特許異議申立
2023-700938
蓄電デバイス用外装材
- 審判番号
- 2023-700938
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-001128
- 登録番号
- 7234635
- 請求日
- 2023年09月08日
- 審決日
- 2024年04月22日
- 公報発行日
- 2024年05月31日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】TOPPANホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】長谷川 芳樹
- 【権利者代理人】黒木 義樹
- 【権利者代理人】吉住 和之
- 【権利者代理人】鈴木 洋平
- 【異議申立人】田中 俊子
- 審判長/審判官
- 審判長 篠原 功一
- 審判官 井上 信一
- 審判官 渡辺 努
- 分類
- P1651.121-Y (H01M) / P1651.537-Y (H01M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7234635号発明「蓄電デバイス用外装材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7234635号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7234635号の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、平成31年1月8日に出願され、令和5年2月28日にその特許権の設定登録がなされ、同年3月8日に特許掲載公報が発行された。その後、本件特許に対して特許異議の申立てがなされたものであり、以後の本件特許異議の申立てに係る手続の概要は以下のとおりである。
令和5年 9月 8日 特許異議申立人 田中 俊子による請求項1な
いし6に係る特許に対する特許異議の申立て
令和5年12月20日付け 取消理由通知
令和6年 2月19日 特許権者による意見書の提出
第2 本件発明
本件の請求項1ないし6に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明6」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
少なくとも基材層、接着層、金属箔層、シーラント接着層、及び前記シーラント接着層に接してシーラント層がこの順で積層された構造を備え、
前記シーラント層が非晶性ポリエチレンテレフタレート層からなり、
前記シーラント層の厚さが10~100μmである、蓄電デバイス用外装材。
【請求項2】
前記金属箔層の一方又は両方の面上に、さらに腐食防止処理層を備える、請求項1に記載の蓄電デバイス用外装材。
【請求項3】
前記接着層がウレタン系接着剤の硬化物である、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用外装材。
【請求項4】
前記シーラント接着層がウレタン系接着剤の硬化物である、請求項1~3のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用外装材。
【請求項5】
前記ウレタン系接着剤が、ポリエステルポリオール及びイソシアネート化合物を含む、請求項3又は4に記載の蓄電デバイス用外装材。
【請求項6】
全固体電池用である、請求項1~5のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用外装材。」
第3 当審の判断
1.取消理由通知に記載した取消理由について
(1)取消理由の概要
令和5年12月20日付けで通知した取消理由の概要は次のとおりである。
請求項1、3、4に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用例1に記載された発明及び引用例2、3に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、
請求項2、5に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用例1に記載された発明、引用例2、3に記載された技術事項及び周知の技術事項(引用例2や引用例4に記載された技術事項)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
記
引用例1:特開2006-305975号公報(甲第1号証)
引用例2:特開2013-226838号公報(甲第2号証)
引用例3:特開2017-79199号公報(甲第3号証)
引用例4:特開2011-187385号公報(甲第6号証)
(2)引用例の記載事項
(2-1)引用例1
引用例1(特開2006-305975号公報、甲第1号証)には、「積層フィルム」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「【請求項1】
基材と、積層フィルムの一方の最表面となるシーラント層とを含む複数の層を有する積層フィルムにおいて、
前記シーラント層は、イソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート樹脂からなる熱溶融状態の膜を急冷により固化させたものであることを特徴とする積層フィルム。
・・・・(中 略)・・・・
【請求項7】
前記シーラント層を構成するイソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート樹脂の結晶化度が3%~15%であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の積層フィルム。」
イ.「【0001】
本発明は、低分子量の有機化合物に対する非吸着性およびバリア性に優れ、かつ安定したヒートシールが可能なポリエチレンテレフタレート樹脂からなるシーラント層を有する積層フィルムと、これを用いた包装袋ならびに前記シーラント層の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、包装袋などに使用される包装フィルムのシーラントには、シール強度や耐衝撃性、充填適性などの点から、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂が広く用いられてきた。ところがポリオレフィン系樹脂をシーラントとした包装フィルムは低分子量の有機化合物に対する非吸着性およびバリア性が劣り、飲食物や化粧品等の香気成分が吸着して風味が変化したり、化粧品や医薬品等の微量な有効成分が浸透あるいは吸着して効能が低下したりする欠点がある。逆に、包装フィルムに対する影響としては、内容品に含まれる香味成分やアルコール類、界面活性剤などが浸透することにより、包装フィルム内部の接着剤層やアンカー剤層、印刷層等に悪影響を及ぼして層間のラミネート強度を低下させ、デラミネーション(剥離)を起こすおそれがあるという問題もある。このため、低分子量成分の吸着や浸透が問題となる内容品に対しては、包装フィルムを用いることができずガラス瓶やポリエチレンテレフタレート(PET)製ボトルが多用されている。
・・・・(中 略)・・・・
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、低分子量の有機化合物に対する非吸着性およびバリア性に優れ、内容品の変化やデラミネーションを防止でき、かつ安定的なヒートシール性を有し、かつ余分な触媒や添加剤を使用することなく経済的に生産可能な積層フィルムと、これを用いた包装袋ならびに前記積層フィルムの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明の発明者はポリエチレンテレフタレート系樹脂に着眼して種々検討したところ、意外なことに、特定の成型用ポリエチレンテレフタレート系樹脂に特定の処理を施してシーラント層を形成することにより、上記課題を解決しうるとの知見を得て、本発明を完成したのである。
すなわち本発明は、基材と、積層フィルムの一方の最表面となるシーラント層とを含む複数の層を有する積層フィルムにおいて、前記シーラント層は、イソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート樹脂からなる熱溶融状態の膜を急冷により固化させたものであることを特徴とする積層フィルムを提供する。
・・・・(中 略)・・・・
前記シーラント層を構成するイソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート樹脂の結晶化度が3%~15%であることが好ましい。」
ウ.「【0022】
イソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレートを熱溶融状態から急冷固化すると、結晶化度の上昇が抑制され、結晶化度が低い樹脂が得られる。熱溶融状態のイソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート膜を急冷固化して得られるフィルムは、驚くべきことに、充分なヒートシール性と、低分子量成分の非吸着性およびバリア性を兼ね備えた特異な性質を有するものであり、包装材料のシーラント層として用いたときには、内容品に含まれる低分子量成分の含有量変化や低分子量成分によるデラミネーションを防止できることが分かった。そこで本発明は、上述のシーラント層を有する積層フィルムを提供するものである。
【0023】
急冷固化によって得られるシーラント層の結晶化度は、3%~15%が好ましい。これにより、ヒートシール性、非吸着性、バリア性がいずれも優れたシーラント層となる。シーラント層の結晶化度が3%未満であるか、またはシーラント層が非晶性である場合には、低分子量成分の非吸着性およびバリア性が低下してしまい、シーラント層の結晶化度が15%を超える場合には、充分なヒートシール性が得られにくい。
本発明の積層フィルムにおいて、シーラント層の厚さは、包装材料の用途にも依存し、特に限定されるものではないが、通常は5μm~150μm程度であり、好ましくは15μm~80μmである。」
エ.「【0034】
上述の積層フィルムは、ヒートシール性と加工適性がともに優れるので、通常の製袋機や製袋充填機を用いた製袋に適している。
本発明の包装袋は、上述の積層フィルムを前記シーラント層によりヒートシールしてなるものであり、低分子量成分の非吸着性およびバリア性にも優れているから、医薬品、化粧品、飲食物の包装袋として好適に利用できる。包装袋の形態は、三方袋、四方袋、合掌貼り袋、ガゼット袋、自立袋等の比較的小型の包装袋(パウチ)のほか、例えばバッグインボックス用の内袋やドラム缶内装袋などの大型の袋等、特に限定なく適用可能である。」
オ.「【0037】
(実施例1)
図1の層構成を有する積層フィルム10において、シーラント層11を構成する樹脂として、イソフタル酸の共重合比率が5モル%、極限粘度(フェノール/1,1,2,2-テトラクロロエタンを質量比=1/1で混合した混合溶媒中、30℃で測定した。以下も同じ。)が0.74dl/gのイソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレートを用いた。
前記イソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレートを単軸押出機で熱溶融し、Tダイよりポリウレタン系アンカー剤層12を介して補強層13(2軸延伸PETフィルム、厚さ12μm、両面をコロナ放電処理したもの)上に100m/分の速度で押出ラミネートすることにより、厚さ30μmのシーラント層11を有する押出ラミネートフィルム10aを得た。熱溶融状態の樹脂温度は300℃、冷却ロールの水温は25℃であり、冷却ロールには粗面ロール(十点平均粗さRz:6.8)を使用した。この押出ラミネートフィルム10aのシーラント層11の結晶化度をX線法で測定したところ4%であった。
【0038】
この積層フィルム10aとは別に、基材17(2軸延伸PETフィルム、厚み12μm)とガスバリア層15(厚み9μmのアルミニウム箔)をポリウレタン系接着剤層16を介してドライラミネートしガスバリア性フィルム10bを作製した。上記積層フィルム10aの補強層13の面と、ガスバリア性フィルム10bのガスバリア層15の面とをポリウレタン系接着剤層14を介してドライラミネートし、実施例1の積層フィルムを得た。
【0039】
実施例1の積層フィルムをシーラント層を内側として重ね合わせ、図5に示すように開口部7を除く三辺を圧力0.2MPa、時間1秒、温度160℃でヒートシールし、外寸9cm×9cm、ヒートシール部8の幅が10mmのパウチ(三方袋)Pを作製した。なお、このパウチPは、開口部7より内容品を充填した後、開口部7の周縁部9(二点鎖線で示す部分)をヒートシールすることにより密封することができる。」
カ.「【0054】
本発明は、特に、飲食物や化粧品、医薬品など、香料や有効成分を含有する内容品の包装に好適に利用することができる。」
キ.「【図1】
[図:0001410228000001.jpg]
」
上記「ア.」ないし「キ.」から以下のことがいえる。
・引用例1に記載の「積層フィルム」は、上記「ア.」の【請求項1】、「イ.」の段落【0006】の記載によれば、基材と、一方の最表面となるシーラント層とを含む複数の層を有する積層フィルムであり、上記「オ.」の記載、「キ.」(図1)によれば、実施例1では、基材、ポリウレタン系接着剤層、アルミニウム箔からなるガスバリア層、ポリウレタン系接着剤層、補強層、ポリウレタン系アンカー剤層、及びシーラント層をこの順で積層してなるものである。
・上記「ア.」の【請求項1】、「イ.」の段落【0006】、「オ.」の記載によれば、シーラント層は、イソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート樹脂からなる熱溶融状態の膜を急冷により固化させたものであって、上記「ア.」の【請求項7】、「イ.」の段落【0006】、「ウ.」の記載によれば、その結晶化度は3%~15%であり、上記「オ.」の記載によれば、実施例1では厚さ30μm、結晶化度が4%であって、温度160℃でヒートシールされてなるものである。
そして、上記「イ.」ないし「エ.」、「カ.」の記載によれば、上記のようなシーラント層は、充分なヒートシール性だけでなく、低分子量の有機化合物に対する非吸着性およびバリア性に優れ、内容品に含まれる低分子量成分の含有量変化や低分子量成分によるデラミネーションを防止でき、低分子量成分として香料(香気成分)や有効成分を含有する飲食物や化粧品、医薬品の包装に好適に利用できるものである。
以上のことから、特に実施例1に係るものに着目し、上記記載および図面を総合勘案すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「基材、ポリウレタン系接着剤層、アルミニウム箔からなるガスバリア層、ポリウレタン系接着剤層、補強層、ポリウレタン系アンカー剤層、及びシーラント層がこの順で積層された積層フィルムであって、
前記シーラント層は、イソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート樹脂からなる熱溶融状態の膜を急冷により固化させたものであり、厚さ30μm、結晶化度が4%であって、温度160℃でヒートシールでき、
前記シーラント層は、充分なヒートシール性だけでなく、低分子量の有機化合物に対する非吸着性およびバリア性に優れ、内容品に含まれる低分子量成分の含有量変化や低分子量成分によるデラミネーションを防止でき、低分子量成分として香料(香気成分)や有効成分を含有する飲食物や化粧品、医薬品の包装に好適に利用できる積層フィルム。」
(2-2)引用例2
引用例2(特開2013-226838号公報、甲第2号証)には、以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「【請求項1】
耐熱性樹脂からなる外側基材層と、熱可塑性樹脂からなる内側シーラント層と、それらの両層間に配設されたバリア層としての金属箔とを含む成形用包装材において、
前記外側基材層の外面に、無機および/または有機の固体微粒子が分散含有された耐熱性樹脂組成物からなるマットコート層が塗着形成され、
該マットコート層側の表面のグロス値が30%以下に設定されてなることを特徴とする成形用包装材。
・・・・(中 略)・・・・
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の成形用包装材を深絞り成形または張出し成形してなる電池用ケース。
【請求項12】
食品または医薬品の包装材として用いられる請求項1~10のいずれか1項に記載の成形用包装材。」
イ.「【0001】
この発明は、絞り成形あるいは張出し成形によってトレー状に成形して使用に供される積層型の成形用包装材に関する。更に詳しくは、例えばノートパソコン用、携帯電話用、車載用、定置型電源用のリチウムイオン電池等の二次電池のケース用材料として好適に用いられるほか、食品類、医薬品等の包装材としても好適に用いられるラミネート包装材に関する。
【背景技術】
【0002】
レトルト食品などの食品類や医薬品あるいは工業薬品などの包装材として、内容物の化学変化、劣化、腐敗等を防止するために、酸素や水分のバリア性に優れている金属箔を使用し、該金属箔を基材フィルムとシーラント層の中間に積層したラミネート包装材が、従来から広く用いられている(特許文献1参照)。
【0003】
一方、近年、パソコン等のOA機器、携帯電話、ゲーム機、ヘッドフォンステレオ、電子手帳等の各種電子機器の小型化、軽量化に伴い、電源部の電池としても小型化、軽量化を図る観点からリチウムイオンポリマー二次電池が多く用いられるようになってきている。このリチウムイオンポリマー二次電池は、電池内の電解液が水と反応してフッ酸が生成すると、電池の性能低下を来したり、ケースの腐食により液漏れが発生してしまうことから、そのケース(収容ケース)に用いられる材料として、水蒸気バリア性に優れた密封性の高い上記同様のラミネート包装材が用いられるようになってきている。」
ウ.「【0074】
(内側シーラント層)
内側シーラント層(3)を構成する樹脂としては、特に限定されるものではないが、例えば
1)共重合成分としてプロピレンとエチレンを含有するランダム共重合体樹脂
2)共重合成分としてプロピレン、エチレン及びブテンを含有する共重合体樹脂
3)共重合成分としてプロピレンとエチレンを含有するブロック共重合体樹脂
4)プロピレン単独重合体
等が挙げられる。」
エ.「【0086】
本発明の成形用包装材(1)は、例えば成形高さの深い直方体形状等の各種形状に成形(張り出し成形、深絞り成形等)することにより、電池用ケース、食品や医薬品の包装用容器体等に製作される。このような成形を行って得られた電池用ケース、食品包装材、医薬品包装材は、金属箔によるバリア層(4)と内側接着樹脂層(5)の層間に内容物が侵入することが防止されるので、例えば電池用ケースとした場合には、電解液の影響を受けてラミネート強度が低下することを防止できるし、充放電の繰り返しによる発熱や包装材の膨張、収縮の影響を受けてラミネート強度が低下することを防止できて、長期に亘って良好なシール性能を維持できる。」
上記「ア.」ないし「エ.」の記載を総合勘案すると、引用例2には、次の技術事項が記載されている。
「バリア性としての金属箔を外側基材層と内側シーラント層の中間に積層したラミネート包装材である成形用包装材であって、前記内側シーラント層を構成する樹脂としてはプロピレンとエチレンを含有するランダム共重合体、プロピレン単独重合体等が挙げられる成形用包装材を、食品類や医薬品の包装材として用いる他に、リチウムイオン電池等の二次電池用ケースとしても用いることができること。」
(2-3)引用例3
引用例3(特開2017-79199号公報、甲第3号証)には、以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「【0015】
1.電池用包装材料の積層構造
本発明の電池用包装材料は、第1の面31及び第2の面32を有するステンレス鋼箔3と、第1の面31側に積層された基材層1と、第2の面32側に積層されたシーラント層4とを備える積層体からなる。電池用包装材料が電池に使用される際には、基材層1が最外層になり、シーラント層4が最内層(電池素子側)になる。電池の組み立て時に、電池素子の周縁に位置するシーラント層4同士を接面させて熱溶着することにより電池素子が密封され、電池素子が封止される。図3に示すように、本発明の電池用包装材料は、基材層1とステンレス鋼箔3との間に接着層2を有していてもよい。また、図4に示すように、本発明の電池用包装材料は、ステンレス鋼箔3とシーラント層4との間に接着層5を有していてもよい。」
イ.「【0060】
シーラント層4は、後述する接着層5を有しない場合、ステンレス鋼箔3と接着可能であり、さらにシーラント層4同士が熱溶着可能な樹脂により形成されている。また、シーラント層4は、後述する接着層5を有する場合には、接着層5と接着可能であり、さらにシーラント層4同士が熱溶着可能な樹脂により形成されている。シーラント層4を形成する樹脂としては、このような特性を有するものであれば、特に制限されないが、例えば、酸変性ポリオレフィン、ポリエステル樹脂、フッ素系樹脂などが挙げられる。また、後述する接着層5を有する場合、これらに加え、ポリオレフィン樹脂、シーラント層4を形成する樹脂は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
・・・・(中 略)・・・・
【0062】
シーラント層4の形成に使用されるポリエステル樹脂の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリカーボネート、エチレンテレフタレートを繰り返し単位の主体とした共重合ポリエステル、ブチレンテレフタレートを繰り返し単位の主体とした共重合ポリエステル等が挙げられる。また、エチレンテレフタレートを繰り返し単位の主体とした共重合ポリエステルとしては、具体的には、エチレンテレフタレートを繰り返し単位の主体としてエチレンイソフタレートと重合する共重合体ポリエステル(以下、ポリエチレン(テレフタレート/イソフタレート)にならって略す)、ポリエチレン(テレフタレート/イソフタレート)、ポリエチレン(テレフタレート/アジペート)、ポリエチレン(テレフタレート/ナトリウムスルホイソフタレート)、ポリエチレン(テレフタレート/ナトリウムイソフタレート)、ポリエチレン(テレフタレート/フェニル-ジカルボキシレート)、ポリエチレン(テレフタレート/デカンジカルボキシレート)等が挙げられる。また、ブチレンテレフタレートを繰り返し単位の主体とした共重合ポリエステルとしては、具体的には、ブチレンテレフタレートを繰り返し単位の主体としてブチレンイソフタレートと重合する共重合体ポリエステル(以下、ポリブチレン(テレフタレート/イソフタレート)にならって略す)、ポリブチレン(テレフタレート/アジペート)、ポリブチレン(テレフタレート/セバケート)、ポリブチレン(テレフタレート/デカンジカルボキシレート)、ポリブチレンナフタレート等が挙げられる。これらのポリエステル樹脂は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。」
ウ.「【0125】
本発明の電池用包装材料は、一次電池、二次電池のいずれに使用してもよいが、好ましくは二次電池である。本発明の電池用包装材料が適用される二次電池の種類については、特に制限されず、例えば、リチウムイオン電池、リチウムイオンポリマー電池、鉛畜電池、ニッケル・水素畜電池、ニッケル・カドミウム畜電池、ニッケル・鉄畜電池、ニッケル・亜鉛畜電池、酸化銀・亜鉛畜電池、金属空気電池、多価カチオン電池、コンデンサー、キャパシター等が挙げられる。これらの二次電池の中でも、本発明の電池用包装材料の好適な適用対象として、リチウムイオン電池及びリチウムイオンポリマー電池が挙げられる。」
上記「ア.」ないし「ウ.」の記載を総合勘案すると、引用例3には、次の技術事項が記載されている。
「二次電池などの電池用包装材料を構成するシーラント層を形成する樹脂として例えば、酸変性ポリオレフィン、ポリエステル樹脂、フッ素系樹脂などが挙げられ、このうちのポリエステル樹脂としてはポリエチレンテレフタレート、エチレンテレフタレートを繰り返し単位の主体とした共重合ポリエステル等が挙げられ、さらにこのうちのエチレンテレフタレートを繰り返し単位の主体とした共重合ポリエステルとしてはエチレンテレフタレートを繰り返し単位の主体としてエチレンイソフタレートと重合する共重合体ポリエステルが挙げられること。」
(3)取消理由についての当審の判断
ア.本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と引用発明とを対比する。
a.引用発明における「基材」、「ポリウレタン系接着剤層」、「アルミニウム箔からなるガスバリア層」、「シーラント層」は、それぞれ本件発明でいう「基材層」、「接着層」、「金属箔層」、「シーラント層」に相当する。
また、引用発明における補強層とシーラント層の間に設けられた「ポリウレタン系アンカー剤層」は、少なくともアンカー効果によってシーラント層を補強層に接着する機能を有し、本件発明1でいう「シーラント接着層」に相当するといえるものである。
そして、引用発明における「積層フィルム」にあっても、少なくとも基材、ポリウレタン系接着剤層、アルミニウム箔からなるガスバリア層、ポリウレタン系アンカー剤層、及びシーラント層がこの順で積層されてなるものである。
したがって、本件発明1と引用発明とは、「少なくとも基材層、接着層、金属箔層、シーラント接着層、及びシーラント接着層に接してシーラント層がこの順で積層された構造」を備える点で一致する。
b.本件発明1でいう「非晶性ポリエチレンテレフタレート」について、本件特許明細書の段落【0054】には「低温(例えば160~200℃)でのヒートシールによりヒートシール性を発現するのは非晶性ポリエチレンテレフタレートである。・・・発熱ピーク及び吸熱ピークの位置は、例えば結晶化度を変えることで調整することができる。」と記載されていることを踏まえると、必ずしも結晶化度がゼロ(結晶を全く含まない)というわけではなく、低温(例えば160~200℃)でヒートシール性を発現することができるものであることを意味すると解されるところ、引用発明におけるシーラント層を構成する「イソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート樹脂からなる熱溶融状態の膜を急冷により固化させたもの」は、結晶化度が4%であって温度160℃でヒートシールであるものであることから、本件発明1でいう「非晶性ポリエチレンテレフタレート層」に相当するといえるものである。
したがって、本件発明1と引用発明とは、「前記シーラント層が非晶性ポリエチレンテレフタレート層からな」るものである点で一致する。
c.引用発明におけるシーラント層の厚さは「30μm」であるから、本件発明1で特定する「10~100μm」の範囲に含まれる。
したがって、本件発明1と引用発明とは、「前記シーラント層の厚さが30μm」である点で一致する。
d.引用発明における「積層フィルム」は、飲食物や化粧品、医薬品の包装に好適に利用できるものである。
したがって、本件発明1の「蓄電デバイス用外装材」と引用発明の「積層フィルム」とは、「外装材」である点では共通するといえる。
ただし、外装材について、本件発明1では「蓄電デバイス用」であることを特定するのに対し、引用発明では「飲食物や化粧品、医薬品」に好適に利用できるものである点で相違する。
よって、上記a.ないしd.によれば、本件発明1と引用発明とは、
「少なくとも基材層、接着層、金属箔層、シーラント接着層、及び前記シーラント接着層に接してシーラント層がこの順で積層された構造を備え、
前記シーラント層が非晶性ポリエチレンテレフタレート層からなり、
前記シーラント層の厚さが10~100μmである、外装材。」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点]
外装材について、本件発明1では「蓄電デバイス用」であることを特定するのに対し、引用発明では「飲食物や化粧品、医薬品」に対して好適に利用できるものである点。
(イ)判断
そこで、上記相違点について検討する。
引用例1の特に段落【0001】~【0006】、【0022】~【0023】、【0034】、【0054】の記載を参照するに、発明が解決しようとしている課題からみて、引用発明がシーラント層に「イソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート樹脂からなる熱溶融状態の膜を急冷により固化させたもの」を用いるのは、ヒートシール性の確保だけでなく、「低分子量成分の非吸着性およびバリア性」を備えるからであって、香気成分や有効成分を含有する飲食物や化粧品、医薬品などの包装に用いることを意図しているためであるといえる。そのため、引用例2に「バリア性としての金属箔を外側基材層と内側シーラント層の中間に積層したラミネート包装材である成形用包装材であって、前記内側シーラント層を構成する樹脂としてはプロピレンとエチレンを含有するランダム共重合体、プロピレン単独重合体等が挙げられる成形用包装材を、食品類や医薬品の包装材として用いる他に、リチウムイオン電池等の二次電池用ケースとしても用いることができる」技術事項が記載(上記(2-2)を参照)されているとしても、内側シーラント層として「イソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート樹脂からなる熱溶融状態の膜を急冷により固化させたもの」を用いることや、「低分子量成分の非吸着性およびバリア性」に関して記載も示唆もないことから、たとえ引用例2に接した当業者であっても、引用発明に係る「積層フィルム」をあえて香気成分や有効成分を含有するわけでもない蓄電デバイスの包装に用いようとまでは容易に想到し得ないことである。また、引用例3には「二次電池などの電池用包装材料を構成するシーラント層を形成する樹脂として例えば、酸変性ポリオレフィン、ポリエステル樹脂、フッ素系樹脂などが挙げられ、このうちのポリエステル樹脂としてはポリエチレンテレフタレート、エチレンテレフタレートを繰り返し単位の主体とした共重合ポリエステル等が挙げられ、さらにこのうちのエチレンテレフタレートを繰り返し単位の主体とした共重合ポリエステルとしてはエチレンテレフタレートを繰り返し単位の主体としてエチレンイソフタレートと重合する共重合体ポリエステルが挙げられる」技術事項が記載(上記(2-3)を参照)され、特許異議申立人は特許異議申立書において、このうちの「エチレンテレフタレートを繰り返し単位の主体としてエチレンイソフタレートと重合する共重合体ポリエステル」は、甲第4号証(沼田 靖行、外1名、「ポリエチレンイソフタレートテレフタレート共重合体 第1報 重合体の合成と結晶性」、高分子化学、1957年、第14巻、第151号、p.589-595)や甲第5号証(中条 澄、外2名、「ポリエチレンテレフタレート-フタレート共重合体」、高分子化学、1964年、第21巻、第228号、p.225-230)の記載からみて、非晶性部分が含まれるものであると主張しているが、「エチレンテレフタレートを繰り返し単位の主体としてエチレンイソフタレートと重合する共重合体ポリエステル」は、シーラント層を形成する樹脂として非常に多数挙げられた種類のうちの一つにすぎず、しかもエチレンイソフタレートあるいはエチレンテレフタレートの含有率が不明であり、必ずしも非晶性部分を有するものであるとは限らないことや、そもそも上記引用例2と同様に「低分子量成分の非吸着性およびバリア性」に関して記載も示唆もないことを踏まえると、たとえ引用例3に接した当業者であっても、引用発明に係る「積層フィルム」をあえて香気成分や有効成分を含有するわけでもない蓄電デバイスの包装に用いることまで容易に想到し得たことであるとはいえない。
なお、引用例4(甲第6号証)は、本件発明2や本件発明5に対して周知の技術事項を示すために引用されたものにすぎず、かかる引用例4(甲第6号証)を参照したとしても、引用発明において上記相違点に係る構成を導き出すことはできない。
よって、本件発明1は、引用例1に記載された発明及び引用例2、3に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ.本件発明2ないし6について
請求項2ないし6は請求項1を引用するものであり、本件発明2ないし6は、本件発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものである。
ここで、本件発明2に対して引用した引用例2(特に段落【0063】を参照)や引用例4(特に段落【0042】、【0054】、図1を参照)には、包装材(外装材)を構成する層の一つであるバリア層(金属箔層)の表面に例えば化成処理によって形成される腐食防止処理層を設けるという周知といえる技術事項が記載され、また、本件発明5に対して引用した引用例4(特に段落【0013】~【0014】を参照)には、ウレタン系の接着剤をポリエステルポリオールからなる主剤と、イソシアネート化合物からなる硬化剤とから形成するという周知といえる技術事項が記載されているといえるものの、これら引用例2、4を参照したとしても、引用発明において上記相違点に係る構成を導き出すことはできない。
したがって、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、取消理由の対象としなかった本件発明6も含めて本件発明3、4、6は、引用例1に記載された発明及び引用例2、3に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、本件発明2、5は、引用例1に記載された発明、引用例2、3に記載の技術事項及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ.まとめ
以上のとおり、取消理由の対象としなかった本件請求項6に係る特許も含めて本件請求項1ないし6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということはできない。
2.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)申立理由の概要
取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の概要は次のとおりである。
(1-1)理由1(進歩性)
請求項6に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第1号証に記載された発明、及び甲第2号証ないし甲第5号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでありるから、請求項6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(1-2)理由2(明確性要件)
請求項1ないし6に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
記
甲第1号証:特開2006-305975号公報
甲第2号証:特開2013-226838号公報
甲第3号証:特開2017-79199号公報
甲第4号証:沼田 靖行、外1名、「ポリエチレンイソフタレートテレフタレート共重合体 第1報 重合体の合成と結晶性」、高分子化学、1957年、第14巻、第151号、p.589-595
甲第5号証:中条 澄、外2名、「ポリエチレンテレフタレート-フタレート共重合体」、高分子化学、1964年、第21巻、第228号、p.225-230
(2)申立理由についての当審の判断
(2-1)理由1(進歩性)について
本件発明6について、甲第4号証及び甲第5号証を参照したとしても、引用例1(すなわち甲第1号証)に記載された発明及び引用例2、3(すなわち甲第2号証、甲第3号証)に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないことは、すでに上記「1.(3)」に記載したとおりである。
(2-2)理由2(明確性要件)について
特許異議申立人は、次のような明確性要件についての理由(記載不備)を主張している。
本件発明1には「前記シーラント層が非晶性ポリエチレンテレフタレート層からなり、」との記載があるが、「非晶性ポリエチレンテレフタレート層」の範囲が不明である。ここで、(1)本件特許明細書の段落【0053】の記載によれば、ポリエチレンテレフタレート層は、結晶性ポリエチレンテレフタレート層と非晶性ポリエチレンテレフタレート層に分けられると解されるが、これらの層の境界は明確ではない。さらに、(2)本件特許明細書の段落【0054】には「低温(例えば160~200℃)でのヒートシールによりヒートシール性を発現するのは非晶性ポリエチレンテレフタレートである。・・・発熱ピーク及び吸熱ピークの位置は、例えば結晶化度を変えることで調整することができる。」とも記載されているが、例えば160~200℃でのヒートシールによりヒートシール性を発現するポリエチレンテレフタレートであれば、本件発明1における非晶性ポリエチレンテレフタレートであるのか、または、示差走査熱量分析(DSC)において、100~180℃の範囲内に発熱ピークを有するポリエチレンテレフタレートであれば、本件発明1における非晶性ポリエチレンテレフタレートであるのか、または、高い熱を受けた後(すなわちヒートシールが行われた後)、DSCにおいて200~280℃の範囲内に吸熱(融解)ピークを有するポリエチレンテレフタレートであれば、本件発明1における非晶性ポリエチレンテレフタレートであるのか、当業者は理解することができず、「非晶性ポリエチレンテレフタレート層」の範囲を確定することができず、さらに、これらの特性については測定条件が曖昧であるため、この観点からも「非晶性ポリエチレンテレフタレート層」の範囲を確定することができない。
よって、本件発明1ないし6の記載は、第三者に不測の不利益を与える程に不明確である。
そこで、上記主張について検討する。
まず、上記(1)の点について、そもそも本件発明1における「シーラント層」は、非晶性ポリエチレンテレフタレート層からなるものであり、本件特許明細書の段落【0053】に「・・結晶性ポリエチレンテレフタレート層16aは必須ではなく、シーラント層16は非晶性ポリエチレンテレフタレート層からなるものであってもよい。」と記載されているように、結晶性ポリエチレンテレフタレート層は有しておらず、非晶性ポリエチレンテレフタレート層のみからなるものであると解されるところであり、この点において特許異議申立人の上記(1)の点の主張は当を得ないものである。
次に上記(2)の点について、本件特許明細書の段落【0054】の記載によれば、上記「1.(3)ア.(ア)b.」にも記載したとおり、必ずしも結晶化度がゼロ(結晶を全く含まない)というわけではなく、低温(例えば160~200℃)でヒートシール性を発現することができるものであることを意味すると解されるところであるから、特許異議申立人の上記(2)の点の主張は採用できない。
よって、特許異議申立人の上記明確性要件についての主張は採用することはできず、また、本件特許明細書の記載を考慮し、また、出願当時の技術常識に照らして、本件発明1ないし6が、第三者に不測の不利益を与えるほどに不明確であるとまではいえないから、本件請求項1ないし6に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。
第4 むすび
以上のとおり、本件請求項1ないし6に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由、及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700938