特許異議申立
2023-701394
電気化学セル装置、モジュールおよびモジュール収容装置
- 審判番号
- 2023-701394
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-504766
- 登録番号
- 7311728
- 請求日
- 2023年12月27日
- 審決日
- 2024年09月27日
- 公報発行日
- 2024年12月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】京セラ株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人酒井国際特許事務所
- 【異議申立人】井上 敬也
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 猛
- 審判官 佐藤 陽一
- 審判官 相澤 啓祐
- 分類
- P1651.113-YAA(H01M) / P1651.121-YAA(H01M) / P1651.537-YAA(H01M)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の8第1項、特許法第120条の5第4項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7311728号発明「電気化学セル装置、モジュールおよびモジュール収容装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7311728号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~9〕について訂正することを認める。
特許第7311728号の請求項1、2、4~9に係る特許を維持する。
特許第7311728号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7311728号(以下「本件特許」という。)の請求項1~9に係る特許についての出願は、2022年(令和 4年) 8月31日(優先権主張 令和 3年 8月31日)を国際出願日とする出願(特願2023-504766号。以下「本願」という。)であって、令和 5年 7月10日にその特許権の設定登録がなされ、同年 7月19日にその特許掲載公報が発行されたものである。
その後、令和 5年12月27日に、請求項1~9(全請求項)に係る特許に対し、特許異議申立人である井上 敬也(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
本件特許異議の申立てにおける手続の経緯は、以下のとおりである。
令和 5年12月27日 :特許異議の申立て
令和 6年 3月25日付け:取消理由通知
5月27日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
6月 7日付け:訂正請求があった旨の通知
6月28日 :申立人による意見書の提出
第2 訂正請求について
1 請求の趣旨
令和 6年 5月27日になされた訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)の請求の趣旨は、特許第7311728号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~9について訂正することを求める、というものである。
2 訂正の内容
本件訂正請求に係る訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。なお、訂正箇所には、当審が下線を付した。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の記載を、
「電気化学セルと、前記電気化学セルを支持する支持部材とを備え、前記支持部材は、反応ガスが流れる第1方向の上流側に位置する第1部位と、該第1部位よりも前記第1方向の下流側に位置する第2部位とを有し、前記第1部位および前記第2部位は、赤外光の反射率が異なる電気化学セル装置。」から、
「電気化学セルと、前記電気化学セルを支持する支持部材とを備え、前記支持部材は、酸素含有ガスが流れる第1方向の上流側に位置する第1部位と、該第1部位よりも前記第1方向の下流側に位置する第2部位とを有し、前記第1部位は、前記第2部位よりも赤外光の反射率が小さい電気化学セル装置。」に訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項4~9も同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2の記載を、
「電気化学セルと、前記電気化学セルを支持するマニホールドとを備え、前記マニホールドは、前記電気化学セルの低温部に位置する第1部位と、前記低温部よりも温度が高い前記電気化学セルの高温部に位置する第2部位とを有し、前記第1部位および前記第2部位は、赤外光の反射率が異なる電気化学セル装置。」から、
「電気化学セルと、前記電気化学セルを支持するマニホールドとを備え、前記マニホールドは、前記電気化学セルの低温部に位置する第1部位と、前記低温部よりも温度が高い前記電気化学セルの高温部に位置する第2部位とを有し、前記第1部位は、前記第2部位よりも赤外光の反射率が小さい電気化学セル装置。」に訂正する。
(請求項2の記載を引用する請求項8、9も同様に訂正する。)
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
3 訂正の適否についての当審の判断
(1)訂正事項1に係る訂正について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項1に係る訂正のうち、「反応ガス」を「酸素含有ガス」とする訂正は、本件訂正前の請求項1における発明特定事項である「反応ガス」について、「酸素含有ガス」とその種類を限定して特定する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。
また、訂正事項1に係る訂正のうち、「前記第1部位および前記第2部位は、赤外光の反射率が異なる」を「前記第1部位は、前記第2部位よりも赤外光の反射率が小さい」とする訂正は、本件訂正前の請求項1における発明特定事項である「第1部位」及び「第2部位」の「赤外光の反射率」の相違について、その大小関係を、「第1部位」の「赤外光の反射率」が、「第2部位」の「赤外光の反射率」よりも「小さい」と限定して特定する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。
イ 新規事項の追加の有無について
本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の段落【0002】には、「燃料電池セルは、水素含有ガス等の燃料ガスと空気等の酸素含有ガスとを用いて電力を得ることができる電気化学セルの一種である。燃料ガス、酸素含有ガス等のガスを総じて反応ガスという場合もある。」との記載があり、「反応ガス」に「酸素含有ガス」が包含されることが記載されている。また、本件訂正前の請求項3には、「前記第1部位は、前記第2部位よりも前記反射率が小さい」ことが記載されている。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について
上記アのとおり、訂正事項1に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(2)訂正事項2に係る訂正について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項2に係る訂正は、本件訂正前の請求項2における発明特定事項である「第1部位」及び「第2部位」の「赤外光の反射率」の相違について、その大小関係を、「第1部位」の「赤外光の反射率」が、「第2部位」の「赤外光の反射率」よりも「小さい」と限定して特定する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。
イ 新規事項の追加の有無について
本件訂正前の請求項3には、「前記第1部位は、前記第2部位よりも前記反射率が小さい」ことが記載されているから、訂正事項2に係る訂正は、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について
上記アのとおり、訂正事項2に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(3)訂正事項3に係る訂正について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項3に係る訂正は、特許請求の範囲の請求項3を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。
イ 新規事項の追加の有無について
訂正事項3に係る訂正は、請求項3を削除する訂正であるから、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について
上記アのとおり、訂正事項3に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(4)独立特許要件について
本件においては、本件訂正前の請求項1~9に係る特許について特許異議の申立てがされているので、訂正事項1~3に係る訂正後の請求項1~9に係る発明については、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
(5)一群の請求項について
本件訂正前の請求項3~9は、請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものであり、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項1、3~9は一群の請求項である。
また、本件訂正前の請求項3、8、9は、請求項2の記載を直接又は間接的に引用するものであり、訂正事項2によって記載が訂正される請求項2に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項2、3、8、9は一群の請求項である。
そして、上記2つの一群の請求項は、請求項3、8、9が共通するから、請求項1~9は、一群の請求項となる。
したがって、本件訂正請求は、一群の請求項ごとにされたものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
4 まとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~9〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
本件訂正は、上記第2で検討したとおり適法なものであるから、本件特許の請求項1~9に係る発明は、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1~9に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、請求項1~9に係る発明を、それぞれ「本件発明1」~「本件発明9」といい、総称して「本件発明」ともいう。)。
「【請求項1】
電気化学セルと、
前記電気化学セルを支持する支持部材と
を備え、
前記支持部材は、酸素含有ガスが流れる第1方向の上流側に位置する第1部位と、該第1部位よりも前記第1方向の下流側に位置する第2部位とを有し、
前記第1部位は、前記第2部位よりも赤外光の反射率が小さい
電気化学セル装置。
【請求項2】
電気化学セルと、
前記電気化学セルを支持するマニホールドと
を備え、
前記マニホールドは、前記電気化学セルの低温部に位置する第1部位と、前記低温部よりも温度が高い前記電気化学セルの高温部に位置する第2部位とを有し、
前記第1部位は、前記第2部位よりも赤外光の反射率が小さい
電気化学セル装置。
【請求項3】(削除)
【請求項4】
前記支持部材は、前記電気化学セルの第1端部を支持する第1部材と、前記電気化学セルの第2端部を支持する第2部材とを有する
請求項1に記載の電気化学セル装置。
【請求項5】
前記支持部材は、支持基材と、前記第2部位の前記支持基材を覆う被覆層とを備える
請求項1に記載の電気化学セル装置。
【請求項6】
前記支持部材は、支持基材と、前記第1部位の前記支持基材を覆う第1被覆層と、前記第2部位の前記支持基材を覆う第2被覆層とを備える
請求項1に記載の電気化学セル装置。
【請求項7】
前記第1被覆層の厚みは、前記第2被覆層の厚みよりも小さい
請求項6に記載の電気化学セル装置。
【請求項8】
請求項1または2に記載の電気化学セル装置と、
前記電気化学セル装置を収納する収納容器と
を備えるモジュール。
【請求項9】
請求項8に記載のモジュールと、
前記モジュールの運転を行うための補機と、
前記モジュールおよび前記補機を収容する外装ケースと
を備えるモジュール収容装置。」
第4 特許異議の申立ての理由及び取消理由の概要
1 特許異議の申立ての理由の概要
申立人は、証拠方法として、後記する甲第1号証~甲第5号証を提出し、以下の理由により、本件訂正前の請求項1~9に係る特許は取り消されるべきものであると主張している。
(1)申立理由1(サポート要件)
ア 申立理由1-1(取消理由として採用)
本件訂正前の請求項1~9に係る発明が解決しようとする課題は、「セルは、発電に伴うジュール熱により温度が上昇するところ、セルの外部を流れる酸素含有ガスの影響等により、セルにおける酸素含有ガスの流れ方向(第1方向)の下流側の部分が、セルにおける上流側の部分よりも温度上昇し、セルにおける上記下流側の部分では高温となって耐久性が低下し、セルにおける上記上流側の部分では発電に適した温度に到達せずに発電性能が低下する」との問題を解決することであると解される。
そして、本件訂正前の請求項1に係る発明は、「支持部材は、反応ガスが流れる第1方向の上流側に位置する第1部位と、該第1部位よりも前記第1方向の下流側に位置する第2部位とを有し、前記第1部位および前記第2部位は、赤外光の反射率が異なる」との事項で特定され、本件訂正前の請求項2に係る発明は、「マニホールドは、前記電気化学セルの低温部に位置する第1部位と、前記低温部よりも温度が高い前記電気化学セルの高温部に位置する第2部位とを有し、前記第1部位および前記第2部位は、赤外光の反射率が異なる」との事項で特定されている。
一方、第1部位の赤外光の反射率が、第2部位の赤外光の反射率より大きい態様では、セルにおける下流側の部分(第2部位に対応する部分)では、支持部材またはマニホールドからの放射熱によりセルの温度上昇が促進され、セルの過熱に伴う耐久性の低下が促進され、セルにおける上流側の部分(第1部位に対応する部分)では、支持部材またはマニホールドからの放射熱によるセルの温度上昇が抑制され、セルの加熱不足に伴う発電性能の低下が促進される結果となり、このような態様では、本件訂正前の請求項1、2、4~9に係る発明の課題を解決できない。
よって、本件訂正前の請求項1、2、4~9に係る発明については、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
イ 申立理由1-2(取消理由として不採用)
本件訂正前の請求項1~9に係る発明が解決しようとする課題は、上記アに記載のとおりである。
一方、セルにおける温度分布は、酸素含有ガスの流れ方向の上流/下流の別のみによって一義的に定まるものではなく、種々の他の条件(例えば、水素含有ガス等の燃料ガスの流れ方向、スタックの構成やガス流路の構成)の影響を受けるため、上記他の条件によっては、酸素含有ガスの流れ方向の上流側に位置する第1部位が下流側に位置する第2部位よりも温度上昇することもあり得るが、その際に、セルにおける酸素含有ガスの流れ方向の下流側に位置する第2部位が上流側に位置する第1部位よりも温度上昇するという前提で、第1部位および第2部位における赤外光の反射率を異ならせると、セルにおける上流側の部分(第1部位に対応する部分)では温度上昇が促進され、セルの過熱に伴う耐久性の低下が促進され、セルにおける下流側の部分(第2部位に対応する部分)では温度上昇が抑制され、セルの加熱不足に伴う発電性能の低下が促進される結果となり、本件訂正前の請求項1、3~9に係る発明の課題を解決できない。
よって、本件訂正前の請求項1、3~9に係る発明については、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
ウ 申立理由1-3(取消理由として不採用)
本件訂正前の請求項1~9に係る発明が解決しようとする課題は、上記アに記載のとおりである。
一方、酸素含有ガスの流れ方向の上流側に位置する第1部位の赤外光の反射率が、下流側に位置する第2部位の赤外光の反射率よりも過度に小さい態様では、セルにおける下流側の部分では、支持部材またはマニホールドからの放射熱が過度に抑制され、セルの加熱不足に伴う発電性能の低下が発生し、セルにおける上流側の部分では、支持部材またはマニホールドからの放射熱が過剰となり、セルの過熱に伴う耐久性の低下が発生するため、このような態様では、本件訂正前の請求項1~9に係る発明の課題を解決できない。
よって、本件訂正前の請求項1~9に係る発明については、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
エ 申立理由1-4(取消理由として不採用)
本件訂正前の請求項1~9に係る発明が解決しようとする課題は、上記アに記載のとおりである。
本願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)には、支持部材の酸化雰囲気に露出する露出部のうち、酸素含有ガスの流れ方向の上流側の部分の赤外光の反射率を下流側の部分の赤外光の反射率より小さくすることにより、本件訂正前の請求項1~9に係る発明の課題を解決できることのみが記載されており、支持部材またはマニホールドの第1部位および第2部位が反応ガス雰囲気に露出していない態様において、本件訂正前の請求項1~9に係る発明の課題を解決できる旨の記載が一切存在しない。
よって、本件訂正前の請求項1~9に係る発明については、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由2(明確性要件)
ア 申立理由2-1(取消理由として不採用)
本件訂正前の請求項1、2に係る発明における「電気化学セル」の必須構成要素が素子部であるのか、それとも、素子部に加えて支持基板等も必須構成要素であるのか不明であり、その結果、電気化学セルの構成が不明確である。
よって、本件訂正前の請求項1~9に係る発明については、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
イ 申立理由2-2(取消理由として一部採用)
本件明細書の記載によれば、反応ガスの流れには、酸素含有ガスの流れと燃料ガスの流れがあるため、本件訂正前の請求項1に係る発明の「反応ガスが流れる第1方向」が、酸素含有ガスの流れる方向を意味するのか、それとも燃料ガスの流れる方向を意味するのか不明である。
また、反応ガスが流れる方向が変化する場合、「反応ガスが流れる第1方向」が、どの方向を意味するのか不明である。
よって、本件訂正前の請求項1、3~9に係る発明については、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
ウ 申立理由2-3(取消理由として不採用)
本件訂正前の請求項1に係る発明には、支持部材の「第1部位」および「第2部位」をどのように特定するのかについて、何ら規定されていないため、支持部材において、上流側に位置する部位のうちのどの部分が「第1部位」であり、下流側に位置する部位のうちのどの部分が「第2部位」であるのか不明である。
よって、本件訂正前の請求項1、3~9に係る発明については、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
エ 申立理由2-4(取消理由として不採用)
本件訂正前の請求項1、2に係る発明は、バラツキに起因する第1部位および第2部位の間の赤外光の反射率の僅かな相違を包含するのか、それとも、バラツキに起因する僅かな相違を包含せず、第1部位および第2部位の間の赤外光の反射率を、例えば被膜の厚さを異ならせる等の何らかの手段を用いて意図的に異ならせた態様に限定されるのか不明である。
よって、本件訂正前の請求項1~9に係る発明については、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
オ 申立理由2-5(取消理由として不採用)
本件訂正前の請求項1、2に係る発明は、支持部材またはマニホールドの赤外光の反射率の測定方法については何ら規定しておらず、本件明細書にも、第1部位および第2部位の赤外光の反射率の測定方法について、何ら記載されていないため、例えば、支持部材またはマニホールドの第1部位および第2部位のそれぞれについて複数点で反射率を測定したとき、第1部位の反射率の最小値が第2部位の反射率の最大値と異なっていた場合、本件訂正前の請求項1、2に係る発明の「前記第1部位および前記第2部位は、赤外光の反射率が異なる」に該当するのか否か不明である。
よって、本件訂正前の請求項1~9に係る発明については、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
カ 申立理由2-6(取消理由として不採用)
本件訂正前の請求項2に係る発明における電気化学セルの高温部および低温部は、各部位での赤外光の反射率を異ならせるという手段を採用することによる効果が奏した後において高温および低温となる部位を意味しているのか、それとも、各部位での赤外光の反射率を同一にしたと仮定した場合において高温および低温となる部位を意味しているのか不明である。
よって、本件訂正前の請求項2、3、8、9に係る発明については、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
キ 申立理由2-7(取消理由として不採用)
本件訂正前の請求項7に係る発明は、バラツキに起因して第1被覆層の厚みが第2被覆層の厚みよりも小さくなった態様も包含するのか、それとも、バラツキに起因する僅かな大小関係を包含せず、意図して第1被覆層の厚みを第2被覆層の厚みよりも小さくした態様に限定されるのか不明である。
よって、本件訂正前の請求項7に係る発明については、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)申立理由3(新規性、進歩性)(取消理由として不採用)
本件訂正前の請求項1、3、5~7に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるか、甲第1号証に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
また、本件訂正前の請求項4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された事項に基いて、本件訂正前の請求項8、9に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件訂正前の請求項1、3~9に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(4)申立理由4(新規性、進歩性)(取消理由として不採用)
本件訂正前の請求項1~3、8に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるか、甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
また、本件訂正前の請求項4に係る発明は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された事項に基いて、本件訂正前の請求項5~7に係る発明は、甲第2号証に記載された発明に基いて、本件訂正前の請求項9に係る発明は、甲第2号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件訂正前の請求項1~9に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(5)証拠方法
甲第1号証:特開2018-170109号公報
甲第2号証:特開2008-108722号公報
甲第3号証:特開2017-33630号公報
甲第4号証:特開2012-84411号公報
甲第5号証:特開2006-303041号公報
2 令和 6年 3月25日付けで通知した取消理由の概要
(1)取消理由1(サポート要件)
上記1(1)アの申立理由1-1と同旨
(2)取消理由2(明確性要件)
本件明細書には、「反応ガス」である、「燃料ガス」と「酸素含有ガス」のそれぞれの流れる方向が異なる場合や、「燃料ガス」の流れる向きが一方向でないことが示されているため、本件訂正前の請求項1の、「反応ガスが流れる第1方向」が、どちらのガスのどの方向となるのか判然としない。
よって、本件訂正前の請求項1、3~9については、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえない。
第5 当審の判断
以下に述べるように、特許異議申立書に記載した申立理由及び当審から通知した取消理由によっては、本件特許の請求項1、2、4~9に係る特許を取り消すことはできない。また、請求項3が本件訂正により削除されたことにより、申立人による請求項3に係る特許異議の申立てについては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
1 申立理由1(サポート要件)
(1)取消理由1、申立理由1-1
ア 取消理由通知書において、概ね以下の点について指摘した。
本件訂正前の請求項1~9に係る発明が解決しようとする課題は、電気化学セル内の温度のばらつきを小さくし、電池性能を向上することができる電気化学セル装置、モジュールおよびモジュール収容装置を提供することであると認められる(段落【0009】、【0010】)。
本件訂正前の請求項1に係る発明は、第1部位及び第2部位の赤外光の反射率について、単に「異なる」と特定するにとどまり、発明の詳細な説明において、温度が低いとされる第1部位の赤外光の反射率を大きくし、温度が高いとされる第2部位の赤外光の反射率を小さくする態様aを包含するものである。また、本件訂正前の請求項2に係る発明は、低温部に位置する第1部位及び高温部に位置する第2部位の赤外光の反射率について、単に「異なる」と特定するにとどまり、低温部に位置する第1部位の赤外光の反射率を大きくし、高温部に位置する第2部位の赤外光の反射率を小さくする態様bを包含するものである。
しかしながら、上記態様a、bは、温度が低いとされる第1部位の放射熱によるセルの温度上昇が低減するため、セルの第1方向30の上流側に位置する部分では、加熱不足に伴う発電性能の低下がより生じやすくなり、温度が高いとされる第2部位の放射熱によるセルの温度上昇が促進するため、セルの第1方向30の下流側に位置する部分では、過熱に伴う耐久性の低下がより生じやすくなるため、電池性能を向上することができないと認められる。
したがって、第1部位の赤外光の反射率と第2部位の赤外光の反射率の大小関係を特定しない本件訂正前の請求項1、2に係る発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえない。また、本件訂正前の請求項1、2の記載を直接又は間接的に引用する本件訂正前の請求項4~9の記載も同様である。
イ 一方、上記第2の2(1)の訂正事項1に係る訂正及び同(2)の訂正事項2に係る訂正により、第1部位の赤外光の反射率と第2部位の赤外光の反射率の大小関係が、「前記第1部位は、前記第2部位よりも赤外光の反射率が小さい」と特定され、本件発明1、2、4~9は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとなった。
ウ 以上のとおりであるから、上記の点に関するサポート要件の取消理由は解消した。
(2)申立理由1-2
ア 申立人は、「セルにおける温度分布は、酸素含有ガスの流れ方向の上流/下流の別のみによって一義的に定まるものではなく、種々の他の条件(例えば、水素含有ガス等の燃料ガスの流れ方向、スタックの構成やガス流路の構成)の影響を受けるため、上記他の条件によっては、酸素含有ガスの流れ方向の上流側に位置する第1部位が下流側に位置する第2部位よりも温度上昇することもあり得るが、その際に、セルにおける酸素含有ガスの流れ方向の下流側に位置する第2部位が上流側に位置する第1部位よりも温度上昇するという前提で、第1部位および第2部位における赤外光の反射率を異ならせると、セルにおける上流側の部分(第1部位に対応する部分)では温度上昇が促進され、セルの過熱に伴う耐久性の低下が促進され、セルにおける下流側の部分(第2部位に対応する部分)では温度上昇が抑制され、セルの加熱不足に伴う発電性能の低下が促進される結果となり、本件訂正前の請求項1、3~9に係る発明の課題を解決できない。」旨主張する。
イ 以下、検討すると、申立人が主張するとおり、セルにおける温度分布は、酸素含有ガスの流れ方向に加え、種々の他の条件の影響を受けると解されるものの、本件発明1、4~9が解決しようとする課題は、より詳細には、酸素含有ガスの流れによって生じる電気化学セル内の温度のばらつきを小さくし、電池性能を向上することができる電気化学セル装置、モジュールおよびモジュール収容装置を提供することであると認められるところ、酸素含有ガスの流れによって生じる電気化学セル内の温度のばらつきについては、第1部位の赤外光の反射率を第2部位の赤外光の反射率よりも小さくすることで改善し、それにより、耐久性の低下や発電性能の低下が抑制され、電池性能を向上することができると認められる。
ウ 以上のとおりであるから、申立人の主張は採用できない。
(3)申立理由1-3
ア 申立人は、「酸素含有ガスの流れ方向の上流側に位置する第1部位の赤外光の反射率が、下流側に位置する第2部位の赤外光の反射率よりも過度に小さい態様では、セルにおける下流側の部分では、支持部材またはマニホールドからの放射熱が過度に抑制され、セルの加熱不足に伴う発電性能の低下が発生し、セルにおける上流側の部分では、支持部材またはマニホールドからの放射熱が過剰となり、セルの過熱に伴う耐久性の低下が発生するため、このような態様では、本件訂正前の請求項1~9に係る発明の課題を解決できない。」旨主張する。
イ 以下、検討すると、第1部位及び第2部位の赤外光の反射率は、本件発明の技術的意義を踏まえ、当該技術分野の技術常識や電気化学セルの使用状況に応じて、電気化学セル内の温度のばらつきが小さくなるように設定されると認められるから、上記アのような態様は想定されないし、仮に想定されたとしても、両部位の赤外光の反射率が等しい態様と比べて、電気化学セル内の温度のばらつきは小さくなるから、電池性能を向上することができると認められる。また、申立人は、上記アのような態様において、発電性能の低下や耐久性の低下が発生することについて、具体的な根拠を何ら示していないから、本件発明が課題を解決できないとはいえない。
ウ 以上のとおりであるから、申立人の主張は採用できない。
(4)申立理由1-4
ア 申立人は、「本件明細書には、支持部材の酸化雰囲気に露出する露出部のうち、酸素含有ガスの流れ方向の上流側の部分の赤外光の反射率を下流側の部分の赤外光の反射率より小さくすることにより、本件訂正前の請求項1~9に係る発明の課題を解決できることのみが記載されており、支持部材またはマニホールドの第1部位および第2部位が反応ガス雰囲気に露出していない態様において、本件訂正前の請求項1~9に係る発明の課題を解決できる旨の記載が一切存在しない。」旨主張する。
イ 以下、検討すると、本件明細書の記載を踏まえると、本件発明は、支持部材又はマニホールドの第1部位及び第2部位からの放射熱により、電気化学セルの温度上昇が調整されていると解されるから、第1部位及び第2部位が酸素含有ガス雰囲気に露出していることを前提とするものである。仮に、第1部位及び第2部位が他の部材に密着して、酸素含有ガス雰囲気に露出していないとしても、当該他の部材が酸素含有ガス雰囲気に露出している部分が、第1部位及び第2部位であると解することもできる。
ウ 以上のとおりであるから、申立人の主張は採用できない。
(5)小括
したがって、取消理由1(サポート要件)、申立理由1(サポート要件)によっては、本件特許の請求項1、2、4~9に係る特許を取り消すことはできない。
2 申立理由2(明確性要件)
(1)申立理由2-1
ア 申立人は、「本件訂正前の請求項1、2に係る発明における「電気化学セル」の必須構成要素が素子部であるのか、それとも、素子部に加えて支持基板等も必須構成要素であるのか不明であり、その結果、電気化学セルの構成が不明確である。」旨主張する。
イ 以下、検討すると、本件明細書の段落【0016】に、「セル1は、導電性の支持基板2と、素子部3と、インターコネクタ4とを備えている。」と記載されるとおり、電気化学セルは、素子部に加えて支持基板及びインターコネクタを含むものであるから、本件明細書の記載を参酌すれば、電気化学セルの構成が不明確であるとはいえない。
ウ 以上のとおりであるから、申立人の主張は採用できない。
(2)取消理由2、申立理由2-2
ア 取消理由通知書において、概ね以下の点について指摘した。
本件明細書には、「反応ガス」である、「燃料ガス」と「酸素含有ガス」のそれぞれの流れる方向が異なる場合や、「燃料ガス」の流れる向きが一方向でないことが示されているため、本件訂正前の請求項1の、「反応ガスが流れる第1方向」が、どちらのガスのどの方向となるのか判然としない。
したがって、本件訂正前の請求項1の、「反応ガスが流れる第1方向」との記載は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確である。また、本件訂正前の請求項1の記載を直接又は間接的に引用する本件訂正前の請求項3~9の記載も同様である。
イ 一方、上記第2の2(1)の訂正事項1に係る訂正により、「反応ガス」が「酸素含有ガス」と特定され、「酸素含有ガスが流れる第1方向」が明確となった。
ウ 以上のとおりであるから、上記の点に関する明確性要件の取消理由は解消した。
エ 申立人は、特許異議申立書の第18ページのIIIイにおいて、「電気化学セル装置において、反応ガスが流れる方向は一方向であるとは限らない。例えば、電気化学セル装置における反応ガス流路の構成によっては、反応ガスが、方向Aに沿って流れた後、90度向きを変えて方向Bに沿って流れる態様もある。そのような態様において、本件特許発明1の上記発明特定事項Cにおける「反応ガスが流れる第1方向」が、どの方向を意味するのか不明である。」と主張しているが、この主張は、本件明細書の記載(【0099】~【0103】、図8A、図8B)を前提とした、「反応ガス」が「燃料ガス」であると判断された場合の予備的主張と解されるから、検討を要しない。
(3)申立理由2-3
ア 申立人は、「本件訂正前の請求項1に係る発明には、支持部材の「第1部位」および「第2部位」をどのように特定するのかについて、何ら規定されていないため、支持部材において、上流側に位置する部位のうちのどの部分が「第1部位」であり、下流側に位置する部位のうちのどの部分が「第2部位」であるのか不明である。」旨主張する。
イ 以下、検討すると、支持部材において、酸素含有ガスが流れる第1方向の上流側に位置するものが「第1部位」であり、該第1部位よりも前記第1方向の下流側に位置するものが「第2部位」である以上、支持部材において、酸素含有ガスが流れる上流側に位置するいずれの部位も「第1部位」に該当し得るものであり、「第1部位」が特定されれば、当該「第1部位」の下流側に位置するいずれの部位も「第2部位」に該当し得るものである。
ウ 以上のとおりであるから、申立人の主張は採用できない。
(4)申立理由2-4
ア 申立人は、「本件訂正前の請求項1、2に係る発明は、バラツキに起因する第1部位および第2部位の間の赤外光の反射率の僅かな相違を包含するのか、それとも、バラツキに起因する僅かな相違を包含せず、第1部位および第2部位の間の赤外光の反射率を、例えば被膜の厚さを異ならせる等の何らかの手段を用いて意図的に異ならせた態様に限定されるのか不明である。」旨主張する。
イ 以下、検討すると、本件発明1、2は、第1部位及び第2部位の赤外光の反射率の大小関係を特定する発明であるから、当該大小関係がばらつきに起因するものであるか、意図的なものであるかにかかわらず、当該大小関係を満たすものを包含するものである。本件発明1、2において、両部位間の赤外光の反射率の異なる程度が特定されていないからといって、発明が不明確になるものではない。
ウ 以上のとおりであるから、申立人の主張は採用できない。
(5)申立理由2-5
ア 申立人は、「本件訂正前の請求項1、2に係る発明は、支持部材またはマニホールドの赤外光の反射率の測定方法については何ら規定しておらず、本件明細書にも、第1部位および第2部位の赤外光の反射率の測定方法について、何ら記載されていないため、例えば、支持部材またはマニホールドの第1部位および第2部位のそれぞれについて複数点で反射率を測定したとき、第1部位の反射率の最小値が第2部位の反射率の最大値と異なっていた場合、本件訂正前の請求項1、2に係る発明の「前記第1部位および前記第2部位は、赤外光の反射率が異なる」に該当するのか否か不明である。」旨主張する。
イ 以下、検討すると、本件明細書の段落【0065】に、「露出部151a,152aにおける赤外光の反射率は、近赤外・赤外分光光度計またはフーリエ変換赤外分光(FTIR)光度計により測定することができる。赤外光とは、700nm以上の波長を有する光をいう。赤外光の反射率を比較する場合、例えば1500nm~2500nmの波長の範囲における反射率の平均を比較すればよい。ここでいう赤外光の反射率とは、1500nm~2500nmの波長の範囲における反射率の平均とする。」と記載されているように、赤外光の反射率の測定は、当該技術分野の技術常識に基づき、その測定の目的に応じて、通常の手段や手順を用いて行われるものと認められる。
ウ 以上のとおりであるから、申立人の主張は採用できない。
(6)申立理由2-6
ア 申立人は、「本件訂正前の請求項2に係る発明における電気化学セルの高温部および低温部は、各部位での赤外光の反射率を異ならせるという手段を採用することによる効果が奏した後において高温および低温となる部位を意味しているのか、それとも、各部位での赤外光の反射率を同一にしたと仮定した場合において高温および低温となる部位を意味しているのか不明である。」旨主張する。
イ 以下、検討すると、本件発明が解決しようとする課題が、電気化学セル内の温度のばらつきを小さくすることである以上、本件発明2における電気化学セルの高温部および低温部は、各部位での赤外光の反射率を同一にしたと仮定した場合において高温および低温となる部位を意味していることは明らかである。
ウ 以上のとおりであるから、申立人の主張は採用できない。
(7)申立理由2-7
ア 申立人は、「本件訂正前の請求項7に係る発明は、バラツキに起因して第1被覆層の厚みが第2被覆層の厚みよりも小さくなった態様も包含するのか、それとも、バラツキに起因する僅かな大小関係を包含せず、意図して第1被覆層の厚みを第2被覆層の厚みよりも小さくした態様に限定されるのか不明である。」旨主張する。
イ 以下、検討すると、本件発明7は、第1被覆層及び第2被覆層の厚みの大小関係を特定する発明であるから、当該大小関係がばらつきに起因するものであるか、意図的なものであるかにかかわらず、当該大小関係を満たすものを包含するものである。本件発明7において、両被覆層間の厚みの異なる程度が特定されていないからといって、発明が不明確になるものではない。また、被覆層の厚みの測定は、当該技術分野の技術常識に基づき、その測定の目的に応じて、通常の手段や手順を用いて行われるものと認められるから、そのような測定結果に基づく両被覆層の厚みの大小関係は明確である。
ウ 以上のとおりであるから、申立人の主張は採用できない。
(8)小括
したがって、取消理由2(明確性要件)、申立理由2(明確性要件)によっては、本件特許の請求項1、2、4~9に係る特許を取り消すことはできない。
3 申立理由3(新規性、進歩性)
(1)甲第1号証に記載された発明
ア 甲第1号証には、「燃料極と、空気極と、前記燃料極と前記空気極との間に配置された固体電解質と、を有して構成される固体酸化物形の燃料電池セルと、
ステンレス鋼により形成され、前記燃料電池セルの前記燃料極に燃料ガスを供給する燃料ガス供給部材と、
バリウムを含有するガラスにより形成され、前記燃料ガス供給部材と前記燃料電池セルとのシールを行なうシール部材と、
を備える燃料電池構造体であって、
前記燃料ガス供給部材と前記シール部材との間にマンガンを含む化合物または酸化物により形成された反応防止層を備える、
ことを特徴とする燃料電池構造体。」に関する発明が記載されている(請求項1)。
イ また、甲第1号証には、上記アの「燃料ガス供給部材」について、「燃料ガス供給部材は、フェライト系ステンレス鋼により形成されており、酸化アルミニウムまたはコバルト酸化物スピネルによる被膜が形成されている」こと(請求項4)、上記アの「燃料電池セル」について、「燃料極の内部には燃料ガスが流れる燃料ガス流路44が形成されており、燃料電池セル40は、燃料ガス流路44と燃料ガスマニホールド34とが連通するように燃料ガスマニホールド34の支持板36に立設されている」こと(段落【0017】)、上記の「燃料ガスマニホールド」について、「燃料ガスマニホールド34は、上部が開口した箱型の部材であり、上部の開口を塞いで密閉空間を形成するよう支持板36が接合されている。支持板36は、複数の貫通孔36aが所定間隔で形成されており、それぞれの貫通孔36aにキャップ48の小径筒状部48bが貫通するよう燃料電池セル40が挿入されることにより、複数の燃料電池セル40を立設した状態で支持する。これにより、燃料ガスマニホールド34は、各燃料電池セル40の燃料ガス流路44と中空のキャップ48を介して連通し、燃料ガス供給管26から供給される燃料ガスを各燃料電池セル40の燃料ガス流路44に供給(分配)する。燃料ガス流路44に供給された燃料ガスは、燃料ガス流路44を通過し、上側のキャップ48から上方へ排出される。支持板36は、例えば、フェライト系ステンレス鋼や、オーステナイト系ステンレス鋼などの金属材料により形成されており、その表面に酸化アルミニウムまたはコバルト酸化物スピネルによるコーティング膜37が形成されている」こと(段落【0025】)も記載されている。
ウ さらに、甲第1号証の図1には、「燃料電池構造体を有する発電モジュール10」(段落【0013】)が示されているところ、甲第1号証には、上記の「発電モジュール10」(における燃料電池構造体)が、「複数の燃料電池セル40がスタッキングされた燃料電池スタック30」と「燃料ガスマニホールド34」のほかに、「酸化剤ガスを各燃料電池セル40に分配する酸化剤ガスマニホールド38」を備えること(段落【0014】)、「酸化剤ガスマニホールド38は、空気供給管16と接続されており、各燃料電池セル40の空気極に酸化剤ガス(空気)を分配するための複数の供給口38aが形成されている」こと(段落【0024】)が記載されており、図1を参照すると、酸化剤ガス(空気)が、供給口38aから、紙面に垂直な方向(手前側)に供給されることが見て取れる。また、発電モジュール10は、モジュールケース11に燃料電池構造体が収納されたものであることも見て取れる(段落【0014】にも同様のことが記載されている。)。
エ そして、上記イのとおり、「燃料ガスマニホールド」は、燃料ガスを各燃料電池セルの燃料ガス流路に供給(分配)するものであるから、上記アの「燃料ガス供給部材」に相当するものである。また、支持板は、上記イの「燃料ガスマニホールド34の支持板36」(段落【0017】)との記載を踏まえると、上部が開口した箱型の部材と一体となって燃料ガスマニホールドを構成するものと解されるから、コーティング膜が形成されている支持板は、燃料ガスマニホールド(燃料ガス供給部材)の構成要素であるといえる。
オ そうすると、甲第1号証には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲1発明>
燃料極と、空気極と、前記燃料極と前記空気極との間に配置された固体電解質と、を有して構成される固体酸化物形の燃料電池セルと、
フェライト系ステンレス鋼により形成されており、酸化アルミニウムまたはコバルト酸化物スピネルによる被膜が形成され、前記燃料電池セルの前記燃料極に燃料ガスを供給する、支持板を備える燃料ガス供給部材と、
前記燃料電池セルの空気極に酸化剤ガス(空気)を分配するための複数の供給口が形成された酸化剤ガスマニホールドと、
バリウムを含有するガラスにより形成され、前記燃料ガス供給部材と前記燃料電池セルとのシールを行なうシール部材と、
を備える燃料電池構造体であって、
前記燃料ガス供給部材と前記シール部材との間にマンガンを含む化合物または酸化物により形成された反応防止層を備え、
前記支持板は、前記燃料電池セルを立設した状態で支持する、
燃料電池構造体。
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明における「燃料電池セル」は、本件発明1における「電気化学セル」に相当する。
(イ)甲1発明における「支持板」は、「燃料電池セルを立設した状態で支持する」ものであるから、上記(ア)を踏まえると、本件発明1における「電気化学セルを支持する支持部材」に相当する。
(ウ)甲1発明における「燃料電池構造体」は、「燃料電池セル」と、「燃料電池セルを立設した状態で支持する」「支持板」とを備えるものであり、上記(1)ウのとおり、モジュールケース11に収納すると、発電モジュール10となるものであるところ、本件発明1における「電気化学セル装置」は、「電気化学セル」と、「電気化学セルを支持する支持部材」とを備えるものであり、収納容器に収納すると「モジュール」となる(本件発明8)ものであるから、上記(ア)を踏まえると、甲1発明における「燃料電池構造体」は、本件発明1における「電気化学セル装置」に相当する。
(エ)以上によれば、本件発明1と甲1発明とは、
「電気化学セルと、
前記電気化学セルを支持する支持部材と
を備える、電気化学セル装置。」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
本件発明1は、「支持部材は、酸素含有ガスが流れる第1方向の上流側に位置する第1部位と、該第1部位よりも前記第1方向の下流側に位置する第2部位とを有し、
前記第1部位は、前記第2部位よりも赤外光の反射率が小さい」のに対し、甲1発明は、支持板が、「酸素含有ガスが流れる第1方向の上流側に位置する第1部位と、該第1部位よりも前記第1方向の下流側に位置する第2部位とを有」するか不明であり、支持板の各部位での赤外光の反射率の大小関係も不明である点。
イ 判断
(ア)相違点1について
a 相違点1が実質的な相違点であるかについて
(a)甲1発明は、燃料電池セルの空気極に酸化剤ガス(空気)を分配するための複数の供給口が形成された酸化剤ガスマニホールドを備えるものであり、甲第1号証の図1には、甲1発明の具体例が示されていると解されるところ、上記(1)ウのとおり、甲第1号証の図1から、酸化剤ガス(空気)が、供給口38aから、紙面に垂直な方向(手前側)に供給されることが見て取れるから、甲1発明において、酸化剤ガス(空気)が流れる方向は、紙面に垂直な方向の奥側から手前側であると認められる。
そして、甲1発明における支持板は板状である以上、紙面に垂直な方向の奥側から手前側に幅(長さ)を有することは明らかであるから、紙面に垂直な方向の奥側である上流側に位置する第1部位と、該第1部位よりも紙面に垂直な方向の手前側である下流側に位置する第2部位とを有しているといえる。
(b)一方、甲第1号証には、前記第1部位及び前記第2部位の赤外光の反射率が記載されていないから、前記第1部位及び前記第2部位の赤外光の反射率の値は不明であり、同様に両者の大小関係も不明である。また、技術常識を考慮しても、甲1発明において、前記第1部位の赤外光の反射率が、前記第2部位の赤外光の反射率よりも小さいかどうかは不明である。
よって、相違点1は、実質的な相違点である。
b 申立人の主張について
(a)申立人は、特許異議申立書の第40ページ第20行~第43ページ第7行において、「一般に、コーティング膜の厚みは、コーティング膜の全体にわたって厳密に同一であることはなく、厚みの僅かなバラツキが存在するため、甲第1号証においても、支持板の第1部位および第2部位で、複数箇所においてコーティング膜の厚みを測定すると、第1部位におけるコーティング膜の厚みが第2部位におけるコーティング膜の厚みより小さい箇所が存在する蓋然性が極めて高い。
また、甲第5号証の記載によれば、酸化皮膜の厚さが増大すると、赤外光の反射率が増加するから、第1部位における赤外光の反射率が第2部位における赤外光の反射率より小さい箇所が存在する蓋然性が極めて高い。
以上のことから、相違点1は実質的な相違点ではなく、本件発明1と甲第1号証に記載された発明とは実質的に同一である」旨を主張する。
(b)しかしながら、「一般に、コーティング膜の厚みは、コーティング膜の全体にわたって厳密に同一であることはなく、厚みの僅かなバラツキが存在する」としても、甲1発明の「酸化アルミニウムまたはコバルト酸化物スピネルによる被膜」にも同様のバラツキが存在し、「第1部位におけるコーティング膜の厚みが第2部位におけるコーティング膜の厚みより小さい箇所が存在する」かどうかは不明である。
また、甲第5号証に記載されるのは、「保護膜厚さdに応じて、反射率が周期的に変化する結果が得られる。」(段落【0004】)ということであって、膜厚の増加に伴って、赤外光の反射率が単調増加することを示すものではないから、甲第5号証の記載に基づいて、「酸化皮膜の厚さが増大すると、赤外光の反射率が増加する」とは必ずしもいえない。そうすると、仮に、甲1発明の「酸化アルミニウムまたはコバルト酸化物スピネルによる被膜」に「第1部位におけるコーティング膜の厚みが第2部位におけるコーティング膜の厚みより小さい箇所が存在する」としても、「第1部位における赤外光の反射率が第2部位における赤外光の反射率より小さい」とは必ずしもいえない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
c 相違点1の容易想到性について
甲第1号証には、支持板の赤外光の反射率について何ら記載されていないから、支持板の第1部位における赤外光の反射率を第2部位における赤外光の反射率よりも小さくすることが動機付けられるとはいえない。また、このことは、甲第2号証~甲第5号証の記載を考慮しても、変わるものではない。
以上によれば、甲1発明において、相違点1に係る発明特定事項を備えたものとすることは、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
d 申立人の主張について
申立人は、容易想到性について、「また、少なくとも、本件特許発明1は、甲1発明に基づいて容易に想到することができたものであり、進歩性を有しない。」、「また、少なくとも、本件特許発明3は、甲1発明に基づいて容易に想到することができたものであり、進歩性を有しない。」と主張するにとどまり、具体的な主張をしていない。
ウ 小括
したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。また、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証~甲第5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件発明4~9について
本件発明4~9は、本件発明1の発明特定事項をすべて備えた「電気化学セル装置」、「モジュール」及び「モジュール収容装置」に係るものであるから、上記(2)ウのとおり、本件発明1が、甲第1号証に記載された発明であるとはいえず、また、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証~甲第5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない以上、同様に、本件発明4~9は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえず、また、甲第1号証に記載された発明、甲第3号証に記載された事項及び甲第4号証に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(4)小括
したがって、申立理由3(新規性、進歩性)によっては、本件特許の請求項1、4~9に係る特許を取り消すことはできない。
4 申立理由4(新規性、進歩性)
(1)甲第2号証に記載された発明
ア 甲第2号証には、「支持基板上に、燃料側電極層、固体電解質層および空気側電極層を順次積層してなる燃料電池セルの複数個を配列して、電気的に直列に接続してなる燃料電池セルスタックであって、前記燃料電池セルの配列方向における中央部に配置された複数個の燃料電池セル間の間隔が、前記燃料電池セルの配列方向における端部に配置された複数個の燃料電池セル間の間隔よりも広いことを特徴とする燃料電池セルスタック。」に関する発明が記載されている(請求項1)。
イ また、甲第2号証には、上記アの「燃料電池セル」について、「燃料電池セルが、中空平板型の燃料電池セルであるとともに、前記燃料電池セルに燃料ガスを供給するためのマニホールドに立設して配置されている」ことも記載されている(請求項4)。
ウ そうすると、甲第2号証には、以下の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲2発明>
支持基板上に、燃料側電極層、固体電解質層および空気側電極層を順次積層してなる燃料電池セルの複数個を配列して、電気的に直列に接続してなる燃料電池セルスタックであって、
前記燃料電池セルの配列方向における中央部に配置された複数個の燃料電池セル間の間隔が、前記燃料電池セルの配列方向における端部に配置された複数個の燃料電池セル間の間隔よりも広く、
前記燃料電池セルが、中空平板型の燃料電池セルであるとともに、前記燃料電池セルに燃料ガスを供給するためのマニホールドに立設して配置されている燃料電池セルスタック。
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
(ア)甲2発明における「燃料電池セル」は、本件発明1における「電気化学セル」に相当する。
(イ)甲2発明における「マニホールド」は、「燃料電池セル」を立設して配置する際に、「燃料電池セル」を支持するものと解されるから、上記(ア)を踏まえると、本件発明1における「電気化学セルを支持する支持部材」に相当する。
(ウ)甲2発明における「燃料電池セルスタック」は、「燃料電池セルの複数個を配列して、電気的に直列に接続してなる」ものであり、「燃料電池セルが」「マニホールドに立設して配置されている」ものであるところ、上記(イ)を踏まえると、(複数個の)燃料電池セルと、燃料電池セルを支持するマニホールドを備えたものといえる。これに対して、本件発明1における「電気化学セル装置」は、「電気化学セル」と、「電気化学セルを支持する支持部材」とを備えるものであるから、上記(ア)を踏まえると、甲2発明における「燃料電池セルスタック」は、本件発明1における「電気化学セル装置」に相当する。
(エ)以上によれば、本件発明1と甲2発明とは、
「電気化学セルと、
前記電気化学セルを支持する支持部材と
を備える、電気化学セル装置。」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点2-1>
本件発明1は、「支持部材は、酸素含有ガスが流れる第1方向の上流側に位置する第1部位と、該第1部位よりも前記第1方向の下流側に位置する第2部位とを有し、
前記第1部位は、前記第2部位よりも赤外光の反射率が小さい」のに対し、甲2発明は、マニホールドが、「酸素含有ガスが流れる第1方向の上流側に位置する第1部位と、該第1部位よりも前記第1方向の下流側に位置する第2部位とを有」するか不明であり、マニホールドの各部位での赤外光の反射率の大小関係も不明である点。
イ 判断
(ア)相違点2-1について
a 相違点2-1が実質的な相違点であるかについて
(a)甲第2号証の図1には、甲2発明の具体例が示されていると解されるところ、甲第2号証の図1(b)において、点線で示した矢印は、酸素含有ガスの流れ方向を示している(段落【0044】)から、甲2発明において、酸素含有ガスが流れる方向は、紙面上における燃料電池セル間の上側から下側であると認められる。そうすると、甲2発明のマニホールドは、紙面上における燃料電池セル間の上側である上流側に位置する第1部位と、該第1部位よりも紙面上における燃料電池セル間の下側である下流側に位置する第2部位とを有しているといえる。
(b)一方、甲第2号証には、前記第1部位及び前記第2部位の赤外光の反射率が記載されていないから、前記第1部位及び前記第2部位の赤外光の反射率の値は不明であり、同様に両者の大小関係も不明である。また、技術常識を考慮しても、甲2発明において、前記第1部位の赤外光の反射率が、前記第2部位の赤外光の反射率よりも小さいかどうかは不明である。
よって、相違点2-1は、実質的な相違点である。
b 申立人の主張について
(a)申立人は、特許異議申立書の第48ページ第2行~第49ページ第11行、第52ページ第9~24行において、「甲第2号証には、マニホールドの形成材料についての記載は無いが、固体酸化物形燃料電池の技術分野において、マニホールドの形成材料としてアルミニウムを含むフェライト系ステンレス鋼を用いることは当業者の技術常識であり、アルミニウムを含むフェライト系ステンレス鋼の表面に、酸化アルミニウムの被膜が形成されることも、固体酸化物形燃料電池の技術分野における当業者の技術常識であり、一般に、アルミニウムを含むフェライト系ステンレス鋼の表面に形成される酸化被膜の厚みは、酸化被膜の全体にわたって厳密に同一であることはなく、厚みの僅かなバラツキが存在するため、甲第2号証において、マニホールドの第1部位および第2部位で、複数箇所において酸化皮膜の厚みを測定すると、第1部位における酸化皮膜の厚みが第2部位における酸化皮膜の厚みより小さい箇所が存在する蓋然性が極めて高い。
また、甲第5号証の記載によれば、酸化皮膜の厚さが増大すると、赤外光の反射率が増加するから、第1部位における赤外光の反射率が第2部位における赤外光の反射率より小さい箇所が存在する蓋然性が極めて高い。
以上のことから、相違点2-1は実質的な相違点ではなく、本件発明1と甲第2号証に記載された発明とは実質的に同一である」旨を主張する。
(b)しかしながら、甲2発明において、マニホールドの形成材料は不明であるから、マニホールドの形成材料としてアルミニウムを含むフェライト系ステンレス鋼が用いられているかは不明であり、その表面に、酸化アルミニウムの被膜が形成されるかどうかも不明である。また、マニホールドの表面に被膜が形成されるかどうかが不明である以上、マニホールドの表面に被膜の存在に起因する厚みの僅かなバラツキが存在するかも不明である。
そうすると、甲第2号証において、マニホールドの第1部位および第2部位で、赤外光の反射率を測定したとしても、第1部位における赤外光の反射率が第2部位における赤外光の反射率より小さいかどうかは不明である。
仮に、申立人の主張を前提としても、甲第5号証に記載されるのは、「保護膜厚さdに応じて、反射率が周期的に変化する結果が得られる。」(段落【0004】)ということであって、膜厚の増加に伴って、赤外光の反射率が単調増加することを示すものではないから、甲第5号証の記載に基づいて、「酸化皮膜の厚さが増大すると、赤外光の反射率が増加する」とは必ずしもいえない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
c 相違点2-1の容易想到性について
甲第2号証には、マニホールドの赤外光の反射率について何ら記載されていないから、マニホールドの第1部位における赤外光の反射率を第2部位における赤外光の反射率よりも小さくすることが動機付けられるとはいえない。また、このことは、甲第1、3~5号証の記載を考慮しても、変わるものではない。
以上によれば、甲2発明において、相違点2-1に係る発明特定事項を備えたものとすることは、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
d 申立人の主張について
(a)申立人は、特許異議申立書の第49ページ第12~19行において、「酸化皮膜の厚さが増大すると、赤外光の反射率が増加する」ことを前提に、「甲第2号証に記載された発明において、温度分布の均一化の課題を解決するために、マニホールドの第1部位および第2部位の表面に形成する酸化皮膜の厚みを互いに異ならせて、マニホールドの第1部位および第2部位の赤外光の反射率を互いに異ならせることは、当業者が容易に想到することができたことである」旨を主張する。
(b)しかしながら、上記(a)の前提に誤りがあることは、上記b(b)で述べたとおりである。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
ウ 小括
したがって、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明であるとはいえない。また、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明及び甲第1、3~5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件発明2について
ア 対比
本件発明2と甲2発明とを対比する。
(ア)甲2発明における「燃料電池セル」は、本件発明2における「電気化学セル」に相当する。
(イ)甲2発明における「マニホールド」は、「燃料電池セル」を立設して配置する際に、「燃料電池セル」を支持するものと解されるから、上記(ア)を踏まえると、本件発明2における「電気化学セルを支持するマニホールド」に相当する。
(ウ)甲2発明における「燃料電池セルスタック」は、「燃料電池セルの複数個を配列して、電気的に直列に接続してなる」ものであり、「燃料電池セルが」「マニホールドに立設して配置されている」ものであるところ、上記(イ)を踏まえると、(複数個の)燃料電池セルと、燃料電池セルを支持するマニホールドを備えたものといえる。これに対して、本件発明2における「電気化学セル装置」は、「電気化学セル」と、「電気化学セルを支持するマニホールド」とを備えるものであるから、上記(ア)を踏まえると、甲2発明における「燃料電池セルスタック」は、本件発明2における「電気化学セル装置」に相当する。
(エ)以上によれば、本件発明2と甲2発明とは、
「電気化学セルと、
前記電気化学セルを支持するマニホールドと
を備える、電気化学セル装置。」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点2-2>
本件発明2は、「マニホールドは、前記電気化学セルの低温部に位置する第1部位と、前記低温部よりも温度が高い前記電気化学セルの高温部に位置する第2部位とを有し、
前記第1部位は、前記第2部位よりも赤外光の反射率が小さい」のに対し、甲2発明は、マニホールドが、「前記電気化学セルの低温部に位置する第1部位と、前記低温部よりも温度が高い前記電気化学セルの高温部に位置する第2部位とを有」するか不明であり、マニホールドの各部位での温度及び赤外光の反射率の大小関係も不明である点。
イ 判断
(ア)相違点2-2について
a 相違点2-2が実質的な相違点であるかについて
(a)甲第2号証には、「燃料電池セルの配列方向における中央部(略)に配置された複数個の燃料電池セル間の間隔が、燃料電池セルの配列方向における端部(略)に配置された複数個の燃料電池セル間の間隔と比べて広いことから、燃料電池セルスタックの配列方向における温度分布を均一化する(均一に近づける)ことができる」(段落【0012】)と記載されているから、甲2発明のマニホールドにも、何らかの温度分布が存在すると認められる。そうすると、甲2発明のマニホールドは、「前記電気化学セルの低温部に位置する第1部位と、前記低温部よりも温度が高い前記電気化学セルの高温部に位置する第2部位とを有し」ていると認められる。
(b)一方、甲第2号証には、前記第1部位及び前記第2部位の赤外光の反射率が記載されていないから、前記第1部位及び前記第2部位の赤外光の反射率の値は不明であり、同様に両者の大小関係も不明である。また、技術常識を考慮しても、甲2発明において、前記第1部位の赤外光の反射率が、前記第2部位の赤外光の反射率よりも小さいかどうかは不明である。
よって、相違点2-2は、実質的な相違点である。
b 申立人の主張について
(a)申立人は、特許異議申立書の第50ページ第20行~第52ページ第24行において、上記(2)イ(ア)b(a)と同様に主張するが、同b(b)で述べたとおり採用できない。
c 相違点2-2の容易想到性について
上記(2)イ(ア)cで述べたのと同様の理由により、甲2発明において、相違点2-2に係る発明特定事項を備えたものとすることは、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
d 申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書の第52ページ第9~24行において、上記(2)イ(ア)d(a)と同様に主張するが、同d(b)で述べたとおり採用できない。
ウ 小括
したがって、本件発明2は、甲第2号証に記載された発明であるとはいえない。また、本件発明2は、甲第2号証に記載された発明及び甲第1、3~5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)本件発明4~9について
本件発明4~9は、本件発明1又は2の発明特定事項をすべて備えた「電気化学セル装置」、「モジュール」及び「モジュール収容装置」に係るものであるから、上記(2)ウ、(3)ウのとおり、本件発明1及び2が、甲第2号証に記載された発明であるとはいえず、また、甲第2号証に記載された発明及び甲第1、3~5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない以上、同様に、本件発明4~9は、甲第2号証に記載された発明であるとはいえず、また、甲第2号証に記載された発明、甲第3号証に記載された事項及び甲第4号証に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(5)小括
したがって、申立理由4(新規性、進歩性)によっては、本件特許の請求項1、2、4~9に係る特許を取り消すことはできない。
5 令和 6年 6月28日に申立人が提出した意見書における主張について
(1)請求項1の「第1部位」および「第2部位」について
申立人は意見書において、「しかしながら、上述したように、請求項1の発明特定事項Xは、文言上は、本件の課題を解決できない上記態様Yを包含している。
以上のことから、請求項1の発明特定事項Xがどのような態様を包含し、どのような態様を除外しているのか不明確であり、その結果、請求項1は不明確である。請求項1に従属する請求項4~9も同様に不明確である。」と主張する。
しかしながら、「請求項1の発明特定事項Xは、文言上は、本件の課題を解決できない上記態様Yを包含している」との主張は、実質的にサポート要件に係る新たな申立理由を主張するものであるから採用できない。
上記主張が、明確性要件に係る主張であるとしても、請求項1における第1部位の赤外光の反射率と第2部位の赤外光の反射率の大小関係に係る発明特定事項は、本件訂正前の請求項3の発明特定事項であって、本件訂正により追加された事項ではないから、上記主張は、訂正の請求の内容に付随して生じた理由に対するものとはいえず、新たな申立理由を主張するものであるから採用できない。
(2)請求項1の「酸素含有ガスが流れる第1方向」について
申立人は意見書において、「請求項1の発明特定事項Xにおける「酸素含有ガスが流れる第1方向」が、セルの外部を流れる酸素含有ガスの方向を意味するのか、それともに、セルの内部を流れる酸素含有ガスの方向をも包含するのか不明確である。」と主張する。
しかしながら、酸素含有ガス(反応ガス)が流れる方向は、本件訂正により追加された事項ではないから、上記主張は、訂正の請求の内容に付随して生じた理由に対するものとはいえず、新たな申立理由を主張するものであるから採用できない。
また、「仮に、請求項1の発明特定事項Xにおける「酸素含有ガスが流れる第1方向」が、セルの外部を流れる酸素含有ガスの方向を意味するとしても、「セルの外部」とはどこを指すのか不明確である。」との主張についても同様である。
第6 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した申立理由及び当審から通知した取消理由によっては、本件特許の請求項1、2、4~9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求1、2、4~9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項3が本件訂正により削除されたことにより、申立人による請求項3に係る特許異議の申立てについては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2023-701394