特許異議申立
2023-701230
加齢に伴う持続的注意力低下の改善用の組成物
- 審判番号
- 2023-701230
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-115960
- 登録番号
- 7281031
- 請求日
- 2023年11月21日
- 審決日
- 2024年02月29日
- 公報発行日
- 2024年03月29日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社エル・エスコーポレーション
- 【権利者代理人】大池 聞平
- 【異議申立人】尾崎 真実
- 審判長/審判官
- 審判長 加藤 友也
- 審判官 磯貝 香苗
- 審判官 植前 充司
- 分類
- P1651.121-Y (A23L) / P1651.536-Y (A23L) / P1651.537-Y (A23L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条6項1号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第113条第2号、特許法第113条第4号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7281031号発明「加齢に伴う持続的注意力低下の改善用の組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7281031号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7281031号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし8に係る特許についての出願は、
令和 2年10月15日を出願日とする特願2020-173695号(優先権主張 令和1年 10月17日)の一部を、
令和 4年 7月20日に新たな特許出願(特願2022-115960号)としたものであって、
令和 5年 5月17日にその特許権の設定登録(請求項の数8)がされ、
令和 5年 5月25日に特許掲載公報が発行され、
その後、当該特許に対し、
令和 5年11月21日に特許異議申立人 尾崎 真実(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし8に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
【請求項1】
L-エルゴチオネインを有効成分として含有する、加齢に伴う、単純注意力及び持続的注意力に基づく注意力低下の改善用の組成物。
【請求項2】
前記L-エルゴチオネインがタモギダケ抽出物に含有されている、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記L-エルゴチオネインの摂取量が、成人1人1日当たり1mg~30mgである、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
タモギダケ抽出物を有効成分として含有する、加齢に伴う、単純注意力及び持続的注意力に基づく注意力低下の改善用の組成物。
【請求項5】
当該組成物が食品組成物である、請求項1乃至4の何れか1つに記載の組成物。
【請求項6】
前記食品組成物が、健康食品、機能性食品、栄養補助食品、サプリメント、特定保健用食品、病者用食品、又は高齢者用食品である、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
当該組成物が医薬組成物である、請求項1乃至4の何れか1つに記載の組成物。
【請求項8】
当該組成物が、タモギタケエキスからなる組成物、フリーズドライされた組成物、又はスプレードライされた組成物である、請求項1乃至4の何れか1つに記載の組成物。
第3 特許異議申立書に記載した申立理由の概要
令和 5年11月21日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立理由の概要は次のとおりである。
1 申立理由1(甲第1号証に基づく進歩性)
本件特許発明1ないし8は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2(甲第2号証に基づく進歩性)
本件特許発明1ないし8は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
3 申立理由3(甲第3号証に基づく進歩性)
本件特許発明1ないし8は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
4 申立理由4(甲第4号証に基づく進歩性)
本件特許発明1ないし8は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第4号証に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
5 申立理由5(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・本件特許明細書の図11には、コグニトラックス検査で評価した持続的注意力の結果が示されているが、エルゴチオネインを摂取した群と、摂取しなかったプラセボ群において、12週の時点での持続的注力のスコアに差がない。そして、図11の結果からは、エルゴチオネインを含有する組成物が、加齢に伴う、持続的注意力に基づく注意力低下の改善作用を有意に有することを客観的に確認できない。よって、本件特許発明1ないし8は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものではない。
6 申立理由6(実施可能要件)
本件特許の発明の詳細な説明の記載には下記の点で不備があり、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・本件特許明細書の図11には、コグニトラックス検査で評価した持続的注意力の結果が示されているが、エルゴチオネインを摂取した群と、摂取しなかったプラセボ群において、12週の時点での持続的注力のスコアに差がない。そして、図11の結果からは、エルゴチオネインを含有する組成物が、加齢に伴う、持続的注意力に基づく注意力低下の改善作用を有意に有することを客観的に確認できない。したがって、当業者は、エルゴチオネインを含有する組成物を実際に用いた場合に、加齢に伴う、単純注意力及び持続的注意力に基づく注意力低下の改善効果が発揮されるか否かについてさらに検討を要し、当業者にとって過度の負担を強いるものである。
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明1ないし8を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。
7 申立理由7(明確性要件)
本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・本件特許発明1は「加齢に伴う、単純注意力及び持続的注意力に基づく注意力低下の改善用の組成物」であるが、「単純注意力及び持続的注意力に基づく注意力」とは、具体的にどのような注意力や症状であるのか、その外延が不明である。
したがって、本件特許発明1はその範囲が不明確である。本件特許発明2ないし8についても同様に、その範囲が不明確である。
8 証拠方法
甲第1号証:三田村萌恵ほか、タモギタケ含有成分エルゴチオネインによる学習機能向上効果、日本食品科学工学会 第63回大会講演集、2016年、p.95(2Ep1)
甲第2号証:「食品と開発」編集部、認知・ストレス・睡眠改善機能を持つ素材開発、食品と開発、2016年、Vol.51、No.10、p.20~30
甲第3号証:Food and Chemical Toxicology、2012年,Vol.50、p.3902~3911
甲第4号証:FOOD STYLE 21、2017年、Vol.21、No.2、p.21~24
甲第5号証:Archives of Clinical Neuropsychology 21(2006)、645-650
甲第6号証:特願2018-78871に対する令和4年5月27日(起案日)付拒絶理由通知書
甲第7号証:特開2017-218431号公報
甲第8号証:特開2014-193844号公報
甲第9号証:特開2012-56914号公報
甲第10号証:CNS Vital Signs Interpretation Guide、[online]、2003年、CNS Vital Signs LLC.、[令和5年10月30日検索]、インターネット<URL:https://www.cnsvs.com/WhitePapers/CNSVS-BriefInterpretationGuide.pdf>
証拠の表記は特許異議申立書の記載におおむね従った。
以下、順に「甲1」等という。
第4 当審の判断
1 申立理由1(甲1に基づく進歩性)について
(1)甲1の記載事項等
ア 甲1の記載事項
甲1には、タモギタケ含有成分エルゴチオネインによる学習機能向上効果について、次の記載がある。
[図:0001407881000001.jpg]
イ 甲1に記載された発明
上記アより、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。
<甲1発明>
「タモギダケ含有成分エルゴチオネインによる学習機能向上のための、タモギダケエキス末を含む組成物。」
(2)検討
ア 本件特許発明1についての対比・判断
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明における「エルゴチオネイン」は、本件特許発明1における「L―エルゴチオネイン」に相当する。
甲1発明における「学習機能向上のため」の「タモギダケ含有成分エルゴチオネイン」は、本件特許発明1における「有効成分として含有する」「L-エルゴチオネイン」に相当する。
そうすると、本件特許発明1と甲1発明との一致点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「L―エルゴチオネインを有効成分として含有する、組成物。」
<相違点1-1>
本件特許発明1は、「加齢に伴う、単純注意力及び持続的注意力に基づく注意力低下の改善用」との特定を有するのに対し、甲1発明は、そのような特定がない点。
相違点1-1について検討する。
甲1及び他の全ての証拠をみても、甲1発明の組成物が、加齢に伴う、単純注意力及び持続的注意力に基づく注意力低下の改善用に適するとの記載はなく、示唆もない。
特許異議申立人は特許異議申立書(第26頁第2~19行)において、「甲第1~4号証には、エルゴチオネインが神経新生作用や神経保護作業を有することや、脳機能改善、学習機能改善に有効であることが記載されている。そして、甲第6号証において認定されたとおり、単純注意力及び持続的注意力が認知機能の一部であることは、本件出願時において技術常識であった(必要があれば、甲第5号証、甲第10号証を参照されたい)。また、甲第4号証の図1には、エルゴチオネインの機能として、老化促進動物における記憶障害の抑制が記載されているため、エルゴチオネインが加齢に伴う認知機能の低下抑制に有効であることも、本件出願時に公知であった。さらに、本件出願時には、単純注意力、持続的注意力等の認知機能の評価方法としてコグニトラックス試験も周知であった(甲第10号証)。従って、学習機能等の認知機能改善効果が知られているエルゴチオネインを摂取させて、コグニトラックス試験を行い、学習機能以外の認知機能が改善されるかを確認することも、当業者であれば容易であった。以上の理由により、当業者は、甲第1~4号証に記載された脳機能改善等のためのエルゴチオネインを含む組成物を、本件出願時の技術常識に基づき(必要があれば、甲第5号証、甲第10号証及び甲第4号証の記載事項を組み合わせて)、加齢に伴う、単純注意力及び持続的注意力に基づく注意力低下の改善のために用いることに容易に想到することができた。」と主張している。
しかしながら、単純注意力及び持続的注意力は認知機能の一部を構成する項目であること、認知機能の試験方法であるコグニトラックス試験の項目に単純注意力及び持続的注意力があること、エルゴチオネインが老化促進動物における記憶障害の抑制に有効である可能性があること、が甲6、甲10、甲4に示されているとしても、甲1発明における、L-エルゴチオネインを有効成分として含む組成物が、「加齢に伴う、単純注意力及び持続的注意力に基づく注意力低下の改善」に寄与することは、いずれの証拠にも示されていないから、甲1発明の組成物を、相違点1-1に係る「加齢に伴う、単純注意力及び持続的注意力に基づく注意力低下の改善用」とすることは、当業者をして容易に想起し得る事項であるとはいえない。
そして、本件特許発明1は、加齢に伴う、単純注意力及び持続的注意力に基づく注意力低下を改善する、という効果を奏するものであり、このような効果は、甲1発明及び他のいずれの証拠からも、予測される範囲のものであるとはいえない。
よって、本件特許発明1は甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 本件特許発明2及び3についての対比・判断
本件特許発明2及び3は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本件特許発明1の発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明1と同様に判断される。
よって、本件特許発明2及び3は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 本件特許発明4についての対比・判断
本件特許発明4と甲1発明とを対比する。
甲1発明における「タモギダケエキス末」は、本件特許発明4における「タモギダケ抽出物」に相当する。
また、甲1発明における「タモギダケ含有成分エルゴチオネインによる学習機能向上のための、タモギダケエキス末」は、本件特許発明4における「有効成分として含有する」「タモギダケ抽出物」に相当する。
そうすると、本件特許発明4と甲1発明との一致点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「タモギダケ抽出物を有効成分として含有する、組成物。」
<相違点1-2>
本件特許発明4は、「加齢に伴う、単純注意力及び持続的注意力に基づく注意力低下の改善用」との特定を有するのに対し、甲1発明は、そのような特定がない点。
相違点1-2は上記アの相違点1-1と同旨であり、同様に判断される。
よって、本件特許発明4は甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
エ 本件特許発明5ないし8についての対比・判断
本件特許発明5ないし8は、請求項1又は請求項4を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本件特許発明1又は本件特許発明4の発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明1又は本件特許発明4と同様に判断される。
よって、本件特許発明5ないし8は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
2 申立理由2(甲2に基づく進歩性)について
(1)甲2の記載事項等
ア 甲2には、認知・ストレス・睡眠改善機能を持つ素材開発について次の事項が記載されている。
[図:0001407881000002.jpg]
[図:0001407881000003.jpg]
(第26頁中欄第19行~右欄第15行)
イ 甲2に記載された発明
上記アより、甲2には次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認める。
<甲2発明>
「脳機能に着目した、タモギ茸由来のエキス粉末で、抗酸化活性の高いエルゴチオネインの含量を1%以上で含有するアミノチオネイン(R)。(当審注:(R)は丸囲みにRで登録商標を表す。)」
(2)検討
ア 本件特許発明1についての対比・判断
本件特許発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明における「タモギ茸由来のエキス粉末で、抗酸化活性の高いエルゴチオネイン」は、本件特許発明1における「L―エルゴチオネイン」に相当する。
また、甲2発明における「脳機能に着目」し、「エルゴチオネインの含量を1%以上で含有するアミノチオネイン(R)」は、本件特許発明1における「L―エルゴチオネインを有効成分として含有する、組成物。」に相当する。
そうすると、本件特許発明1と甲2発明との一致点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「L―エルゴチオネインを有効成分として含有する、組成物。」
<相違点2-1>
本件特許発明1は、「加齢に伴う、単純注意力及び持続的注意力に基づく注意力低下の改善用」との特定を有するのに対し、甲2発明は、そのような特定がない点。
相違点2-1は、上記1(2)アの相違点1-1と同旨であり、同様に判断される。
よって、本件特許発明1は甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 本件特許発明2及び3についての対比・判断
本件特許発明2及び3は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本件特許発明1の発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明1と同様に判断される。
よって、本件特許発明2及び3は、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 本件特許発明4についての対比・判断
本件特許発明4と甲2発明とを対比する。
甲2発明における「タモギ茸由来のエキス粉末」は、本件特許発明4における「タモギダケ抽出物」に相当する。
また、甲2発明における「脳機能に着目し」「タモギ茸由来のエキス粉末で」「エルゴチオネインの含量を1%以上で含有するアミノチオネイン(R)」は、本件特許発明4における「タモギダケ抽出物を有効成分として含有する、組成物。」に相当する。
そうすると、本件特許発明4と甲2発明との一致点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「タモギダケ抽出物を有効成分として含有する、組成物。」
<相違点2-2>
本件特許発明4は、「加齢に伴う、単純注意力及び持続的注意力に基づく注意力低下の改善用」との特定を有するのに対し、甲2発明は、そのような特定がない点。
相違点2-2は上記1(2)アの相違点1-1と同旨であり、同様に判断される。
よって、本件特許発明4は甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
エ 本件特許発明5ないし8についての対比・判断
本件特許発明5ないし8は、請求項1又は請求項4を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本件特許発明1又は本件特許発明4の発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明1又は本件特許発明4と同様に判断される。
よって、本件特許発明5ないし8は、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
3 申立理由3(甲3に基づく進歩性)について
(1)甲3の記載事項等
ア 甲3には、マウスに於けるβ―アミロイドにより誘起される神経損傷へのエルゴチオネインによる保護機能について、次の事項が記載されている。甲3は外国語文献であるため、日本語訳を摘記する。
[図:0001407881000004.jpg]
[図:0001407881000005.jpg]
[図:0001407881000006.jpg]
[図:0001407881000007.jpg]
[図:0001407881000008.jpg]
[図:0001407881000009.jpg]
[図:0001407881000010.jpg]
[図:0001407881000011.jpg]
[図:0001407881000012.jpg]
[図:0001407881000013.jpg]
[図:0001407881000014.jpg]
[図:0001407881000015.jpg]
[図:0001407881000016.jpg]
[図:0001407881000017.jpg]
イ 甲3に記載された発明
上記アより、甲3には次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認める。
「マウスの記憶力及び学習能力の低下に対する保護のためにマウスに投与されたEGT(エルゴチオネイン)」
(2)検討
ア 本件特許発明1についての対比・判断
本件特許発明1と甲3発明とを対比する。
甲3発明における「EGT(エルゴチオネイン)」は、本件特許発明1における「L―エルゴチオネイン」に相当する。
また、甲3発明における「マウスの記憶力及び学習能力の低下に対する保護のため」の「EGT(エルゴチオネイン)」は、本件特許発明1における「L―エルゴチオネインを有効成分」とする構成に相当する。
そうすると、本件特許発明1と甲3発明との一致点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「L―エルゴチオネインを有効成分とする、剤。」
<相違点3-1>
本件特許発明1は、「加齢に伴う、単純注意力及び持続的注意力に基づく注意力低下の改善用」との特定を有するのに対し、甲3発明は、そのような特定がない点。
<相違点3-2>
本件特許発明1は、「組成物」との特定を有するのに対し、甲3発明は、そのような特定がない点。
相違点3-1は、上記1(2)アの相違点1-1と同旨であり、同様に判断される。
よって、その他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明1は甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 本件特許発明2及び3についての対比・判断
本件特許発明2及び3は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本件特許発明1の発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明1と同様に判断される。
よって、本件特許発明2及び3は、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 本件特許発明4についての対比・判断
本件特許発明4と甲3発明とを対比すると、一致点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「剤。」
<相違点3-3>
本件特許発明4は、「タモギダケ抽出物」を有効成分として含有するとの特定を有するのに対し、甲3発明は、「EGT(エルゴチオネイン)」である点。
<相違点3-4>
本件特許発明4は、「加齢に伴う、単純注意力及び持続的注意力に基づく注意力低下の改善用」との特定を有するのに対し、甲3発明は、そのような特定がない点。
<相違点3-5>
本件特許発明4は「組成物」との特定を有するのに対し、甲3発明は、そのような特定がない点。
事案に鑑みて、相違点3-4について検討する。
相違点3-4は上記1(2)アの相違点1-1と同旨であり、同様に判断される。
よって、その他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明4は甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
エ 本件特許発明5ないし8についての対比・判断
本件特許発明5ないし8は、請求項1又は請求項4を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本件特許発明1又は本件特許発明4の発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明1又は本件特許発明4と同様に判断される。
よって、本件特許発明5ないし8は、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
4 取消理由4(甲4に基づく進歩性)について
(1)甲4の記載事項等
ア 甲4の記載事項
甲4には、トランスポーター介在性ブレインフードとしてのエルゴチオネインとして、次の事項が記載されている。
[図:0001407881000018.jpg]
(第21頁上欄 SUMMARY)
[図:0001407881000019.jpg]
(第21頁 中欄)
[図:0001407881000020.jpg]
(第22頁 上欄)
[図:0001407881000021.jpg]
(第22頁 中欄、右欄)
[図:0001407881000022.jpg]
(第23頁 上欄)
イ 甲4に記載された発明
甲4には次の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲4発明>
「神経分化の促進、神経障害の保護、老化促進動物における記憶障害の抑制のためのエルゴチオネイン。」
(2)検討
ア 本件特許発明1についての対比・判断
本件特許発明1と甲4発明とを対比する。
甲4発明における「エルゴチオネイン」は、本件特許発明1における「L―エルゴチオネイン」に相当する。
また、甲4発明における「神経分化の促進、神経障害の保護、老化促進動物における記憶障害の抑制のための」「エルゴチオネイン」は、本件特許発明1における「L―エルゴチオネインを有効成分」とする構成に相当する。
そうすると、本件特許発明1と甲4発明との一致点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「L―エルゴチオネインを有効成分とする、剤。」
<相違点4-1>
本件特許発明1は、「加齢に伴う、単純注意力及び持続的注意力に基づく注意力低下の改善用」との特定を有するのに対し、甲4発明は、そのような特定がない点。
<相違点4-2>
本件特許発明1は、「組成物」との特定を有するのに対し、甲4発明は、そのような特定がない点。
相違点4-1は、上記1(2)アの相違点1-1と同旨であり、同様に判断される。
よって、その他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明1は甲4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 本件特許発明2及び3についての対比・判断
本件特許発明2及び3は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本件特許発明1の発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明1と同様に判断される。
よって、本件特許発明2及び3は、甲4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 本件特許発明4についての対比・判断
本件特許発明4と甲4発明とを対比すると、一致点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「剤。」
<相違点4-3>
本件特許発明4は、「タモギダケ抽出物」を有効成分として含有するとの特定を有するのに対し、甲4発明は、「エルゴチオネイン」である点。
<相違点4-4>
本件特許発明4は、「加齢に伴う、単純注意力及び持続的注意力に基づく注意力低下の改善用」との特定を有するのに対し、甲4発明は、そのような特定がない点。
<相違点4-5>
本件特許発明4は「組成物」との特定を有するのに対し、甲4発明は、そのような特定がない点。
事案に鑑みて、相違点4-4について検討する。
相違点4-4は上記1(2)アの相違点1-1と同旨であり、同様に判断される。
よって、その他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明4は甲4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
エ 本件特許発明5ないし8についての対比・判断
本件特許発明5ないし8は、請求項1又は請求項4を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本件特許発明1又は本件特許発明4の発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明1又は本件特許発明4と同様に判断される。
よって、本件特許発明5ないし8は、甲4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
5 申立理由5(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
(2)サポート要件の判断
本件特許の発明の詳細な説明の【0008】によると、本件特許発明1ないし8の解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は、記憶・学習以外の認知機能改善に有用な組成物、及び、その組成物の製造方法を提供することである。
本件特許の発明の詳細な説明の【0009】ないし【0012】には、当該発明の課題を解決するための手段として、L―エルゴチオネインには、加齢に伴う持続的注意力及び単純注意力を改善させる効果があり、L―エルゴチオネインを有効成分として含有するか、あるいは、タモギダケ抽出物を有効成分として含有する組成物により、加齢に伴う持続的注意力の改善、又は、加齢に伴う単純注意力の改善がされることが記載されている。
そして、本件特許の発明の詳細な説明の【0015】ないし【0017】には組成物について、【0018】ないし【0019】にはL-エルゴチオネインについて、【0020】にはタモギダケについて、【0021】ないし【0023】には食品組成物について、【0024】にはL―エルゴチオネインの摂取量について、【0025】ないし【0041】には組成物の製造方法についてそれぞれ記載されている。
また、本件特許の発明の詳細な説明の【0042】ないし【0072】には、エルゴチオネインを含有する試験食品に対し、エルゴチオネイン摂取群(被験食品群)とプラセボ摂取群(対照群)を用いたプラセボ対照ランダム化並行群間二重盲検比較試験を実施して、コグニトラックス検査における持続的注意力及び単純注意力の変化量を測定し、さらに、加齢に伴う認知機能低下の改善効果を確認するために、健常者40歳以上、MMSEスコアが23点以上27点以下のMCIの者30歳以上を対象にした特定年齢層にて層別解析を行い、コグニトラックス検査における持続的注意力及び単純注意力の変化量をエルゴチオネイン摂取群とプラセボ摂取群とで比較検討した結果が記載されている。
そうすると、当業者はこれらの記載事項から、L-エルゴチオネイン又はタモギタケ抽出物を有効成分として含有する組成物は、加齢に伴う、単純注意力及び持続的注意力に基づく注意力の低下を改善する機能を有し、記憶・学習以外の認知機能改善に有用であり、すなわち、発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明1及び4は、上記発明の課題を解決できると認識できる、L-エルゴチオネイン又はタモギタケ抽出物を有効成分として含有する組成物であり、本件特許発明2、3及び5ないし8はこれをさらに限定したものである。
したがって、本件特許発明1ないし8は、本件特許の発明の詳細な説明に記載された発明であり、かつ、本件特許の発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、本件特許発明1ないし8に関し、特許請求の範囲はサポート要件に適合するといえる。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の第3 5の主張について検討する。
本件特許明細書の【図11】のコグニトラックス検査で評価した持続的注意力に関する評価結果において、エルゴチオネイン摂取群とプラセボ群とは、12週の時点でのスコアには差がないが、本件特許の発明の詳細な説明の【0071】においても記載されているとおり、4週時には有意傾向(p<0.1)が確認される。したがって、本件特許発明1ないし8は、発明の課題を解決するものであり、特許異議申立人の主張は採用し得ない。
(4)申立理由5についてのまとめ
したがって、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえず、特許法第113条第4号に該当しないから、申立理由5によっては取り消すことはできない。
6 申立理由6(実施可能要件)について
(1)実施可能要件の判断基準
上記第2のとおり、本件特許発明1ないし8は物の発明であるところ、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。
そこで、検討する。
(2)実施可能要件の判断
本件特許の発明の詳細な説明の記載には、本件特許発明1ないし8の各発明特定事項について具体的に記載され、実施例についてもその製造方法を含め具体的に記載されている。
したがって、発明の詳細な説明において、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1ないし8を生産し、使用することができる程度の記載があるといえる。
よって、本件特許発明1ないし8に関して、発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を充足する。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の上記第3 6の主張について検討する。
特許異議申立人の主張は実施可能要件の判断には影響するものではない。
なお、上記5(3)にて検討したとおり、本件特許明細書の【図11】のコグニトラックス検査で評価した持続的注意力に関する評価結果は、エルゴチオネイン摂取群とプラセボ群とで4週時には有意傾向(p<0.1)が確認されるものであるから、この点からも、特許異議申立人の主張は採用し得ない。
7 申立理由7(明確性要件)について
(1)明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
そこで、検討する。
(2)明確性要件の判断
本件特許の請求項1ないし8の記載は、上記第2のとおりであり、それ自体に不明確な記載はなく、本件特許の明細書の記載及び図面とも整合する。
したがって、本件特許発明1ないし8に関して、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の上記第3 7の主張について検討する。
本件特許発明1ないし8の「単純注意力及び持続的注意力に基づく注意力」は、本件特許の発明の詳細な説明【0042】ないし【0072】において、その検証に使用されているコグニトラックス検査の単純注意力、持続的注意力の項目において試験される内容を参酌して理解されるとおりものであり、特許請求の範囲の記載に、その具体的症例等を付して特定をしなくても、第三者の利益が不当に解されるほどに不明確であるとはいえない。
よって、特許異議申立人の主張は採用し得ない。
第5 結語
上記第4のとおり、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許異議申立書に記載した申立理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-701230