特許異議申立
2023-701348
ハードコートフィルム
- 審判番号
- 2023-701348
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-183890
- 登録番号
- 7295769
- 請求日
- 2023年12月20日
- 審決日
- 2025年01月28日
- 公報発行日
- 2025年05月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】アイカ工業株式会社
- 【異議申立人】藤江 桂子
- 審判長/審判官
- 審判長 筑波 茂樹
- 審判官 藤井 眞吾
- 審判官 木原 裕二
- 分類
- P1651.121-YAA(B32B) / P1651.537-YAA(B32B) / P1651.113-YAA(B32B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7295769号発明「ハードコートフィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7295769号の明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。
特許第7295769号の請求項1、6に係る特許を維持する。
特許第7295769号の請求項2~5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7295769号の請求項1~6に係る特許についての出願は、令和元年10月4日の出願であって、令和5年6月13日にその特許権の設定登録がされ、令和5年6月21日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての手続の経緯の概略は、次のとおりである。
令和5年12月20日 :特許異議申立人藤江桂子(以下「申立人」という。)による請求項1~6に係る特許に対する特許異議の申立て
令和6年 3月15日付け:取消理由通知書
令和6年 4月22日 :特許権者による訂正請求書及び意見書の提出
令和6年 5月24日 :特許権者による訂正請求書を対象とする手続補正書(令和6年5月20日付け)の提出
令和6年 7月10日 :申立人による意見書の提出
令和6年 8月29日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和6年 9月20日 :特許権者による訂正請求書及び意見書の提出
令和6年10月21日 :特許権者による訂正請求書を対象とする手続補正書の提出
なお、令和6年4月22日にされた訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
また、当審から令和6年10月29日付けで申立人に対して訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)を、期間を指定して行ったが、当該期間内に申立人からは応答がなかった。
第2 本件訂正請求の適否
1 訂正の内容
令和6年10月21日に提出された手続補正書により補正された令和6年9月20日の訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」といい、訂正自体を「本件訂正」という。
本件訂正の内容は、訂正箇所に下線を付して示すと、次のとおりである。
(1)訂正事項1
本件訂正前の請求項1に記載された
「透明基材フィルムの少なくとも一方の面に第一のハードコート層を有し、更にその上に第二のハードコート層を有するハードコートフィルムであり、
前記第一のハードコート層は6官能未満のEO変性(メタ)アクリレート(A)と、反応性ナノシリカ(B)と、光重合開始剤(C)を含み、
前記第二のハードコート層は多官能ウレタン(メタ)アクリレート(D)と、光重合開始剤(C)を含むことを特徴とするハードコートフィルム。」を、
「透明基材フィルムの少なくとも一方の面に第一のハードコート層を有し、更にその上に第二のハードコート層を有するハードコートフィルムであり、
前記第一のハードコート層はEO変性ジグリセリンテトラアクリレート(A)と、反応性ナノシリカ(B)と、光重合開始剤(C)を含み、
前記(B)の平均粒子径は5~200nmで、固形分全量に対する配合量は25~65重量%であり、
前記第二のハードコート層は10官能以下の多官能ウレタン(メタ)アクリレート(D)と、光重合開始剤(C)を含むことを特徴とするハードコートフィルム。」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項6も同様に訂正する)。
(2)訂正事項2
本件訂正前の請求項2を削除する。
(3)訂正事項3
本件訂正前の請求項3を削除する。
(4)訂正事項4
本件訂正前の請求項4を削除する。
(5)訂正事項5
本件訂正前の請求項5を削除する。
(6)訂正事項6
本件訂正前の請求項6に記載された「請求項1~5いずれか記載のハードコートフィルム」を、「請求項1記載のハードコートフィルム」に訂正する。
(7)訂正事項7
本件訂正前の明細書の【0007】に記載された
「請求項1記載の発明は、透明基材フィルムの少なくとも一方の面に第一のハードコート層を有し、更にその上に第二のハードコート層を有するハードコートフィルムであり、
前記第一のハードコート層は6官能未満のEO変性(メタ)アクリレート(A)と、反応性ナノシリカ(B)と、光重合開始剤(C)を含み、
前記第二のハードコート層は多官能ウレタン(メタ)アクリレート(D)と、光重合開始剤(C)を含むことを特徴とするハードコートフィルムを提供する。」を、
「請求項1記載の発明は、透明基材フィルムの少なくとも一方の面に第一のハードコート層を有し、更にその上に第二のハードコート層を有するハードコートフィルムであり、
前記第一のハードコート層はEO変性ジグリセリンテトラアクリレート(A)と、反応性ナノシリカ(B)と、光重合開始剤(C)を含み、
前記(B)の平均粒子径は5~200nmで、固形分全量に対する配合量は25~65重量%であり、
前記第二のハードコート層は10官能以下の多官能ウレタン(メタ)アクリレート(D)と、光重合開始剤(C)を含むことを特徴とするハードコートフィルムを提供する。」に訂正する。
(8)訂正事項8
本件訂正前の明細書の【0008】を削除する。
(9)訂正事項9
本件訂正前の明細書の【0009】を削除する。
(10)訂正事項10
本件訂正前の明細書の【0010】を削除する。
(11)訂正事項11
本件訂正前の明細書の【0011】を削除する。
(12)訂正事項12
本件訂正前の明細書の【0012】に記載された
「請求項6記載の発明は、フォルダブルディスプレイ用途のタッチパネルに用いることを特徴とする請求項1~5いずれか記載のハードコートフィルムを提供する。」を、
「請求項6記載の発明は、フォルダブルディスプレイ用途のタッチパネルに用いることを特徴とする請求項1記載のハードコートフィルムを提供する。」に訂正する。
2 一群の請求項
本件訂正前の請求項1~6は、請求項2~6が、本件訂正請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項〔1~6〕について請求されている。
また、明細書に係る訂正事項7~12に係る訂正は、一群の請求項〔1~6〕について請求されたものである。
3 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1の「第一のハードコート層」が含む「EO変性(メタ)アクリレート(A)」、「第一のハードコート層」が含む「反応性ナノシリカ(B)」、「第二のハードコート層」が含む「多官能ウレタン(メタ)アクリレート(D)」を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項1は、本件特許の明細書の【0019】、【0023】、【0040】、【0041】の記載に基づくものであるから、本件特許の願書に添付した明細書及び特許請求の範囲(以下「本件特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてするものである。
また、訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に係る発明の発明特定事項をさらに限定するものであり、また、発明のカテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2~5について
訂正事項2~5は、本件訂正前の請求項2~5を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項6について
訂正事項6は、本件訂正前の請求項6について、訂正事項2~5によって請求項2~5が削除されたことに伴い、引用する請求項の数を減少させ、また、訂正事項2~5によって削除された請求項2~5を引用しているという不明瞭な状態を解消させるものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項6は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)訂正事項7~12について
訂正事項7~12は、訂正事項1~6に係る特許請求の範囲の訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載の整合を図るための明細書の訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項7~12は、訂正事項1、6で検討したのと同様に、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
4 訂正請求についてのむすび
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり本件訂正請求が認められたことから、本件特許の請求項1、6に係る発明(以下「本件発明1」等という。また、本件発明1、6を「本件発明」と総称することもある。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1、6に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1、6の記載は、次のとおりである。
【請求項1】
透明基材フィルムの少なくとも一方の面に第一のハードコート層を有し、更にその上に第二のハードコート層を有するハードコートフィルムであり、
前記第一のハードコート層はEO変性ジグリセリンテトラアクリレート(A)と、反応性ナノシリカ(B)と、光重合開始剤(C)を含み、
前記(B)の平均粒子径は5~200nmで、固形分全量に対する配合量は25~65重量%であり、
前記第二のハードコート層は10官能以下の多官能ウレタン(メタ)アクリレート(D)と、光重合開始剤(C)を含むことを特徴とするハードコートフィルム。
【請求項6】
フォルダブルディスプレイ用途のタッチパネルに用いることを特徴とする請求項1記載のハードコートフィルム。
第4 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1~6に係る特許に対して、当審が特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
取消理由2(進歩性)
本件特許の請求項1、3~6に係る発明は、下記甲第2号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、3~6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
取消理由3(サポート要件)
本件特許の請求項1~6に係る発明は、課題解決手段を発明特定事項として有しておらず、発明の詳細な説明に記載したものでないから、本件特許の特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に適合しないため、請求項1~6に係る特許は、同条第6項に規定に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
<引用文献等一覧>
甲第2号証:国際公開第2018/037489号(以下「甲2」という。)
甲第4号証:特開2016-172422号公報(以下「甲4」という。)
第5 当審の判断
1 引用文献の記載事項
(1)甲2
ア 甲2に記載された事項
甲2には次の記載がある。
「技術分野
[0001] 本発明は、基材フィルムとハードコート層とを備えたハードコートフィルムに関するものであり、特に、フレキシブルディスプレイへの使用に好適なハードコートフィルムに関するものである。」
「発明が解決しようとする課題
[0006] しかしながら、上記のような用途のフレキシブルディスプレイに従来のハードコートフィルムを使用すると、繰り返し屈曲させた部分に屈曲跡ができたり白化したりして、外観が低下するとともに、ディスプレイとしての視認性が低下するという問題が生じる。
[0007] また、上記のような繰り返しの屈曲に耐え得る耐屈曲性を追求する場合、使用する基材フィルムの種類等により、黄色味等の着色や透明性などの光学特性が問題となる。そして、これを改善するため、基材フィルムの膜厚を低減する場合、ハードコートフィルム全体に占めるハードコート層の割合が相対的に大きくなり、ハードコートフィルム形成時にカール発生の問題が生じる。
[0008] 一方、ハードコートフィルムには、種々の要因により干渉縞が生じることがある。ハードコートフィルムに干渉縞が生じると、やはり外観が低下するとともに、ディスプレイとしての視認性が低下するという問題が生じる。
[0009] 本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、繰り返しの屈曲に耐え得る耐屈曲性を有するとともに、カールが発生し難く、さらには干渉縞が生じ難いハードコートフィルムを提供することを目的とする。」
「[0015] 上記発明(発明1~4)においては、前記第1のハードコート層の屈折率が、1.40以上、1.80以下であることが好ましい(発明5)。」
「[0027] 干渉縞の発生抑制の観点から、第1のハードコート層3の屈折率と第2のハードコート層4の屈折率との差は、絶対値で0.02以下であることが好ましく、特に0.01以下であることが好ましい。」
「[0040](1-2)第1のハードコート層
本実施形態に係るハードコートフィルム1の第1のハードコート層3は、基材フィルム2の一方の主面側(図1における上側)に積層され、前述した通り、第2のハードコート層4とともに干渉縞の発生を抑制する作用および耐擦傷性を発揮する。
[0041] 第1のハードコート層3の材料は、第2のハードコート層4の屈折率との屈折率差が前述した範囲にあり、第2のハードコート層4とともに所望の耐擦傷性を発揮するものであれば、特に限定されない。かかる第1のハードコート層3は、活性エネルギー線硬化性成分を含有する組成物を硬化させた材料からなることが好ましく、特に、第2のハードコート層4よりも柔らかい材料からなることが好ましい。具体的には、アルキレンオキシドによって変性された活性エネルギー線硬化性成分を含有する組成物を硬化させた材料からなることが好ましい。第1のハードコート層3を第2のハードコート層4よりも柔らかい材料から構成することにより、耐屈曲性に優れたものとなる。さらに、第1のハードコート層3の硬化収縮量が小さくなり、第1のハードコート層3および第2のハードコート層4の合計厚さが比較的厚くても、ハードコートフィルム1の製造時に発生するカールを抑制することができる。
[0042](1-2-1)活性エネルギー線硬化性成分
活性エネルギー線硬化性成分としては、多官能性(メタ)アクリレート系モノマー、(メタ)アクリレート系プレポリマー、活性エネルギー線硬化性ポリマー等が挙げられるが、中でも多官能性(メタ)アクリレート系モノマーおよび/または(メタ)アクリレート系プレポリマーであることが好ましく、多官能性(メタ)アクリレート系モノマーであることがより好ましい。多官能性(メタ)アクリレート系モノマーおよび(メタ)アクリレート系プレポリマーは、それぞれ単独で使用してもよいし、両者を併用してもよい。なお、本明細書において、(メタ)アクリレートとは、アクリレートおよびメタクリレートの両方を意味する。他の類似用語も同様である。
[0043] 多官能性(メタ)アクリレート系モノマーとしては、例えば、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジシクロペンテニルジ(メタ)アクリレート、リン酸ジ(メタ)アクリレート、アリル化シクロヘキシルジ(メタ)アクリレート、イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、それらのアルキレンオキシド変性物等の多官能性(メタ)アクリレートが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
[0044] 上記の中でも、得られるハードコートフィルムの耐屈曲性およびカール抑制の観点から、アルキレンオキシドによって変性された多官能(メタ)アクリレート系モノマーが好ましい。例えば、具体的には、アルキレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、アルキレンオキシド変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートおよびアルキレンオキシド変性ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートが好ましく、特に、エチレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートおよびプロピレンオキシド変性ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートが好ましく、さらには、エチレンオキシド変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートおよびエチレンオキシド変性ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートが好ましく挙げられる。アルキレンオキシドによって変性された多官能性(メタ)アクリレートは、架橋点間距離が長くなり、硬化後に比較的柔らかい物性を呈し、硬化収縮量が小さいものとなる。第1のハードコート層3がかかる材料から構成されることにより、第1のハードコート層3および第2のハードコート層4の合計厚さが比較的厚くても、耐屈曲性に優れ、さらには、ハードコートフィルム1の製造時に発生するカールが効果的に抑制される。
[0045] 多官能性(メタ)アクリレートに対するアルキレンオキシドの導入量は、多官能性(メタ)アクリレート1モルに対して2モル以上であることが好ましく、特に6モル以上であることが好ましく、さらには20モル以上であることが好ましい。また、当該導入量は、50モル以下であることが好ましく、特に45モル以下であることが好ましく、さらには40モル以下であることが好ましい。アルキレンオキシドの導入量が2モル以上であることにより、当該アルキレンオキシド変性多官能性(メタ)アクリレートの硬化収縮量がより小さいものとなる。また、アルキレンオキシドの導入量が50モル以下であることにより、当該アルキレンオキシド変性多官能性(メタ)アクリレートを硬化させた際に、所望の硬度が得られる。
[0046] また、活性エネルギー線硬化性成分中におけるアルキレンオキシド変性多官能性(メタ)アクリレートの割合は、耐屈曲性とカール抑制の観点から、30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることが特に好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。なお、当該割合は、100質量%であっても構わない。
[0047] 一方、(メタ)アクリレート系プレポリマーとしては、例えば、ポリエステルアクリレート系、エポキシアクリレート系、ウレタンアクリレート系、ポリオールアクリレート系等のプレポリマーが挙げられる。
[0048] ポリエステルアクリレート系プレポリマーとしては、例えば、多価カルボン酸と多価アルコールの縮合によって得られる両末端に水酸基を有するポリエステルオリゴマーの水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより、あるいは、多価カルボン酸にアルキレンオキシドを付加して得られるオリゴマーの末端の水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。
[0049] エポキシアクリレート系プレポリマーは、例えば、比較的低分子量のビスフェノール型エポキシ樹脂やノボラック型エポキシ樹脂のオキシラン環に、(メタ)アクリル酸を反応しエステル化することにより得ることができる。
[0050] ウレタンアクリレート系プレポリマーは、例えば、ポリエーテルポリオールやポリエステルポリオールとポリイソシアネートの反応によって得られるポリウレタンオリゴマーを、(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。
[0051] ポリオールアクリレート系プレポリマーは、例えば、ポリエーテルポリオールの水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。
[0052] 以上のプレポリマーは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
[0053](1-2-2)光重合開始剤
第1のハードコート層3が、活性エネルギー線硬化性成分を含有する組成物を硬化させた材料からなる場合において、活性エネルギー線として紫外線を用いる場合には、当該組成物は、光重合開始剤を含有することが好ましい。このように光重合開始剤を含有することにより、活性エネルギー線硬化性成分を効率良く重合させることができ、また重合硬化時間および紫外線の照射量を少なくすることができる。
・・・
[0055] 組成物中における光重合開始剤の含有量は、活性エネルギー線硬化性成分100質量部に対して、下限値として0.01質量部以上であることが好ましく、特に0.1質量部以上であることが好ましく、さらには1質量部以上であることが好ましい。また、上限値として20質量部以下であることが好ましく、特に10質量部以下であることが好ましく、さらには5質量部以下であることが好ましい。
[0056](1-2-3)シリカナノ粒子
第1のハードコート層3を構成する組成物は、シリカナノ粒子を含有してもよい。これにより、第1のハードコート層3の硬化収縮量をより小さくすることができる。
・・・
[0058] シリカナノ粒子は、通常は表面にシラノール基を有しており、当該シラノール基によって、極性の低い有機溶剤や樹脂への分散性が低下する場合がある。このシリカナノ粒子は、分散性向上等を目的として、有機物によって修飾されてもよい。また、シリカナノ粒子は、オルガノゾル(コロイド状)の形態で使用することが好ましい。オルガノゾルの形態で使用することにより、シリカナノ粒子の分散性が良好になり、得られる第1のハードコート層3の均質性および光透過性が向上する。
[0059] 有機物による修飾は、常法によって行うことができる。例えば、CH2=C(CH3)COO(CH2)3Si(OCH3)3のような構造のシランカップリング剤をシリカナノ粒子のオルガノゾルに加え、50℃程度に加温して数時間攪拌することにより、シリカ粒子の表面を修飾することができる。使用するシランカップリング剤の構造や量は、シリカナノ粒子の分散性の要求度合に応じて適宜選択される。」
「[0066](1-3)第2のハードコート層
本実施形態に係るハードコートフィルム1の第2のハードコート層4は、ハードコートフィルム1に高い表面硬度を付与し、耐擦傷性を優れたものにする。この第2のハードコート層4は、第1のハードコート層3の屈折率と前述した関係を満たし、所定の硬度を有するものであれば特に限定されない。かかる第2のハードコート層4は、活性エネルギー線硬化性成分を含有する組成物を硬化させた材料からなることが好ましく、特に、より優れた耐擦傷性を得る観点から、アルキレンオキシドによって変性されていない活性エネルギー線硬化性成分を含有する組成物を硬化させた材料からなることが好ましい。
[0067] 活性エネルギー線硬化性成分としては、第1のハードコート層3に使用される前述の活性エネルギー線硬化性成分と同様のものを使用することができる。ただし、アルキレンオキシドによって変性されていない活性エネルギー線硬化性成分を使用することが好ましい。具体的には、アルキレンオキシドによって変性されていない多官能性(メタ)アクリレート、ウレタンアクリレート系プレポリマー、それらの混合物等が好ましく、特に、耐擦傷性を損なうことなく耐屈曲性を得る観点から、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等の脂肪族系多官能(メタ)アクリレート、ウレタンアクリレート系プレポリマー、もしくはそれらの混合物等が好ましい。
・・・
[0069] 活性エネルギー線硬化性成分の硬化のために照射する活性エネルギー線として紫外線を用いる場合には、上記組成物は光重合開始剤を含有することが好ましい。光重合開始剤としては、第1のハードコート層3に使用される前述の光重合開始剤と同様のものを使用することができる。」
「[0110]〔実施例1〕
活性エネルギー線硬化性成分としてのエチレンオキシド変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(エチレンオキシド12モル導入)100質量部(固形分換算;以下同じ)と、光重合開始剤としての1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン5質量部とを、メチルイソブチルケトンおよびシクロヘキサノンを1:1の質量比で混合した混合溶媒中にて撹拌混合して、第1のハードコート層用組成物の塗工液を得た。
[0111] また、活性エネルギー線硬化性成分としてのジペンタエリスリトールヘキサアクリレート40質量部と、フィラーとしての反応性シリカフィラー(平均粒径:15nm)60質量部と、光重合開始剤としての1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン10質量部との混合物を、メチルイソブチルケトンおよびシクロヘキサノンを1:1の質量比で混合した混合溶媒中にて撹拌して、第2のハードコート層用組成物の塗工液を得た。
[0112] 次いで、製造例1で得られた、基材フィルムとしてのポリイミドフィルムの片面に、マイヤーバーを使用して上記第1のハードコート層用組成物の塗工液を塗工し、70℃で1分間加熱乾燥させて、第1のハードコート層用組成物の塗膜を形成した。そして、第1のハードコート層用組成物の塗膜側から、以下の条件で紫外線を照射することにより、第1のハードコート層用組成物の塗膜を硬化させて、厚さ5μmの第1のハードコート層を形成した。
[0113] 次いで、得られた第1のハードコート層上に、上記第2のハードコート層用組成物の塗工液を塗工し、70℃で1分間加熱乾燥させて、第2のハードコート層用組成物の塗膜を形成した。そして、第2のハードコート層用組成物の塗膜側から、以下の条件で紫外線を照射することにより、第2のハードコート層組成物の塗膜を硬化させて、厚さ5μmの第2のハードコート層を形成した。これにより、基材フィルムとしてのポリイミドフィルム(厚さ25μm)上に、第1のハードコート層(厚さ:5μm)および第2のハードコート層(厚さ:5μm)が順に形成されたハードコートフィルムを得た。
<紫外線照射条件>
・紫外線照射装置:ジーエスユアサコーポレーション社製紫外線照射装置
・光源:高圧水銀灯
・ランプ電力:1.4kW
・照度:100mW/cm2
・光量:240mJ/cm2
・コンベアスピード:1.2m/min
・窒素雰囲気下にて紫外線照射(酸素濃度1%以下)
[0114]〔実施例2~5,比較例1~6〕
第1のハードコート層用組成物および第2のハードコート層用組成物を構成する各成分の種類および配合比、第1のハードコート層および第2のハードコート層の厚さ、ならびに基材フィルムの種類および厚さを表1に示すように変更する以外、実施例1と同様にしてハードコートフィルムを製造した。
[0115] ここで、第1のハードコート層の厚さおよび第2のハードコート層の厚さの合計厚さを計算し、表1に示した。
[0116] なお、表1に記載の略号等の詳細は以下の通りである。
A:エチレンオキシド変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(エチレンオキシド12モル導入)
B:エチレンオキシド変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(エチレンオキシド6モル導入)
C:エチレンオキシド変性ペンタエリスリトールテトラアクリレート(エチレンオキシド35モル導入)
D:ビニルエステル樹脂(日立化成社製,製品名「ヒタロイド7663」)
E:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート
F:シリカナノ粒子(シリカゾル)(日産化学工業社製,製品名「MIBK-ST」,平均粒径:10nm)
G:1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン
H:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート40質量部、反応性シリカフィラー(平均粒径:15nm)60質量部および1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン10質量部の混合物
I:6官能のウレタンアクリレート系プレポリマー50質量部、ペンタエリスリトールテトラアクリレート50質量部および1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン10質量部の混合物
[0117] また、表2に記載の略号等の詳細は以下の通りである。
PI:ポリイミドフィルム
PET:ポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱樹脂社製,製品名「ダイヤホイルT-60」,厚さ:50μm)」
「[0131]
[表1]
[図:0001422404000001.jpg]
[0132][表2]
[図:0001422404000002.jpg]
」
「[請求項1] 基材フィルムと、前記基材フィルムの少なくとも一方の主面側に積層された第1のハードコート層と、前記第1のハードコート層における前記基材フィルム側とは反対の主面側に積層された第2のハードコート層とを備えたハードコートフィルムであって、
前記基材フィルムがポリイミドフィルムであり、
前記第1のハードコート層および前記第2のハードコート層が、互いに異なる材料からなり、
前記第1のハードコート層の屈折率と前記第2のハードコート層の屈折率との差が、絶対値で0.04以下であり、
前記第1のハードコート層の厚さおよび前記第2のハードコート層の厚さの合計が、7μm以上、35μm以下である
ことを特徴とするハードコートフィルム。」
イ 甲2に記載された発明
上記アから、甲2には、特に実施例5に着目し、[請求項1]の記載に沿って整理すると、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されている。
「基材フィルムと、前記基材フィルムの一方の主面側に積層された第1のハードコート層と、前記第1のハードコート層における前記基材フィルム側とは反対の主面側に積層された第2のハードコート層とを備えたハードコートフィルムであって、
前記基材フィルムがポリイミドフィルムであり、
前記第1のハードコート層および前記第2のハードコート層が、互いに異なる材料からなり、
前記第1のハードコート層の屈折率と前記第2のハードコート層の屈折率との差が、絶対値で-0.01以下であり、
前記第1のハードコート層の厚さおよび前記第2のハードコート層の厚さの合計が、13μmであり、
前記第1のハードコート層は、活性エネルギー線硬化性成分としてのエチレンオキシド変性ペンタエリスリトールテトラアクリレート(エチレンオキシド35モル導入)と光重合開始剤としての1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを含む第1のハードコート層用組成物からなり、
前記第2のハードコート層は、活性エネルギー線硬化性成分としてのジペンタエリスリトールヘキサアクリレートと、フィラーとしての反応性シリカフィラーと、光重合開始剤としての1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを含む第2のハードコート層用組成物からなる
ハードコートフィルム。」
(2)甲4
甲4には次の記載がある。
「【0001】
本発明は、ハードコート積層フィルムに関する。更に詳しくは、透明性、色調、耐擦傷性、表面硬度、耐曲げ性、及び表面外観に優れたハードコート積層フィルムに関する。」
「【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のハードコート積層フィルムは、表面側から順に第1ハードコート、第2ハードコート、及び透明樹脂フィルムの層を有する。」
「【0043】
第2ハードコート:
上記第2ハードコートは、(A)多官能(メタ)アクリレート 100質量部;及び(D)平均粒子径1~300nmの無機微粒子 50~300質量部;を含む塗料からなる。
【0044】
上記(A)多官能(メタ)アクリレートについては、第1ハードコート形成用塗料の説明において上述した。上記成分(A)としては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0045】
(D)平均粒子径 1~300nmの無機微粒子:
上記成分(D)は、本発明のハードコート積層フィルムの硬度を飛躍的に高める働きをする。
【0046】
無機微粒子としては、例えば、シリカ(二酸化珪素);酸化アルミニウム、ジルコニア、チタニア、酸化亜鉛、酸化ゲルマニウム、酸化インジウム、酸化スズ、インジウムスズ酸化物、酸化アンチモン、及び酸化セリウム等の金属酸化物微粒子;弗化マグネシウム、及び弗化ナトリウム等の金属弗化物微粒子;金属硫化物微粒子;金属窒化物微粒子;及び金属微粒子;などをあげることができる。
【0047】
これらの中でより表面硬度の高いハードコートを得るためにシリカや酸化アルミニウムの微粒子が好ましく、シリカの微粒子がより好ましい。シリカ微粒子の市販品としては、日産化学工業株式会社のスノーテックス(商品名)、扶桑化学工業株式会社のクォートロン(商品名)などをあげることができる。
【0048】
無機微粒子の塗料中での分散性を高めたり、得られるハードコートの表面硬度を高めたりする目的で、当該無機微粒子の表面をビニルシラン、及びアミノシラン等のシラン系カップリング剤;チタネート系カップリング剤;アルミネート系カップリング剤;(メタ)アクリロイル基、ビニル基、及びアリル基等のエチレン性不飽和結合基やエポキシ基などの反応性官能基を有する有機化合物;及び脂肪酸、脂肪酸金属塩等の表面処理剤などにより処理したものを用いることは好ましい。」
2 取消理由2について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
一般にポリイミドフィルムは透明であるから、甲2発明の「ポリイミドフィルムであ」る「基材フィルム」は本件発明1の「透明基材フィルム」に相当する。
甲2発明の「第1のハードコート層」は本件発明1の「第一のハードコート層」に相当し、同様に「第2のハードコート層」は「第二のハードコート層」に、「ハードコートフィルム」は「ハードコートフィルム」に相当する。
甲2発明の「活性エネルギー線硬化性成分としてのエチレンオキシド変性ペンタエリスリトールテトラアクリレート(エチレンオキシド35モル導入)」と本件発明1の「EO変性ジグリセリンテトラアクリレート(A)」とは、EO変性(メタ)アクリレート(A)の限りで一致する。
甲2発明の「光重合開始剤としての1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン」は本件発明1の「光重合開始剤(C)」に相当する。
そうすると、甲2発明と本件発明1との一致点及び相違点は、次のとおりである。
「一致点」
透明基材フィルムの少なくとも一方の面に第一のハードコート層を有し、更にその上に第二のハードコート層を有するハードコートフィルムであり、
前記第一のハードコート層は4官能以上6官能未満のEO変性(メタ)アクリレート(A)と、光重合開始剤(C)を含み、
前記第二のハードコート層は光重合開始剤(C)を含むハードコートフィルム。
[相違点1]
EO変性(メタ)アクリレート(A)に関して、本件発明1は「EO変性ジグリセリンテトラアクリレート(A)」であるのに対して、甲2発明は「活性エネルギー線硬化性成分としてのエチレンオキシド変性ペンタエリスリトールテトラアクリレート(エチレンオキシド35モル導入)」である点。
[相違点2]
本件発明1の「第一のハードコート層」は「反応性ナノシリカ(B)」を含み、「前記(B)の平均粒子径は5~200nmで、固形分全量に対する配合量は25~65重量%であ」るのに対して、甲2発明の「第1のハードコート層」はそのようなシリカを含まない点。
[相違点3]
本件発明1の「第二のハードコート層」は「10官能以下の多官能ウレタン(メタ)アクリレート(D)」を含むのに対して、甲2発明の「第2のハードコート層」は多官能ウレタン(メタ)アクリレートを含まず、「活性エネルギー線硬化性成分としてのジペンタエリスリトールヘキサアクリレート」を含む点。
イ 判断
相違点1について検討する。
甲2には、「第1のハードコート層用組成物」に含まれる「活性エネルギー線硬化性成分」について[0042]~[0052]に種々記載があるものの、「EO変性ジグリセリンテトラアクリレート(A)」は記載されていない。
また、甲2発明の「第1のハードコート層用組成物」に含まれる「活性エネルギー線硬化性成分としてのエチレンオキシド変性ペンタエリスリトールテトラアクリレート(エチレンオキシド35モル導入)」に関して、甲2には、「第1のハードコート層3の材料は、第2のハードコート層4の屈折率との屈折率差が前述した範囲にあり、第2のハードコート層4とともに所望の耐擦傷性を発揮するものであれば、特に限定されない。かかる第1のハードコート層3は、活性エネルギー線硬化性成分を含有する組成物を硬化させた材料からなることが好ましく、特に、第2のハードコート層4よりも柔らかい材料からなることが好ましい。具体的には、アルキレンオキシドによって変性された活性エネルギー線硬化性成分を含有する組成物を硬化させた材料からなることが好ましい。」([0041])と記載されており、「第1ハードコート層」の「屈折率」に関して、「上記発明(発明1~4)においては、前記第1のハードコート層の屈折率が、1.40以上、1.80以下であることが好ましい(発明5)。」([0015])、「第1のハードコート層3の屈折率と第2のハードコート層4の屈折率との差」に関して、「干渉縞の発生抑制の観点から、第1のハードコート層3の屈折率と第2のハードコート層4の屈折率との差は、絶対値で0.02以下であることが好ましく、特に0.01以下であることが好ましい。」([0027])と記載されている。
すなわち、甲2発明における「第1のハードコート層用組成物」に含まれる「活性エネルギー線硬化性成分としてのエチレンオキシド変性ペンタエリスリトールテトラアクリレート(エチレンオキシド35モル導入)」は、「第1ハードコート層」の「屈折率」や、「第1のハードコート層3の屈折率と第2のハードコート層4の屈折率との差」を考慮して選定されたものである。
また、「EO変性ジグリセリンテトラアクリレート(A)」に関して、甲3の[0056]には、第一のハードコート層で使用されるHC樹脂として、多数列挙されたものの一つとして「ジグリセリンテトラ(メタ)アクリレート」が挙げられるとともに、列挙された樹脂をPO、EO、カプロラクトン等で変性することも記載されているものの、第一のハードコート層で使用されるHC樹脂として、特に「EO変性ジグリセリンテトラアクリレート」を用いることは甲3には記載されていないし、甲3には、屈折率についてはなんら考慮されていない。そうすると、甲2発明において、「第1ハードコート層」の「屈折率」や、「第1のハードコート層3の屈折率と第2のハードコート層4の屈折率との差」を考慮して選定された、「活性エネルギー線硬化性成分としてのエチレンオキシド変性ペンタエリスリトールテトラアクリレート(エチレンオキシド35モル導入)」に替えて、「EO変性ジグリセリンテトラアクリレート」を用いる動機付けも見いだせない。
また、甲3の他の証拠には、「EO変性ジグリセリンテトラアクリレート」について、記載も示唆もない。
したがって、甲2発明において、「活性エネルギー線硬化性成分としてのエチレンオキシド変性ペンタエリスリトールテトラアクリレート(エチレンオキシド35モル導入)」に替えて、「EO変性ジグリセリンテトラアクリレート(A)」とすることは、当業者が容易に想到できたものではない。
ウ 小括
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件発明6について
本件発明6は、本件発明1の発明特定事項を全て含む発明であるから、上記(1)と同様の理由により、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3 取消理由3について
(1)発明の詳細な説明の記載
ア 本件課題
発明の詳細な説明の【0006】によると、本件発明の解決しようとする課題は「優れた光学特性と高い鉛筆硬度を有すると共に、カールが発生し難く、またHC層面が内向きであっても外向きであっても、曲率半径の小さな屈曲に耐え得るHCフィルムを提供することにある。」である(以下「本件課題」という。)。
イ 課題解決手段についての記載
本件課題に関して、発明の詳細な説明には、次の記載がある。
「【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明は、透明基材フィルムの少なくとも一方の面に第一のハードコート層を有し、更にその上に第二のハードコート層を有するハードコートフィルムであり、
前記第一のハードコート層は6官能未満のEO変性(メタ)アクリレート(A)と、反応性ナノシリカ(B)と、光重合開始剤(C)を含み、
前記第二のハードコート層は多官能ウレタン(メタ)アクリレート(D)と、光重合開始剤(C)を含むことを特徴とするハードコートフィルムを提供する。」
「【0015】
本発明のHCフィルムは、透明基材フィルム上に、6官能未満のEO変性(メタ)アクリレート(A)と、反応性ナノシリカ(B)と、光重合開始剤(C)とを含む第一のHC層を有し、更にその上に多官能ウレタン(メタ)アクリレート(D)と、光重合開始剤(C)とを含む第二のHC層を有する構成である。なお本明細書において、(メタ)アクリレートとはアクリレートとメタクリレートとの双方を包含する。
【0016】
第一のHC層形成で使用されるHC樹脂に含まれる6官能未満のEO変性(メタ)アクリレート(A)は、第一のHC層の主要バインダーであり、例えばEO変性ペンタエリスリトールテトラアクリレート、EO変性ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、EO変性ジメチロールプロパンテトラアクリレート、EO変性ジグリセリンテトラアクリレート等が挙げられる。これらの中では、硬度、耐擦傷性、可撓性がバランス良く優れる点でグリセリン骨格を有するEO変性ジグリセリンテトラアクリレートが好ましい。6官能以上のEO変性(メタ)アクリレートは、粘度の上昇や硬化収縮による反り増加が発生する場合があり不適である。
【0017】
4官能であるEO変性ジグリセリンテトラアクリレートは、下記式(1)で示される構造であり、低粘度で硬化速度が速く、ナノシリカの分散性が良好で耐スチールウール(以下SW)性に優れ、また良好な屈曲特性を合わせ持つモノマーである。EO付加の合計数であるNは4~20が主成分であることが好ましく、4~12が更に好ましく、4~8が特に好ましい。4以上とすることで良好な反応性を確保でき、20以下とすることで反応性ナノシリカ(B)との十分な親和性を確保できる。
・・・
【0019】
本発明で使用される反応性ナノシリカ(B)は、硬化皮膜の硬度を高めるために配合する。シリカ表面は、塗料内での分散性を高めるためシラン系カップリング剤、(メタ)アクリロイル基などの反応性官能基を有する有機化合物で表面処理を行ったものである。平均粒子径は5~200nmが好ましく、10~100nmが更に好ましい。5nm以上とすることで硬度の向上が期待でき、200nm以下とすることで、全光線透過率やヘイズ等の光学特性への影響を低くすることができる。なお(B)の平均粒子径は、BET法により測定した。
【0020】
前記(B)の固形分全量に対する配合量は25~80重量%が好ましく、30~75重量%が更に好ましく、30~65重量%が特に好ましい。25重量%以上とすることで鉛筆硬度の向上が期待でき、80重量%以下とすることで充分な耐屈曲性を確保することができる。特に65重量%以下とすることで、HC面を外側にした時の耐屈曲性を大幅に向上できる。」
「【0023】
第二のHC層形成で使用されるHC樹脂に含まれる多官能ウレタン(メタ)アクリレート(D)は、HC層の主要バインダーであり、ウレタン結合に由来する水素結合の凝集力により優れた耐擦傷性を有する。官能基数は2~10官能が好ましく、4~6官能が更に好ましい。2官能以上とすることで充分な硬化性と共に皮膜凝集力を確保でき、10官能以下とすることで硬化収縮を抑え、反りの少ない硬化皮膜を形成しやすくできる。」
「【0041】
第一のHC樹脂組成物1~8
(A)として上記で合成したEO変性ジグリセリンテトラアクリレートを、(B)としてPGM-AC-2140Y(商品名:日産化学社製、平均粒子径10~15nmナノシリカ、固形分40%、PGM分散品)及びPGM-AC-4130Y(商品名:日産化学社製、平均粒子径40~50nmナノシリカ、固形分32%、PGM分散品)を、(C)としてOmnirad2959(商品名:IGM Resins社製、α-ヒドロキシアセトフェノン系)を、6官能アクリレートとしてA-DPH-6E(商品名:新中村化学社製、ジペンタエリスリトールEO変性ヘキサアクリレート)を、4官能ウレタンアクリレートとしてRUA-062S(商品名:亜細亜工業社製)を、レベリング剤としてBYK-UV3576(商品名:ビックケミー社製、有効成分40%、ポリジメチルシロキサン変性多官能アクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート希釈)を、溶剤としてPGMを用い、表1記載の配合で均一に溶解分散するまで撹拌し、配合1~8のHC樹脂組成物を調製した。
【0042】
第二のHC樹脂組成物A~H
配合1~8で使用した材料に加え、(D)として6官能ウレタンアクリレート(PETA-HDI-PETA)を、(E)としてKY-1203(商品名:信越化学工業社製)を、(F)としてMEK-AC-5140Z(商品名:日産化学社製、平均粒子径80nm、ナノシリカ、固形分32%、MEK分散品)及びALMIBK30WT%-M47(商品名:CIKナノテック社製、平均粒子径30nm、酸化アルミニウム、表面処理あり、固形分30%、MIBK分散品)及びEN-2400I(商品名:CHEM-MAT社製、平均粒子径50nm、酸化アルミニウム、表面処理なし、固形分40%、IPA分散品)を、6官能アクリレートとしてDPHA(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート)を用い、表2記載の配合で均一に溶解分散するまで撹拌し、配合A~HのHC樹脂組成物を調製した。
【0043】
表1
[図:0001422404000003.jpg]
【0044】
表2
[図:0001422404000004.jpg]
」
「【0052】
評価結果
表3
[図:0001422404000005.jpg]
【0053】
評価結果
表4
[図:0001422404000006.jpg]
【0054】
実施例の各HCフィルムは、全光線透過率、ヘイズ、鉛筆硬度、屈曲試験、カールの評価項目でいずれも良好な結果を得た。
【0055】
一方、第二のHC層に(D)を含まない比較例1及び2はカールが大きく、第一のHC層に(B)を含まない比較例3は鉛筆硬度が低く、(A)を含まない比較例4は外折の屈曲性とカールが劣り、同じく(A)を含まない比較例5は鉛筆硬度が低く、いずれも本願発明に適さないものであった。」
(2)本件課題を解決するための手段について
ア 「高い鉛筆硬度を有する」点について
本件課題のうち「高い鉛筆硬度を有する」ものとするために、発明の詳細な説明の【0016】には、第一のHC層形成で使用されるHC樹脂に含まれる6官能未満のEO変性(メタ)アクリレート(A)として、グリセリン骨格を有するEO変性ジグリセリンテトラアクリレートを含むことが記載されている。
一方、発明の詳細の説明には、上記手段によらず、「高い鉛筆硬度を有する」ものとすることについて、記載も示唆もされていない。
また、本件課題のうち「高い鉛筆硬度を有する」ものとすることについて、発明の詳細な説明の【0019】、【0020】には、平均粒子径5nm以上の反応性シリカ(B)の固形分全量に対する配合量を25重量%以上とすることが記載されている。
一方、発明の詳細の説明には、任意の平均粒子径の反応性ナノシリカについて、その固形分全量に対する配合量によらず「高い鉛筆硬度」を有することについて、記載も示唆もされていない。
イ 「カールが発生し難」い点について
本件課題のうち「カールが発生し難」いものとするために、発明の詳細な説明の【0023】には、第二のHC層形成で使用されるHC樹脂に含まれる多官能ウレタン(メタ)アクリレート(D)として、10官能以下の多官能ウレタン(メタ)アクリレート(D)を含むことが記載されている。
一方、発明の詳細の説明には、上記手段によらず、「カールが発生し難」いものとすることについて、記載も示唆もされていない。
ウ 「HC層面が内向きであっても外向きであっても、曲率半径の小さな屈曲に耐え得る」点について
本件課題のうち「HC層面が内向きであっても外向きであっても、曲率半径の小さな屈曲に耐え得る」ものとするために、発明の詳細な説明の【0016】、【0017】には、第一のHC層形成で使用されるHC樹脂に含まれる6官能未満のEO変性(メタ)アクリレート(A)として、EO変性ジグリセリンテトラアクリレートを含むことが記載されている。
一方、発明の詳細の説明には、上記手段によらず、「HC層面が内向きであっても外向きであっても、曲率半径の小さな屈曲に耐え得る」ものとすることについて、記載も示唆もされていない。
また、本件課題のうち「HC層面が内向きであっても外向きであっても、曲率半径の小さな屈曲に耐え得る」ものとすることについて、発明の詳細な説明の【0019】、【0020】には、反応性ナノシリカ(B)の固形分全量に対する配合量を65重量%以下とすることが記載されている。
一方、発明の詳細の説明には、反応性ナノシリカの固形分全量に対する配合量によらず、「HC層面が内向きであっても外向きであっても、曲率半径の小さな屈曲に耐え得る」ものとすることについて、記載も示唆もされていない。
エ 「優れた光学特性」を有する点について
本件課題のうち「優れた光学特性」を有するものとするために、発明の詳細な説明の【0015】、【0019】には、第一のハードコート層含まれる反応性ナノシリカ(B)について、200nm以下とすることが記載されている。
一方、発明の詳細の説明には、任意の平均粒子径の反応性ナノシリカであっても、「優れた光学特性」を有することについて、記載も示唆もされていない。
オ 課題解決手段
発明の詳細な説明の【0007】の記載及び上記ア~エを総合すると、本件課題を解決するための手段は、
第一のハードコート層は、EO変性ジグリセリンテトラアクリレートと、反応性ナノシリカと、光重合開始剤を含み、
第一のハードコート層に含まれる反応性ナノシリカの平均粒子径は5~200nmであり、
第一のハードコート層に含まれる反応性ナノシリカの固形分全量に対する配合量は25~65重量%であり、
第二のハードコート層は10官能以下の多官能ウレタン(メタ)アクリレートと、光重合開始剤を含むこと(以下「課題解決手段」という。)であり、当該課題解決手段を備えた実施例1~11が、当該課題解決手段を備えていない比較例1~5と比べ、本件課題の点で優れていることが確認されている。
そうすると、当業者は、課題解決手段を含むハードコートフィルムは本件課題を解決できると認識できる。
(3)本件発明が本件課題を解決できるか否かについて
本件発明は、本件課題を解決できると認識できる上記(2)オの課題解決手段をすべて含むものである。
したがって、本件発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
(4)小括
よって、本件発明1、6は、発明の詳細な説明に記載したものである。
第6 取消理由通知(決定の予告)に採用しなかった特許異議申立理由について
1 取消理由通知(決定の予告)に採用しなかった特許異議申立理由の概要
申立理由1(明確性)
請求項1に記載された「第一のハードコート層」の成分である「6官能未満のEO変性(メタ)アクリレート(A)」における「EO変性」とはどのようなものを意味するのか不明であるから、本件特許の請求項1~6に係る発明は、明確でなく、本件特許の特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に適合しないため、請求項1~6に係る特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
申立理由2(新規性、進歩性)
本件特許の請求項1、4に係る発明は、下記甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、下記の請求項1、4に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
本件特許の請求項1~6に係る発明は、下記甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
<引用文献等一覧>
甲第1号証:特開2016-132187号公報(以下「甲1」という。)
甲第3号証:国際公開第2017/014198号(以下「甲3」という。)
2 申立理由1についての当審の判断
EOは「エチレンオキサイド」を意味するから、「EO変性」が「エチレンオキサイドでの変性」を意味することは明らかである。
この点、本件特許の明細書には、「EO変性ジグリセリンテトラアクリレートの合成」に関して、「ジグリセリン166g(1モル)にエチレンオキサイド246g(6モル)を付加した化合物に対し、アクリル酸317g(4.4モル)を85℃で10時間反応し、次いでトルエン及び多量の水及び未反応のアクリル酸を中和する量の苛性を加え、分液ロートで有機層を取り出しエバポレータにてトルエンを留去し、EO変性ジグリセリンテトラアクリレートを得た。」(【0040】)と記載されていることとも整合している。
よって、本件発明1、6は明確である。
3 申立理由2についての当審の判断
(1)甲1に記載された発明
甲1(【請求項1】、【0055】~【0057】、【0069】)には、特に実施例13に着目し、【請求項1】の記載に沿って整理すると、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「光透過性基材の一方の面上に、第一のハードコート層が形成され、前記第一のハードコート層の前記光透過性基材と反対側面上に、第二のハードコート層が形成された光学積層体であって、
前記第一のハードコート層は、第一のシリカ微粒子としてMIBKSD(日産化学社製、反応性中実シリカ微粒子、平均粒子径12nm)と第一の樹脂成分としてPET30(日本化薬社製、ペンタエリスリトールトリアククリレート)、M240(東亞合成社製、テトラエチレングリコールジアクリレート)と光重合開始剤としてIrg184とを含む第一のハードコート層用組成物を用いて形成されてなり、かつ、前記第一の樹脂成分が前記光透過性基材中に浸透して形成された浸透層と、前記第一のハードコート層用組成物により形成された非浸透層とを有するものであり、
前記第二のハードコート層は、第二のシリカ微粒子としてV8803(日揮触媒化成社製、反応性異形シリカ微粒子)と第二の樹脂成分としてDPHA(日本化薬社製、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート)、PET30(日本化薬社製、ペンタエリスリトールアククリレート)、U15HA(新中村化学社製、分子量2300、15官能、ウレタンアクリレート)、U6LPA(新中村化学社製、分子量800、6官能、ウレタンアクリレート)と光重合開始剤としてIrg184とを含む第二のハードコート層用組成物を用いて形成されてなり、かつ、前記第一の樹脂成分が海島状に分散された分散物を含有する、光学積層体。」
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とは、少なくとも次の点で相違する。
[相違点A]
EO変性(メタ)アクリレート(A)に関して、本件発明1は「EO変性ジグリセリンテトラアクリレート(A)」であるのに対して、甲1発明は「M240(東亞合成社製、テトラエチレングリコールジアクリレート)」である点。
イ 判断
(ア)新規性について
甲1発明の「M240(東亞合成社製、テトラエチレングリコールジアクリレート)」は、「EO変性ジグリセリンテトラアクリレート」ではないから、相違点Aは実質的な相違点である。
(イ)進歩性について
甲1の【0022】には、「第一の樹脂成分」の「電離放射線硬化型樹脂」の例が多数列挙されているものの、「EO変性ジグリセリンテトラアクリレート」を用いることは記載されていない。
甲3の[0056]には、第一のハードコート層で使用されるHC樹脂として、多数列挙されたものの一つとして「ジグリセリンテトラ(メタ)アクリレート」が挙げられるとともに、列挙された樹脂をPO、EO、カプロラクトン等で変性することも記載されているものの、第一のハードコート層で使用されるHC樹脂として、特に「EO変性ジグリセリンテトラアクリレート」を用いることは甲3には記載されておらず、これを甲1発明の「M240(東亞合成社製、テトラエチレングリコールジアクリレート)」に替えて用いる動機付けも見いだせない。
また、その他の証拠には、「EO変性ジグリセリンテトラアクリレート」について、記載も示唆もない。
そして、本件発明1は、相違点Aに係る構成とすることにより、明細書の【0016】、【0017】に記載の「硬度、耐擦傷性、可撓性がバランス良く優れ」、「低粘度で硬化速度が速く、ナノシリカの分散性が良好で耐スチールウール性・・・に優れ、また良好な屈曲特性を合わせ持つ」ものとしたといえる。
そうすると、甲1発明の「M240(東亞合成社製、テトラエチレングリコールジアクリレート)」に替えて「EO変性ジグリセリンテトラアクリレート(A)」とすることは、当業者が容易に想到できたものではない。
ウ 小括
よって、少なくとも相違点Aの点で実質的に相違し、この点を容易に想到できたものではないので、本件発明1は、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件発明6について
本件発明6は、本件発明1の発明特定事項を全て含む発明であるから、上記(2)と同様の理由により、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第7 むすび
以上のとおり、請求項1、6に係る特許は、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由、及び特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことはできない。また、他に請求項1、6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件特許の請求項2~5は、本件訂正により削除されたため、請求項2~5に係る特許についての本件特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2023-701348