特許異議申立
2025-701016
研磨用分散液
- 審判番号
- 2025-701016
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2025-506221
- 登録番号
- 7668977
- 請求日
- 2025年10月21日
- 審決日
- 2025年12月22日
- 公報発行日
- 2026年01月30日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】第一稀元素化学工業株式会社
- 【権利者代理人】細田 芳徳
- 【異議申立人】寺澤 佳奈美
- 審判長/審判官
- 審判長 澤田 真治
- 審判官 立澤 正樹
- 審判官 有家 秀郎
- 分類
- P1651.121-Y (C09K) / P1651.537-Y (C09K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7668977号発明「研磨用分散液」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7668977号の請求項1~17に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7668977号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし17に係る特許についての出願は、2024年(令和6年)10月7日を国際出願日(優先権主張 2023年(令和5年)10月13日(以下、「本件優先日」という。) 日本国)とする日本語特許出願であって、令和7年4月17日にその特許権の設定登録がされ、同月25日に特許掲載公報が発行された。
その後、同年10月21日に、特許異議申立人 寺澤 佳奈美(以下、「申立人」という。)により、特許異議申立書(以下、「申立書」という。)が提出され、本件特許の請求項1ないし17に係る特許について、特許異議の申立てがされた。
第2 本件発明
本件特許の請求項1ないし17に係る発明(以下「本件発明1」等といい、全体を「本件発明」という。)は、本件特許の願書に添付された特許請求の範囲の請求項1ないし17に記載された事項により特定されるべきものであり、その記載は次のとおりである。
なお、当審において適宜に改行を整え、分説を付した。
「【請求項1】
1A: 単斜晶相を含有し単斜晶(-111)面と単斜晶(111)面の結晶子径の比((-111)面/(111)面)が0.50~0.95である酸化ジルコニウム
1B: 及び研磨助剤を含む、
1C: 研磨用分散液。
【請求項2】
2A: 前記酸化ジルコニウムの各結晶面の結晶子径が2.0~100.0nmである、
2B: 請求項1に記載の研磨用分散液。
【請求項3】
3A: 前記酸化ジルコニウムが更に正方晶相を含有する、
3B: 請求項1に記載の研磨用分散液。
【請求項4】
4A: 前記酸化ジルコニウムにおける正方晶相の含有率が体積分率で2.0~90.0%である、
4B: 請求項3に記載の研磨用分散液。
【請求項5】
5A: 前記酸化ジルコニウムにおける単斜晶(-111)面と正方晶(101)面の結晶子径の比((-111)面/(101)面)が0.30~1.20である、
5B: 請求項3に記載の研磨用分散液。
【請求項6】
6A: 前記研磨助剤が、過酸化物、硝酸化合物、過硫酸化合物、塩素化合物、臭素化合物、ヨウ素化合物、鉄酸類、過マンガン酸類、クロム酸類、バナジン酸類、ルテニウム酸類、モリブデン酸類、レニウム酸類、及びタングステン酸類からなる群より選択される1種以上を含む、
6B: 請求項1に記載の研磨用分散液。
【請求項7】
7A: SiCウエハの研磨に用いられる、
7B: 請求項1に記載の研磨用分散液。
【請求項8】
8A: 単斜晶相を含有し単斜晶(-111)面と単斜晶(111)面の結晶子径の比((-111)面/(111)面)が0.50~0.95である酸化ジルコニウム
8B: 及び研磨助剤を用いて
8C: 分散液を調製する工程を含む、
8D: 前記酸化ジルコニウム及び研磨助剤を含む研磨用分散液の製造方法。
【請求項9】
9A: 単斜晶相を含有し単斜晶(-111)面と単斜晶(111)面の結晶子径の比((-111)面/(111)面)が0.50~0.95である酸化ジルコニウム
9B: 及び研磨助剤を用いて
9C: 研磨する、
9D: 研磨レートの向上方法。
【請求項10】
10A: 単斜晶相を含有し単斜晶(-111)面と単斜晶(111)面の結晶子径の比((-111)面/(111)面)が0.50~0.95である酸化ジルコニウム
10B: 及び研磨助剤を用いて
10C: 研磨する、
10D: 表面粗さRaの低減方法。
【請求項11】
11A: 単斜晶相を含有し単斜晶(-111)面と単斜晶(111)面の結晶子径の比((-111)面/(111)面)が0.50~0.95である酸化ジルコニウム粉末
11B: を含む、研磨用粉末。
【請求項12】
12A: 前記酸化ジルコニウム粉末の各結晶面の結晶子径が2.0~100.0nmである、
12B: 請求項11に記載の研磨用粉末。
【請求項13】
13A: 前記酸化ジルコニウム粉末の平均2次粒子径が0.002~5μmである
13B: 請求項11又は12に記載の研磨用粉末
【請求項14】
14A: 前記酸化ジルコニウム粒子の平均2次粒子径が0.1μm以下である、
14B: 請求項13に記載の研磨用粉末
【請求項15】
15A: 前記酸化ジルコニウム粉末の純度が97質量%以上である、
15B: 請求項11に記載の研磨用粉末。
【請求項16】
16A: 前記酸化ジルコニウム粉末が湿式法により製造されたものである、
16B: 請求項11に記載の研磨用粉末。
【請求項17】
17A: 前記酸化ジルコニウム粉末の比表面積が20m2/g以上である、
17B: 請求項11に記載の研磨用粉末。」
第3 証拠方法、及び特許異議申立理由の概要
1 証拠方法
申立人が申立書に添付して提出した証拠は、次のとおりである(以下、甲第1号証等を、「甲1」等という場合がある。)。
・甲1: 特開2010-105892号公報
・甲2: 国際公開第2024/004750号
・甲3: Arantes et.al., “Stable colloidal suspensions of nanostructured zirconium oxide synthesized by hydrothermal process”, Journal of Nanoparticle research, 2010 vol.12, pages 3105-3110
・甲4: SmartLab Studio IIによるX線回折チャートの解析、2025年9月25日、申立人作成
・甲5: 特開2012-253259号公報
・甲6: 特開2015-5702号公報
・甲7: 特開2008-78233号公報
・甲8: 特開2023-131086号公報
2 特許異議申立理由の概要
申立人が申立書において主張する特許異議申立理由の概要は、次のとおりである。
(1)甲1を主たる証拠とした進歩性欠如(以下、「申立理由1」という。)
本件特許の請求項1、2、6~17に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明、甲3に記載された事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、これらの発明に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであって、同法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)甲7を主たる証拠とした進歩性欠如(以下、「申立理由2」という。)
本件特許の請求項1~17に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲7に記載された発明、甲3に記載された事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、これらの発明に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであって、同法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)明確性要件違反(以下、「申立理由3」という。)
本件特許の請求項1~10、16に係る発明は、明確ではない。
したがって、これらの発明に係る特許は、特許法36条6項2号の規定を満たさない特許出願に対してされたものであって、同法113条4号に該当し、取り消されるべきものである。
(4)サポート要件違反(以下、「申立理由4」という。)
本件特許の請求項1~17に係る発明は、本件特許の願書に添付された明細書及び図面に記載されたものではない。
したがって、これらの発明に係る特許は、特許法36条6項1号の規定を満たさない特許出願に対してされたものであって、同法113条4号に該当し、取り消されるべきものである。
第4 当審の判断
1 証拠について
事案に鑑み、申立理由1の主たる証拠である甲1、申立理由2の主たる証拠である甲7、及び甲3の記載についてみる。
(1)甲1
ア 記載事項
本件優先日前に頒布または電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1には、以下の記載がある(下線は、当審において付した。以下、同様。)。
(ア)【0014】~【0047】
「【0014】
このように、これまでのジルコニア微粒子の製造方法では、粒子形態が不均一もしくは分散性が悪いという問題があった。そのため、正極又は負極活物質コート材料用、電池材料用、研磨剤用、屈折率調整材料用、塗料用、生体材料用、電子材料用、顔料用、触媒材料用、触媒担体用、光学材料用、セラミックス材料用、蒸着材料用、吸着剤用等の材料として使用する場合、粒子形態の高均一化、高分散化、高結晶化を同時に実現するという課題が残されている。
・・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は上記のような事情を鑑みなされたものであり、正極又は負極活物質コート材料用、電池材料用、研磨剤用、屈折率調整材料用、塗料用、生体材料用、電子材料用、顔料用、触媒材料用、触媒担体用、光学材料用、セラミックス材料用、蒸着材料用、吸着剤用の材料等の様々な用途に適した、粒子径の制御が可能であり、結晶性が高く、凝集がなく分散性に優れ、粒子形態が均一であるジルコニア微粒子及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、これらの課題を解決すべく鋭意検討を進めた結果、水熱反応時のジルコニウム水酸化物含有水溶液において、ジルコニウム(以下Zrとも表記する)、アルカリ含有量及び水熱反応温度を最適化して得られる、特定の平均粒子径、特定の粒子径分布、及び特定の粒子形状を有するジルコニア微粒子が、粒子径及び棒状のアスペクト比(=長軸径/短軸径)の制御が可能であり、結晶性が高く、凝集がなく分散性に優れた微粒子を得ることができ、特に正極又は負極活物質コート材料用、電池材料用、研磨剤用、屈折率調整材料用、塗料用、生体材料用、電子材料用、顔料用、触媒材料用、触媒担体用、光学材料用、セラミックス材料用、蒸着材料用、吸着剤用等の材料として使用する場合、高均一性、高分散性、高結晶性等の要求される性能を有することを見出し、本発明を完成させた。
・・・・
【0024】
その理由は明らかではないが、ジルコニア微粒子では、一次粒子の形成後、一次粒子表面への溶質析出、及び一次粒子の凝集機構により粒子成長が生じる。一次粒子の溶質析出及び凝集に対して、アルカリが鉱化剤として作用するため、アルカリ量を調整することにより粒子形態の制御が可能である。アルカリ量については、ジルコニウムに対する中和度で定量化できる。また、水熱反応時の温度、圧力、中和度が高くなるにつれて、結晶構造が正方晶から単斜晶となり易く、結晶子サイズが増大する。ジルコニア微粒子の結晶構造が単斜晶で、粒子形状が棒状となると、粒子同士の凝集が見られず、分散性が向上する。
【0025】
本発明のジルコニア微粒子は、レーザー回折/散乱法により測定した体積基準の粒度分布のメジアン径が0.02~1.0μmであり、0.02~0.5μmであることが好ましく、0.05~0.3μmであることがより好ましい。メジアン径が0.02μmより小さい場合、凝集により分散性が悪く、変動係数が大きくなる。メジアン径が1.0μmより大きい場合、分散性は良いが、ポリマー中に分散させたときの充填性、コーティングの際の被覆効率、研磨の際の研磨効率などが悪い。
【0026】
また、本発明のジルコニア微粒子は、レーザー回折/散乱法により測定した体積基準の粒度分布の変動係数が、40.0%以下であり、35.0%以下であることが好ましく、30.0%以下であることがより好ましい。粒度分布の変動係数が40.0%より大きい場合、凝集により分散性が悪く、ポリマー中に分散させたときの充填性、コーティングの際の被覆効率、研磨の際の研磨効率などが悪い。
・・・・
【0028】
また、本発明のジルコニア微粒子は、その平均粒子径が0.02~1.0μmであり、0.02~0.5μmであることが好ましく、0.05~0.3μmであることがより好ましい。該ジルコニア微粒子の平均粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)による観察に基づいて倍率が3~50万倍のTEM像から、200個以上の任意の粒子の粒子径(棒状の長軸径)を計測し、その平均値より求める。粒子形態を均一で、高分散性なものとできる下限は0.02μmである。反応温度を高温とし、中和度を高くして結晶成長を促進した場合、平均粒子径は1.0μmを超えると均一に制御することが困難である。
【0029】
また、本発明のジルコニア微粒子は、粒子径分布の相対標準偏差が40.0%以下であり、35.0%以下であることが好ましく、30.0%以下であることが一層好ましい。このような狭い範囲の粒子径分布をとることにより、溶液又はポリマー中に分散させたときの充填性を向上させることができる。上記粒子径分布の相対標準偏差が40.0%を超えると分散させたときの充填性が悪くなり、耐久性、イオン電導性、研磨性能、屈折率特性等の低下を招くため好ましくない。
【0030】
また、本発明のジルコニア微粒子は、粒子形状が棒状であり、その平均粒子径が先に述べた範囲であることに加えて、アスペクト比が1.5~5.0であり、1.5~4.0であることが好ましく、1.5~3.5であることがより好ましい。アスペクト比は上記の平均粒子径と同様に求めた棒状の短軸径から算出した。上記アスペクト比が1.5未満である場合、粒子形状が不均一な粒状となり、凝集により分散性が悪いため好ましくない。また、反応温度を高温とし、中和度を高くして結晶成長を促進させても、アスペクト比は5.0で上限となる。
・・・・
【0041】
(実施例1~20及び比較例1~6)
[ジルコニア微粒子の製造]
ジルコニウム塩水溶液としてオキシ塩化ジルコニウム水溶液、又はオキシ硝酸ジルコニウム水溶液を、アルカリ水溶液として水酸化ナトリウム水溶液を用いて、表1記載のZr塩、Zr量、アルカリ量、中和度[アルカリ量/(2×Zr量)]となるように原料を準備した。次に、ジルコニウム塩水溶液に水酸化ナトリウム水溶液を添加して、ジルコニウム水酸化物含有水溶液を調製した。調製後のジルコニウム水酸化物含有水溶液のpHを〔表1〕に示す。調製したジルコニウム水酸化物含有水溶液をオートクレーブで攪拌しながら、〔表1〕記載の条件にて水熱反応を行った。反応終了後、室温まで冷却を行い、生成物を濾過、水洗、乾燥(150℃にて8時間)して目的物であるジルコニア微粒子を得た。また、比較例6は市販品のジルコニア微粒子である。
【0042】
実施例1~20及び比較例1~6得られたジルコニア微粒子について、X線回折(定性分析、結晶子サイズ)、比表面積、平均粒子径、粒子形状及び均一性、アスペクト比、粒度分布[メジアン径、累積頻度10%径(D10)、90%径(D90)及び変動係数]、及び分散性評価を以下の(1)~(5)の方法により評価した。それらの結果を〔表1〕に示す。また、実施例4の電子顕微鏡写真(6万倍)を〔図1〕に、比較例2の電子顕微鏡写真(50万倍)を〔図2〕に、比較例3の電子顕微鏡写真(20万倍)を〔図3〕に示す。
【0043】
(1)X線回折(定性分析、結晶子サイズ)
ブルカーAXS社製X線回折装置(D8 ADVANCE/V)にて測定し、定性分析及びPawley法により単斜晶の結晶子サイズを求めた。
【0044】
(2)比表面積
マウンテック社製全自動BET比表面積測定装置(Macsorb HM Model-1210)にて測定した。
【0045】
(3)平均粒子径の測定、均一性評価、粒子形状及びアスペクト比
透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、200個以上の任意の粒子の粒子径(棒状の長軸径)を計測し、その平均値より求めた。粒子形状はTEM像の観察より評価し、均一性は平均粒子径の測定値の相対標準偏差より評価した。アスペクト比は、平均粒子径と同様の方法により棒状の短軸径の平均値を求め、[長軸径/短軸径]より算出した。
【0046】
(4)粒度分布(メジアン径、D10、D90、及び変動係数)
ジルコニア微粒子20~40mgを0.2重量%のヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液30mlに添加し、ホモジナイザにより分散させた(360~600Wにて30~90秒間)。その分散液を堀場製作所製レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(LA-950)にて測定し、体積基準のメジアン径、D10、D90、及びその変動係数を求めた。
【0047】
(5)分散性評価
粒度分布測定で用いた分散液を静置し、凝集、沈降粒子の状態を観察することにより、分散性を評価した(分散液が安定に分散している場合を○、凝集、沈降した場合を×とした)。」
(イ)【0048】、【表1】
「
[図:0001431184000001.jpg]
」
なお、上記【表1】において、「実施例4」では、「X線回折」の欄に「単斜晶-ZrO2」、「結晶子サイズnm」の欄に「24.1」、「平均粒子径μm」の欄に「0.077」、「相対標準偏差%」の欄に「36.7」、「粒子形状」の欄に「棒状」、「アスペクト比」の欄に「2.4」、「粒度分布」「メジアン径μm」の欄に「0.082」、「粒度分布」「変動係数%」の欄に「13.9」と記載されている。
(ウ)【0049】~【0050】
「【0049】
実施例1~20の結果より、本発明のジルコニア微粒子では、中和度、水熱反応温度を制御することで、結晶構造が単斜晶の単相で結晶性が高く、〔図1〕に示すように平均粒子径の相対標準偏差が40.0%以下の均一な棒状粒子を得ることができる。中和度1.0~3.0の領域では、中和度の増加により、平均粒子径及びアスペクト比を大きくすることができ、中和度3.0~11.0の領域では、中和度の増加によりアスペクト比を小さく、且つ粒子径を大きくすることができる。また、粒度分布の測定結果より、平均粒子径とメジアン径が良く一致しており、変動係数が40.0%以下であることから、凝集がなく高い分散性を示していることがわかる[ただし、粒子形態が棒状であるため長軸径と短軸径の差があり、粒子径が大きくなると平均粒子径(長軸径)と比較してメジアン径(球状換算)が小さくなる]。アスペクト比の制御因子としては中和度とZr塩があり、同反応条件においてはオキシ塩化Zrよりもオキシ硝酸Zrの方がアスペクト比を大きく制御できる。
【0050】
比較例1~6の結果より、比較例1及び2では、水熱反応温度が200℃であるが、結晶構造が単斜晶ではなく、正方晶もしくは正方晶と単斜晶の混相である。このとき、粒子形態は不均一な粒状となり、粒子同士が著しく凝集しており、分散性が悪い。比較例3では、水熱反応温度が350℃であり、結晶構造が正方晶と単斜晶の混相となる。また、粒子形態が不均一な粒状と1.5~3.0程度の棒状粒子の混合物である。比較例4では、水熱反応温度が250℃で、結晶構造が単斜晶であり、粒子形態が均一な棒状であっても凝集により分散性が悪い。そして、水熱反応温度が300℃以上、中和度が1.0以上では分散性に優れた、均一な棒状粒子を得ることができるが、比較例5のように、中和度0.8の場合では凝集により分散性が悪く、粒子形態が粒状となる。比較例6は市販品のジルコニア微粒子であるが、結晶構造が単斜晶の単相であり、平均粒子径の相対標準偏差が小さく均一な粒子であるが、粒子形態が不定形であり、凝集により分散性が低下するため、粒度分布の変動係数が大きい。」
イ 記載された発明
上記アより、甲1には、申立人が主たる引用発明の根拠とする実施例4、及び実施例4に関連する説明に着目すると、次の発明(以下、「甲1粒子発明」、「甲1分散液発明」、「甲1分散液製法発明」及び「甲1方法発明」という。)が記載されている(なお、各構成の認定の根拠とした段落番号を、括弧書きで付した。)。
<甲1粒子発明>
甲1A: 単斜晶を含有し、結晶子サイズが24.1nm、平均粒子径が0.077μm、粒子径分布の相対標準偏差が36.7%、粒子形状が棒状でアスペクト比が2.4、ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液に分散させた粒度分布のメジアン径が0.082μm、ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液に分散させた粒度分布の変動係数が13.9%、のジルコニア微粒子であって、(【0025】、【0026】、【0028】、【0029】、【0030】、【0046】、【0049】、【表1】の実施例4)
甲1B: 研磨剤用等の材料として使用する場合、高均一性、高分散性、高結晶性等の性能を有する、(【0017】)
甲1C: ジルコニア微粒子(【0049】)
<甲1分散液発明>
甲1D: 甲1粒子発明に係るジルコニア微粒子を、
甲1E: ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液に分散させた、(【0046】)
甲1F: 分散液(【0046】)
<甲1分散液製法発明>
甲1G: 甲1粒子発明に係るジルコニア微粒子を、
甲1H: ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液に分散させる、(【0046】)
甲1I: 分散液の製造方法(【0046】)
<甲1方法発明>
甲1J: 甲1粒子発明に係るジルコニア微粒子を、
甲1K: 使用する方法(【0017】)
(2)甲7
ア 記載事項
本件優先日前に頒布または電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲7には、以下の記載がある。
「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願発明の研磨用組成物は、半導体基板上の銅及び銅合金、アルミニウム、タングステン等の金属膜を高速に研磨し、かつ段差部の平坦性やウェハーの面内均一性を向上し、また研磨用組成物の分散性を向上し、被研磨材料面のスクラッチなどの欠陥を抑制しようとするものである。
更に、銅及び銅合金の研磨速度が速く、一方タンタル、タンタル合金及び窒化タンタルのバリア層がほとんど研磨されないという特性を持った一次研磨工程で使用する研磨用組成物(一次研磨用組成物)を提供することを目的とする。
・・・・
【発明の効果】
【0006】
本願発明の研磨用組成物は、研磨助剤としてシアヌル酸及びホウ酸塩等の両方を含有し、更に過酸化水素、過沃素酸カリウム、沃素酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の酸化剤、ベンゾトリアゾール等の保護膜形成剤及び水を含有する研磨用組成物が半導体デバイス製造における金属配線用化学機械的研磨用組成物として優れていることを見出した。
更に、シリカ、アルミナ、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン等の無機物砥粒、ポリ塩化ビニル、ポリアクリル、ポリスチレン等の高分子砥粒を含み金属配線用化学的機械研磨用組成物として優れている。
【0007】
本願発明の研磨用組成物は、半導体基板上の銅及び銅合金、アルミニウム、タングステン等の金属膜を高速に研磨し、かつ段差部の平坦性やウェハーの面内均一性を向上し、また研磨用組成物の分散性を向上し、被研磨材料面のスクラッチなどの欠陥を抑制することができる。
更に本願発明の研磨用組成物は、銅及び銅合金の研磨速度が速く、一方タンタル、タンタル合金及び窒化タンタルからなるバリア層が研磨されないという特性を持ち、一次研磨工程で使用する研磨用組成物(一次研磨用組成物)である。
・・・・
【0013】
また、本願発明に用いられる酸化ジルコニウム粒子は、例えば110℃で乾燥して、X線回折パターンを測定したところ、回折角度2θ=28.6°、47.5°及び56.4°に主ピークを有し、ASTMカードNo.34-394に記載の単斜系の結晶性の高い酸化ジルコニウム粒子が挙げられる。
・・・・
【実施例】
【0015】
合成例1
アドバンスド・マテリアル・リソーシズ(ADVANCED MATERIAL RESOURCES LTD)製のオキシ炭酸ジルコニウム粉末68kgを電気炉に仕込み740℃で20時間焼成した。得られた焼成粉を粉末X線回折法で測定したところ、回折角度2θ=28.6°、47.5°及び56.4°に主ピークを有し、ASTMカード34-394に記載の斜方晶系の結晶性酸化ジルコニウムの特性ピークと一致した。また、酸化ジルコニウム粒子のガス吸着法(BET法)による比表面積値は13m2/gで、ガス吸着法による比表面積から換算した粒子径として82nmであった。
得られた酸化ジルコニウム焼成粉369gと40%のポリアクリル酸アンモニウム溶液(花王(株)製)18.5gと純水730.7gを1mmφジルコニアビーズ3800gを仕込んである3Lボールミル容器に入れ、回転数60rpmで48時間湿式粉砕した。水押ししてビーズ分離することにより固形分21.8質量%、pH9.1、電気伝導度2.54mS/cm、粘度1.3mPa・sの水性ゾルが得られた。この水性ゾルを450℃で乾燥して得られた酸化ジルコニウム粒子のガス吸着法(BET法)による比表面積値は26m2/gで、ガス吸着法による比表面積から換算した粒子径として41nmであった。更にMASTERSIZER2000(MARVERN社製)で測定したレーザー回折法のd50粒子径(平均粒子径)は93nmで、d90粒子径は135nmであった。またFPAR1000(大塚電子(株)製)で測定した動的光散乱法の平均粒子径は91nmであった。また透過型電子顕微鏡で観察した粒子の一次粒子径の平均値は60nmであった。この水性ゾルは長時間静置しても沈降物がほとんど無かった。
・・・・
【0018】
・・・・
実施例1
研磨用組成物(A)を作成した。その配合組成は、合成例1で得られた酸化ジルコニウム1.0質量%、シアヌル酸0.2質量%、五ホウ酸アンモニウム2.0質量%、過酸化水素0.9質量%を含有し、pH7.8であった。レーザー回折法で測定された平均粒子径は94nm、また、レーザー回折法の測定では500nm以上の粒子は存在しなかった。
銅膜の研磨速度は300nm/分、タンタル膜の研磨速度は36nm/分、銅/タンタルの研磨速度比は8.3、銅膜の研磨面の欠陥は観察されなかった。」
イ 記載された発明
上記アより、甲7には、申立人が主たる引用発明の根拠とする合成例1及び実施例1、並びに合成例1及び実施例1と関連する説明に着目すると、次の発明(以下、「甲7粒発明」、「甲7研磨用組成物発明」、「甲7研磨用組成物製法発明」及び「甲7方法発明」という。)が記載されている(なお、各構成の認定の根拠とした段落番号を、括弧書きで付した。)。
<甲7粒発明>
甲7A: 銅及び銅合金の研磨速度が速く、一方タンタル、タンタル合金及び窒化タンタルからなるバリア層が研磨されないという特性を持つ研磨用組成物を提供するために、研磨助剤としてシアヌル酸及びホウ酸塩等の両方を含有する金属配線用化学機械的研磨用組成物に含める、無機物砥粒としての酸化ジルコニウムであって、(【0004】、【0006】、【0007】)
甲7B: オキシ炭酸ジルコニウム粉末を焼成して得られた焼成粉である斜方晶系の結晶性酸化ジルコニウム焼成粉を、ポリアクリル酸アンモニウム溶液と純水とともにボールミル容器に入れ、湿式粉砕し、水押ししてビーズ分離して得た水性ゾルに含まれ、動的光散乱法の平均粒子径が91nmであり、長時間静置しても沈降物がほとんど無い、(【0015】)
甲7C: 無機物砥粒としての酸化ジルコニウム(【0006】、【0015】)
<甲7研磨用組成物発明>
甲7D: 甲7粒発明に係る無機物砥粒としての酸化ジルコニウムと、
甲7E: シアヌル酸、五ホウ酸アンモニウム、過酸化水素を含有し、(【0018】)
甲7F: レーザー回折法で測定された平均粒子径は94nmであり、500nm以上の粒子は存在しない、(【0018】)
甲7G: 研磨用組成物(【0018】)
<甲7研磨用組成物製法発明>
甲7H: 甲7粒発明に係る無機物砥粒としての酸化ジルコニウムと、
甲7I: シアヌル酸、五ホウ酸アンモニウム、過酸化水素とを含有させ、(【0018】)
甲7J: レーザー回折法で測定された平均粒子径は94nmであり、500nm以上の粒子は存在しない、(【0018】)
甲7K: 研磨用組成物を製造する方法(【0018】)
<甲7方法発明>
甲7L: 甲7粒発明に係る無機物砥粒としての酸化ジルコニウムを
甲7M: 金属配線用化学機械的研磨用組成物に含めて使用する方法(【0006】)
(3)甲3
ア 記載事項
本件優先日前に頒布または電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲3には、次の記載がある。なお、括弧内に対訳(申立人による対訳を参考に、当審において作成)を付した。
なお、結晶について言及する「111」等の箇所で、上に横棒が付された数字については、英文・対訳とも、数字の前に「-」を付して表記した。また、文字の全角・半角は、当審で適宜に調整した。下線は、対訳のみに付した。
(ア)第3105頁左欄「Abstract」
「Abstract Nanocrystalline zirconium oxide was synthesized by hydrothermal treatment of ZrO(N03)2 and ZrOCl2 aqueous solutions at different temperatures and time in presence of hydrogen peroxide. Hydrothermal treatment of zirconium salts (0.25 and 0.50 mol L-1) produced nanocrystalline monoclinic Zr02 powders with narrow size distribution, which were formed by the attachment of the smaller particles with crystallites size of 3.5 nm, estimated by means of the Scherrer's equation and confirmed by transmission electronic microscopy. Typical monoclinic zirconium oxide X-ray powder diffraction patterns and Raman spectra were obtained for all the crystalline powders. It was observed that the crystallization depends strongly on the temperature, resulting in amorphous material when the synthesis was realized at 100 °C, and crystalline with monoclinic phase when synthesized at 110 °C, independently of the salt used. Zirconium oxide colloidal nanoparticles were formed only at hydrothermal treatments longer than 24 h. The stability of the colloids was successfully characterized of zeta potential, showing an initial value of + 59.2 mV in acid media and isoelectric point at pH = 5.2,in good agreement with previous studies.」
(要旨 過酸化水素の存在下で、硝酸ジルコニル(ZrO(NO3)2)および塩化ジルコニル(ZrOCl2)水溶液を異なる温度・時間で水熱処理することにより、ナノ結晶酸化ジルコニウムを合成した。ジルコニウム塩(0.25および0.50molL-1)の水熱処理により、狭い粒径分布を持つナノ結晶単斜晶ZrO2粉末が生成された。この粉末は、シェラーの式によって推定され、透過型電子顕微鏡によって確認された結晶子サイズ3.5nmの微粒子が付着して形成されたものである。得られた全ての結晶性粉末において、典型的な単斜晶酸化ジルコニウムのX線粉末回折パターンおよびラマンスペクトルが観測された。結晶化は温度に強く依存し、使用した塩の種類によらず、100℃での合成では非晶質材料が、110℃での合成では単斜晶相の結晶性材料が得られることが観測された。酸化ジルコニウムのコロイドナノ粒子は、24時間を超える水熱処理でのみ形成された。このコロイドの安定性はゼータ電位によって良好に評価され、酸性媒体中での初期値は+59.2mV、等電点はpH=5.2を示し、これは先行研究とよく一致する結果であった。)
(イ)第3105頁右欄第8行~第16行
「Introduction
Zirconium oxide (Zr02) has attracted attention for applications in optical coatings, buffer layers for growing superconductors, thermal-shield, corrosion-resistant coatings, ionic conductors, and oxygen sensors (Kolen'koa et al.2003; Kosmambetova et al.2007), and for potential applications including transparent optical devices and electrochemical capacitor electrodes, fuel cells, catalysts, and advanced ceramics (Zhao et al. 2008).」
(はじめに
酸化ジルコニウム(ZrO2)は、光学コーティング、超伝導体成長用のバッファー層、遮熱コーティング、耐食コーティング、イオン伝導体、および酸素センサーヘの応用で注目を集めており(Kolen'koa et al. 2003; Kosmambetova et al. 2007)、さらに透明光学デバイス、電気化学キャパシタ電極、燃料電池、触媒、先進セラミックスといった潜在的な応用も期待されている(Zhao et al. 2008)。)
(ウ)第3107頁左欄第30行~第3108頁左欄第2行
「Results and discussion
In the present work, zirconium oxide nanoparticles were prepared though the hydrolysis of aqueous solutions of two different zirconium salts with hydrogen peroxide under acid conditions. Figure 2 shows the XRD patterns of the samples processed at 100 and at 110 °C during 24 h. We observed that the crystallization depends strongly on the temperature used. For instance, when the experiment was performed at 100 °C or below, an amorphous material was always formed, but crystalline zirconium oxide with monoclinic phase could be obtained when the temperature was raised just to 110 °C (JCPDS 37-1484), independently if zirconium oxychloride or oxynitrate salts was used. In our experiments, monoclinic particles were obtained with crystallite sizes of about 3.5 nm, estimated from the most intense reflections (-lll and 111 peaks of Fig.2) by means of the Scherrer's equation, which is much smaller than the critical size generally accepted to obtain monoclinic phase. According to the literature, it is expected that only the tetragonal phase should be preferentially formed at this particle size, instead of the monoclinic phase. Usually, monoclinic zirconium oxide is obtained only after some heat treatment at high temperatures which also induces the particle growth, (Guo and Chen 2005). However, what can be seen in the Fig.2 is the monoclinic phase formed during the hydrothermal processing at low temperature preserving the particle size. Some authors attribute the presence of tetragonal zirconium oxide phase in powders formed at low temperatures to the fact that the specific surface free enthalpy of this phase (γt=0.77 J m―2) is smaller than of the monoclinic phase (γm=1.13 J m―2), which creates a thermodynamic barrier for tetragonal to monoclinic transition (Rashad and Baioumy 2008). For this reason, only samples with small specific surface area will show stable monoclinic phase, which occurs only when bigger are formed. On the other hand, it is known that the presence of water (vapor or liquid) leads to a reduction of the surface free energy of the monoclinic phase relative to tetragonal zirconium oxide which can contribute to stabilize smaller monoclinic particles (Xie et al.2000).
To check directly the morphology of the nanoparticles, TEM images were collected and showed that this route of synthesis provides well-dispersed nanocrystalline Zr02 with oriented attachment as main growth mechanism (Purohit et al. 2006), as illustrated in Fig.3a, b.」
(結果と考察
本研究では、酸性条件下で過酸化水素を用いて2種類の異なるジルコニウム塩水溶液を加水分解することにより、酸化ジルコニウムナノ粒子を調製した。図2に、100℃および110℃で24時間処理した試料のX線回折パターンを示す。我々は、結晶化が使用する温度に強く依存することを観測した。例えば、実験を100℃以下で行った場合は常に非晶質材料が形成されたが、温度をわずか110℃に上げると、塩化ジルコニルまたは硝酸ジルコニルのどちらの塩を使用した場合でも、単斜晶相を持つ結晶性酸化ジルコニウムが得られた(JCPDS S7-1484)。我々の実験では、シェラーの式を用いて最も強度の高い回折線(図2の-111および111ピーク)から見積もったところ、約3.5nmの結晶子サイズを持つ単斜晶粒子が得られた。このサイズは、単斜晶相を得るために一般的に受け入れられている臨界サイズよりもはるかに小さい。文献によれば、この粒子サイズでは単斜晶相ではなく、正方晶相のみが優先的に形成されると予想される。通常、単斜晶酸化ジルコニウムは、粒子成長も引き起こす高温での熱処理後にのみ得られる(Guo and Chen 2005)。しかし、図2で確認できるのは、低温での水熱処理中に粒子サイズを保ったまま形成された単斜晶相である。一部の研究者は、低温で形成された粉末中に正方晶酸化ジルコニウム相が存在する理由を、この相の比表面自由エンタルピー(ct=0.77Jm-2)が単斜晶相(cm=1.13Jm-2)よりも小さく、これが正方晶から単斜晶への相転移に対する熱力学的障壁を生み出すという事実に帰している(Rashad and Baioumy 2008)。このため、比表面積が小さい試料、すなわちより大きな粒子が形成された場合にのみ、安定な単斜晶相を示すことになる。一方、水(水蒸気または液体)の存在は、正方晶酸化ジルコニウムと比較して単斜晶相の表面自由エネルギーを低下させ、より小さな単斜晶粒子を安定化させるのに寄与しうることが知られている(Xie et al.2000)。ナノ粒子の形態を直接確認するためにTEM像を撮影したところ、この合成経路では、図3a、bに示すように、配向性付着を主な成長機構とする、よく分散したナノ結晶ZrO2が得られることが示された(Purohit et al.2006)。)
(エ)Fig.2
「
[図:0001431184000002.jpg]
」
(図2 0.25mol L-1水溶液の加水分解によって調製されたZrO2粒子のXRDパターン (a)ZrOCl2 100℃、(b)ZrOCl2 110℃、(c)ZrO(NO3)2 110℃)
イ 記載された事項
上記アより、甲3には、次の技術事項(以下、「甲3技術事項」という。)が記載されている。
<甲3技術事項>
酸性条件下で過酸化水素を用いて、硝酸ジルコニル(ZrO(NO3)2)または塩化ジルコニル(ZrOCl2)塩の水溶液(0.25molL-1)を、110℃で24時間処理すると、
上記図2のAまたはBのX線回折パターンを示す、単斜晶相を持つ結晶性酸化ジルコニウムのナノ粒子が得られ、
最も強度の高い回折線(-111および111ピーク)から見積もった結晶子サイズは、約3.5nmとなり、
結晶子サイズ3.5nmの微粒子が付着して形成された酸化ジルコニウムのコロイドナノ粒子の安定性は、良好と評価されたこと。
2 申立理由1について
事案に鑑み、まず本件発明11について検討する。その後、本件発明1、本件発明8、本件発明9、本件発明10、本件発明2、6及び7、本件発明12~17について検討する。
(1)本件発明11について
ア 対比
本件発明11と甲1粒子発明とを対比する。
本件発明11における構成11Aと、甲1粒子発明における甲1Aとを対比する。甲1Aにおける「ジルコニア」が、酸化ジルコニウムであるという技術常識、及び、甲1Aにおいて「水溶液」に「分散」している「微粒子」を液中の粉末と言い得ることを踏まえると、両者は、「単斜晶相を含有する酸化ジルコニウム粉末」という点で、共通する。
甲1粒子発明において、甲1Cの「ジルコニア微粒子」は、甲1Bのとおり「研磨剤用等の材料として使用する場合、高均一性、高分散性、高結晶性等の性能を有する」を踏まえると、本件発明11における構成11Bの「研磨用粉末」に、相当する。
そうすると、本件発明11と甲1粒子発明とは、次の点で一致し、以下の相違点11Aで相違する。
<一致点>
単斜晶相を含有する酸化ジルコニウム粉末を含む、研磨用粉末。
<相違点11A>
「酸化ジルコニウム」に関し、
本件発明11においては、「単斜晶相を含有し単斜晶(-111)面と単斜晶(111)面の結晶子径の比((-111)面/(111)面)が0.50~0.95である」のに対し、
甲1粒子発明においては、そうなっていない点。
イ 判断
上記相違点11Aについて、判断する。
甲1粒子発明は、「特定の平均粒子径、特定の粒子径分布、及び特定の粒子形状を有するジルコニア微粒子」が、「研磨剤用・・・等の材料として使用する場合、高均一性、高分散性、高結晶性等の要求される性能を有する」という知見に基づいて、「粒度分布のメジアン径」は「0.02μm~1.0μm」、「粒度分布の変動係数」は「40.0%以下」、「平均粒子径」は「0.02μm~1.0μm」、「粒子径分布の相対標準偏差」は「40.0%以下」、「粒子形状」は「棒状」であり「アスペクト比」は「1.5~5.0」とする意図のもとで(段落【0017】、【0024】~【0030】参照)、甲1Aに係るパラメータを選定したものである。
そうすると、甲1粒子発明を出発点とする当業者にとって、「粒度分布のメジアン径」、「粒度分布の変動係数」、「平均粒子径」、「粒子径分布の相対標準偏差」、「粒子形状」及びその「アスペクト比」について、上記段落【0017】及び【0024】~【0030】に入らない、または入るか否かが不明である、他の「ジルコニア微粒子」に、変更する動機付けがあったとはいえない。
甲3には、上記1(3)イに認定した甲3技術事項が記載されているが、特に研磨用に用いることが好適であることが示されているわけではなく、甲3技術事項の酸化ジルコニウムについて「安定性」が「良好」と評価されたからといって、甲1粒子発明を出発点として、「ジルコニア粒子」自体を甲3技術事項の「酸化ジルコニウムのコロイドナノ粒子」へと変更する動機付けとなったとはいえない。
また、甲3技術事項に係る「酸化ジルコニウムのコロイドナノ粒子」について、「最も強度の高い回折線(-111および111ピーク)から見積もった結晶子サイズ」が「約3.5nm」であるところ、相違点11Aに係る本件発明11の構成のように、「単斜晶(-111)面と単斜晶(111)面の結晶子径の比((-111)面/(111)面)」を「0.50~0.95」とすることが、記載または示唆されているとはいえない。
なお、申立人により令和7年9月25日に作成された甲4については、後記ウにおいて検討する。
本件特許の優先日後に国際公開された甲2には、研磨剤スラリーに含有させるヘキサメタリン酸化合物に関する記載があるが、甲1粒子発明を出発点として、上記相違点11Aに係る本件発明11の構成とすることは、記載も示唆もされていない。
本件優先日前に頒布または電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲5~甲8にも、甲1粒子発明を出発点として、上記相違点11Aに係る本件発明11の構成とすることは、記載も示唆もされていない。
そして、上述したとおり、甲1粒子発明を出発点として、上記相違点11Aに係る本件発明11の構成とすることは、甲2、甲3、甲5~甲8の記載を考慮しても、記載あるいは示唆されていたといえないところ、本件発明11は、上記相違点11Aに係る構成により、本件明細書の段落【0020】に記載されるように、「単斜晶(-111)面と単斜晶(111)面の結晶子径の比((-111)面/(111)面)が1.0に近い場合は単斜晶の結晶が方向性なく均等に成長した状態、即ち球形に近い形になっていると推測される。一方、単斜晶(-111)面と単斜晶(111)面の結晶子径の比((-111)面/(111)面)が1よりも小さくなるにつれて、単斜晶の結晶はよりアスペクト比の大きい直方体、ロッド状になると推測される。後者の直方体、ロッド状結晶は、前者の球形結晶と比較して転回し難く、その結果、被研磨面との摩擦抵抗が増加し、基板の研磨レートを向上させる効果を発揮すると考えられる。また、球状の粒子よりも直方体およびロッド状のほうが被研磨面への衝突時に線または面接触になることで衝撃が分散するため、平滑性にも優れる(表面粗さを低減できる)」という技術的意義を有すると、合理的に理解される。
したがって、甲1粒子発明を出発点として、上記相違点11Aに係る本件発明11の構成とすることは、当業者にとって想到容易であったとはいえない。
ウ 申立人の主張について
(ア)申立人の主張
申立人は申立書において、甲1において粒子の高分散性を考慮しているから、甲1に記載された発明におけるジルコニア微粒子を、安定性が良好と評価された甲3技術事項の酸化ジルコニウムのコロイドナノ粒子に変更する動機付けがある旨を主張している。
そして申立人は、申立人が作成した甲4を提出し、甲3技術事項の酸化ジルコニウムのコロイドナノ粒子のうち、ZrOCl2の0.25mol L-1水溶液を用いて110℃で処理したものは、図2のパターンBのグラフを図面から読み取って手動で各種の設定を行って再計算すれば、2θ=28.301の箇所のピーク幅から計算される単斜晶(-111)面の結晶子径は「31.4Å」となり、2θ=31.747の箇所のピーク幅から計算される単斜晶(111)面の結晶子径は「50.3Å」となるから、両者の比は、「0.62」となる旨を主張している。
そのうえで申立人は、甲1に記載された発明において、甲3技術事項のうち、図2のパターンBを示す酸化ジルコニウムを適用することにより、上記相違点11Aに係る本件発明11の構成に至ることは容易である旨を主張している(申立書第20頁第12行~第25頁第3行、及び第31頁第5行~第19行)。
(イ)申立人の主張についての検討
上記(ア)の申立人の主張について、検討する。
甲1粒子発明は、特定の平均粒子径、特定の粒子径分布、及び特定の粒子形状を有するジルコニア微粒子がよいという知見に基づいて、「粒度分布のメジアン径」は「0.02μm~1.0μm」、「粒度分布の変動係数」は「40.0%以下」、「平均粒子径」は「0.02μm~1.0μm」、「粒子径分布の相対標準偏差」は「40.0%以下」、「粒子形状」は「棒状」であり「アスペクト比」は「1.5~5.0」とする意図のもとで、これらのパラメータが上記好適範囲の中におさまる特定のジルコニア微粒子とした発明である(甲1の段落【0017】、【0025】、【0026】、【0028】~【0030】参照)。
このような甲1粒子発明を出発点とする場合、甲3技術事項に係る「酸化ジルコニウムのコロイドナノ粒子」について、安定性が良好である旨を示す記載があるからといって、甲1において考慮したパラメータの各々である「粒度分布のメジアン径」、「粒度分布の変動係数」、「平均粒子径」、「粒子径分布の相対標準偏差」、「粒子形状」及び「アスペクト比」について、甲1に示す好適な範囲に入るか否かが不明なままで、甲1粒子発明に係る「ジルコニア微粒子」を、甲3技術事項に係る「酸化ジルコニウムのコロイドナノ粒子」に変更する動機付けがあったとはいえず、とりわけ甲3の図2におけるパターンBの回折パターンを示す「酸化ジルコニウムのコロイドナノ粒子」に変更する動機付けがあったとはいえない。
また、甲3技術事項に係る「酸化ジルコニウムのコロイドナノ粒子」について、「最も強度の高い回折線(-111および111ピーク)から見積もった結晶子サイズ」が「約3.5nm」とまとめて記載されているにもかかわらず、図2のパターンBの解析パターンのグラフから再計算して、(-111)ピークでの結晶子サイズと(111)ピークでの結晶子サイズとが、申立人が主張するように大きく異なることを、本件優先日時点の当業者が認識できたとはいえず、甲3の記載の全体を考慮しても、(-111)ピークでの結晶子サイズと(111)ピークでの結晶子サイズとを有意に異ならせることについて、明示の記載や示唆があったとはいえない。
さらに、仮に甲1粒子発明において、「ジルコニア微粒子」について、甲3技術事項を考慮して、当業者が何らかの変更を検討したとしても、甲1における「粒度分布のメジアン径」、「粒度分布の変動係数」、「平均粒子径」、「粒子径分布の相対標準偏差」、「粒子形状」及び「アスペクト比」の好適な範囲と、甲3における開示とを考え合わせたうえで、甲3に(-111)ピークでの結晶子サイズと(111)ピークでの結晶子サイズとを有意に異ならせる記載や示唆がないにもかかわらず、「単斜晶(-111)面と単斜晶(111)面の結晶子径の比((-111)面/(111)面)」を「0.50~0.95」の範囲内とする、上記相違点11Aに係る本件発明11の構成とすることを、当業者が容易に想到できたとはいえない。
したがって、上記(ア)の申立人の主張、及び申立人が作成した甲4の内容について考慮しても、上記相違点11Aに係る本件発明11の構成の容易想到性について、上記イの判断を変更すべき事情はない。
エ 小括
したがって、本件発明11は、甲1粒子発明を出発点として、本件優先日前に頒布または電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲3及び甲5~甲8に記載される事項、本件優先日より後に国際公開された甲2に記載される事項、及び申立人が作成した甲4の内容を考慮しても、本件優先日において、当業者が容易に発明できたものとはいえない。
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明11と甲1粒子発明との対比を踏まえて、本件発明1と甲1分散液発明とを対比すると、両者は、少なくとも次の相違点1Aで相違する。
<相違点1A>
「酸化ジルコニウム」に関し、
本件発明1においては、「単斜晶相を含有し単斜晶(-111)面と単斜晶(111)面の結晶子径の比((-111)面/(111)面)が0.50~0.95である」のに対し、
甲1分散液発明においては、そうなっていない点。
イ 判断
本件発明1と甲1分散液発明との上記相違点1Aは、本件発明11と甲1粒子発明との相違点11Aと、実質的に同じ相違点である。
そして、本件発明11と甲1粒子発明との相違点11Aについて、上記(1)イに判断したのと同じ理由で、上記相違点1Aに係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
この点に関する申立人の主張について検討しても、上記(1)ウに検討したのと同じ理由で、判断を変更すべき事情はない。
ウ 小括
したがって、本件発明1は、甲1分散液発明を出発点として、本件優先日前に頒布または電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲3及び甲5~甲8に記載される事項、本件優先日より後に国際公開された甲2に記載される事項、及び申立人が作成した甲4の内容を考慮しても、本件優先日において、当業者が容易に発明できたものとはいえない。
(3)本件発明8について
ア 対比
本件発明11と甲1粒子発明との対比を踏まえて、本件発明8と甲1分散液製法発明とを対比すると、両者は、少なくとも次の相違点8Aで相違する。
<相違点8A>
「酸化ジルコニウム」に関し、
本件発明8においては、「単斜晶相を含有し単斜晶(-111)面と単斜晶(111)面の結晶子径の比((-111)面/(111)面)が0.50~0.95である」のに対し、
甲1分散液製法発明においては、そうなっていない点。
イ 判断
本件発明8と甲1分散液製法発明との上記相違点8Aは、本件発明11と甲1粒子発明との相違点11Aと、実質的に同じ相違点である。
そして、本件発明11と甲1粒子発明との相違点11Aについて、上記(1)イに判断したのと同じ理由で、上記相違点8Aに係る本件発明8の構成は、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
この点に関する申立人の主張について検討しても、上記(1)ウに検討したのと同じ理由で、判断を変更すべき事情はない。
ウ 小括
したがって、本件発明8は、甲1分散液製法発明を出発点として、本件優先日前に頒布または電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲3及び甲5~甲8に記載される事項、本件優先日より後に国際公開された甲2に記載される事項、及び申立人が作成した甲4の内容を考慮しても、本件優先日において、当業者が容易に発明できたものとはいえない。
(4)本件発明9について
ア 対比
本件発明11と甲1粒子発明との対比を踏まえて、本件発明9と甲1方法発明とを対比すると、両者は、少なくとも次の相違点9Aで相違する。
<相違点9A>
「酸化ジルコニウム」に関し、
本件発明9においては、「単斜晶相を含有し単斜晶(-111)面と単斜晶(111)面の結晶子径の比((-111)面/(111)面)が0.50~0.95である」のに対し、
甲1方法発明においては、そうなっていない点。
イ 判断
本件発明9と甲1方法発明との上記相違点9Aは、本件発明11と甲1粒子発明との相違点11Aと、実質的に同じ相違点である。
そして、本件発明11と甲1粒子発明との相違点11Aについて、上記(1)イに判断したのと同じ理由で、上記相違点9Aに係る本件発明9の構成は、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
この点に関する申立人の主張について検討しても、上記(1)ウに検討したのと同じ理由で、判断を変更すべき事情はない。
ウ 小括
したがって、本件発明9は、甲1方法発明を出発点として、本件優先日前に頒布または電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲3及び甲5~甲8に記載される事項、本件優先日より後に国際公開された甲2に記載される事項、及び申立人が作成した甲4の内容を考慮しても、本件優先日において、当業者が容易に発明できたものとはいえない。
(5)本件発明10について
ア 対比
本件発明11と甲1粒子発明との対比を踏まえて、本件発明10と甲1方法発明とを対比すると、両者は、少なくとも次の相違点10Aで相違する。
<相違点10A>
「酸化ジルコニウム」に関し、
本件発明10においては、「単斜晶相を含有し単斜晶(-111)面と単斜晶(111)面の結晶子径の比((-111)面/(111)面)が0.50~0.95である」のに対し、
甲1方法発明においては、そうなっていない点。
イ 判断
本件発明10と甲1方法発明との上記相違点10Aは、本件発明11と甲1粒子発明との相違点11Aと、実質的に同じ相違点である。
そして、本件発明11と甲1粒子発明との相違点11Aについて、上記(1)イに判断したのと同じ理由で、上記相違点10Aに係る本件発明10の構成は、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
この点に関する申立人の主張について検討しても、上記(1)ウに検討したのと同じ理由で、判断を変更すべき事情はない。
ウ 小括
したがって、本件発明10は、甲1方法発明を出発点として、本件優先日前に頒布または電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲3及び甲5~甲8に記載される事項、本件優先日より後に国際公開された甲2に記載される事項、及び申立人が作成した甲4の内容を考慮しても、本件優先日において、当業者が容易に発明できたものとはいえない。
(6)本件発明2、6及び7について
本件発明2~7は、本件発明1の構成を有し、さらに構成を付加したものである。
本件発明2~7のうち、本件発明2、6及び7について、申立理由1が申立てられている。
そうであるところ、上記(2)に示したとおり、本件発明2、6及び7が有する本件発明1の構成は、本件優先日において、当業者が容易に発明できたものではないから、本件発明2、6及び7において付加された構成について検討するまでもなく、本件発明2、6及び7は、当業者が容易に発明できたものではない。
したがって、本件発明2、6及び7は、甲1分散液発明を出発点として、本件優先日前に頒布または電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲3及び甲5~甲8に記載される事項、本件優先日より後に国際公開された甲2に記載される事項、及び申立人が作成した甲4の内容を考慮しても、本件優先日において、当業者が容易に発明できたものとはいえない。
(7)本件発明12~17について
本件発明12~17は、本件発明11の構成を有し、さらに構成を付加したものである。
そして、上記(1)に示したとおり、本件発明12~17が有する本件発明11の構成は、本件優先日において、当業者が容易に発明できたものではないから、本件発明12~17において付加された構成について検討するまでもなく、本件発明12~17は、当業者が容易に発明できたものではない。
したがって、本件発明12~17は、甲1粒子発明を出発点として、本件優先日前に頒布または電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲3及び甲5~甲8に記載される事項、本件優先日より後に国際公開された甲2に記載される事項、及び申立人が作成した甲4の内容を考慮しても、本件優先日において、当業者が容易に発明できたものとはいえない。
(8)申立理由1についてのまとめ
以上より、本件発明1、2、6~17に係る特許は、甲1を主たる証拠とした進歩性欠如の申立理由1によって、取り消されるべきものではない。
3 申立理由2について
申立理由2についても、申立理由1と同様に、まず本件発明11について検討する。その後、本件発明1、本件発明8、本件発明9、本件発明10、本件発明2~7、本件発明12~17について検討する。
(1)本件発明11について
ア 対比
本件発明11と甲7粒発明とを対比する。
本件発明11における構成11Aと、甲7粒発明における甲7Aとを対比すると、両者は、「酸化ジルコニウム粉末」という点で、共通する。
甲7粒発明において、甲7Cより「酸化ジルコニウム」が「無機物砥粒として」のものであることは、本件発明11における構成11Bの「研磨用粉末」に、相当する。
そうすると、本件発明11と甲7粒発明とは、次の点で一致し、以下の相違点11Bで相違する。
<一致点>
単斜晶相を含有する酸化ジルコニウム粉末を含む、研磨用粉末。
<相違点11B>
「酸化ジルコニウム」に関し、
本件発明11においては、「単斜晶相を含有し単斜晶(-111)面と単斜晶(111)面の結晶子径の比((-111)面/(111)面)が0.50~0.95である」のに対し、
甲7粒発明においては、そうなっていない点。
イ 判断
上記相違点11Bについて、判断する。
甲7粒発明は、「銅及び銅合金の研磨速度が速く、一方タンタル、タンタル合金及び窒化タンタルからなるバリア層が研磨されないという特性を持つ研磨用組成物を提供するために、研磨助剤としてシアヌル酸及びホウ酸塩等の両方を含有する金属配線用化学機械的研磨用組成物に含める」ためのものであるから、単に何らかの酸化ジルコニウムが公知でさえあれば、甲7Bの特性を有する「酸化ジルコニウム」を、公知の他の酸化ジルコニウムに変更する動機付けがあったとはいえない。
甲7には、段落【0013】に、「単斜系の結晶性の高い酸化ジルコニウム粒子」を用いることに関する記載があるが、当該記載を根拠として、甲7粒発明として、「酸化ジルコニウム粒子」自体を、公知のあらゆる「単斜性」の「酸化ジルコニウム」に変更する動機付けがあったとはいえない。
甲3には、上記1(3)イに認定した甲3技術事項が記載されているが、甲3技術事項の酸化ジルコニウムについて「安定性」が「良好」と評価されたからといって、甲7粒発明を出発点として、「酸化ジルコニウム粒子」自体を甲3技術事項の「酸化ジルコニウムのコロイドナノ粒子」へと変更する動機付けとなったとはいえない。
また、甲3技術事項に係る「酸化ジルコニウムのコロイドナノ粒子」について、「最も強度の高い回折線(-111および111ピーク)から見積もった結晶子サイズ」が「約3.5nm」であるところ、相違点11Aに係る本件発明11の構成のように、「単斜晶(-111)面と単斜晶(111)面の結晶子径の比((-111)面/(111)面)」を「0.50~0.95」とすることが、記載または示唆されているとはいえない。
なお、申立人により令和7年9月25日に作成された甲4については、後記ウにおいて検討する。
本件特許の優先日後に国際公開された甲2には、研磨剤スラリーに含有させるヘキサメタリン酸化合物に関する記載があるが、甲7粒発明を出発点として、上記相違点11Bに係る本件発明11の構成とすることは、記載も示唆もされていない。
本件優先日前に頒布または電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1、甲5、甲6及び甲8にも、甲7粒発明を出発点として、上記相違点11Bに係る本件発明11の構成とすることは、記載も示唆もされていない。
ウ 申立人の主張について
(ア)申立人の主張
申立人は申立書において、甲7において水性ゾルを長時間静置しても粒子の沈降物がほとんど無いことを考慮しているから、甲7に記載された発明における酸化ジルコニウム微粒子を、安定性が良好と評価された甲3技術事項の酸化ジルコニウムのコロイドナノ粒子に変更する動機付けがある旨を主張している。
そして申立人は、申立人が作成した甲4を提出し、甲3技術事項の酸化ジルコニウムのコロイドナノ粒子のうち、ZrOCl2の0.25mol L-1水溶液を用いて110℃で処理したものは、図2のパターンBのグラフを図面から読み取って手動で各種の設定を行って再計算すれば、2θ=28.301の箇所のピーク幅から計算される単斜晶(-111)面の結晶子径は「31.4Å」となり、2θ=31.747の箇所のピーク幅から計算される単斜晶(111)面の結晶子径は「50.3Å」となるから、両者の比は、「0.62」となる旨を主張している。
そのうえで申立人は、甲7に記載された発明において、甲3技術事項のうち、図2のパターンBを示す酸化ジルコニウムを適用することにより、上記相違点11Bに係る本件発明11の構成に至ることは容易である旨を主張している(申立書第40頁第4行~第42頁第10行、第48頁第7行~最終行)。
(イ)申立人の主張についての検討
上記(ア)の申立人の主張について、検討する。
甲7粒発明は、「研磨用組成物」として「銅及び銅合金の研磨速度が速く、一方タンタル、タンタル合金及び窒化タンタルからなるバリア層が研磨されないという特性」を持たせることを意図しているから、単に甲3技術事項に係る「酸化ジルコニウムのコロイドナノ粒子」が公知であるからといって、また甲3技術事項に係る「酸化ジルコニウムのコロイドナノ粒子」について、安定性が良好である旨を示す記載があるからといって、甲7粒発明において採用した甲7Bの特性を有する「酸化ジルコニウム」を、甲3技術事項に係る「酸化ジルコニウムのコロイドナノ粒子」に変更する動機付けがあったとはいえず、とりわけ甲3の図2におけるパターンBの回折パターンを示す「酸化ジルコニウムのコロイドナノ粒子」に変更する動機付けがあったとはいえない。
また、甲3技術事項に係る「酸化ジルコニウムのコロイドナノ粒子」について、「最も強度の高い回折線(-111および111ピーク)から見積もった結晶子サイズ」が「約3.5nm」とまとめて記載されているにもかかわらず、図2のパターンBの解析パターンのグラフから再計算して、(-111)ピークでの結晶子サイズと(111)ピークでの結晶子サイズとが、申立人が主張するように大きく異なることを、本件優先日時点の当業者が認識できたとはいえず、甲3の記載の全体を考慮しても、(-111)ピークでの結晶子サイズと(111)ピークでの結晶子サイズとを有意に異ならせることについて、明示の記載や示唆があったとはいえない。
さらに、仮に甲7粒発明において、「酸化ジルコニウム」について、甲3技術事項を考慮して、当業者が何らかの変更を検討したとしても、甲3に(-111)ピークでの結晶子サイズと(111)ピークでの結晶子サイズとを有意に異ならせる記載や示唆がないにもかかわらず、「単斜晶(-111)面と単斜晶(111)面の結晶子径の比((-111)面/(111)面)」を「0.50~0.95」の範囲内とする、上記相違点11Bに係る本件発明11の構成とすることを、当業者が容易に想到できたとはいえない。
したがって、上記(ア)の申立人の主張、及び申立人が作成した甲4の内容について考慮しても、上記相違点11Bに係る本件発明11の構成の容易想到性について、上記イの判断を変更すべき事情はない。
エ 小括
したがって、本件発明11は、甲7粒発明を出発点として、本件優先日前に頒布または電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1、甲3、甲5、甲6及び甲8に記載される事項、本件優先日より後に国際公開された甲2に記載される事項、及び申立人が作成した甲4の内容を考慮しても、本件優先日において、当業者が容易に発明できたものとはいえない。
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明11と甲7粒発明との対比を踏まえて、本件発明1と甲7研磨用組成物発明とを対比すると、両者は、少なくとも次の相違点1Bで相違する。
<相違点1B>
「酸化ジルコニウム」に関し、
本件発明1においては、「単斜晶相を含有し単斜晶(-111)面と単斜晶(111)面の結晶子径の比((-111)面/(111)面)が0.50~0.95である」のに対し、
甲7研磨用組成物発明においては、そうなっていない点。
イ 判断
本件発明1と甲7研磨用組成物発明との上記相違点1Bは、本件発明11と甲7粒発明との相違点11Bと、実質的に同じ相違点である。
そして、本件発明11と甲7粒発明との相違点11Bについて、上記(1)イに判断したのと同じ理由で、上記相違点1Bに係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
この点に関する申立人の主張について検討しても、上記(1)ウに検討したのと同じ理由で、判断を変更すべき事情はない。
ウ 小括
したがって、本件発明1は、甲7研磨用組成物発明を出発点として、本件優先日前に頒布または電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1、甲3、甲5、甲6及び甲8に記載される事項、本件優先日より後に国際公開された甲2に記載される事項、及び申立人が作成した甲4の内容を考慮しても、本件優先日において、当業者が容易に発明できたものとはいえない。
(3)本件発明8について
ア 対比
本件発明11と甲7粒発明との対比を踏まえて、本件発明8と甲7研磨用組成物製法発明とを対比すると、両者は、少なくとも次の相違点8Bで相違する。
<相違点8B>
「酸化ジルコニウム」に関し、
本件発明8においては、「単斜晶相を含有し単斜晶(-111)面と単斜晶(111)面の結晶子径の比((-111)面/(111)面)が0.50~0.95である」のに対し、
甲7研磨用組成物製法発明においては、そうなっていない点。
イ 判断
本件発明8と甲7研磨用組成物製法発明との上記相違点8Bは、本件発明11と甲7粒発明との相違点11Bと、実質的に同じ相違点である。
そして、本件発明11と甲7粒発明との相違点11Bについて、上記(1)イに判断したのと同じ理由で、上記相違点8Bに係る本件発明8の構成は、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
この点に関する申立人の主張について検討しても、上記(1)ウに検討したのと同じ理由で、判断を変更すべき事情はない。
ウ 小括
したがって、本件発明8は、甲7研磨用組成物製法発明を出発点として、本件優先日前に頒布または電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1、甲3、甲5、甲6及び甲8に記載される事項、本件優先日より後に国際公開された甲2に記載される事項、及び申立人が作成した甲4の内容を考慮しても、本件優先日において、当業者が容易に発明できたものとはいえない。
(4)本件発明9について
ア 対比
本件発明11と甲7粒発明との対比を踏まえて、本件発明9と甲7方法発明とを対比すると、両者は、少なくとも次の相違点9Bで相違する。
<相違点9B>
「酸化ジルコニウム」に関し、
本件発明9においては、「単斜晶相を含有し単斜晶(-111)面と単斜晶(111)面の結晶子径の比((-111)面/(111)面)が0.50~0.95である」のに対し、
甲7方法発明においては、そうなっていない点。
イ 判断
本件発明9と甲7方法発明との上記相違点9Bは、本件発明11と甲7粒発明との相違点11Bと、実質的に同じ相違点である。
そして、本件発明11と甲7粒発明との相違点11Bについて、上記(1)イに判断したのと同じ理由で、上記相違点9Bに係る本件発明9の構成は、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
この点に関する申立人の主張について検討しても、上記(1)ウに検討したのと同じ理由で、判断を変更すべき事情はない。
ウ 小括
したがって、本件発明9は、甲7方法発明を出発点として、本件優先日前に頒布または電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1、甲3、甲5、甲6及び甲8に記載される事項、本件優先日より後に国際公開された甲2に記載される事項、及び申立人が作成した甲4の内容を考慮しても、本件優先日において、当業者が容易に発明できたものとはいえない。
(5)本件発明10について
ア 対比
本件発明11と甲7粒発明との対比を踏まえて、本件発明10と甲7方法発明とを対比すると、両者は、少なくとも次の相違点10Bで相違する。
<相違点10B>
「酸化ジルコニウム」に関し、
本件発明10においては、「単斜晶相を含有し単斜晶(-111)面と単斜晶(111)面の結晶子径の比((-111)面/(111)面)が0.50~0.95である」のに対し、
甲7方法発明においては、そうなっていない点。
イ 判断
本件発明10と甲7方法発明との上記相違点10Bは、本件発明11と甲7粒発明との相違点11Bと、実質的に同じ相違点である。
そして、本件発明11と甲7粒発明との相違点11Bについて、上記(1)イに判断したのと同じ理由で、上記相違点10Bに係る本件発明10の構成は、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
この点に関する申立人の主張について検討しても、上記(1)ウに検討したのと同じ理由で、判断を変更すべき事情はない。
ウ 小括
したがって、本件発明10は、甲7方法発明を出発点として、本件優先日前に頒布または電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1、甲3、甲5、甲6及び甲8に記載される事項、本件優先日より後に国際公開された甲2に記載される事項、及び申立人が作成した甲4の内容を考慮しても、本件優先日において、当業者が容易に発明できたものとはいえない。
(6)本件発明2~7について
本件発明2~7は、本件発明1の構成を有し、さらに構成を付加したものである。
そして、上記(2)に示したとおり、本件発明2~7が有する本件発明1の構成は、本件優先日において、当業者が容易に発明できたものではないから、本件発明2~7において付加された構成について検討するまでもなく、本件発明2~7は、当業者が容易に発明できたものではない。
したがって、本件発明2~7は、甲7研磨用組成物発明を出発点として、本件優先日前に頒布または電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1、甲3、甲5、甲6及び甲8に記載される事項、本件優先日より後に国際公開された甲2に記載される事項、及び申立人が作成した甲4の内容を考慮しても、本件優先日において、当業者が容易に発明できたものとはいえない。
(7)本件発明12~17について
本件発明12~17は、本件発明11の構成を有し、さらに構成を付加したものである。
そして、上記(1)に示したとおり、本件発明12~17が有する本件発明11の構成は、本件優先日において、当業者が容易に発明できたものではないから、本件発明12~17において付加された構成について検討するまでもなく、本件発明12~17は、当業者が容易に発明できたものではない。
したがって、本件発明12~17は、甲7粒発明を出発点として、本件優先日前に頒布または電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1、甲3、甲5、甲6及び甲8に記載される事項、本件優先日より後に国際公開された甲2に記載される事項、及び申立人が作成した甲4の内容を考慮しても、本件優先日において、当業者が容易に発明できたものとはいえない。
(8)申立理由2についてのまとめ
以上より、本件発明1~17に係る特許は、甲7を主たる証拠とした進歩性欠如の申立理由2によって、取り消されるべきものではない。
4 申立理由3について
(1)申立理由3の具体的内容
明確性要件に係る申立理由3の具体的な内容は、以下のとおりである。
ア 本件発明1~10が有する「研磨助剤」について(以下、「申立理由3-1」という。)
本件発明1~10は、本件発明1、8、9または10に特定される「研磨助剤」を有するところ、「研磨助剤」としてどのような成分が該当し、どのような成分が該当しないのか、本件明細書の段落【0025】における「本発明に係る研磨助剤は、ポリシングによる効果を増進する成分であり、水溶性のものが好ましく用いられる。」という記載、及び技術常識を考慮しても、当業者は理解できない。
「研磨助剤」についての特定を含む本件発明6についても、選択肢に多種多様な化合物が含まれるので、どのような成分が該当し、どのような成分が該当しないのか、当業者は理解できない。
したがって、本件発明1~10は、「研磨助剤」に関し、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であり、特許法36条6項2号の規定を満たしていない(申立書第52頁第4行~第53頁第13行)。
イ 本件発明16における「湿式法」について(以下、「申立理由3-2」という。)
本件発明16における「湿式法」について、どのような製造方法が含まれるのか、当業者は理解することができない。
したがって、本件発明16は、「湿式法」に関し、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であり、特許法36条6項2号の規定を満たしていない(申立書第53頁第14行~第18行)。
(2)明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載のみならず、願書に添付した明細書の記載及び図面(以下、「本件明細書等」という。)を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から、判断されるべきものである。
(3)判断基準に基づく判断
上記(2)の判断基準に基づいて、以下、判断する。
ア 「研磨助剤」について
本件発明1~10に係る「研磨助剤」は、特許請求の範囲の請求項1、8、9または10の記載より、「研磨用分散液」に「酸化ジルコニウム」とともに含まれるものである。そして、「研磨助剤」の文言より、研磨を助ける機能を有する成分であると、理解される。
そのうえで、本件明細書の段落【0025】に、「本発明に係る研磨助剤は、ポリシングによる効果を増進する成分であり、水溶性のものが好ましく用いられる。」という記載とともに、成分の例示があること、及び段落【0026】に「本発明の研磨用分散液中の研磨助剤の含有量は研磨対象及び研磨条件によって適宜選択できる」という記載があることを考慮すると、本件発明1~10に係る「研磨助剤」は、「研磨用分散液」に「酸化ジルコニウム」等の研粒とともに含めることで、ポリシングによる効果を増進する等の、研磨を助ける機能を奏する成分であって、たとえば本件明細書の段落【0025】に例示される成分であると、理解される。
そうすると、「研磨助剤」について、「研磨用分散液」に研粒とともに含めることで、ポリシングによる効果を増進する等の、研磨を助ける機能を奏することが知られた成分は、本件発明1~5及び7~10に係る「研磨助剤」に含まれると、当業者は理解することができる。また、本件発明6に係る「研磨助剤」は、本件発明1に係る「研磨助剤」のうち、本件発明6で列記された群に属するものであると、当業者は理解することができる。
そして、研磨対象や研磨条件、及び含有量に応じて、ポリシングによる効果などの研磨を助ける機能が上下することがあるのと同様に、研磨助剤の種類によっても、ポリシングによる効果などの研磨を助ける機能が上下することがあるとは考えられるところ、研磨を助ける機能が上下し得る場合があり得ることをもって、本件発明1~10に係る「研磨助剤」について、第三者にとって不測の不利益を生じさせる程に発明が不明確となるとはいえない。
そして、本件発明1~10に係る「研磨助剤」について、具体的な物質名を特許請求の範囲に全て明記して網羅し尽くさなければ、第三者にとって不測の不利益を生じさせる程に発明が不明確となるともいえない。
したがって、本件発明1~10は、「研磨助剤」について、第三者に不測の不利益を生じさせる程に、発明が不明確なものではない。
イ 「湿式法」について
本件発明16に係る「湿式法」に関し、本件明細書の段落【0012】には、「これらはすべて湿式環境下で合成し、高温処理を不要とするプロセスにより構成することができる。」と記載されている。
また、本件明細書の段落【0020】には、「本態様の酸化ジルコニウムゾルの製造方法は、オキシ塩化ジルコニウム水溶液にアンモニア水を滴下添加して中和させる工程A、及び工程Aで得られた水酸化ジルコニウムを酸性下で加熱熟成処理する工程Bを含む。工程Aにおいてアンモニア水の滴下添加は複数回、例えば、2段階に分けて行われ、第1段階ではNH3換算でZrに対して等モルのアンモニア水滴下添加後に所定時間保持し、次いで第2段階としてアンモニア水を滴下添加後に所定時間保持する。ここで、オキシ塩化ジルコニウム水溶液の温度が高いほど、結晶子径は大きくなり、単斜晶(-111)面と単斜晶(111)面の結晶子径比((-111)面/(111)面)を高くすることができる。上記第1段階における保持時間を長くすることで前記結晶子径比((-111)面/(111)面)を低くすることができる。上記第2段階における保持時間を長くすることで正方晶比率および単斜晶(-111)面と正方晶(101)面の結晶子径比((-111)面/(101)面)を低くすることができる。」と記載されている。
上記の本件明細書の記載を考慮すれば、本件発明16に係る「湿式法」は、水分が介在する湿った環境下での反応によることであり、たとえば焼成などの乾燥状態における高温処理とは区別されることが、理解される。
そして、本件発明16における「湿式法」の語は、特定の結晶特性を有する「酸化ジルコニウム」の「製造」についていう文脈において、「湿式法」という用語自体から見ても、本件明細書の記載を考慮して理解される上述の内容と整合するものと理解される。またこの点に関し、特許請求の範囲において「湿式法」の語をさらに限定しなければ、第三者にとって不測の不利益を生じさせる程に、本件発明16が不明確となるような事情はない。
したがって、本件発明16は、「湿式法」について、第三者に不測の不利益を生じさせる程に、発明が不明確なものではない。
(4)申立理由3についてのまとめ
以上より、本件発明1~10及び16に係る特許は、明確性要件違反に係る申立理由3によって、取り消されるべきものではない。
5 申立理由4について
(1)申立理由4の具体的内容
サポート要件に係る申立理由4の具体的な内容は、以下のとおりである。
ア 「研磨助剤」や各成分の含有量について(以下、「申立理由4-1」という。)
本件発明が解決しようとする課題は、本件明細書の段落【0009】より、「研磨レートに優れ且つ研磨後の表面の平滑性に優れる研磨用分散液を提供する」というものである。
ここで、研磨の際の研磨レートや平滑性は、用いられる添加剤の種類や砥粒との相性、各成分の含有量によって変わることが技術常識であるところ、本件発明1~10では、「研磨助剤」の種類や含有量、及び「酸化ジルコニウム」の含有量が十分に特定されていない。また本件発明11~17では、研磨用粉末における「酸化ジルコニウム」の含有量が特定されていない。
そして、本件明細書では、「研磨助剤」として過マンガン酸カリウムを用いた実施例についての評価が記載されているものの、他の研磨助剤を用いた場合についての評価は記載されていないから、「研磨助剤」の種類や含有量が実施例と異なる「研磨用分散液」について、研磨レート及び研磨後の表面の平滑性の両方に優れるという課題が解決されるとは、当業者は認識することができない。また、「酸化ジルコニウム」の含有量が実施例と大きく異なる「研磨用分散液」または「研磨用粉末」について、研磨レート及び研磨後の表面の平滑性の両方に優れるという課題が解決されるとは、当業者は認識することができない。
したがって、本件発明1~17は、発明の課題を解決すると認識できる範囲を超えており、特許法36条6項1号の規定を満たしていない(申立書第53頁第20行~第55頁第12行)。
イ 研磨レートと平滑性の両方に優れることについて(以下、「申立理由4-2」という。)
本件発明が解決しようとする課題は、研磨レート、及び研磨後の表面の平滑性の、両方に優れるものとすることである。
そうであるところ、本件明細書の実施例1~7のうち、実施例1及び実施例5~7は、研磨レートで見ると比較例3を下回っており、研磨レートと研磨後の表面の平滑性の両方では優れていない。また、実施例及び比較例の全体を考慮しても、単斜晶の酸化ジルコニウムについて、(-111)面と(111)面の結晶子径の比と研磨レートとの間に相関関係を見いだすことができない。
そのため、本件発明1~17において特定される単斜晶の酸化ジルコニウムの(-111)面と(111)面の結晶子径の比によって、研磨レート及び研磨後の表面の平滑性の両方に優れるという課題が解決されるとは、当業者は認識することができない。
したがって、本件発明1~17は、発明の課題を解決すると認識できる範囲を超えており、特許法36条6項1号の規定を満たしていない(申立書第55頁第13行~第56頁最終行)。
ウ 粒径について(以下、「申立理由4-3」という。)
本件発明が解決しようとする課題である、研磨レート、及び研磨後の表面の平滑性は、砥粒のサイズに影響を受けることが明らかである。
本件明細書の実施例1~7で評価がされたジルコニアンゾルの粒子径D50は、34nm~95nmであるところ、本件発明1~12、15~17では、酸化ジルコニウムの粒子径が特定されておらず、本件発明13及び14でも、特定される酸化ジルコニウムの粒子径は、実施例1~7よりはるかに広い。
そして、研磨レート、及び研磨後の表面の平滑性が、砥粒のサイズに影響を受けるにもかかわらず、酸化ジルコニウムの粒子径が実施例1~7より広い範囲についてまで、または酸化ジルコニウムの粒子径に関する特定がない範囲についてまで、研磨レート、及び研磨後の表面の平滑性の両方について、優れたものとなることを、当業者が認識できるとはいえない。
したがって、本件発明1~17は、発明の課題を解決すると認識できる範囲を超えており、特許法36条6項1号の規定を満たしていない(申立書第57頁第1行~第19行)。
(2)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
(3)判断基準に基づく判断
上記(2)の判断基準に基づいて、以下、判断する。
ア 本件発明が解決しようとする課題について
本件明細書において、【発明が解決しようとする課題】の中の段落【0009】には、「本発明は、研磨レートに優れ且つ研磨後の表面の平滑性に優れる研磨用分散液を提供することに関する。」と記載されている。
それとともに、【発明を実施するための形態】の中の段落【0012】の前半部には、「従来、研磨用粉末による研磨速度は一般に、研磨用粉末の平均粒子径に比例することが知られている。一方表面粗さが小さくかつ表面欠陥の少ない研磨表面を得るには研磨剤の平均粒子径ができるだけ小さいことが望ましいと考えられている。それに対し、本発明者らが上記課題について検討したところ、特定の酸化ジルコニウム粒子を含有する研磨用粉末を用いることにより、上記目的が達成されることを新たに見出した。より具体的には、単斜晶(-111)面と単斜晶(111)面の結晶子径の比((-111)面/(111)面)が0.50~0.95の酸化ジルコニウム粒子を砥粒として用いることで、研磨レート及び研磨後の表面の平滑性の両方を改善できることを新たに見出した。」と記載されている。
また、同段落【0012】の後半部には、「このメカニズムは定かではないが、以下の理由によるものと推定される。単斜晶(-111)面と単斜晶(111)面の結晶子径の比((-111)面/(111)面)が1.0に近い場合は単斜晶の結晶が方向性なく均等に成長した状態、即ち球形に近い形になっていると推測される。一方、単斜晶(-111)面と単斜晶(111)面の結晶子径の比((-111)面/(111)面)が1よりも小さくなるにつれて、単斜晶の結晶はよりアスペクト比の大きい直方体、ロッド状になると推測される。後者の直方体、ロッド状結晶は、前者の球形結晶と比較して転回し難く、その結果、被研磨面との摩擦抵抗が増加し、基板の研磨レートを向上させる効果を発揮すると考えられる。また、球状の粒子よりも直方体およびロッド状のほうが被研磨面への衝突時に線または面接触になることで衝撃が分散するため、平滑性にも優れる(表面粗さを低減できる)ものと考えられる。」とも記載されている。
ここで、本件明細書の段落【0009】における「研磨レートに優れ且つ研磨後の表面の平滑性に優れる」という記載を単独でみた場合、「研磨レート」と「研磨後の表面の平滑性」とについて、それぞれどの程度優れるようにする趣旨であるのかは、示されていない。
しかしながら、段落【0012】の前半部における「従来、研磨用粉末による研磨速度は一般に、研磨用粉末の平均粒子径に比例することが知られている。一方表面粗さが小さくかつ表面欠陥の少ない研磨表面を得るには研磨剤の平均粒子径ができるだけ小さいことが望ましいと考えられている。」という記載を考慮すると、本件明細書においては、「研磨レート」と「研磨後の表面の平滑性」について、研磨用粉末の粒子径のみで対処しようとする場合、一方を優れるものとすると他方が優れるものとはなりにくいという関係があることを踏まえて、両方を同時に優れたものとすることが難しかったと位置づけられていることが、理解される。
そして、当該段落【0012】の前半部の記載に示される、「研磨レート」と「研磨後の表面の平滑性」について、一方を優れるものとすると他方が優れるものとはなりにくいという、従来の関係を踏まえると、段落【0009】に記載される「研磨レートに優れ且つ研磨後の表面の平滑性に優れる」という課題は、「研磨レート」と「研磨後の表面の平滑性」とに関し、そのいずれについても個別に従来技術に比較して優れたものとする趣旨ではなく、一方を優れたものとしようとすると他方が優れたものとなりにくいという関係を改善して、両方同時にバランス良く優れたものとする趣旨であると、理解される。
また、同段落【0012】の後半部における、本件発明による改善のメカニズムに関する記載からみても、本件発明は、「被研磨面との摩擦抵抗が増加し、基板の研磨レートを向上させる」性質と「衝撃が分散するため、平滑性にも優れる」ものとする性質とを併せ持たせることで、「研磨レート」と「研磨後の表面の平滑性」の両方を同時にバランス良く優れたものとする課題を解決するものと、理解される。
これに反し、本件明細書の段落【0009】に記載される「本発明は、研磨レートに優れ且つ研磨後の表面の平滑性に優れる研磨用分散液を提供することに関する。」という記載について、「研磨レート」を単独でみた場合に必ず従来技術より優れており、かつ、「研磨後の表面の平滑性」を単独で見た場合にも必ず従来技術より優れている、と理解すべき事情はない。
したがって、本件発明が解決しようとする課題は、段落【0009】を含む本件明細書の記載から見て、一方を優れたものとしようとすると他方が優れたものとなりにくい「研磨レート」と「研磨後の表面の平滑性」とについて、両方を同時にバランス良く優れたものとすることであると、認められる。
イ 課題を解決できると合理的に理解されるか否かについて
上記アに示した本件発明の課題である、一方を優れたものとしようとすると他方が優れたものとなりにくい「研磨レート」と「研磨後の表面の平滑性」とについて、両方を同時にバランス良く優れたものとする課題は、本件明細書の段落【0012】の後半部における解決のメカニズムの記載からみて、研磨用分散液または研磨用粉末に含める「酸化ジルコニウム」に、「単斜晶相を含有し単斜晶(-111)面と単斜晶(111)面の結晶子径の比((-111)面/(111)面)が0.50~0.95である」という本件発明の構成を持たせることにより、解決されると合理的に理解される。
本件明細書における実施例1~7と比較例1~3との比較についてみると、「研磨レート」のみを単独でみれば、あるいは「研磨後の表面の平滑性」のみを単独でみれば、一部の比較例の方が一部の実施例より優れている場合があるとしても、その両者がバランス良く同時に優れているかという観点でみれば、本件発明の構成を満たす実施例1~7の方が本件発明の構成を満たさない比較例1~3より優れていることから、本件発明の「単斜晶相を含有し単斜晶(-111)面と単斜晶(111)面の結晶子径の比((-111)面/(111)面)が0.50~0.95である酸化ジルコニウム」という構成を持たせることにより、上記アに認定した発明の課題が解決されると、合理的に理解される。
そして、本件発明は、研磨用分散液または研磨用粉末に含める「酸化ジルコニウム」に、「単斜晶相を含有し単斜晶(-111)面と単斜晶(111)面の結晶子径の比((-111)面/(111)面)が0.50~0.95である」という本件発明の構成を持たせることにより、上記アに示した本件発明の課題の解決に役立つ性質を有すると合理的に理解されるから、たとえ「酸化ジルコニウム」の含有量や砥粒としての粒径、あるいは併用する「研磨助剤」の種類や含有量によって、「研磨レート」や「研磨後の表面の平滑性」が変わり得るからといって、研磨特性に影響を与えるパラメータが他にもあり得ることを理由として、上記アに認定した課題を解決すると合理的に理解できないものとなるとはいえない。
また、「研磨レート」のみを単独でみれば、あるいは「研磨後の表面の平滑性」を単独でみれば、本件発明の構成を満たす実施例より比較例の方が優れる場合があり得るからといって、本件発明が、上記アに認定した課題を解決すると合理的に理解できないものとなるとはいえない。
したがって、本件発明は、上記(1)に示した申立人の具体的主張について考慮しても、発明の課題を解決できると合理的に理解されるものである。
(4)申立理由4についてのまとめ
以上より、本件発明1~17に係る特許は、サポート要件違反に係る申立理由4によって、取り消されるべきものではない。
第5 結び
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1ないし17に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1ないし17に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-701016