特許異議申立
2023-701152
カフェイン由来の苦味が軽減された飲料
- 審判番号
- 2023-701152
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-031059
- 登録番号
- 7267768
- 請求日
- 2023年10月30日
- 審決日
- 2024年07月04日
- 公報発行日
- 2024年10月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】サントリーホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】山本 修
- 【権利者代理人】中村 充利
- 【権利者代理人】宮前 徹
- 【権利者代理人】中西 基晴
- 【権利者代理人】鶴喰 寿孝
- 【異議申立人】鈴木 多香子
- 審判長/審判官
- 審判長 淺野 美奈
- 審判官 松本 陶子
- 審判官 植前 充司
- 分類
- P1652.113-YAA(A23L) / P1652.121-YAA(A23L) / P1652.536-YAA(A23L) / P1652.537-YAA(A23L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第2条第3項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7267768号発明「カフェイン由来の苦味が軽減された飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7267768号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。
特許第7267768号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7267768号(以下、この通知において「本件特許」という。)の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、平成31年2月22日の出願であって、令和5年4月24日にその特許権の設定登録(請求項の数6)がされ、同年5月2日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許に対して、令和5年10月30日に特許異議申立人 鈴木 多香子(以下、「特許異議申立人」という。)により、特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし4)がされ、令和6年1月26日付けで取消理由が通知され、同年3月18日に特許権者 サントリーホールディングス株式会社(以下、「特許権者」という。)から意見書が提出されるとともに訂正請求がされ、同年同月28日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、同年4月8日に特許異議申立人から上申書(「書面の副本に記載すべき事項の電磁的方法による提供に係る承諾」に関する上申書)が提出されたものの、その後何ら応答がなかったものである。
第2 訂正の適否について
1 訂正請求の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、「特許第7267768号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~4について訂正することを求める。」というものである。
2 訂正の内容
令和6年3月18日にされた訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すものである。
(1) 訂正事項
特許請求の範囲の請求項1について、訂正前の「カフェインを1~80ppm」との記載を、「カフェインを5~80ppm」と訂正する。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定する請求項2ないし4も同様に訂正する。
(2) 一群の請求項について
訂正前の請求項1ないし4について、請求項2ないし4は、請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定するものであるから、訂正前の請求項1ないし4に対応する訂正後の請求項1ないし4は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
3 訂正の適否についての検討
訂正事項に係る請求項1の訂正は、カフェインの割合を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1に係る請求項1の訂正は、本件特許の明細書の【0022】、【0028】、【0030】の記載からみて、新規事項を追加するものではなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定する請求項2ないし4についても同様である。
4 訂正についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1ないし4に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。また、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明4」を総称し「本件特許発明」ということがある。)は、令和6年3月18日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
カフェインを5~80ppm、フェネチルアルコールを0.4ppb以上含有し、pHが5.0~8.0である、紅茶抽出物を含有する飲料。
【請求項2】
Brixが1以下である、請求項1に記載の飲料。
【請求項3】
カフェインの含有量が50ppm以下である、請求項1または2に記載の飲料。
【請求項4】
前記飲料が容器詰飲料である、請求項1~3のいずれかに記載の飲料。」
第4 特許異議申立人が主張する特許異議申立理由について
特許異議申立人が特許異議申立書において、請求項1ないし4に係る特許に対して申し立てた特許異議申立理由の要旨(下記1ないし3)は、次のとおりである。
1 申立理由1(甲第1号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
2 申立理由2(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
なお、申立理由2の具体的理由は、おおむね次のとおりである。
甲第5号証に記載されるように、フェネチルアルコールが苦みを有する成分であるから、本件特許発明の飲料におけるフェネチルアルコールの含有量が大きい場合は、本件特許発明の課題である苦味軽減効果を損ない、飲みにくくすることは自明である。そのため、本件特許発明においてフェネチルアルコール含有量が5ppbを超える飲料については、本件特許発明の課題を解決できるとは当業者は認識することができない。
よって、本件特許の明細書の記載からは、本件特許発明1における「フェネチルアルコールを0.4ppb以上含有し」のように上限が規定されていない含有量の範囲まで一般化して拡張することができない。
3 申立理由3(実施可能要件)
本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
なお、申立理由3の具体的理由は、おおむね次のとおりである。
本件特許の明細書は、フェネチルアルコール含有量が最大5ppbまで含有したサンプルを用いて苦味軽減効果を確認した官能評価結果を開示するだけであるから、フェネチルアルコールの含有量の上限が規定されていない本件特許発明を実施できる程度に明確且つ十分に記載されたものではない。
4 証拠方法
・甲第1号証:特開2008-113569号公報
・甲第2号証:特開2016-15924号公報
・甲第3号証:川井秀雄、他4名、「紅茶浸出液に添加したビタミンCに及ぼす加熱殺菌の影響」、日本食品工業学会誌、第41巻、第7号、第493頁~第497頁、1994年7月発行
・甲第4号証:特開2003-102385号公報
・甲第5号証:米元俊一、「本格焼酎の香味成分と美味しさ」、日本醸造協会誌、第112巻、第2号、第96頁~第107頁、2017年2月発行
・甲第6号証:特願2019-031059号に係る令和4年7月29日付の拒絶理由通知
・甲第7号証:特願2019-031059号に係る令和4年9月14日提出の意見書
第5 令和6年1月26日付けで特許権者に通知した取消理由について
令和6年1月26日付けで特許権者に通知した取消理由は、次の1ないし2のとおりである。
なお、取消理由には、上記第4の特許異議申立理由のうち、申立理由1が包含される。
1 取消理由1(新規性)
本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
2 取消理由2(進歩性)
本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
第6 当審の判断
以下のとおり、当審は、取消理由及び申立理由は何れもその理由がないものと判断する。
1 令和6年1月26日付け取消理由通知で特許権者に通知した取消理由(取消理由1及び2(甲第1号証を主たる証拠とする新規性・進歩性))についての判断
(1) 甲第1号証の記載事項等
ア 甲第1号証の記載事項
甲第1号証には、「茶飲料」に関し、次の記載がある。
「【請求項1】
タンニン及びカフェインを含有し、タンニン含有量/カフェイン含有量の比が30以上であることを特徴とする茶飲料。
【請求項2】
タンニン含有量は20~60mg/100mlの範囲にある、請求項1に記載の茶飲料。
【請求項3】
カフェイン含有量は2mg/100ml以下の範囲にある、請求項1又は2に記載の茶飲料。
【請求項4】
超臨界抽出により脱カフェイン処理をした茶葉の抽出液を用いる、請求項1~3のいずれか一項に記載の茶飲料。
【請求項5】
不発酵茶、半発酵茶、発酵茶及びこれらの混合物から選択された茶葉の抽出液を用いる、請求項1~4のいずれか一項に記載の茶飲料。
【請求項6】
密封容器に充填された、請求項1~5のいずれか一項に記載の茶飲料。」
「【技術分野】
【0001】
この発明は、タンニン及びカフェインを含有する茶飲料に関するものであり、特にかかる茶飲料のカフェイン含有量の低減を図る。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1及び2に記載された技術のように茶抽出液にカテキン類を高い含有量で含む茶抽出物を添加する場合には、カフェイン自体の含有量は変化しないことから、依然としてカフェイン摂取を望んでいない人たちの飲用には不適当であり、これを回避するために茶葉の使用量や茶葉からの抽出率を低くした茶抽出液に茶抽出物を添加すると茶本来の香味が損なわれるという問題があった。また、有機溶媒抽出を用いた茶抽出物は安全上の問題があることなどにも関係するが、古くから親しまれている止渇飲料としての茶飲料に、一般的に配合される酸化防止剤やpH調整剤、嗜好性を高める一部の素材以外の茶抽出物などを添加することは、好ましく思われない傾向にある。また、特許文献3に記載された技術のように茶抽出液からカフェインを吸着除去する場合には、同時に他の成分も吸着除去されることから、やはり茶本来の香味を損なうという問題があった。
【0010】
この発明は、従来技術が抱えるこのような問題点を解決することを課題とするものであり、その目的は、茶本来の香味を損なうことなくカフェインの含有量を低減した茶飲料を提供することにある。」
「【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、カフェイン含有量を低減しながらも、タンニン含有量を確保することで、茶本来の香味に優れた低カフェイン茶飲料を提供することが可能となる。」
「【0019】
カフェインの安全許容上限摂取量については必ずしも明確ではないが、高齢者、乳幼児及び妊産婦に関しては、極力摂取を控えることが望ましいとされている。また、コーヒーに関しては、コーヒー飲用の表示に関する公正競争規約に、カフェインを90%以上除去したコーヒー豆についてはカフェインレスコーヒーと表示することが定められており、これは飲用に供するコーヒーの状態で約2mg/100ml以下のカフェイン含有量範囲に相当する。これらの諸点に鑑み、高齢者、乳幼児及び妊産婦であっても安心して飲用できるように、この発明に従う茶飲料では、カフェイン含有量を2mg/100mlとすることが好ましい。」
「【0023】
原料として用いる茶葉は、煎茶、玉露、かぶせ茶、玉緑茶、番茶、ほうじ茶、てん茶などの緑茶類(不発酵茶)、包種茶、烏龍茶などの半発酵茶、紅茶(発酵茶)、またはこれらをブレンドしたものを用いることができる。茶葉の抽出温度は低温でも良いが、タンニンをより効率的に回収するには50~100℃の温水がより好ましい。
【0024】
また、この発明に従う茶飲料は、茶葉からの茶抽出液をそのまま又は水で希釈したものとすることもできるが、保存時の安定性を高めるために酸化防止剤やpH調整剤等の一般的な茶飲料の製造に用いられている添加物を加えてもよく、さらに嗜好性を高めるために果汁、野菜汁、糖類、糖アルコール、甘味料、酸味料、香料等を加えてもよい。
【0025】
さらに、得られた茶飲料を密封容器に充填することが好ましい。これにより、茶飲料の酸化と香気成分の揮発が抑制され、長期間にわたり茶本来の香味を維持した低カフェインの茶飲料を簡便に提供することが可能となるからである。かかる密封容器としては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)ボトル、アルミ製又はスチール製の缶、紙容器、ポリエチレンバッグ、ガラス瓶等を用いることができる。」
「【0031】
(実施例4)
91℃の温純水1400gに、超臨界抽出を用いた脱カフェイン処理によりカフェイン含量を0.06%に低減させた紅茶葉45gを投入し、4分間撹拌抽出した。紅茶の抽出液は、金属メッシュを用いたろ過処理を行った後、冷却し、遠心分離機を使用して残茶葉を除去し、さらにクリームダウン防止のためにタンナーゼ処理を行った。その後、最終タンニン量を約45mg/100mlに合わせるために、メスアップに使用する茶抽出液の量を調整し、この抽出液に対して純水を加えて10Lにメスアップするとともに、ビタミンCを適量加え、重曹でpH調整を行った。また砂糖4%と紅茶香料を加えた。この液を138℃で30秒間の加熱殺菌を行い、PETボトルに充填し実施例4の茶飲料を得た。」
「【0039】
【表2】
[図:0001415293000001.jpg]
」
イ 甲第1号証に記載された発明
上記アの記載、特に実施例4について整理すると、甲第1号証には次の発明が記載されているものと認める。
「カフェイン含有量が0.22mg/100mlであり、紅茶の抽出液を含有する茶飲料であって、ビタミンCを含み、重曹でpH調整が行われ、砂糖を4%と紅茶香料を添加したものであり、PETボトルに充填された、茶飲料。」(以下、「甲1発明」という。)
(2) 対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「紅茶の抽出液」、「茶飲料」は、それぞれ、本件特許発明1の「紅茶抽出物」、「飲料」に相当する。
してみると、両者は、
「紅茶抽出物を含有する飲料。」
で一致し、次の点で一応相違する。
(相違点1-1)
飲料において、本件特許発明1は「カフェインを5~80ppm」含有することを特定するのに対し、甲1発明にはそのような特定がない点。
(相違点1-2)
飲料において、本件特許発明1は「フェネチルアルコールを0.4ppb以上含有」することを特定するのに対し、甲1発明にはそのような特定がない点。
(相違点1-3)
飲料において、本件特許発明1は「pHが4.0~8.0である」と特定するのに対し、甲1発明にはそのような特定がない点。
上記相違点について検討する。
・相違点1-1について
甲1発明の茶飲料のカフェイン含有量は「0.22mg/100ml」、すなわち、「2.2ppm」であるから、相違点1-1は実質的な相違点である。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明ではない。
また、甲第1号証及び他の全ての証拠の記載をみても、甲1発明においてカフェイン含有量を増大させて、5~80ppmとする動機付けがない。
よって、甲1発明において、相違点1-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たことではない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は、いずれも、本件特許発明1の発明特定事項のすべてを有するものである。
そして、上記アのとおり、本件特許発明1は、甲1発明ではなく、また、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件特許発明2ないし4も、甲1発明ではなく、また、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3) 取消理由1及び2についてのまとめ
上記(2)のとおりであるから、取消理由1及び2の理由では、本件特許発明1ないし3に係る特許を取り消すことができない。
2 令和6年1月26日付け取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1) 申立理由3(サポート要件)について
ア サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
イ 特許請求の範囲の記載
上記第3のとおりである。
ウ サポート要件についての判断
本件特許発明の課題(以下、「発明の課題」という。)は、「カフェインを含有するpH5.0以上の飲料において、飲用時に感じられるカフェイン由来の刺激的な苦味を軽減すること」(【0004】)である。
そして、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、「本発明者は、飲料に関し、カフェイン由来の苦味の軽減に有効な成分を探索した。鋭意検討の結果、フェネチルアルコールが当該苦味の軽減に寄与し得ることを見出した」(【0005】)との記載、「本発明の飲料中のカフェインの濃度は、1~150ppmであり、好ましくは1~100ppm、より好ましくは1~80ppm、さらに好ましくは1~50ppmである。飲料中のカフェインの濃度が1ppm以上の場合、飲料における苦味が強く感じられるため、本発明による苦味の軽減効果を得る上で好ましい。また、飲料中のカフェイン濃度が150ppmを超える場合、本発明による苦味の軽減効果は得られるが、苦味が十分に軽減しないことがある」(【0009】)との記載、「本発明の飲料は、2-Phenylethanol(以下、本明細書では「フェネチルアルコール」という)を特定量で含有する。これにより、カフェイン由来の苦味を軽減することができる。本発明の飲料中のフェネチルアルコールの含有量は、0.4ppb以上であり、好ましくは0.4~5ppb、好ましくは0.5~4ppb、より好ましくは0.6~3ppb、さらに好ましくは0.7~2ppbである。飲料中のフェネチルアルコールの含有量が0.4ppbより小さいとカフェイン由来の苦味の軽減効果が不十分になることがある。一方、飲料中のフェネチルアルコールの含有量が5ppbを超えるとフェネチルアルコールの風味が強くなりすぎて飲料自体の味が損なわれるおそれがある」(【0011】)との記載、「本発明の飲料のpHは5.0~8.0であり、好ましくは5.5~7.5である。飲料のpHが5.0未満である場合は、飲料中の酸味成分により、苦味がマスキングされることがある。しかし、飲料のpHが5.0以上である場合は、マスキング成分として作用する酸味成分が少ないために苦味が顕著に知覚され得るため、本発明による苦味の軽減効果を得る上で好ましい」(【0015】)との記載があり、効果を検証した具体的な実施例の記載もある。
これらの記載に接した当業者であれば、飲料において、カフェインの濃度は、1~150ppmであり、フェネチルアルコールの含有量は、0.4ppb以上であり、pHは5.0~8.0である、との特定事項を満たすことにより、発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明1ないし4はいずれも、上記の発明の課題を解決できると認識できる特定事項のすべてを有しさらに限定するものであるから、当然、発明の課題を解決できると認識できる。
よって、本件特許発明1ないし4はいずれも、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合する。
エ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、上記第4 2のとおり、フェネチルアルコールの含有量が大きい場合には、フェネチルアルコール由来の苦味が強くなるため、発明の課題を解決することができない旨主張する。
しかしながら、本件特許の発明の課題は、上記ウのとおり、「カフェインを含有するpH5.0以上の飲料において、飲用時に感じられるカフェイン由来の刺激的な苦味を軽減すること」である。そして、当業者であれば、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載から、フェネチルアルコールを添加することで、「カフェイン由来の刺激的な苦味を軽減する」との定性的な効果が得られる(すなわち、発明の課題を解決できる)ことを認識することができるといえる。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
オ 申立理由3についてのまとめ
上記ウ及びエのとおりであるから、申立理由3の理由では、本件特許発明1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
(2) 申立理由4(実施可能要件)について
ア 実施可能要件の判断基準
本件特許発明1ないし4は、上記第3のとおり、「物」の発明であるところ、物の発明における実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、例えば、明細書等にその物を生産することができる具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその物を生産することができるのであれば、実施可能要件を満たすと言うことができる。
イ 実施可能要件についての判断
本件特許の明細書の発明の詳細な説明には「本発明は、飲料に存在するカフェインに由来する苦味を軽減することに関する」(【0001】)との記載、「本発明は、カフェインを含有するpH5.0以上の飲料において、飲用時に感じられるカフェイン由来の刺激的な苦味を軽減することを目的とする」(【0004】)との記載、カフェイン源及び濃度(【0008】ないし【0009】)、フェネチルアルコール源及び濃度(【0011】ないし【0014】)、pHの範囲と調製法(【0015】)、飲料の種類及び調製法(【0018】ないし【0019】)の記載があり、具体的な実施例の記載もある。
これらの記載を総合すれば、本件特許発明1ないし4に関して、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、当業者が実施できる程度に記載されているものといえる。
ウ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、上記第4 3のとおり、「本件特許の明細書は、フェネチルアルコール含有量が最大5ppbまで含有したサンプルを用いて苦味軽減効果を確認した官能評価結果を開示するだけであるから、フェネチルアルコールの含有量の上限が規定されていない本件特許発明を実施できる程度に明確且つ十分に記載されたものではない」旨主張するが、実施可能要件は、上記アの判断基準にしたがって判断されるものであり、特許異議申立人の上記主張は、上記イの判断に何ら影響しない。
エ 申立理由4についてのまとめ
上記イ及びウのとおりであるから、申立理由4の理由では、本件特許発明1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
第7 結語
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-701152