特許異議申立
2023-700967
代替肉製品
- 審判番号
- 2023-700967
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-160659
- 登録番号
- 7241953
- 請求日
- 2023年09月14日
- 審決日
- 2023年12月18日
- 公報発行日
- 2024年01月26日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】日本ハム株式会社
- 【権利者代理人】大野 聖二
- 【権利者代理人】松任谷 優子
- 【権利者代理人】梅田 慎介
- 【権利者代理人】森田 裕
- 【権利者代理人】今野 智介
- 【権利者代理人】大木 信人
- 【異議申立人】寺澤 佳奈美
- 審判長/審判官
- 審判長 植前 充司
- 審判官 磯貝 香苗
- 審判官 中村 和正
- 分類
- P1651.536-Y (A23L) / P1651.537-Y (A23L) / P1651.113-Y (A23L) / P1651.121-Y (A23L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号特許法29条2項特許法113条2号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第113条第4号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第113条第2号、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7241953号発明「代替肉製品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7241953号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7241953号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、
令和 4年10月 5日を出願日とする特許出願であって、
令和 5年 3月 9日にその特許権の設定登録(請求項の数 4)がされ、
令和 5年 3月17日に特許掲載公報が発行され、
その後、当該特許に対し、
令和 5年 9月14日に 寺澤 佳奈美 (以下、「特許異議申立人」という。)が全請求項に係る特許に対して特許異議の申立てを行ったものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし4に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」といい、総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
【請求項1】
pHが7.8~8.5かつ乳化した油脂が3~32.70質量%である代替肉製品、ここで、
前記pHは前記代替肉製品を細切りにし、蒸留水で3倍に希釈してからストマッカーを用いた粉砕、均質化を行い懸濁液とし、前記懸濁液にpHメーターを差し込み、20~25℃で測定したものであり、
前記乳化した油脂の質量は、前記代替肉製品を乾燥したろ紙で挟み、重しを載せて温調することにより「乳化していない油脂」を流出させた後のものを試料とし、バブコック変法により、前記試料に濃硫酸60%過塩素酸-氷酢酸(1:1,V/V)の混合試薬を加え、浮かび上がった脂肪(油分)の体積に脂肪の比重0.92を乗じ、さらに補正係数0.95を乗じた値である。
【請求項2】
乳化した油脂が12~28質量%である、請求項1に記載の代替肉製品。
【請求項3】
油脂の種類が植物性油脂である、請求項1に記載の代替肉製品。
【請求項4】
代替肉製品がハム様製品である、請求項1に記載の代替肉製品。
第3 特許異議申立書に記載した特許異議申立理由について
令和 5年 9月14日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した特許異議申立理由の概要は次のとおりである。
1 申立理由1(明確性要件)
本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・本件特許の請求項1の「代替肉製品を乾燥したろ紙で挟み、重しを載せて温調することにより」という記載は、当該請求項のその余の記載とは技術的に整合しておらず、本件特許発明1は明確でない。
・本件特許の請求項1を引用する本件特許発明2ないし4も同様である。
2 申立理由2(実施可能要件)
本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)は、「代替肉製品を乾燥したろ紙で挟み、重しを載せて温調することにより「乳化していない油脂」を流出させた後のものを試料とし」て、乳化した油脂の質量を測定算出することができない。
そして、乳化した油脂の質量を測定算出することができない以上、当業者は、代替肉製品の中から、「乳化した油脂」が3~32.70質量%であるものを取得(入手)して使用することもできない。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件特許発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。
本件特許の請求項1を引用する本件特許発明2ないし4についても同様である。
3 申立理由3(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・当業者は、代替肉製品の中から「乳化した油脂」が3~32.70質量%であるものを取得(入手)して使用することはできないから、「乳化した油脂」が3~32.70質量%である代替肉製品の提供ができると当業者は認識できない。
・当業者は、pHが7.8~8.5である代替肉製品において、単に「乳化した油脂」が「3~32.70質量%」でありさえすれば、「特定の品質の悪化を代償とすることなく、特に食肉製品のような風味をアルカリ臭によって損なうことなく」という課題(本件特許の発明の詳細な説明【0007】)が解決できるとは認識しない。
そうすると、本件特許発明1が、本件特許の発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえず、本件特許発明1は本件特許の発明の詳細な説明に記載したものではない。
本件特許の請求項1を引用する本件特許発明2ないし4についても同様である。
4 申立理由4(甲第4号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許発明1ないし4は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第4号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第4号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
5 申立理由5(甲第10号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許発明1ないし4は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第10号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第10号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
6 証拠方法
甲第1号証:化学大辞典、第1版第7刷、2005年7月1日発行、株式会社東京化学同人、第296、1701頁
甲第2号証:Drug Delivery System,1990,Vol.5,No.2,p.61-64
甲第3号証:日豚会誌、51巻2号、2014年6月発行、第39-44頁
甲第4号証:国際公開第2022/086422号
甲第5号証:微生物コントロールによる食品衛生管理、初版第1刷、2013年1月18日発行、株式会社エヌ・ティー・エス、第122頁
甲第6号証:適塩・血圧対策推進協会のホームページ「コラム それほんと? -食品加工の“常識”」、2017年3月23日掲載、(https://www.lowsalt.or.jp/column-entry-09.html)
甲第7号証:株式会社東邦微生物病研究所のホームページ「微生物とpH」、2014年掲載、(https://www.toholab.co.jp/info/archive/1512/)
甲第8号証:食品衛生法施行規則及び食品、添加物等の規格基準の一部改訂について(衛乳第54号)、平成5年3月17日
甲第9号証:食肉加工品の知識、第3版、平成31年3月発行、公益社団法人日本食肉協議会、第19-67頁、119-127頁
甲第10号証:日本ハム株式会社、ニュースリリース2022年「大豆ミート使用ナチュミートシリーズ新商品とリニューアル商品が計11品登場! 3月1日(火)発売」、2022年2月28日掲載、(https://www.nipponham.co.jp/news/2022/20220228_06/)
甲第10の2号証:甲10号証の製品の商品パッケージ(表・裏)
甲第11号証:試験報告書、2023年9月6日作成、坂本留美子
証拠の表記は特許異議申立書の記載におおむね従った。
以下、順に「甲1」等という。
第4 当審の判断
1 申立理由1(明確性要件)について
(1)明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
そこで、検討する。
(2)特許請求の範囲の記載
特許請求の範囲の記載は上記第2のとおりである。
(3)明確性要件の判断
本件特許の請求項1ないし4の記載は、それ自体に不明瞭な記載はなく、願書に添付した明細書の記載とも整合する。
したがって、本件特許発明1ないし4に関して、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
(4)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の上記第3 1の主張について検討する。
特許異議申立人は、請求項1の「乳化した油脂」と「乳化していない油脂」について、「前記代替肉製品を乾燥したろ紙で挟み、重しを載せて温調することによ」って、「乳化していない油脂」のみが選択的におよそ全て流出することは、本件特許の発明の詳細な説明において確認されておらず、また本願出願時の技術常識でもないから、流出した部分を「乳化していない油脂」とし、流出を経た後を試料として計測した部分が「乳化した油脂」と区分することは、技術的に間違っており、よって請求項1の記載は明瞭でない旨主張している。
しかしながら、請求項1の「乳化していない油脂」とは、本件特許の発明の詳細な説明の【0017】に定義されるとおり、「事前に代替肉製品を乾燥したろ紙で挟み、重しを載せて温調することにより」「流出させた」ものである。
同様に、請求項1の「乳化した油脂」は、本件特許の発明の詳細な説明の【0017】に定義されるとおり、代替肉製品に含まれる油脂のうち「乳化していない油脂」を除いた「乳化した油脂」のみの質量を請求項1に規定される方法にて測定したものであり、その測定方法については本件特許の発明の詳細な説明【0017】にも記載されるとおり、明確である。
このように、請求項1の「乳化していない油脂」及び「乳化した油脂」は、その定義及び測定方法がともに発明の詳細な説明に記載されており、その記載自体も明確である。
なお、代替肉製品を乾燥したろ紙で挟み、重しを載せて温調することによって流出させるという操作により、未乳化油脂と乳化油脂を完全に峻別し得るか否か、当該操作による計量が技術的に乳化・未乳乳化油脂の正確な量を反映するか否かという観点は、請求項1の記載が明確か否かの判断には影響しない。
よって、特許異議申立人の主張は採用し得ない。
(5)申立理由1についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえず、特許法第113条第4号に該当しない。
よって、申立理由1によって本件特許の請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
2 申立理由2(実施可能要件)について
(1)実施可能要件の判断基準
上記第2のとおり、本件特許発明1ないし4は物の発明であるところ、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。
そこで、検討する。
(2)実施可能要件の判断
発明の詳細な説明には、本件特許発明1ないし4の各発明特定事項について具体的に記載され、実施例についてもその製造方法を含め具体的に記載されている。
したがって、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1ないし4を生産し、使用することができる程度の記載があるといえるから、本件特許発明1ないし4に関して、発明の詳細な説明は、実施可能要件を充足する。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の上記第3 2における主張について検討する。
上記1(4)にて検討したと同旨により、請求項1の「乳化していない油脂」及び「乳化した油脂」は、代替肉製品を乾燥したろ紙で挟み、重しを載せて温調することによって流出させる操作が、乳化していない油脂と乳化した油脂とを完全に技術的に峻別し得る操作であるかどうかとは関係なく、それぞれ、請求項1及び発明の詳細な説明【0017】等により定義されている方法により導かれるものであり、当業者は、請求項1及び特許の発明の詳細な説明【0017】に記載されているとおりの方法によって、請求項1の「乳化していない油脂」及び「乳化した油脂」を計測することができる。
そして、発明の詳細な説明【0042】ないし【0048】には代替肉製品の製造方法が記載されており、特に【0045】には、代替肉製品およびその原料組成物の乳化油脂量の調整方法が記載され、【0049】ないし【0060】には実施例及び比較例によって具体的に製造された代替肉製品の製造条件についても記載されている。
よって、当業者は発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術水準に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1ないし4を生産し、使用することができるものといえる。
よって、特許異議申立人の主張は採用し得ない。
(4)申立理由2についてのむすび
上記のとおり、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえず、特許法第第113条第4号に該当しない。
よって、申立理由2によって本件特許の請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
3 申立理由3(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
(2)特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第2のとおりである。
(3)発明の詳細な説明の記載
本件特許の発明の詳細な説明の【0007】には、「本発明は、日持ち向上剤や保存料に依存せず(添加しない又はそれらの添加量を最小化することができ)、かつ特定の品質の悪化を代償とすることなく、特に食肉製品のような風味をアルカリ臭によって損なうことなく、特定乳酸菌の増殖を抑制することができる代替肉製品を提供することを課題とする。」と記載されている。
さらに、本件特許の発明の詳細な説明の【0010】には「本発明者は鋭意検討を重ねた結果、代替肉製品に食肉製品のような風味や食感を出すために配合されることのある油脂(例えば植物性油脂)について、乳化した油脂が代替肉製品に比較的多く含まれる場合、pH調整剤によって代替肉製品が高pH化されていてもアルカリ臭を抑制できることを見出した。さらに、そのようなpH調整剤により高pH化され、かつ乳化油脂量が比較的多い代替肉製品は、蒟蒻が配合されていないので、凍結耐性に優れることに加え、製品の保水性が向上して食肉製品に近いプリッとした食感が出る、製品表面にツヤがあり食べたときの口の中でのほぐれ感がハムに近い、といった利点を有することも見出した。」と記載されており、【0012】には「本発明により、代替肉製品を高pH化し、かつ乳化油脂量を比較的多くすることによって、アルカリ臭を十分に抑えつつ特定乳酸菌の増殖を抑制すること、つまり風味への悪影響を引き起こすことなく保存性を向上させることができる。また、乳化油脂量を一定程度に留めることで、代替肉製品としての良好な食感(例えばハム様食品にとって好ましいプリッと感、ほぐれ感など)を保持することもできる。このような本発明による代替肉製品は、日持ち向上剤や保存料を添加する必要がない、またそれらの添加量を最小化できるものであり、また品質面および製造面で問題を招く蒟蒻を配合する必要もない。」と記載されている。
また、本件特許の発明の詳細な説明の【0011】には、本件特許発明の各特定事項に対応する事項が記載され、【0013】には代替肉製品について、【0014】ないし【0015】には代替肉製品のpHについて、【0016】には代替肉製品に含まれる「乳化した油脂」の量について、【0017】には「乳化していない油脂」と「乳化した油脂」の測定方法について、【0018】ないし【0019】には「乳化していない油脂」の量について、【0020】ないし【0022】には代替肉製品に含まれるタンパク質について、【0024】ないし【0027】には代替肉製品に含まれる油脂について、【0028】ないし【0030】にはpH調整剤について、【0040】ないし【0041】には代替肉製品の形態について、【0042】ないし【0048】には代替肉製品の製造方法についてそれぞれ記載されている。
そして、本件特許の発明の詳細な説明の【0049】ないし【0060】には、代替肉製品を製造する際に使用される、乳化させる油脂、pH調整剤および水の量を変更することで、代替肉製品のpH、「乳化した油脂」の量、「乳化していない油脂」の量を変化させた代替肉製品を具体的に調整し、代替肉製品のpHが7.5以上かつ「乳化した油脂」が3質量%以上であると、アルカリ臭が抑えられ、食感(ポロポロ感、パサパサ感、プリッと感、口残りなど総合的な評価)が良く、保存性がよいことを確認している。
(4)サポート要件の判断
本件特許の発明の詳細な説明の【0007】の記載から本件特許発明の解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は、日持ち向上剤や保存料に依存せず(添加しない又はそれらの添加量を最小化することができ)、かつ特定の品質の悪化を代償とすることなく、特に食肉製品のような風味をアルカリ臭によって損なうことなく、特定乳酸菌の増殖を抑制することができる代替肉製品を提供することである。
本件特許の発明の詳細な説明の【0010】ないし【0012】には、当該発明の課題を解決するための手段として、代替肉製品のpHを7.5以上とし、かつ「乳化した油脂」を3質量%以上とすることで、アルカリ臭を十分に抑えつつ特定乳酸菌の増殖を抑制すること、良好な食感を保持することができることが記載されている。
そして、本件特許の発明の詳細な説明の【0049】ないし【0060】には、実施例1ないし14と比較例1ないし5の対比により、代替肉製品のpHを7.5以上、かつ、「乳化した油脂」を3質量%以上とすることで、アルカリ臭が抑えられ、食感(ポロポロ感、パサパサ感、プリッと感、口残りなど総合的な評価)が良く、保存性がよいことが確認されている。
そうすると、当業者は、代替肉製品のpHを7.5以上、かつ、「乳化した油脂」を3質量%以上とすることで、発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明1ないし4は、上記発明の課題を解決することができる特定事項を全て含み、さらに限定するものであるから、当然発明の課題を解決することができるものである。
したがって、本件特許発明1ないし4は、発明の詳細な説明に記載されたものであり、発明の詳細な説明により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
よって、本件特許発明1ないし4に関して、特許請求の範囲はサポート要件に適合する。
(5)特許異議申立人の主張について
当業者は、請求項1の「乳化した油脂」が3~32.70質量%である代替肉製品を取得することができないとの特許異議申立人の主張は、具体的な根拠がない。
また、pHが7.8~8.5である代替肉製品において、単に「乳化した油脂」が「3~32.70質量%」でありさえすれば、「特定の品質の悪化を代償とすることなく、特に食肉製品のような風味をアルカリ臭によって損なうことなく」という課題(本件特許の発明の詳細な説明【0070】)を解決できるとは当業者は認識しない、との特許異議申立人の主張も、具体的な根拠はない。
よって、特許異議申立人の主張は採用し得ない。
4 申立理由4(甲4に基づく新規性・進歩性)について
(1)甲4の記載事項等
ア 甲4の記載事項
甲4には肉類似食品およびその製造方法に関し次の事項が記載されている。なお、甲4は外国語文献のため、抄訳を摘記する。
「肉類似食品において望ましい食感及び硬さを達成し、調理時の水分及び脂肪の損失を回避する改良された方法が依然として必要とされている。好ましくは、このような方法はまた、飽和及びトランス脂肪酸の使用を低減又は排除し、安定性及び貯蔵寿命を増大させる。
発明の概要
構造化水中油型エマルションを肉類似組成物に組み込むことによって、肉類似組成物の調理に関連する油及び水分の損失を低減することができることが見出された。さらに、驚くべきことに、肉類似組成物中にこのようなエマルションが存在すると、それから得られる調理済み食品において望ましい食感及び硬さが得られることが見出された。
従って、第1の態様において、本発明は、水中油構造化エマルション及び植物タンパク質を含む肉類似組成物を提供し、ここで、前記構造化エマルションは、秩序化されたラメラゲルネットワークを特徴とする。いくつかの態様において、この構造化エマルションは、ポリヒドロキシ化合物をさらに含む。」
(第3頁第6~22行)
「従って、本発明のいくつかの態様において、構造化エマルションは、当該構造化エマルションの重量に基づいて、以下を含む:
i) 1~8重量%の乳化剤;
ii) 12~40重量%の水;及び、
iii) 25~70重量%の油。
好ましい態様において、水中油構造化エマルションは、当該構造化エマルションの重量に基づいて、以下をさらに含むことができる:
iv) 1~55重量%のポリヒドロキシ化合物。
好ましくは、ポリヒドロキシ化合物は分子量が500g/mol以下である。必要に応じて、ポリヒドロキシ化合物は隣接ヒドロキシル基を含む。
構造化エマルションは、ポリヒドロキシ化合物に加えて又はポリヒドロキシ化合物の代替として、1つ以上のワックスを含んでもよい。ワックスは構造化乳エマルションの0.01~15重量%の量で存在することができる。理論に束縛されるものではないが、ワックスは、例えば、エマルションの応力収率及び弾性率を増加させるために、エマルションに構造を提供すると考えられる。従って、ワックスはエマルションを安定化させることができる。
構造化エマルション中の上記成分の組合せ及びそれらの相対比率は、油相及び水相の混合時に容易に形成され、高い安定性及び長い貯蔵寿命を示す構造化エマルションを提供するのに特に有用であることが見出されている。エマルション中にポリヒドロキシ化合物を含有させることにより、前例のない熱安定性を含む高い安定性をもたらす特定の構造的又は形態的特徴を有する構造化エマルションの形成及び保持が促進又は増強されることが見出されている。」
(第8頁第4~30行)
「いくつかの態様において、構造化エマルションは、アルカリ性pHを有する水性連続相を含む。好ましい態様において、水成分を含む構造化エマルションの水相は、少なくとも8.0、例えば8.0~10、好ましくは8.0~9.5、より好ましくは8.0~9.0のpHを有する。例えば、いずれも油相及び水相との間を移動することができる構造化エマルション中のステアリン酸ナトリウム又はパルミチン酸ナトリウムの存在は、水相中で8.0~9.0までのpHを生じることが見出されている。ここで開示される構造化エマルションが、アルカリpHを有する水相を含み得る一方で、観察される長い微生物保存寿命を依然として達成し得ることは、特に驚くべきことである。公知の保存技術を使用する従来のシステムでは、ソルビン酸カリウムのような保存剤と適宜組み合わせて酸性pH値を使用するのが典型的である。従って、本発明は、微生物増殖を制御するためのそのような従来のシステムの使用を不要にすることができる。ここで開示される構造化エマルションの本来的に低い水分活性(aw)はまた、構造化エマルションの好ましい長期安定性、特に長期微生物保存寿命に実質的に寄与する。」
(第22頁第32行~第23頁第13行)
「油相
構造化エマルションは、25~70重量%の油、好ましくは35~65重量%の油、より好ましくは40~60重量%の油、最も好ましくは50~60重量%の油を含むことができる。もちろん、45~55重量%及び50~55重量%のような他の範囲もまた意図されることが理解されるであろう。
構造化エマルションの油相は、天然源(例えば、植物、動物又は魚/甲殻類/藻類源)から少なくとも部分的に得られる任意の食用グリセリド油から適切に選択することができ、複数の油の組合せであってもよい。油は、植物油、海産油、動物油及びそれらの組み合わせから選択され得る。好ましくは、油は植物油を含む。好ましくは、油相は、本発明の構造化エマルション中に液体形態で存在し、従って、室温(例えば、20℃)で固体であり得るグリセリド脂肪、特に動物脂は、油相が液体のままであることを確実にするために、他のより低い融点の油と組み合わせて使用され得る。あるいは、このような脂肪を分画して、構造化エマルション中で使用するための低融点画分を単離することができる。
植物油には、すべての植物油、ナッツ油及び種子油が含まれる。本発明において使用することができる好適な植物油の例には、以下が含まれる:アサイー油、アーモンド油、ブナ油、カシューナッツ油、ヤシ油、コルザ油、トウモロコシ油、綿実油、亜麻仁油、グレープフルーツ種子油、ブドウ種子油、ヘーゼルナッツ油、ヘンプ油、レモン油、マカデミア油、カラシ油、オリーブ油、オレンジ油、落花生油、パーム油、パーム核油、ペカン油、松の実油、ピスタチオ油、ケシ種子油、菜種油、米糠油、ベニバナ油、ゴマ油、シアバター及びその画分(特にシアオレイン)、大豆油、ヒマワリ油、クルミ油及び小麦胚芽油。好ましい植物油は、トウモロコシ油、菜種油、ヘーゼルナッツ油、ヒマワリ油、ベニバナ油、大豆油、落花生油、オリーブ油、亜麻仁油、シアバター及びその画分(特にシアオレイン)並びに米糠油から選択されるものである。
海洋油には、油性の魚又は甲殻類(オキアミなど)の組織や藻類に由来する油が含まれる。好適な勲物油脂の例としては、ブタ脂(ラード)、アヒル脂、ガチョウ脂、獣脂及びバターが挙げられる。それにもかかわらず、ベジタリアン又はヴィーガン食品の製造への本発明の特定の適用を考えると、油相の油が植物油であることが一般に好ましい。」
(第24頁第6行~第25頁第6行)
「食品
本発明による肉類似組成物の製造における構造化エマルションの使用は、肉類似組成物に望ましい構造、食感及び/又は硬さを提供することが見出されている。従って、ここで開示される組成物を用いて調製された肉類似食品が提供される。肉類似食品は、バーガー、ソーセージ、ナゲット、ミートボール、又はミートローフ、好ましくはバーガーの形態を有するミンチ又はひき肉類似物であってよい。
また、ここで述べられている肉類似組成物を用いて調製された調理済み又は部分的な食品も提供される。」
(第27頁第6~16行)
「実施例
構造化エマルションの一般的な調製方法
以下の手順を用いて、構造化エマルション、エマルションA、エマルションB及びエマルションC、を調製した;
1.油相は、表1に示す油相成分を混合し、混合物を75℃に少なくとも3分間加熱することによって調製した;
2.また、表1に示す水相の成分(該当する場合)を混合し、混合物を75℃に少なくとも3分間加熱することによって、水相を調製した;
3.油相を75℃で2分間にわたって混合しながら水相にゆっくりと加えた;
4.得られたエマルションを室温(20℃)まで自然冷却した。
表1から分かるように、エマルションBは、ポリヒドロキシ化合物を含まないという点でエマルションA及びエマルションCとは異なる。エマルションCは、エマルションAとは異なるポリヒドロキシ化合物を少量含んでいる点で異なる。
[図:0001405853000001.jpg]
*使用した乳化剤は、6重量%のステアリン酸ナトリウムを含む蒸留モノグリセリド乳化剤であるDimodan(R)HR 85 S6であった。
**この例で使用したポリヒドロキシ化合物は、67%スクロースを含む糖から得られる栄養糖類の水溶液である糖組成物、すなわちRaftisweet(R) S67/100であった。
***この例で使用したポリヒドロキシ化合物はデキストロースであった。
植物タンパク質組成物Aを用いる植物ベースのバーガーの一般的な調製方法
以下の手順を用いて、以下の実施例の植物ベースのバーガーを調製した;
1.植物タンパク質組成物A+を、表2に示す量に従って氷水(1~3℃)と混合し、さらに冷蔵(5℃)で少なくとも30分間水和した;
2.表2に示す量に従ったエマルションA、エマルションB又は高オレインヒマワリ油のいずれかを、室温で、水和した植物タンパク質混合物Aに添加し、得られた生地を約1分間ブレンドした;
3.生地を冷蔵庫(5℃で操作)で少なくとも20分間休ませた;
4.この生地からバーガー(直径8cm、高さ2cm、重量100g)を作り、調理前に冷蔵庫(5℃で操作)に保存した;
5.バーガーを、ひまわり油(5g)を入れたフライパンで6分間(4×1.5分)加熱して焼き上げた。
+上述の植物タンパク質組成物Aは、エンドウ豆タンパク質、テクスチャード野菜タンパク質、増粘剤(メチルセルロース)、塩、スパイス、野菜抽出物、スパイス抽出物、グルコースシロップ、香味料、着色料、並びに脂肪、炭水化物及び繊維を含む乾燥/脱水粉末植物タンパク質組成物である。
上述の一般的な方法により調製した比較例1、実施例1及び実施例2のバーガーの組成を下記表2に示す。
[図:0001405853000002.jpg]
比較例1、実施例1及び実施例2に係るバーガーは、質量が同じであり、水分及び脂肪分の含有量が類似しており、それらの特性を比較することができる。比較例1で製造したバーガーは、構造化エマルションを使用していないので、本発明には該当しない。
テクスチャードタンパク質を用いる植物ベースのバーガーの一般的な調製方法
以下の手順を用いて、以下の実施例の植物ベースのバーガーを調製した。
1.テクスチャードタンパク質++を、表3に示す量に従って冷水(5℃)で水和し、さらに冷蔵(5℃)で少なくとも30分間水和した;
2.粉末形態の他のすべての成分(安定剤ブレンド+++及び香味料)を混合し、少なくとも1分間混合することによって氷水(1~3℃)と水和し、その後、それらを冷蔵庫で少なくとも30分間保存した;
3.水和したテクスチャードタンパク質を低速で20秒間剪断した;
4.工程2及び3からの成分、エマルションC又はヒマワリ油及びヤシ油、並びに表3に示す量に従った任意のさらなる成分(例えば、着色料、脂肪、油)を室温で混合し、得られた生地を約2分間ブレンドした;
5.生地を冷蔵庫(2~5℃の温度で操作する)で少なくとも30分間休ませた;
6.この生地からバーガー(直径8cm、高さ2cm、重量100g)を作り、調理前に冷蔵庫(2~5℃)に保存した;
7.バーガーをひまわり油(5g)を入れたフライパンで6分間(4×1.5分)加熱して焼き上げた。
++上述のテクスチャードタンパク質は、テクスチャードエンドウ豆タンパク質(タンパク質含有量最小70%;形態:細片)とテクスチャードそら豆タンパク質(タンパク質含有量最小60%;形態:厚切り)のプレンドである。
+++上記の安定剤ブレンドは、エンドウ豆タンパク質(タンパク質含量最低83%;フォーマット:粉末)、エンドウ豆繊維及びメチルセルロースのブレンドである。
上述の方法により調製した比較例2及び実施例3のバーガーの組成を以下の表3に示す。
[図:0001405853000003.jpg]
比較例2及び実施例3に係るバーガーは、質量、水分及び脂肪含有量が類似しており、それらの特性を比較することができる。比較例2で製造されたバーガーは、構造化エマルションを使用しなかったので、本発明ではない。」
(第37頁第22行~第41頁第6行)
「テクスチャード大豆タンパク質を有する植物ベースのバーガー
先に記載した構造化エマルションの調製のための一般的方法を構造化エマルション、エマルションD及びエマルションEの調製に使用した。表11から分かるように、エマルションEはエマルションDとは異なり、異なるポリヒドロキシ化合物をより少量含む。 エマルションE中の減らされたポリヒドロキシ化合物は、水及び油で補われる。
[図:0001405853000004.jpg]
*使用した乳化剤は、6重量%のステアリン酸ナトリウムを含む蒸留モノグリセリド乳化剤であるDimodan(R)HR 85 S6であった。
**この例で使用したポリヒドロキシ化合物はシュクロースであった。
***この例で使用したポリヒドロキシ化合物はデキストロースであった。
テクスチャード大豆タンパク質を用いる植物ベースのバーガーの一般的な調製方法
以下の手順を用いて、以下の3つの例の植物ベースのバーガーを調製した:
1.粉末形態のすべての成分(安定剤ブレンド*、香味料)及びテクスチャード大豆タンパク質**を混合した。
2.表12に示す量に従って着色料を冷水で希釈し、水和のために工程1からの成分と6分間ブレンドした。
3.表12に示す量のエマルションD、エマルションE又は菜種油を、工程2からの成分と合わせ、得られた生地をさらに2分間ブレンドした。
4.生地を容器に詰め、約10~15分間フリーザー(-18℃~-22℃の温度で操作)で休ませ、生地がバーガーの形成を容易にするためにわずかに堅くなるようにした。
5.この生地からバーガー(直径8cm、高さ2cm、重量100g)を作り、冷凍庫(-18℃~-22℃)に24時間以上保存した。
6.バーガーを菜種油(5g)を入れたグリル皿で12分(8×1.5分)加熱して調理した。
*上述の安定剤ブレンドは、Ingredion, RD 1020の変性デンプン及びハイドロコロイドのブレンドであった。
**上記のテクスチャード大豆タンパク質は、タンパク質含量が最低69%であり、顆粒の形態を有していた。
上記一般的方法により調製した比較例3、実施例4及び実施例5のバーガーの組成を下記表12に示す。
[図:0001405853000005.jpg]
比較例3、実施例4及び実施例5に係るバーガーは、質量及び水分、脂肪含有量が類似しており、それらの特性を比較することができる。比較例3で製造したバーガーは、構造化エマルションを使用していないので、本発明には該当しない。」
(第47頁第10行~第49頁第6行)
「水中油型構造化エマルション及び植物タンパク質を含む肉類似組成物であって、前記構造化エマルションが秩序化されたラメラゲルネットワークを特徴とする、肉類似組成物。」
(第53頁第3~5行(請求項1))
「前記構造化エマルションの油が、アサイー油、アーモンド油、ブナ油、カシューナッツ油、ヤシ油、コルザ油、トウモロコシ油、綿実油、亜麻仁油、グレープフルーツ種子油、ブドウ種子油、ヘーゼルナッツ油、ヘンプ油、レモン油、マカデミア油、カラシ油、オリーブ油、オレンジ油、落花生油、パーム油、パーム核油、ペカン油、松の実油、ピスタチオ油、ケシ種子油、菜種油(高オレイン菜種油など)、米糠油、ベニバナ油(高オレインベニバナ油など)、ゴマ油、シアバター及びその画分(シアオレインなど)、大豆油(高オレイン大豆油など)、ヒマワリ油(高オレインヒマワリ油など)、クルミ油及び小麦胚芽油からなる群より選択される植物油を含み、好ましくは前記構造化エマルションがパーム油及び/又はパーム核油を含まない、先の請求項のいずれか一項に記載の肉類似組成物。」
(第55頁第20~30行(請求項18))
「肉類似食品が、ハンバーガー、ソーセージ、ナゲット、ミートボール、又はミートローフ、好ましくはバーガーの形態を有するミンチ又はひき肉類似物である、請求項21に記載の肉類似食品。」
(第56頁第14~16行(請求項22))
イ 甲4に記載された発明
甲4の実施例1を中心に整理すると、甲4には次の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されていると認める。
<甲4発明>
「氷水530g、植物タンパク質組成物A274g、エマルションA196gをブレンドした生地から作った植物ベースのバーガー(直径8cm、高さ2cm、重量100g)を、ヒマワリ油(5g)を入れたフライパンで6分間(4×1.5分)加熱して焼き上げた植物ベースのバーガーであって、エマルションAが秩序化されたラメラゲルネットワークによって特徴付けられる植物ベースのバーガー。
植物タンパク質組成物A:エンドウ豆タンパク質、テクスチャード野菜タンパク質、増粘剤(メチルセルロース)、塩、スパイス、野菜抽出物、スパイス抽出物、グルコースシロップ、香味料、着色料、並びに脂肪、炭水化物及び繊維を含む。
エマルションA:油相として高オレインヒマワリ油60g、乳化剤(6重量%のステアリン酸ナトリウムを含む蒸留モノグリセリド乳化剤)5g、水相としてポリヒドロキシ化合物(67%スクロースを含む糖から得られる栄養糖類の水溶液である糖組成物)27.3g、水道水7.7gからなる。」
(2)検討
ア 本件特許発明1についての対比・判断
本件特許発明1と甲4発明とを対比する。
甲4発明における「植物ベースのバーガー」は、本件特許発明1における「代替肉製品」に相当する。
甲4発明においては、エマルションAとして高オレインヒマワリ油が乳化状態で配合されているから、本件特許発明1における「乳化した油脂」を含有する。
そうすると、本件特許発明1と甲4発明との一致点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「乳化した油脂を含む代替肉製品。」
<相違点4-1>
本件特許発明1においては、「pHが7.8~8.5であり」「前記pHは前記代替肉製品を細切りにし、蒸留水で3倍に希釈してからストマッカーを用いた粉砕、均質化を行い懸濁液とし、前記懸濁液にpHメーターを差し込み、20~25℃で測定したものであ」るとの特定を有するのに対して、甲4発明においてはそのような特定はない点。
<相違点4-2>
本件特許発明1においては、「乳化した油脂が3~32.70質量%で」「乳化した油脂の質量は、前記代替肉製品を乾燥したろ紙で挟み、重しを載せて温調することにより「乳化していない油脂」を流出させた後のものを試料とし、バブコック変法により、前記試料に濃硫酸60%過塩素酸-氷酢酸(1:1,V/V)の混合試薬を加え、浮かび上がった脂肪(油分)の体積に脂肪の比重0.92を乗じ、さらに補正係数0.95を乗じた値である。」との特定を有するのに対して、甲4発明においてはそのような特定はない点。
相違点4-1について検討する。
甲4には、代替肉製品のpHに関する記載はないから、相違点4-1は実質的な相違点である。
そして、甲4及び他の全ての証拠をみても、甲4発明において代替肉製品のpHを調整する動機となる記載はない。
したがって、甲4発明において、相違点4-1に係る本件特許発明1の特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。
特許異議申立人は、特許異議申立書(第28頁)において次のように主張している。
・甲4実施例発明のエマルションA~Eに「使用した乳化剤は、6重量%のステアリン酸ナトリウムを含む蒸留モノグリセリド乳化剤であるDimodan(R)HR 85S6」であるところ、甲4によれば、「ステアリン酸ナトリウム・・・の存在は、水相中で8.0~9.0までのpHを生じる」のであるから、これらのエマルションは、水相のpHが8.0~9.0ということになる。そして、甲4実施例発明は、構造化エマルションであるエマルションA~Eの水相のpHが8.0~9.0であることによって、長い微生物保存寿命を達成し得るものである。
さらに一方で、食品のpHを調整して、食品のpHを微生物の活動が活発になる至適pH域、例えばpH7~8(中性・弱アルカリ性)、から外れるようにして、微生物の増殖を抑制することは、本件出願前、食品分野において普通に行われていたことである(甲5~甲7)。
甲4実施例発明である植物ベースのバーガーの長い微生物保存寿命を達成するため、それ自体の水抽出法で測定した最適なpHを8.0~9.0の範囲内で検討し、・・・(中略)・・・設定することは、当業者が適宜なし得る程度のことである。
特許異議申立人の主張について、以下に検討する。
甲4発明の植物ベースのバーガー中に配合されるエマルションAに使用された乳化剤は、エマルションAの水相をpH8.0~9.0にするとしても、甲4には、植物ベースのバーガーのpHに関して何ら記載がない。甲4発明の植物ベースのバーガーにはエマルションA以外の材料も多く含まれることから、甲4発明の植物ベースのバーガーのpHは依然として不明である。
そして、甲4及び他の全ての証拠をみても、甲4発明において、植物ベースのバーガーである代替肉製品のpHを、「7.8~8.5」とする動機となる記載はない。
加えて、本件特許発明1は代替肉製品の「pHが7.8~8.5かつ乳化した油脂が3~32.70質量%」とすることにより、食肉製品のような風味をアルカリ臭によって損なうことなく、特定乳酸菌の増殖を抑制することができる、という顕著な効果を奏するものである。
よって、本件特許発明1は甲4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 本件特許発明2ないし4についての対比・判断
本件特許発明2ないし4は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであって、請求項1に記載された発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明1と同様に判断される。
よって、本件特許発明2ないし4は甲4発明ではなく、甲4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)申立理由4についてのむすび
本件特許発明1ないし4は、特許法第29条第1項第3号に該当せず、特許法第29条第2項に該当しないから、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、特許法第113条第2号に該当しない。
したがって、申立理由4によって本件特許の請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
5 申立理由5(甲10に基づく新規性・進歩性)について
(1)甲10、甲10の2、甲11の記載事項等
ア 甲10の記載事項
甲10には、日本ハム株式会社から販売された製品について、次の事項が記載されている。
[図:0001405853000006.jpg]
[図:0001405853000007.jpg]
イ 甲10の2の記載事項
甲10の2には、甲10に記載された製品の商品パッケージについて、次の事項が記載されている。
[図:0001405853000008.jpg]
[図:0001405853000009.jpg]
ウ 甲11の記載事項
甲11には、試験サンプル「ナチュミート ハムタイプ(販売者:日本ハム株式会社)<別紙参照> Lot No:G21i268」のpH、未乳化油脂量、乳化油脂量の分析結果について次の事項が記載されている。
[図:0001405853000010.jpg]
[図:0001405853000011.jpg]
[図:0001405853000012.jpg]
[図:0001405853000013.jpg]
エ 甲10に記載された発明
甲10及び甲10の2から、甲10には次の発明(以下、「甲10発明」という。)が記載されていると認める。
「原材料として、植物油(国内製造)、卵たん白、大豆たん白食品、食塩、砂糖、酵母エキス、酵母エキス調味料/調味料(有機酸等)、加工デンプン、カゼインNa、酸化防止剤(ビタミンC)、pH調整剤、クチナシ色素、増粘多糖類、香辛料、香料を含有し、栄養成分表示1パック(60g)当たり、熱量130kcal、たんぱく質9.1g、脂質8.2g、炭水化物6.3g(糖質3.5g、食物繊維2.8g)、食塩相当量1.9gである、大豆ミート使用のハムTYPEナチュミート。」
(2)検討
ア 本件特許発明1についての対比・判断
本件特許発明1と甲10発明とを対比する。
甲10発明における「大豆ミート使用のハムTYPEナチュミート」は、大豆ミートという代替肉を使用した、ハム様製品であるから、本件特許発明1における「代替肉製品」に相当する。
甲10発明は、「現材料として」「植物油(国内製造)」を含有し、「栄養成分表示1パック(60g)当たり」「脂質8.2g」であるから、本件特許発明1における「乳化した油脂」を含む。
そうすると、本件特許発明1と甲10発明との一致点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「乳化した油脂を含む代替肉製品。」
<相違点10>
本件特許発明1においては、「pHが7.8~8.5かつ乳化した油脂が3~32.70質量%であ」り、「前記pHは前記代替肉製品を細切りにし、蒸留水で3倍に希釈してからストマッカーを用いた粉砕、均質化を行い懸濁液とし、前記懸濁液にpHメーターを差し込み、20~25℃で測定したものであり、前記乳化した油脂の質量は、前記代替肉製品を乾燥したろ紙で挟み、重しを載せて温調することにより「乳化していない油脂」を流出させた後のものを試料とし、バブコック変法により、前記試料に濃硫酸60%過塩素酸-氷酢酸(1:1,V/V)の混合試薬を加え、浮かび上がった脂肪(油分)の体積に脂肪の比重0.92を乗じ、さらに補正係数0.95を乗じた値である。」との特定を有するのに対して、甲10発明においてはそのような特定はない点。
相違点10について検討する。
甲11には、「ナチュミート ハムタイプ(販売者:日本ハム株式会社)<別紙参照> Lot No:G21i268」のpH、未乳化油脂量、乳化油脂量の分析試験結果が記載されているが、甲11の別紙を参照すると、甲11の試験対象物には次の記載がある。
「LOT.G21j008」(下線は説明のため当審にて付与した。)
してみると、甲11の試験対象物は、甲11の別紙に示されたものではないから、試験対象物を確認することができない。
また、仮に、甲11の試験対象物が甲11の別紙に示されるものであったとしても、甲11の別紙に示される試験対象物は、「原材料名:植物油(国内製造)、大豆たん白、卵たん白、食塩、砂糖、酵母エキス、酵母エキス調味料/調味料(有機酸等)、加工デンプン、カゼインNa、酸化防止剤(ビタミンC)、pH調整剤、クチナシ色素、増粘多糖類、香辛料、香料」であり、「栄養成分表示1パック(60g)当たり:熱量136kcal、たんぱく質8.8g、脂質9.0g、炭水化物5.3g(糖質4.8g、食物繊維0.5g)、食塩相当量2.1g」(下線は甲10発明との対比のため、当審にて付与した。)であり、甲10発明における代替肉製品と、甲11の試験対象物は、原材料表示の大豆たん白と卵たん白の表示順、及び、栄養成分表示の各数値が異なっていることから、甲11の試験対象物は甲10発明の代替肉製品ではないことが明らかである。
したがって、甲10発明の代替肉製品のpHと、乳化した油脂の量は、依然として不明である。
よって、相違点10は実質的な相違点である。
そして、甲10及び他の全ての証拠をみても、甲10発明において、相違点10に係る代替肉製品のpH及び乳化した油脂の量を調整する動機となる記載はない。
さらに、本件特許発明1は代替肉製品の「pHが7.8~8.5かつ乳化した油脂が3~32.70質量%」とすることにより、食肉製品のような風味をアルカリ臭によって損なうことなく、特定乳酸菌の増殖を抑制することができる、という顕著な効果を奏するものである。
よって、本件特許発明1は甲10発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 本件特許発明2ないし4についての対比・判断
本件特許発明2ないし4は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであって、請求項1に記載された発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明1と同様に判断される。
よって、本件特許発明2ないし4は甲10発明ではなく、甲10発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)申立理由5についてのむすび
本件特許発明1ないし4は、特許法第29条第1項第3号に該当せず、特許法第29条第2項に該当しないから、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、特許法第113条第2号に該当しない。
したがって、申立理由5によって本件特許の請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
第5 結語
以上のとおり、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、特許異議申立書に記載した申立理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2023-700967