審決検索MVP
← 検索一覧に戻る
特許異議申立

2023-701109

電気化学セル、電気化学セル装置、モジュールおよびモジュール収容装置

審判番号
2023-701109
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2022-577649
登録番号
7284355
請求日
2023年10月17日
審決日
2024年12月26日
公報発行日
2025年06月27日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】京セラ株式会社
  • 【権利者代理人】弁理士法人酒井国際特許事務所
  • 【異議申立人】井上 敬也
審判長/審判官
  • 審判長 粟野 正明
  • 審判官 土屋 知久
  • 審判官 池渕 立
分類
P1651.537-YAA(H01M) / P1651.113-YAA(H01M) / P1651.121-YAA(H01M)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第9項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第2項、特許法第126条第6項、特許法第126条第5項、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項、特許法第113条第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第4項、特許法第126条第7項、特許法第126条第4項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7284355号発明「電気化学セル、電気化学セル装置、モジュールおよびモジュール収容装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7284355号の明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~15〕について訂正することを認める。 特許第7284355号の請求項1~5、7~15に係る特許を維持する。 特許第7284355号の請求項6に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7284355号の請求項1~15に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、2022年(令和4年)9月28日(優先権主張 令和3年9月30日、日本国)を国際出願日とする出願であって、令和5年5月22日にその特許権の設定登録がなされ、同年5月30日に特許掲載公報が発行された。 本件は、その後、同年10月17日差出で特許異議申立人井上敬也(以下、「申立人」という。)より請求項1~15(全請求項)に係る特許に対してなされた特許異議申立事件であって、令和6年3月22日付けで取消理由が通知され、これに対し、同年5月27日に意見書が提出されるとともに、訂正請求(以下、「前訂正請求」という。)がなされ、同年6月28日に申立人から意見書が提出され、さらに、同年8月13日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、これに対し、同年10月15日に意見書が提出されるとともに、訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされたものである。 なお、前訂正請求は、本件訂正請求がなされたため取り下げられたものとみなす。 また、本件訂正請求に係る訂正(以下、「本件訂正」という。)は、前訂正請求に係る訂正と比較して、請求項6を削除する訂正事項が加えられただけのものであり、また、前訂正請求がなされた際に申立人に意見を求めていることから、本件訂正請求がなされた後には申立人に意見を求めなかった。 第2 訂正請求について 1 請求の趣旨、及び、訂正の内容 本件訂正請求は、特許第7284355号の明細書、特許請求の範囲を、本件訂正請求に係る訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~15について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は以下のとおりである。なお、訂正箇所には、当審で下線を付した。 1-1 訂正事項1 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に「前記第1電極層は、前記第1材料を含む第1部位と、前記第2材料を含み前記第1部位と前記固体電解質層との間に位置する第2部位とを有する電気化学セル」と記載されているのを、「前記第1電極層は、前記第1材料を含む第1部位と、前記第2材料を含み前記第1部位と前記固体電解質層との間に位置する第2部位とを有し、前記第1電極層は、燃料極層であり、前記第2電極層は、空気極層である電気化学セル」に訂正する(請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2~5、10~15も同様に訂正する)。 1-2 訂正事項2 本件特許請求の範囲の請求項6を削除する。 1-3 訂正事項3 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項7に「前記第2面近傍には、前記第2材料が含まれている電気化学セル」と記載されているのを、「前記第2面近傍には、前記第2材料が含まれており、前記第1電極層は、燃料極層であり、前記第2電極層は、空気極層である電気化学セル」に訂正する(請求項7の記載を直接又は間接的に引用する請求項8~15も同様に訂正する)。 1-4 訂正事項4 願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)【0055】の記載を削除する。 2 訂正の適否についての当審の判断 2-1 訂正の目的、特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び新規事項追加の有無 (1)訂正事項1について ア 訂正の目的について 訂正事項1に係る訂正は、訂正前の請求項1における「第1電極層」及び「第2電極層」について、それぞれ「燃料極層」及び「空気極層」であることを特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。 イ 特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否について 訂正事項1に係る訂正は、上記アのとおり、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。 ウ 新規事項の有無について 第1電極層が燃料極層であることは、本件明細書【0020】に「燃料極層5は、第1電極層の一例である」と、第2電極層が空気極層であることは、本件明細書【0025】に「空気極層8は、第2電極層の一例である」とそれぞれ記載されており、訂正事項1に係る訂正は、願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書等」という。)の記載から導き出される技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。 (2)訂正事項2について ア 訂正の目的について 訂正事項2に係る訂正は、請求項6を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。 イ 特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否について 訂正事項2に係る訂正は、上記アのとおり、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。 ウ 新規事項の有無について 訂正事項2に係る訂正は、本件明細書等の記載から導き出される技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。 (3)訂正事項3について ア 訂正の目的について 訂正事項3に係る訂正は、訂正前の請求項7における「第1電極層」及び「第2電極層」について、それぞれ「燃料極層」及び「空気極層」であることを特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。 イ 特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否について 訂正事項3に係る訂正は、上記アのとおり、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。 ウ 新規事項の有無について 第1電極層が燃料極層であることは、本件明細書【0020】に「燃料極層5は、第1電極層の一例である」と、第2電極層が空気極層であることは、本件明細書【0025】に「空気極層8は、第2電極層の一例である」とそれぞれ記載されており、訂正事項3に係る訂正は、本件明細書等の記載から導き出される技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。 (4)訂正事項4について ア 訂正の目的について 訂正事項4に係る訂正は、訂正前の請求項1~6の「第1部位」及び「第2部位」の範囲について、本件明細書【0054】及び【0055】で互いに異なる複数の定義が記載されていたため、「第1部位」及び「第2部位」の範囲が不明確であったところ、【0055】を削除して【0054】に記載された定義に従って解釈することを明確化することにより、本来の意味内容を明らかにするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。 イ 特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否について 訂正事項4に係る訂正は、上記アのとおり、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。 ウ 新規事項の有無について 訂正事項4に係る訂正は、本件明細書【0055】を削除するというものであり、本件明細書等の記載から導き出される技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。 2-2 一群の請求項について 本件訂正前の請求項1~15について、訂正前の請求項2~6、10~15はそれぞれ訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、請求項1の訂正に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項1~6、10~15は一群の請求項を構成するものであり、また、訂正前の請求項8~15はそれぞれ訂正前の請求項7を直接又は間接的に引用するものであって、請求項7の訂正に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項7~15は一群の請求項を構成するものであり、このとき共通する請求項10~15を有するこれらの一群の請求項は組み合わされて1つの一群の請求項になるから、本件訂正前の請求項1~15は、一群の請求項である。 そして、本件訂正請求は、上記一群の請求項ごとに訂正の請求をするものであるから、特許法第120条の5第4項に適合するものである。 また、本件訂正について別の訂正単位とする求めはないから、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1~15〕を訂正単位とする訂正を請求するものである。 2-3 独立特許要件について 本件は、訂正前の全請求項について特許異議の申立てがされているので、訂正事項1~4について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。 2-4 明細書の訂正について 明細書の訂正である訂正事項4は、「第1部位」、「第2部位」に係る記載を含む、訂正前の請求項1~6、10~15に対応する明細書の記載を訂正するものであるところ、本件訂正請求に係る明細書の訂正は、請求項1~6、10~15を含む一群の請求項の全てについて行うものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第4項に適合するものである。 2-5 訂正請求のむすび 以上のとおりであるから、令和6年10月15日に特許権者が行った訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~15〕についての訂正を認める。 第3 本件発明 令和6年10月15日に特許権者が行った請求項1~15についての訂正は、上記第2で検討したとおり適法なものであるから、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~15に係る発明(以下、「本件発明1」などという。また、これらをまとめて「本件発明」という。)は、本件訂正請求に係る訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~15に記載された、次の事項から特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 イオン伝導性を有する第1材料および第2材料を含む第1電極層と、 第2電極層と、 前記第1電極層と前記第2電極層との間に位置し、Zr(ジルコニウム)を含有する固体電解質層と を備え、 前記第1材料は、前記第2材料よりも高い電子伝導性を有し、 前記第1電極層は、前記第1材料を含む第1部位と、前記第2材料を含み前記第1部位と前記固体電解質層との間に位置する第2部位とを有し、 前記第1電極層は、燃料極層であり、前記第2電極層は、空気極層である 電気化学セル。 【請求項2】 前記第1部位は、前記第1材料の含有率が前記第2部位よりも大きい 請求項1に記載の電気化学セル。 【請求項3】 前記第2部位は、前記第2材料の含有率が前記第1材料の含有率よりも大きい 請求項1に記載の電気化学セル。 【請求項4】 前記第1部位は、前記第1材料の含有率が前記第2材料の含有率よりも大きい 請求項1に記載の電気化学セル。 【請求項5】 前記第1部位の気孔率は、前記第2部位の気孔率よりも大きい 請求項1に記載の電気化学セル。 【請求項6】 (削除) 【請求項7】 イオン伝導性を有する第1材料および第2材料を含む第1電極層と、 第2電極層と、 前記第1電極層と前記第2電極層との間に位置し、Zr(ジルコニウム)を含有する固体電解質層と を備え、 前記第1電極層は、前記固体電解質層の反対側に位置する第1面と、前記固体電解質層に接する第2面とを有し、 前記第1材料は、前記第2材料よりも高い電子伝導性を有し、前記第1面近傍の前記第1材料の含有率は、前記第2面近傍の前記第1材料の含有率より大きく、 前記第2面近傍には、前記第2材料が含まれており、 前記第1電極層は、燃料極層であり、前記第2電極層は、空気極層である 電気化学セル。 【請求項8】 前記第1材料の含有率は、前記第1面から前記第2面にかけて漸減している 請求項7に記載の電気化学セル。 【請求項9】 前記第2材料の含有率は、前記第2面から前記第1面にかけて漸減している 請求項7に記載の電気化学セル。 【請求項10】 前記第1材料は、セリア系化合物であり、 前記第2材料は、ジルコニア系化合物またはペロブスカイト型化合物である 請求項1または7に記載の電気化学セル。 【請求項11】 前記第2材料は、安定化ジルコニアである 請求項1または7に記載の電気化学セル。 【請求項12】 前記第1材料は、SmまたはGdが固溶したCeO2である 請求項1または7に記載の電気化学セル。 【請求項13】 請求項1または7に記載の電気化学セルを含むセルスタックを有する 電気化学セル装置。 【請求項14】 請求項13に記載の電気化学セル装置と、 前記電気化学セル装置を収納する収納容器と を備えるモジュール。 【請求項15】 請求項14に記載のモジュールと、 前記モジュールの運転を行うための補機と、 前記モジュールおよび前記補機を収容する外装ケースと を備えるモジュール収容装置。」 第4 申立理由及び取消理由の概要 1 申立理由の概要 申立人は、証拠方法として次の甲第1~11号証(以下、それぞれ「甲1」~「甲11」という。)を提出し、以下の申立理由1~5により、請求項1~15に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。 なお、以下に示す申立理由1~2は、願書に添付された特許請求の範囲及び明細書に対して、申立理由3~5は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項に係る発明に対して、なされたものである。 (証拠方法) 甲第1号証:特開2018-137205号公報 甲第2号証:特開2017-45581号公報 甲第3号証:特開2013-229311号公報 甲第4号証:特開2005-174664号公報 甲第5号証:特開2014-107063号公報 甲第6号証:特開2004-143023号公報 甲第7号証:特表2008-533678号公報 甲第8号証:Young-il Kwon et al.,“Novel strategy for improving the oxygen permeability of zirconia-based dual-phase membranes”, Energy & Environmental Science, The Royal Society of Chemistry, April 2019, Volume 12, Number 4, Pages 1358-1368 甲第9号証:特開2008-159571号公報 甲第10号証:特開2009-37874号公報 甲第11号証:特開2019-9079号公報 1-1 申立理由1(サポート要件) 本件特許は、次の(1)、(2)の理由により特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 (1)請求項1~15に係る発明に包含される態様のうち、第1電極層が空気極層であり、第2電極層が燃料極層である態様について、本件明細書には、本件発明の課題を解決しうることが記載されていない(取消理由に採用)。 (2)請求項1~9、11、13~15に係る発明の必須の構成である、燃料極層5に含まれる「第1材料」について、固体電解質層6または固体電解質層6と燃料極層5との界面に低導電性の反応層を形成する成分を含有する材料であることが特定されていない(取消理由に不採用)。 1-2 申立理由2(明確性要件) 本件特許は、次の(1)~(7)の理由により特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 (1)請求項1~6、10~15において、「第1部位」および「第2部位」が第1電極層におけるどの部位を指しているのかが不明確である(取消理由に一部の請求項で採用)。 (2)請求項7~15において、「第1面近傍」および「第2面近傍」が第1電極層におけるどの部位を指しているのかが不明確である(取消理由に不採用)。 (3)請求項1~15において、第1材料および第2材料の「電子伝導性」をどのように特定するのかが不明確である(取消理由に採用)。 (4)請求項1~15において、第2材料が「イオン伝導性」を有するか否かが不明確である(取消理由に採用)。 (5)請求項3において、「第1材料の含有率」が何を意味するのかが不明確である(取消理由に不採用)。 (6)請求項4において、「第2材料の含有率」が何を意味するのかが不明確である(取消理由に不採用)。 (7)請求項8、9において、「漸減」がどのような構成を意味するのかが不明確である(取消理由に不採用)。 1-3 申立理由3(甲1を主たる引例とした場合の新規性・進歩性) 請求項1、2、4、5、7~9、13に係る発明は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 また、請求項14、15に係る発明は、甲1に記載された発明に記載された事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである(取消理由に一部採用、職権で条文を変更して一部採用)。 1-4 申立理由4(甲2を主たる引例とした場合の新規性・進歩性) 請求項1~4に係る発明は、甲2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 また、請求項7~9、13~15に係る発明は、甲2に記載された発明に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである(取消理由に一部採用、職権で条文を変更して一部採用)。 1-5 申立理由5(甲3を主たる引例とした場合の新規性・進歩性) 請求項1~4、6~9、11、13に係る発明は、甲3に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 また、請求項14、15に係る発明は、甲3に記載された発明に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである(取消理由に一部採用、職権で条文を変更して一部採用)。 2 令和6年3月22日付けで通知した取消理由 当審において、上記1の申立理由のうち、申立理由1の(1)、申立理由2の(3)、(4)を採用し、また、申立理由2の(1)については一部の請求項(請求項2~6)のみ採用し、さらに、申立理由3~5については、次の(1)~(3)のとおり一部採用するとともに一部条文変更して採用し、令和6年3月22日付けで次の取消理由1~5を通知した。 なお、以下に示す取消理由1~2は、願書に添付された特許請求の範囲及び明細書に対して、取消理由3~5は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項に係る発明に対して、通知されたものである。 2-1 取消理由1(サポート要件:申立理由1の(1)) 本件特許は、請求項1~15に係る発明に包含される態様のうち、第1電極層が空気極層であり、第2電極層が燃料極層である態様について、本件明細書には、本件発明の課題を解決しうることが記載されていないから、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 2-2 取消理由2(明確性要件:申立理由2の(1)の一部、(3)、(4)) 本件特許は、次の(1)~(3)の理由により特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 (1)請求項2~6において、「第1部位」および「第2部位」が第1電極層におけるどの部位を指しているのかが不明確である。 (2)請求項1~15において、第1材料および第2材料の「電子伝導性」をどのように特定するのかが不明確である。 (3)請求項1~15において、第2材料が「イオン伝導性」を有するか否かが不明確である。 2-3 取消理由3(甲1を主たる引例とした場合の新規性・進歩性:申立理由3の一部及び一部職権で条文変更) 請求項1、2、4、5に係る発明は、甲1に記載された発明であり、また、請求項1、2、4、5、7、13~15に係る発明は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る本件特許は、特許法第29条第1項第3号または同法同条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 2-4 取消理由4(甲2を主たる引例とした場合の新規性・進歩性:申立理由4の一部及び一部職権で条文変更) 請求項1、2、4に係る発明は、甲2に記載された発明であり、また、請求項1~4、13~15に係る発明は、甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る本件特許は、特許法第29条第1項第3号または同法同条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 2-5 取消理由5(甲3を主たる引例とした場合の新規性・進歩性:申立理由5の一部及び一部職権で条文変更) 請求項1~4、6、7、11に係る発明は、甲3に記載された発明であるか、または、請求項1~4、6、7、11、13~15に係る発明は、甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る本件特許は、特許法第29条第1項第3号または同法同条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 3 令和6年8月13日付けで通知した取消理由(決定の予告) 当審は、上記2の取消理由1~5は全て解消したと判断したが、新たに取消理由を発見したので、令和6年8月13日付けで次の取消理由6を通知した。 なお、以下に示す取消理由6は、前訂正請求に係る訂正後の特許請求の範囲及び明細書に対して通知されたものである。 3-1 取消理由6(明確性:職権で通知) 本件特許は、次の(1)、(2)の理由により特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 (1)請求項1、7の「第1材料は、前記第2材料よりも高い電子伝導性を有し、」と記載について、どのようにして「第1材料」及び「第2材料」の電子伝導度を比較するのかが不明であるため、「第1材料」及び「第2材料」の特定が困難である。 (2)「第1部位」及び「第2部位」について、請求項6の記載と【0054】の記載とは矛盾する。 第5 当審の判断 当審では、次に示すとおり、上記第4の特許異議申立理由及び取消理由によっては、本件請求項1~5、7~15に係る特許を取り消すことはできないと判断する。 1 取消理由6(明確性要件)について (1)電子伝導性について(職権で通知) ア 請求項1、7には、「第1材料は、前記第2材料よりも高い電子伝導性を有し、」と記載されている。 イ そして、本件明細書には、電子伝導性の評価方法について、次のとおり記載されている。 「【0051】 燃料極層5は、イオン伝導性を有する第1材料および第2材料を含む。第1材料は、第2材料よりも高い電子伝導性を有する。第1材料および第2材料の電子伝導性は、たとえば、第1材料の組成を有する矩形状の焼結体および第2材料の組成を有する矩形状の焼結体を作製し、各焼結体のイオン輸率と電気伝導度を測定することで、それぞれ評価することができる。」 ウ ここで、上記イの記載によれば、「第1材料および第2材料の電子伝導性は、たとえば、第1材料の組成を有する矩形状の焼結体および第2材料の組成を有する矩形状の焼結体を作製し、各焼結体のイオン輸率と電気伝導度を測定することで、それぞれ評価することができる」とのことである。 エ そして、特許権者は、令和6年10月15日提出の意見書において、次の主張をしている(第6頁最後から3行~第7頁第6行)。 「「第1部位」および「第2部位」は、下記<1>~<3>のように分析することにより特定することができます。 <1>第1部位、第2部位を特定する。 <2>各部位に含まれる粒子状の材料の組成をEPMA等の元素分析で特定し、金属とイオン伝導性を有する材料(一般に金属酸化物)とを判別する。 <3>各部位の二次元元素マッピング画像を取得し、イオン伝導性を有する材料のうち、各部位において最大の面積分率を有する材料の組成を同定する。 このとき、第1部位において同定した上記材料を第1材料とし、第2部位において同定した上記材料を第2材料とすることができます。」 オ 上記エの主張は、第1材料及び第2材料を特定する方法であるが、本件明細書に記載された事項に沿うものであって、何ら矛盾するものではない。 カ そうすると、上記エの手法により第1材料及び第2材料を特定し、上記ウの手法により第1材料及び第2材料の電子伝導性を評価することにより、上記アの「第1材料は、前記第2材料よりも高い電子伝導性を有」するか否かを判断することができる。 キ よって、請求項1、7及びそれらを引用する請求項2~5、8、9、11~15の記載は、特許を受けようとする発明が明確である。 (2)第1部位及び第2部位について(職権で通知) ア 本件訂正前の請求項6の「第1部位の厚みは、前記第2部位の厚みよりも小さい」との記載は不明瞭であったが、本件訂正により、請求項6が削除された。 イ よって、上記アの記載が不明瞭であるとの取消理由は解消された。 2 申立理由1及び取消理由1(サポート要件)について (1)第1電極層及び第2電極層について(申立理由1の(1)、取消理由1の(1)) ア 本件発明の課題について、本件明細書には、次の記載がある。なお、下線は当審で付した。 「【0050】 図3に示すように、燃料極層5は、第1部位5Aおよび第2部位5Bを有している。第1部位5Aは、支持基板2に接するように位置している。第2部位5Bは、第1部位5Aと固体電解質層6との間に位置している。燃料極層5の厚みは、たとえば、20μm以下であってもよい。第2部位5Bは、固体電解質層6に接するように位置していてもよい。」 「【0054】 第1部位5Aは、第1材料を含んでいる。第1部位5Aは、第2部位5Bよりも第1材料の含有率が大きくてもよい。第2部位5Bは、第1部位5Aよりも第2材料の含有率が大きくてもよい。第1部位5Aでは、第1材料の含有率が第2材料の含有率よりも大きくてもよい。第2部位5Bでは、第2材料の含有率が第1材料の含有率よりも大きくてもよい。ここで、第1材料および第2材料の含有率は、たとえば、EPMAを用いた元素分析により確認できる。具体的には、たとえば素子部3の積層方向の断面を鏡面研磨し、燃料極層5を厚さ方向に二等分し、支持基板2側を第1部位5Aとし、固体電解質層6側を第2部位5Bとする。第2部位5Bとした断面において所定の面積で、第1材料および第2材料をそれぞれ半定量分析することにより、それぞれの単位面積当たりの含有率を算出することができる。元素分析を行う面積は、たとえば第2部位5Bの厚さ以下の長さを一辺の長さとする四角形の面積としてもよい。なお、ここでいう第1材料の含有率とは、測定領域で検出される元素の合計質量に対する、第1材料を構成する主たる元素(例えばCe)の質量とする。」 「【0056】 このように、第1部位5Aが高い電子伝導性を有する第1材料を含むことにより、燃料極層5の電極活性および導電率を高めることができる。また、第1材料の含有率が、固体電解質層6の近傍より大きい、または第2材料の含有率よりも大きい第1部位5Aと、固体電解質層6との間に、第2部位5Bを有することにより、第1材料に由来する成分が固体電解質層6に拡散しにくくなり、固体電解質層6または固体電解質層6と燃料極層5との界面に低導電性の反応層が形成されにくくなる。その結果、固体電解質層6と燃料極層5との間で導電率が低下する不具合を低減することができる。このため、本実施形態に係るセル1によれば、発電性能を向上することができる。なお、固体電解質層6は、第1材料の構成成分、たとえば、Sm、GdおよびCeを含まなくてもよい。」 「【0059】 また、燃料極層5の固体電解質層6の反対側に位置する面を第1面とし、固体電解質層6に接する面を第2面としたとき、第1面近傍における第1材料の含有率は、第2面近傍における第1材料の含有率よりも大きくてもよい。第1面近傍とは、燃料極層5のうち固体電解質層6よりも第1面に近い領域であり、第2面近傍とは、燃料極層5のうち第1面よりも固体電解質層6に近い領域である。第1材料の含有率の平均値は、第1面から第2面にかけて漸減していてもよい。また、第2材料の含有率の平均値は、第2面から第1面にかけて漸減していてもよい。このように、高い電子伝導性を有する第1材料の含有率が、第1面近傍において第2面近傍より大きいことにより、燃料極層5の電極活性および導電率を高めることができる。また、第2面近傍に低導電率の反応層が形成されにくくすることができる。」 イ 上記アの【0059】に記載された実施態様における「燃料極層5」の「固体電解質層6に接する面を第2面としたとき」の「第2面近傍」(【0059】)とは、上記アの【0054】、【0056】に記載された実施態様では、「固体電解質層6または固体電解質層6と燃料極層5との界面」(【0056】)に相当する。 ウ そうすると、本件発明の解決しようとする課題は、「燃料極層5の電極活性および導電率を高めること」(【0056】、【0059】参照。以下、「第1の課題」という。)または「固体電解質層6または固体電解質層6と燃料極層5との界面に低導電性の反応層が形成されにくく」(【0056】参照。以下、「第2の課題」という。)することであると認められる。 エ そして、本件発明1は、上記第2で摘記したとおり、「第1材料は、前記第2材料よりも高い電子伝導性を有し、前記第1電極層は、前記第1材料を含む第1部位と、前記第2材料を含み前記第1部位と前記固体電解質層との間に位置する第2部位とを有し、前記第1電極層は、燃料極層であ」るとの発明特定事項を含み、「第1部位5Aが高い電子伝導性を有する第1材料を含むことにより、燃料極層5の電極活性および導電率を高めることができる」(上記アの【0056】参照。)ものであるから、上記ウの第1の課題を解決し得る発明を含むものである。 オ そうすると、本件発明1は、上記ウの課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲内のものであるから、発明の詳細な説明に記載されたものである。 カ また、本件発明7は、上記第2で摘記したとおり、「第1材料は、前記第2材料よりも高い電子伝導性を有し、前記第1面近傍の前記第1材料の含有率は、前記第2面近傍の前記第1材料の含有率より大きく」、「前記第1電極層は、燃料極層であ」るとの発明特定事項を含むものであり、「高い電子伝導性を有する第1材料の含有率が、第1面近傍において第2面近傍より大きいことにより、燃料極層5の電極活性および導電率を高めることができる」(上記アの【0059】参照。)ものであるから、上記ウの第1の課題を解決し得る発明を含むものである。 キ そうすると、本件発明7は、上記ウの課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲内のものであるから、発明の詳細な説明に記載されたものである。 ク よって、請求項1、7及びそれらを引用する請求項2~5、8~15に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものである。 (2)「第1材料」の特定について(申立理由1の(2)) ア 上記(1)で検討したとおり、請求項1、7及びそれらを引用する請求項2~5、8~15に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものである。 イ なお、申立人は特許異議申立書(以下、「申立書」という。)第19頁下から2行~第20頁第16行において、「第1材料」は、固体電解質層6または固体電解質層6と燃料極層5との界面に低導電性の反応層を形成する成分を含有する材料であることが必須であると主張している。 ウ しかしながら、本件発明1、7は、それぞれ上記(1)のエの発明特定事項、上記(1)のカの発明特定事項により、上記(1)のウの課題を解決し得るから、「第1材料」が、固体電解質層6または固体電解質層6と燃料極層5との界面に低導電性の反応層を形成する成分を含有する材料であることが必須であるとはいえず、申立人の上記イの主張は採用できない。 3 申立理由2及び取消理由2(明確性要件) (1)「第1部位」及び「第2部位」について(申立理由2の(1)、取消理由2の(1)) ア 請求項1には、「第1電極層は、前記第1材料を含む第1部位と、前記第2材料を含み前記第1部位と前記固体電解質層との間に位置する第2部位とを有する」と記載されている。 イ そして、上記アの記載は、「第1電極層」において、「第1材料を含む第1部位」及び「第2材料を含み前記第1部位と前記固体電解質層との間に位置する第2部位」が存在することを特定する記載である。 ウ しかしながら、上記アの記載から、「第2部位」が「第1部位と前記固体電解質層との間に位置する」ことは特定できるものの、「第1部位」及び「第2部位」の範囲を特定することはできない。 エ ここで、「第1部位」及び「第2部位」について、本件明細書には次の記載がある。 「【0050】 図3に示すように、燃料極層5は、第1部位5Aおよび第2部位5Bを有している。第1部位5Aは、支持基板2に接するように位置している。第2部位5Bは、第1部位5Aと固体電解質層6との間に位置している。燃料極層5の厚みは、たとえば、20μm以下であってもよい。第2部位5Bは、固体電解質層6に接するように位置していてもよい。」 「【0054】 第1部位5Aは、第1材料を含んでいる。第1部位5Aは、第2部位5Bよりも第1材料の含有率が大きくてもよい。第2部位5Bは、第1部位5Aよりも第2材料の含有率が大きくてもよい。第1部位5Aでは、第1材料の含有率が第2材料の含有率よりも大きくてもよい。第2部位5Bでは、第2材料の含有率が第1材料の含有率よりも大きくてもよい。ここで、第1材料および第2材料の含有率は、たとえば、EPMAを用いた元素分析により確認できる。具体的には、たとえば素子部3の積層方向の断面を鏡面研磨し、燃料極層5を厚さ方向に二等分し、支持基板2側を第1部位5Aとし、固体電解質層6側を第2部位5Bとする。第2部位5Bとした断面において所定の面積で、第1材料および第2材料をそれぞれ半定量分析することにより、それぞれの単位面積当たりの含有率を算出することができる。元素分析を行う面積は、たとえば第2部位5Bの厚さ以下の長さを一辺の長さとする四角形の面積としてもよい。なお、ここでいう第1材料の含有率とは、測定領域で検出される元素の合計質量に対する、第1材料を構成する主たる元素(例えばCe)の質量とする。」 オ 上記エの記載より、「第1部位」及び「第2部位」の範囲の特定方法について、次の(ア)の事項が記載されている。 (ア)「燃料極層5を厚さ方向に二等分し、支持基板2側を第1部位5Aとし、固体電解質層6側を第2部位5Bとする。」(【0054】) カ 上記オの(ア)の特定方法は、本件発明1において、「第1部位」及び「第2部位」が第1電極層におけるどの部位を指しているのかを明確に特定するものである。 キ よって、請求項1及びそれを引用する請求項2~5、10~15の記載は、特許を受けようとする発明が明確である。 (2)「第1面近傍」及び「第2面近傍」について(申立理由2の(2)) ア 請求項7には、「第1電極層は、前記固体電解質層の反対側に位置する第1面と、前記固体電解質層に接する第2面とを有し、前記第1材料は、前記第2材料よりも高い電子伝導性を有し、前記第1面近傍の前記第1材料の含有率は、前記第2面近傍の前記第1材料の含有率より大きく、前記第2面近傍には、前記第2材料が含まれており」と記載されている。 イ そして、上記アの「第1面近傍」及び「第2面近傍」について、本件明細書には次の記載がある。 「第1面近傍とは、燃料極層5のうち固体電解質層6よりも第1面に近い領域であり、第2面近傍とは、燃料極層5のうち第1面よりも固体電解質層6に近い領域である。」(【0059】) ウ 上記イの記載によれば、燃料極層5のうち第1面に近い領域が「第1面近傍」であり、第2面に近い領域が「第2面近傍」であると解されるから、「第1面近傍」及び「第2面近傍」は明確である。 エ よって、請求項7及びそれを引用する請求項8~15の記載は、特許を受けようとする発明が明確である。 オ なお、申立人は申立書第23頁下から10行~第24頁最下行において、上記イの記載によれば、「第1面近傍」及び「第2面近傍」とはいずれも燃料極層の全体となり得るから不明瞭である旨主張している。 カ しかしながら、上記イの記載からすると、上記オの解釈には無理があるし、また、上記オの解釈からすると、「第1面近傍」及び「第2面近傍」が同一の箇所となってしまうところ、請求項7の「第1面近傍の前記第1材料の含有率は、前記第2面近傍の前記第1材料の含有率より大きく、」との記載から、「第1面近傍」及び「第2面近傍」が同一の箇所であることはありえないから、上記オの解釈はあり得ない。 キ よって、申立人の上記オの主張は採用できない。 (3)第1材料及び第2材料の「電子伝導性」について(申立理由2の(3)、取消理由2の(2)) ア 請求項1、7には、「第1材料は、前記第2材料よりも高い電子伝導性を有し、」と記載されている。 イ ここで、上記アの「電子伝導性」の算出方法について、本件明細書には次の記載がある。 「【0051】 燃料極層5は、イオン伝導性を有する第1材料および第2材料を含む。第1材料は、第2材料よりも高い電子伝導性を有する。第1材料および第2材料の電子伝導性は、たとえば、第1材料の組成を有する矩形状の焼結体および第2材料の組成を有する矩形状の焼結体を作製し、各焼結体のイオン輸率と電気伝導度を測定することで、それぞれ評価することができる。」 ウ 上記イの記載では、「第1材料および第2材料の電子伝導性は、たとえば、第1材料の組成を有する矩形状の焼結体および第2材料の組成を有する矩形状の焼結体を作製し、各焼結体のイオン輸率と電気伝導度を測定することで、それぞれ評価することができる」とされている。 エ そして、一般に「電子伝導率」をσeとし、「電子輸率」をteとし、「電気伝導度」をσとしたとき、 σe=teσ の関係式が成立する。 また、「イオン輸率」をtiとしたとき、te+ti=1 の関係を有することから、 σe=(1-ti)σ となる。 オ すなわち、第1材料および第2材料の電子伝導性は、第1材料および第2材料の焼結体を用いて「焼結体のイオン輸率」と「電気伝導度」をそれぞれ測定し、測定された2つのパラメータを使って算出することができる。 カ よって、請求項1、7及びそれらを引用する請求項2~5、8~15の記載は、特許を受けようとする発明が明確である。 (4)第2材料の「イオン伝導性」について(申立理由2の(4)、取消理由2の(3)) ア 請求項1、7には、「イオン伝導性を有する第1材料および第2材料を含む第1電極層」と記載されており、当該記載からは、第2材料がイオン伝導性を有するか否かが一見不明確である。 イ 一方、特許権者が令和6年10月15日付けの意見書(5の(7)参照。)において、「イオン伝導性を有する」は「第1材料」及び「第2材料」の両方にかかっていますと主張している。 ウ そして、上記イの主張は、本件明細書の記載に沿うものであるし、何ら矛盾もない。 エ よって、請求項1、7及びそれらを引用する請求項2~5、8~15の記載は、特許を受けようとする発明が明確である。 (5)「第1材料の含有率」について(申立理由2の(5)) ア 請求項3には、「第2部位は、前記第2材料の含有率が前記第1材料の含有率よりも大きい」と記載されている。 イ そして、本件明細書には、「第2部位5Bでは、第2材料の含有率が第1材料の含有率よりも大きくてもよい」(【0054】)と記載されているから、上記アの「第1材料の含有率」が第2の部位における「第1材料の含有率」を意味していることは明らかである。 ウ よって、請求項3の記載は、特許を受けようとする発明が明確である。 (6)「第2材料の含有率」について(申立理由2の(6)) ア 請求項4には、「第1部位は、前記第1材料の含有率が前記第2材料の含有率よりも大きい」と記載されている。 イ そして、本件明細書には、「第1部位5Aでは、第1材料の含有率が第2材料の含有率よりも大きくてもよい」(【0054】)と記載されているから、上記アの「第2材料の含有率」が第1部位における「第2材料の含有率」を意味していることは明らかである。 ウ よって、請求項4の記載は、特許を受けようとする発明が明確である。 (7)「漸減」について(申立理由2の(7)) ア 請求項8には、「第1材料の含有率は、前記第1面から前記第2面にかけて漸減している」と記載されている。 イ ここで、一般に「漸減」とは、「しだいに減ること」(デジタル大辞泉(小学館))を意味する。 ウ そうすると、上記アの「第1面から前記第2面にかけて漸減している」とは、横ばいの有無にかかわらず、「第1面から前記第2面にかけて」、しだいに減っていることと解されるから、上記アの記載は明確である。 エ また、請求項9の「第2材料の含有率は、前記第2面から前記第1面にかけて漸減している」との記載についても同様である。 オ よって、請求項8、9の記載は、特許を受けようとする発明が明確である。 4 申立理由3及び取消理由3(甲1を主たる引例とした場合の新規性・進歩性) (1)甲1に記載された発明 ア 甲1(【0002】、【0030】~【0034】参照。)には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。 「電解質層112と、 電解質層112の上下方向の一方側に配置された燃料極(アノード)116と、 電解質層112の上下方向の他方側に配置された空気極(カソード)114と、 電解質層112と空気極114との間に配置された中間層180とを備える、固体酸化型燃料電池の単セル110であって、 電解質層112は、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、ScSZ(スカンジア安定化ジルコニア)の固体酸化物により形成されており、 空気極114は、空気極114における集電体190に対向する側の表面を構成する集電層210と、集電層210と電解質層112(および中間層180)との間に配置された活性層220とから構成されており、 活性層220は、LSCF(ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物)のペロブスカイト型酸化物とGDC(ガドリニウムドープセリア)とを含むように形成されており、 集電層210は、LSCFのペロブスカイト型酸化物を含むように形成されており、 集電層210の気孔率RO1は活性層220の気孔率RO2より高く、 燃料極116は、Niと酸化物イオン伝導性セラミックス粒子とからなるサーメットにより形成されている、 単セル110。」 (2)本件発明1について 本件発明1と甲1発明とを対比する。 ア 甲1発明の「燃料極(アノード)116」、「空気極(カソード)114」、「電解質層112」、「単セル110」は、それぞれ本件発明1の「燃料極層であ」る「第1電極層」、「空気極層である」「第2電極層」、「電解質層」、「電気化学セル」に相当する。 イ 甲1発明の「電解質層112と、電解質層112の上下方向の一方側に配置された燃料極(アノード)116と、電解質層112の上下方向の他方側に配置された空気極(カソード)114と」「を備える」事項は、本件発明1の「第1電極層と、第2電極層と、前記第1電極層と前記第2電極層との間に位置」する「固体電解質層とを備え、」「前記第1電極層は、燃料極層であり、前記第2電極層は、空気極層である」事項に相当する。 ウ 甲1発明の「燃料極116は、Niと酸化物イオン伝導性セラミックス粒子とからなるサーメットにより形成されている」事項と、本件発明1の「イオン伝導性を有する第1材料および第2材料を含む第1電極層」「を備え」る事項とは、「イオン伝導性を有する」材料を含む「第1電極層」「を備え」る事項で共通する。 エ 甲1発明の「電解質層112は、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、ScSZ(スカンジア安定化ジルコニア)の固体酸化物により形成されて」いる事項は、本件発明1の「固体電解質層」が「Zr(ジルコニウム)を含有する」事項に相当する。 オ 上記ア~エより、本件発明1と甲1発明とは、 「イオン伝導性を有する材料を含む第1電極層と、 第2電極層と、 前記第1電極層と前記第2電極層との間に位置し、Zr(ジルコニウム)を含有する固体電解質層と を備え、 前記第1電極層は、燃料極層であり、前記第2電極層は、空気極層である 電気化学セル。」で一致し、次の相違点で相違する。 (相違点1-1) 「第1電極層」に含まれる「イオン伝導性を有する」材料について、本件発明1は、「第1材料および第2材料」であって、「前記第1材料は、前記第2材料よりも高い電子伝導性を有し、前記第1電極層は、前記第1材料を含む第1部位と、前記第2材料を含み前記第1部位と前記固体電解質層との間に位置する第2部位とを有」するのに対し、甲1発明は、「酸化物イオン伝導性セラミックス粒子」以外のイオン伝導性を有する材料を含むか否か、また、その電子伝導性、材料の分布も不明である点。 カ 上記相違点1-1について検討する。 キ 甲1発明において、「燃料極116」におけるイオン伝導性材料は、「酸化物イオン伝導性セラミックス粒子」のみであるし、また、「燃料極116は、Niと酸化物イオン伝導性セラミックス粒子とからなるサーメットにより形成されている」ものであって、これらの材料に燃料極116内で分布をもたせるような記載はない。 ク したがって、上記相違点1-1は実質的な相違点である。 ケ 次に、上記相違点1-1の容易想到性について検討する。 コ 上記キのとおり、甲1発明の「燃料極116は、Niと酸化物イオン伝導性セラミックス粒子とからなるサーメットにより形成されている」ものであって、これらの材料に燃料極116内で分布をもたせるような記載はないところ、この「燃料極116」に、「酸化物イオン伝導性セラミックス粒子」以外のイオン伝導性を有する材料を含有させる動機がないし、また、その際に、2つのイオン伝導性材料について、電子伝導性や燃料極116内の分布を調整する動機もない。 サ したがって、甲1発明において、上記相違点1-1に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。 シ よって、本件発明1は、甲1発明であるとはいえないし、また、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 (3)本件発明2、4、5について ア 本件発明2、4、5は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであり、甲1発明とは少なくとも上記相違点1-1で相違するから、上記(2)で検討した理由と同様の理由により、本件発明2、4、5は、甲1発明であるとはいえないし、また、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 (4)本件発明7について 本件発明7と甲1発明とを対比する。 ア 甲1発明の「燃料極(アノード)116」、「空気極(カソード)114」、「電解質層112」、「単セル110」は、それぞれ本件発明7の「燃料極層であ」る「第1電極層」、「空気極層である」「第2電極層」、「電解質層」、「電気化学セル」に相当する。 イ 甲1発明の「電解質層112と、電解質層112の上下方向の一方側に配置された燃料極(アノード)116と、電解質層112の上下方向の他方側に配置された空気極(カソード)114と」「を備える」事項は、本件発明7の「第1電極層と、第2電極層と、前記第1電極層と前記第2電極層との間に位置」する「固体電解質層とを備え、」「前記第1電極層は、燃料極層であり、前記第2電極層は、空気極層である」事項に相当する。 ウ 甲1発明の「燃料極116は、Niと酸化物イオン伝導性セラミックス粒子とからなるサーメットにより形成されている」事項と、本件発明7の「イオン伝導性を有する第1材料および第2材料を含む第1電極層」「を備え」る事項とは、「イオン伝導性を有する」材料を含む「第1電極層」「を備え」る事項で共通する。 エ 甲1発明の「電解質層112は、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、ScSZ(スカンジア安定化ジルコニア)の固体酸化物により形成されて」いる事項は、本件発明7の「固体電解質層」が「Zr(ジルコニウム)を含有する」事項に相当する。 オ 甲1の図4より、電解質112と燃料極116とが接していることが看取できるから、甲1発明は、本件発明7の「第1電極層は、前記固体電解質層の反対側に位置する第1面と、前記固体電解質層に接する第2面とを有」する事項を含むものである。 カ 上記ア~オより、本件発明7と甲1発明とは、 「イオン伝導性を有する材料を含む第1電極層と、 第2電極層と、 前記第1電極層と前記第2電極層との間に位置し、Zr(ジルコニウム)を含有する固体電解質層と を備え、 前記第1電極層は、前記固体電解質層の反対側に位置する第1面と、前記固体電解質層に接する第2面とを有し、 前記第1電極層は、燃料極層であり、前記第2電極層は、空気極層である 電気化学セル。」で一致し、次の相違点で相違する。 (相違点1-2) 「第1電極層」に含まれる「イオン伝導性を有する」材料について、本件発明7は、「第1材料および第2材料」であって、「前記第1材料は、前記第2材料よりも高い電子伝導性を有し、前記第1面近傍の前記第1材料の含有率は、前記第2面近傍の前記第1材料の含有率より大きく、 前記第2面近傍には、前記第2材料が含まれて」いるのに対し、甲1発明は、「酸化物イオン伝導性セラミックス粒子」以外のイオン伝導性を有する材料を含むか否か、また、その電子伝導性、材料の分布も不明である点。 キ 上記相違点1-2について検討する。 ク 甲1発明において、「燃料極116」におけるイオン伝導性材料は、「酸化物イオン伝導性セラミックス粒子」のみであるし、また、「燃料極116は、Niと酸化物イオン伝導性セラミックス粒子とからなるサーメットにより形成されている」ものであって、これらの材料に燃料極116内で分布をもたせるような記載はない。 ケ したがって、上記相違点1-2は実質的な相違点である。 コ 次に、上記相違点1-2の容易想到性について検討する。 サ 上記クのとおり、甲1発明の「燃料極116は、Niと酸化物イオン伝導性セラミックス粒子とからなるサーメットにより形成されている」ものであって、これらの材料に燃料極116内で分布をもたせるような記載はないところ、この「燃料極116」に、「酸化物イオン伝導性セラミックス粒子」以外のイオン伝導性を有する材料を含有させる動機がないし、また、その際に、2つのイオン伝導性材料について、電子伝導性や燃料極116内の分布を調整する動機もない。 シ したがって、甲1発明において、上記相違点1-2に係る本件発明7の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。 ス よって、本件発明7は、甲1発明であるとはいえないし、また、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 (5)本件発明8、9について ア 本件発明8、9は、本件発明7の発明特定事項を全て含むものであり、甲1発明とは少なくとも上記相違点1-2で相違するから、上記(4)で検討した理由と同様の理由により、甲1発明であるとはいえない。 (6)本件発明13について ア 本件発明13は、本件発明1または本件発明7の発明特定事項を全て含むものであり、甲1発明とは少なくとも上記相違点1-1または相違点1-2で相違するから、上記(2)または(4)で検討した理由と同様の理由により、甲1発明であるとはいえないし、また、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 (7)本件発明14、15について ア 本件発明14、15は、本件発明1または本件発明7の発明特定事項を全て含むものであり、甲1発明とは少なくとも上記相違点1-1または相違点1-2で相違するから、上記(2)または(4)で検討した理由と同様の理由により、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 5 申立理由4及び取消理由4(甲2を主たる引例とした場合の新規性・進歩性) (1)甲2に記載された発明 ア 甲2の実験例に注目すると、甲2(【0048】~【0056】参照。)には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されている。 「アノード、固体電解質層、中間層、接合層、および、カソードがこの順に積層されて互いに接合されている燃料電池単セルであって、 NiO粉末と、8YSZ粉末と、カーボン(造孔剤)と、ポリビニルブチラール(有機材料)と、酢酸イソアミル、2-ブタノールおよびエタノール(混合溶媒)とをボールミルにて混合することによりスラリーを調製し(NiO粉末と8YSZ粉末の質量比は、60:40とした。)、上記スラリーを、ドクターブレード法を用いて、プラスチック基材上に層状に塗工し、乾燥させることにより、アノード形成用シートを準備し、 8mol%のY2O3を含むイットリア安定化ジルコニア粉末と、ポリビニルブチラール(有機材料)と、酢酸イソアミル、2-ブタノールおよびエタノール(混合溶媒)とをボールミルにて混合することによりスラリーを調製し、このスラリーを、プラスチック基材上に層状に塗工し、乾燥させることにより、固体電解質層形成用シートを準備し、 10mol%のGdがドープされたセリア粉末と、ポリビニルブチラール(有機材料)と、酢酸イソアミル、2-ブタノールおよびエタノール(混合溶媒)とをボールミルにて混合することによりスラリーを調製し、このスラリーを、プラスチック基材上に層状に塗工し、乾燥させることにより、中間層形成用シートを準備し、 La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8O3粉末と、10GDC粉末と、エチルセルロース(有機材料)と、テルピネオール(溶媒)とをボールミルにて混合することにより、接合層形成用ペーストを準備し、 LSCF粉末と、エチルセルロース(有機材料)と、テルピネオール(溶媒)とをボールミルにて混合することにより、カソード形成用ペーストを準備し、 アノード形成用シート、固体電解質層形成用シート、および、中間層形成用シートをこの順に積層し、積層体を得て、 上記積層体を焼成し、アノード、固体電解質層、および、中間層がこの順に積層された焼結体を得て、 次いで、上記焼結体における中間層の表面に、接合層形成用ペーストを塗布し、焼付けすることによって接合層を形成し、 次いで、上記焼結体における接合層の表面に、カソード形成用ペーストを塗布し、焼付けすることによって層状のカソードを形成した、燃料電池単セル。」 (2)本件発明1について 本件発明1と甲2発明とを対比する。 ア 甲2発明の「アノード」、「カソード」、「固体電解質層」、「燃料電池単セル」は、それぞれ本件発明1の「燃料極層であ」る「第1電極層」、「空気極層である」「第2電極層」、「電解質層」、「電気化学セル」に相当する。 イ 甲2発明の「アノード、固体電解質層、中間層、接合層、および、カソードがこの順に積層されて互いに接合されている」事項は、本件発明1の「第1電極層と、第2電極層と、前記第1電極層と前記第2電極層との間に位置」する「固体電解質層とを備え、」「前記第1電極層は、燃料極層であり、前記第2電極層は、空気極層である」事項に相当する。 ウ 技術常識に照らせば、甲2発明の「8YSZ粉末」は、イオン伝導性を有する材料であるから、甲2発明の「NiO粉末と、8YSZ粉末と、カーボン(造孔剤)と、ポリビニルブチラール(有機材料)と、酢酸イソアミル、2-ブタノールおよびエタノール(混合溶媒)とをボールミルにて混合することによりスラリーを調製し(NiO粉末と8YSZ粉末の質量比は、60:40とした。)、上記スラリーを、ドクターブレード法を用いて、プラスチック基材上に層状に塗工し、乾燥させることにより、アノード形成用シートを準備し、」「アノード形成用シート、固体電解質層形成用シート、および、中間層形成用シートをこの順に積層し、積層体を得て、上記積層体を焼成し、アノード、固体電解質層、および、中間層がこの順に積層された焼結体を得」る事項と、本件発明1の「イオン伝導性を有する第1材料および第2材料を含む第1電極層」「を備え」る事項とは、「イオン伝導性を有する」材料を含む「第1電極層」「を備え」る事項で共通する。 エ 甲2発明の「固体電解質層形成用シートを準備」する工程は、「8mol%のY2O3を含むイットリア安定化ジルコニア粉末」を含む「スラリーを調製し、このスラリーを、プラスチック基材上に層状に塗工し、乾燥させる」工程であるから、甲2発明は、本件発明1の「固体電解質層」が「Zr(ジルコニウム)を含有する」事項を含むものである。 オ 上記ア~エより、本件発明1と甲2発明とは、 「イオン伝導性を有する材料を含む第1電極層と、 第2電極層と、 前記第1電極層と前記第2電極層との間に位置し、Zr(ジルコニウム)を含有する固体電解質層と を備え、 前記第1電極層は、燃料極層であり、前記第2電極層は、空気極層である 電気化学セル。」で一致し、次の相違点で相違する。 (相違点2-1) 「第1電極層」に含まれる「イオン伝導性を有する」材料について、本件発明1は、「第1材料および第2材料」であって、「前記第1材料は、前記第2材料よりも高い電子伝導性を有し、前記第1電極層は、前記第1材料を含む第1部位と、前記第2材料を含み前記第1部位と前記固体電解質層との間に位置する第2部位とを有」するのに対し、甲2発明は、「8YSZ」以外のイオン伝導性を有する材料を含むか否か、また、その電子伝導性、材料の分布も不明である点。 カ 上記相違点2-1について検討する。 キ 甲2発明において、「NiO粉末と、8YSZ粉末と、カーボン(造孔剤)と、ポリビニルブチラール(有機材料)と、酢酸イソアミル、2-ブタノールおよびエタノール(混合溶媒)とをボールミルにて混合することによりスラリーを調製し(NiO粉末と8YSZ粉末の質量比は、60:40とした。)、上記スラリーを、ドクターブレード法を用いて、プラスチック基材上に層状に塗工し、乾燥させることにより、アノード形成用シートを準備」するものであり、「アノード形成用シート」に含まれるイオン伝導性材料は「8YSZ粉末」のみであるし、イオン伝導性材料にアノード内で分布をもたせるような記載はない。 ク したがって、上記相違点2-1は実質的な相違点である。 ケ 次に、上記相違点2-1の容易想到性について検討する。 コ 上記キのとおり、甲2発明の「アノード形成用シート」に含まれるイオン伝導性材料は「8YSZ粉末」のみであるし、イオン伝導性材料にアノード内で分布をもたせるような記載はないところ、この「アノード」に、「8YSZ粉末」以外のイオン伝導性を有する材料を含有させる動機がないし、また、その際に、2つの材料の電子伝導性やアノード内の分布を調整する動機もない。 サ さらに、甲2には、アノードを「複数層から構成」(【0015】)することが記載されているが、仮に、甲2発明において、この点を採用してアノードを複数層にすることができたとしても、「8YSZ粉末」以外のイオン伝導性材料を添加し、それらの材料の電子伝導性やアノード内の分布を調整する動機もない。 シ したがって、甲2発明において、上記相違点2-1に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。 ス よって、本件発明1は、甲2発明であるとはいえないし、甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 (3)本件発明2、4について ア 本件発明2、4は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであり、甲2発明とは少なくとも上記相違点2-1で相違するから、上記(2)で検討した理由と同様の理由により、甲2発明であるとはいえないし、また、甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 (4)本件発明3について ア 本件発明3は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであり、甲2発明とは少なくとも上記相違点2-1で相違するから、上記(2)で検討した理由と同様の理由により、甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (5)本件発明7について 本件発明7と甲2発明とを対比する。 ア 甲2発明の「アノード」、「カソード」、「固体電解質層」、「燃料電池単セル」は、それぞれ本件発明7の「燃料極層であ」る「第1電極層」、「空気極層である」「第2電極層」、「電解質層」、「電気化学セル」に相当する。 イ 甲2発明の「アノード、固体電解質層、中間層、接合層、および、カソードがこの順に積層されて互いに接合されている」事項は、本件発明7の「第1電極層と、第2電極層と、前記第1電極層と前記第2電極層との間に位置」する「固体電解質層とを備え、」「前記第1電極層は、燃料極層であり、前記第2電極層は、空気極層である」事項に相当する。 ウ 技術常識に照らせば、甲2発明の「8YSZ粉末」は、イオン伝導性を有する材料であるから、甲2発明の「NiO粉末と、8YSZ粉末と、カーボン(造孔剤)と、ポリビニルブチラール(有機材料)と、酢酸イソアミル、2-ブタノールおよびエタノール(混合溶媒)とをボールミルにて混合することによりスラリーを調製し(NiO粉末と8YSZ粉末の質量比は、60:40とした。)、上記スラリーを、ドクターブレード法を用いて、プラスチック基材上に層状に塗工し、乾燥させることにより、アノード形成用シートを準備し、」「アノード形成用シート、固体電解質層形成用シート、および、中間層形成用シートをこの順に積層し、積層体を得て、上記積層体を焼成し、アノード、固体電解質層、および、中間層がこの順に積層された焼結体を得」る事項と、本件発明7の「イオン伝導性を有する第1材料および第2材料を含む第1電極層」「を備え」る事項とは、「イオン伝導性を有する」材料を含む「第1電極層」「を備え」る事項で共通する。 エ 甲2発明の「固体電解質層形成用シートを準備」する工程は、「8mol%のY2O3を含むイットリア安定化ジルコニア粉末」を含む「スラリーを調製し、このスラリーを、プラスチック基材上に層状に塗工し、乾燥させる」ものであるから、甲2発明は、本件発明7の「固体電解質層」が「Zr(ジルコニウム)を含有する」事項を含むものである。 オ 甲2発明は、「アノード形成用シート、固体電解質層形成用シート、および、中間層形成用シートをこの順に積層し、積層体を得」るものであるから、本件発明7の「第1電極層は、前記固体電解質層の反対側に位置する第1面と、前記固体電解質層に接する第2面とを有」する事項を含むものである。 カ 上記ア~オより、本件発明7と甲2発明とは、 「イオン伝導性を有する材料を含む第1電極層と、 第2電極層と、 前記第1電極層と前記第2電極層との間に位置し、Zr(ジルコニウム)を含有する固体電解質層と を備え、 前記第1電極層は、前記固体電解質層の反対側に位置する第1面と、前記固体電解質層に接する第2面とを有し、 前記第1電極層は、燃料極層であり、前記第2電極層は、空気極層である 電気化学セル。」で一致し、次の相違点で相違する。 (相違点2-2) 「第1電極層」に含まれる「イオン伝導性を有する」材料について、本件発明7は、「第1材料および第2材料」であって、「前記第1材料は、前記第2材料よりも高い電子伝導性を有し、前記第1面近傍の前記第1材料の含有率は、前記第2面近傍の前記第1材料の含有率より大きく、前記第2面近傍には、前記第2材料が含まれて」いるのに対し、甲2発明は、「8YSZ」以外のイオン伝導性を有する材料を含むか否か、また、その電子伝導性、材料の分布も不明である点。 キ 上記相違点2-2について検討する。 ク 甲2発明は、「NiO粉末と、8YSZ粉末と、カーボン(造孔剤)と、ポリビニルブチラール(有機材料)と、酢酸イソアミル、2-ブタノールおよびエタノール(混合溶媒)とをボールミルにて混合することによりスラリーを調製し(NiO粉末と8YSZ粉末の質量比は、60:40とした。)、上記スラリーを、ドクターブレード法を用いて、プラスチック基材上に層状に塗工し、乾燥させることにより、アノード形成用シートを準備」するものであり、「アノード形成用シート」に含まれるイオン伝導性材料は「8YSZ粉末」のみであるし、イオン伝導性材料にアノード内で分布をもたせるような記載はない。 ケ そして、甲2発明において、その「アノード」に、「8YSZ粉末」以外のイオン伝導性を有する材料を含有させる動機がないし、また、その際に、2つの材料の電子伝導性やアノード内の分布を調整する動機もない。 コ さらに、甲2には、アノードを「複数層から構成」(【0015】)することが記載されているが、仮に、甲2発明において、この点を採用してアノードを複数層にすることができたとしても、「8YSZ粉末」以外のイオン伝導性材料を添加し、それらの材料の電子伝導性やアノード内の分布を調整する動機もない。 サ したがって、甲2発明において、上記相違点2-2に係る本件発明7の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。 シ よって、本件発明7は、甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (6)本件発明8、9について ア 本件発明8、9は、本件発明7の発明特定事項を全て含むものであり、甲2発明とは少なくとも上記相違点2-2で相違するから、上記(5)で検討した理由と同様の理由により、甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (7)本件発明13~15について ア 本件発明13~15は、本件発明1または本件発明7の発明特定事項を全て含むものであり、甲2発明とは少なくとも上記相違点2-1または相違点2-2で相違するから、上記(2)または(5)で検討した理由と同様の理由により、甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 6 申立理由5及び取消理由5(甲3を主たる引例とした場合の新規性・進歩性) (1)甲3に記載された発明 ア 甲3の【0060】に記載された「SOFC」は、ハーフセルの電解質層の表面に、カソード活性層用グリーン層及びカソード集電体用グリーン層を形成した後、焼成したものであるから、単セルであるといえる。 イ そうすると、甲3の実施例1に注目すると、甲3(【0050】~【0060】参照。)には、次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されている。 「導電成分としての酸化ニッケル60質量部、骨格成分としての3モル%イットリア安定化ジルコニア粉末40質量部、空孔形成剤としてのカーボンブラック10質量部、メタクリレート系共重合体からなるバインダー30質量部、可塑剤としてジブチルフタレート2質量部、及び分散媒としてトルエン/イソプロピルアルコール(質量比=3/2)の混合溶剤80質量部を、ボールミルにより混合して、スラリーを調製し、得られたスラリーを使用し、ドクターブレード法によりシート成形し、乾燥させて、厚さ300μmのアノード支持基板グリーンシートを作製し、 導電成分としての酸化ニッケル36質量部、骨格成分としての8モル%イットリア安定化ジルコニア粉末24質量部、気孔形成剤としてのカーボンブラック2質量部、溶剤としてのα-テルピネオール36質量部、バインダーとしてのエチルセルロース4質量部、可塑剤としてのジブチルフタレート6質量部、及び分散剤としてのソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤4質量部を、乳鉢を用いて混合した後、3本ロールミルを用いて解砕し、アノード層用ペーストを作製し、 セラミックス質としての8モル%イットリア安定化ジルコニア粉末、バインダーとしてエチルセルロース、溶剤としてα-テルピネオール、可塑剤としてジブチルフタレート、及び分散剤としてソルビタン酸エステル系界面活性剤を混合した後、解砕し、電解質層用ペーストを作製し、 アノード層用ペーストをスクリーン印刷により、上記で得たアノード支持基板グリーンシートに、厚さ20μmとなるように印刷し、乾燥させ、アノード層用グリーン層を形成し、 電解質層用ペーストをアノード層用グリーン層上に印刷し、乾燥させ、焼成してハーフセルを得て、 ハーフセルの電解質層の表面に、カソード活性層用のペーストを塗布し、乾燥させ、カソード活性層用グリーン層を形成し、 その後、カソード活性層用グリーン層上に、カソード集電層用のペーストを塗布し、乾燥させ、カソード集電層用グリーン層を形成し、 その後、積層された2層のグリーン層を焼成して得た、 SOFC。」 (2)本件発明1について ア 甲3発明の「アノード支持基板」及び「アノード層」からなる層、「カソード集電層」及び「カソード活性層」からなる層は、本件発明1の「燃料極層であ」る「第1電極層」、「空気極層である」「第2電極層」に、それぞれ相当する。 また、甲3発明の「SOFC」は、「電解質層用ペーストをアノード層用グリーン層上に印刷し、乾燥させ、焼成してハーフセルを得て、ハーフセルの電解質層の表面に、カソード活性層用のペーストを塗布し、乾燥させ、カソード活性層用グリーン層を形成し、その後、カソード活性層用グリーン層上に、カソード集電層用のペーストを塗布し、乾燥させ、カソード集電層用グリーン層を形成し、その後、積層された2層のグリーン層を焼成して得た」ものであって、単セル状のものであるから、本件発明1の「電気化学セル」に相当する。 イ 甲3発明の「アノード層用ペーストをスクリーン印刷により、上記で得たアノード支持基板グリーンシートに、厚さ20μmとなるように印刷し、乾燥させ、アノード層用グリーン層を形成し、電解質層用ペーストをアノード層用グリーン層上に印刷し、乾燥させ、焼成してハーフセルを得て、ハーフセルの電解質層の表面に、カソード活性層用のペーストを塗布し、乾燥させ、カソード活性層用グリーン層を形成し、その後、カソード活性層用グリーン層上に、カソード集電層用のペーストを塗布し、乾燥させ、カソード集電層用グリーン層を形成し、その後、積層された2層のグリーン層を焼成して得た」事項は、本件発明1の「第1電極層と、第2電極層と、前記第1電極層と前記第2電極層との間に位置」する「固体電解質層とを備え」る事項に相当する。 ウ 甲3発明は、「電解質層用ペーストをアノード層用グリーン層上に印刷し、乾燥させ、焼成してハーフセルを得」るものであるから、その「電解質層」は固体であるといえる。 また、甲3発明の「電解質層用ペースト」は、「8モル%イットリア安定化ジルコニア粉末」を含むものである。 そうすると、甲3発明は、本件発明1の「固体電解質層」が「Zr(ジルコニウム)を含有する」事項を含むものである。 エ 上記3の(1)のオによれば、「第1部位」及び「第2部位」の範囲の特定方法は、「燃料極層5を厚さ方向に二等分し、支持基板2側を第1部位5Aとし、固体電解質層6側を第2部位5Bとする」ものであり、甲3発明において、「アノード支持基板グリーンシート」が「厚さ300μm」であり、「アノード層用グリーン層」は「厚さ20μm」であるから、「アノード支持基板グリーンシート」の「アノード層用グリーン層」側の厚さ140μm部分及び「アノード層用グリーン層」の厚さ20μm部分を焼成して得た部位(以下、両者を合わせて「甲3第2部位」という。)が本件発明1の「第2部位」に相当し、「アノード支持基板グリーンシート」の残りの厚さ160μm部分を焼成して得た部位(以下、「甲3第1部位」という。)が本件発明1の「第1部位」に相当する。 また、甲3発明において、「アノード支持基板」はその材料として「酸化ニッケル60質量部」及び「3モル%イットリア安定化ジルコニア」「40質量部」を含み、「アノード層」はその材料として「酸化ニッケル36質量部」及び「8モル%イットリア安定化ジルコニア24質量部」を含む。 さらに、上記1の(1)のエによれば、第1材料及び第2材料の特定方法は、各部位の二次元元素マッピング画像を取得し、イオン伝導性を有する材料のうち、各部位において最大の面積分率を有する材料の組成を同定し、第1部位において同定した上記材料を第1材料とし、第2部位において同定した上記材料を第2材料とするものである。 そうすると、甲3第1部位及び甲3第2部位における、「アノード支持基板グリーンシート」及び「アノード層用グリーン層」の厚さ、並びに、混合された材料の割合を考慮しながら、上記特定方法により第1材料及び第2材料を特定すると、甲3第1部位及び甲3第2部位ともに、「3モル%イットリア安定化ジルコニア」が最大の面積分率であると考えられるから、甲3発明における「3モル%イットリア安定化ジルコニア」が、本件発明1における「第1材料」及び「第2材料」に相当する。 したがって、甲3発明は、「導電成分としての酸化ニッケル60質量部、骨格成分としての3モル%イットリア安定化ジルコニア粉末40質量部、空孔形成剤としてのカーボンブラック10質量部、メタクリレート系共重合体からなるバインダー30質量部、可塑剤としてジブチルフタレート2質量部、及び分散媒としてトルエン/イソプロピルアルコール(質量比=3/2)の混合溶剤80質量部を、ボールミルにより混合して、スラリーを調製し、得られたスラリーを使用し、ドクターブレード法によりシート成形し、乾燥させて、厚さ300μmのアノード支持基板グリーンシートを作製し、導電成分としての酸化ニッケル36質量部、骨格成分としての8モル%イットリア安定化ジルコニア粉末24質量部、気孔形成剤としてのカーボンブラック2質量部、溶剤としてのα-テルピネオール36質量部、バインダーとしてのエチルセルロース4質量部、可塑剤としてのジブチルフタレート6質量部、及び分散剤としてのソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤4質量部を、乳鉢を用いて混合した後、3本ロールミルを用いて解砕し、アノード層用ペーストを作製し、」「アノード層用ペーストをスクリーン印刷により、上記で得たアノード支持基板グリーンシートに、厚さ20μmとなるように印刷し、乾燥させ、アノード層用グリーン層を形成し、電解質層用ペーストをアノード層用グリーン層上に印刷し、乾燥させ、焼成してハーフセルを得」るものであるから、本件発明1の「イオン伝導性を有する第1材料および第2材料を含む第1電極層」を備え、「第1電極層は、前記第1材料を含む第1部位と、前記第2材料を含み前記第1部位と前記固体電解質層との間に位置する第2部位とを有」する事項を含むものである。 オ 上記ア~エより、本件発明1と甲3発明とは、 「イオン伝導性を有する第1材料および第2材料を含む第1電極層と、 第2電極層と、 前記第1電極層と前記第2電極層との間に位置し、Zr(ジルコニウム)を含有する固体電解質層と を備え、 前記第1電極層は、前記第1材料を含む第1部位と、前記第2材料を含み前記第1部位と前記固体電解質層との間に位置する第2部位とを有し、 前記第1電極層は、燃料極層であり、前記第2電極層は、空気極層である 電気化学セル。」で一致し、次の相違点で相違する。 (相違点3-1) 本件発明1が、「第1材料は、前記第2材料よりも高い電子伝導性を有」するのに対し、甲3発明は、これらの材料がいずれも「3モル%イットリア安定化ジルコニア」であって、同じ電子伝導性である点。 カ 上記相違点3-1について検討する。 キ 上記エより、甲3発明における「3モル%イットリア安定化ジルコニア」が、本件発明1における「第1材料」及び「第2材料」に相当するから、上記相違点3-1は実質的な相違点である。 ク 次に、上記相違点3-1の容易想到性について検討する。 ケ 本件発明1は、「第1材料は、前記第2材料よりも高い電子伝導性を有し、前記第1電極層は、前記第1材料を含む第1部位と、前記第2材料を含み前記第1部位と前記固体電解質層との間に位置する第2部位とを有」するものであり、第1電極層において、固体電解質側に電子伝導性の低い材料を含むものである。 コ ここで、次の参考文献(特に、Fig.9参照。)によれば、「8モル%イットリア安定化ジルコニア」は「3モル%イットリア安定化ジルコニア」よりも電子伝導性が高いと考えられる。 (参考文献) 小林俊介,「イットリア安定化ジルコニア単結晶のイオン伝導」,窯業協会誌,1981,89,[1],p14~22(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcersj1950/89/1025/89_1025_14/_pdf) サ 上記コを考慮すると、甲3発明は、イオン伝導性材料について、甲3第1部位には、「3モル%イットリア安定化ジルコニア」のみが存在するのに対し、甲3第2部位には、「3モル%イットリア安定化ジルコニア」に加えて、より高い電子伝導率の材料である「8モル%イットリア安定化ジルコニア」も存在する。 シ 上記ケ、サからすると、本件発明1は、固体電解質側に電子伝導性の低い材料を含むのに対し、甲3発明は、固体電解質側(甲3第2部位)に電子伝導性の高い材料を含むものであるところ、これらの電子伝導性の高低を逆にする動機がない。 ス したがって、甲3発明において、上記相違点3-1に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。 セ よって、本件発明1は、甲3発明であるとはいえないし、また、甲3発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 (3)本件発明2~4、6について ア 本件発明2~4、6は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであり、甲3発明とは少なくとも上記相違点3-1で相違するから、上記(2)で検討した理由と同様の理由により、甲3発明であるとはいえないし、また、甲3発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 (4)本件発明7について ア 甲3発明の「アノード支持基板」及び「アノード層」からなる層、「カソード集電層」及び「カソード活性層」からなる層は、本件発明7の「燃料極層であ」る「第1電極層」、「空気極層である」「第2電極層」に、それぞれ相当する。 また、甲3発明の「SOFC」は、「電解質層用ペーストをアノード層用グリーン層上に印刷し、乾燥させ、焼成してハーフセルを得て、ハーフセルの電解質層の表面に、カソード活性層用のペーストを塗布し、乾燥させ、カソード活性層用グリーン層を形成し、その後、カソード活性層用グリーン層上に、カソード集電層用のペーストを塗布し、乾燥させ、カソード集電層用グリーン層を形成し、その後、積層された2層のグリーン層を焼成して得た」ものであって、単セル状のものであるから、本件発明7の「電気化学セル」に相当する。 イ 甲3発明の「アノード層用ペーストをスクリーン印刷により、上記で得たアノード支持基板グリーンシートに、厚さ20μmとなるように印刷し、乾燥させ、アノード層用グリーン層を形成し、電解質層用ペーストをアノード層用グリーン層上に印刷し、乾燥させ、焼成してハーフセルを得て、ハーフセルの電解質層の表面に、カソード活性層用のペーストを塗布し、乾燥させ、カソード活性層用グリーン層を形成し、その後、カソード活性層用グリーン層上に、カソード集電層用のペーストを塗布し、乾燥させ、カソード集電層用グリーン層を形成し、その後、積層された2層のグリーン層を焼成して得た」事項は、本件発明7の「第1電極層と、第2電極層と、前記第1電極層と前記第2電極層との間に位置」する「固体電解質層とを備え」る事項に相当する。 ウ 甲3発明は、「電解質層用ペーストをアノード層用グリーン層上に印刷し、乾燥させ、焼成してハーフセルを得」るものであるから、その「電解質層」は固体であるといえる。 また、甲3発明の「電解質層用ペースト」は、「8モル%イットリア安定化ジルコニア粉末」を含むものである。 そうすると、甲3発明は、本件発明7の「固体電解質層」が「Zr(ジルコニウム)を含有する」事項を含むものである。 エ 甲3発明は、「電解質層用ペーストをアノード層用グリーン層上に印刷し、乾燥させ、焼成してハーフセルを得」るものであるから、甲3発明の「アノード支持基板」及び「アノード層」には、「電解質層」と接する面が存在する。 また、甲3発明の「アノード支持基板」及び「アノード層」には、「電解質層」と反対側に位置する面が存在することは明らかである。 そうすると、甲3発明は、本件発明7の「第1電極層は、前記固体電解質層の反対側に位置する第1面と、前記固体電解質層に接する第2面とを有」する事項を含むものである。 オ 上記3の(2)のイによれば、「第1面近傍」及び「第2面近傍」の範囲は、「第1面近傍とは、燃料極層5のうち固体電解質層6よりも第1面に近い領域であり、第2面近傍とは、燃料極層5のうち第1面よりも固体電解質層6に近い領域であ」り、甲3発明において、「アノード支持基板グリーンシート」が「厚さ300μm」であり、「アノード層用グリーン層」は「厚さ20μm」であるから、「アノード支持基板グリーンシート」の「アノード層用グリーン層」側の厚さ140μm部分及び「アノード層用グリーン層」の厚さ20μm部分を焼成して得た部位(以下、両者を合わせて「甲3第2面近傍」という。)が本件発明7の「第2面近傍」に相当し、「アノード支持基板グリーンシート」の残りの厚さ160μm部分を焼成して得た部位(以下、「甲3第1面近傍」という。)が本件発明7の「第1面近傍」に相当する。 また、甲3発明において、「アノード支持基板」は「酸化ニッケル60質量部」及び「3モル%イットリア安定化ジルコニア」「40質量部」を含み、「アノード層」は「酸化ニッケル36質量部」及び「8モル%イットリア安定化ジルコニア24質量部」を含む。 さらに、上記1の(1)のエによれば、第1材料及び第2材料の特定方法は、各部位の二次元元素マッピング画像を取得し、イオン伝導性を有する材料のうち、各部位において最大の面積分率を有する材料の組成を同定する。 そうすると、甲3第1面近傍及び甲3第2面近傍における、「アノード支持基板グリーンシート」及び「アノード層用グリーン層」の厚さ、並びに、混合された材料の割合を考慮しながら、上記特定方法により第1材料及び第2材料を特定すると、甲3第1面近傍及び甲3第2面近傍ともに、「3モル%イットリア安定化ジルコニア」が最大の面積分率であると考えられるから、甲3発明における「3モル%イットリア安定化ジルコニア」が、本件発明7における「第1材料」及び「第2材料」に相当する。 したがって、甲3発明は、「導電成分としての酸化ニッケル60質量部、骨格成分としての3モル%イットリア安定化ジルコニア粉末40質量部、空孔形成剤としてのカーボンブラック10質量部、メタクリレート系共重合体からなるバインダー30質量部、可塑剤としてジブチルフタレート2質量部、及び分散媒としてトルエン/イソプロピルアルコール(質量比=3/2)の混合溶剤80質量部を、ボールミルにより混合して、スラリーを調製し、得られたスラリーを使用し、ドクターブレード法によりシート成形し、乾燥させて、厚さ300μmのアノード支持基板グリーンシートを作製し、導電成分としての酸化ニッケル36質量部、骨格成分としての8モル%イットリア安定化ジルコニア粉末24質量部、気孔形成剤としてのカーボンブラック2質量部、溶剤としてのα-テルピネオール36質量部、バインダーとしてのエチルセルロース4質量部、可塑剤としてのジブチルフタレート6質量部、及び分散剤としてのソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤4質量部を、乳鉢を用いて混合した後、3本ロールミルを用いて解砕し、アノード層用ペーストを作製し、」「アノード層用ペーストをスクリーン印刷により、上記で得たアノード支持基板グリーンシートに、厚さ20μmとなるように印刷し、乾燥させ、アノード層用グリーン層を形成し、電解質層用ペーストをアノード層用グリーン層上に印刷し、乾燥させ、焼成してハーフセルを得」るものであるから、本件発明7の「イオン伝導性を有する第1材料および第2材料を含む第1電極層」を備え、「第1面近傍の前記第1材料の含有率は、前記第2面近傍の前記第1材料の含有率より大きく、前記第2面近傍には、前記第2材料が含まれて」いる事項を含むものである。 カ 上記ア~オより、本件発明7と甲3発明とは、 「イオン伝導性を有する第1材料および第2材料を含む第1電極層と、 第2電極層と、 前記第1電極層と前記第2電極層との間に位置し、Zr(ジルコニウム)を含有する固体電解質層と を備え、 前記第1電極層は、前記固体電解質層の反対側に位置する第1面と、前記固体電解質層に接する第2面とを有し、 前記第1面近傍の前記第1材料の含有率は、前記第2面近傍の前記第1材料の含有率より大きく、 前記第2面近傍には、前記第2材料が含まれており、 前記第1電極層は、燃料極層であり、前記第2電極層は、空気極層である 電気化学セル。」で一致し、次の相違点で相違する。 (相違点3-2) 本件発明7が、「第1材料は、前記第2材料よりも高い電子伝導性を有」するのに対し、甲3発明は、これらの材料がいずれも「3モル%イットリア安定化ジルコニア」であって、同じ電子伝導性である点。 キ 上記相違点3-2について検討する。 ク 上記オより、甲3発明における「3モル%イットリア安定化ジルコニア」が、本件発明7における「第1材料」及び「第2材料」に相当するから、上記相違点3-2は実質的な相違点である。 ケ 次に、上記相違点3-2の容易想到性について検討する。 コ 本件発明7は、「第1材料は、前記第2材料よりも高い電子伝導性を有し、前記第1面近傍の前記第1材料の含有率は、前記第2面近傍の前記第1材料の含有率より大きく、前記第2面近傍には、前記第2材料が含まれて」いるものであり、第1電極層において、固体電解質側に電子伝導性の低い材料を含むものである。 サ ここで、次の参考文献(特に、Fig.9参照。)によれば、「8モル%イットリア安定化ジルコニア」は「3モル%イットリア安定化ジルコニア」よりも電子伝導性が高いと考えられる。 (参考文献) 小林俊介,「イットリア安定化ジルコニア単結晶のイオン伝導」,窯業協会誌,1981,89,[1],p14~22(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcersj1950/89/1025/89_1025_14/_pdf) シ 上記サを考慮すると、甲3発明は、イオン伝導性材料について、甲3第1面近傍には、「3モル%イットリア安定化ジルコニア」のみが存在するのに対し、甲3第2面近傍には、「3モル%イットリア安定化ジルコニア」に加えて、より高い電子伝導率の材料である「8モル%イットリア安定化ジルコニア」も存在する。 ス 上記コ、シからすると、本件発明7は、固体電解質側に電子伝導性の低い材料を含むのに対し、甲3発明は、固体電解質側(甲3第2面近傍)に電子伝導性の高い材料を含むものであるところ、これらの電子伝導性の高低を逆にする動機がない。 セ したがって、甲3発明において、上記相違点3-2に係る本件発明7の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。 ソ よって、本件発明7は、甲3発明であるとはいえないし、また、甲3発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 (5)本件発明8、9について ア 本件発明8、9は、本件発明7の発明特定事項を全て含むものであり、甲3発明とは少なくとも上記相違点3-2で相違するから、上記(4)で検討した理由と同様の理由により、本件発明8、9は、甲3発明であるとはいえない。 (6)本件発明11、13について ア 本件発明11、13は、本件発明1または本件発明7の発明特定事項を全て含むものであり、甲3発明とは少なくとも上記相違点3-1または相違点3-2で相違するから、上記(2)または(4)で検討した理由と同様の理由により、本件発明11、13は、甲3発明であるとはいえないし、また、甲3発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 (7)本件発明14、15について ア 本件発明14、15は、本件発明1または本件発明7の発明特定事項を全て含むものであり、甲3発明とは少なくとも上記相違点3-1または相違点3-2で相違するから、上記(2)または(4)で検討した理由と同様の理由により、本件発明14、15は、甲3発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 第6 むすび 以上のとおり、本件特許の請求項1~5、7~15に係る特許は、令和6年3月22日付け取消理由通知書に記載した取消理由、同年8月13日付け取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことはできず、また、他に本件特許の請求項1~5、7~15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 また、本件特許の請求項6は、本件訂正により削除されたから、本件特許の請求項6に係る特許に対して、申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。 よって、結論のとおり決定する。

審決本文(J-PlatPat)

J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。

J-PlatPat 審決検索を開く
2023-701109

番号・当事者・条文・審決分類・商標の称呼が一致(または近い)審決を機械的に集めた候補です。判断内容は各審決の本文でご確認ください。

同じ当事者の審決423件(井上 敬也、京セラ株式会社)
  • 2025-700505異議申立 / 2025-09-17 / 維持燃料電池モジュール及び燃料電池装置
    同じ当事者: 井上 敬也、京セラ株式会社
  • 2024-700565異議申立 / 2025-06-26 / 訂正認容セル、セルスタック装置、モジュールおよびモジュール収容装置
    同じ当事者: 井上 敬也、京セラ株式会社
  • 2023-701394異議申立 / 2024-09-27 / 訂正認容電気化学セル装置、モジュールおよびモジュール収容装置
    同じ当事者: 井上 敬也、京セラ株式会社
  • 2023-700925異議申立 / 2024-06-21 / 訂正認容導電部材、電気化学セル装置、モジュール、モジュール収容装置および導電部材の製造方…
    同じ当事者: 井上 敬也、京セラ株式会社
  • 2022-700319異議申立 / 2024-04-22 / 訂正認容セル、モジュールおよびモジュール収容装置
    同じ当事者: 井上 敬也、京セラ株式会社
同じ論点・分野の審決(審決分類)1,892件(113・H01M、121・H01M、537・H01M)
  • 2026-700447異議申立 / 2026-08-26 / 維持窒素含有多孔質炭素及びその製造方法、並びに燃料電池用電極触媒
    共通の審決分類: 113・H01M、121・H01M、537・H01M
  • 2025-701066異議申立 / 2026-07-16 / 維持二次電池バインダー、スラリー、電極、二次電池の製造方法、及び二次電池
    共通の審決分類: 113・H01M、121・H01M、537・H01M
  • 2026-700111異議申立 / 2026-06-22 / 維持固体酸化物形電気化学セル及びその利用
    共通の審決分類: 113・H01M、121・H01M、537・H01M
  • 2026-700141異議申立 / 2026-05-27 / 維持電気化学装置
    共通の審決分類: 113・H01M、121・H01M、537・H01M
  • 2025-701146異議申立 / 2026-05-13 / 維持二次電池バインダー、スラリー、電極、二次電池の製造方法、及び二次電池
    共通の審決分類: 113・H01M、121・H01M、537・H01M

メモ・タグ(非公開)

あなただけに表示されます。審決本文の公開範囲は変わりません。

メモとタグは Pro の機能です。ログイン/Proでメモを保存