特許異議申立
2023-700279
シクロアラニルセリンとエタノール及び/又はプロピレングリコールを含有する飲食品
- 審判番号
- 2023-700279
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-557749
- 登録番号
- 7137478
- 請求日
- 2023年03月14日
- 審決日
- 2023年05月25日
- 公報発行日
- 2023年06月30日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】サントリーホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】山本 修
- 【権利者代理人】宮前 徹
- 【権利者代理人】中西 基晴
- 【異議申立人】鈴木 多香子
- 審判長/審判官
- 審判長 磯貝 香苗
- 審判官 加藤 友也
- 審判官 中村 和正
- 分類
- P1651.121-Y (A23L) / P1651.537-Y (A23L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条6項1号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7137478号発明「シクロアラニルセリンとエタノール及び/又はプロピレングリコールを含有する飲食品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7137478号の請求項1ないし20に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7137478号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし20に係る特許についての出願は、2017年(平成29年)12月18日(優先権主張 平成28年12月21日)を国際出願日とする出願であって、令和4年9月6日にその特許権の設定登録(請求項の数20)がされ、同年同月14日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和5年3月14日に特許異議申立人 鈴木 多香子(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし20)がされたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし20に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし20に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
シクロアラニルセリンと、エタノール及び/又はプロピレングリコールとを含有する飲料であって、
飲料中のシクロアラニルセリン含有量が0.0015~5.0mg/100mLであり、
飲料中のエタノール含有量が0.00080~0.60g/100mLであり、
飲料中のプロピレングリコール含有量が0.00080~0.60g/100mLである、前記飲料。
【請求項2】
前記シクロアラニルセリン含有量が0.0070~2.0mg/100mLである、請求項1に記載の飲料。
【請求項3】
前記エタノール含有量が0.0080~0.12g/100mLである、請求項1又は2に記載の飲料。
【請求項4】
前記プロピレングリコール含有量が0.0080~0.12g/100mLである、請求項1~3のいずれか1項に記載の飲料。
【請求項5】
前記シクロアラニルセリン含有量(mg/100mL)(X)と、前記エタノール含有量(g/100mL)(Y)が、Y≦0.3837×X-0.239及びY≧0.0028×X0.6556を満たす、請求項1~4のいずれか1項に記載の飲料。
【請求項6】
前記シクロアラニルセリン含有量(mg/100mL)(X)と、前記エタノール含有量(g/100mL)(Y)が、Y≦0.2307×X-0.08及びY≧0.0447×X0.4497を満たす、請求項1~5のいずれか1項に記載の飲料。
【請求項7】
前記シクロアラニルセリン含有量(mg/100mL)(X)と、前記プロピレングリコール含有量(g/100mL)(Y)が、Y≦0.2659×X-0.425及びY≧0.0022×X0.551を満たす、請求項1~6のいずれか1項に記載の飲料。
【請求項8】
前記シクロアラニルセリン含有量(mg/100mL)(X)と、前記プロピレングリコール含有量(g/100mL)(Y)が、Y≦0.0533×X-0.25及びY≧0.0045×X0.3495を満たす、請求項1~7のいずれか1項に記載の飲料。
【請求項9】
シクロアラニルセリンが動植物由来ペプチド熱処理物として配合されたものである、請求項1~8のいずれか1項に記載の飲料。
【請求項10】
前記動植物由来ペプチド熱処理物が、大豆ペプチド、茶ペプチド、ホエイペプチド、又はコラーゲンペプチドから得られたものである、請求項9に記載の飲料。
【請求項11】
透明飲料である、請求項1~10のいずれか1項に記載の飲料。
【請求項12】
容器詰めされたものである、請求項1~11のいずれか1項に記載の飲料。
【請求項13】
飲料の製造方法であって、
(a)シクロアラニルセリンを配合して、飲料中のシクロアラニルセリン含有量を0.0015~5.0mg/100mLに調整する工程、並びに、
(b)エタノールを配合して、飲料中のエタノール含有量を0.00080~0.60g/100mLに調整する工程、及び/又は、プロピレングリコールを配合して、飲料中のプロピレングリコール含有量を0.00080~0.60g/100mLに調整する工程、
を含む、前記製造方法。
【請求項14】
工程(a)において調整される、シクロアラニルセリン含有量が0.0070~2.0mg/100mLである、請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
工程(b)において調整される、エタノール含有量が0.0080~0.12g/100mLである、請求項13又は14に記載の製造方法。
【請求項16】
工程(b)において調整される、プロピレングリコール含有量が0.0080~0.12g/100mLである、請求項13~15のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項17】
飲料におけるシクロアラニルセリンの後に引く不快な苦味を低減する方法であって、
(a)シクロアラニルセリンを配合して、飲料中のシクロアラニルセリン含有量を0.0015~5.0mg/100mLに調整する工程、並びに、
(b)エタノールを配合して、飲料中のエタノール含有量を0.00080~0.60g/100mLに調整する工程、及び/又は、プロピレングリコールを配合して、飲料中のプロピレングリコール含有量を0.00080~0.60g/100mLに調整する工程、
を含む、前記方法。
【請求項18】
工程(a)において調整される、シクロアラニルセリン含有量が0.0070~2.0mg/100mLである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
工程(b)において調整される、エタノール含有量が0.0080~0.12g/100mLである、請求項17又は18に記載の方法。
【請求項20】
工程(b)において調整される、プロピレングリコール含有量が0.0080~0.12g/100mLである、請求項17~19のいずれか1項に記載の方法。」
第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和5年3月14日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
1 申立理由1(甲第1号証に基づく進歩性)
本件特許発明1ないし20は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし20に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし20に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
(1)本件特許発明において規定されたシクロアラニルセリン含有量(0.0018~1.8mg/100mL)について、その全範囲にわたって、発明の詳細な説明で発明の効果が裏付けられていない。
(2)本件特許発明において規定されたシクロアラニルセリンについて、その形態等が規定されていない(特に由来等が限定されていない)。しかし、任意の形態であるシクロアラニルセリンについて、発明の詳細な説明で発明の効果が裏付けられていない。
(3)本件特許発明において規定された飲料について、その形態等が規定されていない。しかし、任意の形態である飲料について、発明の詳細な説明で発明の効果が裏付けられていない。
3 証拠方法
甲第1号証:国際公開第2015/194070号
甲第2号証:米国特許出願公開第2016/198750号
甲第3号証:「食品衛生法施行規則及び食品、添加物等の規格基準の一部改正について」、昭和56年6月10日、厚生省
証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむね従った。以下、順に「甲1」のようにいう。
第4 当審の判断
1 主な証拠に記載された事項等
(1)甲1に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項
甲1には、「環状ジペプチド高含有組成物」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。
・「[請求項4]
アミノ酸を構成単位とする環状ジペプチドまたはその塩の総量が0.2×10-2~1.0×103mg/100mLである組成物。
[請求項5]
アミノ酸を構成単位とする環状ジペプチドまたはその塩が、下記(1)~(71)の1つ又は2つ以上の環状ジペプチドまたは塩であり、かつ各々の量範囲を満足する量で含有してなる、請求項4記載の組成物:
(1)シクロトレオニルチロシン又はその塩の含有量:0.40×10-2~0.70×102mg/100mL
・・・(略)・・・
(40)シクロアラニルセリン又はその塩の含有量:0.40×10-2~0.80×102mg/100mL
・・・(略)・・・」
・「発明が解決しようとする課題
[0008]環状ジペプチドについては、生理活性を有するとの報告もあるが、依然として未解明の機能も多いと考えられる。
[0009] 本発明の課題は、好ましい生理作用を有する組成物を提供することにある。」
・「[0036]<態様2>
態様2は、前記環状ジペプチド又はその塩を含有する飲料組成物である。飲料組成物とは、主に飲用用途に用いられる組成物のことである。」
・「[0041] 態様2の組成物は、例えば、公知の飲料組成物を調製する際に、その原材料に前記環状ジペプチド又はその塩を所定量混合して、公知の飲料組成物の製造方法に従って調製してもよく、また、既製の公知の飲料組成物に、前記環状ジペプチド又はその塩を前記所定量となるように添加して、溶解及び/又は懸濁することで調製してもよい。なお、公知の飲料組成物が、前記環状ジペプチド又はその塩を元来含有するものであってもよく、本発明の環状ジペプチドが所定量となるのであれば、適宜配合して調製することができる。
[0042] 態様2の組成物の具体例としては、烏龍茶飲料、紅茶飲料、緑茶飲料、果汁飲料、野菜ジュース、スポーツドリンク、アイソトニック飲料、エンハンスドウォーター、ミネラルウォーター、ニアウォーター、コーヒー飲料、栄養ドリンク剤、美容ドリンク剤、ノンアルコール・ビールテイスト飲料等の非アルコール飲料、ビール、ワイン、清酒、梅酒、発泡酒、ウィスキー、ブランデー、焼酎、ラム、ジン、リキュール類等のアルコール飲料を挙げることができる。また、態様2の組成物には、酸化防止剤、香料、有機酸類、有機酸塩類、無機酸類、無機酸塩類、無機塩類、色素類、乳化剤、保存料、調味料、甘味料、酸味料、ガム、油、ビタミン、アミノ酸、果汁エキス類、野菜エキス類、pH調整剤、品質安定剤等の添加剤を単独で又は併用して配合してもよい。」
イ 甲1に記載された発明
甲1に記載された事項を、特に[請求項4]、[請求項5]、[0036]、[0041]及び[0042]に関して整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1飲料発明」及び「甲1製法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲1飲料発明>
「シクロアラニルセリン又はその塩を0.40×10-2~0.80×102mg/100mLの量範囲を満足する量で含有してなる飲料組成物。」
<甲1製法発明>
「シクロアラニルセリン又はその塩を0.40×10-2~0.80×102mg/100mLの量範囲を満足する量となるように添加して調製する飲料組成物の製造方法。」
(2)甲2に記載された事項
甲2には、「SWEETENER AND SWEETENED COMPOSITIONS INCORPORATING REBAUDOSIDE N」(訳:レバウディオサイドNを組入れる甘味料および甘味料付与組成物)に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、甲2は外国語文献のため、抄訳のみを摘記した。
・「[0101] Reb Nに加えて、任意に他の甘味料、例えば、甘味味料組成物は任意に液体を含むことができる。本明細書において以下に詳述されるような担体、結合剤マトリックス、追加の添加剤など。いくつかの実施形態では、甘味組成物は、以下を含む添加剤を含有する。炭水化物、ポリオール、アミノ酸およびそれらの類似物、スポンジン酸塩、ポリアミノ酸およびそれらの対応する塩、糖酸およびそれらの対応する塩、ヌクレオチド、有機酸、無機酸、有機酸塩および有機塩基塩を含む有機塩、無機塩、苦いトウモロコシ、風味料および風味成分、渋味コーンポンド、タンパク質またはタンパク質加水分解物、界面活性剤、エマルジョン、乳化剤、増量剤、ゴム、抗酸化剤、着色剤、フラボノイド、アルコール、ポリマーおよびそれらの組み合わせ。いくつかの実施形態では、添加剤は、甘味料の経時的および香味プロファイルを改善して、スクロースに類似した味などの好ましい味を有する甘味料組成物を提供するように作用する。」
・「[0104] 特定の実施形態では、ポリオールは、例えば飲料などの甘味入り組成物中に存在する場合、甘味入り組成物の総重量に基づいて、約100ppm~約250,000ppmの濃度を提供するのに有効な量で存在する。他の実施形態では、いくつかの実施形態では、ポリオールは、甘味入り組成物中に存在する場合、甘味入り組成物の総重量に基づいて、例えば、約5,000ppm~約40,000ppmなど、約400ppm~約80,000ppmの濃度を提供するのに有効な量で甘味料組成物中に存在する。」
・「[0126] 好適なアルコール添加剤としては、限定されないが、エタノールが挙げられる。特定の実施形態では、アルコール付加、甘味付けされた組成物(例えば、飲料など)中に存在する場合、甘味付けされた組成物の総重量に基づいて、約625ppm~約10,000ppmの濃度を提供するのに有効な量で甘味料組成物中に存在する。」
・「[0304] 糖菓のベース組成物は、任意選択で、他の人工または天然甘味料、バルク甘味又はこれらの組み合わせを含む。バルク甘味料としては、カロリー化合物、低カロリー化合物、およびノンカロリー化合物が挙げられる。非バルク甘味料の制限的な例としては、スクロース、デキストロース、マルトース、デキストリン、乾燥転化糖、フルクトース、高フルクトースコーンシロップ、レブロース、ガラクトース、コーンシロップ固形物、タガトース、ポリオール(例えば、ソルビトール、マンニトール、キシリット、ラクチトール、エリトリトール、およびマルチット)、水素化デンプン加水分解物、イソマルト、トレハロース、およびそれらの混合物が挙げられる。一般的に、糖菓中に存在するバルク甘味料の量は、糖菓の特定の実施形態に依存して広範囲にわたる。当業者は、バルク甘味料の適切な量を容易に確認するであろう。」
(3)甲3に記載された事項
甲3には、おおむね次の事項が記載されている。
・「第一 改正の要点
一 省令関係
(一) プロピレングリコールを品質保持剤として使用した食品にあっ
ては、プロピレングリコール又は品質保持剤を含む旨の表示をしな
ければならないとされたこと。
・・・(略)・・・
二 告示関係
(一) プロピレングリコールについて
近年、生めん等へのプロピレンレングリコールの添加量が増加し
てきたので、本品の使用基準が次のように定められたこと。
生めん 二%以下
ぎようざ等の皮類 一・二%以下
いかくん製品その他の食品 二%以下
その他の食品 ○・六%以下」(第1ページ第8ないし22行)
2 申立理由1(甲1に基づく進歩性)について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1飲料発明を対比する。
甲1飲料発明における「シクロアラニルセリン又はその塩」は本件特許発明1における「シクロアラニルセリン」に相当し、同様に「飲料組成物」は「飲料」に相当する。
したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「シクロアラニルセリンと、を含有する飲料。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点1-1>
本件特許発明1においては、「エタノール及び/又はプロピレングリコールとを含有する」と特定された上で、「飲料中のエタノール含有量が0.00080~0.60g/100mLであり、飲料中のプロピレングリコール含有量が0.00080~0.60g/100mLである」と特定されているのに対し、甲1飲料発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点1-2>
本件特許発明1においては、「飲料中のシクロアラニルセリン含有量が0.0015~5.0mg/100mLであり」と特定されているのに対し、甲1飲料発明においては、「シクロアラニルセリン又はその塩を0.40×10-2~0.80×102mg/100mLの量範囲を満足する量で含有してなる」と特定されている点。
イ 判断
相違点1-1について検討する。
甲1には、甲1飲料発明において、「エタノール及び/又はプロピレングリコール」を含有させること及びそれらの含有量を所定の数値範囲とすることは記載も示唆もされていない。
そして、他の証拠にも、甲1飲料発明において、「エタノール及び/又はプロピレングリコール」を含有させた上でそれらの含有量を所定の数値範囲することの動機付けとなる記載はない。
したがって、甲1及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、甲1飲料発明において、相違点1-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1の奏する「飲食品中のシクロアラニルセリン特有の後を引く不快な苦味が低減された、良好な味わいを有する飲食品を得ることができる」(本件特許の発明の詳細な説明の【0010】)という効果は、甲1飲料発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
ウ 特許異議申立人の主張について
(ア)特許異議申立人の主張の概要
特許異議申立人は、特許異議申立書において、おおむね以下の主張をしている。なお、摘記に際し、改行、空白行及び文頭のスペースは省略した。
a 主張1
「甲1発明に係る飲料において、「エタノール」を配合し、「飲料中のエタノール含有量が0.00080~0.60g/100mL」となるように調整することは、当業者が容易になし得る設計的事項である。以下、説明する。甲第1号証には、飲料の具体例として、「非アルコール飲料」が挙げられている(【0042】)。ここで、「アルコール飲料」とは「アルコール分一度以上の飲料」(酒税法、第2条第1項)を意味する。また、「エタノール」は「アルコール」に相当する。そうすると、「非アルコール飲料」とは、アルコール分が、1%未満、すなわち、1g/100mL未満の飲料を意味する。よって、甲第1号証には「飲料中のエタノール含有量が0.00080~0.60g/100mL」である飲料の実質的開示がある。さらに、「飲料中のエタノール含有量が0.00080~0.60g/100mL」とすることは、周知技術である(例えば、甲第2号証の【0126】)。また、上記エタノールの配合により、味わいが良好となる点は、周知技術から予測される効果に過ぎない(例えば、甲第2号証の【0101】)。」(特許異議申立書第25ページ)
b 主張2
「甲1発明に係る飲料において、「プロピレングリコール」を配合し、「飲料中のプロピレングリコール含有量が0.00080~0.60g/100mL」となるように調整することは、当業者が容易になし得る設計的事項である。以下、説明する。甲第1号証には、飲料に「甘味料」を配合できることが記載されている(【0042】)。ここで、プロピレングリコール等のポリオールは、甘味料に相当する(例えば、甲第2号証の【0304】)。また、「飲料中のプロピレングリコール含有量が0.00080~0.60g/100mL」とすることは、周知技術である(例えば、甲第2号証の【0104】)。さらに、プロピレングリコールは、食品衛生法施行規則において、食品(生めん、ぎょうざ、いかくん製品以外)以外での使用基準が0.6%以下、すなわち、0.6g/100mL以下である点が定められている(要すれば、甲第3号証を参照。)。なお、食品衛生法における「食品」とは、「全ての飲食物」を意味する(食品衛生法、第4条第1項)。そして、上記プロピレングリコール等の配合により、味わいが良好となる点は、周知技術から予測される効果に過ぎない(例えば、甲第2号証の【0101】)。」(特許異議申立書第25及び26ページ)
(イ)特許異議申立人の主張についての検討
特許異議申立人の上記主張について検討するに、下記のとおり、いずれも採用できない。
a 主張1について
甲1の[0042]には、「ノンアルコール・ビールテイスト飲料等の非アルコール飲料」以外に、「烏龍茶飲料」等のアルコールを全く含まない飲料や「ビール、ワイン、清酒、梅酒、発泡酒、ウィスキー、ブランデー、焼酎、ラム、ジン、リキュール類」等のアルコール含有量が高い飲料も記載されているから、甲1飲料発明における「飲料」が「非アルコール飲料」に限定されているとはいえない。
また、仮に、「非アルコール飲料」がアルコール分1g/100mL未満の飲料を意味するとしても、「非アルコール飲料」がただちに「飲料中のエタノール含有量が0.00080~0.60g/100mL」の飲料を意味する訳ではない。
したがって、甲1に、「飲料中のエタノール含有量が0.00080~0.60g/100mL」である飲料の実質的開示があるとはいえない。
また、甲2から、直ちに「飲料中のエタノール含有量が0.00080~0.60g/100mL」とすることが周知技術であるともいえない。
さらに、「飲料中のエタノール含有量」を「0.00080~0.60g/100mL」とすることにより、「飲食品中のシクロアラニルセリン特有の後を引く不快な苦味が低減され」るという効果が奏されることは、甲1を含め何れの証拠にも記載されておらず、周知技術から予測される効果に過ぎないとはいえない。
よって、主張1は採用できない。
b 主張2について
甲1の[0042]には、「甘味料」等の添加剤を「配合してもよい」旨記載されているが、「甘味料」には多くの物があり、その中から「プロピレングリコール」に着目して、甲1発明に所定量用いることの動機付けとなる記載は、甲1を含め何れの証拠にもない。
また、甲2から、直ちに「飲料中のプロピレングリコール含有量が0.00080~0.60g/100mL」とすることが周知技術であるとはいえない。
したがって、仮に、甲2から、「プロピレングリコール等のポリオール」が甘味料に相当することがいえ、また、甲3から、「プロピレングリコール」の食品での使用基準が0.6g/100mL以下であることがいえたとしても、甲1飲料発明において、「飲料中のプロピレングリコール含有量」を「0.00080~0.60g/100mL」とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
さらに、「飲料中のプロピレングリコール含有量」を「0.00080~0.60g/100mL」とすることにより、「飲食品中のシクロアラニルセリン特有の後を引く不快な苦味が低減され」るという効果が奏されることは、甲1を含め何れの証拠にも記載されておらず、周知技術から予測される効果に過ぎないとはいえない。
よって、主張2も採用できない。
エ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1飲料発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)本件特許発明2ないし12について
本件特許発明2ないし12は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1飲料発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件特許発明13について
ア 対比
本件特許発明13と甲1製法発明を対比する。
甲1製法発明における「シクロアラニルセリン又はその塩」は本件特許発明13における「シクロアラニルセリン」に相当し、同様に「調製する」は「調整する」に、「飲料組成物」は「飲料」に、それぞれ相当する。
したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「飲料の製造方法であって、シクロアラニルセリンを含有するように調整する工程を含む製造方法。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点13-1>
本件特許発明13においては、「(a)シクロアラニルセリンを配合して、飲料中のシクロアラニルセリン含有量を0.0015~5.0mg/100mLに調整する工程」「を含む」と特定されているのに対し、甲1製法発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点13-2>
本件特許発明13においては、「(b)エタノールを配合して、飲料中のエタノール含有量を0.00080~0.60g/100mLに調整する工程、及び/又は、プロピレングリコールを配合して、飲料中のプロピレングリコール含有量を0.00080~0.60g/100mLに調整する工程」「を含む」と特定されているのに対し、甲1製法発明においては、そのようには特定されていない点。
イ 判断
事案に鑑み、相違点13-2について検討する。
相違点13-2は相違点1-1と実質的に同じであるから、その判断も同じである。
すなわち、甲1及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、甲1製法発明において、相違点13-2に係る本件特許発明13の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明13の奏する「飲食品中のシクロアラニルセリン特有の後を引く不快な苦味が低減された、良好な味わいを有する飲食品を得ることができる」という効果は、甲1製法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明13の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明13は、甲1製法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)本件特許発明14ないし16について
本件特許発明14ないし16は、請求項13を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明13の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明13と同様に、甲1製法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)本件特許発明17ないし20について
甲1には、「シクロアラニルセリン」が「後に引く不快な苦み」を有することは記載されておらず、当然上記「苦み」を低減することも記載されていないから、甲1に記載された事項から、本件特許発明17ないし20と対比・判断可能な「飲料におけるシクロアラニルセリンの後に引く不快な苦みを低減する方法」の発明を認定することはできない。
したがって、本件特許発明17ないし20は、甲1に記載された発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(6)申立理由1についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし20は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし20に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由1によっては取り消すことはできない。
3 申立理由2(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
(2)特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第2のとおりである。
(3)サポート要件の判断
本件特許の発明の詳細な説明(以下、「発明の詳細な説明」という。)の【0001】ないし【0007】によると、本件特許発明1ないし12の解決しようとする課題は「飲料中のシクロアラニルセリンの後に引く不快な苦味が低減された、良好な味わいを有する飲料を提供すること」であり、本件特許発明13ないし16の解決しようとする課題は「飲料中のシクロアラニルセリンの後に引く不快な苦味が低減された、良好な味わいを有する飲料の製造方法を提供すること」であり、本件特許発明17ないし20の解決しようとする課題は「飲料中のシクロアラニルセリンの後に引く不快な苦味を低減する方法を提供すること」である(以下、総称して「発明の課題」という。)。
また、発明の詳細な説明の【0008】には「驚くべきことに、本発明者らは一定量のシクロアラニルセリンを含有する飲食品において、当該飲食品中のエタノール及び/又はプロピレングリコール含有量を特定の範囲内に調整することで、シクロアラニルセリンの後に引く不快な苦味が低減されることを見出し、本発明を完成するに至った。」と記載され、同【0009】には、本件特許発明1ないし20に対応する記載がある。
そして、発明の詳細な説明の【0015】には「本発明の飲食品におけるシクロアラニルセリンの含有量は特に限定されないが、シクロアラニルセリンの含有量が多すぎるとシクロアラニルセリンの後を引く不快な苦味が強くなりすぎて、好ましく摂取できなくなる場合がある。本発明の飲食品におけるシクロアラニルセリン含有量の下限値は、飲食品100mLに対して0.0015mg以上、好ましくは0.0018mg以上、より好ましくは0.0070mg以上、さらにより好ましくは0.0073mg以上である。また、本発明の飲食品におけるシクロアラニルセリン含有量の上限値は、飲食品100mLに対して、好ましくは5.3mg以下、より好ましくは5.0mg以下、3.0mg以下、さらにより好ましくは2.0mg以下、特に好ましくは1.8mg以下である。」と記載され、同【0031】には「本発明の飲食品は、エタノール及び/又はプロピレングリコールを含有する。本発明の飲食品におけるエタノール及び/又はプロピレングリコール含有量は特に限定されないが、本発明の飲食品におけるエタノール及び/又はプロピレングリコール含有量が低すぎたり高すぎたりすると、シクロアラニルセリン特有の後に引く不快な苦味の低減効果が得られにくくなる場合がある。そこで、本発明の飲食品におけるエタノール含有量の上限値(当審注:「下限値」の誤記と認める。)は、好ましくは0.00080g/100mL、より好ましくは0.0010g/100mL、さらにより好ましくは0.0080g/100mL、特に好ましくは0.010g/100mLである。また、本発明の飲食品におけるエタノール含有量の上限値は、好ましくは0.60g/100mL、より好ましくは0.50g/100mL、さらにより好ましくは0.12g/100mL、特に好ましくは0.10g/100mLである。」と記載され、同【0032】には「本発明の飲食品におけるプロピレングリコール含有量の上限値(当審注:「下限値」の誤記と認める。)は、好ましくは0.00080g/100mL、より好ましくは0.0010g/100mL、さらにより好ましくは0.0080g/100mL、特に好ましくは0.010g/100mLである。また、本発明の飲食品におけるプロピレングリコール含有量の上限値は、好ましくは0.60g/100mL、より好ましくは0.50g/100mL、さらにより好ましくは0.12g/100mL、特に好ましくは0.10g/100mLである。」と記載され、同【0058】ないし【0076】において、「飲料中のシクロアラニルセリン含有量」が「0.0015~5.0mg/100mL」の範囲内にある「飲料」であって、「飲料中のエタノール含有量」が「0.00080~0.60g/100mL」の範囲内であるか、「飲料中のプロピレングリコール含有量が0.00080~0.60g/100mL」の範囲内である「飲料」は「後に引く不快な苦味」が「低減」されていることを確認している。
そうすると、当業者は、「シクロアラニルセリンと、エタノール及び/又はプロピレングリコールとを含有する飲料であって、飲料中のシクロアラニルセリン含有量が0.0015~5.0mg/100mLであり、飲料中のエタノール含有量が0.00080~0.60g/100mLであり、飲料中のプロピレングリコール含有量が0.00080~0.60g/100mLである飲料」、その製造方法及び「(a)シクロアラニルセリンを配合して、飲料中のシクロアラニルセリン含有量を0.0015~5.0mg/100mLに調整する工程、並びに、(b)エタノールを配合して、飲料中のエタノール含有量を0.00080~0.60g/100mLに調整する工程、及び/又は、プロピレングリコールを配合して、飲料中のプロピレングリコール含有量を0.00080~0.60g/100mLに調整する工程、を含む、飲料におけるシクロアラニルセリンの後に引く不快な苦味を低減する方法」は、発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明1ないし12は、上記発明の課題を解決できると認識できる「飲料」であるか、それをさらに限定したものであり、本件特許発明13ないし16は上記発明の課題を解決できると認識できる製造方法であるか、それをさらに限定したものであり、本件特許発明17ないし20は上記発明の課題を解決できると認識できる「飲料におけるシクロアラニルセリンの後に引く不快な苦味を低減する方法」であるか、それをさらに限定したものである。
したがって、本件特許発明1ないし20は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
よって、本件特許発明1ないし20に関して、特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。
(4)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の申立理由2における主張について検討するに、以下のとおり、いずれも採用できない。
ア 申立理由2の(1)の主張について
当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲は、上記(3)のとおりである。
なお、「シクロアラニルセリン含有量」が「1.8超~5.0mg/100mL」の範囲内の態様が、発明の詳細な説明に記載されていないとしても、「シクロアラニルセリン含有量」が「0.0018~1.8mg/100mL」の範囲内である実施例において、発明の課題を解決できる以上、「シクロアラニルセリン含有量」が「1.8超~5.0mg/100mL」の範囲内の態様においても、程度の差はあれ、発明の課題を解決できると当業者は認識する。
また、「シクロアラニルセリン含有量」が「1.8超~5.0mg/100mL」の範囲内の態様では、発明の課題を解決できないことの具体的な証拠が示されている訳でもない。
したがって、申立理由2の(1)の主張は採用できない。
イ 申立理由2の(2)の主張について
「シクロアラニルセリン」の形態が何であれ、「シクロアラニルセリン」自体の構造は変わらず、その作用・機能も変わらないから、化学合成品や動植物由来ペプチド熱処理物の「シクロアラニルセリン」で発明の課題を解決できる以上、化学合成品や動植物由来ペプチド熱処理物以外の形態の「シクロアラニルセリン」でも、程度の差はあれ、発明の課題を解決できると当業者は認識する。
また、化学合成品や動植物由来ペプチド熱処理物以外の形態の「シクロアラニルセリン」では、発明の課題を解決できないことの具体的な証拠が示されている訳でもない。
したがって、申立理由2の(2)の主張も採用できない。
ウ 申立理由2の(3)の主張について
飲料の形態が何であれ、「シクロアラニルセリン」自体の構造は変わらず、その作用・機能は変わらないから、実施例の形態(「市販品の炭酸飲料又はニアウォーター」)以外の形態の飲料でも、「シクロアラニルセリン」を含有する以上、程度の差はあれ、「後に引く不快な苦み」が生じると考えられるから、発明の課題は存在する。
そして、実施例の形態の飲料で発明の課題を解決できる以上、実施例の形態以外の形態の飲料でも、程度の差はあれ、発明の課題を解決できると当業者は認識する。
また、実施例以外の形態の飲料では、発明の課題が存在しないこと又は発明の課題を解決できないことの具体的な証拠が示されている訳でもない。
したがって、申立理由2の(3)の主張も採用できない。
(5)申立理由2についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし20に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由2によっては取り消すことはできない。
第5 結語
上記第4のとおり、本件特許の請求項1ないし20に係る特許は、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし20に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700279