特許異議申立
2023-701285
接着剤樹脂組成物
- 審判番号
- 2023-701285
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-512735
- 登録番号
- 7293528
- 請求日
- 2023年12月05日
- 審決日
- 2025年02月19日
- 公報発行日
- 2025年04月25日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】東洋紡エムシー株式会社
- 【権利者代理人】風早 信昭
- 【権利者代理人】浅野 典子
- 【異議申立人】野中 恵
- 審判長/審判官
- 審判長 光本 美奈子
- 審判官 弘實 由美子
- 審判官 瀬下 浩一
- 分類
- P1651.121-Y (C09J)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7293528号発明「接着剤樹脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7293528号の請求項1~12に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7293528号(以下「本件特許」という。)の請求項1~12に係る特許についての出願は、2023年(令和4年)9月8日(優先権主張 令和3年9月22日(以下「本件優先日」という。) (JP)日本国)を国際出願日とする出願であって、令和5年6月12日に特許権の設定登録がされ(請求項の数12)、同年同月20日に特許掲載公報が発行されたところ、同年12月5日に特許異議申立人 野中 恵(以下「申立人」という。)によって、請求項1~12に係る特許についての特許異議申立てがされたので、合議体は、令和6年7月30日に取消理由を通知した。それに対し、特許権者は、令和6年9月25日付けで意見書のみを提出したものである。
第2 本件発明
本件発明は、次のとおりの発明(以下、請求項番号にしたがって「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」ということもある。)である。
「【請求項1】
ポリエステル樹脂(A)を含み、次の(i)~(iv)の要件を満たすことを特徴とする接着剤樹脂組成物。
(i)ポリエステル樹脂(A)の酸価が200eq/ton以上である。
(ii)接着剤樹脂組成物中の硬化剤の含有量が、固形分換算で、ポリエステル樹脂(A)の固形分100質量部に対して1質量部未満である。
(iii)ポリエステル樹脂(A)を構成するポリオール成分として、1級水酸基を2個有しかつ脂環構造を有さないジオール(a)を含み、さらに、脂環構造を有するジオール(b)および1個の1級水酸基と1個の2級水酸基を有しかつ脂環構造を有さないジオール(c)のいずれかまたは両方を含む。
(iv)ポリエステル樹脂(A)が分岐構造を有する。
【請求項2】
ポリエステル樹脂(A)を構成するポリオール成分として、1級水酸基を2個有しかつ脂環構造を有さないジオール(a)を20~80モル%含み、さらに、脂環構造を有するジオール(b)を5~50モル%含むか、または1個の1級水酸基と1個の2級水酸基を有しかつ脂環構造を有さないジオール(c)を5~75モル%含む、請求項1に記載の接着剤樹脂組成物。
【請求項3】
ポリエステル樹脂(A)を構成するポリカルボン酸成分として、ベンゼン骨格を有するポリカルボン酸を含み、さらに脂肪族ポリカルボン酸、脂環族ポリカルボン酸、およびナフタレン骨格を有するポリカルボン酸からなる群より選ばれる少なくとも一種を含む、請求項1または2に記載の接着剤樹脂組成物。
【請求項4】
ポリエステル樹脂(A)が不飽和ジカルボン酸(d)を構成単位として含む、請求項1または2に記載の接着剤樹脂組成物。
【請求項5】
接着剤樹脂組成物がさらに触媒(B)を1種以上含む、請求項1または2に記載の接着剤樹脂組成物。
【請求項6】
ポリエステル樹脂(A)を120℃で15分間加熱処理した際のポリエステル樹脂(A)のテトラヒドロフラン不溶分が10質量%未満である、請求項1または2に記載の接着剤樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1または2に記載の接着剤樹脂組成物からなる接着剤層を有する積層体。
【請求項8】
請求項1または2に記載の接着剤樹脂組成物からなる接着剤層を有する接着シート。
【請求項9】
請求項7に記載の積層体を構成要素として含むプリント配線板。
【請求項10】
請求項7に記載の積層体を構成要素として含む包装材。
【請求項11】
請求項8に記載の接着シートを構成要素として含む3次元成形品加飾用積層フィルム。
【請求項12】
請求項8に記載の接着シートを構成要素として含む金属缶ラミネート用フィルム。」
第3 取消理由の概要
請求項1~12に係る特許に対して通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
1 請求項1~12に係る発明は、下記の甲第1号証に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
2 引用文献等一覧
甲第1号証:特開2008-24726号公報(以下、甲1ともいう。)
第4 甲1の記載
1 甲1に記載された事項
「【請求項1】
多塩基酸成分と多価アルコール成分とから構成されたポリエステル樹脂を含有する水性分散体であって、前記ポリエステル樹脂の組成は、全アルコール成分にしめる1,2-プロパンジオール成分の割合が50モル%以上であることを特徴とするポリエステル樹脂水性分散体。」
「【0001】
本発明はポリエステル樹脂水性分散体に関し、特に、接着剤やインキのバインダー成分として有用であるとともに、フィルムコート剤、繊維処理剤、紙塗工剤等の各種コーティング剤のバインダー成分として有用な、希釈安定性に優れたポリエステル樹脂水性分散体に関する。」
「【0009】
本発明のポリエステル樹脂の水性分散体は、オリゴマーの混在が抑制されるため、長期保存、過度の希釈によっても沈殿物が発生せず、このため、インキや各種コーティング剤のバインダー成分として、特に、低粘度、低固形分濃度のコーティング剤のバインダー成分として、好適に使用することができる。
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明で用いられるポリエステル樹脂は、多塩基酸成分と、多価アルコール成分とから構成されるが、全アルコール成分にしめる1,2-プロパンジオール成分の割合が50モル%以上であることが必要であり、60モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であることがより好ましく、75モル%以上であることがさらに好ましい。全アルコール成分にしめる1,2-プロパンジオール成分の割合が50モル%未満では、本発明の課題であるオリゴマーの発生を抑制することが困難になる。一方、全アルコール成分にしめる1,2-プロパンジオール成分の割合には特に上限はなく、アルコール成分が1,2-プロパンジオールのみであってもかまわない。」
「【0012】
1,2-プロパンジオール以外の、全アルコール成分にしめる割合が50モル%以下のアルコール成分として、炭素数2~10の脂肪族グリコール、炭素数6~12の脂環族グリコール、エーテル結合含有グリコール等が含まれていても良い。具体的な化合物では、炭素数2~10の脂肪族グリコールとしては、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,9-ノナンジオール、2-エチル-2-ブチルプロパンジオール等が挙げられる。炭素数6~12の脂環族グリコールとしては、1,4-シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。エーテル結合含有グリコールとしては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、さらにはビスフェノール類の2つのフェノール性水酸基にエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイドをそれぞれ1~数モル付加して得られるグリコール類、例えば2,2-ビス(4-ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン等が挙げられる。しかし、エーテル構造は被膜形成物の耐水性、耐候性を低下させることから、ポリエステル樹脂を構成する多価アルコール成分としてのエーテル結合含有グリコールの使用量は、全多価アルコール成分の10質量%以下、更には5質量%以下にとどめることが好ましい。なお、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールも必要に応じて使用することができる。
【0013】
多塩基酸としては、芳香族多塩基酸、脂肪族多塩基酸、脂環族多塩基酸を挙げることができる。具体的な化合物では、芳香族多塩基酸としてはテレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸類が挙げられ、脂肪族多塩基酸としては、シュウ酸、(無水)コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、アイコサン二酸、水添ダイマー酸等の飽和ジカルボン酸、フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、ダイマー酸等の不飽和の脂肪族ジカルボン酸類が挙げられ、脂環族多塩基酸としては、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、2,5-ノルボルネンジカルボン酸、無水2,5-ノルボルネンジカルボン酸、テトラヒドロフタル酸、無水テトラヒドロフタル酸等の脂環族ジカルボン酸類が挙げられる。また、樹脂の耐水性を損なわない範囲で、必要に応じて少量の5-ナトリウムスルホイソフタル酸や5-ヒドロキシイソフタル酸を用いることができる。
【0014】
上記した多塩基酸の中でも、芳香族多塩基酸を用いることが好ましく、ポリエステル樹脂を構成する全酸成分に占める芳香族多塩基酸成分の割合としては、50モル%以上であることが、被膜形成物の硬度、耐薬品性、耐水性を向上させるうえで好ましく、70モル%以上であることが、樹脂の耐加水分解性を高めて水性分散体の貯蔵安定性を向上させるうえでより好ましい。さらに言えば、被膜形成物の他の性能とバランスをとりながらその加工性、耐水性、耐薬品性、耐候性等を向上させることができる点において、ポリエステル樹脂を構成する全酸成分のうちの65モル%以上がテレフタル酸成分であることが特に好ましい。
【0015】
また、多塩基酸又は多価アルコールとしては、3官能以上の多塩基酸又は多価アルコールを使用してもよい。そのような3官能以上の多塩基酸としては、トリメリット酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、無水ベンゾフェノンテトラカルボン酸、トリメシン酸、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)、グリセロールトリス(アンヒドロトリメリテート)、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸等が挙げられ、3官能以上の多価アルコールとしては、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が挙げられる。但し、3官能以上の多塩基酸又は多価アルコールの使用量としては、ポリエステル樹脂を構成する全酸成分又は全アルコール成分に対し10モル%以下、更には5モル%以下となる範囲にとどめることが、水性分散体を用いた被膜形成物の高加工性を発現させるうえで好ましい。」
「【0017】
本発明におけるポリエステル樹脂は、酸価の範囲が8~40mgKOH/gであることが好ましく、10~36mgKOH/gがより好ましく、10~28mgKOH/gがさらに好ましい。本発明におけるポリエステル樹脂は、本来それ自身で水に分散又は溶解しないものである。そのため酸価が8mgKOH/g未満の場合には、水性化に寄与するカルボキシル基の量が十分でなく、良好な水性分散体を得ることが困難である。一方、この酸価が40mgKOH/gを超えると、ポリエステル樹脂水性分散体から被膜を形成させて乾燥する際に、被膜形成物から水及び有機溶剤が揮発し難く、被膜形成物の耐水性及び耐薬品性が低下しやすくなる。」
「【0019】
本発明におけるポリエステル樹脂を合成するための方法は、公知の方法を応用すればよい。例えば、(a)全モノマー成分及び/又はその低重合体を不活性雰囲気下で180~250℃、2.5~10時間程度反応させてエステル化反応を行い、引き続いてエステル交換反応触媒の存在下、133Pa(1Torr)以下の減圧下に220~280℃の温度で所望の分子量に達するまで重縮合反応を進めてポリエステル樹脂を得る方法、(b)前記重縮合反応を、目標とする分子量に達する以前の段階で終了し、反応生成物を次工程でエポキシ系化合物、イソシアネート系化合物、ビスオキサゾリン系化合物等から選ばれる鎖長延長剤と混合し、短時間反応させることにより高分子量化を図る方法、(c)前記重縮合反応を目標とする分子量以上の段階まで進めておき、モノマー成分を更に添加し、不活性雰囲気、常圧~加圧系で解重合を行うことで目標とする分子量のポリエステル樹脂を得る方法等を用いることができる。
【0020】
なお、ポリエステル樹脂において、水性化に必要なカルボキシル基は、樹脂骨格中に存在するよりも樹脂分子鎖の末端に偏在していることが、水性分散体により形成される被膜の耐水性、耐薬品性等の面から好ましい。副反応やゲル化等を伴わずに、そのようなポリエステル樹脂を得る方法としては、上記した方法(a)において、重縮合反応開始時以降に3官能以上の多塩基酸またはそのエステル形成性誘導体を添加するか、あるいは、重縮合反応の終了直前に多塩基酸の酸無水物を添加する方法、上記した方法(b)において、大部分の分子鎖末端がカルボキシル基である低分子量ポリエステル樹脂を鎖長延長剤により高分子量化させる方法、上記した方法(c)において、解重合剤として多塩基酸またはそのエステル形成性誘導体を使用する方法等を用いることができる。」
「【0036】
耐水性などの各種の塗膜性能をさらに向上させるために、架橋剤を、水性分散体中のポリエステル樹脂100質量部に対して0.01~100質量部添加することができる。架橋剤の添加量が0.01質量部未満の場合は、塗膜性能の向上の程度が小さく、100質量部を超える場合は、加工性等の性能が低下してしまう。架橋剤としては、自己架橋性を有する架橋剤でも良く、カルボキシル基と反応する官能基を分子内に複数個有する化合物または多価の配位座を持つ金属錯体等でも良い。このうち、イソシアネート化合物、メラミン化合物、尿素化合物、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン基含有化合物、ジルコニウム塩化合物、シランカップリング剤等が好ましい。また、これらの架橋剤を組み合わせて使用しても良い。
【0037】
さらに、本発明の水性分散体に、必要に応じて、レベリング剤、消泡剤、ワキ防止剤、顔料分散剤、紫外線吸収剤等の各種薬剤や、酸化チタン、亜鉛華、カーボンブラック等の顔料あるいは染料などを添加して、本発明の水性分散体をコーティング剤や塗料として使用することができる。また、水性分散体の安定性を損なわない範囲で上記以外の有機もしくは無機の化合物を水性分散体に添加することも可能である。
【0038】
本発明の水性分散体から得られる樹脂組成物は、様々な基材との密着性に優れる。そのため、接着剤として使用することができる。例えば、金属、ガラス、プラスチックの成型体、フィルム、紙等に使用することができる。
【0039】
本発明の水性分散体は、被膜形成能に優れているので、公知の成膜方法、例えばグラビアロールコーティング、リバースロールコーティング、ワイヤーバーコーティング、リップコーティング、エアナイフコーティング、カーテンフローコーティング、スプレーコーティング、浸漬コーティング、はけ塗り法等により各種基材表面に均一にコーティングし、必要に応じて室温付近でセッティングした後、乾燥又は乾燥と焼き付けのための加熱処理に供することにより、均一な樹脂被膜を各種基材表面に密着させて形成することができる。・・・」
「【0046】
(4)ポリエステル樹脂の酸価
ポリエステル樹脂1gを50mlのジオキサン/水=9/1(容積比)混合溶媒に完全に溶解し、フェノールフタレインを指示薬としてKOHで滴定を行い、中和に消費されたKOHのmg数を酸価として求めた。」
「【0052】
[ポリエステル樹脂の製造-1]
ポリエステル樹脂を構成する酸成分としてテレフタル酸1661gを用意し、アルコール成分として1,2-プロパンジオール1026gとエチレングリコール155gとを用意し、これらの混合物をオートクレーブ中で240℃で3時間加熱してエステル化反応を行った。続いて230℃に降温後、テトラブチルチタネートを触媒として1.36g添加し、系の圧力を徐々に減じて1.5時間後に13Paとした。この条件で重縮合反応を行い、2時間後に無水トリメリット酸60gを投入し1時間撹拌して解重合反応を行った。その後、系を窒素ガスで加圧状態にしてシート状に払い出した。そしてこれを室温まで十分に冷却した後、クラッシャーで粉砕し、篩を用いて目開き1~6mmの分画を採取し、粒状のポリエステル樹脂P-1を得た。同様の方法で、アルコール成分の構成が下記表1に示される条件となるようにして、ポリエステル樹脂P-2~P-6を得た。得られたポリエステル樹脂の物性を表1に示す。」
「【0054】
【表1】
[図:0001421343000001.jpg]
【0055】
(実施例1)
ジャケット付きの密閉できる2リットル容ガラス容器を備えた撹拌機(特殊機化工業社製、T.K.ロボミックス)を用いて、300gのポリエステル樹脂P-1と、水性化を促進させるための成分としての220gのイソプロピルアルコールと、水性化の際に用いる塩基性化合物としての11.4gのトリエチルアミンと、468.6gの蒸留水とをガラス容器内に仕込み、撹拌翼(ホモディスパー)の回転速度を7000rpmとして撹拌したところ、容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、完全浮遊状態となっていることが確認された。そこでこの状態を保ちつつ、10分後にジャケットに熱水を通して加熱した。そして系内温度を73~75℃に保ってさらに1時間撹拌した。その後、ジャケット内に冷水を流し、回転速度を4000rpmに下げて撹拌しつつ室温(約25℃)まで冷却した。さらに、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧196kPa(2kg/cm2))し、均一なポリエステル樹脂水性分散体Z-1を得た。濾過後のフィルター上には樹脂はほとんど残存していなかった。得られた水性分散体の各種特性を表2に示す。」
「【0058】
(実施例4)
ポリエステル樹脂P-4を用いるとともに、水性化の際に用いる塩基性化合物としての11.4gのトリエチルアミンと、468.6gの蒸留水とを用いた。そして、それ以外は実施例1と同様にして、均一なポリエステル樹脂水性分散体Z-4を得た。濾過後のフィルター上には樹脂はほとんど残存していなかった。得られた水性分散体の各種特性を表2に示す。」
「【0062】
【表2】
[図:0001421343000002.jpg]
」
2 甲1に記載された発明
甲1の【0052】、【表1】に記載されたポリエステル樹脂P-4、【0055】、【0058】、【表2】に記載された水性樹脂分散体Z-4に着目して整理すると、甲1には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
(甲1発明)
「酸価が21mgKOH/gであり、アルコール成分としてエチレングリコールを45.0モル、1,2-プロパンジオールを55.0モル、酸成分としてテレフタル酸100モル、トリメリット酸を2.5モル含有する、300gの粒状のポリエステル樹脂P-4を用いるとともに、水性化を促進させるための成分としての220gのイソプロピルアルコールと、水性化の際に用いる塩基性化合物としての11.4gのトリエチルアミンと、468.6gの蒸留水とをガラス容器内に仕込み、ホモディスパーの回転速度を7000rpmとして撹拌し、10分後にジャケットに熱水を通して加熱し、系内温度を73~75℃に保ってさらに1時間撹拌し、その後、ジャケット内に冷水を流し、回転速度を4000rpmに下げて撹拌しつつ室温(約25℃)まで冷却した。さらに、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧196kPa(2kg/cm2))して得られた、ポリエステル樹脂水性分散体Z-4」
第5 判断
上記第3のとおり通知した取消理由に対し、特許権者から訂正の請求はされず、意見書のみが提出された。当該意見書において主張された下記主張(3)、(5)を踏まえて、再検討した判断を以下に示す。
・主張(3) 「トリメリット酸は、投入時期により果たす作用が異なり、甲1発明の「水性分散体」中の「ポリエステル樹脂P-4」については、その投入時期から見て、「分岐構造」を形成する作用を有さないことが明らかである。」
・主張(5) 「そもそも、甲1発明の「水性分散体」は「硬化剤」を含有していないが、このような樹脂組成物を「接着剤」として使用しても、十分な剥離強度が発揮されず、「接着剤」としては実際には使用できないはずである。」
1 取消理由通知に記載した取消理由について
(1)特許法第29条第2項について
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明の「ポリエステル樹脂水性分散体」は、本件発明1の「樹脂組成物」に相当する。
また、甲1発明の「ポリエステル樹脂P-4の酸価が21mgKOH/g」は、KOH(分子量56)の質量で換算すると、1g当たり21/56meqであり、1ton(106g)当たりにすると、106×21/56meq/ton=0.375×106meq/ton=3.75×102eq/tonであるから、本件発明1の「酸価が200eq/ton以上」という事項を充足する。
さらに、甲1発明の「エチレングリコール」及び「1,2-プロパンジオール」は、それぞれ、本件発明1の「1級水酸基を2個有しかつ脂環構造を有さないジオール(a)」及び「1個の1級水酸基と1個の2級水酸基を有しかつ脂環構造を有さないジオール(c)」に相当する。
したがって、本件発明と甲1発明は
「ポリエステル樹脂(A)を含み、次の(i)及び(iii)の要件を満たすことを特徴とする樹脂組成物。
(i)ポリエステル樹脂(A)の酸価が200eq/ton以上である。
(iii)ポリエステル樹脂(A)を構成するポリオール成分として、1級水酸基を2個有しかつ脂環構造を有さないジオール(a)を含み、さらに、脂環構造を有するジオール(b)および1個の1級水酸基と1個の2級水酸基を有しかつ脂環構造を有さないジオール(c)のいずれかまたは両方を含む。」の点で一致し、以下の点で相違する。
本件発明1は「接着剤樹脂組成物」であり、「(ii)接着剤樹脂組成物中の硬化剤の含有量が、固形分換算で、ポリエステル樹脂(A)の固形分100質量部に対して1質量部未満」であるのに対して、甲1発明はそのように特定されていない点(以下「相違点1」という。)、及び、
本件発明1は「(iv)ポリエステル樹脂(A)が分岐構造を有する。」のに対して、甲1発明はそのように特定されていない点(「以下「相違点2」という。)。
(イ)判断
相違点1について
甲1の【0009】の「本発明のポリエステル樹脂の水性分散体は、・・・インキや各種コーティング剤のバインダー成分として、・・・好適に使用することができる」との記載や、【0037】の「本発明の水性分散体に、必要に応じて、レベリング剤、消泡剤、ワキ防止剤、・・・などを添加して、本発明の水性分散体をコーティング剤や塗料として使用することができる。」等の記載のとおり、甲1には、「水性分散体」をインキやコーティング剤のバインダー成分として用いることや、必要に応じて、他の成分を添加してコーティング剤や塗料等として使用することが記載されている。甲1の【0038】には「本発明の水性分散体から得られる樹脂組成物は、様々な基材との密着性に優れる。そのため、接着剤として使用することができる。」との記載はあるものの、上記のとおり、甲1には甲1発明の水性分散体がバインダー成分として様々な用途に用いられ得ることが記載されていることを踏まえると、出願時の技術常識を考慮しても、甲1の【0038】の記載をもって、甲1発明の「ポリエステル樹脂水性分散体」が架橋剤や硬化剤の添加なく接着剤として機能する接着剤樹脂組成物として甲1に開示されていたということはできない(なお、甲1の記載に加え、技術常識からみて、甲1発明の水性分散体が接着剤として機能すると理解できることについては、異議申立書においても何ら具体的に説明されていない。)。さらに、甲1には、甲1発明の水性分散体に、1質量部未満の架橋剤や硬化剤を添加して接着剤組成物として用いることは記載されておらず、その程度の量の架橋剤や硬化剤を添加して接着剤組成物とすることが、本願出願時の技術常識から明らかということもできない。
また、甲1の【0036】の「耐水性などの各種の塗膜性能をさらに向上させるために、架橋剤を、水性分散体中のポリエステル樹脂100質量部に対して0.01~100質量部添加することができる。」との記載は、塗膜性能の向上に関する記載であるから、当該記載をもって、甲1発明のポリエステル樹脂水性分散体を接着剤組成物として用いる際に、水性分散体100質量部に対して1質量部未満の架橋剤や硬化剤を添加することが開示されていたということもできない。
相違点2について
本件発明1の「分岐構造」について、本願明細書の【0030】に「分岐構造を有するとは、ポリエステル樹脂中に分岐構造を有することを言い」と記載され、トリメリット酸については同段落で「ポリエステル樹脂(A)において分岐構造を導入するには、ポリエステルの重縮合反応において、ポリカルボン酸成分および/またはポリオール成分の一部として3官能以上の成分を共重合する方法が例として挙げられる」と記載されるとおり、重縮合反応においてトリメリット酸を共重合することが分岐構造を導入する方法の例として挙げられている。
一方、甲1には、甲1発明のポリエステル樹脂水性分散体の製造方法において、重縮合反応時にはトリメリット酸等の3官能以上の成分を配合しておらず、解重合反応を行う際に無水トリメリット酸を添加するのみであり、添加の目的は、甲1の【0019】、【0020】に記載されるように「(c)前記重縮合反応を目標とする分子量以上の段階まで進めておき、モノマー成分を更に添加し、不活性雰囲気、常圧~加圧系で解重合を行うことで目標とする分子量のポリエステル樹脂を得る方法」において「解重合剤として多塩基酸またはそのエステル形成性誘導体を使用する方法等を用い」ることで「水性化に必要なカルボキシル基は、樹脂骨格中に存在するよりも樹脂分子鎖の末端に偏在している」「ポリエステル樹脂」を得ることであるから、甲1発明のポリエステル樹脂水性分散体に分岐構造は導入されていないことは明らかである。
このように、甲1発明のポリエステル樹脂水性分散体は分岐構造を有しておらず、また、甲1には、甲1発明のポリエステル樹脂水性分散体を分岐構造とすることについての記載も示唆もなされておらず、甲1の記載に接した当業者が、甲1発明のポリエステル樹脂水性分散体を分岐構造とすることを動機づけられたということもできない。
(ウ)小括
したがって、請求項1に係る発明は、上記甲1に記載された発明及び甲1に記載された技術的事項から、当業者が容易に想到し得るものではない。
イ 本件発明2~12について
本件発明2~12は、本件発明1を引用し、さらに限定するものであり、前記本件発明1と甲1発明との相違点1及び相違点2と同じ相違点を有するものである。
そうすると、上記アと同様の理由により、請求項2~12に係る発明は、上記甲1に記載された発明及び甲1に記載された技術的事項から当業者が容易に想到し得るものではない。
(2)まとめ
以上の通り、請求項1~12は、甲1に記載された発明および甲1に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)申立理由1(新規性欠如)について
本件発明1~6は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当するものであるから、本件発明1~6に係る特許は、同法第113条第2号に該当する。
(2)証拠方法
甲1:特開2008-24726号公報
(3)甲1の記載
前記第4を参照のこと。
(4)判断
前記1(1)ア(ア)対比にて検討したように、本件発明1は「接着剤樹脂組成物」、「接着剤樹脂組成物中の硬化剤の含有量が、固形分換算で、ポリエステル樹脂(A)の固形分100質量部に対して1質量部未満」であるのに対して甲1発明はそのように特定されていない点で相違しているから、本件発明1は甲1発明でない。
また、本件発明2~6は、前記1(1)イに記載したように、本件発明1に対してさらに技術的事項を追加したのであるから、本件発明2~6についても本件発明1と同様に甲1発明でない。
以上の通りであるから、本件発明1~6は甲1に記載された発明であるということはできない。
第6 むすび
したがって、請求項1~12に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1~12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-701285