特許異議申立
2022-700783
高アルコール濃度のビールテイストアルコール飲料およびその製造方法
- 審判番号
- 2022-700783
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-248718
- 登録番号
- 7018305
- 請求日
- 2022年08月09日
- 審決日
- 2023年05月12日
- 公報発行日
- 2023年08月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】キリンホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】横田 修孝
- 【権利者代理人】榎 保孝
- 【権利者代理人】大森 未知子
- 【異議申立人】秋山 朋毅
- 【異議申立人】田中 眞喜子
- 審判長/審判官
- 審判長 平塚 政宏
- 審判官 磯貝 香苗
- 審判官 植前 充司
- 分類
- P1651.55 -YAA(C12G) / P1651.113-YAA(C12G) / P1651.121-YAA(C12G) / P1651.536-YAA(C12G) / P1651.537-YAA(C12G)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条6項2号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第113条第2号、特許法第113条第4号、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第2項、特許法第17条の2第3項、特許法第113条第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第113条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7018305号発明「高アルコール濃度のビールテイストアルコール飲料およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7018305号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし6〕、7、8について訂正することを認める。
特許第7018305号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7018305号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし8に係る特許についての出願は、
平成29年12月26日に出願され、
令和 4年 2月 2日にその特許権の設定登録がされ、
令和 4年 2月10日に特許掲載公報が発行された。
その後、当該特許に対し、
令和 4年 8月 9日に特許異議申立人 秋山朋毅 (以下、「特許異議申立人1」という。)が全ての請求項に係る特許に対して特許異議申立てを行い、
令和 4年 8月10日に特許異議申立人 田中眞喜子(以下、「特許異議申立人2」という。)が、全ての請求項に係る特許に対して特許異議申立てを行い、
令和 4年12月 2日付けで取消理由が通知され、
令和 5年 1月30日に特許権者(キリンホールディングス株式会社)により訂正請求がなされるとともに意見書が提出され、
令和 5年 2月13日に特許法第120条の5第5項の規定に基づき特許異議申立人1及び特許異議申立人2に対し訂正請求があった旨の通知がされ、
令和 5年 3月15日に特許異議申立人1より意見書が提出され、
令和 5年 3月17日に特許異議申立人2より意見書が提出されたものである。
第2 本件訂正について
1 訂正の内容
令和 5年 1月30日にされた訂正請求における訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「アルコール濃度が6体積%以上の」とあるのを、
「アルコール濃度が7体積%以上の」に訂正する。
併せて、請求項1を直接又は間接的に引用して特定する請求項2ないし6についても、請求項1を訂正したことに伴う訂正をする。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項7に
「アルコール濃度が6体積%以上の」とあるのを、
「アルコール濃度が7体積%以上の」に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項8に、
「アルコール濃度が6体積%以上の」とあるのを、
「アルコール濃度が7体積%以上の」に訂正する。
(4)一群の請求項について
訂正前の請求項1ないし6について、請求項2ないし6は請求項1を直接又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正される。したがって、訂正前の請求項1ないし6に対応する訂正後の請求項1ないし6は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
2 訂正の目的、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内か否か、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1による請求項1についての訂正、訂正事項2による請求項7についての訂正、訂正事項3による請求項8についての訂正は、いずれも、ビールテイストアルコール飲料のアルコール濃度を訂正前の「6体積%以上」から訂正後に「7体積%以上」に数値範囲を減縮したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
したがって、訂正事項1ないし3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
(2)訂正事項1による請求項1についての訂正、訂正事項2による請求項7についての訂正、訂正事項3による請求項8についての訂正は、いずれも、ビールテイスト飲料のアルコール濃度を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1ないし3は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。
(3)訂正事項1によるアルコール濃度の数値範囲、訂正事項2によるアルコール濃度の数値範囲、訂正事項3によるアルコール濃度の数値範囲は、願書に添付した明細書【0025】~【0032】の例1及び明細書【0013】の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものである。
したがって、訂正事項1ないし3は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
(4)請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定する請求項2ないし6についても同様である。
なお、本件特許異議申立においては、訂正前の請求項1ないし8について特許異議申立てがなされているため、訂正前の請求項1に係る訂正事項1、訂正前の請求項7に係る訂正事項2、訂正前の請求項8に係る訂正事項3についてはいずれも、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する第126条第7項の独立特許要件は課されない。
3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、特許法同条第9項において準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし6〕、7、8について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし8に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明8」といい、まとめて「本件特許発明」という。)は、それぞれ、訂正請求書の添付された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
【請求項1】
アルコール濃度が7体積%以上のビールテイストアルコール飲料であって、下記(a)および(b)の両方を満たす、ビールテイストアルコール飲料
(a)飲料中のイソアミルアルコール濃度が90~180mg/Lである
(b)飲料中の活性アミルアルコール濃度が30~60mg/Lである。
【請求項2】
麦又は麦芽を原料として使用しないビールテイストアルコール飲料である、請求項1に記載の飲料。
【請求項3】
ビールテイスト発酵アルコール飲料である、請求項1または請求項2に記載の飲料。
【請求項4】
アルコール濃度が、8体積%以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の飲料。
【請求項5】
イソアミルアルコール濃度が、120~180mg/Lである、請求項1~4のいずれか一項に記載の飲料。
【請求項6】
活性アミルアルコール濃度が、40~60mg/Lである、請求項1~5のいずれか一項に記載の飲料。
【請求項7】
アルコール濃度が7体積%以上のビールテイストアルコールの製造方法であって、下記(a)および(b)の両方を満たすように、製造された飲料中のイソアミルアルコール濃度および/または活性アミルアルコール濃度を調整する工程を含んでなる、前記製造方法
(a)飲料中のイソアミルアルコール濃度が90~180mg/Lである
(b)飲料中の活性アミルアルコール濃度が30~60mg/Lである。
【請求項8】
アルコール濃度が7体積%以上のビールテイストアルコール飲料においてエタノール臭および/または雑味を低減する方法であって、下記(a)および(b)の両方を満たすように、製造された飲料中のイソアミルアルコール濃度および/または活性アミルアルコール濃度を調整する工程を含んでなる、前記方法
(a)飲料中のイソアミルアルコール濃度が90~180mg/Lである
(b)飲料中の活性アミルアルコール濃度が30~60mg/Lである。
第4 特許異議申立書に記載した申立理由の概要
1 特許異議申立人1の異議申立理由について
特許異議申立人1が提出した特許異議申立書において主張する特許異議申立理由の概要は次のとおりである。
(1)申立理由1-1(新規事項)
本件特許の請求項1及び3ないし8に係る特許は、下記の点で特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第1号に該当し取り消すべきものである。
・令和3年12月8日付手続補正書における補正事項の「ビールテイストアルコール飲料のイソアミルアルコールの濃度」の下限を「90mg/L」にする根拠は、本件特許の出願当初明細書又は特許請求の範囲のいずれにも記載されていない。
(2)申立理由1-2(甲第1-1号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1、3、4及び7ないし8に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1-1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであるか、本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、甲第1-1号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(3)申立理由1-3(甲第1-2号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1-2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(4)申立理由1-4(甲第1-3号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1-3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(5)申立理由1-5(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし8の記載は、下記ア.~イ.の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
ア.麦又は麦芽を原料として使用するもの、又は、アルコール濃度が7体積%未満或いは7体積%を超えるもの、又は、イソアミルアルコール濃度が90mg/L超180mg/L未満であるもの、又は、活性アミルアルコール濃度が30mg/L超60mg/l未満であるもの、について
本件特許明細書には、アルコール濃度が6体積%以上となった場合に、ビールテイストアルコール飲料の香味にどのように影響するのか記載されていない。また、本件特許明細書には、イソアミルアルコール濃度と活性アミルアルコール濃度が、ビールテイストアルコール飲料の香味にどのように影響するのか記載されておらず、イソアミルアルコール濃度を90~180mg/Lに特定し、活性アミルアルコール濃度を30~60mg/Lに特定したことにより得られる効果と、これら両方の数値範囲を組み合わせた構成により得られる相乗効果についても理解することができない。
そうすると、本件発明の裏付けがある範囲は、本件特許明細書〔表1D〕に示された本件実施例のサンプル17及びサンプル18のみであり、同サンプル17及びサンプル18が示す、麦または麦芽を原料としないビールテイストアルコール飲料であって、かつ、アルコール濃度が7.0体積%であり、更に、イソアミルアルコール濃度及び活性アミルアルコール濃度が共に数値範囲を満たすもの、という要件を全て満たすもののみであって、これ以外については発明の裏付けを欠いている。
イ.アルコール濃度の上限について
請求項1ないし8には、アルコール濃度が6体積%以上であるとの特定があるが、その上限濃度については特定されていない。本件特許明細書にはアルコール濃度7.0体積%のサンプル18についてエタノール臭及び雑味を評価した例が記載されているが、アルコール濃度7.体積%を超える範囲については、発明が解決しようとする課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものとなっている。
(6)証拠方法
甲第1-1号証:Truls C. Rasmussen,”Characterization of genotype and beer fermentation properties of Norwegian Farmhouse Ale Yeasts”,Master thesis,Norwegian University of Science and Technology,February 2016、及び書誌情報のウェブページ https://ntnuopen.ntnu.no./ntnuxmlui/handle/11250/2390204
甲第1-2号証:Kristoffer Krogerus et al.,”Influence of valine and other amino acids on total diacetyl and 2,3-pentanedione levels during fermentation of brewer's wort”,Appl Microbiol Biotechnol (2013),Vol.97,pp.6919-6930
甲第1-3号証:Brian & Gibson et al.,”Comparative physiology and fermentation performance of Saaz and Frohberg lager yeast strains and the parental species Saccharomyces eubayanus”,Yeast (2013),Vol.30,pp.255-266、及び公表日情報のウェブページ
甲第1-4号証:特開2011-36129号公報
甲第1-5号証:特開2003-102458号公報
甲第1-6号証:特開平6-62829号公報
甲第1-7号証:知財高裁 平成22年(行ケ)第10296号判決
証拠の表記については、特許異議申立書における記載におおむね従った。 以下、「甲1-1」のようにいう。
なお、甲1-1ないし甲1-6は、令和 4年 8月 9日 特許異議申立書と共に提出され、甲1-7は、令和 5年 3月15日に意見書と共に提出されたものである。
2 特許異議申立人2の異議申立理由について
特許異議申立人2が提出した特許異議申立書において主張する特許異議申立理由の概要は次のとおりである。
(1)申立理由2-1(甲第2-1号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1、4ないし8に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2-1号証に記載された発明であり特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであるか、本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、甲第2-1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は特許法第113条第第2号に該当し取り消すべきものである。
(2)申立理由2-2(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし8の記載は、下記ア.~イ.の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件請求項1ないし8に係る特許は、特許法第第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
ア.麦または麦芽を原料として使用する構成について
本件特許明細書の実施例においては、大豆タンパクを用いた麦芽不使用の飲料における評価しか行っていない。
一般的に、麦芽を使用するビールと麦芽不使用のアルコール飲料とは大きく香味が異なることが知られており、大豆タンパクを用いた麦芽不使用の飲料における実施例から、麦芽使用のビールにおいても同様に所望の課題を解決できるとは理解できない。
また、大豆タンパクとそれ以外の副原料とでは香味が異なることも自明であるから、大豆タンパクを用いた麦芽不使用の飲料における実施例から、大豆タンパク以外の副原料を多く用いた場合においても同様に所望の課題を解決できるとは理解できない。
イ.アルコール濃度について
本件特許明細書の実施例においては、アルコール濃度が6体積%及び7体積%の飲料における評価しか行っていない。
本件特許発明の課題であるエタノール臭および雑味の低減は、高アルコール濃度になればなるほど課題解決が困難であるところ、本件特許明細書の表1Aでは、最もアルコール濃度が高い対照5(アルコール濃度9体積%)でエタノール臭及び雑味のいずれも低評価となっている。
してみるとアルコール濃度が6体積%及び7体積%でエタノール臭及び雑味が低減できたとしても、これよりアルコール濃度の高い飲料においてまで、同様に課題を解決できるとは理解できない。
(3)申立理由2-3(実施可能要件)
本件特許明細書の記載は、下記の点について、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件請求項1ないし8に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・本件特許発明は、イソアミルアルコール濃度及び活性アミルアルコール濃度を所定の範囲にすることを特徴としている。両アルコール濃度については、本件特許明細書〔0015〕及び同〔0016〕に「BOCJビール分析法(ビール酒造組合、2013増補改訂、8.22 低沸点香気成分)」で測定できる旨記載されているが、甲第2-10号証に記すように、当該「BOCJビール分析法(ビール酒造組合、2013増補改訂、8.22 低沸点香気成分)」には、活性アミルアルコールの測定に関しては記載がない。
したがって、活性アミルアルコール濃度を所定数値範囲にすることについて、当業者に過度の追試を強いるものである。
(4)申立理由2-4(明確性)
本件特許の請求項1ないし8の記載は、下記の点について、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、本件請求項1ないし8に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・本件特許発明は、イソアミルアルコール濃度及び活性アミルアルコール濃度を所定の範囲にすることを特徴としている。両アルコール濃度については、本件特許明細書〔0015〕及び同〔0016〕に「BOCJビール分析法(ビール酒造組合、2013増補改訂、8.22 低沸点香気成分)」で測定できる旨記載されているが、甲第2-10号証に記すように、当該「BOCJビール分析法(ビール酒造組合、2013増補改訂、8.22 低沸点香気成分)」には、活性アミルアルコールの測定に関しては記載がない。
よって、請求項1ないし8における活性アミルアルコール濃度の測定方法が不明であり、活性アミルアルコール濃度を数値範囲で規定する技術的意義が不明である。
(6)証拠方法
甲第2-1号証:BRAUINDUSTRIE 1982年 Vol.67,pp.225-231
甲第2-2号証:「エタノール水溶液の容量%と重量%との換算表」(http://www.alcohol.jp/expert/expert_table/10suiyouekikanzan.pdf)、一般社団法人アルコール協会HPの「エタノールの物性値、他」(www.alcohol.jp/sub4.html)の項
甲第2-3号証:BRAUINDUSTRIE 1982年 Vol.67,pp.71-75
甲第2-4号証 「Analysis of Free Fatty Acids,Fusel Alcohols,and Esters in Beer」J.Am.Soc.Brew.Chem.52(3):127-134,1994
甲第2-5号証:Ernest Chung-Hsu Chen,1997年 「FORMATION AND ANALYSIS OF FUSEL ALCOHOLS IN BEER」pp35-36 McGill University
甲第2-6号証:イソアミルアルコールを食品衛生法に基づく添加物とすることに関する厚生労働省医薬食品局食品安全部長からの通達(平成17年8月19日)
甲第2-7号証:2-メチルブタノールを食品衛生法に基づく添加物とすることに関する厚生労働省医薬食品局食品安全部長からの通達(平成19年8月3日)
甲第2-8号証:「麦芽をまったく使わない新しいジャンル(第3のビール)の開発」(生物工学 2012年 第90巻第5号 pp235-237)
甲第2-9号証:「Batch No.5 Rumpkin Ale」の製品情報(Mintel社による調査結果)https://www.mintel.com/about-mintel https://www.gnpd.com/sinatra/recordpage/3577951/
甲第2-10号証:「BCOJビール分析法」ビール酒造組合、2013年増補改訂
なお、証拠の表記については特許異議申立書の記載におおむね従った。
以下、「甲2-1」のようにいう。
第5 取消理由通知に記載した取消理由の概要
当審が令和 4年12月 2日付けで特許権者に通知した取消理由通知における取消理由の概要は、次のとおりである。
1 取消理由1(甲1-1に基づく新規性)
本件特許の請求項1、3、4、7に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1-1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 取消理由2(甲1-1に基づく進歩性)
本件特許の請求項1、3、4、7に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1-1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
3 取消理由3(実施可能要件)
本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・活性アミルアルコール濃度の測定方法について
本件特許発明は、イソアミルアルコール濃度及び活性アミルアルコール濃度を所定の範囲にすることを構成としている。
両アルコール濃度については、本件特許明細書〔0015〕及び同〔0016〕に「BOCJビール分析法(ビール酒造組合、2013増補改訂、8.22 低沸点香気成分)」で測定できる旨記載されているが、甲2-10に記すように、当該「BOCJビール分析法(ビール酒造組合、2013増補改訂、8.22 低沸点香気成分)」には、活性アミルアルコールの測定に関しては記載がなく、また、活性アミルアルコールの測定方法が当業者に自明の事項であるとも認められない。
してみると、請求項1~8の活性アミルアルコール濃度の測定方法が明らかではないから、活性アミルアルコール濃度を所定数値範囲にすることを発明特定事項とする本件発明は、その実施において、当業者に過度の試行を強いるものであるといえる。
第6 令和 4年12月 2日付で特許権者に通知した取消理由についての判断
当審は以下に述べるように、令和 4年12月 2日付けで特許権者に通知した取消理由1ないし取消理由3は、いずれも理由がないと判断する。
1 取消理由1(甲1-1に基づく新規性)及び取消理由2(甲1-1に基づく進歩性)について
(1)主な証拠等
ア 甲1-1に記載された事項
甲1-1の次の箇所にはそれぞれ以下の記載がある。 なお、甲1-1は外国語文献のため訳文のみ摘記する。
(ア)タイトル
ノルウェーのファームハウスエール酵母の遺伝子型の特徴付け及びビール醸造特性
(イ)ii頁第1~11行
Voss、Stranda、Laerdal、Hornindal、Oldenという8種類のノルウェーのファームハウスエール酵母が分析のためにIBTに寄託された。酵母の表現型が明らかにされ、実験室条件下にて、ペールエール及び伝統的なHonndalsolという2種類のビールが製造された。官能特性は、1対2点試験法として訓練を受けていないパネルが評価をし、異なる発酵温度における、発酵中及び瓶詰め後に生成される揮発性化合物の組成を、ダイナミックヘッドスペースガスクロマトクラフ質量分析計を用い決定した。酵母の内部転写スペーサ1及び2領域の遺伝子解析を行い、その菌種及び菌株間の遺伝関係を評価した。
(ウ)第39頁第8~16行
4.3 ビール実験1及び2
ペールエールを2回に分けて醸造し、10種の酵母を使用して発酵させた。発酵温度は2種類(19℃及び30℃)使用した。最低温度は一般的なエール酵母の発酵温度であることから選択し、最高温度は伝統的なファームハウスビール醸造より高い発酵温度を使用すると知られていることから使用された。実験1では、9個の10L発酵用域に5Lの麦汁を充填し、6個の容器はKveik及びIdum、3個の容器はWLP001とした。実験2では、5Lの発酵容器15個に3Lの麦汁を充填し、図19に実験2の19℃培養を示す。
(エ)第40頁第1~6行
屈折計を用いて煮沸前の原麦汁比重を測定したところ、実験1,2共に1.060であった。実験1及び実験2の最終比重は表8に示すとおりである。実験1の最終比重の測定はビールが炭酸ガス化用に6g/Lのグルコースを消費した後に行われたものである。実験2の最終比重は、瓶詰め前に測定したものである。比重計を用いて、体積アルコール度数を計算し、表8に示した。
(オ)第41頁
表8 実験1及び2の最終比重測定値
酵母 Stranda 19℃ アルコール5.9%
Sigmund 19℃ アルコール6.3%
(カ)第75頁 第1~9行
附録A 測定データ:ヘッドスペース
A.1 ビール実験1及び2
1-ペンタノールを内部標準物質として使用し、18.50mgの1-ペンタノールを10.00mLメスフラスコで測定した。1850ppmの溶液1.25mLを5.00mLのメスフラスコに移し、462.5ppmに希釈した。100μLの標準溶液を各サンプルに移し、ヘッドスペースGC-MSで測定した。各サンプルは分析天秤でヘッドスペースGC-MSバイアル内の重量を測定し、1-ペンタノール濃度と実験1及び実験2の測定重量とを表11に示した。
(キ)第86頁、表26
表26:30℃におけるmuri、19及び30℃におけるsigmund、19及び30℃におけるstrandaについての同定化合物の濃度
化合物 sigmund_19℃ stranda_19℃
イソアミルアルコール 103.2 153.1
活性アミルアルコール 37.4 50.3
イ 甲1-1に記載された発明
上記アの記載、特に、発酵酵母がsigmundであって発酵温度が19℃のものを中心にまとめると、甲1-1には、次の発明(以下「甲1-1A発明」、「甲1-1B発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲1-1A発明>
「発酵酵母がsigmundで発酵温度が19℃であり、アルコール濃度が6.3体積%、イソアミルアルコール濃度が103.2ppm、活性アミルアルコール濃度が37.4ppmであるビール。」
<甲1-1B発明>
「発酵酵母がsigmundで発酵温度が19℃であり、アルコール濃度が6.3体積%、イソアミルアルコール濃度が103.2ppm、活性アミルアルコール濃度が37.4ppmであるビールを製造する方法。」
(2)検討
ア.本件特許発明1についての対比・判断
本件特許発明1と甲1-1A発明とを対比する。
甲1-1A発明における「ビール」は、本件特許発明1における「ビールテイストアルコール飲料」に相当する。
また、甲1-1A発明における「イソアミルアルコール濃度が103.2ppm」、「活性アミルアルコール濃度が37.4ppm」は、本件特許発明1における「(a)飲料中のイソアミルアルコール濃度が90~180mg/L」、「(b)飲料中の活性アミルアルコール濃度が30~60mg/L」の数値範囲をそれぞれ満たしている。
そうすると、本件特許発明1と甲1-1A発明との一致点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「ビールテイストアルコール飲料であって、下記(a)および(b)の両方を満たす、ビールテイストアルコール飲料
(a)飲料中のイソアミルアルコール濃度が90~180mg/Lである
(b)飲料中の活性アミルアルコール濃度が30~60mg/Lである。」
<相違点1-1-1>
本件特許発明1においてはアルコール濃度が7体積%以上であるとの特定を有するのに対し、甲1-1A発明においてはアルコール濃度が6.3体積%である点。
本件特許発明1と甲1-1A発明とは相違点1-1-1で相違するから、本件特許発明1は甲1-1A発明ではない。
また、甲1-1A発明において、既に製造されているビールテイストアルコール飲料のアルコール濃度を、6.3体積%から7体積%以上に変更する動機はない。
そして、本件特許発明1は、アルコール濃度を7体積%以上であり、かつ、(a)飲料中のイソアミルアルコール濃度が90~180mg/L、(b)飲料中の活性アミルアルコール濃度が30~60mg/Lとの数値範囲を満たすことにより、エタノール臭および雑味が低減されたビールテイストアルコール飲料を提供することができるという顕著な効果を有するものである。
したがって、甲1-1A発明において、相違点1-1-1に係る発明特定事項を満たすものとすることは当業者が容易になし得たものであるとはいえない。
よって、本件特許発明1は、甲1-1A発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 本件特許発明3及び4についての対比・判断
本件特許発明3及び4は、請求項1を直接または間接的に引用して特定するものであって、請求項1に記載された発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明1と同様に判断される。
したがって、本件特許発明3及び4は甲1-1A発明ではなく、また、甲1-1A発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件特許発明7についての対比・判断
本件特許発明7と甲1-1B発明とを対比する。
甲1-1B発明における「ビール」は、本件特許発明7における「ビールテイストアルコール飲料」に相当する。
また、甲1-1B発明における「イソアミルアルコール濃度が103.2ppm」、「活性アミルアルコール濃度が37.4ppm」は、本件特許発明7における「(a)飲料中のイソアミルアルコール濃度が90~180mg/L」、「(b)飲料中の活性アミルアルコール濃度が30~60mg/L」の数値範囲をそれぞれ満たしている。
さらに、甲1-1B発明の「ビールを製造する方法。」には、本件特許発明7の「(a)および(b)の両方を満たすように、製造された飲料中のイソアミルアルコール濃度および/または活性アミルアルコール濃度を調整する工程を含んで」いると認められる。
そうすると、本件特許発明7と甲1-1B発明との一致点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「ビールテイストアルコール飲料の製造方法であって、下記(a)および(b)の両方を満たすように、製造された飲料中のイソアミルアルコール濃度および/または活性アミルアルコール濃度を調整する工程を含んでなる、前記製造方法
(a)飲料中のイソアミルアルコール濃度が90~180mg/Lである
(b)飲料中の活性アミルアルコール濃度が30~60mg/Lである。」
<相違点1-1-2>
本件特許発明7においてはアルコール濃度が7体積%以上であるとの特定を有するのに対し、甲1-1B発明においてはアルコール濃度が6.3体積%である点。
本件特許発明7と甲1-1B発明とは相違点1-1-2の点で相違するから、本件特許発明7は甲1-1B発明ではない。
相違点1-1-2は、相違点1-1-1と同旨であり、上記アと同様に判断される。
したがって、甲1-1B発明において、相違点1-1-2に係る発明特定事項を満たすものとすることは当業者が容易になし得たものであるとはいえない。
よって、本件特許発明7は、甲1-1B発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)取消理由1及び取消理由2についてのまとめ
したがって、本件特許の請求項1、3、4、7に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、本件特許の請求項1、3、4、7に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1、3、4、7に係る特許は、特許法第113条第2項に該当し取り消すべきものであるとはいえない。
2 取消理由3(実施可能要件)について
(1)実施可能要件の判断基準
上記第3のとおり、本件特許発明1ないし6は物の発明であるところ、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。
本件特許発明7は物を生産する方法の発明であるところ、物を生産する方法の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産する方法を使用し、その物を生産する方法により生産した物の使用をすることができる程度の記載があることを要する。
本件特許発明8は方法の発明であるところ、方法の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その方法を使用することができる程度の記載があることを要する。
そこで、検討する。
(2)実施可能要件の判断
本件特許の発明の詳細な説明【0007】ないし【0008】には、本件特許発明1ないし8の各発明特定事項について記載されている。
本件特許の発明の詳細な説明【0010】ないし【0012】にはビールテイストアルコール飲料についての記載があり、同【0013】にはビールテイストアルコール飲料のアルコール濃度について、同【0014】ないし【0017】には飲料中のイソアミルアルコール濃度及び活性アミルアルコール濃度について記載され、同【0018】にはこれらイソアミルアルコール濃度及び活性アミルアルコール濃度が所定数値範囲を満たすことによりエタノール臭及び雑味が低減されることが記載されている。
また、本件特許の発明の詳細な説明【0019】ないし【0020】には、これらビールテイストアルコール飲料におけるイソアミルアルコール濃度及び活性アミルアルコール濃度を調整する方法について記載されており、同【0022】ないし【0032】には具体的な製造工程と共に実施例・比較例が記載されている。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明には、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1ないし6を生産し、使用することができる程度の記載があるといえるし、本件特許発明7を使用し、本件特許発明7により生産した物の使用をすることができる程度の記載があるといえ、さらに、本件特許発明8を使用することができる程度の記載があるといえる。
よって、本件特許発明1ないし8に関して、発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を充足する。
(3)活性アミルアルコール濃度の測定方法に関する特許異議申立人2の主張について
本件特許の発明の詳細な説明【0015】には、イソアミルアルコールの測定方法について、「BCOJビール分析法(ビール酒造組合、2013年増補改訂、8.22 低沸点香気成分)に記載の方法に従って測定することができる。」と記載されている。
本件特許の発明の詳細な説明において、活性アミルアルコール濃度の測定方法については明記されていないが、特許権者が令和 5年 1月30日に提出した意見書に添付された乙第1号証:BOCJビール分析法 2015年度,新設分析法 8.22.2 低沸点香気成分(ビール酒造組合国際技術委員会)には、分析対象として活性アミルアルコールが追加されていることがわかる。
BOCJビール分析法は、ビール醸造に関わる分析法の統一を目的のひとつとするビール酒造組合国際技術委員会により作成されるものであり、ビール醸造業者が参照する技術文献のひとつである。
当該技術背景を考慮すれば、本件特許の発明の詳細な説明【0015】ないし【0016】の記載から当業者はイソアミルアルコールの測定方法に関するBCOJビール分析法の記載を手がかりに活性アミルアルコール濃度の測定についても知見を得ることができる。したがって、本件特許の発明の詳細な説明は当業者が本件特許発明1ないし8を実施できる程度に明瞭かつ十分に記載されており、当業者に過度の試行錯誤を強いるものであるとはいえない。
(4)取消理由3についてのまとめ
したがって、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、特許法第113条第4号に該当し取り消すべきものであるとはいえない。
第7 取消理由において採用しなかった申立理由についての当審の判断
以下に記載するように、それ以外の特許異議申立人の申立理由についても、いずれにも理由がないと判断する。
申立理由1-1から順に検討する。
1 申立理由1-1(新規事項)について
(1)新規事項の判断基準
補正が、当業者にとって、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるか否かにより、その補正が新規事項を追加する補正であるか否かを判断する。
補正が当初明細書等に記載した事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである場合は、その補正は、新規事項を追加する補正でない。
他方、補正が新たな技術的事項を導入するものである場合は、その補正は新規事項を追加する補正である。
(2)新規事項の判断
本件特許に係る出願において、令和 3年12月 8日に提出された手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)により、請求項1、7、8が補正され、本件特許発明1、7、8に特定されるとおり、ビールテイストアルコール飲料の(a)飲料中のイソアミルアルコール濃度の下限値が90mg/Lとされた。
他方、本件特許の当初明細書等の【0008】【0015】【0021】には、飲料中のイソアミルアルコール濃度として85mg/L~230mg/L、好ましくは100~210mg/L、より好ましくは120~200mg/L、さらに好ましくは120~180mg/Lであることが記載されている。
また、本件特許の当初明細書等の【0031】表1には、イソアミルアルコール濃度が90.0mg/Lのサンプル(番号2、17)が記載されている。
そうすると、本件補正は、本件特許の当初明細書等に記載されていた(a)飲料中のイソアミルアルコール濃度の下限値を90mg/Lとして、イソアミルアルコール濃度の数値範囲を狭めて本件特許発明1、7、8に導入したものであり、イソアミルアルコール濃度の下限値を90mg/Lとすることにより新たな効果を導入するものでもない。
したがって、本件補正は、当初明細書等の全て記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるとはいえず、新規事項を追加する補正ではない。
よって、本件補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
(3)申立理由1-1についてのまとめ
したがって、本件特許の請求項1及び3ないし8に係る特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであるとはいえないから、特許法第113条第1号に該当し取り消すべきものであるとはいえない。
2 申立理由1-2(甲1-1に基づく新規性・進歩性)のうち、請求項2、5、6及び8について
(1)本件特許発明2、5及び6についての対比・検討
本件特許発明2、5及び6はいずれも、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであって、請求項1に記載された発明特定事項を全て備えるものであるから、前記第6 1(2)アの本件特許発明1と同様に判断される。
したがって、本件特許発明2、5及び6は、甲1-A発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件特許発明8についての対比・検討
本件特許発明8と甲1-1B発明とを対比する。
甲1-1B発明における「ビール」は、本件特許発明8における「ビールテイストアルコール飲料」に相当する。
また、甲1-1B発明における「イソアミルアルコール濃度が103.2ppm」、「活性アミルアルコール濃度が37.4ppm」は、本件特許発明8における「(a)飲料中のイソアミルアルコール濃度が90~180mg/L」、「(b)飲料中の活性アミルアルコール濃度が30~60mg/L」の数値範囲をそれぞれ満たしている。
さらに、甲1-1B発明の「ビールを製造する方法。」には、本件特許発明8の「(a)および(b)の両方を満たすように、製造された飲料中のイソアミルアルコール濃度および/または活性アミルアルコール濃度を調整する工程を含んで」いると認められる。
そうすると、本件特許発明8と甲1-1B発明との一致点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「ビールテイストアルコール飲料において、下記(a)および(b)の両方を満たすように、製造された飲料中のイソアミルアルコール濃度および/または活性アミルアルコール濃度を調整する工程を含んでなる、方法
(a)飲料中のイソアミルアルコール濃度が90~180mg/Lである
(b)飲料中の活性アミルアルコール濃度が30~60mg/Lである。」
<相違点1-1-3>
本件特許発明8においてはアルコール濃度が7体積%以上であるとの特定を有するのに対し、甲1-1B発明においてはアルコール濃度が6.3体積%である点。
<相違点1-1-4>
本件特許発明8は「エタノール臭および/または雑味を低減する方法」であるとの特定を有するのに対し、甲1-1B発明においてはそのような特定はない点。
本件特許発明8と甲1-1B発明とは、相違点1-1-3及び相違点1-1-4の点で相違するから、本件特許発明8は甲1-1B発明ではない。
相違点1-1-3は、相違点1-1-1と同旨であり、第6 1(2)アと同様に判断される。
したがって、甲1-1B発明において、相違点1-1-3に係る発明特定事項を満たすものとすることは当業者が容易になし得たものであるとはいえない。
よって、その他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明8は、甲1-1B発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)申立理由1-2のうち、請求項2、5、6及び8に係る部分についてのまとめ
したがって、本件特許の請求項8に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえず、また、本件特許の請求項2、5、6及び8に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項2、5、6及び8に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消すべきものであるとはいえない。
3 申立理由1-3(甲1-2に基づく進歩性)について
(1)甲1-2に記載された発明
甲1-2の第6922頁右欄末行~第6923頁左欄第2行、第6923頁図1a、第6924頁図3a、第6927頁表2に記載されている5種類のビールから、甲1-2には次の発明(以下、「甲1-2A発明」、「甲1-2B発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲1-2A発明>
「アルコール濃度が約6.5体積%であって、
3-メチルブタノールが25.6±0.7~39.8±1.3mg/L
2-メチルブタノールが42.7±0.9~59.2±1.7mg/Lであるビール。」
<甲1-2B発明>
「アルコール濃度が約6.5体積%であって、
3-メチルブタノールが25.6±0.7~39.8±1.3mg/L
2-メチルブタノールが42.7±0.9~59.2±1.7mg/Lであるビールの製造方法。」
(2)検討
ア 本件特許発明1についての対比・判断
本件特許発明1と甲1-2A発明とを対比する。
甲1-2A発明における「ビール」は、本件特許発明1における「ビールテイストアルコール飲料」に相当する。
甲1-2A発明における「2-メチルブタノールが42.7±0.9~59.2±1.7mg/L」は、本件特許発明1おける「(b)飲料中の活性アミルアルコール濃度が30~60mg/L」を満たす。
本件特許発明1と甲1-2A発明との一致点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「ビールテイストアルコール飲料であって、(b)飲料中の活性アミルアルコール濃度が30~60mg/Lを満たす、ビールテイストアルコール飲料。」
<相違点1-2-1>
本件特許発明1においてはアルコール濃度が7体積%以上であるとの特定を有するのに対して、甲1-2A発明においてはアルコール濃度が約6.5体積%である点。
<相違点1-2-2>
本件特許発明1においては(a)飲料中のイソアミルアルコール濃度が90~180mg/Lであるとの特定を有するのに対して、甲1-2A発明においては3-メチルブタノール、即ち、イソアミルアルコール濃度が25.6±0.7~39.8±1.3mg/Lであって数値範囲を満たさない点
相違点1-2-1について検討する。
甲1-2A発明において、製造されたビールテイストアルコール飲料のアルコール濃度を、約6.5体積%から7体積%以上に変更する動機がない。
そして、本件特許発明1は、アルコール濃度を7体積%以上であり、かつ、(a)飲料中のイソアミルアルコール濃度が90~180mg/L、(b)飲料中の活性アミルアルコール濃度が30~60mg/Lとの数値範囲を満たすことにより、エタノール臭および雑味が低減されたビールテイストアルコール飲料を提供することができるという顕著な効果を有するものである。
したがって、甲1-2A発明において、相違点1-2-1に係る発明特定事項を満たすものとすることは当業者が容易になし得たものであるとはいえない。
よって、その他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1-2A発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 本件特許発明2ないし6についての対比・判断
本件特許発明2ないし6は、請求項1を直接または間接的に引用して特定するものであって、請求項1に記載された発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明1と同様に判断される。
したがって、本件特許発明2ないし6は、甲1-2A発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件特許発明7についての対比・判断
本件特許発明7と甲1-2B発明とを対比する。
甲1-2B発明における「ビール」は、本件特許発明7における「ビールテイストアルコール飲料」に相当する。
また、甲1-2B発明における「2-メチルブタノールが42.7±0.9~59.2±1.7mg/L」は、本件特許発明7おける「(b)飲料中の活性アミルアルコール濃度が30~60mg/L」を満たす。
甲1-2B発明の「ビールを製造する方法。」には、本件特許発明7の「(b)」「を満たすように、製造された飲料中の」「活性アミルアルコール濃度を調整する工程を含んで」いると認められる。
そうすると、本件特許発明7と甲1-2B発明との一致点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「ビールテイストアルコール飲料の製造方法であって、(b)を満たすように、製造された飲料中の活性アミルアルコール濃度を調整する工程を含んでなる、前記製造方法
(b)飲料中の活性アミルアルコール濃度が30~60mg/Lである。」
<相違点1-2-3>
本件特許発明7においてはアルコール濃度が7体積%以上であるとの特定を有するのに対し、甲1-2B発明においてはアルコール濃度が約6.5体積%である点。
<相違点1-2-4>
本件特許発明7においては(a)飲料中のイソアミルアルコール濃度が90~180mg/Lであって、かつ、(a)を満たすように、製造された飲料中のイソアミルアルコール濃度を調整する工程を含んでなるとの特定を有するのに対し、甲1-2B発明においては、3-メチルブタノール、即ち、イソアミルアルコール濃度が25.6±0.7~39.8±1.3mg/Lであって数値範囲を満たしておらず、かつ、(a)を満たすように、製造された飲料中のイソアミルアルコール濃度を調整する工程を含むとの特定はない点。
相違点1-2-3は、相違点1-2-1と同旨であり、上記アと同様に判断される。
したがって、甲1-2B発明において、相違点1-2-3に係る発明特定事項を満たすものとすることは当業者が容易になし得たものであるとはいえない。
よって、その他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明7は、甲1-2B発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
エ 本件特許発明8についての対比・検討
本件特許発明8と甲1-2B発明とを対比する。
甲1-2B発明における「ビール」は、本件特許発明8における「ビールテイストアルコール飲料」に相当する。
また、甲1-2B発明における「2-メチルブタノールが42.7±0.9~59.2±1.7mg/L」は、本件特許発明8おける「(b)飲料中の活性アミルアルコール濃度が30~60mg/L」を満たす。
甲1-2B発明の「ビールを製造する方法。」には、本件特許発明8の「(b)」「を満たすように、製造された飲料中の」「活性アミルアルコール濃度を調整する工程を含んで」いると認められる。
そうすると、本件特許発明8と甲1-2B発明との一致点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「ビールテイストアルコール飲料において、下記(b)を満たすように、製造された飲料中の活性アミルアルコール濃度を調整する工程を含んでなる、方法
(b)飲料中の活性アミルアルコール濃度が30~60mg/Lである。」
<相違点1-2-5>
本件特許発明8においてはアルコール濃度が7体積%以上であるとの特定を有するのに対し、甲1-2B発明においてはアルコール濃度が約6.5体積%である点。
<相違点1-2-6>
本件特許発明8においては(a)飲料中のイソアミルアルコール濃度が90~180mg/Lであって、かつ、(a)を満たすように、製造された飲料中のイソアミルアルコール濃度を調整する工程を含んでなるとの特定を有するのに対し、甲1-2B発明においては、3-メチルブタノール、即ち、イソアミルアルコール濃度が25.6±0.7~39.8±1.2mg/Lであって数値範囲を満たしておらず、かつ、(a)を満たすように、製造された飲料中のイソアミルアルコール濃度を調整する工程を含むとの特定はない点。
<相違点1-2-7>
本件特許発明8は「エタノール臭および/または雑味を低減する方法」であるとの特定を有するのに対し、甲1-2B発明においてはそのような特定はない点。
相違点1-2-5は、相違点1-2-1と同旨であり、上記アと同様に判断される。
したがって、甲1-2B発明において、相違点1-2-5に係る発明特定事項を満たすものとすることは当業者が容易になし得たものであるとはいえない。
よって、その他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明8は、甲1-2B発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)申立理由1-3についてのまとめ
したがって、本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえず、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消すべきものであるとはいえない。
4 申立理由1-4(甲1-3に基づく進歩性)について
(1)甲1-3に記載された発明
甲1-3の第255頁標題、第263頁表3に記載されている酵母S.pastorianus(Frohberg)を使用したビールから、甲1-3には次の発明(以下、「甲1-3A発明」、「甲1-3B発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲1-3A発明>
「エタノール濃度が6.5体積%であって、
3-メチルブタノールが29.4mg/L
2-メチルブタノールが34.4mg/Lであるビール。」
<甲1-3B発明>
「エタノール濃度が6.5体積%であって、
3-メチルブタノールが29.4mg/L
2-メチルブタノールが34.4mg/Lであるビールの製造方法。」
(2)検討
ア 本件特許発明1についての対比・判断
本件特許発明1と甲1-3A発明とを対比する。
甲1-3A発明における「ビール」は、本件特許発明1における「ビールテイストアルコール飲料」に相当する。
甲1-3A発明における「2-メチルブタノールが34.4mg/L」は、本件特許発明1おける「(b)飲料中の活性アミルアルコール濃度が30~60mg/L」を満たす。
本件特許発明1と甲1-3A発明との一致点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「ビールテイストアルコール飲料であって、(b)飲料中の活性アミルアルコール濃度が30~60mg/Lを満たす、ビールテイストアルコール飲料。」
<相違点1-3-1>
本件特許発明1においてはアルコール濃度が7体積%以上であるとの特定を有するのに対して、甲1-3A発明においてはエタノール濃度が6.5体積%である点。
<相違点1-3-2>
本件特許発明1においては(a)飲料中のイソアミルアルコール濃度が90~180mg/Lであるとの特定を有するのに対して、甲1-3A発明においては3-メチルブタノール、即ち、イソアミルアルコール濃度が29.4mg/Lであって数値範囲を満たさない点。
相違点1-3-1について検討する。
甲1-3A発明において、製造されたビールテイストアルコール飲料のアルコール濃度を6.5体積5から7体積%以上に変更する動機はない。
そして、本件特許発明1は、アルコール濃度を7体積%以上であり、かつ、(a)飲料中のイソアミルアルコール濃度が90~180mg/L、(b)飲料中の活性アミルアルコール濃度が30~60mg/Lとの数値範囲を満たすことにより、エタノール臭および雑味が低減されたビールテイストアルコール飲料を提供することができるという顕著な効果を有するものである。
したがって、甲1-3A発明において、相違点1-3-1に係る発明特定事項を満たすものとすることは当業者が容易になし得たものであるとはいえない。
よって、その他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1-3A発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 本件特許発明2ないし6についての対比・判断
本件特許発明2ないし6は、請求項1を直接または間接的に引用して特定するものであって、請求項1に記載された発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明1と同様に判断される。
したがって、本件特許発明2ないし6は、甲1-3A発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件特許発明7についての対比・判断
本件特許発明7と甲1-3B発明とを対比する。
甲1-3B発明における「ビール」は、本件特許発明7における「ビールテイストアルコール飲料」に相当する。
また、甲1-3B発明における「2-メチルブタノールが34.3mg/L」は、本件特許発明7おける「(b)飲料中の活性アミルアルコール濃度が30~60mg/L」を満たす。
甲1-3B発明の「ビールを製造する方法。」には、本件特許発明7の「(b)」「を満たすように、製造された飲料中の」「活性アミルアルコール濃度を調整する工程を含んで」いると認められる。
本件特許発明7と甲1-3B発明との一致点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「ビールテイストアルコール飲料の製造方法であって、(b)を満たすように、製造された飲料中の活性アミルアルコール濃度を調整する工程を含んでなる、前記製造方法
(b)飲料中の活性アミルアルコール濃度が30~60mg/Lである。」
<相違点1-3-3>
本件特許発明7においてはアルコール濃度が7体積%以上であるとの特定を有するのに対し、甲1-3B発明においてはアルコール濃度が6.5体積%である点。
<相違点1-3-4>
本件特許発明7においては(a)飲料中のイソアミルアルコール濃度が90~180mg/Lであって、かつ、(a)を満たすように、製造された飲料中のイソアミルアルコール濃度を調整する工程を含んでなるとの特定を有するのに対し、甲1-3B発明においては、3-メチルブタノール、即ち、イソアミルアルコール濃度が29.4mg/Lであって数値範囲を満たしておらず、かつ、(a)を満たすように、製造された飲料中のイソアミルアルコール濃度を調整する工程を含むとの特定はない点。
相違点1-3-3は、相違点1-3-1と同旨であり、上記アと同様に判断される。
したがって、甲1-3B発明において、相違点1-3-3に係る発明特定事項を満たすものとすることは当業者が容易になし得たものであるとはいえない。
よって、その他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明7は、甲1-3B発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
エ 本件特許発明8についての対比・検討
本件特許発明8と甲1-3B発明とを対比する。
甲1-3B発明における「ビール」は、本件特許発明8における「ビールテイストアルコール飲料」に相当する。
また、甲1-3B発明における「2-メチルブタノールが34.3mg/L」は、本件特許発明8おける「(b)飲料中の活性アミルアルコール濃度が30~60mg/L」を満たす。
甲1-3B発明の「ビールを製造する方法。」には、本件特許発明8の「(b)」「を満たすように、製造された飲料中の」「活性アミルアルコール濃度を調整する工程を含んで」いると認められる。
そうすると、本件特許発明8と甲1-3B発明との一致点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「ビールテイストアルコール飲料において、下記(b)を満たすように、製造された飲料中の活性アミルアルコール濃度を調整する工程を含んでなる、方法
(b)飲料中の活性アミルアルコール濃度が30~60mg/Lである。」
<相違点1-3-5>
本件特許発明8においてはアルコール濃度が7体積%以上であるとの特定を有するのに対し、甲1-3B発明においてはアルコール濃度が6.5体積%である点。
<相違点1-3-6>
本件特許発明8においては(a)飲料中のイソアミルアルコール濃度が90~180mg/Lであって、かつ、(a)を満たすように、製造された飲料中のイソアミルアルコール濃度を調整する工程を含んでなるとの特定を有するのに対し、甲1-3B発明においては、3-メチルブタノール、即ち、イソアミルアルコール濃度が29.4mg/Lであって数値範囲を満たしておらず、かつ、(a)を満たすように、製造された飲料中のイソアミルアルコール濃度を調整する工程を含むとの特定はない点。
<相違点1-3-7>
本件特許発明8は「エタノール臭および/または雑味を低減する方法」であるとの特定を有するのに対し、甲1-3B発明においてはそのような特定はない点。
相違点1-3-5は、相違点1-3-1と同旨であり、上記アと同様に判断される。
したがって、甲1-3B発明において、相違点1-3-5に係る発明特定事項を満たすものとすることは当業者が容易になし得たものであるとはいえない。
よって、その他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明8は、甲1-3B発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)申立理由1-4についてのまとめ
したがって、本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえず、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消すべきものであるとはいえない。
5 申立理由1-5(サポート要件)及び申立理由2-2(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
以下に検討する。
(2)特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第3のとおりである。
(3)発明の詳細な説明の記載
本件特許の発明の詳細な説明【0007】ないし【0008】には、本件特許発明1ないし8の各発明特定事項について記載されている。
本件特許の発明の詳細な説明【0010】ないし【0012】にはビールテイストアルコール飲料についての記載があり、同【0013】にはビールテイストアルコール飲料のアルコール濃度について、同【0014】ないし【0017】には飲料中のイソアミルアルコール濃度及び活性アミルアルコール濃度について記載され、同【0018】にはこれらイソアミルアルコール濃度及び活性アミルアルコール濃度が所定数値範囲を満たすことによりエタノール臭及び雑味が低減されることが記載されている。
また本件特許の発明の詳細な説明【0019】ないし【0020】には、これらビールテイストアルコール飲料におけるイソアミルアルコール濃度及び活性アミルアルコール濃度を調整する方法について記載されており、同【0022】ないし【0032】には具体的な製造工程と共に実施例・比較例が記載されている。
(4)サポート要件の判断
本件特許の発明の詳細な説明【0005】~【0007】によると、本件特許発明が解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は、「アルコールに起因するエタノール臭および雑味が低減された高アルコール濃度のビールテイストアルコール飲料およびその製造方法を提供すること」である。
本件特許の発明の詳細な説明【0015】には、飲料中のイソアミルアルコール濃度は85~230mg/Lとすることができ、好ましくは100~210mg/L、より好ましくは120~200mg/L、さらに好ましくは120~180mg/Lであること、イソアミルアルコール濃度の測定は当業者に広く知られ、BCOJビール分析法(ビール酒造組合、2013年増補改訂、8.22低沸点香気成分)に記載の方法に従って測定することができることが記載されている。
また、本件特許の発明の詳細な説明【0016】には、飲料中の活性アミルアルコール濃度は27~75mg/Lとすることができ、好ましくは30~70mg/L、より好ましくは35~65mg/L、さらに好ましくは40~60mg/Lであること、活性アミルアルコール濃度の測定は当業者に広く知られ、BCOJビール分析法(ビール酒造組合、2013年増補改訂、8.22低沸点香気成分)に記載の方法に従って測定することができることが記載されている。
さらに、本件特許の発明の詳細な説明【0020】にはこれらイソアミルアルコール濃度及び活性アミルアルコール濃度は、発酵原料への高アミノ酸原料の使用、高生成株であるビール酵母の使用、ビール酵母の添加量の調整、ビール酵母発酵の温度の調整、通気の調整により調整することができ、あるいは、イソアミルアルコールおよび/または活性アミルアルコールを発酵前液および/または発酵液に添加することにより、製造飲料中のイソアミルアルコール濃度および/または活性アミルアルコール濃度を所定範囲内に調整することができることが記載されている。
そして、本件特許の発明の詳細な説明【0022】~【0032】の各試験例において、アルコール濃度6体積%および7体積%のビールテイストアルコール飲料であっても、イソアミルアルコール濃度および活性アミルアルコール濃度が所定範囲に調整されることで、エタノール臭および雑味が低減されたビールテイストアルコール飲料を実現できたことが記載されている。
そうすると、当業者は、アルコール濃度が6体積%以上のビールテイストアルコール飲料において、イソアミルアルコール濃度と活性アミルアルコール濃度が所定範囲に調整されることによって、発明の課題を解決することができると認識できる。
そして、本件特許発明1ないし8は、上記発明の課題を解決することができる特定事項を全て含み、さらに限定するものであるから、当然発明の課題を解決できるものである。
したがって、本件特許発明1ないし8は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
よって、本件特許発明1ないし8に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。
(5)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の主張について検討する。
ア 申立理由1-5 ア 及び 申立理由2-2 ア について
上記検討したとおり、本件特許発明1ないし8における発明の課題は「アルコールに起因するエタノール臭および雑味が低減された高アルコール濃度のビールテイストアルコール飲料およびその製造方法を提供すること」であり、本件特許の発明の詳細な説明には、アルコール濃度が6体積%以上のビールテイストアルコール飲料において、イソアミルアルコール濃度及び活性アミルアルコール濃度を所定数値範囲に調整することにより、エタノール臭及び雑味が低減されることが記載されている。
特許異議申立人1は、本件特許の発明の詳細な説明において製造され試験されたビールテイストアルコール飲料のサンプルとして、イソアミルアルコール濃度及び活性アミルアルコール濃度の両方を満たすものは、サンプル17,18のみであること、イソアミルアルコールと活性アミルアルコールのビールテイストアルコール飲料の香味に与える影響が記載されていないから、発明の課題を解決できないと主張するが、本件特許の発明の詳細な説明【0031】【表1】等において、イソアミルアルコール濃度と活性アミルアルコール濃度に対するエタノール臭及び雑味の低減の程度を調べて、イソアミルアルコールと活性アミルアルコールがエタノール臭及び雑味の低減に作用すること、及び、イソアミルアルコール濃度と活性アミルアルコール濃度のそれぞれの好適な数値範囲が確認されたことが当業者において理解されるように記載されているから、特許異議申立人1の主張は採用し得ない。
特許異議申立人2は、本件特許の発明の詳細な説明において製造され試験されたビールテイストアルコール飲料のサンプルが、麦又は麦芽を使用していないビールテイストアルコール飲料であることをもって、原料として麦又は麦芽を使用したビールテイストアルコール飲料では、エタノール臭及び雑味の低減という発明の課題を解決できていないことを主張するが、ビールテイストアルコール飲料の原料の種別によって、エタノール臭および雑味を低減させるためのイソアミルアルコール及び活性アミルアルコールの作用が著しく異なるという技術常識はなく、また、そのような証拠も提示されていない。よって特許異議申立人2の主張は採用し得ない。
イ 申立理由1-5 イ 及び 申立理由2-2 イ について
特許異議申立人1及び特許異議申立人2は、本件特許発明1ないし8の発明特定事項としてアルコール濃度の上限の規定がなく、本件特許の発明の詳細な説明における実施例・試験例において、イソアミルアルコール濃度及び活性アミルアルコール濃度の両方を満たすサンプル17、18ではアルコール濃度が7体積%であることから、アルコール濃度の上限の規定がない本件特許発明1ないし8は発明の課題を解決できないと主張するが、本件発明の詳細な説明【0031】【表1】対照4、対照5等でアルコール濃度が8体積%、9体積%と上昇するとエタノール臭と雑味がより強くなることが記載されており、アルコール濃度が7体積%よりも高くなったときのエタノール臭および雑味の挙動が本件特許の発明の詳細な説明において定性的に確認されている。そして、上記検討したとおり、本件特許の発明の詳細な説明【0031】【表1】等において、イソアミルアルコール濃度と活性アミルアルコール濃度に対するエタノール臭及び雑味の低減の程度を調べ、イソアミルアルコールと活性アミルアルコールがエタノール臭及び雑味の低減に作用すること、及び、イソアミルアルコール濃度と活性アミルアルコール濃度のそれぞれの好適な数値範囲も確認している。
したがって、本件特許発明1ないし8はアルコール濃度の上限値を設定しなくても、発明の詳細な説明の全体から、記載されている発明であるといえる。よって、特許異議申立人1及び特許異議申立人2の主張は採用し得ない。
(6)申立理由1-5及び申立理由2-2についてのまとめ
したがって、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、特許法第113条第4号に該当し取り消すべきものであるとはいえない。
6 申立理由2-1(甲2-1に基づく新規性・進歩性)について
(1)甲2-1に記載された発明
甲2-1の第225頁~第226頁の表中のNo.25と、第229頁No.25についての説明から、甲2-1には次の発明(以下、「甲2-1A発明」、「甲2-1B発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲2-1A発明>
「アルコール濃度が6.14g/100gであり、
イソアミルアルコールの濃度が169.6mg/Lである
ベルギーのWatney’s&Young’s醸造所で醸造されたオイリーなビール。」
<甲2-1B発明>
「アルコール濃度が6.14g/100gであり、
イソアミルアルコールの濃度が169.6mg/Lである
ベルギーのWatney’s&Young’s醸造所で醸造されたオイリーなビールを製造する方法。」
(2)判断
ア 本件特許発明1についての対比・判断
本件特許発明1と甲2-1A発明とを対比する。
甲2-1A発明における「ビール」は、本件特許発明1における「ビールテイストアルコール飲料」に相当する。
甲2-1A発明における「アルコール濃度が6.14g/100g」は、甲2-2を参考に体積%に換算すると、7.56体積%である。
よって、甲2-1A発明における「アルコール濃度が6.14g/100g」は、本件特許発明1における「アルコール濃度7体積%以上」を満たす。
特許異議申立人2が提出した甲2-5には世界の15種類のビールにおけるイソアミルアルコール濃度と活性アミルアルコール濃度を測定した結果が記載されているが、甲2-5から、原料や製造条件の異なるいかなるビールであっても、イソアミルアルコールと活性アミルアルコールの含有比率が約18~29%:約71~82%を必ず満たすとはいえないから、甲2-1A発明における「イソアミルアルコールの濃度」「169.6mg」からイソアミルアルコール濃度と活性アミルアルコール濃度のそれぞれを比率計算により求めることはできない。
そうすると、本件特許発明1と甲2-1A発明との一致点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「アルコール濃度が7体積%以上のビールテイストアルコール飲料。」
<相違点2-1-1>
本件特許発明1においては、「(a)および(b)の両方を満たす、ビールテイストアルコール飲料、(a)飲料中のイソアミルアルコール濃度が90~180mg/Lである(b)飲料中の活性アミルアルコール濃度が30~60mg/Lである。」との特定を有するのに対して、甲2-1A発明においては、イソアミルアルコールの濃度が169.6mg/Lであるが、イソアミルアルコールと活性アミルアルコールそれぞれの濃度については特定されていない点。
本件特許発明1と甲2-1A発明とは、相違点2-1-1の点で相違する。よって、本件特許発明1は甲2-1A発明ではない。
また、甲2-1においては、イソアミルアルコール濃度と活性アミルアルコール濃度とを区別して記載した箇所はないから、甲2-1A発明において、イソアミルアルコール濃度を90~180mg/Lとし、活性アミルアルコール濃度が30~60mg/Lとすることに対する契機はない。
そして、本件特許発明1は、アルコール濃度を7体積%以上であり、かつ、(a)飲料中のイソアミルアルコール濃度が90~180mg/L、(b)飲料中の活性アミルアルコール濃度が30~60mg/Lとの数値範囲を満たすことにより、エタノール臭および雑味が低減されたビールテイストアルコール飲料を提供することができるという顕著な効果を有するものである。
したがって、甲2-1A発明において、相違点2-1-1に係る発明特定事項を満たすものとすることは当業者が容易になし得たものであるとはいえない。
よって、本件特許発明1は、甲2-1A発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 本件特許発明2ないし6についての対比・判断
本件特許発明2ないし6は、請求項1を直接または間接的に引用して特定するものであって、請求項1に記載された発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明1と同様に判断される。
したがって、本件特許発明4ないし6は、甲2-1A発明ではなく、本件特許発明2ないし6は、甲2-1A発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件特許発明7についての対比・判断
本件特許発明7と甲2-1B発明とを対比する。
甲2-1B発明における「ビール」は、本件特許発明7における「ビールテイストアルコール飲料」に相当する。
甲2-1B発明における「アルコール濃度が6.14g/100g」は、甲2-2を参考に体積%に換算すると、7.56体積%である。よって、甲2-1B発明における「アルコール濃度が6.14g/100g」は、本件特許発明7における「アルコール濃度7体積%以上」を満たす。
特許異議申立人2が提出した甲2-5には世界の15種類のビールにおけるイソアミルアルコール濃度と活性アミルアルコール濃度を測定した結果が記載されているが、甲2-5から、原料や製造条件が異なるいかなるビールであっても、イソアミルアルコールと活性アミルアルコールの含有比率が約18~29%:約71ないし82%を必ず満たすとはいえないから、甲2-1B発明における「イソアミルアルコールの濃度」「169.6mg」からイソアミルアルコール濃度と活性アミルアルコール濃度のそれぞれを比率計算により求めることはできない。
そうすると、本件特許発明7と甲2-1B発明との一致点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「アルコール濃度が7体積%以上のビールテイストアルコール飲料の製造方法。」
<相違点2-1-2>
本件特許発明7においては、「(a)および(b)の両方を満たすように、製造された飲料中のイソアミルアルコール濃度および/または活性アミルアルコール濃度を調整する工程を含んでなる、前記製造方法(a)飲料中のイソアミルアルコール濃度が90~180mg/Lである(b)飲料中の活性アミルアルコール濃度が30~60mg/Lである。」との特定を有するのに対して、甲2-1B発明においては、そのような特定はない点。
本件特許発明7と甲2-1B発明とは、相違点2-1-2の点で相違するから、本件特許発明7は甲2-1B発明ではない。
相違点2-1-2は、相違点2-1-1と同旨であり、上記アと同様に判断される。
したがって、甲2-1B発明において、相違点2-1-2に係る発明特定事項を満たすものとすることは当業者が容易になし得たものであるとはいえない。
よって、本件特許発明7は、甲2-1B発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
エ 本件特許発明8についての対比・検討
本件特許発明8と甲2-1B発明とを対比する。
甲2-1B発明における「ビール」は、本件特許発明8における「ビールテイストアルコール飲料」に相当する。
甲2-1B発明における「アルコール濃度が6.14g/100g」は、甲2-2を参考に体積%に換算すると、7.56体積%である。よって、甲2-1B発明における「アルコール濃度が6.14g/100g」は、本件特許発明8における「アルコール濃度7体積%以上」を満たす。
特許異議申立人2が提出した甲2-5には世界の15種類のビールにおけるイソアミルアルコール濃度と活性アミルアルコール濃度を測定した結果が記載されているが、甲2-5から、原料や製造条件が異なるいかなるビールであっても、イソアミルアルコールと活性アミルアルコールの含有比率が約18~29%:約71ないし82%を必ず満たすとはいえないから、甲2-1B発明における「イソアミルアルコールの濃度」「169.6mg」からイソアミルアルコール濃度と活性アミルアルコール濃度のそれぞれを比率計算により求めることはできない。
そうすると、本件特許発明8と甲2-1B発明との一致点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「アルコール濃度が7体積%以上のビールテイストアルコール飲料の方法。」
<相違点2-1-3>
本件特許発明8においては、「(a)および(b)の両方を満たすように、製造された飲料中のイソアミルアルコール濃度および/または活性アミルアルコール濃度を調整する工程を含んで」なり、「(a)飲料中のイソアミルアルコール濃度が90~180mg/Lである(b)飲料中の活性アミルアルコール濃度が30~60mg/Lである。」との特定を有するのに対して、甲2-1B発明においては、そのような特定はない点。
<相違点2-1-4>
本件特許発明8においては、「エタノール臭および/または雑味を低減する」方法との特定を有するのに対して、甲2-1B発明においては、そのような特定はない点。
本件特許発明8と甲2-1B発明とは、相違点2-1-3及び相違点2-1-4の点で相違するから、本件特許発明8は甲2-1B発明ではない。
相違点2-1-3は、相違点2-1-1と同旨であり、上記アと同様に判断される。
したがって、甲2-1B発明において、相違点2-1-3に係る発明特定事項を満たすものとすることは当業者が容易になし得たものであるとはいえない。
よって、その他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明8は、甲2-1B発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)申立理由2-1についてのまとめ
したがって、本件特許発明1、4ないし8は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、本件特許発明1ないし8は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許発明1ないし8は特許法第113条第2項に該当し取り消すべきものであるとはいえない。
7 申立理由2-4(明確性)について
(1)明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけでなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を参酌し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
そこで、検討する。
(2)明確性要件の判断
本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし8の記載自体に不明瞭な記載はなく、本件特許の発明の詳細な説明とも整合する。
したがって、願書に添付した明細書の記載を考慮し、また、当業者の出願時の技術常識を基礎とすれば、本件特許発明1ないし8に関し、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
よって、本件特許発明1ないし8は明確である。
(3)特許異議申立人2の主張について
申立理由2-4における特許異議申立人2の主張は、活性アミルアルコール濃度の測定方法は、本件特許の発明の詳細な説明【0015】に「BOCJビール分析法(ビール酒造組合、2013増補改訂、8.22 低沸点香気成分)」で測定できる旨記載されているところ、当該「BOCJビール分析法(ビール酒造組合、2013増補改訂、8.22 低沸点香気成分)」には活性アミルアルコールに関し記載がないというものである。
特許権者が令和 5年 1月30日に提出した意見書に添付された乙第1号証「”BOCJビール分析法”の2015年度,新設分析法」(ビール酒造組合国際技術委員会)には、分析対象として活性アミルアルコールが追加されていることが確認される。
したがって、本件特許の請求項1ないし8における活性アミルアルコール濃度の測定方法が不明であるということはないから、本件特許発明1ないし8は明確である。
(4)申立理由2-4についてのまとめ
したがって、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、特許法第113条第4号に該当し取り消すべきものであるとはいえない。
第8 結語
以上のとおり、本件特許発明1ないし8は、取消理由及び特許異議申立書に記載した申立理由によって取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700783