特許異議申立
2022-701228
面取りホイールの製造方法、面取りホイール、及び、面取りホイールの使用前調整方法
- 審判番号
- 2022-701228
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-153110
- 登録番号
- 7083547
- 請求日
- 2022年12月12日
- 審決日
- 2023年07月05日
- 公報発行日
- 2023年10月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社東京ダイヤモンド工具製作所
- 【権利者代理人】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
- 【異議申立人】中田 覚史
- 審判長/審判官
- 審判長 刈間 宏信
- 審判官 大山 健
- 審判官 奥隅 隆
- 分類
- P1651.113-YAA(B24D) / P1651.121-YAA(B24D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第126条第7項、特許法第29条第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
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特許第7083547号発明「面取りホイールの製造方法、面取りホイール、及び、面取りホイールの使用前調整方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7083547号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔3、4〕について訂正することを認める。
特許第7083547号の請求項1~4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7083547号(以下「本件特許」という。)の請求項1~4に係る特許についての出願は、令和3年9月21日に出願され、令和4年6月3日にその特許権の設定登録がされ、令和4年6月13日に特許掲載公報が発行された。その後、本件特許について、令和4年12月12日に特許異議申立人 中田覚史(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、令和5年2月28日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である令和5年4月25日に意見書の提出及び訂正の請求を行い、その訂正の請求に対して、申立人は、令和5年6月9日に意見書を提出した。
第2 訂正の適否についての判断
1 本件訂正の内容
令和5年4月25日提出の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。(なお、下線部は、訂正事項について特許権者が付したものである。)
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項3に「1対の側面の一方を基準面とする円盤」とあるのを、本件訂正により「1対の側面の一方に基準面が形成された円盤」と訂正する。
(2)一群の請求項
本件訂正前の請求項3、4は、本件訂正前の請求項4が請求項3を引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項〔3、4〕に対して請求されたものである。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、及び独立特許要件
訂正事項1について
(1)訂正の目的
訂正事項1は、本件訂正前の請求項3の「円盤」の「基準面」について、「1対の側面の一方に」「形成された」ものであることを特定し、限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。
以上から、訂正事項1についての訂正は、本件訂正前の請求項3について、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(2)新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1に係る訂正について、本件特許明細書の段落【0020】には、「図7に示すように、例えば、円盤12の外周面36のうち、内側外周面44として形成する位置の外側を、ある工作機械で仮基準面38b側から保持する。すなわち、円盤12を反転させる。そして、円盤12の仮基準面38bとは反対側の面を基準面とするように、その工作機械に取り付けた工具T5により、側面38aを形成する。一例として、同一の工作機械で円盤12を保持した状態を維持しながら円盤12に対して同軸加工を行うことにより、平面32a及び円環状面34aを合わせた側面38aが面一の基準面として形成される。」(下線部は理解のため当審で付した。以下同様。)と記載されているから、訂正事項1は、本件特許の明細書等に記載した事項の範囲内のものである。
また、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質的にカテゴリーや対象の変更を伴うものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
(3)独立特許要件
本件訂正前の請求項1~4について特許異議申立がされているので、訂正事項1について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、本件訂正後の請求項〔3、4〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められたから、本件特許の請求項1~4に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」という。また、便宜上、当審で本件発明の各構成について、「1A」~「4E」の符号を付して分説した。以下、それぞれの構成について、「構成1A」などという場合がある。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
1A 面取りホイールの製造方法であって、
1B 円盤の1対の側面の一方となる基準面、
1C 前記円盤に回転軸部品が嵌合される嵌合穴部、
1D 前記基準面に設けられ、前記面取りホイールが回転するときの前記面取りホイールの外周面の振れに対応する振れを検出し、前記円盤の位置を調整するときに用いる、円環状の芯出し溝の第1の面、及び、
1E 前記基準面に設けられ、前記第1の面に隣接し、前記面取りホイールが回転するときの前記基準面の振れを検出し、前記円盤の位置を調整するときに用いる、前記芯出し溝の第2の面
1F を工作機械で前記円盤を保持した状態を維持して、同軸加工を行い、前記芯出し溝を前記嵌合穴部の中心軸に対して同心状に形成し、前記第1の面及び前記第2の面の精度を確保することと、
1G 前記円盤の外周面に円環状の砥石部を形成することと
1H を含む、面取りホイールの製造方法。
【請求項2】
2A 前記第1の面を、平面として形成される前記基準面に直交するように形成し、
2B 前記第2の面を、前記基準面に平行となるように形成する、
2C 請求項1に記載の面取りホイールの製造方法。
【請求項3】
3A 面取りホイールであって、
3B 1対の側面の一方に基準面が形成された円盤と、
3C 前記基準面に対して直交する内周面を有し、前記円盤に回転軸部品が嵌合される嵌合穴部と、
3D 前記基準面に設けられ、前記嵌合穴部の中心軸と同心状に形成される円環状で凹状の芯出し溝と、
3E 前記円盤の外周面に設けられる円環状の砥石部と、
を有し、
3F 前記芯出し溝は、
前記基準面に対して直交し、前記面取りホイールが前記回転軸部品の回転にしたがって回転するとき、前記円盤の前記外周面又は前記砥石部の外周面に対応する振れを検出し、前記円盤の位置を調整するときに用いられる精度が確保された第1の面と、
3G 前記第1の面に隣接し、前記基準面に平行で、前記面取りホイールが前記回転軸部品の回転にしたがって回転するとき、前記基準面の振れを検出し、前記円盤の位置を調整するときに用いられる精度が確保された第2の面と
3H を有する、面取りホイール。
【請求項4】
4A 請求項3に記載の面取りホイールの前記嵌合穴部に所定の回転軸部品を嵌め込むことと、
4B 前記回転軸部品を回転させることにより前記面取りホイールを前記回転軸部品と一緒に回転させて、距離検出センサを前記芯出し溝の前記第1の面に対して周方向に相対的に移動させ、前記距離検出センサで検出される、前記回転軸部品に対する前記第1の面の振れを検出することと、
4C 前記回転軸部品を回転させることにより前記面取りホイールを前記回転軸部品と一緒に回転させて、前記距離検出センサ又は別の距離検出センサを前記芯出し溝の前記第2の面に対して周方向に相対的に移動させ、前記距離検出センサ又は前記別の距離検出センサで検出される、前記回転軸部品に対する前記第2の面の振れを検出することと、
4D 前記距離センサで検出される前記第1の面の振れの検出結果、及び、前記距離検出センサ又は前記別の距離検出センサで検出される前記第2の面の振れの検出結果に基づいて、前記回転軸部品と前記面取りホイールとの取り付け状態の調整を行うことと
4E を含む、面取りホイールの使用前調整方法。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
本件訂正前の請求項3、4に係る特許に対して、当審が令和5年2月28日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(進歩性)請求項3、4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものである。よって、請求項3、4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
2 証拠
甲第1号証:特開2000-79546号公報
甲第2号証:特開平7-136931号公報
(以下「甲1」などという。)
第5 取消理由についての判断
1 本件発明3について
本件発明3について、上記第4の取消理由の進歩性欠如により取り消されるべきものであるか検討する。
(1)甲1の記載
「【0016】本発明の芯取方法は、上記の光学素子部材芯取砥石を芯取機に取付けて回転させ、基準面を用いて回転振れを計測する工程と、計測された回転振れを低減するように芯取機の砥石取付部を調整する工程を有することを特徴とする。」
「【0019】
【作用】レンズ等の光学素子部材の芯取機に取付ける回転砥石の砥石本体を加工するときに、砥粒層支持面と同一加工工程において、回転振れを計測するための基準面を加工しておく。回転砥石の静的アンバランスや動的アンバランスが例えば5gf以下になるように修正したうえで、砥石を芯取機のスピンドル等に取付けて回転(テスト回転)させ、前記基準面を用いて回転振れを計測する。計測された回転振れに基づいて、芯取機のスピンドルの軸受部等を修正し、砥石の回転振れを例えば10μm以下に低減する。」
「【0030】図2に示すように、砥石10は、砥石本体11の円筒面の中央に形成された環状の芯取部12aと、その両側に突出する傾斜した一対の面取部12b,12cを有し、レンズの芯取工程においては、まず、回転している図示しないレンズに対してその回転軸に垂直に砥石10を移動させ(切込み送り)、その芯取部12aをレンズの外周縁に当接する。これによってレンズの外周縁が光軸を中心として真円になるように研削される。」
「【0034】砥石10の芯取部12aおよび両面取部12b,12cは、砥石本体11の円筒面に旋盤等の工作機械によって切削加工された砥粒層支持面である砥粒固定面13に、電着等の公知の方法によって砥粒層14を付着させることによって形成される。電着によって砥粒層14を形成したうえで、その表面すなわち芯取部12aおよび両面取部12b,12cの加工面を適正な面粗さまで調整するドレッシングを施す。これは、砥石10によって研磨されたレンズの研磨面の粗さが、新規砥石に交換後の当初から目的とする面粗さ3~4μm(Rmax)に近くなるように砥石10の加工面の粗さを調整するもので、これによって立上げ時の加工時間(加工サイクルタイム)を短縮できる。
【0035】砥石10の本体11は、前記砥粒固定面13の切削加工時にこれと同一加工工程において切削加工された一対の第1の基準面であるラジアル基準面15aと一対の第2の基準面であるスラスト基準面15bを有する。各ラジアル基準面15aは、砥石10の回転中心Oに対して同軸になるように形成された幅の小さい円筒面であり、各スラスト基準面15bは、砥石10の回転中心Oに対して垂直になるように形成された環状の端面である。
【0036】これらの基準面15a,15bは、砥石10を芯取機のスピンドル10eに取り付けた状態で砥石10の回転振れを計測するための基準として用いられるもので、ラジアル基準面15aまたはスラスト基準面15b、あるいはその両方を用いて砥石10の回転振れを実測し、スピンドル10eの回転精度等の調整を行なうことで、レンズを研磨するときの砥石10のラジアル方向やスラスト方向の回転振れを10μm以下に低減する。」
「【0040】図3の(a)に示す砥石30は、砥石本体31の両端面にそれぞれラジアル基準面35aとスラスト基準面35bからなる凹所35cを形成したものであり、同図の(b)に示す砥石40は、2つの芯取部と2対の面取部を有し、砥石本体41の両端面にラジアル基準面45aとスラスト基準面45bを配設したものであり、同図の(c)に示す砥石50は、2つの芯取部と2対の面取部を有し、砥石本体51の両端面にそれぞれラジアル基準面55aとスラスト基準面55bからなる凹所55cを形成したものである。」
「【0051】最後に、図1の芯取機のスピンドル10eに砥石10を取り付けて、スピンドル10eの軸受または可動側レンズホルダ2の軸受22に、ダイヤルインジケータ(1μm/div)等を装着したダイヤルスタンド等を固定し、砥石10のラジアル基準面15aとスラスト基準面15bを用いた回転振れの測定を行ない、ラジアル方向とスラスト方向のうちの少なくとも一方向の回転振れが10μm以下になるようにスピンドル10eの回転精度を調整する。」
「【図2】
[図:0001402771000001.jpg]
」
「【図3(c)】
[図:0001402771000002.jpg]
」
(2)甲1発明
上記(1)の記載等から、甲1には、特にその図3(c)に図示されている実施の態様に鑑みれば、以下の発明が記載されているものと認められる。(なお、括弧内には、対応する甲1の段落等を記載した。)
<甲1発明>
「面取部12b、12cを有する砥石50(【0030】、【0040】、図3(c))であって、
両端面の一方を端面とする砥石本体51(【0040】)と、
端面に対して略直交する内面を有し、砥石本体51に軸部材19及びスピンドル10eが取り付けられる穴部(【0041】、【0051】、図2)と、
端面に設けられ、砥石50の回転中心Oに対して同軸になるように形成された環状の凹所55c(【0035】、【0040】)と、
砥石本体51の砥粒固定面13に付着された砥粒層14(【0034】)と、
を備え、
凹所55cは、
砥石50の回転中心Oに対して同軸になるように形成され、砥石10がスピンドル10eに取り付けられた状態で回転振れを計測し、計測された回転振れに基づいてスピンドル10eの軸受部、又は砥石取付部を調整する際に用いられるラジアル基準面55a(【0016】、【0019】、【0035】~【0036】、【0040】、【0051】)と、
ラジアル基準面55aと隣接し(図3(c))、砥石50の回転中心Oに対して垂直になるように形成され、砥石10がスピンドル10eに取り付けられた状態で回転振れを計測し、計測された回転振れに基づいてスピンドル10eの軸受部、又は砥石取付部を調整する際に用いられるスラスト基準面55b(【0016】、【0019】、【0035】~【0036】、【0040】、【0051】)と、
を備えた、面取部12b、12cを有する砥石50。」
(3)甲2に記載の技術的事項
甲2の図2から、穴部を有する台金1が看取され、また、段落【0019】の記載から、台金1の穴部に、取付フランジ30及び研削盤スピンドルSが取り付けられることが理解できる。
他方、甲2には、台金1の穴部に取付フランジ30が嵌合されているか明記されていないが、台金1が取付フランジ30とフランジ押さえナット31によって挟持されているのみでは、台金1と取付フランジ30との間に滑りが生じ、研削盤スピンドルSから(取付フランジ30を介した)台金1への回転の伝達が妨げられる恐れがあり、二つの部材間に滑りが生じないようにする方法として、一方の部材に他方の部材を嵌合することは、日常的に採用されていることから、台金1には、取付フランジ30が嵌合されている、すなわち、台金1の穴部は嵌合穴部と解することが自然である。
そうすると、甲2には、次の技術的事項(以下「甲2記載の技術的事項」という。)が記載されているといえる。
「台金1に取付フランジ30及び研削盤スピンドルSが嵌合される嵌合穴部を有すること。」
(4)対比
本件発明3と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「面取部12b、12cを有する砥石50」は本件発明3の「面取りホイール」に相当し、以下同様に、「端面」は「1対の側面の一方」に、「砥石本体51」は「円盤」に、「軸部材19及びスピンドル10e」は「回転軸部品」に、「回転中心O」は「中心軸」に、「同軸になるように」は「同心状に」に、「環状の凹所55c」は「円環状で凹状の芯出し溝」に、「砥粒固定面13」は「円盤の外周面」に、「付着された」は「設けられる」に、「砥粒層14」は「円環状の砥石部」に、「ラジアル基準面55a」は「第1の面」に、「スラスト基準面55b」は「第2の面」に、それぞれ相当する。
また、「円盤」(砥石本体51)について、甲1発明の「両端面の一方を端面とする」ことと、本件発明3の「1対の側面の一方に基準面が形成された」こととは、「側面を有する」限りで共通する。
また、甲1発明の「端面に対して略直交する内面」と、本件発明3の「前記基準面に対して直交する内周面」は、「内周面」という限りで共通し、「取り付けられる穴部」と「嵌合される嵌合穴部」とは、「取り付けられる穴部」という限りで共通する。
また、甲1発明の「端面に設けられ」ることと、本件発明3の「前記基準面に設けられ」ることは、「前記側面に設けられ」るという限りで共通する。
また、芯出し溝(凹所55c)について、甲1発明の「砥石50の回転中心Oに対して同軸になるように形成され、砥石10がスピンドル10eに取り付けられた状態で回転振れを計測し、計測された回転振れに基づいてスピンドル10eの軸受部、又は砥石取付部を調整する際に用いられるラジアル基準面55aと、ラジアル基準面55aと隣接し、砥石50の回転中心Oに対して垂直になるように形成され、砥石10がスピンドル10eに取り付けられた状態で回転振れを計測し、計測された回転振れに基づいてスピンドル10eの軸受部、又は砥石取付部を調整する際に用いられるスラスト基準面55b」とを備えることと、本件発明3の「前記基準面に対して直交し、前記面取りホイールが前記回転軸部品の回転にしたがって回転するとき、前記円盤の前記外周面又は前記砥石部の外周面に対応する振れを検出し、前記円盤の位置を調整するときに用いられる精度が確保された第1の面と、前記第1の面に隣接し、前記基準面に平行で、前記面取りホイールが前記回転軸部品の回転にしたがって回転するとき、前記基準面の振れを検出し、前記円盤の位置を調整するときに用いられる精度が確保された第2の面」とを備えることは、「前記面取りホイールが前記回転軸部品の回転にしたがって回転するとき、前記円盤の前記外周面又は前記砥石部の外周面に対応する振れを検出し、前記円盤の位置を調整するときに用いられる精度が確保された第1の面と、前記第1の面に隣接し、前記面取りホイールが前記回転軸部品の回転にしたがって回転するとき、前記側面の振れを検出し、前記円盤の位置を調整するときに用いられる精度が確保された第2の面」とを備える限りで共通する。
したがって、本件発明3と甲1発明は、以下の一致点で一致し、相違点1、2で相違する。
<一致点>
「面取りホイールであって、
側面を有する円盤と、
内周面を有し、前記円盤に回転軸部品が取り付けられる穴部と、
前記側面に設けられ、前記穴部の中心軸と同心状に形成される円環状で凹状の芯出し溝と、
前記円盤の外周面に設けられる円環状の砥石部と、
を有し、
前記芯出し溝は、
前記面取りホイールが前記回転軸部品の回転にしたがって回転するとき、前記円盤の前記外周面又は前記砥石部の外周面に対応する振れを検出し、前記円盤の位置を調整するときに用いられる精度が確保された第1の面と、
前記第1の面に隣接し、前記面取りホイールが前記回転軸部品の回転にしたがって回転するとき、前記側面の振れを検出し、前記円盤の位置を調整するときに用いられる精度が確保された第2の面と
を有する、面取りホイール。」
<相違点1>
本件発明3は、「円盤」が「1対の側面の一方に基準面が形成された」(構成3B)ものであり、「内周面」が「基準面に対して直交する」(構成3C)ものであり、さらに、「芯出し溝」の「第1の面」が「基準面に対して直交」(構成3F)し、「第2の面」が「基準面に平行」であり「基準面の振れを検出」するものである(構成3G)のに対し、甲1発明では、砥石本体51(円盤)が、端面(1対の側面の一方)に「基準面が形成された」ものであるか不明であり、砥石本体51の端面を基準にして、穴部の内面(内周面)が直交し、凹所55c(芯出し溝)のラジアル基準面55a(第1の面)が直交し、凹所55c(芯出し溝)のスラスト基準面55b(第2の面)が平行であるか不明な点。
<相違点2>
本件発明3は、「前記円盤に回転軸部品が嵌合される嵌合穴部」を有するのに対し、甲1発明は、「穴部」を有するものの、砥石本体51と軸部材19とはボルト18によって固定されていることから、「前記円盤に回転軸部品が嵌合される」ものであるか明らかでない点。
(5)判断
ア 本件発明3の構成3Bに関連して、本件特許の明細書の段落【0020】、【0021】には、「図7に示すように、例えば、円盤12の外周面36のうち、内側外周面44として形成する位置の外側を、ある工作機械で仮基準面38b側から保持する。すなわち、円盤12を反転させる。そして、円盤12の仮基準面38bとは反対側の面を基準面とするように、その工作機械に取り付けた工具T5により、側面38aを形成する。一例として、同一の工作機械で円盤12を保持した状態を維持しながら円盤12に対して同軸加工を行うことにより、平面32a及び円環状面34aを合わせた側面38aが面一の基準面として形成される。
また、円盤12の外周面36を刻印面38b側から保持した状態を維持しながら、回転軸部品80,90を通す嵌合穴部24を基準面38aと同軸加工により、その工作機械に取り付けた工具T6により、形成する。また、円盤12の外周面36を刻印面38b側から保持した状態を維持しながら、基準面38aに、円環状の芯出し溝26を、基準面38aと同軸加工により、その工作機械に取り付けた工具T7により、形成する。
すなわち、ここでは、円盤12の外周面36を1対の側面38a,38bの他方側である刻印面38b側から保持した状態で、円盤12の中心軸Cが共通な状態を確保した状態で、基準面38a、嵌合穴部24、及び、芯出し溝26を、ある工作機械に取り付けた工具T5,T6,T7で同軸加工により形成する(工程4)。同一の工作機械で円盤12を保持した状態を維持しながら円盤12に対して同軸加工を行うことにより、基準面38aに対して、嵌合穴部24の内周面が直交する状態に形成される。また、この加工により、円盤12の中心軸Cが規定される。
嵌合穴部24、及び、芯出し溝26は、同時に複数の工具T6,T7で加工される同時加工で形成されることが好適である。嵌合穴部24、及び、芯出し溝26は、同時に加工されず、順不同に加工されてもよい。
図3に示す芯出し溝26の第1の面52、第2の面54及び第3の面56は、基準面38a、及び、嵌合穴部24と同軸加工により形成される。このため、第1の面52は、基準面38aに垂直で、嵌合穴部24の内周面に平行な状態に形成され、第2の面54は、基準面38aに平行で、嵌合穴部24の内周面に垂直な状態に形成される。」と記載されている。
イ すなわち、本件発明3の構成3Bに関する、本件特許の明細書の上記記載に鑑みれば、本件発明3は、工作機械で円盤12を保持した状態を維持しながら円盤12に対して同軸加工を行うことを前提として、基準面に対して嵌合穴部の内周面が直交する状態に形成されるために、及び芯出し溝の第1の面が基準面に垂直な状態、第2の面が基準面に平行な状態に形成されるために、嵌合穴部の内周面の形成及び芯出し溝(第1の面、第2の面)の形成に先立って、それらの基準とすべく、円盤の側面に基準面を形成したものであるといえる。
そして、本件発明は、「面取りホイールの砥石寿命は、面取りホイールのもつ幾何精度に起因することが分かってきている。このため、面取りホイールのベース体となる円盤がより精度良く形成されることが求められている。本発明は、より精度よく形成する面取りホイールの製造方法、面取りホイール、及び、その面取りホイールの使用前調整方法を提供することを目的とする。」(段落【0004】、【0005】)ものであるところ、基準面(円盤の側面)の精度が、嵌合穴部の内周面の精度及び芯出し溝(第1の面、第2の面)の精度並びに面取りホイール(円盤)の精度に影響を及ぼすことは明らかである。
ウ 他方、甲1には、砥石本体51の端面に関する記載が、その段落【0035】及び【0040】にあるものの、該端面が基準面とすべく形成されたものであることや、該端面が軸部材19及びスピンドル10e(内周面)に対して高い精度で直交することや、該端面と凹所55c(芯出し溝)のラジアル基準面55a(第1の面)が高い精度で直交すること、及び該端面とスラスト基準面55b(第2の面)が高い精度で平行であることは、いずれも記載されていない。
エ さらに、甲1には、「基準面」に関して、「ラジアル基準面」及び「スラスト基準面」との記載があり(段落【0035】、【0040】を参照。)、「ラジアル基準面」が砥石の回転中心に対して同軸な円筒面になるように形成されており、「スラスト基準面」が砥石の回転中心に対して垂直になるように形成されていることに鑑みれば、当該「ラジアル基準面」及び「スラスト基準面」を形成することだけで、砥石50の回転振れを低減できるものである(段落【0036】を参照。)。そして、当該「ラジアル基準面」及び「スラスト基準面」に先だって、さらに、それらの基準とすべき基準面を円盤上に形成する必要性については記載も示唆もない上に、そのような基準面を設ける必要性が自明とはいえないから、甲1発明の砥石50の端面を基準面として構成することが、当業者が容易になし得るということはできない。
オ また、甲1には、図2、3等に略平面の端面が図示されているところ、該端面が軸部材19及びスピンドル10e(内周面)に対して略直交であること、該端面と凹所55c(芯出し溝)のラジアル基準面55a(第1の面)が略直交であること、及び該端面とスラスト基準面55b(第2の面)が略平行であることが図2、3等から看取できるとしても、上記イのとおり、本件発明は、面取りホイールのベース体となる円盤がより精度良く形成されることが求められているとの課題を解決するために、嵌合穴部の内周面の形成及び芯出し溝(第1の面、第2の面)の形成に先立って、それらの基準とすべく、円盤の側面に基準面を形成したものであり、基準面(円盤の側面)の精度が、嵌合穴部の内周面の精度及び芯出し溝(第1の面、第2の面)の精度並びに面取りホイール(円盤)の精度に影響を及ぼすというものであるから、「ラジアル基準面」及び「スラスト基準面」の形成によって砥石50の回転振れを低減できる甲1発明から、円盤の側面にさらに基準面を作成することが容易であるということはできない。
カ そして、上記(3)のとおり、甲2には「台金1に取付フランジ30及び研削盤スピンドルSが嵌合される嵌合穴部を有すること。」との技術的事項が記載されているとしても、甲1発明に適用しても、相違点1に係る本件発明3の構成には至らない。
したがって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明3は、甲1発明及び甲2に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易になし得たということはできない。
2 本件発明4について
本件発明4は、請求項3を引用する発明であるところ、両者は、少なくとも、上記相違点1、2の点で相違する。
そして、相違点1について、上記1(5)と同様の理由により、本件発明4が、甲1発明及び甲2に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易になし得たということはできない。
3 小括
以上により、本件発明3、4に係る特許について、上記第4の取消理由により取り消すことはできない。
第6 取消理由通知において採用しなかった申立人の申立理由の概要
1 申立理由の概要
本件特許に対して、取消理由通知において採用しなかった申立理由の要旨は、以下のとおりである。
(新規性)本件訂正前の請求項1~4に係る発明は、甲1発明であるから、請求項1~4に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
(進歩性)本件訂正前の請求項1、2に係る発明は、甲1発明及び甲第2号証に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものであるから、請求項1、2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
2 証拠
甲1、甲2(上記第4の2を参照。)
第7 取消理由通知において採用しなかった申立理由についての判断
1 本件発明1、2の新規性欠如及び進歩性欠如について
本件発明1、2が、甲1に記載された発明であるか(新規性欠如)、甲1に記載された発明及び甲2に記載の技術的事項に基づく進歩性欠如により取り消されるべきものであるか検討する。
(1)対比
甲1発明は、研削砥石50に係る物の発明であるが、甲1には、研削砥石50を製造する方法についても記載されている(以下、甲1の研削砥石50を製造する方法に係る発明を「甲1の製造方法発明」という。)から、本件発明1と甲1の製造方法発明とを対比すると、両者は、少なくとも、以下の相違点3で相違する。
<相違点3>
本件発明1は、「円盤の1対の側面の一方となる基準面」(構成1B)、「・・・嵌合穴部」(構成1C)、「・・・円環状の芯出し溝の第1の面」(構成1D)及び「・・・前記芯出し溝の第2の面」(構成1E)を「工作機械で前記円盤を保持した状態を維持して、同軸加工を行い、前記芯出し溝を前記嵌合穴部の中心軸に対して同心状に形成し、前記第1の面及び前記第2の面の精度を確保すること」(構成1F)との構成を有するのに対し、甲1の製造方法発明では、端面(円盤の1対の側面の一方)、内面(内周面)、凹所55c(芯出し溝)のラジアル基準面55a(第1の面)及びスラスト基準面55b(第2の面)を、工作機械で砥石本体51(円盤)を保持した状態を維持して同軸加工を行って形成しているか不明な点。
(2)判断
まず、新規性欠如について検討すると、本件発明1、2と甲1の製造方法発明とは少なくとも上記(1)の相違点3で相違するから、本件発明1、2が甲1の製造方法発明であるということはできない。
続いて、進歩性欠如について検討する。
上記相違点3について、上記第5の1(5)でも説示したように、本件特許の明細書の記載に鑑みれば、本件発明1は、工作機械で円盤12を保持した状態を維持しながら円盤12に対して同軸加工を行うことにより、基準面に対して嵌合穴部の内周面が直交する状態に形成され、及び芯出し溝の第1の面が基準面に垂直な状態、第2の面が基準面に平行な状態に形成されるものであるところ、甲1にはこのような同軸加工を行うことが記載も示唆もされていない。また、甲1には、砥石本体51の端面に対して、穴部の内面(内周面)を高い精度で直交させること、凹所55c(芯出し溝)のラジアル基準面55a(第1の面)を高い精度で直交させること及びスラスト基準面55b(第2の面)を高い精度で平行とすることの明記がなく、そのような甲1から、砥石本体51の端面に基準面を作成して、軸部材19及びスピンドル10e(内周面)、凹所55cのラジアル基準面55a及びスラスト基準面55bを、それぞれ同軸加工することの動機付けも見出せない。
また、本件発明2は、請求項1を引用する発明であるところ、両者は、少なくとも、上記相違点3で相違するから、同様の理由により、本件発明2についても、甲1の製造方法発明及び甲2に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易になし得たということはできない。
2 本件発明3、4の新規性欠如について
上記第5の1(4)に説示したとおり、本件発明3、4と甲1発明とを対比すると、両者は少なくとも、相違点1、2で相違するから、本件発明3、4が甲1発明であるということはできない。
なお、本件発明3、4が甲1発明及び甲2に記載の技術的事項から当業者が容易になし得たものではないことは上記第5の1(5)で判断したとおりである。
3 小括
以上により、請求項1~4に係る特許は、申立人の主張する申立理由によっても取り消すことはできない。
第8 申立人の意見書の主張について
1 申立人の主張の概要
本件発明3、4に対して、申立人は令和5年6月9日提出の意見書において概ね以下の点を主張している。
(1)面取り用途の砥石(それに限らずワークの寸法精度が厳しい用途の砥石)は、台金の側面、穴径の寸法精度に厳しく、甲1発明においても、穴部と砥石本体の側面(訂正発明3の「基準面」に対応)は直角であることは当然の仕様条件である。側面も回転軸に対して振れがないことも当然の仕様条件である。(意見書2~3ページ)
(2)砥石本体の端面が、波を打っている等、平面でないと、バランスが取りにくくなり、製品として問題が生じ易くなる。(意見書3ページ)
(3)本件特許の台金作製手順であるが、本件特許の【図6】のごとく、一方の側面を仮加工して仮基準面とし、それを反転し仮基準面も反対側を精度よく仕上げて基準面とし、それを元に穴部、研削部を仕上げるものであるが、この手順は先行技術文献を示す必要はなく砥石分野に限らず周知・慣用技術である。(意見書4~5ページ)
2 判断
上記1(1)~(3)の各主張について検討する。
(1)について、面取り用途の砥石は、台金の側面、穴径の寸法精度に厳しいものであるとしても、「ラジアル基準面」及び「スラスト基準面」の形成によって砥石50の回転振れを低減できる甲1発明から、砥石本体51の端面にさらに基準面を作成することが容易であるということはできない。
(2)について、砥石本体の端面が略平面であることが図2、3等から看取できるとしても、本件発明3、4が甲1発明及び甲2に記載の技術的事項から、当業者が容易になし得たとはいえないことは、上記第5の1(5)のとおりである。
(3)について、まず、一方の側面を仮加工して仮基準面とし、それを反転し仮基準面も反対側を精度よく仕上げて基準面とし、それを元に穴部、研削部を仕上げることが砥石分野に限らず周知・慣用技術であることの証拠を申立人は提示していない。
さらに、仮に、申立人に主張するとおり、上記周知・慣用技術が存在するとしても、「ラジアル基準面」及び「スラスト基準面」の形成によって砥石50の回転振れを低減できる甲1発明に、上記周知・慣用技術を適用する動機付けは見当たらない。
したがって、申立人のかかる主張は、採用することができない。
第9 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した申立理由によっては、請求項1~4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-701228