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特許異議申立

2023-700907

組成物から作られる物品

審判番号
2023-700907
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2017-193610
登録番号
7234492
請求日
2023年09月04日
審決日
2024年06月03日
公報発行日
2024年09月27日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】AGC株式会社
  • 【権利者代理人】駒井 慎二
  • 【権利者代理人】津田 智康
  • 【異議申立人】竹口 美穂
審判長/審判官
  • 審判長 細井 龍史
  • 審判官 北澤 健一
  • 審判官 小出 直也
分類
P1651.121-YAA(C08L) / P1651.536-YAA(C08L)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第131条の2第1項、特許法第120条の5第4項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7234492号発明「組成物から作られる物品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7234492号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~14〕について訂正することを認める。 特許第7234492号の請求項1ないし2、4ないし9及び11ないし14に係る特許を維持する。 特許第7234492号の請求項3及び10に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7234492号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし14に係る特許についての出願は、平成29年10月3日(優先権主張 平成29年1月30日、平成29年6月15日)を出願日とする出願であって、令和5年2月28日にその特許権の設定登録(請求項の数14)がされ、特許掲載公報が同年3月8日に発行され、その後、その特許に対し、令和5年9月4日に特許異議申立人 竹口 美穂(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし14)がされたものである。 その後の経緯は、以下のとおりである。 令和5年11月16日付け: 取消理由通知 令和6年 1月19日 : 特許権者による意見書の提出及び訂正請求 同年 1月31日付け: 手続補正指令書(方式) 同年 2月19日 : 特許権者による手続補正書(方式)の提出 同年 3月18日付け: 訂正請求があった旨の申立人への通知 同年 4月18日 : 申立人による意見書の提出 第2 補正の適否についての判断 令和6年2月19日提出の手続補正書(方式)による補正は、代理人「津田 智康」の住所を正確に記載し、訂正後の特許請求の範囲の表記を「訂正特許請求の範囲」と正確に記載する補正であるから、その要旨を変更するものではない。 したがって、当該手続補正書による訂正請求書の補正を認める(特許法第120条の5第9項において準用する特許法第131条の2第1項)。 第3 訂正の適否についての判断 1 訂正内容 令和6年1月19日付けの訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下の(1)ないし(7)のとおりである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「ポリアリールエーテルケトンと、カルボニル基含有基、ヒドロキシ基、エポキシ基およびイソシアネート基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する、テトラフルオロエチレン/ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン、又はエチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体であるフッ素樹脂、及び/又はテトラフルオロエチレンに基づく単位およびプロピレンに基づく単位を有する共重合体である含フッ素エラストマーとを含み、前記ポリアリールエーテルケトンと、前記フッ素樹脂及び前記含フッ素エラストマーの合計との体積比が、95:5~65:35である組成物から作られ、管、管継手、多岐管、弁、医療機器、医療機器の部品、医療用ケース、医療用トレイ、航空機内部パネル、航空機内部コンポーネント、調理器具、実験動物ケージ、実験装置、携帯電子装置、携帯電子装置の構造部品、シームレスベルト、および繊維状成形体からなる群から選択される物品。」と記載されているのを、「繰り返し単位の50mol%以上が、「-Ph-O-Ph-CO-Ph-O-」(ただし、「-Ph-」は1,4-フェニレン基である)で表される繰り返し単位であるポリアリールエーテルケトンと、カルボニル基含有基を有する、テトラフルオロエチレン/ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン、又はエチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体であるフッ素樹脂、及び/又はテトラフルオロエチレンに基づく単位およびプロピレンに基づく単位を有する共重合体である含フッ素エラストマーとを含み、前記ポリアリールエーテルケトンと、前記フッ素樹脂及び前記含フッ素エラストマーの合計との体積比が、95:5~65:35である組成物から作られ、管、管継手、多岐管、弁、医療機器、医療機器の部品、医療用ケース、医療用トレイ、航空機内部パネル、航空機内部コンポーネント、調理器具、実験動物ケージ、実験装置、携帯電子装置、携帯電子装置の構造部品、シームレスベルト、および繊維状成形体からなる群から選択される、射出成形によって製造される物品。」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2乃至14も同様に訂正する)。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項3を削除する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項4に「前記組成物が、さらに少なくとも1種の強化フィラーを含むことを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の物品。」と記載されているのを、「前記組成物が、さらに少なくとも1種の強化フィラーを含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の物品。」に訂正する(請求項4の記載を直接的又は間接的に引用する請求項5乃至14も同様に訂正する)。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項8に「携帯電子装置または携帯電子装置の構造部品である、請求項1~7のいずれか一項に記載の物品。」と記載されているのを、「その構造部が金属によって被覆された、携帯電子装置または携帯電子装置の構造部品である、請求項1、2、4~7のいずれか一項に記載の物品。」に訂正する(請求項8の記載を直接的又は間接的に引用する請求項9も同様に訂正する)。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項10を削除する。 (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項11に「画像形成装置用シームレスベルトである、請求項10に記載の物品。」と記載されているのを、「画像形成装置用シームレスベルトである、請求項1、2、4~7のいずれか一項に記載の物品。」に訂正する。 (7)訂正事項7 特許請求の範囲の請求項12に「繊維状成形体である、請求項1~7のいずれか一項に記載の物品。」と記載されているのを、「繊維状成形体である、請求項1、2、4~7のいずれか一項に記載の物品。」に訂正する(請求項12の記載を直接的又は間接的に引用する請求項13乃至14も同様に訂正する)。 2 一群の請求項について 訂正前の請求項1~14について、請求項2~14は、請求項1を直接的又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。 したがって、訂正前の請求項1~14に対応する訂正後の請求項1~14は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1による訂正について 訂正事項1による請求項1についての訂正は、「ポリアリールエーテルケトン」を「繰り返し単位の50mol%以上が、「-Ph-O-Ph-CO-Ph-O-」(ただし、「-Ph-」は1,4-フェニレン基である)で表される繰り返し単位である」ものに限定し、「フッ素樹脂」が有する官能基を「カルボニル基含有基」に限定し、「物品」を「射出成形によって製造される」ものに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないため、同法同条第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。 また、訂正事項1は、「カルボニル基含有基」以外の官能基を削除するものであり、「繰り返し単位の50mol%以上が、「-Ph-O-Ph-CO-Ph-O-」(ただし、「-Ph-」は1,4-フェニレン基である)で表される繰り返し単位である」ことについては訂正前の請求項3に、「射出成形によって製造される」ことについては本件特許の明細書の段落【0040】に、それぞれ記載されている。そうすると、訂正事項1による請求項1についての訂正は、願書に添付した明細書、又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。 (2)訂正事項2による訂正について 訂正事項2による請求項3についての訂正は、訂正前の請求項3を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないため、同法同条第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものであり、さらに願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であるから、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。 (3)訂正事項3による訂正について 訂正事項3は、訂正前の請求項4において引用する請求項3を削除するもので、引用する請求項の数を減少させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないため、同法同条第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものであり、さらに願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であるから、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。 (4)訂正事項4による訂正について 訂正事項4による請求項8についての訂正は、「携帯電子装置または携帯電子装置の構造部品」を「その構造部が金属によって被覆された」ものに限定するものであり、また、訂正前の請求項8において引用する請求項3を削除するもので、引用する請求項の数を減少させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないため、同法同条第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。 そして、訂正事項4における「その構造部が金属によって被覆された」という事項は、本件特許の明細書の段落【0042】に記載されている。そうすると、訂正事項4による請求項8についての訂正は、願書に添付した明細書、又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。 (5)訂正事項5による訂正について 訂正事項5による請求項10についての訂正は、訂正前の請求項10を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないため、同法同条第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものであり、さらに願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であるから、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。 (6)訂正事項6による訂正について 訂正事項6は、訂正前の請求項11が請求項10を引用していたところ、請求項10の削除に伴い、請求項10が引用する請求項1~7のうち削除された請求項3を除いた請求項を引用する請求項としたものであって、引用する請求項の数を減少させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないため、同法同条第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものであり、さらに願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であるから、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。 (7)訂正事項7による訂正について 訂正事項7は、訂正前の請求項12において引用する請求項3を削除するもので、引用する請求項の数を減少させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないため、同法同条第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものであり、さらに願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であるから、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。 4 本件訂正後の独立特許要件について 特許異議の申立ては、訂正前の請求項1ないし14に対してされているので、当該請求項における訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。 5 むすび 以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~14〕について訂正することを認める。 第4 本件特許発明 上記第3で示したとおり、本件訂正は認められるため、本件特許の請求項1ないし14に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、本件特許発明1ないし14を総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。 「【請求項1】 繰り返し単位の50mol%以上が、「-Ph-O-Ph-CO-Ph-O-」(ただし、「-Ph-」は1,4-フェニレン基である)で表される繰り返し単位であるポリアリールエーテルケトンと、カルボニル基含有基を有する、テトラフルオロエチレン/ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン、又はエチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体であるフッ素樹脂、及び/又はテトラフルオロエチレンに基づく単位およびプロピレンに基づく単位を有する共重合体である含フッ素エラストマーとを含み、前記ポリアリールエーテルケトンと、前記フッ素樹脂及び前記含フッ素エラストマーの合計との体積比が、95:5~65:35である組成物から作られ、管、管継手、多岐管、弁、医療機器、医療機器の部品、医療用ケース、医療用トレイ、航空機内部パネル、航空機内部コンポーネント、調理器具、実験動物ケージ、実験装置、携帯電子装置、携帯電子装置の構造部品、シームレスベルト、および繊維状成形体からなる群から選択される、射出成形によって製造される物品。 【請求項2】 前記フッ素樹脂が、テトラフルオロエチレンに基づく単位と、酸無水物基を有する環状炭化水素単量体に基づく単位と、含フッ素単量体(ただし、テトラフルオロエチレンおよびクロロトリフルオロエチレンを除く。)に基づく単位とを含有する、請求項1に記載の物品。 【請求項3】 (削除) 【請求項4】 前記組成物が、さらに少なくとも1種の強化フィラーを含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の物品。 【請求項5】 前記強化フィラーが繊維状強化フィラーである請求項4に記載の物品。 【請求項6】 前記繊維状強化フィラーがSガラス繊維である請求項5に記載の物品。 【請求項7】 前記強化フィラーを前記組成物の全質量に対して5~40質量%含有する、請求項4~6のいずれか一項に記載の物品。 【請求項8】 その構造部が金属によって被覆された、携帯電子装置または携帯電子装置の構造部品である、請求項1、2、4~7のいずれか一項に記載の物品。 【請求項9】 ラップトップ、携帯電話、GPS、タブレット、携帯端末、携帯記録装置、携帯再生装置および携帯ラジオ受信機のいずれかである、請求項8に記載の物品。 【請求項10】 (削除) 【請求項11】 画像形成装置用シームレスベルトである、請求項1、2、4~7のいずれか一項に記載の物品。 【請求項12】 繊維状成形体である、請求項1、2、4~7のいずれか一項に記載の物品。 【請求項13】 モノフィラメント、マルチフィラメント、織布、不織布のいずれかである、請求項12に記載の物品。 【請求項14】 防火服、耐火服、フィルター、輸送機器内装品のいずれかである、請求項12に記載の物品。」 第5 特許異議申立書に記載した申立ての理由、証拠方法等及び取消理由の概要 1 申立人が提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要 令和5年9月4日に申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。 (1)申立理由1(甲第1号証を主引用例とする進歩性欠如) 本件特許の請求項1ないし14に係る発明は、本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし14に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (2)申立理由2(サポート要件違反) 本件特許の請求項1ないし14についての特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 具体的理由は以下のとおり。 理由ア 請求項1のポリアリールエーテルケトンとして、実施例で具体的に評価され、発明の課題を解決できることが示されているのは、ポリエーテルエーテルケトンのみである。ポリマーの構成単位によって物性が大きく異なることは技術常識であることから、ポリエーテルエーテルケトンで発明の課題が解決できたとしても、その他のありとあらゆるポリアリールエーテルケトンで発明の課題が解決できるとは認められない。 理由イ 請求項1のフッ素樹脂は、「カルボニル基含有基、ヒドロキシ基、エポキシ基およびイソシアネート基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する、テトラフルオロエチレン/ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン、又はエチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体であるフッ素樹脂」と定義されている。一方、実施例で具体的に評価され、発明の課題を解決できることが示されているのは、TFEに基づく構成単位と、NAHに基づく構成単位と、PPVEに基づく構成単位とを有し、官能基としてカルボニル基含有基を有するもののみである。ポリマーの構成単位によって物性が大きく異なることは技術常識であることから、TFEに基づく構成単位と、NAHに基づく構成単位と、PPVEに基づく構成単位とを有し、官能基としてカルボニル基含有基を有するもので発明の課題が解決できたとしても、上記定義に含まれる他のフッ素樹脂で発明の課題が解決できるとは認められない。 2 証拠方法 甲第1号証:特開2015-86364号公報(以下、「甲1」という。) 3 取消理由の概要 当審が令和5年11月16日付けで通知した取消理由(以下、「取消理由」という。)の概要は、次のとおりである。 (1)取消理由1(甲1を主引用例とする進歩性欠如) 本件特許の請求項1ないし14に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明に基いて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (2)取消理由2(サポート要件違反) 本件特許の請求項1ないし14に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 具体的理由の概略は1(2)理由イと同様。 第6 当審の判断 本件特許の請求項3及び10に係る特許について 上記第3に示したとおり、請求項が削除されたことにより申立ての対象が存在しなくなったため、本件特許の請求項3及び10に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 1 取消理由通知書に記載した取消理由について 申立理由1(甲1を主引用例とする進歩性欠如)は、取消理由1(甲1を主引用例とする進歩性欠如)と証拠を同じくするものであるから、取消理由1と併せて検討する。 また、申立理由2(サポート要件違反)の理由イについては、取消理由2(サポート要件違反)と主旨を同じくするものであるから、取消理由2と併せて検討する。 (1)取消理由1(甲1を主引用例とする進歩性欠如)、申立理由1(甲1を主引用例とする進歩性欠如)について ア 甲1に記載される発明の認定 甲1には、その例13に着目すると、以下の発明が記載されていると認める。 「二軸押出機(スクリュー径:15mm)に、共重合組成が、TFEに基づく構成単位/NAHに基づく構成単位/PPVEに基づく構成単位=97.9/0.1/2.0(モル%)である、含フッ素共重合体(A1-1)とPEEK:ポリエーテルエーテルケトン(ソルベイアドバンストポリマーズ社製、KetaSpire(登録商標)KT-820NT、融点:340℃、MFR:17.3g/10分)とを、含フッ素共重合体(A1-1)/PEEK=20/80(体積比)となるように投入し、スクリュー回転数:200rpm、シリンダー温度:330~380℃で溶融混練し、樹脂組成物(C-4)を得、樹脂組成物(C-4)中における含フッ素共重合体(A1-1)の平均分散粒子径は、4.0μmであり、樹脂組成物(C-4)について熱風循環乾燥器((株)丸屋神奈川製作所)を用い、炉内温度200℃にて2時間熱処理し、樹脂組成物(C-5)を得、電線製造装置を用い、アウターダイス内径DD:10.5mm、ニップルダイス外径DN:5.9mm、ライン速度RL:5~10m/分、被覆層厚さ:0.5mm、成形温度:380℃の条件にて、樹脂組成物(C-5)を芯線のまわりに押し出し、得られた電線。」(以下、「甲1発明」という。) イ 対比・判断 (ア)本件特許発明1について a 対比 甲1発明における「含フッ素共重合体(A1-1)」は、TFEに基づく構成単位/NAHに基づく構成単位/PPVEに基づく構成単位を有し、NAHに基づく酸無水物残基であるカルボニル基を含むものである。ここで「TFE」、「NAH」及び「PPVE」は、甲1の段落【0023】、【0025】及び【0110】の記載から、それぞれ、「テトラフルオロエチレン」、「5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物」及び「ペルフルオロプロピルビニルエーテル」であるから、甲1発明における「含フッ素共重合体(A1-1)」は、本件特許発明1のフッ素樹脂及び/又は含フッ素エラストマーにおいて、官能基として「カルボニル基含有基」を有する「テトラフルオロエチレン/ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体」に相当し、甲1発明で用いる「PEEK」は、甲1の段落【0114】から、「ポリエーテルエーテルケトン」であり、「-Ph-CO-Ph-O-Ph-O-」の繰り返し単位を有するから、本件特許発明1の「繰り返し単位の50mol%以上が、「-Ph-O-Ph-CO-Ph-O-」(ただし、「-Ph-」は1,4-フェニレン基である)で表される繰り返し単位であるポリアリールエーテルケトン」に相当する。 また、甲1発明で用いた樹脂組成物(C-5)は、「含フッ素共重合体(A1-1)/PEEK=20/80(体積比)」であるから、本件特許発明1の「前記ポリアリールエーテルケトンと、フッ素樹脂及び前記含フッ素エラストマーの合計との体積比が、95:5~65:35」の範囲に包含される。 そして、甲1発明の「電線」は「物品」である限りにおいて、本件特許発明1の「物品」に相当する。 よって、本件特許発明1と甲1発明は、以下の点で一致する。 <一致点> 「繰り返し単位の50mol%以上が、「-Ph-O-Ph-CO-Ph-O-」(ただし、「-Ph-」は1,4-フェニレン基である)で表される繰り返し単位であるポリアリールエーテルケトンと、カルボニル基含有基を有する、テトラフルオロエチレン/ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン、又はエチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体であるフッ素樹脂、及び/又はテトラフルオロエチレンに基づく単位およびプロピレンに基づく単位を有する共重合体である含フッ素エラストマーとを含み、前記ポリアリールエーテルケトンと、前記フッ素樹脂及び前記含フッ素エラストマーの合計との体積比が、95:5~65:35である組成物から作られた物品。」 そして、以下の点で相違する。 <相違点1> 本件特許発明1は、「管、管継手、多岐管、弁、医療機器、医療機器の部品、医療用ケース、医療用トレイ、航空機内部パネル、航空機内部コンポーネント、調理器具、実験動物ケージ、実験装置、携帯電子装置、携帯電子装置の構造部品、シームレスベルト、および繊維状成形体からなる群から選択される・・・物品」であるのに対し、甲1発明は、「樹脂組成物(C-5)を芯線のまわりに押し出し、得られた電線」、すなわち「被覆電線」である点 <相違点2> 本件特許発明1は、「射出成形によって製造される」のに対し、甲1発明は、「押し出し、得られた」ものであり、「射出成形によって製造される」ものではない点 b 検討 事案に鑑み、相違点2について検討する。 甲1発明は、「溶融成形可能なフッ素樹脂と熱可塑性樹脂とを含む樹脂組成物を押出成形して成形品を製造しているにもかかわらず、成形品の表面にメルトフラクチャが発生しにくい成形品の製造方法を提供する」(【0006】)ことを課題とするものである。そして、甲1の段落【0058】~【0084】には、成形品の製造方法として、樹脂組成物を溶融し、ダイスの孔(キャピラリー、スリット等)から押し出して成形する方法が記載され、溶融した樹脂組成物がダイスから押し出される際のせん断速度や溶融粘度が所定の範囲であれば、成形品の表面にメルトフラクチャが発生しにくいことが記載されている。また、甲1の段落【0085】~【0087】には、成形品は、押出成形によって得られる成形品であれば特に限定されないことが記載され、表面のメルトフラクチャが抑えられていることも記載されている。そして、実施例においても、樹脂組成物を押し出し、メルトフラクチャを確認したことが示されている。 よって、甲1発明は、押出成形にあたってのメルトフラクチャを抑えることを課題とするものであって、押し出しの際のせん断速度等を所定のものとすることにより課題を解決しようするものであるといえる。そうすると、押出成形に用いることが想定され、押出成形の課題を解決しようとする甲1発明を、押出成形とは異なる成形方法である射出成形に用いることが動機付けられるとはいえない。 したがって、相違点1について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明に基いて当業者が容易に想到し得たものではない。 c 申立人の主張の検討 申立人は、令和6年4月18日提出の意見書において、特に以下の主張をしている。 「射出成形は一般的な成形方法の一つであり、甲1の背景技術においても記載されている(甲1の[0003])。よって、物品を射出成形によって製造されるものとすることは、当業者が適宜なし得る事項である。」(第2ページ第1~4行) そこで、申立人の上記主張について検討する。 まず、上記bで説示したように、甲1発明は、押出成形にあたってのメルトフラクチャを抑えることを課題とするものであって、押し出しの際のせん断速度等を所定のものとすることにより課題を解決しようするものであるといえる。甲1の段落【0003】には、射出成形についても記載されているが、これは、背景技術として、溶融成形可能なフッ素樹脂と熱可塑性樹脂とを含む樹脂組成物からなる成形品として、例えば射出成形可能なものもあることを例示したものにすぎないと解される。そして、射出成形と押出成形は、その成形方法の違いにより、同じ種類の樹脂であっても、求められる特性(例えば、メルトフローレート等)が異なるため、押出成形に適した樹脂を、ただちに射出成形用に適用できるものでないことは本件特許優先日時の技術常識であるところ、甲1には、射出成形にも使用し得ることは記載も示唆もされていない。したがって、射出成形が一般的な成形方法であるとか、溶融成形可能なフッ素樹脂と熱可塑性樹脂とを含む樹脂組成物からなる成形品として、例えば射出成形可能なものもあるからといって、そのことをもって、押出成形に用いることが想定されている甲1発明を、射出成形に用いる動機付けがあるということはできない。 よって、申立人の上記主張を首肯することができない。 (イ)本件特許発明2、4ないし9、11ないし14について 本件特許発明2、4ないし9、11ないし14は、本件特許発明1を直接的又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様の理由で、甲1発明に基いて当業者が容易に想到し得たものではない。 ウ 取消理由1(甲1を主引用例とする進歩性欠如)、申立理由1(甲1を主引用例とする進歩性欠如)についてのむすび したがって、本件特許発明1ないし2、4ないし9、11ないし14は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし2、4ないし9、11ないし14に係る特許は、取消理由1及び申立理由1によっては取り消すことはできない。 (2)取消理由2(サポート要件違反)、申立理由2(サポート要件違反)の理由イについて ア サポート要件の判断基準 特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 そこで、上記判断基準にしたがって、以下検討する。 イ 本件特許の明細書の記載事項について 本件特許の明細書には、以下の事項が記載されている。 「【発明が解決しようとする課題】 【0004】 しかし、前記組成物においても、例えば低温における耐衝撃性などはまだ不十分であり、組成物からなる物品が使用される環境によっては破損が生じることがある。ポリアリールエーテルケトンの持つ優れた各種物性を維持しつつ、耐衝撃性を更に改善する必要性が依然として存在する。 【0005】 本発明は、ポリアリールエーテルケトンの持つ優れた各種物性を有するとともに、耐衝撃性をさらに高めた物品の提供をすることを課題とする。」 「【0019】 融点を有する含フッ素重合体としては、各種物品を製造する際の加工性の観点から、溶融成形可能なものが好ましい。溶融成形可能な含フッ素重合体としては溶融成形可能なフッ素樹脂が挙げられ、公知のものが使用でき、テトラフルオロエチレン/ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)等が挙げられる。 【0020】 フッ素樹脂は、カルボニル基含有基、ヒドロキシ基、エポキシ基およびイソシアネート基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有するものが好ましい。カルボニル基含有基としては、酸無水物基およびカルボキシ基が好ましい。フッ素樹脂で、これらの官能基を有するものとしては、WO2016/017801号の[0018]~[0048]に記載された共重合体等が挙げられる。 フッ素樹脂が前記官能基を有すると、本発明の物品の耐衝撃強度が向上するため好ましい。 【0021】 フッ素樹脂が、前記官能基として、単量体に由来する官能基を有する場合、耐衝撃性が優れる点から、下記の重合体(B11)が特に好ましい。 TFE単位またはCTFE単位(u1)と、酸無水物基を有する環状炭化水素単量体(以下、「酸無水物基含有環状炭化水素単量体」とも記す。)に由来する単位(u2)と、含フッ素単量体(ただし、TFEおよびCTFEを除く。)に由来する単位(u3)とを有する重合体(B11)。 ここで、単位(u2)の有する酸無水物基が官能基に相当する。 【0022】 単位(u2)を構成する酸無水物基含有環状炭化水素単量体としては、無水イタコン酸(IAH)、無水シトラコン酸(CAH)、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸(NAH)、無水マレイン酸等が挙げられる。酸無水物基含有環状炭化水素単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。 【0023】 酸無水物基含有環状炭化水素単量体としては、IAH、CAHおよびNAHからなる群から選ばれる1種以上が好ましい。IAH、CAHおよびNAHからなる群から選ばれる1種以上を用いると、無水マレイン酸を用いた場合に必要となる特殊な重合方法(特開平11-193312号公報参照)を用いることなく、酸無水物基を有する重合体(B11)を容易に製造できる。 酸無水物基含有環状炭化水素単量体としては、物品の耐衝撃性が著しく優れる点から、IAHまたはNAHが好ましい。」 「【実施例】 【0049】 以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。なお、各測定項目は下記方法により測定した。 ・・・ 【0052】 (使用原料) PAEK(A-1):ポリエーテルエーテルケトン(融点:340℃、ビクトレックスジャパン株式会社製、製品名「VICTREX PEEK 150P」) PAEK(A-2):ポリエーテルエーテルケトン(融点:340℃、ソルベイアドバンストポリマーズ社製、製品名「KetaSpire KT-820」) PAEK(A-3):ポリエーテルエーテルケトン(融点:340℃、ダイセルエボニック社製、製品名「Vestakeep 1000G」) 含フッ素エラストマー(B-1):テトラフルオロエチレン-プロピレン共重合体(旭硝子株式会社製、製品名「AFLAS(登録商標) 150FC」) 含フッ素エラストマー(B-2):ヘキサフルオロプロピレン-フッ化ビニリデン共重合体(DuPont社製、グレード名「バイトンフリーフローSCPW」) フッ素樹脂(B-3):カルボニル基含有基の含有量:主鎖炭素数1×106個に対し1000個、融点:300℃、溶融流れ速度(372℃、荷重49N):22g/10分)。該樹脂は、国際公開第2015/182702号の実施例5と同様に製造し、TFE/NAH/PPVEのモル比は、97.9/0.1/2である。 他の重合体:ポリフェニルスルホン(BASF社製、「UltrasonP3010」) ・・・ 【0064】 [例8] 東洋精機社製ラボプラストミル混練機に、PAEK(A-2)と含フッ素重合体(B-3)とを体積比(A-2)/(B-3)=70/30となるように投入し、スクリュー回転数30rpm、混練時間10分間、混練温度380℃の条件下で溶融混練して混練物8を得た。 【0065】 [例9] PAEK(A-2)とフッ素樹脂(B-3)との体積比を80:20になるように投入した以外は、例8と同様にして、混練物9を得た。 【0066】 [例10] PAEK(A-2)とフッ素樹脂(B-3)との体積比を90:10になるように投入した以外は、例8と同様にして、混練物10を得た。 【0067】 各例で得られた混練物を用い、前記と同様に曲げ弾性率評価試験用サンプル片を得て、23℃の条件下において曲げ弾性率を求めた。 各例における結果を表3に示す。 各例で得られた混練物を用い、前記と同様にIzod衝撃強度評価試験用サンプル片を得て、23℃の条件下において常温Izod衝撃強度を、-40℃の条件下において低温Izod衝撃強度をそれぞれ求めた。 各例における結果を表3に示す。 【0068】 【表3】 [図:0001414181000001.jpg] 」 ウ 本件特許発明の課題 本件特許の明細書における段落【0005】等の記載から、本件特許発明の解決課題は、少なくとも「ポリアリールエーテルケトンの持つ優れた各種物性を有するとともに、耐衝撃性をさらに高めた物品の提供をすること」にあると認められる。 エ 検討 (ア)本件特許の明細書の一般的記載を見てみると、段落【0020】に、「フッ素樹脂は、カルボニル基含有基、ヒドロキシ基、エポキシ基およびイソシアネート基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有するものが好ましい。カルボニル基含有基としては、酸無水物基およびカルボキシ基が好ましい。・・・フッ素樹脂が前記官能基を有すると、本発明の物品の耐衝撃強度が向上するため好ましい。」と記載され、段落【0021】に、「フッ素樹脂が、前記官能基として、単量体に由来する官能基を有する場合、耐衝撃性が優れる点から、下記の重合体(B11)が特に好ましい。TFE単位またはCTFE単位(u1)と、酸無水物基を有する環状炭化水素単量体(以下、「酸無水物基含有環状炭化水素単量体」とも記す。)に由来する単位(u2)と、含フッ素単量体(ただし、TFEおよびCTFEを除く。)に由来する単位(u3)とを有する重合体(B11)。ここで、単位(u2)の有する酸無水物基が官能基に相当する。」と記載されている。 これらの記載から、フッ素樹脂が酸無水物基等のカルボニル基含有基を有すると、物品の耐衝撃性が向上することが記載されているといえる。 (イ)次いで、本件特許の明細書の【実施例】には、耐衝撃性の性能評価として行った、「酸無水物基由来の官能基を有するテトラフルオロエチレン/ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体であるフッ素樹脂」を用いた[例8]ないし[例10]が示されている。 これらの結果を考察すると、フッ素樹脂が酸無水物基を有すると、物品の耐衝撃性が優れるということを当業者は理解するものである。 (ウ)上記実施例の結果から考察される知見は、本件特許の明細書の上記一般的記載を裏付けるものとなっている。そして、1つの酸無水物基は2つのカルボニル基を有するものであるから、フッ素樹脂がカルボニル基含有基を有するという技術的事項により、本件特許発明の課題が解決できるものと認められる。 そして、本件特許発明1及び本件特許発明1を直接的又は間接的に引用する本件特許発明2、4ないし9、11ないし14は、当該技術的事項を備えるものであるから、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件特許発明の課題を解決できるものである。 したがって、本件特許発明1ないし2、4ないし9、11ないし14は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件特許発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。 オ 取消理由2(サポート要件違反)、申立理由2(サポート要件違反)の理由イについて (ア)具体的理由 令和5年11月16日付けで通知した取消理由2(サポート要件違反)の具体的理由の概要は以下のとおりである。 本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、含フッ素重合体が特定の官能基を含むことによって、耐衝撃性という本件特許の解決課題がどのように解決できるのか、その作用機序について何ら記載されておらず、そのことが本件特許出願時の技術常識である、あるいは該技術常識から当業者が合理的に理解できるものではない。 すなわち、本件特許の明細書において、本件特許発明1の課題を解決し得る根拠は実施例においてのみ得られるものといえる。 そうすると、本件特許の課題が解決する手段として、当業者が認識できる特定の官能基を有するフッ素重合体は、実際に、調製し耐衝撃性の性能評価として行った[例8]ないし[例10]に示される、「酸無水物残基由来の官能基を有するテトラフルオロエチレン/ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体であるフッ素樹脂」の1例のみであって、それ以外の本件特許発明1に列挙される官能基を有する含フッ素重合体が、本件特許発明1の課題を解決し得るのか、当業者の技術常識を参酌しても明らかでないから、当該範囲を包含する本件特許発明1が、発明の詳細な説明の記載から上記課題を解決できるとは当業者が認識できるとはいえない。 また、申立理由2(サポート要件違反)の理由イの具体的理由の概要は以下のとおりである。 請求項1のフッ素樹脂は、「カルボニル基含有基、ヒドロキシ基、エポキシ基およびイソシアネート基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する、テトラフルオロエチレン/ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン、又はエチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体であるフッ素樹脂」と定義されている。一方、実施例で具体的に評価され、発明の課題を解決できることが示されているのは、TFEに基づく構成単位と、NAHに基づく構成単位と、PPVEに基づく構成単位とを有し、官能基としてカルボニル基含有基を有するもののみである。ポリマーの構成単位によって物性が大きく異なることは技術常識であることから、TFEに基づく構成単位と、NAHに基づく構成単位と、PPVEに基づく構成単位とを有し、官能基としてカルボニル基含有基を有するもので発明の課題が解決できたとしても、上記定義に含まれる他のフッ素樹脂で発明の課題が解決できるとは認められない。 (イ)検討 そこで、上記の理由について検討する。 本件訂正により、「フッ素樹脂」が有する官能基のうち「カルボニル基含有基」以外の官能基が削除され、「フッ素樹脂」が有する官能基が「カルボニル基含有基」に限定され、本件特許発明は、上記エで示した本件特許発明の課題が解決できる発明特定事項を有するものとなった。 よって、上記の理由は解消された。 (ウ)申立人の主張の検討 申立人は、令和6年4月18日提出の意見書において、特に以下の主張をしている。 「しかしながら、取消理由2では、本件特許の課題を解決する手段として、当業者が認識できる特定の官能基を有するフッ素重合体は、「酸無水物残基由来の官能基を有するテトラフルオロエチレン/ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体」の1例のみであると指摘されているところ、訂正後のフッ素樹脂は、この1例以外の形態を多数含むものである。そして、訂正後のフッ素樹脂全体にわたって本件特許の課題を解決できる理由について、意見書でも明細書でも何ら説明・立証されていない。」(第3ページ下から第5行~第4ページ第2行) そこで、申立人の上記主張について検討する。 まず、上記エで説示したように、1つの酸無水物基は2つのカルボニル基を有するものであるから、フッ素樹脂がカルボニル基含有基を有するという技術的事項により、本件特許発明の課題が解決できるものと認められる。そして、申立人は、酸無水物基以外のカルボニル基含有基を有するフッ素樹脂を用いた場合に、本件特許発明の課題が解決し得ないことを具体的証拠を示して立証していない。 そうすると、実施例の結果から考察される知見を、実施例のみに限定して解釈すべき根拠は乏しい。 よって、申立人の上記主張を首肯することができない。 カ 小括 したがって、請求項1ないし2、4ないし9、11ないし14に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、取消理由2及び申立理由2の理由イによっては取り消すことはできない。 2 取消理由に採用しなかった申立理由について 申立理由2(サポート要件違反)の理由アについて (1)具体的理由 申立理由2(サポート要件違反)の理由アの具体的理由の概要は以下のとおりである。 請求項1のポリアリールエーテルケトンとして、実施例で具体的に評価され、発明の課題を解決できることが示されているのは、ポリエーテルエーテルケトンのみである。ポリマーの構成単位によって物性が大きく異なることは技術常識であることから、ポリエーテルエーテルケトンで発明の課題が解決できたとしても、その他のありとあらゆるポリアリールエーテルケトンで発明の課題が解決できるとは認められない。 (2)検討 本件訂正により、請求項1の「ポリアリールエーテルケトン」は、「繰り返し単位の50mol%以上が、「-Ph-O-Ph-CO-Ph-O-」(ただし、「-Ph-」は1,4-フェニレン基である)で表される繰り返し単位である」ものとなった。そして、当該繰り返し単位は、ポリエーテルエーテルケトンが有する繰り返し単位である。 したがって、申立人の主張によって、本件特許のサポート要件が否定されるものではない。 (3)申立理由2の理由アについてのむすび したがって、本件特許の請求項1ないし2、4ないし9、11ないし14に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、申立理由2の理由アによっては取り消すことはできない。 第7 むすび 上記第6のとおり、本件特許の請求項1ないし2、4ないし9、11ないし14に係る特許は、当審が通知した取消理由及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては取り消すことはできない。 さらに、他に本件特許の請求項1ないし2、4ないし9、11ないし14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 また、本件特許の請求項3及び10に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 よって、結論のとおり決定する。

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2023-700907

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