特許異議申立
2023-700546
捲縮糸
- 審判番号
- 2023-700546
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-235444
- 登録番号
- 7180357
- 請求日
- 2023年05月25日
- 審決日
- 2023年08月30日
- 公報発行日
- 2023年09月29日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】東レ株式会社
- 【異議申立人】笠原 佳代子
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 茂夫
- 審判官 ▲高▼橋 杏子
- 審判官 稲葉 大紀
- 分類
- P1651.113-Y (D01F) / P1651.121-Y (D01F) / P1651.537-Y (D01F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7180357号発明「捲縮糸」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7180357号の請求項1~5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7180357号の請求項1~5に係る特許についての出願は、平成30年12月17日(優先権主張 平成30年1月31日)に出願され、令和4年11月21日にその特許権の設定登録がされ、令和4年11月30日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和5年5月25日に特許異議申立人笠原佳代子(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。
第2 本件発明
特許第7180357号の請求項1~5の特許に係る発明(以下、請求項1に係る発明を「本件発明1」といい、その他の請求項に係る発明も同様に称する。まとめて「本件発明」ともいう。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
繊維径が18μm未満であり、コイル中心方向に0.05≦繊維径/捲縮径の捲縮を有することを特徴とする捲縮糸。
【請求項2】
コイル中心方向に捲縮ピッチが300μm未満の捲縮を有し、伸縮伸長率が80%以上であることを特徴とする請求項1に記載の捲縮糸。
【請求項3】
繊維軸横断面において、少なくとも2種類以上のポリマーからなる偏心芯鞘断面であり、鞘部の最小厚みが0.1~1.0μmであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の捲縮糸。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の捲縮糸からなることを特徴とする繊維製品。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1項に記載の捲縮糸からなることを特徴とする織編物。」
第3 申立理由の概要
申立人が提出した特許異議申立書(以下、「申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
1 申立理由1(甲第1号証に基づく新規性、進歩性)
本件発明1、2及び4は、甲第1号証(以下「甲1」という。)に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、また、本件発明1~5は、甲1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件発明1~5は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2(サポート要件)
本件発明1においては、繊維径、(繊維径/捲縮径)のみで限定し、繊維を構成する材料については何ら限定されていない。一方で、実施例においては、特定のポリエステル系繊維のみしか開示されておらず、これは多数ある繊維材料のごく一部のものにすぎない。
さらに、(繊維径/捲縮径)は、0.05以上と非常に広い範囲であるが、実施例においては、0.06~0.12のものしか開示されておらず、これは、本件発明1の範囲のごく一部である。
したがって、本件発明1の捲縮糸全体についての技術的裏付けが、発明の詳細な説明に記載されているということはできない。また、そうである以上、本件発明1の捲縮糸は、発明の詳細な説明に記載された事項及び出願時の技術常識に基づき、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということもできない。
また、本件発明1の捲縮糸は、本件特許明細書には布吊とすることが記載されており、段落【0039】には、「捲縮ピッチを300μm未満とすると、布吊とした際に糸-糸の拘束間で捲縮形態を発現することが可能となる。このため、布吊組織に関係なく、布吊中で捲縮糸が有する捲縮形態のポテンシャルを発現出来る」ことが記載されている。しかしながら、実施例においては捲縮糸を用いて編地を形成したことしか開示されておらず、例えば、不織布において本件発明1の捲縮糸を含む場合においても捲縮形態のポテンシャルを発現できるかについては具体的に何ら開示されていない。即ち、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識を考慮しても、本件発明1の捲縮糸を用いて編地以外の布帛に適用した場合においても効果を奏するとは認められない。したがって、出願時の技術常識に照らしても、本件発明1の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
よって、本件発明1~5は、特許法36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号の規定に該当し取り消すべきものである。
3 申立理由3(明確性)
本件発明1において、(繊維径/捲縮径)は「0.05以上」であり、上限値については規定されていない。通常、一般的な直径10μm程度の有機物のフィラメントを加熱した場合、完全な直線形状を維持し続けることは困難であり、ごく微小な捲縮は当然のことながら発生するものである。即ち、フィラメント状の繊維において、ごくわずかでも捲縮が生じれば、本件発明1の範囲に含まれることとなるため、本件発明1の下限だけを示す数値範囲限定により、発明の範囲が不明確になるものである。
よって、本件発明1~5は、特許法36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号の規定に該当し取り消すべきものである。
4 証拠方法
・甲1:特開平4-136255号公報
第4 甲1の記載、甲1発明
1 甲1の記載
甲1には、次の事項が記載されている。以下、下線は、理解の便宜のため、当審が付した。また、「・・・」は省略を示す。
「【特許請求の範囲】
(1)イソフタル酸を20~60モル%共重合したポリエチレンテレフタレート(A)と実質的にポリエチレンテレフタレートからなるポリエステル(B)とが偏心芯鞘型またはサイドバイサイド型に接合されており、三次元捲縮を有する熱融着型ポリエステル複合繊維を主体構成繊維とする不織布繊維シートであって、シートの少なくとも一面が該複合繊維の溶融物によって緻密化されていることを特徴とする繊維シート。」
「 この複合繊維は、乾熱処理における捲縮形態が三次元捲縮であり、JISL1015.7.12.1によって測定される捲縮数で30個/25mm以上の捲縮を発現する潜在捲縮能を有しており、単糸繊度は1~15デニール程度であることが好ましい。
尚、不織布の状態における繊維の捲縮数はJISL1015によって測定することができず、そのため、本発明において、繊維シートの状態における繊維の捲縮数は、該シートを顕微鏡で拡大して写真撮影し、平面的に観察して捲縮によって生じたループの外接円を描き、該外接円の直径から繊維の実長25mm当たりの捲縮数を概算することによって求められ、上記のように繊維の段階で30個/25mm以上の捲縮を発現するものは、繊維シートの状態でループの外接円の直径は約0.27mm以下である。」(第2ページ右下欄第13行~第3ページ左上欄第9行)
「 例えば、ステープル繊維から本発明の繊維シートを製造するには、紡糸延伸後に8~20個/25mm程度の機械捲縮を付与したステープル繊維をカードにかけてウェブを作成し、該ウェブに必要に応じてニードルパンチを施し、次いで、熱処理を行い、熱融着と潜在捲縮の顕在化を行うことにより繊維同志に絡みを与えて不織布とし、次いで、該不織布を、例えば、加熱されたカレンダーロールに通してその少なくとも一方の表面を溶融して繊維の緻密化された面を形成させる必要がある。」(第3ページ右上欄第14行~左下欄第3行)
「実施例1
・・・。この未延伸糸を延伸倍率3.6倍、延伸温度80℃で延伸し、機械捲縮を付与した後カット長51mmでカットして短繊維を得た(単糸繊度1.9デニール、捲縮数11.8個/25mm)。
・・・。また、緻密化されていない部分の捲縮数および50%伸長時の回復率を測定したところ、捲縮数40個/25m、回復率70%であった。」(第4ページ左上欄第12行~右上欄第15行)
2 甲1に記載された発明
上記1の記載を総合すると、甲1には以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「偏心芯鞘型またはサイドバイサイド型に接合されている熱融着型ポリエステル複合繊維を主体構成繊維とする不織布繊維シートであって、上記複合繊維は単糸繊度1~15デニール程度であり、上記複合繊維は30個/25mm以上の捲縮を発現する潜在捲縮能を有しており、不織布繊維シートの状態でループの外接円の直径は約0.27mm以下であり、上記不織布繊維シートは、上記複合繊維を用いたステープル繊維から製造されるものであり、紡糸延伸後に8~20個/25mm程度の機械捲縮を付与したステープル繊維をカードにかけてウェブを作成し、次いで、熱処理を行い、熱融着と潜在捲縮の顕在化を行うことにより繊維同志に絡みを与えて不織布とし、次いで、緻密化処理した不織布繊維シート。」
第5 当審の判断
事案に鑑み記載要件から判断する。
1 申立理由2について(サポート要件)
(1)本件発明の課題
本件発明の課題は、本件特許明細書に記載された「触感がソフトでありながら、初期伸長時に伸長応力を有することで、着用時に適度な着圧感や動作追従性が得られる着用快適性を有したストレッチ素材に適した捲縮糸を提供すること。」(段落【0014】)というものである。
(2)判断
ア 繊維径、(繊維径/捲縮径)のみで限定し、繊維を構成する材料については何ら限定されていない点について
上記課題解決の手段として、本件発明1は、「捲縮糸」において「繊維径が18μm未満であり、コイル中心方向に0.05≦繊維径/捲縮径の捲縮を有する」と特定されている。
ここで、本件特許明細書の段落【0021】には、式(1)とともに、「式(1)より、糸の剛性は、ポリマー固有の値である弾性率のみならず繊維径を細くすることで下げることが可能であることが分かる。」と記載されており、段落【0022】には、「すなわち、ポリマーに依存すること無く、布帛とした際にソフトな触感を得るためには、捲縮糸の繊維径を18μm未満とすることが必要になる。」と記載されており、ポリマーに依存することなく、布帛とした際にソフトな触感を得ることができるものと認識できる。
また、本件特許明細書の段落【0028】には、式(2)とともに「この原理を本発明の捲縮糸に置き換えると、線径/コイル中心径は繊維径/捲縮径で表され、捲縮糸の初期伸長時の伸長応力を高めるには、繊維径/捲縮径を増大させることが重要であり、この観点から、本発明の目的を達成するためには、繊維径/捲縮径を0.05以上であることが必要になる。係る範囲であれば、前述した繊維径が18μm未満であることによるソフトな触感に加えて、初期伸長時に伸長応力が発現する従来のストレッチ素材にはなかった特異な伸長挙動になり、着用時に適度な着圧感や動作追従性が得られる快適なストレッチ素材とすることができる。」と記載されており、繊維径/捲縮径が0.05以上であることで、捲縮糸の初期伸長時の伸長応力を高めることができるものと認識できる。
また、申立人の主張も、実施例の特定のポリエステル系繊維のみ、及び、(繊維径/捲縮径)が0.06~0.12以外である場合に本件発明の課題を解決できないことを主張するものではない。
イ 捲縮糸を用いて編地を形成したことしか開示されていない点について
本件特許明細書の段落【0018】には、「ストレッチ素材に適した捲縮糸」と記載されており、布帛がストレッチ素材であることが開示されている。
また、申立人の主張も、布帛が編地以外である場合に本件発明の課題を解決できないことを主張するものではない。
(3)小括
したがって、本件発明1~5は、発明の詳細な説明に記載したものである。
2 申立理由3について(明確性)
(1)本件発明に関する明確性判断
請求項1には、「繊維径が18μm未満」であり、「0.05≦繊維径/捲縮径」と記載されていることから、これらを満たす「捲縮径」は、360μm未満となることが理解できる。この「捲縮径」の下限値は特定されないが、「捲縮糸」は、かさ高と伸縮性を持たせた糸であることが技術常識であることからすると、「捲縮径」の下限値は、「捲縮糸」にかさ高と伸縮性を持たせることができる程度のものであることは明らかである。
一方、申立人がいう「一般的な直径10μm程度の有機物のフィラメントを加熱した場合、完全な直線形状を維持し続けることは困難であり、ごく微小な捲縮は当然のことながら発生する」ことにより生じる糸は、かさ高と伸縮性を持たせる「捲縮径」を有するとはいえず、「捲縮糸」といえるものではないから、請求項1の「捲縮糸」とは明確に区別されるものである。
(2)小括
したがって、本件発明1~5は、明確である。
3 申立理由1について(甲1に基づく新規性、進歩性)
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「偏心芯鞘型またはサイドバイサイド型に接合されている熱融着型ポリエステル複合繊維」「を用いた、紡糸延伸後に8~20個/25mm程度の機械捲縮を付与したステープル繊維」は、本件発明1における「捲縮糸」に相当する。
甲1発明における「偏心芯鞘型またはサイドバイサイド型に接合されている熱融着型ポリエステル複合繊維」「を用いた、紡糸延伸後に8~20個/25mm程度の機械捲縮を付与したステープル繊維」と、本件発明1の「コイル中心方向に0.05≦繊維径/捲縮径の捲縮を有する」こととは、「捲縮を有する」態様の限りにおいて一致する。
したがって、本件発明1と甲1発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。
[一致点]
「捲縮を有する捲縮糸。」
[相違点]
本件発明1は、「繊維径が18μm未満であり、コイル中心方向に0.05≦繊維径/捲縮径の捲縮を有する」のに対し、甲1発明は、繊維径及び繊維径/捲縮径の具体的数値について特定されていない点。
イ 判断
甲1には、「偏心芯鞘型またはサイドバイサイド型に接合されている熱融着型ポリエステル複合繊維」「を用いた、紡糸延伸後に8~20個/25mm程度の機械捲縮を付与したステープル繊維」が「繊維径が18μm未満であり、コイル中心方向に0.05≦繊維径/捲縮径の捲縮を有する」について記載されていない。
申立人は、「3頁左上欄3~4行には、「捲縮によって生じたループの外接円を描」くことが記載されている。3頁左上欄6~9行には、「上記のように繊維の段階で30個/25mm以上の捲縮を発現するものは、繊維シートの状態でループの外接円の直径は約0.27mm以下である」ことが開示されている。甲1に記載の「捲縮によって生じたループ」は、本件請求項1に記載のコイル状の捲縮に該当するものであり、ループの外接円の直径は捲縮径に該当する。従って、甲1には、 捲縮径として「0.27mm以下(270μm以下)」が記載されている。」が記載されている。」(申立書の第8ページ第9行~第24行)と主張しているが、甲1発明の「ループの外接円の直径」における「ループ」は、不織布繊維シートの状態におけるループであり、「偏心芯鞘型またはサイドバイサイド型に接合されている熱融着型ポリエステル複合繊維」「を用いた、紡糸延伸後に8~20個/25mm程度の機械捲縮を付与したステープル繊維」のループを示しているものではないため、本件発明1の「捲縮径」には相当しない。
よって、本件発明1は、甲1発明ではない。
また、甲1発明を、「繊維径が18μm未満であり、コイル中心方向に0.05≦繊維径/捲縮径の捲縮を有する」ように構成する動機付けはない。
よって、本件発明1の上記相違点に係る構成は、甲1発明に基いて当業者が容易に想到し得たものではない。
(2)本件発明2~5について
本件発明2~5は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記(1)で検討したのと同じ理由により、本件発明2~5は、甲1発明ではなく、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3)小括
したがって、本件発明1~5は、甲1発明ではなく、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
第6 むすび
以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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