特許異議申立
2023-700463
エレクトレット繊維シートおよびその製造方法
- 審判番号
- 2023-700463
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-227081
- 登録番号
- 7167432
- 請求日
- 2023年05月01日
- 審決日
- 2023年09月26日
- 公報発行日
- 2023年10月27日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】東レ株式会社
- 【異議申立人】笠原 佳代子
- 審判長/審判官
- 審判長 原 賢一
- 審判官 三崎 仁
- 審判官 金 公彦
- 分類
- P1651.121-Y (B01D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7167432号発明「エレクトレット繊維シートおよびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7167432号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7167432号の請求項1~4に係る特許についての出願は、平成29年11月27日に出願され、令和4年10月31日にその特許権の設定登録がされ、同年11月9日に特許掲載公報が発行された。その後、請求項1~4に係る特許に対し、令和5年5月1日に特許異議申立人笠原佳代子(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされた。
第2 本件発明
特許第7167432号の請求項1~4の特許に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明4」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
非導電性繊維を90質量%以上含んでなるエレクトレット繊維シートであって、前記エレクトレット繊維シートを構成する繊維中に結晶核剤が0.005~1.0質量%含有されており、かつ示差走査熱量計(DSC)で測定される融点(Tm)と結晶化温度(Tc)の差(Tm-Tc)が、5~45℃であり、前記エレクトレット繊維シートがメルトブロー不織布からなり、濾過風速4.5m/分における粒子径が0.3~0.5μmのポリスチレン粒子の捕集効率と圧力損失により以下の式(1)で算出されるQF値が0.20以上であることを特徴とするエレクトレット繊維シート。
QF値(Pa-1)=-[ln(1-捕集効率(%)/100)]/圧力損失(Pa)・・・(1)
【請求項2】
エレクトレット繊維シートが、ポリオレフィン系樹脂を主体とする熱可塑性樹脂からなる繊維により構成されていることを特徴とする請求項1記載のエレクトレット繊維シート。
【請求項3】
請求項1または2に記載のエレクトレット繊維シートからなるエアフィルター濾材。
【請求項4】
非導電性繊維を90質量%以上含んでなるエレクトレット繊維シートをメルトブロー法により製造する方法であって、示差走査熱量計(DSC)で測定される前記エレクトレット繊維シートの結晶化温度(Tc)と前記エレクトレット繊維シートをメルトブロー法により紡糸する際の紡糸温度(Tx)の差(Tx-Tc)が、10~130℃であり、非導電性の繊維シートに水を付与した後に乾燥させることによりエレクトレット化することを特徴とする請求項1または2に記載のエレクトレット繊維シートの製造方法。」
第3 申立理由の概要
(1)申立人は、以下の(2)証拠方法に記載する甲第1号証~甲第4号証(以下「甲1」~「甲4」という。)を提示し、本件発明1~4は、甲1に記載された発明及び甲2~4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1~4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである旨主張している。
(2)証拠方法
甲1:特開2004-66026号公報
甲2:特許第2543548号公報
甲3:特表2011-522137号公報
甲4:Ali Kilic,「Improving Electret Filter Efficiency by Modifying Fibrous Webs with Melt Additives」, A dissertation submitted to the Graduate Faculty of North Carolina State University in partial fulfillment of the requirements for the Degree of Doctor of Philosophy, Fiber and Polymer Science, 2012年, CHAPTER6(pp.198-224)
第4 甲号証の記載
1 甲1について
(1)甲1には、以下の事項が記載されている。なお、下線は、以下の(2)で認定する甲1発明に関連する部分に付与した。
(甲1ア)「【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記従来の問題点を鑑みて、多孔性誘電体シートにおいて、その内部まで十分に、かつ、高度にエレクトレット化されたエレクトレット濾材の製造方法を提供するものである。」
(甲1イ)「【0010】
多孔性誘電体シートの材質としては、一種類、あるいは、複数の種類から構成されてもよいが、電荷保持の点から体積抵抗率1014Ωcm以上の材質を少なくとも一種類以上含むことが好ましい。もし、該多孔性誘電体シートが体積抵抗率1014Ωcm未満の材質のみで構成されていれば、電荷が蓄積しにくく、高度にエレクトレット化することはできない。また、電荷寿命が極端に短くなってしまうという問題が生じる。具体的な材質としては、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリ乳酸、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等であるが、ポリオレフィンが好ましく、なかでもポリプロピレンが特に好ましい。
【0011】
本発明における多孔性誘電体シートが、ポリプロピレンからなるメルトブロー不織布の場合、目付は5~100g/m2であり、好ましくは10~60g/m2である。平均繊維径は1~20μmであり、好ましくは1~10μmである。
【0012】
多孔性誘電体シートにはヒンダードフェノール系安定剤、硫黄系安定剤、リン系安定剤、脂肪酸金属塩、結晶核剤のうち少なくとも一種類の添加剤が含有されることが必須である。これらの添加剤を含有することにより、多孔性誘電体シートのエレクトレット性が飛躍的に向上する。
【0013】
上記ヒンダードフェノール系安定剤として、特に限定するわけではないが、具体的には、ペンタエリスリチル-テトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート](Irganox1010、チバガイギー社製)、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート(Irganox1076、チバガイギー社製)、トリス-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-イソシアヌレイト(Irganox3114、チバガイギー社製)、3,9-ビス-{2-[3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)-プロピオニルオキシ]-1,1-ジメチルエチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ-[5,5]ウンデカン(スミライザーGA-80、住友化学社製)等が挙げられる。」
「【0017】
上記結晶核剤として、特に限定するわけではないが、具体的にはリン酸ビス(4-t-ブチルフェニル)ナトリウム(NA-10、旭電化社製)、リン酸2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)ナトリウム(NA-11、旭電化社製)、ロジン系結晶核剤パインクリスタルKM-1500(荒川化学社製)等が挙げられる。」
(甲1ウ)「【0030】
(濾過特性の評価)
圧力損失(PD)は、エレクトレット濾材試料をダクト内に設置し、濾材通過線速度が5.3cm/秒になるようコントロールし、エレクトレット濾材上流、下流の静圧差を圧力計で読み取り求めた。また粒子捕集効率E(%)の評価は粒子径0.3μmのDOP粒子を用い、5.3cm/秒にて行った。圧力損失PD(mmAq)と粒子捕集効率E(%)を用いて、数2より濾材品質係数QFを算出した。
【0031】
【数2】
QF=-ln(1-E/100)/PD
【0032】
まず、不織布の添加剤組成の効果について示す。
(実施例1~6)
メルトフローインデックス1000のポリプロピレン樹脂100重量部に対して表1に示したように、Irganox1010を0.3重量部、および、3重量部配合した樹脂、ジステアリルチオジプロピオネート(DSTDP)、9,10ージヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナンスレン-10-オキサイド(HCA)、ステアリン酸マグネシウム(STMG)、NA-11をそれぞれ各0.3重量部配合した樹脂を使用して、目付40g/m2、平均繊維径2.9μmのメルトブロー不織布を作製した。直流コロナ荷電処理を行った後、次いでアンモニア(pKa=9.2)10ppmを含む水溶液の噴射処理を行い、エレクトレット濾材を得た。これらの濾過特性を表1に示した。
【0033】
(比較例1)
上記添加剤を配合しないこと以外は、実施例1~6と同様にしてエレクトレット濾材を得た。この濾過性能を表1に示した。
【0034】
【表1】
[図:0001402793000001.jpg]
」
(2)甲1発明
(甲1ウ)の表1の実施例6に記載されている「NA-11」は、(甲1イ)の【0017】の記載によれば「結晶核剤」であり、その実施例6のエレクトレット濾材について、同【0030】に記載されている条件で求めた圧力損失PD(mmAq)と粒子捕集効率E(%)を用いて、数2より濾材品質係数QFを算出した値が、表1に「2.63(1/mmAq)」であると記載されている。
そうすると、この実施例6に基づいて、甲1に記載されている発明(以下「甲1発明」という。)を認定すると、以下のとおりである。
「メルトフローインデックス1000のポリプロピレン樹脂100重量部に対して、NAー11を0.3重量部配合した樹脂を使用して、目付40g/m2、平均繊維径2.9μmのメルトブロー不織布を作製し、直流コロナ荷電処理を行った後、次いでアンモニア(pKa=9.2)10ppmを含む水溶液の噴射処理を行って得られたエレクトレット濾材であって、
以下の条件で求めた圧力損失PD(mmAq)と粒子捕集効率E(%)を用いて、数2より算出した濾材品質係数QFが、2.63(1/mmAq)であるエレクトレット濾材。
圧力損失(PD)は、エレクトレット濾材試料をダクト内に設置し、濾材通過線速度が5.3cm/秒になるようコントロールし、エレクトレット濾材上流、下流の静圧差を圧力計で読み取り求め、また粒子捕集効率E(%)の評価は粒子径0.3μmのDOP粒子を用い、5.3cm/秒にて行い、圧力損失PD(mmAq)と粒子捕集効率E(%)を用いて、数2より濾材品質係数QFを算出した。
数2 QF=-ln(1-E/100)/PD」
2 甲2について
甲2には、以下の事項が記載されている。
(甲2ア)「本発明の目的は、従来のポリプロピレン極細繊維不織布における前記した問題点を解決し、フィルター性能に優れ、強力が高く、ポリマー玉のない良質なポリプロピレン極細繊維不織布を提供することにある。
〔問題点を解決するための手段とその作用〕
本発明者らは、特にポリプロピレン極細繊維の平均分子量と分子量分布(Mw/Mnの比)が特定範囲内にあると、強力が高くポリマー玉のない良質な極細繊維が得られ、しかも驚くべきことに、この不織布のフィルター性能が著しく高まることを見い出し、本発明を完成したものである。」(2頁左欄25~35行)
(甲2イ)「実施例1.
温度230℃、荷重2,160gにおけるメルトインデックス10g/10分(ASTM D 1238に準じて測定)のポリプロピレン・パウダーにビス(1-t-ブチルパーオキシ-1-メチルエチル)ベンゼン0.07重量パーセント、および、ジ-ベンジリデンソルビトール0.2重量パーセントを添加して均一に混合したのち、加熱した押出機を通過させることにより、メルトインデックス206g/10分、DSCにおいて溶融状態から10℃/分の速度で冷却した時の結晶化開始温度が125℃、融点が165℃のポリプロピレン・ペレットを得た。」(4頁左欄32行~右欄7行)
3 甲3について
甲3には、以下の事項が記載されている。
(甲3ア)「【請求項20】
繊維性エレクトレット物品を作製する方法であって、
(a)室温で、1014オーム-cm以上の体積固有抵抗を有する繊維を含有する不織布ウェブを提供する工程と、
(b)前記不織布ウェブを以下のpH及び伝導度を有する水性液と接触させる工程であって、
(i)前記物品が-7.5mV以下のゼータ電位を有する場合、前記接触液は7を超えるpHと、1センチメートル当り約5~9,000マイクロシーメンスの伝導度とを有し、
(ii)前記物品が-7.5mVを超えるゼータ電位を有する場合、前記接触液は7以下のpHと、1センチメートル当り5~5,500マイクロシーメンスの伝導度とを有する、工程と、
(c)前記不織布ウェブを乾燥させる工程と、を含む方法。
【請求項21】
前記不織布ウェブは、マイクロファイバーを含有し、1.5/mmH2O以上の品質係数を示す、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記示される品質係数は、2mmH2O-1以上である、請求項21に記載の方法。」
(甲3イ)「【0080】
線質係数(QF)試験
メルトブロウンマイクロファイバー試料を、それぞれDOPエアゾール浸透(%Pen)及び圧力降下(DP)について試験し、品質係数を算出した。不織布マイクロファイバーウェブの濾過性能(%PEN及びQF)は、自動フィルター試験機AFT型式8127(TSI社(ミネソタ州、セントポール)から入手可能)を使用し、忌避エアゾールとしてのジオクチルフタレート(DOP)及びフィルターを横切る圧力降下(DP(水柱mm))を測定するMKS圧力変換器を使用して評価した。以下に記述するプロトコルを用いて、他のフィルター試験装置で比較測定が行われてもよい。DOPエアゾールは、名目上、70~110mg/m3の上流濃度を有する単分散0.3マイクロメートル質量中央径である。エアゾールは、エアゾールイオン化装置を停止させ、濾材のサンプルを通して、42.5リットル/分の較正流量(6.9cm/秒の面速度)にて押し出した。総試験時間は、23秒であった(立ち上がり時間15秒、サンプル時間4秒、及びパージ時間4秒)。DOPエアゾールの濃度は、濾材の上流側と下流側の両方にて、較正した光度計を使用して、光散乱により測定した。DOP %Penは、次のように定義される。%Pen=100×(DOP下流側濃度/DOP上流側濃度)各材料について、6個の別個の測定をブロウンマイクロファイバー(BMF)ウェブ上の異なった箇所で行い、結果を平均した。
【0081】
次式によりQFを計算するために、%Pen及びΔPを使用した。
QF=-ln(%Pen/100)/ΔP,
式中、Inは自然対数を表す。QF値が大きい場合、濾過性能がより高いことを示し、QF値が小さい場合には、濾過性能の低下と完全な相関関係があることを示す。」
4 甲4について
甲4には、以下の事項が記載されている。
(甲4ア)図6.6(209頁)として、以下の図面が記載されている。
「
[図:0001402793000002.jpg]
Figure 6.6 Difference between melting and crystallization temperatures, Δ(Tm-Tc) of nucleating agent containing filaments. 」
(訳:図6.6 核剤含有フィラメントの融点と結晶化温度の差、Δ(Tm-Tc))
第5 当審の判断
1 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
ア 甲1発明の「メルトブロー不織布を作製し、直流コロナ荷電処理を行った後、次いでアンモニア(pKa=9.2)10ppmを含む水溶液の噴射処理を行って得られたエレクトレット濾材」は、本件発明1の「メルトブロー不織布からな」る「エレクトレット繊維シート」に相当する。
そして、甲1発明の「ポリプロピレン樹脂」は(甲1イ)の【0010】に「体積抵抗率1014Ωcm以上」記載されているとおり「非導電性」であり、「NA-11」は同【0017】によれば「結晶核剤」であり、「ポリプロピレン樹脂100重量部に対して、NA-11を0.3重量部」を質量%に換算すると、前者は100/(100+0.3)×100=99.7質量%、後者は0.3/(100+0.3)×100=0.299質量%であるから、甲1発明の「ポリプロピレン樹脂100重量部に対して、NA-11を0.3重量部配合した樹脂を使用して」「作製し」た「メルトブロー不織布」の「エレクトレット濾材」は、本件発明1の「非導電性繊維を90質量%以上含んでなるエレクトレット繊維シートであって、前記エレクトレット繊維シートを構成する繊維中に結晶核剤が0.005~1.0質量%含有されて」いる「エレクトレット繊維シート」に相当する。
イ 単位「mmAq」が「Pa」(=0.102mmAq)に換算できることを踏まえると、甲1発明の「圧力損失PD(mmAq)」は、物理的概念としての本件発明1の「圧力損失(Pa)」に相当し、甲1発明の「粒子捕集効率E(%)」は、物理的概念としての本件発明1の「粒子の捕集効率(%)」に相当するから、甲1発明の「QF=-ln(1-E/100)/PD」は、物理上の関係式として本件発明1の「QF値(Pa-1)=-[ln(1-捕集効率(%)/100)]/圧力損失(Pa)」に相当するものである。
しかしながら、甲1発明の「濾材通過線速度が5.3cm/秒」を単位換算すると「3.18m/分」となり、本件発明1の「濾過風速4.5m/分」とは異なるものであり、また、甲1発明の「粒子径0.3μmのDOP粒子」も、本件発明1の「粒子径が0.3~0.5μmのポリスチレン粒子」とは異なるものである。
そうすると、甲1発明の「圧力損失(PD)は、エレクトレット濾材試料をダクト内に設置し、濾材通過線速度が5.3cm/秒になるようコントロールし、エレクトレット濾材上流、下流の静圧差を圧力計で読み取り求め、また粒子捕集効率E(%)の評価は粒子径0.3μmのDOP粒子を用い、5.3cm/秒にて行い、圧力損失PD(mmAq)と粒子捕集効率E(%)を用いて」「数2 QF=-ln(1-E/100)/PD」「より算出した」「濾材品質係数QF」と、本件発明1の「濾過風速4.5m/分における粒子径が0.3~0.5μmのポリスチレン粒子の捕集効率と圧力損失により以下の式(1)」「QF値(Pa-1)=-[ln(1-捕集効率(%)/100)]/圧力損失(Pa)」「で算出されるQF値」とは、物理上の関係式として「QF値(Pa-1)=-[ln(1-捕集効率(%)/100)]/圧力損失(Pa)」の点で共通するといえるものの、甲1の「圧力損失(Pa)」及び「粒子捕集効率E(%)」を求める測定条件と本件発明1の「圧力損失(Pa)」及び「捕集効率(%)」を求める測定条件が異なることから、甲1発明における「濾材品質係数QF」の値が、単位換算をしたとしても、そのまま本件発明1の「「QF値(Pa-1)」にはならない。
したがって、甲1発明の「濾材品質係数QFが、2.63(1/mmAq)」すなわち「濾材品質係数QFが、0.268(Pa-1)」が、単に数値的に「0.20以上」であるからといって、本件発明1の「QF値が0.20以上」を満たすことにはならない。
ウ 上記ア及びイを踏まえると、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
(一致点)
「非導電性繊維を90質量%以上含んでなるエレクトレット繊維シートであって、前記エレクトレット繊維シートを構成する繊維中に結晶核剤が0.005~1.0質量%含有されており、前記エレクトレット繊維シートがメルトブロー不織布からなり、粒子の捕集効率と圧力損失により以下の式(1)で算出されるQF値があるエレクトレット繊維シート。」
QF値(Pa-1)=-[ln(1-捕集効率(%)/100)]/圧力損失(Pa)・・・(1)」
の点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
本件発明1のエレクトレット繊維シートは、「示差走査熱量計(DSC)で測定される融点(Tm)と結晶化温度(Tc)の差(Tm-Tc)が、5~45℃」であるのに対し、甲1発明のエレクトレット濾材は、上記融点(Tm)と結晶化温度(Tc)の差が不明である点。
(相違点2)
「粒子の捕集効率と圧力損失により」「QF値(Pa-1)=-[ln(1-捕集効率(%)/100)]/圧力損失(Pa)・・・(1)」「で算出されるQF値」について、
本件発明1では「濾過風速4.5m/分における粒子径が0.3~0.5μmのポリスチレン粒子の捕集効率と圧力損失により」「算出されるQF値が0.20以上である」のに対し、
甲1発明では、「濾材通過線速度が5.3cm/秒になるようコントロールし、エレクトレット濾材上流、下流の静圧差を圧力計で読み取り求め、また粒子捕集効率E(%)の評価は粒子径0.3μmのDOP粒子を用い、5.3cm/秒にて行い」「算出した濾材品質係数QFが、2.63(1/mmAq)」(0.268(Pa-1))である点。
(2)相違点の判断
事案に鑑み、相違点2について検討する。
ア 濾過風速の観点
上記(1)イで述べたように、甲1発明の「濾材通過線速度」の「5.3cm/秒」は、単位換算すると「3.18m/分」であるから、本件発明1の「濾過風速4.5m/分」と比べて、粒子の濾材通過(濾過)速度は小さい。
一般に、粒子の濾過速度が大きいと圧力損失が大きく、濾過速度が小さいと圧力損失は小さくなる傾向にあることは、本件出願日の前後を問わず、物理的事実である。そうすると、本件発明1に比べて、甲1発明の粒子の濾過速度が小さいことから圧力損失も小さいといえ、それ以外の条件を固定すると(1)式で算出されるQF値は大きくなるということになる。また、一般に、粒子の濾過速度が小さい方が粒子の捕集効率が高くなる傾向にあることも、本件出願日の前後を問わず、物理的事実である(例えば、瀬戸章文「エアフィルタとしての不織布」成形加工第33巻第2号,2021,図2参照)から、本件発明1に比べて、甲1発明の粒子の濾過速度が小さいことから粒子の捕集効率が高くなるといえ、それ以外の条件を固定すると(1)式で算出されるQF値は大きくなるということになる。すなわち、甲1発明におけるQF値を、本件発明1の濾過風速の条件のもとで測定した場合、QF値は「0.268(Pa-1)」よりも小さくなるといえる。
そうすると、本件発明1の「濾過風速4.5m/分」と比べて、粒子の濾過速度が「3.18m/分」と小さい条件である甲1発明の「濾材品質係数QFが」「0.268(Pa-1)」であるからといって、本件発明1の「濾過風速4.5m/分」のもとでの「QF値が0.20以上」を満たすものとはいえない。
イ 粒子の観点
さらに、粒子径についても、本件発明1では「粒子径が0.3~0.5μm」であるのに対し、甲1発明では「粒子径0.3μm」であり、本件発明1では「0.3超え~0.5μm」の粒径の粒子も含まれている点で異なるものである。例えば、上記瀬戸章文「エアフィルタとしての不織布」の文献の図7を参照すると、粒子径が0.3μmの粒子と0.5μの粒子とではQFの値が理論上かなり異なることが示されている。
また、本件発明1では「ポリスチレン粒子」であるのに対し、甲1発明では「DOP粒子」(DOP:フタル酸ジオクチル)であり、両者は粒子を構成する材料が異なっており、粒子を構成する材料が違うと濾材を通過する粒子としての特性が同じとはいえない(例えば、横地明「フィルタテスト用粒子」エアロゾル研究、Vol.6,No.4,1991,pp332(28)-240(36)参照)。そうすると、本件発明1では「ポリスチレン粒子」を用いて測定するのに対し、甲1発明では「DOP粒子」を用いて測定していることから、両者において最終的に算出されるQFの値として差がないとはいえない。
したがって、測定する粒子について、本件発明1では「粒子径が0.3~0.5μmのポリスチレン粒子」であるのに対し、甲1発明では「粒子径0.3μmのDOP粒子」であり、このように測定する粒子が異なると、他の測定条件が同じとしても、最終的に算出されるQFの値が同じになるとはいえない。
ウ アとイのまとめ
上記ア及びイを踏まえると、甲1発明の「濾材通過線速度が5.3cm/秒になるようコントロールし、エレクトレット濾材上流、下流の静圧差を圧力計で読み取り求め、また粒子捕集効率E(%)の評価は粒子径0.3μmのDOP粒子を用い、5.3cm/秒にて行い」「算出した濾材品質係数QFが、2.63(1/mmAq)」(0.268(Pa-1))であることは、本件発明1の「濾過風速4.5m/分における粒子径が0.3~0.5μmのポリスチレン粒子の捕集効率と圧力損失により」「算出されるQF値が0.20以上」であるとはいえず、そして、甲1発明の濾材品質係数QFを求めるための測定条件である「粒子径0.3μmのDOP粒子を用い」て「濾材通過線速度が5.3cm/秒」で行うことを、「0.3~0.5μmのポリスチレン粒子」を用いて「濾過風速4.5m/分」で行うことに変える動機はないことから、甲1発明において、「濾過風速4.5m/分における粒子径が0.3~0.5μmのポリスチレン粒子の捕集効率と圧力損失により」「算出されるQF値が0.20以上」にすることが当業者が容易になし得たこととはいえない。
エ 甲3について
さらに、甲3には、(甲3イ)の【0081】に「QF=-ln(%Pen/100)/ΔP」の式が記載されており、ここで、%Penは同【0080】によれば「%Pen=100×(DOP下流側濃度/DOP上流側濃度)」であるから、本件発明1の「1-捕集効率(%)/100」に相当し、ΔPは圧力損失であるから、上記甲3の式は、物理上の関係式として本件発明1の「QF値(Pa-1)=-[ln(1-捕集効率(%)/100)]/圧力損失(Pa)」に相当するといえる。
しかし、甲3における「%Pen」と「ΔP」の測定条件は、同【0080】に「DOPエアゾールは、名目上、70~110mg/m3の上流濃度を有する単分散0.3マイクロメートル質量中央径である。エアゾールは、エアゾールイオン化装置を停止させ、濾材のサンプルを通して、42.5リットル/分の較正流量(6.9cm/秒の面速度)にて押し出した。」と記載されているように、本件発明1の「濾過風速4.5m/分」に対応するものが「6.9cm/秒の面速度」であり、これを換算すると「4.14m/分」で本件発明1の「4.5m/分」よりも小さい。さらに、本件発明1の「粒子径が0.3~0.5μmのポリスチレン粒子」に対応するものが「単分散0.3マイクロメートル質量中央径」「DOPエアゾール」であり、粒子についても本件発明1とは異なるものである。
そうすると、甲3は、QFを算出するための式は本件発明1と同じであるものの、式を構成する「%Pen」と「ΔP」を測定するための条件である濾過風速と粒子が異なることから、(甲3ア)の請求項22に「前記示される品質係数は、2mmH2O-1以上である」との記載があるにしろ、その「2mmH2O-1以上」(2mmH2O-1はPa-1に換算すると0.204Pa-1)は、甲1と同様に、本件発明1の「QF値が0.20以上」であるとはいえない。
加えて、そもそも、甲3の繊維性エレクトレット物品であるメルトブロウンマイクロファイバー試料には、結晶核剤が含有されているものではないから、本件発明1のエレクトレット繊維シートとは、エレクトレット繊維シートとしての前提が異なるものである。
オ 甲2及び甲4について
甲2及び甲4は、上記(甲2イ)及び(甲4ア)で摘記したように、融点と結晶化温度についてものであり、QF値に関するものではない。
カ エとオのまとめ
上記甲2~甲4の記載を参照しても、「濾過風速4.5m/分における粒子径が0.3~0.5μmのポリスチレン粒子の捕集効率と圧力損失により」「QF値(Pa-1)=-[ln(1-捕集効率(%)/100)]/圧力損失(Pa)」「で算出されるQF値が0.20以上」であることが記載されていないのであるから、上記相違点2は、上記甲2~甲4の記載からは導出されない。そうすると、甲1発明にいかに甲2~4に記載された事項を組み合わせても、相違点2は当業者が容易になし得たこととはいえない。
(3)小括
よって、本件発明1は、相違点1について検討するまでもなく、甲1発明及び甲2~4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)申立人の主張について
ア 申立人は、特許異議申立書において、上記相違点2(特許異議申立書では相違点2に対応する相違点を「相違点1b」と称している。)について、以下のように主張している。
(ア)主張1
「一方、相違点1bについては、甲第1号証には、実施例6以外にも、より高いQF値である3.29 (1/mmAq)(0.336Pa-1) も記載されており、その場合、測定条件の相違を加味しても、構成E『濾過風速4.5m/分における粒子径が0.3~0.5μmのポリスチレン粒子の捕集効率と圧力損失により以下の式(1)で算出されるQF値が0.20以上である』を満たす蓋然性が高い。
また、甲第1号証の実施例6に関し、令和4年5月18日付けで特許権者から提出された実施権成績証明書の内容は、甲第1号証を正確に追試したものとはいえず、その評価結果は信憑性を欠くものであり、本件異議事件において、参酌されるべきではない。
そして、甲第1号証の実施例6についても、測定条件は相違するものの、低圧損ながら高い粒子捕集効率を有するエレクトレット濾材が得られており、相違点1bについて、両者に実質的な相違は存在しない。」(19頁15~27行)
(イ)主張2
「仮に、相違点1bが実質的な相違点であったとしても、甲第3号証には、「濾過風速6.9 cm/s(4.14m/分)で測定される(段落0080) 、不織布ウェブの品質係数が、2mmH2O-1(0.204Pa-1) 以上であること」記載されており、この記載に基づいて、甲1発明の効果である「低圧損ながら高い粒子捕集効率を有するエレクトレット揺材を得る」ことを目的として、これを採用することに十分な動機づけがあるため、当業者は、相違点1bに係る構成に容易に想到できる。」
イ 申立人の主張に対する判断
(ア)主張1について
申立人が主張する「実施例6以外にも、より高いQF値である3.29 (1/mmAq)(0.336Pa-1) も記載されており」とは、上記(甲1ウ)の表1の実施例2のことである。しかし、実施例2は、「Iragnox1010」を添加したものであり、(甲1イ)の【0013】によれば「ヒンダーフェノール安定剤」として添加されるものであり、同【0017】に記載される「結晶核剤」ではない。そうすると、実施例6のQF値として、「結晶核剤」が添加されてない実施例2のQF値を考慮することは、不合理なことである。また、そもそも、実施例2のQF値が「3.29 (1/mmAq)」という値も、「濾過風速4.5m/分における粒子径が0.3~0.5μmのポリスチレン粒子の捕集効率と圧力損失により」「算出され」たものではないことから、本件発明1の「QF値が0.20以上」を満たすものとはいえない。
さらに、申立人の「甲第1号証の実施例6に関し、令和4年5月18日付けで特許権者から提出された実験成績証明書の内容は、甲第1号証を正確に追試したものとはいえず、その評価結果は信憑性を欠くものであり、本件異議事件において、参酌されるべきではない」との主張について、上記(2)で記載したように、相違点2を判断するにあたり、当審では、令和4年5月18日付けで特許権者から提出された実験成績証明書を踏まえた判断はしていない。なお、申立人は、甲1の実施例6の製造条件と同じ条件で製造したエレクトレット濾材について、本件発明1と同じ測定条件のもとでQF値を求めた実験結果を示しておらず、また、実験結果を示さないとしても、甲1の実施例6のエレクトレット濾材について本件発明1と同じ測定条件のもとでQF値を求めると、必然的に「0.20以上」となることを物理的な根拠をもって説明していない。
そうすると、申立人の主張をもってして、甲1の実施例6のエレクトレット濾材が、本件発明1と同じ測定条件のもとでQF値を求めると「0.20以上」となるとはいえないのであるから、「相違点1bについて、両者に実質的な相違は存在しない」ということにはならない。
(イ)主張2について
申立人は、「甲第3号証には、「濾過風速6.9 cm/s(4.14m/分)で測定される(段落0080) 、不織布ウェブの品質係数が、2mmH2O-1(0.204Pa-1) 以上であること」記載されており、この記載に基づいて、・・・これを採用することに十分な動機づけがあるため、当業者は、相違点1bに係る構成に容易に想到できる。」としているが、上記(2)エで述べたように、甲3のQFを算出するための測定条件が本件発明1とは異なることから、「2mmH2O-1(0.204Pa-1) 以上」だからといって、本件発明1と同じ測定条件のもとでQF値を求めると「0.20以上」になるとはいえず、そもそも、甲3のメルトブロウンマイクロファイバー試料には、結晶核剤が含有されているものではないから、甲1のエレクトレット濾材とは、前提が異なるものである。
よって、甲1発明において「これを採用することに十分な動機づけがあるため、当業者は、相違点1bに係る構成に容易に想到できる」との主張は当をえないことである。
2 本件発明2~4について
本件発明2~4は、上記第2で記載したとおり、本件発明1を直接的又は間接的に引用するものであるから、少なくとも相違点2の点で、甲1発明及び甲2~4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3 まとめ
よって、本件発明1~4は、甲1発明及び甲2~4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないことから、本件発明1~4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
第6 むすび
以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1~4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~4係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。
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2023-700463