特許異議申立
2023-700969
エアフィルター濾材及びエアフィルター
- 審判番号
- 2023-700969
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-177147
- 登録番号
- 7242807
- 請求日
- 2023年09月14日
- 審決日
- 2023年12月12日
- 公報発行日
- 2024年01月26日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】三菱製紙株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人たかはし国際特許事務所
- 【異議申立人】弁理士法人 朝日奈特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 三崎 仁
- 審判官 原 賢一
- 審判官 金 公彦
- 分類
- P1651.121-Y (B01D) / P1651.536-Y (B01D) / P1651.537-Y (B01D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7242807号発明「エアフィルター濾材及びエアフィルター」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7242807号の請求項に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7242807号の請求項1~4に係る特許についての出願は、平成30年6月18日(優先権主張 平成29年6月19日、平成30年3月23日)を出願日とする特願2018-115557号の一部を新たな特許出願として令和3年10月29日に出願されたものであり、令和5年3月10日にその特許権の設定登録がされ、同年同月20日に特許掲載公報が発行され、その後、請求項1~4に係る特許について、同年9月14日に特許異議申立人三嶋眞弘(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがなされたものである。
第2 本件発明
本件の請求項1~4に係る発明(以下、各請求項に係る発明及び特許を項番に対応させて「本件発明1」、「本件特許1」などといい、併せて「本件発明」、「本件特許」ということがある。)は、次のとおり特定されるものである。
「【請求項1】
支持体層と集塵層の2層により構成されるエアフィルター濾材であって、
該支持体層が、目付が40~100g/m2で、厚さが0.2~1.4mmである不織布に、平均粒子径1~50μmの粒子であるアルデヒド吸着剤がバインダーにより担持された不織布であり、
該集塵層が、エレクトレット加工された、目付10~30g/m2で、5.3cm/s時の単板圧損が9.5Pa以下で、5.3cm/s時の粒子径0.3μm以上0.5μm未満の大気塵の捕集効率が80%以上の不織布であり、
下記に定義される風圧耐性[単位:g]が、該エアフィルター濾材のMDにおいて8~33gであり、CDにおいて6~20gであることを特徴とするエアフィルター濾材。
風圧耐性:2台の台座(幅57mm×奥行き40mm超×高さ155mm、ポリスチレン製)を距離52mm離して固定し、長辺140mm×短辺40mmのエアフィルター濾材を、2台の台座の天板間に長辺方向と台座の幅方向が平行で、且つエアフィルター濾材の長辺方向の中心線が2台の台座から等距離にあるように渡し、エアフィルター濾材の長辺方向の中心線に容器を吊り下げ、該容器内におもりを漸次加え、容器が落下した時点での「容器の質量+おもりの質量」を「風圧耐性」と定義する。
【請求項2】
アルデヒド吸着剤の含有量が5~25g/m2であり、バインダーの含有量がアルデヒド吸着剤に対して10~50質量%である請求項1記載のエアフィルター濾材。
【請求項3】
支持体層が、ポリエチレンテレフタレート繊維を含有してなるケミカルボンド不織布又はポリエチレンテレフタレート繊維を含有してなるサーマルボンド不織布である請求項1又は2記載のエアフィルター濾材。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載のエアフィルター濾材を用いてなるエアフィルター。」
(以下、【請求項1】の「風圧耐性」を記載する際に、その定義の記載を省略することがある。)
第3 異議申立人による特許異議の申立理由の概要
1 特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)
本件発明1~4は、下記甲第1号証に記載された発明及び甲第2~6号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(以下、「申立理由1」とする。)。
記
甲第1号証:国際公開第2009/041257号
甲第2号証:特開2013-220287号公報
甲第3号証:国際公開第2015/037483号
甲第4号証:特開2011-212636号公報
甲第5号証:特開2014-114521号公報
甲第6号証:特開2015-183327号公報
(以下、甲第1号証を略して、「甲1」などという。)
2 特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)
本件特許は、明細書の記載が後記第4の2(1)の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(以下、「申立理由2」とする。)。
3 特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)(以下、「申立理由3」とする。)
本件特許は、特許請求の範囲の請求項1~4の記載が後記第4の2(1)の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(以下、「申立理由3」とする。)。
第4 当審の判断
1 申立理由1(進歩性欠如)について
(1)甲1~6に記載された事項
ア 甲1に記載された事項
(ア)「請求の範囲
[1] 単繊維間が固定された有機繊維を主体とする不織布シートに平均粒子径40μm以下のガス吸着性物質が付着されてなり、見掛け密度が0.3g/cm3以下、1%伸長時の比強度が150N・cm/g以上であることを特徴とする濾材。
[2] 前記不織布シートは、ヤング率が80cN/dtex以上の非捲縮の単繊維を繊維全質量の50%以上の割合で含み、繊度が7dtex以上の非捲縮の単繊維を繊維全質量の20%以上の割合で含み、かつ見掛け密度が0.17g/cm3以下であることを特徴とする請求項1記載の濾材。
・・・
[11] 請求項1~10のいずれかに記載の濾材にエレクトレット不織布が一体的に積層されていることを特徴とする高集塵濾材。
[12] 請求項1~10のいずれかに記載の濾材または請求項11に記載の高集塵濾材を用いてなるフィルターユニット。」
(イ)「発明が解決しようとする課題
[0015] 本発明の目的は、上記のような問題点を解消するものであり、ミニプリーツ加工が可能な薄型の脱臭濾材を提供することで、該脱臭濾材と集塵濾材とを一体化した、洗浄再生可能な濾材、さらには、多風量処理が可能な低圧損性・集塵脱臭フィルターユニットを提供することにある。」
(ウ)「発明の効果
[0017] 本発明によれば、ミニプリーツ加工が可能で、かつ、通気度が高く多風量処理が可能な、実用的な脱臭性を有する濾材およびフィルターユニットを提供することができる。すなわち、本発明の構成により、濾材としての見掛け密度を0.3g/cm3以下と低くしつつも、1%伸長時の比強度を150N・cm/g以上とすることができ、低伸度高強度な脱臭性の濾材とすることができる。
・・・
[0020] 本発明の濾材は、ヤング率が80cN/dtex以上の非捲縮の単繊維を繊維全質量の50%以上の割合で含み、また繊度が7dtex以上の非捲縮の単繊維を繊維全質量の20%以上の割合で含み、さらに、単繊維間を該繊維のガラス転移点温度の高い樹脂で固定して見掛け密度を0.17g/cm3以下とした不織布シートに粒子径40μm以下のガス吸着性物質を付着させものであり、濾材としての見掛け密度を0.3g/cm3以下、1%伸長時の比強度を150N・cm/g以上としたことを特徴とする。
[0021] ここで、家庭用空気清浄機、ビル・工場空調用、車載等の空調設備用フィルターユニットに使用される濾材に必要な特性は、多風量を処理するための低圧損性と、構造圧損を発生させない、薄く風圧で変形しない低伸度高強度性である。更に、高ダスト捕集性と目詰まりしにくい空隙量を保持した濾材構造が必要とされる。なお、本発明でいう構造圧損とは、プリーツ加工された濾材が収納されたフィルターユニットに空気を流した時に発生する圧損(ユニット圧損)から、濾材を貫通する濾過風速に比例して発生する圧損を差し引いて残った数値を言う。」
(エ)「[0024] ここで、1%伸長時の比強度について説明する。従来から、濾材の硬さを表す指標としてはJIS-L1085(1977) B法で規定される剛軟度が広く使用されているが、該剛軟度は、濾材の厚み、目付、通気度とは全く関係のない指標であるため、濾材厚み、濾材目付、濾材通気度が異なった濾材構成のものであっても同じ剛軟度値を示す濾材が多数存在した。そのため、同じ剛軟度を示す濾材であっても厚みや通気度が異なれば、濾材を収納したフィルターユニットにおける圧損性能には違いがあった。すなわち、構造圧損の発生度合いがそれぞれ異なるため、違いが生じていた。このように濾材の硬さを表す指標として従来から使用されてきた剛軟度は、濾材構成条件が多変数によらない濾材間での相対比較はできても、ユニット圧損構成に影響する構造圧損の発生度合いを測る指標としては不適切であった。
[0025] そこで本発明者らは、構造圧損発生の度合いに関して検討し、その結果、見掛け密度を0.3g/cm3以下の高通気性不織布においては、該不織布の厚み、目付、製法などが異なっても、5cm幅の不織布を1%伸長させた時に発現する比強度(引っ張り強さ[N/cm2]/該不織布の見掛け密度[g/cm3])が、重要であることを見出した。
[0026] 比強度は濾材単位質量に対する伸度と強度の関係を示し、比強度の高い濾材は伸びにくいため風圧が掛かってもプリーツ形状の変形が起こり難く、構造圧損の発生が少ない低圧損フィルターユニットを作製することができる。」
(オ)「[0064] 次に不織布シートに付着させるガス吸着性物質について説明する。
[0065] ここで使用するガス吸着性物質は、物理的に臭気成分を吸着することができる多孔質体や消脱臭性化合物などが単独または複数で不織布に付着される。
[0066] 多孔質体としての限定は特になく活性炭、活性炭素繊維、天然および合成ゼオライト、活性アルミナ、活性白土、セピオライト、金属酸化物、触媒添着多孔質体、シリカ、シリカ-金属酸化物などが広く使用可能である。この内、活性炭、天然および合成ゼオライト、セピオライト、金属酸化物、多孔質シリカなどがタバコ臭、糞便臭、厨房臭脱臭の吸着に向くため好適に使用できる。
[0067] 中でも活性炭が種々のガス成分を吸着できるため好ましい。空気清浄機向けフィルターでは捕集されたタバコ臭が脱離して臭気発生トラブルが発生したり、用いた活性炭自身の臭気が問題となることが多い。この対策としては活性炭自体に含まれる発臭成分(水溶性またはアルカリ成分の不純物と思われる)を除去し、pHを調整することが有効であることを見出した。除去方法としては活性炭を水洗浄または塩酸や硫酸などの酸で洗浄することが有効ある。また活性炭は、ピッチ系ではなくヤシ殻活性炭が良く、塩化賦活化炭より蒸気で賦活化した活性炭が素材臭が少なく処理効果も高く最適である。不織布への付着は、水洗浄または塩酸や硫酸などの酸で洗浄してpH調整した活性炭をバインダーを用いて繊維表面に固着させ、濾材のpH(ペーハー)として3~8、好ましくは4.5~7.5、更に好ましくは5~7に調整する。このようにpH調整した濾材は、活性炭の素材臭強度を弱め、且つタバコに含まれるアセトアルデヒド脱臭率を向上させタバコ臭発臭トラブルも軽減することができる。」
(カ)「[0099] <濾材の見掛け密度>
テクロック(株)製SM114を用いて試料面積100cm2当たり1箇所の測定密度で、合計21箇所の厚みを求め、その算術平均値を算出する。上記の方法で求めた濾材の厚みと目付から、濾材の見掛け密度を下記式で求める。
濾材の見掛け密度(g/cm3)=目付(g/cm2)/厚み(cm)×6000
<濾材の比強度>
JIS L1085(1998)に準拠して引っ張り強さを求め、該引っ張り強さから比強度を求める。具体的には、まず、幅50mmの濾材を、定速引っ張り試験機(オートグラフ SHIMADZU(株)製型式AGS-J)で、チャック間長さ200mm、引っ張り速度100mm/minで評価したS-Sカーブから、1%伸張時の発生強力(N)を求め、該発生強力を試験片の断面積(濾材幅50mm×濾材厚み)で割り、1%伸長時の引っ張り強さ(N/cm2)を求める。続いて、該引っ張り強さ(N/cm2)を、前述する方法で求められる濾材の見掛け密度(g/cm3)で割って、比強度を求める。なお、比強度は、濾材のプリーツ加工方向(MD方向)に200mm長さを少なくとも5個以上サンプリングして評価した値の算術平均値とする。
・・・
[0105] <濾材およびエレクトレット不織布の圧損と捕集性能測定>
JIS B9908(2001)形式1試験法に準じた評価機器に評価試料をセットし、濾材貫通風速4.5m/minで空気を流しフィルターユニット初期圧損(△P2)を求める。次いで上流側から一般外気を供給し、評価フィルター前後の粒子数をパーティクルカウンターを用いて測定し、下記式から捕集効率を求める。
η=(1-(CO/CI))×100
CO=評価フィルター通過後の粒径0.3~0.5μmの粒子数
CI=評価フィルター通過前の粒径0.3~0.5μmの粒子数
なお、粒径0.3~0.5μmの粒子数とは、パーティクルカウンターの粒子径測定範囲で0.3~0.5μm測定レンジ内に含まれる粒子数という意味で、粒子は一般外気に含まれる大気塵を用いる。
圧損は、評価試料前後の差圧をマノメーターから読みとる。」
(キ)「[0110] <ガス吸着性物質の液配合>
共通して用いたガス吸着性物質の液配合(質量部)を次に纏めてしめす。
A液;活性炭20部(平均粒子径24μm)、アジピン酸ジヒドラジド7部、アクリル酸樹脂10部(濃度40%)、増粘剤2部、水61部
B液;多孔質シリカ20部(平均粒子径5μm)、アジピン酸ジヒドラジド7部、アクリル酸樹脂10部(濃度40%)、増粘剤2部、水61部
C液;活性炭20部(平均粒子径24μm)、ゼオライト7部、アクリル酸樹脂10部(濃度40%)、増粘剤2部、水61部」
・・・
[0119] (実施例4)
傾斜ワイヤー方式の湿式抄紙方法により、非捲縮のビニロン繊維((a)ヤング率250cN/dtex、繊度17dtex、繊維長12mmのものを51.4質量%、(b)ヤング率180cN/dtex、繊度7dtex、繊維長10mmのものを19.2質量%)、非捲縮のポリエステル繊維(ヤング率95cN/dtex、繊度3dtex、繊維長10mmのものを10質量%)、パルプ(19.4質量%)から構成された目付24.5g/m2の繊維集積体を作製した。その後、該繊維集積体を、スチレンアクリル重合体(ガラス転移点温度Tg30℃、造膜温度45℃)とウレタン重合体とが重量比で3:1割合で混合された樹脂液固形分30%液に含浸後、乾燥熱処理して単繊維間を固定し、目付35g/m2、厚み0.37mm、見掛け密度0.09g/cm3、比強度767N・cm/g、圧損は0.4Paの不織布シートを得た。この不織布シートにおいて、水に分散された繊維をネットで漉し取る際にネットに直接接して抄紙された面は、ネットに突き刺さるため繊維の立ちが目立つ粗な面(表面摩擦抵抗値が高い)となっており、一方、その反対面は、繊維の立ちが少なく密な面(表面摩擦抵抗値が低い)となっていた。すなわち、不織布シートは粗密構造になっていた。
・・・
[0125] (実施例5)
実施例4で作製した不織布シートに、ガス吸着性物質として活性炭とゼオライトを含むC液のガス吸着性物質(薬品無添着)を固形分で32g/m2含浸乾燥法で固着し、目付67g/m2、厚み0.37mm、見掛け密度0.181g/cm3、比強度370N・cm/g、圧損0.7Pa、目付変動率8%、アセトアルデヒド脱臭率40%の濾材を作製した。
[0126] この濾材に、エレクトレット不織布A(目付20g/m2、平均繊維径2.4μm、圧損28Pa、0.3~0.5μm粒子の捕集効率η=95%、厚み0.12mmのポリプロピレンメルトブロー不織布)を接着一体化して、微細塵も捕集可能な厚み0.49mmの高集塵濾材(圧損28.6Pa)を作製した。
[0127] この高集塵濾材を山高さ35mmにプリーツ加工して、フィルターサイズが幅250mm長さ225mm厚み37mmの枠体の中に収納し、濾材面積1.0m2のフィルターユニットを得た。なお、ユニット化に際し、濾材間には2インチ間隔のビード加工を濾材両面に施した。
[0128] このフィルターユニットについて、風量3.5m3/minでユニット圧損を測定した結果、50.4Pa(構造圧損28Pa)と構造圧損発生の少ない低圧損ユニットであり、0.3~0.5μm粒子の捕集効率も96%の準HEPA性能が確認できた。
[0129] JEMA1467規格に基づきガス除去効率を求めた結果、アセトアルデヒド46%、アンモニア80%、酢酸78%と、アセトアルデヒド除去率は低いもののガス除去率を持った低圧損な高集塵フィルターユニットであることが確認できた。
[0130] 続いて、このユニットにタバコの煙を500本負荷し臭気を強く発するようにした後、家庭用洗剤を使って洗浄を行い乾燥した。洗浄後のフィルターは着臭したタバコの臭気をかなり低減できていた。また、JEMA1467規格に基づきガス除去効率を求めた結果、アセトアルデヒド42%、アンモニア73%、酢酸73%と、初期値に近い脱臭性能を発揮し再使用が可能であることが確認できた。」
(ク)「[0163][表4]
[図:0001405854000001.jpg]
」
イ 甲2に記載された事項
(ア)「【0008】
本発明に係わるエアフィルター濾材は、JIS-B-9908 形式1に準拠して測定した風速5.3cm/秒における0.3μm粒子の捕集効率が99.9%以上であることを特徴とする。この濾材を用いることによって、人体に有害である塵埃を効率良く除去できるフィルターユニットが得られる。このような性能の濾材を得るには、純水サクション法によりエレクトレット加工されたポリプロピレンメルトブロー不織布を用いると、より低い圧力損失で微細塵を高効率で除去できるため好ましい。
また、本発明に係わるエアフィルター濾材は2層構造であることを特徴とする。この場合、フィルターとしての下流側に前記したエレクトレット不織布を配置し、上流側に通気性の高い不織布を配置することによって、粒径の大きい塵埃から段階的に捕集することができ、かつ薄い濾材が得られるため、より濾材使用面積の多いフィルターユニットを得ることができるため好ましい。上流側に用いる不織布としては、ケミカルボンド不織布、サーマルボンド不織布など公知のものから任意に選択することができる。」
(イ)「【0023】
[実施例1]
ポリエステル繊維とアクリル酸エステル樹脂からなる目付50g/m2のケミカルボンド不織布と、エレクトレット化ポリプロピレンメルトブロー不織布(平均繊維径1.8μm、目付25g/m2)をエチレン-酢酸ビニル共重合樹脂接着剤により積層接着して濾材を得た。
この濾材の圧力損失は70Pa、捕集効率は99.97%であった。この濾材を巾240mm、プリーツ山高さ36mm、120山分プリーツ加工し集塵部とした。」
ウ 甲3に記載された事項
(ア)「請求の範囲
[請求項1] 無機多孔質体に、少なくとも水溶性の酸ヒドラジド化合物および官能基にチオール基を有する化合物が担持されてなるガス吸着剤。
・・・
[請求項7] 請求項1~6のいずれかに記載のガス吸着剤が2枚の通気性を有するシート状物で挟み込まれており、前記ガス吸着剤が熱可塑性樹脂によって前記シート状物に固定されているガス吸着シート。
[請求項8] 請求項7に記載のガス吸着シートを用いたエアフィルター。」
(イ)「[0110] [実施例1]
(通気性を有するシート状物A)
エアの流れに対して上流側に位置する通気性を有するシート状物Aには、単繊維繊度が1.5dtexのビニロン(ポリビニルアルコール)繊維16.5質量%、単繊維繊度が7.1dtexのビニロン(ポリビニルアルコール)繊維22質量%、単繊維繊度が2.0dtexのポリエチレンテレフタレート繊維16.5質量%、およびリン系難燃剤含有アクリル樹脂バインダー45質量%からなる、目付けが50g/m2のケミカルボンド不織布を用いた。
[0111] (通気性を有するシート状物B)
もう一方の通気性を有するシート状物Bには、ポリプロピレン繊維のエレクトレット加工メルトブロー不織布からなる、目付が20g/m2の帯電繊維シートを用いた。」
エ 甲4に記載された事項
(ア)「【請求項1】
2層の基材層間にガス除去粒子を挟み込んでなる複合濾材であって、少なくとも1層の基材層がエレクトレットメルトブロー不織布シートであり、前記エレクトレットメルトブロー不織布シートの2%伸張時応力のタテ方向またはヨコ方向の大きい方の値が0.03~0.4MPaであることを特徴とする複合濾材。」
(イ)「【0044】
[実施例2]
ポリエステルサーマルボンド不織布骨材シート(厚み0.51mm)上に実施例1と同様の品種、使用量のガス吸着粒子、接着パウダーを均一に散布し、濾材を得た。この濾材の圧力損失は22.8Pa、捕集効率は96.8%、厚みは0.90mm、厚みのバラツキは3.9%であった。」
オ 甲5に記載された事項
(ア)「【請求項1】
下記の第1工程~第3工程を含むことを特徴とするエアフィルター又はマスク用不織布基材の製造方法。
第1工程:不織布Aの片側上面に、平均繊維径が50~400nmのナノファイバー不織布層Bを0.03~1.0g/m2の目付重量で積層し、複合不織布Cを作製する工程
第2工程:不織布D上に、繊維状に紡出された湿気硬化型ポリウレタン接着剤をランダムに散布し、又はポリアミド(PA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)及びポエチレン(PE)からなる群から選ばれる少なくとも一種のホットメルトパウダー接着剤をランダムに散布し、加熱溶融する工程
第3工程:前記接着剤が付与された不織布D上に、複合不織布Cを積層し、冷間プレスロールにより、該接着剤を複合不織布C層に滲出させて、貼り合せ、エアフィルター又はマスク用不織布基材を作製する工程」
(イ)「【0023】
5.不織布D
不織布Dは、サーマルボンド不織布、ケミカルボンド不織布、スパンボンド不織布、スパンレース不織布または湿式不織布のいずれでもよく、その繊維素材が、ポリエステル、レーヨン、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリプロピレンを含むポリオレフィン、綿またはパルプのいずれか1種または数種類から選ばれ、その原綿繊維は、10~40μmの範囲にて構成される不織布であって、エアフィルターの不織布基材用では目付重量が50~120g/m2、厚みが0.25~0.7mmの範囲にあることが望ましい。この不織布の機能は、高い剛性(腰)を持ち、プリーツ後の山の形状を保持することにある。」
カ 甲6に記載された事項
(ア)「【0045】
図3は、本発明の挟み込み複合濾材を示す側面図である。本発明における複合濾材は、図3に示すように、不織布(メルトブロー不織布)9と他の基材13との間にガス除去粒子12を挟み込むことが好ましい態様である。他の基材13としては、不織布、織物およびニットなど任意に選択することができるが、通気性が高くかつプリーツ形状の保持性に優れている不織布を用いることが好ましい。」
(イ)「【0073】
さらに、複合濾材を作成するため、他の基材として、ポリエステルサーマルボンド不織布シート(47g/m2)上に、ガス吸着粒子として粒状活性炭(平均粒子径240μm)100g/m2、およびリン酸を10質量%添着させた活性炭(平均粒径150μm)を25g/m2、炭酸カルシウムを10質量%添着させた活性炭を125g/m2、エチレン-酢酸ビニル系熱接着パウダーを75g/m2均一に散布し、加熱により接着パウダーを溶融させ、その表面に、上記で得られたエレクトレット化メルトブロー不織布を積層後、ニップロールによって加圧して、貼り合せて複合濾材を得た。」
(2)甲1に記載された発明
甲1の上記(1)ア(イ)の[0015]には、ミニプリーツ加工が可能な薄型の脱臭濾材を提供することで、該脱臭濾材と集塵濾材とを一体化した、洗浄再生可能な濾材を提供することが記載されているところ、この濾材の具体例である実施例5として、同(キ)の[0125]、[0126]には、「実施例4で作製した不織布シートに、ガス吸着性物質として活性炭とゼオライトを含むC液のガス吸着性物質(薬品無添着)を固形分で32g/m2含浸乾燥法で固着し、目付67g/m2、厚み0.37mm、見掛け密度0.181g/cm3、比強度370N・cm/g、圧損0.7Pa、目付変動率8%、アセトアルデヒド脱臭率40%の濾材を作製し、この濾材に、エレクトレット不織布A(目付20g/m2、平均繊維径2.4μm、圧損28Pa、0.3~0.5μm粒子の捕集効率η=95%、厚み0.12mmのポリプロピレンメルトブロー不織布)を接着一体化して作製した、微細塵も捕集可能な厚み0.49mmの高集塵濾材(圧損28.6Pa)」が記載されているといえる。
ここで、上記高集塵濾材における「実施例4で作製した不織布シート」とは、同(キ)の[0119]の記載によれば、「目付35g/m2、厚み0.37mm、見掛け密度0.09g/cm3、比強度767N・cm/g、圧損は0.4Paの不織布シート」であり、同高集塵濾材における「C液」とは、同(キ)の[0110]の記載によれば、「活性炭20部(平均粒子径24μm)、ゼオライト7部、アクリル酸樹脂10部(濃度40%)、増粘剤2部、水61部」からなるものである。
また、上記高集塵濾材におけるエレクトレット不織布Aの「圧損」及び「0.3~0.5μm粒子の捕集効率η」は、同(カ)の[0105]の記載によれば、それぞれ、「濾材貫通風速4.5m/min」で測定されたものである。
以上を考慮すると、甲1には、高集塵濾材として、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
「目付35g/m2、厚み0.37mm、見掛け密度0.09g/cm3、比強度767N・cm/g、圧損は0.4Paの不織布シートに、ガス吸着性物質として活性炭とゼオライトを含む、活性炭20部(平均粒子径24μm)、ゼオライト7部、アクリル酸樹脂10部(濃度40%)、増粘剤2部、水61部からなるC液のガス吸着性物質(薬品無添着)を固形分で32g/m2含浸乾燥法で固着し、目付67g/m2、厚み0.37mm、見掛け密度0.181g/cm3、比強度370N・cm/g、圧損0.7Pa、目付変動率8%、アセトアルデヒド脱臭率40%の濾材を作製し、
この濾材に、エレクトレット不織布A(目付20g/m2、平均繊維径2.4μm、濾材貫通風速4.5m/minで測定された圧損28Pa、濾材貫通風速4.5m/minで測定された0.3~0.5μm粒子の捕集効率η=95%、厚み0.12mmのポリプロピレンメルトブロー不織布)を接着一体化して作製した、
微細塵も捕集可能な厚み0.49mmの高集塵濾材(圧損28.6Pa)」
(3)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明を対比する。
(ア)甲1発明の「濾材」における「比強度」は、甲1の上記(1)ア(カ)の[0099]の記載によれば、「1%伸長時の比強度」であるといえるところ、同(ウ)の[0017]の「1%伸長時の比強度を150N・cm/g以上とすることができ、低伸度高強度な脱臭性の濾材とすることができる」との記載、及び同(ウ)の[0021]の「空調設備用フィルターユニットに使用される濾材に必要な特性は、多風量を処理するための低圧損性と、構造圧損を発生させない、薄く風圧で変形しない低伸度高強度性である。」との記載によれば、1%伸長時の比強度が150N・cm/g以上であれば、低伸度高強度な濾材であり、低伸度高強度な濾材であれば、風圧で変形しないものであるといえる。
そうすると、「比強度」が、370N・cm/gであり、150N・cm/g以上である甲1発明の「濾材」は、低伸度高強度な濾材であり、高集塵濾材が風圧で変形しないように高集塵濾材の強度を保持する層であるといえるから、甲1発明の「濾材」は、本件発明1の「支持体層」に相当する。また、上述のように、甲1発明の「高集塵濾材」は、「空調設備用フィルターユニットに使用される」ものであるから、本件発明1の「エアフィルター濾材」に相当する。
また、甲1発明の「エレクトレット不織布A」は、「濾材貫通風速4.5m/minで測定された0.3~0.5μm粒子の捕集効率η=95%」とされるとおり、0.3~0.5μm粒子のほとんどを捕集する性能を有し、甲1発明の高集塵濾材の集塵を担うものであるといえるから、本件発明1の「集塵層」に相当する。
以上を踏まえると、甲1発明の「濾材に、エレクトレット不織布A」「を接着一体化して作製した、微細塵も捕集可能な厚み0.49mmの高集塵濾材(圧損28.6Pa)」は、本件発明1の「支持体層と集塵層の2層により構成されるエアフィルター濾材」に相当する。
(イ)甲1発明の「濾材」が、本件発明1の「支持体層」に相当することは、上記(ア)で述べたとおりであるが、甲1発明の濾材の「目付」及び「厚み」の値は、それぞれ、「67g/m2」、「0.37mm」であり、本件発明1の「目付」の「40~100g/m2」の範囲及び「厚さ」の「0.2~1.4mm」の範囲を満足する。
また、甲1の上記(1)ア(オ)の[0067]の「不織布への付着は、水洗浄または塩酸や硫酸などの酸で洗浄してpH調整した活性炭をバインダーを用いて繊維表面に固着させ、濾材のpH(ペーハー)として3~8、好ましくは4.5~7.5、更に好ましくは5~7に調整する。このようにpH調整した濾材は、活性炭の素材臭強度を弱め、且つタバコに含まれるアセトアルデヒド脱臭率を向上させタバコ臭発臭トラブルも軽減することができる。」との記載にとれば、活性炭は、アルデヒドを脱臭するものであるから、甲1発明の濾材に、バインダーである「アクリル酸樹脂10部(濃度40%)」により固着されるガス吸着性物質である「活性炭20部(平均粒子径24μm)」は、本件発明1の「アルデヒド吸着剤」に相当し、また、活性炭の平均粒子径である「24μm」は、本件発明1の「平均粒子径」の「1~50μm」の範囲を満足する。
そうすると、甲1発明の「目付35g/m2、厚み0.37mm、見掛け密度0.09g/cm3、比強度767N・cm/g、圧損は0.4Paの不織布シートに、ガス吸着性物質として活性炭とゼオライトを含む、活性炭20部(平均粒子径24μm)、ゼオライト7部、アクリル酸樹脂10部(濃度40%)、増粘剤2部、水61部からなるC液のガス吸着性物質(薬品無添着)を固形分で32g/m2含浸乾燥法で固着し、目付67g/m2、厚み0.37mm、見掛け密度0.181g/cm3、比強度370N・cm/g、圧損0.7Pa、目付変動率8%、アセトアルデヒド脱臭率40%の濾材」は、本件発明1の「目付が40~100g/m2で、厚さが0.2~1.4mmである不織布に、平均粒子径1~50μmの粒子であるアルデヒド吸着剤がバインダーにより担持された不織布であ」る「該支持体層」に相当する。
(ウ)甲1発明の「エレクトレット不織布A」が、本件発明1の「集塵層」に相当することは、上記(ア)で述べたとおりであるが、甲1発明のエレクトレット不織布Aは、「エレクトレット加工された」ものであると共に、その目付は、「20g/m2」であり、本件発明1の「目付」の「10~30g/m2」の範囲を満足する。
そして、本件発明1の「エレクトレット不織布A」の「濾材貫通風速4.5m/minで測定された0.3~0.5μm粒子の捕集効率η=95%」について、甲1発明にあるとおり、甲1発明の「高集塵濾材」は、「微細塵も捕集可能」なものであることを考慮すると、「0.3~0.5μm粒子」の「粒子」は、「塵」を想定しているといえる。また、濾材貫通風速である「4.5m/min」は、単位をcm/sに直すと「7.5cm/s」である。ここで一般的に「濾材貫通風速」が大きくなるほど、粒子の捕集効率は低下するから、仮に、甲1発明の「濾材貫通風速」を、本件発明1における「粒子径0.3μm以上0.5μm未満の大気塵の捕集効率」を測定する際の風速の「5.3cm/s」まで小さくすれば、「捕集効率η」は「95%」より大きくなるといえるから、甲1発明のエレクトレット不織布Aの「95%」である「濾材貫通風速4.5m/minで測定された0.3~0.5μm粒子の捕集効率η」は、本件発明1の「5.3cm/s時の粒子径0.3μm以上0.5μm未満の大気塵の捕集効率が80%以上」の条件を満たすといえる。
そうすると、「エレクトレット不織布A(目付20g/m2、平均繊維径2.4μm、濾材貫通風速4.5m/minで測定された圧損28Pa、濾材貫通風速4.5m/minで測定された0.3~0.5μm粒子の捕集効率η=95%、厚み0.12mmのポリプロピレンメルトブロー不織布)」は、「エレクトレット加工された、目付10~30g/m2で、5.3cm/s時の粒子径0.3μm以上0.5μm未満の大気塵の捕集効率が80%以上の不織布であ」る「該集塵層」に相当する。
(エ)以上によれば、本件発明1と甲1発明は、「支持体層と集塵層の2層により構成されるエアフィルター濾材であって、
該支持体層が、目付が40~100g/m2で、厚さが0.2~1.4mmである不織布に、平均粒子径1~50μmの粒子であるアルデヒド吸着剤がバインダーにより担持された不織布であり、
該集塵層が、エレクトレット加工された、目付10~30g/m2で、5.3cm/s時の粒子径0.3μm以上0.5μm未満の大気塵の捕集効率が80%以上の不織布である、エアフィルター濾材。」の点で一致し、以下の点で相違しているといえる。
<相違点1>
エアフィルター濾材の集塵層について、本件発明1では、「5.3cm/s時の単板圧損が9.5Pa以下」であるのに対し、甲1発明では、濾材貫通風速4.5m/minで測定された圧損28Paである点。
<相違点2>
エアフィルター濾材について、本件発明1では、「下記に定義される風圧耐性[単位:g]が、該エアフィルター濾材のMDにおいて8~33gであり、CDにおいて6~20gである」、「風圧耐性:2台の台座(幅57mm×奥行き40mm超×高さ155mm、ポリスチレン製)を距離52mm離して固定し、長辺140mm×短辺40mmのエアフィルター濾材を、2台の台座の天板間に長辺方向と台座の幅方向が平行で、且つエアフィルター濾材の長辺方向の中心線が2台の台座から等距離にあるように渡し、エアフィルター濾材の長辺方向の中心線に容器を吊り下げ、該容器内におもりを漸次加え、容器が落下した時点での「容器の質量+おもりの質量」を「風圧耐性」と定義する。」のに対し、甲1発明では、風圧耐性が明らかでない点。
イ 判断
(ア)相違点1について
甲1発明において圧損を測定する際の濾材貫通風速である「4.5m/min」を「cm/s」の単位に換算すると、「7.5cm/s」であり、甲1発明における濾材の圧損は、本件発明1において圧損を測定する際の「5.3cm/s」よりも大きな風速で測定を行っていることになる。
ここで、より大きな風速で圧損を測定すると、圧損がより大きくなることが一般的に知られているから、甲1発明における濾材の圧損を測定する際の濾材貫通風速を、本件発明1での圧損を測定する際の風速である「5.3cm/s」まで小さくすれば、測定される圧損は、28Paよりも小さくなることが想定される。
しかしながら、測定の際の風速が「7.5cm/s」と「5.3cm/s」である場合の違いに比べ、甲1発明の濾材の圧損である「28Pa」と、本件発明1の集塵層の圧損である「9.5Pa以下」の間には、大きな隔たりがあるから、甲1発明における濾材の圧損を、本件発明1と同じく濾材貫通風速を5.3cm/sにして測定したとしても、本件発明1の範囲である「9.5Pa以下」になるとまではいえない。
また、エアフィルター濾材に用いる濾材において、圧損が小さい方が好ましいことは、技術常識であるといえるが、集塵を担う濾材において、圧損は、濾材における目付、ひいては、集塵効率との兼ね合いで設定される特性であり、単純に圧損の値を変更しようとすれば、濾材における目付や集塵効率も変更されることになるから、甲1発明において、集塵のために適切な値に設定されているといえる目付や、0.3~0.5μm粒子の捕集効率を変更してまで、圧損の値を、本件発明1の「9.5Pa以下」の範囲まで小さくしようとする動機付けが、甲1発明にあるとはいえない。
さらに、甲2の上記(1)イ、甲3の上記(1)ウ、甲4の上記(1)エ、甲5の上記(1)オ、及び甲6の上記(1)カの記載事項は、特に、エアフィルター濾材の集塵層の圧損に関するものではない。
そうすると、上記相違点1は、実質的な相違点であるし、甲2~甲6に記載された事項を考慮したとしても、上記相違点1に係る本件発明1の構成を当業者が容易に相当し得たとはいえない。
(イ)相違点2について
甲1には、本件発明1で定義される「風圧耐性」に関する記載がないことはもちろんのこと、それを示唆する記載もない。
ここで、甲1の上記(1)ア(ウ)の[0017]の「本発明の構成により、濾材としての見掛け密度を0.3g/cm3以下と低くしつつも、1%伸長時の比強度を150N・cm/g以上とすることができ、低伸度高強度な脱臭性の濾材とすることができる。」との記載によれば、1%伸長時の比強度が370N・cm/gであり、150N・cm/g以上である濾材を含む甲1発明の高集塵濾材は、「低伸度高強度な濾材」であるといえる。そして、同(ウ)の[0021]の「空調設備用フィルターユニットに使用される濾材に必要な特性は、多風量を処理するための低圧損性と、構造圧損を発生させない、薄く風圧で変形しない低伸度高強度性である。」との記載によれば、低伸度高強度の濾材であれば、風圧で変形しない特性を有するといえるから、1%伸長時の比強度が370N・cm/gであり、150N・cm/g以上である濾材を含む甲1発明の高集塵濾材は、風圧で変形しない特性を有するものであるといえる。
しかしながら、本件発明1における「風圧耐性」は、「風圧耐性:2台の台座(幅57mm×奥行き40mm超×高さ155mm、ポリスチレン製)を距離52mm離して固定し、長辺140mm×短辺40mmのエアフィルター濾材を、2台の台座の天板間に長辺方向と台座の幅方向が平行で、且つエアフィルター濾材の長辺方向の中心線が2台の台座から等距離にあるように渡し、エアフィルター濾材の長辺方向の中心線に容器を吊り下げ、該容器内におもりを漸次加え、容器が落下した時点での「容器の質量+おもりの質量」を「風圧耐性」と定義する。」と特定されているように、エアフィルター濾材の折れ曲がりに対する耐性を評価するものであるから、甲1発明における前記「1%伸長時の比強度」とは性質を異にするものである。
すなわち、甲1の同(カ)の[0099]の「<濾材の比強度>
・・・具体的には、まず、幅50mmの濾材を、定速引っ張り試験機(オートグラフ SHIMADZU(株)製型式AGS-J)で、チャック間長さ200mm、引っ張り速度100mm/minで評価したS-Sカーブから、1%伸張時の発生強力(N)を求め、該発生強力を試験片の断面積(濾材幅50mm×濾材厚み)で割り、1%伸長時の引っ張り強さ(N/cm2)を求める。続いて、該引っ張り強さ(N/cm2)を、前述する方法で求められる濾材の見掛け密度(g/cm3)で割って、比強度を求める。なお、比強度は、濾材のプリーツ加工方向(MD方向)に200mm長さを少なくとも5個以上サンプリングして評価した値の算術平均値とする。」との記載によれば、甲1発明の「1%伸長時の比強度」として測定された数値は、濾材をその伸長方向に引っ張った際の「引っ張り強さ」から求められるもので、本件発明1の「風圧耐性」として測定された数値と性質を異にする数値であり、両者の間の関係を理解することはできない。
そうである以上、甲1発明における濾材の(1%伸長時の)「比強度」が、370N・cm/gであるとしても、甲1発明の高集塵濾材における「風圧耐性」が、どの程度の数値になるのか直ちに理解することはできない。
特に本件発明1では、「風圧耐性」について、フィルター濾材のMD(不織布の製造工程の流れ方向)とCD(不織布の製造工程の流れ方向に直角の方向)それぞれの値を特定しているのに対し、甲1発明における(1%伸長時の)「比強度」においては、同[0099]に「比強度は、濾材のプリーツ加工方向(MD方向)に200mm長さを少なくとも5個以上サンプリングして評価した値の算術平均値とする。」とあるように、一方向(MD方向)しか考慮しておらず、濾材のMD及びCD方向を何ら考慮するものではないから、この点でも、甲1発明における濾材の(1%伸長時の)「比強度」が、370N・cm/gであるとしても、甲1発明の高集塵濾材における「風圧耐性」のMD及びCDの値が、本件発明1の範囲を満足しているということはできない。
また、甲1発明おける濾材の(1%伸長時の)「比強度」が、370N・cm/gである場合に、甲1発明の高集塵濾材における「風圧耐性」のMD及びCDの値が、本件発明1の範囲を満足していることを示す証拠は提出されていない。
さらに、上述のように、甲1発明は、本件発明1における「風圧耐性」を何ら考慮するものではないから、甲1発明には、甲1発明の高集塵濾材における「風圧耐性」のMD及びCDの値を、本件発明1の範囲内に調整しようとする動機付けはない。
そして、甲2の上記(1)イ、甲3の上記(1)ウ、甲4の上記(1)エ、甲5の上記(1)オ、及び甲6の上記(1)カに記載された事項は、特に、本件発明1における「風圧耐性」に関するものではない。
そうすると、上記相違点2は、実質的な相違点であるし、甲2~甲6に記載された事項を考慮したとしても、上記相違点2に係る本件発明1の構成を当業者が容易に相当し得たとはいえない。
ウ 小括
上記イ(ア)及び(イ)で述べたように、上記相違点1及び2は、実質的な相違点であると共に、上記相違点1及び2に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、本件発明1は、甲1発明及び甲2~甲6に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。
(4)本件発明2~4について
本件発明2~4は、少なくとも本件発明1の構成をすべて具備するものであるから、本件発明1と同様に、本件発明2~4は、甲1発明及び甲2~甲6に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。
(5)申立理由1に関するまとめ
以上のとおり、本件特許1~4は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではないから、申立理由1には、理由がない。
2 申立理由2(実施可能要件違反)、3(サポート要件違反)について
(1)申立理由2、3の内容(特許異議申立書28頁9行~29頁22行)
本件発明1は、風圧耐性[単位:g]が、エアフィルター濾材のMDにおいて8~33gであり、CDにおいて6~20gであることを必須の発明特定事項とする。
ここで、甲1によれば、風圧耐性(多風量処理)を達成するためには、繊維の物性(ヤング率、繊度、必要配合率など)が明確に規定されている(請求項2)。
しかしながら、本件明細書には、良好な風圧耐性を具備するための要件として、剛直性が比較的高い繊維の材質が例示されているに過ぎない(【0044】)。
また、繊維同士の接合についても、甲1には、接着樹脂の物性(ガラス転移点温度の高い樹脂を用いること)が開示されている([0020]))。
しかしながら、本件明細書には、風圧耐性を調整するための方法として、接着剤またはバインダー樹脂を使用する方法が例示されているにとどまり(【0042】)、何ら具体的には開示も示唆もない。
そうすると、いかに当業者であっても、本件明細書を参照して本件発明1を実施するにあたり、いかにして上記発明特定事項を具備する本件発明1を実施し得るか理解することができず、当業者が期待し得る程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を要する。
その結果、本件発明1は、発明の詳細な記載に基づいて実施可能でない。本件発明2~4についても同様である(申立理由2)。
また、上記のとおり、本件発明1は、上記風圧耐性を具備する必要があるところ、そのような風圧耐性を具備する上で必要な構成(たとえば、甲1に記載の繊維の物性(ヤング率、繊度、必要配合率など)や、接着樹脂の物性(ガラス転移点温度の高い樹脂を用いること)について、何ら定義がなされていない。
なお、本件特許の出願時の技術常識を参酌したとしても、繊維の物性(ヤング率、繊度、必要配合率など)や、接着樹脂の物性(ガラス転移点温度の高い樹脂を用いること)等が何ら特定されていない場合であっても風圧特性を把握し得るような技術常識は存在しない。
そうすると、本件発明1は、上記物性の特定がなされていないような広範な範囲も含んでおり、発明の詳細な説明に開示された範囲を超えていることが明らかである。
その結果、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載の範囲を超えている。本件発明2~4についても同様である(申立理由3)。
(2)申立理由2、3に対する判断
ア 申立理由2について
(ア)本件明細書の【0042】には、エアフィルター濾材において、濾材の風圧耐性を調整する方法として、「支持体層の不織布の目付及び厚さを調整する方法、不織布を構成する繊維の材質を変更する方法、不織布を構成する繊維の繊維径及び/又は繊維長を調整する方法、不織布を構成する繊維の配合を変更する方法、不織布を製造する製造条件(加熱温度、加圧力、延伸度、接着剤又はバインダー繊維の溶融又は軟化温度、接着剤又はバインダー繊維の量等)を調整する方法等が挙げられ、これらの方法の中から適宜選択することができる」ことが記載されている。
(イ)上記の複数の方法のいずれかで本件発明1の濾材の風圧耐性を調整することができれば良いところ、支持体層の不織布の目付及び厚さを調整する方法については、同【0022】及び【0023】に、それぞれ支持体層の目付の好ましい範囲及び厚さの好ましい範囲が記載されていると共に、同【0065】の【表3】に、実施例での具体的なエアフィルター濾材における支持体層の目付及び厚みの数値と、同【0068】の【表5】に、それに対応するエアフィルター濾材の風圧耐性の数値が記載され、【表5】に記載される本件発明1の風圧耐性を満足しない場合(比較例2-1、2-2、2-9、2-10)の支持体層の目付及び厚さとの比較を含め、本件発明1の風圧耐性を満足する場合(実施例)の支持体層の目付及び厚みの値を参考にして、本件発明1の支持体層の目付及び厚さを調整すれば、濾材における風圧耐性を本件発明1の範囲内にすることに、過度の試行錯誤が必要であるとはいえない。
(ウ)不織布を構成する繊維の材質を変更する方法、不織布を構成する繊維の配合を変更する方法、及び不織布を構成する繊維の繊維径及び/又は繊維長を調整する方法については、同【0044】に、「ポリエチレンテレフタレート繊維を中心に、剛直性が比較的高い繊維(例えば、芯鞘構造を有するバインダー繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ガラス繊維、金属繊維、アルミナ繊維、炭素繊維、再生セルロース繊維、竹パルプ、麻パルプなど)を一部配合することによっても、良好な風圧耐性を得ることができる」との記載があり、同【0065】の【表3】に、実施例での具体的なエアフィルター濾材における支持体層では、ポリエチレンテレフタレート繊維が用いられている。
また、同【0043】には、「エアフィルター濾材(II)において、支持体層の不織布を構成する繊維の繊維径については、特に限定されるものではないが、1~10デシテックスが好ましく、より好ましくは3~7デシテックスである。繊維径が太い方が、風圧耐性は良好であるが、太い繊維だけでは吸着剤が脱落するため、細い繊維も必要である。一方、繊維が細過ぎる場合、圧力損失が劣ることがある。繊維長については、特に限定されるものではないが、5~50mmが好ましく、より好ましくは15~35mmである。繊維長が長い方が、風圧耐性は良好であるが、長い繊維だけでは通気性が損なわれるため、短い繊維も必要である。繊維長が短過ぎる場合、不織布の強度が劣ることがある。」との記載があり、これらの記載を参考に、支持体層の構成繊維を剛直性が比較的高いとされるポリエチレンテレフタレート繊維等とすると共に、好ましいとされる繊維径の範囲の中でも、「繊維径が太い方が、風圧耐性は良好である」とされているのだから、繊維径を太くすることにより、また、好ましいとされる繊維長の範囲の中でも、「繊維長が長い方が、風圧耐性は良好である」とされているのだから、通気性のため短い繊維も配合しながらも、繊維長の大きい繊維の配合量を高くすることにより、本件発明1の濾材の風圧耐性を調整すれば、濾材における風圧耐性を本件発明1の範囲内のものにすることに、過度の試行錯誤が必要であるとはいえない。
(エ)不織布を製造する製造条件(加熱温度、加圧力、延伸度、接着剤又はバインダー繊維の溶融又は軟化温度、接着剤又はバインダー繊維の量等)を調整する方法については、同【0045】には、「エアフィルター濾材(II)において、支持体層の不織布を製造する製造条件については、特に限定されるものではないが、例えば、乾燥工程における加熱温度や加圧力は高い方が、良好な風圧耐性が得られるが、一方で、加熱温度や加圧力が高過ぎると繊維が潰れ気味になり、通気性が損なわれることがある。本発明の不織布が得られるように、製造条件は適時調整を行えば良い。」との記載があり、この記載を参考に、加熱温度や加圧力が高過ぎることにより繊維が潰れ気味にならない範囲で、加熱温度や加圧力を上昇させれば風圧耐性が上昇することが理解でき、これらの製造条件を調整することにより、濾材における風圧耐性を本件発明1の範囲内のものにすることに、過度の試行錯誤が必要であるとはいえない。
(オ)さらに、上記(イ)~(エ)で述べた調整法は、それぞれの調整法(例えば目付等の要素の調整)が、別の調整法の例えば繊維の材質等の要素の調整に相反するといえるものではなく、それぞれの調整法を組み合わせることにより、より的確に風圧耐性を調整できるといえるから、この点でも、濾材における風圧耐性を本件発明1の範囲内のものにすることに、過度の試行錯誤が必要であるとはいえない。
(カ)上記(1)の申立理由2の内容では、風圧耐性を調整するための方法として、本件明細書には、剛直性が比較的高い繊維の材質が例示されているにすぎないことや、接着剤またはバインダー樹脂を使用する方法が例示されているにとどまり、何ら具体的な開示がないことを理由の根拠としているが、本件明細書には、上記(イ)~(エ)で述べた記載があると共に、これらの記載から、各調整法における各要素の調整に対し、風圧耐性がどう変化するのかの関係を理解できるのであるから、本件明細書における記載内容に従って、各調整法における各要素の調整を行えば、濾材における風圧耐性を本件発明1の範囲内のものにすることに、過度の試行錯誤が必要であるとはいえない。
さらに、上記(イ)~(オ)で述べたような、当業者が発明の実施にあたって行うべき通常の調整を行ったとしても、濾材における風圧耐性を本件発明1の範囲内のものにすることに過度の試行錯誤が必要になることを示す証拠は提出されていない。
(キ)以上によれば、特に、風圧耐性の点で、本件発明1及び本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2~4は、本件明細書の発明の詳細な記載に基づいて実施可能でないとはいえない。
イ 申立理由3について
申立理由3は、要は、本件発明1は、風圧耐性を具備する必要があるところ、そのような風圧耐性を具備する上で必要な構成(たとえば、甲1に記載の繊維の物性(ヤング率、繊度、必要配合率など)や、接着樹脂の物性(ガラス転移点温度の高い樹脂を用いること)について、何ら特定されていないため、本件発明1及び本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2~4は、本件明細書の発明の詳細な説明に開示された範囲を超えている、というものである。
しかしながら、甲1は、本件とは別の出願であり、甲1と同様の特定をしなければならないということはない。
そして、上記ア(ア)~(オ)で述べたように、風圧耐性の調整は、唯一の調整法に限られるものではないから、繊維の物性や、接着樹脂の物性を特定しなければ、本件明細書の発明の詳細な説明に開示された範囲を超えているとまではいえない。
そうすると、上記申立理由3は、認めることができず、本件発明1及び本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2~4は、本件明細書の発明の詳細な説明に開示された範囲を超えているとはいえない。
(3)申立理由2、3に関するまとめ
以上のとおり、本件特許は、本件発明1~4に対応する発明の詳細な説明の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないし、請求項1~4の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるともいえない。
第5 むすび
上記第4で検討したとおり、本件特許1~4は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということはできないし、同法第36条第4項第1項及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるということもできず、同法第113条第2号又は第4号に該当するものではないから、上記申立理由1~3では、本件特許1~4を取り消すことはできない。
また、他に本件特許1~4を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700969