特許異議申立
2023-701245
カテキン類由来の苦味が軽減された飲料
- 審判番号
- 2023-701245
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-031084
- 登録番号
- 7296742
- 請求日
- 2023年11月27日
- 審決日
- 2024年02月29日
- 公報発行日
- 2024年03月29日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】サントリーホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】山本 修
- 【権利者代理人】宮前 徹
- 【権利者代理人】松尾 淳一
- 【権利者代理人】中村 充利
- 【異議申立人】鈴木 多香子
- 審判長/審判官
- 審判長 植前 充司
- 審判官 天野 宏樹
- 審判官 加藤 友也
- 分類
- P1652.121-Y (A23L) / P1652.537-Y (A23L) / P1652.536-Y (A23L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第2条第3項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7296742号発明「カテキン類由来の苦味が軽減された飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7296742号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7296742号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~6に係る特許についての出願は、平成31年2月22日の出願であって、令和5年6月15日にその特許権の設定登録(請求項の数6)がされ、同年同月23日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対して、同年11月27日に特許異議申立人鈴木多香子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1~4)がなされたものである。
第2 本件発明について
本件特許の請求項1~4に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明4」という。まとめて、「本件発明」ということもある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
なお、以下において、隅付き括弧は「[ ]」と表記した。
「[請求項1]
カテキン類を1~120ppm、フェネチルアルコールを0.4ppb以上含有し、pHが5.0~8.0である、紅茶抽出物を含有する飲料。
[請求項2]
Brixが1以下である、請求項1に記載の飲料。
[請求項3]
前記飲料が、カテキン類の含有量が100ppm以下の容器詰飲料である、請求項1または2に記載の飲料。
[請求項4]
フェネチルアルコール含有量/カテキン類含有量が0.00004以上である、請求項1~3のいずれかに記載の飲料。」
第3 特許異議申立理由の概要
申立人は、証拠方法として下記(4)に示す甲第1号証~甲第7号証(以下、それぞれ「甲1」~「甲7」のようにいう。)を提出し、概略、以下の特許異議申立理由を主張している。申立理由の番号は当審が仮に付与した。
(1)理由1(甲1~甲4に基づく進歩性欠如)
本件発明1~4は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲1~甲4に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(2)理由2(サポート要件違反)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、本件発明1~4についての特許は同法同条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである(甲5~甲7参照)。
本件明細書には、フェネチルアルコールを0~5ppbの範囲で含有した飲料に関する試験結果が記載されるだけであるから、本件発明1はフェネチルアルコールを0.4ppb~5ppbの範囲で含有する飲料において、カテキン類由来の苦味を軽減する効果が得られると理解できるに止まる。また、フェネチルアルコールは苦味を有する成分であるから(甲5)、本件発明1の飲料におけるフェネチルアルコールの含有量が多い場合は、本件発明1の課題である苦味軽減効果を損ない、飲みにくくすることは自明である。そして、飲みやすい飲料を提供することは当然の課題である。よって、本件発明1においてフェネチルアルコール含有量が5ppbを超える飲料については、本件発明1の課題を解決できると当業者は認識することができない。本件発明1に従属する本件発明2~4も同様である。
(3)理由3(実施可能要件違反)
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に適合するものではなく、本件発明1~4についての特許は同法同条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである(甲5~甲7参照)。
本件明細書の段落[0012]には「フェネチルアルコールの含有量が5ppbを超えると、飲料自体の味が損なわれるおそれがある」と記載され、本件明細書の実施例2においてはフェネチルアルコールを最大5ppbまで含有したサンプルを用いて苦味軽減効果を確認した感応評価結果を開示するだけであって、5ppbを超える範囲では、カテキン由来の苦味を軽減できたとしても、本件明細書の記載に基づいて、飲料の味が損なわれることのない実用的な飲料を提供できないことは明らかである。よって、本件明細書は、フェネチルアルコールの含有量の上限が規定されていない本件発明1~4を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。
(4)証拠方法
甲1:特開2017-195782号公報
甲2:特開2016-15924号公報
甲3:川井英雄ほか4名,「紅茶浸出液に添加したビタミンCに及ぼす加熱殺菌の影響」,日本食品工業学会誌,社団法人日本食品科学工学会,1994年7月,第41巻,第7号,p.493~497
甲4:特開2003-102385号公報
甲5:米元俊一,「本格焼酎の香味成分と美味しさ」,日本醸造協会誌,公益財団法人日本醸造協会,2017年2月,第112巻,第2号,p.96~107
甲6:特願2019-31084号に係る令和4年7月28日付け拒絶理由通知書
甲7:特願2019-31084号に係る令和4年9月14日提出の意見書
第4 当審の判断
当審は、申立人が申し立てたいずれの申立理由によっても、本件発明1~4についての特許を取り消すことはできないと判断する。理由は以下のとおりである。
1.理由1(甲1~甲4に基づく進歩性欠如)について
(1)甲号証に記載された事項
ア 甲1に記載された事項
甲1には以下の事項が記載されている。
(1-1)「[請求項1]
ジャスミン茶抽出物および/または緑茶抽出物(抽出物(a))と、紅茶抽出物(抽出物(b))とを含有してなる容器詰め茶飲料であって、茶飲料の総ポリフェノール含量が酒石酸鉄吸光光度法による測定で25~70mg/100mLであり、茶飲料のカテキン含量が40mg/100mL以下であり、かつ、茶飲料のテアフラビン含量が20~1500μg/100mLである、茶飲料。」
(1-2)「[0006]
本発明は、緑茶飲料および/または緑茶をベースにしたジャスミン茶飲料(以下、これらを「緑茶系飲料」ということがある)において、飲み応えを確保しつつ、緑茶系飲料独特の飲み口の引っ掛かりが解消された茶飲料を提供することを目的とする。」
(1-3)「[0016]
本明細書において「紅茶抽出物」とは、紅茶葉を抽出処理に付することにより得られる、抽出物を意味する。本発明に用いられる紅茶抽出物は、紅茶葉からの抽出液それ自体や、その加工品類(例えば、濃縮液体エキス、粉末エキスなど)などが挙げられ、従来、紅茶飲料の製造に用いられている紅茶抽出原料であれば、特に限定されない。紅茶抽出物は、本発明の茶飲料全体の香味設計に合せて適宜選択することができる。
[0017]
ここで、「紅茶葉」とは、ツバキ科の常緑樹である茶樹(Camellia sinensis var.)の芽、葉または茎を萎凋させ、揉捻を行い、発酵させた後に乾燥させたものを意味する。
[0018]
本発明で用いられる紅茶葉は、茶期や、茶葉の形状、産地、品種や種類および等級などは特に限定されず、一般に飲用で市販されている乾燥茶葉を使用することができる。茶葉の種類は、好ましくは、緑茶抽出物との相性が良い点から、スリランカ産茶葉(例えば、ウバ、ディンブラ、キャンディ、ラトナプラ、ギャル、ルフナ)、インド産茶葉(例えば、アッサム、ダージリン、ニルギリ)、ケニア、キーマン、ジャワであり、より好ましくは、ダージリン、ディンブラである。これらは1種類を使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
[0019]
紅茶葉の抽出処理は、特に限定されず、食品加工分野で一般的に用いられている種々の抽出方法を用いることができ、例えば、溶媒抽出、気流抽出、圧搾抽出などが包含され、必要に応じて、沈殿もしくは濾過などの固液分離、濃縮、遠心分離、乾燥(例えば、噴霧乾燥、凍結乾燥)または粉末化などの処理をさらに施してもよい。
[0020]
ここで、溶媒抽出で用いられる抽出溶媒としては、水(例えば、硬水、軟水、イオン交換水、および天然水)が望ましい。抽出溶媒の量は、当業者が適宜選択することができ、特に限定されない。例えば、抽出溶媒が水の場合は、その量は、茶葉の1~100倍量(質量)である。
[0021]
抽出温度および時間は、当業者が適宜選択することができ、特に限定されない。例えば、抽出溶媒が水の場合は、その温度および時間は、10~120℃にて1分~12時間である。
[0022]
抽出処理の一例としては、紅茶葉を、水中に、0~90℃で、1分~24時間浸漬および撹拌し、その後、茶葉を濾過または遠心分離する方法が挙げられる。ここで、抽出時の温度や時間などの条件は、特に限定されず、茶葉の種類や量によって当業者が任意に選択し、かつ設定することができる。」
(1-4)「[0025]
本発明の茶飲料はまた、茶飲料のカテキン含量を40mg/100mL以下とすることができ、好ましくは30mg/100mL以下である。飲みやすさの観点から茶飲料のカテキン含量の下限は20mg/100mLとすることができる。ここで、カテキン含量は、エピカテキン(EC)、エピガロカテキン(EGC)、エピカテキンガレート(ECg)、エピガロカテキンガレート(EGCg)、カテキン(C)、ガロカテキン(GC)、カテキンガレート(Cg)、ガロカテキンガレート(GCg)の8種類のカテキン類の濃度の合計値とすることができる。」
(1-5)「[0039]
実施例1:ジャスミン茶および/または緑茶と紅茶とを配合した飲料の調製とその官能評価
(1)分析方法
本実施例において、総ポリフェノール量、茶カテキン濃度およびテアフラビン濃度を以下の方法に従って測定した。
・・・
[0041]
(ii)茶カテキン濃度の測定
茶カテキン濃度は、試料溶液(サンプル飲料)をメンブレンフィルター(Millex-LG、0.2μm、日本ミリポア社製)で濾過した後、表1に示す条件で高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に供して測定した。
・・・
[0046]
各サンプル飲料の総ポリフェノール量、茶カテキン濃度およびテアフラビン濃度はそれぞれ表3に示す。」
(1-6)「[0047]
(2)サンプル飲料の調製
(i)茶葉抽出液の調製
[ジャスミン茶抽出液]
ジャスミン茶葉100gに70℃に加熱したお湯3000gを加えて、10分間抽出した。その後、抽出した抽出液から茶葉を取り除き、20℃以下に冷却し、ジャスミン茶抽出液を得た。得られたジャスミン茶抽出液の総ポリフェノール量は、66mg/100mLであった。
[0048]
[緑茶抽出液]
緑茶葉100gに70℃に加熱したお湯3000gを加えて、10分間抽出した。その後、抽出した抽出液から茶葉を取り除き、20℃以下に冷却し、緑茶抽出液を得た。得られた緑茶抽出液の総ポリフェノール量は、61mg/100mLであった。
[0049]
[紅茶抽出液]
紅茶葉(ダージリン茶葉またはディンブラ茶葉)100gに80℃に加熱したお湯3000gを加えて、10分間抽出した。その後、抽出した抽出液から茶葉を取り除き、20℃以下に冷却し、ダージリン抽出液、ディンブラ抽出液をそれぞれ得た。得られた紅茶抽出液の総ポリフェノール量は、ダージリン抽出液が72mg/100mL、ディンブラ抽出液が61mg/100mLであった。
[0050]
[ウーロン茶抽出液]
ウーロン茶葉100gに90℃に加熱したお湯3000gを加えて、10分間抽出した。その後、抽出した抽出液から茶葉を取り除き、20℃以下に冷却し、ウーロン茶抽出液を得た。得られたウーロン茶抽出液の総ポリフェノール量は、37mg/100mLであった。
[0051]
(ii)容器詰め茶飲料の作製
(i)で得られた各抽出液が表3に示す総ポリフェノール量を提供するように各抽出液を混合し、必要に応じて水で希釈した。得られた混合液に、さらにL-アスコルビン酸、炭酸水素ナトリウムおよびジャスミン香料を添加した(ジャスミン香料は、最終製品中、ベンジルアルコールが120ppb以上、メチルアンスラニレイトが15ppb以上となるように添加)。例えば、実施例1の飲料サンプル100mLを調製する場合、ジャスミン茶由来の総ポリフェノール量、緑茶由来の総ポリフェノール量、ディンブラ由来の総ポリフェノール量がそれぞれ10mg/100mL、11mg/100mL、4mg/100mLとなるようにジャスミン茶抽出液、緑茶抽出液、ディンブラ紅茶抽出液を測り取って混合し、さらにL-アスコルビン酸、炭酸水素ナトリウムおよびジャスミン香料を添加してから、液量が100mLとなるように水を添加して調製することができる。これらをUHT殺菌した後、PETボトルに充填し、容器詰め茶飲料を作製し、サンプル飲料(比較例1~7および実施例1~15)とした。なお、ジャスミン茶抽出液に加えて緑茶抽出液が配合されたサンプル飲料は緑茶由来の成分が多く含まれ、手淹れした濃いジャスミン茶に相当すると考えられる。」
(1-7)「[0052]
(3)サンプル飲料の官能評価
各サンプル飲料を官能評価に供した。官能評価は訓練されたパネリスト8名により実施した。
[0053]
具体的には、香味評価として「飲み口の引っ掛かり」および「全体の濃さ」について、良い(5点)から悪い(1点)の5段階で評価し、パネリスト8名の平均点が0.5点未満のものを「0」、0.5~1.5点未満を「1」、1.5~2.5未満を「2」、2.5点以上を「3」として点数化し、以下のように判断した。
[0054]
[飲み口の引っ掛かり]
0:塩味があり、飲み口に引っ掛かりがある
1:やや飲み口に引っ掛かりがある
2:飲み口に引っ掛かりがほとんどない
3:飲み口に引っ掛かりがまったくない
[全体の濃さ]
0:非常に薄くて飲みごたえが無い
1:薄くて飲みごたえが無い
2:飲みごたえがある
3:濃くて飲みごたえがある
[0055]
また、総合評価として、香味評価で得られた点数に「0」または「1」があるサンプル飲料については「×」、それ以外を「○」として評価し、「○」の中でも官能評価コメントでネガティブなコメントが上がったサンプル飲料については「△」とした。
[0056]
なお、飲み口の評価に冷たさが影響しないようにサンプル飲料は室温にて評価した。
[0057]
官能評価の結果を表3に示す。
[表3]
[図:0001407885000001.jpg]
[図:0001407885000002.jpg]
[図:0001407885000003.jpg]
」
イ 甲2に記載された事項
甲2には以下の事項が記載されている。
(2-1)「[0012]
茶飲料には、多種多様な香り成分が含まれており、2-フェニルエタノールとリナロールもこれらの香り成分の一種である。後記参考例1において示すように、茶飲料が元々含有する2-フェニルエタノールは、茶葉から淹れたての茶飲料でも600質量ppb以下と微量であるが、2-フェニルエタノールの含有量は嗜好性と正の相関があり、2-フェニルエタノール濃度が高い茶飲料ほど、香りが良好であり、嗜好性も高くなる。このため、飲料の2-フェニルエタノール濃度を高めることにより、茶飲料の香りを改善することができる。しかしながら、2-フェニルエタノールは揮発性が高いため、いわゆるインスタントティーでは、元々2-フェニルエタノールを含有している茶原料を用いた場合であっても、せいぜい数質量ppb程度しか含有されていない。」
(2-2)「[0024]
[2-フェニルエタノール及びリナロール]
本発明に係る茶飲料用組成物の2-フェニルエタノール及びリナロールの含有量は、当該茶飲料用組成物から調製された茶飲料の2-フェニルエタノール及びリナロールの濃度をそれぞれ所望の範囲内とするように、適宜調整される。茶飲料用組成物の2-フェニルエタノールの含有量は、茶原料として2-フェニルエタノールの含有量が多い品種等を選択して用いたり、2-フェニルエタノール自体を原料として用いたり、2-フェニルエタノールを含有する香料等を使用することにより調整することができる。」
(2-3)「[0040]
2-フェニルエタノール又はリナロールの濃度を調整することによって風味、香り、嗜好性を改善する方法は、紅茶のような茶原料に由来する2-フェニルエタノール又はリナロールの濃度が高い茶飲料以外であれば、いずれの茶飲料に対しても実施できる。」
ウ 甲3に記載された事項
甲3には以下の事項が記載されている。翻訳文は申立人による。
(3-1)「実験方法
1.試料
市販品調査用は東京都内で缶詰紅茶飲料12種を購入し試料とした.・・・
3.市販品の調査
缶詰紅茶飲料について総ビタミンC(TVC),還元型ビタミンC(L-アスコルビン酸,AsA),酸化型ビタミンC(デヒドロアスコルビン酸,DAsA)の含有量,BrixおよびpHの測定を行った.」(p.494左欄5~19行)
(3-2)「結果および考察
1.市販缶詰紅茶飲料
市販品のTVC,AsA,DAsA,pHおよびBrixの測定結果をTable1に示した.試料1~9は原材料として砂糖,紅茶,香料,ビタミンCの表示があり,10は紅茶のみが記載されていた.以上の1~10はストレートティーであるのに対し,11と12はフレーバリーティーであり1~9と同じ原材料に酸味料が表示されていた.
・・・Brixは試料1~9では平均値4.9,標準偏差0.3とバラツキが少なかった.試料11と12は9.8と7.2であり,1~9と比較して高いBrixを示していた.pHについては1~10では平均5.56,標準偏差0.27で,pHは5.5前後に設定してあると考えられた.11と12は酸味料が添加されているためにpHは3.6前後であった.」(p.494右欄1~19行)
(3-3)「
[図:0001407885000004.jpg]
」(p.494右下表1)
(3-3の日本語抄訳)「表1 市販の缶詰紅茶飲料の総ビタミンC、L-アスコルビン酸、デヒドロアスコルビン酸、pH及びBrixの含有量
・・・
TVC,総ビタミンC;AsA,L-アスコルビン酸;DAsA,デヒドロアスコルビン酸・・・」
エ 甲4に記載された事項
(4-1)「[請求項1] ダージリン種の紅茶茶葉を熱水抽出して得られる紅茶抽出液とダージリン種以外の品種の紅茶茶葉を熱水抽出して得られる紅茶抽出液とを含み、当該紅茶抽出液の加熱殺菌後のpHをpH調整剤にてpH5.6以上になるように調整したことを特徴とする紅茶飲料。」
(4-2)「[0016]上記の熱水抽出により得られた紅茶抽出液は、まず、そのブリックス糖度を水、紅茶エキス等で調整され、次いで、グラニュー糖等の甘味料で調整する。
[0017]水、紅茶エキス等による紅茶のブリックス糖度の調整は、最終製品において0.175°~0.275°程度となるまで行うことが好ましく、特に0.2°~0.25°が好ましい。また、紅茶エキスでブリックス糖度を調整することも可能であり、この場合には紅茶エキスを紅茶由来の全ブリックスの10~30%程度、特に10~25%程度とすることが妥当である。
[0018]また、グラニュー糖等の甘味料の添加によるブリックス糖度の調整は、紅茶飲料(製品)のブリックス糖度が4.0°~4.6°程度となるように行うことが好ましく、特に4.2°~4.4°が好ましい。
[0019]このようにして、ブリックス糖度の調整された紅茶抽出液は、pH調整剤によりそのpHを調整するが、紅茶抽出液のpHは加熱殺菌により低下するため、予めそれを見込んで調整することが好ましい。また、最終製品がストレート紅茶飲料やミルク風味の紅茶飲料の場合には問題ないが、最終製品がレモン風味となる場合には、加熱殺菌によるpHの低下に加えて、レモン果汁の添加によるpHの低下も見込んでpHを調製することが好ましい。具体的には加熱殺菌後のpHが5.6以上が好ましく、特にpH5.6~6.2が風味面、紅茶由来のオリ防止の点から好ましい。」
(2)甲1に記載された発明
甲1の請求項1(摘記1-1)には、「ジャスミン茶抽出物および/または緑茶抽出物(抽出物(a))と、紅茶抽出物(抽出物(b))とを含有してなる容器詰め茶飲料であって、茶飲料の総ポリフェノール含量が酒石酸鉄吸光光度法による測定で25~70mg/100mLであり、茶飲料のカテキン含量が40mg/100mL以下であり、かつ、茶飲料のテアフラビン含量が20~1500μg/100mLである、茶飲料。」が記載されており、[0039]~[0046](摘記1-4)には、実施例1として、「ジャスミン茶および/または緑茶と紅茶とを配合した飲料の調製とその官能評価」が行われ、各サンプル飲料の総ポリフェノール量、茶カテキン濃度及びテアフラビン濃度が表3に示されたことが記載され、[0047]~[0051](摘記1-5)には、サンプル飲料の具体的な調製手順が記載されているところ、[0049]には、紅茶抽出液としてダージリン抽出液及びディンブラ抽出液を調製したことが記載され、[0052]~[0057][表3](摘記1-6)には、サンプル飲料の配合組成及び官能評価結果が記載されている。そして、表3における実施例1~実施例15の実験データを参照すると、「総ポリフェノール(mg/100mL)」の項目は25(実施例1)~70(実施例2)であり、「茶カテキン(mg/100mL)」の項目は5.60(実施例14)~17.6(実施例7)であり、「テアフラビン(μg/100mL)」の項目は23.2(実施例7)~436(実施例2)であることが読み取れる。
そうすると、甲1には以下の発明が記載されている。
「ジャスミン茶抽出物および/または緑茶抽出物と、紅茶抽出物とを含有してなる容器詰め茶飲料であって、前記紅茶抽出物は、ダージリン抽出液および/またはディンブラ抽出液であり、茶飲料の総ポリフェノール含量が25~70mg/100mLであり、茶飲料の茶カテキン含量が5.60~17.6mg/100mLであり、茶飲料のテアフラビン含量が23.2~436μg/100mLである、茶飲料。」(以下、「甲1発明」という。)
(3)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「紅茶抽出物」及び「茶飲料」は、本件発明1における「紅茶抽出物」及び「飲料」に相当する。また、甲1発明における「茶飲料の茶カテキン含量」は、甲1の[0025](摘記1-3)及び[0042](摘記1-4)の記載を参酌すると、「エピカテキン(EC)、エピガロカテキン(EGC)、エピカテキンガレート(ECg)、エピガロカテキンガレート(EGCg)、カテキン(C)、ガロカテキン(GC)、カテキンガレート(Cg)、ガロカテキンガレート(GCg)の8種類のカテキン類の濃度の合計値」を意味するところ、この化合物群は本件明細書の[0008]における「本明細書において、「カテキン類」とは、カテキン、エピカテキン、ガロカテキン、エピガロカテキン、カテキンガレート、エピカテキンガレート、ガロカテキンガレート及びエピガロカテキンガレートの総称を表す」という記載と一致するから、甲1発明における「茶カテキン」は、本件発明1における「カテキン類」に相当する。
そうすると、両者は、
「カテキン類を含有する、紅茶抽出物を含有する飲料。」
の点で一致し、
相違点1:本件発明1はカテキン類の含有量を「1~120ppm」と特定するのに対し、甲1発明は「5.60~17.6mg/100mL」(56~176ppm)である点
相違点2:本件発明1は「フェネチルアルコールを0.4ppb以上含有」と特定するのに対し、甲1発明はそのように特定されていない点
相違点3:本件発明1は「pHが5.0~8.0である」と特定するのに対し、甲1発明はそのように特定されていない点
で相違する。
そこで、上記相違点について検討する。
イ 相違点2について
事案に鑑みて相違点2について検討する。
(ア)技術常識について
甲2の[0012](摘記2-1)には、2-フェニルエタノール(本件発明1における「フェネチルアルコール」に相当する。)が香り成分の一種であること、茶飲料が元々含有する2-フェニルエタノールは、茶葉から淹れたての茶飲料でも600質量ppb以下と微量であること、及び2-フェニルエタノールは揮発性が高いため、いわゆるインスタントティーでは、元々2-フェニルエタノールを含有している茶原料を用いた場合であっても、せいぜい数質量ppb程度しか含有されていないことが記載され、また、[0024](摘記2-2)には、「飲料用組成物の2-フェニルエタノールの含有量は、茶原料として2-フェニルエタノールの含有量が多い品種等を選択して用いたり、2-フェニルエタノール自体を原料として用いたり、2-フェニルエタノールを含有する香料等を使用することにより調整することができる」と記載されており、[0040](摘記2-3)には、「2-フェニルエタノール又はリナロールの濃度を調整することによって風味、香り、嗜好性を改善する方法は、紅茶のような茶原料に由来する2-フェニルエタノール又はリナロールの濃度が高い茶飲料以外であれば、いずれの茶飲料に対しても実施できる」と記載されているから、フェネチルアルコールは茶原料の品種によって含有量が異なる揮発性の高い香り成分の一種であり、インスタントティーでは元々フェネチルアルコールを含有している茶原料を用いた場合であっても、せいぜい数質量ppb程度しか茶飲料に含有されていないものであること、及び紅茶はそれ以外の茶原料よりフェネチルアルコール又はリナロールの濃度が高いものであることを理解できる。
(イ)甲1発明におけるフェネチルアルコールの含有量について
ここで、甲1の[0049](摘記1-6)には、甲1発明の調製に用いられた紅茶抽出液が、「紅茶葉(ダージリン茶葉またはディンブラ茶葉)100gに80℃に加熱したお湯3000gを加えて、10分間抽出した。その後、抽出した抽出液から茶葉を取り除き、20℃以下に冷却し、ダージリン抽出液、ディンブラ抽出液をそれぞれ得た」ものであることが記載されているが、ダージリン茶葉及びディンブラ茶葉の形状、等級は不明であり、それらからお湯に抽出されたフェネチルアルコールの濃度は不明であり、20℃以下に冷却するまでに、揮発性の高い香り成分であるフェネチルアルコールがどの程度失われたのかも不明である。
また、甲1発明は、甲1の[0047]~[0051](摘記1-6)における茶飲料の作製方法についての記載を参照すると、ジャスミン茶抽出液、緑茶抽出液、紅茶抽出液及びウーロン茶抽出液を調製し、得られた各抽出液が表3に示す総ポリフェノール量を提供するように各抽出液を混合し、必要に応じて水で希釈することにより調製されたというものであるところ、[0057]の[表3](摘記1-7)に記載された各実施例の「ダージリン由来総ポリフェノール(mg/100mL)」及び「ディンブラ由来総ポリフェノール(mg/100mL)」の数値と、[0049]における「得られた紅茶抽出液の総ポリフェノール量は、ダージリン抽出液が72mg/100mL、ディンブラ抽出液が61mg/100mLであった」という記載とを合わせると、甲1発明におけるダージリン抽出液由来の成分は10/72=約0.14倍(実施例7)、ディンブラ抽出液由来の成分は4/61=約0.07倍(実施例1)まで薄められ得るものである。
さらに、紅茶はそれ以外の茶原料よりフェネチルアルコール又はリナロールの濃度が高いとされるものであるから、ジャスミン茶抽出液、緑茶抽出液及びウーロン茶抽出液を混合しても、フェネチルアルコールの濃度は高くならないと解される。
そうすると、甲1発明の調製に用いられた紅茶抽出液は、元々フェネチルアルコールを含有している茶原料を用いた場合であっても、せいぜい数質量ppb程度しか茶飲料に含有されていない可能性があるものであり、甲1発明におけるフェネチルアルコールはその0.14倍ないし0.07倍の濃度まで薄められ得るものであるから、甲1発明がフェネチルアルコールを0.4ppb以上含有するとはいえず、相違点2は実質的な相違点である。
(ウ)フェネチルアルコールの含有量を特定する動機付けについて
上記(ア)に記載したとおり、フェネチルアルコールは茶原料の品種によって含有量が異なる揮発性の高い香り成分であることが知られているが、甲1の[0016]~[0022](摘記1-3)には、「本発明に用いられる紅茶抽出物は、紅茶葉からの抽出液それ自体や、その加工品類(例えば、濃縮液体エキス、粉末エキスなど)などが挙げられ、従来、紅茶飲料の製造に用いられている紅茶抽出原料であれば、特に限定されない」こと、「本発明で用いられる紅茶葉は、茶期や、茶葉の形状、産地、品種や種類および等級などは特に限定されず、一般に飲用で市販されている乾燥茶葉を使用することができる」こと、「紅茶葉の抽出処理は、特に限定されず、食品加工分野で一般的に用いられている種々の抽出方法を用いることができ、例えば、溶媒抽出、気流抽出、圧搾抽出などが包含され、必要に応じて、沈殿もしくは濾過などの固液分離、濃縮、遠心分離、乾燥(例えば、噴霧乾燥、凍結乾燥)または粉末化などの処理をさらに施してもよい」こと、「抽出時の温度や時間などの条件は、特に限定されず、茶葉の種類や量によって当業者が任意に選択し、かつ設定することができる」こと等が記載されているから、甲1には、紅茶葉の品種、等級、抽出条件等に着目し、茶飲料におけるフェネチルアルコールの含有量を0.4ppb以上に特定することを動機付ける記載は見いだせない。
また、甲1の[0006]には、甲1発明の課題が「緑茶飲料および/または緑茶をベースにしたジャスミン茶飲料(以下、これらを「緑茶系飲料」ということがある)において、飲み応えを確保しつつ、緑茶系飲料独特の飲み口の引っ掛かりが解消された茶飲料を提供すること」にあることが記載されているが、甲2~甲4のいずれにもフェネチルアルコールの含有量を0.4ppb以上とすることが緑茶飲料独特の飲み口の引っ掛かりを解消するという課題の解決に寄与することは記載されていないから、甲2~甲4と合わせても、当業者が甲1発明においてフェネチルアルコールの含有量を0.4ppb以上に特定することは動機付けられないといえる。
(エ)申立人の主張について
申立人は申立書第20頁において、「紅茶飲料は、フェネチルアルコールを数質量ppb~600質量ppbの濃度で含有していると理解できる。そうすると、紅茶抽出物を含む甲1発明の茶飲料において、フェネチルアルコールを4ppb以上(当審注:原文のママ)で含有されることは自明の事項である」と主張している。
しかし、上記(イ)に記載したとおり、甲1の記載に基づいて甲1発明がフェネチルアルコールを0.4ppb以上含有するとはいえないから、申立人の主張を採用することはできない。
ウ 本件発明1についてのまとめ
以上のことから、相違点2は実質的な相違点であり、また、甲1発明及び甲1~甲4に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到し得たこととは認められない。
そして、本件発明1は相違点2に係る構成を含む本件発明1の発明特定事項を備えることにより、カテキン類を含有するpH5.0以上の飲料において、飲用時に感じられるカテキン類由来の刺激的な苦味を軽減するという顕著な効果を発揮するものである。
よって、相違点1及び相違点3について検討するまでもなく、本件発明1は甲1発明及び甲1~甲4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件発明2~4について
本件発明2~4は、いずれも請求項1を直接又は間接的に引用し、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるから、本件発明1と同様に判断される。
オ 理由1(甲1~甲4に基づく進歩性欠如)についてのまとめ
以上まとめると、本件発明1~4は、いずれも甲1発明及び甲1~甲4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、理由1(甲1~甲4に基づく進歩性欠如)により本件発明1~4についての特許を取り消すことはできない。
2.理由2(サポート要件違反)について
(1)サポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)本件発明の課題について
本件明細書の[0006]等の記載から見て、本件発明1~4の課題は「カテキン類を含有するpH5.0以上の飲料において、飲用時に感じられるカテキン類由来の刺激的な苦味を軽減すること」にあるものと認められる。
(3)本件明細書の記載事項
本件明細書には、以下の事項が記載されている。
「[技術分野]
[0001]
本発明は、飲料に存在するカテキン類に由来する苦味を軽減することに関する。」
「[背景技術]
[0002]
健康志向の高まりから、近年ポリフェノールの生理効果が注目され、ポリフェノールを豊富に含む飲料に対する需要が増大している。例えば、ポリフェノールの一種であるカテキン類は、コレステロール上昇抑制作用などを有することが知られているため、カテキン類を含む飲料に対するニーズが存在する。しかしながら、カテキン類は特有の苦味や渋味を有することから、飲料が飲みにくくなることがあった。例えば、より飲みやすい飲料を提供するために、アミノ酸やレバウディオサイドを用いて苦味や渋味を低減させる方法が知られている(特許文献1~2)。しかし、pHが5以上の飲料一般に対して広く用いることができる技術は知られていない。」
「[0005]
pH5.0以上の飲料にカテキン類を含有させると、pHが5.0未満の飲料と比較して、カテキン類由来の苦味が一層強く感じられることが本発明者により見いだされた。本発明は、カテキン類を含有するpH5.0以上の飲料において、飲用時に感じられるカテキン類由来の刺激的な苦味を軽減することを目的とする。
[課題を解決するための手段]
[0006]
以上の事情に鑑み、本発明者は、飲料に関し、カテキン類の苦味の軽減に有効な成分を探索した。鋭意検討の結果、フェネチルアルコールが当該苦味の軽減に寄与し得ることを見出した。このような知見に基づいて、本発明を完成させた。
(1)(a)カテキン類を1~500ppm含有し、(b)フェネチルアルコールを0.4ppb以上含有し、(c)pHが5.0~8.0である、飲料。
(2)Brixが1以下である、(1)に記載の飲料。
(3)茶抽出物を含有する、(1)又は(2)に記載の飲料。」
「[0010]
本発明の飲料中のカテキン類の濃度は、1~500ppm、好ましくは5~165ppmであり、より好ましくは7~120ppm、さらに好ましくは10~100ppmである。飲料中のカテキン類の濃度が5ppm以上の場合、飲料における苦味が強く感じられるため、本発明による苦味の軽減効果を得る上で好ましい。また、飲料中のカテキン類の濃度が500ppmを超える場合、本発明による苦味の軽減効果は得られるが、苦味が十分に軽減しないことがある。」
「[0012]
(フェネチルアルコール)
本発明の飲料は、フェネチルアルコールを特定量で含有する。これにより、カテキン類由来の苦味を軽減することができる。本発明の飲料中のフェネチルアルコールの含有量は、0.4ppb以上であり、好ましくは0.4~5ppb、好ましくは0.5~4ppb、より好ましくは0.6~3ppb、さらに好ましくは0.7~2ppbである。飲料中のフェネチルアルコールの含有量が0.4ppbより小さいとカテキン類由来の苦味の軽減効果が不十分になることがある。一方、飲料中のフェネチルアルコールの含有量が5ppbを超えるとフェネチルアルコールの風味が強くなりすぎて飲料自体の味が損なわれるおそれがある。」
「[0016]
(pH)
本発明の飲料のpHは5.0~8.0であり、好ましくは5.5~7.5である。飲料のpHが5.0未満である場合は、飲料中の酸味成分により、苦味がマスキングされることがある。しかし、飲料のpHが5.0以上である場合は、マスキング成分として作用する酸味成分が少ないために苦味が顕著に知覚され得るため、本発明による苦味の軽減効果を得る上で好ましい。飲料のpH調整は、クエン酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、重曹等のpH調整剤を用いて適宜行うことができる。飲料のpHは市販のpHメーターを使用して容易に測定することができる。」
「[0021]
(発明の効果)
本発明によれば、カテキン類由来の苦味が軽減されたpHが5.0以上の飲料を提供することができる。本明細書において「苦味」というときは、飲用時に瞬間的に感じる、舌を刺すような刺激的な苦味を意味する。」
「[0023]
[実施例1]pHの苦味に対する影響
カテキン類として、紅茶抽出物(サンフェノン90LB-OP(太陽化学株式会社;カテキン類70%)を用いた。飲料中のカテキン類濃度が5ppmとなるように水にチャ抽出物を添加し飲料を調製した。クエン酸又は水酸化ナトリウムを用いて飲料のpHを表1に示すように調整した(サンプル1~5)。また、このように調製した飲料に、さらにフェネチルアルコールを1ppbとなるように添加した飲料も調製した。Brixは全ての飲料で1以下であった。
[0024]
それぞれの飲料について、苦味に関する評価を行った。以下の基準に沿って、専門パネル3名が各自で苦味を評価した後、パネル全員で協議して最終的な評価を決定した。
○:苦味をほとんど感じない
△:苦味を少し感じる
×:苦味を強く感じる
結果を表1に示す。フェネチルアルコールを添加していない飲料の評価結果より、カテキン類由来の不快な苦味は、飲料のpHが5.0以上のときに知覚されることがわかった。これらの飲料にフェネチルアルコールを添加すると、不快な苦味が軽減されることが示された。
[0025]
一方、pH3.5の飲料では、カテキン類由来の不快な苦味はあまり問題にならないことがわかった。また、この飲料にフェネチルアルコールを添加しても苦味の強さは変わらないこともわかった。
[0026]
[表1]
[図:0001407885000005.jpg]
」
「[0027]
[実施例2]カテキン類とフェネチルアルコールの含有量の苦味に対する影響
水に紅茶抽出物とフェネチルアルコールを添加し、カテキン類とフェネチルアルコールの濃度を表2の濃度となるように調整し、各飲料を調製した。調製した飲料を500ml容量のPET容器に充填した。調製した飲料のpHは5.9であった。Brixは全ての飲料で1以下であった。
[0028]
調製した飲料の苦味の強さに関して官能評価を行った。専門パネル3名が、カテキン類を1ppm、フェネチルアルコールを添加していない飲料をコントロール(サンプル1)として、以下の基準に沿って評価を行った。3名の専門パネルの点数の平均を算出し、3.0点以下を合格とした。官能評価結果を表2に示した。
5点:コントロールと比較して苦味が強い。
4点:コントロールと同等の苦味がある。
3点:コントロールと比較して、苦味が少ない。
2点:コントロールと比較して、苦味がかなり少ない。
1点:苦味を感じない。
[0029]
[表2]
[図:0001407885000006.jpg]
[0030]
カテキン類を1~500ppm含有する飲料に対して、フェネチルアルコールを0.4ppb以上、0.4~5ppb添加すると、カテキン類に由来する不快な苦味が軽減され、飲みやすくなった。」
(4)サポート要件についての判断
本件明細書の[0006]には、本件特許の発明者がカテキン類の苦味の軽減に有効な成分を探索した結果、フェネチルアルコールが当該苦味の軽減に寄与し得ることを見出したことが記載され、[0012]には本発明の飲料がフェネチルアルコールを0.4ppb以上含有することにより、カテキン類由来の苦味を軽減することができること、及び飲料中のフェネチルアルコールの含有量が0.4ppbより小さいとカテキン類由来の苦味の軽減効果が不十分になることがあることが記載されている。
また、[0010]には本発明の飲料中のカテキン類の濃度は、1~500ppmであること、飲料中のカテキン類の濃度が5ppm以上の場合、飲料における苦味が強く感じられるため、本発明による苦味の軽減効果を得る上で好ましいこと、及び飲料中のカテキン類の濃度が500ppmを超える場合、本発明による苦味の軽減効果は得られるが、苦味が十分に軽減しないことがあることが記載されている。
さらに、[0016]には本発明の飲料のpHは5.0~8.0であること、飲料のpHが5.0未満である場合は、飲料中の酸味成分により、苦味がマスキングされることがあるが、飲料のpHが5.0以上である場合は、マスキング成分として作用する酸味成分が少ないために苦味が顕著に知覚され得るため、本発明による苦味の軽減効果を得る上で好ましいことが記載されている。
加えて、[0021]には、本明細書において「苦味」というときは、飲用時に瞬間的に感じる、舌を刺すような刺激的な苦味を意味すると記載され、[0023]~[0026]の実施例1においては、カテキン類由来の不快な苦味は飲料のpHが5.0以上のときに知覚され、これらの飲料にフェネチルアルコールを添加すると不快な苦味が軽減されることが、苦味に関する三段階の官能評価結果として示されており、[0027]~[0030]の実施例2においては、カテキン類を1~500ppm含有する飲料に対してフェネチルアルコールを0.4ppb以上、0.4~5ppb添加すると、カテキン類に由来する不快な苦味が軽減され、飲みやすくなったことが、苦味に関する五段階の官能評価結果として示されているから、上記[0012]、[0010]及び[0016]の記載が具体例により裏付けられているといえる。
そうすると、当業者は、本件明細書の記載に基づいて、「(a)カテキン類を1~500ppm含有し、(b)フェネチルアルコールを0.4ppb以上含有し、(c)pHが5.0~8.0である、飲料。」の範囲で本件発明の課題が解決されるものと理解することができる。本件発明1は上記範囲に包含されるから、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により、または出願時の技術常識に照らして、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
請求項1を直接又は間接的に引用する本件発明2~4も、本件発明1と同様の理由により、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により、または出願時の技術常識に照らして、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
(5)申立人の主張について
申立人は申立書第22~25頁において、概略、フェネチルアルコールは苦味を有する成分であるから(甲5)、本件発明1の飲料におけるフェネチルアルコールの含有量が多い場合は、本件発明1の課題である苦味軽減効果を損ない、飲みにくくすることは自明であり、飲みやすい飲料を提供することは当然の課題であるから、本件発明1においてフェネチルアルコール含有量が5ppbを超える飲料については、本件発明1の課題を解決できると当業者は認識することができないと主張している。
しかし、上記(2)に記載したとおり、本件発明の課題は「カテキン類を含有するpH5.0以上の飲料において、飲用時に感じられるカテキン類由来の刺激的な苦味を軽減すること」にあるから、フェネチルアルコール含有量が5ppbを超える飲料であっても、カテキン類由来の刺激的な苦味が軽減されるものは発明の課題を解決できるものである。
そして、上記(4)に記載したとおり、本件明細書の[0021]には、本明細書において「苦味」というときは、飲用時に瞬間的に感じる、舌を刺すような刺激的な苦味を意味すると記載され、[0002]にはカテキン類が「特有の苦味や渋みを有する」ことが背景技術として記載され、[0006]及び[0012]にはフェネチルアルコールが「カテキン類の苦味」を軽減するものであることが記載され、実施例1及び2における官能評価も、「カテキン類由来の不快な苦味」を評価したものであるから、当業者は本件明細書の記載に基づいて、pHが5.0~8.0であり、カテキン類を1~500ppm含有する飲料に対してフェネチルアルコールを0.4ppb以上添加すると、カテキン類に由来する不快な苦味が低減されると認識することができ、当該範囲に包含される本件発明1~4は上記課題を解決できるものと認識することができる。
よって、申立人の主張を採用することはできない。
また、申立人は申立書第26~27頁において、本件特許の審査段階における令和4年7月28日付け拒絶理由通知書(甲6)及び令和4年9月14日付け意見書(甲7)を引用し、飲料に添加されるフェネチルアルコール以外の成分の影響を前提とするのであれば、本件特許発明の課題を解決する手段として、構成要件1B(フェネチルアルコールを0.4ppb以上含有)を備える必要がないことになること、及び、フェネチルアルコールの含有量を高くした場合にカテキン類に由来する刺激的な苦味に対する効果が消失せず、カテキン類由来の苦味を軽減できたとしても、フェネチルアルコールの味が強くなり、飲料の味が損なわれることによって飲料に係る発明の課題を解決できないことを主張している。
しかし、上記のとおり、本件発明の課題は「カテキン類を含有するpH5.0以上の飲料において、飲用時に感じられるカテキン類由来の刺激的な苦味を軽減すること」にあり、当業者はpHが5.0~8.0であり、カテキン類を1~500ppm含有する飲料に対してフェネチルアルコールを0.4ppb以上添加するとカテキン類に由来する刺激的な苦味が低減すると認識することができ、フェネチルアルコールの含有量を高くした場合にも当該効果が消失する理由はないと理解するから、本件発明1~4は上記課題を解決できるものといえる。
よって、申立人の主張を採用することはできない。
(6)理由2(サポート要件違反)についてのまとめ
以上のことから、本件発明1~4は、いずれも発明の詳細な説明に記載したものであるといえるから、特許法第36条第6項第1号に適合するものであり、それらの発明についての特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。
よって、理由2(サポート要件違反)により本件発明1~4についての特許を取り消すことはできない。
3.理由3(実施可能要件違反)について
(1)実施可能要件の判断手法
物の発明における実施とは、物の生産、使用等の行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について、実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、その物を生産し、かつ、その物を使用できる程度の記載があれば、実施可能要件を満たすということができる。
(2)本件明細書の記載事項
本件明細書には、上記2.(3)に記載した事項が記載されている。
(3)実施可能要件についての判断
当業者は本件明細書における飲料の原料についての記載及び実施例の記載等に基づいて、カテキン類を含有する紅茶抽出物等を原料として、本件発明1に相当する飲料を生産することができる。また、上記2.(4)における検討を踏まえると、当業者は本件発明1の飲料を、飲用時に感じられるカテキン類由来の刺激的な苦味が軽減された飲料として使用することができると理解することができる。
そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明1の発明特定事項に対応した説明の記載や実施例の記載があるから、当業者が本件発明1を生産し、かつ、本件発明1を使用することができる程度の記載があるといえる。
請求項1を直接又は間接的に引用する本件発明2~4についても、本件発明1と同様の理由により、当業者が本件発明2~4を生産し、かつ、本件発明2~4を使用することができる程度の記載があるといえる。
(4)申立人の主張について
申立人は、申立書の第28頁において、「上記『ウ.サポート要件違反について』で述べたように・・・フェネチルアルコールの含有量が5ppbを超える範囲では、カテキン由来の苦味を軽減できたとしても、本件明細書の記載に基づいて、飲料の味が損なわれることのない実用的な飲料を提供できないことは明らかである」と主張している。
しかし、上記2.(4)における検討を踏まえると、当業者は本件明細書の記載に基づいて、pHが5.0~8.0であり、カテキン類を1~500ppm含有する飲料に対してフェネチルアルコールを0.4ppb以上添加した飲料を、カテキン類に由来する不快な苦味が低減された飲料として使用できるものと認識することができ、フェネチルアルコールの含有量が5ppbを超える範囲であってもカテキン類に由来する刺激的な苦味を低減する効果が消失する理由はないと理解するから、当該範囲に包含される本件発明1~4も、飲用時に感じられるカテキン類由来の刺激的な苦味が軽減された飲料として使用することができるものである。
よって、申立人の主張を採用することはできない。
(5)理由3(実施可能要件違反)についてのまとめ
以上のことから、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1~4を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるといえるから、特許法第36条第4項第1号に適合するものであり、それらの発明についての特許は、同法同条第4項第1号に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。
よって、理由3(実施可能要件違反)により本件発明1~4についての特許を取り消すことはできない。
第5 むすび
以上のとおり、本件発明1~4についての特許は、上記のいずれの特許異議申立理由によっても取り消すことはできない。また、他に、これらの特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2023-701245