特許異議申立
2023-701265
π共役系ポリマーの製造方法
- 審判番号
- 2023-701265
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-139897
- 登録番号
- 7293026
- 請求日
- 2023年11月30日
- 審決日
- 2024年02月29日
- 公報発行日
- 2024年04月26日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】住友化学株式会社
- 【権利者代理人】森住 憲一
- 【権利者代理人】梶田 真理奈
- 【権利者代理人】岩木 郁子
- 【異議申立人】浅野 幸義
- 審判長/審判官
- 審判長 近野 光知
- 審判官 海老原 えい子
- 審判官 小出 直也
- 分類
- P1651.121-Y (C08G) / P1651.536-Y (C08G) / P1651.537-Y (C08G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第29条、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7293026号発明「π共役系ポリマーの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7293026号の請求項1~5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件特許第7293026号に係る出願は、令和1年7月30日の出願であって、令和5年6月9日に特許権の設定登録がされ、同年同月19日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、令和5年11月30日に、本件の請求項1~5に係る特許に対して、特許異議申立人 浅野 幸義(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。
申立人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。
甲第1号証 特開2016-92278号公報
甲第2号証 特開2013-237767号公報
甲第3号証 国際公開第2019/39369号
参考資料1 「有機反応機構」、第5版第7刷、株式会社東京化学同人発行、1994年4月1日、p343~345
参考資料2 「1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン」の安全データシート、2023年2月17日改訂)
参考資料3 「クロロベンゼン」の安全データシート(2023年5月9日改訂)
参考資料4 「oージクロロベンゼン」の安全データシート(2023年5月9日改訂)
以下、甲第1号証~甲第3号証をそれぞれ「甲1」~「甲3」という。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~5に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明5」といい、これらをまとめて「本件発明」という。また、本件の願書に添付された明細書を「本件明細書」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
【請求項1】
π共役系粗ポリマーを溶媒に加熱溶解させてポリマー溶液を得る工程(I)、及び、該ポリマー溶液からπ共役系ポリマーを析出させる工程(II)を含む、π共役系ポリマーの製造方法であって、
該溶媒は、工程(I)で該π共役系粗ポリマーを溶解可能な溶媒であり、
工程(I)において、該溶媒中の過酸化物の含有量は、高速液体クロマトグラフィーで測定される相対面積比で0.1%以下であり、
該π共役系ポリマーの電子スピン濃度は、30×1016Spin/g以下、及び/又はπ共役系粗ポリマーの電子スピン濃度の2.5倍以下である、方法。
【請求項2】
前記π共役系粗ポリマーはD-A型π共役系粗ポリマーであり、前記π共役系ポリマーはD-A型π共役系ポリマーである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(I)において、前記溶媒は、ベンジル水素含有芳香族系溶媒、ハロゲン原子含有芳香族系溶媒、及びエーテル系溶媒からなる群から選択される少なくとも1つ以上を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
工程(I)において、温度40℃以上で加熱溶解させる、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
陽極及び陰極を含む一対の電極、並びに該一対の電極間に設けられ、請求項1~4のいずれかに記載の方法により製造されるπ共役系ポリマーを含む活性層を備える、有機光電変換素子の製造方法。
第3 申立理由の概要
特許異議申立書に記載された申立理由は、以下のとおりである。
1 申立理由1(明確性)
本件特許は、下記の理由により、特許法36条6項2号に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法113条4号に該当し、取り消すべきものである。
【理由】
本件発明1の「π共役系粗ポリマー」の定義があいまいであるため、本件発明1の範囲を正確に把握できず、本件発明1に含まれる権利範囲の外縁が明確でない。
2 申立理由2(新規性)
本件特許の請求項1~5に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1、甲2又は甲3に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、これらの発明に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであって、同法113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
3 申立理由3(進歩性)
本件特許の請求項1~5に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1、甲2又は甲3に記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これらの発明に係る特許は、同法113条2号に該当し、取り消すべきものである。
4 申立理由4(実施可能要件)
本件特許は、下記の理由により、特許法36条4項1号に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法113条4号に該当し、取り消すべきものである。
【理由】
本件発明1の「溶媒中の過酸化物の含有量」は「達成すべき結果」にすぎないので、その達成手段を規定しなければ、実施可能要件違反となることは明白である。
本件明細書の【0113】には、「溶媒中の過酸化物の含有量」のレベルの達成手段として、「比較的新しい溶媒(製造後、比較的時間が経過していない溶媒)を使用する方法(i);溶媒中から過酸化物を除去する方法(ii);これらの組み合わせなど」が挙げられているが、このうち「比較的新しい溶媒(製造後、比較的時間が経過していない溶媒)を使用する方法(i)」について、本件明細書には、具体的に製造後どのくらいの時間が経過していない溶媒であれば良いのか何ら示されていない。また、「具体的に製造後、どのくらいの時間が経過していない溶媒であれば良いのか」は、溶媒の種類によっても異なると思われるが、「ハロゲン原子含有芳香族系溶媒」についてのこの時間は、本件明細書には何ら具体的に示されていない。
よって、「溶媒中の過酸化物の含有量」のレベルの達成手段のうち、「比較的新しい溶媒(製造後、比較的時間が経過していない溶媒)を使用する方法(i)」については、当業者であっても、「ハロゲン原子含有芳香族系溶媒」についての好適な時間を決定するためには過度の実験を要するから実施可能要件違反である。
5 申立理由5(サポート要件)
本件特許は、下記の理由により、特許法36条6項1号に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法113条4号に該当し、取り消すべきものである。
【理由】
上記4のとおり、本件発明1の「比較的新しい溶媒(製造後、比較的時間が経過していない溶媒)を使用する方法(i)」について、本件明細書には、具体的に製造後どのくらいの時間が経過していない溶媒であれば良いのか何ら示されていないから、本件発明1において「溶媒中の過酸化物の含有量」のレベルの達成手段として「溶媒中から過酸化物を除去する方法(ii)」を規定すべきであるところ、本件発明1にはそのような「溶媒中の過酸化物の含有量」のレベルの達成手段が規定されていないから、課題の解決手段を規定しておらず、サポート要件違反である。
第4 当審の判断
1 申立理由1(明確性)について
(1)判断基準
特許法36条6項2号は、特許請求の範囲の記載に関し、特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨規定する。この趣旨は、特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には、特許の付与された発明の技術的範囲が不明確となり、第三者に不測の不利益を及ぼすことがあり得るため、そのような不都合な結果を防止することにある。そして、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載のみならず、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
(2)本件発明の明確性について
ア 本件発明は、上記第2のとおりであり、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとする根拠は見出せない。
イ 上記第3の1のとおり、申立人は、本件発明1の「π共役系粗ポリマー」の定義があいまいであるため、本件発明1の範囲を正確に把握できず、本件発明1に含まれる権利範囲の外縁が明確でないことを指摘する。
しかしながら、本件明細書には、「本明細書では、工程(I)に供する前(精製前)のπ共役系ポリマーをπ共役系粗ポリマーと称する」(【0015】)と記載されており、本件発明1の「π共役系粗ポリマー」が「工程(I)」、すなわち、「π共役系」の「ポリマーを溶媒に加熱溶解させてポリマー溶液を得る工程」であって、「該溶媒は」、工程(I)で「該π共役系」の「ポリマーを溶解可能な溶媒であり、」「該溶媒中の過酸化物の含有量は、高速液体クロマトグラフィーで測定される相対面積比で0.1%以下であ」る工程、に供する前の「π共役系ポリマー」を意味することは明確である。
ウ さらに申立人は、本件明細書の「π共役系粗ポリマーとπ共役系ポリマーの構造は同じである。」(【0015】)との記載を指摘して、「π共役系からなる高分子化合物」も「π共役系粗ポリマー」に文言上含まれることになるが、「π共役系からなる高分子化合物」はその全てがπ共役系から構成されており不純物を一切含んでいないのであるから「π共役系粗ポリマー」ではあり得ないと主張し、さらに、本件明細書の実施例2、3では「π共役系粗ポリマー」として市販品を使用しているが市販品は一般的に精製されたものであることが技術常識であるから、本件発明1の「π共役系粗ポリマー」は不明確であると主張する(申立書8頁20行~11頁26行)。
しかしながら、上記イのとおり本件明細書によれば「π共役系粗ポリマー」が「工程(I)に供する前(精製前)のπ共役系粗ポリマー」を意味することは明確であり、このことは、「π共役系からなる高分子化合物」が「π共役系粗ポリマー」に含まれるか否かに左右されない。
また、精製されているπ共役系ポリマーの市販品であっても、それが「工程(I)に供する前(精製前)」であれば本件発明1の「π共役系粗ポリマー」にあたることは明らかである。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
エ したがって、本件発明は明確である。
(3)小括
以上のとおりであるから、申立理由1は理由がない。
2 申立理由2及び3のうち甲1を主引例とするものについて
(1)本件発明1について
ア 甲1に記載された発明
(ア)甲1には「合成例2」として以下の記載がある。
「【0083】
合成例2
(高分子化合物1の合成)
下記の化合物2、化合物3及び化合物4を用いて高分子化合物1を合成した。
【0084】
【化7】
[図:0001409164000001.jpg]
容量300mLのフラスコ内の気体をアルゴンガスで置換し、国際公開第2011/052709号に記載の方法に従って合成した化合物3を800mg(0.760mmol)、前記化合物2を840mg(0.757mmol)、国際公開第2011/052709号に記載の方法に従って合成した化合物4を471mg(1.43mmol)、トルエンを107mL、フラスコに入れて均一な溶液(トルエン溶液)とした。得られたトルエン溶液を、アルゴンガスで30分間バブリングした。その後、トルエン溶液に、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウムを19.6mg(0.0214mmol)、トリス(2-トルイル)ホスフィンを39.1mg(0.128mmol)加え、100℃で6時間攪拌した。その後、得られた反応液にフェニルブロミドを660mg加え、さらに5時間攪拌した。その後、フラスコを25℃に冷却し、反応液をメタノール2000mLに注いだ。析出したポリマーを濾過して集め、得られたポリマーを円筒濾紙に入れ、ソックスレー抽出器を用いて、メタノール、アセトン及びヘキサンでそれぞれ5時間抽出した。円筒濾紙内に残ったポリマーを、o-ジクロロベンゼン53mLに溶解させ、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム1.21gと水12mLとを加え、8時間還流下で攪拌を行った。水層を除去後、有機層を水200mLで2回洗浄し、次いで、3重量%の酢酸水溶液200mLで2回洗浄し、次いで、水200mLで2回洗浄し、得られた溶液をメタノールに注いでポリマーを析出させた。析出したポリマーを濾取した後、乾燥させ、得られたポリマーをo-ジクロロベンゼン62mLに再度溶解させ、アルミナ/シリカゲルカラムに通した。得られた溶液をメタノールに注いでポリマーを析出させ、ポリマーを濾取した後、乾燥させ、精製されたポリマー802mgを得た。以下、このポリマーを高分子化合物1と称する。」
(イ)そうすると、甲1には以下の発明が記載されていると認められる。
「化合物2、化合物3及び化合物4を反応させて得たポリマーを、メタノール、アセトン及びヘキサンでそれぞれ抽出後、o-ジクロロベンゼンに溶解させ、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウムと水とを加え、8時間還流下で攪拌を行ったのち、水層を除去後、有機層を水及び3重量%の酢酸水溶液で洗浄して得た溶液をメタノールに注いでポリマーを析出させ、これをo-ジクロロベンゼンに再度溶解させ、アルミナ/シリカゲルカラムに通し、得られた溶液をメタノールに注いでポリマーを析出させ、濾取、乾燥して、精製されたポリマーである高分子化合物1を製造する方法。」(以下「甲1発明」という。ただし、化合物2、3及び4の式は省略した。)
イ 対比
(ア)甲1発明の「化合物2、化合物3及び化合物4を反応させて得たポリマー」は、これら化合物の構造からみて「π共役系」のポリマーであるといえる。
そして、上記ア(ア)によれば、甲1発明である甲1の参考例1では、化合物2、化合物3及び化合物4を反応させて得たポリマーを精製して、精製されたポリマーである高分子化合物1を得ていると解されるから、甲1発明の「化合物2、化合物3及び化合物4を反応させて得たポリマー」を「メタノール、アセトン及びヘキサンでそれぞれ抽出」した後のポリマー(以下「抽出後のポリマー」という。)も、抽出後のポリマーを「o-ジクロロベンゼンに溶解させ、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウムと水とを加え、8時間還流下で攪拌を行ったのち、水層を除去後、有機層を水及び3重量%の酢酸水溶液で洗浄して得た溶液をメタノールに注いで」析出させたポリマー(以下「還流後のポリマー」という。)も、還流後のポリマーを「o-ジクロロベンゼンに再度溶解させ、アルミナ/シリカゲルカラムに通し、得られた溶液をメタノールに注いでポリマーを析出させ、濾取、乾燥して、精製されたポリマーである高分子化合物1」も、いずれも「π共役系」のポリマーであるといえる。
(イ)本件明細書によれば、「工程(I)に供する前(精製前)のπ共役系ポリマーをπ共役系粗ポリマーと称する」(【0015】)。
これに対して、甲1発明の抽出後のポリマーは、「o-ジクロロベンゼンに溶解させ、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウムと水とを加え、8時間還流下で攪拌を行ったのち、水層を除去後、有機層を水及び3重量%の酢酸水溶液で洗浄して」「溶液」を得る工程に供されるところ、上記(ア)のとおり抽出後のポリマーは「π共役系」のポリマーであるし、「o-ジクロロベンゼンに溶解させ、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウムと水とを加え、8時間還流下で攪拌を行ったのち、水層を除去後、有機層を水及び3重量%の酢酸水溶液で洗浄して」「溶液」を得る工程は、抽出後のポリマーを溶解可能な溶媒である「o-ジクロロベンゼン」に加熱溶解させてポリマー溶液が得る工程であるといえる。
そうすると、甲1発明の、抽出後のポリマー(すなわち「化合物2、化合物3及び化合物4を反応させて得たポリマー」を、「メタノール、アセトン及びヘキサンでそれぞれ抽出」した後のポリマー)、及び、抽出後のポリマーを「o-ジクロロベンゼンに溶解させ、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウムと水とを加え、8時間還流下で攪拌を行ったのち、水層を除去後、有機層を水及び3重量%の酢酸水溶液で洗浄して」「溶液」を得る工程は、それぞれ本件発明1の「π共役系粗ポリマー」及び「π共役系粗ポリマーを溶媒に加熱溶解させてポリマー溶液を得る工程(I)」であって、「該溶媒は、工程(I)で該共役系粗ポリマーを溶解可能な溶媒であ」ることに相当する。
(ウ)甲1発明の、「溶液をメタノールに注いでポリマーを析出させ」る工程で析出する還流後のポリマーは上記(ア)のとおり「π共役系」のポリマーであるから、当該工程は本件発明1の「該ポリマー溶液からπ共役系ポリマーを析出させる工程(II)」に相当する。
(エ)甲1発明の「精製されたポリマーである高分子化合物1を製造する方法」は最終的に「π共役系」のポリマーである「精製されたポリマーである高分子化合物1」を得るものだから、「π共役系ポリマーの製造方法」である。
(オ)上記(ア)~(エ)より、本件発明1と甲1発明とは、
「π共役系粗ポリマーを溶媒に加熱溶解させてポリマー溶液を得る工程(I)、及び、該ポリマー溶液からπ共役系ポリマーを析出させる工程(II)を含む、π共役系ポリマーの製造方法であって、
該溶媒は、工程(I)で該π共役系粗ポリマーを溶解可能な溶媒である方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
【相違点1】
本件発明1では、工程(I)において、該溶媒中の過酸化物の含有量は、高速液体クロマトグラフィーで測定される相対面積比で0.1%以下であるのに対して、甲1発明ではこの点についての記載がない点
【相違点2】
本件発明1では、該π共役系ポリマーの電子スピン濃度は、30×1016Spin/g以下、及び/又はπ共役系粗ポリマーの電子スピン濃度の2.5倍以下であるのに対して、甲1発明ではこの点についての記載がない点
ウ 判断
上記相違点について検討する。
(ア)相違点1について検討する。
a 甲1には、使用するo-ジクロロベンゼン中の過酸化物含有量について記載も示唆もされておらず、ましてやこれが高速液体クロマトグラフィーで測定される相対面積比で0.1%以下であることについては記載も示唆もされていない。
また、甲2、3、参考文献1~4のいずれをみても、甲1発明において、o-ジクロロベンゼン中の過酸化物含有量が高速液体クロマトグラフィーで測定される相対面積比で0.1%以下であると認める根拠はない。
よって、相違点1は実質的な相違点である。
b(a)本件明細書の記載によれば、本件発明は、π共役系粗ポリマーを溶媒に加熱溶融させてポリマー溶液を得る工程を含むπ共役性ポリマーの製造方法において、溶媒中に存在する過酸化物が加熱によりオキシルラジカルを発生し、発生したオキシルラジカルがπ共役系ポリマーから電子を引き抜くことでπ共役系ポリマーがラジカルカチオン化し、これによる電子スピン濃度の上昇により有機光電変換素子の電気的特性を低下させること、及び、該工程における溶媒中の過酸化物量を0.1%以下に調整し、π共役系ポリマーの電子スピン濃度を特定範囲とすれば有機光電気変換素子の電気的特性が低下すること、特に暗電流が上昇することを回避できることを見いだしたことに基づくものである(【0006】、【0007】、【0009】)。
そして、工程(I)で使用される溶媒中の過酸化物量が一定の値以下であると、工程前後の電子スピン濃度の変化率及び工程後の電子スピン濃度を低減しやすいため、有機光電変換素子における暗電流の上昇及びEQE(外部量子効率)の低下を抑制しやすいことが説明され(【0014】、【0112】)、このことは、実施例及び比較例(【0204】~【0215】)で具体的に裏付けられている。
(b)これに対して、上記aのとおり、甲1には、使用するo-ジクロロベンゼン中の過酸化物含有量について記載も示唆もされておらず、これを高速液体クロマトグラフィーで測定される相対面積比で0.1%以下とすることや、これにより、有機光電変換素子における暗電流の上昇及びEQEの低下を抑制することについても記載も示唆もされていないのだから、甲1発明において、o-ジクロロベンゼン中の過酸化物含有量を上記所定の値以下とすることは何ら動機付けられない。
また、甲2、3、参考資料1~4のいずれをみても、甲1発明において、o-ジクロロベンゼン中の過酸化物含有量を高速液体クロマトグラフィーで測定される相対面積比で0.1%以下とすることが動機付けられるという根拠は見出せない。
よって、相違点1に係る事項は当業者が容易に想到しうるものではない。
(イ)したがって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は甲1発明ではないし、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をし得たものでもない。
エ 申立人の主張について
(ア)申立人は以下のとおり主張する(申立書17頁最終行~21頁12行)。
本件明細書の「ベンジル水素含有芳香族系溶媒」、「ハロゲン原子含有芳香族系溶媒」、「エーテル系溶媒」のうち「ベンジル水素含有芳香族系溶媒」及び「エーテル系溶媒」は、空気中の酸素等により酸化されやすく、過酸化物を発生しやすいため、過酸化物量が多くなる傾向があるため、加熱溶解により多量のオキシルラジカルを発生しやすい傾向があり、結果として、有機光電変換素子の雷気的特性が顕著に低下しやすい旨の記載(【0103)を反対解釈すると、「ハロゲン原子含有芳香族系溶媒」は、酸化されにくいので、「溶媒中の過酸化物の含有量」を特段に調整しなくても、本件特許の請求項1の発明で規定されるレベル(0.1%以下)となっていると理解される。この理解は、参考資料1に、「アリル」位は酸素ラジカルと反応しやすく、自動酸化されて過酸化物を生成しやすいことが記載されるとともに自動酸化されやすい化合物の例に「テトラリン」が挙げられ、「テトラリン」に比べて「クロロベンゼン」や「oージクロロベンゼン」は自動酸化されにくいことが理解できること、参考資料2には、「テトラリン」が「爆発性過酸化物を生成することがある」と記載されているのに対して、「クロロベンゼン」や「oージクロロベンゼン」に関する参考資料3及び4のいずれにもそのような記載はないことによって裏付けられている。
そうすると、溶媒が「クロロベンゼン」や「oージクロロベンゼン」などの「ハロゲン原子含有芳香族系溶媒」である場合は、「過酸化物の含有量が高速液体クロマトグラフィーで測定される相対面積比で0.1%以下」との規定は従来一般的に達成されているレベルを単に規定したにすぎない。
(イ)上記主張について検討する。
確かに、参考資料1~4によれば、「クロロベンゼン」や「oージクロロベンゼン」は「テトラリン」に比べて自動酸化されにくく、過酸化物を発生しにくいと理解することはできる。
しかしながら、そのように定性的な事項が理解できたとしても、参考資料1~4のいずれにも「テトラリン」、「クロロベンゼン」、「oージクロロベンゼン」中の過酸化物の具体的な量についての記載はないから、これらをみても、通常の「クロロベンゼン」や「oージクロロベンゼン」の過酸化物の含有量は不明であり、その量が「高速液体クロマトグラフィーで測定される相対面積比で0.1%以下」であると理解することができる根拠はない。
申立人は、本件明細書の【0103】の記載を指摘するが、当該箇所にも「ベンジル水素含有芳香族系溶媒」及び「エーテル系溶媒」は、過酸化物を発生しやすいため、過酸化物量が多くなることを指摘するにとどまり、当該記載をみても、通常の「ハロゲン原子含有芳香族系溶媒」は、過酸化物量が「高速液体クロマトグラフィーで測定される相対面積比で0.1%以下」であると理解することはできない。
そうすると、溶媒が「クロロベンゼン」や「oージクロロベンゼン」などの「ハロゲン原子含有芳香族系溶媒」である場合は、「過酸化物の含有量が高速液体クロマトグラフィーで測定される相対面積比で0.1%以下」との規定は従来一般的に達成されているレベルを単に規定したにすぎないという主張は根拠がなく、採用できない。
オ よって、本件発明1は、甲1に記載された発明ではないし、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(2)本件発明2~5について
本件発明2~5は本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1が甲1に記載された発明ではなく、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件発明2~5も、甲1に記載された発明ではなく、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3)小括
よって、申立理由2及び3のうち甲1を主引例とするものは、いずれも理由がない。
3 申立理由2及び3のうち甲2を主引例とするものについて
(1)本件発明1について
ア 甲2に記載された発明
(ア)甲1には「実施例1」として以下の記載がある。
「
【0139】
(実施例1:高分子化合物Aの合成)
【0140】
【化17】
[図:0001409164000002.jpg]
【0141】
還流管を取り付けた100mL四口フラスコ内の気体を窒素ガスで置換した後、化合物4(94.5mg、0.10mmol)、化合物3(49.2mg、0.100mmol)および乾燥トルエン(10mL)を加え、アルゴンガスで30分間バブリングすることによって脱気した。その後、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)(2.8mg、3μmol)およびトリス(o-トルイル)ホスフィン(3.7mg、12μmol)を加え、130℃で3時間攪拌した。その後、別途準備したフェニルブロマイド(70mg、0.45mmol)およびo-ジクロロベンゼン(4.2mL)からなる溶液をアルゴンガスで30分間バブリングすることにより脱気した溶液を加え、130℃で3時間攪拌した。その後、得られた反応溶液をメタノール(100mL)に注ぎ、析出した固体を濾取した。得られた個体を、ソックスレー抽出器を用いて、メタノール、アセトン、ヘキサンの順序で4時間ずつ洗浄した。
その後、200mL四口フラスコ内の気体を窒素ガスで置換した後、上記で得られた固体(121mg)をoージクロロベンゼン(32mL)に溶解させ、N,N-ジエチルジチオカルバミド酸ナトリウム三水和物(0.9g)および水(7.9g)を加え、105℃で3時間攪拌した。その後、得られた反応溶液を静置し、分液した有機層を水および10重量%酢酸水溶液の順序で洗浄した。その後、分液した有機層をアセトン(100mL)に滴下し、析出物を得た。得られた析出物を、o-ジクロロベンゼンを展開溶媒として用いたシリカゲルカラムで精製した。その後、得られたo-ジクロロベンゼン溶液をメタノールに注ぎ、固体を析出させた。得られた固体を濾過後、乾燥することで、高分子化合物Aを97mg得た。収率は66%であった。高分子化合物Aのポリスチレン換算の数平均分子量は1.3×104であり、ポリスチレン換算の重量平均分子量は6.3×104であった。」
(イ)そうすると、甲2には以下の発明が記載されていると認められる。
「化合物4及び化合物3を反応させて得られた固体を、メタノール、アセトン、ヘキサンの順序で4時間ずつ洗浄した後、oージクロロベンゼンに溶解させ、N,N-ジエチルジチオカルバミド酸ナトリウム三水和物および水を加え、105℃で3時間攪拌した後、得られた反応溶液を静置し、分液した有機層を水および10重量%酢酸水溶液の順序で洗浄し、その後、分液した有機層をアセトンに滴下して析出物を得、得られた析出物をo-ジクロロベンゼンを展開溶媒として用いたシリカゲルカラムで精製し、得られたo-ジクロロベンゼン溶液をメタノールに注ぎ、固体を析出させ、濾過後、乾燥して、高分子化合物Aを得る方法。」(以下「甲2発明」という。ただし、化合物3及び4及び高分子化合物Aの式は省略した。)
イ 対比
(ア)甲2発明の「化合物4及び化合物3を反応させて得られた固体」は「高分子化合物A」であり、その構造からみて「π共役系」のポリマーであるといえる。
そして、上記ア(ア)によれば、甲2発明である甲2の実施例1では、化合物4及び化合物3を反応させてポリマーである固体を得、これを精製して「高分子化合物A」を得ていると解されるから、甲2発明の「化合物4及び化合物3を反応させて得られた固体をメタノール、アセトン及びヘキサンの順序で4時間ずつ洗浄した」もの(以下「メタノール等洗浄後のポリマー固体」という。)も、メタノール等洗浄後のポリマー固体を「oージクロロベンゼンに溶解させ、N,N-ジエチルジチオカルバミド酸ナトリウム三水和物および水を加え、105℃で3時間攪拌した後、得られた反応溶液を静置し、分液した有機層を水および10重量%酢酸水溶液の順序で洗浄し、その後、分液した有機層をアセトンに滴下して」得たポリマーである「析出物」(以下「アセトン析出物ポリマー」という。)も「π共役系」のポリマーである。
(イ)本件明細書によれば、「工程(I)に供する前(精製前)のπ共役系ポリマーをπ共役系粗ポリマーと称する」(【0015】)。
これに対して、甲2発明のメタノール等洗浄後のポリマー固体は、甲2発明の「oージクロロベンゼンに溶解させ、N,N-ジエチルジチオカルバミド酸ナトリウム三水和物および水を加え、105℃で3時間攪拌した後」「反応溶液」を得る工程に供されるところ、上記(ア)のとおりメタノール等洗浄後のポリマー固体は「π共役系」のポリマーであるし、「oージクロロベンゼンに溶解させ、N,N-ジエチルジチオカルバミド酸ナトリウム三水和物および水を加え、105℃で3時間攪拌した後」「反応溶液」を得る工程は、メタノール等洗浄後のポリマー固体を溶解可能な溶媒である「o-ジクロロベンゼン」に加熱溶解させてポリマー溶液を得る工程であるといえる。
そうすると、甲2発明の、メタノール等洗浄後のポリマー固体(すなわち「化合物4及び化合物3を反応させて得られた固体をメタノール、アセトン及びヘキサンの順序で4時間ずつ洗浄した」もの、及び、メタノール等洗浄後のポリマー固体を「oージクロロベンゼンに溶解させ、N,N-ジエチルジチオカルバミド酸ナトリウム三水和物および水を加え、105℃で3時間攪拌した後」「反応溶液」を得る工程は、それぞれ本件発明1の「π共役系粗ポリマー」及び「π共役系粗ポリマーを溶媒に加熱溶解させてポリマー溶液を得る工程(I)」であって、「該溶媒は、工程(I)で該共役系粗ポリマーを溶解可能な溶媒であ」ることに相当する。
(ウ)甲2発明の、「反応溶液を静置し、分液した有機層を水および10重量%酢酸水溶液の順序で洗浄し、その後、分液した有機層を水および10重量%酢酸水溶液の順序で洗浄し、その後、分液した有機層をアセトンに滴下析出物を得」る工程で得られるアセトン析出物ポリマーは上記(ア)のとおり「π共役系」のポリマーであるから、当該工程は本件発明1の「該ポリマー溶液からπ共役系ポリマーを析出させる工程(II)」に相当する。
(エ)甲2発明の「高分子化合物Aを得る方法」は、最終的に「π共役系」のポリマーである「高分子化合物A」を得るものだから、「π共役系ポリマーの製造方法」である。
(オ)上記(ア)~(エ)より、本件発明1と甲2発明とは、
「π共役系粗ポリマーを溶媒に加熱溶解させてポリマー溶液を得る工程(I)、及び、該ポリマー溶液からπ共役系ポリマーを析出させる工程(II)を含む、π共役系ポリマーの製造方法であって、
該溶媒は、工程(I)で該π共役系粗ポリマーを溶解可能な溶媒である方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
【相違点3】
本件発明1では、工程(I)において、該溶媒中の過酸化物の含有量は、高速液体クロマトグラフィーで測定される相対面積比で0.1%以下であるのに対して、甲2発明ではこの点についての記載がない点
【相違点4】
本件発明1では、該π共役系ポリマーの電子スピン濃度は、30×1016Spin/g以下、及び/又はπ共役系粗ポリマーの電子スピン濃度の2.5倍以下であるのに対して、甲2発明ではこの点についての記載がない点
ウ 判断
上記相違点について検討する。
(ア)相違点3について検討する。
a 甲2には、使用するo-ジクロロベンゼン中の過酸化物含有量について記載も示唆もされておらず、ましてやこれが高速液体クロマトグラフィーで測定される相対面積比で0.1%以下であることについては記載も示唆もされていない。
また、甲1、3、参考資料1~4のいずれをみても、甲2発明において、o-ジクロロベンゼン中の過酸化物含有量が高速液体クロマトグラフィーで測定される相対面積比で0.1%以下であると認める根拠はない。
よって、相違点3は実質的な相違点である。
b(a)上記2(1)ウb(a)のとおり、本件発明は、π共役系粗ポリマーを溶媒に加熱溶融させてポリマー溶液を得る工程を含むπ共役性ポリマーの製造方法において、溶媒中に存在する過酸化物が加熱によりオキシルラジカルを発生し、発生したオキシルラジカルがπ共役系ポリマーから電子を引き抜くことでπ共役系ポリマーがラジカルカチオン化し、これによる電子スピン濃度の上昇により有機光電変換素子の電気的特性を低下させること、及び、該工程における溶媒中の過酸化物量を0.1%以下に調整し、π共役系ポリマーの電子スピン濃度を特定範囲とすれば有機光電気変換素子の電気的特性が低下すること、特に暗電流が上昇することを回避できることを見いだしたことに基づくものである。
そして、工程(I)で使用される溶媒中の過酸化物量が一定の値以下であると、工程前後の電子スピン濃度の変化率及び工程後の電子スピン濃度を低減しやすいため、有機光電変換素子における暗電流の上昇及びEQE(外部量子効率)の低下を抑制しやすいことが説明され、このことが、実施例及び比較例で具体的に裏付けられている。
(b)これに対して、上記aのとおり、甲2には、使用するo-ジクロロベンゼン中の過酸化物含有量について記載も示唆もされておらず、これを高速液体クロマトグラフィーで測定される相対面積比で0.1%以下とすることや、これによい、有機光電変換素子における暗電流の上昇及びEQEの低下を抑制することについても記載も示唆もされていないのだから、甲2発明において、o-ジクロロベンゼン中の過酸化物含有量を上記所定の値以下とすることは何ら動機付けられない。
また、甲1、3、参考資料1~4のいずれをみても、甲2発明において、o-ジクロロベンゼン中の過酸化物含有量を高速液体クロマトグラフィーで測定される相対面積比で0.1%以下とすることが動機付けられるという根拠は見出せない。
よって、相違点3に係る事項は当業者が容易に想到しうるものではない。
(イ)したがって、相違点4について検討するまでもなく、本件発明1は甲2発明ではないし、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をし得たものでもない。
エ 申立人の主張について
申立人は、上記2(1)エと同様の主張をするが、これを採用できないことも、上記2(1)エのとおりである。
オ よって、本件発明1は、甲2に記載された発明ではないし、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(2)本件発明2~5について
本件発明2~5は本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1が甲2に記載された発明ではなく、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない以上、本件発明2~5も、甲2に記載された発明ではなく、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3)小括
よって、申立理由2及び3のうち甲2を主引例とするものは、いずれも理由がない。
4 申立理由2及び3のうち甲3を主引例とするものについて
(1)本件発明1について
ア 甲3に記載された発明
(ア)甲3には以下の記載がある。
「[0097](高分子化合物P2の合成)
下記の反応式に使用した化合物7は、非特許文献1に記載された手順に準じて合成した。
次に、反応容器に化合物5(34.7mg,0.025mmol)、化合物7(13.2mg,0.025mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(0.5mg,2mol%)、トルエン(2mL)を加えた。反応容器をアルゴン置換した後に密封し、μ-ウェーブリアクターを用いて200℃で2時間反応させた。室温まで冷却後、反応溶液をメタノール(50mL)と塩酸(2mL)の混合溶液に注ぎ再沈殿させた。沈殿物を濾過した後、ソックスレー抽出器を用いてメタノール、ヘキサン、クロロホルムにて洗浄後、クロロベンゼンにて抽出を行った。クロロベンゼン溶液を濃縮した後、メタノールを用いて再沈殿させることで高分子化合物P2(20mg,57%)を暗紫色固体として得た。反応式を以下に示す。
[図:0001409164000003.jpg]
」
(イ)そうすると、甲3には以下の発明が記載されていると認められる。
「化合物5と化合物7を反応させた反応溶液を、メタノールと塩酸の混合溶液に注ぎ再沈殿させた再沈殿物を、メタノール、ヘキサン、クロロホルムにて洗浄後、クロロベンゼンにて抽出を行ない、次いで、クロロベンゼン溶液を濃縮した後、メタノールを用いて再沈殿させて高分子化合物P2を暗紫色固体として得る方法(以下「甲3発明」という。ただし、化合物5及、7及び高分子化合物P2の式は省略した。)
イ 対比
(ア)上記ア(ア)より、甲3発明の「化合物5と化合物7を反応させた反応用液」には反応生成物である「高分子化合物P2」が含まれ、これはその構造からみて「π共役系」のポリマーであるといえる。
そして、上記ア(ア)によれば、甲3発明である「高分子化合物P2の合成」では、化合物5及び化合物7を反応させて「π共役系」のポリマーを得、これを精製して「高分子化合物P2」を得ていると解されるから、甲3発明の「化合物5と化合物7を反応させた反応溶液を、メタノールと塩酸の混合溶液に注ぎ再沈殿させた再沈殿物を、メタノール、ヘキサン、クロロホルムにて洗浄」したもの(以下「洗浄後の再沈殿物ポリマー」という。)は「π共役系」のポリマーである。
(イ)本件明細書によれば、「工程(I)に供する前(精製前)のπ共役系ポリマーをπ共役系粗ポリマーと称する」(【0015】)。
これに対して、甲3発明の洗浄後の再沈殿物ポリマーは、甲3発明の「クロロベンゼンにて抽出を行ない」、「クロロベンゼン溶液」を得る工程に供されるところ、上記(ア)のとおり洗浄後の再沈殿物ポリマーは「π共役系」のポリマーであるし、「クロロベンゼンにて抽出を行ない」、「クロロベンゼン溶液」を得る工程は、洗浄後の再沈殿物ポリマーを溶解可能な溶媒である「クロロベンゼン」に溶解させてポリマー溶液が得る工程であるといえる。
そうすると、甲3発明の、洗浄後の再沈殿物ポリマー(すなわち「化合物5と化合物7を反応させた反応溶液を、メタノールと塩酸の混合溶液に注ぎ再沈殿させた再沈殿物を、メタノール、ヘキサン、クロロホルムにて洗浄」したもの)は本件発明1の「π共役系粗ポリマー」に相当し、洗浄後の再沈殿物ポリマーについて「クロロベンゼンにて抽出を行ない」、「クロロベンゼン溶液」を得る工程は、当該工程が加熱を伴うか否かが不明である点を除いて、本件発明1の「π共役系粗ポリマーを溶媒に加熱溶解させてポリマー溶液を得る工程(I)」であって、「該溶媒は、工程(I)で該共役系粗ポリマーを溶解可能な溶媒であ」ることに相当する。
(ウ)甲3発明の、「クロロベンゼン溶液を濃縮した後、メタノールを用いて再沈殿させて高分子化合物P2を暗紫色固体として得る」工程で得られる「高分子化合物P2」は上記(ア)のとおり「π共役系」のポリマーであるから、当該工程は本件発明1の「該ポリマー溶液からπ共役系ポリマーを析出させる工程(II)」に相当する。
(エ)甲3発明の「高分子化合物P2を暗紫色固体として得る方法」は「π共役系ポリマーの製造方法」である。
(オ)上記(ア)~(エ)より、本件発明1と甲3発明とは、
「π共役系粗ポリマーを溶媒に溶解させてポリマー溶液を得る工程(I)、及び、該ポリマー溶液からπ共役系ポリマーを析出させる工程(II)を含む、π共役系ポリマーの製造方法であって、
該溶媒は、工程(I)で該π共役系粗ポリマーを溶解可能な溶媒である方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
【相違点5】
本件発明1では、工程(I)において、該溶媒中の過酸化物の含有量は、高速液体クロマトグラフィーで測定される相対面積比で0.1%以下であるのに対して、甲3発明ではこの点についての記載がない点
【相違点6】
本件発明1では、工程(I)は「π共役系粗ポリマーを溶媒に加熱溶解させてポリマー溶液を得る」のに対して、甲3発明では、クロロベンゼンにて抽出をする際に加熱しているか不明である点
【相違点7】
本件発明1では、π共役系ポリマーの電子スピン濃度は、30×1016Spin/g以下、及び/又はπ共役系粗ポリマーの電子スピン濃度の2.5倍以下であるのに対して、甲3発明ではこの点についての記載がない点
ウ 判断
上記相違点について検討する。
(ア)相違点5について検討する。
a 甲3には、使用するクロロベンゼン中の過酸化物含有量について記載も示唆もされておらず、ましてやこれが高速液体クロマトグラフィーで測定される相対面積比で0.1%以下であることについては記載も示唆もされていない。
また、甲1、2、参考資料1~4のいずれをみても、甲3発明において、クロロベンゼン中の過酸化物含有量が高速液体クロマトグラフィーで測定される相対面積比で0.1%以下であると認める根拠はない。
よって、相違点5は実質的な相違点である。
b(a)上記2(1)ウb(a)のとおり、本件発明は、π共役系粗ポリマーを溶媒に加熱溶融させてポリマー溶液を得る工程を含むπ共役性ポリマーの製造方法において、溶媒中に存在する過酸化物が加熱によりオキシルラジカルを発生し、発生したオキシルラジカルがπ共役系ポリマーから電子を引き抜くことでπ共役系ポリマーがラジカルカチオン化し、これによる電子スピン濃度の上昇により有機光電変換素子の電気的特性を低下させること、及び、該工程における溶媒中の過酸化物量を0.1%以下に調整し、π共役系ポリマーの電子スピン濃度を特定範囲とすれば有機光電気変換素子の電気的特性が低下すること、特に暗電流が上昇することを回避できることを見いだしたことに基づくものである。
そして、工程(I)で使用される溶媒中の過酸化物量が一定の値以下であると、工程前後の電子スピン濃度の変化率及び工程後の電子スピン濃度を低減しやすいため、有機光電変換素子における暗電流の上昇及びEQE(外部量子効率)の低下を抑制しやすいことが説明され、このことが、実施例及び比較例で具体的に裏付けられている。
(b)これに対して、上記aのとおり、甲3には、使用するクロロベンゼン中の過酸化物含有量について記載も示唆もされておらず、これを高速液体クロマトグラフィーで測定される相対面積比で0.1%以下とすることや、これにより、有機光電変換素子における暗電流の上昇及びEQEの低下を抑制することについても記載も示唆もされていないのだから、甲3発明において、クロロベンゼン中の過酸化物含有量を上記所定の値以下とすることは何ら動機付けられない。
また、甲1、2、参考資料1~4のいずれをみても、甲3発明において、クロロベンゼン中の過酸化物含有量を高速液体クロマトグラフィーで測定される相対面積比で0.1%以下とすることが動機付けられるという根拠は見出せない。
よって、相違点5に係る事項は当業者が容易に想到しうるものではない。
(イ)したがって、相違点6、7について検討するまでもなく、本件発明1は甲3発明ではないし、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をし得たものでもない。
エ 申立人の主張について
申立人は、上記2(1)エと同様の主張をするが、これを採用できないことも、上記2(1)エのとおりである。
オ よって、本件発明1は、甲3に記載された発明ではないし、甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(2)本件発明2~5について
本件発明2~5は本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1が甲3に記載された発明ではなく、甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない以上、本件発明2~5も、甲3に記載された発明ではなく、甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3)小括
よって、申立理由2及び3のうち甲3を主引例とするものは、いずれも理由がない。
5 申立理由4(実施可能要件)について
(1)実施可能要件の判断基準
特許法第36条第4項第1号は、発明の詳細な説明には、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果を記載しなければならない旨規定するところ、発明の詳細な説明の記載が、実施可能要件に適合するか否かは、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載があるか否かという観点から判断されるべきであると解される。
(2)本件発明の実施可能要件について
本件明細書には、工程(I)に使用する溶媒中の過酸化物量を0.1%以下に調整することにより、工程(I)及び(II)、特に工程(I)において加熱により過酸化物から発生するオキシラジカルの量を低減し、これによりπ共役系ポリマーのラジカルカチオン化が有効に抑制されること、そのためπ共役系ポリマーの電子スピン濃度を、30×1016Spin/g以下、及び/又はπ共役系粗ポリマーの電子スピン濃度の2.5倍以下とすることが記載されており(【0013】)、具体的な実験データとしても、工程(I)に使用する溶媒中の過酸化物量を0.1%以下とした場合、電子スピン濃度が30×1016Spin/g以下、及び/又はπ共役系粗ポリマーの電子スピン濃度の2.5倍以下のπ共役系ポリマーが製造されることが記載されている(実施例1~3、【表3】)。
また、本件明細書には「工程(I)で使用される溶媒中の過酸化物量を0.1%以下に調整する方法」が複数記載され(【0113】~【0116】)、溶媒中の過酸化物の測定方法も記載されている(【0112】、【0195】、【0196】)
そうすると、本件明細書の記載に接した当業者は、本件発明を実施するに当たっては本件明細書の上記記載を参照して、工程(I)に使用する溶媒中の過酸化物量を0.1%以下にすればよいと理解するということができ、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明を実施することができるといえる。
(3)申立人の主張について
申立人は、上記第3の4のとおり、本件発明1の「溶媒中の過酸化物の含有量」は「達成すべき結果」にすぎないこと、また、本件明細書の【0113】には、「溶媒中の過酸化物の含有量」のレベルの達成手段として、「比較的新しい溶媒(製造後、比較的時間が経過していない溶媒)を使用する方法(i);溶媒中から過酸化物を除去する方法(ii);これらの組み合わせなど」が挙げられているが、このうち「比較的新しい溶媒(製造後、比較的時間が経過していない溶媒)を使用する方法(i)」について、本件明細書には、具体的に製造後どのくらいの時間が経過していない溶媒であれば良いのか何ら示されていないし、「具体的に製造後、どのくらいの時間が経過していない溶媒であれば良いのか」は、溶媒の種類によっても異なると思われるが、「ハロゲン原子含有芳香族系溶媒」についてのこの時間は、本件特許明細書には何ら具体的に示されていないから、「溶媒中の過酸化物の含有量」のレベルの達成手段のうち、「比較的新しい溶媒(製造後、比較的時間が経過していない溶媒)を使用する方法(i)」については、当業者であっても、「ハロゲン原子含有芳香族系溶媒」についての好適な時間を決定するためには過度の実験を要することから、本件発明は実施可能要件違反である旨主張する。
しかしながら、「比較的新しい溶媒(製造後、比較的時間が経過していない溶媒)を使用する方法(i)」について、具体的に製造後どのくらいの時間が経過していない溶媒であれば良いのか示されておらず、また、「ハロゲン原子含有芳香族系溶媒」についてのこの時間が示されていなくても、申立人も指摘する【0113】の記載によれば、仮に製造後ある一定の時間が経過した溶媒の過酸化物含有量が0.1%を超えていれば、より新しい溶媒を用いればよく、また、「溶媒中から過酸化物を除去する方法(ii)」を使用してもよいことは当業者であれば理解できるということができ、「ハロゲン原子含有芳香族系溶媒」についても好適な時間を決定するために過度の試行錯誤を要するということはできない。
よって、上記主張は採用できない。
(4)小括
よって、申立理由4は理由がない。
6 申立理由5(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)本件発明のサポート要件について
ア 本件発明の課題
本件発明の課題は「加熱を伴う精製工程を含んでいても、有機光電変換素子の暗電流の上昇を抑制できるπ共役系ポリマーの製造方法、及び該π共役系ポリマーを用いた有機光電変換素子の製造方法を提供すること」(【0008】)であると認められる。
イ 本件明細書の記載
本件明細書には、「本発明者」が、π共役系粗ポリマーを溶媒に加熱溶解させてポリマー溶液を得る工程を含むπ共役系ポリマーの製造方法において、溶媒中に存在する過酸化物が加熱によりオキシルラジカルを発生し、発生したオキシルラジカルがπ共役系ポリマーから電子を引き抜くことでπ共役系ポリマーがラジカルカチオン化し、これによる電子スピン濃度の上昇により有機光電変換素子の電気的特性を低下させることを見出したこと、及び、該工程における溶媒中の過酸化物量を0.1%以下に調整し、π共役系ポリマーの電子スピン濃度を特定範囲とすれば、上記課題を解決できることを見出したことが記載されている(【0009】)。
さらに、上記5(2)のとおり、本件明細書には、工程(I)に使用する溶媒中の過酸化物量を0.1%以下に調整することにより、工程(I)及び(II)、特に工程(I)において加熱により過酸化物から発生するオキシラジカルの量を低減し、これによりπ共役系ポリマーのラジカルカチオン化が有効に抑制されること、そのためπ共役系ポリマーの電子スピン濃度を、30×1016Spin/g以下、及び/又はπ共役系粗ポリマーの電子スピン濃度の2.5倍以下とすることが記載されており(【0013】)、具体的な実験データとしても、工程(I)に使用する溶媒中の過酸化物量を0.1%以下とした場合、電子スピン濃度が30×1016Spin/g以下、及び/又はπ共役系粗ポリマーの電子スピン濃度の2.5倍以下のπ共役系ポリマーが製造され、これらのポリマーから製造された有機光電変換素子は暗電流が小さいことが記載されている(実施例1~3、【表3】)。
そうすると、本件明細書の記載に接した当業者は、工程(I)において「溶媒中の過酸化物の含有量は、高速液体クロマトグラフィーで測定される相対面積比で0.1%以下であ」ること、「π共役系ポリマーの電子スピン濃度は、30×1016Spin/g以下、及び/又はπ共役系粗ポリマーの電子スピン濃度の2.5倍以下である」ことを特定した本件発明の方法は、上記アの本件発明の課題を解決するものであると理解する。
(3)申立人の主張について
申立人は第3の5のとおり、本件発明1の「比較的新しい溶媒(製造後、比較的時間が経過していない溶媒)を使用する方法(i)」について、本件明細書には、具体的に製造後どのくらいの時間が経過していない溶媒であれば良いのか何ら示されていないから、本件発明1において「溶媒中の過酸化物の含有量」のレベルの達成手段として「溶媒中から過酸化物を除去する方法(ii)」を規定すべきであるところ、本件発明1にはそのような「溶媒中の過酸化物の含有量」のレベルの達成手段が規定されていないから、課題の解決手段を規定しておらず、サポート要件違反であると主張する。
しかしながら、サポート要件の判断基準は上記(1)のとおりであり、これに従えば上記(2)のとおり、本件発明の方法は、本件発明の課題を解決すると理解できる。
申立人は、本件発明1の「比較的新しい溶媒(製造後、比較的時間が経過していない溶媒)を使用する方法(i)」について、本件明細書には、具体的に製造後どのくらいの時間が経過していない溶媒であれば良いのか何ら示されていないから、本件発明1において「溶媒中の過酸化物の含有量」のレベルの達成手段として「溶媒中から過酸化物を除去する方法(ii)」を規定すべきであると主張するが、上記(2)のとおり、工程(I)において「溶媒中の過酸化物の含有量は、高速液体クロマトグラフィーで測定される相対面積比で0.1%以下であ」ることは課題を解決するために必要であるとはいえるものの、「溶媒中の過酸化物の含有量」が、「高速液体クロマトグラフィーで測定される相対面積比で0.1%以下であ」る溶媒の調製方法が課題を解決するか否かを左右するとは解されないから、当該主張は失当である。
第5 まとめ
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1~5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-701265