特許異議申立
2023-700709
フォルダブル円偏光板および表示装置
- 審判番号
- 2023-700709
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-533345
- 登録番号
- 7203027
- 請求日
- 2023年07月11日
- 審決日
- 2024年10月09日
- 公報発行日
- 2025年06月27日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】三星電子株式会社
- 【権利者代理人】長谷川 芳樹
- 【権利者代理人】清水 義憲
- 【権利者】DIC株式会社
- 【権利者代理人】長谷川 芳樹
- 【権利者代理人】清水 義憲
- 【異議申立人】藤江 桂子
- 審判長/審判官
- 審判長 岡田 吉美
- 審判官 濱野 隆
- 審判官 河原 正
- 分類
- P1651.536-ZAA(G02B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条、特許法第120条の8、特許法第113条、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7203027号発明「フォルダブル円偏光板および表示装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7203027号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕、〔7~12〕について訂正することを認める。
特許第7203027号の請求項1、5~8、12に係る特許を取り消す。
特許第7203027号の請求項2~4、9~11に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7203027号(以下「本件特許」という。)について、その手続の経緯は、以下のとおりである。
平成28年12月22日 :日本語特許出願
令和 4年12月28日 :特許権の設定登録
令和 5年 1月12日 :特許掲載公報の発行
同年 7月11日 :特許異議申立書の提出
(特許異議申立人:藤江 桂子 全請求項1~12に対して)
令和 5年10月11日付け:取消理由通知書
令和 6年 1月11日 :訂正請求書及び意見書の提出(特許権者)
同年 2月16日 :意見書の提出(特許異議申立人)
同年 5月10日付け:取消理由通知書(決定の予告)
なお、令和6年5月10日付け取消理由通知書(決定の予告)において、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許権者は応答しなかった。
以下、令和6年1月11日に提出された訂正請求書を「本件訂正請求書」といい、本件訂正請求書による訂正を「本件訂正」という。
第2 本件訂正について
1 請求の趣旨
本件訂正に係る請求の趣旨は、本件特許の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~12について訂正することを求めるものである。
2 本件訂正前の特許請求の範囲の記載
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~12の記載(登録時における特許請求の範囲の記載)は、以下のとおりである。
「【請求項1】
偏光子と、
前記偏光子の一面に位置し、液晶層を含むフォルダブル可能な補償フィルムと、
を含み、
前記液晶層は、420nm以下の波長領域の光を吸収する液晶を含み、
前記液晶層の450nm、550nmおよび650nm波長に対する面内位相差は、下記関係式1または2を満たし、
前記補償フィルムは、420nm以下の波長領域の光を吸収し、
前記補償フィルムの400nm波長の光の吸収率は、50%以上であり、
CIE-Lab色座標系で反射色相がΔa*b*≦5.0を満たし、
前記補償フィルムの400nmおよび550nm波長の光の透過率が、下記関係式3aaを満たす、フォルダブル円偏光板:
[関係式1]
Re(450nm)<Re(550nm)≦Re(650nm)
[関係式2]
Re(450nm)≦Re(550nm)<Re(650nm)
[関係式3aa]
T2/T1≦0.4
前記関係式1または2において、
Re(450nm)は、450nm波長の入射光に対する液晶層の面内位相差であり、
Re(550nm)は、550nm波長の入射光に対する液晶層の面内位相差であり、
Re(650nm)は、650nm波長の入射光に対する液晶層の面内位相差であり、
前記関係式3aaにおいて、
T1は、補償フィルムの550nm波長の光の透過率であり、
T2は、補償フィルムの400nm波長の光の透過率である。
【請求項2】
前記液晶層は、420nm以下の波長領域の光を吸収する添加剤を含む請求項1に記載のフォルダブル円偏光板。
【請求項3】
前記補償フィルムは、420nm以下の波長領域の光を吸収する吸光フィルムを含む請求項1に記載のフォルダブル円偏光板。
【請求項4】
前記補償フィルムは、430nm~780nm領域の光を吸収しない請求項1に記載のフォルダブル円偏光板。
【請求項5】
前記補償フィルムの550nmに対する面内位相差は、110nm~180nmである請求項1に記載のフォルダブル円偏光板。
【請求項6】
前記補償フィルムは、単一の液晶層を含む請求項1に記載のフォルダブル円偏光板。
【請求項7】
有機発光表示パネルと、
前記有機発光表示パネルの一面に位置し、偏光子およびフォルダブル補償フィルムを含むフォルダブル円偏光板と、
を含み、
前記有機発光表示パネルは、第1波長領域の光を放出し、
前記補償フィルムは、液晶層を含み、前記第1波長領域より短波長領域の光を吸収し、
前記補償フィルムの400nm波長の光の吸収率は、50%以上であり、
前記液晶層は、420nm以下の波長領域の光を吸収する液晶を含み、
前記液晶層の450nm、550nmおよび650nm波長に対する面内位相差は、下記関係式1または2を満たし、
前記円偏光板は、CIE-Lab色座標系で反射色相がΔa*b*≦5.0を満たし、
前記補償フィルムの400nmおよび550nm波長の光の透過率は、下記関係式3aaを満たす、フォルダブル可能な有機発光表示装置:
[関係式1]
Re(450nm)<Re(550nm)≦Re(650nm)
[関係式2]
Re(450nm)≦Re(550nm)<Re(650nm)
[関係式3aa]
T2/T1≦0.4
前記関係式1または2において、
Re(450nm)は、450nm波長の入射光に対する液晶層の面内位相差であり、
Re(550nm)は、550nm波長の入射光に対する液晶層の面内位相差であり、
Re(650nm)は、650nm波長の入射光に対する液晶層の面内位相差であり、
前記関係式3aaにおいて、
T1は、補償フィルムの550nm波長の光の透過率であり、
T2は、補償フィルムの400nm波長の光の透過率である。
【請求項8】
前記第1波長領域は、430nm~780nmである請求項7に記載の有機発光表示装置。
【請求項9】
前記補償フィルムは、前記第1波長領域の光を吸収しない請求項8に記載の有機発光表示装置。
【請求項10】
前記液晶層は、420nm以下の波長領域の光を吸収する添加剤を含む請求項7に記載の有機発光表示装置。
【請求項11】
前記補償フィルムは、420nm以下の波長領域の光を吸収する吸光フィルムを含む請求項7に記載の有機発光表示装置。
【請求項12】
前記補償フィルムは、単一の液晶層を含み、
前記液晶層の550nmに対する面内位相差は、110nm~180nmである請求項7に記載の有機発光表示装置。」
3 本件訂正後の特許請求の範囲の記載
本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1~12の記載は、以下のとおりである。下線は訂正箇所である。
「【請求項1】
偏光子と、
前記偏光子の一面に位置し、液晶層からなるフォルダブル可能な補償フィルムと、
を含み、
前記液晶層は、420nm以下の波長領域の光を吸収する液晶からなり、
前記液晶層の450nm、550nmおよび650nm波長に対する面内位相差は、下記関係式1または2を満たし、
前記補償フィルムは、420nm以下の波長領域の光を吸収し、
前記補償フィルムの400nm波長の光の吸収率は、50%以上であり、
CIE-Lab色座標系で反射色相がΔa*b*≦5.0を満たし、
前記補償フィルムの400nmおよび550nm波長の光の透過率が、下記関係式3aaを満たす、フォルダブル円偏光板:
[関係式1]
Re(450nm)<Re(550nm)≦Re(650nm)
[関係式2]
Re(450nm)≦Re(550nm)<Re(650nm)
[関係式3aa]
T2/T1≦0.4
前記関係式1または2において、
Re(450nm)は、450nm波長の入射光に対する液晶層の面内位相差であり、
Re(550nm)は、550nm波長の入射光に対する液晶層の面内位相差であり、
Re(650nm)は、650nm波長の入射光に対する液晶層の面内位相差であり、
前記関係式3aaにおいて、
T1は、補償フィルムの550nm波長の光の透過率であり、
T2は、補償フィルムの400nm波長の光の透過率である。
【請求項2】(削除)
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】
前記補償フィルムの550nmに対する面内位相差は、110nm~180nmである請求項1に記載のフォルダブル円偏光板。
【請求項6】
前記補償フィルムは、単一の液晶層からなる請求項1に記載のフォルダブル円偏光板。
【請求項7】
有機発光表示パネルと、
前記有機発光表示パネルの一面に位置し、偏光子およびフォルダブル補償フィルムを含むフォルダブル円偏光板と、
を含み、
前記有機発光表示パネルは、第1波長領域の光を放出し、
前記補償フィルムは、液晶層からなり、前記第1波長領域より短波長領域の光を吸収し、
前記補償フィルムの400nm波長の光の吸収率は、50%以上であり、
前記液晶層は、420nm以下の波長領域の光を吸収する液晶からなり、
前記液晶層の450nm、550nmおよび650nm波長に対する面内位相差は、下記関係式1または2を満たし、
前記円偏光板は、CIE-Lab色座標系で反射色相がΔa*b*≦5.0を満たし、
前記補償フィルムの400nmおよび550nm波長の光の透過率は、下記関係式3aaを満たす、フォルダブル可能な有機発光表示装置:
[関係式1]
Re(450nm)<Re(550nm)≦Re(650nm)
[関係式2]
Re(450nm)≦Re(550nm)<Re(650nm)
[関係式3aa]
T2/T1≦0.4
前記関係式1または2において、
Re(450nm)は、450nm波長の入射光に対する液晶層の面内位相差であり、
Re(550nm)は、550nm波長の入射光に対する液晶層の面内位相差であり、
Re(650nm)は、650nm波長の入射光に対する液晶層の面内位相差であり、
前記関係式3aaにおいて、
T1は、補償フィルムの550nm波長の光の透過率であり、
T2は、補償フィルムの400nm波長の光の透過率である。
【請求項8】
前記第1波長領域は、430nm~780nmである請求項7に記載の有機発光表示装置。
【請求項9】(削除)
【請求項10】(削除)
【請求項11】(削除)
【請求項12】
前記補償フィルムは、単一の液晶層からなり、
前記液晶層の550nmに対する面内位相差は、110nm~180nmである請求項7に記載の有機発光表示装置。」
4 本件訂正の内容
本件訂正は、二組の一群の請求項〔1~6〕、〔7~12〕について訂正するものであるところ、以下に示す、特許請求の範囲の訂正に係る訂正事項1~10からなる。なお、訂正事項1と訂正事項6については、それぞれ枝番を付けて二つの訂正事項に細分化した。
(1) 訂正事項1
ア 訂正事項1-1
特許請求の範囲の請求項1に
「前記偏光子の一面に位置し、液晶層を含むフォルダブル可能な補償フィルム」
と記載されているのを、
「前記偏光子の一面に位置し、液晶層からなるフォルダブル可能な補償フィルム」
に訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項5、6も同様に訂正する。)
イ 訂正事項1-2
特許請求の範囲の請求項1に
「前記液晶層は、420nm以下の波長領域の光を吸収する液晶を含み」
と記載されているのを、
「前記液晶層は、420nm以下の波長領域の光を吸収する液晶からなり」
に訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項5、6も同様に訂正する。)
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
(5) 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6に
「前記補償フィルムは、単一の液晶層を含む請求項1に記載のフォルダブル円偏光板。」
と記載されているのを、
「前記補償フィルムは、単一の液晶層からなる請求項1に記載のフォルダブル円偏光板。」
に訂正する。
(6) 訂正事項6
ア 訂正事項6-1
特許請求の範囲の請求項7に
「前記補償フィルムは、液晶層を含み、前記第1波長領域より短波長領域の光を吸収し」
と記載されているのを、
「前記補償フィルムは、液晶層からなり、前記第1波長領域より短波長領域の光を吸収し」
に訂正する。
(請求項7の記載を引用する請求項8、12も同様に訂正する。)
イ 訂正事項6-2
特許請求の範囲の請求項7に
「前記液晶層は、420nm以下の波長領域の光を吸収する液晶を含み」
と記載されているのを、
「前記液晶層は、420nm以下の波長領域の光を吸収する液晶からなり」
に訂正する。
(請求項7の記載を引用する請求項8、12も同様に訂正する。)
(7) 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項9を削除する。
(8) 訂正事項8
特許請求の範囲の請求項10を削除する。
(9) 訂正事項9
特許請求の範囲の請求項11を削除する。
(10) 訂正事項10
特許請求の範囲の請求項12に
「前記補償フィルムは、単一の液晶層を含み」
と記載されているのを、
「前記補償フィルムは、単一の液晶層からなり」
に訂正する。
第3 本件訂正の適否についての当審の判断
1 訂正の目的
(1) 訂正事項1
ア 訂正事項1-1の訂正は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1の「前記偏光子の一面に位置」する「フォルダブル可能な補償フィルム」について、「液晶層を含む」としていたものを「液晶層からなる」として、「補償フィルム」の構成要素を限定するものであり、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする。
イ 訂正事項1-2の訂正は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1の「液晶層」について、「420nm以下の波長領域の光を吸収する液晶を含み」としていたものを「420nm以下の波長領域の光を吸収する液晶からなり」として、「液晶層」の構成要素を限定するものであり、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする。
ウ したがって、訂正事項1-1及び訂正事項1-2からなる訂正事項1の訂正は、特許法120条の5第2項ただし書き1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
(2) 訂正事項2~4
訂正事項2~4の訂正は、それぞれ請求項2~4を削除するものであるから、いずれも特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
(3) 訂正事項5
訂正事項5の訂正は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項6の「補償フィルム」について、「単一の液晶層を含む」としていたものを「単一の液晶層からなる」として、「補償フィルム」の構成要素を限定するものであり、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする。
(4) 訂正事項6
ア 訂正事項6-1の訂正は、訂正事項1-1の訂正と同様に、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする。
イ 訂正事項6-2の訂正は、訂正事項1-2の訂正と同様に、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする。
ウ したがって、訂正事項6-1及び訂正事項6-2からなる訂正事項6の訂正は、特許法120条の5第2項ただし書き1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
(5) 訂正事項7~9
訂正事項7~9の訂正は、それぞれ請求項9~11を削除するものであるから、いずれも特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
(6) 訂正事項10
訂正事項10の訂正は、訂正事項5の訂正と同様に、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする。
2 新規事項の追加、特許請求の範囲の実質的拡張・変更
訂正事項1~10の訂正は、特許法120条の5第2項ただし書き2号に掲げる「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものに該当しないから、これらの訂正における新規事項の追加の有無を判断する際の基準となる明細書等は、特許権の設定の登録がされた時点での願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面である。
(1) 訂正事項1
ア 訂正事項1-1について、明細書の段落【0073】の「補償フィルム400は、液晶層を含み、選択的に基材、及び/又は配向膜を含む。」という記載を踏まえると、「補償フィルム」の構成要素として、「液晶層」は必須の構成要素であるとしても、「基材」や「配向膜」は選択的要素にすぎず、これらの選択的要素を含まずに「液晶層」のみからなるものも「補償フィルム」であるといえるから、「前記偏光子の一面に位置」する「フォルダブル可能な補償フィルム」が「液晶層からなる」とする訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものであると認められる。
イ 訂正事項1-2について、明細書の段落【0080】の「液晶層は、上述した液晶を含む液晶組成物から形成することができ、液晶組成物は、液晶以外に反応開始剤、界面活性剤、溶解補助剤および/または分散剤のような各種添加剤と溶媒を含むことができる。」という記載を踏まえると、「液晶層」の構成要素として、「液晶」は必須の構成要素であるとしても、「液晶以外」の「反応開始剤、界面活性剤、溶解補助剤および/または分散剤のような各種添加剤」は選択的要素にすぎず、これらの選択的要素を含まずに「液晶」のみからなるものも「液晶層」であるといえるから、「液晶層」について、「420nm以下の波長領域の光を吸収する液晶からなり」とする訂正は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであると認められる。
ウ 前記ア及びイの検討結果を踏まえると、訂正事項1の訂正は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項の規定に適合する。
また、訂正事項1の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法120条の5第9項において準用する同法126条6項の規定に適合する。
(2) 訂正事項2~4
訂正事項2~4の訂正は、それぞれ請求項2~4を削除するものであるから、いずれも本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項の規定に適合する。
また、訂正事項2~4の訂正は、いずれも実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法120条の5第9項において準用する同法126条6項の規定に適合する。
(3) 訂正事項5
訂正事項5の訂正は、前記訂正事項1-2の訂正と同様に、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項の規定に適合する。
また、訂正事項5の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法120条の5第9項において準用する同法126条6項の規定に適合する。
(4) 訂正事項6
訂正事項6の訂正は、前記訂正事項1の訂正と同様に、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項の規定に適合する。
また、訂正事項6の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法120条の5第9項において準用する同法126条6項の規定に適合する。
(5) 訂正事項7~9
訂正事項7~9の訂正は、それぞれ請求項9~11を削除するものであるから、いずれも本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項の規定に適合する。
また、訂正事項7~9の訂正は、いずれも実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法120条の5第9項において準用する同法126条6項の規定に適合する。
(6) 訂正事項10
訂正事項10の訂正は、前記訂正事項5の訂正と同様に、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項の規定に適合する。
また、訂正事項10の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法120条の5第9項において準用する同法126条6項の規定に適合する。
3 独立特許要件
この特許異議の申立てにおいては、請求項1~12について特許異議の申立てがされているから、本件訂正後における請求項1、5~8、12に記載されている事項により特定される発明について、特許法120条の5第9項において読み替えて準用する同法126条7項に規定する独立特許要件は課されない。
4 小括
前記1~3において検討した訂正要件についての当審の判断をまとめると、訂正事項1~10の訂正は、いずれも訂正要件を満たすものであるから、本件訂正は適法なものである。
よって、前記結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕、〔7~12〕について訂正することを認める。
第4 本件訂正発明について
前記第3において説示したとおり、本件訂正は認められたから、本件特許の請求項1、5~8、12に係る発明(以下、これらを総称して「本件訂正発明」ということもある。)は、それぞれ、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1、5~8、12に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1、5~8、12の記載は、前記第2の3に示したとおりである。
第5 取消理由(決定の予告)の概要
本件特許について、当審において令和6年5月10日付けで特許権者に通知した取消理由(実施可能要件違反)の概要は、次のとおりである。
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が下記に示す点で不備のため、請求項1、5~8、12に係る特許は、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
記
本件特許の明細書及び図面には、本件訂正発明において規定された要件を同時に満たすような「液晶」が具体的にどのようなものであるのかについて開示されていない。
そして、本件訂正発明において、「液晶層」は「液晶」そのものであり、「補償フィルム」は「液晶層」そのものであるから、上記「液晶」の具体的材料が明らかにならないと、「液晶層」及び「補償フィルム」も、具体的にどのようなものであるか不明であることになる。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明は、本件訂正発明について、当業者が実施することができる程度に記載されていない。
第6 審尋について
前記令和6年5月10日付け取消理由通知書(決定の予告)において、当合議体は、特許法120条の8において準用する同法134条4項の規定に基づき審尋を行い、以下の(1)及び(2)の事項に対する回答を意見書において具体的かつ明確に示すように特許権者に求めたが、前記のとおり、当該取消理由通知書に対して特許権者からの応答はなく、前記審尋についても特許権者からの回答はない。
(1) 実施例の重合性液晶について
明細書の段落【0108】~【0109】には、液晶材料として、DIC社製造の重合性液晶1~4が型番(UCL-031R3,5,14,17)により示されています。
(審尋事項1-1) 重合性液晶1~4の具体的な構造式、光学特性を明らかにしてください。
(審尋事項1-2) また、当該型番の重合性液晶が記載されたDIC社発行のカタログあるいは仕様書などを提出することにより、上記審尋事項1-1に係る技術事項を本願の出願前に当業者が理解可能であったこと及び入手可能であったことを明確・具体的かつ十分に立証してください。
(2) 実施例の液晶層について
明細書の段落【0110】~【0113】には、次の記載があります。
「【0110】
補償フィルムの製造
実施例1
TACフィルム上に光配向膜材料(PAM-0021:DIC社製造)をスピンコーティングし、80℃で3分間乾燥した後、100mJ/cm2の偏光UV光を照射して光配向膜を形成した。次いで、光配向膜上に液晶1をスピンコーティングし、80℃で2分間乾燥して、室温まで冷却した後、600mJ/cm2のUV光を照射し、2.0μm厚さの液晶層を形成して、補償フィルムを準備した。
【0111】
実施例2
液晶1の代わりに液晶2を使用した以外は、実施例1と同じ方法で補償フィルムを準備した。
【0112】
実施例3
液晶1の代わりに液晶3を使用した以外は、実施例1と同じ方法で補償フィルムを準備した。
【0113】
実施例4
液晶1の代わりに液晶4を使用した以外は、実施例1と同じ方法で補償フィルムを準備した。」
(審尋事項2-1) 実施例1~4において、それぞれ「スピンコーティング」される「液晶1」~「液晶4」とは、液晶1~4をそれぞれ含む液晶組成物のことを意味しているのでしょうか。
(審尋事項2-2)ア 液晶組成物のことを意味しているとした場合に、当該液晶組成物に含まれる成分(各実施例で用いた化合物の名称及び化学式並びに配合比)を具体的に示してください。
また、これらの液晶以外の成分が、420nm以下の波長領域の光を吸収するか否かも示してください。
(審尋事項2-2)イ 液晶組成物のことを意味していないとした場合に、どうして組成物でない液晶1~4を「スピンコーティング」できるのでしょうか。
第7 当審の判断
1 実施可能要件違反について
本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は、以下に詳述するとおり、本件訂正発明について特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。
(1) 本件訂正発明の構成について
本件訂正後の請求項1において、次のア~ウに示すとおり、「液晶層」、「補償フィルム」及び「フォルダブル円偏光板」に係る要件が規定されている。請求項7にも同様の記載がある。
ア 「液晶層」に係る要件(以下「要件ア」という。)
<構成要素>
液晶層が液晶からなること。
<光吸収特性>
液晶が420nm以下の波長領域の光を吸収すること。
<面内位相差>
450nm、550nmおよび650nm波長に対する面内位相差は、関係式1または2を満たすこと(関係式1、2は省略)。
イ 「補償フィルム」に係る要件(以下「要件イ」という。)
<構成要素>
補償フィルムが液晶層からなること。
<光吸収特性>
420nm以下の波長領域の光を吸収すること。
400nm波長の光の吸収率は、50%以上であること。
<光透過特性>
400nmおよび550nm波長の光の透過率が、関係式3aaを満たすこと(関係式3aaは省略)。
ウ 「フォルダブル円偏光板」に係る要件(以下「要件ウ」という。)
CIE-Lab色座標系で反射色相がΔa*b*≦5.0を満たすこと
(2)ア 前記(1)を踏まえると、本件訂正発明において、「液晶層」は「420nm以下の波長領域の光を吸収する液晶」そのものであり、「補償フィルム」は「液晶層」そのものであることになるから、「420nm以下の波長領域の光を吸収する」という「補償フィルム」の光吸収特性は、「液晶」の光吸収特性により実現されるものであるということになる。
イ ここで、物の発明について実施可能要件を満たすためには、明細書の発明の詳細な説明の記載が、当業者において、その記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、当該発明に係る物を作り、使用することができる程度のものでなければならない。
ウ(ア) 上記イの観点から明細書の発明の詳細な説明の記載を検討すると、本件特許の明細書及び図面には、前記(1)の要件ア~ウを同時に満たすような「液晶」が具体的にどのようなものであるのかについて開示されていない。
そして、前記アにおいて示したとおり、「液晶層」は「液晶」そのものであり、「補償フィルム」は「液晶層」そのものであるから、上記「液晶」の具体的材料が明らかにならないと、「液晶層」及び「補償フィルム」も、具体的にどのようなものであるか不明であることになる。
(イ) この点に関し、明細書の段落【0077】~【0079】には、次に示すとおり、液晶に関する記述はあるものの、具体的な材料を特定するものではない。
「【0077】
液晶は、例えば棒状のネマティック液晶であることができ、正または負の複屈折値(Δn)を有することができる。
【0078】
液晶は、反応性メソゲン液晶であることができ、例えば一つ以上のメソゲンモイエティ(mesogenic moiety)と一つ以上の重合性作用基を有することができる。前記反応性メソゲン液晶は、例えば一つ以上の重合性作用基を有する棒状の芳香族誘導体、プロピレングリコール1-メチル、プロピレングリコール2-アセテートおよびP1-A1-(Z1-A2)n-P2で表される化合物(ここで、P1とP2は重合性作用基で、それぞれ独立してアクリレート(acrylate)、メタクリレート(methacrylate)、アクリロイル(acryloyl)、ビニル(vinyl)、ビニルオキシ(vinyloxy)、エポキシ(epoxy)またはこれらの組み合わせを含むことができ、A1およびA2は、それぞれ独立して1,4-フェニレン(1,4-phenylene)、ナフタレン(naphthalene)-2,6-ジイル(diyl)基またはこれらの組み合わせを含むことができ、Z1は単一結合、-COO-、-OCO-またはこれらの組み合わせを含むことができ、nは0、1または2である)の少なくともいずれか一つを含むことができるが、これに限定されるものではない。
【0079】
液晶は、熱硬化性液晶または光硬化性液晶であることができる。例えば、液晶が光硬化性液晶であるとき、前記光は、約250nm~400nm波長の紫外光であることができる。」
(ウ) また、段落【0108】~【0109】には、液晶材料として、DIC社製造の重合性液晶1~4が型番(UCL-031R3,5,14,17)により示されているが、これらの型番から具体的な材料を特定するのは困難であり、本願の出願日の時点において、当業者が入手可能であったのかも不明である。
また、具体的にどのような材料を用いれば良いのかを理解できる技術常識も見当たらない。
(エ) 特に、本件訂正後は、「液晶」の具体的材料が明らかにならないと、「液晶層」及び「補償フィルム」も、具体的にどのようなものであるか不明であるから、本件訂正により、重合性液晶1~4の具体的な構造式、光学特性、入手方法を明らかにする要請が一層強まったことに注意すべきである。
(オ) そうすると、当業者が本件特許の明細書の発明の詳細な説明及び図面の記載と技術常識に基づいて本件訂正発明に係る物を作るためには、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を要することになるといえる。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明は、本件訂正発明について、当業者が実施することができる程度に記載されていない。
2 特許権者の主張について
(1) 特許権者の主張の概要
特許権者は、令和5年10月11日付け取消理由通知書に対しては、令和6年1月11日に意見書を提出しており、概ね次の主張をしている。
前記1(1)に示した要件を満たす液晶及び補償フィルムは、実施例で使用しているものに限らず、本件特許の出願時の当業者にはよく知られたものであり容易に入手できるものである。
例えば、乙第1号証(特開2017-027056号公報)には、300nm以上380nm以下に極大吸収波長を有する重合性液晶化合物(請求項2、段落【0160】等)、関係式2を満たす光学フィルム(段落【0169】~【0170】等)が記載されている。
また、乙第1号証の段落【0169】に記載の光学フィルムは、極大吸収波長が350nmである重合性液晶を含む塗工液を配向膜上に塗布して得られる光学異方層を、シクロオレフィンコポリマー(COP)フィルムに転写してなる光学フィルムであり(段落【0160】~【0165】)、COPの波長550nmにおける面内位相値は略0であることから、上記光学異方層の面内位相差についても関係式2を満たすことが理解できる。
そして、液晶を塗布する基材としてUV吸収特性に応じて種々の基材を使用できることも当業者にはよく知られたことである。
そのため、実施例で使用した液晶材料、基材等具体的な材料の詳細が記載されていないとしても、目的のUV吸収特性が定まりさえすれば、本件特許の出願時の当業者であれば、本件特許の発明の詳細な説明及び出願時の技術常識に基づき、液晶の組成を調整したり、液晶を塗布する基材をUV吸収特性に応じて適切に変更したりすることで、過度の試行錯誤なく、目的のUV吸収特性を有する(すなわち、上記の要件ア~ウを満たす)液晶層、補償フィルム及びフォルダブル円偏光板を得ることができる。
(2) 特許権者の主張に対する当審の判断
ア 特許権者は、乙第1号証を例示して、前記1(1)に示した要件を満たす液晶及び補償フィルムは、実施例で使用しているものに限らず、本件特許の出願時の当業者にはよく知られたものであり容易に入手できるものである旨主張しているが、そもそも乙第1号証は、本件特許の出願日(平成28年12月22日)よりも後の平成29年2月2日に公知となった文献であるから、乙第1号証の開示内容を根拠として、本件特許の出願時の当業者にはよく知られたものであるとの主張を採用することはできない。
イ 上記アの点は措くとしても、乙第1号証に開示された300nm以上380nm以下に極大吸収波長を有する重合性液晶化合物は、せいぜい前記1(1)に示した要件アのうちの、<光吸収特性>「液晶が420nm以下の波長領域の光を吸収すること」及び<面内位相差>「450nm、550nmおよび650nm波長に対する面内位相差は、関係式1または2を満たすこと」を満たすにとどまり、要件アの<構成要素>「液晶層が液晶からなること」を満たしていることまでは乙第1号証に開示されていない。
さらに、乙第1号証の重合性液晶化合物が、要件イや要件ウを満たすことなど開示されていない。
そうすると、乙第1号証の重合性液晶化合物は、要件ア~ウを同時に満たす液晶であるとはいえないから、特許権者の主張は、この点から見ても失当である。
ウ また、特許権者は、実施例で使用した液晶材料、基材等具体的な材料の詳細が記載されていないとしても、目的のUV吸収特性が定まりさえすれば、本件特許の発明の詳細な説明及び出願時の技術常識に基づき、液晶の組成を調整したり、液晶を塗布する基材をUV吸収特性に応じて適切に変更したりすることで、過度の試行錯誤なく、目的のUV吸収特性を有する(すなわち、要件ア~ウを満たす)液晶層、補償フィルム及びフォルダブル円偏光板を得ることができる旨主張している。
しかしながら、本件訂正により、添加剤や基材の助けがなくとも、液晶そのものにより前記1(1)の要件ア~ウが同時に満たされることが特定されたのであるから、液晶の組成を調整したり、液晶を塗布する基材をUV吸収特性に応じて適切に変更したりすることは、本件訂正発明が実施可能であるかどうかの判断材料として考慮すべきものではない。
そうすると、特許権者の上記主張は、本件訂正発明の特定事項に基づかないものであり、採用することはできない。
第8 むすび
以上のとおりであるから、請求項1、5~8、12に係る特許は、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、特許法113条4号に該当し、取り消されるべきものである。
請求項2~4、9~11は、本件訂正により削除された。これにより、請求項2~4、9~11に係る特許についての特許異議の申立ては、当該申立てに係る特許が存在しないこととなったため、不適法な特許異議の申立てであって、その補正をすることができないものであるといえるから、特許法120条の8第1項で準用する同法135条の規定により却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700709