:前置報告書
令和5年 9月 1日 :上申書の提出
令和6年 9月19日付け:拒絶理由通知書(以下「当審拒絶理由通知書」という。)
同年11月22日 :意見書及び手続補正書の提出
2 本願発明
本願の請求項1~8に係る発明(そのうち請求項7に係る発明を以下「本願発明」という。)は、令和6年11月22日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)後の請求項1~8に記載された事項により特定されるものであると認められるところ、その請求項7の記載は、次のとおりである。
<本願発明>
「複数の樹脂粒子であり、
前記樹脂粒子の10%K値が、4350N/mm2以下であり、
前記樹脂粒子の平均粒子径の1.4倍以上の粒子径を有する樹脂粒子を含まないか、又は、前記樹脂粒子の全個数100%中、前記樹脂粒子の平均粒子径の1.4倍以上の粒子径を有する樹脂粒子を0.0006%以下で含み、
曲率が300R以上1800R以下である曲面部を有する調光積層体に用いられる樹脂スペーサである、調光積層体用樹脂スペーサ。」
3 当審拒絶理由の概要
本願発明は、本件補正前の請求項7に係る発明に対応するものであるところ、当審拒絶理由通知書で通知した拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)は、本件補正前の請求項7に係る発明に対する、次の理由を含むものである。
この出願の請求項7に係る発明は、優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて、優先日日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1:特開2002-166228号公報
引用文献2:特開2017-211629号公報(周知技術を示す文献)
引用文献3:再公表特許第2008/007788号(周知技術を示す文献)
4 当審の判断
(1) 引用文献1に記載された事項及び引用発明等の認定
ア 引用文献1に記載された事項
当審拒絶理由で引用された特開2002-166228号公報(引用文献1)には、次の記載がある(下線は当合議体が付した、以下同じ。)。
「【請求項1】 微粒子をメッシュを通して篩い分ける分級工程を有する微粒子の製造方法であって、前記メッシュは、前記微粒子の平均粒径の1.7~3倍の開孔径を有し、金属からなり、且つ、メッキ法により製造された目開きのしないものであり、分級された微粒子は、平均粒径の1.7倍以上の粒径を有する微粒子の含有率が1ppm以下であることを特徴とする微粒子の製造方法。
【請求項2】 請求項1記載の微粒子をメッシュを通して篩い分ける分級工程を有する微粒子の製造方法であって、前記メッシュは、前記微粒子の平均粒径の1.2~1.7倍の開孔径を有し、金属からなり、且つ、メッキ法により製造された目開きのしないものであり、分級された微粒子は、平均粒径の1.7倍以上の粒径を有する微粒子の含有率が1ppm以下であって、平均粒径の1.2倍以上の粒径を有する微粒子の含有率が5ppm以下であることを特徴とする微粒子の製造方法。
【請求項3】 請求項1又は2記載の微粒子の製造方法により得られることを特徴とする微粒子。」
「【請求項6】 10%K値が4900~9800MPaであり、9.8mN荷重時の回復率が50%以上であり、且つ、平均粒径の1.7倍以上の粒径を有する微粒子の含有率が1ppm以下であり、平均粒径の1.2倍以上の粒径を有する微粒子の含有率が5ppm以下であることを特徴とする微粒子。」
「【請求項8】 請求項3、4、5、6又は7記載の微粒子を用いてなることを特徴とする液晶表示素子用スペーサ。」
「【0006】一方で表示画面の大型化や高品質化に伴い、耐振動性が要求されるようになってきている。耐振動性が低い場合、液晶表示素子に振動を与えた際にスペーサが移動し、これによって、配向膜に傷を付けたり液晶分子の配向乱れをひき起こす。また、スペーサの移動によりセルギャップが不均一となり表示不良が発生する。この耐振動性を向上するためには使用されるスペーサの10%K値を高くすることが必要であり、10%K値を高くすることで振動時にスペーサに応力が加わった際の変形が少なくなり移動が生じにくくなる。しかし、逆に10%K値が高いほど大粒子の影響が顕著にあらわれるようになり、特に平均粒径の1.2倍以上の微粒子があると表示ムラ等の表示品質の低下に影響を及ぼすことがわかった。すなわち、10%K値が低いと平均粒径の1.2倍程度の微粒子が数ppm混在していてもセル作製時の加圧である程度変形し、セルギャップに大きな影響を与えないが、10%K値が高くなるに従って微粒子の変形が生じにくくなり、セルギャップの均一性が損なわれることがわかった。
【0007】また、10%K値が高くても回復率が低いと、いったん変形したセルギャップの変位が戻ることなく表示ムラ等の原因となりうる。特に振動試験の場合は衝撃が繰り返し与えられるので、一度変形した微粒子が回復する前に次の衝撃を受け、その変位は更に大きくなる。この時平均粒径の1.2倍以上の微粒子が存在すると通常の微粒子よりも大きな歪みを生じ、微粒子が破壊したり、基板との接触面積を大きくしたまま移動することで、配向膜に広い範囲で大きな損傷を与えてしまう。
【0008】例えば、特開平5-64964には、微粒子に重合性単量体を含浸・膨潤させて製造するいわゆるシード重合法が記載されている。この方法を用いると均一性の高い粒径分布を有する微粒子を得ることができるが、平均粒径の1.2~1.3倍に相当する微粒子を少なからず含有するという欠点がある。即ち、微粒子の調製段階・重合段階で微粒子同士の合着が発生し、例えば粒径のほぼ同等な2つの微粒子が合着した場合、体積が約2倍、粒径がその三乗根となる平均粒径の1.2~1.3倍の大粒子を高確率で含有することとなる。このため特に大型パネルの液晶表示素子にこれらのスペーサを用いた際に、1.7倍以上の粒径を有する微粒子が1ppm以下であっても混在する平均粒径の1.2~1.3倍の大粒子のために耐振動性を損なうことが考えられる。
【0009】一方、実装導電性材料の分野においては、従来はその電極間が20~50μmと、比較的その線間幅が広く設計されていた。しかしながら、近年その集積度が増すにつれ、線間のピッチが短くなり、10~15μmの幅が要求されるようになってきた。例えば、電極間のピッチが10μmにおいて、直径が6μmの導電性微粒子を用いた場合に、その1.7倍の直径の微粒子がある程度含まれると、線間での導通、即ち、横方向の導通が生じるため導通不良となる。このため、導電性微粒子の粒径の均一性が要求される。
【0010】工業化レベルで入手できる導電性微粒子を分析すると、導電性微粒子の平均球径の1.7倍以上の粒径を有する大粒子が10ppm以上存在することが判っている。このような導電性微粒子を用いて導電性シートを作製し、更にこれをファインピッチの実装導電体として組み込むと、横方向の導通が発生し、導通不良となる。上記液晶表示素子用スペーサ、導電性微粒子等においては、微粒子の粒径分布の標準偏差を小さくするとともに、上記大粒子の混入を防ぐ必要がある。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記現状に鑑み、粒径の揃った微粒子の製造方法、それを用いて製造される微粒子、液晶表示素子用スペーサ、液晶表示素子、導電性微粒子及び導電性シートを提供することを目的とする。」
「【0014】一方合成樹脂等の有機材料からなる微粒子を使用する場合、種々の帯電特性を有する単量体を任意に混合できること、又は、液晶と熱膨張率が大きく異ならないこと等の理由から合成樹脂等の有機材料が微粒子の材料として特に好適に用いられる。分級工程で篩い分けられる微粒子は、公知の方法により製造された後、分級工程に供される。」
「【0033】本発明3の微粒子は、10%K値が4900~9800MPaであるものである。10%K値が4900MPa未満であると、粒子の強度が充分でないため、このような微粒子を液晶表示素子用スペーサとして用いると、液晶表示装置を組む際に微粒子が破壊されて適切なギャップとならないことがある。逆に10%K値が9800MPaを超える微粒子を液晶表示素子用スペーサとして用いると、液晶表示装置に組み込んだ際に、低温発泡等の異常を発生することがある。更に耐振動性を考えると10%K値が4900MPa未満であると、衝撃を与えた場合、液晶表示素子用スペーサとして用いた微粒子が変形し、振動変位が大きくなり微粒子の移動が発生しやすくなるため好ましくない。また、10%K値が9800MPaを超えるとその機械的強度が強すぎ、配向膜にめり込んだり傷を付けやすくなる。好ましくは5880~8820MPaである。
【0034】このような粒子の強度が高い微粒子を液晶表示素子用スペーサとして用いて、液晶表示素子を作製する場合、いわゆる大粒子の影響を顕著に受けやすい。すなわち、10%K値が4900MPa未満であると、平均粒径の1.7倍以上の大粒子が存在するとギャップ不良が発生しやすいが、1.2倍程度の粒子がある程度存在しても、粒子強度が低いためセル作製時の加圧時に変形しギャップ不良として現れにくい。しかし10%K値が9800MPaを超えると、平均粒径の1.7倍以上の大粒子ばかりでなく、1.2倍程度の粒子でも、粒子強度が高いためセル作製時の加圧時に変形しにくいことから、ギャップ不良があらわれる。特にIPS型パネルのように高いギャップ精度が求められる場合、影響を受けやすい。
【0035】本発明3の微粒子は、9.8mN荷重時の回復率が50%以上のものである。9.8mN荷重時の回復率(R)は、10%K値測定の場合と同じく微小圧縮試験器を用いて原点荷重値を0.98mN、圧縮硬度0.28mN/秒で9.8mNまで圧縮した後、同様に0.28mN/秒で負荷を除くことによって測定されるものである。Rは、原点荷重時の変位と9.8mN荷重変位との差(L1)に対する最高荷重変位と原点荷重復帰時との変位の差(L2 )より次式により定義される。
R=(L1/L2)×100(%)
回復率が高ければ、液晶表示素子用スペーサとして用いた場合に、繰り返される振動に対しても、微粒子の変位が基板の変位に追従することができるため、微粒子の移動が生じにくくなる。回復率が50%未満であると基板の変位に追従できなくなり微粒子の移動が発生することがある。好ましくは60%以上である。
【0036】本発明3の微粒子は、平均粒径の1.7倍以上の粒径を有する微粒子の含有率が1ppm以下であり、平均粒径の1.2倍以上の粒径を有する微粒子の含有率が5ppm以下であるものである。例えば、平均粒径の1.7倍以上の粒径を有する微粒子の含有率が1ppmを超えると、顕著なギャップムラが発生し致命的な欠陥となる。平均粒径の1.2倍以上1.7倍未満の微粒子の含有率が5ppmを超える微粒子を液晶表示素子用スペーサに用いると、セルギャップが不均一となり、表示ムラ等が顕著に現れることがある。また、液晶表示素子用スペーサとして用いた微粒子の移動が発生し、配向膜に傷を付けたり液晶分子の配向乱れをひき起こすことがある。平均粒径の1.7倍以上の粒径を有する微粒子の含有率が1ppm以下であり、平均粒径の1.2倍以上の粒径を有する微粒子の含有率が5ppm以下であると、表示ムラ、スペーサ移動等が大きく改善される。より好ましくは、1.2倍以上の微粒子の個数が0である。」
「【0072】(比較例6)純水1000gにポリビニルアルコール(日本合成化学工業社製、GH-20)50gを溶解し、この溶液にジビニルベンゼン70g、テトラエチレングリコールジアクリレート30g、及び、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル3gの混合液を加えホモジナイザーで分散させた。その後攪拌しながら窒素還流下、92℃まで昇温し、6時間加熱して高架橋微粒子を得た。得られた高架橋微粒子を精製、分級し、平均粒径が4.09μm、平均粒径の標準偏差が3.0%、10%K値が4312MPa、9.8mN荷重時の回復率が46%である微粒子を得た。」
イ 引用発明の認定
前記アより、引用文献1には、請求項6の記載を引用する請求項8に記載された液晶表示素子用スペーサであって、当該スペーサに用いられる微粒子が合成樹脂等の有機材料からなる態様であるものについて(【0014】)、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、参考までに、引用発明の認定に用いた引用文献1の記載等に係る段落番号を括弧内に付してある。
<引用発明>
「10%K値が4900~9800MPaであり、9.8mN荷重時の回復率が50%以上であり、且つ、平均粒径の1.7倍以上の粒径を有する微粒子の含有率が1ppm以下であり、平均粒径の1.2倍以上の粒径を有する微粒子の含有率が5ppm以下である微粒子を用いてなる液晶表示素子用スペーサであって、(【請求項6】及び【請求項8】)、
前記微粒子は合成樹脂等の有機材料からなり、(【0014】)
より好ましくは、平均粒径の1.2倍以上の微粒子の個数が0である、(【0036】)
液晶表示素子用スペーサ。」
(2) 対比(一致点及び相違点の認定)
ア 本願発明の「調光積層体用樹脂スペーサ」との特定事項について
引用発明に用いられる「微粒子」は、「合成樹脂等の有機材料からな[る]」ものである。そうすると、本願発明の「調光積層体用樹脂スペーサ」と引用発明の「液晶表示素子用スペーサ」とは、「樹脂スペーサ」である点で共通するといえる。
イ 本願発明の「複数の樹脂粒子であり、」との特定事項について
引用発明の「微粒子」は、「合成樹脂等の有機材料からな[る]」ものであるから、本願発明の「樹脂粒子」に相当する。そして、引用発明の「微粒子」は、「液晶表示素子用スペーサ」に用いられるものであるから、複数であることは明らかといえる。
したがって、引用発明は、本願発明の前記特定事項を満たしている。
ウ 本願発明の「前記樹脂粒子の10%K値が、4350N/mm2以下であり、」との特定事項について
引用発明の「微粒子」は、「10%K値が4900~9800MPa」であり、「1N/mm2」は「1MPa」である。
したがって、引用発明は、本願発明の前記特定事項を満たしているとはいえない。
エ 本願発明の「前記樹脂粒子の平均粒子径の1.4倍以上の粒子径を有する樹脂粒子を含まないか、又は、前記樹脂粒子の全個数100%中、前記樹脂粒子の平均粒子径の1.4倍以上の粒子径を有する樹脂粒子を0.0006%以下で含み、」との特定事項について
引用発明の「微粒子」は、「より好ましくは、平均粒径の1.2倍以上の微粒子の個数が0である」から、平均粒径の1.4倍以上の微粒子を含まない態様を含む構成を特定している。そうすると、引用発明は、本願発明でいう「前記樹脂粒子の平均粒子径の1.4倍以上の粒子径を有する樹脂粒子を含まない」ものといえる。
また、引用発明の「微粒子」は、「平均粒径の1.2倍以上の粒径を有する微粒子の含有率が5ppm以下」であるから、平均粒径の1.4倍以上の微粒子の含有率は、最大でも、「5ppm以下」であることになる。そして、1ppmは0.0001%である。そうすると、引用発明は、本願発明でいう「前記樹脂粒子の全個数100%中、前記樹脂粒子の平均粒子径の1.4倍以上の粒子径を有する樹脂粒子を0.0006%以下で含」むものといえる。
したがって、引用発明は、本願発明の前記特定事項を満たしている。
オ 本願発明の「曲率が300R以上1800R以下である曲面部を有する調光積層体に用いられる樹脂スペーサである、」との特定事項について
本願発明の「調光積層体」と引用発明の「液晶表示素子」は、表示部材である点で共通することから、本願発明と引用発明は、表示部材に用いられる「樹脂スペーサ」である点で共通する。
カ 以上を総合すると、本願発明と引用発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「複数の樹脂粒子であり、
前記樹脂粒子の平均粒子径の1.4倍以上の粒子径を有する樹脂粒子を含まないか、又は、前記樹脂粒子の全個数100%中、前記樹脂粒子の平均粒子径の1.4倍以上の粒子径を有する樹脂粒子を0.0006%以下で含み、
表示部材に用いられる樹脂スペーサである、
樹脂スペーサ。」
<相違点>
・相違点1
「樹脂スペーサ」が用いられる表示部材が、本願発明は、「曲率が300R以上1800R以下である曲面部を有する調光積層体」であるのに対し、引用発明は、「液晶表示素子」である点。
・相違点2
本願発明は、「樹脂粒子の10%K値が、4350N/mm2以下」であるのに対し、引用発明は、「合成樹脂等の有機材料」からなる「微粒子」の「10%K値が4900~9800MPa」である点。
(3) 判断
ア 相違点1及び2について
(ア)a 引用発明から出発した当業者が、相違点1及び2に係る本願発明の構成に至るためには、(i)「スペーサ」の用途を「液晶表示素子」用から高分子分散型の調光装置(本願発明の「調光積層体」に相当するといえる。)用へと転用することに想到するとともに、(ii)「スペーサ」を構成する「合成樹脂等の有機材料」からなる「微粒子」について、本願発明でいう「10%K値」を、「4350N/mm2以下」とすれば足りる。
b ここで、相違点1に係る本願発明の構成には、「樹脂スペーサ」が「曲率が300R以上1800R以下である曲面部を有する調光積層体に用いられる」ことも含まれているが、このことのうち、少なくとも「曲率が300R以上1800R以下である曲面部を有する」ことに係る発明特定事項は、以下のとおり、発明を特定する意味を持たないと解される。
すなわち、当該発明特定事項は、「調光積層体に用いられる樹脂スペーサ」における「調光積層体」を特定しようとするものであるところ、これは、用途をもって樹脂スペーサを特定しようとする、いわゆる用途限定に該当すると解される。そして、このような用途限定が発明を特定する事項として意味をもつためには、
(a) その用途に特に適した構造等を意味すると解することができること、
又は、
(b) いわゆる用途発明と解することができること(そのためには、ある物の未知の属性を発見したことに加えて、この属性により、その物が新たな用途への使用に適することを見いだしたことが必要である。)、
のいずれかが必要であるが、その一方で、両者のいずれとも解することができない場合には、当該発明特定事項は、発明を特定する事項として意味をもたないというべきである。
しかるに、前記発明特定事項を、前記(a)のとおりに解する余地はないのであり、このことは、調光積層体が曲面部を有しようが有しまいが、(調光積層体に用いられる)樹脂スペーサとしては、その構造等に変化がないことからみて、明らかである。
さらに、前記発明特定事項を、前記(b)のとおりに解する余地もない。すなわち、本願発明は、樹脂スペーサについて、それが当然に備えるスペーサとしての属性を用いるにすぎないことから、何らかの未知の属性を発見したことによるものとはいえない。また、樹脂スペーサを調光積層体に用いることは例示するまでもなく周知技術であり、調光積層体に曲面部を有するものが存在することも同様であることから、本願発明が、(調光積層体に用いられる)「樹脂スペーサ」という物の既存の用途を超える新たな用途を提供したともいえない。
したがって、前記発明特定事項は、発明を特定する事項として意味を持たないものと解するのが相当である。
(イ)a 以上を踏まえて検討すると、まず、引用発明を開示する引用文献1には、粒径の揃った微粒子に係る技術的事項(例えば【0011】)が記載されているところ、この微粒子の用途については、液晶表示素子用スペーサのみが記載されているにとどまる。
しかしながら、液晶表示素子用のスペーサが調光素子用にも用いられることは周知技術である(必要であれば、特開平6-202086号公報の【0009】、特開平4-146415号公報の3頁右上欄13~19行)と認められ、また、スペーサが高分子分散型といった調光装置においても用いられることは技術常識(必要であれば、特開平6-202086号公報の【0001】・【0009】、特開平4-146415号公報の2頁右下欄7行~10行・3頁右上欄13~19行)と認められ、また、スペーサが高分子分散型といった調光装置においても用いられることは技術常識(必要であれば、特開平6-202086号公報の【0001】・【0009】等、特開平4-146415号公報の2頁右下欄7行~10行・3頁左上欄13~19行、及び、特開2004-354468号公報の【0035】・【0037】等を参照。)であると認められる。
b 次に、引用発明には、スペーサに係る微粒子について、平均粒径の1.7倍以上の粒径を有する微粒子」及び「平均粒径の1.2倍以上の粒径を有する微粒子」という大粒子の含有率に係る観点に加えて、当該微粒子の「10%K値」及び「9.8mN荷重時の回復率」(以下、単に「回復率」ということがある。)という観点が特定されているものの、以下のとおり、当業者は、後者の観点は、前者の観点に比べると重視されなくて差し支えないと認識できる。
(a) 引用発明の技術的意義は、次のとおりであると認められる。
液晶表示素子用スペーサにおいて、平均粒径の1.2倍以上1.7倍未満のスペーサがあると表示ムラ等の表示品質の低下に影響を及ぼし、同じく1.7倍以上のスペーサがあるとギャップムラによる致命的な欠陥を生じることがわかった(【0004】)。一方で、耐振動性の観点では、スペーサに応力が加わった際の変形を少なくするべく10%K値を高くすることが必要であるが、その値が高いほど、セル作製時の加圧による微粒子の変形が生じにくくなり、そのため、大粒子、特に平均粒径の1.2倍以上の微粒子があると表示品質の低下に影響を及ぼすことがわかった(【0006】)。さらには、スペーサの10%K値が高くても回復率が低いといったん変形したセルギャップの変位が戻ることがなく表示ムラ等の原因となりうるのであり、振動試験の場合、平均粒径の1.2倍以上の微粒子が存在すると通常の微粒子よりも大きな歪みを生じ、微粒子が破壊されたり、基板との接触面積を大きくしたまま移動することで、配向膜に広い範囲で大きな損傷を与えてしまったりする(【0007】)。
そこで、引用発明では、微粒子の10%K値を「4900~9800MPa」というある程度の高さとしており、下限未満とならないことにより、液晶表示装置を組む際に微粒子が破壊されるのを防ぎつつ耐振動性を確保するとともに、上限を超えないことによりその機械的強度が強すぎ配向膜にめり込んだり傷を付けやすくなったりするのを防ぐこととした(【0033】・【0034】)。さらに、引用発明では、回復率を50%以上とすることにより、やはり耐振動性を確保した(【0035】)。加えて、引用発明では、平均粒径の1.7倍以上の粒径を有する微粒子の含有率が1ppm以下であり、平均粒径の1.2倍以上の粒径を有する微粒子の含有率が5ppm以下であり、より好ましくは、平均粒径の1.2倍以上の微粒子の個数が0であるとすることにより、顕著なギャップムラが発生し致命的な欠陥を生じること、セルギャップが不均一となり表示ムラ等が顕著に現れること、スペーサ移動等を、大きく改善させることができた(【0036】)。
そして、実施例4及び5は、初期表示ムラ、衝撃後の表示ムラ及び衝撃後の粒子移動のいずれもほとんどないものの、比較例6では、10%K値が4312MPa、回復率が46%の特定の樹脂からなる微粒子であって、平均粒径の1.2倍以上に相当する大粒子の存在比率が1.9ppmであり、同じく1.7倍以上に相当する大粒子の存在比率が0ppmのスペーサが、初期表示ムラがわずかに発生し、衝撃後の表示ムラが顕著に増大し、衝撃後の粒子移動が顕著であってスペーサ密度にムラが発生したものとされている(【0065】・【0066】・【0068】~【0070】・【0072】・【0073】・【0076】)。
(b) 前記(a)によれば、引用発明は、要するに、10%K値及び回復率が所定の値よりも低い微粒子を液晶表示素子用スペーサとして用いると、液晶表示装置を組む際に微粒子が破壊されたり、耐振動性、つまり、衝撃を与えたとき微粒子が変形して微粒子の移動が発生しやすくなるのを抑制する性質(【0006】・【0033】)が確保されなかったりすることから、これを防ぐとともに、平均粒径の1.2倍以上の大粒子の混入を防いでセルギャップの不均一及び顕著なギャップムラを防ぐものといえる。
もっとも、引用発明はスペーサに係るものであるから、セルギャップの均一性の確保がまずは重要であるのが明らかであり、このことは、引用発明を開示する引用文献1の【0025】には、微粒子の10%K値及び回復率の値が記載されることなく、平均粒径の1.7倍以上の粒径を有する微粒子の含有量が1ppmであり、平均粒径の1.2倍以上の粒径を有する微粒子の含有率が5ppm以下である微粒子は、スペーサとして用いた場合、液晶表示素子のギャップが不均一となり、更には、表示ムラ等が顕著に現れることが記載されており、また、実施例2、実施例3、比較例2及び比較例3でも、同じく微粒子の10%K値及び回復率の値が記載されることなく、表示ムラが評価されていることからみても首肯できる。
(c)以上のとおりであるから、引用発明及びそれを開示する引用文献1の記載に接した当業者は、10%K値及び回復率という耐振動性と組立て時の微粒子破壊防止に係る観点が、大粒子の含有率の観点よりも重視されなくて差し支えないことを認識できるといえる。
c さらに、高分子分散型といった調光装置は、高分子マトリクスに液晶等の調光要素が分散された構成であることが技術常識である。
d このように、引用発明は、液晶表示素子用スペーサに係るものであって、大粒子の含有率の観点と10%K値及び回復率という耐振動性と組立て時の微粒子破壊防止に係る観点が特定されているところ、液晶表示素子用スペーサが調光素子用にも用いられるのが周知技術であること、スペーサが高分子分散型といった調光装置にも用いられるのが技術常識であること、引用発明及びそれを開示する引用文献1の記載に接した当業者は、耐振動性(衝撃を与えたとき微粒子が変形して微粒子の移動が発生しやすくなるのを抑制する性質)及び組立て時の微粒子破壊防止に係る観点が、大粒子の含有率の観点よりも重視されなくて差し支えないことを認識できること、引用発明を開示する引用文献1には、大粒子の含有率の観点は満たしているものの、耐振動性及び組立て時の微粒子破壊防止に係る観点を満たしていない、10%K値が4312MPa、回復率が46%の特定の樹脂からなる微粒子を用いた比較例が記載されていること、に照らせば、引用発明から出発した当業者は、スペーサの用途を「液晶表示素子用」から「高分子分散型といった調光装置用」とするとともに、その際に、スペーサに係る微粒子として上記の比較例で使用されたような樹脂を用いることを適宜なし得たといえる。そして、このことは、高分子分散型といった調光装置には、前記cのとおり、高分子マトリクスが存在することから、微粒子が移動する可能性は低く、そのため、耐振動性の観点はより劣後させてもよいことや、組立て時の微粒子破壊防止の観点といっても、程度問題にすぎないし、いずれにせよ、組立ての仕方によって解消できると考えられることからみて、ますます明らかである。
e 以上のとおりであるから、引用発明から出発した当業者は、(i)及び(ii)に容易に至ることになり、その結果、相違点1及び2に係る本願発明の構成に至ったことになる。
(ウ) 仮に、前記(ア)とは異なり、「曲率が300R以上1800R以下である曲面部を有する」ことに係る発明特定事項が発明を特定する事項として意味をもつと解するとしても、引用発明から出発した当業者が、「樹脂スペーサ」を「曲率が300R以上1800R以下である曲面部を有する調光積層体」に用いるようにすることは、適宜なし得たことである。
すなわち、形状が平板状である一般的な調光装置は、その形状が所定の曲面部を有するものとされることも通常であること(例えば、当審拒絶理由で引用された特開2017-211629号公報の【0009】及び再公表特許第2008/007788号の【0004】、更に必要であれば、前記特開2004-354468号公報の【図1】参照。)から、引用発明の液晶表示素子用スペーサに係る液晶表示素子を、そのような所定の曲面部を有する調光装置とすることは、当業者が適宜設計し得たことである。その際の曲率として、上記で特定された程度の数値も通常の程度のもの(必要であれば、特開2017-211629号公報の【0095】(なお、この数値は、調光セル22が貼付される光透過プレート21のものであるが、【0065】の記載からみて、調光セル22の曲率も同程度になっていると解される。)及び再公表特許第2008/007788号の【0020】、【0076】を参照。)にすぎない。
したがって、引用発明から出発した当業者が、「樹脂スペーサ」を「曲率が300R以上1800R以下である曲面部を有する調光積層体」に用いるようにすることは、適宜なし得たことである。
(エ) 以上のとおり、引用発明から出発した当業者は、相違点1及び2に係る本願発明の構成に容易に至る。
イ 本願発明の効果について
(ア) 本願発明の効果のうち、色むらや光抜けの発生を効果的に抑制することができること(本願の明細書及び図面(以下「本願明細書等」という。)の【0024】)は、引用発明も奏するものであるか、そうでないとしても、引用発明、引用文献1に記載された技術的事項及び周知技術に基づいて当業者が予測し得たものであり、格別顕著なものともいえない。
(イ) 本願発明の効果のうち、調光積層体が曲面部を有する場合でも、樹脂粒子の粒子径が均一であるので、基材間のギャップの均一性を確保できること(本願明細書等の【0032】)は、それに係る発明特定事項である「曲率が300R以上1800R以下である曲面部を有する」点が、前記ア(ア)bのとおり、発明を特定する意味をもたないものであるから、本願発明の特定事項に基づかないものに帰する。
仮に、上記発明特定事項が発明を特定する意味をもつとしても、その効果は、引用発明、引用文献1に記載された技術的事項及び周知技術に基づいて当業者が予測し得たものであり、格別顕著なものともいえない。すなわち、上記の曲率の数値範囲の技術的意味は、本願明細書等に明記はない(なお、【0138】及び【0141】には、曲率として「3mmR」が記載されているが、この値は、本願発明で特定された数値範囲外である。)ところ、その上限は調光積層体が(平面状ではなく)曲面状といえる数値を設定したにすぎないものであり、その下限はそれよりも曲率が小さくなるとギャップの均一性を確保できなくなることにあると解される。しかるに、引用発明に係る液晶表示素子用スペーサも粒径のそろった微粒子であり、そうである以上、ギャップの均一性を確保しやすいことは当業者にとって自明であるし、また、曲面部の曲率が小さいほど基材間のギャップの均一性を確保するのがより困難となることも、当業者にとって自明といえる。
ウ 審判請求人の主張について
(ア) 審判請求人は、引用発明に係る微粒子の10%K値は「4900~9800MPa」であることから、この範囲を逸脱する動機はなく、むしろ、4350N/mm2以下にすることには阻害要因がある旨を主張している。
しかしながら、前記ア(イ)b(b)で説示したとおり、引用発明を開示する引用文献1には、微粒子の10%K値及び回復率の値が記載されることなく、平均粒径の1.7倍以上の粒径を有する微粒子の含有量が1ppmであり、平均粒径の1.2倍以上の粒径を有する微粒子の含有率が5ppm以下である微粒子は、スペーサとして用いた場合、液晶表示素子のギャップが不均一となり、更には、表示ムラ等が顕著に現れることが記載されていることにも照らせば、当業者であれば、10%K値及び回復率については、大粒子の含有率よりも重視されないことを理解できる。そして、そうである以上、どのような樹脂を用いるかは、設計事項にすぎないというべきである。
(イ) さらに審判請求人は、本願発明では、微粒子の10%K値が4350N/mm2以下であることから、基材の傷付きをより一層効果的に防止できる旨主張している。
しかしながら、本願明細書等の【0071】には、その技術的意味について、1000N/mm2以上、より好ましくは3000N/mm2であると、調光積層体において基材間のギャップをより一層均一にすることができ、10000N/mm2以下、より好ましくは7000N/mm2以下とすると、基材の傷付きをより一層効果的に防止できることが記載されているにとどまり、「4350N/mm2以下」としたことによる技術的意味は、具体的には説明されていないことから、結局のところ、上記の特定は、基材の傷付き防止を単に重視したにすぎないということにとどまり、特段の臨界的意義を奏するわけではない。そうすると、このような特定によって本願発明の進歩性を認めることは相当ではない。
エ 小括
以上の検討によれば、本願発明は、引用発明、引用文献1に記載された技術的事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-010575