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特許異議申立

2021-701259

治療免疫細胞の有効性を改良するための方法

審判番号
2021-701259
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2017-541243
登録番号
6895380
請求日
2021年12月28日
審決日
2023年03月23日
公報発行日
2023年06月30日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】ナショナル ユニバーシティ オブ シンガポール
  • 【権利者代理人】稲葉 良幸
  • 【権利者代理人】大貫 敏史
  • 【権利者代理人】江口 昭彦
  • 【権利者代理人】内藤 和彦
  • 【異議申立人】嶋崎 孝明
審判長/審判官
  • 審判長 上條 肇
  • 審判官 福井 悟
  • 審判官 阪野 誠司
分類
P1651.111-YAA(C12N) / P1651.113-YAA(C12N) / P1651.121-YAA(C12N) / P1651.536-YAA(C12N) / P1651.537-YAA(C12N)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第1号
データ出所
審決公報(XML)

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特許第6895380号発明「治療免疫細胞の有効性を改良するための方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第6895380号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~15〕について訂正することを認める。 特許第6895380号の請求項1~15に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯及び証拠方法 1.手続の経緯 特許第6895380号(請求項の数15。以下、「本件特許」という。)は、平成28年2月5日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2015年2月6日 米国、2015年3月10日 米国)を国際出願日とする特許出願(特願2017-541243号)に係るものであって、令和3年6月9日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は、令和3年6月30日である。)。 その後、令和3年12月28日に、本件特許の請求項1~15に係る特許に対して、特許異議申立人である嶋崎孝明(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。 手続の経緯は以下のとおりである。 令和3年12月28日提出 特許異議申立書 令和4年 4月26日付け 取消理由通知書 同年 8月 5日提出 訂正請求書、意見書(特許権者) 同年 8月23日付け 通知書(申立人宛て) 同年 9月22日提出 意見書(申立人) 同年 9月26日提出 意見書(申立人) 同年11月24日付け 取消理由通知書(決定の予告) 令和5年 2月28日提出 訂正請求書、意見書(特許権者) なお、本件申立てに係る審理においては、請求項1~15、すなわち、全請求項を審理対象とし、審理対象でない請求項は存しない。 2.証拠方法 申立人が、異議申立書に添付した証拠方法は、以下のとおりである。 甲第1号証:Benjamin D Grimshaw et.al.、「CREATING A NULL T CELL FOR ADOPTIVE IMMUNOTHERAPY」、2012年3月9日、A meeting of the British Society for Gene Therapy(UCL Institute of Child Health(英国、ロンドン)におけるポスター 甲第2号証:Benjamin D Grimshaw et.al.「CREATING A NULL T CELL FOR ADOPTIVE IMMUNOTHERAPY」、2012年5月30日、 A meeting of the British Society for Gene Therapy(UCL Institute of Child Health(英国、ロンドン)におけるポスター展示発表の予稿集 甲第3号証:米国特許出願公開第2012/0282256号明細書 甲第4号証:URL:https://www.creative-diagnostics.com/Anti-CD3D-MAb-169003-144.htm(出力日:令和3年12月26日) 甲第5号証:特表2011-510047号公報 甲第6号証:特表2008-506368号公報 甲第7号証:2021年12月15日にBenjamin D Grimshawにより作成された宣誓書 甲第8号証:2021年12月15日にMartin A Puleにより作成された宣誓書 甲第9号証:2021年12月15日にDavid C Linchにより作成された宣誓書 甲第10号証:https://absoluteantibody.com/product/anti-cd3-epsilon-okt-3-muromonab/(出力日:令和3年12月26日) 甲第11号証:https://absoluteantibody.com/product/anti-tcr-bma031/(出力日:令和3年12月26日) 申立人が、令和4年9月22日提出の意見書に添付した証拠方法は、以下のとおりである。 甲第12号証:甲第1号証及び甲第2号証の著者であるBenjamin D Grimshaw氏による2022年9月17日付け宣誓書 (以下、上記の甲第1号証~甲第12号証を、「甲1」~「甲12」という。) 特許権者が、令和4年8月5日提出の意見書に添付した証拠方法は、以下のとおりである。 乙第1号証:米国特許第10730942号明細書 第2 訂正の適否 令和5年2月28日提出の訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の請求は、特許請求の範囲を、上記の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおりに訂正することを求めるものであり、その内容は、以下のとおりのものである。下線は、訂正箇所を示す。 また、令和4年8月5日提出の訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。 1.訂正の内容 特許請求の範囲の請求項1の「局在化ドメイン」の後に「(但し、局在化ドメインはアミノ酸配列SEKDELではない。)」を加える訂正をする(以下、「訂正事項」という。) 2.一群の請求項について 訂正前の請求項2~15は、訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用する関係にあり、訂正事項によって記載が、訂正される訂正前の請求項1に連動して訂正されるから、訂正前の請求項1~15は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に該当するものである。 3.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項は、訂正前の請求項1に記載されていた「局在化ドメイン」について、本件の図面2、図面3A~Cに記載されている「SEKDEL」の態様を除き、「局在化ドメイン」を限定するものであるから、訂正事項は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。 4.独立特許要件 本件特許異議の申立ては、訂正前の全ての請求項に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。 5.まとめ 以上のとおり、本件訂正請求による訂正事項は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とするものであり、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合している。 したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおりに訂正することを認める。 第3 本件発明 上記のとおり本件訂正は適法なので、本件の請求項1~15に係る発明(以下、項番に従い「本件発明1」といい、これらを総称して「本件発明」ということがある。また、訂正前の本件発明を、「訂正前本件発明1」といい、これらを総称して、「訂正前本件発明」という。なお、本件特許の設定登録時の明細書を「本件明細書」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~15に記載された、以下の事項によって特定されるとおりのものである(下線部は訂正箇所である。)。 「【請求項1】 キメラ抗原受容体(CAR)をコードするヌクレオチド配列を含む第1の核酸と、局在化ドメイン(但し、局在化ドメインはアミノ酸配列SEKDELではない。)に連結した抗体をコードするヌクレオチド配列を含む第2の核酸と、を含む、操作された免疫細胞であって、 前記抗体が: CD3ε、TCRα、TCRβ、TCRγ、TCRδ、CD3δ、CD3γ、及びCD3ζからなる群から選択される、CD3/T細胞受容体(TCR)複合体中の因子;または プログラム細胞死タンパク質1(PD-1)、細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4(CTLA-4)、T細胞免疫グロブリン及びムチンドメイン含有3(Tim3)、キラー免疫グロブリン様受容体(KIR)2DL1、KIR2DL2/DL3、並びにNKG2Aから成る群から選択される、免疫応答を下方制御する前記受容体; に結合し、前記局在化ドメインに連結した抗体が、前記因子または前記受容体の細胞表面発現を下方制御する、操作された免疫細胞。 【請求項2】 前記操作された免疫細胞が、操作されたT細胞、操作されたナチュラルキラー(NK)細胞、操作されたNK/T細胞、操作された単球、操作されたマクロファージ、または操作された樹状細胞である、請求項1に記載の操作された免疫細胞。 【請求項3】 前記CARが、抗CD19-4-1BB-CD3ζCARである、請求項1または2に記載の操作された免疫細胞。 【請求項4】 前記抗体が、単鎖可変断片(scFv)である、請求項1~3のいずれか一項に記載の操作された免疫細胞。 【請求項5】 前記抗体またはscFVが、CD3εに結合し、かつ: 配列番号12のアミノ酸配列とCDR1~3内の配列が同一であり、配列番号12のアミノ酸配列と少なくとも85%の配列同一性を有する可変重鎖(VH);及び 配列番号13のアミノ酸配列とCDR1~3内の配列が同一であり、配列番号13のアミノ酸配列と少なくとも85%の配列同一性を有する可変軽鎖(VL); を含む、請求項1または4に記載の操作された免疫細胞。 【請求項6】 前記抗体またはscFVが、NKG2Aに結合し、かつ: 配列番号32のアミノ酸配列とCDR1~3内の配列が同一であり、配列番号32のアミノ酸配列と少なくとも85%の配列同一性を有する可変重鎖(VH);及び 配列番号33のアミノ酸配列とCDR1~3内の配列が同一であり、配列番号33のアミノ酸配列と少なくとも85%の配列同一性を有する可変軽鎖(VL); を含む、請求項1または4に記載の操作された免疫細胞。 【請求項7】 前記抗体またはscFVが、KIR2DL1及びKIR2DL2/DL3に結合し、かつ: 配列番号36のアミノ酸配列とCDR1~3内の配列が同一であり、配列番号36のアミノ酸配列と少なくとも85%の配列同一性を有する可変重鎖(VH);及び 配列番号37のアミノ酸配列とCDR1~3内の配列が同一であり、配列番号37のアミノ酸配列と少なくとも85%の配列同一性を有する可変軽鎖(VL); を含む、請求項1または4に記載の操作された免疫細胞。 【請求項8】 前記局在化ドメインが、小胞体(ER)またはゴルジ保持配列;プロテオソーム局在化配列;あるいはCD8α、CD8β、4-1BB、CD28、CD34、CD4、FcεRIγ、CD16、OX40、CD3ζ、CD3ε、CD3γ、CD3δ、TCRα、CD32、CD64、VEGFR2、FAS、またはFGFR2Bに由来する膜貫通ドメイン配列を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の操作された免疫細胞。 【請求項9】 前記ERまたはゴルジ保持配列が、アミノ酸配列KDEL(配列番号4)、KKXX(配列番号9)、KXD/E(配列番号10)、またはYQRL(配列番号11)を含み、ここで、Xは、任意のアミノ酸であるか、あるいは前記プロテオソーム局在化配列が、PESTモチーフを含む、請求項8に記載の操作された免疫細胞。 【請求項10】 対象における癌を治療するための、請求項1~9のいずれか一項に記載の操作された免疫細胞を含む医薬組成物。 【請求項11】 静脈内注入、動脈内注入、腫瘍への直接注射及び/または手術後の腫瘍母地の灌流、人工スキャフォールドにおける腫瘍部位での移植、髄腔内投与、または眼内投与によって前記対象に投与するのに適している、請求項10に記載の医薬組成物。 【請求項12】 前記癌が、固形腫瘍または血液学的悪性腫瘍である、請求項10または11に記載の医薬組成物。 【請求項13】 請求項1~9のいずれか一項に記載の操作された免疫細胞を生成するためのインビトロの方法であって、 免疫細胞に、キメラ抗原受容体をコードするヌクレオチド配列を含む核酸と、局在化ドメインに連結した抗体をコードするヌクレオチド配列を含む核酸とを導入する工程であって、それによって操作された免疫細胞を生成する、工程、を含み、 前記抗体が: CD3ε、TCRα、TCRβ、TCRγ、TCRδ、CD3δ、CD3γ、及びCD3ζからなる群から選択される、CD3/T細胞受容体(TCR)複合体中の因子;または プログラム細胞死タンパク質1(PD-1)、細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4(CTLA-4)、T細胞免疫グロブリン及びムチンドメイン含有3(Tim3)、キラー免疫グロブリン様受容体(KIR)2DL1、KIR2DL2/DL3、並びにNKG2Aから成る群から選択される、免疫応答を下方制御する前記受容体; に結合し、前記局在化ドメインに連結した抗体が、前記因子または前記受容体の細胞表面発現を下方制御する、方法。 【請求項14】 前記操作された免疫細胞が、同種細胞から生成される、請求項13に記載の方法。 【請求項15】 前記操作された免疫細胞が、自家細胞から生成される、請求項13に記載の方法。」 第4 異議申立ての理由と当審が通知した取消理由 1.異議申立ての理由(以下、「申立理由」という。)の概要 (1)申立理由1(甲1、2に基づく新規性の欠如) 訂正前本件発明1、2、4、8、9、10、13及び14は、甲1又は甲2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (2)申立理由2(甲1、2に基づく進歩性の欠如) 訂正前本件発明1~15は、甲1又は甲2に記載された主引用発明に、甲3~甲6に記載された副引用発明及び本件特許の優先日前の周知技術を適用することで、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (3)申立理由3(実施可能要件) 仮に本件特許の特許権者が、甲1又は2に記載の方法では本件発明の操作された免疫細胞が得られないと主張するのであれば、本件明細書中には、甲1又は2に記載の方法に加え、どのような追加的な技術手段が必要であるかについての説明がないため、訂正前本件発明1~15を当業者が過度の試行錯誤を要せずに実施できるとは到底いえず、訂正前本件発明1~15についての特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 (4)申立理由4(サポート要件) 仮に本件特許の特許権者が、甲1又は2に記載の方法では本件発明の操作された免疫細胞が得られないと主張するのであれば、訂正前本件発明1~15には、甲1又は2に記載の方法に加え、さらにどのような追加的な技術手段が必要であるかが特定されていないため、当業者が訂正前本件発明1~15により訂正前本件発明の課題が解決されることを理解できたとは到底いえず、訂正前本件発明1~15についての特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 2.取消理由通知で通知した取消理由の概要 当審が、令和4年4月26日付け取消理由通知で通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。 (1)取消理由1(甲1に基づく新規性の欠如) 訂正前本件発明1~2、4~5、8~9、13~15は、甲1のポスター発表を通じて、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において公然知られた発明であるから、特許法第29条第1項第1号に該当し、特許を受けることができない。 (2)取消理由2(甲2に基づく新規性の欠如) 訂正前本件発明1~2、4~5、8~9、13~15は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲2に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 (3)取消理由3(甲1又は甲2に基づく進歩性の欠如) 訂正前本件発明1~15は、甲1のポスター発表を通じて、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において公然知られた発明又は本件特許の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲2に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 また、令和4年11月24日付け取消理由通知書(決定の予告)では、上記の取消理由1~3について、同旨の取消理由が通知されている。 第5 当審の判断 本件発明1~15に係る特許は、以下で述べるように、当審が通知した上記の取消理由通知書に記載した取消理由1~3及び申立人による申立理由1~4によっては、取り消すことができない、と判断する。 1.取消理由通知書に記載した取消理由の検討 (1)取消理由1(甲1に基づく新規性の欠如)及び取消理由3(甲1に基づく進歩性の欠如) ア.甲1の記載事項及び甲1に記載された発明 (ア)甲1の記載事項 甲1には、以下の記載がある。 甲1a 「内因性TCRノックダウンネイティブTCRの細胞表面発現を防ぐために、ER保留配列(SEKDEL)を、TCR特異的な一連のCARコンストラクト(TCR特異的抗体)に結合させた(図1)。目的は、CARコンストラクトに含まれる保留配列を使用してERにネイティブTCRを保持することであった。本検討で使用されたTCR特異的抗体は、aHuCTLA4(コントロール)、OKT3、BMA031、および不変鎖(dPTCRA)であった。この方法論は、ネイティブTCRで形質導入されたSupT1でうまく機能し、PBMCで部分的な保留を引き起こすようであった(図2)。」(甲1の左欄中段) 「 [図:0001398229000001.jpg] [図:0001398229000002.jpg] 」(甲1の左欄中段) 甲1b 「キメラ抗原受容体(CAR) … [図:0001398229000003.jpg] 」(甲1の左欄下段) 甲1c 「最終カセットのデザイン T細胞形質導入用のカセット(1つのベクターに含まれている)を以下に示す(図8)。… [図:0001398229000004.jpg] 結論と今後の作業 無害化されたT細胞は、悪性腫瘍や特殊な表面抗原に特徴づけられるその他の疾患に関する臨床試験での検討が期待される、新たなテクノロジーであると言える。我々の実験では、HLA-A/B/Cと内因性TCRをノックダウンしてこのカセットを作成するための最初のステップを踏み出し、特定の抗原を標的とするCARと、均質な製品を確保するための自殺遺伝子を導入した。 ICP47とUS11が最も効果的であり、ドナーPBMCでそれぞれ88%と91%のHLA発現のノックダウンをもたらすことが判った。TCRの発現をブロックするために 同様の方法論を試みたが、成功しなかった。無害化NK細胞の欠失に対処するために、HLA-Gはクローン化され、細胞株およびドナーPBMCで発現されています。一種の自殺遺伝子が開発され、CARがテストされた。MLRでのHLAノックダウンのテスト、およびTCRノックダウンのためのゲノム編集FNとTALENは、次に取り組むべきステップである。さらに、MHCIIノックダウンが検討される予定である。これらの方法論のパフォーマンスをin vivoでテストするために動物モデルも開発される予定である。これらは、画一的に大量生産が可能な製品としての細胞医薬品を創出するための第一歩と言える。」(甲1の右欄下段) 甲1d 「要約 この方法論は、PBMCにおいて部分的にのみ機能するようであった。その理由は、細胞-細胞間の接触機序の結果、使用されたコンストラクトが細胞表面に発現し、ER保留を引き起こさず、抗体結合をブロックしたためと思われる(データは示さず)。・・・」(甲1の左欄下段) (イ)甲1に記載された発明 甲1の図8には、1つのベクターに含まれるカセットが記載され(甲1c)、かかるカセットが、「キメラ抗原受容体(CAR)」(甲1b)と、「OKT3、BMA031、および不変鎖(dPTCRA)」である「TCR特異的抗体」に「ER保留配列(SEKDEL)」を結合させた(甲1a)、内因性TCRをノックダウンするための「TCRko」(甲1c)とを含むこと、上記ベクターによりT細胞(PBMC)が形質導入されることが記載されている。なお、ベクターに含まれているカセットが、特定のヌクレオチド配列を有する核酸を含む遺伝子カセットであることは、当業者に自明の事項である。 以上の甲1の記載からすると、甲1には、以下の発明が記載されているものと認められる。 「CARをコードするヌクレオチド配列を含む核酸と、ER保留配列(SEKDEL)にOKT3、BMA031、および不変鎖(dPTCRA)であるTCR特異的抗体を結合させた、内因性TCRをノックダウンするためのTCRkoをコードするヌクレオチド配列を含む核酸、とを含む発現カセットにより形質導入されたPMBC。」(甲1発明) イ.本件発明1の新規性、進歩性の検討 (ア)本件発明1と甲1発明の対比 本件発明と甲1発明(ア(イ))を対比する。 甲1発明の「CARをコードするヌクレオチド配列を含む核酸」、「発現カセットにより形質導入されたPMBC」は、本件発明1の「キメラ抗原受容体(CAR)をコードするヌクレオチド配列を含む第1の核酸」、「操作された免疫細胞」にそれぞれ相当する。 甲1発明の「ER保留配列(SEKDEL)」は、アミノ酸配列KDELを含むものであり、訂正後の請求項8、9の記載に照らすと、本件発明1の「局在化ドメイン」に相当する。 甲1発明の「OKT3、BMA031、および不変鎖(dPTCRA)であるTCR特異的抗体」は「抗体」であるから、甲1発明の「ER保留配列(SEKDEL)」に結合した「OKT3、BMA031、および不変鎖(dPTCRA)であるTCR特異的抗体」は、本件発明1の「局在化ドメイン」「に連結した抗体」に相当し、甲1発明の上記の「TCR特異的抗体」に「ER保留配列(SEKDEL)」を結合させた「TCRko」を「コードするヌクレオチド配列を含む核酸」は、本件発明1の「局在化ドメイン」「に連結した抗体をコードするヌクレオチド配列を含む第2の核酸」に相当する。 甲1発明の「PMBC」は免疫細胞の一つであるから、甲1発明の「形質導入されたPMBC」は、本件発明1の「操作された免疫細胞」に相当する。 以上からすると、本件発明1と甲1発明は、 「キメラ抗原受容体(CAR)をコードするヌクレオチド配列を含む第1の核酸と、局在化ドメインに連結した抗体をコードするヌクレオチド配列を含む第2の核酸と、を含む、操作された免疫細胞。」 で一致し、以下の点で相違している。 <相違点1> 本件発明1では、「局在化ドメイン(但し、局在化ドメインはアミノ酸配列SEKDELではない。)」を採用しているのに対して、 甲1発明では、「ER保留配列(SEKDEL)」を採用している点 <相違点2> 本件発明1では、 「CD3ε、TCRα、TCRβ、TCRγ、TCRδ、CD3δ、CD3γ、及びCD3ζからなる群から選択される、CD3/T細胞受容体(TCR)複合体中の因子;または プログラム細胞死タンパク質1(PD-1)、細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4(CTLA-4)、T細胞免疫グロブリン及びムチンドメイン含有3(Tim3)、キラー免疫グロブリン様受容体(KIR)2DL1、KIR2DL2/DL3、並びにNKG2Aから成る群から選択される、免疫応答を下方制御する前記受容体;に結合し、前記因子または前記受容体の細胞表面発現を下方制御する抗体」を採用しているのに対して、 甲1発明では、 「OKT3、BMA031、および不変鎖(dPTCRA)」を採用している点 (イ)相違点1の検討 相違点1について検討する。 本件発明1では、「(但し、局在化ドメインはアミノ酸配列SEKDELではない。)」という限定が加えられることにより、「局在化ドメイン」が「SEKDEL」である態様が、本件発明1より除かれているので、本件発明1と甲1発明は、局在化ドメインで明確に相違しており、同一の発明であるとは認められない。 一方、甲1には、SEKDELに関する記載はあるものの、SEKDEL以外のER保留配列が採用できる旨の記載はない。 また、取消理由通知書で引用した甲2~3、引例A(特表平9-501824号公報)、引例B(特開平3-219896号公報)や申立人が提示した本件特許の優先日前の刊行物である甲4~6(なお、甲7~12は、本件特許の優先日前の刊行物ではない。)には、SEKDEL以外のER保留配列に関する記載や示唆はない。 そうすると、甲1発明の「ER保留配列(SEKDEL)」を、相違点1として挙げた本件発明1の発明特定事項である「局在化ドメイン(但し、局在化ドメインはアミノ酸配列SEKDELではない。)」に置き換えることは、当業者が容易に想到し得たものとは認められない。 したがって、本件発明1は、相違点2について検討するまでもなく、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (ウ)小括 本件発明は、甲1発明、すなわち甲1に記載された発明とはいえないし、甲1に記載された発明に甲2~3、引例A、引例B、及び甲4~6に記載された事項を適用しても、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 ウ.本件発明2~15の新規性、進歩性の検討 本件発明2~15は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲1に記載された発明とはいえないし、甲1に記載された発明に甲2~3、引例A、引例B、及び甲4~6に記載された事項を適用しても、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 エ.検討のまとめ 以上のイ、ウで検討したところによると、取消理由1(甲1に基づく新規性の欠如)及び取消理由3(甲1に基づく進歩性の欠如)は、いずれも理由がない。 (2)取消理由2(甲2に基づく新規性の欠如)及び取消理由3(甲2に基づく進歩性の欠如) ア.甲2の記載事項及び甲2に記載された発明 (ア)甲2の記載事項 甲2には、以下の記載がある。 甲2は英文であるので、以下では、甲2に記載された事項を、申立書に添付された甲第2号証抄訳を用いて摘記する。 甲2a 「我々は、(1)CARを導入し、(2)自殺遺伝子を導入し、(3)HLAをノックダウンし、(4)TCR機能をノックダウンまたは抑制し、(5)レシピエントのNK活性を阻害する発現カセットを開発している。まず、HLA発現をノックダウンするためのさまざまな方法を比較した。ベータ2-ミクログロブリンに対して設計された7つのsiRNA、ベータ2-ミクログロブリンを標的とするscFvに付着したゴルジ保持配列を比較した:BBM.1ハイブリドーマから抽出された1つのscFvとBB7.7ハイブリドーマから抽出された2つのscFv。最後に、US11とICP47の2つのウイルスタンパク質をテストした。ICP47とUS11が最も効果的であり、ドナーPBMCでテストした場合、HLA発現のそれぞれ88%と91%のノックダウンをもたらすことが判った。TCR発現を抑制するために同様の方法論を試みた。OKT3およびBMA031に結合されたSEKDEL保留配列は、ドナーPBMCでテストした場合にのみ適度なノックダウンを示した。保留シグナルKKAAまたはE19アデノウイルスタンパク質に結合したCD3成分の導入により、CD3εによるわずかなノックダウンが生じた。NK細胞によるHLA陰性細胞の拒絶に対処するために、HLA-Gはクローン化され、細胞株およびドナーPBMCで発現された。MLRでのHLAノックダウンのテストと、TCRノックダウンのためのゲノム編集TALENのテストは、次に取り組むベきステップである。これらは、画一的に大量生産が可能な製品としての細胞医薬品を創出するための第一歩と言える。」 (イ)甲2に記載された発明 甲2には、「(1)CARを導入し、(2)自殺遺伝子を導入し、(3)HLAをノックダウンし、(4)TCR機能をノックダウンまたは抑制し、(5)レシピエントのNK活性を阻害する発現カセット」が開発されていること、「OKT3およびBMA031に結合されたSEKDEL保留配列」が、ドナーPBMCにおいて、適度なTCR機能のノックダウンを示したことが記載されている。 なお、上記のカセットが特定のヌクレオチド配列を有する核酸を含む遺伝子カセットであり、PMBCが当該遺伝子カセットにより組み換えられることは当業者に自明の事項である。 以上の甲2の記載からすると、甲2には、以下の発明が記載されているものと認められる。 「CARをコードするヌクレオチド配列を含む核酸と、TCR機能をノックダウンまたは抑制するためのSEKDEL保留配列に結合したOKT3およびBMA031をコードするヌクレオチド配列を含む核酸、とを含む発現カセットにより、組み換えられたPBMC。」(甲2発明) イ.本件発明1の新規性、進歩性の検討 (ア)本件発明1と甲2発明の対比 本件発明と甲2発明(ア(イ))を対比する。 甲2発明の「CARをコードするヌクレオチド配列を含む核酸」、「組み換えられたPBMC」は、本件発明1の「キメラ抗原受容体(CAR)をコードするヌクレオチド配列を含む第1の核酸」、「操作された免疫細胞」にそれぞれ相当する。 甲2発明の「SEKDEL保留配列」は、アミノ酸配列KDELを含むものであるから、訂正後の請求項8、9の記載に照らすと、本件発明1の「局在化ドメイン」に相当する。 甲2発明の「OKT3およびBMA031」は「抗体」であるから、甲2発明の「SEKDEL保留配列」に結合した「OKT3およびBMA031」は、本件発明1の「局在化ドメイン」「に連結した抗体」に相当し、甲2発明の「OKT3およびBMA031をコードするヌクレオチド配列を含む核酸」は、本件発明1の「抗体をコードするヌクレオチド配列を含む第2の核酸」に相当する。 甲2発明の「PMBC」は免疫細胞の一つであるから、甲2発明の「組み換えられたPBMC」は、本件発明1の「操作された免疫細胞」に相当する。 以上からすると、本件発明1と甲2発明は、 「キメラ抗原受容体(CAR)をコードするヌクレオチド配列を含む第1の核酸と、局在化ドメインに連結した抗体をコードするヌクレオチド配列を含む第2の核酸と、を含む、操作された免疫細胞。」 で一致し、以下の点で相違している。 <相違点3> 本件発明1では、「局在化ドメイン(但し、局在化ドメインはアミノ酸配列SEKDELではない。)」を採用しているのに対して、 甲2発明では、「ER保留配列(SEKDEL)」を採用している点 <相違点4> 本件発明1では、 CD3ε、TCRα、TCRβ、TCRγ、TCRδ、CD3δ、CD3γ、及びCD3ζからなる群から選択される、CD3/T細胞受容体(TCR)複合体中の因子;または プログラム細胞死タンパク質1(PD-1)、細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4(CTLA-4)、T細胞免疫グロブリン及びムチンドメイン含有3(Tim3)、キラー免疫グロブリン様受容体(KIR)2DL1、KIR2DL2/DL3、並びにNKG2Aから成る群から選択される、免疫応答を下方制御する前記受容体;に結合し、前記因子または前記受容体の細胞表面発現を下方制御する抗体を採用しているのに対して、 甲2発明では、 OKT3およびBMA031を採用している点 (イ)相違点3の検討 相違点3について検討する。 本件発明1では、「(但し、局在化ドメインはアミノ酸配列SEKDELではない。)」という限定が加えられることにより、「局在化ドメイン」がSEKDELである態様が、本件発明1より除かれているので、本件発明1と甲2発明は、局在化ドメインで明確に相違しており、同一の発明であるとは認められない。 一方、甲2には、SEKDELに関する記載はあるものの、SEKDEL以外のER保留配列が採用できる旨の記載はない。 また、取消理由通知で引用した甲1、3、引例A(特表平9-501824号公報)、引例B(特開平3-219896号公報)や申立人が提示した本件特許の優先日前の刊行物である甲4~6(なお、甲7~12は、本件特許の優先日前の刊行物ではない。)にも、SEKDEL以外のER保留配列に関する記載や示唆は、何ら見当たらない。 そうすると、甲2発明の「ER保留配列(SEKDEL)」を、相違点3として挙げた本件発明1の発明特定事項である「局在化ドメイン(但し、局在化ドメインはアミノ酸配列SEKDELではない。)」に置き換えることは、当業者が容易に想到し得たものとは認められない。 したがって、本件発明1は、相違点4について検討するまでもなく、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (ウ)小括 本件発明は、甲2発明、すなわち甲2に記載された発明とはいえないし、甲2に記載された発明に甲1、3、引例A、引例B、及び甲4~6に記載された事項を適用しても、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 ウ.本件発明2~15の新規性、進歩性の検討 本件発明2~15は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲2に記載された発明といえないし、甲2に記載された発明に甲1、3、引例A、引例B、及び甲4~6に記載された事項を適用しても、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 エ.検討のまとめ 以上のイ、ウで検討したところによると、取消理由2(甲2に基づく新規性の欠如)及び取消理由3(甲2に基づく進歩性の欠如)は、いずれも理由がない。 2.取消理由通知書で採用しなかった申立理由の検討 申立人の申立理由のうち申立理由1(甲1又は甲2に基づく新規性の欠如)、申立理由2(甲1又は甲2に基づく進歩性の欠如)は、取消理由通知書で採用した取消理由1(甲1に基づく新規性の欠如)、取消理由2(甲2に基づく新規性の欠如)及び取消理由3(甲1又は甲2に基づく進歩性の欠如)と実質的に同じであり、検討を要しない。 一方、申立理由3(実施可能要件)、申立理由4(サポート要件)は、取消理由通知書で採用しなかったものなので、検討を要する。 しかるところ、申立理由3(実施可能要件)、申立理由4(サポート要件)は、共に、「仮に本件特許の特許権者が、甲1又は2に記載の方法では本件発明の操作された免疫細胞が得られないと主張する」ことを前提とするものである。 しかし、上記の1(1)、(2)で検討したとおり、本件発明1~15は、「(但し、局在化ドメインはアミノ酸配列SEKDELではない。)」という限定を含むことで、本件発明1~15と甲1発明又は甲2発明は、局在化ドメインで明確に相違しているため、甲1又は甲2の記載より、本件発明1~15の免疫細胞が得られないと解すべき理由はない。 そうすると、申立理由3(実施可能要件)、申立理由4(サポート要件)は、その前提において、誤りがあり、採用することはできないので、本件発明1~15に係る特許は、申立理由3(実施可能要件)、申立理由4(サポート要件)により取り消すことはできない。 第6 まとめ 以上のとおりであるから、本件特許の請求項1~15に係る発明の特許は、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1~15に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2021-701259

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