特許異議申立
2024-700565
セル、セルスタック装置、モジュールおよびモジュール収容装置
- 審判番号
- 2024-700565
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-545643
- 登録番号
- 7433450
- 請求日
- 2024年06月12日
- 審決日
- 2025年06月26日
- 公報発行日
- 2025年10月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】京セラ株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人酒井国際特許事務所
- 【異議申立人】井上 敬也
- 審判長/審判官
- 審判長 篠原 功一
- 審判官 須原 宏光
- 審判官 井上 信一
- 分類
- P1651.113-YAA(H01M) / P1651.121-YAA(H01M) / P1651.536-YAA(H01M) / P1651.537-YAA(H01M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第29条第1項、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第4項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7433450号発明「セル、セルスタック装置、モジュールおよびモジュール収容装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7433450号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕、9について訂正することを認める。
特許第7433450号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7433450号の請求項1ないし9に係る特許についての出願は、2021年8月24日(優先権主張 2020年8月24日 日本国(JP))を国際出願日として出願され、令和6年2月8日にその特許権の設定登録がなされ、同年2月19日に特許掲載公報が発行された。その後、本件特許に対して特許異議の申立てがなされたものであり、以後の本件に係る手続の概要は以下のとおりである。
令和6年 6月12日 特許異議申立人 井上 敬也による請求項1な
いし9に係る特許に対する特許異議の申立て
令和6年10月23日付け 取消理由通知
令和6年12月24日 特許権者による意見書の提出
令和7年 3月 3日付け 取消理由通知(決定の予告)
令和7年 5月 8日 特許権者による訂正請求書、意見書の提出
令和7年 5月29日 特許異議申立人による意見書の提出
第2 訂正の適否
1.訂正の内容
令和7年5月8日の訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)は、特許第7433450号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし9について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は、以下の訂正事項のとおりである(なお、下線は訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の記載を、「支持基板に支持された燃料極と、固体電解質層と、空気極と、前記固体電解質層と前記空気極との間に位置する中間層と、を有する素子部を備え、
平面視した前記空気極の端部における空隙率は、前記空気極の中央部における空隙率よりも大きく、
平面視した前記空気極の前記中央部における空隙率が、20%~40%であり、
前記空気極の前記中央部および前記端部は、いずれも平面視して前記中間層と重なる
セル。」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~8も同様に訂正する)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項9の記載を、「燃料極と、固体電解質層と、空気極と、前記固体電解質層と前記空気極との間に位置する中間層と、を有する素子部を備え、
平面視した前記空気極の端部における空隙率は、前記空気極の中央部における空隙率よりも大きく、
平面視した前記空気極の前記中央部における空隙率が、20%~40%であり、
前記空気極の平面視した輪郭は、前記燃料極、前記固体電解質層および前記中間層のうち少なくともいずれかの平面視した輪郭の内側に位置しており、
前記空気極の前記中央部および前記端部は、いずれも平面視して前記中間層と重なる
セル。」に訂正する。
2.訂正の適否についての判断
(1)一群の請求項について
訂正前の請求項1ないし8について、請求項2ないし8は請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1ないし8に対応する訂正後の請求項1ないし8は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア.訂正事項1
訂正事項1は、請求項1に係る発明において、平面視した「空気極の中央部における空隙率」について「20%~40%」であることの限定を付加し、さらに、「空気極の中央部および端部」について「いずれも平面視して前記中間層と重なる」ことの限定を付加するものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、平面視した「空気極の中央部における空隙率」についての上記限定に関して、本件特許明細書の段落【0069】に「また、空気極8の中央部8bにおける空隙率は、たとえば、20%~40%、・・の範囲とすることができる。」と記載されている。また、「空気極中央部および端部」についての上記限定に関して、本件特許明細書の段落【0054】に「また、中間層7の表面には、セル1における上辺の未成膜部Aと補強層23との間の領域に、空気極8が位置している。」と記載され、図3には、平面視して中間層7上に空気極全体が重なるように位置することが示されている。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
また、訂正事項1は上述のとおり、請求項1に係る発明において、平面視した「空気極の中央部における空隙率」について限定を付加するとともに、「空気極の中央部および端部」について限定を付加することによって特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
イ.訂正事項2
訂正事項2は、請求項9に係る発明において、平面視した「空気極の中央部における空隙率」について「20%~40%」であることの限定を付加し、さらに、「空気極の中央部および端部」について「いずれも平面視して前記中間層と重なる」ことの限定を付加するものである。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、平面視した「空気極の中央部における空隙率」についての上記限定に関して、本件特許明細書の段落【0069】に「また、空気極8の中央部8bにおける空隙率は、たとえば、20%~40%、・・の範囲とすることができる。」と記載されている。また、「空気極中央部および端部」についての上記限定に関して、本件特許明細書の段落【0054】に「また、中間層7の表面には、セル1における上辺の未成膜部Aと補強層23との間の領域に、空気極8が位置している。」と記載され、図3には、平面視して中間層7上に空気極全体が重なるように位置することが示されている。
したがって、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
また、訂正事項2は上述のとおり、請求項9に係る発明において、平面視した「空気極の中央部における空隙率」について限定を付加するとともに、「空気極の中央部および端部」について限定を付加することによって特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(3)独立特許要件について
訂正事項1及び2は「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであるが、本件においては、訂正前の請求項1ないし9の全請求項について特許異議の申立てがなされているので、訂正舞うの請求項1ないし8に係る訂正事項1、及び訂正前の請求項9に係る訂正事項2に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
3.訂正の適否についてのむすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕、9について訂正することを認める。
第3 当審の判断
1.本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし9に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明9」という。)は、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項によりとくていされる以下のとおりのものである(なお、下線は訂正された箇所を示す。)。
「【請求項1】
支持基板に支持された燃料極と、固体電解質層と、空気極と、前記固体電解質層と前記空気極との間に位置する中間層と、を有する素子部を備え、
平面視した前記空気極の端部における空隙率は、前記空気極の中央部における空隙率よりも大きく、
平面視した前記空気極の前記中央部における空隙率が、20%~40%であり、
前記空気極の前記中央部および前記端部は、いずれも平面視して前記中間層と重なる
セル。
【請求項2】
燃料ガスが流れる第1方向に交差する第2方向の端部に位置する前記空気極の空隙率は、前記第2方向の中央部に位置する前記空気極の空隙率よりも大きい
請求項1に記載のセル。
【請求項3】
燃料ガスが流れる第1方向の両端部に位置する前記空気極の空隙率は、前記第1方向の中央部に位置する前記空気極の空隙率よりも大きい
請求項1または2に記載のセル。
【請求項4】
前記中間層は、Ceを含みZrを含まない第1中間層、および該第1中間層と前記固体電解質層との間に位置し、CeおよびZrを含む第2中間層を含み、
該第2中間層は、平面視した前記素子部の外周部の少なくとも一部と重なる
請求項1~3のいずれか1つに記載のセル。
【請求項5】
前記第2中間層は、平面視した前記素子部の外周部のうち、少なくとも前記素子部の中央部を挟んで対向する一対の部分と重なる
請求項4に記載のセル。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1つに記載のセルを複数備えるセルスタックを有する
セルスタック装置。
【請求項7】
請求項6に記載のセルスタック装置と、
前記セルスタック装置を収納する収納容器と
を備えるモジュール。
【請求項8】
請求項7に記載のモジュールと、
前記モジュールの運転を行うための補機と、
前記モジュールおよび前記補機を収容する外装ケースと
を備えるモジュール収容装置。
【請求項9】
燃料極と、固体電解質層と、空気極と、前記固体電解質層と前記空気極との間に位置する中間層と、を有する素子部を備え、
平面視した前記空気極の端部における空隙率は、前記空気極の中央部における空隙率よりも大きく、
平面視した前記空気極の前記中央部における空隙率が、20%~40%であり、
前記空気極の平面視した輪郭は、前記燃料極、前記固体電解質層および前記中間層のうち少なくともいずれかの平面視した輪郭の内側に位置しており、
前記空気極の前記中央部および前記端部は、いずれも平面視して前記中間層と重なる
セル。 」
2.取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について
(1)取消理由の概要
取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由の概要は、次のとおりである。
(1-1)理由A(新規性)
請求項1ないし3、9に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用例1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項1ないし3、9に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(1-2)理由B(進歩性)
請求項4ないし7に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用例1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、
請求項8に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用例1に記載された発明及び引用例2に記載の技術事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項4ないし8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
記
引用例1:特開2018-147660号公報(甲第3号証)
引用例2:特開2013-229219号公報(甲第1号証)
(1-3)理由D(サポート要件)
請求項1ないし9に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
記
本件特許明細書の段落【0058】~【0063】の記載を参照するに、本件特許明細書に記載された発明が解決しようとする課題は、セルの電池性能を向上させることであり、その課題を解決するための手段は、空気極について、中央部と比較して発電への寄与が小さい端部では、発電効率よりも応力緩和効果を重視して空隙率を大きくすることで、中間層から空気極が剥離しにくくし、セルの耐久性を高める一方、中央部では、発電効率を重視して空隙率を小さくすることで、発電効率を向上させるようにしたことであると理解できる。
しかしながら、本件請求項1においては、「平面視した前記空気極の端部における空隙率は、前記空気極の中央部における空隙率よりも大きい」と特定されているものの、特に空気極における空隙率の大きい「端部」と「中間層」との配置(位置)関係については何ら特定されておらず、したがって本件請求項1に係る発明は、空気極における空隙率の大きい「端部」が、中間層上になく、中間層の層面を超えて例えば固体電解質層上に位置するような場合のものも含むといえるが、このような場合のものであっても、中間層から空気極が剥離しにくくなり、上記課題を解決できるとまでは解し得ない。また、そもそも本件特許明細書の発明の詳細な説明には、空気極がその端部を含めて中間層上に位置する例が記載されているのみである。
以上の点において、本件請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明において発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えて特許を請求するものであるといえ、請求項1に係る発明及び請求項1を引用する請求項2ないし8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものとは認められない。
独立形式で記載された本件請求項9に係る発明についても、上記と同様のことがいえ、発明の詳細な説明に記載されたものとは認められない。
(2)引用例の記載事項
(2-1)引用例1
取消理由において引用した引用例1(特開2018-147660号公報、甲第3号証)には、「固体酸化物形燃料電池単セル」について、図面とともに以下の各記載がある。
ア.「【請求項1】
外部から電極面内方向に供給される酸化剤ガス(O)が導入されるカソード層(11)と、
上記カソード層の外表面を被覆しており、上記酸化剤ガス中に含まれる上記カソード層を被毒する被毒物質を捕集する捕集層(12)と、
を有する、固体酸化物形燃料電池用電極体(1)。
・・・・(中 略)・・・・
【請求項8】
上記捕集層の気孔率は、上記カソード層の気孔率よりも大きい、請求項1~7のいずれか1項に記載の固体酸化物形燃料電池用電極体。
・・・・(中 略)・・・・
【請求項14】
請求項1~13のいずれか1項に記載の固体酸化物形燃料電池用電極体を有する、固体酸化物形燃料電池単セル(5)。」
イ.「【0014】
電極体1は、カソード層11と捕集層12とを有している。図1では、電極体1を固体酸化物形燃料電池単セル5に用いた場合に、カソード層11側が固体電解質層3側となるように電極体1が配置されている例が示されている。図1では、カソード層11と固体電解質層3との間に中間層4が形成されており、カソード層11における捕集層12側とは反対側の層面を、中間層4に接するようにして電極体1を用いる例が示されている。中間層4は、主に、固体電解質層材料とカソード層材料との反応を抑制するための層である。なお、図示はされていないが、電極体1のカソード層11における捕集層12側とは反対側の層面を、固体電解質層3に接するようにして電極体1を用いることも可能である。 」
ウ.「【0019】
捕集層12は、カソード層11の外表面の全てを覆っていてもよいし、上記作用効果が得られる限り、カソード層11の外表面の一部を覆っていなくてもよい。捕集層12は、好ましくは、カソード層11の外表面の全てが露出しないようにカソード層11を被覆しているとよい。図1では、具体的には、カソード層11における固体電解質層3側とは反対側の層面と、カソード層11の厚み方向に沿う端面とを、捕集層12が被覆している例が示されている。上記構成によれば、カソード層11の外表面が酸化剤ガス流路に露出せず、カソード層11の外表面から直接的に酸化剤ガスOが流れ込み難くなる。つまり、上記構成によれば、捕集層12を通った酸化剤ガスOが主にカソード層11に流れ込むので、上記作用効果を確実なものとすることができる。なお、図示はされていないが、捕集層12は、カソード層11における固体電解質層3側とは反対側の層面を被覆しているが、カソード層11の厚み方向に沿う端面を被覆していない構成とすることも可能である。 」
エ.「【0024】
捕集層12とカソード層11とは、互いに異なる酸化物より構成されており、捕集層12の酸化物には、カソード層11の酸化物よりも被毒物質との反応性が高いものを用いることが好ましい。この構成によれば、捕集層12により捕集された被毒物質がカソード層11に元素拡散することを抑制しやすくなる。より具体的には、捕集層12が(La,Sr)CoO3を含み、カソード層11が(La,Sr)(Co,Fe)O3を含んで構成されているとよい。この構成によれば、(La,Sr)CoO3自体がカソード電極としての機能を有するために発電性能を向上させることができるとともに、(La,Sr)(Co,Fe)O3と比較して、S、Cr、B、Siとの反応性が非常に高いために、捕集したこれらの被毒物質のカソード層11側への拡散を抑制しやすくなる。」
オ.「【0027】
捕集層12の気孔率は、カソード層11の気孔率よりも大きい構成とすることができる。捕集層12によって被毒物質が捕集されると被毒物質によって二次相が形成される。電極体1の使用時間が長くなればなるほど、二次相の堆積が増え、捕集層12のガス拡散性が低下するおそれがある。上記構成によれば、二次相による捕集層12の閉塞を抑制しやすい電極体1が得られる。なお、捕集層12およびカソード層11の気孔は、いずれも、粒子間の隙間、造孔剤に由来する隙間、これらの組み合わせなどから構成することが可能である。
・・・・(中 略)・・・・
【0029】
カソード層11の気孔率は、具体的には、ガス拡散性等の観点から、好ましくは、30%以上、より好ましくは、35%以上、さらに好ましくは、40%以上とすることができる。カソード層11の気孔率は、カソード層強度の確保、電子導電パスの確保等の観点から、好ましくは、55%以下、より好ましくは、50%以下、さらに好ましくは、45%以下とすることができる。捕集層12の気孔率は、具体的には、二次相による閉塞抑制等の観点から、好ましくは、40%以上、より好ましくは、45%以上、さらに好ましくは、50%以上とすることができる。捕集層12の気孔率は、捕集層強度の確保、捕集能力を良好に保ちやすくなる等の観点から、好ましくは、65%以下、より好ましくは、60%以下、さらに好ましくは、55%以下とすることができる。」
カ.「【0041】
実施形態1の固体酸化物形燃料電池単セル5(以下、単に「単セル」と称することがある。)について、図1を用いて説明する。図1に例示されるように、本実施形態の単セル5は、実施形態1の電極体1を有している。
【0042】
本実施形態では、単セル5は、具体的には、アノード層2と、固体電解質層3と、カソード層11を含む上記電極体1とを有している。電極体1は、カソード層11側が固体電解質層3側となるように配置されている。単セル5は、図1に例示されるように、固体電解質層3とカソード層11との間に中間層4をさらに備えることができる。本実施形態では、単セル5は、具体的には、アノード層2、固体電解質層3、中間層4、および、電極体1(カソード層11、捕集層12)がこの順に積層され、互いに接合されている。単セル5は、発電性能が高い等の観点から、平板形の電池構造をとることができる。単セル5は、電極であるアノード層2を支持体として機能させるアノード支持型とすることができる。アノード支持型の単セル5では、他の層に比べてアノード層2の厚みが十分に厚く形成されている。なお、図1では、単セル5の外形が四角形状である例が示されている。単セル5の外形は、他にも、円形状等の形状とすることもできる。また、単セル5は、アノード層2における固体電解質層3側とは反対側の面に、外部からアノード層2の面内方向に沿って燃料ガス(不図示)が供給される。
【0043】
本実施形態では、電極体1の外形は、固体電解質層3や中間層4等の外形よりも小さく形成されている。そのため、電極体1の外周囲には、中間層4の層面が露出している。そして、カソード層11の厚み方向に沿う端面を被覆する捕集層12の部分が、中間層4の層面に接している。なお、中間層4を有さない構成とする場合には、電極体1の外周囲に露出した固体電解質層3の層面に、カソード層11の厚み方向に沿う端面を被覆する捕集層12の部分を接するように構成することができる。 」
キ.「【0046】
アノード層2は、単層から構成されていてもよいし、複数層から構成されていてもよい。図1では、アノード層2が複数層から構成されている例が示されている。この場合、アノード層2は、具体的には、例えば、固体電解質層3側に配置される活性層22と、活性層22における固体電解質層3側とは反対側に配置される拡散層21とを備える構成などとすることができる。なお、活性層22は、主に、アノード層2側における電気化学的反応を高めるための層である。また、拡散層21は、供給される燃料ガスを層面内に拡散させることが可能な層である。
・・・・(中 略)・・・・
【0048】
活性層22の厚みは、反応持続性、取り扱い性、加工性等の観点から、好ましくは10μm以上、より好ましくは15μm以上とすることができる。活性層22の厚みは、電極反応抵抗の低減等の観点から、好ましくは30μm以下、より好ましくは25μm以下とすることができる。また、拡散層21の厚みは、支持体としての強度確保等の観点から、好ましくは100μm以上、より好ましくは200μm以上、より好ましくは300μm以上とすることができる。拡散層21の厚みは、ガス拡散性の向上等の観点から、好ましくは800μm以下、より好ましくは700μm以下とすることができる。」
ク.「【図1】
[図:0001427940000001.jpg]
」
上記「ア.」ないし「ク.」から以下のことがいえる。
・上記「カ.」の段落【0042】の記載、及び「ク.」(図1)によれば、引用例1には、アノード層2、固体電解質層3、中間層4、及び電極体1がこの順に積層され、外形が四角形状である固体酸化物形燃料電池単セル5について記載されている。
・上記「ア.」の【請求項1】、「イ.」の記載、及び「ク.」(図1)によれば、電極体1は、酸化剤ガスが導入されるカソード層11と、酸化剤ガス中に含まれるカソード層11を被毒する被毒物質を捕集する捕集層12とを有してなるものである。そして、上記「エ.」の記載によれば、捕集層12は、カソード電極としての機能を有する酸化物を含んで構成される。
・上記「イ.」、「ウ.」、「カ.」の段落【0043】の記載、及び「ク.」(図1)によれば、カソード層11は、中間層4上に接するように配置され、捕集層12は、カソード層11の外表面(カソード層11における固体電解質層3側とは反対側の層面と、カソード層11の厚み方向に沿う端面)の全てを被覆し、カソード層11の厚み方向に沿う端面を被覆する部分が中間層4の層面に接してなるものである。
・上記「ア.」の【請求項8】、「オ.」の記載によれば、捕集層12の気孔率は、カソード層11の気孔率よりも大きい構成であり、カソード層11の気孔率は、好ましくは30%以上55%以下とすることができ、捕集層12の気孔率は、好ましくは40%以上65%以下とすることができるものである。
・上記「カ.」の段落【0042】、「キ.」の記載、及び「ク.」(図1)によれば、アノード層2は、燃料ガスを層面内に拡散させることができ、支持体として機能する拡散層21と、拡散層21上の固体電解質層3側に配置される活性層22とを備える構成であるといえる。
以上のことから、上記記載及び図面を総合勘案すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「アノード層、固体電解質層、中間層、及び電極体がこの順に積層され、外形が四角形状である固体酸化物形燃料電池単セルであって、
前記アノード層は、燃料ガスを層面内に拡散させることができ、支持体として機能する拡散層と、当該拡散層上の前記固体電解質層側に配置される活性層とを備え、
前記電極体は、酸化剤ガスが導入されるカソード層と、酸化剤ガス中に含まれる前記カソード層を被毒する被毒物質を捕集するとともに、カソード電極としての機能を有する酸化物を含んで構成された捕集層とを有し、
前記カソード層は、前記中間層上に接するように配置され、前記捕集層は、前記カソード層の外表面(前記カソード層における固体電解質層側とは反対側の層面と、前記カソード層の厚み方向に沿う端面)の全てを被覆し、前記カソード層の厚み方向に沿う端面を被覆する部分が前記中間層の層面に接しており、
前記捕集層の気孔率は、前記カソード層の気孔率よりも大きく、前記カソード層の気孔率は、好ましくは30%以上55%以下、前記捕集層の気孔率は、好ましくは40%以上65%以下である、固体酸化物形燃料電池単セル。」
(2-2)引用例2
取消理由において引用した引用例2(特開2013-229219号公報、甲第1号証)には、「燃料電池装置」にいて、図面とともに以下の各記載がある。
ア.「【請求項8】
請求項7に記載の燃料電池モジュールと、該燃料電池モジュールを作動させるための補機とを、外装ケース内に収納してなることを特徴とする燃料電池装置。」
イ.「【0077】
図7は、外装ケース内に図6で示した燃料電池モジュール18と、燃料電池セルスタック装置11を動作させるための補機とを収納してなる燃料電池装置の一例を示す分解斜視図である。なお、図7においては一部構成を両略して示している。
【0078】
図7に示す燃料電池装置23は、支柱24と外装板25とから構成される外装ケース内を仕切板26により上下に区画し、その上方側を上述した燃料電池モジュール18を収納するモジュール収納室27とし、下方側を燃料電池モジュール18を動作させるための補機類を収納する補機収納室28として構成されている。なお、補機収納室28に収納する補機類は省略して示している。」
ウ.「【図7】
[図:0001427940000002.jpg]
」
(3)取消理由についての当審の判断
(3-1)理由A(新規性)について
ア.本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と引用発明とを対比する。
a.引用発明における「固体酸化物形燃料電池単セル」は、アノード層、固体電解質層、中間層、及び電極体がこの順に積層されたものであるところ、このうちの「アノード層」は、燃料ガスを層面内に拡散させることができ、支持体として機能する拡散層と、当該拡散層上の固体電解質層側に配置される活性層とを備えるものであり、これら「拡散層」、「活性層」が、それぞれ本件発明1でいう「支持基板」、支持基盤に支持された「燃料極」に相当するとみることができる。また、引用発明における「固体電解質層」は、本件発明1でいう「固体電解質層」に相当し、引用発明における「電極体」は、酸化剤ガスが導入されるカソード層と、酸化剤ガス中に含まれるカソード層を被毒する被毒物質を捕集するとともに、カソード電極としての機能を有する酸化物を含んで構成された捕集層とを有するものであるところ、捕集層についてもカソード電極としての機能を有することから、これらカソード層及び捕集層からなる「電極体」が、本件発明1でいう「空気極」に相当するということができる。さらに、引用発明における「中間層」は、固体電解質層と電極体の間に位置するものであり、本件発明1でいう「中間層」に相当する。そして、引用発明において、アノード層、固体電解質層、中間層、及び電極体がこの順に積層されたものが、本件発明1でいう「素子部」に相当するといえる。
したがって、本件発明1と引用発明とは、「支持基板に支持された燃料極と、固体電解質層と、空気極と、前記固体電解質層と前記空気極との間に位置する中間層と、を有する素子部」を備えるものである点で一致する。
b.引用発明における「電極体」について、カソード層は中間層上に接するように配置され、捕集層はカソード層の外表面(カソード層における固体電解質層側とは反対側の層面と、カソード層の厚み方向に沿う端面)の全てを被覆し、カソード層の厚み方向に沿う端面を被覆する部分が中間層の層面に接してなるものであるところ、電極体を平面視した際、捕集層が「カソード層の厚み方向に沿う端面を被覆する部分」は捕集層のみが存在する部分であり、本件発明1でいう空気極の「端部」に相当し、当該「カソード層の厚み方向に沿う端面を被覆する部分」以外の部分、すなわちカソード層と捕集層が当該カソード層の層面を被覆する部分との積層部分が本件発明1でいう空気極の「中央部」に相当するとみることができる。そして、引用発明は「捕集層の気孔率は、カソード層の気孔率よりも大きい」ものであることを踏まえると、引用発明にあっても、電極体の端部すなわち気孔率が大きい捕集層のみが存在する部分における空隙率は、電極体の中央部すなわち気孔率が大きい捕集層だけでなく気孔率が小さいカソード層も存在する積層部分おける空隙率よりも大きいといえる。
したがって、本件発明1と引用発明とは、「平面視した前記空気極の端部における空隙率は、前記空気極の中央部における空隙率よりも大き」いものである点では一致する。
ただし、平面視した空気極の中央部における空隙率について、本件発明1では「20%~40%」であることを特定するのに対し、引用発明ではそのような特定はなく、カソード層の気孔率が好ましくは30%以上55%以下、捕集層の気孔率が好ましくは40%以上65%以下である点で相違するといえる。
c.引用発明の「電極体」におけるカソード層は、中間層上に接するように配置され、捕集層は、カソード層の外表面(カソード層における固体電解質層側とは反対側の層面と、カソード層の厚み方向に沿う端面)の全てを被覆し、カソード層の厚み方向に沿う端面を被覆する部分が中間層の層面に接してなるものであることから、これらカソード層及び捕集層からなる「電極体」全体において、平面視して中間層と重なるといえるものである。
したがって、本件発明1と引用発明とは、「前記空気極の前記中央部および前記端部は、いずれも平面視して前記中間層と重なる」ものである点で一致する。
d.そして、引用発明における「固体酸化物形燃料電池単セル」は、本件発明1でいう「セル」に相当するものである。
よって、上記a.ないしd.によれば、本件発明1と引用発明とは、
「支持基板に支持された燃料極と、固体電解質層と、空気極と、前記固体電解質層と前記空気極との間に位置する中間層と、を有する素子部を備え、
平面視した前記空気極の端部における空隙率は、前記空気極の中央部における空隙率よりも大きく、
前記空気極の前記中央部および前記端部は、いずれも平面視して前記中間層と重なる
セル。」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点1]
平面視した空気極の中央部における空隙率について、本件発明1では「20%~40%」であることを特定するのに対し、引用発明ではそのような特定はなく、カソード層の気孔率が好ましくは30%以上55%以下、捕集層の気孔率が好ましくは40%以上65%以下である点。
(イ)判断
上記のとおり、相違点があるから、本件発明1は、引用例1に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当しない。
イ.本件発明2、3について
請求項2、3は請求項1を引用するものであり、本件発明2、3は、少なくとも上記[相違点1]に係る発明特定事項を備えるものであるから、上記本件発明1と同様に、本件発明2、3は、引用例1に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当しない。
ウ.本件発明9について
本件発明9にあっても、少なくとも上記[相違点1]に係る発明特定事項を備えるものである。したがって、上記本件発明1と同様に、本件発明9は、引用例1に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当しない。
エ.まとめ
以上のとおり、本件請求項1ないし3、9に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当せず、本件請求項1ないし3、9に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるということはできない。
(3-2)理由B(進歩性)にっいて
ア.本件発明4ないし8について
(ア)対比
請求項4ないし8は請求項1を引用するものであり、本件発明4ないし8は、少なくとも上記[相違点1]に係る発明特定事項を備えるものであるから、引用発明と対比すると、少なくとも上記[相違点1]において相違する。ここで、上記[相違点1]を以下に再掲する。
[相違点1]
平面視した空気極の中央部における空隙率について、本件発明4ないし8では「20%~40%」であることを特定するのに対し、引用発明ではそのような特定はなく、カソード層の気孔率が好ましくは30%以上55%以下、捕集層の気孔率が好ましくは40%以上65%以下である点。
(イ)判断
そこで、上記[相違点]について検討する。
引用発明において、本件発明4ないし8でいう平面視した「空気極の中央部」に相当するのは上記「(3-1)ア.(ア)b.」で述べたとおり、「カソード層と捕集層が当該カソード層の層面を被覆する部分との積層部分」であり、その積層部分の気孔率は、各層の厚みの比率を踏まえたカソード層の気孔率と捕集層の気孔率との合成値である。したがって、カソード層の気孔率が好ましくは「30%以上55%以下」であり、捕集層の気孔率は当該カソード層の気孔率よりも大きいのだから、積層部分の気孔率は、少なくとも30%より大きい値となり、本件発明4ないし8で特定する「20%~40%」の範囲に一部重複し得るといえるものの、引用例1の段落【0029】にはカソード層の気孔率はさらに好ましくは40%以上とすることができると記載され、実施例(実験例)でもカソード層の気孔率は「40%」であり(引用例1の段落【0098】、【0104】)、この場合、積層部分の気孔率は少なくとも40%より大きい値であるといえ、これは本件発明4ないし8で特定する「20%~40%」の範囲を超えた値である。以上のことを踏まえると、引用発明において、カソード層及び捕集層の各気孔率をさらに好ましいとする値とはせずに、あえて積層部分の気孔率が本件発明4ないし8で特定する「20%~40%」の範囲内となるような値にすべき動機があるとはいえず、相違点1に係る構成を導き出すことはできない。なお、当該相違点1に係る構成は、引用例2(上記(2-2)を参照)からも導き出すことはできない。
よって、本件発明4ないし7は、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、また、本件発明8は、引用例1に記載された発明及び引用例2に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ.まとめ
以上のとおり、本件請求項4ないし8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということはできない。
(3-3)理由D(サポート要件)について
上記(1-3)に記載したとおりの記載不備の指摘に対して、本件訂正請求による訂正により、本件請求項1、9において、「前記空気極の前記中央部および前記端部は、いずれも平面視して前記中間層と重なる」ことが特定された。これにより、本件請求項1、9に係る発明は、発明の詳細な説明において発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲内のものであり、発明の詳細な説明に記載されたものとなった。
したがって、取消理由で指摘した不備な点は解消され、本件請求項1、9に係る特許、及び本件請求項1を引用する請求項2ないし8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものではない。
3.取消理由通知(決定の予告)に採用しなかった特許異議申立理由について
(1)申立理由の概要
取消理由通知(決定の予告)に採用しなかった特許異議の申立理由の概要は次のとおりである。
(1-1)理由1(新規性)
請求項1ないし9に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項1ないし9に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(1-2)理由2(新規性)
請求項9に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項9に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(1-3)理由3(進歩性)
請求項1ないし9に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第1号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(1-4)理由4(進歩性)
請求項1ないし3、9に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第2号証に記載された発明及び周知の技術事項(甲第1号証に記載された技術事項)に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし3、9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(1-5)理由5(進歩性)
請求項1ないし3、9に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第3号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし3、9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
記
甲第1号証:特開2013-229219号公報
甲第2号証:特開2014-35921号公報
甲第3号証:特開2018-147660号公報
(1-6)理由6(実施可能要件)
本件特許明細書の発明の詳細な説明は、請求項1ないし9に係る発明について、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから、請求項1ないし9に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(1-7)理由7(サポート要件)
請求項1ないし9に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(1-8)理由8(明確性要件)
請求項1ないし9に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(2)甲第1号証ないし甲3号証の記載事項
(2-1)甲第1号証
上記甲第1号証には、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「【請求項1】
燃料極層、ZrO2系の固体電解質層、CeO2系の中間層、Laを含有するペロブスカイト型複合酸化物からなる酸素極層を順次積層してなるとともに、各層の積層方向から見た時に、前記酸素極層の少なくとも一部が前記中間層からはみ出し、該酸素極層のはみ出し部が前記固体電解質層と接合していることを特徴とする固体酸化物形燃料電池セル。
【請求項2】
前記酸素極層は前記中間層側の第1層と、該第1層に積層された第2層とを具備して構成されており、前記第1層は前記第2層よりも緻密質であることを特徴とする請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池セル。」
イ.「【0016】
この燃料電池セル10は、中空平板型の燃料電池セル10で、断面が扁平状で、全体的に見て楕円柱状をしたNiを含有してなる多孔質の導電性支持体1を備えている。導電性支持体1の内部には、適当な間隔で複数(6個)の燃料ガス通路2がセル長さ方向Lに貫通して形成されており、燃料電池セル10は、この導電性支持体1上に各種の部材が設けられた構造を有している。
【0017】
導電性支持体1は、図1に示されている形状から理解されるように、互いに平行な一対の平坦面nと、一対の平坦面nをそれぞれ接続する弧状面(側面)mとで構成されている 。平坦面nの両面は互いにほぼ平行に形成されており、一方の平坦面n(下面)と両側の弧状面mを覆うように多孔質な燃料極層3が設けられており、さらに、この燃料極層3を覆うように、緻密質な固体電解質層4が積層されている。また、固体電解質層4の上には、中間層5を介して、燃料極層3と対面するように、多孔質な酸素極層6が積層されている。
【0018】
言い換えれば、燃料電池セル10は、導電性支持体1上に、Niを含有する燃料極層3、ZrO2系の固体電解質層4、CeO2系の中間層5、Laを含有するペロブスカイト型複合酸化物からなる酸素極層6を順次積層して構成されている。」
ウ.「【0040】
そして、本形態の中間層5は、図1、2に示すように、固体電解質層4の一部の上面に形成され、燃料極層3、固体電解質層4等の各層の積層方向から見た時に、中間層5の周りに固体電解質層4が位置するように中間層5が固体電解質層4上に積層されている。また、燃料極層3、固体電解質層4等の各層の積層方向Aから見た時に、酸素極層6の全外周部が中間層5からはみ出し、この酸素極層6の環状のはみ出し部6aが固体電解質層4と接合している。
【0041】
すなわち、積層方向Aから見た時に、中間層5、酸素極層6は矩形状をしており、酸素極層6のセル長さ方向Lの両端部と、セル幅方向Bの両端部が、中間層5からはみ出し、環状のはみ出し部6aが形成されている。酸素極層6のはみ出し部6aと固体電解質層4との間には、例えば固体電解質層4を構成するZr、酸素極層6を構成するLaとが反応してランタンジルコネート(La2Zr2O7)が生成し、強固に接合している。
【0042】
このような燃料電池セルでは、燃料極層3、固体電解質層4、中間層5、酸素極層6が重畳する部分では、中間層5を介在して固体電解質層4と酸素極層6とが積層されている ため、固体電解質層4と酸素極層6との界面において、高電気抵抗のランタンジルコネート等の反応生成物を抑制でき、発電性能を向上できる。また、各層の積層方向Aから見た時に、酸素極層6の全外周部が中間層5からはみ出し、この酸素極層6の環状のはみ出し部6aが固体電解質層4と接合しているため、酸素極層6のはみ出し部6aを、ランタンジルコネート等の反応生成物を介して固体電解質層4に強固に接合できる。従来、発電部として使用されていなかった、もしくは使用され難かった部分で酸素極層6と固体電解質層4とを反応させて接合しているため、発電性能を維持したまま、酸素極層6を固体電解質層4に強固に接合できる。」
エ.「【0044】
図3は他の形態を示すもので、酸素極層6は、中間層5側の第1層6bと、この第1層6b上に積層された第2層6cとを具備して構成されており、第2層6cよりも第1層6bが緻密質とされている。このような燃料電池セルでは、酸素極層6の第1層6bが緻密質に形成されているため、固体電解質層4との接合部分を強化でき、酸素極層6のはみ出し部6aを固体電解質層4にさらに強固に接合できる。」
オ.「【図3】
[図:0001427940000003.jpg]
」
特に図3に示される他の形態に係る固体酸化物形燃料電池セルに着目し、上記「ア.」ないし「エ.」の記載、及び「オ.」(図3)を総合勘案すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
「導電性支持体上に、燃料極層、固体電解質層、中間層、酸素極層を順次積層してなる固体酸化物形燃料電池セルであって、
前記酸素極層は中間層側の第1層と、該第1層に積層された第2層とから構成され、前記第1層は前記第2層よりも緻密質であり、
各層の積層方向から見たとき、前記中間層、前記酸素極層は矩形状をしており、前記酸素極層の全外周部(セル長さ方向の両端部とセル幅方向の両端部)が前記中間層からはみ出し、その環状のはみ出し部が前記固体電解質層と接合している、固体酸化物形燃料電池セル。」
(2-2)甲第2号証
上記甲第2号証には、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「【請求項1】
多孔質燃料極と多孔質空気極の間に緻密な固体電解質を備えた固体酸化物形燃料電池において、
上記空気極は、電解質近傍部位が気孔率の低い密構造部から成ると共に、当該電解質近傍以外の部位には、上記密構造部と該密構造部よりも気孔率が高い疎構造部とが混在していることを特徴とする固体酸化物形燃料電池。
【請求項2】
上記空気極における密構造部と疎構造部との混在部分には、密構造部と疎構造部とが規則的に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池。」
イ.「【0015】
本発明の固体酸化物形燃料電池は、固体酸化物から成る電解質の一方の側に多孔質燃料極、他方の側に多孔質空気極を備え、当該多孔質空気極が、上記したように、気孔率の低い密構造部と、該密構造部よりも気孔率が高い疎構造部とを有している。そして、空気極の電解質近傍部位が電極反応性に優れた密構造を有し、これ以外の部位が上記密構造とガス拡散性の良好な疎構造との混在組織となっている。」
ウ.「【0020】
なお、上記した空気極がLaやSrを含む場合、上述した電解質材料との反応を防止するため、電解質との間に中間層を設けることが必要となる。このような中間層の材料としては、SDC:(Ce,Sm)O2、GDC:(Ce,Gd)O2、YDC:(Ce,Y)O2、YbDC:(Ce,Yb)O2などのようなセリア系の材料が用いられる。」
エ.「【0026】
本発明において、上記密構造部D及び疎構造部Sの気孔率については、用いる空気極材料の種類によっても相違し、一概に特定することは難しいが、密構造部Dについては、概ね20~40%、疎構造部Sについては、40~50%程度の範囲とすることが好適と考えられる。
また、密構造部Dと疎構造部Sの気孔率の相違の程度としては、10%以上の差があることが好ましい。」
オ.「【0027】
図1(b)は、本発明の固体酸化物形燃料電池における空気極の第2の形態例を示すものであって、図に示す空気極11は、電解質上に直接、又は中間層を介して電解質上に形成されており、電解質側の部位、すなわち電解質や中間層と接する部位は、同様に密構造部Dとなっている。そして、この電解質側の密構造部Dの上方側部分は、密構造部Dと疎構造部Sが規則的に交互配置(図では、市松模様状)されている。
このような密構造部Dと疎構造部Sとを規則的に分布させることによって、電極反応や発熱の分布をセル全体で均一なものとすることができる。」
カ.「【図1】
[図:0001427940000004.jpg]
」
キ.「【図2】
[図:0001427940000005.jpg]
」
特に図1(b)に示される第2の形態例の空気極である固体酸化物形燃料電池に着目し、上記「ア.」ないし「オ.」の記載、及び「カ.」(図1(b))、「キ.」(図2(e))を総合勘案すると、甲第2号証には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されている。
「多孔質燃料極と多孔質空気極の間に固体電解質を備えた固体酸化物形燃料電池であって、
前記多孔質空気極は、中間層を介して前記固体電解質上に形成され、平面視した前記多孔質空気極の輪郭は、前記多孔質燃料極、前記固体電解質及び前記中間層の平面視した輪郭の内側に位置しており、
前記多孔質空気極は、前記固体電解質側の部位(前記中間層と接する部位)が気孔率の低い密構造部からなるとともに、当該固体電解質側の密構造部の上方側部分は密構造部と当該密構造部よりも気孔率が高い疎構造部が規則的に交互配置(市松模様状)され、
前記密構造部の気孔率は概ね20~40%、前記疎構造部の気孔率は概ね40~50%の範囲である、固体酸化物形燃料電池。」
(2-3)甲第3号証
上記甲第3号証の記載事項は、上記「2.(2-1)引用例1」に記載したとおりであり、甲第3号証に記載された発明(以下、「甲3発明」という。)は、上記引用発明と同じである。
(3)申立理由についての当審の判断
(3-1)理由1(新規性)について
ア.本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
a.甲1発明における「導電性支持体」、「燃料極層」、「固体電解質層」、「中間層」、「酸素極層」は、それぞれ本件発明1でいう「支持基板」、「燃料極」、「固体電解質層」、「中間層」、「空気極」に相当する。そして、甲1発明にあっても、「燃料極層」等は導電性支持体上に支持されてなるものであるといえ、また、「中間層」は固体電解質層と酸素極層との間に位置するものであり、導電性支持体上に順次積層されたこれら燃料極層、固体電解質層、中間層及び酸素極層からなるものが、本件発明1でいう「素子部」に相当する。
したがって、本件発明1と甲1発明とは、「支持基板に支持された燃料極と、固体電解質層と、空気極と、前記固体電解質層と前記空気極との間に位置する中間層と、を有する素子部」を備えるものである点で一致する。
b.甲1発明における「酸素極層」は、中間層側の第1層と、該第1層に積層された第2層とから構成され、第1層は第2層よりも緻密質であり、各層の積層方向から見たとき、すなわち平面視した際、中間層、酸素極層は矩形状をしており、酸素極層の全外周部(セル長さ方向の両端部とセル幅方向の両端部)が中間層からはみ出し、その環状のはみ出し部が固体電解質層と接合してなるものであるところ、平面視して「環状のはみ出し部」のうち外周の第2層のみが存在する部分が、本件発明1でいう空気極の「端部」に相当し、当該「環状のはみ出し部」のうち外周の第2層のみが存在する部分以外の部分、すなわち平面視して第1層と該第1層に積層された第2層とが存在する部分が本件発明1でいう空気極の「中央部」に相当するとみることができる。そして、「第1層は第2層よりも緻密質」である、つまり第2層は第1よりも緻密質でないことを踏まえると、甲1発明にあっても、酸素極層の端部すなわち環状のはみ出し部のうち外周の第2層のみが存在する部分における空隙率は、酸素極層の中央部すなわち第1層と該第1層に積層された第2層とが存在する部分における空隙率よりも大きいといえる。
しだかって、本件発明1と甲1発明とは、「平面視した前記空気極の端部における空隙率は、前記空気極の中央部における空隙率よりも大き」いものである点で一致するといえる。
ただし、平面視した空気極の中央部における空隙率について、本件発明1では「20%~40%」であることを特定するのに対し、甲1発明ではそのような特定がない点で相違する。
c.空気極の中央部および端部について、本件発明1では「いずれも平面視した前記中間層と重なる」ものであることを特定するのに対し、甲1発明では上記b.で述べたように、酸素極層の端部すなわち環状のはみ出し部のうち外周の第2層のみが存在する部分は中間層からはみ出し、固体電解質層と接合してなるものであり、中間層と重ならない点で相違するといえる。
d.そして、甲1発明における「固体酸化物形燃料電池セル」は、本件発明1でいう「セル」に相当するものである。
よって上記a.ないしd.によれば、本件発明1と甲1発明とは、
「支持基板に支持された燃料極と、固体電解質層と、空気極と、前記固体電解質層と前記空気極との間に位置する中間層と、を有する素子部を備え、
平面視した前記空気極の端部における空隙率は、前記空気極の中央部における空隙率よりも大きい
セル。」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点2]
平面視した空気極の中央部における空隙率について、本件発明1では「20%~40%」であることを特定するのに対し、甲1発明ではそのような特定がない点。
[相違点3]
空気極の中央部および端部について、本件発明1では「いずれも平面視した前記中間層と重なる」ものであることを特定するのに対し、甲1発明では酸素極層の端部すなわち環状のはみ出し部のうち外周の第2層のみが存在する部分は中間層と重ならない点。
(イ)判断
上記のとおり、相違点があるから、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明ではく、特許法第29条第1項第3号に該当しない。
イ.本件発明2ないし8にいて
請求項2ないし8は請求項1を引用するものであり、本件発明2ないし8は、少なくとも上記[相違点2]及び[相違点3]に係る発明特定事項を備えるものであるから、上記本件発明1と同様に、甲第1号証に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当しない。
ウ.本件発明9について
本件発明9にあっても、少なくとも上記[相違点2]及び[相違点3]に係る発明特定事項を備えるものである。したがって、上記本件発明1と同様に、本件発明9は、甲第1号証に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当しない。
エ.まとめ
以上のとおり、本件請求項1ないし9に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当せず、本件請求項1ないし9に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるということはできない。
(3-2)理由2(新規性)について
ア.本件発明9について
(ア)対比
本件発明9と甲2発明とを対比する。
a.甲2発明における「多孔質燃料極」、「固体電解質」、「中間層」、「多孔質空気極」は、それぞれ本件発明1でいう「燃料極」、「固体電解質層」、「中間層」、「空気極」に相当する。そして、甲2発明にあっても、「中間層」は固体電解質層と多孔質空気極との間に位置するものであり、これら多孔質燃料極、固体電解質層、中間層及び多孔質空気極からなるものが、本件発明1でいう「素子部」に相当するといえる。
したがって、本件発明9と甲2発明とは、「燃料極と、固体電解質層と、空気極と、前記固体電解質層と前記空気極との間に位置する中間層と、を有する素子部」を備えるものである点で一致する。
b.空気極について、本件発明9では「平面視した前記空気極の端部における空隙率は、前記空気極の中央部における空隙率よりも大きく、平面視した前記空気極の前記中央部における空隙率が、20%~40%」であることを特定するのに対し、甲2発明では固体電解質側の部位(中間層と接する部位)が気孔率の低い密構造部からなるとともに、当該固体電解質側の密構造部の上方側部分は密構造部と当該密構造部よりも気孔率が高い疎構造部が規則的に交互配置(市松模様状)され、密構造部の気孔率は概ね20~40%、疎構造部の気孔率は概ね40~50%の範囲とされるものである点で相違する。
c.甲2発明にあっても、平面視した多孔質空気極の輪郭は、多孔質燃料極、固体電解質及び中間層の平面視した輪郭の内側に位置してなるものである。したがって、平面視して多孔質空気極の全ての部分が、中間層と重なる。
よって、本件発明9と甲2発明とは、「前記空気極の平面視した輪郭は、前記燃料極、前記固体電解質層および前記中間層のうち少なくともいずれかの平面視した輪郭の内側に位置しており、前記空気極は、平面視して前記中間層と重なる」ものである点では一致するといえる。
d.そして、甲2発明における「固体酸化物形燃料電池」は、本件発明9でいう「セル」に相当するものである。
よって上記a.ないしd.によれば、本件発明9と甲2発明とは、
「燃料極と、固体電解質層と、空気極と、前記固体電解質層と前記空気極との間に位置する中間層と、を有する素子部を備え、
前記空気極の平面視した輪郭は、前記燃料極、前記固体電解質層および前記中間層のうち少なくともいずれかの平面視した輪郭の内側に位置しており、
前記空気極は、平面視して前記中間層と重なる
セル。」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点4]
空気極について、本件発明9では「平面視した前記空気極の端部における空隙率は、前記空気極の中央部における空隙率よりも大きく、平面視した前記空気極の前記中央部における空隙率が、20%~40%」であることを特定するのに対し、甲2発明では固体電解質側の部位(中間層と接する部位)が気孔率の低い密構造部からなるとともに、当該固体電解質側の密構造部の上方側部分は密構造部と当該密構造部よりも気孔率が高い疎構造部が規則的に交互配置(市松模様状)され、密構造部の気孔率は概ね20~40%、疎構造部の気孔率は概ね40~50%の範囲とされるものである点。
(イ)判断
上記のとおり、相違点があるから、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明ではく、特許法第29条第1項第3号に該当しない。
イ.まとめ
以上のとおり、本件請求項9に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当せず、本件請求項9に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるということはできない。
(3-3)理由3(進歩性)について
ア.本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、上記「(3-1)ア.本件発明1について」の「(ア)対比」に記載したとおり、[相違点2]及び[相違点3]において相違する。ここで、[相違点2]及び[相違点3]を以下に再掲する。
[相違点2]
平面視した空気極の中央部における空隙率について、本件発明1では「20%~40%」であることを特定するのに対し、甲1発明ではそのような特定がない点。
[相違点3]
空気極の中央部および端部について、本件発明1では「いずれも平面視した前記中間層と重なる」ものであることを特定するのに対し、甲1発明では酸素極層の端部すなわち環状のはみ出し部のうち外周の第2層のみが存在する部分は中間層と重ならない点。
(イ)判断
そこで事案に鑑み、まず[相違点3]について検討する。
甲1発明は、各層の積層方向から見たとき、酸素極層の全外周部(セル長さ方向の両端部とセル幅方向の両端部)が中間層からはみ出し、その環状のはみ出し部が固体電解質層と接合していることを特徴とする発明であり、酸素極層の端部すなわち環状のはみ出し部のうち外周の第2層のみが存在する部分を中間層と重ならない構成とすべき動機がなく、むしろそのような構成とすることには阻害要因があるといえ、甲1発明において、相違点3に係る構成を導き出すことはできない。
よって、本件発明1は、甲1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
なお、本件発明1に関して特許異議申立人が提示した甲第4号証(特開2017-73246号公報)には、電気化学反応単セル(燃料電池単セルや電解セル)において、電極の少なくとも一方が第1の層(活性層)と、第1の層の他方側に配置された第2の層(集電層)とを含むように構成されている場合、応力に起因する電極割れの発生抑制等のために、第2の層における他方側(第1の層側とは反対側)の第2の領域の気孔率を一方側(第1の層側)の気孔率より高くすることが記載(【請求項1】、段落【0005】、【0010】を参照)されているにすぎず、上記相違点3に係る構成を導き出すことはできない。
イ.本件発明2ないし8について
請求項2ないし8は請求項1を引用するものであり、本件発明2ないし8は、本件発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明2ないし8は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
なお、本件発明4に関して特許異議申立人が提示した甲第5号証(特開2017-117663号公報)には、ジルコニアを含む電解質前駆体又は電解質層に、セリアを含むバリア層前駆体を積層して焼成すると、電解質層とバリア層との間に、ジルコニアとセリアを含む層、具体的にはジルコニアとセリアとジルコニア-セリア固溶体とが共存する共存層が生成されることが記載(段落【0024】を参照)されているにすぎず、上記相違点3に係る構成を導き出すことはできない。
ウ.本件発明9について
本件発明9にあっても、少なくとも上記[相違点2]に係る構成及び[相違点3]に係る構成と同じ発明特定事項を備えるものであるから、甲1発明と対比すると、少なくとも上記[相違点2]及び上記[相違点3]と同様の相違点において相違する。したがって、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明9は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ.まとめ
以上のとおり、本件請求項1ないし9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということはできない。
(3-4)理由4(進歩性)について
ア.本件発明1について
(ア)対比
本件発明1にあっても、少なくとも上記「(3-2)ア.本件発明9について」の「(ア)対比」に記載した[相違点4]に係る構成と同じ発明特定事項を備えるものであるから、甲2発明と対比すると、少なくとも上記[相違点4]と同様の以下の相違点において相違する。
[相違点5]
空気極について、本件発明1では「平面視した前記空気極の端部における空隙率は、前記空気極の中央部における空隙率よりも大きく、平面視した前記空気極の前記中央部における空隙率が、20%~40%」であることを特定するのに対し、甲2発明では固体電解質側の部位(中間層と接する部位)が気孔率の低い密構造部からなるとともに、当該固体電解質側の密構造部の上方側部分は密構造部と当該密構造部よりも気孔率が高い疎構造部が規則的に交互配置(市松模様状)され、密構造部の気孔率は概ね20~40%、疎構造部の気孔率は概ね40~50%の範囲とされるものである点。
(イ)判断
そこで、上記[相違点5]について検討する。
甲2発明は、多孔質燃料極を、固体電解質側の部位(中間層と接する部位)が気孔率の低い密構造部からなるとともに、当該固体電解質側の密構造部の上方側部分は密構造部と当該密構造部よりも気孔率が高い疎構造部が規則的に交互配置(市松模様状)することを特徴とする発明であって、そもそも平面視した多孔質空気極を「端部」と「中央部」に区別はしていない。そして、甲第2号証をみても平面視した多孔質空気極を「端部」と「中央部」とに分け、端部の空隙率を中央部の空隙率よりも大きくすることについては記載も示唆もないことから、甲2発明において、相違点5に係る構成を導き出すことはできない。
よって、本件発明1は、甲2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
なお、本件発明1に関して特許異議申立人が提示した甲第4号証(特開2017-73246号公報)には、電気化学反応単セル(燃料電池単セルや電解セル)において、電極の少なくとも一方が第1の層(活性層)と、第1の層の他方側に配置された第2の層(集電層)とを含むように構成されている場合、応力に起因する電極割れの発生抑制等のために、第2の層における他方側(第1の層側とは反対側)の第2の領域の気孔率を一方側(第1の層側)の気孔率より高くすることが記載(【請求項1】、段落【0005】、【0010】を参照)されているにすぎず、上記相違点5に係る構成を導き出すことはできない。
イ.本件発明2、3について
請求項2、3は請求項1を引用するものであり、本件発明2、3は、本件発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明2、3は、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ.本件発明9について
本件発明9と甲2発明とを対比すると、上記「(3-2)ア.本件発明9について」の「(ア)対比」に記載したとおり、[相違点4]において相違するところ、かかる[相違点4]は、上記「ア.本件発明1について」の「(イ)判断」で検討した[相違点5]と実質的に同じであるから、当該[相違点5]についての判断と同様の理由により、本件発明9は、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ.まとめ
以上のとおり、本件請求項1ないし3、9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということはできない。
(3-5)理由5(進歩性)について
ア.本件発明1について
(ア)対比
上記「2.(3-1)ア.本件発明1について」の「(ア)対比」に記載した点を踏まえ、本件発明1と甲3発明(引用発明)とを対比すると以下の点で相違し、その余の点で一致するといえる。
[相違点6]
平面視した空気極の中央部における空隙率について、本件発明1では「20%~40%」であることを特定するのに対し、甲3発明ではそのような特定はなく、カソード層の気孔率が好ましくは30%以上55%以下、捕集層の気孔率が好ましくは40%以上65%以下である点。
(イ)判断
上記[相違点6]について検討すると、[相違点6]は、上記「2.(3-1)ア.本件発明1について」の「(ア)対比」に記載した[相違点1]と実質的に同じであるから、上記「2.(3-1)ア.本件発明1について」の「(イ)判断」に記載した[相違点1]についての判断と同様の理由により、本件発明1は、甲3号証(引用例1)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
なお、本件発明1に関して特許異議申立人が提示した甲第4号証(特開2017-73246号公報)には、電気化学反応単セル(燃料電池単セルや電解セル)において、電極の少なくとも一方が第1の層(活性層)と、第1の層の他方側に配置された第2の層(集電層)とを含むように構成されている場合、応力に起因する電極割れの発生抑制等のために、第2の層における他方側(第1の層側とは反対側)の第2の領域の気孔率を一方側(第1の層側)の気孔率より高くすることが記載(【請求項1】、段落【0005】、【0010】を参照)されているにすぎず、上記相違点6に係る構成を導き出すことはできない。
イ.本件発明2、3について
請求項2、3は請求項1を引用するものであり、本件発明2、3は、本件発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明2、3は、甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ.本件発明9について
本件発明9にあっても、少なくとも上記[相違点6]に係る構成と同じ発明特定事項を備えるものであるから、甲3発明と対比すると、少なくとも上記[相違点6]と同様の相違点において相違する。したがって、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明9は、甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ.まとめ
以上のとおり、本件請求項1ないし3、9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということはできない。
(3-6)理由6(実施可能要件)について
ア.特許異議申立人の主張
特許異議申立人は以下のような実施可能要件についての不備を主張している。
本件特許明細書の段落【0058】には「ここで、本実施形態では、セル1の電池性能を向上させるため、上述した端部8aおよび中央部8bの空隙率を制御している。」と記載されているように、本件発明では、空気極における端部および中央部の空隙率を制御することにより、セルの電池性能を向上させているが、本件特許明細書には、空気極における端部および中央部の空隙率を制御する方法については一切記載がなく、出願時の技術常識に基づいても当業者が理解できないため、当業者が本件発明を実施することはできない。
イ.判断
空気極の空隙率を制御する方法としては、例えば甲第1号証の段落【0045】にも記載のように造孔材の添加量を制御するなど適宜の手段により空隙率を制御し得ることは出願時の技術常識に基づけば当業者であれば普通に想到できることであるといえる。したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明に具体的な記載がないとしても、当該発明の詳細な説明が、本件請求項1ないし9に係る発明について、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないとまではいえない。
ウ.まとめ
以上のとおりであるから、特許異議申立人の実施可能要件についての不備の主張は採用することはできず、本件請求項1ないし9に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。
(3-7)理由7(サポート要件)について
ア.特許異議申立人の主張
特許異議申立人は以下のようなサポート要件についての記載不備を主張している。
(ア)本件特許明細書の段落【0058】~【0063】の記載によれば、本件特許明細書に記載された「発明が解決しようとする課題」は、「セル1の電池性能を向上させる」ことであり、その課題を「解決するための手段」は、「空気極8の端部8aにおける空隙率を、中央部8bにおける空隙率よりも大きくする。すなわち、中央部8bと比較して発電への寄与が小さい空気極8の端部8aでは、発電効率よりも応力緩和効果を重視して空隙率を大きくする一方、中央部8bでは、発電効率を重視して空隙率を小さくする」ことであると解される。
これに対して、本件発明1は、「平面視した前記空気極の端部における空隙率は、前記空気極の中央部における空隙率よりも大きい」と特定されるだけであり、下記の参考図1に示されるように、空気極が中間層上に形成された第2層と、該第2層上に形成された第1層との2つの層を備え、第1層は上記特定事項を充足するが、第2層は上記特定事項を充足しないような態様も包含するが、このような態様では、上述した課題は解決できない。以上のことから、空気極が2つ以上の層を備える態様を包含する本件発明1の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
[図:0001427940000006.jpg]
(イ)令和5年10月13日に本件特許出願人によって提出された意見書において、本件発明1のセルが燃料極支持型のセルであると説明しているが、本件特許明細書における発明の詳細な説明には、燃料極支持型のセル、すなわち燃料極がセルの支持体として機能している旨の記載は一切ない。
イ.判断
上記(ア)の主張について
本件発明1には「空気極」が複数の層からなり、各層について端部と中央部とで空隙率を異ならせることの特定はなく、本件特許明細書にもそのような態様の記載は一切なされていない(空気極が複数の層からなることすら記載されていない)ことを踏まえると、参考図1に示されるような態様はそもそも想定されないものであるといえる。このことは本件発明9についても同様である。なお、参考図1について、第1層と第2層が同じ厚みとした場合、平面視した空気極全体についての端部の空隙率は37.5%、中央部は40%であり、端部の空隙率の方が小さく、本件発明1、9で特定する条件を満たしていない。
上記(イ)の主張について
そもそも本件発明1には「支持基板に支持された燃料極と」と特定されているのであって、燃料極がセルの支持体として機能するような特定はなされておらず、本件発明1は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であるといえる。なお、令和5年10月13日に本件特許出願人によって提出された意見書でいう「燃料極支持型のセル」とは、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載及び図面からして、燃料極側が支持体により支持された型のセルという意味に解されるところである。
ウ.まとめ
以上のとおりであるから、特許異議申立人のサポート要件についての記載不備の主張はいずれも採用することはできず、本件請求項1ないし9に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。
(3-8)理由8(明確性要件)について
ア.特許異議申立人の主張
特許異議申立人は概略以下のような明確性要件についての記載不備を主張している。
(ア)本件発明1は、空気極における「空隙率」をどのように特定するのか不明(そもそも開気孔率と閉気孔率とのいずれを意味しているのか、空隙率をどのようにして測定するのか等が不明)であり、その結果、発明の範囲が不明確である。
(イ)本件発明1には「平面視した前記空気極の端部における空隙率は、前記空気極の中央部における空隙率よりも大きい」と特定されるだけであり、下記の参考図2に示されるような態様、すなわち空気極が第1層と第2層とを有し、各層のそれぞれにおいて端部における空隙率が中央部における空隙率よりも小さいものの、第2層の端部における空隙率が第1層の中央部における空隙率よりも大きい態様も包含するのか不明であり、その結果、発明の範囲が不明確である。
[図:0001427940000007.jpg]
(ウ)本件発明1に「平面視した前記空気極の端部における空隙率は、前記空気極の中央部における空隙率よりも大きい」と特定されているが、一般に、空気極における空隙率は、全体にわたって厳密に同一であることはなく、製造ばらつき等に起因する空隙率の僅かな相違が存在するところ、本件発明1は、このような製造ばらつき等に起因する空隙率の僅かな相違をも含むのかが不明であり、その結果、発明の範囲が不明確である。
(エ)本件発明1には「前記空気極の中央部」との記載がある。ここで、一般に「中央」の語はある物の中心となる部分を意味するが、本件特許明細書の段落【0088】及び図8には、空気極における「中央部8b」が一方の端部をも含んでいる。そのため、本件発明1における「中央部」の語は日本語として不適切であり、その結果、発明の範囲が不明確である。
(オ)本件発明1には「前記空気極の端部」との記載があるが、この「端部」が空気極におけるどこからどこまでの部分を意味するのかが不明であり、その結果、発明の範囲が不明確である。
(カ)本件発明1に記載された「端部」や「中央部」が、本件発明2、3に記載された「端部」や「中央部」と同一の部分を指しているのであれば、本件発明2、3に記載された「端部」や「中央部」の語の前に「前記」のような語が記載されるはずであるが、そのような語は存在していない。したがって、本件発明1に記載された「端部」や「中央部」と、本件発明2、3に記載された「端部」や「中央部」との対応関係が不明であり、その結果、発明の範囲が不明確である。
(キ)本件発明1には「支持基板に支持された燃料極と、固体電解質層と、空気極と、前記固体電解質層と前記空気極との間に位置する中間層と、を有する素子部を備え」と記載され、素子部が支持基板によって支持されることを特定している。しかしながら、令和5年10月13日に本件特許出願人によって提出された意見書においては、本件発明1のセルが燃料極支持型のセルであると説明しており、かかる意見書の説明と整合しておらず、そのため、本件発明1は、セルの支持方式が燃料極支持型であるか、或いは、金属等の支持基板によって素子部が支持された金属支持型であるか不明であり、その結果、発明の範囲が不明確である。
イ.判断
上記(ア)の主張について
本件特許明細書の段落【0026】の記載によれば、本件発明1でいう「空隙率」は、開気孔率を意味することが理解できる。また、本件特許明細書には「空隙率」の具体的な測定方法について記載されていないが、特段の記載がないかぎり通常想定される測定方法(例えば甲第3号証の段落【0028】を参照)で測定すればよいものと解されるところであり、本件発明1に「空隙率」の具体的な測定方法等の記載がないからといって、出願時の技術常識に照らして、本件発明1が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確なものであるとはいえない。このことは本件発明9についても同様である。
上記(イ)の主張について
本件発明1には「空気極」が複数の層からなり、各層について端部と中央部とで空隙率を異ならせることの特定はなく、本件特許明細書にもそのような態様の記載は一切なされていない(空気極が複数の層からなることすら記載されていない)ことを踏まえると、参考図2に示されるような態様はそもそも想定されないものであるといえる。このことは本件発明9についても同様である。なお、参考図2について、第1層と第2層が同じ厚みとした場合、平面視した空気極全体についての端部の空隙率は32.5%、中央部は36%であり、端部の空隙率の方が小さく、本件発明1、9で特定する条件を満たしていない。
上記(ウ)の主張について
空気極の空隙率に限らず製造ばらつきがあることは技術常識であるところ、本件発明1にあっては「平面視した前記空気極の端部における空隙率は、前記空気極の中央部における空隙率よりも大きい」とだけ特定され、端部における空隙率が中央部における空隙率よりもどの程度大きいのかは特定されていないことから、製造ばらつきに起因するかどうかは問わず、僅かでも端部における空隙率が中央部における空隙率よりも大きければ本件発明1の上記特定事項を充足するものと解するのが相当であり、この点において発明の範囲が不明確であるとはいえない。このことは本件発明9についても同様である。
上記(エ)の主張について
本件特許明細書の段落【0055】の「中央部8bは、端部8aの第1端部8a1および第2端部8a2で挟まれた領域である。」なる記載に加え、本件請求項1を引用する請求項2の記載や、本件特許明細書の段落【0088】の記載及び図8を踏まえると、本件発明1でいう空気極の「中央部」とは、燃料ガスが流れる第1方向の両端部に挟まれた部分、および/または第1方向に交差する第2方向の両端部に挟まれた部分を意味し、本件発明1でいう空気極の「端部」とは燃料ガスが流れる第1方向の両端部、及び第1方向に交差する第2方向の両端部のうちの少なくとも1つの端部を意味するものと理解することができ、本件発明1の範囲が不明確であるとはいえない。このことは本件発明9についても同様である。
上記(オ)の主張について
本件発明1における空気極の「端部」については、端辺から所定の距離だけ僅かでも中央部より空隙率が大きい領域があれば、全く無いよりは本件特許明細書の段落【0060】~【0063】の記載の効果が多少なりとも得られるものと解され、したがって、本件発明1において、「端部」について端辺からの距離を具体的な数値で特定する必要まではなく、かかる特定がないとしても発明の範囲が不明確であるとはいえない。このことは本件発明9についても同様である。
上記(カ)の主張について
本件請求項2、3は、あくまでも本件請求項1を引用する請求項であることから、本件発明2、3に記載された「端部」や「中央部」は、本件発明1に記載された「端部」や「中央部」と同一の部分を指していると解すべきものであり、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載、及び図面をみても、別の部分を指していると解すべき理由がなく、よって、発明の範囲が不明確であるとはいえない。
上記(キ)の主張について
本件発明1には「支持基板に支持された燃料極と、固体電解質層と、空気極と、前記固体電解質層と前記空気極との間に位置する中間層と、を有する素子部を備え」と記載されているのであるから、素子部が支持基板に支持されてなる型のセルであることは明らかである。なお、上記「(3-7)理由7(サポート要件)について」中の「上記(イ)の主張について」でも述べたとおり、令和5年10月13日に本件特許出願人によって提出された意見書でいう「燃料極支持型のセル」とは、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載及び図面からして、燃料極側が支持体により支持された型のセルという意味に解されるところである。
ウ.まとめ
以上のとおりであるから、特許異議申立人の明確性要件についての記載不備の主張はいずれも採用することはできず、本件請求項1ないし9に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。
第4 むすび
以上のとおり、本件請求項1ないし9に係る特許は、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由、及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700565