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特許異議申立

2023-700577

水性塗料組成物

審判番号
2023-700577
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2018-104550
登録番号
7206637
請求日
2023年06月02日
審決日
2024年03月12日
公報発行日
2024年06月28日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】三菱ケミカル株式会社
  • 【権利者代理人】田▲崎▼ 聡
  • 【権利者代理人】君塚 哲也
  • 【権利者代理人】大浪 一徳
  • 【権利者代理人】伏見 俊介
  • 【異議申立人】野中 恵
審判長/審判官
  • 審判長 関根 裕
  • 審判官 塩見 篤史
  • 審判官 安積 高靖
分類
P1651.121-YAA(C09D)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第9項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第126条第5項、特許法第126条第6項、特許法第126条第7項
データ出所
審決公報(XML)

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特許第7206637号発明「水性塗料組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7206637号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項2について訂正することを認める。 特許第7206637号の請求項1及び2に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 1 特許第7206637号(以下「本件特許」という。)の請求項1及び2に係る特許についての出願は、平成30年5月31日の出願であって、令和5年1月10日に特許権の設定登録(請求項の数2)がされ、同年同月18日に特許掲載公報が発行された。その後、令和5年6月2日に特許異議申立人である野中 恵(以下「申立人」という。)により、請求項1及び2に係る特許について異議申立てがなされたものである。 2 その後の経緯は以下のとおりである。 令和5年10月24日付け 取消理由通知書 令和5年12月22日 特許権者による意見書及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」といい、訂正の内容を「本件訂正」という。) 令和6年 1月 9日付け 通知書(訂正請求があった旨の通知) 令和6年 2月 7日 申立人による意見書の提出 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 本件訂正請求による訂正の請求の趣旨は「特許第7206637号の特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項2について訂正することを求める。」というものであり、その内容は、以下の訂正事項1を含むものである。なお、訂正箇所に下線を付す。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項2に 「前記オレフィン系樹脂(A)が、オレフィン系複合樹脂(A3)(ただし、塩素化ポリオレフィン由来の構造を有する複合樹脂を除く)を含む、請求項1に記載の水性塗料組成物。」とあるのを、 「前記オレフィン系樹脂(A)が、オレフィン系単独重合体(A1)及びオレフィン系共重合体(A2)からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂と、ラジカル重合性単量体から誘導される構成単位を有する重合体を一体化させた複合樹脂(A3)(ただし、塩素化ポリオレフィン由来の構造を有する複合樹脂を除く)を含み、 オレフィン系樹脂(A)と水酸基含有樹脂(B)との質量比(固形分質量)が30/70~90/10である、請求項1に記載の水性塗料組成物。」に訂正する。 2 訂正の適否 (1)訂正事項1 ア 訂正の目的について (ア)訂正事項1のうち、「オレフィン系単独重合体(A1)及びオレフィン系共重合体(A2)からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂と、ラジカル重合性単量体から誘導される構成単位を有する重合体を一体化させた複合樹脂(A3)」とする訂正事項(以下「訂正事項1a」という。)は、水性塗料組成物に含まれるオレフィン系複合樹脂(A3)の樹脂の構成を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (イ)訂正事項1のうち、「オレフィン系樹脂(A)と水酸基含有樹脂(B)との質量比(固形分質量)が30/70~90/10である」とする訂正事項(以下「訂正事項1b」という。)は、水性塗料組成物におけるオレフィン系樹脂(A)と水酸基含有樹脂(B)との質量比(固形分質量)の範囲を特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (ウ)そうすると、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。 イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること (ア)訂正事項1aは、本件特許の明細書(以下「本件明細書」ともいう。)の段落【0043】の「オレフィン系複合樹脂(A3)としては、オレフィン系単独重合体(A1)及びオレフィン系共重合体(A2)からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂と、ポリエーテル樹脂などの親水性高分子とが一体化した複合樹脂(a31)、及び前記複合樹脂(a31)に、反応性基を有するラジカル重合性単量体から誘導される構成単位を有する重合体を一体化させた複合樹脂(a32)であることが好ましい。」、同段落【0051】の「オレフィン系複合樹脂(A3)の製造方法は特に限定されないが、例えば、オレフィン系単独重合体(A1)、オレフィン系共重合体(A2)又は複合樹脂(a31)の水性分散体中でラジカル重合性単量体を重合してラジカル重合性単量体から誘導される構成単位を含む重合体を一体化させる方法や、オレフィン系単独重合体(A1)、オレフィン系共重合体(A2)又は複合樹脂(a31)とラジカル重合性単量体を水性媒体に分散させ、水性樹脂分散体とした後にラジカル重合性単量体を重合して一体化させる方法などが挙げられる。」との記載から導き出される構成である。 (イ)訂正事項1bは、本件明細書の段落【0091】の「オレフィン系樹脂(A)と水酸基含有樹脂(B)との質量比(以下、「(A)/(B)比」ともいう)は(A)/(B)=10/90~90/10(固形分質量)が好ましく、さらに好ましくは、(A)/(B)=15/85~70/30、特に好ましくは(A)/(B)=20/80~60/40である。」との記載、及び、同段落【0116】【表2】の実施例2、4、6、7の(A)/(B)比「30/70」の記載から導き出される構成である。 (ウ)してみると、訂正事項1は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものといえる。 ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと (ア)訂正事項1aは、前記ア(ア)及びイ(ア)で説明したとおり、請求項2の「オレフィン系複合樹脂(A3)」について、特許請求の範囲の減縮を目的とした訂正をするものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 (イ)訂正事項1bは、前記ア(イ)及びイ(イ)で説明したとおり、請求項2の「水性塗料組成物」について、特許請求の範囲の減縮を目的とした訂正をするものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 (ウ)そうすると、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものといえる。 3 特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであること 本件訂正においては、訂正前の全ての請求項である請求項1及び2に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項に規定される独立特許要件は課されない。 4 小括 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 したがって、本件特許の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項2について訂正することを認める。 第3 本件訂正発明等 1 本件訂正発明 本件訂正は前記第2のとおり認められたので、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1及び2に係る発明(以下「本件訂正発明1」及び「本件訂正発明2」という。)は次のとおりのものである。 「【請求項1】 オレフィン系樹脂(A)(ただし、塩素化ポリオレフィンを除く)と、 水酸基含有樹脂(B)(ただし、前記オレフィン系樹脂(A)に該当するものを除く)とを分散状態で含み、大塚電子製の濃厚系粒径アナライザーFPAR-1000を用いて測定される前記オレフィン系樹脂(A)の平均粒子径が200nm以下であり、 前記水酸基含有樹脂(B)が、水酸基を有するウレタン樹脂(B1)、及び水酸基を有する(メタ)アクリルウレタン複合樹脂(B2)からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂であり、 前記水酸基含有樹脂(B)の水酸基価が10~40mgKOH/gである、水性塗料組成物。 【請求項2】 前記オレフィン系樹脂(A)が、オレフィン系単独重合体(A1)及びオレフィン系共重合体(A2)からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂と、ラジカル重合性単量体から誘導される構成単位を有する重合体を一体化させた複合樹脂(A3)(ただし、塩素化ポリオレフィン由来の構造を有する複合樹脂を除く)を含み、 オレフィン系樹脂(A)と水酸基含有樹脂(B)との質量比(固形分質量)が30/70~90/10である、請求項1に記載の水性塗料組成物。」 2 本件明細書の記載 本件明細書には、次の記載がある。 「【0009】 本発明の目的は、ポリオレフィン基材、ABS基材及びPC基材に対する付着性に優れ、かつ耐水付着性を有する塗膜を形成できる水性塗料組成物を提供することである。」 「【0011】 本発明の水性塗料組成物によれば、ポリプロピレン製基材、ABS製基材及びPC製基材に対する付着性が優れ、かつ耐水付着性を有する塗膜を形成できる。」 「【0025】 オレフィン系樹脂(A)の平均粒子径は、平均粒子径が200nm以下であり、好ましくは150nm以下である。さらに好ましくは、120nm以下である。 なお、本明細書において平均粒子径は、大塚電子製の濃厚系粒径アナライザー FPAR-1000を用いて測定できる。」 「【0099】 2.初期付着性 (塗料作成) 水性樹脂分散体の固形分に対し、基材濡れ剤としてTEGO WET KL-245(EVONIK社製)を3質量部加え、ホモディスパー攪拌機(ポリトロンPT-3100)で、700rpm5分間攪拌した。1日室温で放置し、300メッシュで濾過したものを水性塗料とした。 【0100】 ポリオレフィン基材(日本ポリプロ(株)製)「TSOP-6」から成形した厚さ3mmの基板表面をイソプロピルアルコールで清拭した。この基板に得られた水性塗料を乾燥膜厚20μとなるようにスプレー塗布し、10分間室温でセッティングした後、セーフベンドライヤー中80℃の雰囲気中で30分間乾燥させて塗膜を形成させ、これを1日室温で静置し、試験片を得た。 【0101】 次いで、試験片の塗膜面に、基材に達するように縦横1mm間隔で各11本の切り込みを入れ100個の碁盤目を作り、この上にセロハン粘着テープを貼りつけた後、該粘着テープを急激に剥がした後の塗膜の状態を観察し、基材付着性を下記の評価基準で評価した。 ○:100マス中に、91~100マス残っている。 △:100マス中に、71~90マス残っている。 ×:100マス中に、70マス未満しか残っていない。 【0102】 ABS基材(UMGABS(株)性 UMGABS3001M)、及びPC基材((帝人(株)製パンライトL-1225Z-100K)についても、上記と同様にして基材付着性を評価した。 【0103】 3.耐水付着性 (塗料作成) 水性樹脂分散体の固形分に対し、基材濡れ剤としてTEGO WET KL-245(EVONIK社製)を3質量部加え、ホモディスパー攪拌機(ポリトロンPT-3100)で、700rpm5分間攪拌した。1日室温で放置し、300メッシュで濾過したものを水性塗料とした。 【0104】 ポリプロピレン基材(日本ポリプロ(株)製)「TSOP-6」から成形した厚さ3mmの基板表面をイソプロピルアルコールで清拭した。この基板に得られた水性塗料を乾燥膜厚20μとなるようにスプレー塗布し、10分間室温でセッティングした後、セーフベンドライヤー中80℃の雰囲気中で30分間乾燥させて塗膜を形成させ、これを60℃温水に1日浸漬し、試験片を得た。 【0105】 次いで、試験片の塗膜面に、基材に達するように縦横1mm間隔で各11本の切り込みを入れ100個の碁盤目を作り、この上にセロハン粘着テープを貼りつけた後、該粘着テープを急激に剥がした後の塗膜の状態を観察し、耐水付着性を下記の評価基準で評価した。 ○:100マス中に、91~100マス残っている。 △:100マス中に、71~90マス残っている。 ×:100マス中に、70マス未満しか残っていない。 ABS基材(UMGABS(株)性 UMGABS3001M)、及びPC基材((帝人(株)製パンライトL-1225Z-100K)についても、上記と同様にして基材付着性を評価した。) 「【0116】 【表2】 [図:0001411298000001.jpg] 」 第4 特許異議申立ての概要 1 申立ての理由の概要 申立人は、証拠方法として、下記2の甲号証を提出し、以下の理由により、本件発明1及び2を取り消すべきものである旨主張している。 申立ての理由1:本件発明1及び2は、本件特許に係る出願(以下「本件出願」ともいう。)の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 2 申立人の提示した証拠方法 申立人は、次の甲第1号証及び甲第2号証を提出した。甲第1号証及び甲第2号証を、以下「甲1」及び「甲2」ともいう。 甲第1号証:特開2004-331911号公報 甲第2号証:特開2011-16957号公報 第5 取消理由通知書に記載した取消理由 1 取消理由の概要 当審が令和5年10月24日付けで通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。 取消理由1:(進歩性)本件発明1及び2は、本件出願の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 2 各文献の記載について (1)本取消理由では、甲1、甲2、及び、当審において以下の文献を新たに引用した。 文献A:特開2009-73764号公報 (2)甲1には、次の記載がある。 「【請求項1】 (a)水性ポリオレフィン樹脂、(b)水性ポリウレタン樹脂及び(c)水性架橋剤を含有することを特徴とする、塗装時に固形分含有率を30重量%以上に調整して使用するためのポリオレフィン用水性プライマー。」 「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、ポリオレフィン製成型品(被塗物)の塗装に好適な、VOC(揮発性有機化合物)の排出量を少なくすることができ且つ塗装作業効率を向上させることが可能なポリオレフィン用水性プライマー、及びそれを利用したポリオレフィン製成型品の塗装方法に関する。」 「【0003】 しかしながら、近年、塗装工程での時間短縮が強く要望されつつあり、例えば、上記の塗装工程において、複層塗膜の性能を低下させることなく、水性プライマー及び水性ベース塗料の塗膜の乾燥時間を短縮して生産効率をアップさせることが重要な課題となっている。」 「【0010】 【発明の実施の形態】 本プライマーは、(a)水性ポリオレフィン樹脂、(b)水性ポリウレタン樹脂及び(c)水性架橋剤を含有することを特徴とする、塗装時に固形分含有率を30重量%以上に調整して使用するためのポリオレフィン用水性プライマーである。本プライマーにおいて、塗装時の固形分含有率を30重量%以上に調整することにより、被塗物に塗着した本プライマーの塗膜中の水分含有率を5~30重量%にするための乾燥時間を短縮することができる(例えば、80℃の温度での乾燥時間は5分以内で十分である)。 【0011】 本プライマーが塗装される被塗物としてのポリオレフィンとしては自動車車体の内外装に使用されているものが好適であり、このものはリサイクル性にすぐれている。具体的には、例えば、ポリプロピレン樹脂、エチレン・プロピレン系樹脂、エチレン・プロピレン・ジエン系樹脂、エチレン・オレフィン系樹脂などがあげられ、これらの樹脂を成型加工してなるバンパー、フェンダー、ドア下回り部分などが被塗物としてあげられる。 (a)水性ポリオレフィン樹脂: 水性ポリオレフィン樹脂(a)としては、ポリオレフィン樹脂を主骨格とし、その分子中にカルボキシル基などの親水性基を導入してなる樹脂を使用することができる。具体的には、重合性不飽和ジカルボン酸又はその無水物で変性されたオレフィン系重合体が包含され、例えば、オレフィン系重合体に重合性不飽和ジカルボン酸又はその無水物を既知の方法によりグラフト重合することにより得られたものがあげられる。」 「【0015】 また、オレフィン系重合体は塩素化されていてもよく、この塩素化はグラフト重合の前又は後で行なうことができる。塩素化度(塩素含有率)はグラフト重合前のオレフィン系重合体を基準にして一般に0~30重量%、特に15~25重量%の範囲内が好ましい。 【0016】 オレフィン系重合体の水溶化又は水分散化を容易にするために、導入されたカルボキシル基の一部又は全部をアミン化合物で中和することが好ましい。中和に使用しうるアミン化合物としては、例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミンなどの3級アミン;ジエチルアミン、ジブチルアミン、ジエタノールアミン、モルホリンなどの2級アミン;プロピルアミン、エタノールアミンなどの1級アミンなどがあげられる。水溶化又は水分散化のために、これらのアミン化合物による中和と共に、界面活性剤を添加することも可能である。 (b)水性ポリウレタン樹脂: 水性ポリウレタン樹脂(b)としては、水に溶解又は分散しうる親水性ポリウレタン樹脂を好適に使用することができ、例えば、(i)脂肪族及び/又は脂環式ジイソシアネート、(ii)数平均分子量が500~5000のジオール、(iii)低分子量ポリヒドロキシル化合物及び(iv)ジメチロールアルカン酸をワンショット法又は多段法により反応させることにより得られるウレタンプレポリマーを、中和後又は中和しながら、伸長、乳化することにより得ることができ、特に、製造工程で使用された有機溶剤の一部もしくは全部を留去してなる、平均粒子径が0.001~1.0μm程度の自己乳化型ウレタン樹脂の水分散体が好ましい。」 「【0022】 水性ポリウレタン樹脂(b)は、中和されたカルボキシル基を有し、さらに、低分子量ポリヒドロキシル化合物(iii)に基づく水酸基を併有することもできる。水性ポリウレタン樹脂(b)は、10~60mgKOH/g、特に20~50mgKOH/gの範囲内の酸価及び10~60mgKOH/g、特に20~50mgKOH/gの範囲内の水酸基価を有することが好ましい。かかる水性ポリウレタン樹脂(b)に該当する市販品としては、例えば、「タケラックW610」(武田薬品工業(株)製、商品名)、「ネオレッツR960」(ゼネカレジン(株)製、商品名)、「ユーコートUWS-145」(三洋化成工業(株)製、商品名)などがあげられる。 【0023】 特に、水性ポリウレタン樹脂(b)としては、該樹脂の単独塗膜を酢酸でpH4.0に調整された水(温度80℃)に2時間浸漬し、130℃で1時間乾燥させてから、温度70℃、湿度95%の湿熱オーブン中で200時間放置した後の塗膜の抗張力、伸度の減少率が、これらの試験前に比べて25%以内であって、しかも乾燥後の塗膜に目視による白化現象が殆ど又は全く認められないものを使用することが好ましい。 (c)水性架橋剤: 水性架橋剤(c)には、水に分散又は溶解し、かつ上記水性ポリオレフィン樹脂(a)及び/又は水性ポリウレタン樹脂(b)中の官能基と架橋反応する化合物が包含され、具体的には、例えば、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、カルボジイミド樹脂などから選ばれる少なくとも1種の成分が好適に使用できる。 【0024】 メラミン樹脂は、水性ポリウレタン樹脂(b)中に含まれることがある水酸基と架橋反応することができ、具体的には、メラミンにホルムアルデヒドを反応させてなるメチロール化メラミン樹脂、さらにそれに炭素数1~10のモノアルコールを反応させてなる部分又はフルエーテル化メラミン樹脂などを使用することができる。メラミン樹脂として、また、イミノ基が併存しているものも使用することができる。メラミン樹脂は疎水性及び親水性のいずれでのタイプのものであってもよいが、特に、メタノールでエーテル化した縮合度の小さい、数平均分子量が3000以下、特に100~1500の範囲内の親水性メラミン樹脂が適している。かかる親水性のメラミン樹脂の市販品としては、例えば、「サイメル303」、「サイメル325」(いずれもサイテック(株)製、商品名)などがあげられる。 【0025】 架橋剤(c)としてのエポキシ樹脂には1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する樹脂が包含され、このものは水性ポリオレフィン樹脂(a)及び水性ポリウレタン樹脂(b)中に含まれるカルボキシル基と架橋反応することができる。具体的には、例えば、エポキシ基含有重合性単量体とビニル系重合性単量体との共重合体があげられる。上記エポキシ基含有重合性単量体としては、例えば、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、メチルグリシジルアクリレート、メチルグリシジルメタクリレートなどがあげられ、また、上記ビニル系重合性単量体は、エポキシ基含有重合性単量体以外の重合性単量体であって、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、アクリロニトリル、スチレン、酢酸ビニル、塩化ビニルなどがあげられる。これらの単量体の共重合反応はそれ自体既知の方法で行なうことができ、得られる共重合体は、一般に、20~2800、特に30~700の範囲内のエポキシ当量、及び3000~100000 、特に4000~50000の範囲内の数平均分子量を有していることが好ましい。さらに、ビスフェノールのグリシジルエーテル化エポキシ樹脂又はその水素添加物、脂肪族多価アルコールのグリシジルエーテル化エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂などもエポキシ系架橋剤として使用することができる。これらのエポキシ樹脂は、一般に、500~20000、特に800~5000の範囲内の分子量を有していることが好ましい。 【0026】 架橋剤(c)としてのカルボジイミド樹脂は、水性ポリオレフィン樹脂(a)及び水性ポリウレタン樹脂(b)中に含まれるカルボキシル基と架橋反応することができるものであり、例えば、ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基同士を脱二酸化炭素反応せしめることにより得ることができ、該当する市販品としては、例えば、「カルボジライトE-01」、「カルボジライトE-02」(日清紡(株)製、商品名)などがあげられる。 本プライマー: 本プライマーは、以上に述べた水性ポリオレフィン樹脂(a)、水性ポリウレタン樹脂(b)及び水性架橋剤(c)を含有する水性塗料であり、これら(a)、(b)及び(c)成分を水性媒体中に溶解又は分散せしめることにより調製することができる。これらの各成分の構成比率は目的とする水性プライマーの用途などに応じて適宜選択することができるが、一般には、(a)成分、(b)成分及び(c)成分の合計固形分量を基準にして、(a)成分は10~80重量%、特に30~50重量%、(b)成分は10~60重量%、特に20~40重量%、そして(c)成分は3~20重量%、特に5~10重量%の範囲内が好ましい。」 「【0059】 【実施例】 以下、本発明を実施例及び比較例によりさらに具体的に説明をする。なお、部及び%はいずれも重量基準であり、塗膜の厚さは乾燥、硬化した塗膜についてのものである。 【0060】 1.試料の調製 水性ポリオレフィン樹脂(a): 重量平均分子量80000のマレイン化ポリプロピレン樹脂(塩素化率22%、マレイン酸変性量2.0%、酸価30mgKOH/g)500部、n-ヘプタン150部及びN-メチルピロリドン50部からなる混合物を50℃に加温し、ジメチルエタノールアミン12部及び「ノイゲンEA-140」(ノニオン系界面活性剤、第1工業製薬(株)製、商品名)5部を仕込み、同温度で1時間攪拌した後、脱イオン水2000部を徐々に仕込み、さらに1時間攪拌を行なった。つぎに、70℃の温度で減圧してn-ヘプタン及び水を合計で600部留去して、固形分含有率23.6%のポリオレフィンエマルジョンを得た。樹脂粒子の平均粒径は1.8μmであった。 【0061】 水性ポリウレタン樹脂(b): 「タケラックW610」(武田薬品工業(株)製、商品名) 水性架橋剤(c) (c-1):「サイメル325」(サイテック(株)製、商品名、水溶性メラミン樹脂) (c-2):「カルボジライトE-01」(日清紡(株)製、商品名、水性カルボジイミド) 水性ポリエステル樹脂(d): トリメチロールプロパン/フタル酸/アジピン酸/トリメリット酸を仕込み重量比率130部/50部/80部/20部にて常法によりエステル化反応させることにより得られた酸価40mgKOH/g、水酸基価130mgKOH/g及び数平均分子量3000のポリエステル樹脂をジメチルエタノールアミンにて当量中和して、固形分含有率が40%の水溶性ポリエステル樹脂水溶液を製造した。 【0062】 増粘剤(e): 「アデカノールUH-420」(旭電化(株)製、商品名、ウレタン系水溶性増粘剤) チタン白顔料: 「タイペークCR-93」(石原産業(株)製、商品名) カーボンブラック顔料: 「三菱カーボンブラックMA-100」(三菱化学(株)製、商品名) 水性ベースコート(B) (B1):「アスカベークWT-330X-2」(関西ペイント(株)製、商品名、プラスチック用メラミン硬化型水性シルバーメタリックベース塗料) (B2):「アスカベークWT#700」(関西ペイント(株)製、商品名、水性メラミン硬化型金属製自動車ボデー用シルバーメタリックベース塗料) ポリイソシアネート化合物含有2液型クリヤーコート(C) (C1):「ソフレックス#520」(関西ペイント(株)製、商品名) (C2):「ソフレックス#1600」(関西ペイント(株)製、商品名、メラミン硬化型プラスチック用クリヤー塗料)(比較用) 2.実施例及び比較例 上記の試料を後記表1に示す組成比率(重量、固形分比)で配合し、さらに表1に記載の固形分濃度(塗装時)に調整してなる水性プライマー(A)、ならびに水性ベースコート(B)及び2液型クリヤーコート(C)を使用して複層塗膜を形成せしめた。 【0063】 ついで、水性プライマー(A)をポリオレフィン素材(「TSOP-1(TC-1)」、日本ポリケム(株)製、商品名)面にエアスプレー塗装により塗装し(塗装膜厚は10~15μm)、室温で1分間放置してから80℃で塗膜中の含水率が所定の値になるまで水切乾燥を行なった。乾燥時間(単位、分)及び乾燥後の単独塗膜中の含水率(単位、%)を前記したカールフィッシャー法により測定した。その結果も表1に併記する。 【0064】 この水性プライマー(A)の未硬化の塗面に、水性ベースコート(B1)又は(B2)を膜厚が15~20μmになるようにスプレー塗装し、形成された複層塗膜を室温で1分間放置してから80℃の温度で、複層塗膜中の含水率が所定の値になるまで水切乾燥を行なった。複層塗膜中の含水率は、水性プライマー(A)と水性ベース塗料(B1)又は(B2)とからなる未硬化の複層塗膜の一部を掻き取り、均一に混合してから、このものにカールフィッシャー試薬を滴下することにより測定した。また、この乾燥に要した時間を計測した。その結果を表1に記載する。ついで、この未硬化の複層塗膜面に、2液型クリヤーコート(C1)又は(C2)を膜厚が25~30μmになるように塗装し、室温で5分間放置してから、100℃で30分間加熱して3層からなる複層塗膜を同時に硬化させた。このようにして形成された複層塗膜の性能試験を行なった。その結果も併せて表1に記載する。 【0065】 複層塗膜の性能試験方法は下記のとおりである。 【0066】 生産性: 水性プライマー(A)の単層塗膜の水切り乾燥時間(I)と、水性プライマー(A)と水性ベース塗料(B)とからなる複層塗膜の水切り乾燥時間(II)とを基礎に、次の基準に従い評価した。 【0067】 優:(I)及び(II)が共に3分以内、 良:(I)及び(II)共に3分以上5分以内又は(I)と(II)との合計が10分以内、 劣:(I)と(II)との合計が10分以上。 【0068】 仕上り外観: クリヤ塗面のツヤビケ、オレンジピール、ハジキ、ヘコミなどの異常発生の有無を以下の基準で目視で評価した。 【0069】 ○:これらの異常発生が全く認められない、 △:これらの異常発生が少し認められた、 ×:これらの異常発生が顕著に認められた。 【0070】 色一致性: 上記実施例及び比較例で作製した塗装パネルと、電着塗料及び中塗り塗料を塗装した自動車ボデ-用鋼板に水性ベースコート(B2)を膜厚が15~20μになるようスプレー塗装し、塗膜中の含水率が5~30%になるように水切乾燥した後、ボデー鋼板用クリヤー塗料(「マジクロンKINO#1200」、関西ペイント(株)製、商品名、酸エポ型クリヤ塗料)を膜厚が30~35μmになるよう塗装し140℃で30分焼付けることにより作製した塗り板との色差ΔE値を「S&M Color Computer Model 4」(スガ試験機社製)にて測定し、以下の基準で自動車ボデーとプラスチック部位との色一致性を判定した。 【0071】 ○:色一致性良好(ΔE値1以下)、 △:色一致性やや劣る(ΔE値1以上2以下)、 ×:劣る(ΔE値2以上) 付着性: 3層塗膜に素地に達するようにカッターで切りこみ、2mm巾のゴバン目100個作り、その表面に粘着セロハンテープを貼着し、20℃において急激に剥離した跡のゴバン目塗膜の残存数を観察した。 【0072】 耐水試験: 40℃の温水に10日間浸漬した後、引き上げ直後の外観(白化、フクレなどの発生の有無)及び付着性(上記と同じ方法による)を評価した。外観における○は白化、フクレなどの発生がない、△は白化、フクレなどの発生が少し認められる、×は白化、フクレなどの発生が多く認められることを示す。 【0073】 屈曲性: プラスチック部材に塗装した試験板を、20℃にて、直径20mmの鉄棒にはさんで180度の角度まで折り曲げ、屈曲部の3層塗膜を観察する。全く変化がないものを○、微小なワレが発生したものを△、顕著なワレを発生したものを×とした。 【0074】 【表1】 [図:0001411298000002.jpg] 【0075】 【表2】 [図:0001411298000003.jpg] 」 (3)甲2には、次の記載がある。 「【請求項1】 プロピレン系重合体、及び同一ミセル内にウレタン樹脂と(メタ)アクリル樹脂とを含有する(メタ)アクリル-ウレタン樹脂複合体を、水に分散させてなる樹脂分散体組成物。」 「【0009】 そこで本発明は、安定性に優れ、ポリオレフィン以外の塗膜との密着性が向上し、耐湿性、耐水性、耐油性(耐GH性)、耐薬品性、耐擦性などの塗膜特性が良好であり、かつ、ポリオレフィンからなる基材に対して十分な密着性を有し、かつ製造上のコストが抑えられた樹脂分散体組成物を提供するものである。」 「【0012】 本発明の樹脂分散体組成物は、(メタ)アクリル-ウレタン樹脂複合体を含むので、ポリオレフィン以外の塗膜との密着性が向上し、さらに耐湿性、耐水性、耐油性(耐GH性)、耐薬品性、耐擦性などの塗膜特性が良好な塗膜を提供することができる。 また、本発明の樹脂分散体組成物からなる塗膜は、ポリオレフィンからなる基材に対して密着性が高くない(メタ)アクリル-ウレタン樹脂複合体を含むにも関わらず、ポリオレフィン樹脂分散体のみからなる塗膜と比べて、ポリオレフィン基材密着性を大幅に低下させることなく、基材に対して強力な密着性を示す。」 「【0013】 よって、本発明の塗膜は、ポリオレフィン素材、特にプロピレン素材、もしくはプロピレン系重合体素材等を含有するプラスチック素材に対して良好な密着性を示し、通常塗装や接着が困難な未処理のポリプロピレンのような難密着性の基材上にも形成しうる。 さらに、ポリウレタン樹脂分散体に比べて、原料および製造工程面で低コストである(メタ)アクリル-ウレタン樹脂複合体の樹脂分散体を使用するために安価に製造できる。」 「【0097】 溶媒溶解状態および溶融状態にしたのち、水を添加し水分散体を製造する装置としては、特に限定されないが、例えば、撹拌装置付き反応釜、一軸または二軸の混練機などが使用できる。その際の攪拌速度は装置の選択に伴い多少異なるが、通常、10~1000rpmの範囲である。 [5]プロピレン系重合体の水分散体 上述の変性プロピレン系重合体は水への分散性に非常に優れ、また上述の水分散体の製造方法によれば分散粒子径の細かいプロピレン系重合体の水分散体が得られるので、[I-1]又は[I-2]に記載されるプロピレン系重合体の水分散体を用いて得られる本発明の樹脂分散体組成物は分散粒子径が細かく、かつ樹脂が安定に分散している利点がある。従ってこれを用いると優れた外観の塗布品が得られる。 【0098】 プロピレン系重合体の水分散体における重合体(樹脂)の分散粒子径は、体積換算として粒径が細かい方から累積で50%の粒子径(50%粒子径、又は50%平均粒子径と称する。)を求めた場合、通常50%粒子径で10μm以下であり、好ましくは1μm以下である。本発明によれば、50%粒子径が0.5μm以下とすることができ、より好ましくは0.3μm以下、更に好ましくは0.2μm以下、最も好ましくは0.1μm以下とすることができる。同じく90%粒子径を求めた場合、更に好ましくは90%粒子径を1μm以下とすることができ、特に好ましくは0.5μm以下とすることができる。分散粒子径を小さくすることで、分散安定性を向上させ、凝集が起きにくく、より安定に分散できる。また90%粒子径と50%粒子径の比が小さくなることは、粒度分布が狭くなることを意味し結果として分散安定性が向上する。 【0099】 ここで分散粒子径は公知の方法で測定できるが、例えば日機装社製マイクロトラック UPA(バッチ型 動的光散乱法/レーザードップラー法)を用いて測定することができる。 なお、本発明において分散とは、分散粒子が極めて小さく単分子で分散している状態、実質的には溶解と言えるような状態を含む概念である。従って、分散粒子径の下限値については特に制限はない。」 「【0191】 無水マレイン酸のグラフト率は、無水マレイン酸をクロロホルムに溶解した溶液を測定し、検量線を作成し、そして、カルボニル基の吸収ピーク(1780cm-1付近の極大ピーク、1750~1813cm-1)の面積から、前記の通り作成した検量線に基づき、重合体中の酸成分含有量を算出し、これをグラフト率(重量%)とした。 (4)分散粒子径 日機装社製マイクロトラック UPAを用いて測定した。分散体の密度を0.9kg/m3、形状を球形、分散媒を水として測定時間180秒にて測定し、体積換算として粒径が細かい方から累積で50%の粒子径、90%の粒子径を求めた。」 「【0196】 FUDOH社製レオメーターを用い、この切込みを入れた端を片方の治具に、反対側の端にあたる基板の部分をもう片方の治具に挟み、引っ張り速度50mm/minで180°方向に引っ張った時の剥離強度を測定し、剥離強度を1cm当りに換算してピール強度を算出した。 (10)塗装試験 自動車外装用グレードのポリプロピレンを70mm×150mm×3mmにインジェクション成形して基板を作成後、これを70mm×75mm×3mmの基板に2等分し、基板表面をイソプロピルアルコールで清拭した。次に樹脂分散体組成物を塗布量約10g/m2となるように噴霧塗布し、この試験片をセーフベンドライヤー中80℃で10分乾燥した。次に水性ベース塗料を塗布量約15g/m2となるように噴霧塗布し80℃で3分乾燥した。最後に溶剤系2液クリアーを塗布量40g/m2となるようにスプレー塗装し80℃で35分乾燥した。 【0197】 これを24時間以上放置後、塗装試験片として以下の密着性、耐湿性の試験を行った。 (10)-1 密着性 作製した塗装試験片に、JIS K 5400に記載されている碁盤目試験の方法に従って碁盤目を付け、塗膜にセロハンテープ(ニチバン社製)を貼り付けた後、90度方向に剥離した。碁盤目25マスのうち剥離されなかった碁盤目数にて評価した。 【0198】 (10)-2 耐湿性 作製した塗装試験片を、50℃、95%RHの条件で10日間置いた後、前記(10)-1と同様に碁盤目試験を行い碁盤目25マスのうち剥離されなかった碁盤目数にて密着性を評価した。 また、ブリスター(水ぶくれ)の有無を調べ、下記の基準により評価した。 【0199】 ○:外観異常なし △:少数のブリスター発生 ×:多数のブリスター発生 [製造例1] (溶融混練工程) プロピレン-ブテン共重合体(三井化学社製、タフマーXM7080、プロピレン含有量80モル%)200kgと無水マレイン酸5kgをスーパーミキサーでドライブレンドした後、2軸押出機(日本製鋼所社製TEX54αII)を用い、プロピレン-ブテン共重合体100重量部に対し1重量部となるようにt-ブチルパーオキシイソプロピルモノカルボナート(日本油脂社製パーブチルI)を液添ポンプで途中フィードしながら、ニーディング部のシリンダー温度200℃、スクリュー回転数125rpm、吐出量80kg/時間の条件下で混練し、ペレット状の製品を得た。 【0200】 このようにして得られた無水マレイン酸変性プロピレン-ブテン共重合体の無水マレイン酸基の含量(グラフト率)は0.8重量%(無水マレイン酸基として0.08mmol/g、カルボン酸基として0.16mmol/g)であった。また重量平均分子量は158,000、数平均分子量は91,000(ともにポリスチレン換算)であった。 (溶液変性工程) 次に、底部抜き出し弁とオイル循環式ジャケットヒーターのついた2Lガラスフラスコに還流冷却管、温度計、窒素ガス吹込み管、攪拌機を設置した後、上記無水マレイン酸変性プロピレン-ブテン共重合体150gとトルエン150gを仕込み、窒素ガスを吹き込みながら110℃になるまで加温、撹拌した。 【0201】 昇温後、無水マレイン酸2.25gを加えて溶解させた後、パーブチルIを0.75g加え、7時間同温度で撹拌を続け、無水マレイン酸変性プロピレン-ブテン共重合体の溶液を得た。 その後、溶液の一部として0.5gを抜き出し、アセトンを加えて、沈殿した共重合体を濾別し、更にアセトンで沈殿・濾別を繰り返し、最終的に得られた共重合体を減圧乾燥した。この無水マレイン酸変性プロピレン-ブテン共重合体の無水マレイン酸基の含量(グラフト率)は1.5重量%(無水マレイン酸基として0.15mmol/g、カルボン酸基として0.30mmol/g)であった。また重量平均分子量は148,000、数平均分子量は78,000(ともにポリスチレン換算)であった。 【0202】 (乳化工程) 次に、上記の無水マレイン酸変性プロピレン-ブテン共重合体の溶液にトルエン129gを加えて希釈した後、テトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’―ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン(チバスペシャリティケミカル社製 イルガノックス1010)0.075gを加えた。ジャケット温度(外温)を75℃に下げ、更にイソプロパノール15gを加えて1時間撹拌した後、70℃の温水600gを加え撹拌した。15分間撹拌を続けた後、静置すると上部にトルエン溶液相、下部に温水相と二相に分離するので、底部の抜き出し弁より温水を抜き出した。温水での洗浄操作をもう1回繰り返した後、トルエン溶液に、メトキシポリ(オキシエチレン/オキシプロピレン)-2-プロピルアミン(ハンツマン社製ポリエーテルアミン;ジェファーミンM-1000、分子量1000(公称値))22.5g(22.5mmol)をイソプロパノール405gおよび水101gに溶解した溶液を、1時間かけて滴下した。 【0203】 還流冷却管とフラスコとの間にディーン・スターク管を設置し、ジャケット温度90℃にて得られた液体を減圧して溶媒を120g留去し、水90gを加える工程を5回繰り返した。その後更に、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノールの90%水溶液(AMP90)1.5g(15mmol)を加え、固形分が30重量%になるまでトルエンとイソプロパノールと水を減圧留去し、白色の水分散体(I)を得た。分散粒子径を測定した結果、50%粒子径は57nm、90%粒子径は76nmであった。」 (4)文献Aには、次の記載がある。 「【0022】 本発明で用いられるO/W型エマルジョンの体積平均粒径としては、10~200nmであることが好ましく、10~100nmであることが特に好ましい。 前記体積平均粒径は、市販の粒度分布計等で計測することができる。エマルジョンの粒径測定法としては、光学顕微鏡法、共焦点レーザー顕微鏡法、電子顕微鏡法、原子間力顕微鏡法、静的光散乱法、レーザー回折法、動的光散乱法、遠心沈降法、電気パルス計測法、クロマトグラフィー法、超音波減衰法等が知られており、それぞれの原理に対応した装置が市販されている。 本発明における体積平均粒径範囲および測定の容易さから、本発明におけるエマルジョンの体積平均粒径測定では動的光散乱法が好ましい。動的光散乱を用いた市販の測定装置としては、ナノトラックUPA(日機装(株))、動的光散乱式粒径分布測定装置LB-550((株)堀場製作所)、濃厚系粒径アナライザーFPAR-1000(大塚電子(株))等が挙げられる。 本発明において、カロテノイド含有O/W型エマルジョンの体積平均粒径は、濃厚系粒径アナライザーFPAR-1000(大塚電子(株)製)を用いて25℃で測定した値を採用する。 前記体積平均粒径の測定方法は、油相成分の濃度が0.1~1質量%の範囲内になるように純水で希釈を行い、測定用ガラス管を用いて測定を行う。体積平均粒径は、分散媒屈折率として1.3313(純水)、分散媒の粘度として0.8846cp(純水)に設定して測定した時の累積(50%)値として求めることができる。」 第6 当審の判断 1 取消理由1及び申立ての理由1について (1) 甲1号証に記載された発明 ア 甲1(上記第5 2(2)参照。)の請求項1には、「(a)水性ポリオレフィン樹脂、(b)水性ポリウレタン樹脂及び(c)水性架橋剤を含有するポリオレフィン用水性プライマー」が記載されており、甲1の段落【0026】には、本プライマーは、「水性ポリオレフィン樹脂(a)、水性ポリウレタン樹脂(b)及び水性架橋剤(c)を含有する水性塗料であり、これら(a)、(b)及び(c)成分を水性媒体中に溶解又は分散せしめることにより調製することができる」ことが記載されている。 また、甲1の段落【0074】【表1】には、実施例に用いられる水性プライマー(A)は、「水性ポリオレフィン樹脂(a)」、「水性ポリウレタン樹脂(b)」、「水性架橋剤(c)」、「水性ポリエステル樹脂(d)」、「増粘剤(e)」、「チタン白顔料」、「カーボンブラック顔料」を含有することが記載されている。 そして、甲1の段落【0060】には、実施例の水性プライマーに含有される「水性ポリオレフィン樹脂(a)」として、「重量平均分子量80000のマレイン化ポリプロピレン樹脂(塩素化率22%、マレイン酸変性量2.0%、酸価30mgKOH/g)500部、n-ヘプタン150部及びN-メチルピロリドン50部からなる混合物を50℃に加温し、ジメチルエタノールアミン12部及び「ノイゲンEA-140」(ノニオン系界面活性剤、第1工業製薬(株)製、商品名)5部を仕込み、同温度で1時間攪拌した後、脱イオン水2000部を徐々に仕込み、さらに1時間攪拌を行なった」後、「70℃の温度で減圧してn-ヘプタン及び水を合計で600部留去して」得られた「固形分含有率23.6%」、「樹脂粒子の平均粒径が1.8μm」であるポリオレフィンエマルジョン」を用いることが記載されており、甲1の段落【0061】には実施例の水性プライマーに含有される「水性ポリウレタン樹脂(b)」として「タケラックW610」を用いることが記載されている。 イ すると、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。 (甲1発明) 「水性ポリオレフィン樹脂(a)、水性ポリウレタン樹脂(b)、水性架橋剤(c)、水性ポリエステル樹脂(d)、増粘剤(e)、チタン白顔料及びカーボンブラック顔料を含有する水性塗料であり、これらの含有成分を水性媒体中に溶解又は分散せしめることにより調製したポリオレフィン用水性プライマーであって、 前記水性ポリオレフィン樹脂(a)が、重量平均分子量80000のマレイン化ポリプロピレン樹脂(塩素化率22%、マレイン酸変性量2.0%、酸価30mgKOH/g)500部、n-ヘプタン150部及びN-メチルピロリドン50部からなる混合物を50℃に加温し、ジメチルエタノールアミン12部及び「ノイゲンEA-140」(ノニオン系界面活性剤、第1工業製薬(株)製、商品名)5部を仕込み、同温度で1時間攪拌した後、脱イオン水2000部を徐々に仕込み、さらに1時間攪拌を行なった後、70℃の温度で減圧してn-ヘプタン及び水を合計で600部留去して得られた固形分含有率23.6%、樹脂粒子の平均粒径が1.8μmであるポリオレフィンエマルジョンであり、前記水性ポリウレタン樹脂(b)がタケラックW610である、ポリオレフィン用水性プライマー」 (2)対比・判断 ア 本件訂正発明1 (ア) 本件訂正発明1と甲1発明を対比する。甲1発明における「水性ポリオレフィン樹脂(a)」、「水性ポリウレタン樹脂(b)」、「水性ポリオレフィン樹脂(a)と水性ポリウレタン樹脂(b)を含有する水性塗料であり、これらの含有成分を水性媒体中に溶解又は分散せしめることにより調製したポリオレフィン用水性プライマー」は、本件訂正発明1における「オレフィン系樹脂(A)」、「樹脂(B)」、「オレフィン系樹脂(A)と樹脂(B)とを分散状態で含む、水性塗料組成物」に相当する。 ここで、甲1発明における「水性ポリオレフィン樹脂(a)」は「重量平均分子量80000のマレイン化ポリプロピレン樹脂(塩素化率22%、マレイン酸変性量2.0%、酸価30mgKOH/g)500部、n-ヘプタン150部及びN-メチルピロリドン50部からなる混合物を50℃に加温し、ジメチルエタノールアミン12部及び「ノイゲンEA-140」(ノニオン系界面活性剤、第1工業製薬(株)製、商品名)5部を仕込み、同温度で1時間攪拌した後、脱イオン水2000部を徐々に仕込み、さらに1時間攪拌を行なった後、70℃の温度で減圧してn-ヘプタン及び水を合計で600部留去して得られたポリオレフィンエマルジョン」であり、「水酸基含有樹脂」でないことは明らかである。 すると、本件訂正発明1と甲1発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。 <一致点> 「オレフィン系樹脂(A)と、樹脂(B)(ただし、前記オレフィン系樹脂(A)に該当するものを除く)とを分散状態で含む、水性塗料組成物。」 <相違点1> 本件訂正発明1では、オレフィン系樹脂について、「塩素化ポリオレフィンを除く」のに対し、甲1発明では水性ポリオレフィン樹脂の原料として「塩素化率22%のマレイン化ポリプロピレン樹脂」を用いていることから、水性ポリオレフィン樹脂が「塩素化ポリオレフィン」である点 <相違点2> 本件訂正発明1では、オレフィン系樹脂について、「大塚電子製の濃厚系粒径アナライザーFPAR-1000を用いて測定される平均粒子径が200nm以下」と特定しているのに対し、甲1発明では水性ポリオレフィン樹脂の平均粒子径が「1.8μm」である点 <相違点3> 本件訂正発明1では、樹脂(B)について、「水酸基を有するウレタン樹脂、及び水酸基を有する(メタ)アクリルウレタン複合樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂」であるのに対し、甲1発明では、「水性ポリウレタン樹脂」が水酸基を有するか特定されていない点 <相違点4> 本件訂正発明1では、樹脂(B)について、「水酸基価が10~40mgKOH/g」であるのに対し、甲1発明では水酸基価が特定されていない点 (イ) 事案に鑑み、相違点2から検討する。甲1発明の水性ポリオレフィン樹脂の平均粒子径は「1.8μm」であり、本件訂正発明1のオレフィン系樹脂の平均粒子径の数値範囲である「200nm以下」の範囲外であるところ、甲1には水性ポリオレフィン樹脂の平均粒子径について実施例の「1.8μm」以外の記載も示唆もない。そして、平均粒子径が1.8μmである水性ポリオレフィン樹脂を含有する水性プライマーの全ての実施例において付着性、及び、耐水付着性、並びに甲1発明の課題である生産性のいずれも優れた評価結果が得られている。してみれば、甲1発明において付着性、耐水付着性、生産性を向上させるべく、水性ポリオレフィン樹脂の平均粒子径を1.8μmより小さくし、200μm以下とする動機付けがあるとはいえない。 一方、甲2の段落【0097】~【0099】には、「プロピレン系重合体の水分散体における重合体(樹脂)の分散粒子径は」、「通常50%粒子径で10μm以下であり」、「最も好ましくは0.1μm以下とすることができる」こと、「分散粒子径を小さくすることで、分散安定性を向上させ、凝集が起きにくく、より安定に分散できる」こと、「本発明の樹脂分散体組成物は分散粒子径が細かく、かつ樹脂が安定に分散している利点があ」り、「これを用いると優れた外観の塗布品が得られる」こと、「分散粒子径は公知の方法で測定できるが、例えば日機装社製マイクロトラック UPA(バッチ型 動的光散乱法/レーザードップラー法)を用いて測定することができる」ことが記載されている。また、段落【0191】、【0203】には、日機装社製マイクロトラック UPAを用いて測定した実施例に用いたプロピレン系重合体の水分散体の50%粒子径が57nmであることが記載されている。ここで、甲2に記載された「日機装社製マイクロトラック UPA」は、本件訂正発明1の「大塚電子製の濃厚系粒径アナライザーFPAR-1000」と同じく、測定手法として動的光散乱法を採用するものであることから(文献A(上記2(4)参照。)の段落【0022】の記載参照)、両者の測定装置による平均粒子径の測定値はほぼ同じになることが推認される。 しかしながら、ポリオレフィン用水性プライマーにおいて分散状態で含まれる樹脂の分散安定性を向上させることが一般的に自明の課題であったとしても、甲1発明のポリオレフィン用水性プライマーは前述した付着性、耐水付着性、生産性以外にも、ポリオレフィン用水性プライマーに含有される樹脂の分散安定性が影響する評価項目である「仕上がり外観」、「耐水塗膜外観」のいずれも優れており、樹脂の分散安定性をさらに向上させる動機付けがあるとはいえない。 さらに、本件訂正発明1の効果である、ポリオレフィン基材、ABS基材及びPC基材に対する付着性に優れ、かつ耐水付着性を有する塗膜を形成できる点(本件明細書の段落【0011】)について、甲1にはポリオレフィン素材に塗装した場合の性能試験を行い、性能試験の複数の評価項目の中に付着性及び耐水付着性が含まれているが、当該付着性及び耐水付着性が本件訂正発明1における初期付着性及び耐水付着性と同程度の性能を有しているか不明である。また、甲2、文献Aにも、本件訂正発明1における初期付着性及び耐水付着性と同程度の性能を有する塗膜を形成できる点について記載も示唆もない。そして、特許権者により令和5年12月22日に提出された意見書において、本件訂正発明1の平均粒子径の数値範囲外である263nmの平均粒子径であるポリオレフィン系樹脂を用いた参考製造例1の水性塗料組成物を調製し、初期付着性及び耐水付着性を評価したところ、ポリオレフィン基材、ABS基材、PC基材のいずれについても本件明細書に記載された実施例より性能が劣る結果が得られたことが示されている。してみれば、仮に甲1発明のポリオレフィン用水性プライマーに含有される樹脂の分散安定性をさらに向上させるべく、甲2に記載された樹脂の平均粒子径に関する技術的事項を採用したとしても、本件訂正発明1の平均粒子径が200nm以下であるポリオレフィン系樹脂を含有する水性塗料組成物が有する、ポリオレフィン基材、ABS基材及びPC基材に対する付着性に優れ、かつ耐水付着性を有する塗膜を形成できるという効果は、甲1、甲2、文献Aの記載から予測しえない顕著なものであるといえる。 したがって、相違点2は当業者であっても容易に想到しうることということはできず、相違点1、3、4を検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲1発明、並びに、甲1、2及び文献Aに記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができない。 (ウ) 申立人は令和6年2月7日に提出された意見書の(3)において、「すなわち、本件明細書においては、基材に対する塗膜の付着性、耐水付着性に影響を及ぼす水性塗料組成物の因子として、オレフィン系樹脂(A)については、「オレフィンに由来する構成単位の含有率」、「反応性基の有無」、「プロピレンに由来する構成単位の有無」、「重量平均分子量」、「反応性基の含有量」、「反応性基の種類」、「水酸基の含有量」などを挙げ、また、水酸基含有樹脂(B)については、「水酸基価」、「重合体(B2a)中のウレタン樹脂(B1)の質量割合」、「重合体(B2a)の平均粒子径」、「重合体(B2b)中のウレタン樹脂(B1)の質量割合」、「重合体(B2b)の平均粒子径」などを挙げ、また、水性塗料組成物については、「オレフィン系樹脂(A)と水酸基含有樹脂(B)との質量比」を挙げている。一方、本件明細書【0025】には、「オレフィン系樹脂(A)の平均粒子径は、平均粒子径が200nm以下であり、好ましくは150nm以下である。さらに好ましくは、120nm以下である。」と記載されている。しかしながら、本件明細書には、オレフィン系樹脂(A)の平均粒子径が、塗膜の付着性、耐水付着性に影響を及ぼすことについて、何ら記載されていない。したがって、オレフィン樹脂(A)の粒子径を200nm以下である本件発明に係る水性塗料組成物は、ポリオレフィン基材、ABS基材及びPC基材に対する付着性に優れ、かつ耐水付着性を有する塗膜を形成できる水性塗料組成物を提供するという課題を解決したものであるとする主張は、本件明細書の記載に基づかない主張であって、根拠がない。」旨主張している。 しかしながら、本件明細書の段落【0025】には塗膜の付着性、耐水付着性について直接記載されていないが、同段落【0009】には「本発明の目的は、ポリオレフィン基材、ABS基材及びPC基材に対する付着性に優れ、かつ耐水付着性を有する塗膜を形成できる水性塗料組成物を提供することである。」と記載されていることから、本件訂正発明1に係る水性塗料組成物はポリオレフィン基材、ABS基材及びPC基材に対する付着性に優れ、かつ耐水付着性を有する塗膜を形成できる水性塗料組成物を提供するという課題を解決すべく、組成や物性等を決定していることは明らかであり、同段落【0025】に塗膜の付着性、耐水付着性について直接記載されていないことから平均粒子径が塗膜の付着性、耐水付着性に影響を及ぼさない技術的事項であるとはいえない。そして本件明細書の段落【0116】【表2】には、平均粒子径が70nm又は80nmであるオレフィン系樹脂(A)を用いた実施例1~8は、ポリオレフィン基材、ABS基材及びPC基材に対する付着性に優れ、かつ耐水付着性を有する塗膜を形成できることが記載されている。よって、特許権者の前記主張が、本件明細書の記載に基づかない、根拠がないものとはいえない。 また、申立人は、同意見書の(5)において、「本件明細書【0116】【表2】には、ポリオレフィン基材、ABS基材、及びPC基材に対する水性塗料組成物の初期付着性、耐水付着性の評価が記載されている。そして、ポリオレフィン基材に対する評価が「○」「△」「×」のいずれであっても、ABS基材やPC基材に対する評価は「○」であることが記載されている。すなわち、ABS基材やPC基材は、ポリオレフィン基材に比較して、水性塗料組成物との初期付着性や耐水付着性を得やすい基材であることが記載されている。甲1や甲2は、ポリオレフィン基材との付着性を評価し、ポリオレフィン基材との付着性が優れることが記載されていることから、ABS基材やPC基材との付着性にも優れる蓋然性が高いものである。」旨主張している。 しかしながら、申立人の主張は本件明細書に記載された実施例の水性塗料組成物における結果のみから推測したものであり、実施例以外の水性塗料組成物において常に同様の結果が得られるかどうか不明であり、ABS基材やPC基材がポリオレフィン基材に比較して水性塗料組成物との初期付着性や耐水付着性を得やすい基材であることが技術常識であるともいえない。してみれば、甲1や甲2においてポリオレフィン基材との付着性を評価し、ポリオレフィン基材との付着性が優れることが記載されていることから、ただちにABS基材やPC基材との付着性にも優れる蓋然性が高いものであるとはいえない。 さらに、申立人は、同意見書の(7)において、「参考製造例1には、溶媒であるトルエン及び2-プロパノールの量が具体的に記載されておらず、ポリオレフィン系樹脂の平均粒子径が263nmである水性樹脂分散体を再現して製造することはできず、また、水性樹脂分散体の初期付着性、耐水付着性についても再度評価することができない。」ことから、「オレフィン系樹脂(A)の平均粒子径を200nm以下とした数値の限定に臨界的意義があると理解することはできない。」旨、並びに、「特許権者が行った追加的実験には、製造例3に基づいた参考製造例の水性樹脂分散体が製造されておらず、その平均粒子径、初期付着性、耐水付着性を評価したことが記載されていない。」ことから、「本件発明2においても、オレフィン系樹脂(A)の平均粒子径を200nm以下とした数値の限定に臨界的意義があると理解することはできない。」旨主張している。 しかしながら、本件明細書の製造例2には溶媒であるトルエン及び2-プロパノールの量を含めポリオレフィン系樹脂の製造条件が具体的に記載されており、これらの製造条件のうち、溶媒であるトルエン及び2-プロパノールの量を調整することにより、粒子径を制御することで参考製造例1を調製していることから、当業者であれば製造例2の製造条件を参考にして溶媒の量を調製することに過度な試行錯誤を要するものではなく、溶媒の量が具体的に記載されていないことのみから当業者が製造して初期付着性及び耐水付着性を評価することができないとはいえず、平均粒子径を200nm以下とした数値の限定の臨界的意義がなくなるとはいえない。また、製造例3に基づいた参考製造例の水性樹脂分散体が製造されていなくとも、本件明細書には製造例3のポリオレフィン系樹脂を用いた水性塗料組成物が初期付着性及び耐水付着性に優れていることが記載されていることから、本件訂正発明2の水性塗料組成物が本件明細書に記載された効果を有していることは理解できるものであり、本件訂正発明2において新たに限定された発明特定事項により初期付着性及び耐水付着性が劣化するものではないことから、平均粒子径を200nm以下とした数値の限定の臨界的意義がなくなるとはいえない。 よって、申立人の主張は採用できない。 (エ) したがって、本件訂正発明1は、甲1発明、並びに、甲1、2及び文献Aに記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができないから、特許法第29条第2項により特許を受けることができないものであるとはいえない。 イ 本件訂正発明2 本件訂正発明2は本件訂正発明1を引用しさらに限定した発明であるところ、前記アのとおり、本件訂正発明1は、甲1発明、並びに、甲1、2及び文献Aに記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとも認められないものである。 そうすると、さらに検討するまでもなく、本件訂正発明2も、本件訂正発明1と同様の理由により、甲1発明、並びに、甲1、2及び文献Aに記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることはできないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるとはいえない。 (3)取消理由1及び申立ての理由1についてのまとめ 以上のとおりであるから、取消理由1及び申立ての理由1によっては、本件特許の請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。 第7 むすび したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件訂正発明1及び2に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件訂正発明1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2023-700577

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