特許異議申立
2023-700480
ガラスクロス、プリプレグ、及びプリント配線板
- 審判番号
- 2023-700480
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-139769
- 登録番号
- 7169053
- 請求日
- 2023年05月09日
- 審決日
- 2023年10月13日
- 公報発行日
- 2023年11月24日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】旭化成株式会社
- 【権利者代理人】稲葉 良幸
- 【権利者代理人】大貫 敏史
- 【権利者代理人】江口 昭彦
- 【権利者代理人】内藤 和彦
- 【異議申立人】野田 澄子
- 審判長/審判官
- 審判長 山崎 勝司
- 審判官 西本 浩司
- 審判官 稲葉 大紀
- 分類
- P1651.113-Y (D03D) / P1651.121-Y (D03D) / P1651.537-Y (D03D) / P1651.536-Y (D03D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7169053号発明「ガラスクロス、プリプレグ、及びプリント配線板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7169053号の請求項1~8に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7169053号の請求項1~8に係る特許についての出願は、平成29年7月19日に特許出願としたものであって、令和4年11月1日にその特許権の設定登録がされ、令和4年11月10日に特許掲載公報が発行された。その後、請求項1~8に係る特許に対し、令和5年5月9日に特許異議申立人野田澄子(以下「申立人」という。)により、本件特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~8に係る発明(以下「本件発明1」等という。また、まとめて「本件発明」ということもある。)は、その特許請求の範囲の請求項1~8に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
複数本のガラスフィラメントからなるガラス糸を経糸及び緯糸として製織してなるガラスクロスであって、
前記ガラスフィラメントの平均フィラメント径が、3.0~4.5μmであり、
前記ガラスフィラメントの数が、20~50本であり、
前記ガラスクロスを構成する前記経糸及び前記緯糸の打ち込み密度が、95~130本/inchであり、
経糸及び緯糸の平均フィラメント径、フィラメントの数、打ち込み密度が同じであり、
前記ガラスクロスの厚さが、7~13μmであり、
前記ガラスクロスに存在するバスケットホールの最大面積が、50,000μm2以下である、
ガラスクロス。
【請求項2】
通気度の最大値が、250cm3/cm2/秒以下である、請求項1に記載のガラスクロス。
【請求項3】
経糸及び緯糸の糸幅の開繊度が、各々独立して90%以上である、請求項1又は2に記載のガラスクロス。
【請求項4】
経糸及び緯糸の最小の糸幅が、各々独立して100μm以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載のガラスクロス。
【請求項5】
バスケットホールの最大の横幅が、120μm以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載のガラスクロス。
【請求項6】
複数種のシランカップリング剤でガラス糸の表面が処理された、請求項1~5のいずれか一項に記載のガラスクロス。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のガラスクロスと、該ガラスクロスに含浸されたマトリックス樹脂とを含む、プリプレグ。
【請求項8】
請求項7に記載のプリプレグを有する、プリント配線板。」
第3 申立理由の概要
申立人は、証拠として、以下の甲第1号証~甲第11号証(以下「甲1」等という。)を提出し、以下の理由1~6を申立てている。なお、本件特許の願書に添付した明細書を、「本件明細書」という。
1 申立理由1(甲1発明を引用発明とする新規性)
本件発明1~5、7、8は、下記の甲1に記載された発明であって特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない発明であるから、本件発明1~5、7、8に係る特許は、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
2 申立理由2(甲2発明を引用発明とする新規性)
本件発明1、2、4、5、7、8は、下記の甲2に記載された発明であって特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない発明であるから、本件発明1、2、4、5、7、8に係る特許は、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
3 申立理由3(甲1発明を主引用発明とする進歩性)
本件発明1~8は、下記の甲1に記載された発明及び甲3~6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であるから、本件発明1~8に係る特許は、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
4 申立理由4(甲2発明を主引用発明とする進歩性)
本件発明1~8は、下記の甲3に記載された発明及び甲3~6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であるから、本件発明1~8に係る特許は、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
5 申立理由5(サポート要件)
(1)本件発明1では「バスケットホールの平均面積」、「経糸又は緯糸の最小糸幅」及び「開繊度」が特定されていない。即ち、本件特許明細書における実施例1~3では、特定の「バスケットホールの平均面積(なお、甲第11号証から推認)」、「最小糸幅」及び「開繊度」が開示されているが、その他のものについて開示がなく、本件発明1の課題を解決できるとはいえない。
(2)技術常識に基づけば本件発明1の課題は存在しない(段落【0041】)。即ち、通常のノズル(スプレー)を使用し水を噴射すると水圧が4%以上変動することはないところ、本件特許明細書の比較例1~3では、水圧を6%以上変動させており、当業者が通常認識し得る高圧水開繊では課題の発生が認められない。
(3)本件発明1では「一定の長さを有するロール状長尺ガラスクロス」及び「ガラスクロス全領域におけるバスケットホールの最大面積が50,000μm2以下」であることが特定されていない。通常、ガラスクロスは、長さ数百メートルの長尺で巻き芯に巻かれたロール状として製造されるところ、本件明細書の段落【0016】、【0053】に記載されているような「100mm×100mm」の限られた領域のみの観察では「50,000μm2超」のバスケットホールが認められないことが想定される。
したがって、本件特許に係る特許請求の範囲の請求項1~8の記載は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものではなく、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものであるから、本件発明1~8に係る特許は、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
6 申立理由6(実施可能要件)
バスケットホールの平均面積(甲第11号証)からバスケットホールの最大面積は2.5~5倍程度であるところ、本件明細書の段落【0015】には、バスケットホールの平均面積は好ましくは「20,000μm2以下」と記載されている。仮に、平均面積が25,000μm2の場合、最大面積が50,000μm2超となるが、この際、バスケットホールの最大面積を「50,000μm2」超のバスケットホールを生じさせないための技術的手段について一切記載されていない。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1~8の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでなく、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないものであるから、本件発明1~8に係る特許は、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
7 証拠方法
甲1:特許第6020764号公報
甲2:特開2017-43873号公報
甲3:特開2006-52473号公報
甲4:特開2005-42245号公報
甲5:スプレーイング システムス ジャパン合同会社,「スプレーテクノロジーの特性と要因」,総合カタログ70,平成28年(16年度版),p.A6「粒子径に関する表」,インターネット<URL:https://www.spray.co.jp/cat70jp/cat70‐old.aspx>
甲6:写真,撮影対象 :IPC(米国電子回路協会)規格として周知のStyle1010のガラスクロス,撮影日:令和5年3月9日,撮影者:申立人
甲7:本件特許に係る出願の令和4年1月6日付け拒絶理由通知書
甲8:本件特許に係る出願の令和4年2月16日付け手続補正書
甲9:本件特許に係る出願の令和4年2月16日付け意見書
甲10:本件特許に係る出願の令和4年5月26日付け拒絶理由通知書
甲11:本件特許に係る出願の令和4年9月20日付け意見書
第4 各甲号証
1 甲1~2に記載された発明
(1)甲1について
甲1の、【0043】~【0044】から、[実施例1]においては、経糸及び緯糸のガラスフィラメントのフィラメント径、ガラスフィラメントの本数、織密度が同じであるといえる。
甲1の【0043】~【0052】、【0065】の【表1】に記載された[実施例1]の記載に着目し、加えて、【請求項1】、【0002】、【0009】、【0014】、【0041】の記載事項を総合して整理すれば、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「複数本のガラスフィラメントからなるガラス糸を経糸及び緯糸として製織してなるガラスクロスであって、
前記ガラスフィラメントのフィラメント径が、4.0μmであり、
前記ガラスフィラメントの本数が、34本であり、
前記ガラスクロスを構成する前記経糸及び前記緯糸の織密度が、105本/25mmであり、
経糸及び緯糸のガラスフィラメントのフィラメント径、ガラスフィラメントの本数、織密度が同じであり、
前記ガラスクロスの厚さが、11.0μmである、
ガラスクロス。」
(2)甲2について
甲2の、【0077】、【0087】の【表1】から、[実施例3]においては、経糸及び緯糸のガラスフィラメントのフィラメント径、ガラスフィラメントの本数、織密度が同じであるといえる。
甲2の【0064】~【0074】、【0077】、【0086】、【0087】の【表1】に記載された[実施例3]の記載に着目し、加えて、【請求項1】、【0010】~【0015】、【0019】、【0025】、【0071】、【0073】、【0074】の記載事項を総合し整理すれば、甲2には次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「複数本のガラスフィラメントからなるガラス糸を経糸及び緯糸として製織してなるガラスクロスであって、
前記ガラスフィラメントの平均フィラメント径が、3.7μmであり、
平均フィラメント本数が、40本であり、
前記ガラスクロスを構成する前記経糸及び前記緯糸の織密度が、110本/25mmであり、
経糸及び緯糸のガラスフィラメントのフィラメント径、ガラスフィラメントの本数、織密度が同じであり、
前記ガラスクロスの厚さが、12μmである、
ガラスクロス。」
2 甲3~6に記載された事項
(1)甲3の段落【0002】、【0003】の記載事項から、甲3には以下の事項(以下「甲3記載事項」等という。)が記載されていると認められる。
「開繊加工度の不足や不均一によって、細部でのばらつき低減が十分でないこと。」
(2)甲4の段落【0005】、【0006】の記載事項から、甲4には以下の事項(以下「甲4記載事項」等という。)が記載されていると認められる。
「薄いガラスクロスにおいては、開繊加工における物理加工のムラによって、目曲がり、加工痕、毛羽等の発生が顕著になること。」
(3)甲5のA6頁の「粒子径」に関する表の記載事項(スプレーパターンの圧力として、0.07MPa、0.28MPa、0.7MPaが記載されている。)を総合すると、以下の事項(以下「甲5記載事項」という。)が分かる。
「スプレーノズルのスプレー圧力をMPa単位で小数点以下二桁まで調整することができること。」
(4)甲6には以下の事項(以下「甲6記載事項」という。)が記載されている。
「
[図:0001403679000001.jpg]
[図:0001403679000002.jpg]
[図:0001403679000003.jpg]
」
第5 当審の判断
1 申立理由1、3(甲1発明を引用発明とする新規性、進歩性)
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
甲1発明の「ガラスフィラメント」及び「ガラスクロス」は、それぞれの有する機能に照らして、本件発明1の「ガラスフィラメント」及び「ガラスクロス」に相当する。
また、甲1発明の「織密度」とは、経(緯)方向の25mmの範囲にある経(緯)糸の本数をいい(甲1【0035】)、単位面積あたりの経糸と緯糸の打ち込み本数のことであるから、甲1発明の「織密度」は、本件発明1の「打ち込み密度」に相当する。
加えて、甲1発明の「フィラメント径」は、全てのフィラメントの径が「4.0μm」であることから、本願発明1の「平均フィラメント径」に相当するといえる。
「ガラスフィラメントのフィラメント径」に関して、甲1発明の「4.0μm」は、本件発明1の「3.0~4.5μm」に含まれている。
「ガラスフィラメントの数」に関して、甲1発明の「34本」は、本件発明1の「20~50本」に含まれている。
「ガラスクロスを構成する経糸及び緯糸の打ち込み密度」に関して、甲1発明の「105本/25mm」は「106.68本/inch」(1inch=25.4mm)に相当するから、本件発明1の「95~130本/inch」に含まれている。
「ガラスクロスの厚さ」に関して、甲1発明の「11.0μm」は、本件発明1の「7~13μm」に含まれている。
以上から、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で一致し、相違する。
<一致点1>
「複数本のガラスフィラメントからなるガラス糸を経糸及び緯糸として製織してなるガラスクロスであって、
前記ガラスフィラメントの平均フィラメント径が、3.0~4.5μmであり、
前記ガラスフィラメントの数が、20~50本であり、
前記ガラスクロスを構成する前記経糸及び前記緯糸の打ち込み密度が、95~130本/inchであり、
経糸及び緯糸の平均フィラメント径、フィラメントの数、打ち込み密度が同じであり、
前記ガラスクロスの厚さが、7~13μmである、
ガラスクロス。」
<相違点1>
本件発明1では「ガラスクロスに存在するバスケットホールの最大面積が、50,000μm2以下である」のに対し、甲1発明ではバスケットホールの最大面積が不明な点。
イ 判断
<相違点1>について検討する。
甲1には「ガラスクロスに存在するバスケットホールの最大面積が、50,000μm2以下である」点について記載も示唆もされていない。
また、甲3記載事項、甲4記載事項から、不均一な開繊処理によって、ガラスクロス外観上の欠陥が発生しやすく、当該欠陥によってプリプレグにピンホールが発生し易くなること、また、均一な開繊処理によって、これらの欠陥の発生を抑制でき、ピンホールの発生を抑制できることが、当該技術分野における周知の技術事項といえるとしても、甲3、甲4には「ガラスクロスに存在するバスケットホールの最大面積が、50,000μm2以下」にすることについては、記載も示唆もされていない。
更に、甲5記載事項から、一般的なスプレーノズルのスプレー圧力調整精度については記載されているものの、「ガラスクロスに存在するバスケットホールの最大面積が、50,000μm2以下」にすることについては、甲5には記載も示唆もされていない。」
加えて、甲6記載事項から、一般的なガラスクロスのバスケットホールの面積は窺い知れるものの、甲6のガラスクロスが、本件発明1の「前記ガラスフィラメントの平均フィラメント径が、3.0~4.5μmであり、前記ガラスフィラメントの数が、20~50本であり、前記ガラスクロスを構成する前記経糸及び前記緯糸の打ち込み密度が、95~130本/inchであり、経糸及び緯糸の平均フィラメント径、フィラメントの数、打ち込み密度が同じであり、前記ガラスクロスの厚さが、7~13μmであ」るか不明であり、さらに、そのような「ガラスクロスに存在するバスケットホールの最大面積が、50,000μm2以下」にすることについては、甲6には記載も示唆もされていない。
なお、本件特許異議の申立てにおいて提出された各証拠には、ピンホール及びデラミネーションの発生対策として、バスケットホールの最大面積について着目するところがなく、一方、本件発明においては「ガラスクロスに存在するバスケットホールの最大面積が、50,000μm2以下」とすることによって、デラミネーションが発生しにくいという有利な効果が認められる。
したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1発明及び甲3~6記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
なお、申立人は特許異議申立書(以下「申立書」という。)において「本件特許明細書において、「ガラスクロスに存在するバスケットホールの最大面積が、50,000μm2以下である」場合とそうでない場合とで、効果に頭著な差異が生じることについては何ら証明されていないため、「ガラスクロスに存在するバスケットホールの最大面積が、50,000μm2以下である」ことによって顕著な効果が奏されるとは認められない」(申立書第36~37頁)旨、主張している。
しかしながら、本件特許明細書【0046】~【0061】、【表1】における、「ガラスクロスに存在するバスケットホールの最大面積」を「50,000μm2以下」である【実施例】により、【0060】、【0061】【表1】に記載されているように「実施例のガラスクロスを用いることにより、プリプレグのピンホール品質に優れ、基板のデラミネーションの発生を抑制できる」という効果が示されているといえる。
したがって、申立人の主張は採用できない。
(2)本件発明2~8について
本件発明2~8は、本件発明1の特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記(1)で検討したのと同じ理由により、本件発明2~8は、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1発明及び甲3~6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
2 申立理由2、4(甲2発明を引用発明とする新規性、進歩性)
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲2発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
甲2発明の「ガラスフィラメント」、「ガラスクロス」及び「平均フィラメント径」は、それぞれの有する機能に照らして、本件発明1の「ガラスフィラメント」、「ガラスクロス」及び「平均フィラメント径」に相当する。
また、甲2発明の「織密度」とは、単位面積あたりの経糸と緯糸の打ち込み本数のことであるから、甲2発明の「織密度」は、本件発明1の「打ち込み密度」に相当する。
「ガラスフィラメントの平均フィラメント径」に関して、甲2発明の「3.7μm」は、本件発明1の「3.0~4.5μm」に含まれている。
「ガラスフィラメントの数」に関して、甲2発明の「40本」は、本件発明1の「20~50本」に含まれている。
「ガラスクロスを構成する経糸及び緯糸の打ち込み密度」に関して、甲2発明の「110本/25mm」は「108.26本/inch」(1inch=25.4mm)に相当するから、本件発明1の「95~130本/inch」に含まれている。
「ガラスクロスの厚さ」に関して、甲2発明の「12μm」は、本件発明1の「7~13μm」に含まれている。
以上から、本件発明1と甲2発明とは、以下の点で一致し、相違する。
<一致点2>
「複数本のガラスフィラメントからなるガラス糸を経糸及び緯糸として製織してなるガラスクロスであって、
前記ガラスフィラメントの平均フィラメント径が、3.0~4.5μmであり、
前記ガラスクロスを構成する前記経糸及び前記緯糸の打ち込み密度が、95~130本/inchであり、
経糸及び緯糸の平均フィラメント径、フィラメントの数、打ち込み密度が同じであり、
前記ガラスクロスの厚さが、7~13μmであり、
前記ガラスクロスに存在するバスケットホールの最大面積が、50,000μm2以下である、
ガラスクロス。」
<相違点2>
本件発明1では「ガラスフィラメントの数が、20~50本であ」るのに対し、甲2発明では「平均フィラメント本数が、40本であ」る点。
<相違点3>
本件発明1では「ガラスクロスに存在するバスケットホールの最大面積が、50,000μm2以下である」のに対し、甲2発明ではバスケットホールの最大面積が不明な点。
イ 判断
事案に鑑み、まず<相違点3>について検討する。
相違点3については、上記「申立理由4(進歩性)について」、「(1)本件発明1について」における「イ 判断」で示した理由と同様に、甲2には、「ガラスクロスに存在するバスケットホールの最大面積が、50,000μm2以下である」点について記載も示唆もされていない。
また、甲3~6にも、ガラスクロスに存在するバスケットホールの最大面積が、50,000μm2以下である」点について記載も示唆もされていない。
なお、本件特許異議の申立てにおいて提出された各証拠には、ピンホール及びデラミネーションの発生対策として、バスケットホールの最大面積について着目するところがなく、一方、本件発明においては「ガラスクロスに存在するバスケットホールの最大面積が、50,000μm2以下」とすることによって、デラミネーションが発生しにくいという有利な効果が認められる。
加えて、申立書における主張についてみても、上記で示した判断と同様、申立人の主張は採用できない。
したがって、本件発明1は、相違点2を検討するまでもなく、甲2に記載された発明ではなく、また、甲2発明及び甲3~6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)本件発明2~8について
本件発明2~8は、本件発明1の特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記(1)で検討したのと同じ理由により、本件発明2~8は、甲2に記載された発明ではなく、また、甲2発明及び甲3~6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3 申立理由5(サポート要件)について
(1)本件発明の課題
本件発明が解決しようとする課題について、本件明細書には以下の記載がある。
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、今後の極薄のプリント配線板において、十分な品質、性能を達成する観点から、なお改善の余地があった。具体的には、プリント配線板の絶縁層を薄くするため、厚さが13μm以下のガラスクロスを用い、かつ、RC(ガラスクロスを含む基板の質量(g/m2)に対する樹脂の質量(g/m2)の質量割合)を65質量%以下にした場合、プリプレグを作製する際に、一定頻度でピンホールが発生し、また、高温での実装時に、デラミネーションが発生する課題がある。
【0006】
実際に、特許文献2に開示されたガラスクロスでは、RCを69質量%以下にした場合にピンホールが発生するという課題がある。
【0007】
また、特許文献4に開示されたガラスクロスでは、経糸と緯糸に異なる太さのガラス繊維が用いられているため、高温での実装時に異方性を生じやすいという課題がある。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、高品質であり、デラミネーションが発生しにくい基板(「基板」とは、プリプレグ、プリント配線板、又はこれらの積層板等を含む概念である)を作製することができるガラスクロス、該ガラスクロスを用いたプリプレグ、及びプリント配線板を提供することを目的とする。」
そうすると、「プリプレグを作製する際のピンホール品質に優れ、デラミネーションが発生しにくい基板を作製することができるガラスクロス、該ガラスクロスを用いたプリプレグ、及びプリント配線板を提供すること」が、本件発明が解決しようとする課題である。
(2)課題を解決する手段
この課題の解決手段について、本件明細書には以下の記載がある。
「【0013】
〔ガラスクロス〕
本実施形態のガラスクロスは、複数本のガラスフィラメントからなるガラス糸を経糸及び緯糸として製織してなるガラスクロスである。
また、本実施形態のガラスクロスは、前記ガラスフィラメントの平均フィラメント径が、3.0~4.5μmであり、前記ガラスフィラメントの数が、20~50本であり、ガラスクロスを構成する前記経糸及び前記緯糸の打ち込み密度が、各々独立して70~130本/inchであり、前記ガラスクロスの厚さが、7~13μmであり、前記ガラスクロスの任意の位置に存在するバスケットホールの最大面積が、50,000μm2以下である。
【0014】
バスケットホールの最大面積が50,000μm2以下の場合、ガラスクロスに樹脂を含浸させてプリプレグを作製する際、ピンホールが著しく発生しにくくなる。バスケットホールの最大面積は、好ましくは45,000μm2以下であり、より好ましくは40,000μm2以下である。」
「【0016】
本実施形態におけるバスケットホールとは、経糸と緯糸に挟まれた隙間を指すものであり、ピンホールとは、バスケットホール部分に樹脂が埋まらずに生じた空隙欠陥を指すものである。
通常、バスケットホールの平均面積を小さくすると、ピンホールは生じにくくなるが、樹脂の塗布量が小さくなり、高温実装時のデラミネーションが生じ易くなる。本発明では、バスケットホールの平均面積の大小よりも、バスケットホールの最大面積が、プリプレグのピンホール品質と基板のデラミネーション発生の抑制に対し、最も重要であることを見出した。ここでいうバスケットホールの最大面積とは、ガラスクロスロールを引き出し、任意の位置から100mm×100mmを切り出し、走査型電子顕微鏡でガラスクロスの表面を観察し、全てのバスケットホールの面積を測定し、その中で最大であったバスケットホールの面積を指す。
【0017】
バスケットホールの平均面積を一定に保ちながら、バスケットホールの最大面積を下げる方法としては、例えば、整経、製織、脱糊、処理、及び開繊の工程において、張力と加工条件とを管理する方法が挙げられる。
張力と加工条件とを管理する方法として、具体的には、ガラスクロスを構成する全ての経糸の張力をモニタリングし、張力が管理値から外れる経糸を除去する方法、整経時の糊付着量、製織時の回転数、脱糊時の昇温速度、開繊工程の水圧を一定にする方法等が挙げられる。
【0018】
経糸の張力を一定範囲にすることで、経糸の集束状態を制御でき、糸幅を一定に保つことができる。また、整経時の糊付着量を一定にすることで、開繊工程での開繊効果を制御でき、経糸及び緯糸の糸幅を一定に保つことができる。また、製織時の回転数を一定にすることで、緯糸の張力を制御でき、開繊工程での開繊効果を制御でき、緯糸の糸幅を一定に保つことができる。また、脱糊時の昇温速度を一定の範囲にすることで、脱糊工程後の残留糊量を制御でき、開繊工程での開繊効果を制御でき、経糸及び緯糸の糸幅を一定に保つことができる。また、開繊工程の水圧を一定にすることで、開繊効果を制御でき、経糸及び緯糸の糸幅を一定に保つことができる。
これらの張力と加工条件を管理することで、バスケットホールの平均面積を一定に保ちながら、バスケットホールの最大面積を下げることができる。」
「【0041】
また、開繊工程の開繊方法としては、特に限定されないが、例えば、ガラスクロスを、スプレー水(高圧水開繊)、バイブロウォッシャー、超音波水、マングル等で開繊加工する方法が挙げられる。バスケットホールの平均面積を一定に保ちながら、バスケットホールの最大面積を下げるために、スプレー水により開繊工程を行うことが好ましい。
スプレー水で開繊する場合、水圧は適宜設定すればよく、ガラスクロスに存在するバスケットホールの最大面積を50,000μm2以下に調整するために、水圧は一定にすることが好ましい。ここで、水圧を一定にするとは、開繊を実施するために設定したスプレーの水圧と、実際の水圧の最大値、最小値との差を小さくすることを指す。
開繊を実施するために設定したスプレーの水圧と、実際の水圧の最大値、最小値との差は、開繊を実施するために設定したスプレーの水圧に対し、6%未満にすることが好ましく、5%以内にすることがより好ましく、4%以内にすることがさらに好ましい。
開繊工程後においても、加熱乾燥させる工程を有していてもよい。」
「【実施例】
【0046】
次に、本発明を実施例、比較例によって本発明をさらに詳細に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0047】
(実施例1)
ガラスクロス(ガラスフィラメントの平均フィラメント径4.0μm、フィラメント数40本、経糸の打ち込み密度95本/inch、緯糸の打ち込み密度95本/inch、質量10g/m2)を、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩(東レダウコーニング株式会社製;Z6032)を水に分散させた処理液に浸漬し、加熱乾燥した。次に、水圧を5.0±0.1kg/cm2の水圧に調整したスプレーで高圧水開繊を実施し、加熱乾燥して製品を得た。
【0048】
(実施例2)
ガラスクロス(ガラスフィラメントの平均フィラメント径4.0μm、フィラメント数33本、経糸の打ち込み密度105本/inch、緯糸の打ち込み密度105本/inch、質量9g/m2)を、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩(東レダウコーニング株式会社製;Z6032)を水に分散させた処理液に浸漬し、加熱乾燥した。次に、水圧を5.0±0.1kg/cm2の水圧に調整したスプレーで高圧水開繊を実施し、加熱乾燥して製品を得た。
【0049】
(実施例3)
ガラスクロス(ガラスフィラメントの平均フィラメント径3.5μm、フィラメント数40本、経糸の打ち込み密度110本/inch、緯糸の打ち込み密度110本/inch、質量7g/m2)を、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩(東レダウコーニング株式会社製;Z6032)を水に分散させた処理液に浸漬し、加熱乾燥した。次に、水圧を5.0±0.1kg/cm2の水圧に調整したスプレーで高圧水開繊を実施し、加熱乾燥して製品を得た。」
「【0057】
<プリプレグの作製方法とプリプレグのピンホール品質の評価方法>
上記の実施例及び比較例で得たガラスクロスに、エポキシ樹脂ワニス(低臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂40質量部、o-クレゾール型ノボラックエポキシ樹脂10質量部、ジメチルホルムアミド50質量部、ジシアンジアミド1質量部、及び2-エチル-4-メチルイミダゾール0.1質量部の混合物をメチルエチルケトン溶媒で50wt%に希釈したもの)を含浸させ、速度2m/分で引き上げ、RCが65%になるよう隙間を調整したスリットを通して余分な樹脂をかき落し、160℃で1分間乾燥後プリプレグを得た。作製したプリプレグの任意の500mm×500mmを、携帯型顕微鏡で観察し、ピンホール個数を求めた。ピンホール個数が少ないほど、高品質であることを表す。
【0058】
<基板の作製方法>
上記で得たプリプレグを重ね、さらに上下に厚さ12μmの銅箔を重ね、175℃、40kg/cm2で60分間加熱加圧して積層板を得た。
【0059】
<基板のデラミネーション性の評価方法>
上記のようにして厚さ0.1mmとなるように基板を作製し、銅箔をエッチング液にて除去後、温度121℃、湿度100%(2気圧)下に1週間暴露し、取り出し後、288℃のハンダ浴に20秒浸漬し、基板上の膨れやクラックの有無を目視確認した。表1中、基板上の膨れやクラックが見られないものを○とし、基板上の膨れやクラックが見られたものを×として示した。
【0060】
実施例と比較例で示したガラスクロスの評価結果を表1にまとめた。
実施例のガラスクロスを用いることにより、プリプレグのピンホール品質に優れ、基板のデラミネーションの発生を抑制できることが分かった。」
「【0061】
【表1】
[図:0001403679000004.jpg]
」
(3)当審の判断
上記(2)に摘記した本件明細書の記載から、「ガラスフィラメントの平均フィラメント径が、3.0~4.5μmであり、前記ガラスフィラメントの数が、20~50本であり、ガラスクロスを構成する経糸及び緯糸の打ち込み密度が、95~130本/inchであり、経糸及び緯糸の平均フィラメント径、フィラメントの数、打ち込み密度が同じであり、前記ガラスクロスの厚さが、7~13μmであ」るガラスクロスにおいて、「バスケットホールの最大面積が50,000μm2以下である」ものは、上記本件明細書の【表1】における実施例1~3の検証結果によれば、比較例1~3に比して、プリプレグのピンホール品質に優れ、基板のデラミネーションの発生を抑制できるといえるから、当業者であれば、「バスケットホールの最大面積」を上記本件発明1に特定された数値以下とすることにより本件発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件発明1には、これらの事項が特定されており、本件発明1は、発明の詳細な説明において本件発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲のものといえる。
(4)申立人の主張
申立人は申立書において、以下の主張をしている。
(ア)本件発明1では「バスケットホールの平均面積」、「経糸又は緯糸の最小糸幅」及び「開繊度」が特定されていない。即ち、本件特許明細書における実施例1~3では、特定の「バスケットホールの平均面積(なお、甲第11号証から推認)」、「最小糸幅」及び「開繊度」が開示されているが、その他のものについて開示がなく、本件発明1の課題を解決できるとはいえない(申立書第51~53頁)。
(イ)技術常識に基づけば本件発明1の課題は存在しない(段落【0041】)。即ち、通常のノズル(スプレー)を使用し水を噴射すると水圧が4%以上変動することはないところ、本件特許明細書の比較例1~3では、水圧を6%以上変動させており、当業者が通常認識し得る高圧水開繊では課題の発生が認められない(申立書第53~54頁)。
(ウ)本件発明1では「一定の長さを有するロール状長尺ガラスクロス」及び「ガラスクロス全領域におけるバスケットホールの最大面積が50,000μm2以下」であることが特定されていない。通常、ガラスクロスは、長さ数百メートルの長尺で巻き芯に巻かれたロール状として製造されるところ、本件明細書の段落【0016】、【0053】に記載されているような「100mm×100mm」の限られた領域のみの観察では「50,000μm2超」のバスケットホールが認められないことが想定される(申立書第54~56頁)。
しかしながら、「バスケットホールの最大面積」を上記本件発明1に特定された数値以下とすることで、上記述べたとおり、比較例に比して、プリプレグのピンホール品質に優れ、基板のデラミネーションの発生を抑制でき、本件発明の課題が解決できることから、上記(ア)で申立人が主張するように本件発明1を限定することは要しない。
また、(イ)の点については、通常のノズル(スプレー)を使用し水を噴射すると水圧が4%以上変動することはないといえたとしても、本件明細書の実施例で使用されているノズルは、開繊工程において使用する開繊用のノズルであって、申立人のいう通常のノズルと同一視できるものではない。また、6%の水圧変動があるのは、本件明細書における比較例であること、更に、開繊工程における水圧の設定次第では4%以上の水圧変動がないとする証拠はないことから、課題の発生が認められないとまではいえない。
更に、(ウ)の点については、本件明細書の段落【0016】、【0053】には、ガラスクロスの任意の位置において観察領域を切り出し、ガラスクロス表面を観察する旨が説明されているところ、ガラスクロス全領域の観察は現実的ではないこと、また、観察のために任意の位置を切り出すことは当業者が慣用的に行っている手法である。
よって、本件発明1~8は、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであり、発明の詳細な説明に記載されたものであるといえることから、申立人の主張は採用できない。
4 申立理由6(実施可能要件)について
(1)当審の判断
本件明細書には、上記3(2)のとおり、段落【0017】~【0018】、【0041】には、「バスケットホールの最大面積」を下げる方法として、例えば、開繊工程の水圧を一定にして開繊効果を制御し、経糸及び緯糸の糸幅を一定に保つことができることで、バスケットホールの最大面積を下げることができる旨が説明されている。
そうすると、本件特許の発明の詳細な説明には、「バスケットホールの最大面積」を下げる方法が開示されているといえることから、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されている。
(2)申立人の主張
申立人は、バスケットホールの平均面積(甲第11号証)からバスケットホールの最大面積は2.5~5倍程度であるところ、本件明細書の段落【0015】には、バスケットホールの平均面積は好ましくは「20,000μm2以下」と記載されている。仮に、平均面積が25,000μm2の場合、最大面積が50,000μm2超となるが、この際、バスケットホールの最大面積を「50,000μm2」超のバスケットホールを生じさせないための技術的手段について一切記載されていない旨、主張している(申立書第57~58頁)。
しかしながら、上記(1)で述べたように、本件特許の発明の詳細な説明には、「バスケットホールの最大面積」を下げる方法が開示されているところ、本件明細書の段落【0047】~【0049】の本件実施例における実施例1~3には、その具体的手段が示されているといえることから、本件発明を実施するにあたり当業者に過度の負担を強いるものではないといえる。
よって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1~8の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであることから、申立人の上記主張は採用できない。
第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700480