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特許異議申立

2023-701139

GABAを有効成分とするサルコペニア予防または改善剤

審判番号
2023-701139
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2022-069343
登録番号
7308329
請求日
2023年10月26日
審決日
2025年06月17日
公報発行日
2025年10月31日
結論
請求成立(取消)
当事者
  • 【権利者】三和酒類株式会社
  • 【権利者代理人】須藤 晃伸
  • 【権利者代理人】須藤 阿佐子
  • 【権利者代理人】榛葉 貴宏
  • 【権利者代理人】鈴木 恵理子
  • 【異議申立人】角田 朗
  • 【異議申立人】上地 萌子
  • 【異議申立人】木村 昌明
  • 【異議申立人】菅野 歩
審判長/審判官
  • 審判長 原田 隆興
  • 審判官 渕野 留香
  • 審判官 吉田 佳代子
分類
P1651.537-ZAA(A61K) / P1651.113-ZAA(A61K)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条1項3号特許法36条6項2号特許法113条2号特許法113条4号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第7項、特許法第126条第7項、特許法第126条第5項、特許法第29条第2項、特許法第36条
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7308329号発明「GABAを有効成分とするサルコペニア予防または改善剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7308329号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~10〕について訂正することを認める。 特許第7308329号の請求項8及び10に係る特許を取り消す。 特許7308329号の請求項1~7、9に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7308329号の請求項1~10に係る特許についての出願は、令和4年4月20日に出願され、令和5年7月5日にその特許権の設定登録がされ、同年7月13日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯の概略は、次のとおりである。 令和5年10月26日 : 特許異議申立人 角田 朗(以下「申立人 A」という。)による請求項1、4、6、7 及び8に係る特許に対する特許異議の申立て 同年12月13日 : 特許異議申立人 上地 萌子(以下「申立人 B」という。)による請求項1~10に係る特 許に対する特許異議の申立て 令和6年 1月12日 : 特許異議申立人 木村 昌明(以下「申立人 C」という。)による請求項1~10に係る特 許に対する特許異議の申立て 同年 1月15日 : 特許異議申立人 菅野 歩(以下「申立人 D」という。)による請求項1~10に係る特 許に対する特許異議の申立て 同年 4月 4日付け:取消理由通知書 同年 5月31日 :特許権者による訂正請求書及び意見書の提出 同年 7月 4日 :申立人Aによる意見書の提出 同年 7月16日 :申立人Cによる意見書の提出 同年 7月17日 :申立人Dによる意見書の提出 同年 9月 9日付け:訂正拒絶理由通知 同年10月11日 :特許権者による意見書の提出 同年12月 4日付け:取消理由通知(決定の予告) 令和7年 1月15日 :面接審理 同年 2月 7日 :特許権者による訂正請求書及び意見書の提出 同年 4月 4日 :申立人Cによる意見書の提出 同年 4月 7日 :申立人Dによる意見書の提出 なお、令和6年5月31日に提出された訂正請求書による訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。 第2 訂正の適否 1 訂正の内容 令和7年2月7日にされた訂正(以下「本件訂正」という。)は、一群の請求項〔1~10〕に対して請求されたものであり、その内容は、以下の訂正事項1~9のとおりである。なお、下線は、訂正特許請求の範囲の記載のとおりである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1を削除する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2を削除する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3を削除する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項4を削除する。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項5を削除する。 (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項6を削除する。 (7)訂正事項7 特許請求の範囲の請求項7を削除する。 (8)訂正事項8 特許請求の範囲の請求項8に「請求項1または2に記載の剤を含む、筋量増加用飲食品組成物(ただし、トレーニングを伴うものを除く)。」と記載されているのを、「筋合成関連遺伝子発現促進用、筋合成促進用、筋萎縮関連遺伝子発現抑制用、筋萎縮抑制用、または筋タンパク質分解抑制用の、GABAを有効成分とするサルコペニア予防または改善飲食品(ただし、トレーニングを伴うものを除く)を含む、筋合成関連遺伝子発現促進用、筋合成促進用、筋萎縮関連遺伝子発現抑制用、筋萎縮抑制用、または筋タンパク質分解抑制用の筋量増加用飲食品組成物(ただし、トレーニングを伴うものを除く)。」に訂正する(請求項8の記載を直接的に引用する請求項10も同様に訂正する)。 (9)訂正事項9 特許請求の範囲の請求項9を削除する。 2 当審の判断 (1)訂正事項1~7及び9について 訂正事項1~7及び9は、請求項1~7及び9を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。 (2)訂正事項8について ア 訂正の目的について (ア)訂正事項8は、訂正前の請求項8における「請求項1または2に記載の剤を含む」の記載を、訂正後の「筋合成関連遺伝子発現促進用、筋合成促進用、筋萎縮関連遺伝子発現抑制用、筋萎縮抑制用、または筋タンパク質分解抑制用の、GABAを有効成分とするサルコペニア予防または改善飲食品(ただし、トレーニングを伴うものを除く)を含む」に訂正する訂正(「訂正事項8-1」という)、及び、訂正前の請求項8における「筋量増加用」という用途について、訂正後の「筋合成関連遺伝子発現促進用、筋合成促進用、筋萎縮関連遺伝子発現抑制用、筋萎縮抑制用、または筋タンパク質分解抑制用の」という記載を付加する訂正(「訂正事項8-2」という)を含むものである。 (イ)訂正事項8-1は、訂正前の請求項8において択一的に引用していた請求項1の選択肢を削除して、請求項2に記載の剤を含む場合に限定するとともに、請求項2に記載されていた「サルコペニア予防または改善剤」の「剤」を「飲食品」に限定し、さらに、当該限定した発明を他の請求項の記載を引用しないものとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものである。 (ウ)訂正事項8-2は、訂正前の請求項8における「筋量増加用」という用途について、訂正後の「筋合成関連遺伝子発現促進用、筋合成促進用、筋萎縮関連遺伝子発現抑制用、筋萎縮抑制用、または筋タンパク質分解抑制用の」という記載を付加して更に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定される特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (エ) したがって、訂正事項8は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものである。 イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であることについて 訂正事項8-1における「サルコペニア予防または改善飲食品」については、訂正前の請求項7に記載され、また本件特許明細書の【0019】にも、「本発明のサルコペニア予防または改善剤の実施の形態は、経口組成物用、飲食品(サプリメント)、食品添加物用の用途で利用されることが好ましい。」と記載される事項である。 また、訂正事項8-2における「筋合成関連遺伝子発現促進用、筋合成促進用、筋萎縮関連遺伝子発現抑制用、筋萎縮抑制用、または筋タンパク質分解抑制用」という用途については、訂正前の請求項2に記載され、また本件特許明細書の【0011】にも「・・・効果的に筋肉量を増加させ筋力の低下を抑制して、サルコペニアの予防や改善をすることが可能な筋合成関連遺伝子発現促進用、筋合成促進用、筋萎縮関連遺伝子発現抑制用、筋萎縮抑制用、または筋タンパク質分解抑制用の剤を提供することである。」(下線は合議体が付したものである。以下同様。)と記載される事項である。 したがって、訂正事項8は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。 ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことについて 前記アに説示したとおり、訂正事項8は、特許請求の範囲を減縮するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではない。 したがって、訂正事項8は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 エ 請求項8の記載を引用する請求項10についての訂正も同様である。 (3)特許出願の際に独立して特許を受けることができることについて 全ての請求項に対して、特許異議の申立てがされているので、訂正事項1~8に関し、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。 (4)まとめ 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。 る。 よって、本件特許の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~10〕について訂正することを認める。 第3 訂正発明 上記第2のとおり、本件訂正が認められたので、本件特許第7308329号(以下「本件特許」という。)の請求項8及び10に係る発明は、以下に示す本件訂正後の特許請求の範囲の請求項8及び10に記載された事項により特定されるとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明8」及び「本件発明10」といい、まとめて「本件発明」ということもある。)。 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 (削除) 【請求項2】 (削除) 【請求項3】 (削除) 【請求項4】 (削除) 【請求項5】 (削除) 【請求項6】 (削除) 【請求項7】 (削除) 【請求項8】 筋合成関連遺伝子発現促進用、筋合成促進用、筋萎縮関連遺伝子発現抑制用、筋萎縮抑制用、または筋タンパク質分解抑制用の、GABAを有効成分とするサルコペニア予防または改善飲食品(ただし、トレーニングを伴うものを除く)を含む、筋合成関連遺伝子発現促進用、筋合成促進用、筋萎縮関連遺伝子発現抑制用、筋萎縮抑制用、または筋タンパク質分解抑制用の筋量増加用飲食品組成物(ただし、トレーニングを伴うものを除く)。 【請求項9】 (削除) 【請求項10】 筋芽細胞の細胞増殖を促進するための、分化制御因子MyoDおよび/または転写コアクチベーターPGC-1α の発現を増加させるための、または筋肉増殖抑制因子Myostatinの発現を抑制するための、請求項8に記載の飲食品組成物。」 第4 取消理由の概要 本件特許に対して、当審が令和6年12月4日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)は、概略次のとおりである。 取消理由1(明確性) 本件特許出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号の規定する要件を満たしておらず、本件特許登録時の請求項1~10に係る特許は、前記規定に違反してされたものである。 取消理由2(新規性) 本件特許登録時の請求項1~10に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものである。 取消理由3(進歩性) 本件特許登録時の請求項1~10に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 <引用文献等一覧> 申立人A~Dがそれぞれ提出した証拠を、その番号に従い、甲A第1号証等という。 甲A第1号証:ALGAE、2016年、Vol.31、No.2、p.175-187(甲C第1号証及び甲D第1号証と同じ) 甲A第2号証:プロフェッショナルボス(G1060)、機能性表示商品データベース、2022年3月7日公開、https://web.archive.org/web/20220307094712/https://db.plusaid.jp/foods/g1060(甲D第4号証と同じ商品に係る情報) 甲A第2+号証:プロフェッショナルボス(G1060)がウェブアーカイブされた日付が入ったヘッダー付きの甲A第2号証(合議体が職権で追加した文献) 甲C第2号証:愛媛県工業系研究報告、2007年、No.45、p.29-34 甲C第16号証:広辞苑第七版、第一刷、株式会社岩波書店、2018年1月12日発行、2138頁 甲C第17号証:健康づくりのための身体活動基準2013(概要)、厚生労働省、2013年3月18日発行、http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002xple.html なお、甲A第2号証は、下記記載事項にあるように、2021年12月28日に消費者庁に届け出られた届出番号G1060の商品に関する情報であり、甲A第2+号証に記載されるように、2022年3月7日には、インターネットで閲覧可能になっていたものである。 第5 当審の判断 1 甲号証 (1)甲A第1号証:ALGAE、2016年、Vol.31、No.2、p.175-187(以下「甲A-1」という。)に記載された事項及び発明 ア 甲A-1に記載された事項 当審において通知された取消理由(決定の予告)で引用された甲A-1には、以下の記載がある。なお、甲A-1は、外国語の文献であるため、合議体による翻訳文を記す。 また、下線は合議体によって付したものである。 (A-1-1) 「γ-アミノ酪酸強化発酵昆布(Laminaria japonica)の中年女性における脳由来神経栄養因子関連筋成長と脂肪分解に及ぼす効果」(標題) (A-1-2) 「 機能性食品としてのγ-アミノ酪酸(GABA)強化発酵昆布(GFST)が、サルコペニア肥満高リスク群における脳由来神経栄養因子(BDNF)関連筋成長と脂肪分解に及ぼす影響を評価した。21名の中年女性(53~63歳)が、このランダム化二重盲検プラセボ対照研究に参加した。参加者は、8週間にわたり、1,000mgのGFST(n=10)又はショ糖プラセボ(CON)(n=11)を毎日摂取した。被験者は、定期的な運動を控えるよう依頼された。空腹時の静脈血サンプル、体組成及び筋力をサプリメント摂取の前後に測定した。まとめると、我々は、GFSTが体組成の総脂肪量とトリグリセリドを有意に減少させ、血清BDNF(p<0.001)、アンジオテンシン変換酵素(p<0.001)、ヒト成長ホルモン及びインスリン様成長因子1レベル(それぞれp<0.05、p<0.05)、総除脂肪体重(p<0.01)を有意に増加させることを実証した。さらに、60°s-lでの膝の伸展と屈曲(p<0.05)の総作業量、及び60°s-lでの膝屈曲の体重に対して正規化されたピークトルク(p<0.05)の改善が報告されており、成長因子レベルの増加に伴うGABAのエルゴジェニック効果を裏付けている。機能性食品成分としてGFSTを使用すると、抗肥満効果を引き出し、血清BDNFレベルの上昇に伴って筋肉関連成長因子の放出を刺激することができ、サルコペニア肥満などの加齢変性に対する保護介入となる可能性がある。」(要約) (A-1-3) 「材料と方法 参加者 この無作為二重盲検プラセボ対照試験には、21名の中年女性(53~63歳)が参加した(表1)。高血圧、慢性変性疾患(関節炎)、糖尿病、肥満、及び心血管疾患を患っている被験者は試験から除外した。実験期間前のサプリメント摂取による副作用、又は、特定の薬物服用による参加不能は、除外の対象となった。すべての参加者は、適度な有酸素運動(週1~2回)を行っており、身体的に活発であった。すべての参加者は、本研究に参加するための書面によるインフォームド・コンセントを記入し、慶星大学倫理委員会(KSU-14-05-002)の承認を得た。 Lactobacillus brevis(ラクトバチルス・ブレビス)BJ20によるGFSTの調製及びプラセボ GFSTは、以前採用されたが修正された手順(Park et al.)で調製した。コンブを水に1:15(w/v)の割合で添加し、酵母エキス及びグルコースを、混合液に添加したコンブの量に基づいて添加した。121℃で30分間オートクレーブした後、コンブの溶液を得、これにLactobacillus brevis BJ20(アクセッションNo. KCTC 11377BP)の培養ブロスを1.2%(v/v)の濃度で添加し(表2)、混合した後、37℃で2日間培養した(図1)。発酵コンブ250mg、乳糖61mg、セルロース32mg、HPC5mg、SiO2 30mg、ステアリン酸マグネシウム7mgを混合し、臨床試験用のソフトカプセルを作製した。プラセボは、乳糖311mg、セルロース32mg、HPC5mg、SiO230mg、ステアリン酸マグネシウム7mgを混合し作製された。 調製プロセスにおいて、GABA含量はGFST1,000mg中40-60mgの範囲に制御された。高速液体クロマトグラフィー分析に基づき、本研究で使用したGFST中のGABAの平均含有量は54.5±0.71mg g-1であることが確認された。 一般プロトコール 試験期間中、被験者は8週間、毎日1,000mgのGFST (n=10)またはショ糖プラセボ(n=11)を摂取した。被験者は定期的な運動を控えるよう求められた。空腹時静脈血サンプルを8週間の期間の前後に採取した。 身体組成 総除脂肪体重(TLM)及び総脂肪体重(TFM)の測定は、健康増進医療センター(韓国、釜山)でDEXA (Dual Energy X-ray Absorptiometry; Discovery QDR Hologic, Bedford, MA, USA)を用いて行われた。被験者にはローブを着用させ、専門的な訓練を受けたアシスタントが全身を15分かけて測定した。」(176頁右欄18行~177頁左欄12行) (A-1-4) 「結果 身体組成 GFST群とCON群の試験前後の値を比較したところ、TLMの群間差は有意に異なることが示された(p<O.01)(図2H)。しかし、群内有意差は認められなかった。TFMは、GFST群で有意に減少したが(p<O.05)、CON群では減少しなかった(図2I)。 (A-1-5) 「 [図:0001427907000001.jpg] 図2 形態、代謝、ホルモン、神経栄養因子の血中濃度の変化:・・・総除脂肪体重(H)、・・・各バーは平均±標準偏差を表す。スチューデント対t検定とANCOVA解析は群内及び群間の差についてそれぞれ行った。有意差は以下のとおり:*p<0.05、**p<0.01、***p<0.0001 GFST、γ-アミノ酪酸富化発酵昆布;CON、プラセボ 」(図2H) (A-1-6) 「 [図:0001427907000002.jpg] 図3 筋力パラメーターの変化。下肢の強さは60°sにおける伸展(A)及び屈曲(B)の総作業量(T/Work)、及び、体重で正規化した60°sにおける伸展(C)及び屈曲(D)のピークトルク(PeakTQ/BW)として試験前後に測定した。スチューデント対検定t-テスト及びANCOVA解析は群内及び群間の差についてそれぞれ行った。有意差は以下のとおり:p<0.05、p<0.01、p<0.0001」(図3) (A-1-7) 「昆布は、中国、日本、韓国で調味料や食用食材として頻繁に広く使用されている。昆布は、タンパク質、アミノ酸、ミネラル、ポリフェノール、食物繊維を豊富に含む不溶性セルロースから構成されている(Cha ら、2011a)。Lactobacillus brevis BJ20を用いた高度に特殊な乳酸発酵プロセスにかけると、昆布の中のグルタミン酸がγ-アミノ酪酸(GABA)に生物変換される。GABAは非タンパク質アミノ酸で、中枢神経系において抑制性神経伝達物質として特異的に機能する。GABAには、血圧降下作用や利尿作用、精神安定作用があることが報告されている(井上ら、2003)。さらに、GABAを豊富に含む発酵シータングル(GFST)の摂取は、肝臓保護効果(Leeら、2010b、Chaら、2011b)、抗酸化レベル(Leeら、201Oa)、肥満状態、ストレス管理(Okaiら、1993、Youら、2009)の改善と関連している。GABAの補給は、健康な男性におけるヒト成長ホルモン(HGH)レベルの上昇(Cavagniniら、1980b)や、トレーニングを受けた男性において、これを通じた、脂肪分解や骨格筋タンパク質の付加などの基質代謝にさらなる効果をもたらす可能性がある(Turnerら、1988、De Paloら、2006)。アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害効果も、GABA強化食品摂取後に証明されており、骨格筋機能の強化に寄与している可能性がある(Witham ら、 2008)。」(2頁左欄2段落) (A-1-8) 「結論として、機能性食品、特にGFSTを使用して血中GABA濃度を上昇させることは、血清BDNFを含む筋肉関連成長因子の放出を刺激し、/あるいは基質代謝に影響を与え、サルコペニア肥満のような加齢に関連した病態に対する安全で保護的な介入を提供する可能性がある。しかし、機能性食品としてのGFSTと、サルコペニア肥満のような病態における使用の可能性に関するさらなる研究に取り組むべきである。」(9頁右欄3段落) イ 甲A-1に記載された発明 前記アの記載事項に基づけば、甲A-1には、以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認める。 「γ-アミノ酪酸(GABA)強化発酵昆布(GFST)を含み、一日のGABA摂取量が40-60mgであり、定期的な運動を行うことなく、筋肉関連成長因子の放出を刺激し、総除脂肪体重及び筋力を増加させ、サルコペニアなどの加齢変性に対して保護介入するための機能性食品。」 (2) 甲A第2号証:プロフェッショナルボス(G1060)、機能性表示商品データベース、2022年3月7日公開、https://web.archive.org/web/20220307094712/https://db.plusaid.jp/foods/g1060(以下「甲A-2」という。)に記載された事項及び発明 ア 甲A-2に記載された事項 当審において通知された取消理由で引用された甲A-2には以下の事項が記載されている。また、下線は合議体が付したものである。以下、他の文献も同様である。 (A-2-1) 「 [図:0001427907000003.jpg] 商品詳細 届出番号 G1060 ・・・ 機能性関与成分名 GABA 1日あたりの含有量 100mg ・・・ 届出日 2021/12/28 ・・・ 食品分類 清涼飲料水 加工食品(その他)(コーヒー)」(1頁) (A-2-2) 「ア.標題 GABAによる筋肉量の維持作用に関する研究レビュー ・・・ ウ.背景 GABAは野菜や果物、穀物、発酵食品等の食品に広く含まれるアミノ酸の一種で、脳内において筋肉の成長と維持に関わる成長ホルモンを制御していることが知られている。また、筋肉量を維持するためには、運動に加えてアミノ酸を補給することが効果的であることが報告されており、筋肉量を維持することは、サルコペニアやロコモティブシンドローム、フレイル等の身体機能の低下を防ぎ、人々の健康の維持増進に繋がると考えられる。そこで、GABAを含む食品の摂取が、健常な中高年齢者において筋肉量の維持作用を示すか統合的に検証した。 エ.レビュー対象とした研究の特性 健常な中高年齢者において、GABAを含む食品の摂取が、プラセボ食品の摂取と比較して、筋肉量を維持する作用があるか検証した研究を収集した。国内外のデータベースを2020年7月17日に検索し、検索日以前に発表された文献を網羅的に集めたところ、条件を満たす文献は1報1研究で、ランダム化比較試験の査読付き(専門家により審査された)論文であった。 オ.主な結果 評価した1研究は、健常な中高年齢者に、日常の身体活動に伴い一日当たり54.5±0.071mgのGABAを含む食品を8週間摂取させることにより、除脂肪体重によって評価される筋肉量の維持作用において肯定的結果を示していた。本研究レビューの結果及び考察より、一日当たりGABAを100mg配合した当該製品の摂取によって、加齢による筋肉量の低下が気になる方において、日常の身体活動により筋肉量を維持する作用が期待できると考えられた。」(2頁、機能性の欄) イ 甲A-2+に記載された事項 当審において通知された取消理由で引用された甲A-2+には以下の事項が記載されている。 「 [図:0001427907000004.jpg] 」 ウ 甲A-2に記載された発明 前記アの記載事項に基づけば、甲A-2には、以下の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されている。 「GABAを機能性成分として含み、1日当たりの含有量が100mgである、加齢による筋肉量の低下が気になる方において、日常の身体活動により筋肉量を維持し、サルコペニアやロコモティブシンドローム、フレイル等の身体機能の低下を防ぎ、人々の健康の維持増進するための加工食品。」 (3)甲C第2号証:愛媛県工業系研究報告、2007年、No.45、p.29-34(以下「甲C-2」 という。)に記載された事項 (C-2-1) 「最近、注目されている機能性成分GABA(γ-アミノ酪酸)は、生鮮野菜にも含まれ、加工品では特に味噌漬、糠漬等の漬物に多く含まれていることが知られている。」(29頁左欄10~12行) (4)甲C第16号証:広辞苑第七版、第一刷、株式会社岩波書店、2018年1月12日発行、2138頁(以下「甲C-16」という。)に記載された事項 (C-16-1) 「トレーニング【training】訓練。練習。鍛錬。「-に励む」」(トレーニングの項) (5)甲C第17号証:健康づくりのための身体活動基準2013(概要)、厚生労働省、2013年3月18日発行、http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002xple.html(以下「甲C-17」という。)に記載された事項 (C-17-1) 「 [図:0001427907000005.jpg] 」(1頁の表) 2 取消理由1(明確性)について (1)判断 ア 本件発明8は、「筋量増加用飲食品組成物(ただし、トレーニングを伴うものを除く)」を発明特定事項としている。 イ ここで、本件発明8は、公知の化合物である「GABA」を有効成分とし、本件特許明細書の発明の詳細な説明(以下「発明の詳細な説明」という。)【0012】において「本発明者は鋭意研究した結果、γ-アミノ酪酸(GABA)が、筋芽細胞の増殖促進作用、筋合成を促進する作用、筋肉量を増加させる作用、筋萎縮を抑制する作用、筋タンパク質の分解を抑制する作用を有することを見出し、本発明を完成するに至った。」と記載されていることからみて、本件発明8は、公知の物の未知の属性を発見したことに基づく用途発明であると認められるところ、前記「ただし、トレーニングを伴うものを除く」という特定事項は、「筋量増加用」という用途、すなわち、筋量増加のために使用するに際して、トレーニングを伴って使用する態様を除外することを特定するものといえる。 しかしながら、本件発明8における「トレーニングを伴う」について、発明の詳細な説明において説明されているのは、【0008】における「特許文献2には、トレーニングによる持久力の向上効果を増強させるための、GABAを含有する筋持久力向上用組成物が記載されている。この持久力向上効果は、GABA摂取時にトレーニングによる運動負荷を伴う場合に限定され、運動負荷のないGABA摂取では、効果がないことが記載されている。」という説明のみであり本件発明における「トレーニングを伴う」を定義する記載はない。 ウ 一方、一般的に「トレーニング」という用語は、「訓練。練習。鍛錬。」を意味するものであるところ(前記1(4)C-16-1)、「健康づくりのため」に必要とされる「身体活動」には、「日常生活における労働、家事、通勤・通学などの身体活動を指す」、「生活活動」と、「スポーツ等の、特に体力の維持・向上を目的として計画的・意図的に実施し、持続性のある身体活動を指す」「運動」とが含まれ、その強度は年齢によって異なり、65歳以上では「強度を問わず、身体活動を毎日40分」行えば、健康づくりには役立つ身体活動を行っている、すなわち「トレーニング(鍛錬)」になることが技術常識であった(前記1(5)C-17-1)。 特に、発明の詳細な説明【0002】、【0003】及び【0011】に説明されているように、本件発明8は、70歳台から80歳を超える高齢者におけるサルコペニアを予防または改善することを課題とするものであり、このような高齢者にとっては、家の中を歩いたり、階段を昇降するような日常的な「生活活動」であっても、動かないよりは健康づくりのために役立つこととなり、一日を通じて何度も繰り返しトレーニングを行っているものとも解される。 エ このように、対象者の年齢や健康状態によって身体を鍛錬するために必要な運動負荷量が異なるものであるため、本件発明8において除かれる「トレーニング」が、どのような運動負荷量のものを指すのか、明確に把握することができない。 また、上述のような日常的な身体活動(生活活動及び運動)がトレーニングに含まれる場合、一日を通じて何度も繰り返しトレーニングが行われることにもなり、GABAの摂取から身体活動を行うまでの時間間隔がどの程度の範囲であれば、「トレーニングを伴」い、あるいは、「トレーニングを伴わない」ことになるのかも、明確に把握することができない。 そうすると、本件発明8における「トレーニングを伴うものを除く」という態様を明確に把握することができないことになるため、結局、前記態様を除いた本件発明8の範囲も明確に把握することができない。 オ 請求項8を引用する本件発明10についても同様である。 (2)特許権者の主張について ア 特許権者は、令和7年2月7日提出の意見書(4頁下から7行~6頁最終行)において、本件発明8及び10における除くクレームは、本件特許出願に係る審査の過程において、先行技術文献として示された引用文献1(食品の包装,2021年,Vol.52,No.2,pp.80-83)及び特許文献2(特開2021-132645号公報;甲B第7号証に同じ。)に記載される「引用発明のそれぞれとの重なりのみを除外することを明示した」ものであり、本件発明8及び10から除かれるトレーニングはそれぞれ「計画的・意図的に実施する持続性のある運動のうち、プロテイン摂取と併用して筋肉量を増加させるトレーニング」及び「計画的・意図的に実施する持続性のある運動のうち、持久力を向上させるトレーニング」であるから、本件発明8及び10は明確である旨を主張している。 イ しかしながら、特許法36条6項2号の定める要件を充足するか否かは、特許請求の範囲の記載、並びに願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきものであり、特許権者の主張する上記先行技術文献の内容に関わらず、本件発明8における「トレーニングを伴うものを除く」という文言自体を明確に把握することができないことは、前記(1)に説示したとおりである。 以下念のため検討する。 ウ 引用文献1(食品の包装,2021年,Vol.52,No.2,pp.80-83)に記載される「トレーニング」について 引用文献1には、筋量増加に関し、以下の記載がある。 「3.GABAの筋肉増加効果 GABAは脳下垂体に作用し、成長ホルモン(GH)の分泌を促すことが報告されている9)。GHはインスリン様成長因子-1を介して筋肉の世知用に働くことが示唆させることから18)、我々はGABAの摂取が筋肉の増加に影響を及ぼす可能性があると考え、無作為化プラセボ対照二重盲検試験により検証した11)。健常男性を対象とし、12週間にわたり週2回の軽いレジスタンス運動をさせながら、ホエイプロテイン10gとGABA100mgを共摂取させた(WP+G群)。ホエイプロテインは筋肉を作る原材料として、GABAは筋肉合成を促すブースターとしての位置づけである。対照群として10gのホエイプロテインを単独摂取する群(WP群)を設定した。その結果、WP群に比べて、WP+G群では血中GH濃度がトレーニング初期から顕著な上昇を示した。また、WP+G群では全身の除脂肪量(=(合議体注:原文は「=」の上下に「・」)筋肉量)が1.34kg増加し、WP群(0.146kg増加)に比べて有意に筋肉量が増加した(図6)。GABAはプロテイン摂取および軽いトレーニングと併用することで、筋肉量の増加を促すことが明らかとなった。」(81頁右欄1~最終行) 上記のとおり、引用文献1には筋量増加に併用される「トレーニング」に関し、特許権者が主張するような「計画的・意図的に実施する持続性のある運動のうち、プロテイン摂取と併用して筋肉量を増加させるトレーニング」と定義する記載はなく、「健常男性を対象とし、12週間にわたり週2回の軽いレジスタンス運動をさせながら、ホエイプロテイン10gとGABA100mgを共摂取させた。」と説明されるのみであり、「健常男性」の行った「軽いレジスタンス運動」がどの程度の負荷量であったのかは何ら説明がない。 また、引用文献1に記載される「軽いレジスタンス運動」が、特許権者が主張する「計画的・意図的に実施する持続性のある運動のうち、プロテイン摂取と併用して筋肉量を増加させるトレーニング」であると解しても、どの程度の期間及び頻度で行われる運動が「持続性のある運動」に該当するのかを明確に把握することはできない。 さらに、引用文献1に記載されるトレーニングは「12週間にわたり週2回」の頻度で行われたトレーニングのみであるところ、本件発明8及び10から除かれるトレーニングは、期間及び頻度の特定されない「計画的・意図的に実施する持続性のある運動のうち、プロテイン摂取と併用して筋肉量を増加させるトレーニング」が除かれるという特許権者の説明は、「引用文献1に記載される引用発明との重なりのみを除外する」という主張と明らかに矛盾している。 このように、特許権者の主張に矛盾が生じること自体が、引用文献1の上記記載のみでは、除外される「トレーニングを伴う」範囲を明確に把握することができない証左ともいえる。 エ 特許文献2(特開2021-132645号公報)に記載される「トレーニング」について 特許文献2には以下の記載がある。 「【0016】 本開示の一実施形態において、前記のようなGABAを含有する持久力向上用組成物を摂取するタイミングとしては、トレーニングに際して摂取することができ、この場合、トレーニングの開始前、開始後、またはトレーニング中のいずれにおいても摂取することが可能である。また本開示の一実施形態において、本開示の組成物は食事と一緒に摂取することができ、繰り返して日常的に摂取してもよい。トレーニングとしては、一定時間にわたって一定強度の負荷を与えるものであれば特に限られるものではなく、例えば、インターバルトレーニング、サーキットトレーニング、ウォーキング、ジョギング、ランニング、LSD(ロング・スロー・ディスタンス)、水泳、アクアビクス、サイクリング、エアロバイク、エアロビクス、クロスカントリースキー、STEPエクササイズ、及び低酸素トレーニングなどの全身持久力強化系のトレーニング;自重トレーニング、フリーウエイトトレーニング、チューブトレーニング、マシントレーニング、スロートレーニング、及びコアトレーニングなどを含む筋力強化系のトレーニング;プライオメトリックトレーニング、及びバリスティックストレーニングなどの瞬発力強化系のトレーニング;スプリントトレーニング、及びクイックネストレーニングなどの敏捷性強化系のトレーニング;スタビライゼーションなどのバランス(平衡性)トレーニング;ストレッチ、及びPNFストレッチなどの柔軟性トレーニングなどを挙げることができる。また、他の実施形態において、トレーニングとしては、スポーツや有酸素運動および無酸素運動を含むいわゆる運動活動に加えて、日常生活における筋肉労働や一定以上の負荷を加えた身体活動も含むことができる。 ・・・ 【0018】 本開示の一実施形態において、本開示の組成物によって持久力の向上効果が増強されるトレーニングの強度は、ウォーキングやジョギングなどの低~中強度以上のものであればよく、好ましくは約2メッツ以上、約3メッツ以上、約4メッツ以上、約5メッツ以上、約6メッツ以上、約7メッツ以上、約8メッツ以上、約9メッツ以上、約10メッツ以上、約11メッツ以上、約12メッツ以上、約13メッツ以上、約14メッツ以上、または約15メッツ以上のトレーニングであってもよい。メッツ(METs)とは、単位時間あたり体重1kgあたりの酸素摂取量で表されるトレーニング強度の指標であり、安静時における酸素摂取量(3.5mL/kg/分)を1メッツとし、3~6メッツが中等度強度運動、7メッツ以上が高強度運動となる。」 上記のとおり、特許文献2には「トレーニング」について、「一定時間にわたって一定強度の負荷を与えるものであれば特に限られるものではなく」、「ウォーキングやジョギングなどの低~中強度以上のものであればよく、好ましくは約2メッツ以上」、すなわち「安静時」の「1メッツ」より高い強度であればよく、「日常生活における筋肉労働や一定以上の負荷を加えた身体活動」も含まれることが説明されており、特許権者が主張するような「計画的・意図的に実施する持続性のある運動のうち、持久力を向上させるトレーニング」として定義されていない。 また、特許文献2に記載される「トレーニング」が、特許権者が主張する「計画的・意図的に実施する持続性のある運動のうち、持久力を向上させるトレーニング」であると解しても、どのようなトレーニングが「持続性のある」、「持久力を向上させるトレーニング」に該当するのかを明確に把握することはできない。 さらに、特許文献2には「トレーニングに際して摂取する」「タイミング」について、「トレーニングの開始前、開始後、またはトレーニング中のいずれにおいても摂取することが可能であ」り、「食事と一緒に摂取することができ、繰り返して日常的に摂取してもよい」と説明されており、摂取する「タイミング」についても、例えばトレーニングの前後30分以内、というような、明確な定義はない。 オ 以上のとおりであるから、本件発明における「除くクレーム」が、本件発明8及び10において、引用文献1及び特許文献2との重なりとなる「トレーニング」を伴うものを除くと解した場合であっても、当該重なりとなる「トレーニング」の範囲を明確に把握することはできない。 また、引用文献1及び特許文献2に開示される「トレーニングを伴う」といえる「トレーニング」と「摂取」のタイミングについても明確に把握することはできない。 したがって、特許権者の主張を採用することはできず、「トレーニングを伴うものを除」いた本件発明8及び10は不明確である。 (3)小括 以上のとおりであるから、本件特許は、特許法第36条第6項第2号の規定する要件を満たしていない。 3 取消理由2(新規性)について 前記2において指摘したとおり、本件発明における「トレーニングを伴う」の定義が不明確であるため、以下の取消理由では、GABAを摂取し、スポーツ等の、特に体力の維持・向上を目的として計画的・意図的に実施し、持続性のある運動を行う場合を、「トレーニングを伴うもの」として判断した。 (1)甲A-1に基づく新規性について ア 本件発明8について (ア)対比 本件発明8と引用発明1とを対比する。 引用発明1における「γ-アミノ酪酸(GABA)強化発酵昆布(GFST)」に含まれる「GABA」について、「一日の摂取量」が特定され、「GABAのエルゴジェニック効果」(前記1(1)ア(A-1-2))と記載されている。また、甲A-1には、従来からGABAが肥満状態や骨格筋機能強化に寄与すると報告されていたことが説明され(前記1(1)ア(A-1-7)、「機能性食品、特にGFSTを使用して血中GABA濃度を上昇させることは、血清BDNFを含む筋肉関連成長因子の放出を刺激し、/あるいは基質代謝に影響を与え」ること(前記1(1)ア(A-1-8))が記載されている。さらに、前記1(3)に記載されるように、GABAが食品中に含まれる「機能性成分」として注目されていたという本件特許出願時における技術常識をも考慮すれば、引用発明1の「γ-アミノ酪酸(GABA)強化発酵昆布(GFST)」に含まれる「GABA」は、本件発明8における「有効成分」であるといえる。 次に、引用発明1における「サルコペニアなどの加齢性変性に対して保護介入するため」は、本件発明8における「サルコペニア予防または改善」に相当し、引用発明1における「発酵昆布」を含む「機能性食品」は、本件発明8における「飲食品」を含む「飲食品組成物」に相当する。 また、引用発明1における「定期的な運動を行うことなく」は、前記3の冒頭において説示した「GABAの摂取と同時に、スポーツ等の、特に体力の維持・向上を目的として計画的・意図的に実施し、持続性のある運動を行う」ものではないから、本件発明8における「トレーニングを伴うものを除く」に相当する。 さらに、引用発明1における「総除脂肪体重」は、「筋肉量」の評価に使用される指標であることは技術常識であるから(必要であれば、前記1(2)ア(A-2-2)を参照。)、引用発明1における「総除脂肪体重」を「増加させ」「るため」は、本件発明8における「筋量増加用」に相当する。 そうすると、本件発明8と引用発明1とは、以下の点で一致し、また相違する。 <一致点> 「GABAを有効成分とするサルコペニア予防または改善飲食品(ただし、トレーニングを伴うものを除く)を含む、筋量増加用飲食品組成物(ただし、トレーニングを伴うものを除く)。」 <相違点> 本件発明8は「サルコペニア予防または改善飲食品」及び「筋量増加用飲食品組成物」のそれぞれについて、「筋合成関連遺伝子発現促進用、筋合成促進用、筋萎縮関連遺伝子発現抑制用、筋萎縮抑制用、または筋タンパク質分解抑制用の」と特定されているのに対し、引用発明1にはそのような特定がない点で相違する。 (イ)相違点について検討する。 上記相違点は、本件発明8における「サルコペニア予防または改善飲食品」の用途を、さらに「筋合成関連遺伝子発現促進用、筋合成促進用、筋萎縮関連遺伝子発現抑制用、筋萎縮抑制用、または筋タンパク質分解抑制用の」と特定する記載については、当該飲食品を含む「筋量増加用飲食品組成物」自体の用途の特定には役立っておらず、実質的な相違点とはならない。 次に、「筋力増加用飲食品組成物」の用途を、さらに「筋合成関連遺伝子発現促進用、筋合成促進用、筋萎縮関連遺伝子発現抑制用、筋萎縮抑制用、または筋タンパク質分解抑制用の」と特定する記載については、投与対象や、投与量、投与経路等といった「筋量増加用飲食品組成物」の使い方を具体的に特定する記載とはなっておらず、本件出願当時の技術常識を考慮しても、請求項8の記載のみからでは、具体的にどのように使用した場合に、「筋合成関連遺伝子発現促進用、筋合成促進用、筋萎縮関連遺伝子発現抑制用、筋萎縮抑制用、または筋タンパク質分解抑制用」として使用することになるのかが明らかではない。 そこで、発明の詳細な説明を参照すると、「筋合成関連遺伝子発現促進用、筋合成促進用、筋萎縮関連遺伝子発現抑制用、筋萎縮抑制用、または筋タンパク質分解抑制用」という特定事項に関し、以下の説明がある。 (ウ) 発明の詳細な説明の記載 【0012】 ・・・ γ-アミノ酪酸(GABA)が、筋芽細胞の増殖促進作用、筋合成を促進する作用、筋肉量を増加させる作用、筋萎縮を抑制する作用、筋タンパク質の分解を抑制する作用を有することを見出し、本発明を完成するに至った。 【0015】 本発明によれば、新たな筋合成関連遺伝子発現促進剤、筋合成促進剤、筋萎縮関連遺伝子発現抑制剤、筋萎縮抑制剤、または筋タンパク質分解抑制剤を提供できる。 これまでに副作用の報告がなく、食品としての利用が可能である安全なGABAを有効成分とするため、長期間の継続投与および継続摂取が可能である。その結果、筋肉の機能の低下を抑え、最終的に筋萎縮あるいはサルコペニアの進行を抑制し、寝たきりを予防するための健康食品、飲食品、または医薬として利用できる。 【0024】 本発明者は、筋肉の元となる筋芽細胞にGABAを曝露し、GABAが直接的に筋肉細胞に与える影響を調べた。評価項目は、筋芽細胞の細胞増殖と、MyoD、PGC-1α、およびMyostatinの遺伝子およびタンパク質の発現量とした。 MyoDは筋肉細胞への分化因子として重要視されており、たとえば、線維芽細胞といった非筋肉細胞にMyoDを何らかの方法で強制的に発現させると筋肉細胞に変化することが知られている。転写コアクチベーターPGC-1αはミトコンドリア生合成を活性化する因子であり、筋管細胞から筋線維への分化にも関連しているといわれている。Myostatinは骨格筋の増殖を抑制する筋肉増殖抑制因子であり、発現増加により筋萎縮、筋タンパク質分解を引き起こす。 【0025】 実験の結果、GABAは筋芽細胞の細胞増殖を有意に促進すること、筋芽細胞におけるMyoDおよびPGC-1αの発現を有意に増加させること、およびMyostatinの発現を有意に減少させることが確認された。GABAを筋細胞に供給することができれば、筋肉量の増加を促進し、筋肉量の減少を抑制することにより、健康寿命に大きな影響を与えるサルコペニアを予防あるいは改善する効果が期待される。 【0026】 GABAは、筋芽細胞の細胞増殖を促進する作用を有しているため、筋合成促進剤、筋量増加剤として用いることが可能である。 また、GABAは筋合成関連遺伝子の発現を促進する作用を有しているため、筋合成関連遺伝子発現促進剤、筋合成促進剤、筋量増加剤として用いることが可能である。GABAによって発現が促進される筋合成関連遺伝子の例としては、分化制御因子MyoDや転写コアクチベーターPGC-1αが例示される。 また、GABAは筋萎縮関連遺伝子の発現を抑制する作用を有しているため、筋萎縮関連遺伝子発現抑制剤、筋萎縮抑制剤、筋タンパク質分解抑制剤として用いることが可能である。GABAによって発現が促進される筋萎縮関連遺伝子の例としては、筋肉増殖抑制因子Myostatinが例示される。 (エ) 前記(ウ)の記載に基づけば、本件発明8における「筋合成関連遺伝子発現促進用、筋合成促進用、筋萎縮関連遺伝子発現抑制用、筋萎縮抑制用、または筋タンパク質分解抑制用」における「筋合成関連遺伝子」及び「筋萎縮関連遺伝子」とは、それぞれ「分化制御因子MyoDや転写コアクチベーターPGC-1α」及び「筋肉増殖抑制因子Myostatin」を指し、「筋合成促進」、「筋萎縮抑制」及び「筋タンパク質分解抑制」とは、これらの遺伝子の発現に基づく作用であることが理解できる。 そして、本件発明8における「筋合成関連遺伝子発現促進用、筋合成促進用、筋萎縮関連遺伝子発現抑制用、筋萎縮抑制用、または筋タンパク質分解抑制用」という用途は、「筋肉の元となる筋芽細胞にGABAを曝露」すると、「筋芽細胞の細胞増殖を有意に促進」し、「筋芽細胞におけるMyoDおよびPGC-1αの発現を有意に増加させ」、及び「Myostatinの発現を有意に減少させる」というGABAの活性を介して、「筋肉細胞に」「影響」を「与え」、「筋肉量の増加を促進し、筋肉量の減少を抑制することにより、健康寿命に大きな影響を与えるサルコペニアを予防あるいは改善する」ものであり、結局のところ、有効成分であるGABAを、「筋量増加」を目的として「筋細胞に供給することができる」ように投与されればよいものであって、「サルコペニア予防または改善飲食品」「を含む」「筋量増加用飲食品組成物」を使用するに際し、さらに用法・用量、投与対象等を限定するものではない。 (オ) そうすると、本件発明8と引用発明1とは、後者に「筋合成関連遺伝子発現促進用、筋合成促進用、筋萎縮関連遺伝子発現抑制用、筋萎縮抑制用、または筋タンパク質分解抑制用の」という特定がない点で一応相違するものの、同じ有効成分である「GABA」を、同じ「筋量増加」が必要な対象に対して投与するという点において、両者の具体的な使用態様は区別し得ないものであり、引用発明1においても、当然本件発明8と同じように、GABAに固有の活性を介して筋肉細胞に影響を与えるものといえるから、「筋量増加用飲食品組成物(ただし、トレーニングを伴うものを除く)」の「筋量増加用」という用途において、本件発明8と引用発明1とを区別することはできない。 (カ)特許権者は、令和7年2月7日提出の意見書(11頁下から2行~12頁18行)において、本件発明8は、飲食品組成物に係る発明であり、GABAの有する未知の属性を発見したことに基づく新たな用途を提供するものであり、甲A-1及び甲A-2と区別される新たな用途発明である旨を主張するに留まり、甲A-1及び甲A-2に記載される飲食品組成物の用途とどのように区別し得るのか、具体的な使用方法における違いについては何も釈明しなかった。 (キ)したがって、本件発明8が、GABAの有する未知の属性の発見に基づくものであるとしても、新たな用途を提供するものとはいえない。 よって、本件発明8と引用発明1とに実質的な相違点はなく、本件発明8は、甲A-1に記載された発明である。 イ 本件発明10について 本件発明10は、本件発明8における「筋量増加用飲食品組成物」の用途に、さらに「筋芽細胞の細胞増殖を促進するための、分化制御因子MyoDおよび/または転写コアクチベーターPGC-1αの発現を増加させるための、または、筋肉増殖抑制因子Myostatinの発現を抑制するための」という特定を付加するものである。 しかしながら、これらの記載についても、前記アで検討した、「筋合成関連遺伝子発現促進用、筋合成促進用、筋萎縮関連遺伝子発現抑制用、筋萎縮抑制用、または筋タンパク質分解抑制用の」という特定と同様に、結局のところ、有効成分であるGABAを「筋量増加」を目的として「筋細胞に供給することができる」ように投与されればよいものであって、「サルコペニア予防または改善飲食品」「を含む」「筋量増加用飲食品組成物」を使用するに際し、さらに用法・用量、投与対象等を限定するものではない。 したがって、前記アで検討した本件発明8と同様に、本件発明10と引用発明1とに相違点はなく、本件発明10は、甲A-1に記載された発明である。 ウ 小括 以上のとおりであるから、本件発明8及び10は、甲A-1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。 (2)甲A-2に基づく新規性について ア 本件発明8について 本件発明8と引用発明2とを対比すると、本件発明8における「サルコペニア予防または改善飲食品」を含む「筋量増加用飲食品」は、引用発明2における「GABAを機能性成分として含み」及び「加齢による筋肉量の低下が気になる方において」「筋肉量を維持し、サルコペニア」「を防」ぐ「ための加工食品」は、それぞれ本件発明1における「GABAを有効成分とする」及び「サルコペニア予防または改善飲食品」「を含む」「筋量増加用飲食品組成物」に相当する。 また、引用発明2における「日常の身体活動により筋肉量を維持し」は、前記3の冒頭において説示したとおり、「GABAの摂取と同時に、スポーツ等の、特に体力の維持・向上を目的として計画的・意図的に実施し、持続性のある運動を行う」ものではないから、本件発明1における「トレーニングを伴うものを除く」に相当する。 そうすると、本件発明8と引用発明2とは、以下の点で一致し、また相違する。 <一致点> 「GABAを有効成分とするサルコペニア予防または改善飲食品(ただし、トレーニングを伴うものを除く)を含む、筋量増加用飲食品組成物(ただし、トレーニングを伴うものを除く)。」 <相違点> 本件発明8は「サルコペニア予防または改善飲食品」及び「筋量増加用飲食品組成物」のそれぞれについて、「筋合成関連遺伝子発現促進用、筋合成促進用、筋萎縮関連遺伝子発現抑制用、筋萎縮抑制用、または筋タンパク質分解抑制用の」と特定されているのに対し、引用発明2にはそのような特定がない点で相違する。 しかしながら、上記相違点については、前記(1)ア(イ)~(エ)において説示したとおり、「サルコペニア予防または改善飲食品」「を含む」「筋量増加用飲食品組成物」を使用するに際し、さらに用法・用量、投与対象等を限定するものではないから、「筋量増加用」という用途において、本件発明8と引用発明2とを区別することはできない。 したがって、本件発明8と引用発明2とに相違点はなく、本件発明8は、甲A-2に記載された発明である。 イ 特許権者は、令和6年5月31日提出の意見書(8頁7~11行)において、甲A-2は、「実験的裏付けのある完成した「発明」とはいえない」旨を主張している。 しかしながら、甲A-2(前記1(2)ア(A-2-2))には、「GABAを含む食品の摂取が、プラセボ食品の摂取と比較して、筋肉量を維持する作用があるか検証した研究」が「2020年7月17日」以前に公知であったことが記載されている。 そして、甲A-1(前記1(1)ア(A-1-7))の記載や本件特許明細書に記載される特許文献2の存在を考慮すれば、GABAが筋肉量維持に必要な様々な生理活性を有することは本件特許出願時に周知の事項であったといえる。 このような技術水準を知る当業者であれば、甲A-2の上記記載に疑いを挟む余地はなく、引用発明2が、当然に「加齢による筋肉量の低下が気になる方において、日常の身体活動により筋肉量を維持し、サルコペニアやロコモティブシンドローム、フレイル等の身体機能の低下を防ぎ、人々の健康の維持増進するため」に使用できると認識するものといえる。 したがって、特許権者の上記主張を採用することはできない。 ウ 本件発明10について 本件発明10における特定事項については、前記(1)イで説示したと同様である。 したがって、前記アで検討した本件発明8と同様に、本件発明10は、甲A-2に記載された発明である。 エ 小括 以上のとおりであるから、本件発明8及び10は、甲A-2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定に違反して特許されたものである。 4 むすび 以上のとおり、本件特許は、請求項8及び10の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たさない特許出願に対してなされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 また、本件発明8及び10は、甲A-1又は甲A-2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定に違反して特許されたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 本件発明1~7及び9については、本件訂正が認められたことにより、特許異議の申立ての対象が存在しなくなったため、申立てを却下する。 よって、結論のとおり決定する。

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2023-701139

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