特許異議申立
2022-701223
粘着テープ、電子機器部品又は車載部品の固定方法、及び、電子機器部品又は車載部品の製造方法
- 審判番号
- 2022-701223
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-173199
- 登録番号
- 7084539
- 請求日
- 2022年12月09日
- 審決日
- 2026年03月24日
- 公報発行日
- 2026年08月28日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】積水化学工業株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人お茶の水内外特許事務所
- 【権利者代理人】小林 均
- 【権利者代理人】林 司
- 【権利者代理人】弁理士法人WisePlus
- 【異議申立人】糸井 奈美子
- 審判長/審判官
- 審判長 関根 裕
- 審判官 門前 浩一
- 審判官 光本 美奈子
- 分類
- P1652.121-ZDA(C09J) / P1652.536-ZDA(C09J) / P1652.537-ZDA(C09J)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第4項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7084539号発明「粘着テープ、電子機器部品又は車載部品の固定方法、及び、電子機器部品又は車載部品の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7084539号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-19〕について訂正することを認める。
特許第7084539号の請求項1、2、4~6、10~19に係る特許を取り消す。
同請求項3に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7084539号(以下「本件特許」という。)の請求項1~19の発明に係る特許についての出願は、2020年(令和2年)12月17日(優先権主張 令和元年12月18日)を国際出願日とする特願2021-507882号の一部を、令和3年10月22日に新たな特許出願としたものであって、令和4年6月6日にその特許権の設定登録がされ(請求項の数19)、同年同月14日にその特許掲載公報が発行されたものである。
その後、令和4年12月9日に、特許異議申立人 糸井 奈美子(以下、「申立人」という。)による特許異議の申立て(対象請求項:請求項1~6、10~19)がされた。
その後の主な手続の経緯は、次のとおりである。
令和5年 6月29日付け 取消理由通知
同年 8月10日提出 指定期間の延長を求める上申書(特許権者)
同年 8月29日付け 指定期間を90日とする通知
同年 9月29日提出 訂正請求書及び意見書(特許権者)
同年11月 8日提出 意見書(申立人)
令和6年 3月19日付け 訂正拒絶理由通知
同年 4月11日提出 訂正請求書を補正する手続補正書及び意見書(特許権者)
同年 9月26日付け 取消理由通知(決定の予告)
同年11月20日提出 訂正請求書及び意見書(特許権者)
令和7年 1月10日提出 意見書(申立人)
同年 5月27日付け 取消理由通知(決定の予告)
同年 6月20日提出 上申書(申立人)
同年 8月20日提出 訂正請求書及び意見書(特許権者)
同年10月 8日提出 意見書(申立人)
同年11月11日付け 訂正拒絶理由通知
同年12月17日提出 訂正請求書を補正する手続補正書及び意見書(特許権者)
なお、令和5年9月29日提出の訂正請求書、及び、令和6年11月20日提出の訂正請求書による訂正は、取り下げられたものとみなす。
第2 訂正請求書の補正及び訂正の適否
1 訂正請求書の補正の適否
令和7年12月17日提出の手続補正書は、同年8月20日提出の訂正請求書の「訂正事項2」を、次のとおり補正しようとするものである。
(補正前)
訂正事項2
「前記粘着剤層のゲル分率が70重量%以下である、粘着テープ。」との記載を、
「前記粘着剤層のゲル分率が5重量%以上50重量%以下である、粘着テープ。」と訂正する。
請求項1の記載を引用する他の請求項も同様に訂正する。
(補正後)
訂正事項2
「前記粘着剤層のゲル分率が70重量%以下である、粘着テープ。」との記載を、
「前記粘着剤層のゲル分率が10重量%以上50重量%以下である、粘着テープ。」と訂正する。
請求項1の記載を引用する他の請求項も同様に訂正する。
この補正は、訂正事項2において、粘着剤層のゲル分率を「5重量%以上50重量%以下」から「10重量%以上50重量%以下」に補正するものであり、審理対象を拡張変更するものではなく、減縮的変更をする補正に該当するから、本件補正は、訂正請求の要旨を変更しないものと認められる。
したがって、この補正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第131条の2第1項の規定に違反するものではないから、この補正を認める。
2 訂正の内容
訂正請求書の手続補正書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである(下線は、訂正箇所を表し、当審が付した。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の
「n-ヘプチル(メタ)アクリレートに由来する構成単位を有するアクリル共重合体、架橋剤(但し、アクリル系イソシアネートプレポリマーを除く)、及び粘着付与樹脂を含有する粘着剤組成物(但し、水溶性粘着剤用樹脂を除く)を含有する粘着剤層を有し、」との記載を、
「n-ヘプチル(メタ)アクリレートに由来する構成単位を有するアクリル共重合体、イソシアネート系架橋剤(但し、アクリル系イソシアネートプレポリマーを除く)、及び粘着付与樹脂を含有する粘着剤組成物(但し、水溶性粘着剤用樹脂を除く)を含有する粘着剤層を有し、」と訂正する。
請求項1の記載を引用する他の請求項も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1の
「前記粘着剤層のゲル分率が70重量%以下である、粘着テープ。」との記載を、
「前記粘着剤層のゲル分率が10重量%以上50重量%以下である、粘着テープ。」と訂正する。
請求項1の記載を引用する他の請求項も同様に訂正する。
(3)一群の請求項について
訂正事項1及び2に係る訂正前の請求項1~19について、請求項2~19は請求項1を引用しているものであって、訂正事項1及び2によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1~19に対応する訂正後の請求項1~19は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
3 本件訂正の適否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1は、粘着剤組成物の成分である架橋剤を、「架橋剤(但し、アクリル系イソシアネートプレポリマーを除く)」から「イソシアネート系架橋剤(但し、アクリル系イソシアネートプレポリマーを除く)」と限定することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更
訂正事項1の粘着剤組成物の成分である架橋剤を「架橋剤(但し、アクリル系イソシアネートプレポリマーを除く)」から「イソシアネート系架橋剤(但し、アクリル系イソシアネートプレポリマーを除く)」と限定することは、明細書の段落【0038】の記載に基づくものである。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
また、訂正事項1の前記架橋剤を限定する訂正は、カテゴリーや対象、目的を変更する訂正ではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的
訂正事項2は、粘着剤層のゲル分率を「70重量%以下」から「10重量%以上50重量%以下」とすることで、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更
訂正事項2の粘着剤層のゲル分率の範囲を「70重量%以下」から「10重量%以上50重量%以下」と限定することは、明細書の段落【0045】の記載に基づくものである。
したがって、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
また、訂正事項2の前記粘着剤層のゲル分率を限定する訂正は、カテゴリーや対象、目的を変更する訂正ではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
4 独立特許要件について
(1) 本件においては、訂正前の請求項1~6、10~19について特許異議の申立てがされているので、訂正前の請求項1~6、10~19に係る訂正事項1及び2に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
(2) 一方、下記第3に示すとおり、特許異議の申立てがされていない請求項7は請求項5又は6を、請求項8は請求項7を、請求項9は請求項1、2、3、4、5、6、7又は8を引用して記載されるものである。
請求項7又は8に係る発明は、アクリル共重合体は、下記第3の式(1)(【数1】)で表される値Xが2以上50以下又は5以上30以下であることを発明特定事項とするものであり、請求項9に係る発明は、アクリル共重合体は、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート及びイソボルニル(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも1種のモノマーに由来する構成単位を有し、前記テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート及びイソボルニル(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも1種のモノマーに由来する構成単位の含有量が1重量%以上40重量%以下であることを発明特定事項とするものであるから、いずれの甲号証に記載された発明でもなく、当業者がそれらの発明に基づいて容易に想到し得たものでもない。
また、上記訂正後の請求項7~9に係る発明の特許について、他に取り消すべき理由を発見しない。
以上のとおりであるから、訂正後の請求項7~9に係る発明が独立特許要件を満たさないとする理由はない。
5 訂正請求についてのまとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
そして、上記2(2)及び4で示したとおり、本件訂正後の請求項1~19は特許法第120条の5第4項に規定する「一群の請求項」であり、特許異議の申立てがされていない本件訂正後の請求項7~9に係る発明は独立して特許を受けることができるものであって、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するから、本件特許の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~19〕について訂正することを認める。
第3 訂正後の特許請求の範囲の記載
本件訂正請求により訂正された請求項1~19に係る発明(以下、順に「本件訂正発明1」等といい、まとめて「本件訂正発明」ともいう。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~19に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
n-ヘプチル(メタ)アクリレートに由来する構成単位を有するアクリル共重合体、イソシアネート系架橋剤(但し、アクリル系イソシアネートプレポリマーを除く)、及び粘着付与樹脂を含有する粘着剤組成物(但し、水溶性粘着剤用樹脂を除く)を含有する粘着剤層を有し、
前記粘着剤層のゲル分率が10重量%以上50重量%以下である、粘着テープ。
【請求項2】
前記アクリル共重合体は、n-ヘプチル(メタ)アクリレートに由来する構成単位の含有量が48重量%以上であることを特徴とする請求項1記載の粘着テープ。
【請求項3】
前記アクリル共重合体は、n-ヘプチル(メタ)アクリレートに由来する構成単位の含有量が60重量%以上であることを特徴とする請求項1記載の粘着テープ。
【請求項4】
前記アクリル共重合体は、炭素数8以上のアルキル基を有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位の含有量が50重量%以下であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の粘着テープ。
【請求項5】
前記アクリル共重合体は、更に、架橋性官能基を有するモノマーに由来する構成単位を有することを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の粘着テープ。
【請求項6】
前記アクリル共重合体は、前記架橋性官能基を有するモノマーに由来する構成単位の含有量が0.01重量%以上20重量%以下であることを特徴とする請求項5記載の粘着テープ。
【請求項7】
前記架橋性官能基を有するモノマーは、水酸基を有するモノマーであり、前記アクリル共重合体は、下記式(1)で表される値Xが2以上50以下であることを特徴とする請求項5又は6記載の粘着テープ。
【数1】
[図:0001438250000001.jpg]
式(1)中、Mwpolymerはアクリル共重合体の重量平均分子量、WOHはアクリル共重合体に占める水酸基を有するモノマーに由来する構成単位の含有量(重量部)、Wtotalはアクリル共重合体を構成する全モノマーの含有量(重量部)、MOHは水酸基を有するモノマーの分子量、nは水酸基を有するモノマーの水酸基価数を表す。
【請求項8】
前記値Xが5以上30以下であることを特徴とする請求項7記載の粘着テープ。
【請求項9】
前記アクリル共重合体は、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート及びイソボルニル(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも1種のモノマーに由来する構成単位を有し、前記テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート及びイソボルニル(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも1種のモノマーに由来する構成単位の含有量が1重量%以上40重量%以下であることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7又は8記載の粘着テ
ープ。
【請求項10】
前記アクリル共重合体の重量平均分子量が20万以上200万以下であることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7、8又は9記載の粘着テープ。
【請求項11】
前記粘着付与樹脂は、ロジンエステル系粘着付与樹脂及びテルペン系粘着付与樹脂からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10記載の粘着テープ。
【請求項12】
界面活性剤を含有しないことを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10又は11記載の粘着テープ。
【請求項13】
生物由来炭素の含有率が10重量%以上であることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11又は12記載の粘着テープ。
【請求項14】
前記粘着剤層のゲル分率が10重量%以上であることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12又は13記載の粘着テープ。
【請求項15】
JIS Z 0237:2009に準拠して測定したガラスに対する180°剥離力が7N/25mm以上であることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13又は14記載の粘着テープ。
【請求項16】
JIS Z 0237:2009に準拠して測定したポリカーボネート板に対する180°剥離力が7N/25mm以上であることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14又は15記載の粘着テープ。
【請求項17】
電子機器部品又は車載部品の固定に用いられることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15又は16記載の粘着テープ。
【請求項18】
請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16又は17記載の粘着テープを用いて電子機器部品又は車載部品を固定することを特徴とする電子機器部品又は車載部品の固定方法。
【請求項19】
請求項18記載の電子機器部品又は車載部品の固定方法を含むことを特徴とする電子機器部品又は車載部品の製造方法。」
第4 特許異議申立書の申立理由、並びに、当審が通知した取消理由及び取消理由(決定の予告)
1 特許異議申立書(以下、「申立書」ということがある。)の申立理由
(1)申立理由1(甲第1号証を主引例とする進歩性欠如)
本件特許の請求項1~6、10~19に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び公知の事項に基づいて、本件特許の出願日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件の請求項1~6、10~19に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由2(甲第10号証を主引例とする進歩性欠如)
本件特許の請求項1~6、10~19に係る発明は、甲第10号証に記載された発明及び公知の事項に基づいて、本件特許の出願日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件の請求項1~6、10~19に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)申立理由3(サポート要件違反)
本件特許の特許請求の範囲の記載が、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~6、10~19に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定を充足しない出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
本件特許明細書の【0007】には「特にn-ヘプチル(メタ)アクリレートを用いることで、平滑面及び粗面のいずれに対しても優れた粘着力を発揮できる粘着剤組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。」と記載されるものの、本件特許明細書の【表1】の本件訂正発明の実施例に該当する実施例10、11、14乃至17の記載から、ヘプチルアクリレートを用い、ゲル分率を70重量%以下とした粘着剤組成物について、粗面に対する「顕著な粘着力」が示されているとは言いがたい。
(4)申立理由4(実施可能要件違反)
本件特許の発明の詳細な説明の記載が、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~6、10~19に係る発明の特許は、特許法第36条第4項第1号の規定を充足しない出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
本件特許明細書には、本件訂正発明の課題を解決しその作用効果を奏するように、過度の試行錯誤を要することなくその物を生産し、かつ、使用できる程度の記載があるとはいえない。
2 証拠方法
(1) 申立人が、申立書に添付した証拠は、以下のとおりである。
甲第1号証:特表2006-521418号公報
甲第2号証:特開2002-121522号公報
甲第3号証:特開2014-37543号公報
甲第4号証:特開2017-2225号公報
甲第5号証:特開2011-105829号公報
甲第6号証:特開2018-87334号公報
甲第7号証:特開2013-249322号公報
甲第8号証:特開2017-179329号公報
甲第9号証:特開2018-130934号公報
甲第10号証:欧州特許第2626397号明細書
甲第11の1号証:本件特許の出願時に願書に添付された特許請求の範囲
甲第11の2号証:本件特許に関する、受付日令和3年10月22日の手続補正書
甲第11の3号証:本件特許に関する、受付日令和3年10月22日の早期審査に関する事情説明書
甲第12の1号証:令和3年11月9日付けの拒絶理由通知書
甲第12の2号証:本件特許に関する、受付日令和3年12月16日の手続補正書
甲第12の3号証:本件特許に関する、受付日令和3年12月16日の意見書
甲第13の1号証:令和4年1月5日付けの拒絶理由通知書
甲第13の2号証:本件特許に関する、受付日令和4年4月15日の手続補正書
甲第13の3号証:本件特許に関する、受付日令和4年4月15日の意見書
甲第13の4号証:本件特許に関する、受付日令和4年4月18日の手続補足書
甲第13の5号証:本件特許に関する、受付日令和4年4月18日の実験成績証明書
甲第14号証:本件特許に関する、令和4年5月2日付けの特許査定
(以下、甲第1号証~甲第14号証をそれぞれ「甲1」~「甲14」という。)
(2) 特許権者が令和5年9月29日及び令和7年8月20日の意見書に添付して提出した証拠は、以下のとおりである。
乙第1号証:追加実験結果報告書
乙第2号証:追加実験結果報告書
(以下、乙第1号証及び乙第2号証を「乙1」及び「乙2」という。)
3 令和5年6月29日付け取消理由及び令和6年9月26日付け取消理由(決定の予告)の概要
・取消理由(甲10を主引用例とする進歩性欠如)(申立理由2に相当)
本件特許の請求項1~6、10~19に係る発明は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲10に記載された発明及び甲2~甲9に記載された事項に基いて本件特許の出願日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、これらの請求項に係る発明の特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
4 令和7年5月27日付け取消理由(決定の予告)の概要
・取消理由(甲1を主引用例とする進歩性欠如)(申立理由1に相当)
本件特許の請求項1~6、10~19に係る発明は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲10に記載された発明及び周知技術(甲2~甲10等参照)に基いて本件特許の出願日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、これらの請求項に係る発明の特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
第5 当審における判断
以下、下線は合議体による。
1 甲1の記載及び甲1に記載された発明
(1)甲1の記載
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)-45℃~10℃のガラス転移温度を有するホモポリマー製造用(メタ)アクリル酸エステル単量体35~94.9重量部;
-90℃~-50℃のガラス転移温度を有するホモポリマー製造用(メタ)アクリル酸エステル単量体5~50重量部;
架橋可能な官能基を含むビニル系単量体、アクリル系単量体、又はこれらの混合物0.1~15重量部を共重合して得たアクリル系共重合体100重量部;及び
b)多官能性架橋剤0.01~10重量部
を含む偏光板用アクリル系感圧性粘着剤組成物。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0013】
このような従来の問題点を解決するために、本発明の目的は、従来の粘着剤の粘着耐久性、切断性などの主要特性を変化させないと同時に、光漏れ現象を改善することができる偏光板用アクリル系感圧性粘着剤組成物を提供することにある。」
「【0024】
本発明は、粘着剤の構造を調整したものであって、化学結合によって架橋密度は必要な程度に維持しながら、物理的に鎖間のもつれ(entaglement)構造と柔軟性の制御によって耐久性、切断性などの諸般物性を維持し、同時に光漏れ減少を改善したものである。」
「【0027】
以下では、前記粘着剤組成物の各成分を具体的に説明する。
【0028】
前記-45℃~10℃のガラス転移温度を有するホモポリマー製造用(メタ)アクリル酸エステル単量体は、結合力を補強することによって粘着耐久性と切断性などを維持することができる。前記単量体の含量は、アクリル系共重合体100重量部内に35乃至94.9重量部が用いられ、45乃至90重量部を投入して共重合させるのが好ましい。この時、前記単量体の含量が94.9重量部を超えると、残留応力緩和効果が相対的に低くなり、35重量部未満であると、粘着剤の結合力が小さくなって粘着耐久性及び切断性の物性が悪くなる。前記-45℃~10℃のガラス転移温度を有するホモポリマー製造用(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、n-ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、プロピルアクリレート、エチルアクリレート、メチルアクリレート、3-メチルブチルアクリレート、n-ヘキシルメタクリレート、n-オクチルメタクリレート、n-テトラデシルメタクリレートなどがあり、これら単量体は、単独又は2種以上混合して使用することができる。
【0029】
前記-90℃~-50℃のガラス転移温度を有するホモポリマー製造用(メタ)アクリル酸エステル単量体は、高分子鎖に柔軟性を増進させることによって応力緩和効果を与え、光漏れ現象の改善のために使用される。前記単量体の含量は、アクリル系共重合体100重量部内で5乃至50重量部が用いられ、10乃至40重量部を投入して共重合させるのが好ましい。この時、前記単量体の使用量が50重量部を超えると、残留応力緩和効果は高まるが、結合力が低くなって耐久信頼性に問題になる虞があり、5重量部未満であると、残留応力緩和効果が低くなる結果を招く。前記-90℃~-50℃のガラス転移温度を有するホモポリマー製造用(メタ)アクリル酸エステル単量体の例としては、n-オクチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、2-エチルブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、ノニルアクリレート、ペンチルアクリレート、イソオクチルアクリレート、n-デシルメタクリレート、n-ドデシルメタクリレートなどがあり、これら単量体は、単独又は2種以上混合して使用することができる。」
「【0031】
前記架橋可能な官能基を含むビニル系単量体、アクリル系単量体、又はこれらの混合物の含量は、0.1~15重量部が好ましい。この時、前記架橋可能な官能基を含む単量体の使用量が0.1重量部未満であると、高温又は高温の条件で凝集破壊が起こりやすく、接着力向上効果が低下する。また、前記単量体の含量が15重量部を超えると、流動特性を減少させ、結合力上昇によって粘着力が低下する。
【0032】
前記架橋可能な官能基を含むビニル系単量体の例としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピレングリコール(メタ)アクリレートなどを含むが、これらに限られるわけではない。本発明は、その他にも水酸基を含むビニル系単量体であれば全て用いることができる。前記で言及された成分は必要に応じて単独又は混合して使用することができる。」
「【0034】
本発明は、前記組成の単量体を共重合してアクリル系共重合体を製造することができ、このようなアクリル系共重合体は、粘着特性及びコーティング性などを考慮して分子量200,000乃至2,000,000範囲の値を有するのが好ましい。・・・
【0035】
また、本発明の粘着剤組成物において、前記架橋剤は、カルボキシル基及び水酸基と反応することによって粘着剤の結合力を高める役割を果たす。前記架橋剤の含量は、アクリル系共重合剤100重量部に対して0.01乃至10重量部が好ましい。前記架橋剤は、イソシアネート系、エポキシ系、アジリジン系、金属キレート系架橋剤などを用いることができ、この中でイソシアネート系が使用上容易である。・・・」
「【0040】
また、本発明は、粘着性能を調節するために粘着性付与樹脂をさらに添加することができ、その含量は、アクリル系共重合体100重量部に対して1乃至100重量部の範囲で使用することができる。この時、前記粘着性付与樹脂が過剰になると、粘着剤の相溶性又は結合力を減少させる虞があるので、注意して適切に添加しなければならない。前記粘着性付与樹脂の例としては、(含水)ヒドロカーボン系樹脂、(含水)ロジン樹脂、(含水)ロジンエステル樹脂、(含水)テルペン樹脂、(含水)テルペンフェノール樹脂、重合ロジン樹脂、重合ロジンエステル樹脂などが挙げられ、これらを単独又は2種以上混合して使用することができる。」
「【0051】
[実施例1]
<アクリル系共重合体の製造>
冷却装置を設置した1Lの反応器に、下記表1に示した組成の通りに、n-ブチルアクリレート(BA)69.5重量部、n-オクチルアクリレート(n-OA)28.0重量部、アクリル酸(AA)1.0重量部、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(2-HEMA)1.5重量部で構成される単量体の混合物を投入した。そして、溶剤として、酢酸エチル(EAc)120重量部を投入した。酸素を除去するために窒素ガスを60分間パージングした後、温度は60℃に維持し、反応開始剤であるアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.03重量部を45%濃度になるよう酢酸エチルで希釈して投入し、8時間反応させて最終のアクリル系共重合体を製造した。
【0052】
<配合過程>
下記表2の通りに、前記で得たアクリル系共重合体100重量部に、架橋剤としてイソシアネート系トリメチロールプロパンのトリレンジイソシアネート付加物(TDI-1)2.0重量部を投入し、コーティング性を考慮して適正の濃度に希釈し、均一に混合した後、離型紙にコーティングして乾燥して、30ミクロンの均一な粘着層を得た。
【0053】
<積層過程>
前記で製造された粘着層を、厚さ185ミクロンのヨード系偏光板に積層加工した。得られた偏光板を適切な大きさに切断して評価用に使用し、前記粘着剤が適用された偏光板に関し、以下の評価をした結果を下記の表2に示した。
【0057】
[実施例2乃至4]
下記表1の通りの組成に従って共重合し、表2の組成比の通りに、架橋剤の量を変更したことを除いては、前記実施例1と同様にしてクリル系共重合体の製造、配合、積層過程を実施した。その後、実施例1と同様な方法で耐久信頼性、光透過均一性、切断性を評価し、その結果は表2に示した。」
「【0059】
【表1】
[図:0001438250000002.jpg]
」
(2)甲1に記載された発明
前記1の実施例1等の記載から、甲1には以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「n-ブチルアクリレート(BA)69.5重量部、n-オクチルアクリレート(n-OA)28.0重量部、アクリル酸(AA)1.0重量部、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(2-HEMA)1.5重量部で構成される単量体の混合物を原料とするアクリル系共重合体100重量部に、架橋剤としてイソシアネート系トリメチロールプロパンのトリレンジイソシアネート付加物(TDI-1)2.0重量部を投入して得られた粘着層。」
2 甲10の記載及び甲10に記載された発明
(1)甲10の記載
甲10は外国語のため、以下、申立人が提出した訳文がある場合はこれを採用し、ない場合は当審による翻訳を記載する。
「特許請求の範囲
1.感圧接着剤であって、
アクリル系ポリマー成分を含有し、
前記アクリル系ポリマー成分は、これを構成するモノマーの少なくとも50質量%が完全に生物由来、言い換えると完全に再生可能な原料に由来するものであることを特徴とする、感圧接着剤」
「[0001]
本発明は、ポリアクリレートベースの感圧接着剤に関する。」
「[0002]
近年、接着剤の品質に対する、特に場合によっては存在する不純物に関しても、要求が劇的に高くなっている。一例は、身体への直接貼り付けるのに適すべき接着剤、又は身体と接触する製品に貼り付けるために用いられる接着剤である。健康に有害な側面に対して最終消費者がますます敏感になる中で、このような感圧接着剤に課せられる純度の要求が相当に高まっている。別の例は、例えばプリント有機回路などの高感度の電子部品への接着剤の使用の増加である。この場合も不純物が、しばしば望ましくないプロセスにつながり、このような製品に従来の接着剤を使用することによって、不適正若しくは耐用年数の短縮につながる。
[0003]
技術的には、不純物を最小限に抑えるために、接着剤又はその出発物質を処理する試みがなされる。しかしこのようなプロセスには手間がかかり、必ずしも望ましい結果につながらない。
[0004]
本発明によれば、バイオベースのモノマーを使用することによって、感圧接着剤中の不純物を低減できることがわかった。」
「[0017]
「感圧接着剤」(PSA;英語:「pressure sensitive adhesives」)という用語は、通例のように、場合によっては、例えば粘着樹脂などの他の成分を適切に添加することによって、適用温度(別途定義されない限り、室温)で恒久的に粘性及び永久的に粘着性であり、触れると多数の表面に付着、特に即座に付着する(いわゆる「タック」[粘着性又は指触粘着性とも呼ばれる]を有する)粘弾性ポリマー材料と解される。ポリマー材料は、適用温度ですでに、溶剤又は熱による活性化なしに、場合によっては多少にかかわらず高い圧力の影響下で、接着されるべき基材を十分に濡らすことができ、それにより材料と基材との間に付着のために十分な相互作用を形成することができる。
感圧接着剤は、通常、ホモポリマー、コポリマー、又はポリマー(ホモポリマー及び/又はコポリマー)の混合物であり得るベースポリマー成分とも呼ばれるポリマー成分からなる。ポリマー成分の組成は、感圧接着剤の所望の特性に応じて選択することができる。通常、ポリマー成分には、最終製品(感圧接着剤)の所望の特性を得るために、部分的にかなりの量の、共成分及び/又は添加剤といった他の添加物が添加される。(「共成分」及び「添加剤」という名称は、本明細書中では厳密に分けて使用されず、境界がはっきりしない。むしろ特定の特性を得るためかなりの量で使用される添加物が「共成分」と解されるのに対して、添加剤は、通常、比較的少ない量で使用される。しかし区別することは、本明細書の範囲内で、どちらの用語についても限定するものと解されるべきでない)。十分な凝集力をもたらすために、感圧接着剤は、しばしば架橋される。」
「[0025]
再生可能原料をベースとしたアルコールは、種々異なる方法で製造することができる。バイオブタノールは、植物性の、大抵の場合、予め処理されたバイオマスを発酵させることによって、例えばサッカロース又は澱粉などの糖を出発点として、あるいはイソブタノール、又は同様にn-ブタノールを生成するべくセルロースを出発点として得ることができる。第2のケースでは、セルロースが酵素により糖に分解される。イソブタノールも澱粉又は糖から製造することができる。このために、遺伝子組換え微生物が使用される(いわゆる「ホワイトバイオテクノロジー」)。いわゆるA.B.Eプロセス(A.B.E.はアセトン、ブタノール、エタノール)では、1-ブタノールを生産するための発酵にクロストリジウムアセトブチリクムというバクテリアが使用される。2-オクタノールは、リシン酸をセバシン酸に酸化した場合の副生成物として得られ、単離することができる。N-ヘプタノールは、リシン酸を熱分解(ヘプタナールとウンデシン酸への熱分解)した場合に生じるヘプタナールから得ることができる。テトラヒドロフルフリルアルコールは、フルフラールの水素化によって得ることができ、フルフラール自体は、セルロース採取時にC5糖を脱水した場合に 生成される。樟脳の木の植物部分を抽出することによって得られる樟脳を還元することによってイソボルネオールが生成される。C8~C16脂肪酸アルコールは、植物油のエステル 化と、それに続く水素化によって得られる。エポキシ化脂肪酸エステル、殊にエポキシ化脂肪酸メチルエステルを使用することもできる。
したがって、本発明の主題は、さらに、ポリマー成分が少なくとも50重量%、より良くは少なくとも70重量%、好ましくは少なくとも90重量%、非常に好ましくは98重量%超、極めて好ましくは排他的に(すなわち100%)、脂肪酸アルコール又はエポキシ化脂肪酸エステルをベースとするそれぞれ完全にバイオベースのn-ブチルアクリレート及び/又はイソブチルアクリレート及び/又は2-オクチルアクリレート及び/又はヘプチルアクリレート及び/又はテトラヒドロフルフリルアクリレート及び/又は脂肪酸アクリレートのホモポリマー又はコポリマーに由来する(感圧)接着剤である。上記のモノマーと並んで、完全に、例えばイソボルニルアクリレート、イタコン酸、及び/又はイタコン酸ジブチルエステルなどの再生可能原料をベースとする、あるいは、部分的に、例えば上記のバイオベースのアルコールのメタクリル酸エステルなどの再生可能原料をベースとする他のコモノマーを使用することができ、ならびに/あるいはポリマー成分は、先にA)及びB)ですでに説明した他のポリマーを含むことができる。アルコール、及びアクリル酸若しくはメタクリル酸のエステル化は既知の方法で行われ、再生可能原料ベースの所望のモノマーが生成される。そのようなエステル化は、例えば、例えば溶媒としてトルエンを用いて共沸蒸留することによって、酵素触媒作用による発酵によって(この場合、酵素として、例えばリパーゼを使用することができる)又は塩化物に変換された酸をアルコールと反応させることによって行うことができる。ES8400383Aに示される方法によりバイオ-n-ブチルアクリレートを製造する別の可能性を実現することができる。それによれば、D/L乳酸(例えばAldrich natural Lactic Acidより市販される)を、P-トルエンスルホン酸を添加して、溶剤としてトルエンを用いてバイオ-n-ブタノール(糖を発酵させることにより製造される、Cathay Industrial Biotech)と共沸蒸留することによりエステル化することができる。洗浄は蒸留によって行われる。生成された乳酸ブチルエステルは、続いて気相反応器内で250℃(リン酸カルシウム触媒)で脱水することができる。反応ガスは、コールドトラップに集められ、ヒドロキノンモノメチルエーテルを加えて真空蒸留によって洗浄される。N-ブチルアクリレートが高純度で得られる。」
「[0041]
有利には、樹脂、特に粘着性付与樹脂を混合することができる。粘着性付与樹脂は、例えば粘着性を高めるため、物質の濡れ性、流動挙動(Aufliessverhalten)を向上させるため、加工時の溶融物の粘度を向上させるため、及び/又は接着性を高めるために用いることができる。
粘着性付与樹脂として、例えば公知の、及び文献に記載された接着性樹脂を使用することができる。一般に、対応する接着剤と適合性があるすべての(可溶性)樹脂を使用することができ、特に、すべての脂肪族、芳香族、アルキル芳香族の炭化水素樹脂、純モノマーベースの炭化水素樹脂、水素化炭化水素樹脂、機能性炭化水素樹脂、及び天然樹脂を指摘しておく。ピネン樹脂、インデン樹脂、及びロジン樹脂、それらの不均化された、水素化された、重合された、エステル化された誘導体及び塩、脂肪族及び芳香族炭化水素樹脂、テルペン樹脂、及びテルペンフェノール樹脂、ならびにC5-、C9-及び他の炭化水素樹脂を例示的に挙げておく。これらの、及びさらなる樹脂の組み合わせを、結果として生じる接着剤の特性を希望通りに調整するために的確に使用することができる。」
「[0050]
本発明による、特に感圧接着剤としての実施形態での接着剤、ならびに対応する接着テープ及び感圧接着テープは、これまで石油化学的に製造された出発物質からの対応する生成物が使用されてきたすべての適用領域のために有利に使用することができる。特に感圧接着剤の高純度、特に、すなわちそれぞれの用途にとって有害な不純物の不在が重要である用途では、バイオベースの生成物が格段に有利である。したがって、本発明によるバイオベースの接着剤、感圧接着剤、接着テープ、及び感圧接着テープは、特に、それぞれ100%バイオベースの実施変形形態では、皮膚科、美容、及び医療用途のために、例えば絆創膏のための使用などに、ならびに高感度の電子機器における、及び高感度電子部品と直接接触する製品のためにも特に良好に使用することができる。しかし最後に述べた使用目的(電子機器領域における用途)のため、しかしさらに先に挙げた、皮膚耐性が重要な用途でも、樹脂を含まない系、すなわち、粘着性樹脂及び/又は他の樹脂が混合されないものを使用することが有利である。なぜなら、樹脂によって、場合によっては不純物が再び(感圧)接着剤に入り込む可能性があるからである。この場合、純アクリレート系を使用することが特に好ましい。」
「鋼表面における接着力
[0052]
紙やすりで240回研削して、予めアセトンで洗浄した鋼板(DIN4762に準拠した測定用の粗さ深さ測定器具を用いて測定した50X200mm、2~3mm厚、粗さ深さ約100nm)上に、ポリエステルに層として塗布したアクリレート感圧接着剤の20mm幅の細片を載せた。固定するために、感圧接着細片を2kgの重りで基材に2回押し付けた。続いて直ちに、細片を300mm/分で、180゜の引張角度で基材から引き剥がした。すべての測定を室温で行った。測定結果は、3回の測定から平均され、N/cmで示される。試験は、23士3℃の室温、及び50土5%の相対空気湿度で行った。」
「重合:
実施例1
分散重合
[0068]
反応器内で、150gの脱イオン水及び1.9gの30%の水性シードラテックス(平均粒子サイズd50 60nm)N2雰囲気下で95℃に加熱する。4gの開始剤水溶液(脱イオン水中7重量%のペルオキソ二硫酸ナトリウム)を加える。5分後、同時に、210gの脱イオン化水、23.5gのDisponil AES60(Cognis)からの45%の水溶液、463gの(87重量%)バイオ-n-ブチルアクリレート(I)(乳酸からのアクリル酸を用いて製造されたもの。100%再生可能原料)、53g(10重量%)のエチルメタクリレート(Aldorich)、及び16g(30重量%)のバイオアクリル酸(I)(乳酸から製造されたもの。100%再生可能原料)、そしてさらに36gの開始剤溶液からなるモノマー混合物を95℃で3時間超、滴下する。モノマー及び開始剤の添加が終了した後、95℃でさらに30分間撹拌する。続いて、同時に、8gの10%の過酸化水素水溶液と、4gの10%水溶液Bruggolit FF6M(Bruggemann Chemical)を15分超添加し、95℃で、さらに30分攪拌する。その後、19.6gの10%の水酸化ナトリウム溶液と、7.89gのジオクチルスルホコハク酸ナトリウム(Rewopol SB DO 75,Goldschmidt)からの50%の水溶液を徐々に加え、室温で冷却する。」
「[0073]
得られたポリマーの特性評価:
[図:0001438250000003.jpg]
[0074]
それぞれ、ポリマーの重量(固形分)に関するものである、実施例2、4及び5に示される重合からの溶剤中に存在するポリマーを0.2重量%のアルミニウムアセチルアセトナート(アセトン中3%の溶液として:Alキレート)と混合した(それにより、後の乾燥中に架橋反応が起こる)。これらの混合物及び実施例1及び実施例3からのポリマー分散液を、それぞれ、30μmの厚さのバイオベースのポリラクチドフィルム(Taghleef IndustriesのNativia NTSS)に50g/m2の塗布量で塗り、100℃で多くとも0.3重量%の残留溶剤含有量まで乾燥させた。乾燥後、感圧接着剤層をシリコン処理された剥離紙で覆う。
その際に得られた試料を実施例1a~実施例5aとして示す。」
(2) 甲10に記載された発明
前記(1)から、甲10には、以下の事項が記載されていると認められる。
・身体に直接貼り付けるのに適した身体と接触する製品に貼り付けるための接着剤や高感度の電子部品への接着剤などの接着剤中の不純物を最小限に抑えるために、接着剤又はその出発物質を処理する従来のプロセスには手間がかかり、必ずしも望ましい結果につながらなかったとの背景の下、バイオベースモノマーを使用することにより、感圧接着剤中の不純物を低減できること([0002]~[0004])。
・「感圧接着剤」とは、適用温度(別途定義されない限り、室温)で恒久的に粘性及び永久的に粘着性であり、触れると多数の表面に付着する粘弾性ポリマー材料であり、適用温度で、接着されるべき基材を十分に濡らすことができ、それにより材料と基材との間に付着のために十分な相互作用を形成することができること([0017])。
・感圧接着剤はポリマー成分からなり、ポリマー成分の組成は、感圧接着剤の所望の特性に応じて選択することができ、通常、ポリマー成分には、最終製品(感圧接着剤)の所望の特性を得るために、部分的にかなりの量の、共成分及び/又は添加剤といった他の添加剤が添加されること(特定の特性を得るためかなりの量で使用される添加物が「共成分」と解されるのに対し、添加剤は、通常、比較的少ない量で使用される。)([0017])。
・バイオベースモノマーの一種であるバイオ-n-ヘプチルアクリレート([0025])をモノマーとして用い分散重合を行って得られたポリマーをアルミニウムアセチルアセトナートと混合し、それにより架橋して得られた混合物により製造された感圧接着剤層を有する粘着テープ(実施例2、4)の、KK鋼への接着力(測定方法は[0052])、皮膚耐性及び電子部品との適合性を示すダークスポットの面積等の特性([0068][0069][0071][0073]~[0075])。
上記(1)に摘記した甲10の実施例4aの粘着テープは、実施例4に示される重合からの溶剤中に存在するポリマーを0.2重量%のアルミニウムアセチルアセトナートと混合し、それにより、架橋して得られた混合物を、30μmの厚さのバイオベースのポリラクチドフィルムに50g/m2の塗布量で塗り、100℃で多くとも0.3重量%の残留溶剤含有量まで乾燥させた後、感圧接着剤層をシリコン処理された剥離紙で覆った粘着テープである([0074])と認められる。
また、実施例4に示される重合からの溶剤中に存在するポリマーは、ポリマーの重量を基準(100重量%)として、69重量%のn-ヘプチルアクリレート(100%再生可能原料)、1重量%のアクリル酸(100%再生可能原料)、及び、30重量%のi-ブチルアクリレート(100%再生可能原料)からなるモノマー組成物を重合したものであり([0071])、感圧接着剤層は、上記ポリマー100重量%と、0.2重量%のアルミニウムアセチルアセトナートと、多くとも0.3重量%の残留溶剤とからなるものであり、上記ポリマーは、アルミニウムアセチルアセトナートで架橋したものである([0074])。
したがって、甲10には以下の発明(以下、「甲10発明」という。)が記載されていると認められる。
「69重量%のn-ヘプチルアクリレート(100%再生可能原料)、1重量%のアクリル酸(100%再生可能原料)、及び、30重量%のi-ブチルアクリレート(100%再生可能原料)に由来する構成単位を有するアクリル共重合体(100重量%)を、0.2重量%のアルミニウムアセチルアセトナートで架橋したポリマーと、
多くとも0.3重量%の残留溶剤を含有する粘着剤層を有する粘着テープ」
3 甲1に基づく進歩性欠如[令和7年5月27日付け取消理由(決定の予告)]について
(1) 本件訂正発明1について
ア 対比
甲1発明の「イソシアネート系トリメチロールプロパンのトリレンジイソシアネート付加物(TDI-1)」は、本件訂正発明1の「イソシアネート系架橋剤(但し、アクリル系イソシアネートプレポリマーを除く)」に相当し、本件訂正発明1と甲1発明は、
「アクリル共重合体、イソシアネート系架橋剤(但し、アクリル系イソシアネートプレポリマーを除く)を含有する粘着剤層」の点で一致し、以下の相違点(<相違点1>~<相違点4>という。)で相違する。
<相違点1>
本件訂正発明1は、粘着剤層が「粘着付与樹脂を含有する粘着剤組成物(但し、水溶性粘着剤用樹脂を除く)を含有する」と特定されているのに対し、甲1発明は、そのような特定を備えていない点。
<相違点2>
本件訂正発明1は、「前記粘着剤層のゲル分率が10重量%以上50重量%以下である」と特定されているのに対し、甲1発明は、そのような特定を備えていない点。
<相違点3>
アクリル共重合体が、本件訂正発明1はn-ヘプチル(メタ)アクリレートに由来する構成単位を有するのに対し、甲1発明は、n-オクチルアクリレート(n-OA)に由来する構成単位を有する点。
<相違点4>
本件訂正発明1は、粘着層を有する粘着テープであるのに対し、甲1発明は粘着層である点。
イ 相違点1について
前記1(1)のとおり、甲1の【0040】には「粘着性能を調節するために粘着性付与樹脂をさらに添加することができ、その含量は、アクリル系共重合体100重量部に対して1乃至100重量部の範囲で使用することができる。この時、前記粘着性付与樹脂が過剰になると、粘着剤の相溶性又は結合力を減少させる虞があるので、注意して適切に添加しなければならない。前記粘着性付与樹脂の例としては、(含水)ヒドロカーボン系樹脂、(含水)ロジン樹脂、(含水)ロジンエステル樹脂、(含水)テルペン樹脂、(含水)テルペンフェノール樹脂、重合ロジン樹脂、重合ロジンエステル樹脂などが挙げられ、これらを単独又は2種以上混合して使用することができる」と記載されていることから、甲1発明において、周知の重合ロジンエステル樹脂等を適切に配合して粘着性能を調節することは、当業者が容易に想到し得るものである。
ウ 相違点2について
前記1(1)のとおり、甲1発明は、粘着耐久性、切断性等の特性をほとんど変化させずに光漏れ現象を改善する偏光板用アクリル系感圧性粘着剤組成物の提供という解決しようとする課題に対し(【0013】)、「架橋密度は必要な程度に維持しながら、物理的に鎖間のもつれ構造と柔軟性の制御によって耐久性、切断性などの諸般物性を維持し、同時に光漏れ減少を改善した」(【0024】)ものである。甲1には「ゲル分率」との記載はないものの、ゲル分率に影響を及ぼすことが技術常識である架橋可能な官能基や架橋剤に関し、「架橋可能な官能基を含むビニル系単量体、アクリル系単量体、又はこれらの混合物の含量は、0.1~15重量部が好ましい。この時、前記架橋可能な官能基を含む単量体の使用量が0.1重量部未満であると、高温又は高湿の条件で凝集破壊が起こりやすく、接着力向上効果が低下する、また、前記単量体の含量が15重量部を超えると、流動特性を減少させ、結合力上昇によって粘着力が低下する。」(【0031】)及び「架橋剤は、カルボキシル基及び水酸基と反応することによって粘着剤の結合力を高める役割を果たす。前記架橋剤の含量は、アクリル系共重合剤100重量部に対して0.01乃至10重量部が好ましい」【0035】)と記載されている。
粘着テープの技術分野において、粘着剤層のゲル分率は、様々な特性に影響を与える物性であることが知られており、例えば、
甲3の段落【0096】には、「本発明の両面粘着テープの表層の粘着剤層のゲル分率(特に補強層側の表層の粘着剤層のゲル分率)は、粘着特性と再剥離性とを高いレベルで両立させる点から、10~60重量%が好ましく、より好ましくは10~50重量%である。」と記載されており、
甲4の段落【0041】には、「前記架橋剤は、粘着剤層(B)のゲル分率が40質量%~55質量%となる範囲で使用することが好ましく、45質量%~50質量%となる範囲で使用することがより好ましい。前記範囲にあると、伸度20%における引張弾性率を前記範囲に調整しやすく、例えば電動テープカッター装置等を用いて連続して定尺の短冊形状に粘着テープを切断する際に、離型ライナーからの粘着テープの剥がれや切断刃への粘着剤層(B)の付着を効果的に抑制することができ、凹凸面を有する繊維質基材やフォーム材等の被着体(A1)への優れた接着性を備えた粘着テープを得ることができる。」と記載されており、
甲5(特開2011-105829号公報)の段落【0045】には、「本発明においては、上記測定方法により算出されるゲル分率が、好ましくは、0~30重量%であり、より好ましくは1~30重量%である。ゲル分率が30重量%を超えると、適度な凝集力が得られにくく、耐撓み性の点でも、好ましくない。」と記載されており、
甲6の段落【0114】には、「上記粘着剤層のゲル分率は、特に限定されないが、例えば、10~60重量%とすることができ、好ましくは10~50重量%、より好ましくは10~40重量%である。上記ゲル分率を60重量%以下とすることにより、粘着剤層の凝集力がある程度小さくなり、粘着剤層が軟らかくなるため、段差部分に粘着剤層が追従しやすくなり、段差吸収性が得やすくなる。一方、上記ゲル分率を10重量%以上とすることにより、粘着剤層が軟らかくなりすぎて、粘着シートの加工性が低下するという問題の発生を抑制でき、また、高温環境下や高温高湿環境下において、気泡や浮きの発生を抑制して、接着信頼性を向上させることができる。上記ゲル分率は、例えば、多官能モノマー及び/又は架橋剤の種類や含有量(使用量)などにより制御することができる。」と記載されており、
甲7の段落【0042】には、「特に限定するものではないが、上記アクリル系重合体(典型的には水分散型アクリル系重合体)のゲル分率(該重合体に占める酢酸エチル不溶分の質量割合)は、例えば凡そ30~70%程度であることが好ましい。」と記載されており、
甲8の段落【0010】には、
「<粗面用感圧性粘着剤層のゲル分率>
本発明の粗面用感圧性粘着剤層のゲル分率は、粗面用感圧性粘着剤層の粘着力を向上させる観点から、40質量%以上であり、好ましくは50質量%以上、より好ましくは55質量%以上、更に好ましくは60質量%以上であり、粗面用感圧性粘着剤層の柔軟性の低下を抑制する観点から、70質量%以下であり、好ましくは65質量%以下である。なお、ゲル分率は下記式(1)より算出することができる。
ゲル分率(質量%)=(B/A)×100 式(1)
A:粗面用感圧性粘着剤層(試験片)の重量
B:40℃のテトラヒドロフランに粗面用感圧性粘着剤層(試験片)を48時間浸漬し、その後の粗面用感圧性粘着剤層の不溶解分の乾燥重量」と記載されており、
甲9の段落【0123】には、
「特に限定するものではないが、ここに開示される樹脂層のゲル分率は、通常、20~95重量%の範囲にあることが好ましい。・・・樹脂層の接着力や粗面への凹凸追従性を高める観点から、例えば85重量%以下であってもよく、・・・70重量%以下でもよく、例えば68重量%以下でもよい。」と記載されている。
このように、粘着テープにおける粘着剤層のゲル分率を本件訂正発明1の程度とすることは当該分野において広く行われていることであり、上記のとおり甲6には、多官能モノマー及び/又は架橋剤の種類や含有量(使用量)などによりゲル分率を制御10~50重量%程度とすることにより、粘着剤層の凝集力をある程度小さくして段差部分への粘着剤層の追従をしやすくすると共に、加工性の低下を抑制し、接着信頼性を向上できることが記載されていることから、これらの知見をふまえ、甲1発明において、架橋可能な官能基を有する単量体や架橋剤の量を調整することにより、粘着剤層のゲル分率を本件訂正発明1の程度とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。
エ 相違点3について
前記1(1)のとおり、甲1には、甲1発明に加え、(メタ)アクリル酸エステル単量体として、炭素数8のn-オクチルアクリレートにかえて炭素数6のヘキシルアクリレートを用いた実施例2が記載され、【0029】には、(メタ)アクリル酸エステル単量体として、n-オクチルアクリレートやヘキシルアクリレートと並んで、両者の間の炭素数7の直鎖アルキル基を有するヘプチルアクリレートが記載され、これら単量体は、単独又は2種以上混合して使用することができることが記載されている。
してみれば、甲1発明において、n-オクチルアクリレート(n-OA)にかえて、または、それに加えて、ヘプチルアクリレートを用いることは、当業者が容易に想到し得るものである。
オ 相違点4について
甲1発明の粘着層を、適宜な基材に塗布する等して粘着テープとすることは、当業者が周知技術に基づき適宜なし得る範囲内の事項である。また、下記5(1)の本件特許明細書の段落【0049】及び前記1(1)の甲1の【0052】の記載等から、甲1発明の「粘着層」は本件訂正発明1の粘着テープに相当し、相違点4は実質的な相違点ともいうこともできない。
カ 本件訂正発明1の効果について
(ア) 本件特許明細書には、以下の記載がある。
「【0018】本発明者らは、本発明の粘着剤組成物において、更に、応力がかかった際にも剥離しない保持力(特に、せん断方向の応力がかかった際にも剥離しないせん断保持力)と、被着体が変形した際に生じる応力等によっても剥離しない耐反発性とを向上させることを検討した。そのなかで、上記架橋性官能基を有するモノマー(特に、上記水酸基を有するモノマー)に由来する構成単位の含有量を調整することで、粘着剤組成物を含有する粘着剤層の凝集力が上がり保持力及び耐反発性が向上するものの、単に上記構成単位の含有量を調整するだけでは、保持力及び耐反発性の向上が不充分であることを見出した。
これに対し、本発明者らは、上記アクリル共重合体の1分子鎖当たりに存在する水酸基量に関係する下記式(1)で表される値Xを特定の範囲とすることで、優れた保持力及び耐反発性が得られることを見出した。すなわち、上記アクリル共重合体は、下記式(1)で表される値Xが2以上50以下であることが好ましい。
[図:0001438250000004.jpg]
【0019】【数1】
【0020】式(1)中、Mwpolymerはアクリル共重合体の重量平均分子量、WOHはアクリル共重合体に占める水酸基を有するモノマーに由来する構成単位の含有量(重量部)、Wtotalはアクリル共重合体を構成する全モノマーの含有量(重量部)、MOHは水酸基を有するモノマーの分子量、nは水酸基を有するモノマーの水酸基価数を表す。2種以上の水酸基を有するモノマーに由来する構成単位を有する場合、それぞれのモノマーについての値Xを出して、それらを合算して値Xを算出する。
【0021】上記値Xは、上記アクリル共重合体の1分子鎖当たりに存在する水酸基量に関係する値である。上記値Xが2以上であることで、上記アクリル共重合体の1分子鎖当たりの架橋性官能基の数が増え、保持力にも優れる粘着剤組成物を調製しやすくなる。上記値Xが50以下であることで、粘着剤組成物を含有する粘着剤層のゲル分率及び架橋度を調整しやすくなる。この結果、保持力及び耐反発性に優れた粘着剤組成物を調製しやすくなる。上記値Xのより好ましい下限は5、より好ましい上限は30であり、更に好ましい上限は26.9、更により好ましい上限は20である。
【0022】上記値Xを調整する方法は特に限定されないが、上記水酸基を有するモノマーの種類を選択したり含有量を調整したりする方法、上記アクリル共重合体の重量平均分子量を調整する方法等が挙げられる。
より具体的には、上記値Xを高める方法として、例えば、上記アクリル共重合体の重量平均分子量を増やす方法、上記水酸基を有するモノマーの含有量を増やす方法、上記水酸基を有するモノマーの分子量を小さくする方法、上記水酸基を有するモノマーの水酸基価数を増やす方法等が挙げられる。上記値Xを低くする方法として、例えば、上記アクリル共重合体の重量平均分子量を減らす方法、上記水酸基を有するモノマーの含有量を減らす方法、上記水酸基を有するモノマーの分子量を大きくする方法、上記水酸基を有するモノマーの水酸基価数を減らす方法等が挙げられる。」
「【0038】本発明の粘着剤組成物は、ゲル分率を適度に調節できる観点から、更に、架橋剤を含有することが好ましい。
上記架橋剤は特に限定されず、例えば、イソシアネート系架橋剤、アジリジン系架橋剤、エポキシ系架橋剤、金属キレート型架橋剤等が挙げられる。なかでも、粘着剤組成物が被着体への密着性に優れることから、イソシアネート系架橋剤が好ましい。」
(イ) 本件特許明細書には、本件訂正発明1の実施例として、実施例10、11及び14~17に平滑面または粗面に対する剥離力について記載されているものの、せん断保持力試験におけるずれ量や耐反発性試験における浮き高さ量は不明であり、それらがどの程度かが本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載等から明らかともいえない。
また、本件特許明細書には、「本発明の粘着剤組成物は、更に、粘着付与樹脂を含有することが好ましい。粘着付与樹脂を含有することにより、粘着剤組成物の平滑面及び粗面に対する粘着力がより高くなる。」(段落【0040】)、「上記架橋剤の含有量が上記範囲内であれば、粘着剤組成物を含有する粘着剤層のゲル分率が適度に調節され、平滑面及び粗面に対する粘着力がより高くなる。」(段落【0039】)及び「上記粘着剤層のゲル分率は特に限定されないが、好ましい下限は10重量%、好ましい上限は70重量%である。上記ゲル分率が上記範囲内であれば、上記粘着剤層の凹凸に対する追従性が向上するため、特に粗面に対する粘着力がより高くなる。上記ゲル分率のより好ましい下限は20重量%、より好ましい上限は50重量%である。」(段落【0045】)と記載されると共に、粘着付与樹脂の添加量とゲル分率が異なる実施例3と実施例14や、架橋剤の添加量とゲル分率が異なる実施例1~3(実施例4~6も同様。)が記載されている。これらの実施例を比較すると、ゲル分率が増すにつれて、剥離力(平面に対する剥離力、粗面に対する剥離力)がいずれも減少し、また、粘着付与樹脂の添加により、剥離力(平面に対する剥離力及び粗面に対する剥離力)が増加するという効果を確認できるが、このような効果は、本願優先日当時の技術常識に基づいて、当業者が予測し得る範囲内のものである。
(ウ)加えて、そもそも本件訂正発明1は、それぞれの成分について「含有する」と記載するのみで含有量が特定されたものではないから、本件特許明細書の各実施例も、各成分がわずかしか含まれない態様をも包含する本件訂正発明1の効果を示すものともいえない。
(エ)以上のとおりであるから、本件訂正発明1により、本件訂正発明1の構成から予測しえない顕著な効果が奏されたとはいえない。
キ 特許権者の主張
特許権者は、令和7年12月17日提出の意見書において、以下のとおり主張する。
(ア) (相違点2について)本件訂正発明1の課題は、「平滑面及び粗面のいずれに対しても優れた粘着力を発揮できる粘着剤組成物を提供すること」である。「粘着付与樹脂」は粘着剤の粘着性能を制御するために添加されるものであり、「粘着付与剤」(合議体注:「粘着付与樹脂」の誤記と思われる。)を含有しない粘着剤層が粘着力を発揮する場合、「粘着付与剤」を含有する粘着剤層は、より高い粘着力を発揮するといえ、本件特許明細書の「粘着付与樹脂」を含有しない実施例1と比較例1、3、5との対比から、本件訂正発明1により上記課題が解決されることは明らかである。一方、甲1発明の課題は「偏光板において、偏光素子の両面に保護フィルム等のフィルムを固定し多層に構成するために用いられる粘着剤層として、従来の粘着剤の粘着耐久性、切断性などの主要特性を変化させないと同時に、光漏れ現象を改善することができる偏光板用アクリル系感受性粘着剤組成物を提供すること」である。
このように、本件訂正発明と甲1発明の課題は大きく相違し、甲1には組成物のゲル分率の範囲やそれに伴う作用効果等の技術思想について何ら記載がないから、ゲル分率を10重量%以上50重量%以下とする動機付けがない。
(イ) (追試結果に基づくゲル分率と「耐反発試験における浮き高さ量」について)甲1の実施例1及び2の追試<乙2の実験Aの[実験例1][実験例6]>から、甲1の実施例1及び2の粘着剤層のゲル分率は「96重量%」及び「89重量%」であると認められ、[実験例1]及び[実験例6]の架橋剤の配合量を2重量部から0.5重量部に変更した<[実験例2]及び[実験例7]>とそれに加えて粘着付与樹脂の配合量を0重量部から10重量部とした<[実験例3]及び[実験例8]>、[実験例1]及び[実験例6]の架橋剤の配合量を2重量部から0.3重量部に変更すると共に、粘着付与樹脂の配合量を0重量部から10重量部とした<[実験例4]及び[実験例9]>、並びに、[実験例1]及び[実験例6]の架橋剤の配合量を2重量部から0.5重量部に変更すると共に、粘着付与樹脂の配合量を0重量部から34重量部とした<[実験例5]及び[実験例10]>においても、粘着剤層のゲル分率は50重量%を上回っており、これらの実験例では「耐反発試験における浮き高さ量」が10mm以上と大きく、被着体が変形した際に生じる応力等によって粘着テープが剥離しやすいことが理解でき、粘着剤層のゲル分率が10重量%未満又は50重量%を超える本件特許明細補の実施例27、31、35及び37も、「耐反発試験における浮き高さ量」が10mm以上と大きく、被着体が変形した際に生じる応力等によって粘着テープが剥離しやすいものである。
甲1の実施例1の粘着剤層の架橋剤と粘着付与樹脂の配合量を変更した<乙2の[実験例11][実験例12][実験例13]>からも、粘着剤層のゲル分率は、粘着剤層への粘着付与樹脂、架橋剤の配合等により調整できるが、粘着剤層のゲル分率を10重量%以上50重量%以下とすれば、「耐反発試験における浮き高さ量」が小さく、被着体が変形した際に生じる応力等によって粘着テープが剥離しにくいことが理解される。
(ウ) (相違点3について)本件訂正発明と甲1発明の課題は大きく相違し、甲1の【表1】及び【表2】にはn-オクチルアクリレートおよび/またはヘキシルアクリレートを用いた実施例1~4の粘着剤組成物が適用された偏光板は、耐久信頼性、光透過均一性および切断性に優れることが示されている。甲1の「偏光板用アクリル系感圧性粘着剤組成物」に含まれる「アクリル系共重合体」の原料単量体である「-45℃~10℃のガラス転移温度を有するホモポリマー製造用(メタ)アクリル酸エステル単量体」として「n-オクチルアクリレート」および/または「ヘキシルアクリレート」が用いられていることに基づいて、甲1の段落【0029】に例示された「ヘプチルアクリレート」を選択する動機付けがあるとはいえない。
本件特許明細書の【0008】~【0009】には、本件訂正発明1の「粘着剤層」に含有される「アクリル共重合体」が「n-ヘプチル(メタ)アクリレートに由来する構成単位」を有することにより、平滑面及び粗面のいずれに対しても優れた粘着力を発揮できる粘着剤組成物が得られる」理由として、n-ヘプチル(メタ)アクリレートのn-ヘプチル基が直鎖状であることから、n-ヘプチルアクリレートを構成単位として有するアクリル共重合体を含有する粘着剤組成物を含有する粘着剤層の凝集力が上がり、抵抗性が大きくなること、及び、炭素数が奇数の炭化水素は、偶数の炭化水素より分子同士のパッキングがしにくく融点が低くなる傾向があることが記載されている。
甲1の【0029】には、直鎖状でないアルキル基を有する化合物や炭素数が偶数の炭化水素も例示されているから、【0029】の例示からn-ヘプチルアクリレートを選択する動機付けがあるとはいえない。
ク 特許権者の主張についての検討
(ア)前記キ(ア)の主張について
前記1(1)のとおり、甲1には、「架橋可能な官能基を含むビニル系単量体、アクリル系単量体、又はこれらの混合物の含量は、0.1~15重量部が好ましい。この時、前記架橋可能な官能基を含む単量体の使用量が0.1重量部未満であると、高温又は高湿の条件で凝集破壊が起こりやすく、接着力向上効果が低下する。また、前記単量体の含量が15重量部を超えると、流動特性を減少させ、結合力上昇によって粘着力が低下する。」(【0031】)こと、「架橋剤は、カルボキシル基及び水酸基と反応することによって粘着剤の結合力を高める役割を果たす。前記架橋剤の含量は、アクリル系共重合剤100重量部に対して0.01乃至10重量部が好ましい」【0035】)こと、及び、「アクリル系共重合体は、粘着特性及びコーティング性などを考慮して分子量200,000乃至2,000,000の範囲の値を有するのが好ましい。」(【0034】)と記載されている。
一方、下記5(1)のとおり、本件特許明細書には、「架橋性官能基を有するモノマーに由来する構成単位の含有量」について「好ましい下限は0.01重量%、好ましい上限は20重量%である。上記架橋性官能基を有するモノマーに由来する構成単位の含有量が上記範囲内であれば、平滑面及び粗面に対する粘着力がより高くなる」(【0016】)こと、「架橋剤の含有量」について「アクリル共重合体100重量部に対する好ましい下限値は0.05重量部、好ましい上限は7重量部である。上記架橋剤の含有量が上記範囲内であれば、粘着剤組成物を含有する粘着剤層のゲル分率が適度に調節され、平滑面及び粗面に対する粘着力がより高くなる。」(【0039】)こと、並びに、「アクリル共重合体の重量平均分子量」について、「好ましい下限を20万、好ましい上限は200万である。上記アクリル共重合体の重量平均分子量が上記範囲内であれば、粘着剤組成物の平滑面及び粗面に対する粘着力がより高くなる。」(【0032】)と記載されている。
このように、甲1は、架橋性官能基を有するモノマーに由来する構成単位や架橋剤の含有量、及び、アクリル共重合体の分子量として、本件訂正明細書と同程度のものを開示し、架橋密度を必要な程度に維持しながら、物理的に鎖間のもつれ構造と柔軟性の制御によって耐久性、切断性などの諸般物性を維持(【0024】)することを記載するものであるところ、甲6の記載に加え、甲9の段落【0123】に「樹脂層の接着力や粗面への凹凸追従性を高める観点から、例えば85重量%以下であってもよく、・・・70重量%以下でもよく、例えば68重量%以下でもよい。」と記載されていること等も踏まえれば、甲1には「ゲル分率」との用語の記載がないとしても、甲1発明において、架橋可能な官能基を有する単量体や架橋剤の量を調整等することにより、粘着剤層のゲル分率を本件訂正発明1の程度とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。
したがって、特許権者の主張は採用できない。
(イ)上記キ(イ)の主張について
前記(ア)のとおり、甲1には、架橋可能な官能基を含む単量体を0.1重量部以上使用することが好ましいこと(【0031】)や、架橋剤を0.01重量部以上含有させることが記載されている(【0035】)のに対し、特許権者による実施例1及び2の追試(乙2の実験A)は、架橋可能な官能基を含む単量体を1.5または1.8重量部、架橋剤を0.5又は0.3重量部含むものや、これらに一定量の粘着付与樹脂を配合した組成物について行われたものにすぎず、架橋剤の程度が低い程ゲル分率が下がることは技術常識であるから、これらの追試でゲル分率が50重量%を上回っていたことは、甲1に基づく進歩性の検討に何ら影響を及ぼすものではない。
また、特許権者の「粘着剤層のゲル分率を10重量%以上50重量%以下とすれば、耐反発試験における浮き高さ量が小さく、被着体が変形した際に生じる応力等によって粘着テープが剥離しにくいことが理解される。」との主張について、そもそも本件特許明細書には、耐反発試験における浮き高さ量等と粘着剤層のゲル分率の数値関係を示す実施例等の具体的な記載もなされていない。両者に関係があることが本件特許明細書の開示から明らかであるとの特許権者の主張は、令和6年9月26日の取消理由(決定の予告)で下記のとおり述べたように採用できるものではないから、追試(乙2の実験B)も、甲1に基づく進歩性の検討に何ら影響を及ぼすものではない。
「「追試例において測定される「せん断保持録試験におけるずれ量」と「耐反発性試験における浮き高さ量」とは、本件特許明細書の【0018】~【0022】に「本発明者らは、上記アクリル共重合体の1分子鎖当たりに存在する水酸基に関係する下記式(1)で表されるX値を特定の範囲とすることで、優れた保持力及び耐反発性が得られることを見いだした」(【0018】)との記載と関連して記載されるものであり、【0038】の「ゲル分率を適度に調節できる観点から、更に、架橋剤を含有することが好ましい。上記架橋剤は特に限定されず、・・・粘着剤組成物が被着体への密着性に優れることから、イソシアネート系架橋剤が好ましい」との記載と関連して記載されるものではなく、【0038】における「被着体への密着性」が、【0081】に記載される条件下(試験サンプルを85℃のオープンに入れて24時間にわたって静置等)で行われる耐反発試験【0018】の「被着体が変形した際に生じる応力等によっても剥離しない耐反発性)」と同義とはただちに認められない。」
(ウ)上記キ(ウ)の主張について
本件特許明細書の【0009】に「この理由は定かではないが」として記載される前記キ(ウ)の記載は、本件優先日前に公知であった刊行物等に記載された事項ではないから、甲1及び本件優先日当時の技術常識に基づく進歩性についての検討の前提となるものではない。そもそも、ヘプチルアクリレートとn-オクチルアクリレートは、甲1において「-45℃~10℃のガラス転移温度を有するホモポリマー製造用(メタ)アクリル酸エステル単量体」として記載されるものでもないから、特許権者の当該主張は甲1の記載に基づくものということもできない。加えて、甲1の【0029】には、甲1の実施例で用いられた「n-オクチルアクリレート」や「ヘキシルアクリレート」に並んで、両者の間の長さの直鎖アルキル鎖を有する「ヘプチルアクリレート」が記載され、甲3(【0063】)、甲5(【0021】)、甲6(【0050】)、甲7(【0022】)、甲8(【0014】)、甲9(【0048】)及び甲10(【0071】)にも、アクリル系共重合体のモノマーとしてn-ヘプチルアクリレートを用いることが記載されているように、n-ヘプチルアクリレートはアクリル系共重合体のモノマーとして広く用いられていたものであることからも、特許権者の主張は採用できない。
キ 小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明1は、甲1に記載された発明、及び、周知技術(要すれば、甲2~9等参照)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2) 本件訂正発明2及び4~6について
本件訂正発明2は、本件訂正発明1を引用し、さらに、「前記アクリル共重合体は、n-ヘプチル(メタ)アクリレートに由来する構成単位の含有量が48重量%以上であること」(請求項2)を特定するものである。
前記1(1)の【0029】には、へプチルアクリレートやn-オクチルアクリレート等の-90℃~-50℃のガラス転移温度を有するホモポリマー製造用(メタ)アクリル酸エステル単量体が、アクリル系共重合体100重量部内で5乃至50重量部用いられることが記載されているから、n-ヘプチル(メタ)アクリレートに由来する構成単位の含有量を48重量%以上とすることに格別の困難性は見いだせない。
本件訂正発明4~6は、本件訂正発明1を直接又は間接的に引用し、さらに、「前記アクリル共重合体は、炭素数8以上のアルキル基を有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位の含有量が50重量%以下であること」(請求項4)、「前記アクリル共重合体は、更に、架橋性官能基を有するモノマーに由来する構成単位を有すること」(請求項5)、及び、「前記アクリル共重合体は、前記架橋性官能基を有するモノマーに由来する構成単位の含有量が0.01重量%以上20重量%以下であること」(請求項6)を特定したものであるが、本件訂正発明4~6と甲1発明との間に前記相違点1~4以外の新たな相違点はない。
したがって、前記(1)のとおり、本件訂正発明2、4~6は、甲1に記載された発明、及び、周知技術(要すれば、甲2~9等参照)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3) 本件訂正発明10について
本件訂正発明10は、本件訂正発明1を直接又は間接的に引用しさらに、「前記アクリル共重合体の重量平均分子量が20万以上200万以下である」点を限定したものである。
前記1(1)のとおり、甲1にはアクリル共重合体の分子量を200,000乃至2,000、000範囲とすることが好ましいことが記載されていることから(【0034】)、甲1発明の重量平均分子量を適宜調整し、本件訂正発明10の程度とすることは、当業者が適宜なし得る範囲内の事項である。
(4) 本件訂正発明11について
本件訂正発明11は、本件訂正発明1を直接又は間接的に引用し、さらに、「前記粘着付与樹脂は、ロジンエステル系粘着付与樹脂及びテルペン系粘着付与樹脂からなる群より選択される少なくとも1種である」点を限定したものであり、前記(1)と同様の理由から、甲1に記載された発明、及び、周知技術(要すれば、甲2~9等参照)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(5) 本件訂正発明12について
本件訂正発明12は、本件訂正発明1を直接又は間接的に引用しさらに、「界面活性剤を含有しない」点を限定したものであるが、この点は、新たな相違点を形成しないから、本件訂正発明12も、本件訂正発明1と同様の理由により、甲1に記載された発明、及び、周知技術(要すれば、甲2~9等参照)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(6) 本件訂正発明13について
本件訂正発明13は、本件訂正発明1を直接又は間接的に引用しさらに、「生物由来炭素の含有率が10重量%以上である」点を限定したものである。n-ヘプチルアクリレートやn-オクチルアクリレートとして生物由来のものが汎用されていることは当該技術分野における技術常識であり(要すれば、甲10の[0025]等参照)、生物由来の炭素を用いることは当該分野において広く行われていることから、甲1発明において、アクリレートを生物由来のものとすることは、当業者が適宜なし得る範囲内の事項である。
したがって、本件訂正発明13も、甲1に記載された発明、及び、周知技術(要すれば、甲2~10等参照)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(7) 本件訂正発明14について
本件訂正発明14は、本件訂正発明1を直接又は間接的に引用しさらに、「前記粘着剤層のゲル分率が10重量%以上である」点を限定したものであるが、この点は、新たな相違点を形成しないから、本件訂正発明14も、本件訂正発明1と同様の理由により、甲1に記載された発明、及び、周知技術(要すれば、甲2~10等参照)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(8) 本件訂正発明15、16について
本件訂正発明15は、本件訂正発明1を直接又は間接的に引用しさらに、「JIS Z 0237:2009に準拠して測定したガラスに対する180°剥離力が7N/25mm以上である」点を限定したものであり、本件訂正発明16は、本件訂正発明1を直接又は間接的に引用しさらに、「JIS Z 0237:2009に準拠して測定したポリカーボネート板に対する180°剥離力が7N/25mm以上である」点を限定したものである。
甲2の実施例3(【0047】【0049】の表2。ロジン系粘着付与樹脂を60重量部)では、JIS Z 0237に準拠した測定方法(合議体注:本件特許と同じ)で剥離力が11.68~14.13N/inchである(合議体注:1inchは25.4mm)。
甲3には、SUS板又はガラス板上で、引張速度300mm/分、剥離角度180°で引き剥がした場合に、粘着力が4.8~9.8N/10mmであることが記載されており(【0117】【0152】【0153】の表2)、サンプル幅を本件特許明細書同様に25mmとして測定することにより粘着力がさらに増すことは技術常識から明らかである。
甲7には、被着体としてのポリプロピレン(PP)板において、JISZ0237(2004)に準拠し、引張試験機を用いて、2 3℃、50%RHの測定環境にて引張速度300mm/分の条件で180°引き剥がし粘着力を測定したところ、粘着力が7.8~13.3N/20mmであることが記載されており(【0077】【0079】の【表2】)、サンプル幅を本件特許明細書同様に25mmとして測定することにより粘着力がさらに増すことは技術常識から明らかである。
甲9には、被着体として石膏ボード、ケイ酸カルシウム板、または針葉樹合板(島忠ホームズから入手、厚さ12mm)を用い、剥離角度180°、剥離速度300mm/分の条件で剥離強度(N/20mm)を測定したところ、接着力は最低でも実施例13の石膏ボードの8.2N/20mmである(【0157】【0159】の表1)ことが記載されており、サンプル幅を本件特許明細書同様に25mmとして測定することにより粘着力がさらに増すことは技術常識から明らかである。
そうしてみると、「粘着テープ」の剥離力を本件訂正発明15及び16の程度とすることは、当業者が実施に際し適宜なし得る範囲内の事項である。
したがって、本件訂正発明15及び16も、本件訂正発明1と同様の理由により、甲1に記載された発明、及び、周知技術(要すれば、甲2~10等参照)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(9) 本件訂正発明17~19について
本件訂正発明17は、本件訂正発明1を直接又は間接的に引用しさらに、「電子機器部品又は車載部品の固定に用いられる」ことを特定したものであり、本件訂正発明18は、本件訂正発明1の粘着テープを直接又は間接的に引用する「電子機器部品又は車載部品を固定することを特徴とする電子機器部品又は車載部品の固定方法」の発明であり、本件訂正発明19は、本件訂正発明1を直接又は間接的に引用する本件訂正発明18を引用する「電子機器部品又は車載部品の製造方法」の発明である。
甲1には、「電子機器部品」及び「車載部品」との記載はないものの、前記1(1)の【0013】のとおり、甲1発明は「従来の粘着剤の粘着耐久性や切断性などの主要特性」を備えるものであり、粘着テープを電子機器部品又は車載部品の固定に用いることは広く行われていたことから(要すれば、甲10(【0050】)等参照)、「電子機器部品又は車載部品の固定に用いられる」ことを特定したり、「電子機器部品又は車載部品を固定することを特徴とする電子機器部品又は車載部品の固定方法」の発明としたり、「電子機器部品又は車載部品の製造方法」の発明とする程度のことは、当業者が容易に着想しうると認められる。また、前記1(1)の甲1の【0042】~【0048】の記載から、甲1発明の粘着剤層を偏光フィルムの一側又は両側に備える偏光板を、電子機器であることが技術常識から明らかな液晶表示装置の部品として用いようとすることは、当業者が容易に想到し得るものである。
したがって、本件訂正発明17~19も、甲1に記載された発明、及び、周知技術(要すれば、甲2~10等参照)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(10)本件訂正発明3
本件訂正発明3と甲1発明を対比すると、前記(1)の相違点1~4に加え、本件訂正発明3は、アクリル共重合体のn-ヘプチル(メタ)アクリレートに由来する構成単位の含有量が60重量%以上であるのに対し、甲1発明は、n-オクチルアクリレートを28.0重量部含む点で、両者は相違する。
甲1の【0029】には、n-オクチルアクリレートやヘプチルアクリレート等の-90℃~-50℃のガラス転移温度を有するホモポリマー製造用(メタ)アクリル酸エステル単量体の含量について、アクリル系共重合体100重量部内で5乃至50重量部が用いられ、使用量が50重量部を超えると、残留応力緩和効果は高まるが、結合力が低くなって耐久信頼性に問題になる虞があると記載されている。
そうすると、甲1の記載に接した当業者が、甲1発明においてn-オクチルアクリレートにかえてヘプチルアクリレートを50重量部まで用いること想起したとしても、その含量を60重量%以上とすることを動機付けられたとはいえない。
したがって、本件訂正発明3は、甲1に記載された発明、及び、周知技術(要すれば、甲2~10等参照)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(11)甲1に基づく進歩性欠如についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正発明1、2、4~6及び10~19は、甲1に記載された発明、及び、周知技術(要すれば、甲2~10等参照)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件訂正発明3は、甲1に記載された発明、及び、周知技術(要すれば、甲2~10等参照)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
4 甲10に基づく進歩性欠如[令和5年6月29日付け取消理由及び令和6年9月26日付け取消理由(決定の予告)]について
(1)本件訂正発明1について
ア 対比
甲10発明の「69重量%のn-ヘプチルアクリレート(100%再生可能原料)、1重量%のアクリル酸(100%再生可能原料)、及び、30重量%のi-ブチルアクリレート(100%再生可能原料)に由来する構成単位を有するアクリル共重合体」は、本件訂正発明1の「n-ヘプチル(メタ)アクリレートに由来する構成単位を有するアクリル共重合体」に相当する。
甲10発明の「アルミニウムアセチルアセトナート」は、本件訂正発明1の「架橋剤(但し、アクリル系イソシアネートプレポリマーを除く)」に相当する。
そうすると、甲10発明と本件訂正発明1の一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「n-ヘプチル(メタ)アクリレートに由来する構成単位を有するアクリル共重合体、架橋剤(但し、アクリル系イソシアネートプレポリマーを除く)を含有する粘着剤層を有する、粘着テープ」
<相違点1>
本件訂正発明1は、粘着剤層が「粘着付与樹脂を含有する粘着剤組成物(但し、水溶性粘着剤用樹脂を除く)を含有する」と特定されているのに対し、甲10発明は、そのような特定を備えていない点。
<相違点2>
本件訂正発明1は、「前記粘着剤層のゲル分率が10重量%以上50重量%以下である」と特定されているのに対し、甲10発明は、そのような特定を備えていない点。
<相違点3>
架橋剤(但し、アクリル系イソシアネートプレポリマーを除く)が、本件訂正発明1は「イソシアネート系架橋剤」であるのに対し、甲10発明は「アルミニウムアセチルアセトナート」である点。
イ 相違点について
事案に鑑み、はじめに相違点3について検討する。
甲10発明の「アルミニウムアセチルアセトナート」が金属キレート系架橋剤であることは技術常識である。また、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤及び金属キレート系架橋剤は、いずれも、アクリル系ポリマーを用いた感圧接着剤の製造において用いられる一般的な架橋剤である(要すれば、甲1の【0035】、甲4の【0039、甲5の【0042】、甲6の【0091】、甲8の【0051】、甲9の【0103】等参照。)。
しかしながら、甲10発明は、アクリル共重合体がイソシアネートと架橋を形成する構成単位を備えるものではなく、甲10には、アルミニウムアセチルアセトナートに代えてイソシアネート系架橋剤を用いることは記載されていない。甲10発明は、アクリル共重合体の構成単位が全て再生可能原料であって感圧接着剤中の不純物を低減(【0004】)するものであるところ、甲10の記載に接した当業者が、甲10発明のアルミニウムアセチルアセトナートをイソシアネート系架橋剤に置換し、イソシアネートと架橋が形成されるようにアクリル共重合体の構成単位に変更を加えることを想起するとはいえない。なお、本件訂正発明1は「架橋が形成されている」ことを特定事項とするものではないが、「粘着剤層のゲル分率が10重量%以上」であることからも架橋が形成されているものと認められる。
ウ 小括
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲10に記載された発明、及び、甲1~甲10に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件訂正発明2~6及び10~19について
本件訂正発明2~6及び10~19は、相違点3において甲10発明と相違するものであるから、前記(1)と同様の理由から、甲10に記載された発明、及び、甲1~甲10に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第6 取消理由通知で採用しなかった申立理由について
1 本件特許明細書の記載
【技術分野】
【0001】
本発明は、平滑面及び粗面のいずれに対しても優れた粘着力を発揮できる粘着剤組成物に関する。また、本発明は、該粘着剤組成物を含有する粘着剤層を有する粘着テープ、並びに、該粘着テープを用いた電子機器部品又は車載部品の固定方法及び製造方法に関する。
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
粘着力に優れた粘着剤として、アクリル共重合体を含有するアクリル系粘着剤が広く用いられている。
アクリル共重合体を構成するアクリル系モノマーとしては、例えば、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸アルキルエステルが用いられる。なかでも、主成分としてブチルアクリレートを用いることで、粘着剤に優れた粘着力を発揮させることができる。しかしながら、このような粘着剤は、平滑面に対する粘着力には優れるものの、凹凸に対する追従性が低く、粗面に対する粘着力は不充分である。一方、主成分として2-エチルヘキシルアクリレートを用いることで、粘着剤の凹凸に対する追従性を向上させることができる。しかしながら、このような粘着剤は、そもそも被着体に対する粘着力が不充分であり、平滑面及び粗面のいずれに対しても優れた粘着力を発揮させることは困難である。
【0005】
本発明は、平滑面及び粗面のいずれに対しても優れた粘着力(特に、ブチル(メタ)アクリレート系の粘着剤及び2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート系の粘着剤よりも優れた粗面に対する粘着力)を発揮できる粘着剤組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、該粘着剤組成物を含有する粘着剤層を有する粘着テープ、並びに、該粘着テープを用いた電子機器部品又は車載部品の固定方法及び製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、n-ヘプチル(メタ)アクリレートに由来する構成単位を有するアクリル共重合体を含有する粘着剤組成物である。
なお、本明細書中において(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートを意味し、(メタ)アクリルとは、アクリル又はメタクリルを意味する。アクリル共重合体は、メタクリル共重合体であってもよい。
以下に本発明を詳述する。
【0007】
本発明者らは、アクリル共重合体を含有する粘着剤組成物において、アクリル共重合体を構成する種々のアクリル系モノマーのなかでも特にn-ヘプチル(メタ)アクリレートを用いることで、平滑面及び粗面のいずれに対しても優れた粘着力を発揮できる粘着剤組成物が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
本発明の粘着剤組成物は、n-ヘプチル(メタ)アクリレートに由来する構成単位を有するアクリル共重合体を含有する。これにより、本発明の粘着剤組成物は、平滑面及び粗面のいずれに対しても優れた粘着力を発揮することができる。
【0009】
この理由は定かではないが、n-ヘプチル(メタ)アクリレートのn-ヘプチル基が直鎖状であることから、上記アクリル共重合体が上記n-ヘプチル(メタ)アクリレートに由来する構成単位を有することで、本発明の粘着剤組成物を含有する粘着剤層の凝集力が上がり、剥離抵抗が大きくなることが挙げられる。また、上記アクリル共重合体が上記n-ヘプチル(メタ)アクリレートに由来する構成単位を有することで、上記アクリル共重合体のガラス転移温度(Tg)が低下するとともに本発明の粘着剤組成物を含有する粘着剤層の常温での貯蔵弾性率が低下し、該粘着剤層の凹凸に対する追従性が向上することも挙げられる。また、炭素数が奇数の炭化水素は、炭素数が偶数の炭化水素より分子同士のパッキングがしにくく融点が低くなる傾向がある。炭素数が奇数の直鎖状のn-ヘプチル基もこれと同様にパッキングしにくいため、上記アクリル共重合体が上記n-ヘプチル(メタ)アクリレートに由来する構成単位を有することで、側鎖がパッキングしにくく、柔軟性を発揮しやすくなり、本発明の粘着剤組成物を含有する粘着剤層の凹凸に対する追従性が向上することも挙げられる。
【0010】
上記n-ヘプチル(メタ)アクリレートに由来する構成単位におけるn-ヘプチル(メタ)アクリレートは、石油由来材料のみからなっていてもよいが、生物由来材料を含むことが好ましい。
近年、石油資源の枯渇や、石油由来製品の燃焼による二酸化炭素の排出が問題視されている。そこで、石油由来材料に代えて生物由来材料を用いることにより、石油資源を節約する試みがなされるようになっている。
上記n-ヘプチル(メタ)アクリレートに由来する構成単位におけるn-ヘプチル(メタ)アクリレートが生物由来材料を含んでいれば、石油資源を節約する観点で好ましい。また、上記n-ヘプチル(メタ)アクリレートに由来する構成単位におけるn-ヘプチル(メタ)アクリレートが生物由来材料を含んでいれば、生物由来材料は元々大気中の二酸化炭素を取り込んで生成されるため、これを燃焼させても総量としては大気中の二酸化炭素を増やすことがないと考えられ、二酸化炭素の排出量を削減する観点からも好ましい。
・・・
【0014】
上記アクリル共重合体は、更に、架橋性官能基を有するモノマーに由来する構成単位を有することが好ましい。上記アクリル共重合体が架橋性官能基を有するモノマーに由来する構成単位を有することで、粘着剤組成物を含有する粘着剤層の凝集力が上がり、平滑面及び粗面に対する粘着力がより高くなる。
【0015】
上記架橋性官能基を有するモノマーは特に限定されず、例えば、水酸基を有するモノマー、カルボキシル基を有するモノマー、グリシジル基を有するモノマー、アミド基を有するモノマー、ニトリル基を有するモノマー等が挙げられる。なかでも、粘着剤組成物を含有する粘着剤層のゲル分率の調節が容易であることから、水酸基を有するモノマー及びカルボキシル基を有するモノマーが好ましく、水酸基を有するモノマーがより好ましい。・・・
【0016】
上記アクリル共重合体における上記架橋性官能基を有するモノマーに由来する構成単位の含有量は特に限定されないが、好ましい下限は0.01重量%、好ましい上限は20重量%である。上記架橋性官能基を有するモノマーに由来する構成単位の含有量が上記範囲内であれば、粘着剤組成物の平滑面及び粗面に対する粘着力がより高くなる。上記架橋性官能基を有するモノマーに由来する構成単位の含有量のより好ましい下限は0.1重量%、より好ましい上限は10重量%であり、更に好ましい下限は0.5重量%、更に好ましい上限は5重量%である。
・・・
【0018】
本発明者らは、本発明の粘着剤組成物において、更に、応力がかかった際にも剥離しない保持力(特に、せん断方向の応力がかかった際にも剥離しないせん断保持力)と、被着体が変形した際に生じる応力等によっても剥離しない耐反発性とを向上させることを検討した。そのなかで、上記架橋性官能基を有するモノマー(特に、上記水酸基を有するモノマー)に由来する構成単位の含有量を調整することで、粘着剤組成物を含有する粘着剤層の凝集力が上がり保持力及び耐反発性が向上するものの、単に上記構成単位の含有量を調整するだけでは、保持力及び耐反発性の向上が不充分であることを見出した。
これに対し、本発明者らは、上記アクリル共重合体の1分子鎖当たりに存在する水酸基量に関係する下記式(1)で表される値Xを特定の範囲とすることで、優れた保持力及び耐反発性が得られることを見出した。すなわち、上記アクリル共重合体は、下記式(1)で表される値Xが2以上50以下であることが好ましい。
【0019】
【数1】
[図:0001438250000005.jpg]
【0020】
式(1)中、Mwpolymerはアクリル共重合体の重量平均分子量、WOHはアクリル共重合体に占める水酸基を有するモノマーに由来する構成単位の含有量(重量部)、Wtotalはアクリル共重合体を構成する全モノマーの含有量(重量部)、MOHは水酸基を有するモノマーの分子量、nは水酸基を有するモノマーの水酸基価数を表す。2種以上の水酸基を有するモノマーに由来する構成単位を有する場合、それぞれのモノマーについての値Xを出して、それらを合算して値Xを算出する。
【0021】
上記値Xは、上記アクリル共重合体の1分子鎖当たりに存在する水酸基量に関係する値である。上記値Xが2以上であることで、上記アクリル共重合体の1分子鎖当たりの架橋性官能基の数が増え、保持力にも優れる粘着剤組成物を調製しやすくなる。上記値Xが50以下であることで、粘着剤組成物を含有する粘着剤層のゲル分率及び架橋度を調整しやすくなる。この結果、保持力及び耐反発性に優れた粘着剤組成物を調製しやすくなる。上記値Xのより好ましい下限は5、より好ましい上限は30であり、更に好ましい上限は26.9、更により好ましい上限は20である。
【0022】
上記値Xを調整する方法は特に限定されないが、上記水酸基を有するモノマーの種類を選択したり含有量を調整したりする方法、上記アクリル共重合体の重量平均分子量を調整する方法等が挙げられる。
より具体的には、上記値Xを高める方法として、例えば、上記アクリル共重合体の重量平均分子量を増やす方法、上記水酸基を有するモノマーの含有量を増やす方法、上記水酸基を有するモノマーの分子量を小さくする方法、上記水酸基を有するモノマーの水酸基価数を増やす方法等が挙げられる。上記値Xを低くする方法として、例えば、上記アクリル共重合体の重量平均分子量を減らす方法、上記水酸基を有するモノマーの含有量を減らす方法、上記水酸基を有するモノマーの分子量を大きくする方法、上記水酸基を有するモノマーの水酸基価数を減らす方法等が挙げられる。
【0023】
上記アクリル共重合体は、上記n-ヘプチル(メタ)アクリレートに由来する構成単位及び上記架橋性官能基を有するモノマーに由来する構成単位以外の、他のモノマーに由来する構成単位を有していてもよい。
上記他のモノマーは特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが挙げられる。
上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルとして、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、n-ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、ミリスチル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、5,7,7-トリメチル-2-(1,3,3-トリメチルブチル)オクタノール-1と(メタ)アクリル酸とのエステル、直鎖状の主鎖に1又は2のメチル基を有する総炭素数18のアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル、ベヘニル(メタ)アクリレート、アラキジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの(メタ)アクリル酸アルキルエステルは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
また、上記他のモノマーとして、例えば、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2-ブトキシエチル(メタ)アクリレート、2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等も挙げられる。更に、上記他のモノマーとして、例えば、酢酸ビニル等のカルボン酸ビニルや、スチレン等の一般のアクリル系ポリマーに用いられている各種のモノマーも用いることができる。これらの他のモノマーは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。・・・
【0027】
上記アクリル共重合体は、炭素数8以上のアルキル基を有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位を有していてもよい。・・・
【0031】
上記アクリル共重合体のガラス転移温度(Tg)は特に限定されないが、-20℃以下であることが好ましい。・・・
【0032】
上記アクリル共重合体の重量平均分子量は特に限定されないが、好ましい下限は20万、好ましい上限は200万である。上記アクリル共重合体の重量平均分子量が上記範囲内であれば、粘着剤組成物の平滑面及び粗面に対する粘着力がより高くなる。・・・
【0038】
本発明の粘着剤組成物は、ゲル分率を適度に調節できる観点から、更に、架橋剤を含有することが好ましい。
上記架橋剤は特に限定されず、例えば、イソシアネート系架橋剤、アジリジン系架橋剤、エポキシ系架橋剤、金属キレート型架橋剤等が挙げられる。なかでも、粘着剤組成物が被着体への密着性に優れることから、イソシアネート系架橋剤が好ましい。
【0039】
本発明の粘着剤組成物における上記架橋剤の含有量は特に限定されないが、上記アクリル共重合体100重量部に対する好ましい下限は0.05重量部、好ましい上限は7重量部である。上記架橋剤の含有量が上記範囲内であれば、粘着剤組成物を含有する粘着剤層のゲル分率が適度に調節され、平滑面及び粗面に対する粘着力がより高くなる。上記架橋剤の含有量のより好ましい下限は0.1重量部、より好ましい上限は5重量部である。
なお、上記架橋剤の含有量は、上記架橋剤の固形分の量を示す。
【0040】
本発明の粘着剤組成物は、更に、粘着付与樹脂を含有することが好ましい。粘着付与樹脂を含有することにより、粘着剤組成物の平滑面及び粗面に対する粘着力がより高くなる。上記粘着付与樹脂は特に限定されず、例えば、ロジンエステル系粘着付与樹脂、テルペン系粘着付与樹脂、クマロンインデン系粘着付与樹脂、脂環族飽和炭化水素系粘着付与樹脂、C5系石油粘着付与樹脂、C9系石油粘着付与樹脂、C5-C9共重合系石油粘着付与樹脂等が挙げられる。これらの粘着付与樹脂は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、ロジンエステル系粘着付与樹脂及びテルペン系粘着付与樹脂からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0042】
本発明の粘着剤組成物における上記粘着付与樹脂の含有量は特に限定されないが、上記アクリル共重合体100重量部に対する好ましい下限は10重量部、好ましい上限は60重量部である。上記粘着付与樹脂の含有量が上記範囲内であれば、粘着剤組成物の平滑面及び粗面に対する粘着力がより高くなる。上記粘着付与樹脂の含有量のより好ましい下限は15重量部、より好ましい上限は50重量部であり、更に好ましい上限は35重量部である。・・・
【0045】
本発明の粘着剤組成物を含有する粘着剤層を有する粘着テープもまた、本発明の1つである。
上記粘着剤層のゲル分率は特に限定されないが、好ましい下限は10重量%、好ましい上限は70重量%である。上記ゲル分率が上記範囲内であれば、上記粘着剤層の凹凸に対する追従性が向上するため、特に粗面に対する粘着力がより高くなる。上記ゲル分率のより好ましい下限は20重量%、より好ましい上限は50重量%である。・・・
【0049】
本発明の粘着テープは、基材を有しないノンサポートテープであってもよく、基材の一方の面に粘着剤層を有する片面粘着テープであってもよく、基材の両面に粘着剤層を有する両面粘着テープであってもよい。・・・
【0058】
本発明の粘着テープの用途は特に限定されないが、平滑面及び粗面のいずれに対しても優れた粘着力を有し、更に必要に応じて優れた保持力及び耐反発性、並びに、ポリカーボネート等からなる樹脂被着体に対する優れた粘着力を有することもできることから、電子機器部品又は車載部品の固定に用いられることが好ましい。具体的には、大型の携帯電子機器における電子機器部品の接着固定、車載部品(例えば、車載用パネル)の接着固定等に、本発明の粘着テープを好適に用いることができる。・・・
【発明の効果】
【0060】
本発明によれば、平滑面及び粗面のいずれに対しても優れた粘着力を発揮できる粘着剤組成物を提供することができる。また、本発明によれば、該粘着剤組成物を含有する粘着剤層を有する粘着テープ、並びに、該粘着テープを用いた電子機器部品又は車載部品の固定方法及び製造方法を提供することができる。・・・
【0062】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0063】
<n-ヘプチルアクリレート>
n-ヘプチルアルコール(東京化成工業社製)と、アクリル酸(日本触媒社製)とをエステル化することにより、n-ヘプチルアクリレートを調製した。
【0064】
<1-メチルヘキシルアクリレート>
2-ヘプチルアルコール(東京化成工業社製)と、アクリル酸(日本触媒社製)とをエステル化することにより、1-メチルヘキシルアクリレートを調製した。
【0065】
<その他のアクリル系モノマー>
以下の市販のモノマーを準備した。
・ブチルアクリレート(BA)(三菱ケミカル社製)
・2-エチルヘキシルアクリレート(2-EHA)(三菱ケミカル社製)
・アクリル酸(AAc)(日本触媒社製)
・2-ヒドロキシエチルアクリレート(2-HEA)(大阪有機化学工業社製)
・テトラヒドロフルフリルアクリレート(THFA)
・イソボルニルアクリレート(IBOA)
【0066】
<架橋剤>
市販のイソシアネート系架橋剤(東ソー社製、コロネートL-45)を準備した。
【0067】
<粘着付与樹脂>
市販の生物由来の粘着付与樹脂を準備した。
(1)テルペンフェノール樹脂A(ヤスハラケミカル社製、G150、軟化点:150℃、生物由来炭素含有率67重量%)
(2)重合ロジンエステル樹脂B(水酸基価:46、軟化点:152℃、生物由来炭素含有率95重量%)
(3)水添ロジンエステル樹脂C(荒川化学工業社製、KE359、水酸基価:40、軟化点:100℃、生物由来炭素含有率95重量%)
【0068】
(実施例1)
(1)アクリル共重合体Aの製造(溶液重合)
反応容器内に、重合溶媒として酢酸エチルを加え、窒素でバブリングした後、窒素を流入しながら反応容器を加熱して還流を開始した。続いて、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル0.1重量部を酢酸エチルで10倍希釈した重合開始剤溶液を反応容器内に投入し、n-ヘプチルアクリレート96.6重量部、アクリル酸2.9重量部及び2-ヒドロキシルエチルアクリレート0.5重量部を2時間かけて滴下添加した。滴下終了後、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル0.1重量部を酢酸エチルで10倍希釈した重合開始剤溶液を反応容器内に再度投入し、4時間重合反応を行い、アクリル共重合体A含有溶液を得た。
【0069】
得られたアクリル共重合体Aをテトラヒドロフラン(THF)によって50倍希釈して得られた希釈液をフィルター(材質:ポリテトラフルオロエチレン、ポア径:0.2μm)で濾過し、測定サンプルを調製した。この測定サンプルをゲルパーミッションクロマトグラフ(Waters社製、2690 Separations Model)に供給して、サンプル流量1mL/min、カラム温度40℃の条件でGPC測定を行い、アクリル共重合体Aのポリスチレン換算分子量を測定して、重量平均分子量を求めた。
【0070】
(2)粘着テープの製造
得られたアクリル共重合体A含有溶液に、アクリル共重合体A100重量部に対して、イソシアネート系架橋剤(東ソー社製、コロネートL-45)の固形分が0.2重量部となるよう加え、粘着剤溶液を調製した。この粘着剤溶液を厚み75μmの離型処理したPETフィルムの離型処理面に、乾燥後の粘着剤層の厚みが50μmとなるように塗工した後、110℃で5分間乾燥させた。この粘着剤層を、厚み75μmの離型処理したPETフィルムの離型処理面に重ねて、40℃で48時間養生し、粘着テープ(ノンサポートタイプ)を得た。
【0071】
得られた粘着テープの一方の面の離型フィルムを剥がし、厚み23μmのPETフィルム(フタムラ化学社製、FE2002)に貼り合わせ、20mm×40mmの平面長方形状に裁断した。更に粘着テープのもう一方の面の離型フィルムを剥がして、試験片を作製し、重量を測定した。試験片を酢酸エチル中に23℃にて24時間浸漬した後、酢酸エチルから取り出して、110℃の条件下で1時間乾燥させた。乾燥後の試験片の重量を測定し、下記を用いてゲル分率を算出した。
ゲル分率(重量%)=100×(W2-W0)/(W1-W0)
(W0:基材(PETフィルム)の重量、W1:浸漬前の試験片の重量、W2:浸漬、乾燥後の試験片の重量)
【0072】
得られた粘着テープの粘着剤層について液体クロマトグラフィー質量分析計(島津製作所社製NEXCERA、又は、Thermo Fisher Scientific社製Exactive)を用いて測定することで、界面活性剤の含有量を求めた。
【0073】
(実施例2~11、13~37、比較例1~6)
アクリル共重合体を構成するアクリル系モノマーの種類及び配合量、アクリル共重合体の重量平均分子量、粘着付与樹脂及び架橋剤の種類及び配合量を表1~4に示すように変更した以外は実施例1と同様にして、粘着テープを得た。実施例1及び27~37では、上述した式(1)から、得られたアクリル共重合体について値Xを算出した。
粘着付与樹脂としては、実施例10~11ではテルペンフェノール樹脂Aを10重量部、重合ロジンエステル樹脂Bを14重量部及び水添ロジンエステル樹脂Cを10重量部用いた。実施例14ではテルペンフェノール樹脂Aを2.9重量部、重合ロジンエステル樹脂Bを4.2重量部及び水添ロジンエステル樹脂Cを2.9重量部用いた。実施例15ではテルペンフェノール樹脂Aを4.4重量部、重合ロジンエステル樹脂Bを6.2重量部及び水添ロジンエステル樹脂Cを4.4重量部用いた。実施例16ではテルペンフェノール樹脂Aを14.7重量部、重合ロジンエステル樹脂Bを20.6重量部及び水添ロジンエステル樹脂Cを14.7重量部用いた。実施例17ではテルペンフェノール樹脂Aを17.6重量部、重合ロジンエステル樹脂Bを24.8重量部及び水添ロジンエステル樹脂Cを17.6重量部用いた。
【0074】
(実施例12)
(1)アクリル共重合体Bの製造(エマルジョン重合)
予め別容器に入れたアクリル共重合体Bを構成する表1記載のアクリル系モノマー混合物100重量部に対し、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウム(花王社製、レベノールWZ)5.8重量部及び脱イオン水57重量部を加え、攪拌して、モノマー混合物の乳化物を調製した。
反応容器に脱イオン水40重量部及びポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウム0.2部重量部を加え、窒素を流入させて、内温80℃まで昇温させた。その後、反応容器に5%濃度に溶解した過硫酸カリウム水溶液4重量部を添加した。予め調製したモノマー混合物の乳化物を3時間かけて反応容器に滴下し、これに並行して5%濃度に溶解した過硫酸カリウム水溶液4重量部を滴下して内温80~83℃で乳化重合を行った。滴下終了後、同温度で3時間維持した後、室温に冷却し、25%アンモニア水を加えて反応液をpH7.5に調整し、平均粒子径が210nmである乳化共重合体を得た。
得られた乳化共重合体含有溶液にアルカリ増粘型アクリル系増粘剤(サイデン化学社製、サイビノールAZ-1)、25%アンモニア水及び脱イオン水を添加して、固形分濃度50%、粘度3500mPa・s、pH8.0であるアクリル共重合体B含有溶液を得た。得られたアクリル共重合体Bについては、重量平均分子量は測定不可であった。
【0075】
(2)粘着テープの製造
得られたアクリル共重合体Bを用いたこと以外は実施例1と同様にして、粘着テープを得た。実施例1と同様にして、ゲル分率、及び、界面活性剤の含有量を求めた。
【0076】
<評価>
実施例及び比較例で得た粘着テープについて、以下の方法により評価を行った。結果を表1~4に示した。
【0077】
(1)平滑面に対する剥離力
JIS Z 0237:2009に準拠して、平滑面としてのガラスに対する粘着テープの180°剥離力を測定した。
具体的には、まず、粘着テープの一方の面(測定しない側)を厚み23μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(フタムラ化学社製、FE2002)で裏打ちした後に、幅25mm×長さ75mmに裁断し、試験片を作製した。この試験片をガラス板(表面粗さRa=0.2μm、Shenzhen Sun Global Glass社製、2mmフロートガラス)にその粘着剤層(測定する側)がガラス板に対向した状態となるように載せた後、試験片上に300mm/分の速度で2kgのゴムローラを一往復させることにより貼り合わせた。その後、23℃、50%湿度で20分養生し、試験サンプルを作製した。JIS Z 0237:2009に準じて、23℃、50%湿度の条件下、この試験サンプルを引張速度300mm/minの条件で180°方向に剥離し、粘着力(N/25mm)を測定した。
【0078】
(2)粗面に対する剥離力
JIS Z 0237:2009に準拠して、粗面としての耐水研磨紙(ノリタケコーテッドアブレーシブ社製、C947H、粒度360、表面粗さRa=10.8μm)に対する粘着テープの180°剥離力を測定した。
具体的には、まず、耐水研磨紙の裏面を測定用粘着テープ(積水化学工業社製、#560)を用いてSUS304板に貼り合わせた。次に、粘着テープの一方の面(測定しない側)を厚み23μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(フタムラ化学社製、FE2002)で裏打ちした後に、幅25mm×長さ75mmに裁断し、試験片を作製した。この試験片をSUS304板に貼り合わせた耐水研磨紙の研磨面に、その粘着剤層(測定する側)が研磨面に対向した状態となるように載せた後、試験片上に300mm/分の速度で2kgのゴムローラを一往復させることにより貼り合わせた。その後、23℃、50%湿度で20分養生し、試験サンプルを作製した。JIS Z 0237に準じて、この試験サンプルを引張速度300mm/minの条件で180°方向に剥離し、23℃における粘着力(N/25mm)を測定した。
なお、耐水研磨紙の表面粗さRaは、レーザ顕微鏡(KEYENCE社製、カラー3Dレーザ顕微鏡、VK-8710)を用いて測定した。
【0079】
(3)ポリカーボネート板(PC板)に対する剥離力
実施例1及び18~26で得られた粘着テープについて、JIS Z 0237:2009に準拠して、ポリカーボネート板(PC板)に対する粘着テープの180°剥離力を測定した。
具体的には、まず、粘着テープの一方の面(測定しない側)を厚み23μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(フタムラ化学社製、FE2002)で裏打ちした後に、幅25mm×長さ75mmに裁断し、試験片を作製した。この試験片をPC板(表面粗さRa=0.2μm、タキロンシーアイ社製、PC-1600、厚さ2mm)にその粘着剤層(測定する側)がPC板に対向した状態となるように載せた後、試験片上に300mm/分の速度で2kgのゴムローラを一往復させることにより貼り合わせた。その後、23℃、50%湿度で20分養生し、試験サンプルを作製した。JIS Z 0237:2009に準じて、23℃、50%湿度の条件下、この試験サンプルを引張速度300mm/minの条件で180°方向に剥離し、粘着力(N/25mm)を測定した。
【0080】
(4)せん断保持力試験
実施例1及び27~37で得られた粘着テープについて、せん断保持力試験を行った。
図1は、粘着テープのせん断保持力試験を模式的に示す図である。
図1に示すように、厚み23μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(フタムラ化学社製、FE2002)5とSUS板7とを粘着テープ6を用いて貼り合わせた。貼り合わせ面積を25mm×25mmとした。ポリエチレンテレフタレートフィルム5の一端に1kgの重り8を下げ、80℃の温度で静置し、1時間後の粘着テープのずれ量(粘着テープがずれた距離)(mm)を測定した。
【0081】
(5)耐反発性試験
実施例1及び27~37で得られた粘着テープについて、耐反発性試験を行った。
図2は、粘着テープの耐反発性試験を模式的に示す図である。
図2に示すように、粘着テープ9を横25mm×縦150mmの平面長方形状に裁断し、横25mm×縦150mm×厚み0.3mmのアルミニウム板10と、横25mm×縦200mm×厚み1mmのポリカーボネート樹脂板11とを粘着テープ9を用いて貼り合わせた。粘着テープ9がポリカーボネート樹脂板11の長さ方向の中央部に位置するように調整した。ポリカーボネート樹脂板11上に300mm/分の速度で2kgのゴムローラを一往復させて、ポリカーボネート樹脂板11とアルミニウム板10とを粘着テープ9を介して一体化させ、23℃で24時間にわたって静置し、試験サンプル12を作製した。試験サンプル12を図2に示すように冶具13にセットし、試験サンプル12の縦方向に曲げ応力を加えることによって試験サンプル12をそのポリカーボネート樹脂板11の長さ方向の両端間の距離が180mmとなるように円弧状に反った状態に変形させた。この状態にて試験サンプル12を85℃のオーブンに入れて24時間にわたって静置した。試験サンプル12を円弧状に反った状態のままオーブンから取り出し、アルミニウム板10とポリカーボネート樹脂板11との間の浮き高さH(mm)をノギスで測定した。
【0082】
【表1】
[図:0001438250000006.jpg]
【0083】
【表2】
[図:0001438250000007.jpg]
【0084】
【表3】
[図:0001438250000008.jpg]
【0085】
【表4】
[図:0001438250000009.jpg]
2 申立理由3(サポート要件違反)について
ア 前提
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載を対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明の記載や示唆がなくとも、当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
イ 本件訂正発明の課題
前記(1)の【0005】から、本件訂正発明は、平滑面及び粗面のいずれに対しても優れた粘着力を発揮できる粘着剤組成物を提供することを解決しようとする課題とするものであると認められる。
ウ 検討
本件訂正発明1は、ゲル分率が特定範囲であることに加え、粘着付与樹脂を含有することを特定事項とするものである。本件特許明細書には、【0040】に「粘着付与樹脂を含有することにより、粘着剤組成物の平滑面及び粗面に対する粘着力がより高くなる。」と記載され、【表1】の実施例3と実施例14から、粘着付与樹脂を配合することにより、平滑面及び粗面に対する剥離力が増加することが開示されており、技術常識を備えた当業者は、実施例10、11及び15~17等の記載から、粘着剤付与樹脂の配合割合が高まることで平滑面及び粗面に対する剥離力が高まる傾向にあること、並びに、粘着付与樹脂を含有しゲル分率が10重量%以上50重量%以下である粘着剤層を含む本件訂正発明1は、平滑面及び粗面のいずれに対しても優れた粘着力を発揮できる粘着剤組成物の提供という前記イの課題を解決すること理解する。
したがって、本件訂正発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に照らし当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえるから、本件訂正発明1はサポート要件を満たすものである。
本件訂正発明1の引用形式等で記載される本件訂正発明2~6及び10~19も、同様の理由から、サポート要件を満たすものである。
エ 申立人の主張について
申立人は、本件特許明細書の【0007】には「特にn-ヘプチル(メタ)アクリレートを用いることで、平滑面及び粗面のいずれに対しても優れた粘着力を発揮できる粘着剤組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。」と記載されるものの、本件特許明細書の【表1】の本件訂正発明の実施例に該当する実施例10、11、14乃至17の記載から、ヘプチルアクリレートを用い、ゲル分率を一定範囲とした粘着剤組成物について、粗面に対する「顕著な粘着力」が示されているとは言いがたいと主張する。
本件訂正明細書の【0007】の記載が本件特許明細書の発明の詳細な説明において実施例等により具体的に裏付けられるものでないことは、申立人主張のとおりであるとしても、本件訂正発明1は粘着付与樹脂を含有するゲル分率が10重量%以上50重量%以下である粘着剤層を含むものである以上、先記ウのとおり本件訂正発明1は、本件訂正発明の課題を解決するものと認められるから、申立人の主張は採用できない。
オ 小括
したがって、本件訂正発明1~6及び10~19は、発明の詳細な説明に記載された発明であるから、本件特許の請求項1~6及び10~19に係る特許を、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものとして取り消すことはできない。
3 申立理由4(実施可能要件違反)について
ア 前提
本件特許明細書の記載が実施可能要件に適合するか否かは、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているか否かを検討して判断すべきものと解される。
そして、発明の詳細な説明が実施可能要件に適合するといえるためには、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件訂正発明1、2、4~6及び10~17の「粘着テープ」を製造かつ使用することができること、並びに、本件訂正発明18及び19の方法を実施できることが、発明の詳細な説明において、明確かつ十分に記載されている必要がある。
イ 検討
前記1のとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、実施例10、11及び14~17として、本件訂正発明1の特定事項を満たす粘着テープを製造し、平滑面及び粗面に対する剥離力を確認したことが記載されており、出願時の技術常識を踏まえた当業者は、これらの記載から、このような粘着テープで電子機器部品又は車載部品を固定し、これらの部品を製造できることを理解することから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、出願時の技術常識を備えた当業者が、本件訂正発明1~6及び10~17の粘着テープを製造かつ使用できる程度に、また、本件訂正発明18及び19の方法を実施できる程度に、明確かつ十分記載されている。
ウ 申立人の主張について
申立人は「本件明細書には、本件発明1の「課題」を解決し、本件発明1の「作用効果」を奏するように、「過度の実験を要することなく、その物を生産し、かつ、使用することができる」程度の記載があるとはいえ」ないから、実施可能要件を満たすものではないと主張する。
しかしながら、前記アのとおり、発明の「課題」は実施可能要件の検討の前提となるものではない。前記イで検討したとおり、本件訂正明細書の発明の詳細な説明には、出願時の技術常識を備えた当業者が、過度な実験を要することなく本件訂正発明1の粘着テープを生産かつ使用できる程度に記載されているから、申立人の上記主張は採用できない。
エ 小括
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件訂正発明1~6及び10~19の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであり、本件訂正発明1~6及び10~19に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たさないとの理由で取り消すことはできない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、本件特許の特許請求の範囲の請求項1、2、4~6及び10~19に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、これらの請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
また、本件特許の請求項3に係る特許は、取消理由通知(決定の予告)及び取消理由通知に記載した取消理由、並びに、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由のいずれによっても取り消すことはできない。さらに、他に、本件特許の請求項3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2022-701223