特許異議申立
2023-701393
樹脂組成物、半導体用配線層積層体及び半導体装置
- 審判番号
- 2023-701393
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-117841
- 登録番号
- 7306542
- 請求日
- 2023年12月27日
- 審決日
- 2025年02月07日
- 公報発行日
- 2025年05月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社レゾナック
- 【権利者代理人】長谷川 芳樹
- 【権利者代理人】清水 義憲
- 【権利者代理人】平野 裕之
- 【権利者代理人】中塚 岳
- 【異議申立人】宮崎 周子
- 審判長/審判官
- 審判長 恩田 春香
- 審判官 松永 稔
- 審判官 中野 浩昌
- 分類
- P1651.536-YAA(C08F) / P1651.357-YAA(C08F) / P1651.113-YAA(C08F) / P1651.121-YAA(C08F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
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特許第7306542号発明「樹脂組成物、半導体用配線層積層体及び半導体装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7306542号の特許請求の範囲を、令和6年9月20日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔2~13〕について訂正することを認める。
特許第7306542号の請求項1~13に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
1 特許第7306542号に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、平成29年9月26日(優先権主張 平成28年9月26日、平成29年1月23日)を国際出願日とする出願(特願2018-540352号)の 一部を、令和3年9月22日に新たな出願(特願2021-154409号)とし、さらにその一部を令和4年7月25日に新たな出願としたものであって、令和5年7月3日にその特許権の設定登録がされ、令和5年7月11日に特許掲載公報が発行された。
2 その後、令和5年12月27日に特許異議申立人宮崎周子(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、令和6年3月6日付けで取消理由を通知した。
それに対し、特許権者は、その指定期間内である令和6年5月8日に意見書を提出し、申立人は、当審の令和6年5月20日付けの審尋に対して、令和6年6月14日に回答書を提出した。
3 その後、当審は、令和6年7月22日付けで取消理由(決定の予告)を通知し、それに対し、特許権者は、その指定期間内である令和6年9月20日に意見書の提出及び訂正の請求を行い、申立人は、当審の令和6年10月4日付けの訂正請求があった旨の通知に対して、令和6年11月6日に意見書を提出した。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和6年9月20日提出の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の請求は、特許第7306542号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項2~13について訂正することを求めるものであって、本件訂正の内容は、次のとおりである。(下線は、訂正請求書の記載のとおり。)
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項2に「前記熱硬化性樹脂が、エポキシ基、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基、イソシアネート基、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、及び無水マレイン酸基からなる群より選ばれる少なくとも一種を有する、請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。」とあるのを、
「前記熱硬化性樹脂が、前記熱硬化性エラストマである前記スチレン系エラストマであり、
前記熱硬化性樹脂が、カルボキシル基を有し、
前記硬化剤が、過酸化物系の硬化剤である、請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。」と訂正する。
(請求項2の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3~13も同様に訂正する。)
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3に「請求項1又は2に記載の熱硬化性樹脂組成物」とあるのを、「請求項2に記載の熱硬化性樹脂組成物」と訂正する。
(請求項3の記載を直接的又は間接的に引用する請求項4~13も同様に訂正する。)
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4に「請求項1~3のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物」とあるのを、「請求項2又は3に記載の熱硬化性樹脂組成物」と訂正する。
(請求項4の記載を直接的又は間接的に引用する請求項5~13も同様に訂正する。)
(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1~5のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物」とあるのを、「請求項2~5のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物」と訂正する。
(請求項6の記載を直接的に引用する請求項7~13も同様に訂正する。)
(5) 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項7に「請求項1~5のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物」とあるのを、「請求項2~5のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物」と訂正する。
(6) 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項8に「請求項1~5のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物」とあるのを、「請求項2~5のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物」と訂正する。
(7) 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項9に「請求項1~5のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物」とあるのを、「請求項2~5のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物」と訂正する。
(8) 訂正事項8
特許請求の範囲の請求項10に「請求項1~5のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物」とあるのを、「請求項2~5のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物」と訂正する。
(9) 訂正事項9
特許請求の範囲の請求項11に「請求項1~5のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物」とあるのを、「請求項2~5のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物」と訂正する。
(10) 訂正事項10
特許請求の範囲の請求項12に「請求項1~5のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物」とあるのを、「請求項2~5のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物」と訂正する。
(11) 訂正事項11
特許請求の範囲の請求項13に「請求項1~5のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物」とあるのを、「請求項2~5のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物」と訂正する。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1に係る訂正は、請求項2に係る発明を特定する事項である「熱硬化性樹脂」について、「前記熱硬化性エラストマである前記スチレン系エラストマであり」との事項を付加し、かつ「エポキシ基、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基、イソシアネート基、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、及び無水マレイン酸基からなる群より選ばれる少なくとも一種を有する」との記載から「カルボキシル基」以外の要素を削除し、さらに、「硬化剤」について「過酸化物系の硬化剤である」の事項を付加するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的としたものといえる。(特許法第120条の5第2項ただし書第1号)
イ 新規事項の有無
以下、本件特許の願書に添付した「明細書」、「特許請求の範囲」、「図面」を、それぞれ「本件明細書」、「訂正前の特許請求の範囲」、「本件図面」といい、併せて「本件明細書等」という。
訂正事項1で付加された「前記熱硬化性樹脂が、前記熱硬化性エラストマである前記スチレン系エラストマであり」との事項は、訂正前の特許請求の範囲の請求項2が引用する請求項1の択一的記載に含まれている事項である。
また、訂正事項1の「前記熱硬化性樹脂が、カルボキシル基を有し」との事項は、訂正前の特許請求の範囲の請求項2の要素を削除したものである。
加えて、訂正事項1で付加された「前記硬化剤が、過酸化物系の硬化剤である」との事項は、下記のとおり本件明細書に記載された事項といえる。(下線は強調のために当審が付加した。)
「【0099】
硬化剤としては、例えば、過酸化物系、イミダゾール類及びその誘導体、有機リン系化合物、第二アミン類、三級アミン類、第四級アンモニウム塩等が挙げられる。硬化剤は、反応性の観点から、好ましくは、過酸化物系、リン系、及びイミダゾール類の少なくともいずれかであり、マレイミド基の自己重合性が良好な観点から、より好ましくは過酸化物系である。」
そうすると、訂正事項1に係る訂正は、本件明細書等に記載した事項であり、 本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものとはいえないから、新規事項を追加するものではない。(特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項)
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記アのとおり、訂正事項1に係る訂正は、「特許請求の範囲の減縮」を目的としたものであり、そのカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものとはいえない。(特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項)
(2) 訂正事項2~11について
訂正事項2~11に係る訂正は、多数項を引用している請求項3、4、6~13において、引用する請求項から請求項1を削除することにより、引用請求項数を削減するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的としたものといえ(特許法第120条の5第2項ただし書第1号)、また、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものとはいえないから、新規事項を追加するものではなく(特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項)、さらに、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものとはいえない(特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項)。
(3) 一群の請求項について
訂正前の請求項2~13について、請求項3~13は請求項2を直接的又は間接的に引用しているものであって、上記訂正事項1によって記載が訂正される請求項2に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項2~13に対応する訂正後の請求項2~13は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
(4) 独立特許要件について
特許異議申立の対象である請求項2~13についての本件訂正に、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定される独立特許要件は課されない。
(5) 小括
以上のとおり、訂正事項1~11に係る訂正は、いずれも「特許請求の範囲の減縮」を目的としたものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5、6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。
第3 本件発明
本件特許の請求項1~13に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明13」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~13に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
熱硬化性樹脂と、硬化剤とを含有し、
銅配線と接する配線層間絶縁層を形成するために用いられる、熱硬化性樹脂組成物であって、
前記熱硬化性樹脂が、スチレン系エラストマ、オレフィン系エラストマ、ウレタン系エラストマ、ポリエステル系エラストマ、ポリアミド系エラストマ、アクリル系エラストマ、及びシリコーン系エラストマからなる群より選ばれる少なくとも一種の熱硬化性エラストマを含み、
前記熱硬化性樹脂組成物の硬化物における塩化物イオンの濃度が5ppm以下である、熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記熱硬化性樹脂が、前記熱硬化性エラストマである前記スチレン系エラストマであり、
前記熱硬化性樹脂が、カルボキシル基を有し、
前記硬化剤が、過酸化物系の硬化剤である、請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記熱硬化性エラストマの含有量が、熱硬化性樹脂組成物の質量を基準として、10質量%~70質量%である、請求項2に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
熱可塑性樹脂を更に含有する、請求項2又は3に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂が、シロキサン鎖を有する樹脂を含む、請求項4に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項2~5のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物で形成された、熱硬化性フィルム。
【請求項7】
請求項2~5のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物の硬化物、又は、請求項6に記載の熱硬化性フィルムの硬化物であって、前記硬化物の破断伸びが5~200%である、硬化物。
【請求項8】
請求項2~5のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物の硬化物、又は、請求項6に記載の熱硬化性フィルムの硬化物であって、前記硬化物の40℃における貯蔵弾性率が10MPa~5GPaである、硬化物。
【請求項9】
請求項2~5のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物の硬化物、又は、請求項6に記載の熱硬化性フィルムの硬化物であって、前記硬化物のガラス転移温度が120~240℃である、硬化物。
【請求項10】
請求項2~5のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物の硬化物、又は、請求項6に記載の熱硬化性フィルムの硬化物であって、前記硬化物の10GHzでの誘電率が3.0以下である、硬化物。
【請求項11】
請求項2~5のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物の硬化物、又は、請求項6に記載の熱硬化性フィルムの硬化物であって、前記硬化物の10GHzでの誘電正接が0.005以下である、硬化物。
【請求項12】
請求項2~5のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物の硬化物、又は、請求項6に記載の熱硬化性フィルムの硬化物であって、前記硬化物の5%重量減少温度が300℃以上である、硬化物。
【請求項13】
請求項2~5のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物の硬化物、又は、請求項6に記載の熱硬化性フィルムの硬化物であって、前記硬化物の、130℃、相対湿度85%の環境に200時間置かれた後の吸湿率が1質量%以下である、硬化物。」
第4 取消理由(決定の予告)
令和6年7月22日付けで当審が通知した取消理由(決定の予告)は次のとおりである。
取消理由1(実施可能要件、サポート要件、明確性) 本件特許は、明細書又は特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号、及び特許法第36条第6項第1、2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
1 実施可能要件について
(1) 熱硬化性エラストマについて
本件明細書の段落0070、0071、0096、0097には、請求項1に記載された「スチレン系エラストマ、オレフィン系エラストマ、ウレタン系エラストマ、ポリエステル系エラストマ、ポリアミド系エラストマ、アクリル系エラストマ、及びシリコーン系エラストマ」(以下「例示されたエラストマ」という。)について、熱可塑性エラストマ、及び熱硬化性エラストマの両方として例示されている。
つまり「例示されたエラストマ」について、「熱硬化性エラストマ」の機能、特性等は、標準的なものでなく、しかも当業者に慣用されているものでもない。
また、本件明細書の段落0189には、実施例1~3で用いられる材料Aについて「熱硬化性エラストマ(旭化成株式会社製、商品名:タフテックM1911)」との記載がある。
しかしながら、申立人が提出した甲第8号証(タフテック(登録商標)のカタログ、旭化成ケミカルズ株式会社発行、2010年4月1日改訂版、ただし「(登録商標)」は丸付きRを表す。)の表紙には、「タフテック(登録商標) Hシリーズ・Pシリーズ・Mシリーズ 水添スチレン・ブタジエン系熱可塑性エラストマー SEBS・SBBS AsahiKASEI」との記載があり、5ページには「M1911」についての基本特性が示されていることから、タフテックM1911は、熱硬化性エラストマではなく、「水添スチレン・ブタジエン系熱可塑性エラストマー」として市販されているものである。
更に、本件明細書において他に熱硬化性エラストマを用いた実施例の記載はない。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明には、「例示されたエラストマ」を、熱可塑性エラストマではなく、熱硬化性エラストマとして含む熱硬化性樹脂組成物について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。
よって、本件明細書の発明の詳細な説明は、請求項1の「前記熱硬化性樹脂が、スチレン系エラストマ、オレフィン系エラストマ、ウレタン系エラストマ、ポリエステル系エラストマ、ポリアミド系エラストマ、アクリル系エラストマ、及びシリコーン系エラストマからなる群より選ばれる少なくとも一種の熱硬化性エラストマを含み、」との発明特定事項について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。
(2) 組成物の特性について
上記(1)のとおり、「旭化成株式会社製、商品名:タフテックM1911」は熱可塑性エラストマとして市販されているものであるから、本件明細書には、少なくとも一種の熱硬化性エラストマを含む熱硬化性樹脂と、硬化剤とを含有する熱硬化性樹脂組成物の実施例が記載されているとはいえない。
そして、成分に応じて組成物の特性が変化することが技術常識であることを踏まえれば、本件明細書の発明の詳細な説明は、請求項1に規定される「硬化物における塩化物イオンの濃度」、請求項7に規定される「硬化物の破断伸び」、請求項8に規定される「硬化物の40℃における貯蔵弾性率」、請求項9に規定される「硬化物のガラス転移温度」、請求項10に規定される「硬化物の10GHzでの誘電率」、請求項11に規定される「硬化物の10GHzでの誘電正接」、請求項12に規定される「硬化物の5%重量減少温度」、請求項13に規定される「硬化物の、130℃、相対湿度85%の環境に200時間置かれた後の吸湿率」についての特性(以下これらの特性を「本件特性」という。)を、当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。
2 サポート要件について
(1) 上記1(1)のとおり、本件明細書には、「前記熱硬化性樹脂が、スチレン系エラストマ、オレフィン系エラストマ、ウレタン系エラストマ、ポリエステル系エラストマ、ポリアミド系エラストマ、アクリル系エラストマ、及びシリコーン系エラストマからなる群より選ばれる少なくとも一種の熱硬化性エラストマを含」む熱硬化性樹脂組成物が記載されていないから、本件発明1~13は、発明の詳細な説明に記載された発明とはいえない。
(2) また、上記1(2)のとおり、本件明細書には、「前記熱硬化性樹脂が、スチレン系エラストマ、オレフィン系エラストマ、ウレタン系エラストマ、ポリエステル系エラストマ、ポリアミド系エラストマ、アクリル系エラストマ、及びシリコーン系エラストマからなる群より選ばれる少なくとも一種の熱硬化性エラストマを含」む熱硬化性樹脂組成物によって本件特性を実現し、「銅配線を形成した場合、銅が有機絶縁層内に拡散することがある。この場合、拡散した銅を介して銅配線同士が短絡するおそれがあり、配線層の絶縁信頼性に課題がある。」(段落0009)等の課題を解決する発明が記載されているとはいえない。
したがって、請求項1~13には、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されておらず、本件発明1~13は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えることとなる。
(3) 以上のとおり、本件発明1~13は、発明の詳細な説明に記載したものでない。
3 明確性について
上記1のとおり、請求項1に記載された「スチレン系エラストマ、オレフィン系エラストマ、ウレタン系エラストマ、ポリエステル系エラストマ、ポリアミド系エラストマ、アクリル系エラストマ、及びシリコーン系エラストマからなる群より選ばれる少なくとも一種の熱硬化性エラストマ」との発明特定事項が、具体的にどのような物質をその技術的範囲としているのか明らかでないから、当該発明特定事項を有する本件発明1~13は、明確でない。
第5 当審の判断
1 本件明細書の記載
本件明細書には、次の記載がある。(下線は強調のために当審において付加した。)
「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ビルドアップ基板、ウェハレベルパッケージ(WLP)、ファンアウト型のPoPのボトムパッケージ等には、複数の半導体チップを搭載するための配線層(半導体用配線層)が用いられることがある。例えば、この配線層内に5μm以下のライン幅とスペース幅とを有する微細な配線が配置される場合、当該配線は、トレンチ法を用いて形成される。トレンチ法とは、有機絶縁層の表面にレーザ等で形成したトレンチ(溝)に配線となる金属層をめっき法等によって形成する方法である。このため、有機絶縁層上に形成される配線の形状は、溝の形状に沿ったものとなる。
【0009】
トレンチ法によって配線層内に微細な配線を形成する際には、低コスト化且つ配線抵抗の上昇抑制を図るために、例えば、高い導電性を有する銅が用いられることがある。銅配線を形成した場合、銅が有機絶縁層内に拡散することがある。この場合、拡散した銅を介して銅配線同士が短絡するおそれがあり、配線層の絶縁信頼性に課題がある。
【0010】
本発明は、良好な絶縁信頼性を有する配線層間絶縁層及び半導体装置、並びに該配線層間絶縁層を好適に形成できる樹脂組成物を提供することを目的とする。
・・・(中略)・・・
【0073】
樹脂組成物は、一実施形態(以下「第2実施形態」ともいう)において、硬化性樹脂及び硬化剤に加えて、熱可塑性樹脂を更に含有する。この場合、硬化性樹脂は、好ましくは熱硬化性樹脂である。すなわち、第2実施形態に係る樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と、熱硬化性樹脂と、硬化剤とを含有する。
・・・(中略)・・・
【0095】
熱硬化性樹脂は、硬化剤と加熱により反応して樹脂組成物を硬化させるものであれば特に限定はされない。熱硬化性樹脂は、分子末端又は分子鎖中に反応性官能基を有していてもよい。反応性官能基としては、例えば、エポキシ基、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基、イソシアネート基、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、無水マレイン酸基等が挙げられる。
【0096】
熱硬化性樹脂は、好ましくは、スチレン系エラストマ、オレフィン系エラストマ、ウレタン系エラストマ、ポリエステル系エラストマ、ポリアミド系エラストマ、アクリル系エラストマ及びシリコーン系エラストマから選ばれる熱硬化性エラストマであることが好ましい。これらの熱硬化性エラストマは、ハードセグメント成分及びソフトセグメント成分からなっている。一般的に、前者が樹脂の耐熱性及び強度に、後者が樹脂の柔軟性及び強靭性に寄与している。熱硬化性エラストマは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。熱硬化性エラストマは、配線層間絶縁層の耐熱性及び絶縁信頼性を更に向上させる観点から、好ましくは、スチレン系エラストマ、オレフィン系エラストマ、ポリアミド系エラストマ、及びシリコーン系エラストマの少なくともいずれかであり、配線層間絶縁層の誘電特性の観点から、より好ましくは、スチレン系エラストマ及びオレフィン系エラストマの少なくともいずれかである。
・・・(中略)・・・
【0189】
<材料A>
まず、シロキサン鎖を有する熱可塑性樹脂の合成をするため、「BMI-3000」(Designer Molecules Inc.社製、商品名)を25gと、2,2-ビス(4-(4-マレイミドフェノキシ)フェニル)プロパン(大和化成工業株式会社製、商品名:BMI-4000)を25gと、トルエン150gとをフラスコに入れ、20分間撹拌した。次いで、シリコーンジアミン(信越化学工業株式会社製、商品名:KF-8010)を16.4g上記フラスコに入れ、オイルバスを用いて130℃に加熱した。還流が始まった時間から3時間撹拌して反応させ、空冷によって室温まで冷却し、固形状のシリコーン鎖を有する熱可塑性樹脂を形成した。次に、トルエンに溶解した熱硬化性エラストマ(旭化成株式会社製、商品名:タフテックM1911)を固形分で50gと、上記シリコーン鎖を有する熱可塑性樹脂を固形分で50gと、硬化剤(日油株式会社製、商品名:パーヘキシン25B)2gとを配合した。この配合物を均一に分散するように30分間撹拌することによって、不揮発分20%に調整された配線層間絶縁層形成用の樹脂組成物のワニスを形成した。得られた樹脂組成物のワニスを、卓上コータを用いて離型処理されたPETフィルム(厚さ38μm、商品名:NR-1)上に塗工した。塗膜の厚みは、アプリケータを使用して、乾燥後に10μmとなるように調整した。次に、樹脂組成物の塗膜を130℃、10分間の加熱により乾燥して、硬化性フィルム(材料A)をPETフィルム上に形成させた。そして、PETフィルムを除去して、硬化性フィルム(材料A)を配線層間絶縁層57を形成するために用いた。実施例1の配線層間絶縁層57(材料Aの硬化物)は、吸湿率が1.0質量%以下、塩化物イオン濃度が3ppm以下、破断伸びが150%、40℃における貯蔵弾性率が60MPaであった。
・・・(中略)・・・
【0206】
【表1】
[図:0001422408000001.jpg]
」
2 当審の判断
(1) 前提
特許権者は、令和6年9月20日に提出した意見書4ページ16~21行において、「ついては、「熱硬化性樹脂」や「熱硬化性エラストマ」は、必ずしもそれ自体単独で加熱により硬化する必要はないし、「硬化剤」とともに用いられれることで加熱により硬化する「熱硬化性樹脂」や「熱硬化性エラストマ」は、「硬化剤」とは別の成分として「熱硬化性樹脂」や「熱硬化性エラストマ」と記載される、という正しい理解のもと、改めて各取消理由の検討を行ったいただきたく、お願い申し上げる。」と主張する。
そして、本件明細書の段落0095には「熱硬化性樹脂は、硬化剤と加熱により反応して樹脂組成物を硬化させるものであれば特に限定はされない。」と、特許権者の上記主張を裏付ける記載がある。
また、本件明細書には、段落0073に「第2実施形態に係る樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と、熱硬化性樹脂と、硬化剤とを含有する。」との記載があり、また、段落0189に、段落0206の表1に実施例1~3で用いた材料Aについての「トルエンに溶解した熱硬化性エラストマ(旭化成株式会社製、商品名:タフテックM1911)を固形分で50gと、上記シリコーン鎖を有する熱可塑性樹脂を固形分で50gと、硬化剤(日油株式会社製、商品名:パーヘキシン25B)2gとを配合した。」との記載がある。
そして、段落0073及び段落0095の記載を踏まえれば、段落0189に記載された材料Aについての「上記シリコーン鎖を有する熱可塑性樹脂」は、段落0073記載の第2実施形態に係る樹脂組成物の「熱可塑性樹脂」に相当することは明らかであり、段落0189に記載された材料Aについての「トルエンに溶解した熱硬化性エラストマ(旭化成株式会社製、商品名:タフテックM1911)」は、硬化剤(日油株式会社製、商品名:パーヘキシン25B)と加熱により反応して樹脂組成物を硬化させる熱硬化性樹脂といえるから、段落0073記載の第2実施形態に係る樹脂組成物の「熱硬化性樹脂」に相当する。
そうすると、本件特許においては、段落0189に記載された材料Aについての「トルエンに溶解した熱硬化性エラストマ(旭化成株式会社製、商品名:タフテックM1911)」は、甲第8号証のとおり「タフテックM1911」が「熱可塑性エラストマ」として市販されているとしても、段落0073記載の第2実施形態に係る樹脂組成物の「熱硬化性樹脂」に相当する「熱硬化性エラストマ」であると理解できる。
したがって、本件明細書に記載された材料Aを用いた実施例1~3は、本件発明1の、熱硬化性樹脂を含有し、前記熱硬化性樹脂が熱硬化性エラストマを含むとの発明特定事項についての実施例といえる。
(2) 取消理由(決定の予告)
ア 実施可能要件について
(ア) 上記(1)のとおり、本件明細書の段落0189には、実施例1~3で用いる材料Aの製造方法が記載され、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1の「前記熱硬化性樹脂が、スチレン系エラストマ、オレフィン系エラストマ、ウレタン系エラストマ、ポリエステル系エラストマ、ポリアミド系エラストマ、アクリル系エラストマ、及びシリコーン系エラストマからなる群より選ばれる少なくとも一種の熱硬化性エラストマを含み」との発明特定事項について、当業者がその実施(物の発明について、その物を作れ、かつ、その物を使用できること)をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものといえるから、実施可能要件(上記第4の1(1))についての取消理由(決定の予告)は解消した。
(イ) 本件明細書の段落0189には、請求項1に規定される「硬化物における塩化物イオンの濃度」、請求項7に規定される「硬化物の破断伸び」、請求項8に規定される「硬化物の40℃における貯蔵弾性率」、請求項13に規定される「硬化物の、130℃、相対湿度85%の環境に200時間置かれた後の吸湿率」についての記載がある。
また、請求項9に規定される「硬化物のガラス転移温度」、請求項10に規定される「硬化物の10GHzでの誘電率」、請求項11に規定される「硬化物の10GHzでの誘電正接」、請求項12に規定される「硬化物の5%重量減少温度」については、樹脂組成物が属する技術分野において、当業者が適宜調整可能な特性といえる。
したがって、実施可能要件(上記第4の1(2))についての取消理由(決定の予告)は解消した。
イ サポート要件について
(ア) 上記(1)のとおり、本件明細書に記載された材料Aを用いた実施例1~3は、本件発明1の、熱硬化性樹脂を含有し、前記熱硬化性樹脂が熱硬化性エラストマを含むとの発明特定事項についての実施例といえるから、サポート要件(上記第4の2(1))についての取消理由(決定の予告)は解消した。
(イ) 発明の詳細な説明の段落0009には、「銅配線を形成した場合、銅が有機絶縁層内に拡散することがある。この場合、拡散した銅を介して銅配線同士が短絡するおそれがあり、配線層の絶縁信頼性に課題がある。」との発明の課題が記載されている。
そして、上記(ア)に加えて、本件発明1~13は、「前記熱硬化性樹脂組成物の硬化物における塩化物イオンの濃度が5ppm以下」とすることによって、上記発明の課題を解決し得ると当業者が認識できるから、サポート要件(上記第4の2(2))についての取消理由(決定の予告)は解消した。
ウ 明確性について
上記(1)によると、請求項1に記載された「スチレン系エラストマ、オレフィン系エラストマ、ウレタン系エラストマ、ポリエステル系エラストマ、ポリアミド系エラストマ、アクリル系エラストマ、及びシリコーン系エラストマからなる群より選ばれる少なくとも一種の熱硬化性エラストマ」は、硬化剤と加熱により反応して硬化させるスチレン系等の例示されたエラストマからなる群より選ばれる少なくとも一種のエラストマであって、「熱可塑性エラストマ」として市販されている「タフテックM1911」も含むもの
であるから、明確性(上記第4の3)についての、取消理由(決定の予告)は解消した。
3 申立人の主張
申立人は、令和6年11月6日提出の意見書(4ページ19~25行)において次の主張をした。
「タフテックM1911が「熱可塑性エラストマ」として市販されていることは紛れもない事実である。
そうである以上、一般常識では、タフテックM1911は熱可塑性エラストマである。仮に使用条件によっては熱硬化性が得られる場合があるとしても、熱可塑性エラストマしての認識が普通であるから、明細書にその使用条件等の説明が無ければ、理解のしようがない。これに関する特許権者の主張は明らかに無理がある。」
しかしながら、上記2(1)のとおり、本件明細書に記載された、材料Aを用いた実施例1~3は、本件発明1の、熱硬化性樹脂を含有し、前記熱硬化性樹脂が熱硬化性エラストマを含むとの発明特定事項についての実施例といえるから、申立人の主張は採用できない。
4 取消理由として採用しなかった申立ての理由について
(1) 申立理由
特許異議申立書に記載された申立ての理由は次のとおりである。
ア サポート要件(申立書33ページ4~最下行)
イ 甲第1号証~甲第5号証をそれぞれ主引用例とする新規性・進歩性欠如ウ 証拠方法
甲第1号証 : 特開2009-256630号公報
甲第2号証 : 特許第5532258号公報
甲第3号証 : 特開2002-31889号公報
甲第4号証 : 特開2006-169351号公報
甲第5号証 : 特開2007-191681号公報
甲第6号証 : 特開2014-24926号公報
甲第7号証 : プラスチック・機能性高分子材料事典、2004年2月20発行、p.402-405、写し
甲第8号証 : タフテック(登録商標)のカタログ、旭化成ケミカルズ株式会社発行、2010年4月1日改訂版、写し
甲第9号証 : 有機過酸化物のカタログ(第10版)、日油株式会社発行、2007年10月作成、写し
甲第10号証: 大和真樹著、光重合開始剤の現状と課題、日本印刷学会発行、第40巻第3号、2003年作成、写し
(2) 当審の判断
ア サポート要件
(ア) 特許異議申立書33ページ5行~最下行において、申立人は次の主張をした。
「(ア-3-2-1)
本件特許発明1の構成と実施例とに関して、本件特許発明1及びこれを引用する本件特許発明2~13は開示内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
すなわち、本件特許公報の実施例1~6の説明によれば、これら実施例1~6のうち、熱硬化性樹脂を含むものは実施例1~3のみである(実施例4~6は含まない)。熱硬化性エラストマとして挙げられているものも特定のもののみである。特定の熱硬化性エラストマ以外の組成物についての実施例は無い。そして、実施例で示されているもの以外の組成物においても、上述した本件特許発明の解決課題や作用効果が得られることを推認できるほどの説明は無い。
従って、本件特許発明1~13は、開示内容を拡張ないし一般化できる範囲を超えたものであり、サポート要件に違反している。
(ア-3-2-2)
本件特許発明10~12は、開示内容を拡張ないし一般化できるとはいえない(サポート要件不備)。
すなわち、上述したように、本件特許公報の表2に記載されている実施例7~13は、感光性樹脂による実施例であり、本件特許発明1の熱硬化性樹脂の実施例ではない(段落0215,0216)。それに対し、本件特許発明10、11の各構成J、Kは、実施例7~13でのみ評価されている。本件特許発明12の構成Lは実施例すらない。
そうである以上、熱硬化性樹脂を前提とする本件特許発明10~12は、開示内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。」
(イ) しかしながら、上記2(1)のとおり、本件明細書に記載された材料Aを用いた実施例1~3は、本件発明1の、熱硬化性樹脂を含有し、前記熱硬化性樹脂が熱硬化性エラストマを含むとの発明特定事項についての実施例といえ、かつ、上記2(2)イ(イ)のとおり、本件発明1~13は、「前記熱硬化性樹脂組成物の硬化物における塩化物イオンの濃度が5ppm以下」とすることによって、上記発明の課題を解決し得ると当業者が認識でき、本件発明1~13はサポート要件を満たすから、サポート要件についての申立理由は、理由がない。
イ 甲第1号証を主引用例とする新規性・進歩性欠如
甲第1号証(特開2009-256630号公報)の段落0006の記載によると、甲第1号証には「基板又は半導体チップの凹凸を完全に埋込み、かつ作業性も良好であり、ワイヤ埋込型フィルムにおいて重要となる接続信頼性を満足する接着シート」に係る発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
ここで、本件発明1と甲1発明とを対比すると、両者は、少なくとも、本件発明1が「銅配線と接する配線層間絶縁層を形成するために用いられる、熱硬化性樹脂組成物」であるのに対して、甲1発明が「基板又は半導体チップの凹凸を完全に埋込み、かつ作業性も良好であり、ワイヤ埋込型フィルムにおいて重要となる接続信頼性を満足する接着シート」である点で相違する。
そして、甲1発明を「銅配線と接する配線層間絶縁層を形成するために用いられる、熱硬化性樹脂組成物」とすることは、甲第1号証~甲第10号証のいずれにも、記載も示唆もされていないから、本件発明1は、甲1発明ではなく、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
本件発明1を全て含む本件発明2~本件発明13も同様に、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 甲第2号証を主引用例とする新規性・進歩性欠如
甲第2号証(特許第5532258号公報)の段落0001の記載によると、甲第2号証には、「リードフレーム又は回路基板と、前記リードフレーム又は前記回路基板に搭載された半導体素子と、前記リードフレーム又は前記回路基板に設けられた電気的接合部と前記半導体素子に設けられた電極パッドとを電気的に接続する銅ワイヤとを封止する封止材」に係る発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているといえる。
ここで、本件発明1と甲2発明とを対比すると、両者は、少なくとも、本件発明1が「銅配線と接する配線層間絶縁層を形成するために用いられる、熱硬化性樹脂組成物」であるのに対して、甲2発明が「リードフレーム又は回路基板と、前記リードフレーム又は前記回路基板に搭載された半導体素子と、前記リードフレーム又は前記回路基板に設けられた電気的接合部と前記半導体素子に設けられた電極パッドとを電気的に接続する銅ワイヤとを封止する封止材」である点で相違する。
そして、甲2発明を「銅配線と接する配線層間絶縁層を形成するために用いられる、熱硬化性樹脂組成物」とすることは、甲第1号証~甲第10号証のいずれにも、記載も示唆もされていないから、本件発明1は、甲2発明ではなく、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
本件発明1を全て含む本件発明2~本件発明13も同様に、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 甲第3号証を主引用例とする新規性・進歩性欠如
甲第3号証(特開2002-31889号公報)の段落0001の記載によると、甲第3号証には、「耐熱性・耐湿性に優れた感光性ソルダーレジスト層」に係る発明(以下「甲3発明」という。)が記載されているといえる。
ここで、本件発明1と甲3発明とを対比すると、両者は、少なくとも、本件発明1が「銅配線と接する配線層間絶縁層を形成するために用いられる、熱硬化性樹脂組成物」であるのに対して、甲3発明が「耐熱性・耐湿性に優れた感光性ソルダーレジスト層」である点で相違する。
そして、甲3発明を「銅配線と接する配線層間絶縁層を形成するために用いられる、熱硬化性樹脂組成物」とすることは、甲第1号証~甲第10号証のいずれにも、記載も示唆もされていないから、本件発明1は、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
本件発明1を全て含む本件発明2~本件発明13も同様に、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
オ 甲第4号証を主引用例とする新規性・進歩性欠如
甲第4号証(特開2006-169351号公報)の段落0005の記載によると、甲第4号証には、「高温高湿条件下でのファインピッチ配線の絶縁信頼性を維持し、保護膜端部へのメッキ成分の浸透が無くかつ配線へメッキ層が拡散して無くなることなく、フレキシブル配線板用保護膜として必要な低反り性、柔軟性、封止材との密着性、耐溶剤性及び耐薬品性、耐熱性、電気特性、作業性及び経済性に優れる熱硬化性樹脂ペースト」に係る発明(以下「甲4発明」という。)が記載されているといえる。
ここで、本件発明1と甲4発明とを対比すると、両者は、少なくとも、本件発明1が「銅配線と接する配線層間絶縁層を形成するために用いられる、熱硬化性樹脂組成物」であるのに対して、甲4発明が「高温高湿条件下でのファインピッチ配線の絶縁信頼性を維持し、保護膜端部へのメッキ成分の浸透が無くかつ配線へメッキ層が拡散して無くなることなく、フレキシブル配線板用保護膜として必要な低反り性、柔軟性、封止材との密着性、耐溶剤性及び耐薬品性、耐熱性、電気特性、作業性及び経済性に優れる熱硬化性樹脂ペースト」である点で相違する。
そして、甲4発明を「銅配線と接する配線層間絶縁層を形成するために用いられる、熱硬化性樹脂組成物」とすることは、甲第1号証~甲第10号証のいずれにも、記載も示唆もされていないから、本件発明1は、甲4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
本件発明1を全て含む本件発明2~本件発明13も同様に、甲4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
カ 甲第5号証を主引用例とする新規性・進歩性欠如
甲第5号証(特開2007-191681号公報)の段落0004の記載によると、甲第5号証には、「低誘電率、低誘電正接で、耐熱性に優れた硬化物を与え、ワニスの保存安定性が良好な硬化性樹脂組成物」に係る発明(以下「甲5発明」という。)が記載されているといえる。
ここで、本件発明1と甲5発明とを対比すると、両者は、少なくとも、本件発明1が「銅配線と接する配線層間絶縁層を形成するために用いられる、熱硬化性樹脂組成物」であるのに対して、甲5発明が「低誘電率、低誘電正接で、耐熱性に優れた硬化物を与え、ワニスの保存安定性が良好な硬化性樹脂組成物」である点で相違する。
そして、甲5発明を「銅配線と接する配線層間絶縁層を形成するために用いられる、熱硬化性樹脂組成物」とすることは、甲第1号証~甲第10号証のいずれにも、記載も示唆もされていないから、本件発明1は、甲5発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
本件発明1を全て含む本件発明2~本件発明13も同様に、甲5発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由、並びに、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~13に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2023-701393