特許異議申立
2023-701399
植物由来ポリエチレン系樹脂を用いたフィルムおよび包装袋
- 審判番号
- 2023-701399
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-224973
- 登録番号
- 7300379
- 請求日
- 2023年12月28日
- 審決日
- 2024年11月08日
- 公報発行日
- 2025年02月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】大日本印刷株式会社
- 【権利者代理人】結田 純次
- 【権利者代理人】竹林 則幸
- 【権利者代理人】守安 智
- 【異議申立人】野口 操
- 審判長/審判官
- 審判長 金丸 治之
- 審判官 稲葉 大紀
- 審判官 藤井 眞吾
- 分類
- P1651.121-YAA(B65D) / P1651.537-YAA(B65D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7300379号発明「植物由来ポリエチレン系樹脂を用いたフィルムおよび包装袋」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7300379号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。
特許第7300379号の請求項1~5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7300379号(以下「本件特許」という。)の請求項1~5に係る特許についての出願は、平成24年1月26日に出願した特願2012-13847号の一部を、平成29年6月9日に新たな特許出願とした特願2017-113977号の一部を、さらに平成30年5月7日に新たな特許出願とした特願2018-89106号の一部を、さらに令和1年11月6日に新たな特許出願とした特願2019-201109号の一部を、さらに令和1年12月13日に新たな特許出願としたものであって、令和5年6月21日にその特許権の設定登録がされ、令和5年6月29日に特許掲載公報が発行された。その後、請求項1~5に係る特許に対し、令和5年12月28日に特許異議申立人野口操(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。それ以降の経緯は以下のとおりである。
令和6年 5月10日付け 取消理由通知書
令和6年 7月 2日 訂正請求書及び意見書(特許権者)
令和6年 8月14日 意見書(申立人)
令和6年 9月10日付け 訂正拒絶理由通知書
令和6年10月 9日 意見書(特許権者)
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
訂正請求書(以下「本件訂正請求書」という。)による訂正の請求(以下、訂正自体を「本件訂正」という。)は、「特許第7300379号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~5について訂正することを求める。」ものであり、本件訂正の内容(以下「本件訂正事項」という。)は、次のとおりである。なお、下線は、当審が訂正箇所に付したものである。
(1)本件訂正事項
本件訂正前の請求項1に「該植物由来高密度ポリエチレンは放射性炭素年代測定C14の測定値から算定するバイオマス度80~100%を有し、
該植物由来高密度ポリエチレンは、メルトフローレートが4.1~8.0g/10分であり、
該ポリエチレン系樹脂組成物は、植物由来高密度ポリエチレンと植物由来直鎖状低密度ポリエチレンとの2つの樹脂を5~90質量%、及び、石油由来ポリエチレン系樹脂を10~95質量%含む組成物であり、」とあるのを
「該植物由来高密度ポリエチレンは放射性炭素年代測定C14の測定値から算定するバイオマス度80~100%を有し、
該植物由来高密度ポリエチレンは、メルトフローレートが4.1~8.0g/10分であり、
該ポリエチレン系樹脂組成物は、植物由来高密度ポリエチレンと植物由来直鎖状低密度ポリエチレンとの2つの樹脂を5~90質量%、及び、石油由来ポリエチレン系樹脂を10~95質量%含む組成物であり、
前記植物由来直鎖状低密度ポリエチレンは、コモノマー種がブテン-1、ヘキセン-1またはこれらの混合物であって、密度が910~925kg/m3、メルトフローレートが1.0~8.0g/10分の植物由来のエチレン-α-オレフィン共重合体であり、」に訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項2~5も同様に訂正する。)
(2)一群の請求項
本件訂正前の請求項1~5は、請求項2~5が、本件訂正前の請求項1の記載を引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項〔1~5〕について請求されたものである。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
本件訂正事項は、本件訂正前の請求項1に記載の「植物由来高密度ポリエチレン」のコモノマー種、密度及びメルトフローレートを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、本件特許明細書の【0051】には、本発明において、密度が910~925kg/m3、MFRが2.4~8.0g/10分の植物由来LLDPEを用いることにより、既存のフィルム製造工程で、石油由来のポリエチレン系樹脂と物性的に違いのないフィルムを製造することができることが記載されている。また、【0076】の実施例4、【0078】の実施例5、【0079】の実施例6において、MFRが1.0g/10分を含むポリエチレン系樹脂組成物において、引張強度と製造加工適性に優れていたことが示されている。そして、ポリエチレン系樹脂において、MFRが1.0g/10分を越えて2.4g/10分未満の範囲において、引張強度や製造加工適性が急変するという技術常識はない。
そうすると、本件特許明細書の記載を総合すると、本件発明1のポリエチレン系樹脂組成物が含む植物由来直鎖状低密度ポリエチレンとして、MFRが1.0~8.0g/10分のものを用いることが記載されているといえる。
したがって、本件訂正事項は、本件特許明細書の記載に基づく訂正であるから新規事項の追加に該当しない。
また、本件訂正事項は、本件訂正前の請求項1に係る発明の発明特定事項をさらに限定するものであり、さらに、発明のカテゴリーや対象を変更するものでもないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。
第3 訂正後の本件発明
上記のとおり、本件訂正は認められるから、本件訂正後の請求項1~5に係る発明(以下「本件発明1」等といい、まとめて「本件発明」という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
ポリエチレン系樹脂組成物からなる層を少なくとも1層含む多層構成のシーラントフィルム(但し、延伸フィルムを除く)であって、
該多層構成のシーラントフィルムは、該ポリエチレン系樹脂組成物からなる中間層と、石油由来ポリエチレン系樹脂からなる外層及び内層とを有し、
該ポリエチレン系樹脂組成物は、密度が941~965kg/m3である植物由来高密度ポリエチレンを含み、
該植物由来高密度ポリエチレンは放射性炭素年代測定C14の測定値から算定するバイオマス度80~100%を有し、
該植物由来高密度ポリエチレンは、メルトフローレートが4.1~8.0g/10分であり、
該ポリエチレン系樹脂組成物は、植物由来高密度ポリエチレンと植物由来直鎖状低密度ポリエチレンとの2つの樹脂を5~90質量%、及び、石油由来ポリエチレン系樹脂を10~95質量%含む組成物であり、
前記植物由来直鎖状低密度ポリエチレンは、コモノマー種がブテン-1、ヘキセン-1またはこれらの混合物であって、密度が910~925kg/m3、メルトフローレートが1.0~8.0g/10分の植物由来のエチレン-α-オレフィン共重合体であり、
フィルム全体に対して、植物由来ポリエチレン系樹脂の配合量が5~90質量%であり、石油由来ポリエチレン系樹脂の配合量が10~95質量%であることを特徴とする、上記シーラントフィルム。
【請求項2】
前記植物由来直鎖状低密度ポリエチレンは、密度が910~925kg/m3であり、植物由来エチレンと、石油由来コモノマーとのエチレン-α-オレフィン共重合体であって、該石油由来コモノマーは、ブテン-1、ヘキセン-1、またはこれらの混合物であることを特徴とする、請求項1に記載のシーラントフィルム。
【請求項3】
請求項1または2に記載のシーラントフィルムを、基材フィルムと積層させたことを特徴とする積層フィルム。
【請求項4】
請求項1または2に記載のシーラントフィルムを、基材フィルムと積層させた積層フィルムを用いてなる包装袋。
【請求項5】
前記包装袋は、詰め替え用スタンディングパウチであることを特徴とする、請求項4に記載の包装袋。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
当審において特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
取消理由(サポート要件)
本件特許は、請求項1~5の記載が次の点で発明の詳細な説明に記載したものではなく、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。
請求項1に係る発明は、植物HDPEを略0質量%、物性が何ら特定されていない植物LLDPEを略5%~略90質量%含む場合も包含することとなり、ポリエチレンの物性が加工適性に影響を及ぼすという技術常識を踏まえると、請求項1に係る発明は、本件発明の課題を解決しないものも含むことは明らかである。また、請求項1を引用する請求項2~5についても同様の点が指摘される。
2 当審の判断
(1)本件訂正により、本件発明1に係る植物由来高密度ポリエチレンが5~90質量%含む、植物由来高密度ポリエチレン(以下「植物HDPE」という。)と植物由来直鎖状低密度ポリエチレン(以下「植物LLDPE」という。)のうち、植物LLDPEについてもコモノマー種及び物性(密度及びメルトフローレート)が限定された。
そして、本件特許明細書には、本件発明が解決すべき課題として「再生可能資源である植物由来のポリエチレン系樹脂を原料に用いて、石油資源の節約を図ると共に、二酸化炭素の排出量削減による環境にやさしいフィルムおよび該フィルムを用いた加工適性に優れる包装袋を提供すること」(【0007】)が記載され、当該課題を解決するための手段として、「1.ポリエチレン系樹脂組成物からなる層を少なくとも1層含む多層構成のシーラントフィルムであって、該ポリエチレン系樹脂組成物は、密度が941~965kg/m3である植物由来高密度ポリエチレンを含み、該植物由来高密度ポリエチレンは放射性炭素年代測定C14の測定値から算定するバイオマス度80~100%を有し、フィルム全体に対して、植物由来ポリエチレン系樹脂の配合量が5~90質量%であり、石油由来ポリエチレン系樹脂の配合量が10~95質量%であることを特徴とする、上記シーラントフィルム。」(【0007】)が記載されている。
(2)また、発明を実施するための形態が【0023】~【0065】に記載されており、特に【0051】には「本発明において、ポリエチレン系樹脂組成物1中に含まれる植物由来ポリエチレン系樹脂として、コモノマー種がブテン-1、ヘキセン-1またはこれらの混合物であって、密度が910~925kg/m3、メルトフローレートが2.4~8.0g/10分の植物由来のエチレン-α-オレフィン共重合体(LLDPE)、または、密度が941~965kg/m3、メルトフローレートが2.4~8.0g/10分のHDPEを用いることにより、既存のフィルム製造工程で、石油由来のポリエチレン系樹脂と物性的に違いのないフィルムを製造することができる。したがって、包材の加工適性を損ねることなく原料を切替えることができる。」と記載されており、実施例が【0066】~【0086】に記載されている。
(3)ここで、植物LLDPEについて検討するに、実施例1(【0067】~【0073】)及び実施例2(【0074】)には、植物LLDPE(d(kg/m3)=0.918、MFR=2.7g/10分)を含む樹脂組成物を用いたシーラントフォルムが、良好な引張強度、製造加工適性及びシール強度の評価結果が得られたことが記載されている。
同様に、実施例4(【0076】~【0077】)、実施例5(【0078】)、実施例6(【0079】~【0080】)には、植物由来LLDPE(d=0.916、MFR=1.0g/10分)を含む樹脂組成物を用いたシーラントフィルムが、良好な引張強度、製造加工適性及びシール強度の評価結果が得られたことが記載されている。
そして、上記【0051】の記載及び実施例1、2、4~6の評価結果を踏まえると、本件特許明細書には、MFRが1.0~8.0g/10分の植物LLDPEを含む樹脂組成物を用いたシーラントフィルムは【0007】の本件課題を解決できることが示されているといえる。
(4)次に植物HDPEについて検討するに、実施例3(【0075】)には、植物HDPE(d=0.959、MFR=7.2g/10分)を含む樹脂組成物を用いたシーラントフィルムが、良好な引張強度、製造加工適性及びシール強度の評価結果が得られたことが記載されている。
そして、上記【0051】の記載及び実施例3の評価結果を踏まえると、本件特許明細書には、MFRが2.4~8.0g/10分の植物HDPEを含む樹脂組成物を用いたシーラントフィルムは【0007】の本件課題を解決できることが示されているといえる。
(5)そして、本件発明においては、シーラントフィルムを構成する樹脂組成物がMFRが4.1~8.0g/10分の植物HDPE、MFRが1.0~8.0g/10分の植物LLDPE、及び石油由来ポリエチレン系樹脂(以下「石油PE」という。)を含むことが特定されており、石油PEが植物HDPE及び植物LLDPEよりも引張強度、製造加工適性及びシール強度に優れるという技術常識を踏まえると、本件発明は、【0007】の本件課題を解決できることを、当業者であれば認識できる。
(6)そうすると、請求項1~5に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものである。
第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 申立理由の概要
申立人は、特許異議申立書に添付して甲第1号証~甲第34号証を提出し、以下の理由を申立てている(以下、甲第○号証を「甲○」という。)。
申立理由(進歩性)
本件特許の請求項1~5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証~甲第5号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、取り消すべきものである。
2 甲号証一覧
甲1:特開2004-315759号公報
甲2:特開2008-254758号公報
甲3:杉山英路、外1名、「地球環境にやさしい『サトウキビ由来のポリエチレン』」、コンバーテック、株式会社加工技術研究会、2009年8月15日発行、第37巻、第8号、通巻437号、63~65ページ
甲4:特開平8-25594号公報
甲5:特開2009-178958号公報
甲6:特開2000-43854号公報
甲7:特開2004-223728号公報
甲8:特開2011-20705号公報
甲9:特開平8-283480号公報
甲10:特開平10-24539号公報
甲11:特開平11-79240号公報
甲12:特開2008-80543号公報
甲13:異議2017-700366号の平成29年11月15日提出の意見書
甲14:カタログ「I’m Green」、ブラスケム社、2010年10月
甲15:「Linear Low Density Polyethylene SLL118」のデータシート、ブラスケム社、2011年4月
甲16:特開平11-335383号公報
甲17:Dennis B. Malpass、「Introduction to Industrial Polyethylene: Properties, Catalysts, Processes」、2010年6月、85~97ページ
甲18:「Licensed Polyolefin Technologies and Services”Spherilene」、[online]、lyondellbasell社のウェブサイト、[2023年11月27日検索]、インターネット
<URL:https://www.lyondellbasell.com/globalassets/products-technology/technology/spherilene-brochure.pdf>
甲19:本件特許出願の拒絶査定不服審判における令和4年11月15日付け拒絶理由通知書
甲20:本件特許出願の拒絶査定不服審判における令和5年1月6日提出の意見書
甲21:本件特許出願の拒絶査定不服審判における令和5年2月3日付け拒絶理由通知書
甲22:本件特許出願の拒絶査定不服審判における令和5年4月4日提出の手続補正書
甲23:本件特許出願の拒絶査定不服審判における令和5年4月4日提出の意見書
甲24:特開2003-12842号公報
甲25:特開2011-235486号公報
甲26:特開2001-31822号公報
甲27:特開2011-79263号公報
甲28:特開2003-243204号公報
甲29:特開平11-84597号公報
甲30:「エボリュー○R(当審注:「○R」は○の中にRの代用表記)」、[online]、株式会社プライムポリマーのウェブサイト、[2023年12月4日検索]、インターネット<URL: http://www.primepolymer.co.jp/product/pe/evolue.html>
甲31:特開2010-42665号公報
甲32:特開2010-208331号公報
甲33:「UBEポリエチレン(LDPE)」、[online]、宇部丸善ポリエチレン株式会社のウェブサイト、[2023年12月4日検索]、インターネット<URL: https://www.ube.co.jp/ump/products/property_ldpe.html>
甲34:日経バイオテク、日経BP社、2010年11月22日発行、第700号、p.17
3 当審の判断
(1)各甲号証に記載された事項、発明
ア 甲1
甲1の【請求項1】~【請求項4】、【0001】、【0036】、【0040】、【0045】~【0046】、【0050】、【0056】、【0058】【表1】を参照し、特に請求項1、3、4に着目すると、甲1には以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「MFRが0.5~5、密度が900~935kg/m3である線状低密度ポリエチレン樹脂2~50wt%と、MFRが0.4~50、密度が940~975kg/m3、分子量分布(Mw/Mn)が3~7であり、メタロセン触媒により製造される高密度ポリエチレン樹脂(A)98~50wt%を含むシーラント用高密度ポリエチレン樹脂組成物を用いたシーラント用フィルム。」
イ 甲3
甲3には以下の記載がある。なお、下線は当審が付した。また、「・・・」は記載の省略を表す。
(ア)「CO2(炭酸ガス)の増加による地球温暖化等の問題が明確になってきた。
・・・
ポリエチレン原料を従来の石油系原料から再生可能なサトウキビ(バイオマス系)に置き換えることは、植物の育成時のCO2吸収と燃焼時の排出が同一(カーボンニュートラル)になり、地球上のCO2を増やさないので地球環境にやさしく、また石油資源利用の節約にも貢献する。」(63ページ「1.はじめに」)
(イ)「サトウキビ由来ポリエチレンの製造フローを図1に示す。サトウキビ畑より刈り取ったサトウキビを圧延ローラーで糖液を取り出し、その糖液を加熱濃縮して結晶化する粗糖分(砂糖原料)と残糖液(廃糖蜜)を遠心分離器により分離する。この廃糖蜜を適切な濃度まで水で希釈して酵母菌により発酵させエタノールを作る。次にバイオエタノールを300~400℃に加熱してアルミナ等の触媒により分子内脱水反応させると高い収率でエチレンが生成される。生成物にはエチレン以外に水分、有機酸、一酸化炭素等の不純物が含まれるので必要な純度までエチレンを精製して、次の工程のポリエチレン重合プラントへ導入する。ポリエチレン重合プラントで重合触媒によりエチレンを高分子化(重合)してポリエチレンを生産する。」(63ページ「2.サトウキビ由来ポリエチレンの製造工程」)
(ウ)「
[図:0001419341000001.jpg]
」(63ページ図1)
(エ)「当社とBraskem社は共同でトリウンフォ工場内の研究開発センターで図2にある試験設備により同等性を評価した。
(1)エチレン
試験設備にバイオマス由来エタノールを導入し、出来上がったエチレンの成分分析を行った結果、従来の石油由来エチレンとの品質同等性を確認した。
(2)ポリエチレン
試験重合機に石油系エチレンとバイオマス系エチレンをそれぞれ投入し、同一条件でポリエチレン重合し、出来上がったポリマーの同等性を検討した。この結果を表1に示す。多少の数値上の差異はあるが、テスト重合機の条件設定に影響されていると考えられ、基本的にはいずれの用途グレードとも石油系、バイオマス系の品質は同等であることが確認できた。」(63ページ「3.サトウキビ由来ポリエチレンの同等性」)
(オ)「
[図:0001419341000002.jpg]
」(64ページ表1)
(カ)「サトウキビ由来ポリエチレンはBraskem社のトリウンフォ工場で、2011年から高密度ポリエチレン(HDPE)と直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)を合わせて年産20万トン生産される計画である。なお、第1期計画ではエタノール→エチレンへの転換プラントは新しく建設されるが(図3)、ポリエチレンの重合プラントは現在稼働中のポリエチレンプラントを転用使用する。
表2に生産予定の代表的なグレードを示す・・・。」(64ページ「4.サト
ウキビ由来ポリエチレンの生産概要と生産予定グレード」)
(キ)「
[図:0001419341000003.jpg]
」(64ページ表2)
(ク)「今回開発されたサトウキビ由来ポリエチレンは植物由来の樹脂であるが、従来から生産されてきた石油由来ポリエチレンと外観、物性が同じであり、バイオマス度(カーボンの由来比)を数値化することが重要であると考え、14C(放射性炭素年代測定)による分析手法により判別を行った。図6は、Braskem社の試験プラントで試作したサトウキビ由来のHDPEを米国のベータアナリティック社においてASTMD68662)測定法に基づいて炭素分析した結果であるが、100%バイオベースであることが確認された。」(65ページ「6.バイオマス度の判別法(14Cによる分析手法)」)
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
(ア)直鎖状低密度ポリエチレンはブテン-1、ヘキセン-1などのα-オレフィンをコモノマーとして共重合されたものであるという技術常識を踏まえると、甲1発明の「MFRが0.5~5、密度が900~935kg/m3である線状低密度ポリエチレン樹脂」と、本件発明1の「コモノマー種がブテン-1、ヘキセン-1またはこれらの混合物であって、密度が910~925kg/m3、メルトフローレートが1.0~8.0g/10分の植物由来のエチレン-α-オレフィン共重合体であ」る「前記植物由来直鎖状低密度ポリエチレン」は、「コモノマー種がブテン-1、ヘキセン-1またはこれらの混合物であって、密度が910~925kg/m3、メルトフローレートが1.0~5.0g/10分のエチレン-αオレフィン共重合体であ」る「前記直鎖状低密度ポリエチレン」である限りにおいて一致する。
(イ)甲1発明の「MFRが0.4~50、密度が940~975kg/m3、分子量分布(Mw/Mn)が3~7であり、メタロセン触媒により製造される高密度ポリエチレン樹脂(A)」と、本件発明1の「密度が941~965kg/m3であ」り「放射性炭素年代測定C14の測定値から算定するバイオマス度80~100%を有し、」「メルトフローレートが4.1~8.0g/10分である」「該植物由来高密度ポリエチレン」は、「密度が941~965kg/m3であり、メルトフローレートが4.1~8.0g/10分である高密度ポリエチレン」である限りにおいて一致する。
(ウ)甲1発明の「線状低密度ポリエチレン樹脂2~50wt%と、」「高密度ポリエチレン樹脂(A)98~50wt%を含む」「シーラント用高密度ポリエチレン樹脂組成物」と、本件発明1の「植物由来高密度ポリエチレンと植物由来直鎖状低密度ポリエチレンとの2つの樹脂を5~90質量%、及び、石油由来ポリエチレン系樹脂を10~95質量%含む組成物であ」る「ポリエチレン系樹脂組成物」は、「高密度ポリエチレンと直鎖状低密度ポリエチレンとの2つの樹脂を含む組成物であるポリエチレン系樹脂組成物」である限りにおいて一致する。
(エ)甲1発明の「シーラント用高密度ポリエチレン樹脂組成物を用いたシーラント用フィルム」と本件発明1の「ポリエチレン系樹脂組成物からなる層を少なくとも1層含む多層構成のシーラントフィルム(但し、延伸フィルムを除く)」は、「ポリエチレン系樹脂組成物からなる層を含むシーラントフォルム」である限りにおいて一致する。
以上を総合すると、本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点は以下のとおりである。
[一致点]
「ポリエチレン系樹脂組成物からなる層を含むシーラントフィルムであって、
該ポリエチレン系樹脂組成物は、密度が941~965kg/m3であり、メルトフローレートが4.1~8.0g/10分である高密度ポリエチレンを含み、
該ポリエチレン系樹脂組成物は、高密度ポリエチレンと直鎖状低密度ポリエチレンとの2つの樹脂を含む組成物であり、
前記植物由来直鎖状低密度ポリエチレンは、コモノマー種がブテン-1、ヘキサン-1またはこれらの混合物であって、密度が910~925kg/m3、メルトフローレートが1.0~5.0g/10分のエチレン-αオレフィン共重合体である、上記シーラントフィルム。」
[相違点1]
「コモノマー種がブテン-1、ヘキサン-1またはこれらの混合物であって、密度が910~925kg/m3、メルトフローレートが1.0~5.0g/10分のエチレン-αオレフィン共重合体であ」る「前記直鎖状低密度ポリエチレン」について、本件発明1では、「植物由来直鎖状低密度ポリエチレン」であるのに対し、甲1発明では、線状低密度ポリエチレンの由来(石油、バイオマスなど)が特定されていない点。
[相違点2]
「密度が941~965kg/m3であり、メルトフローレートが4.1~8.0g/10分である高密度ポリエチレン」について、本件発明1では、「「放射性炭素年代測定C14の測定値から算定するバイオマス度80~100%を有」する「植物由来高密度ポリエチレン」であるのに対し、甲1発明では、「分子量分布(Mw/Mn)が3~7であり、メタロセン触媒により製造される高密度ポリエチレン樹脂(A)」であって、高密度ポリエチレンの由来(石油、バイオマスなど)及びバイオマス度が特定されていない点。
[相違点3]
「高密度ポリエチレンと直鎖状低密度ポリエチレンとの2つの樹脂を含む組成物であるポリエチレン系樹脂組成物」について、本件発明1では、「植物由来高密度ポリエチレンと植物由来直鎖状低密度ポリエチレンとの2つの樹脂を5~90質量%、及び、石油由来ポリエチレン系樹脂を10~95質量%含む組成物であ」る「ポリエチレン系樹脂組成物」であるのに対し、甲1発明では、「線状低密度ポリエチレン樹脂2~50wt%と、」「高密度ポリエチレン樹脂(A)98~50wt%を含む」「シーラント用高密度ポリエチレン樹脂組成物」である点。
[相違点4]
「ポリエチレン系樹脂組成物からなる層を含むシーラントフォルム」について、本件発明1では、「ポリエチレン系樹脂組成物からなる層を少なくとも1層含む多層構成のシーラントフィルム(但し、延伸フィルムを除く)」であるのに対し、甲1発明では、「シーラント用高密度ポリエチレン樹脂組成物を用いたシーラント用フィルム」である点。
[相違点5]
シーラントフィルムについて、本件発明1は、「該多層構成のシーラントフィルムは、該ポリエチレン系樹脂組成物からなる中間層と、石油由来ポリエチレン系樹脂からなる外層及び内層とを有し、」「フィルム全体に対して、植物由来ポリエチレン系樹脂の配合量が5~90質量%であり、石油由来ポリエチレン系樹脂の配合量が10~95質量%である」のに対し、甲1発明は、かかる構成を有することが特定されていない点。
イ 判断
(ア)相違点1及び2について
まず、甲1には、ポリエチレン樹脂の由来(化石燃料由来、植物由来など)について具体的な記載はないことから、甲1発明の線状低密度ポリエチレン樹脂及び高密度ポリエチレン樹脂は、石油由来のエチレンから製造されていると解すのが自然である。
そして、上記(1)イで示した甲3の記載を総合すると、甲3には、「CO2(炭酸ガス)の増加による地球温暖化等の問題が明確になってきており、ポリエチレン原料を従来の石油系由来のエチレンから再生可能なサトウキビ由来のバイオマス系エチレンに置き換えることは、地球環境にやさしく、また石油資源利用の節約にも貢献すること、石油系、バイオマス系の品質は同等であること、Braskem社が試作したサトウキビ由来のHDPEの14Cによる炭素分析結果が100%バイオベースであること。」が記載されている(以下「周知事実1」という。)。
さらに、上記(1)イ(カ)及び(ク)記載からみて、本願出願当時において、Braskem社が製造した植物LLDPE及び100%バイオベースの植物HDPEは周知であったといえる(以下「周知事実2」という。)。
そうすると、甲1に接した当業者は、周知事実1を踏まえて地球環境に優しいシーラントフィルムを得ようとすることは、何ら創意工夫を必要とせずに想到することであり、周知事実2を踏まえると本願出願時において入手可能であったと認められるBraskem社の植物LLDPE及び100%バイオベースの植物HDPEを、甲1発明における線状低密度ポリエチレン樹脂及び高密度ポリエチレン樹脂(A)として採用することは、当業者が容易に想到し得たことである。
(イ)相違点3について
上記(ア)で説示したように、甲1発明における線状低密度ポリエチレン樹脂と高密度ポリエチレン樹脂(A)を植物由来とすることは当業者が容易に想到し得たことである。
しかしながら、甲1発明において線状低密度ポリエチレン樹脂(2~50wt%)と高密度ポリエチレン樹脂(98~50wt%)の合計は100wt%となることが想定されているところ、これらの合計を100wt%から少なくして、その分、石油PEを含むようにすることにより、相違点3に係る本件発明1の構成とすることは、甲1の記載事項からみて動機がなく、当該構成は他の甲号証にも記載も示唆もされていない。
そうすると、甲1発明に基づいて相違点3に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
(ウ)申立人の主張について
a 申立人は申立書(58ページ下から7行~74ページ下から7行)において、ポリエチレンの物性の違いは原料が植物由来か石油由来かによるのではなく、重合触媒、重合法等の製造方法の違いによるものであり、植物由来ポリエチレン系樹脂と石油由来ポリエチレン系樹脂との相違は実質的な相違点ではないから、本件発明1の植物HDPEと植物LLDPEと石油PEを含む樹脂組成物は、実質的にはHDPEとLLDPEを含む樹脂組成物と実質的に同じであり、この点において、本件発明1と甲1発明に相違点はない旨を主張している。
しかしながら、申立人が主張するように、ポリエチレン系樹脂が植物由来か石油由来かにより物性に違いが生じないものだとしても、植物HDPE、植物LLDPE及び石油PEが異なるものであるという事実にかわりはないから、本件発明1と甲1発明はポリエチレン系樹脂組成物の組成が異なるとの判断にかわりはなく、相違点3が実質的な相違点ではないとすることはできない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
b 申立人は意見書(20ページ11行~30ぺージ下から5行)において、新たに提出する甲35(特開平11-12558号公報)又は同甲36(特開2001-114909号公報)に基づく進歩性欠如を新たに主張している。
しかしながら、いずれの甲号証を主引例として本件発明1と対比しても、少なくとも相違点3において相違しており、その判断についても上記(イ)で説示したとおりである。
したがって、申立人の上記主張も採用できない。
ウ 小括
以上のとおりであるから、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲2~甲5に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件発明2~5について
本件発明2~5は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定するものであるから、上記(2)と同様の理由により、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第6 むすび
以上のとおり、請求項1~5に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2023-701399