特許異議申立
2023-701364
電力変換装置及び冷凍装置
- 審判番号
- 2023-701364
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-162109
- 登録番号
- 7315862
- 請求日
- 2023年12月25日
- 審決日
- 2024年03月29日
- 公報発行日
- 2024年04月26日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】ダイキン工業株式会社
- 【権利者代理人】古部 次郎
- 【権利者代理人】岸 真太郎
- 【権利者代理人】久保 洋之
- 【異議申立人】角田 朗
- 審判長/審判官
- 審判長 須田 勝巳
- 審判官 山崎 慎一
- 審判官 脇岡 剛
- 分類
- P1651.113-Y (H02M) / P1651.121-Y (H02M) / P1651.537-Y (H02M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第36条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7315862号発明「電力変換装置及び冷凍装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7315862号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7315862号の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、令和3年9月30日に出願され、令和5年7月19日にその特許権の設定登録がされ、令和5年7月27日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和5年12月25日に特許異議申立人角田朗(以下、「申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。
第2 本件特許発明
特許第7315862号の請求項1ないし3の特許に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明3」といい、これらをまとめて「本件特許発明」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。(なお、各構成要件の前に付した、「1A」~「3A」の記号は、各構成要件を区別するために当審で付したものであり、それぞれ「構成要件1A」~「構成要件3A」などという。)
「【請求項1】
1A スイッチング素子を用いた電力変換器と、
1B 前記電力変換器の動作に応じて電力ラインに発生するコモンモードノイズ電流又はコモンモードノイズ電圧を検出するノイズ検出手段と、当該ノイズ検出手段による検出信号に基づき補償電流を生成する増幅器と、当該増幅器が生成した補償電流を当該電力ラインに出力する出力回路とを有するノイズ低減回路とを備え、
1C 前記電力変換器を搭載した電力変換基板と、前記増幅器を搭載したキャンセラ基板とは、異なる基板であり、
1D 前記ノイズ低減回路と前記電力変換器との間にノイズフィルタを備え、
1E 前記電力変換基板と前記キャンセラ基板とを収容し、アース線が接続されるアース端子と、当該アース端子と同電位となる導電部とを有する筐体を備え、
1F 前記ノイズ低減回路からの補償電流の経路が前記導電部に接続される端子である補償経路接続端子と、前記ノイズフィルタのアース端子とが、別々に前記筐体の前記導電部に接続されており、
1G 前記補償経路接続端子が接続される前記筐体側の端子は、前記筐体のアース端子に、前記ノイズフィルタのアース端子が接続される前記筐体側の端子よりも近い、電力変換装置。
【請求項2】
2A スイッチング素子を用いた電力変換器と、
2B 前記電力変換器の動作に応じて電力ラインに発生するコモンモードノイズ電流又はコモンモードノイズ電圧を検出するノイズ検出手段と、当該ノイズ検出手段による検出信号に基づき補償電流を生成する増幅器と、当該増幅器が生成した補償電流を当該電力ラインに出力する出力回路とを有するノイズ低減回路とを備え、
2C 前記電力変換器を搭載した電力変換基板と、前記増幅器を搭載したキャンセラ基板とは、異なる基板であり、
2D 前記ノイズ低減回路と前記電力変換器との間にノイズフィルタを備え、
2E 前記ノイズ低減回路の電源が他の基板から前記キャンセラ基板に供給され、当該電源の供給経路にノイズ低減素子が設けられている、電力変換装置。
【請求項3】
3A 請求項1又は請求項2に記載の電力変換装置を備える、冷凍装置。」
第3 申立理由の概要
1 異議申立理由1(甲第1号証に基づく新規性欠如)について
本件特許発明1は、甲第1号証(特開2010-259247号公報)に記載された発明である。
したがって、本件特許発明1に係る特許は、特許法29条1項3号の規定に違反してされたものであるから、同法113条2号の規定により取り消されるべきものである。
2 異議申立理由2-1(甲第1号証に基づく進歩性欠如)について
本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものである。
したがって、本件特許発明1に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであるから、同法113条2号の規定により取り消されるべきものである。
3 異議申立理由2-2(甲第1号証及び甲第2号証に基づく進歩性欠如)について
本件特許発明2及び3は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証(国際公開第2021/048892号)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものである。
したがって、本件特許発明2及び3に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであるから、同法113条2号の規定により取り消されるべきものである。
4 異議申立理由3(明確性要件違反)について
本件特許の請求項2及び3の記載は明確でなく、本件特許の請求項2及び3に係る特許は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法113条4号に該当し、取り消されるべきものである。
第4 文献の記載
申立人が異議申立書(以下、「申立書」という。)において、証拠として提示する、甲第1号証及び甲第2号証には、以下の1及び2に示す事項の記載が認められる。
1 甲第1号証(特開2010-259247号公報)
(1)甲第1号証に記載された事項
甲第1号証には、次の事項が記載されている。(下線は当審で付加。以下同様。)
ア 「【0001】
本発明は、電力変換機器に設けるフィルタ装置に関し、特に、スイッチングに起因するコモンモード電流及びEMIノイズが交流系統に流れ出る量を低減するための能動フィルタ装置及び能動フィルタ装置を入力側に設けた電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電力用半導体素子の特性向上に伴い、スイッチング周波数の高周波化を実現できるようになってきた。無停電電源装置や通信用電源装置に代表される電力変換装置は、高速応答や低騒音への要求、フィルタの小型化要求などからPWM制御を用いた高周波スイッチング方式が広く用いられる。
【0003】
スイッチング周波数の高周波化が進むに連れて、直流リンク部やケーブルを介して、大地に流れる高周波漏れ電流が大きくなってきている。この高周波漏れ電流は、交流系統に流れ込みノイズとなって、交流系統に接続された他の装置に対して悪影響を与え社会的な問題となってきている。例えば、無停電電源装置において特に直流側に大容量の蓄電池をフローティングで接続する場合、この蓄電池及び長くなった直流ケーブルから大地に対して大きな高周波漏れ電流が流れる傾向にあり、この高周波漏れ電流が交流系統に接続された他の交流機器に悪影響を及ぼす。
…
【0005】
図5において、三相交流電源1と、電力変換装置3と、負荷5と、三相交流電源1及び電力変換装置3間に設けられた能動フィルタ装置7が備えられている。
【0006】
電流検出器である電流トランス20は、1ターンの電源線1a~1cと、Nターンの検出線20aが巻回され、検出線20aによって電力変換装置3が発生するコモンモード電流ioを検出比1/N(N>1)で検出して検出電流io/Nとして出力する。コンデンサC2はコンデンサC1の(N-1)倍のアドミタンスを有する。
【0007】
トランジスタ11a、11bからなる増幅器11の入力(ベース)と出力(エミッタ)間には検出線20aが接続され、コンデンサC1には検出電流と同等の電流io/Nが流れる。また、コンデンサC2にはコンデンサC1に流れる電流io/Nの(N-1)倍の電流(N-1)io/Nが流れる。すなわち、グランドE1には検出電流io/NのN倍の電流ioが流れる。
【0008】
検出電流は電力変換装置3のコモンモード電流ioの1/N倍であるので、増幅器11に流れる電流は、コモンモード電流ioと等しくなり、交流系統に流出するコモンモード電流を打ち消すことができる。これにより、交流系統に流出するコモンモード電流を低減することができる。
【0009】
しかし、図5に示す電力変換装置3では、大きな補償電流を流す場合、コンデンサC1、C2の端子電圧が高くなることがある。この端子電圧が増幅器11の電源電圧を超えると、増幅器11が飽和し、コモンモード電流の低減効果が得られなくなる。この問題を解決するために、最大補償電流に基づき増幅器11の電源電圧を設計している。
…
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、図6、図7に示す構成にあっては、増幅器11を構成するトランジスタ11a、11bに対して常に、直流電源Vc(コンデンサC5の端子電圧)のほぼ半分の電圧が印加され、トランジスタ11a、11bの発熱が大きくなる欠点があった。また、トランジスタ11a、11bの損失は、増幅器11の電源電圧(及び補償電流)に比例する。コモンモード電流を補償(打ち消す)するための補償電流が小さいときでも、大きな増幅器損失が発生し、システム全体の効率が悪くなる。
【0013】
本発明は、補償電流が小さいときに増幅器の損失を低減することができる能動フィルタ装置及び電力変換装置を提供することにある。
…
【0020】
図1は実施例1の能動フィルタ装置及び電力変換装置の構成図である。図1において、三相交流電源1と、電力変換装置3と、負荷5と、三相交流電源1及び電力変換装置3間に設けられた能動フィルタ装置7-1が備えられている。
【0021】
三相交流電源1には、R相用の電源線1aとS相用の電源線1bとT相用の電源線1cとが接続され、S相用の電源線1bは接地相の電源線であり、接地されている。電力変換装置3の筐体(フレーム)3aは、接地端子Eに接続されて接地されている。電力変換装置3と筐体3aとの間には、いたるところに対地間容量を有するが、これ等をまとめて、電力変換装置3のコンデンサC0の負極と接地端子Eとの間の対地間容量4で示すことにする。
【0022】
R相用、S相用、T相用電源線1a~1cは、能動フィルタ装置7-1の端子R1、S1、T1のそれぞれに接続されている。能動フィルタ装置7-1は、電流トランス10(電流検出手段)と、NPNトランジスタ11aとPNPトランジスタ11bからなる増幅器11と、低周波分離コンデンサC1(第1コンデンサ)と、ダイオードD7、コンデンサC5、非絶縁の可変直流電源30、ダイオードD8、コンデンサC3、抵抗R1、R2を有している。
…
【0024】
電流トランス10は、トロイダルコアに主電源線であるR相用、S相用、T相用電源線1a~1cがそれぞれ1T(ターン)巻回される(貫通される)とともに、検出線10aが1T巻回されている。
…
【0028】
抵抗R1と抵抗R2との接続点は、可変直流電源30の出力調整端子に接続されている。ダイオードD8、コンデンサC3、抵抗R1、R2からなる電圧検出手段は、抵抗R1と抵抗R2との接続点の電圧を増幅器11の出力振幅として検出し、検出された出力振幅検出信号に応じて可変直流電源30の直流出力電圧Vrを可変させる。
【0029】
また、電流トランス10を挿通した電源線1a、1b、1cには、それぞれ対応してチョークコイルL1、L2、L3が直列に接続されている。電力変換装置3は、チョークコイルL1、L2、L3と、6個のダイオードD1~D6と、6個のIGBTからなるスイッチング素子Q1~Q6と、コンデンサC0とを有する。スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2との直列回路の両端と、スイッチング素子Q3とスイッチング素子Q4との直列回路の両端と、スイッチング素子Q5とスイッチング素子Q6との直列回路の両端とは、コンデンサC0の両端及び負荷5に接続されている。
…
【0033】
増幅器11は、検出線10aに流れるi0を増幅度1で増幅して、低周波分離コンデンサC1を介してグランドE1に流す。このとき、トランジスタ11a、11bのエミッタの出力をダイオードD8及びコンデンサC3で整流平滑し、抵抗R1と抵抗R2との接続点の電圧を増幅器11の出力振幅として検出し、検出された出力振幅検出信号に応じて可変直流電源30の直流出力電圧Vrを可変させる。従って、コモンモード電流を打ち消すための補償電流が小さいときには、増幅器11の電源電圧が小さくなり、増幅器11の損失を低減することができる。
…
【0050】
本発明は、無停電電源装置や通信用電源装置に代表される電力変換装置に利用可能である。」
イ 「図1
[図:0001409183000001.jpg]
」
(2)甲1発明
上記(1)の記載事項(特に下線部)から、甲第1号証には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
「スイッチングに起因するコモンモード電流及びEMIノイズが交流系統に流れ出る量を低減するための能動フィルタ装置を入力側に設けた電力変換装置であって(【0001】)、
スイッチング周波数の高周波化が進むに連れて、直流リンク部やケーブルを介して、大地に流れる高周波漏れ電流が大きくなり、この高周波漏れ電流が、交流系統に流れ込みノイズとなって、交流系統に接続された他の装置に対して悪影響を与えることを背景とし(【0003】)、三相交流電源と、電力変換装置と、負荷と、三相交流電源及び電力変換装置間に設けられた能動フィルタ装置が備えられ(【0005】)、電流検出器である電流トランスによって電力変換装置が発生するコモンモード電流ioを検出比1/N(N>1)で検出して(【0006】)、増幅器に流れる電流によって交流系統に流出するコモンモード電流を打ち消すことにより、交流系統に流出するコモンモード電流を低減することができ(【0008】)、大きな補償電流を流す場合、増幅器が飽和し、コモンモード電流の低減効果が得られなくなる問題を解決するために、最大補償電流に基づき増幅器の電源電圧を設計するところ(【0009】)、増幅器を構成するトランジスタに対して常に、直流電源のほぼ半分の電圧が印加され、トランジスタの発熱が大きくなる欠点があることを課題とし(【0012】)、
能動フィルタ装置7-1は、三相交流電源1及び電力変換装置3間に設けられ(【0020】、図1)、
S相用の電源線1bは接地相の電源線であり、接地されていて、電力変換装置3の筐体(フレーム)3aは、接地端子Eに接続されて接地され、電力変換装置3と筐体3aとの間の、いたるところに有する対地間容量をまとめた、電力変換装置3のコンデンサC0の負極と接地端子Eとの間の対地間容量4を有し(【0021】)、
R相用、S相用、T相用電源線1a~1cは、能動フィルタ装置7-1の端子R1、S1、T1のそれぞれに接続され、能動フィルタ装置7-1は、電流トランス10(電流検出手段)と、NPNトランジスタ11aとPNPトランジスタ11bからなる増幅器11と、低周波分離コンデンサC1(第1コンデンサ)と、ダイオードD7、コンデンサC5、非絶縁の可変直流電源30、ダイオードD8、コンデンサC3、抵抗R1、R2を有し(【0022】)、
電流トランス10は、トロイダルコアに主電源線であるR相用、S相用、T相用電源線1a~1cがそれぞれ1T(ターン)巻回される(貫通される)とともに、検出線10aが1T巻回されており(【0024】)、
抵抗R1と抵抗R2との接続点は、可変直流電源30の出力調整端子に接続され、ダイオードD8、コンデンサC3、抵抗R1、R2からなる電圧検出手段は、抵抗R1と抵抗R2との接続点の電圧を増幅器11の出力振幅として検出し、検出された出力振幅検出信号に応じて可変直流電源30の直流出力電圧Vrを可変させ(【0028】)、
電流トランス10を挿通した電源線1a、1b、1cには、それぞれ対応してチョークコイルL1、L2、L3が直列に接続され、電力変換装置3は、チョークコイルL1、L2、L3と、6個のダイオードD1~D6と、6個のIGBTからなるスイッチング素子Q1~Q6と、コンデンサC0とを有し(【0029】)、
増幅器11は、検出線10aに流れるi0を増幅度1で増幅して、低周波分離コンデンサC1を介してグランドE1に流し、このとき、トランジスタ11a、11bのエミッタの出力をダイオードD8及びコンデンサC3で整流平滑し、抵抗R1と抵抗R2との接続点の電圧を増幅器11の出力振幅として検出し、検出された出力振幅検出信号に応じて可変直流電源30の直流出力電圧Vrを可変させ、コモンモード電流を打ち消すための補償電流が小さいときには、増幅器11の電源電圧が小さくなり、増幅器11の損失を低減することができ(【0033】)、
無停電電源装置や通信用電源装置に代表される電力変換装置に利用可能である(【0050】)
電力変換装置3。」
2 甲第2号証(国際公開第2021/048892号)
(1)甲第2号証に記載された事項
甲第2号証には、次の事項が記載されている。
ア 「[0009]≪第1実施形態≫
<電気回路体の構成>
図1は、第1実施形態に係る電気回路体100の構成図である。
なお、図1に示す破線矢印は、後記するコモンモードノイズの経路を示している。
図1に示す電気回路体100は、所定の電力変換を行い、また、この電力変換に伴うノイズを抑制するものである。図1に示すように、電気回路体100は、ノイズフィルタ基板10と、インバータ基板20(電力変換基板)と、第1リングコア30と、第2リングコア40と、を備えている。」
イ 「[0051]≪第3実施形態≫
第3実施形態は、圧縮機1(図4参照)の駆動源として、第1実施形態の電気回路体100(図1参照)が接続されたモータM(図1、図4参照)を備える空気調和機W(図4参照)について説明する。なお、交流電源E(図1参照)からモータM(図1参照)までの回路構成は、第1実施形態の電気回路体100(図1参照)と同様である。したがって、第1実施形態とは異なる部分について説明し、重複する部分については説明を省略する。
…
[0071] また、第3実施形態で説明した空気調和機W(冷凍サイクル装置)は、ビル用マルチエアコンやパッケージエアコンの他、ルームエアコンといった様々な種類のエアコンに適用できる。また、空調給湯装置や冷蔵庫といった「冷凍サイクル装置」にも、各実施形態を適用できる。」
ウ 「図1
[図:0001409183000002.jpg]
」
第5 当審の判断
1 異議申立理由1(甲第1号証に基づく新規性欠如)について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)構成要件1Aについて
甲1発明の「電力変換装置3」は、「6個のIGBTからなるスイッチング素子Q1~Q6」を「有」するものであるところ、当該「スイッチング素子Q1~Q6」は、構成要件1Aの「スイッチング素子」に相当する。
そして、甲1発明の「電力変換装置3」は、当該「スイッチング素子Q1~Q6」を“用いた電力変換器”であるといい得るから、甲1発明は、構成要件1Aの「スイッチング素子を用いた電力変換器」との構成を備える。
(イ)構成要件1Bについて
a 「前記電力変換器の動作に応じて電力ラインに発生するコモンモードノイズ電流又はコモンモードノイズ電圧を検出するノイズ検出手段」について
甲1発明は、「高周波漏れ電流が、交流系統に流れ込みノイズとなって、交流系統に接続された他の装置に対して悪影響を与えることを背景」とし、「スイッチングに起因するコモンモード電流及びEMIノイズが交流系統に流れ出る量を低減するための能動フィルタ装置を入力側に設けた電力変換装置」であるところ、当該「交流系統」に係る電源線、すなわち「R相用、S相用、T相用電源線1a~1c」は、構成要件1Bの「電力ライン」に相当する。
そして、上記(ア)の認定を踏まえると、「スイッチングに起因するコモンモード電流」は、構成要件1Bの「前記電力変換器の動作に応じて電力ラインに発生するコモンモードノイズ電流」に相当する。
また、甲1発明の「電流トランス10」は、「トロイダルコアに主電源線であるR相用、S相用、T相用電源線1a~1cがそれぞれ1T(ターン)巻回される(貫通される)とともに、検出線10aが1T巻回され」ていて、「電流検出手段」として機能するものであるところ、構成要件1Bの「電力ラインに発生するコモンモードノイズ電流又はコモンモードノイズ電圧を検出するノイズ検出手段」とは、“前記電力変換器の動作に応じて電力ラインに発生するコモンモードノイズ電流を検出する”限りにおいて一致するといえる。
そして、構成要件1Bの「ノイズ検出手段」は、「コモンモードノイズ電流」又は「コモンモードノイズ電圧」のいずれかを検出するものと認められるところ、甲1発明は、構成要件1Bの「前記電力変換器の動作に応じて電力ラインに発生するコモンモードノイズ電流又はコモンモードノイズ電圧を検出するノイズ検出手段」を備える点で一致する。
b 「当該ノイズ検出手段による検出信号に基づき補償電流を生成する増幅器」について
甲1発明の「増幅器11」は、「検出線10aに流れるi0を増幅度1で増幅して、低周波分離コンデンサC1を介してグランドE1に流」すものであるところ、当該「グランドE1に流」れる電流(「i0」)は、構成要件1Bの「補償電流」に相当する。
そして、甲1発明の「増幅器11」は、上記aの認定を踏まえると、「電流トランス10」の「検出線10a」に流れる当該補償電流(「i0」)を“生成する”ものといえるから、構成要件1Bの「当該ノイズ検出手段による検出信号に基づき補償電流を生成する増幅器」に相当する。
c 「当該増幅器が生成した補償電流を当該電力ラインに出力する出力回路」について
甲1発明の「増幅器11」は、「検出線10aに流れるi0を増幅度1で増幅して、低周波分離コンデンサC1を介してグランドE1に流」すものであるところ、上記bの認定を踏まえると、当該「低周波分離コンデンサC1」は、“補償電流を出力する回路”といい得る。
一方、甲1発明の「増幅器11」の生成する補償電流(「i0」)は、「グランドE1に流」すものであることから、構成要件1Bの「当該増幅器が生成した補償電流を当該電力ラインに出力する出力回路」とは、下記の点(相違点1-1)を除き、“当該増幅器が生成した補償電流を出力する出力回路”である限りにおいて一致するといえる。
d 「ノイズ低減回路」について
甲1発明の「能動フィルタ装置7-1」は、「三相交流電源1及び電力変換装置3間に設けられ」るものであって、「電流トランス10(電流検出手段)と、NPNトランジスタ11aとPNPトランジスタ11bからなる増幅器11と、低周波分離コンデンサC1(第1コンデンサ)と」を有するものであり、上記a~cの構成は、当該「能動フィルタ装置7-1」が備えるものであるから、構成要件1Bの「ノイズ低減回路」に相当する。
e まとめ
以上のa~dをまとめると、本件特許発明1と甲1発明とは、下記の点(相違点1-1)で相違するものの、構成要件1Bに関し、“前記電力変換器の動作に応じて電力ラインに発生するコモンモードノイズ電流を検出するノイズ検出手段と、当該ノイズ検出手段による検出信号に基づき補償電流を生成する増幅器と、当該増幅器が生成した補償電流を出力する出力回路とを有するノイズ低減回路とを備え”る点で一致する。
(ウ)構成要件1Cについて
上記(イ)dの認定から、「能動フィルタ装置7-1」は、本件特許発明1の「ノイズ低減回路」に相当するものであり、これは、「増幅器に流れる電流によって交流系統に流出するコモンモード電流を打ち消すことにより、交流系統に流出するコモンモード電流を低減することができ」るようにするための回路といえるから、コモンモードノイズなどのノイズをキャンセルする回路であるといえる。また、当該回路が所定の“基板”上に搭載されることは自明であって、当該基板を“ノイズキャンセラ基板”と称することは任意である。
甲1発明の「電力変換装置3の筐体(フレーム)3a」は、「電力変換装置3と筐体3aとの間の、いたるところに有する対地間容量をまとめた、電力変換装置3のコンデンサC0の負極と接地端子Eとの間の対地間容量4を有」するものであるところ、当該「電力変換装置3」が、当該「筐体3a」に含まれることは、図1を参照すれば明らかである。
一方、図1によると、「能動フィルタ装置7-1」が「筐体3a」に含まれることは記載されておらず、むしろ、「筐体3a」の外に設けられる態様を読み取ることができる。
そして、「電力変換装置3」も上記ノイズキャンセラ基板とは別の所定の“基板”(この基板を“電力変換基板”と称することは任意である。)上に搭載されることも自明であって、「筐体3a」の内外にそれぞれ「電力変換装置3」の基板(電力変換基板)及び「能動フィルタ装置7-1」の基板(ノイズキャンセラ基板)が設けられていることになるから、甲1発明において、「電力変換装置3」が搭載される基板と「能動フィルタ装置7-1」の基板とは、“異なる基板”であるといえる。
そうすると、甲1発明は、上記(ア)及び(イ)の認定を踏まえると、構成要件1Cの「前記電力変換器を搭載した電力変換基板と、前記増幅器を搭載したキャンセラ基板とは、異なる基板であ」るとの構成を備える。
(エ)構成要件1Dについて
甲1発明の「電流トランス10を挿通した電源線1a、1b、1c」に「直列に接続され」る「チョークコイルL1、L2、L3」は、構成要件1Dの「ノイズフィルタ」に相当する。
上記(ア)の認定及び(イ)dの認定を踏まえると、甲1発明の「電力変換装置3」と「能動フィルタ装置7-1」との間に、「チョークコイルL1、L2、L3」が備えられていることになるから、甲1発明は、構成要件1Dの「前記ノイズ低減回路と前記電力変換器との間にノイズフィルタを備え」との構成を有する。
(オ)構成要件1Eについて
甲1発明は、「無停電電源装置や通信用電源装置に代表される電力変換装置に利用可能である」ところ、当該「無停電電源装置や通信用電源装置に代表される電力変換装置」には、当該「電力変換装置」を構成する要素を含む所定の“ケース”が存在することは自明であって、当該ケースは、上記(ウ)の認定を踏まえると、“電力変換基板とキャンセラ基板とを収容する筐体”であるといえる。
そうすると、甲1発明は、構成要件1Eの「前記電力変換基板と前記キャンセラ基板とを収容し、アース線が接続されるアース端子と、当該アース端子と同電位となる導電部とを有する筐体を備え」ることに関し、下記の点(相違点1-2)を除き、“前記電力変換基板と前記キャンセラ基板とを収容する筐体を備え”る点で一致する。
(カ)構成要件1Fについて
甲1発明は、構成要件1Fの「前記ノイズ低減回路からの補償電流の経路が前記導電部に接続される端子である補償経路接続端子と、前記ノイズフィルタのアース端子とが、別々に前記筐体の前記導電部に接続されて」いるとの構成を有するとはいえない。(相違点1-3)
(キ)構成要件1Gについて
甲1発明は、上記(カ)の認定を踏まえると、「前記ノイズ低減回路からの補償電流の経路が前記導電部に接続される端子である補償経路接続端子」と、「前記ノイズフィルタのアース端子」を有さないものであることから、本件特許発明1の構成要件1Gの「前記補償経路接続端子が接続される前記筐体側の端子は、前記筐体のアース端子に、前記ノイズフィルタのアース端子が接続される前記筐体側の端子よりも近い、電力変換装置」との構成に関し、下記の点(相違点1-4)を除き、“電力変換装置”である点で一致する。
(ク)一致点及び相違点について
上記(ア)~(キ)の対比より、本件特許発明1と甲1発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。
〈一致点〉
1A スイッチング素子を用いた電力変換器と、
1B’前記電力変換器の動作に応じて電力ラインに発生するコモンモードノイズ電流又はコモンモードノイズ電圧を検出するノイズ検出手段と、当該ノイズ検出手段による検出信号に基づき補償電流を生成する増幅器と、当該増幅器が生成した補償電流を出力する出力回路とを有するノイズ低減回路とを備え、
1C 前記電力変換器を搭載した電力変換基板と、前記増幅器を搭載したキャンセラ基板とは、異なる基板であり、
1D 前記ノイズ低減回路と前記電力変換器との間にノイズフィルタを備え、
1E’前記電力変換基板と前記キャンセラ基板とを収容する筐体を備える
1G’電力変換装置。
〈相違点1-1〉
本件特許発明1の「ノイズ低減回路」が有する「出力回路」は、「補償電流」を「当該電力ライン」に出力するのに対し、甲1発明の「増幅器11」は、「検出線10aに流れるi0」を「低周波分離コンデンサC1を介して」電力ラインではなく、「グランドE1に流」すものである点。
〈相違点1-2〉
本件特許発明1の「筐体」は、「アース線が接続されるアース端子と、当該アース端子と同電位となる導電部とを有」するものであるのに対し、甲1発明は、「接地端子Eに接続されて接地され」る「筐体(フレーム)3a」を有するものの、当該「筐体(フレーム)3a」や、甲1発明を「無停電電源装置や通信用電源装置に代表される電力変換装置に利用」した際の、ケース(上記(オ)参照。)においても、「アース線が接続されるアース端子と、当該アース端子と同電位となる導電部とを有」することは特定されていない点。
〈相違点1-3〉
本件特許発明1は、「前記ノイズ低減回路からの補償電流の経路が前記導電部に接続される端子である補償経路接続端子と、前記ノイズフィルタのアース端子とが、別々に前記筐体の前記導電部に接続されており」(構成要件1F)との構成を有するのに対し、甲1発明はそのような構成が特定されていない点。
〈相違点1-4〉
本件特許発明1は、「前記補償経路接続端子が接続される前記筐体側の端子は、前記筐体のアース端子に、前記ノイズフィルタのアース端子が接続される前記筐体側の端子よりも近い」構成を有するのに対し、甲1発明は、構成要件1Gの「前記補償経路接続端子が接続される前記筐体側の端子」、「前記筐体のアース端子」及び「前記ノイズフィルタのアース端子」が特定されていない点。
イ 判断
以上、上記アで検討したとおり、本件特許発明1は、甲1発明と上記相違点1-1~1-4の点で異なるから、甲第1号証に記載された発明とはいえない。
したがって、申立人が主張する異議申立理由1は、理由が無い。
2 異議申立理由2-1(甲第1号証に基づく進歩性欠如)について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明との対比については、上記1(1)ア(ア)~(キ)に示したとおりであり、同(ク)に示される点で一致し、また相違する。
イ 判断
上記相違点1-1~1-4は、本件特許発明1の、特に「電力変換器を搭載した電力変換基板」と「増幅器を搭載したキャンセラ基板」のノイズ経路及び補償電流経路に関連する構成であるから、まとめて検討する。
本件特許発明は、従来技術として、交流電源と整流回路と平滑用コンデンサとインバ-タ回路とから成るインバ-タ装置に負荷として電動機を接続し、交流電源と整流回路との間に洩れ電流検出器を接続し、平滑用コンデンサの一端と電動機のケ-スとの間にNPN型の第1のトランジスタを接続し、電動機のケ-スと平滑用コンデンサの他端との間にPNP型の第2のトランジスタを接続し、第1及び第2のトランジスタを洩れ電流検出器の出力で駆動してコモンモ-ドノイズを打ち消すための電流を注入する、電力変換装置のノイズ低減装置において(【0002】~【0003】)、スイッチング素子を用いた電力変換器と、電力変換器の動作に応じて電力ラインに発生するコモンモードノイズの検出信号に基づき補償電流を生成する増幅器とを、同一基板に実装すると、コモンモードノイズの検出信号に電力変換器のスイッチングノイズが重畳してコモンモードノイズに対する補償性能が悪化する虞があることを課題とし(【0004】)、コモンモードノイズの検出信号に電力変換器のスイッチングノイズが重畳することによるコモンモードノイズに対する補償性能の悪化を抑制することを目的としたもの(【0005】)である。
一方、甲1発明は、「スイッチングに起因するコモンモード電流及びEMIノイズが交流系統に流れ出る量を低減するための能動フィルタ装置を入力側に設けた電力変換装置であって、スイッチング周波数の高周波化が進むに連れて、直流リンク部やケーブルを介して、大地に流れる高周波漏れ電流が大きくなり、この高周波漏れ電流が、交流系統に流れ込みノイズとなって、交流系統に接続された他の装置に対して悪影響を与えることを背景とし、三相交流電源と、電力変換装置と、負荷と、三相交流電源及び電力変換装置間に設けられた能動フィルタ装置が備え、電流検出器である電流トランスによって電力変換装置が発生するコモンモード電流ioを検出して、増幅器に流れる電流によって交流系統に流出するコモンモード電流を打ち消すことにより、交流系統に流出するコモンモード電流を低減することができ」る「電力変換装置」において、「大きな補償電流を流す場合、増幅器が飽和し、コモンモード電流の低減効果が得られなくなる問題を解決するために、最大補償電流に基づき増幅器の電源電圧を設計するところ、増幅器を構成するトランジスタに対して常に、直流電源のほぼ半分の電圧が印加され、トランジスタの発熱が大きくなる欠点があること」を課題としたものであり、とりわけ、「トランジスタ11a、11bのエミッタの出力をダイオードD8及びコンデンサC3で整流平滑し、抵抗R1と抵抗R2との接続点の電圧を増幅器11の出力振幅として検出し、検出された出力振幅検出信号に応じて可変直流電源30の直流出力電圧Vrを可変させ」て、「コモンモード電流を打ち消すための補償電流が小さいときには、増幅器11の電源電圧が小さくなり、増幅器11の損失を低減することができ」るとの課題解決手段を有するものである。
ここに、甲1発明においては、「電力変換装置3」が発生するノイズ(コモンモードノイズ)を、「能動フィルタ装置7-1」の「電流トランス10(電流検出手段)」において検出される信号に対して、補償性能の悪化を防ぐとの課題を見いだすことはできない。
そして、「電力変換装置3」の基板及び「能動フィルタ装置7-1」の基板(上記1(1)ア(ウ)参照)が別々であったとして、当該「電力変換装置3」の発生するノイズが「能動フィルタ装置7-1」に影響が及ぶことを減ずるよう、甲1発明において、「前記電力変換基板と前記キャンセラ基板とを収容し、アース線が接続されるアース端子と、当該アース端子と同電位となる導電部とを有する筐体を備え」るとともに、「前記補償経路接続端子が接続される前記筐体側の端子」を「前記筐体のアース端子に、前記ノイズフィルタのアース端子が接続される前記筐体側の端子よりも近」く配置して、コモンモードノイズの検出信号に電力変換器のスイッチングノイズが重畳することによるコモンモードノイズに対する補償性能の悪化を抑制することを想起することは、当業者といえども容易になし得たとまではいうことができず、また、本件特許出願当時において、上記相違点1-1~1-4に係る構成が周知技術であったとする証拠も無い。
したがって、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易になし得たものとはいえない。
ウ むすび
以上検討したとおり、本件特許発明1は、甲1発明に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
したがって、申立人が主張する異議申立理由2-1は、理由が無い。
3 異議申立理由2-2(甲第1号証及び甲第2号証に基づく進歩性欠如)について
(1)本件特許発明2について
ア 対比
本件特許発明2と甲1発明とを対比する。
(ア)構成要件2A~2Dについて
構成要件2A~2Dは、本件特許発明1の構成要件1A~1Dと同じである。
したがって、上記1(1)ア(ア)~(エ)の対比を踏まえると、本件特許発明2と甲1発明とは、構成要件2A~2Dに関し、下記の点(相違点2-1)を除き、一致する。
(イ)構成要件2Eについて
甲1発明は、構成要件2Eの「前記ノイズ低減回路の電源が他の基板から前記キャンセラ基板に供給され、当該電源の供給経路にノイズ低減素子が設けられている」との構成を有しないから、構成要件2Eに関し、下記の点(相違点2-2)を除き、“電力変換装置”である点で一致する。
(ウ)一致点及び相違点
上記(ア)及び(イ)の対比より、本件特許発明2と甲1発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。
〈一致点〉
2A スイッチング素子を用いた電力変換器と、
2B’前記電力変換器の動作に応じて電力ラインに発生するコモンモードノイズ電流又はコモンモードノイズ電圧を検出するノイズ検出手段と、当該ノイズ検出手段による検出信号に基づき補償電流を生成する増幅器と、当該増幅器が生成した補償電流を出力する出力回路とを有するノイズ低減回路とを備え、
2C 前記電力変換器を搭載した電力変換基板と、前記増幅器を搭載したキャンセラ基板とは、異なる基板であり、
2D 前記ノイズ低減回路と前記電力変換器との間にノイズフィルタを備える
2E’電力変換装置。
〈相違点2-1〉(相違点1-1と同じ)
本件特許発明2の「ノイズ低減回路」が有する「出力回路」は、「補償電流」を「当該電力ライン」に出力するのに対し、甲1発明の「増幅器11」は、「検出線10aに流れるi0」を「低周波分離コンデンサC1を介して」電力ラインではなく、「グランドE1に流」すものである点。
〈相違点2-2〉
本件特許発明2は、「前記ノイズ低減回路の電源が他の基板から前記キャンセラ基板に供給され、当該電源の供給経路にノイズ低減素子が設けられている」(構成要件2E)との構成を有するのに対し、甲1発明は、「抵抗R1と抵抗R2との接続点は、可変直流電源30の出力調整端子に接続され、ダイオードD8、コンデンサC3、抵抗R1、R2からなる電圧検出手段」によって、「抵抗R1と抵抗R2との接続点の電圧を増幅器11の出力振幅として検出し、検出された出力振幅検出信号に応じて可変直流電源30の直流出力電圧Vrを可変させ」るものであって、当該「可変直流電源30の直流出力電圧Vr」が他の基板から供給されることや、ノイズ低減素子を設けることが特定されていない点。
イ 判断
事案に鑑み、先に相違点2-2について検討する。
甲1発明は特に、「大きな補償電流を流す場合、増幅器が飽和し、コモンモード電流の低減効果が得られなくなる問題を解決する」にあたり、「増幅器を構成するトランジスタに対して常に、直流電源のほぼ半分の電圧が印加され、トランジスタの発熱が大きくなる欠点がある」との課題を解決するために、「抵抗R1と抵抗R2との接続点」を「可変直流電源30の出力調整端子に接続」するとともに、「抵抗R1と抵抗R2との接続点の電圧を増幅器11の出力振幅として検出し、検出された出力振幅検出信号に応じて可変直流電源30の直流出力電圧Vrを可変させ」るものであって、当該「抵抗R1と抵抗R2との接続点」や、「可変直流電源30」は、「能動フィルタ装置7-1」が搭載される基板(上記1(1)ア(ウ)参照)に設けられるものと解される。
そして、このような「可変直流電源30」を「能動フィルタ装置7-1」が搭載される基板、すなわち「キャンセラ基板」ではない「他の基板」からの電源供給によるものとすることを想起することは、当業者といえども容易になし得たとまではいえない。
また、甲第2号証には、上記第4の2(1)に示す事項の記載は認められるものの、構成要件2Eに関する構成を開示するものではなく、また、本件特許出願当時において、構成要件2Eが周知技術であったとする証拠も無い。
したがって、上記相違点2-1について判断するまでもなく、本件特許発明2は、甲第1号証に記載された発明(甲1発明)及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものとはいえない。
(2)本件特許発明3について
本件特許発明3は、本件特許発明1又は本件特許発明2の全ての構成要件を含むものであり、上記2(1)イ、及び上記(1)イで判断したとおり、甲1発明に記載された発明(甲1発明)及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(3)むすび
以上検討したとおり、本件特許発明2及び3は、甲1発明に記載された発明(甲1発明)及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
したがって、申立人が主張する異議申立理由2-2は、理由が無い。
4 異議申立理由3(明確性要件違反)について
(1)申立人の主張
申立人は、申立書において、異議申立理由4に関し、次のとおり主張する。
「対象特許の請求項2に「前記ノイズ低減回路の電源が他の基板から前記キャンセラ基板に供給され」と記載されている。しかし、「他の基板」は、どのような基板かが何も特定されていないため、例えば、商用電源の配電盤なども含むのか否かが明確ではない。対象特許の明細書の段落0135の記載によると、対象特許の請求項2の「他の基板」を「電力変換基板」に限定すべきである。
よって、対象特許の請求項2の記載は不明確である。」(異議申立書17ページ下から5行~18ページ上から2行)
(2)当審の判断
構成要件2Eにおける、「前記ノイズ低減回路の電源が他の基板から前記キャンセラ基板に供給され」(以下、「引用記載1」という。)るとの事項に関し、本件特許明細書段落112に、「電源供給ハーネス550は、電力変換基板510のスイッチング電源からキャンセラ基板520に電源を供給する。」との記載が認められるとともに、図面の図9からは、「電力変換基板510」と「キャンセラ基板520」とが「電源供給ハーネス550」で結ばれる態様を看取することができる。
また、本件特許明細書段落115には、「尚、キャンセラ基板520への電源供給は、電力変換基板510以外の基板から行われてもよい。」との記載も認められることから、上記引用記載1における「他の基板」は、「電力変換基板510」のほかに、「電力変換基板510以外の基板」を意味するものと解される。
したがって、引用記載1における、「他の基板」は必ずしも不明確であるとまではいえず、特許請求の範囲の請求項2及び3に記載された事項は不明確とはいえないから、上記(1)に示した申立人の主張は理由が無い。
(3)むすび
以上検討したとおり、申立人が主張する異議申立理由4については理由が無く、請求項2及び3に係る特許は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。
第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-701364