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特許異議申立

2023-701041

ポリプロピレンフィルムおよびこれを用いた金属膜積層フィルム、フィルムコンデンサ

審判番号
2023-701041
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2020-026885
登録番号
7247919
請求日
2023年09月28日
審決日
2024年05月16日
公報発行日
2024年08月30日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】東レ株式会社
  • 【異議申立人】笠原 佳代子
審判長/審判官
  • 審判長 淺野 美奈
  • 審判官 磯貝 香苗
  • 審判官 天野 宏樹
分類
P1651.113-YAA(C08J) / P1651.121-YAA(C08J) / P1651.161-YAA(C08J)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条1項3号特許法29条2項特許法113条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第1号、特許法第113条第4号、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第126条第5項、特許法第126条第6項、特許法第126条第7項、特許法第113条第2号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7247919号発明「ポリプロピレンフィルムおよびこれを用いた金属膜積層フィルム、フィルムコンデンサ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7247919号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし9〕について訂正することを認める。 特許第7247919号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7247919号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし9に係る特許についての出願は、 令和 2年 2月20日(優先権主張 平成31年 2月21日)を出願日とする特許出願であって、 令和 5年 3月20日にその特許権の設定登録(請求項の数 9)がされ、 令和 5年 3月29日に特許掲載公報が発行され、 その後、当該特許に対し、 令和 5年 9月28日に 笠原 佳代子 (以下、「特許異議申立人」という。)により全請求項に係る特許に対して特許異議申立てがされ 令和 5年12月14日付けで取消理由が通知され、 令和 6年 2月14日に特許権者 東レ株式会社 から訂正請求がされると共に意見書が提出され、 令和 6年 3月 7日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされたが、特許異議申立人からは何ら応答がなかったものである。 第2 本件訂正について 1 訂正の内容 令和 6年 2月14日にされた訂正請求における訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである。 (1)訂正事項 特許請求の範囲の請求項1に、 「150℃で1分熱処理したフィルム」と記載されているのを、 「メソペンタッド分率が0.970以上であり、かつキシレンで完全に溶解せしめた後、室温で析出させたときに、キシレン中に溶解しているポリプロピレン成分(CXS)が1.5質量%未満であるポリプロピレン樹脂を原料とし、 150℃で1分熱処理したフィルム」に訂正する。 請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2ないし9も同様に訂正する。 (2)一群の請求項について 訂正前の請求項2ないし9は、それぞれ請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、訂正事項により記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。 したがって、訂正前の請求項1ないし9に対する訂正後の請求項1ないし9は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 2 訂正の目的、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項に係る請求項1の訂正は、請求項1のフィルムについて「メソペンタッド分率が0.970以上であり、かつキシレンで完全に溶解せしめた後、室温で析出させたときに、キシレン中に溶解しているポリプロピレン成分(CXS)が1.5質量%未満であるポリプロピレン樹脂を原料と」することを特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、訂正事項に係る請求項1の訂正は、本件特許明細書【0022】ないし【0025】、【0041】、【0079】及び【0101】の記載からみて、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。 そして、訂正事項に係る請求項1の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。 請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2ないし9についても同様である。 なお、本件特許異議の申立ては、訂正前の請求項1ないし9に対してされているから、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。 3 小括 以上のとおり、本件訂正請求による特許請求の範囲の訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号を目的とし、かつ、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし9〕について訂正することを認める。 第3 本件特許発明 上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし9に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 メソペンタッド分率が0.970以上であり、かつキシレンで完全に溶解せしめた後、室温で析出させたときに、キシレン中に溶解しているポリプロピレン成分(CXS)が1.5質量%未満であるポリプロピレン樹脂を原料とし、 150℃で1分熱処理したフィルム(以下、処理フィルムという)と未処理のフィルム(以下、未処理フィルムという)のそれぞれを、昇温速度β(℃/min)でDSC測定して観測される融解ピーク温度(Tmβ)(℃)をY軸、その昇温速度β(℃/min)を0.5乗した値(以下、β0.5という)をX軸とした関係から得られる一次関数((Tmβ)=xβ0.5+y)において、処理フィルムにおける前記一次関数のy切片(H1y)(℃)と未処理フィルムにおける前記一次関数のy切片(H0y)(℃)の関係が、次の関係を満たす、ポリプロピレンフィルム。 (H1y)/(H0y)≧0.90 【請求項2】 処理フィルムにおける前記一次関数のy切片(H1y)(℃)が155℃以上である、請求項1に記載のポリプロピレンフィルム。 【請求項3】 幅方向の130℃における熱機械分析装置を用いて求められる熱収縮応力値(SF130TD)(MPa)が2.0MPa以下である、請求項1または2に記載のポリプロピレンフィルム。 【請求項4】 長手方向と幅方向の135℃における固定粘弾性測定にて求められる貯蔵弾性率の和(E’135(MD+TD))、及び、長手方向と幅方向の125℃における固定粘弾性測定にて求められる貯蔵弾性率の和(E’125(MD+TD))の関係が、次式を満たす、請求項1~3のいずれかに記載のポリプロピレンフィルム。 (E’135(MD+TD))/(E’125(MD+TD))>0.80 【請求項5】 少なくとも一方の表面において、1,252μm×939μmの領域における深さ20nm以上の谷の体積を合計した総谷側体積が1~12,000μm3である、請求項1~4のいずれかに記載のポリプロピレンフィルム。 【請求項6】 フィルムをキシレンで完全溶解せしめた後、室温で析出させたときに、キシレン中に溶解しているポリプロピレン成分(CXS)が1.5質量%未満である、請求項1~5のいずれかに記載のポリプロピレンフィルム。 【請求項7】 室温における長手方向のF5値(F5MD)(MPa)と幅方向のF5値(F5TD)(MPa)の関係が、次式を満たす、請求項1~6のいずれかに記載のポリプロピレンフィルム。 (F5TD)/(F5MD)≧1.5 【請求項8】 請求項1~7のいずれかに記載のポリプロピレンフィルムの少なくとも片面に金属膜を有する金属膜積層フィルム。 【請求項9】 請求項8に記載の金属膜積層フィルムを用いてなるフィルムコンデンサ。」 第4 特許異議申立書に記載した特許異議申立理由について 令和 5年 9月28日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した特許異議申立理由の概要は次のとおりである。 1 申立理由1(甲第1号証に基づく新規性・進歩性) 本件特許発明1及び7は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第1号証に記載された発明に基づいて、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1及び7に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 2 申立理由2(サポート要件) 本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 ・本件特許発明1は、高温環境で長時間の使用信頼性に優れ、高温度・高電圧下で用いられるコンデンサ用途等に好適な、熱に対して構造安定性に優れるポリプロピレンフィルムを提供することを課題とし(段落【0010】)、フィルムを使用環境温度以上で加熱した処理フィルムのy切片(H1y)(℃)と未処理フィルムのy切片(H0y)(℃)の変化が小さくなるよう制御することで、前記課題を達成していると理解できる(段落【0021】)。 一方、本件特許発明1は、(H1y)/(H0y)≧0.90と特定されているものの、その上限値が特定されておらず、(H1y)/(H0y)>1の場合には、数値の増加に伴って、(H0y)からの(H1y)の変化が大きくなり、上記達成手段と矛盾する。更に、(H1y)/(H0y)>1の場合には、150℃で1分熱処理したフィルムの方が、結晶の平衡融点が高くなることを意味しており、熱処理後に平衡融点が高くなることは一切記載されておらず、(H1y)/(H0y)>1のものは実施例としても開示されていない。そればかりか、「(H1y)/(H0y)を0.99より大きくしようとすると、製膜時の延伸倍率を大きくする必要があり破れを生じたりする場合がある」との記載がある(段落【0024】)。 したがって、(H1y)/(H0y)>1の場合には、課題が解決できると当業者が認識できないため、この場合まで、本件特許発明を拡張ないし一般化することができず、本件特許発明1ないし9についてはサポート要件違反である。 3 証拠方法 甲第1号証:国際公開第2013/111779号 甲第2号証:Akihiko Toda et al,“Superheated Melting Kinetics of Metastable Chain-Folded Polymer Crystals”,Cryst. Growth Des. 2018,18,p3637-3643 証拠の表記は特許異議申立書の記載におおむね従った。 以下、順に「甲1」等という。 第5 取消理由の概要 令和 5年12月14日付けで通知された取消理由(以下、「取消理由」という。)の概要はおおむね次のとおりである。 取消理由(サポート要件) 本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、次の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 ・本件特許発明が解決しようとする課題は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載からみて、その段落【0010】に記載された次のとおりのものであると認められる。 「本発明は、高温環境で長時間の使用信頼性に優れ、高温度・高電圧下で用いられるコンデンサ用途等に好適な、熱に対して構造安定性に優れるポリプロピレンフィルムを提供することを目的とし、また、それを用いた金属膜積層フィルムおよびフィルムコンデンサを提供することを目的とする。」 これに対し、本件特許発明1ないし9は請求項1に規定のフィルム融点変化の関係式(H1y)/(H0y)≧0.90を満たすことを構成とする。 しかしながら、請求項1に規定のフィルム融点変化の関係式(H1y)/(H0y)≧0.90を満たすためには、発明の詳細な説明の段落【0022】ないし【0025】、段落【0079】には「製膜時の延伸工程で面積延伸倍率を高め、特に逐次二軸延伸法にて幅方向の延伸倍率を高めること」、フィルム形成材料としてのポリプロピレン樹脂は、「高メソペンタッド分率」であって「メソペンタッド分率は0.970以上」であり、かつ「冷キシレン可溶部(CXS)が1.5質量%未満のポリプロピレン原料を使用」すること、「フィルター前、フィルター後、口金における溶融押出温度を多段式低温化し、二軸延伸時に面積倍率を60倍以上で、かつ幅方向の延伸場倍率を10.5倍以上とし、長手方向に一軸延伸後で、かつ軸方向への二軸延伸直前の予熱温度を、幅方向の延伸温度+5~+15℃とし、二軸延伸後の熱固定処理および弛緩処理工程において、まず、幅方向の延伸温度より低温での熱処理(1段目)をしながら弛緩処理を行い、次いでフィルムを幅方向に緊張を保ったまま前記1段目の熱処理より低温で135℃以上の熱処理(2段目)、さらに80℃以上で前記2段目の熱処理温度未満の条件で熱処理(3段目)を施す多段方式の熱固定処理および弛緩処理をフィルムに適宜施すことにより、(H1y)/(H0y)≧0.90となるポリプロピレンフィルムを得ることが可能である」と記載されており、実際に発明の詳細な説明の段落【0112】ないし【0129】に記載の実施例・比較例におけるポリプロピレンフィルムの各物性値と、請求項1に規定されるフィルム融点変化の関係式(H1y)/(H0y)の値、及び、フィルム性能について検討すると、請求項1に規定されるフィルム融点変化の関係式(H1y)/(H0y)≧0.90を満たすフィルムは、全て、メソペンタッド分率0.970以上、かつ、冷キシレン可溶部(CXS)が1.5質量%未満を満たすポリプロピレン樹脂を原料としてフィルム製造がされたものである。 したがって、本件特許明細書における発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、メソペンタッド分率0.970以上・冷キシレン可溶部(CXS)1.5質量%未満のポリプロピレン樹脂を用い、かつ、請求項1に規定されるフィルム融点変化の関係式(H1y)/(H0y)≧0.90を満たすフィルムについて、高温環境で長時間の使用信頼性に優れ、高温度・高電圧下で用いられるコンデンサ用途に好適であり、熱に対して構造安定性に優れたポリプロピレンフィルムを提供することができる、と認識することができるといえる。 そうすると、発明の詳細な説明の記載から、当業者は、原料段階で、メソペンタッド分率0.970・冷キシレン可溶部(CXS)1.5質量%未満のポリプロピレンを用い、かつ、請求項1に規定されるフィルム融点変化の関係式(H1y)/(H0y)≧0.90を満たすフィルムについては、発明の課題を解決することができることを認識し得るとしても、当該範囲をさらに拡張ないし一般化した範囲についてまで、同様に発明の課題を解決することができると当業者が認識できる、とは、本件特許明細書の全ての記載及び本件出願時の技術常識を参酌しても、認めることはできない。 第6 取消理由についての当審の判断 当審は、以下に述べるように取消理由は理由がない、と判断する。 1 サポート要件の判断基準 特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 そこで、検討する。 2 特許請求の範囲の記載 本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第3のとおりである。 3 発明の詳細な説明の記載 発明の詳細な説明の段落【0010】には「本発明は、高温環境で長時間の使用安定性に優れ、高温度・高電圧下で用いられるコンデンサ用途等に好適な、熱に対して構造安定性に優れるポリプロピレンフィルムを提供することを目的とし、また、それを用いた金属膜積層フィルムおよびフィルムコンデンサを提供することを目的とする。」と記載されている。 また、発明の詳細な説明の段落【0015】ないし【0017】には、発明を実施するための形態として、「本発明者は、前述の課題を解決するため鋭意検討を重ね、」「ポリプロピレンフィルムが高温環境下において絶縁破壊電圧、並びにコンデンサとしたときの高温環境で長時間の使用信頼性」を十分なものとするために「ポリプロピレンフィルムを150℃1分の熱処理の前後における、フィルム融点変化の関係が一定以上の値であるフィルムとすることにより上記の課題を解決できることを見出した。」ことが記載されている。 そして、発明の詳細な説明の段落【0018】及び【0020】ないし【0021】にはフィルムの融点変化の関係式について記載され、段落【0022】ないし【0025】及び段落【0079】にはフィルム融点変化の関係式を満たすためのフィルム製膜条件と、フィルム形成材料としてのポリプロピレン樹脂が高メソペンタッド樹脂であってメソペンタッド分率が0.970以上であり、かつ、冷キシレン可溶部(CXS)が1.5質量%未満であることが記載されており、段落【0052】にはメソペンタッド分率について、段落【0016】及び段落【0041】ないし【0042】には冷キシレン可溶部(CXS)について記載されている。 ここで、発明の詳細な説明の【0101】には、「冷キシレン可溶部(CXS)」について、「原料の場合はポリプロピレン樹脂」「試料について、0.5gを135℃のキシレン100mlに溶解して放冷後、20℃の恒温水槽で1時間再結晶させた後にろ過液に溶解しているポリプロピレン系成分を液体クロマトグラフ法にて定量し」「ろ過液に溶解しているポリプロピレン系成分の量をX(g)、試料0.5gの精量値をX0(g)として」「式CXS(%)=(X/X0)×100」「から算出」した量であることが記載されている。 さらに、発明の詳細な説明の段落【0112】ないし【0129】には、原料に使用されたポリプロピレン樹脂のメソペンタッド分率・冷キシレン可溶部(CXS)及び製膜条件と、これら条件により製造されたポリプロピレンフィルムのフィルム融点変化のy切片の比について実測されており、メソペンタッド分率0.970以上かつ冷キシレン可溶部(CXS)1.5質量%未満のポリプロピレン樹脂から製造され、フィルム融点変化の関係式(H1y)/(H0y)≧0.90を満たすポリプロピレン樹脂を原料としたポリプロピレンフィルムは、フィルムコンデンサ特性(120℃での信頼性)に優れることが確認されている。 4 サポート要件の判断 本件特許の発明の詳細な説明の段落【0010】から、本件特許発明1ないし9の解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は、高温環境で長時間の使用信頼性に優れ、高温度・高電圧下で用いられるコンデンサ用途等に好適な、熱に対して構造安定性に優れるポリプロピレンフィルムを提供すること、また、それを用いた金属膜積層フィルムおよびフィルムコンデンサを提供すること、である。 本件特許の発明の詳細な説明の段落【0015】ないし【0017】には当該発明の課題を解決するために、請求項1に規定されるフィルム融点変化の関係式(H1y)/(H0y)≧0.90を満たすフィルムとすることが記載されており、本件特許の発明の詳細な説明の段落【0022】ないし【0025】及び段落【0079】にはフィルム融点変化の関係式を満たすためのフィルム製膜条件と共に、フィルム形成材料としてのポリプロピレン樹脂が高メソペンタッド樹脂であってメソペンタッド分率が0.970以上であり、かつ、冷キシレン可溶部(CXS)が1.5質量%未満であることが記載されており、段落【0112】ないし【0129】には、実施例及び比較例の対比により、メソペンタッド分率0.970以上かつ冷キシレン可溶部(CXS)1.5質量%未満のポリプロピレン樹脂から製造され、フィルム融点変化の関係式(H1y)/(H0y)≧0.90を満たすポリプロピレンフィルムは、フィルムコンデンサ特性(120℃での信頼性)に優れることが確認されている。 そうすると、当業者は、メソペンタッド分率0.970以上であり、かつ、キシレンで完全に溶解せしめた後、室温で析出させたときに、キシレン中に溶解しているポリプロピレン成分(CXS)、すなわち、冷キシレン可溶部(CXS)が1.5質量%未満のポリプロピレン樹脂を原料とし、フィルム融点変化の関係式(H1y)/(H0y)≧0.90を満たすポリプロピレンフィルムは、発明の課題を解決することができると認識できる。 そして、本件特許発明1は、上記発明の課題を解決することができる特定事項を全て含み、本件特許発明2ないし9は、これをさらに限定するものであるから、発明の課題を解決できるものである。 したがって、本件特許発明1ないし9は、本件特許の発明の詳細な説明に記載されたものであり、本件特許の発明の詳細な説明により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲ものであるといえる。 よって、本件特許発明1ないし9に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。 5 取消理由についてのむすび 本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、特許法第113条第4号に該当しない。 したがって、取消理由によって本件特許の請求項1ないし9に係る特許を取り消すことはできない。 第7 取消理由に採用しなかった特許異議申立書に記載した異議申立理由について 取消理由に採用しなかった特許異議申立書に記載した申立理由は、 ・申立理由1(甲1に基づく新規性・進歩性) ・申立理由2(サポート要件)である。 以下、順に検討する。 1 申立理由1(甲1に基づく新規性・進歩性)について (1)甲1に記載された事項等 ア 甲1の記載事項 甲1には、延伸ポリプロピレンフィルムに関し、次の事項が記載されている。 「[0078] さらに、熱収縮率を低下させるためには、上記の工程で製造されたフィルムを一旦ロール状に巻き取った後、オフラインでアニールさせることもできる。」 「[0091] (6)融点(Tmp)(℃)、結晶化度(%)および150℃結晶化度(%) 示差走査熱量計(島津製作所製「DSC-60」)を用いて熱測定を行った。試料フィルムから約5mgを切り出して測定用のアルミパンに封入した。20℃/分の速度で室温から230℃まで昇温し、試料の融解吸熱ピーク温度を融点Tmpとした。」 「[0092] (7)冷キシレン可溶部(CXS)(質量%) ポリプロピレン試料1gを沸騰キシレン200mlに溶解して放冷後、20℃の恒温水槽で1時間再結晶化させ、ろ過液に溶解している質量の、元の試料量に対する割合をCXS(質量%)とした。」 「[0095] (10)ヤング率(GPa) JIS-K7127に準拠してMD方向およびTD方向の引張強度を23℃で測定した。」 「[0100] (実施例1) ポリプロピレン樹脂として、Mw/Mn=7.7、Mz+1/Mn=140、MFR=5.0g/10min、メソペンタッド分率[mmmm]=97.3%であるポリプロピレン単独重合体(日本ポリプロ(株)製「ノバテック(登録商標)PP SA4L」:共重合モノマー量は0mol%;以下「PP-1」と略する)を用いた。 このポリプロピレン樹脂を65mm押出機を用いて、250℃でTダイよりシート状に押出し、30℃の冷却ロールで冷却固化した後、135℃で長手方向(長さ方向)に4.5倍に縦延伸し、次いで両端をクリップで挟み、熱風オーブン中に導いて、170℃で予熱した後、160℃で幅方向(横方向)に8.2倍に横延伸し、次いで幅方向に6.7%のリラックスを掛けながら168℃で熱処理した。こうして得られたフィルムの片面にコロナ処理を行い、ワインダーで巻き取って、本発明の延伸ポリプロピレンフィルムとした。 得られたフィルムの厚みは20μmであり、その物性は表1、表2および表3に示すとおりであった。表の結果から、このフィルムは熱収縮率が低く、ヤング率が高いことが分かる。また、このフィルムの示差走査熱量測定(DSC)で得られたチャートを図1に示す。」 「[0105] (実施例6) 実施例1で得られた延伸ポリプロピレンフィルムを、さらにテンター式熱風オーブン中、170℃で5分間熱処理した。 得られたフィルムの厚みは20μmであり、その物性は表1、表2および表3に示すとおりであった。」 「[0110][表1] [図:0001413338000001.jpg] 」 「[0111][表2] [図:0001413338000002.jpg] 」 「[0112][表3] [図:0001413338000003.jpg] 」 イ 甲1に記載された発明 上記アより、甲1の実施例6を中心に整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。 <甲1発明> 「ポリプロピレン樹脂として、Mw/Mn=7.7、Mz+1/Mn=140、MFR=5.0g/10min、メソペンタッド分率[mmmm]=97.3%、キシレン可溶分(質量%)4.5%であるポリプロピレン単独重合体(日本ポリプロ(株)製「ノバテック(登録商標)PP SA4L」:共重合モノマー量は0mol%)を用い、このポリプロピレン樹脂を、65mm押出機を用いて、250℃でTダイよりシート状に押出し、30℃の冷却ロールで冷却固化した後、135℃で長手方向(長さ方向)に4.5倍に縦延伸し、次いで両端をクリップで挟み、熱風オーブン中に導いて、170℃で予熱した後、160℃で幅方向(横方向)に8.2倍に横延伸し、次いで幅方向に6.7%のリラックスを掛けながら168℃で熱処理した。こうして得られたフィルムの片面にコロナ処理を行い、ワインダーで巻き取って、延伸ポリプロピレンフィルムとし、さらにテンター式熱風オーブン中、170℃で5分間熱処理した、熱処理前の融点が170.0℃、熱処理後の融点が173.4℃である、延伸ポリプロピレンフィルム。」 (2)検討 ア 本件特許発明1についての対比・判断 本件特許発明1と甲1発明とを対比する。 甲1発明における「ワインダーで巻き取っ」た「熱処理前の」「延伸ポリプロピレンフィルム」は、本件特許発明1における「ポリプロピレンフィルム」に相当する。 甲1発明における「メソペンタッド分率[mmmm]=97.3%」「であるポリプロピレン単独重合体(日本ポリプロ(株)製「ノバテック(登録商標)PP SA4L」:共重合モノマー量は0mol%)を用い」る構成は、本件特許発明1における「メソペンタッド分率が0.970以上であ」る「ポリプロピレン樹脂を原料と」する構成に相当する。 そうすると、本件特許発明1と甲1発明との一致点、相違点は次のとおりである。 <一致点> 「メソペンタッド分率が0.970以上であるポリプロピレン樹脂を原料とした、ポリプロピレンフィルム。」 <相違点1> 本件特許発明1は、「キシレンで完全に溶解せしめた後、室温で析出させたときに、キシレン中に溶解しているポリプロピレン成分(CXS)が1.5質量%未満である」ポリプロピレン樹脂を原料にするとの特定を有するのに対し、甲1発明は、そのような特定がない点。 <相違点2> 本件特許発明1は、「150℃で1分熱処理したフィルム(以下、処理フィルムという。)と未処理のフィルム(以下、未処理フィルムという。)のそれぞれを、昇温速度β(℃/min)でDSC測定して観測される融解ピーク温度(Tmβ)(℃)をY軸、その昇温速度β(℃/min)を0.5乗した値(以下、β0.5という)をX軸とした関係から得られる一次関数((Tmβ)=xβ0.5+y)において、処理フィルムにおける前記一次関数のy切片(H1y)(℃)と未処理フィルムにおける前記一次関数のy切片(H0y)(℃)の関係が、次の関係を満たす」「(H1y)/(H0y)≧0.90」との特定を有するのに対し、甲1発明は、そのような特定がない点。 相違点1について検討する。 相違点1に係る「キシレンで完全に溶解せしめた後、室温で析出させたときに、キシレン中に溶解しているポリプロピレン成分(CXS)」を、以下では「冷キシレン可溶部(CXS)」という。 甲1発明における「キシレン可溶部(質量%)」は、甲1[0092]を参酌すると、試料1gに対し沸騰キシレン200mlに溶解して測定されたものである。 一方で、本件特許発明1における「冷キシレン可溶部(CXS)」は、本件特許明細書【0101】から、試料0.5gに対し135℃のキシレン100mlに溶解して測定したものである。 甲1発明の「キシレン可溶分(質量%)」と、本件特許発明1の「冷キシレン可溶部(CXS)」とは、厳密に同じ測定条件で得られた数値ではないものの、試料(g)に対するキシレン(ml)の比率は共通であり、再結晶させた後にろ過液に溶解しているポリプロピレン系成分を定量する点も共通しているから、甲1発明の「キシレン可溶分(質量%)」は4.5質量%であるところ、これが、相違点1に係る「冷キシレン可溶部(CXS)」の測定条件で測ったときには、1.5質量%未満となる蓋然性が高いとまではいえない。 したがって、相違点1は実質的な相違点である。 また、甲1及び他の全ての証拠をみても、甲1発明において、相違点1に係る「冷キシレン可溶部(CXS)」を1.5質量%未満とする動機となる記載はない。 特許異議申立人は、特許異議申立書(第14頁第25行~第15頁第26行)において、 ・「甲第1号証に記載された、実施例1と実施例6(実施例1を170℃5分で幅固定して熱処理したもの)の融解ピークの差は、173.4-170.0=3.4℃と殆ど差がない(表3)。」 ・「実施例1のフィルムは、170℃5分熱処理した場合でもこの程度の変化のため、150℃で1分熱処理すると更に切片の温度差は小さくなると推定される。」 ・「実施例6のフィルムは、170℃5分で幅固定して熱処理したものであるため、150℃で1分熱処理しても、板状結晶の平衡融点、即ち切片温度が変化せず、(H1y)/(H0y)≧0.90を満たす蓋然性が高い。」 ・「仮に、この点が相違点であったとしても、甲第2号証には、一次関数のy切片が「屈曲性高分子の板状結晶の平衡融点であること」を意味することが記載され、150℃で1分熱処理した前後のフィルムについて、その値が変化しないものとすることは、甲第1号証における実施例1と6の150℃熱収縮率の関係や、実施例6のようなオフラインアニールが、熱収縮率の低下に有効であるとの記載があることなどに基づいて、当業者が容易に想起できる。」 と主張をしている。 しかしながら、甲1発明において、熱処理を150℃1分に変更する動機はなく、仮に、150℃1分で熱処理することを想起したとしても、相違点2に係る「(H1y)/(H0y)≧0.90」を満たすか否かについては、甲1及び他の全ての証拠をみても明らかでなく、これを満たす蓋然性が高いともいえない。 また、上記検討したとおり、相違点1に係る「冷キシレン可溶部(CXS)」1.5質量%未満を満たす蓋然性が高いともいえない。 上記のとおりであるから、甲1及び他の全ての証拠を参酌しても、甲1発明において、相違点1に係る「冷キシレン可溶部(CXS)」を1.5質量%未満とすることは、当業者が容易に想起した事項であるとはいえず、甲1発明において、相違点1に加えて、相違点2に係る「(H1y)/(H0y)≧0.90」を満たすものとすることも、当業者が容易に想起し得た事項であるとはいえない。 そして、本件特許発明1は、メソペンタッド分率が0.970以上であり、冷キシレン可溶部(CXS)が1.5質量%未満であるポリプロピレン樹脂を原料とし、フィルムの融点変化の関係式(H1y)/(H0y)≧0.90を満たすポリプロピレンフィルムとすることにより、フィルムコンデンサ特性に優れる、すなわち、高温環境での長時間の使用信頼性に優れ、高温度・高電圧下で用いられるコンデンサ用途等に好適な、熱に対して構造安定性に優れるポリプロピレンを得ることができる、という顕著な効果を奏するものである。 したがって、本件特許発明1は、甲1発明ではなく、甲1発明並びに甲1及びその他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 イ 本件特許発明7についての対比・判断 本件特許発明7と甲1発明とは、上記アと同様の対応関係を有し、少なくとも上記アと同様の相違点1及び相違点2を有するところであって、同様に判断される。 よって、本件特許発明7は甲1発明ではなく、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (3)申立理由1についてのむすび 本件特許発明1及び7は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえず、また、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1及び7に係る特許は、特許法第113条第2項に該当しない。 よって、申立理由1により本件特許の請求項1及び7に係る特許を取り消すことはできない。 2 申立理由2(サポート要件)について (1)サポート要件の判断 サポート要件の判断については、上記第6 4において検討したとおりである。 (2)特許異議申立人の主張について 上記第4 2における特許異議申立人の主張について以下に検討する。 上記第6 4において検討したとおり、当業者は、メソペンタッド分率0.970以上であり、かつ、キシレンで完全に溶解せしめた後、室温で析出させたときに、キシレン中に溶解しているポリプロピレン成分(CXS)、すなわち、冷キシレン可溶部(CXS)が1.5質量%未満のポリプロピレン樹脂を原料とし、フィルム融点変化の関係式(H1y)/(H0y)≧0.90を満たすポリプロピレンフィルムは、発明の課題を解決することができると認識できるから、(H1y)/(H0y)の上限値が特定されていないことは、サポート要件の判断に影響しない。したがって、(H1y)/(H0y)>1の具体例が、本件特許の発明の詳細な説明において、あるいは、本件特許の実施例として記載されていないことは、サポート要件の判断には何ら関係しない。 なお、(H1y)/(H0y)の値については、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載、特に、本件特許の発明の詳細な説明【0128】【表1】、【0129】【表2】を参酌すると、150℃1分熱処理した後の平衡融点(H1y)が熱処理前の平衡融点(H0y)よりも上昇したフィルムの具体例はない。本件特許の発明の詳細な説明のこのような記載を参酌すると、本件特許発明1の発明特定事項であるメソペンタッド分率0.970以上、かつ、冷キシレン可溶部(CXS)が1.5質量%未満のポリプロピレン樹脂を原料とするポリプロピレンフィルムにおいても、(H1y)/(H0y)が1を大きく超過して発明の課題を解決し得ないフィルムがある、との特許異議申立人の主張は、技術的な裏付けがなく、採用することはできない。 また、本件特許の発明の詳細な説明【0024】には「(H1y)/(H0y)を0.99より大きくしようとすると、製膜時の延伸倍率を大きくする必要があり破れを生じたりする場合がある。」と記載されているが、(H1y)/(H0y)を0.99より大きくしようとすると、製膜時の延伸倍率を大きく設定することが必要となる場合があること、この場合、破れないように大きな延伸倍率で延伸することは一般的には簡単ではない、という製膜時の注意事項を挙げ、そのため、実用的には(H1y)/(H0y)の値は0.99程度以下とされる旨説明されているに過ぎないものであるから、本件特許の発明の詳細な説明の当該記載を以て、(H1y)/(H0y)を0.99未満にしなければ発明の課題を解決することができない、と当業者が理解するものではない。 以上のとおりであるから、特許異議申立人の主張は採用し得ない。 第8 結び 以上のとおり、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、取消理由及び特許異議申立書に記載した申立理由によっては、取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1ないし9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2023-701041

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