特許異議申立
2023-701188
アルミナを含有する樹脂組成物及び放熱部材
- 審判番号
- 2023-701188
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-512250
- 登録番号
- 7272352
- 請求日
- 2023年11月09日
- 審決日
- 2024年02月19日
- 公報発行日
- 2024年03月29日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】DIC株式会社
- 【権利者代理人】小川 眞治
- 【権利者代理人】岩本 明洋
- 【権利者代理人】大野 孝幸
- 【異議申立人】藤江 桂子
- 審判長/審判官
- 審判長 細井 龍史
- 審判官 瀧澤 佳世
- 審判官 近野 光知
- 分類
- P1651.113-Y (C08L) / P1651.121-Y (C08L) / P1651.536-Y (C08L) / P1651.537-Y (C08L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第113条第4号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7272352号発明「アルミナを含有する樹脂組成物及び放熱部材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7272352号の請求項1~7に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7272352号の請求項1~7に係る特許についての出願は、平成31年4月2日に国際出願(優先日 平成30年4月6日 日本国)された特願2020-512250号に係る出願であって、令和5年5月1日にその特許権の設定登録(請求項の数7)がされ、同年同月12日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年11月9日に特許異議申立人 藤江桂子(以下、「申立人」という。)が、特許異議の申立て(対象請求項:請求項1~7)を行ったものである。
第2 本件特許発明
特許第7272352号の請求項1~7の特許に係る発明は、それぞれ、願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~7に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、「本件特許発明1」~「本件特許発明7」といい、これらをあわせて「本件特許発明」という。)。
「【請求項1】
3枚以上の平板状アルミナにより形成され、固着したカードハウス構造を有することを特徴とするアルミナ粒子(A)と、樹脂(B)とを必須成分として含有し、前記アルミナ粒子(A)の平均粒子径が3~1000μmである樹脂組成物。
【請求項2】
前記アルミナ粒子(A)の比表面積が50~0.001m2/gである、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記平板状アルミナのXPS測定による珪素濃度とアルミニウム濃度の比[Si]/[Al]が2.0~50.0%である、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
樹脂(B)が熱可塑性樹脂であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項記載の成形用樹脂組成物。
【請求項5】
樹脂(B)が熱硬化性樹脂であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項記載の成形用樹脂組成物。
【請求項6】
射出成形用である請求項1~5のいずれか一項記載の樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項記載の樹脂組成物又は硬化物を所望の形状とした層を含む放熱部材。」
第3 特許異議申立理由
1 特許異議申立理由の要旨
申立人が提出した特許異議申立書(以下、「申立書」という。)において主張する特許異議申立理由の要旨は、次のとおりである。
(1)申立理由1(甲第1号証を主引用例とする新規性欠如)
本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(2)申立理由2-1(甲第1号証を主引用例とする進歩性欠如)
本件特許発明1、2は、甲第1号証に記載された発明を主たる引用発明とし、それに基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(3)申立理由2-2(甲第2号証を主引用例とする進歩性欠如)
本件特許発明1、2、4~7は、甲第2号証に記載された発明を主たる引用発明とし、それに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(4)申立理由2-3(甲第3号証を主引用例とする進歩性欠如)
本件特許発明1、2、4~7は、甲第3号証に記載された発明を主たる引用発明とし、それに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(5)申立理由3(実施可能要件違反)
本件特許の請求項1~7に係る特許は、以下の理由で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
具体的理由は、概略、次のとおりである。
記
発明の詳細な説明には、モリブデンと珪素を含まないアルミナ粒子(A)を含む樹脂組成物や放熱部材を包含する請求項1~7に係る発明を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
(6)申立理由4(サポート要件違反)
本件特許の請求項1~7についての特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
具体的理由は、概略、次のとおりである。
記
モリブデンと珪素を含まないアルミナ粒子(A)を含む樹脂組成物や放熱部材を包含する請求項1~7に係る発明は、発明の詳細な説明に開示された範囲を超えている。
(7)申立理由5(明確性要件違反)
本件特許の請求項1~7に係る特許は、以下の理由で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
具体的理由は、概略、次のとおりである。
記
請求項1~7に係る発明は、平板状アルミナの「固着」の程度が明りょうでなく、その結果、発明が明確でない。
2 証拠方法
申立人は、証拠として、以下の文献等を提出する。
甲第1号証:特許第5940174号公報
甲第2号証:特許第2764479号公報
甲第3号証:特開昭62-240313号公報
甲第4号証:国際公開第2016/084723号
甲第5号証:米国特許出願公開第2013/0183527号明細書
甲第6号証:特開昭59-203774号公報
甲第7号証:ニューセラミック粉体ハンドブック、昭和58年7月25日発行、株式会社サイエンスフォーラム
甲第8号証:特開昭63-208228号公報
なお、各甲号証の番号に応じて、甲第1号証を「甲1」などという。
第4 当審の判断
当審は、申立人がした申立ての理由によっては、本件特許発明1~7に係る特許を取り消すことはできないと判断する。
その理由は以下のとおりである。
1 申立理由1(甲1を主引用例とする新規性欠如)、申立理由2-1(甲1を主引用例とする進歩性欠如)について
(1)甲1に記載された発明
甲1の請求項1に着目すると、甲1には、以下の発明が記載されているといえる。
「溶剤に溶解したバインダー樹脂中に、疎水性微粒子と、カードハウス状の凝集構造を形成した扁平状微粒子とが分散されていることを特徴とするコーティング組成物。」(以下、「甲1発明」という。)
(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「カードハウス状の凝集構造を形成した扁平状微粒子」と本件特許発明1の「3枚以上の平板状アルミナにより形成され、固着したカードハウス構造を有することを特徴とするアルミナ粒子(A)」は、「カードハウス構造を有することを特徴とする」「粒子」である限りにおいて一致する。
また、甲1発明の「バインダー樹脂」は本件特許発明1の「樹脂(B)」に相当する。
そして、甲1発明の「コーティング組成物」は、本件特許発明1の「樹脂組成物」に相当する。
そうすると、両者は、以下の<一致点>で一致し、以下の相違点で相違する。
<一致点>
カードハウス構造を有することを特徴とする粒子(A)と、樹脂(B)とを必須成分として含有する樹脂組成物。
<相違点1>
カードハウス構造を有する粒子(A)が、本件特許発明1は「3枚以上の平板状アルミナにより形成され、固着した」「アルミナ粒子」であるのに対して、甲1発明ではそのような特定がされていない点
<相違点2>
カードハウス構造を有する粒子(A)の平均粒子径が、本件特許発明1は「3~1000μm」であるのに対して、甲1発明ではそのような特定がされていない点
そこで、上記<相違点1>について検討する。
甲1には、「カードハウス構造を形成する扁平状微粒子3としては、スメクタイト、トバモライト、ベントナイト、カオリン、マイカ、ベーマイト、アルミニウム、アルミナ、シリカ、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、ケイ酸塩鉱物、アルミナ、シリカ、炭酸カルシウム、窒化ホウ素、グラフェン、酸化チタン、水酸化系化合物、炭酸塩系化合物、リン酸塩系化合物、ケイ酸塩系化合物、チタン酸塩系化合物等が挙げられる。例えば、扁平状微粒子3としては、商品名「トバモライトTJ」(日本インシュレーション社製)、商品名「セラシュールBMF」(河合石灰工業株式会社製)、商品名「セラシュールBMM」(河合石灰工業株式会社製)、商品名「セラシュールBMT」(河合石灰工業株式会社製)、商品名「セラシュールBMN」(河合石灰工業株式会社製)、商品名「サンラブリー」(AGCエスアイテック社製)、商品名「サンラブリー」(AGCエスアイテック社製)、商品名「テラセス」(大塚化学社製)、商品名「アルミニウムペースト」(東洋アルミニウム株式会社製)、商品名「セラフ」(キンセイマテック社製)、商品名「シルキーフレーク」(日本板硝子社製)、商品名「ガラスフレーク」(日本板硝子社製)、商品名「ミクロマイカ」(コープケミカル社製)、商品名「ソマシフ」(コープケミカル社製)、商品名「ルーセンタイト」(コープケミカル社製)、商品名「SBN」(昭和電工社製)、商品名「デンカボロンナイトライド」(電気化学工業社製)、商品名「PS35-A」(ニューライム社製)、商品名「PS15-A」(ニューライム社製)等を商業的に入手することができる。」(【0020】~【0021】)と記載されており、扁平状微粒子としてアルミナをはじめとする多数の例を示しているが、甲1発明における「カードハウス状の凝集構造を形成した扁平状微粒子」が、本件発明における「3枚以上の平板状アルミナにより形成され、固着したカードハウス構造を有することを特徴とするアルミナ粒子(A)」であることは、甲1の記載から明らかであるとはいえない。
ここで、本件特許発明1の「3枚以上の平板状アルミナにより形成され、固着したカードハウス構造」は、本件明細書の【0011】に「・・・3枚以上の平板状アルミナが、何らかの相互作用、例えば、焼成工程により結晶形成する過程で固着して集合したことで発現する。結果として貫入型に見える場合もある。平板状アルミナが互いに強固に固着することでカードハウス構造の強度が増すことになる。」と記載されるように、平板状アルミナが互いに強固に固着しているものであるのに対し、甲1発明の「カードハウス構造を有する粒子」は、甲1に「・・・一方、強い剪断力をかけた場合には、カードハウス状の凝集構造が破壊され、所望の撥水性が得られない。」(【0029】)と記載されるように、カードハウス状の凝集構造であり、強い剪断力をかけた場合には破壊されるものであるから、両者は異なるものであるといえる。
よって、<相違点1>は実質的な相違点である。
ついで、<相違点1>の容易想到性について、さらに検討する。
本件明細書には、「アルミナによる樹脂組成物を用いた成形体が高い熱伝導性となることを目指すべく、上記実情に鑑みて鋭意検討したところ、従来技術で検討されている球形あるいは不定形の形状を有するアルミナとは異なり、3枚以上の平板状アルミナにより形成され、固着したカードハウス構造を有するアルミナ粒子、を含有する樹脂組成物が、従来技術の課題を解決できることを見い出し、本発明を完成するに至った。」(【0005】)と記載されており、本件特許発明は、成形体の熱伝導率を向上すること目的とするものであり、本件特許発明1は、樹脂組成物について、「カードハウス構造を有することを特徴とするアルミナ粒子」を含有することを特定したものである。
一方、甲1の実施例で実際に使用されている扁平状微粒子は、「商品名「トバモライトTJ」、日本インシュレーション社製」(けい酸カルシウム)であるから、甲1発明において、甲1の上記【0020】~【0021】の記載から、「扁平状微粒子」として敢えて「アルミナ」を選択する動機付けがあるとはいえない。また、甲1には、カードハウス構造を形成する扁平状微粒子としてアルミナを用いることにより、「樹脂組成物を用いた成形体が高い熱伝導性」を得ることができることも記載されていない。
よって、他の相違点を検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明、すなわち甲1に記載された発明でもないし、また、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件特許発明2について
本件特許発明2は、本件特許発明1を引用するものであるから、上記アで検討したのと同様、本件特許発明2は、甲1発明及び甲1に記載された事項に基いて当業者が容易になし得たものではない。
(3)申立理由1、申立理由2-1についてのむすび
したがって、本件特許発明1は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1に係る特許は、申立理由1によっては取り消すことはできない。また、本件特許発明1及び2は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1、2に係る特許は、申立理由2-1によっては取り消すことはできない。
2 申立理由2-2(甲2を主引用例とする進歩性欠如)について
(1)甲2に記載された発明
甲2の実施例1(【0020】)~【0023】)に着目すると、甲2には、以下の発明が記載されているといえる。
「フィラー材の内層の材料として、平均粒径15μm、最小粒径2μm、最大粒径100μmのものに分級された結晶性アルミナ粒子を底部に細孔のある炭素製容器に収容し、電気炉内で所定の雰囲気中(窒素70容量%とモノクロロシラン30容量%の混合ガスを3に対し、窒素70容量%とアンモニア30容量%の混合ガスを4の割合にして使用した)において1000℃の高温にて加熱処理することにより、各粒子の表面に窒化珪素被覆が外層として形成された半導体封止樹脂用フィラー材であるアルミナ粒子40容量%とクレゾール-ノボラック型エポキシ樹脂60容量%とをホットローラにて混合することにより得られた、半導体封止樹脂。」(以下、「甲2発明」という。)
(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「平均粒径15μm、最小粒径2μm、最大粒径100μmのものに分級された結晶性アルミナ粒子」は、本件特許発明1の「平均粒子径が3~1000μm」である「アルミナ粒子(A)」に相当する。
また、甲2発明の「クレゾール-ノボラック型エポキシ樹脂」は、本件特許発明1の「樹脂(B)」に相当する。
そして、甲2発明の「半導体封止樹脂」は、「アルミナ粒子40容量%とクレゾール-ノボラック型エポキシ樹脂60容量%とをホットローラにて混合することにより得られた」ものであるから、本件特許発明1の「樹脂組成物」に相当する。
そうすると、両者は、以下の<一致点>で一致し、以下の相違点で相違する。
<一致点>
アルミナ粒子(A)と、樹脂(B)とを必須成分として含有し、前記アルミナ粒子(A)の平均粒子径が3~1000μmである樹脂組成物。
<相違点3>
アルミナ粒子(A)が、本件特許発明1は「3枚以上の平板状アルミナにより形成され、固着したカードハウス構造を有することを特徴とするアルミナ粒子(A)」であるのに対して、甲2発明ではそのような特定がされていない点
そこで、上記<相違点3>について検討する。
上記1(2)アで述べたように、本件特許発明1の「3枚以上の平板状アルミナにより形成され、固着したカードハウス構造」は、平板状アルミナが互いに強固に固着しているものである。それに対し、甲2には、アルミナ粒子が、「3枚以上の平板状アルミナにより形成され、固着したカードハウス構造を有すること」について、記載も示唆もない。
そして、甲4(段落[0001]、[0024]、[0033]、[0069]、図3)には、板状アルミナ粉末に関して、板状のアルミナ粒子が凝集して塊状体になったものが記載されているものの、当該塊状体を解砕することができることが記載されていることから、板状のアルミナ粒子が固着したカードハウス構造を有するものが示されているとはいえない。甲5([0126]、図13)には、コランダム結晶の凝集体のFESEM像が記載されているが、コランダム結晶の凝集体が、3枚以上の平板状アルミナにより形成され、固着したカードハウス構造を有することまでは確認できない。甲6(第2頁右上欄第6~16行、第3頁右上欄第6~10行、第1図(a)、第2図(a))には、敷粉(α-アルミナ粉末)のSEM写真が示されており、敷粉として要求される粒子特性として、使用中に圧壊して微細化しないことが記載されているが、アルミナ粉末が固着したカードハウス構造を有することまでは示されていない。また、甲7(第127頁右欄1~7行、第127頁右欄写真-1)には、一次粒子の形状が6角板状をしている、か焼アルミナのSEM写真が示されていることにとどまり、か焼アルミナが、3枚以上の平板状アルミナにより形成され、固着したカードハウス構造を有することまでは確認できない。
よって、本件特許発明1の「3枚以上の平板状アルミナにより形成され、固着したカードハウス構造は、甲2及び甲4~甲7のいずれにも、本件特許発明1の「3枚以上の平板状アルミナにより形成され、固着したカードハウス構造」は記載されておらず、周知のものともいえない。
仮に、甲4~甲7に、「3枚以上の平板状アルミナにより形成され、固着したカードハウス構造を有することを特徴とするアルミナ粒子(A)」が記載されていたとしても、当該アルミナ粒子を使用することにより、熱伝導率が高まることは記載も示唆もされていない。そうすると、甲2発明における「アルミナ系酸化物又はシリカ-アルミナ系酸化物を主成分とする内層と、その内層の表面に形成した窒化珪素の外層とを有する半導体封止樹脂用フィラー材」として、あえて「3枚以上の平板状アルミナにより形成され、固着したカードハウス構造を有することを特徴とするアルミナ粒子」を採用する動機付けがあるとはいえない。
よって、他の相違点を検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲2発明及び甲2、甲4~甲8に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件特許発明2、4~7について
本件特許発明2、4~7は、本件特許発明1を引用するものであるから、上記アで検討したのと同様、本件特許発明2、4~7は、甲2発明に基いて当業者が容易になし得たものではない。
(3)申立理由2-2についてのむすび
したがって、本件特許発明1、2、4~7は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1、2、4~7に係る特許は、申立理由2-2によっては取り消すことはできない。
3 申立理由2-3(甲3を主引用例とする進歩性欠如)について
(1)甲3に記載された発明
甲3の特許請求の範囲に着目すると、甲3には、以下の発明が記載されているといえる。
「低圧トランスファ成型用エポキシモールド樹脂等の半導体封止用樹脂において、組成物を構成する主要成分である充てん材成分を球形状のアルミナ粉末としたことを特徴とする半導体封止用組成物。」(以下、「甲3発明」という。)
(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲3発明とを対比する。
甲3発明の「アルミナ粉末」は、本件特許発明1の「アルミナ粒子(A)」に相当する。
また、甲3発明の「低圧トランスファ成型用エポキシモールド樹脂等の半導体封止用樹脂」は、本件特許発明1の「樹脂(B)」に相当する。
そして、甲3発明の「半導体封止用組成物」は、本件特許発明1の「樹脂組成物」に相当する。
そうすると、両者は、以下の<一致点>で一致し、以下の相違点で相違する。
<一致点>
アルミナ粒子(A)と、樹脂(B)とを必須成分として含有する樹脂組成物。
<相違点4>
アルミナ粒子(A)が、本件特許発明1は「3枚以上の平板状アルミナにより形成され、固着したカードハウス構造を有することを特徴とするアルミナ粒子(A)」であるのに対して、甲3発明ではそのような特定がされていない点
<相違点5>
アルミナ粒子(A)の平均粒子径が、本件特許発明1は「3~1000μm」であるのに対して、甲3発明ではそのような特定がされていない点
そこで、上記<相違点4>について検討する。
上記1(2)アで述べたように、本件特許発明1の「3枚以上の平板状アルミナにより形成され、固着したカードハウス構造」は、平板状アルミナが互いに強固に固着しているものである。それに対し、甲3には、アルミナ粒子が、「3枚以上の平板状アルミナにより形成され、固着したカードハウス構造を有すること」について、記載も示唆もない。また、甲4~甲7のいずれにも、本件特許発明1の「3枚以上の平板状アルミナにより形成され、固着したカードハウス構造」は記載されておらず、周知のものともいえない。
仮に、甲4~甲7に、「3枚以上の平板状アルミナにより形成され、固着したカードハウス構造を有することを特徴とするアルミナ粒子(A)」が記載されていたとしても、当該アルミナ粒子を使用することにより、熱伝導率が高まることは記載も示唆もされていない。そうすると、甲3発明における「球形状のアルミナ粉末」として、あえて「3枚以上の平板状アルミナにより形成され、固着したカードハウス構造を有することを特徴とするアルミナ粒子」を採用する動機付けがあるとはいえない。
よって、他の相違点を検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲3発明及び甲3~甲8に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件特許発明2、4~7について
本件特許発明2、4~7は、本件特許発明1を引用するものであるから、上記アで検討したのと同様、本件特許発明2、4~7は、甲3発明に基いて当業者が容易になし得たものではない。
(3)申立理由2-3についてのむすび
したがって、本件特許発明1、2、4~7は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1、2、4~7に係る特許は、申立理由2-3によっては取り消すことはできない。
4 申立理由3(実施可能要件違反)について
(1)実施可能要件の判断基準
発明の詳細な説明の記載が、実施可能要件に適合するか否かは、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載があるか否かという観点から判断されるべきである。
(2)実施可能要件の判断
本件特許の発明の詳細な説明の【0159】~【0184】には、本件特許発明1におけるアルミナ粒子(A)及び本件特許発明1に係る樹脂組成物の具体的な製造方法が記載されている。また、本件特許の発明の詳細な説明の【0049】~【0111】には、フラックス法によるアルミナ粒子の製造方法が、原料及び各工程に分けて詳細に記載されている。
そうすると、これらの記載及び技術常識等を参酌すれば、当業者は、発明の詳細な説明には、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1~7を生産し、使用することができる程度の記載がされているものと認められる。
(3)申立人の主張について
申立人は、上記申立書の第27頁において、
「・・・本件発明の詳細な説明(段落【0160】~【0167】)では、本件特許発明1のアルミナ粒子(A)の具体例として実施例に開示されるのは、モリブデン化合物(酸化モリブデン)と珪素化合物(シリカ粒子)等の形状制御剤の存在下でアルミニウム化合物(水酸化アルミ)を焼成するフラックス法により製造されたもの(合成例1~5のEFl~5)のみである。ここで、本件発明の詳細な説明(段落【0045】)には、モリブデン化合物と珪素化合物を用いてフラックス法でアルミナ粒子を製造する際に、モリブデンがアルミナ粒子内に取り込まれると記載されており、この記載を参酌するに、合成例1~5のアルミナ粒子は、フラックス由来のモリブデンをアルミナ粒子内に取り込んで含んでいると認められる。一方で、本件発明の詳細な説明のその他の記載を参酌しても、実施例で行っているモリブデン化合物と珪素化合物等の形状制御剤の存在下でアルミニウム化合物を焼成する手法以外の手法を採用した場合に、どのような手法を採用しどのような条件の下で製造すれば、本件特許発明1で特徴付けられるアルミナ粒子(A)を得ることができるのか不明である。特に、本件特許発明1で特定される固着したカードハウス構造を有しながらも、フラックスに起因するモリブデンを含まないアルミナ粒子(A)をどのように製造し得るのか、その手がかりもない。」と主張する。
しかしながら、上記(2)で述べたとおり、本件特許の発明の詳細な説明は実施可能要件を満たすものである。そして、本件明細書には、「本発明に係るアルミナ粒子は、3枚以上の平板状アルミナにより形成され、固着したカードハウス構造ができ、かつ特定の平均粒子径にできさえすれば、どの様な製造方法に基づいて得たものであっても良い。」(【0044】)、「[フラックス法によるアルミナ粒子の製造方法] アルミナ粒子の製造方法は、特に制限されないが、相対的に低温で高α結晶化率を有するアルミナを好適に制御することができる観点から、好ましくはモリブデン化合物を利用したフラックス法での製造方法が適用されうる。」(【0049】)と記載されるように、本件特許発明1のアルミナ粒子(A)の製造方法は、実施例で行っているフラックス法に限定されるものではなく、本件明細書の【0081】~【0088】には、珪素化合物以外の形状制御剤を用いても良いことも記載されているから、当業者は過度の試行錯誤なく本件特許発明1~7の樹脂組成物を生産し、使用することができると認められる。
よって、申立人の主張は採用できない。
(4)申立理由3についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1~7に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、申立理由3によっては取り消すことはできない。
5 申立理由4(サポート要件違反)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)サポート要件の判断
本件明細書には、「本発明は、これまで検討されてきた、アルミナによる組成物を用いた成形体の熱伝導性に課題がある従来技術(特許文献1)に対して、鋭意検討を重ねた・・・」(【0004】)及び「・・・アルミナによる樹脂組成物を用いた成形体が高い熱伝導性となることを目指すべく、上記実情に鑑みて鋭意検討したところ、従来技術で検討されている球形あるいは不定形の形状を有するアルミナとは異なり、3枚以上の平板状アルミナにより形成され、固着したカードハウス構造を有するアルミナ粒子、を含有する樹脂組成物が、従来技術の課題を解決できることを見い出し、本発明を完成するに至った。」(【0005】)と記載されており、本件特許発明の課題は、アルミナによる組成物を用いた成形体の熱伝導率の向上であると解される。そこで、本件特許発明は、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるかについて、以下、検討する。
本件明細書の【0016】には、「本発明におけるアルミナ粒子は、カードハウス構造を有するものであるが、このアルミナ粒子を用いた樹脂組成物は、従来検討されてきた球状あるいは不定形アルミナによるそれと比較して高い熱伝導率を発現する。その理由としては、カードハウス構造を構成する平板状アルミナは形状に異方性を有しているが故、近接するアルミナ粒子同士での熱伝達経路を形成しやすくなっている、ということが考えられる。また、本発明におけるアルミナ粒子は、カードハウス構造を有することで、樹脂マトリックス中に平板状アルミナが配向し難く、樹脂組成物または成形物の物性(例えば熱伝導率)の異方性を抑制することが可能となる。」と記載されていることから、カードハウス構造を有するアルミナ粒子を用いた樹脂組成物は、形状に異方性を有しているが故、近接するアルミナ粒子同士での熱伝達経路を形成しやすくなっていることや、樹脂マトリックス中に平板状アルミナが配向し難く、樹脂組成物または成形物の物性(例えば熱伝導率)の異方性を抑制することが可能となるという、作用機序について理解することができる。
そして、本件特許明細書(表1~3)の実施例及び比較例の対比から、実施例はいずれも複数の平板状アルミナからなる、カードハウス構造を有するアルミナ粒子(EF14)を含有する組成物を用いた成形体で、比較例である球状アルミナ(デンカ株式会社製DAW-45;CF1)を含有する成形体よりも熱伝導率に優れていることがわかる。
してみると、実施例の結果と上記作用機序を考慮すると、当業者は、「3枚以上の平板状アルミナにより形成され、固着したカードハウス構造を有することを特徴とするアルミナ粒子(A)、樹脂(B)とを必須成分として含有」する「樹脂組成物」という特定事項により、「従来検討されてきた球状あるいは不定形アルミナによるそれと比較して高い熱伝導率を発現する」(本件明細書の【0016】)ことができ、本件特許発明の課題を解決できると認識するものである。
そして、本件特許発明1は、上記特定事項を有するものであるから、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件特許発明の課題を解決できると認識するものである。
したがって、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件特許発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
また、本件特許発明1を引用する本件特許発明2~7についても同様である。
よって、本件特許発明1~7に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。
(3)申立人の主張について
申立人は、上記申立書の第28頁において、
「・・・本件発明の詳細な説明(段落【0160】~【0167】)では、本件特許発明1のアルミナ粒子(A)の具体例として実施例に開示されるのは、モリブデン化合物(酸化モリブデン)と珪素化合物(シリカ粒子)等の形状制御剤の存在下でアルミニウム化合物(水酸化アルミ)を焼成するフラックス法により製造されたもの(合成例1~5のEFl~5)のみである。そして、このアルミナ粒子(EF1~5)を含む成形体はキセノンフラッシュ法での熱伝導率が1.5~1.7W/mKとされている(段落【0172】表1及び【0173】表2)。しかしながら、本件発明の詳細な説明の記載や出願時の技術常識を参酌しても、モリブデンや珪素を含まないアルミナ粒子(A)を用いた樹脂組成物に、熱伝導率向上の効果があると認めることはできない。実際、本件発明の詳細な説明(段落【0033】)には、モリブデンを活用することにより、熱伝導性に優れたアルミナ粒子を製造することができると記載されており、この記載を参酌するに、モリブデンを含まないアルミナ粒子(A)に熱伝導率向上の効果があると推認できない。したがって、モリブデンと珪素を含まないアルミナ粒子(A)を用いた樹脂組成物を包含する本件特許発明1は、発明の課題を解決し得ないものを包含するので、本件発明の詳細な説明に開示された範囲を超えている。」と主張する。
しかしながら、上記(2)で検討したように、当業者は、本件特許の発明の詳細な説明の記載から、「3枚以上の平板状アルミナにより形成され、固着したカードハウス構造を有することを特徴とするアルミナ粒子(A)、樹脂(B)とを必須成分として含有」する「樹脂組成物」という特定事項により、本件特許発明の上記課題を解決できると認識するのであって、アルミナ粒子がモリブデンや珪素を含むことにより上記課題を解決するのではないと解される。また、本件特許明細書(表1~3)の実施例及び比較例の対比から、実施例はいずれも複数の平板状アルミナからなる、カードハウス構造を有するアルミナ粒子(EF14)を含有する組成物を用いた成形体で、比較例である球状アルミナ(デンカ株式会社製DAW-45;CF1)を含有する成形体よりも熱伝導率に優れていることが理解できる。
よって、申立人の主張は採用できない。
(4)申立理由4についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1~7に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、申立理由4によっては取り消すことはできない。
5 申立理由5(明確性要件違反)について
(1)明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきものである。
(2)明確性要件の判断
そこで、上記(1)の判断基準に従って、以下検討する。
本件明細書の【0060】には、「カードハウス構造を有するアルミナ粒子は、例えば、モリブデン化合物、および珪素化合物、ならびに必要に応じその他形状制御剤の存在下でアルミニウム化合物を焼成する工程を含むアルミナ粒子の製造方法にて、平板状アルミナを形成させ、その3枚以上の平板状アルミナを、形成と同時に複数箇所で互いの結晶面と接触させ、交差させ、固着させることにより得る事ができる。その固着により、カードハウス構造が、圧力等の外部応力によって容易には壊れない(解れない)、それが固定された状態が得られる。」と記載されていることから、当業者は、「固着」とは、「カードハウス構造が、圧力等の外部応力によって容易には壊れない(解れない)、それが固定された状態」を指すものと理解できる。
よって、本件特許発明1の「3枚以上の平板状アルミナにより形成され、固着したカード構造を有すること」は、平板状アルミナが「その固着により、カードハウス構造が、圧力等の外部応力によって容易には壊れない(解れない)」程度の強さでもって固着していることを意味することは明らかであるから、本件特許の請求項1の記載及びこれを引用する請求項2~7の記載は明確である。
したがって、本件特許発明1~7に関して、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
(3) 申立人の主張について
申立人は、上記申立書の第28~29頁において、
「本件特許発明1のアルミナ粒子(A)は、3枚以上の平板状アルミナにより形成され、固着したカード構造を有することを特徴とするものの、平板状アルミナがどの程度の強さでもって固着しているのかという固着程度の特定は無い。また、本件特許の発明の詳細な説明(段落【0060】)には、「その固着により、カードハウス構造が、圧力等の外部応力によって容易には壊れない(解れない)、それが固定された状態が得られる。」と記載されるものの、どの程度の外部応力によって壊れないものを「固着」と言うのか説明が無い。そのため、本件対象発明1は、平板状アルミナの「固着」の程度が明りょうでなく、その結果、発明が不明確になっている。」と主張する。
本件特許発明1の「固着」はその具体的な強さについては特定されていないが、上記(2)で検討したように、本件特許発明1の「3枚以上の平板状アルミナにより形成され、固着したカード構造を有すること」は、平板状アルミナが「その固着により、カードハウス構造が、圧力等の外部応力によって容易には壊れない(解れない)」程度の強さでもって固着していることを意味するものと理解でき、また、本件明細書の【0065】に記載のように、解砕工程等を経てもカードハウス構造が解れない程度の強さで固着しているものと理解できるから、「固着」の程度は明確である。このため、具体的な外部応力の特定がなされていないからといって、第三者に不測の不利益が生じる程に不明確であるとはいえない。
よって、申立人の主張は採用できない。
(4)申立理由5についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1~7に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、申立理由5によっては取り消すことはできない。
第5 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1~7に係る特許を取り消すことはできない。また、ほかに本件特許の請求項1~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-701188