特許異議申立
2023-700218
膜ろ過法による水処理に適した高塩基性塩化アルミニウム溶液
- 審判番号
- 2023-700218
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-095289
- 登録番号
- 7128603
- 請求日
- 2023年02月27日
- 審決日
- 2024年02月05日
- 公報発行日
- 2024年05月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】多木化学株式会社
- 【異議申立人】田上 浩
- 【異議申立人】山上 ユウコ
- 審判長/審判官
- 審判長 原 賢一
- 審判官 三崎 仁
- 審判官 金 公彦
- 分類
- P1651.113-YAA(B01D) / P1651.121-YAA(B01D) / P1651.536-YAA(B01D) / P1651.537-YAA(B01D)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第113条第4号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第36条第6項第1号、特許法第113条第2号、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第126条第6項、特許法第120条の5第4項、特許法第2条第3項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7128603号発明「膜ろ過法による水処理に適した高塩基性塩化アルミニウム溶液」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7128603号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを認める。
特許第7128603号の請求項2ないし3に係る特許を維持する。
特許第7128603号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7128603号の請求項1~3に係る特許についての出願は、令和4年6月13日に出願され、同年8月23日にその特許権の設定登録がされ、同年同月31日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和5年 2月27日 :特許異議申立人田上浩(以下「申立人田上」という。)による請求項1~3に係る特許に対する特許異議の申立て
同年 2月28日 :特許異議申立人山上ユウコ(以下「申立人山上」という。)による請求項1~3に係る特許に対する特許異議の申立て
同年 7月25日付け:取消理由通知書
同年 9月21日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
同年11月 8日 :申立人田上による意見書の提出、申立人山上による意見書の提出
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
本件訂正請求書による請求の趣旨は、特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~3について訂正することを求めるものであり、その内容は、以下のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示している。
(1)訂正事項1について
特許請求の範囲の請求項2に「請求項1記載の高塩基性塩化アルミニウム溶液を含む膜ろ過用水処理凝集剤。」と記載されているのを、
「下記要件1~3、4a、4b及び4cを満たす高塩基性塩化アルミニウム溶液を含む膜ろ過用水処理凝集剤。
要件1:当該高塩基性塩化アルミニウム溶液の塩基度が、70~80%の範囲である。
要件2:当該高塩基性塩化アルミニウム溶液中のSO4/Al2O3(モル比)が、0~0.30の範囲である。
要件3:当該高塩基性塩化アルミニウム溶液を下記ろ過水アルミニウム濃度測定試験に供してろ過水中のアルミニウム濃度を測定したときに、当該アルミニウム濃度が0.40mg/L以下である。
〔ろ過水アルミニウム濃度測定試験〕
1Lの平底ガラスビーカー(内径10.5±0.5cm)に収容した1000mLの模擬被処理水Aに対し、0.02mol/L塩酸を添加し150rpmで1分間撹拌した後、Al2O3として3.0mgの注入量となるように上記高塩基性塩化アルミニウム溶液を有姿で注入し、模擬被処理水Bを調製する。次に、模擬被処理水Bを150rpmで5分間撹拌した後、孔径0.1μmのセルロース混合エステルタイプメンブレンフィルター(東洋濾紙(株)製 品名「A010A」)でろ過した後、ろ過水中のアルミニウム濃度を測定する。
ここで、模擬被処理水Aは以下(1)~(6)を混合することによって作製したものである。
(1)蒸留水:10L
(2)関東化学(株)製カオリン(試薬):0.075g
(3)富士フイルム和光純薬(株)製フミン酸(化学用)を蒸留水に1mg/mLとなるように添加して調製した液:10mL
(4)キシダ化学(株)製炭酸水素ナトリウム(試薬特級)を蒸留水に50mg/mLとなるように添加して調製した液:15mL
(5)富士フイルム和光純薬(株)製アルギン酸ナトリウム80~120(和光一級)を蒸留水に1mg/mLとなるように添加して調製した液:30mL
(6)キシダ化学(株)製塩化カルシウム二水和物(試薬特級)を蒸留水に20mg/mLとなるように添加して調製した液:36mL
またここで、上記0.02mol/L塩酸の添加量は、調製された模擬被処理水BのpHが7.95±0.10となる添加量とする。
またここで、上記いずれの撹拌もフラットパドル(2枚型。1枚のパドルの大きさは縦25mm×横24mm。パドルの下端は上記平底ガラスビーカーの内側底面から鉛直上方向に5mmの位置に設定)を用いて撹拌する。
要件4a:当該高塩基性塩化アルミニウム溶液中のコロイド状のアルミニウム種の存在割合が、65~85%の範囲のものである。
要件4b:当該高塩基性塩化アルミニウム溶液中のモノマー状のアルミニウム種の存在割合が、1~20%の範囲のものである。
要件4c:当該高塩基性塩化アルミニウム溶液中の27Al-NMR測定によって得られるスペクトルが、ケミカルシフト2~20ppmの範囲内において、2つのピークを有する双峰性の形状を示し、当該2つのピークのピークトップ位置がケミカルシフト4.5±1ppmと11±1ppmのものである。」
に訂正する(請求項2の記載を引用する請求項3についても同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1を削除する。
2 訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、新規事項の有無
(1)訂正事項1について
ア 目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、一旦、訂正前の請求項1を引用する請求項2を、
「下記要件1~3を満たす高塩基性塩化アルミニウム溶液を含む膜ろ過用水処理凝集剤。
要件1:当該高塩基性塩化アルミニウム溶液の塩基度が、70~80%の範囲である。
要件2:当該高塩基性塩化アルミニウム溶液中のSO4/Al2O3(モル比)が、0~0.30の範囲である。
要件3:当該高塩基性塩化アルミニウム溶液を下記ろ過水アルミニウム濃度測定試験に供してろ過水中のアルミニウム濃度を測定したときに、当該アルミニウム濃度が0.40mg/L以下である。
〔ろ過水アルミニウム濃度測定試験〕
1Lの平底ガラスビーカー(内径10.5±0.5cm)に収容した1000mLの模擬被処理水Aに対し、0.02mol/L塩酸を添加し150rpmで1分間撹拌した後、Al2O3として3.0mgの注入量となるように上記高塩基性塩化アルミニウム溶液を有姿で注入し、模擬被処理水Bを調製する。次に、模擬被処理水Bを150rpmで5分間撹拌した後、孔径0.1μmのセルロース混合エステルタイプメンブレンフィルター(東洋濾紙(株)製 品名「A010A」)でろ過した後、ろ過水中のアルミニウム濃度を測定する。
ここで、模擬被処理水Aは以下(1)~(6)を混合することによって作製したものである。
(1)蒸留水:10L
(2)関東化学(株)製カオリン(試薬):0.075g
(3)富士フイルム和光純薬(株)製フミン酸(化学用)を蒸留水に1mg/mLとなるように添加して調製した液:10mL
(4)キシダ化学(株)製炭酸水素ナトリウム(試薬特級)を蒸留水に50mg/mLとなるように添加して調製した液:15mL
(5)富士フイルム和光純薬(株)製アルギン酸ナトリウム80~120(和光一級)を蒸留水に1mg/mLとなるように添加して調製した液:30mL
(6)キシダ化学(株)製塩化カルシウム二水和物(試薬特級)を蒸留水に20mg/mLとなるように添加して調製した液:36mL
またここで、上記0.02mol/L塩酸の添加量は、調製された模擬被処理水BのpHが7.95±0.10となる添加量とする。
またここで、上記いずれの撹拌もフラットパドル(2枚型。1枚のパドルの大きさは縦25mm×横24mm。パドルの下端は上記平底ガラスビーカーの内側底面から鉛直上方向に5mmの位置に設定)を用いて撹拌する。」と書き下したうえで、当該高塩基性塩化アルミニウム溶液が、さらに、
「要件4a:当該高塩基性塩化アルミニウム溶液中のコロイド状のアルミニウム種の存在割合が、65~85%の範囲のものである。
要件4b:当該高塩基性塩化アルミニウム溶液中のモノマー状のアルミニウム種の存在割合が、1~20%の範囲のものである。
要件4c:当該高塩基性塩化アルミニウム溶液中の27Al-NMR測定によって得られるスペクトルが、ケミカルシフト2~20ppmの範囲内において、2つのピークを有する双峰性の形状を示し、当該2つのピークのピークトップ位置がケミカルシフト4.5±1ppmと11±1ppmのものである。」という要件4a、4b及び4cを満たすものに限定するものであるところ、前者は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものであり、後者は、同ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、上記アで述べたとおり、請求項1を引用する請求項2を、請求項1を引用しないものとして書き下したうえで、さらに「高塩基性塩化アルミニウム溶液」について限定を加えるものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ウ 新規事項の有無
訂正事項1のうち、上記アで述べた訂正前の請求項1を引用する請求項2を書き下した内容が、新規事項を追加するものでないことは明らかである。
また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)の【0011】に「本発明の高塩基性塩化アルミニウム溶液(以下「本発明のPAC」という)」と記載されたうえで、【0020】、【0023】及び【0024】には、
「【0020】
(要件4a)
本発明のPACの好適な一形態は、前記要件1~3を満たした上でさらに要件4aとして、本発明のPAC中のコロイド状のアルミニウム種の存在割合が、60~95%の範囲のものである。上記範囲の下限値は、好ましくは65%であり、より好ましくは70%である。また、上記範囲の上限値は、好ましくは90%であり、より好ましくは85%である。よって、好ましいコロイド状のアルミニウム種の存在割合として、60~90%、60~85%、65~95%、65~90%、65~85%、70~95%、70~90%、70~85%を例示できる。」
「【0023】
(要件4b)
本発明のPACの好適な一形態は、前記要件1~3を満たした上でさらに要件4bとして、Alモノマーの存在割合が1~25%の範囲のものである。Alモノマーは、フロックの粘着性の増大に関与している可能性が考えられるため、本要件のようにその存在割合が低いことは好ましいことと言える。上記範囲の上限値は、好ましくは20%であり、より好ましくは15%である。よって、好ましいAlモノマーの存在割合として、1~20%、1~15%を例示できる。
【0024】
(要件4c)
本発明のPACの好適な一形態は、前記要件1~3を満たした上でさらに要件4cとして、本発明のPACの27Al-NMR測定によって得られるスペクトルが、ケミカルシフト2~20ppmの範囲内において、2つのピークを有する双峰性の形状を示し、当該2つのピークのピークトップ位置がケミカルシフト4.5±1ppmと11±1ppmのものである。双峰性の形状とは、2つのピークの間に谷を有するものである。よって、いずれか一方のピークが他方のピークのショルダーとなるものは除外される。」(下線は当審において付与した。以下同様)と記載されていることから、訂正事項1は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、請求項を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、そして、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
3 一群の請求項について
訂正前の請求項2及び3は請求項1を直接的又は間接的に引用するものであるから、請求項1~3は一群の請求項であり、訂正事項1及び2は、当該一群の請求項に請求されているものである。
よって、訂正事項1及び2は、特許法第120条の5第4項に適合するものである。
4 訂正についてのまとめ
上記のとおり、訂正事項1及び2に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
よって、特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
(1)本件発明について
本件訂正請求により訂正された請求項2及び3に係る発明(以下「本件発明2」及び「本件発明3」といい、まとめて「本件発明」ともいう。)は、訂正特許請求の範囲の請求項2及び3に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。なお、請求項1については、削除されている。
「【請求項1】(削除)
【請求項2】
下記要件1~3、4a、4b及び4cを満たす高塩基性塩化アルミニウム溶液を含む膜ろ過用水処理凝集剤。
要件1:当該高塩基性塩化アルミニウム溶液の塩基度が、70~80%の範囲である。
要件2:当該高塩基性塩化アルミニウム溶液中のSO4/Al2O3(モル比)が、0~0.30の範囲である。
要件3:当該高塩基性塩化アルミニウム溶液を下記ろ過水アルミニウム濃度測定試験に供してろ過水中のアルミニウム濃度を測定したときに、当該アルミニウム濃度が0.40mg/L以下である。
〔ろ過水アルミニウム濃度測定試験〕
1Lの平底ガラスビーカー(内径10.5±0.5cm)に収容した1000mLの模擬被処理水Aに対し、0.02mol/L塩酸を添加し150rpmで1分間撹拌した後、Al2O3として3.0mgの注入量となるように上記高塩基性塩化アルミニウム溶液を有姿で注入し、模擬被処理水Bを調製する。次に、模擬被処理水Bを150rpmで5分間撹拌した後、孔径0.1μmのセルロース混合エステルタイプメンブレンフィルター(東洋濾紙(株)製 品名「A010A」)でろ過した後、ろ過水中のアルミニウム濃度を測定する。
ここで、模擬被処理水Aは以下(1)~(6)を混合することによって作製したものである。
(1)蒸留水:10L
(2)関東化学(株)製カオリン(試薬):0.075g
(3)富士フイルム和光純薬(株)製フミン酸(化学用)を蒸留水に1mg/mLとなるように添加して調製した液:10mL
(4)キシダ化学(株)製炭酸水素ナトリウム(試薬特級)を蒸留水に50mg/mLとなるように添加して調製した液:15mL
(5)富士フイルム和光純薬(株)製アルギン酸ナトリウム80~120(和光一級)を蒸留水に1mg/mLとなるように添加して調製した液:30mL
(6)キシダ化学(株)製塩化カルシウム二水和物(試薬特級)を蒸留水に20mg/mLとなるように添加して調製した液:36mL
またここで、上記0.02mol/L塩酸の添加量は、調製された模擬被処理水BのpHが7.95±0.10となる添加量とする。
またここで、上記いずれの撹拌もフラットパドル(2枚型。1枚のパドルの大きさは縦25mm×横24mm。パドルの下端は上記平底ガラスビーカーの内側底面から鉛直上方向に5mmの位置に設定)を用いて撹拌する。
要件4a:当該高塩基性塩化アルミニウム溶液中のコロイド状のアルミニウム種の存在割合が、65~85%の範囲のものである。
要件4b:当該高塩基性塩化アルミニウム溶液中のモノマー状のアルミニウム種の存在割合が、1~20%の範囲のものである。
要件4c:当該高塩基性塩化アルミニウム溶液中の27Al-NMR測定によって得られるスペクトルが、ケミカルシフト2~20ppmの範囲内において、2つのピークを有する双峰性の形状を示し、当該2つのピークのピークトップ位置がケミカルシフト4.5±1ppmと11±1ppmのものである。
【請求項3】
膜ろ過法を用いた水処理方法において、被処理水と請求項2記載の膜ろ過用水処理凝集剤との混合液をろ過膜でろ過する工程を含む、水処理方法。」
(2)本件明細書について
本件訂正請求では、願書に添付した明細書及び図面についての訂正はないことから、願書に添付した明細書を以下「本件明細書」といい、願書に添付した明細書及び図面並びに訂正特許請求の範囲を以下「本件明細書等」という。
第4 特許異議申立書における申立理由の概要
申立人田上が提出した特許異議申立書(以下「田上申立書」という。)における申立理由(以下「田上申立理由」という。)、申立人山上が提出した特許異議申立書(以下「山上申立書」という。)における申立理由(以下「山上申立理由」という。)についてまとめると、概して以下のとおりである。
1 新規性・進歩性について
(1)田上申立理由1
申立人田上は、田上申立書で以下の甲第1号証~甲第8号証を提示して、以下の理由で、本件訂正前の請求項1~3(ただし、請求項1は削除されている。以下同様。)に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものであることを主張している。
本件訂正前の請求項1~3に係る発明は、甲第1号証~甲第8号証に記載された各発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、あるいは、本件訂正前の請求項1~3に係る発明は、甲第1号証~甲第8号証に記載された各発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前の請求項1~3に係る特許は、特許法第29条第1項、あるいは特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
<証拠方法>
甲第1号証:特許第7017283号公報
甲第2号証:特開2021-046353号公報
甲第3号証:特開2020-079200号公報
甲第4号証:特開2020-050540号公報
甲第5号証:特許第6186545号公報
甲第6号証:特開2000-271574号公報
甲第7号証:特開2009-203125号公報
甲第8号証:特開2019-031406号公報
なお、甲号証以外にも、参考資料として以下のものを提示している。
参考資料1:海老江邦雄、他、「凝集・沈澱処理に及ぼす急速撹拌条件の基礎的検討」、土木学会第56回年次学術購演会、平成13年10月、pp.464-465
そして、申立人田上が、令和5年11月8日に提出した意見書(以下「田上意見書」という。)で、さらに以下の甲号証も提示しているので、ここで併せて記載する。
甲第9号証:白崎伸隆、他、「ウイルス処理に有効な新規アルミニウム系凝集剤の開発」、土木学会論文集G(環境)、Vol.68、No.7、2012年、pp.III-41~III-50
甲第10号証:Zhaoyang Chen, et al.,「Study on the hydrolysis/precipitation behavior of Keggin Al13 and Al30 polymers in polyaluminum solutions」, Journal of Environmental Management, 90 (2009年), pp.2831~2840
甲第11号証:CHEN Zhaoyang, et al.,「Effect of total aluminum concentration on the formation and transformation of nanosized Al13 and A130 in hydrolytic polymeric alum inum aqueous solutions」, Chinese Science Bulletin (2005年) Vol.50, No.18, pp.2010~2015
(田上の提示した甲第○号証は、以下「田甲○」という。)
(2)山上申立理由1
申立人山上は、山上申立書で以下の甲第1号証~甲第4号証を提示して、以下の理由で、本件訂正前の請求項1~3に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものであることを主張している。
本件訂正前の請求項1~3に係る発明は、甲第1号証~甲第3号証に記載された各発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、あるいは、本件訂正前の請求項1~3に係る発明は、甲第1号証~甲第3号証に記載された各発明、甲第4号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前の請求項1~3に係る特許は、特許法第29条第1項、あるいは特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(なお、甲第4号証については、山上申立書の6頁の(3)イで「全請求項 条文 特許法第29条第2項(同法第113条第2項) 証拠 甲第1号証および甲第4号証」と記載されていることから、上記進歩性の証拠として扱った。)
<証拠方法>
甲第1号証: 白崎伸隆、他、「ウイルス処理に有効な新規アルミニウム系凝集剤の開発」、土木学会論文集G(環境)、Vol.68、No.7、2012年、pp.III-41~III-50
甲第2号証:CHEN Zhaoyang, et al,,「Effect of total aluminum concentration on the formation and transformation of nanosized Al13 and A130 in hydrolytic polymeric alum inum aqueous solutions」, Chinese Science Bulletin (2005年) Vol.50, No.18, pp.2010~2015
甲第3号証:特開2016-17012号公報
甲第4号証:「水道施設設計指針2012」厚生労働省発行(平成24年7月30日発行に係る「水道施設設計指針2012(日本水道協会)」を厚生労働省が抜粋)、p.31
(山上の提示した甲第○号証は、以下「山甲○」という。)
2 明確性について
(1)田上申立理由2
申立人田上は、田上申立書で、本件訂正前の請求項1~3に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が以下の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定にする要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものであることを主張している。
本件明細書の【0059】、【0062】に記載されているように、膜ろ過試験では河川表流水を原水とした試験法が記載されているが、要件3とは全く異なる方法であり、要件3の方法と膜ろ過試験法の相関を説明した記述はない。そのため、当該要件3の試験方法で特定されるアルミニウム濃度の技術的意味を理解することができない。
(2)山上申立理由2
申立人山上は、山上申立書で、本件訂正前の請求項1~3に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が以下のア~ウの点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定にする要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものであることを主張している。
ア 本件明細書には、要件3の数値に関して、本件訂正前の請求項1に係る発明の高塩基性塩化アルミニウムがどのように関与し、この数値から一義的に高塩基性塩化アルミニウムの性状や属性が明らかになるような記載も見当たらない。よって、要件3は、本件訂正前の請求項1に係る発明の高塩基性塩化アルミニウムを特定するものではなく、当業者がその技術的意義を理解することができない。
イ 高塩基性塩化アルミニウムの技術分野においては、高塩基性塩化アルミニウムを「物」として特定するために、塩基度のほか、SO4、Si、Cl、アルカリ金属などの元素をAl2O3に対するモル比で表し、さらにNMRやMSで定義するのが通常であり、当業者にもその「物」が理解可能であるのに、わざわざ独自の試験方法を設定することの意義は不明というほかない。
ウ 本件訂正前の請求項1に係る発明の高塩基性塩化アルミニウムは、「物」としての発明である。しかるに、要件3は、ろ過水アルミニウム濃度測定試験により、確定されるものであり、当該試験は方法であるので、たとえ結果が数値であっても、試験方法を必須の構成として含むことは明らかである。また、このようにしなければ、「物」として特定できないような不可避の事情も本件明細書には記載がないので、本件発明は、「物」を方法で特定するものであり、最高裁判決(平成24年(受)第1204号、同2658号)に違反し、明確でない。
3 サポート要件について
(1)田上申立理由3
申立人田上は、田上申立書で、本件訂正前の請求項1~3に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が以下の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定にする要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものであることを主張している。
本件明細書には、要件1~3のみからなる本件訂正前の請求項1に係る発明の高塩基性塩化アルミニウムにより、発明の課題を解決できる作用機序については何ら説明されていない。本件明細書において、課題を解決するための作用機序について本件明細書に記載がなくても、当該出願時の技術常識を備えた当業者が、要件1~3のみからなる本件訂正前の請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に実質的に開示された内容(具体的に効果が確認された、実施例1~5に係る製造方法等)を拡張ないし一般化できるとはいえない。
(2)山上申立理由3
申立人山上は、山上申立書で、本件訂正前の請求項1~3に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が以下のア及びイの点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定にする要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものであることを主張している。
ア 本件明細書の実施例では、要件3について、ろ過水中のアルミニウム残量0.127~0.283mg/Lについてのファウリング抑制効果が記載されているにとどまり、ろ過水中のアルミニウム残量が、実施例の数値以上で0.4mg/L以下のアルミニウム残量である場合の高塩基性塩化アルミニウム及びその効果については、何も記載がない。
イ 本件訂正前の請求項1に係る発明は、要件1~3を発明の構成とするが、実施例では、要件4a~要件4cを備えることによって、参考例および比較例に対する優位性を示すことができているので、課題解決のためには、要件4a~要件4cが必須であるところ、本件訂正前の請求項1に係る発明には、この要件4a~要件4cが含まれていない。
4 実施可能要件について
(1)田上申立理由4
申立人田上は、田上申立書で、本件訂正前の請求項1~3に係る特許は、その発明の詳細な説明の記載が以下のア~ウの点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定にする要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものであることを主張している。
ア 本件明細書の実施例1~5と参考例1(特開2009-203125号公報の実施例1) との開示を見ると、実施例1~5の方では原料PACの製造方法や塩基度・SO4以外の特性も判然としないだけでなく、参考例1の製造方法とは大きく異なると解されることから、たとえ当業者であっても、製法上の対比も困難であって、要件1~3を具備するためにはいかなる点を改良・改善して特徴とするべきなのかを何ら把握することはできない。それだけでなく、本件明細書の実施例1~5では製造途中で添加されるアルミン酸ソーダと水酸化ナトリウムの混合液の添加量や添加時間等のスケールに関する情報も一切開示されていない。
イ 本件訂正前の請求項1に係る発明が「達成すべき結果によって物を特定しようとしている」記載を含む観点から見ても、実施可能要件違反となることは明らかである。
ウ 付言として、公開特許公報(特開2018-154543号公報、特開2009-203125号公報、特開平10-245220号公報、特開平7-172824号公報、特開昭61-011113号公報、特開昭53-137895号公報)にも記載されているように、塩基性塩化アルニウムの製造において、原料の組成や製造条件などが異なることにより、最終的に得られる塩基性塩化アルミニウムの特性や性能が変化することは、本件特許の出願時において技術常識であるから、要件1~3(特に要件3) がいかにして調整されるべきか、その具体的な手段が明確になるよう特定されるべきである。
(2)山上申立理由4
申立人山上は、山上申立書で、本件訂正前の請求項1~3に係る特許は、その発明の詳細な説明の記載が以下の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定にする要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものであることを主張している。
模擬被処理水Aの調製に用いる6種類の試薬は、その具体的な純度が記載されておらず、販売するメーカー名で特定されているものが含まれるので、試薬が明確に特定されているとはいえず、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。
第5 取消理由通知書で通知した取消理由の概要
取消理由通知書では、以下の取消理由1~3を通知しており、取消理由1については、上記第4の3(2)で記載した山上申立理由3のイを踏まえて通知したものであり、取消理由2及び3については、上記第4の1の田上申立理由1の証拠である田甲1~8及び山上申立理由1の証拠である山甲1~3のうち、要件3を満たすことを追加実験の結果に基づいて主張している田甲6~8を採用したものである。
なお、両申立人は、田甲6~8以外の田甲1~5及び山甲1~3については、いずれも、要件3を満たす蓋然性が高いことを主張するのみであるから、取消理由2及び3の証拠として採用していない。
1 取消理由1(サポート要件)
本件特許は、その特許請求の範囲の下記の請求項に係る記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定にする要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
・本件訂正前の請求項1~3
本件発明の課題を解決するためには、本件訂正前の請求項1で特定される要件1~3に加え、参考例1との差を示す要件である「コロイド状のアルミニウム種の存在割合が65~95%の範囲のもの」という要件4a、「Alモノマーの存在割合が1~20%の範囲のもの」という要件4b、「27Al-NMR測定によって得られるスペクトルが、ケミカルシフト2~20ppmの範囲内において、2つのピークを有する双峰性の形状を示し、当該2つのピークのピークトップ位置がケミカルシフト4.5±1ppmと11±1ppmのもの」という要件4cを同時に満たす必要があるところ、本件訂正前の請求項1に係る発明では、要件1~3に加えて上記4a~4cの要件を満たすことが特定されていないことから、本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえない。
よって、本件訂正前の請求項1に係る発明は、本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえず、本件訂正前の請求項1に係る発明を直接的又は間接的に引用する請求項2及び3についても事情は同じであることから、本件訂正前の請求項1~3は、発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。
2 取消理由2(新規性)及び取消理由3(進歩性)
本件特許の下記の請求項に係る発明は、田甲6に記載された発明、田甲7に記載された発明又は田甲8に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、あるいは、田甲6に記載された発明、田甲7に記載された発明又は田甲8に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第1項、あるいは特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
・本件訂正前の請求項1~3
なお、上記周知技術を示す文献として、田上申立書に記載されている以下の特開2013-220396号公報(以下「田周1」という。)及び特開2012-86149号公報(以下「田周2」という。)を提示している。
<文献一覧>
田甲6:特開2000-271574号公報
田甲7:特開2009-203125号公報
田甲8:特開2019-31406号公報
田周1:特開2013-220396号公報
田周2:特開2012-86149号公報
第6 甲号証等の記載について
1 取消理由通知書で提示した文献の記載
(1)田甲6について
ア 記載事項
田甲6には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審において付与した(以下同様)。
(田甲6ア)「【請求項1】 ナトリウム含有量(Na換算)及び硫酸根含有量(SO42-)がアルミナ含有量(Al2O3換算)に対する重量比で各々0.01以下であり、かつ塩基度が40~80%である塩基性塩化アルミニウムよりなる浄水用凝集剤。」(当審注:提出された田甲6の写しの「SO42-」の「2-」部分は解読不明なものであるが、原文では「2-」である。)
(田甲6イ)「【0006】
【発明が解決しようとする課題】かかる状況下に鑑み、本発明者等は浄水施設等においてろ過処理後の浄水中に残存するAl濃度を低減し得る凝集剤を開発すべく鋭意検討を重ねた結果、特定成分の含有量を特定量以下にした塩基性塩化アルミニウムよりなる浄水用凝集剤を用いる場合には、従来のPACと同等の凝集性能と保存安定性を維持しながら、処理後の浄水中の残存Al濃度を低減し得ることを見出し本発明を完成するに至った。」
「【0011】本発明の第1の浄水用凝集剤の硫酸根含有量(SO42-換算)は、浄水用凝集剤のアルミナ含有量(Al2O3換算)に対する重量比で0.01以下、好ましくは0.005以下であることを特徴とする。硫酸根含有量が0.01より多いとたとえ浄水用凝集剤のナトリウム含有量が0.01より少ない場合でも処理後の浄水中の残存Al濃度が高くなる。
【0012】本発明の第1の浄水用凝集剤のアルミナ含有量(Al2O3換算)は、使用条件、その製造方法、ナトリウム含有量、塩基度等により異なり一義的ではないが、通常、約8~25重量%、好ましくは約16~25重量%である。アルミナ含有量が約25重量%より高い場合、保存安定性が低下する場合がある。アルミナ含有量が約8重量%より低い場合、保存安定性が低下することはないが同等の凝集性を得るために添加量を多くする必要があり、また、浄水施設等までの輸送コスト、貯蔵コストが高くなる傾向にある。」
(田甲6ウ)「【0027】凝集性能:
(1)供試水
河川表流水(濁度5.3度、アルカリ度36度、pH7.4/20℃、Al濃度0.12mg/L)を用いた。尚、Al濃度は、採取した水をそのまま無炎原子吸光度計(AA-670、株式会社島津製作所製)により測定した。
(2)ジャーテスト
供試水各1Lを1Lビーカー4ヶに分取し、各ビーカーに浄水用凝集剤をAl2O3換算で1.5、2.0、2.5、3.0mg/Lを添加し、100rpmで1分間、50rpmで10分間攪拌後、10分間静置した。次に、上澄み液を採取して濁度を測定した。各ビーカー4ポイントの平均除濁率により凝集性能(除濁性能)を評価した。尚、除濁率は以下の計算式より導出した。
除濁率(%)={1-(上澄み液の濁度/供試水の濁度)}×100
(3)判定基準
凝集性能は平均除濁率95%以上が合格(○)、95%未満が不合格(×)である。
【0028】保存安定性〔日〕:浄水用凝集剤150mlを広口瓶に採集密栓し、20℃の恒温槽に放置し溶液の径時変化を観察した。
【0029】残存Al濃度〔mg/L〕:ジャーテスターで得た上澄液を0.45μメンブランフィルターで濾過し、濾液中のAl濃度を無炎原子吸光度計(AA-670、株式会社島津製作所製)により測定した。
【0030】実施例1
塩基性塩化アルミニウムの調製
水酸化アルミニウム(Al2O3含有量60.6重量%、硫酸根含有量0.001重量%未満)431.1重量部と塩酸(35.8%)768.9重量部とを反応容器に添加し、撹拌しながら158℃に昇温し、2.5時間保持した。このときの圧力は4.5気圧であった。放冷後、反応液をろ過して未反応の水酸化アルミニウムを除去し塩基性塩化アルミニウム(Al2O3含有量20.1重量%、硫酸根含有量0.001重量%未満、塩基度50.1%)を得た。尚、未反応の水酸化アルミニウムは8.3%であった。
【0031】アルミナゲルの調製
予め200.0重量部の水を投入した撹拌機付き反応容器中に、合成アルミン酸ナトリウム(Al2O3含有量25.9重量%、Na2O/Al2O3モル比=1.2)332.5重量部、炭酸ナトリウム(96%)78.0重量部及び水600.8重量部を混合したアルカリ溶液と、塩基性塩化アルミニウム(Al2O3濃度19.8重量%、硫酸根含有量0.001重量%未満、塩基度49.0%)575.2重量部と水436.2重量部を混合した酸性溶液とを、撹拌しながら常温下同時に添加した後、脱ナトリウム・脱硫酸根処理の為、水にてAl2O3濃度約3%に希釈後、ろ過し、得られた固形分を洗浄してアルミナゲルを得た。
【0032】50℃に保持した状態で塩基性塩化アルミニウム1164重量部にアルミナゲル960重量部を攪拌しながら1時間で添加し、2時間保持した後、ろ過して浄水用凝集剤を得た。この浄水用凝集剤の物性及び凝集性能、保存安定性、水中の残存Al濃度を表1に示す。」
(田甲6エ)表1として、以下の表が記載されている。
「【表1】
[図:0001410194000001.jpg]
」
イ 田甲6発明について
(田甲6ウ)の実施例1として、同【0032】によれば、「塩基性塩化アルミニウム」に「アルミナゲル」を添加した「浄水用凝集剤」が記載されているところ、(田甲6エ)の表1によれば、実施例1の浄水用凝集剤は、塩基度が71%、硫酸根含有量/アルミナ(重量比)が0.0001未満、残存Al濃度が0.01mg/Lである。また、(田甲6ウ)の「塩基性塩化アルミニウムの調整」を参照すると、塩基性塩化アルミニウムは溶液である。
そうすると、実施例1によって田甲6に記載されている発明を認定すると、田甲6には以下の発明が記載されている。
「塩基性塩化アルミニウム溶液にアルミナゲルを添加した浄水用凝集剤であって、
塩基度が71%、硫酸根含有量/アルミナ(重量比)が0.0001未満、残存Al濃度が0.01mg/Lである、浄水用凝集剤。」(以下「田甲6発明」という。)
(2)田甲7について
ア 記載事項
田甲7には、以下の事項が記載されている。
(田甲7ア)「【0001】
本発明は、水処理用凝集剤等に使用する塩基性塩化アルミニウムにおいて、凝集性能に優れ、且つ秀抜した有機物の除去性能を有する新規な塩基性塩化アルミニウム及びその製造方法並びにその用途に関する。」
「【0009】
上述のように、塩基性塩化アルミニウムは各種の技術改良が試みられ、凝集性能の改善、貯蔵安定性の向上あるいは残留アルミニウム濃度の低減などの技術改良は成されてきたが、塩基性塩化アルミニウムの有機物除去性能を向上させる技術は無かった。
【0010】
このように、今後規制の強化が予想され、また浄水処理においてはカビ臭や味などの観点から消費者から嫌われている原水に含有される有機物の除去は、従来から塩基性塩化アルミニウムに強く要望されていながら、これまで有効な解決方法を見出せない状況にあった。」
(田甲7イ)「【0064】
有機物除去試験の具体的な方法は、pH調整した河川水を1Lガラスビーカーに1L入れ、これに塩基性塩化アルミニウム溶液を、30mg/Lになるように添加した後、撹拌条件を浄水試験方法に準じて、120rpmで3分撹拌し、さらに40rpm×10分撹拌して凝集フロックを形成・成長させ、その後に10min静置して凝集フロックを沈降させた後で上澄みを採取した。なお、このときの処理水の液温は約20℃であった。その採取した試料の濁度を濁度計で、pHをガラス電極式pH計で測定した。また、試料をガラス繊維ろ紙でろ過した後、光路長1cmの石英ガラスセルを用いて分光光度計にてE260を測定した。また併せて残留アルミニウム濃度をICP発光分光法で測定した。結果を表2に示した。」
(田甲7ウ)「【0073】
[実施例3]
オートクレーブを用いて、水酸化アルミニウム(Al2O364.0%)を加圧下で塩酸溶解することにより得られた塩基性塩化アルミニウム溶液(Al2O316.0%、Cl 20.0%、塩基度40%)1000gに、金属アルミニウム粉末を塩酸に溶解して製造した高塩基性の塩化アルミニウム溶液(Al2O323.0%、Cl 8.4%、塩基度82.5%)を1000g添加して撹拌・混合した。これに水1200gと硫酸アルミニウム(Al2O38.0%、SO422.6%)300gを添加し撹拌混合して、Al2O3濃度11.8%、Cl濃度8.1%、組成Cl/Al2O3(モル比)=1.97、SO4/Al2O3(モル比)=0.17でかつ塩基度が61.3%の塩基性塩化アルミニウム溶液3700gを得た。
【0074】
この塩基性塩化アルミニウム溶液の全量を液温50℃にして撹拌しながら25%炭酸ナトリウム溶液600gを約50分かけて徐々に添加した。添加終了後に液温を75℃に調整して撹拌しながら1時間熟成を行い、本発明の塩基性塩化アルミニウム溶液を得た。この本発明の塩基性塩化アルミニウム溶液のAl2O3濃度は10.3%で、Na/Al2O3(モル比)=0.70、Cl/Al2O3(モル比)=1.97、SO4/Al2O3(モル比)=0.17であった。先述の測定条件の27Al-NMRスペクトルにおいてケミカルシフトが0ppm、3-5ppm、6-14ppm、50-65ppmにピークを有した。また、塩基度は73.0%であった。」
(田甲7エ)表4として、以下の表が記載されている。
「【表4】
[図:0001410194000002.jpg]
」
イ 田甲7発明について
甲7には、(田甲7ア)の【0001】によれば、水処理用凝集剤等に使用する塩基性塩化アルミニウムが記載されているところ、(田甲7ウ)の実施例3として、同【0074】によれば、「SO4/Al2O3(モル比)=0.17」、「塩基度は73.0%」である「塩基性塩化アルミニウム溶液」が記載されている。
そして、(田甲7エ)の表4によれば、実施例3の残留Al濃度は、0.03~0.10mg/Lである。
そうすると、実施例3によって田甲7に記載されている発明を認定すると、田甲7には以下の発明が記載されている。
「SO4/Al2O3(モル比)=0.17、塩基度は73.0%、残存Al濃度が0.03~0.10 mg/Lであり、
27Al-NMRスペクトルにおいてケミカルシフトが0ppm、3-5ppm、6-14ppm、50-65ppmにピークを有する、
水処理用凝集剤等に使用する塩基性塩化アルミニウム溶液。」(以下「田甲7発明」という。)
(3)田甲8について
ア 記載事項
田甲8には、以下の事項が記載されている。
(田甲8ア)「【0001】
本発明は、水処理用の凝集剤等に利用される硫酸イオン含有塩基性塩化アルミニウムの製造方法に関するものであり、より詳しくは、従来の方法よりも工程数や製造時間を削減できて製造効率を向上しながらも、塩基度が高く凝集性能が高い硫酸イオン含有高塩基性塩化アルミニウムを製造する方法に関するものである。」
「【0009】
従って、本発明の目的は、塩基度が70%を超えるような凝集力が高い高塩基度の塩基性塩化アルミニウム(硫酸イオンを含む硫酸イオン含有高塩基性塩化アルミニウム)を、より工程数や製造時間を抑えた簡便な方法で、安価に大量生産できる製造方法を提供することである。」
(田甲8イ)「【0027】
(実施例1)
以下の手順により、本発明に係る硫酸イオン含有高塩基性塩化アルミニウムを製造した。 オートクレーブを用いて、水酸化アルミニウム(Al2O3換算:62.9%)4794gを温度100~150℃、圧力0.2~0.4MPaで濃塩酸(36.6%)9365gに溶解することにより、塩基性塩化アルミニウム溶液(Al2O3換算:19.8質量%、Cl:22.3質量%、塩基度:46.1%)を14159g得た(第1の段階)。次いで、この得られた塩基性塩化アルミニウム溶液80.0gを採取して、硫酸アルミニウム(Al2O3:8.04%、SO4:22.7%)10.5gに0.5時間かけて添加し、Al2O3換算:18.4質量%、Cl濃度:19.7質量%、組成Cl/Al2O3(モル比)=3.07、SO4/Al2O3(モル比)=0.15であって、尚且つ塩基度が48.9%の硫酸イオン含有塩基性塩化アルミニウム溶液を90.5g得た(第2の段階)。
そして、この得られた硫酸イオン含有塩基性塩化アルミニウム溶液を液温50℃にして撹拌しながら21%炭酸ナトリウム溶液28.7gを60分かけて徐々に添加した後に、炭酸ナトリウム溶液を添加しないで30分撹拌し、その後、再び21%炭酸ナトリウム溶液28.7gを60分かけて添加した後に、炭酸ナトリウム溶液を添加しないで30分攪拌した(第3の段階)。添加終了後に、攪拌液中には水に不溶解の固形分等の存在は殆ど確認されなかった。なお、この第3の段階における添加量〔28.7g×2=57.4g、溶液中の炭酸ナトリウム(21%)のモル数=0.11mol〕については、第2の段階での硫酸イオン含有塩基性塩化アルミニウム分子中のCl原子のモル数0.50molと、第3の段階での目標塩基度71%に対応した硫酸イオン含有高塩基性塩化アルミニウム分子中のCl原子のモル数0.28molとの差分から算出し、これ以降の実施例及び比較例についても同様に設定した。
添加終了後、ろ過した後に水18.0gを加えてAl2O3換算濃度を調整することで、塩基度が70.5%である実施例1に係る硫酸イオン含有高塩基性塩化アルミニウム溶液を160.8g得た。この硫酸イオン含有高塩基性塩化アルミニウム溶液のAl2O3換算濃度は10.0質量%で、Na濃度は3.25質量%、SO4濃度は1.48質量%であった。また、ろ滓量は0.4gであった。得られた硫酸イオン含有高塩基性塩化アルミニウムの特性および評価を表1に示す。凝集性試験の結果は「可」であった。」
イ 田甲8発明について
甲8には、(田甲8ア)の【0001】によれば、水処理用の凝集剤等に利用される硫酸イオン含有塩基性塩化アルミニウムが記載されているところ、硫酸イオン含有塩基性塩化アルミニウム溶液に関する実施例1によって田甲8に記載されている発明を認定すると、田甲8には以下の発明が記載されている。
「Al2O3換算濃度は10.0質量%、SO4濃度は1.48質量%であり、塩基度が70.5%である、
水処理用の凝集剤等に利用される硫酸イオン含有高塩基性塩化アルミニウム溶液。」(以下「田甲8発明」という。)
(4)田周1について
田周1には、以下の事項が記載されている。
「【背景技術】
【0002】
従来、上水処理、下水処理、工業用水処理、工業排水処理等の各種水処理分野において、被処理水をろ過して被処理水中の懸濁物質(SS:suspended solids)を除去し、清浄なろ過水を得る方法として、膜ろ過方法が用いられている。
【0003】
膜ろ過方法では、一般に、硫酸アルミニウムやポリ塩化アルミニウム等の凝集剤を用いて被処理水中の懸濁物質を凝集(フロック化)させた後に、微細孔が形成されたろ過膜を用いて被処理水をろ過している。
【0004】
本願の出願人らは、そのような膜ろ過方法として、塩基度が65%以上、85%以下のポリ塩化アルミニウム溶液を用いる方法を先に提案した(特許文献1)。この方法によれば、ろ過膜の閉塞の進行を抑制し、ろ過膜の薬品洗浄頻度及び交換頻度を低減することができる。」
(5)田周2について
田周2には、以下の事項が記載されている。
「【背景技術】
【0002】
従来、上水処理、下水処理、工業用水処理、工業排水処理などの各種水処理分野において、被処理水をろ過して被処理水中の懸濁物質(SS:suspended solids)を除去し、清浄なろ過水を得る方法として、膜ろ過法が用いられている。そして、この膜ろ過法では、一般に、硫酸アルミニウムやポリ塩化アルミニウム等の凝集剤を用いて被処理水中の懸濁物質を凝集(フロック化)させた後に、微細孔が形成されたろ過膜を用いて被処理水をろ過している。
【0003】
ここで、膜ろ過法で被処理水を連続的にろ過する場合、ろ過の継続に伴い、ろ過膜が閉塞(ファウリング)して膜差圧が上昇し、ろ過膜が所望のろ過性能を発揮できなくなることがある。そのため、膜ろ過法を用いて被処理水を処理する際には、定期的にろ過膜を逆流洗浄(以下「逆洗」という。)し、ろ過膜に付着した懸濁物質のフロック等のファウリング原因物質を定期的に除去している。」
2 意見書で追加された甲号証の記載
申立人田上は、田上意見書において、上記第2の1(1)で記載した訂正事項1によって追加されてきた要件4a、要件4b、要件4cに関連のある文献として、上記田甲9~11を提示したので、以下に摘記する。
(1)田甲9について
田甲9には、以下の事項が記載されている。
(田甲9ア)「b)高塩基性塩化アルミニウム(HPA)
本研究では,凝集剤中のアルミニウム形態の大きく異なる複数のHPAを作製し,実験に使用した.HPAは,加熱攪拌下で塩化アルミニウム溶液にNaOHを添加し,室温下で静置させることにより作製したなお,塩基度,塩化アルミニウム溶液濃度,NaOH濃度,加熱撹拌時間を変化させることにより,凝集剤中のアルミニウム形態の大きく異なる複数のHPAを作製したなお,各凝集剤は,作製後3日以上常温で静置することにより安定化させた後使用まで4℃にて冷蔵保存した.」(III 43頁左欄6行~15行)
(田甲9イ)「(4)新規アルミニウム系凝集剤の作製
上述したように,塩基度が高く,硫酸を含まない疑集剤を凝集沈澱処理に用いることにより,弱酸性,中性,弱アルカリ性のいずれのpH領域においても,高いウイルスの処理性が得られることが明らかとなった.また,塩基度の増加に伴う凝集剤中のAlコロイドの存在割合の増加がウイルスの処理性の向上に影響している可能性が考えられた.そこで,凝集剤中のアルミニウム形態がウイルスの処理性に与える影響をより詳細に評価するため,凝集剤中のアルミニウム形態の大きく異なる複数のHPAを作製した.HPAの作製においては,塩基度を高めることによりAlポリマーの存在割合が増加し,塩化アルミニウム溶液濃度およびNaOH濃度を高め,且つ加熱撹拌時間を長くすることによりAlコロイドの存在割合が増加する傾向が見られた.これらの傾向を考慮し,Alポリマーの存在割合が大きいHPA1(塩基度7O%,硫酸0%)およびAlコロイドの存在割合が大きいHPA2(塩基度70%,硫酸0%)を作製した(図-3).」(III 46頁左欄23行~右欄11行)
(田甲9ウ)図-3及び図-7として、以下の図面が記載されている。
「
[図:0001410194000003.jpg]
」(III 46頁左欄)
「
[図:0001410194000004.jpg]
」(III 48頁左欄)
(2)田甲10について
田甲10には、以下の事項が記載されている。
「
[図:0001410194000005.jpg]
」(2833頁)
(当審訳:表1 本研究で使用する凝集剤におけるAl種の存在割合とpH)
(3)田甲11について
田甲11には、以下の事項が記載されている。
(田甲11ア)「1.2 Preparation of samples
The samples with CAlT=0.1, 0.2, 0.5, 0.75 and 1.0 mol・L-1, respectively, were prepared by the following methods: 80mL AlCl3 solution with a predetermined aluminum concentration was added to a 500-mL three-necked glass reactor equipped with a Teflon anchor stirrer and a reflex condenser, and the solution was heated to 80℃ using a thermostatic apparatus, then 320mL NaOH aqueous solution with a predetermined concentration was pumped into the reactor through peristaltic pump at a speed of 8 mL/min under rapid stirring until the hydrolysis ratio (B= [OH-]/[Al3+]) reached the prearranged high B values(ca.2.3-2.4). After the addition of NaOH solution was finished, the reactants were heated and stirred continuously for 10 min at 80℃.And the samples were abbreviated to HPACn-m, n and m denoted CAlT and B, respectively.」(2011頁左欄14~30行。なお、Cの添え字の「AlT」は「AlT」である。)
(申立人田上の訳参照:1.2 サンプルの準備
それぞれCAlT=O.1、0.2、0.5、0.75及び1.O mol・L-1のサンプルは、以下の方法で調製した。所定のアルミニウム濃度を有する80mLのAlCl3溶液を、テフロン製アンカースターラーと還流冷却器を備えた500mLの三口ガラス反応器に添加した。恒温装置を用いて溶液を80℃に加熱し、所定濃度のNaOH水溶液320mLをペリスタルティックポンプにより8mL/分の速度で反応器に注入し、加水分解比(B=[OH-]/[Al3+])があらかじめ設定された高いB値(約2.3~2.4)に達するまで、急速に撹拌した。NaOH溶液の添加終了後、反応物を80℃で10分間加熱し、撹拌し続けた。また、サンプルはHPACn-mと略記され、nとmはそれぞれCAlTとBで表される。」
(田甲11イ)Fig.2及びTable2として、以下の図面及び表が記載されている。
「
[図:0001410194000006.jpg]
」(2012頁)
「
[図:0001410194000007.jpg]
」(2014頁)
(当審訳:表2 時間経過後のAl-フェロン複合体での色度測定によって決定されるHPACn-mとLPACn-mにおけるAl種の存在割合)
3 その他の甲号証の記載
(1)田甲1について
田甲1には、以下の事項が記載されている。
(田甲1ア)「【発明の効果】
【0007】
本発明の高塩基塩化アルミニウムの水溶液は、水道水の水処理液として有用であるばかりでなく、これまで処理が難しいとされてきたホウ素化合物を多く含有するメッキ廃液、釉薬製造業から排出される排水、温泉水等の処理において、別途添加されるホウ素の除去剤が有効に作用するように、水処理を行うことが可能になる。
【0008】
本発明の高塩基性塩化アルミニウムの水溶液は、水処理凝集剤用途だけでなく、アルミナ粉体合成、アルミナコーティング用途、制汗剤、化粧品原料、医薬品原料等の各種用途にも使用可能である。
【0009】
本発明の高塩基性塩化アルミニウム水溶液は、不純物を含まない材料(使用原料)を用いて製造されるので、不純物を含まない高い塩基性を有する塩化アルミニウム水溶液が得られ、上記の性能を有する。」
(田甲1イ)「【0036】
<実施例1>
水酸化アルミニウム(日本軽金属株式会社製BW103)と48%水酸化ナトリウム水溶液(関東化学製)から合成したアルミン酸ナトリウム水溶液(Al2O3換算Al量23.5重量%、Na2O換算Na量18.6重量%)81.0gと水酸化アルミニウム(日本軽金属株式会社製BW103)と98%精製濃硫酸(テイカ株式会社製)から合成された液体硫酸アルミニウム(Al2O3換算Al量8.03重量%)27.8gと塩基性塩化アルミニウム1(Al2O3換算Al量10.2重量%、塩基度62.0%、SO42-量3.1重量%)160.0gと精製水285.9gを混合し、30分攪拌する。次に塩基性塩化アルミニウム水溶液2(Al2O3換算Al量17.8重量%、塩基度45.0%、SO4-2量0重量%)を250g投入し、65℃まで昇温し、120分攪拌しながら、加温熟成した後、55℃まで10時間かけて徐冷することで本発明の高塩基性塩化アルミニウム水溶液を得た。得られた高塩基性塩化アルミニウム水溶液は、Al2O3換算Al量10.2重量%、塩基度71.3%、SO42-量1.4重量%、Fe10ppm、Ca25ppm、Mg5ppm、Siが15ppm、Mn0.5ppm、Cd0.05ppm、Cr0.05ppm、Pb0.05ppm、Hgが0.003ppm、アンモニア性窒素が2ppm、As0.01ppmを有した。」
(田甲1ウ)以下の図1には、実施例1の高塩基性塩化アルミニウム水溶液の27Al-NMRの測定結果が記載されている。
「【図1】
[図:0001410194000008.jpg]
」
(2)田甲2について
田甲2には、以下の事項が記載されている。
(田甲2ア)「【0011】
本発明の目的は、このような高塩基性塩化アルミニウムおよびそれを用いた浄水用凝集剤を提供し、残存Alの低減と共に、微粒子数の低減、E260値の低減をも可能な凝集剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち本発明は、組成が、M/Al2O3(モル比)=1.0~2.2(Mはアルカリ金属のモル数を示す)、E/Al2O3(モル比)=0~0.3(Eはアルカリ土類金属のモル数を示す)、Cl/Al2O3(モル比)=1.0~3.0、SO4/Al2O3(モル比)=0~0.35であり、塩基度が75%~95%であることを特徴とする高塩基性塩化アルミニウムである。」
(田甲2イ)「【0068】
<試験条件>
ビーカーに河川水1リットルを入れ、急速攪拌(100rpm:64cm/sec)しながら高塩基性塩化アルミニウムを添加し、引き続き上記条件と同じ急速攪拌1分、緩速攪拌(60rpm;38cm/sec)を10分行い、10分間静置し、上澄液をサイホンにて採取し、濁度、残留アルミ濃度、E260(紫外部吸光度:トリハロメタン除去率)、微粒子数を求めた。」
(3)田甲3について
田甲3には、以下の事項が記載されている。
(田甲3ア)「【発明の効果】
【0013】
本発明により、製造される塩基性塩化アルミニウムは、組成が、M/Al2O3(モル比)=0.8~2.2(Mはアルカリ金属のモル数を示す)、E/Al2O3(モル比)=0~0.3(Eはアルカリ土類金属のモル数を示す)、Cl/Al2O3(モル比)=1.0~3.0、SO4/Al2O3(モル比)=0~0.35であり、塩基度が75%~95%の高塩基性塩化アルミニウムである。
【0014】
本発明により、製造される塩基性塩化アルミニウムは、塩基性塩化アルミニウムの塩基度を75%~95%にまで高めることができ、保存安定性にも優れ、凝集剤として使用することにより処理後の浄水中の残存Al、E260の値および微粒子数を共に顕著に減少させることが可能である。」
(田甲3イ)「【0066】
<試験条件>
ビーカーに河川水1リットルを入れ、急速攪拌(100rpm:64cm/sec)しながら高塩基性塩化アルミニウムを添加し、引き続き上記条件と同じ急速攪拌1分、緩速攪拌(60rpm;38cm/sec)を10分行い、10分間静置し、上澄液をサイホンにて採取し、濁度、残留アルミ濃度、E260(紫外部吸光度:トリハロメタン除去率) 、微粒子数を求めた。」
(4)田甲4について
田甲4には、以下の事項が記載されている。
(田甲4ア)「【0011】
本発明の目的は、このような高塩基性塩化アルミニウムおよびそれを用いた浄水用凝集剤を提供し、残存Alの低減と共に、微粒子数の低減、E260値の低減をも可能な凝集剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち本発明は、組成が、M/Al2O3(モル比)=0.8~2.2(Mはアルカリ金属のモル数を示す)、E/Al2O3(モル比)=0~0.3(Eはアルカリ土類金属のモル数を示す)、Cl/Al2O3(モル比)=1.0~3.0、SO4/Al2O3(モル比)=0~0.35であり、塩基度が75%~95%であることを特徴とする高塩基性塩化アルミニウムである。」
(田甲4イ)「【0068】
<試験条件>
ビーカーに河川水1リットルを入れ、急速攪拌(100rpm:64cm/sec)しながら高塩基性塩化アルミニウムを添加し、引き続き上記条件と同じ急速攪拌1分、緩速攪拌(60rpm;38cm/sec)を10分行い、10分間静置し、上澄液をサイホンにて採取し、濁度、残留アルミ濃度、E260(紫外部吸光度:トリハロメタン除去率)、微粒子数を求めた。」
(5)田甲5について
田甲5には、以下の事項が記載されている。
(田甲5ア)「【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、産業排水・用水、上下水などの水処理用凝集剤に使用する塩基性塩化アルミニウムに関し、硫酸根濃度をできるだけ少なくして、処理すべき水の各種類によるpH、アルカリ度、溶解イオン、濁度などの幅広い変動にも対応でき、また保管時の大きい温度変化にも対応できる保管安定性に優れた塩基性塩化アルミニウムを得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、組成が、Si/Al2O3(モル比)=0.001~0.1、M/Al2O3(モル比)=0.1~1.2(Mはアルカリ金属のモル数を示す)、E/Al2O3(モル比)=0~0.3(Eはアルカリ土類金属のモル数を示す)、Cl/Al2O3(モル比)=1.0~3.0、SO4/Al2O3(モル比)=0~0.08であることを特徴とする高塩基性塩化アルミニウムである。
【0016】
また本発明は、前記高塩基性塩化アルミニウムの塩基度が、50~80%であることを特徴とする高塩基性塩化アルミニウムである。」
(6)参考資料1について
「4.あとがき:従来、急速撹拌のG値としては 150~100s-1程度が 広く採用されてきたが、今回の結果によると、PACおよびPSIのいずれを用いた場合にも、従来値よりG値を増加させることにより処理性は向上し、併せてろ過抵抗が著しく低減することが分かった。また、凝集・沈澱処理性の評価においては、濁度と色度だけではなく残留Alをも含めて評価をすべきことを明らかにした。」(465頁)
(7)山甲1について
山甲1は、田甲9と同じ文献であることから、山甲1に記載されている事項は、上記2(1)で摘記した(田甲9ア)~(田甲9ウ)である。
(8)山甲2について
山甲2は、田甲11と同じ文献であることから、山甲2に記載されている事項は、上記2(3)で摘記した(田甲11ア)及び(田甲11イ)である。
(9)山甲3について
山甲3には、以下の事項が記載されている。
(山甲3ア)「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、硫酸根が共存する硫酸根変性塩基性塩化アルミニウムの水溶液であって、優れた凝集性を発揮することができ、しかも水溶液の状態で沈降分離することなどがなく、安定に保存される硫酸根変性塩基性塩化アルミニウム水溶液及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、硫酸根が共存する塩基性塩化アルミニウム水溶液の保存安定性について多くの実験を重ねて検討した結果、この硫酸根変性塩基性塩化アルミニウムの重合度分布を調整し、一定の塩基度を保持しながら重合度の高い成分の割合を少なくすることにより、凝集力を損なうことなく、保存安定性を向上させ得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
本発明によれば、硫酸根変性塩基性塩化アルミニウムの水溶液であって、硫酸根を1~3質量%の量で含み、且つ27Al-NMR測定において、-4~-2ppm、-1~1ppm、3~6ppm、8~13ppm及び60~65ppmでの化学シフトの積分値を、それぞれ、AS、A0、A4、A10、A13とし、且つ検出されなかった高重合度ポリマーの積分値をAPとしたとき、AS+A0+A4+A10+A13+AP=Σと表記して下記条件;
1>A0/Σ≧0.19
0≦A10/Σ≦0.07
0≦AS/Σ<0.001
0≦A13/Σ≦0.001
を満足し、さらに塩基度が45~70%の範囲にあることを特徴とする硫酸根変性塩基性塩化アルミニウム水溶液が提供される。」
(10)山甲4について
山甲4には、以下の事項が記載されている。
「1. について;
凝集剤としては、水道用硫酸アルミニウム、水道用ポリ塩化アルミニウム、塩化第二鉄及び水道用ポリシリカ鉄が用いられる。
アルミニウム塩の凝集剤の作用については、一般的に次のように説明されている。アルミニウム塩を水に加えると容易に加水分解して、正に帯電したアルミニウムヒドロキソ錯体を生じる。一方、水中の濁質コロイドは、その表面が負に帯電しているので、相互に反発し合い沈殿しにくい状態にあるが、この荷電をアルミニウムヒドロキソ錯体の正電荷によって中和すれば反発力は減じる。このような状態の微粒子が互いに近づくと、集合して大きくなり、同時に水に懸濁する無機物、有機物、細菌、生物等も包み込み、フロックとして成長する。」(31頁10~18行)
第7 本件明細書の記載
1 本件発明の課題について
本件明細書には、本件発明の課題について、以下のとおり記載されている。なお、下線は当審において付与した(以下同様)。
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2のPACは、浄水場で広く採用されている急速ろ過法への適用を目的として開発されたものであった。そのため、本発明者らは、膜ろ過法において、特許文献2のPACよりもさらにファウリング抑制効果に優れた水処理凝集剤を開発する余地があると考え、これを課題とした。」
2 作用機序について
「【0027】
ファウリング抑制は、ろ過膜の逆洗回数の減少等につながるため、運転管理コストの低減に貢献する。そこで、特許文献2のPACよりもさらに優れたファウリング抑制効果を有するPACを目標として開発されたのが、本発明のPACである。本発明のPACが特許文献2のPACよりもさらに優れたファウリング抑制効果を示すメカニズムは定かではないが、本発明のPACによって形成されるフロックは粘着性が低いために、ろ過膜に付着し難く且つ容易に剥離し、これによってファウリング抑制効果が発揮される、と推察される。」
3 製造方法について
「【0033】
(製造方法)
本発明のPACの好適な製造方法の例は、以下に示す工程1~工程4を含むものである。
工程1:塩基度50%のPAC(SO4:0~3.0質量%)に、アルミン酸ソーダと水酸化ナトリウムの混合液をホモジナイザー撹拌下で添加してアルミナゲルを作製する。アルミナゲルの好適な組成は、Al2O3:10~11質量%、Cl:8~12質量%、SO4:0~3.0質量%であり、塩基度:60~65%である。
工程2:工程1で得られたアルミナゲルを加熱によって溶解させ、透明な溶液を得る。
工程3:工程2で得られた溶液に、アルミン酸ソーダと水酸化ナトリウムの混合液をホモジナイザー撹拌下で添加してアルミナゲルを作製する。
工程4:工程3で得られたアルミナゲルを加熱によって溶解させ、透明な溶液を得る。また、必要に応じて、常法により濃縮してもよいし、水を用いて希釈してもよい。当該溶液の好適な組成は、Al2O3:5~13質量%、Cl:3~16質量%、SO4/Al2O3(モル比):0~0.3、塩基度:70~80%である。
【0034】
工程1と3におけるアルミン酸ソーダと水酸化ナトリウムの混合液は、目的とする組成のアルミナゲルが得られるように作製したものを用いればよいが、いずれも好適な一例は、Na/Al(モル比)が1.7のアルミン酸ソーダに水酸化ナトリウムを添加して得られる混合液のNa/Al(モル比)が3.0のものである。
【0035】
工程2と4における加熱は、透明な溶液が得られるように適宜設定すればよいが、例えば、加熱温度は70~90℃が好ましい。加熱時間は、加熱温度に応じてアルミナゲルが溶解するまでの時間で適宜設定すればよく、例えば、1~8時間である。
【0036】
工程4で得られた溶液は、必要に応じてろ過操作により清澄化させることが好ましい。ろ過方法については特に制限は無く、例えば、フィルタープレス、ヌッチェろ過等から適宜選択することができる。」
4 実施例について
(1)要件1~3に関して
「【実施例】
【0037】
以下に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
実施例1~5において、アルミン酸ソーダとして、Na/Al(モル比)が1.7のものを用いた。
【0038】
〔実施例1〕
塩基度50%のPAC(SO4:0質量%)に、アルミン酸ソーダと水酸化ナトリウムの混合液(Na/Al(モル比)=3.0)をホモジナイザー撹拌下で添加してアルミナゲル(アルミナゲル1)を作製した。アルミナゲル1の組成は、Al2O3:10.95質量%、Cl:11.34質量%、SO4:0質量%であり、塩基度:64.95%であった。
次に、アルミナゲル1を丸底フラスコに投入し、マントルヒーター上にて透明な溶液が得られるまで加熱(70℃、3時間)した。
上記溶液に、アルミン酸ソーダと水酸化ナトリウムの混合液(Na/Al(モル比)=3.0)をホモジナイザー撹拌下で添加してアルミナゲル(アルミナゲル2)を作製した。
アルミナゲル2を別の丸底フラスコに投入し、マントルヒーター上にて透明な溶液が得られるまで加熱(70℃、3.5時間)して、高塩基性塩化アルミニウム溶液を得た。
得られた実施例1の高塩基性塩化アルミニウム溶液の組成は、Al2O3:10.25質量%、Cl:10.21質量%、SO4:0質量%(SO4/Al2O3(モル比)=0)であり、塩基度:74.0%であった。
【0039】
〔実施例2〕
塩基度50%のPAC(SO4:2.8質量%)に、アルミン酸ソーダと水酸化ナトリウムの混合液(Na/Al(モル比)=3.0)をホモジナイザー撹拌下で添加してアルミナゲル(アルミナゲル1)を作製した。アルミナゲル1の組成は、Al2O3:10.52質量%、Cl:8.67質量%、SO4:2.51質量%であり、塩基度:63.10%であった。
次に、アルミナゲル1を丸底フラスコに投入し、マントルヒーター上にて透明な溶液が得られるまで加熱(70℃、3時間)した。
上記溶液に、アルミン酸ソーダと水酸化ナトリウムの混合液(Na/Al(モル比)=3.0)をホモジナイザー撹拌下で添加してアルミナゲル(アルミナゲル2)を作製した。
アルミナゲル2を別の丸底フラスコに投入し、マントルヒーター上にて透明な溶液が得られるまで加熱(70℃、3.5時間)して、高塩基性塩化アルミニウム溶液を得た。
得られた実施例2の高塩基性塩化アルミニウム溶液の組成は、Al2O3:10.22質量%、Cl:7.98質量%、SO4:1.92質量%(SO4/Al2O 3(モル比)=0.20)であり、塩基度:74.3%であった。
【0040】
〔実施例3〕
塩基度50%のPAC(SO4:0質量%)に、アルミン酸ソーダと水酸化ナトリウムの混合液(Na/Al(モル比)=3.0)をホモジナイザー撹拌下で添加してアルミナゲル(アルミナゲル1)を作製した。アルミナゲル1の組成は、Al2O3:10.95質量%、Cl:11.34質量%、SO4:0質量%であり、塩基度:64.95%であった。
次に、アルミナゲル1を丸底フラスコに投入し、マントルヒーター上にて透明な溶液が得られるまで加熱(90℃、0.5時間)した。
上記溶液に、アルミン酸ソーダと水酸化ナトリウムの混合液(Na/Al(モル比)=3.0)をホモジナイザー撹拌下で添加してアルミナゲル(アルミナゲル2)を作製した。
アルミナゲル2を別の丸底フラスコに投入し、マントルヒーター上にて透明な溶液が得られるまで加熱(90℃、0.5時間)して、高塩基性塩化アルミニウム溶液を得た。 得られた実施例3の高塩基性塩化アルミニウム溶液の組成は、Al2O3:10.33質量%、Cl:10.09質量%、SO4:0質量%(SO4/Al2O3(モル比)=0)であり、塩基度:75.5%であった。
【0041】
〔実施例4〕
塩基度50%のPAC(SO4:0質量%)に、アルミン酸ソーダと水酸化ナトリウムの混合液(Na/Al(モル比)=3.0)をホモジナイザー撹拌下で添加してアルミナゲル(アルミナゲル1)を作製した。アルミナゲル1の組成は、Al2O3:10.95質量%、Cl:11.34質量%、SO4:0質量%であり、塩基度:64.95%であった。
次に、アルミナゲル1を丸底フラスコに投入し、マントルヒーター上にて透明な溶液が得られるまで加熱(70℃、3時間)した。
上記溶液に、アルミン酸ソーダと水酸化ナトリウムの混合液(Na/Al(モル比)=3.0)をホモジナイザー撹拌下で添加してアルミナゲル(アルミナゲル2)を作製した。
アルミナゲル2を別の丸底フラスコに投入し、マントルヒーター上にて透明な溶液が得られるまで加熱(70℃、3時間)して、高塩基性塩化アルミニウム溶液を得た。
得られた実施例4の高塩基性塩化アルミニウム溶液の組成は、Al2O3:10.30質量%、Cl:9.98質量%、SO4:0質量%(SO4/Al2O3(モル比)=0)であり、塩基度:76.6%であった。
【0042】
〔実施例5〕
塩基度50%のPAC(SO4:0質量%)に、アルミン酸ソーダと水酸化ナトリウムの混合液(Na/Al(モル比)=3.0)をホモジナイザー撹拌下で添加してアルミナゲル(アルミナゲル1)を作製した。アルミナゲル1の組成は、Al2O3:10.95質量%、Cl:11.34質量%、SO4:0質量%であり、塩基度:64.95%であった。
次に、アルミナゲル1を丸底フラスコに投入し、マントルヒーター上にて透明な溶液が得られるまで加熱(90℃、0.5時間)した。
上記溶液に、アルミン酸ソーダと水酸化ナトリウムの混合液(Na/Al(モル比)=3.0)をホモジナイザー撹拌下で添加してアルミナゲル(アルミナゲル2)を作製した。
アルミナゲル2を別の丸底フラスコに投入し、マントルヒーター上にて透明な溶液が得られるまで加熱(90℃、1時間)して、高塩基性塩化アルミニウム溶液を得た。
得られた実施例5の高塩基性塩化アルミニウム溶液の組成は、Al2O3:10.26質量%、Cl:9.75質量%、SO4:0質量%(SO4/Al2O3(モル比)=0)であり、塩基度:79.0%であった。
【0043】
〔参考例1〕
特許文献2の実施例1に従って、高塩基性塩化アルミニウム溶液を製造した。得られた参考例1の高塩基性塩化アルミニウム溶液の組成は、Al 2O 3:10.20質量%、Cl:7.09質量%、SO 4:2.74質量%(SO 4/Al 2O 3(モル比)=0.29)であり、塩基度:71.5%であった。
【0044】
<ろ過水アルミニウム濃度測定試験>
1Lの平底ガラスビーカー(内径10.5±0.5cm)に収容した1000mLの模擬被処理水Aに対し、0.02mol/L塩酸を添加し150rpmで1分間撹拌した後、Al2O3として3.0mgの注入量となるように実施例1の高塩基性塩化アルミニウム溶液を有姿で注入し、模擬被処理水Bを調製した。次に、模擬被処理水Bを150rpmで5分間撹拌した後、孔径0.1μmのセルロース混合エステルタイプメンブレンフィルター(東洋濾紙(株)製 品名「A010A」)でろ過した後、ろ過水中のアルミニウム濃度を測定した。
・・・
【0045】
実施例2~5及び参考例1の高塩基性塩化アルミニウム溶液、並びに市販の塩基度50%の水道用PAC(比較例1)についても同様にろ過水アルミニウム濃度測定試験に供し、ろ過水アルミニウム濃度を測定した。なお、試験中の模擬被処理水A及びBの水温は、いずれの試験においても20~21℃であった。結果を表1に示した。
【0046】
【表1】
[図:0001410194000009.jpg]
【0047】
表1より、実施例1~5の高塩基性塩化アルミニウム溶液は、参考例1の高塩基性塩化アルミニウム溶液よりもろ過水アルミニウム濃度が顕著に低いことが分かる。」
(2)要件4a、4b及び4cに関して
「【0048】
<アルミニウム種の解析>
前記フェロン法により、実施例1、実施例2及び参考例1の高塩基性塩化アルミニウム溶液を分析した。結果を表2に示した。
【0049】
【表2】
[図:0001410194000010.jpg]
【0050】
表2より、実施例1と2の高塩基性塩化アルミニウム溶液は、参考例1の高塩基性塩化アルミニウム溶液よりも、Alコロイドの存在割合が高く、Alモノマーの存在割合が低いことが分かる。
【0051】
< 27Al-NMR測定>
実施例1、3、4及び参考例1の高塩基性塩化アルミニウム溶液を有姿で 27Al-NMR測定に供した。測定条件を以下に示す。
・・・
【0052】
測定結果を図1~図4に示した。
図1は、実施例1の高塩基性塩化アルミニウム溶液の測定結果である。図1(a)はスペクトルの全体図であり、図1(b)は図1(a)のうちケミカルシフト-15ppm~15ppmの範囲を示した拡大図である。以下、図2~図4も図1と同様の形式で図示し、図2は実施例3の高塩基性塩化アルミニウム溶液、図3は実施例4の高塩基性塩化アルミニウム溶液、図4は参考例1の高塩基性塩化アルミニウム溶液の測定結果である。
【0053】
図1~図3より、特にそれぞれの拡大図より、実施例1、3及び4の高塩基性塩化アルミニウム溶液は、それぞれ2~20ppmの範囲内でのケミカルシフトにおいて、双峰性の形状を有することが分かる。そのピークの頂点は、それぞれ約4.5ppmと約11ppmである。なお、図示していないが、実施例2の高塩基性塩化アルミニウム溶液の測定結果も図1と同様のケミカルシフトを示した。
一方、図4より、参考例1の高塩基性塩化アルミニウム溶液は、約10.5ppmがショルダーピークであるため、双峰性の形状を有していないことが分かる。」
(3)効果の確認(膜ろ過試験)について
「【0054】
<膜ろ過試験>
試験装置の模式図を図5に示した。
【0055】
ろ過膜として、(株)クラレ製の外圧式中空糸MF膜(材質:PVDF、孔径:0.02μm、膜面積:0.01m2)を用いた。このろ過膜は、中空円柱状であり、ろ過膜外部の水をろ過膜でろ過し、中央の中空部でろ過水が得られる仕組みである。また、ろ過膜を収容するハウジングとして、(株)クラレ製の中空糸膜ラボハウジングLH-1(直径約2cm、長さ約30cm)を用いた。膜モジュールは、ろ過膜とそれを収容したハウジングで構成されたものである。
【0056】
膜ろ過試験における1サイクルは、(1)通水工程(20分間)→(2)逆洗工程(2分間)→(3)エアバブリング工程(2分間)→(4)排水工程(1分間)とした。
・・・
【0059】
(膜ろ過試験1)
試験水として、pH:7.67、濁度:1.3度、色度:6.2度、水温20℃の河川表流水を用いた。供試したのは、実施例1、実施例2及び参考例1の高塩基性塩化アルミニウム溶液である。
膜ろ過試験の実施に当たっては、最初に原水槽の試験水に対し、Al2O3として2.0mg/Lの注入量となるように高塩基性塩化アルミニウム溶液を有姿で注入し、硫酸又は水酸化ナトリウムで凝集pHが7.0となるように調整後、100rpmで3分間撹拌した。
次に、この凝集処理水を上記(1)~(4)を1サイクルとする膜ろ過処理に供し、12サイクル実施した。
【0060】
図6は、試験結果を相対ろ過速度で示したグラフである。図6では、通水工程のみをつなげて横軸の通水時間とした。また、J1MAXを1とした相対ろ過速度を5分間隔でプロットした。無注入区は、凝集剤を無注入とした区であり、原水槽の試験水のpHを7.0に調整後100rpmで3分間撹拌したものを膜ろ過処理に供したものである。
【0061】
図6から明らかなように、相対ろ過速度の大きさは、実施例1≒実施例2>参考例1>>無注入区であった。参考例1の高塩基性塩化アルミニウム溶液でも十分に大きな相対ろ過速度が得られていたことより、実施例1と実施例2の高塩基性塩化アルミニウム溶液は、参考例1の高塩基性塩化アルミニウム溶液よりもさらに優れたファウリング抑制効果を有することが分かった。
【0062】
(膜ろ過試験2)
試験水として、pH:8.31、濁度:4.1度、色度:4.8度、水温20℃の河川表流水を用いた。また、実施例4と参考例1の高塩基性塩化アルミニウム溶液を供試した以外は、膜ろ過試験1と同様に膜ろ過試験を実施した。
【0063】
図6と同様の表示形式で、試験結果を図7に示した。
図7から明らかなように、相対ろ過速度の大きさは、実施例4>参考例1>>無注入区であった。参考例1の高塩基性塩化アルミニウム溶液でも十分に大きな相対ろ過速度が得られていたことより、実施例4の高塩基性塩化アルミニウム溶液は、参考例1の高塩基性塩化アルミニウム溶液よりもさらに優れたファウリング抑制効果を有することが分かった。」
「【図6】
[図:0001410194000011.jpg]
【図7】
[図:0001410194000012.jpg]
」
第8 取消理由に対する判断
1 取消理由1(サポート要件)について
上記第2の1で記載したように、本件訂正により、請求項1が削除され、本件訂正前の請求項1を引用する請求項2の「高塩基性塩化アルミニウム溶液を含む膜ろ過用水処理凝集剤」における「高塩基性塩化アルミニウム溶液」が、要件1~3に加え、「コロイド状のアルミニウム種の存在割合が65~95%の範囲のもの」という要件4a、「Alモノマーの存在割合が1~20%の範囲のもの」という要件4b、及び「27Al-NMR測定によって得られるスペクトルが、ケミカルシフト2~20ppmの範囲内において、2つのピークを有する双峰性の形状を示し、当該2つのピークのピークトップ位置がケミカルシフト4.5±1ppmと11±1ppmのもの」という要件4cを満たすことが特定されたことから、本件発明2及びそれを引用する本件発明3は、本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとなった。
よって、取消理由1によって、本件発明2及び3に係る特許を、取り消すことはできない。
2 取消理由2(新規性)及び取消理由3(進歩性)について
(1)田甲6を主とした場合
ア 本件発明2について
(ア)対比
a 田甲6発明の「塩基度が71%」は、本件発明2の「塩基度が、70~80%の範囲」を満たし、田甲6発明の「硫酸根含有量/アルミナ(重量比)が0.0001未満」は、重量比であるものの十分に0に近いことから、本件発明2の「SO4/Al2O3(モル比)が、0~0.30の範囲」を満たす。
そして、田甲6発明の「塩基性塩化アルミニウム溶液にアルミナゲルを添加した浄水用凝集剤」は、本件発明2の「高塩基性塩化アルミニウム溶液を含む水処理凝集剤」に相当する。
b そうすると、本件発明2と田甲6発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
(一致点)
「下記要件1及び2を満たす高塩基性塩化アルミニウム溶液を含む水処理凝集剤。
要件1:当該高塩基性塩化アルミニウム溶液の塩基度が、70~80%の範囲である。
要件2:当該高塩基性塩化アルミニウム溶液中のSO4/Al2O3(モル比)が、0~0.30の範囲である。」
(相違点1)
水処理凝集剤が、本件発明2では、「膜ろ過用」であるのに対し、田甲6発明では、膜ろ過用であるとは特定されていない点。
(相違点2)
水処理凝集剤が含む高塩基性塩化アルミニウム溶液が、本件発明2では、要件1及び要件2に加えて、
「要件3:当該高塩基性塩化アルミニウム溶液を下記ろ過水アルミニウム濃度測定試験に供してろ過水中のアルミニウム濃度を測定したときに、当該アルミニウム濃度が0.40mg/L以下である。
〔ろ過水アルミニウム濃度測定試験〕
1Lの平底ガラスビーカー(内径10.5±0.5cm)に収容した1000mLの模擬被処理水Aに対し、0.02mol/L塩酸を添加し150rpmで1分間撹拌した後、Al2O3として3.0mgの注入量となるように上記高塩基性塩化アルミニウム溶液を有姿で注入し、模擬被処理水Bを調製する。次に、模擬被処理水Bを150rpmで5分間撹拌した後、孔径0.1μmのセルロース混合エステルタイプメンブレンフィルター(東洋濾紙(株)製 品名「A010A」)でろ過した後、ろ過水中のアルミニウム濃度を測定する。
ここで、模擬被処理水Aは以下(1)~(6)を混合することによって作製したものである。
(1)蒸留水:10L
(2)関東化学(株)製カオリン(試薬):0.075g
(3)富士フイルム和光純薬(株)製フミン酸(化学用)を蒸留水に1mg/mLとなるように添加して調製した液:10mL
(4)キシダ化学(株)製炭酸水素ナトリウム(試薬特級)を蒸留水に50mg/mLとなるように添加して調製した液:15mL
(5)富士フイルム和光純薬(株)製アルギン酸ナトリウム80~120(和光一級)を蒸留水に1mg/mLとなるように添加して調製した液:30mL
(6)キシダ化学(株)製塩化カルシウム二水和物(試薬特級)を蒸留水に20mg/mLとなるように添加して調製した液:36mL
またここで、上記0.02mol/L塩酸の添加量は、調製された模擬被処理水BのpHが7.95±0.10となる添加量とする。
またここで、上記いずれの撹拌もフラットパドル(2枚型。1枚のパドルの大きさは縦25mm×横24mm。パドルの下端は上記平底ガラスビーカーの内側底面から鉛直上方向に5mmの位置に設定)を用いて撹拌する。
要件4a:当該高塩基性塩化アルミニウム溶液中のコロイド状のアルミニウム種の存在割合が、65~85%の範囲のものである。
要件4b:当該高塩基性塩化アルミニウム溶液中のモノマー状のアルミニウム種の存在割合が、1~20%の範囲のものである。
要件4c:当該高塩基性塩化アルミニウム溶液中の27Al-NMR測定によって得られるスペクトルが、ケミカルシフト2~20ppmの範囲内において、2つのピークを有する双峰性の形状を示し、当該2つのピークのピークトップ位置がケミカルシフト4.5±1ppmと11±1ppmのものである。」との「要件3、4a、4b及び4cを満たす」ものであるのに対し、
田甲6発明では、塩基性塩化アルミニウム溶液が「要件3、4a、4b及び4cを満たす」ものであるとは特定されていない点。
(イ)相違点の判断
事案に鑑み相違点2について検討するに、田甲6発明の塩基性塩化アルミニウム溶液について、「要件3、4a、4b及び4c」のうち「要件4a、4b及び4c」について検討する。
a 要件4a、4b及び4cについて
上記第7の4(2)で摘記したとおり、本件明細書の実施例には、要件1~3に加え、要件4a、4b及び4cを満たすものとして実施例1及び2が記載されており、実施例1及び2を含む膜ろ過試験の結果については、同(3)に摘記されている。
これらの記載によれば、要件1~3に加え、要件4a、4b及び4cを満たすことにより、優れたファウリング抑制効果が達成できるものといえる。
b 田甲9~11について
一方、要件4a、要件4b、要件4cに関連のある文献として、申立人田上は、田上意見書において上記第6の2で摘記した田甲9~11を提示しており、それらには以下の技術的事項が記載されている。
(a)田甲9について
上記第6の2(1)で摘記した(田甲9ア)に記載されているように、高塩基性塩化アルミニウム溶液(HPA)を含む凝集剤において、アルミニウムの存在形態は大きく異なるものであり、(田甲9ウ)の図-3に記載の凝集剤「HPA1」と凝集剤「HPA2」の「Al colloid」(コロイド状のアルミニウム種)の存在割合及び「Al monomer」(モノマー状のアルミニウム種)の存在割合を看取すると、「HPA2」では前者が約85%で後者が約10%であるのに対し、「HPA1」では前者が約20%で後者が約15%である。そして、(田甲9ウ)の図-7に記載の27Al-NMR測定によって得られるスペクトル(ケミカルシフト)を参照すると、凝集剤「HPA2」では、10~12ppmにピークがあるが、4.5±1ppmの位置にはピークがなく、また、凝集剤「HPA1」では、4.5±1ppmと11±1ppmともピークがない。そうすると、高塩基性塩化アルミニウム溶液におけるアルミニウムの存在形態(コロイド状のアルミニウム種、モノマー状のアルミニウム種の存在割合)によって、27Al-NMR測定によって得られるスペクトル(ケミカルシフト)におけるピークの出方は異なってくるものといえる。そして、凝集剤「HPA2」は、要件4a及び要件4bを満たすものの、要件cを満たさず、凝集剤「HPA1」は、要件4a、4b及び4cのすべてを満たさない。
したがって、田甲9には、そもそも、要件4a、4b及び4cを満たす高塩基性塩化アルミニウム溶液を含む凝集剤は記載されておらず、そして、(田甲9イ)に、塩基度が高く、硫酸を含まない疑集剤を凝集沈澱処理に用いることにより、高いウイルスの処理性が得られることが記載されているものの、ファウリング抑制効果については記載されていない。
(b)田甲10について
上記第6の2(2)で摘記した田甲10の表1には、「Ala」(モノマー状のアルミニウム種)と「Alc」(コロイド状のアルミニウム種)の存在割合について、4.7%と16.5%である凝集剤「PACAl13」、2.7%と74.3%である凝集剤「PACAl30」が記載されているものの、これらの27Al-NMR測定によって得られるスペクトル(ケミカルシフト)については記載されていない。
そうすると、田甲10には、そもそも、要件4a、4b及び4cを満たす高塩基性塩化アルミニウム溶液を含む凝集剤は記載されていないし、ファウリング抑制効果に関する記載もない。
(c)田甲11について
上記第6の2(3)で摘記した田甲11の表2と図2をあわせみると、表2での「Ala」(モノマー状のアルミニウム種)と「Alc」(コロイド状のアルミニウム種)の存在割合が、2.8%と11.8%であるHPAC2.4-0.1、9.07%と12.47%であるHPAC2.4-0.2、13.50%と29.50%であるHPAC2.4-0.5、11.24%と37.64%であるHPAC2.4-0.75、11.60%と73.60%であるHPAC2.4-1.0、について、27Al-NMR測定によって得られるスペクトル(ケミカルシフト)が記載されている図2を参照すると、(モノマー状のアルミニウム種)と「Alc」(コロイド状のアルミニウム種)の存在割合によって、ピークの出方が異なっていることが理解できる。ここで、「HPAC」とは高塩基性(H)の塩化アルミニウム溶液(PAC)のことであるから、高塩基性塩化アルミニウム溶液において、コロイド状のアルミニウム種、モノマー状のアルミニウム種の存在割合によって、ピークの出方が異なってくるものといえる。
また、「HPAC2.4-1.0」は、「Ala」が11.60%で「Alc」が73.60%であるから要件4a及び4bを満たすことになり、そして、「HPAC2.4-1.0」について図2を参照すると(図2における「5」のスペクトル)、一応、2~20ppmの範囲内において4.5±1ppmと11±1ppmの2つのピークがあると看取できる。そうすると、要件4cである「高塩基性塩化アルミニウム溶液中の27Al-NMR測定によって得られるスペクトルが、ケミカルシフト2~20ppmの範囲内において、2つのピークを有する双峰性の形状を示し、当該2つのピークのピークトップ位置がケミカルシフト4.5±1ppmと11±1ppmのものである。」との要件を満たしているといえる。
よって、田甲11には、「HPAC2.4-1.0」として、要件4a、4b及び4cを満たす高塩基性塩化アルミニウム溶液が一応記載されているといえるものの、それらとファウリング抑制効果との関係については一切記載されていない。
(d)以上(a)~(c)についてまとめると、高塩基性塩化アルミニウム溶液又は高塩基性塩化アルミニウム溶液を含む凝集剤には、モノマー状のアルミニウム種とコロイド状のアルミニウム種の存在割合として様々なものがあり、特にファウリング抑制効果との関係において、「コロイド状のアルミニウム種の存在割合が、65~85%の範囲のもの」及び「モノマー状のアルミニウム種の存在割合が、1~20%の範囲のもの」選択するとの技術思想はない。
さらに、モノマー状のアルミニウム種とコロイド状のアルミニウム種の存在割合によって、高塩基性塩化アルミニウム溶液中の27Al-NMR測定によって得られるスペクトル(ケミカルシフト)の状態は異なってくるものであり、高塩基性塩化アルミニウム溶液だからといって「27Al-NMR測定によって得られるスペクトルが、ケミカルシフト2~20ppmの範囲内において、2つのピークを有する双峰性の形状を示し、当該2つのピークのピークトップ位置がケミカルシフト4.5±1ppmと11±1ppmのものである」との要件を満たすことにはならない。ましてや、ファウリング抑制効果との関係において、27Al-NMR測定によって得られるスペクトルを「ケミカルシフト2~20ppmの範囲内において、2つのピークを有する双峰性の形状を示し、当該2つのピークのピークトップ位置がケミカルシフト4.5±1ppmと11±1ppmのもの」とする技術思想はない。
c ここで、田甲6発明は、上記(田甲6イ)の【0006】に「従来のPACと同等の凝集性能と保存安定性を維持しながら、処理後の浄水中の残存Al濃度を低減し得ることを見出し本発明を完成するに至った。」、同【0012】に「アルミナ含有量が約25重量%より高い場合、保存安定性が低下する場合がある。アルミナ含有量が約8重量%より低い場合、保存安定性が低下することはないが同等の凝集性を得るために添加量を多くする必要があり、また、浄水施設等までの輸送コスト、貯蔵コストが高くなる傾向にある。」と記載されているとおり、処理後の浄水中の残存Al濃度を低減させようとしつつも、凝集性能と保存安定性は維持するということを目的としており、上記aで述べたように、優れたファウリング抑制効果の達成を念頭においたものではない。
そうすると、田甲6発明には、そもそも、ファウリング抑制効果を向上させる動機はなく、田甲11に要件4a、4b及び4cを満たす高塩基性塩化アルミニウム溶液が一応記載されているといえるとしても、その甲11を含め甲9~11には、高塩基性塩化アルミニウム溶液において、ファウリング抑制効果を向上させるために「コロイド状のアルミニウム種の存在割合が、65~85%の範囲」、「モノマー状のアルミニウム種の存在割合が、1~20%の範囲」及び「ケミカルシフト2~20ppmの範囲内において、2つのピークを有する双峰性の形状を示し、当該2つのピークのピークトップ位置がケミカルシフト4.5±1ppmと11±1ppm」とすることが記載されていないのであるから、田甲6発明に、ファウリング抑制効果を向上させるために田甲9~11に記載されている事項を適用することもない。
したがって、田甲6発明の塩基性塩化アルミニウム溶液において、甲9~11の記載に鑑みても、「要件4a、4b及び4c」を満たすものとすることは当業者が容易になし得たことではない。そして、「要件4a、4b及び4c」を含む「要件3、4a、4b及び4cを満たす」ものであるとの相違点2は、当業者が容易になし得たことではない。
d また、上記第6で摘記したように、その余の田甲1~5、7及び8、参考資料1、田周1及び2、並びに山甲1~4には、「要件3、4a、4b及び4cを満たす」高塩基性塩化アルミニウム溶液が記載されていないことから、これらの記載からも相違点2は当業者が容易になし得たこととはいえない。
(ウ)小括
よって、本件発明2は、田甲6発明ではなく、田甲6発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
イ 本件発明3について
本件発明3は、本件発明2を引用してさらに限定した発明であるから、本件発明3も、田甲6発明ではなく、田甲6発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(2)田甲7を主とした場合
ア 本件発明2について
(ア)対比
a 田甲7発明の「塩基度は73.0%」は、本件発明2の「塩基度が、70~80%の範囲」を満たし、田甲7発明の「SO4/Al2O3(モル比)=0.17」は、本件発明2の「SO4/Al2O3(モル比)が、0~0.30の範囲」を満たす。
b 田甲7発明の「27Al-NMRスペクトルにおいてケミカルシフトが0ppm、3-5ppm、6-14ppm、50-65ppmにピークを有する」ことにおいて、「6-14ppm」「にピークを有する」ことは、「6-14」のどこにピークトップ位置があるか不明である(田甲7には27Al-NMRスペクトルの具体的なスペクトル状態図が記載されていない)から、「ピークトップ位置がケミカルシフト」「11±1ppmのもの」であるとはいえない。
そうすると、田甲7発明の「27Al-NMRスペクトルにおいてケミカルシフトが0ppm、3-5ppm、6-14ppm、50-65ppmにピークを有する」「塩基性塩化アルミニウム溶液」は、本件発明2の「当該高塩基性塩化アルミニウム溶液中の27Al-NMR測定によって得られるスペクトルが、ケミカルシフト2~20ppmの範囲内において、2つのピークを有する双峰性の形状を示し、当該2つのピークのピークトップ位置がケミカルシフト4.5±1ppmと11±1ppmのものである。」との「要件4c」を満たすものとはいえない。
c 田甲7発明の「塩基性塩化アルミニウム溶液」が「使用」される「水処理用凝集剤」は、本件発明2の「高塩基性塩化アルミニウム溶液を含む水処理凝集剤」に相当する。
d そうすると、本件発明2と田甲7発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
(一致点)
「下記要件1及び2を満たす高塩基性塩化アルミニウム溶液を含む水処理凝集剤。
要件1:当該高塩基性塩化アルミニウム溶液の塩基度が、70~80%の範囲である。
要件2:当該高塩基性塩化アルミニウム溶液中のSO4/Al2O3(モル比)が、0~0.30の範囲である。」
(相違点3)
水処理凝集剤が、本件発明2では、「膜ろ過用」であるのに対し、田甲7発明は、膜ろ過用であるとは特定されていない点。
(相違点4)
水処理凝集剤が含む高塩基性塩化アルミニウム溶液が、本件発明2では、要件1及び要件2に加えて、
「要件3:当該高塩基性塩化アルミニウム溶液を下記ろ過水アルミニウム濃度測定試験に供してろ過水中のアルミニウム濃度を測定したときに、当該アルミニウム濃度が0.40mg/L以下である。
〔ろ過水アルミニウム濃度測定試験〕
1Lの平底ガラスビーカー(内径10.5±0.5cm)に収容した1000mLの模擬被処理水Aに対し、0.02mol/L塩酸を添加し150rpmで1分間撹拌した後、Al2O3として3.0mgの注入量となるように上記高塩基性塩化アルミニウム溶液を有姿で注入し、模擬被処理水Bを調製する。次に、模擬被処理水Bを150rpmで5分間撹拌した後、孔径0.1μmのセルロース混合エステルタイプメンブレンフィルター(東洋濾紙(株)製 品名「A010A」)でろ過した後、ろ過水中のアルミニウム濃度を測定する。
ここで、模擬被処理水Aは以下(1)~(6)を混合することによって作製したものである。
(1)蒸留水:10L
(2)関東化学(株)製カオリン(試薬):0.075g
(3)富士フイルム和光純薬(株)製フミン酸(化学用)を蒸留水に1mg/mLとなるように添加して調製した液:10mL
(4)キシダ化学(株)製炭酸水素ナトリウム(試薬特級)を蒸留水に50mg/mLとなるように添加して調製した液:15mL
(5)富士フイルム和光純薬(株)製アルギン酸ナトリウム80~120(和光一級)を蒸留水に1mg/mLとなるように添加して調製した液:30mL
(6)キシダ化学(株)製塩化カルシウム二水和物(試薬特級)を蒸留水に20mg/mLとなるように添加して調製した液:36mL
またここで、上記0.02mol/L塩酸の添加量は、調製された模擬被処理水BのpHが7.95±0.10となる添加量とする。
またここで、上記いずれの撹拌もフラットパドル(2枚型。1枚のパドルの大きさは縦25mm×横24mm。パドルの下端は上記平底ガラスビーカーの内側底面から鉛直上方向に5mmの位置に設定)を用いて撹拌する。
要件4a:当該高塩基性塩化アルミニウム溶液中のコロイド状のアルミニウム種の存在割合が、65~85%の範囲のものである。
要件4b:当該高塩基性塩化アルミニウム溶液中のモノマー状のアルミニウム種の存在割合が、1~20%の範囲のものである。
要件4c:当該高塩基性塩化アルミニウム溶液中の27Al-NMR測定によって得られるスペクトルが、ケミカルシフト2~20ppmの範囲内において、2つのピークを有する双峰性の形状を示し、当該2つのピークのピークトップ位置がケミカルシフト4.5±1ppmと11±1ppmのものである。」との「要件3、4a、4b及び4cを満たす」ものであるのに対し、
田甲7発明では、塩基性塩化アルミニウム溶液が「要件3、4a、4b及び4cを満たす」ものであるとは特定されていない点。
(イ)相違点の判断
事案に鑑み相違点4について検討するに、相違点4は、上記(1)ア(ア)bで記載した相違点2と同じである。また、相違点4について判断するにあたり、「要件4a、4b及び4cについて」及び「田甲9~11について」は、上記(1)ア(イ)a及びbで述べたとおりである。そして、それらを踏まえて相違点4について判断すると、以下とおりである。
a 田甲7発明は、上記(田甲7ア)の【0009】に「上述のように、塩基性塩化アルミニウムは各種の技術改良が試みられ、凝集性能の改善、貯蔵安定性の向上あるいは残留アルミニウム濃度の低減などの技術改良は成されてきたが、塩基性塩化アルミニウムの有機物除去性能を向上させる技術は無かった。」と記載され、同【0010】に「このように、今後規制の強化が予想され、また浄水処理においてはカビ臭や味などの観点から消費者から嫌われている原水に含有される有機物の除去は、従来から塩基性塩化アルミニウムに強く要望されていながら、これまで有効な解決方法を見出せない状況にあった。」と記載されているとおり、原水に含有される有機物を除去する目的としており、上記aで述べたように、優れたファウリング抑制効果の達成を念頭においたものではない。
そうすると、田甲7発明には、そもそも、ファウリング抑制効果を向上させる動機はなく、上記(1)ア(イ)cで述べたように、田甲11に要件4a、4b及び4cを満たす高塩基性塩化アルミニウム溶液が一応記載されているといえるとしても、その甲11を含め甲9~11には、高塩基性塩化アルミニウム溶液において、ファウリング抑制効果を向上させるために高塩基性塩化アルミニウム溶液において「コロイド状のアルミニウム種の存在割合が、65~85%の範囲」、「モノマー状のアルミニウム種の存在割合が、1~20%の範囲」及び「ケミカルシフト2~20ppmの範囲内において、2つのピークを有する双峰性の形状を示し、当該2つのピークのピークトップ位置がケミカルシフト4.5±1ppmと11±1ppm」とすることが記載されていないのであるから、田甲7発明に、ファウリング抑制効果を向上させるために田甲9~11に記載されている事項を適用することもない。
したがって、田甲7発明の塩基性塩化アルミニウム溶液において、甲9~11の記載に鑑みても、「要件4a、4b及び4c」を満たすものとすることは当業者が容易になし得たことではない。そして、「要件4a、4b及び4c」を含む「要件3、4a、4b及び4cを満たす」ものであるとの相違点4は、当業者が容易になし得たことではない。
b また、上記第6で摘記したように、その余の田甲1~6及び8、参考資料1、田周1及び2、並びに山甲1~4には、「要件3、4a、4b及び4cを満たす」高塩基性塩化アルミニウム溶液が記載されていないことから、これらの記載からも相違点4は当業者が容易になし得たこととはいえない。
(ウ)小括
よって、本件発明2は、田甲7発明ではなく、田甲7発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
イ 本件発明3について
本件発明3は、本件発明2を引用してさらに限定した発明であるから、本件発明3も、田甲7発明ではなく、田甲7発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3)田甲8を主とした場合
ア 本件発明2について
(ア)対比
a 田甲8発明の「塩基度が70.5%」は、本件発明2の「塩基度が、70~80%の範囲」を満たし、田甲8発明の「アルミニウム溶液のAl2O3換算濃度は10.0質量%、SO4濃度は1.48質量%」は、SO4/Al2O3(重量比)で0.148で、SO4/Al2O3(モル比)に換算すると約0.16であるから、本件発明2の「SO4/Al2O3(モル比)が、0~0.30の範囲」を満たす。
そして、田甲8発明の「高塩基性塩化アルミニウム溶液」が「利用される」「水処理用の凝集剤」は、本件発明2の「高塩基性塩化アルミニウム溶液を含む水処理凝集剤」に相当する。
b そうすると、本件発明2と田甲8発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
(一致点)
「下記要件1及び2を満たす高塩基性塩化アルミニウム溶液を含む水処理凝集剤。
要件1:当該高塩基性塩化アルミニウム溶液の塩基度が、70~80%の範囲である。
要件2:当該高塩基性塩化アルミニウム溶液中のSO4/Al2O3(モル比)が、0~0.30の範囲である。」
(相違点5)
水処理凝集剤が、本件発明2では、「膜ろ過用」であるのに対し、田甲8発明は、膜ろ過用であるとは特定されていない点。
(相違点6)
水処理凝集剤が含む高塩基性塩化アルミニウム溶液が、本件発明2では、要件1及び要件2に加えて、
「要件3:当該高塩基性塩化アルミニウム溶液を下記ろ過水アルミニウム濃度測定試験に供してろ過水中のアルミニウム濃度を測定したときに、当該アルミニウム濃度が0.40mg/L以下である。
〔ろ過水アルミニウム濃度測定試験〕
1Lの平底ガラスビーカー(内径10.5±0.5cm)に収容した1000mLの模擬被処理水Aに対し、0.02mol/L塩酸を添加し150rpmで1分間撹拌した後、Al2O3として3.0mgの注入量となるように上記高塩基性塩化アルミニウム溶液を有姿で注入し、模擬被処理水Bを調製する。次に、模擬被処理水Bを150rpmで5分間撹拌した後、孔径0.1μmのセルロース混合エステルタイプメンブレンフィルター(東洋濾紙(株)製 品名「A010A」)でろ過した後、ろ過水中のアルミニウム濃度を測定する。
ここで、模擬被処理水Aは以下(1)~(6)を混合することによって作製したものである。
(1)蒸留水:10L
(2)関東化学(株)製カオリン(試薬):0.075g
(3)富士フイルム和光純薬(株)製フミン酸(化学用)を蒸留水に1mg/mLとなるように添加して調製した液:10mL
(4)キシダ化学(株)製炭酸水素ナトリウム(試薬特級)を蒸留水に50mg/mLとなるように添加して調製した液:15mL
(5)富士フイルム和光純薬(株)製アルギン酸ナトリウム80~120(和光一級)を蒸留水に1mg/mLとなるように添加して調製した液:30mL
(6)キシダ化学(株)製塩化カルシウム二水和物(試薬特級)を蒸留水に20mg/mLとなるように添加して調製した液:36mL
またここで、上記0.02mol/L塩酸の添加量は、調製された模擬被処理水BのpHが7.95±0.10となる添加量とする。
またここで、上記いずれの撹拌もフラットパドル(2枚型。1枚のパドルの大きさは縦25mm×横24mm。パドルの下端は上記平底ガラスビーカーの内側底面から鉛直上方向に5mmの位置に設定)を用いて撹拌する。
要件4a:当該高塩基性塩化アルミニウム溶液中のコロイド状のアルミニウム種の存在割合が、65~85%の範囲のものである。
要件4b:当該高塩基性塩化アルミニウム溶液中のモノマー状のアルミニウム種の存在割合が、1~20%の範囲のものである。
要件4c:当該高塩基性塩化アルミニウム溶液中の27Al-NMR測定によって得られるスペクトルが、ケミカルシフト2~20ppmの範囲内において、2つのピークを有する双峰性の形状を示し、当該2つのピークのピークトップ位置がケミカルシフト4.5±1ppmと11±1ppmのものである。」との「要件3、4a、4b及び4cを満たす」ものであるのに対し、
田甲8発明では、塩基性塩化アルミニウム溶液が「要件3、4a、4b及び4cを満たす」ものであるとは特定されていない点。
(イ)相違点の判断
事案に鑑み相違点6について検討するに、相違点6は、上記(1)ア(ア)bで記載した相違点2と同じである。また、相違点6について判断するにあたり、「要件4a、4b及び4cについて」及び「田甲9~11について」は、上記(1)ア(イ)a及びbで述べたとおりである。そして、それらを踏まえて相違点6について判断すると、以下とおりである。
a 田甲8発明は、上記(田甲8ア)の【0001】に「本発明は、水処理用の凝集剤等に利用される硫酸イオン含有塩基性塩化アルミニウムの製造方法に関するものであり、より詳しくは、従来の方法よりも工程数や製造時間を削減できて製造効率を向上しながらも、塩基度が高く凝集性能が高い硫酸イオン含有高塩基性塩化アルミニウムを製造する方法に関するものである。」と記載され、同【0009】に「従って、本発明の目的は、塩基度が70%を超えるような凝集力が高い高塩基度の塩基性塩化アルミニウム(硫酸イオンを含む硫酸イオン含有高塩基性塩化アルミニウム)を、より工程数や製造時間を抑えた簡便な方法で、安価に大量生産できる製造方法を提供することである。」と記載されているとおり、凝集力が高い高塩基度の塩基性塩化アルミニウムを、より工程数や製造時間を抑えた簡便な方法で、安価に大量生産できる製造方法を提供することを目的としたものであり、上記aで述べたように、優れたファウリング抑制効果の達成を念頭においたものではない。
そうすると、田甲8発明には、そもそも、ファウリング抑制効果を向上させる動機はなく、上記(1)ア(イ)cで述べたように、田甲11に要件4a、4b及び4cを満たす高塩基性塩化アルミニウム溶液が一応記載されているといえるとしても、その甲11を含め甲9~11には、高塩基性塩化アルミニウム溶液において、ファウリング抑制効果を向上させるために「コロイド状のアルミニウム種の存在割合が、65~85%の範囲」、「モノマー状のアルミニウム種の存在割合が、1~20%の範囲」及び「ケミカルシフト2~20ppmの範囲内において、2つのピークを有する双峰性の形状を示し、当該2つのピークのピークトップ位置がケミカルシフト4.5±1ppmと11±1ppm」とすることが記載されていないのであるから、田甲7発明に、ファウリング抑制効果を向上させるために田甲9~11に記載されている事項を適用することもない。
したがって、田甲8発明の塩基性塩化アルミニウム溶液において、甲9~11の記載に鑑みても、「要件4a、4b及び4c」を満たすものとすることは当業者が容易になし得たことではない。そして、「要件4a、4b及び4c」を含む「要件3、4a、4b及び4cを満たす」ものであるとの相違点6は、当業者が容易になし得たことではない。
b また、上記第6で摘記したように、その余の田甲1~7、参考資料1、田周1及び2、並びに山甲1~4には、「要件3、4a、4b及び4cを満たす」高塩基性塩化アルミニウム溶液が記載されていないことから、これらの記載からも相違点6は当業者が容易になし得たこととはいえない。
(ウ)小括
よって、本件発明2は、田甲8発明ではなく、田甲8発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
イ 本件発明3について
本件発明3は、本件発明2を引用してさらに限定した発明であるから、本件発明3も、田甲8発明ではなく、田甲8発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(4)取消理由2のまとめ
以上のことから、本件発明2及び3は、田甲6発明、田甲7発明又は田甲8発明ではなく、田甲6発明、田甲7発明又は田甲8発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもないことから、取消理由1によって、本件発明2及び3に係る特許を、取り消すことはできない。
第9 取消理由で採用しなかった申立理由についての判断
1 新規性・進歩性について
(1)田上申立理由1について
申立人田上が提示した田甲1~8のうち、田甲6~8の各発明を主とした場合の本件発明2及び3に対する新規性・進歩性については、すでに第8の2において判断していることから、ここでは、上記第6の3で摘記した田甲1~5を主とした場合の本件発明2及び3に対する新規性・進歩性について述べることとする。
ア 本件発明2について
(ア)上記第6の3で摘記したように、田甲1~5には、本件発明2で特定される「要件3」、「要件4a」及び「要件4b」を満たす高塩基性塩化アルミニウム溶液について記載されていないことから、本件発明2と田甲1~5に記載された各発明とは、少なくとも「要件3」、「要件4a」及び「要件4b」が、一応、相違点といえる。
特に、「要件3」について、第5の2で述べたように、田甲6~8の各々においては、追加実験の結果を踏まえて要件3を満たしていることを主張しているのに対し、田甲1~5については、要件3の〔ろ過水アルミニウム濃度測定試験〕についての追加実験の結果が示されていないことから、甲1~5に記載された各発明において要件3を満たすとはいえないところである。そこで、要件3について検討する。
(イ)要件3について
a 本件明細書には、上記第7の4(1)で摘記したとおり(特に【表1】参照)、実施例として、要件3を満たす実施例1~5が記載されており、同(3)で摘記したとおり、その実施例1、2及び4についての膜ろ過試験の結果について記載されている。
要件3のアルミニウム濃度が記載されている【表1】と、膜ろ過試験の結果である【図6】及び【図7】とをあわせ見ると、要件3を満たす実施例1、2及び4について、通水時間が長くなっても相対ろ過速度が下がらず、優れたファウリング抑制効果が発揮されているのに対し、要件3を満たさない参考例1及び比較例1では、通水時間の経過とともに相対ろ過速度が下がってきており、ファウリングが抑制されていないことが理解できる。
すなわち、要件3を満たすことは、優れたファウリング抑制効果が達成できる点において肝要なことといえる。
b 一方、田甲1~5においては、要件3を満たすことで優れたファウリング抑制効果が達成できるという技術思想について記載されておらず、当該技術思想は、第6で記載したとおり、その余の田甲6~11、参考資料1及び山甲1~4にも記載されてないものである。
そうすると、田甲1~5に記載された各発明における高塩基性塩化アルミニウム溶液を、優れたファウリング抑制効果をもたらすために、要件3を満たすようにすることの動機があるとはいえない。
よって、「要件4a」及び「要件4b」について検討するまでもなく、本件発明2は、田甲1~5に記載された各発明でもなく、田甲1~5に記載された各発明に基づいて当業者が容易になし得たことともいえない。
(ウ)小括
したがって、本件発明2は、甲1~5に記載された各発明ではなく、甲1~5に記載された各発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
イ 本件発明3について
本件発明3は、本件発明2を引用してさらに限定した発明であるから、本件発明3も、甲1~5に記載された各発明ではなく、甲1~5に記載された各発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
ウ 田上申立理由1のまとめ
以上のことから、本件発明2及び3は、甲1~5に記載された各発明ではなく、甲1~5に記載された各発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもないことから、田上申立理由1によって、本件発明2及び3に係る特許を、取り消すことはできない。
(2)山上申立理由1について
ア 本件発明2について
(ア)上記第6の3で摘記したように、山甲1~3には、本件発明2で特定される「要件3」、「要件4a」及び「要件4b」を満たす高塩基性塩化アルミニウム溶液」について記載されていないことから、本件発明2と山甲1~3に記載された各発明とは、少なくとも「要件3」、「要件4a」及び「要件4b」が、一応、相違点といえる。
特に、「要件3」について、申立人田上は、田甲6~8の各々において追加実験の結果を踏まえて要件3を満たしていることを主張しているのに対し、申立人山上は、山甲1~3について、要件3の〔ろ過水アルミニウム濃度測定試験〕についての追加実験をしたうえで甲1~3に記載された各発明において要件3を満たすことを主張していないことから、山甲1~3に記載された各発明において要件3を満たすとはいえないところである。そこで、要件3について検討する。
(イ)要件3についての判断
a 上記(1)ア(イ)で述べたとおり、本件明細書の実施例を参照するに、要件3を満たすことは、優れたファウリング抑制効果が達成できる点において肝要なことである。
b 一方、山甲1~3においては、要件3を満たすことで優れたファウリング抑制効果が達成できるという技術思想について記載されておらず、当該技術思想は、第6で記載したとおり、その余の田甲1~11、参考資料1及び山甲4にも記載されてないものである。
そうすると、山甲1~3に記載された各発明における高塩基性塩化アルミニウム溶液を、優れたファウリング抑制効果をもたらすために、要件3を満たすようにすることの動機があるとはいえない。
よって、「要件4a」及び「要件4b」について検討するまでもなく、本件発明2は、山甲1~3に記載された各発明でもなく、山甲1~3に記載された各発明及び山甲4に記載された事項に基づいて当業者が容易になし得たことともいえない。
(ウ)小括
したがって、本件発明2は、山甲1~3に記載された各発明ではなく、山甲1~3に記載された各発明及び山甲4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
イ 本件発明3について
本件発明3は、本件発明2を引用してさらに限定した発明であるから、本件発明3も、山甲1~3に記載された各発明ではなく、山甲1~3に記載された各発明及び山甲4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
ウ 山上申立理由1のまとめ
以上のことから、本件発明2及び3は、山甲1~3に記載された各発明ではなく、山甲1~3に記載された各発明及び山甲4に記載された事項に基づいてに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもないことから、山上申立理由1によって、本件発明2及び3に係る特許を、取り消すことはできない。
2 明確性について
(1)判断手法
特許請求の範囲の記載が、明確性要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載だけでなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
(2)田上申立理由2について
要件3は、本件発明2において「下記要件」「3」「を満たす高塩基性塩化アルミニウム溶液を含む膜ろ過用水処理凝集剤。」「要件3:当該高塩基性塩化アルミニウム溶液を下記ろ過水アルミニウム濃度測定試験に供してろ過水中のアルミニウム濃度を測定したときに、当該アルミニウム濃度が0.40mg/L以下である。
〔ろ過水アルミニウム濃度測定試験〕(略)」と記載されているように、「膜ろ過用水処理凝集剤」が「含む」「高塩基性塩化アルミニウム溶液」を特定するための発明特定事項であり、「膜ろ過用水処理凝集剤」の効果を確認するための試験ではない。
それに対し、本件明細書の【0059】、【0062】及び【0063】の記載は、
「【0059】
(膜ろ過試験1)
・・・
【0061】
・・・実施例1と実施例2の高塩基性塩化アルミニウム溶液は、参考例1の高塩基性塩化アルミニウム溶液よりもさらに優れたファウリング抑制効果を有することが分かった。
【0062】
(膜ろ過試験2)
・・・
【0063】
・・・実施例4の高塩基性塩化アルミニウム溶液は、参考例1の高塩基性塩化アルミニウム溶液よりもさらに優れたファウリング抑制効果を有することが分かった。」
と記載されているように、本件発明2の「膜ろ過用水処理凝集剤」の効果を確認するための試験である。
そうすると、膜ろ過用水処理凝集剤が含む高塩基性塩化アルミニウム溶液を特定するための「試験」と膜ろ過用水処理凝集剤の効果を確認するための「試験」が異なっていることに技術的な矛盾はなく、これにより「下記要件」「3」「を満たす高塩基性塩化アルミニウム溶液を含む膜ろ過用水処理凝集剤」が不明確となるものでもない。
よって、本件発明2及び3は、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえないことから、本件発明2及び3に係る特許を、田上申立理由2によって取り消すことはできない。
(2)山上申立理由2について
ア 山上申立理由2のアについて
上記1(1)ア(イ)aで記載したとおり、本件発明2における「膜ろ過用水処理凝集剤」が「含む」「高塩基性塩化アルミニウム溶液」を特定する「要件3」の試験における数値(アルミニウム濃度)は、ファウリングを抑制するという技術的意義を有するものであるから、「要件3」は「高塩基性塩化アルミニウムを特定するものではなく、当業者がその技術的意義を理解することができない」との申立人山上の主張は当を得ないものである。
イ 山上申立理由2のイについて
「要件3」の試験が、「膜ろ過用水処理凝集剤」が「含む」「高塩基性塩化アルミニウム溶液」を特定するための特許権者の独自の試験であることは否定できないが、その独自の試験によって特定することが「高塩基性塩化アルミニウム溶液を含む膜ろ過用水処理凝集剤」において技術的意義を有し、「要件3」によって特定される「高塩基性塩化アルミニウム溶液を含む膜ろ過用水処理凝集剤」が不明確とはいえないことから、「わざわざ独自の試験方法を設定することの意義は不明というほかない」との申立人山上の主張を受け入れることはできない。
ウ 山上申立理由2のウについて
「要件3」は試験をした結果の数値によって「高塩基性塩化アルミニウム溶液を含む膜ろ過用水処理凝集剤」を特定するものであり、本件発明2において、「要件3」で行う試験の方法が記載されているからといって、それが「高塩基性塩化アルミニウム溶液を含む膜ろ過用水処理凝集剤」を製造するための方法が記載されているとはいえない。そうすると、本件発明2は、いわゆるPBPには該当せず、「最高裁判決(平成24年(受)第1204号、同2658号)に違反し、明確でない」との申立人山上の主張は当を得ないものである。
エ 山上申立理由2のまとめ
したがって、山上申立理由2のア~ウはいずれも受け入れられず、本件発明2及び3が第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえないことから、本件発明2及び3に係る特許を、田上申立理由2によって取り消すことはできない。
3 サポート要件について
(1)判断手法について
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が本件特許の出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)本件発明の課題について
本件発明の課題は、上記第7の1で摘記した【0005】に「特許文献2のPACは、浄水場で広く採用されている急速ろ過法への適用を目的として開発されたものであった。そのため、本発明者らは、膜ろ過法において、特許文献2のPACよりもさらにファウリング抑制効果に優れた水処理凝集剤を開発する余地があると考え、これを課題とした。」と記載されているとおり、本件発明は、膜ろ過法においてファウリング抑制効果に優れた水処理凝集剤とすることを課題としている。
(3)田上申立理由3について
まず、上記第2の1で記載したように、本件訂正により、請求項1の「高塩基性塩化アルミニウム溶液」の発明が削除され、本件訂正前の請求項2である「要件1~3」を満たすところの「請求項1記載の高塩基性塩化アルミニウム溶液を含む膜ろ過用水処理凝集剤」において、高塩基性塩化アルミニウム溶液が、「要件1~3」に加えてさらに「要件4a、4b及び4c」を満たすことが追加されたことから、田上申立理由3における「要件1~3のみからなる本件訂正前の請求項1に係る発明の高塩基性塩化アルミニウムにより、発明の課題を解決できる作用機序については何ら説明されていない。」及び「要件1~3のみからなる本件訂正前の請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に実質的に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。」との主張は該当しなくなった。
さらに、「発明の課題を解決できる作用機序」について、上記第7の2で摘記した【0027】に「ファウリング抑制は、ろ過膜の逆洗回数の減少等につながるため、運転管理コストの低減に貢献する。そこで、特許文献2のPACよりもさらに優れたファウリング抑制効果を有するPACを目標として開発されたのが、本発明のPACである。本発明のPACが特許文献2のPACよりもさらに優れたファウリング抑制効果を示すメカニズムは定かではないが、本発明のPACによって形成されるフロックは粘着性が低いために、ろ過膜に付着し難く且つ容易に剥離し、これによってファウリング抑制効果が発揮される、と推察される。」と記載され、必ずしも「作用機序」を明らかにしているとはいえないが、上記第7の4で記載したように、実施例において、高塩基性塩化アルミニウム溶液を含む膜ろ過用水処理凝集剤に対して「膜ろ過試験」を行い、「要件1~3、4a、4b及び4cを満たす高塩基性塩化アルミニウム溶液を含む膜ろ過用水処理凝集剤」が優れたファウリング抑制効果があることを確認している。そして、実施例で示された優れたファウリング抑制効果を考慮すれば、実施例の範囲を本件発明2の範囲まで拡げた場合についても、ファウリング抑制効果は減少していく可能性はあるものの、その効果がないとまでいうことはできない。
そうすると、「要件1~3、4a、4b及び4cを満たす高塩基性塩化アルミニウム溶液を含む膜ろ過用水処理凝集剤」は、上記(2)で述べた本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
したがって、本件発明2及び3は、発明の詳細な説明に記載したものであるから、本件発明2及び3に係る特許を、田上申立理由3によって取り消すことはできない。
(4)山上申立理由3について
ア 山上申立理由3のアについて
上記第7の4で摘記したとおり、実施例1、2及び4と参考例1及び比較例1について、「要件3」の「アルミニウム濃度」である【表1】の「ろ過水アルミニウム濃度(mg/L)」は、順に0.201、0.283、0.199、0.480、0.824であり、そして、それらの「膜ろ過試験」の結果である【図6】及び【図7】を参照すると、0.201、0.283、0.199である実施例1、2及び4ではファウリング抑制効果がほぼ同程度であるものの、0.480、0.824である参考例1及び比較例1において「アルミニウム濃度」が増加するに従って急激にその効果が減少していることが看取できる。そうすると、0.283と0.480との間である0.40周辺にファウリング抑制効果が下がり始めるアルミニウム濃度があることを否定できるものではないから、「要件3」の「アルミニウム濃度が0.40mg/L以下」との範囲において、本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
イ 山上申立理由3のイについて
山上申立理由3のイは、取消理由1と同じであり、上記第8の1で述べたとおり、本件発明2及び3は、本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
ウ 山上申立理由3のまとめ
したがって、本件発明2及び3は、発明の詳細な説明に記載したものであるから、本件発明2及び3に係る特許を、山上申立理由3によって取り消すことはできない。
4 実施可能要件について
(1)判断手法について
物の発明における発明の実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について、発明の詳細な説明の記載が上記の実施可能要件に適合するか否かは、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度に、発明の詳細な説明が明確かつ十分に記載されているか否かを検討して判断すべきであるので、以下、この観点に立って検討する。
(2)田上申立理由4について
ア 田上申立理由4のアについて
上記第7の3で摘記した製造方法及び同4(1)で摘記した実施例における製造方法を鑑みると、本件発明2の「高塩基性塩化アルミニウム溶液を含む膜ろ過用水処理凝集剤」を過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造することができるといえ、そして、同4(3)で摘記したとおり「膜ろ過試験」を行っていることから、それを使用することができることは明らかである。
本件発明2の「高塩基性塩化アルミニウム溶液を含む膜ろ過用水処理凝集剤」を製造するためのスタート材料である「原料PAC」については、同4(1)の【0045】に「市販の塩基度50%の水道用PAC」と記載されているとおり、「市販」の塩基度50%のPACを原料とするものといえる。また、「アルミン酸ソーダと水酸化ナトリウムの混合液の添加量や添加時間」について、添加量は、最終的な高塩基性塩化アルミニウム溶液の所望の組成(例えば、実施例1では「実施例1の高塩基性塩化アルミニウム溶液の組成は、Al2O3:10.25質量%、Cl:10.21質量%、SO4:0質量%(SO4/Al2O3(モル比)=0)であり、塩基度:74.0%」と記載)になるように調整して添加するものであり、添加時間は、実施例1~5に「ホモジナイザー撹拌下で添加して」と記載されていることから、混合液の添加速度、撹拌状態等に応じて変化するものであり、当業者が適宜設定するものである。
そうすると、田上申立理由4のアの主張によって、本件発明2の「高塩基性塩化アルミニウム溶液を含む膜ろ過用水処理凝集剤」が、過度の試行錯誤を要して製造されるものであるとも、使用することができないものとも判断できない。
イ 田上申立理由4のイについて
本件発明2の「要件1~3、4a、4b及び4cを満たす高塩基性塩化アルミニウム溶液を含む膜ろ過用水処理凝集剤」は、上記第7の4で摘記した実施例において製造され、その「要件1~3、4a、4b及び4c」を満たすものにおいて、その効果も確認されていることから、そもそも本件発明2は「達成すべき結果によって物を特定しようとしている」ものではないことから、本件発明2が「達成すべき結果によって物を特定しようとしている」から実施可能要件違反であるとの田上申立理由4のイの主張は受け入れられない。
ウ 田上申立理由4のウについて
要件1~3(特に要件3) を調整する具体的な手段は、上記第7の4(1)で摘記した実施例に記載されており、実施例1~5に記載されている製造方法(調整方法)により、要件1及び2のみならず、要件3を満たす(【表1】参照)高塩基性塩化アルミニウム溶液が製造されていることが理解できることから、要件1~3(特に要件3)を調整する具体的な手段を明確にすべきとの田上申立理由4のウの主張は受け入れられない。
エ 田上申立理由4のまとめ
よって、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明2を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであり、本件発明2を引用する「被処理水と請求項2記載の膜ろ過用水処理凝集剤との混合液をろ過膜でろ過する工程を含む、水処理方法」である本件発明3についても、それを実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものである。
したがって、本件発明2及び3に係る特許を、田上申立理由4によって取り消すことはできない。
(3)山上申立理由4について
模擬処理水Aについて、本件発明2において、
「模擬被処理水Aは以下(1)~(6)を混合することによって作製したものである。
(1)蒸留水:10L
(2)関東化学(株)製カオリン(試薬):0.075g
(3)富士フイルム和光純薬(株)製フミン酸(化学用)を蒸留水に1mg/mLとなるように添加して調製した液:10mL
(4)キシダ化学(株)製炭酸水素ナトリウム(試薬特級)を蒸留水に50mg/mLとなるように添加して調製した液:15mL
(5)富士フイルム和光純薬(株)製アルギン酸ナトリウム80~120(和光一級)を蒸留水に1mg/mLとなるように添加して調製した液:30mL
(6)キシダ化学(株)製塩化カルシウム二水和物(試薬特級)を蒸留水に20mg/mLとなるように添加して調製した液:36mL」と特定されている。
ここで、山上申立理由4では、これら「6種類」の試薬の具体的な純度が記載されていないことから試薬が明確に特定されていないことを主張しているが、「蒸留水」は試薬ではないから5種類となり、その5種類の試薬について、本件明細書の【0019】には、「模擬被処理水Aの調製に用いる関東化学(株)製カオリン(試薬)は、製品番号23000-02で特定されるものである。富士フイルム和光純薬(株)製フミン酸(化学用)は、製品コード082-04625で特定されるものである。キシダ化学(株)製炭酸水素ナトリウム(試薬特級)は、製品コード000-71665で特定されるものである。富士フイルム和光純薬(株)製アルギン酸ナトリウム80~120(和光一級)は、製品コード196-13325で特定されるものである。キシダ化学(株)製塩化カルシウム二水和物(試薬特級)は、製品コード000-13445で特定されるものである。」と記載されている。そして、試薬の製造会社、製品及び製品番号又は製品コードが記載されていることから、試薬の具体的な純度は、製品番号又は製品コードの製品における純度ということになる。
よって、山上申立理由4の主張は受け入れられない。
したがって、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明2を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであり、本件発明2を引用する本件発明3についても、それを実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるから、本件発明2及び3に係る特許を、山上申立理由4によって取り消すことはできない。
第10 申立人の意見書について
1 申立人田上の意見書
(1)申立人田上は、令和5年11月8日に提出の意見書(以下「田上意見書」という。)で、おおむね以下の主張をしている。
ア サポート要件について
本件明細書において、課題を解決するための作用機序について本件明細書に記載がなく、技術常識を備えた当業者が、特許文献2のPACの製造方法とは区別されていない(すなわち、要件1~3並びに要件4a、4b及び4Cのみからなる)本件発明2の範囲まで、発明の詳細な説明に実質的に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
イ 実施可能要件について
本件明細書の実施例1~5において、原料PACの製造方法が不明であることや、添加するアルミン酸ソーダと水酸化ナトリウムとの混合液の点などから、製造方法やそれにより得られる物が特定されず、本件明細書の開示が不十分であるといわざるを得ない。また、本件発明2における要件1~3並びに要件4a、4b及び4Cを具備するために、特許文献2のPACの製造方法といかなる点を区別したかの説明がなく、両者の発明を区別することができない。そのため、本件明細書は、本件発明2に係る高塩基性塩化アルミニウム溶液及びそれを用いた凝集剤について「その物を作れる」ように記載されているとはいえない。
(2)申立人田上の主張に対する当審の判断
ア 上記(1)アについて
特許文献2とは、本件明細書の【0004】に記載されている「【特許文献2】特開2009-203125号公報」のことであり、【0043】に「〔参考例1〕特許文献2の実施例1に従って、高塩基性塩化アルミニウム溶液を製造した。得られた参考例1の高塩基性塩化アルミニウム溶液の組成は、Al 2O 3:10.20質量%、Cl:7.09質量%、SO 4:2.74質量%(SO 4/Al 2O 3(モル比)=0.29)であり、塩基度:71.5%であった。」と記載されている「参考例1」である。そして、参考例1では、上記7の4(1)で摘記した【表1】を参照すると、「要件3」の「アルミニウム濃度」である「ろ過水アルミニウム濃度(mg/L)」が0.480で「要件3」の「アルミニウム濃度が0.40mg/L以下」を満たさないものとして、本件発明2と明確に区別できるものである。
そうすると、本件発明の課題を解決しない特許文献2のものが排除されているのであるから、本件発明2の範囲が「特許文献2のPACの製造方法とは区別されていない」との申立人田上の主張は、サポート要件を判断するうえで当を得ないものである。
イ 上記(1)イについて
まず、原料PAC、添加するアルミン酸ソーダと水酸化ナトリウムとの混合液については、上記第9の4(2)アの「田上申立理由4のアについて」において述べたとおりである。そして、本件発明2の「要件1~3、4a、4b及び4cを満たす高塩基性塩化アルミニウム溶液を含む膜ろ過用水処理凝集剤」を、過度の試行錯誤を要することなく製造することができ、それを使用することができることは、同じく「田上申立理由4のアについて」において述べたとおりである。
また、本件発明2の「要件1~3、4a、4b及び4cを満たす高塩基性塩化アルミニウム溶液を含む膜ろ過用水処理凝集剤」が、特許文献2のPACと明確に区別できることは、上記アで述べたとおりであり、本件発明2の凝集剤の製造方法と特許文献2のPACの製造方法とが同一であると判断できないことは、申立人田上も意見書で「〔実施例1〕~〔実施例5〕の製造方法と、〔参考例1〕(すなわち、特許文献2の実施例1) の製造方法とが大きく異なると解される」(6頁17~19行)と述べている。
ウ 小括
よって、田上意見書の申立人田上の主張によって、上記第9の3の「サポート要件について」及び同4の「実施可能要件について」の判断が覆ることはない。
2 申立人山上の意見書
(1)申立人山上は、令和5年11月8日に提出の意見書(以下「山上意見書」という。)で、おおむね以下の主張をしている。
ア 訂正について
訂正された請求項2に追加された要件4a、4b及び4Cは、本件特許の明細書に記載された範囲を拡張するものであり、特許法第126条第6項に違反し訂正が認められない。
その理由として、要件4a及び4bの高塩基性塩化アルミニウム溶液中の「コロイド状のアルミニウム種の存在割合」及び「モノマー状のアルミニウム種の存在割合」ついて、本件明細書では「フェロン法によって算出」されるものしか記載されておらず、要件4cの高塩基性塩化アルミニウム溶液中の「27Al-NMR測定によって得られるスペクトル」について、本件明細書では「104MHzで測定」した場合しか記載されていないにもかかわらず、これらを発明特定事項として記載されていないことを理由としている。
イ 進歩性について
本件特許は、山甲1と取消理由2及び3で引用された文献(田甲6、田甲7、田甲8、田周1、田周2) とを組み合わせることにより、容易に想到できるものである。
ウ 効果について
本件明細書において、本件発明2の数値範囲全てについて顕著な効果を示すとの記載はないことから、本件発明2は進歩性を示しているとはいえない。
(2)申立人山上の主張に対する当審の判断
ア 上記(1)アについて
まず、訂正事項1については、要件1~3に加えて「要件4a、4b及び4Cを満たす高塩基性塩化アルミニウム溶液を含む膜ろ過用水処理凝集剤」に限定するものであるから、第2の2(1)イで述べたとおり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第126条第6項に違反するものではない。
仮に、申立人山上の主張が、明確性又はサポート要件に関するものとしても、本件明細書を踏まえれば、「コロイド状のアルミニウム種の存在割合」及び「モノマー状のアルミニウム種の存在割合」は、実質的にフェロン法によって算出されたもので、「27Al-NMR測定によって得られるスペクトル」は、実質的に104MHzで測定したものと解されることから、それが発明特定事項として記載されていないからといって明確性又はサポート要件を満たさないとはいえない。
イ 上記(1)イについて
当審が通知した取消理由2及び3においては、申立人山上が田甲6、田甲7及び田甲8の各々に対し行った「要件3」の追加実験の結果に基づいて、田甲6発明、田甲7発明及び田甲8発明が本件発明2の「要件3」を満たすと判断したまでであり、田甲6、田甲7及び田甲8の各々における実験結果を、山甲1に対して流用することは到底できず、山甲1に田甲6、田甲7及び田甲8の各々に対し行った「要件3」の追加実験の結果を組み合わせることはできない。
ウ 上記(1)ウについて
本件明細書の実施例において、本件発明2の数値範囲を満たすものにおいて、ファウリング抑制の効果が確認されており、進歩性がないとはいえない。
なお、本件発明2の「数値範囲全て」について顕著な効果を示すとはいえないとの主張は、むしろサポート要件に対するものともいえるが、本件発明2の範囲において、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものといえることは、上記第9の3で述べたとおりである。
第11 むすび
以上のとおり、本件発明2及び3に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由及び取消理由通知に記載した取消理由によって、取り消すことはできない。さらに、他に本件発明2及び3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項1に係る特許は、訂正により削除された。これにより、申立人による特許異議の申立てについて、請求項1に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700218