特許異議申立
2023-700883
窒化珪素基板
- 審判番号
- 2023-700883
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-207786
- 登録番号
- 7248187
- 請求日
- 2023年08月29日
- 審決日
- 2024年04月15日
- 公報発行日
- 2024年05月31日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社プロテリアル
- 【異議申立人】小松 茂夫
- 【異議申立人】寺澤 佳奈美
- 審判長/審判官
- 審判長 宮澤 尚之
- 審判官 後藤 政博
- 審判官 増山 淳子
- 分類
- P1651.113-Y (C04B) / P1651.121-Y (C04B) / P1651.536-Y (C04B) / P1651.537-Y (C04B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7248187号発明「窒化珪素基板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7248187号の請求項1~4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続きの経緯
特許第7248187号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~4に係る特許についての出願は、令和3年3月19日に出願された特願2021-45314号の一部を、令和3年12月14日に新たな特許出願とした特願2021-202124号の一部を、令和4年8月11日に新たな特許出願とした特願2022-128550号の一部を、令和4年12月26日に新たな特許出願(特願2022-207786号)としたものであって、令和5年3月20日にその特許権の設定登録がされ、令和5年3月29日に特許掲載公報が発行された。その後、本件特許の請求項1~4に係る特許について、令和5年8月29日付けで特許異議申立人 小松茂夫(以下、「申立人1」という。)により、令和5年9月27日付けで特許異議申立人 寺澤佳奈美(以下、「申立人2」という。)により、それぞれ特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~4に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明4」といい、これらをまとめて「本件発明」という場合がある。)は、その特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
窒化珪素粒子と、前記窒化珪素粒子の粒界を形成する粒界相とを有し、
100mm×100mmを超えるサイズであり、
基板の中心部の熱伝導率λcと、基板の端部の熱伝導率λeとの比率であるλe/λcが0.85~1.15であり、
前記λc及び前記λeが100W/m・K以上である、
窒化珪素基板(ただし、前記窒化珪素粒子が所定方向に配向しているものを除く)。
【請求項2】
請求項1に記載の窒化珪素基板であって、曲げ強度が600MPa以上である、
窒化珪素基板。
【請求項3】
請求項1または2に記載の窒化珪素基板であって、厚さが0.2~0.6mmである、
窒化珪素基板。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の窒化珪素基板であって、前記λe/λcが0.99~1.03である、
窒化珪素基板。」
第3 特許異議の申立てについて
申立人1、2が主張する特許異議申立理由は、概略、以下のとおりである
。
1 申立人1による申立理由及び証拠方法
申立人1は、証拠方法として甲第1号証~甲第4号証(以下、それぞれ「甲1-1」~「甲1-4」という。)を提出し、次の申立理由を主張している。
(1) 申立理由1-1(進歩性欠如)
ア 申立理由1-1の概要
本件発明1~4は、甲1-1~甲1-3に記載された発明及び甲1-4に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
イ 申立理由1-1の具体的内容
申立人1の上記申立理由1-1の、本件発明1~4についての具体的な主
張の内容をまとめると、次のとおりである。
本件発明1と甲1-1に記載された発明とを対比すると、本件発明1は、100mm×100mmを超えるサイズである窒化珪素基板であるのに対して、甲1-1に記載された発明は、45mm×45mmのシート状成形体を焼成してなる窒化珪素基板である点で相違するが、下記(ア)~(ウ)のとおりであるから、本件発明1は、当業者が容易に発明をすることができたものである。
また、本件発明2~4において新たに特定した事項は、甲1-1に記載されているから、本件発明2~4は、本件発明1と同様に、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(ア)甲1-2には、150mm×150mm以上のサイズのグリーンシートを焼結してなる窒化珪素基板の発明が記載され、甲1-1及び甲1-2に記載された発明は、その構成の一部及び技術分野等が共通しているから、甲1-2に記載された発明を、甲1-1に記載された発明に適用することは当業者であれば容易になし得ることである。
したがって、本件発明1は、甲1-1及び甲1-2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(イ)甲1-3には、円板の直径が190mmを超え、熱伝導率のばらつきが-10~10%である窒化珪素基板の発明が記載され、直径が大きい窒化珪素基板の熱伝導率のばらつきを抑えることは一般的な課題であるから、甲1-2及び甲1-3に記載された発明を、甲1-1に記載された発明に適用することは当業者であれば容易になし得ることである。
したがって、本件発明1は、甲1-1~甲1-3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(ウ)甲1-2には、基板の中心部のボイド率と基板の端部のボイド率との比率が0.93(0.76%/0.82%)である窒化珪素基板の発明が記載され、また、甲1-4には、非酸化物セラミックスにおいて、粒子内の点状欠陥を除去することにより熱伝導率を向上させる技術が記載され、ボイド率が近いものであれば熱伝導率が同等であるといえるから、甲1-2に記載された発明のボイド率の比率は、本件発明1の熱伝導率の比率と同等である。
したがって、本件発明1は、甲1-1~甲1-3に記載された発明及び甲1-4に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2) 証拠方法
甲1-1:特開2018-184333号公報
甲1-2:国際公開第2017/170247号
甲1-3:特開2002-8826号公報
甲1-4:Koji WATARI,“High Thermal Conductivity Non-Oxide Ceramic
s”, Journal of the Ceramic Society of Japan, 109, S7-S16,
2001
2 申立人2による申立理由及び証拠方法
申立人2は、証拠方法として甲第1号証~甲第6号証(以下、それぞれ「甲2-1」~「甲2-6」という。)を提出し、次の申立理由を主張している。
(1) 申立理由2-1(新規性欠如)
ア 本件発明1~4は、甲2-2に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
イ 申立理由2-1の具体的内容
本件特許に係る出願は、特願2022-128550号の分割出願であるところ、本件発明1の「100mm×100mmを超えるサイズであり」、及び本件明細書【0009】に記載された「本発明の窒化珪素基板は、100mm×100mmを超えるサイズであることが好ましい。」との事項は、特願2022-128550号の出願当初の明細書等(甲2-1)に記載された事項の範囲内のものではない。
そうすると、本件特許に係る出願は、現実の出願日(令和4年12月26日)にされたものであって、本件発明は、その出願前に頒布された甲2-2(特願2022-128550号の公開公報)に記載された発明であるから、新規性を有しない。
(2) 申立理由2-2(進歩性欠如)
ア 甲2-3に基づく進歩性欠如
本件発明1~4は、甲2-3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
イ 甲2-4に基づく進歩性欠如
本件発明1~4は、甲2-4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
ウ 甲2-5に基づく進歩性欠如
本件発明1~4は、甲2-5に記載された発明及び甲2-3に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(3) 申立理由2-3(明確性要件違反)
本件発明1~4は、下記のとおり、明確であるとはいえないから、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
記
例えば、甲2-6の【0007】に「特に窒化珪素セラミックスの場合には、これを構成するβ型窒化珪素粒子の異方性が高いため、その配向性によって、得られるセラミックス基板の特性は大きく異なる」と記載されているように、窒化珪素粒子の異方性の高さに起因して、窒化珪素基板における窒化珪素粒子は多かれ少なかれ配向性を有することは技術常識であるところ、本件発明1における「ただし、前記窒化珪素粒子が所定方向に配向しているものを除く」という特定事項は、窒化珪素粒子が具体的にどの方向にどの程度配向しているものを除くことを意味するのか一義的に理解することができないから、本件発明1は明確でない。
本件発明1を引用する本件発明2~4も同様である。
(4) 申立理由2-4(実施可能要件違反)
本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、下記のとおり、当業者が本件発明1~4を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないから、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
記
本件発明1では、窒化珪素基板について、「100mm×100mmを超えるサイズであり」、「基板の中心部の熱伝導率λcと、基板の端部の熱伝導率λeとの比率であるλe/λcが0.85~1.15であり」、「前記λc及び前記λeが100W/m・K以上である」と特定されているが、本件明細書の実施例において実際に作られているのは、200mm×170mmのサイズで、λe/λcが0.99~1.03であり、λcが117~148W/m・Kであり、λeが116~143W/m・Kである窒化珪素基板だけである(本件明細書:【0053】、【0055】、表1)。
そして、実施例は、縦枠部材30aを用いた載置板組立体70を窒化装置内に収めて窒化を行うのに対して、参考例は、縦枠部材30bを適用する以外は同様にして参考例の窒化珪素基板(λe/λc=0.83)が作製されるから、縦枠部材30aを用いた載置板組立体70を用いることにより、実施例の窒化珪素基板が得られることを当業者は理解できる。
しかし、実施例以外の、本件発明で特定されたサイズ、基板の中心部と端部との熱伝導率の比率、及び各熱伝導率を満たす窒化珪素基板を作れるのかは不明であるし、その指針となる記載も本件明細書には一切ない。
そうすると、当業者は、実施例以外の本件発明1に係る窒化珪素基板を作ることはできない。
本件発明1を引用する本件発明2~4も同様である。
したがって、本件明細書の記載は、実施可能要件を満たさない。
(5) 申立理由2-5(サポート要件違反)
本件発明1~4は、下記のとおり、本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
記
本件発明1は、上記(4)に記載したとおり、窒化珪素基板のサイズ、基板の中心部及び端部の熱伝導率の比率λe/λc、及びλe、λc値が特定されるものであって、「基板内での熱伝導率の偏りを抑制し、高い歩留まりで窒化珪素基板を提供する」という課題を解決しようとするものである。
しかし、実施例に係る窒化珪素基板は、上記(4)に記載したとおりであるところ、本件発明1において、上記サイズ及び熱伝導率の上限は規定されておらず、実施例よりも非常に大きな値をとる場合に、実施例と同様に上記課題を解決できると当業者が認識することはできない。
本件発明1を引用する本件発明2~4も同様である。
したがって、本件の特許請求の範囲の記載は、サポート要件を満たさない
。
(6) 証拠方法
甲2-1:特願2022-128550号の出願当初の明細書、特許請求の
範囲、要約書及び図面
甲2-2:特開2022-159414号公報
甲2-3:国際公開第2017/170247号(甲1-2と同一の文献)
甲2-4:特開2018-184333号公報(甲1-1と同一の文献)
甲2-5:特開2017-214264号公報
甲2-6:特開2009-208981号公報
第4 当審の判断
1 申立人1による特許異議申立理由について
(1) 申立理由1-1(進歩性欠如)について
ア 甲1-1の記載事項及び甲1-1に記載された発明
(ア)甲1-1の記載事項
甲1-1には、次の記載がある。
「【請求項1】
珪素、希土類元素酸化物及びマグネシウム化合物を含有する原料粉末を粉砕しスラリーを作製する工程、前記スラリーをシート状に成形し成形体を得る工程、及び前記成形体を窒素雰囲気中で焼結して前記珪素を窒化し窒化珪素焼結体とする工程を有する窒化珪素基板の製造方法であって、
前記珪素が全て窒化したときに得られる窒化珪素(Si3N4)のモル数xと、前記希土類元素酸化物を三価の酸化物RE2O3(REは希土類元素)に換算したときのモル数yと、前記マグネシウム化合物をMgOに換算したときのモル数zとの合計(x+y+z)を100 mol%としたとき、前記原料粉末は、前記希土類元素酸化物(三価の酸化物RE2O3換算(REは希土類元素))の含有量[y/(x+y+z)]が0.5 mol%以上2 mol%未満、及び前記マグネシウム化合物(MgO換算)の含有量[z/(x+y+z)]が8 mol%以上15 mol%未満であり、
前記マグネシウム化合物が、前記マグネシウム化合物の合計に対して87質
量%以上のMgSiN2を含み、
前記スラリー中の珪素粒子のBET比表面積(m2/g)及びメジアン径D50(μm)が、
式:
1.5≦BET≦4.5、
2.5≦D50≦6、及び
13≦BET×D50≦18
(なおBETとはBET比表面積を表す。)を満たすことを特徴とする窒化珪素基板の製造方法。」
「【請求項5】
窒化珪素粒子と前記窒化珪素粒子の粒界を形成する粒界相とを有する窒化珪素焼結体からなる窒化珪素基板であって、
前記粒界相が、希土類元素及びマグネシウムを含み、
断面写真において、面方向に引いた直線(10μm当たり)と交差する粒界の数nsと厚み方向に引いた直線(10μm当たり)と交差する粒界の数ntとの比
:ns/ntが、
1<ns/nt≦1.3
を満たすような断面組織を有し、
前記窒化珪素粒子の平均長軸径が3~15μm、及び粒子内の酸素量が0.05質量%以下であり、
相対密度が98%以上であることを特徴とする窒化珪素基板。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0021】
従って、本発明の目的は、希土類元素の添加量を低減した場合でも緻密な
焼結体を得ることができ、その結果、粒界相を低減し、もって熱伝導率の向上及びコストダウンが可能な窒化珪素基板の製造方法を提供することである。
【0022】
本発明のもう一つの目的は、高い機械的特性を維持しながら、厚み方向の熱伝導率の高い窒化珪素基板を量産に適した条件で提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者らは、珪素粉末に焼結助剤とし
て希土類元素酸化物及びマグネシウム化合物を添加してなる原料粉末を粉砕
してなるスラリーを成形し窒素雰囲気下で焼結して窒化珪素基板を製造する
方法において、マグネシウム化合物としてMgSiN2を使用し、BET比表面積(m
2/g)(単に「BET」と記載する場合もある。)及びメジアン径D50(μm)が特定
の条件を満たすような条件で粉砕することにより、希土類元素酸化物の含有
量が2 mol%未満であっても、高熱伝導率、高強度、高密度の窒化珪素基板(
板状の窒化珪素焼結体)を得ることができることを見出し、本発明に想到した。
【0024】
さらに上記のようにして作製した窒化珪素焼結体からなる窒化珪素基板は、厚み方向の単位長さあたりの粒界相の数が、面方向の単位長さ当たりの粒界相の数よりも少ない断面組織を有しているため、機械的特性を維持しながら、厚み方向の熱伝導率が向上することを見出し、本発明に想到した。」
「【実施例】
・・・
【0078】
(1)試料No.1(実施例)の窒化珪素基板の作製
(スラリー作製工程)
表1に示すように、BET比表面積が2.1 m2/g、メジアン径D50が8.2 μm、酸素量が0.3質量%の珪素粉末に、珪素(窒化珪素換算)、希土類元素酸化物(三価の酸化物換算)及びマグネシウム化合物(MgO換算)の合計に対して、1.2 mol%のY2O3の粉末及び9.8 mol%のマグネシウム化合物の粉末を焼結助剤として添加し、原料粉末を得た。この原料粉末に、表2に示すように、分散媒(トルエン)及び原料粉末の合計に対して0.5質量%の分散剤(ソルビタン酸トリオレート)を添加して、42質量%の濃度のスラリーとし、ボールミルを用いて、メディアとして窒化珪素製5φボールを使用し、24時間粉砕を行った。マグネシウム化合物は、酸化マグネシウム(MgO)と窒化珪素マグネシウム(MgSiN2)との10:90(質量比)の混合物を使用した。なおマグネシウム化合物の添加量は、マグネシウム化合物を全てMgOに換算したときのmol%で示した。 ・・・
・・・
【0083】
(シート成形工程)
得られたスラリーは、分散媒及び有機系バインダー(アクリル系樹脂)を
加えて濃度調製し、脱泡処理を施してスラリー状の塗工液とした。この塗工用スラリーをドクターブレード法により、キャリアフィルムに塗工し、厚さ0.4 mmのシート状に成形し、45 mm×45 mmの大きさに切断し成形体を得た。なお、塗工時にキャリアフィルムを送る速度が成形速度に相当し、この成形速度を600 mm/min.以下とした。
【0084】
(焼結工程)
得られたシート状成形体をBN粉末層(厚さ4.5μm)を挟んで複数枚積層し、BN板上に設置し、カーボン製ルツボ中、窒素雰囲気下(窒素分圧0.1 MPa)及び750℃で5時間脱脂し、BN製ルツボ中、真空下及び1000℃で1時間脱炭素し、BN製ルツボ中、窒素雰囲気下(窒素分圧0.1 MPa)及び1450℃で10時間窒化し、引き続きBN製ルツボ中、窒素雰囲気下(窒素分圧0.9 MPa)及び1900℃で12時間焼結し、窒化珪素焼結体からなる本発明の基板を得た。
【0085】
窒化珪素基板の表面を清浄化と適度な粗さとすることを目的に液体ホーニング処理した。ホーニング処理は水中にアルミナ砥粒を適量添加し、0.5 MPaの圧力で焼結体表裏に吹き付けて行うことができる。
【0086】
清浄化と液体ホーニング処理の後、窒化珪素基板の相対密度、曲げ強度及
び熱伝導率を測定した。相対密度は、水中置換法(アルキメデス法)により測定した焼結体密度と、窒化珪素の真密度とから、焼結体密度/真密度として算出した。各々の試料の真密度はSi3N4,Y2O3, MgO及びMgSiN2の真密度と配合割合から計算して求めた値とした。曲げ強度の測定は得られた窒化珪素基板から幅4 mm及び長さ10 mmの試験片を作製し3点曲げ試験(スパン7 mm、クロスヘッド速度 0.5 mm/min.)で行い、熱伝導率(厚み方向)の測定は同様に10 mm角に切り出した試験片を使いフラッシュ法で行った。結果を表4に示す。
【0087】
【表4】
[図:0001410224000001.jpg]
【0088】
(2)試料No.2~20の窒化珪素基板の作製
珪素粉末、焼結助剤及び粉砕条件を表1及び表2に示すように変更した以
外は試料No.1と同様にして原料粉末を粉砕し、分散媒及び有機系バインダー(アクリル系樹脂)を加えて濃度調製し、脱泡処理を施して塗工用スラリーを得た。粉砕後の珪素粒子の性状を表3に示す。この塗工用スラリーをドクターブレード法により試料No.1と同様にして塗工し、厚さ0.4 mmのシート状に成形した。得られたシートを45 mm×45 mmの大きさに切断しシート状成形体を得た。
【0089】
得られたシート状成形体を用いて、試料No.1と同様にして焼結を行い、窒化珪素焼結体からなる基板を得た。これらの窒化珪素基板に、清浄化処理と液体ホーニング処理とを施し、試料No.1と同様にして相対密度、曲げ強度及び熱伝導率を測定した。これらの試料が本発明例に含まれるか比較例かは表1及び表2の右端欄に実施例及び比較例と記載して示した。結果を表4に示す。」
(イ)甲1-1に記載された発明
上記(ア)の請求項5によると、甲1-1には、窒化珪素粒子と前記窒化珪素粒子の粒界を形成する粒界相とを有する窒化珪素焼結体からなる窒化珪素基板が記載されている。
また、同じく請求項1及び【0078】~【0089】によると、原料ス
ラリーの塗工液をキャリアフィルムに塗工し、シート状に成形して45mm×45mmの大きさの成形体を得て、これを窒素雰囲気下で焼結する工程を経て窒化珪素焼結体からなる基板を得たことが記載されている。
これらのことから、甲1-1には、次の発明(以下、「甲1-1発明」という。)が記載されているといえる。
「窒化珪素粒子と、前記窒化珪素粒子の粒界を形成する粒界相とを有する窒化珪素基板であって、
珪素粉末を含むスラリー状の塗工液をキャリアフィルムに塗工し、厚さ0.4mmのシート状に成形し、45mm×45mmの大きさに切断して得られた成形体を、窒素雰囲気下で焼結して得られた窒化珪素焼結体からなる、
窒化珪素基板。」
イ 甲1-2の記載事項及び甲1-2に記載された発明
(ア)甲1-2の記載事項
甲1-2には、次の記載がある。
「[0022] 本願発明者の詳細な検討によれば、窒化ケイ素焼結基板のサイズを大きくすると、基板の中央付近と端部とで種々の物性に差が生じ、基板面内での物性の均一性が低下する。特に、基板の中央付近では、焼結時にグリーンシートが収縮しにくいため、基板中央付近において、密度が小さくなることおよびボイド率が大きくなることが分かった。
・・・
[0024] さらに、密度およびボイド率の面内均一性が高く、外形の大きな窒化ケイ素焼結基板を作製するためには、窒化ケイ素焼結基板の製造時にグリーンシートとともに積層される窒化ホウ素粉末層の厚さを制御すること、および、焼結時の炭素含有量を制御することが重要であることが分かった。これらの検討結果に基づき、本願発明者は、大きなサイズを有し、高耐圧および高絶縁信頼性を有し、これらの面内ばらつきが小さい窒化ケイ素焼結基板およびその製造方法を想到した。 ・・・」
「[0050] (窒化ケイ素焼結基板の製造方法)
[1] 原料粉末
本実施形態の窒化ケイ素焼結基板を製造するための原料粉末は窒化ケイ素(Si3N4)を主成分として含み、焼結助剤をさらに含む。具体的な原料粉末の配合成分は、80質量%以上98.3質量%以下のSi3N4粉末、酸化物換算で0.7質量%以上10質量%以下のMg化合物粉末および酸化物換算で1質量%以上10質量%以下の少なくとも1種の希土類元素の化合物粉末を含む。窒化ケイ素焼結体の密度、曲げ強度および熱伝導率の観点から、窒化ケイ素粉末のα化率は20%以上100%以下であることが好ましい。
[0051] Si3N4の添加量が80質量%未満であると、得られる窒化ケイ素焼結基板の曲げ強度および熱伝導率が低すぎる。一方、Si3N4が98.3質量%を超えると、焼結助剤が不足し、緻密な窒化ケイ素焼結基板を得られない。また、Mgが酸化物換算で0.7質量%未満であると、低温で生成する液相が不十分である。一方、Mgが酸化物換算で10質量%を超えると、Mgの揮発量が多くなり、窒化ケイ素焼結基板に空孔が生じやすくなる。さらに、希土類元素が酸化物換算で1質量%未満であると、窒化ケイ素粒子間の結合が弱くなり、クラックが粒界を容易に伸展することから曲げ強度が低くなる。一方、希土類元素が酸化物換算で10質量%を超えると、粒界相の割合が多くなり、熱伝導率が低下する。」
「[0085](実施例)
以下、種々の条件で窒化ケイ素焼結基板を作製し、特性を調べた結果を説明する。
[0086] 1.窒化ケイ素焼結基板の製造
[実施例1~28]
MgO粉末が3.0質量%、Y2O3粉末が2.0質量%、残部がSi3N4粉末および不可避的不純物である原料粉末のスラリー(固形分濃度:60質量%)からドクターブレード法によりグリーンシート1を形成し、窒化ホウ素粉末層を介して20枚重ねて積層組立体10を形成した。グリーンシート1の大きさは、表1に示すように、実施例に応じて変化させた。また、窒化ホウ素粉末層の厚さを表1に示すように、実施例に応じて変化させた。
[0087] 各積層組立体10の上に重し板11を配置して載置板21の上に載置し、図8に示す容器20(二重の容器)に設置した。重し板11による最上層のグリーンシート1aへの荷重は40Paであった。最上段の載置板21aの上面に、15質量%のマグネシア粉末、55質量%の窒化ケイ素粉末、および30質量%の窒化ホウ素粉末からなる詰め粉を配置した。
[0088] 容器20を焼結炉に入れ、焼結炉を、10-1Paの圧力になるまで真空引きした。表1に示すように、実施例に応じて脱炭素域Pcにおける保持温度を変化させた。各実施例の保持時間tcは1時間に設定した。
[0089] その後、焼結炉内の雰囲気を例えば7気圧の窒素に替え、徐熱域P0、の温度プロファイルとして、10℃/hr(0.166℃/min)の昇温速度で10時間加熱した。続いて、第1の温度保持域P1の温度プロファイルとして、1850℃の温度T1で5時間保持し、第2の温度保持域P2の温度プロファイルとして、1600℃の温度T2で1.5時間保持した。その後、冷却域P3の温度プロファイルとして、600℃/hrの冷却速度で雰囲気温度を低下させた。得られた、窒化ケイ素焼結基板から、予肉部分を切除し、表1に示す1辺の長さを有する正方形の窒化ケイ素焼結基板101を得た。窒化ケイ素焼結基板101の厚さは0.32mmであった。
・・・
[0094][表1]
[図:0001410224000002.jpg]
」
「[請求項1] 1辺が120mmの正方形よりも大きい形状の主面を有し、前記主面における中央部の密度dcと端部の密度deの比dc/deが0.98以上であり、前記主面における中央部のボイド率vcが1.80%以下であり、端部のボイド率veが1.00%以下である、窒化ケイ素焼結基板。
[請求項2] 前記中央部の密度dcが3.120g/cm3以上であり、前記端部の密度deが3.160g/cm3以上であり、前記中央部のボイド率vcと前記端部のボイド率veとの比ve/vcが0.50以上である、請求項1に記載の窒化ケイ素焼結基板。
[請求項3] 前記中央部の密度dcが3.140g/cm3以上であり、前記端部の密度deが3.160g/cm3以上であり、前記中央部のボイド率vcが1.3%以下である、請求項1に記載の窒化ケイ素焼結基板。
・・・
[請求項7] 0.15mm以上2.0mm以下の厚さを有する請求項1から6のいずれかに記載の窒化ケイ素焼結基板。
[請求項8] 前記主面は、150mm×170mmの長方形よりも大きい形状を有する請求項1から7のいずれかに記載の窒化ケイ素焼結基板。
[請求項9] 前記主面は、1辺が250mmの正方形またはこれよりも小さい形状を有する請求項1から8のいずれかに記載の窒化ケイ素焼結基板。
・・・
[請求項13] 80質量%以上98.3質量%以下のSi3N4粉末、酸化物換算で0.7質量%以上10質量%以下のMg化合物粉末および酸化物換算で1質量%以上10質量%以下の少なくとも1種の希土類元素の化合物粉末を混合し、混合粉末を得る工程(a)と、
前記混合粉末をスラリーにして複数のグリーンシートに成形する工程(b)と、
前記複数のグリーンシートを、窒化ホウ素粉末層を介して積層し、積層組立体を得る工程(c)と、
前記積層組立体を焼結炉内に配置し、前記積層組立体を焼結する工程(d)と
を包含し、
前記工程(c)において、前記窒化ホウ素粉末層の厚さは3μm以上20μm以下であり、
前記工程(d)は、
80Pa以下の真空雰囲気下、900℃以上1300℃以下の雰囲気温度を保持し、前記グリーンシートから炭素を除去する工程(d1)と、
前記工程(d1)の後、窒素雰囲気下、1600℃以上2000℃以下の雰囲気温度で前記グリーンシートを焼結させる工程(d2)と含む窒化ケイ素焼結基板の製造方法。」
(イ)甲1-2に記載された発明
上記(ア)の[請求項1]、[0050]、[0051]などから、甲1-2には、窒化ケイ素粒子と、窒化ケイ素粒子の粒界を形成する粒界相とを有する窒化ケイ素焼結基板が記載されている。
同じく[0085]~[0089]、[0094]に記載の実施例のうち、実施例11に着目すると、中央部と端部との密度比(中央部/端部)及びボイド率比(端部/中央部)が、それぞれ1.00及び0.93であって、基板外形寸法(1辺の長さ)が200mmの正方形の窒化ケイ素焼結基板が得られたことが記載されている。
これらのことから、甲1-2には、次の発明(以下、「甲1-2発明」と
いう。)が記載されているといえる。
「窒化ケイ素粒子と前記窒化ケイ素粒子の粒界を形成する粒界相とを有する窒化ケイ素焼結基板であって、
基板外形寸法(1辺の長さ)が200mmであり、
基板の中央部と端部との密度比(端部/中央部)及びボイド率比(端部/中央部)が、それぞれ1.00及び0.93である、
窒化ケイ素焼結基板。」
ウ 甲1-3の記載事項及び甲1-3に記載された発明
(ア)甲1-3の記載事項
甲1-3には、次の記載がある。
「【請求項1】 抵抗発熱体がセラミック基板の内部または表面に形成されたセラミックヒータであって、前記セラミック基板の熱伝導率のばらつきが、-10~10%であることを特徴とするセラミックヒータ。
【請求項2】 前記セラミック基板の厚さが20mm以下である請求項1に記載のセラミックヒータ。
【請求項3】 前記セラミック基板は円板であり、その直径は190mmを超える請求項1または2に記載のセラミックヒータ。」
「【0009】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上述した問題点に鑑み、加熱面の温度のばらつきが小さく、シリコンウエハ等の被加熱物が熱衝撃により破損することもないセラミックヒータを得ることを目的として鋭意研究を行った結果、この加熱面の温度のばらつきの一因は、セラミック基板の熱伝導率のばらつきにあり、その熱伝導率のばらつきを一定の範囲内に収めることにより、加熱面を均一な温度に制御することができることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0010】すなわち本発明は、抵抗発熱体がセラミック基板の内部または表面に形成されたセラミックヒータであって、上記セラミック基板の熱伝導率のばらつきが、-10~10%であることを特徴とするセラミックヒータである。
【0011】抵抗発熱体に電流を流して発熱させた際、熱はセラミック基板中を伝搬して、加熱面に到達する。セラミック基板の熱伝導率がほぼ均一であれば、加熱面まで熱が伝搬する量はほぼ均一であるが、セラミック基板の熱伝導率にばらつきがあると、加熱面まで熱が伝搬する量に場所による差が生じ、その結果、加熱面に温度のばらつきが発生するものと考えられる。
【0012】しかしながら、本発明のセラミックヒータは、上記の通り、セラミック基板の熱伝導率のばらつきを、-10~10%の範囲内に調整しているので、抵抗発熱体からセラミック基板の加熱面まで熱が伝搬する量に、場所による差が殆ど生じず、そのため、セラミック基板の加熱面の温度を均一にすることができ、熱衝撃によるシリコンウエハ等の被加熱物が破損するのを防止することができる。」
「【0019】本発明のセラミックヒータ10において、セラミック基板11は、加熱面11aを均一な温度に制御するするため、その熱伝導率のばらつきが、-10~10%になるように調整されている。
【0020】ここで、「熱伝導率のばらつき」とは、セラミック基板の熱伝導率が場所によって異なる場合に、熱伝導率の平均値と熱伝導率が最も大きい部分または熱伝導率が最も小さい部分との差のうちの絶対値の大きい方の値で定義される。この「熱伝導率のばらつき」はセラミック基板を製造する際の焼成温度およびセラミック基板の厚さ等に起因して発生する。」
「【0041】上記セラミックとしては特に限定されず、例えば、窒化物セラミック、炭化物セラミックおよび酸化物セラミック等を挙げることができる。セラミック基板11の材料として、これらのなかでは、窒化物セラミックを用いる場合に、特に、セラミックヒータが上記特性に優れる。
【0042】上記窒化物セラミックとしては、例えば、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化チタン等が挙げられる。また、上記炭化物セラミックとしては、炭化珪素、炭化チタン、炭化硼素等が挙げられる。さらに、上記酸化物セラミックとしては、アルミナ、コージェライト、ムライト、シリカ、ベリリア等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのなかでは、窒化アルミニウムが最も好ましい。熱伝導率が180W/m・Kと最も高いからである。」
「【0096】
【実施例】以下、本発明をさらに詳細に説明する。
(実施例1)外部に抵抗発熱体を有するセラミックヒータの製造(図4参照)
(1) 窒化アルミニウム粉末(平均粒径:1.1μm)100重量部、イットリア(平均粒径:0.4μm)4重量部、アクリルバインダ12重量部およびアルコールからなる組成物のスプレードライを行い、顆粒状の粉末を作製した。
【0097】(2) 次に、この顆粒状の粉末を金型に入れ、平板状に成形して成形体(グリーン)を得た。さらに神戸製鋼社製の冷間静水圧プレス(CIP)を用い、3t/cm2 の圧力で圧縮し、この後、表面を研磨した。
【0098】(3) 加工処理の終った生成形体を1800℃、圧力:20MPaでホットプレスし、厚さがほぼ20mmの窒化アルミニウム板状体を得た。次に、この板状体から直径210mmの円板体を切り出し、セラミック製の板状体(セラミック基板11)とした。この成形体にドリル加工を施し、シリコンウエハのリフターピン16を挿入する貫通孔15となる部分、熱電対を埋め込むための有底孔14となる部分(直径:1.1mm、深さ:2mm)を形成した(図4(a))。
・・・
【0104】(実施例2)焼成されたセラミック基板の厚さが10mmとなるように、生成形体の厚さを調整したほかは実施例1と同様にしてセラミックヒータを製造した。
【0105】(実施例3)内部に抵抗発熱体を有するセラミックヒータの製造(図5参照)
(1) 窒化アルミニウム粉末(トクヤマ社製 平均粒径:1.1μm)100重量部、イットリア(平均粒径:0.4μm)4重量部、アクリルバインダ11.5重量部、分散剤0.5重量部および1-ブタノールとエタノールとからなるアルコール53重量部を混合したペーストを用い、ドクターブレード法により成形を行って、厚さ0.47mmのグリーンシートを得た。
【0106】(2) 次に、このグリーンシートを80℃で5時間乾燥させた後、パンチングにより直径1.8mm、3.0mm、5.0mmの端子ピンと接続するためのスルーホールとなる部分を設けた。
・・・
【0109】上記処理の終わったグリーンシートに、さらに、タングステンペーストを印刷しないグリーンシートを上側(加熱面)に37枚、下側に13枚、130℃、8MPa(80kgf/cm2 )の圧力で積層した。
【0110】(4) 次に、得られた積層体を窒素ガス中、600℃で5時間脱脂し、さらに神戸製鋼社製の冷間静水圧プレス(CIP)を用い、3t/cm2 の圧力で圧縮し、ついで、1850℃、圧力15MPa(150kgf/cm2 )で3時間ホットプレスし、厚さがほぼ5mmの窒化アルミニウム板状体を得た。これを215mmの円板状に切り出し、内部に厚さ6μm、幅10mmの導体層を有するセラミック基板を得た。
・・・
【0113】評価方法
上記実施例1~3および比較例1で得られたセラミックヒータのセラミック基板の熱伝導率のばらつき、加熱面の温度のばらつき、および、耐電圧を以下の方法で測定し、結果を下記の表1に示した。
【0114】(1)熱伝導率のばらつきの測定
a.使用機器
リガクレーザーフラッシュ法熱定数測定装置
LF/TCF-FA8510B
b.試験条件
温度・・・常温
雰囲気・・・真空
c.測定方法
・各セラミック基板から試料を均等に20個切り出し、各試料について熱伝導率を測定し、これらの値から各セラミック基板の熱伝導率の平均値、最大値および最小値を計算した。
・・・
【0119】
【表1】
[図:0001410224000003.jpg]
【0120】実施例1~3で得られたセラミックヒータのセラミック基板では、その熱伝導率のばらつきは-1~+8%であり、その加熱面の最高温度と最低温度との差は8℃と小さなものであったため、その上に載置または離間して支持したシリコンウエハをほぼ均一に加熱することができ、また、その耐電圧も15kv/mmと充分に大きなものであった。 ・・・ 」
「【図4】
[図:0001410224000004.jpg]
」
「【図5】
[図:0001410224000005.jpg]
」
(イ)甲1-3に記載された発明
上記(ア)の請求項1~3によると、熱伝導率のばらつきが-10%~10%であり、直径が190mmを超える円板からなるセラミック基板が記載されている。
同じく【0041】、【0042】などによると、上記セラミックとして、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物セラミックが挙げられている。
これらのことから、甲1-3には、次の発明(以下、「甲1-3発明」という。)が記載されているといえる。
「窒化物セラミックからなるセラミック基板であって、
直径が190mmを超える円板からなり、
熱伝導率のばらつきが-10%~10%である、
セラミック基板。」
エ 甲1-4の記載事項及び甲1-4に記載された技術的事項
(ア)甲1-4の記載事項
甲1-4は、高熱伝導非酸化物セラミックスに関する文献であり、非酸化物セラミックスの熱伝導率について、次の記載がある。
「It is, therefore, essential to remove the point defects in the grains, in order to improve the conductivity at present level of non-oxide ceramics.」(S13左欄11~14行)
(それゆえ、現状では非酸化物セラミックスの熱伝導率を向上させるために、結晶粒内の点状欠陥を除去することが不可欠である。)(当審による仮訳)
(イ)甲1-4に記載された技術的事項
上記(ア)の記載から、非酸化物セラミックスの熱伝導率を向上させるためには、非酸化物セラミックスの結晶粒内の点状欠陥を除去する必要があるといえる。
オ 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲1-1発明との対比
本件発明1と甲1-1発明とを対比すると、両者は、
「窒化珪素粒子と、前記窒化珪素粒子の粒界を形成する粒界相とを有」する「窒化珪素基板」である点で共通する。
そうすると、両者は、少なくとも次の点で相違しているといえる。
(相違点)
本件発明1に係る窒化珪素基板は、「100mm×100mmを超えるサイズであり、基板の中心部の熱伝導率λcと、基板の端部の熱伝導率λeとの比率であるλe/λcが0.85~1.15であり、前記λc及び前記λeが100W/m・K以上である」ことが特定されているのに対して、甲1-1発明に係る窒化珪素基板は、「原料スラリーの塗工液をキャリアフィルムに塗工してシート状に成形した45mm×45mmの大きさの成形体を、窒素雰囲気下で焼結して窒化珪素焼結体」としたものであって基板の大きさが本件発明1とは異なり、また、基板の中心部と端部との熱伝導率の比率及びそれぞれの熱伝導率の値が不明である点。
(イ)相違点の検討
上記(ア)の「相違点」の容易想到性について、申立人1の上記「第3 」の「1(1)イ(ア)~(ウ)」の主張に沿って検討する。
a 甲1-1及び甲1-2による容易想到性(上記「第3」の「1(1)イ(
ア)」)
(a)甲1-1発明は、厚み方向の熱伝導率が高い窒化珪素基板を得ることを課題とするものであって、窒化珪素基板を製造するにあたって、原料粉末の材料組成や、スラリー中の珪素粒子の比表面積及びメジアン径を調整して、基板の面方向と厚み方向の粒界相の数を制御しようとするものである(甲1-1:請求項1、5、【0023】、【0024】、実施例)。
一方、甲1-2発明は、窒化ケイ素焼結基板のサイズを大きくすると、基板面内での物性の均一性が低下するところ、外形の大きいものであってもボイド率などの面内均一性が高い窒化ケイ素基板を提供しようとするものであって、基板の製造時にグリーンシートとともに積層される窒化ホウ素粉末層の厚さ、及び焼結時の基板の炭素含有量を制御するものである(甲1-2:[0022]、[0024]、実施例、請求項1、13)。
そうすると、甲1―1発明と甲1-2発明とは、解決しようとする課題が異なり、また、当該課題を解決するための解決手段も異なるから、甲1-1発明に甲1-2発明を適用するという動機付けは存在しない。
(b)また、申立人1は、甲1-1に記載された窒化珪素基板は、その端部と中央部の熱伝導率の比率はλe/λc=1であるとして、本件発明1との一致点であるとしているが、本件発明1は、100mm×100mmを超えるサイズの基板における熱伝導率の比率を特定するものであって、甲1-1に記載された基板とは、前提となる基板のサイズが異なるから、熱伝導率及びその比率のみを切り離して同一視することはできない。
そして、45mm×45mmのシート状の成形体を焼成して得られた甲1-1発明に係る窒化珪素基板は、当該成形体よりも小さなサイズとなるから、中央部と端部の熱伝導率及びその比率が本件発明1と同じ範囲であるといえたとしても、甲1-1発明を基に基板のサイズを本件発明1のようなサイズに拡大した場合は、基板が大きくなるほど中央部と端部とでは熱伝導率のばらつきが出やすいことは技術常識であり、甲1-1発明に係る基板の製造工程は、本件発明1の製造工程と同じであるとはいえないことなどから、甲1-1発明に係る基板の熱伝導率分布が一定のままで維持されて、本件発明1の熱伝導率の比率と同じ範囲になるとはいえない。
(c)上記(a)、(b)の検討を踏まえると、甲1-1発明において、甲1-2発明を適用して上記相違点に係る本件発明1の構成とすることは、当業者にとって容易想到の事項であるとはいえない。
したがって、本件発明1は、甲1-1発明に甲1-2発明を適用して、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
b 甲1-1~甲1-3による容易想到性(上記「第3」の「1(1)イ(イ)」)
(a)甲1-3発明は、セラミックヒータに用いるセラミック基板の加熱面の温度のばらつきを一定範囲に収めるために、熱伝導率のばらつきが一定範囲にあるセラミック基板を提供しようとするものであり、セラミック基板の熱伝導率のばらつきが-10~10%であることを規定するものである(甲1-3:請求項1、【0009】~【0012】)。
しかし、甲1-3でいう「熱伝導率のばらつき」とは、「熱伝導率の平均値と熱伝導率が最も大きい部分または熱伝導率が最も小さい部分との差のうちの絶対値の大きい方の値」(甲1-3:【0020】)というものであり、甲1-3には、直径が210mm又は215mmであり熱伝導率のばらつきが-1~+8%の範囲である窒化アルミニウム基板の具体例は記載されているものの(実施例、表1(実施例1~3))、窒化珪素基板の具体例はなく、本件発明1の熱伝導率の比率を充足する窒化珪素基板が記載されているとは言い難い。
(b)加えて、甲1-1発明と甲1-3発明とは、熱伝導率の偏りを抑制するという課題の面で共通する点はあるかもしれないが、甲1-1発明に係る窒化珪素基板は、BN製ルツボ中で窒素雰囲気下(窒素分圧0.1MPa及び0.9MPa)で焼結して製造するものであるのに対して(甲1-1:【0084】)、甲1-3発明に係るセラミック基板の製造工程は、20MPa、又は15MPaで加圧しながら焼成してセラミック基板を製造するものであって(甲1-3:【0098】、【0110】)、両者の製造工程も異なるから、甲1-1発明に甲1-3発明を適用するという動機付けは存在しない。
(c)また、甲1-3の他の記載を検討しても、甲1-1発明に係る窒化珪素基板を150mm×150mmのサイズにした場合に、本件発明1で特定した熱伝導率の比率に調整可能であるとはいえないし、また、申立人1は、窒化焼結基板が当該比率に調整可能であるという根拠を示していない。
(d)そして、甲1-2の検討については、上記a(a)に記載したとおりである。
(e)上記(a)~(d)の検討を踏まえると、甲1-1発明において、甲1-2発明及び甲1-3発明を適用して相違点に係る本件発明1の構成とすることは、当業者にとって容易想到の事項とはいえない。
したがって、本件発明1は、甲1-1発明に甲1-2発明及び甲1-3発明を適用して、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
c 甲1-1~甲1-4による容易想到性(上記「第3」の「1(1)イ(ウ)」)
(a)甲1-4は、上記エ(イ)のとおり、単に非酸化物セラミックスの結晶粒内の点状欠陥を除去することで熱伝導率が向上するという技術常識を示しているにすぎず、甲1-1発明において、本件発明1のように基板のサイズを大きくした場合に、熱伝導率をどの程度まで均一にできるのかを何ら明らかにするものではないし、本件発明1のような熱伝導率の比率を得るための具体的手段を明らかにするものではない。
そして、甲1-2、甲1-3の検討については、上記a(a)、b(a)に記載したとおりである。
(b)そうすると、甲1-2発明、甲1-3発明及び甲1-4に記載された技術的事項を踏まえても、甲1-1発明において、相違点に係る本件発明1の構成とすることは、当業者にとって容易想到の事項であるとはいえない。
したがって、本件発明1は、甲1-1発明に甲1-2発明及び甲1-3発明並びに甲1-4に記載された技術的事項を適用して、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(ウ)小括
以上のとおり、本件発明1は、甲1-1~甲1-3に記載された発明及び甲1-4に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。
カ 本件発明2~4について
本件発明2~4は、本件発明1を直接又は間接的に引用して限定した発明であるから、本件発明2~4についても、甲1-1~甲1-3発明及び甲1-4に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。
キ まとめ
以上で検討したとおり、申立人1が主張する申立理由1-1には理由がない。
2 申立人2による特許異議申立理由について
(1) 申立理由2-1(新規性欠如)について
ア 分割要件について
(ア)本件特許は、上記「第1」に記載したとおり、令和3年3月19日に出願された特願2021-45314号(以下、「原出願」という。)の一部を、令和3年12月14日に新たな特許出願とした特願2021-202124号(以下、「分割出願1」という場合がある。)の一部を、令和4年8月11日に新たな特許出願とした特願2022-128550号(以下、「分割出願2」という場合がある。)の一部を、令和4年12月26日に新たな特許出願とした特願2022-207786号に係る特許である。
(イ)ここで、申立人2は、上記「第3」の「2(1)イ」に記載したように
「100×100mmを超えるサイズ」という事項が、分割出願2の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」といい、出願当初の明細書を「当初明細書」という。他の出願についても同様である。)に記載されていないから、本件特許に係る出願は、分割要件を満たしていないと主張している。
そこで、まず、本件特許に係る出願が、分割出願2に対して分割要件を満たしているかどうかについて検討する。
(ウ)分割出願2の当初明細書には、次の記載がある。
「【背景技術】
【0002】
セラミックス基板と金属板を張り合わせた回路基板は、半導体モジュール、パワーモジュール等に利用されている。このセラミック基板には、窒化珪素が使われているが、最近では、高熱伝導率の窒化珪素基板が検討されている。
【0003】
高熱伝導率(120W/m・K台)の窒化珪素基板は、たとえば特許文献1(特開2018-184333号公報) に開示されている。
・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の高熱伝導率の窒化珪素基板を、例えば1辺100mmを超える大判のサイズで作製しようとすると、窒化珪素基板内で熱伝導率に偏りを生じることがあった。例えば、窒化珪素基板の中心部の熱伝導率と、端部の熱伝導率に違いが生じる。 ・・・
【0006】
本発明の目的は、基板内で熱伝導率の偏りを抑制し、高い歩留りで窒化珪素基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者は、窒化珪素基板を作製する際に、窒化工程において基板内でのSiの窒化の偏りを抑制することで、基板内での熱伝導率の偏りを抑えた窒化珪素基板を作製できることを見出した。
【0008】
本発明の窒化珪素基板は、基板の中心部の熱伝導率λcと、基板の端部の熱伝導率λeとの比率であるλe/λcが0.85~1.15である。
【0009】
本発明の窒化珪素基板は、150mm×150mm以上のサイズであることが好ましい。」
(エ)上記当初明細書の【0002】~【0005】によると、高熱伝導率
の窒化珪素基板が検討されているところ、従来技術においては、一辺100mmを超える大判のサイズで窒化珪素基板を作製しようとすると、基板内で熱伝導率に偏りが生じるという問題意識のもと、本件発明は、基板内での熱伝導率の偏りを抑制した窒化珪素基板を提供することを発明が解決しようとする課題とするものであるといえる。
そうすると、上記当初明細書等において、上記従来技術では十分に解決できなかった、150mm×150mm以上の好ましいサイズ(【0009】)を含む、100mmを超えるサイズの窒化珪素基板を対象として、基板内での熱伝導率の偏りを抑制しようとする技術思想が開示されていることを把握することができるから、本件発明1及び本件明細書の【0009】の「100mm×100mmを超えるサイズ」という事項は、分割出願2の当初明細書等の記載を総合して導き出される技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものであるとは認められない。
したがって、本件特許に係る出願は、分割出願2に対して分割要件を満たしているということができる。
(オ)また、原出願、分割出願1、2の当初明細書は、その出願後に補正されておらず、その記載内容はすべて同一であるから、分割出願2は、分割出願1に対して、また分割出願1は、原出願に対して、それぞれ分割要件を満たし、さらに、本件特許に係る出願も原出願に対して、分割要件を満たしている。
(カ)以上から、本件特許に係る出願は、原出願から適法に分割出願されたものであって、原出願の出願日である令和3年3月19日にしたものとみなされる。
そして、分割出願2に係る公開公報である甲2-2は、その公開日が令和4年10月17日であって、本件特許についての出願日とみなされる日よりも後に公開されたものであるから、本件特許の出願前に公知の文献であるとは認められない。
よって、本件発明は、甲2-2に記載された発明によって新規性が欠如しているとはいえない。
(キ)以上で検討したとおり、申立人2の主張する申立理由2-1(新規性欠如)には理由がない。
(2) 申立理由2-2(進歩性欠如)について
ア 甲2-3に基づく進歩性欠如
(ア)甲2-3の記載事項及び甲2-3に記載された発明
甲2-3は、甲1-2と同一の文献であるから、甲2-3の記載事項は、上記「1(1)イ(ア)」に記載したとおりであって、甲2―3に記載された発明は、上記「1(1)イ(イ)」に記載したとおり、甲1-2発明と同様に認定することができるところ、ここでは、便宜上、甲2-3発明という。
(イ)本件発明1について
a 本件発明1と甲2-3発明との対比
本件発明1と甲2-3発明とを対比すると、両者は、
「窒化珪素粒子と、前記窒化珪素粒子の粒界を形成する粒界相とを有」する「窒化珪素基板」であって、「100mm×100mmを超えるサイズ」である点で共通する。
そうすると、両者は、少なくとも次の点で相違しているといえる。
(相違点2-1)
本件発明1は、「基板の中心部の熱伝導率λcと、基板の端部の熱伝導率λeとの比率であるλe/λcが0.85~1.15」であることが特定されているのに対して、甲2-3発明は、「基板の中央部と端部との密度比(端部/中央部)及びボイド率比(端部/中央部)が、それぞれ1.00及び0.93」が規定されているが、中央部と端部との熱伝導率の比率は不明である点。
(相違点2-2)
本件発明1は「前記λc及び前記λeが100W/m・K以上である」ことが特定されているのに対して、甲2-3発明は、基板の中心部と端部のそれぞれの熱伝導率の値が不明である点。
b 相違点の検討
まず、上記「相違点2-1」について検討する。
申立人2は、甲2-3発明に記載された発明は「窒化ケイ素焼結基板のサイズを大きくすると、基板の中央部付近と端部とで種々の物性に差が生じ、基板面内での物性の均一性が低下する」(上記「1(1)イ(ア)」の[0022])という問題点を踏まえてなされたものであって、基板の中央部と端部との密度比及びボイド比からすると、基板の中央部と端部との物性の差が非常に小さいから、本件発明1で特定された熱伝導率の比率を満たす蓋然性が高いし、そうでないとしても、課題の観点から当業者であれば当該比率を満たすようにすることは容易に想到し得ると主張する。
しかし、「基板の中央部と端部との密度比(端部/中央部)及びボイド率比(端部/中央部)が、それぞれ1.00及び0.93」である甲2-3発明に係る窒化ケイ素焼結基板は、密度比及びボイド率比がそれぞれ小さいものよりも基板面内での物性の均一性は高いといえるが、それぞれの比と端部及び中央部の熱伝導率の比率とは、どの程度の相関関係があるのか明らかでないため、本件発明1に係る窒化珪素基板における上記熱伝導率の比率「λe/λc」を充足するとはいえない。
また、甲2―3発明は、基板の物性の面内均一性を高くすることを目的とするものであるから、端部と中央部との熱伝導率を均一にするという動機はあるといえるが、具体的には、基板の中央部と端部との密度比及びボイド率比を制御しようとするものであって、甲2-3において、本件発明1で特定した熱伝導率の比率「λe/λc」に到達することができる手段は明らかであるとはいえないから、当業者が該比率を満たすことは容易想到の事項であるとはいえない。
したがって、相違点2-2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2-3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。
(ウ)本件発明2~4について
本件発明2~4は、本件発明1を直接又は間接的に引用して限定した発明であるから、本件発明2~4についても、甲2-3発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。
イ 甲2-4に基づく進歩性欠如
(ア)甲2―4の記載事項及び甲2-4に記載された発明
甲2-4は、甲1-1と同一の文献であるから、甲2-4の記載事項は、上記「1(1)ア(ア)」に記載したとおりであって、甲2―4に記載された発明は、上記「1(1)ア(イ)」に記載したとおり、甲1-1発明と同様に認定することができるところ、ここでは、便宜上、甲2-4発明という。
(イ)本件発明1について
a 本件発明1と甲2-4発明との対比
本件発明1と甲2-4発明とを対比すると、両者の相違点は、上記「1(1)オ(ア)」に記載したとおりである。
b 相違点の検討
上記相違点について検討する。
上記相違点について、申立人2は、「100mm×100mmを超えるサイズ」となるようにシート状成形体をカットすることは適宜なし得たことにすぎず、また、窒化珪素基板のサイズを大きくしたときの物性の均一性の低下は、当該技術分野において一般的な課題であるから、本件発明1の熱伝導率の比率「λe/λc」を満たすようにすることは、当業者が容易に想到し得たことであるなどと主張している。
しかし、特に上記「1(1) オ(イ)a(b)」で検討したとおりであって、甲2-4(甲1-1)には、シートのサイズを本件発明1のように拡大して熱伝導率の分布を維持することは何ら示唆されていないから、上記相違点は、当業者にとって容易想到の事項であるとはいえない。
したがって、本件発明1は、甲2-4発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。
(ウ)本件発明2~4について
本件発明2~4は、本件発明1を直接又は間接的に引用して限定した発明であるから、本件発明2~4についても、甲2-4発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。
ウ 甲2-5に基づく進歩性欠如
(ア)甲2―5の記載事項及び甲2-5に記載された発明
甲2-5には、次の記載がある。
a 「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
窒化物焼結体において、窒化物結晶粒子が所定方向に配向していることにより、様々な効果(たとえば、熱伝導率の向上)が期待できる。
・・・
【0008】
本開示の目的は、窒化物結晶粒子が所定方向に配向している、窒化物焼結
体を提供することである。」
「【0028】
窒化珪素(Si3N4)結晶は、熱伝導率に異方性を有する。すなわち、窒化珪素結晶は、c軸方向に極めて高い熱伝導率を示す。上記のように酸化された窒化珪素結晶粒子は、弱磁場中でも、c軸方向に配向し得る。すなわち、窒化珪素結晶粒子が原料であることにより、所定方向の熱伝導率に優れる窒化物焼結体が提供され得る。」
「【0087】
窒化物焼結体1000は、所定方向に高い熱伝導率を示すため、たとえば、絶縁放熱基板として有用である。窒化物焼結体1000が絶縁放熱基板である場合、厚さは、たとえば、200μm以上10mm以下であってもよいし、400μm以上5mm以下であってもよい。
【0088】
絶縁放熱基板の平面形状が矩形である場合、一辺の長さは、たとえば、5
mm以上300mm以下であってもよいし、10mm以上200mm以下であってもよい。絶縁放熱基板の平面形状が円形である場合、直径は、たとえば25mm以上300mm以下であってもよいし、50mm以上200mm以下であってもよい。」
「【実施例】
【0091】
以下、実施例が説明される。ただし、以下の例は、本発明を限定するものではない。
【0092】
<窒化物焼結体の製造>
以下のように、No.1~8の窒化物焼結体(縦10mm×横10mm×厚さ2mmの板状試料)がそれぞれ製造された。
【0093】
《No.1》
1.粉末の準備(101)
窒化物結晶粒子を含む第1粉末として、Si3N4結晶粒子の粉末が準備された。
【0094】
2.低酸素分圧中での加熱(102)
酸素分圧が1×10-2Paである雰囲気中で、第1粉末が加熱された。これにより、酸素を含有する第2粉末が調製された。加熱温度は1000℃とされ、加熱時間は5時間とされた。
【0095】
3.粉砕(103)
加熱後、第2粉末が粉砕された。粉砕には、ボールミルが用いられた。粉砕時間は12時間であった。
【0096】
粉砕後、第2粉末の酸素含有量が測定された。測定には、ICP発光分析装置が用いられた。測定結果は、下記表1に示されている。
【0097】
4.スラリーの調製(104)
以下の材料が準備された。
焼結助剤:Y2O3およびMgO
バインダ:PVA
溶媒:エタノール
【0098】
粉砕後の第2粉末、焼結助剤、バインダおよび溶媒が混合された。混合には、ボールミルが用いられた。これにより、スラリーが調製された。スラリーの固形分配合は、質量比で、第2粉末:Y2O3:MgO:PVA=65:3.5:1.5:30とされた。スラリーの固形分濃度は、50質量%とされた。
【0099】
5.磁場中での成形(105)
磁場中でのスリップキャスティングにより、成形体が形成された。すなわち、磁場中でスラリーが固化することにより、成形体が形成された。磁場の磁束密度は、1Tとされた。
【0100】
6.脱脂(106)
窒素雰囲気中、800℃で成形体が加熱された。これにより、成形体からバインダが実質的に除去された。
【0101】
7.焼成(107)
窒素雰囲気中、1850℃で成形体が加熱された。加熱時間は、10時間とされた。これにより、窒化物焼結体が形成された。
【0102】
《No.2、3、6および7》
下記表1に示されるように、低酸素分圧中での加熱(102)において、酸素分圧および加熱時間が変更されることを除いては、No.1と同じ手順により、窒化物焼結体がそれぞれ製造された。」
「【0104】
【表1】
[図:0001410224000006.jpg]
」
「【0108】
No.1等では、Si3N4結晶粒子が、主に(10-11)面および(0002)面に配向していることが確認された。Si3N4結晶粒子が、主に(10-11)面および(0002)面に配向していることは、Si3N4結晶粒子が、実質的にc軸方向のみに配向していることを示している。一方、No.7および8では、このような配向性は観測されなかった。」
b 甲2-5に記載された発明
上記aの【0087】、【0088】によると、甲2-5には、窒化物焼結体からなる絶縁放熱基板について記載されている。また、実施例、【表1】のNo.7、【0108】によると、Si3N4粒子を含む結晶相を有し、縦10mm×横10mmの板状試料であって、熱伝導率が100W・m―1・K-1であり、配向性が観測されない窒化物焼結体が記載されてい
る。
これらのことから、甲2-5には、次の発明(以下、「甲2-5発明」と
いう。)が記載されているといえる。
「Si3N4を含む結晶相を有し、縦10mm×横10mmの板状であって、
熱伝導率が100W・m―1・K-1であり、
配向性が観測されない、
窒化珪素焼結体からなる基板。」
(イ)本件発明1について
a 本件発明1と甲2-5発明との対比
本件発明1と甲2-5発明とを対比する。
甲2-5発明に係る窒化珪素焼結体からなる基板は、Si3N4粒子を焼結させたものであるから(【0090】)、窒化珪素粒子及び窒化珪素粒子の粒界を形成する粒界相を有するといえる。
そうすると、両者は、
「窒化珪素粒子と、前記窒化珪素粒子の粒界を形成する粒界相とを有する、
窒化珪素基板(ただし、前記窒化珪素粒子が所定方向に配向しているものを除く)。」である点で共通し、以下の点で相違している。
(相違点)
本件発明1に係る窒化珪素基板は、「100mm×100mmを超えるサイズであり、基板の中心部の熱伝導率λcと、基板の端部の熱伝導率λeとの比率であるλe/λcが0.85~1.15であり、前記λc及び前記λeが100W/m・K以上である」ことが特定されているのに対して、甲2-5発明に係る窒化珪素体からなる基板は、「縦10mm×横10mmの板状であって、熱伝導率が100W・m―1・K-1」であって、基板の大きさが本件発明1と異なり、また、基板の中心部と端部との熱伝導率の比率及びそれぞれの熱伝導率の値が不明である点。
b 相違点の検討
申立人2は、上記相違点について、基板の大きさは、甲2-5の【0088】に絶縁放熱基板の平面形状が矩形である場合、5mm以上300mm以下であってもよいことなどが記載されているから、甲2-5発明に係る基板を100mm×100mmを超えるサイズとすることは適宜なし得たことであり、甲2-3(甲1-2)の[0022]の記載(上記「1(1)イ(ア)」参照)を踏まえれば、窒化物焼結体の物性の均一性を高い方がよいことは当然認識することであるから、甲2-5発明において、本件発明1の基板の中心部と端部との熱伝導率の比率を満たすようにすることは当業者が容易に想到し得たことであるなどと主張している。
しかし、甲2-5は、【0008】、【0028】などによると、窒化物結晶粒子を所定方向に配向させることにより、所定方向の熱伝導率に優れる窒化物焼結体を提供することを前提として、絶縁放熱基板を5mm以上300mm以下とするものであって、配向性が観察されない甲2-5発明に係る基板のサイズを大きくして熱伝導率の均一性の向上を図るという動機付けはないし、本件発明1に係る窒化珪素基板における熱伝導率の比率「λe/λc」に到達させることができる手段は何ら明らかでないから、甲2-5発明において、当業者が当該比率を満たすことは容易想到の事項であるとはいえない。
したがって、本件発明1は、甲2-5発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。
(ウ)本件発明2~4について
本件発明2~4は、本件発明1を直接又は間接的に引用して限定した発明であるから、本件発明2~4についても、甲2-5発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。
エ まとめ
以上で検討したとおり、申立人2が主張する申立理由2-2(進歩性欠如)には理由がない。
(3) 申立理由2-3(明確性要件違反)について
本件発明1の「ただし、前記窒化珪素粒子が所定方向に配向しているものを除く」との記載については、窒化珪素基板における窒化珪素粒子の配向性について、当業者が技術常識によって判断すればよいものである。
ここで、上記「ただし、前記窒化珪素粒子が所定方向に配向しているものを除く」との事項は、本件特許に係る出願の親出願である特願2022-128550号(「分割出願2」)を分割出願した際に、その親出願である特願2021-202124号(「分割出願1」)で引用された特開2017-214264号公報(「甲2-5」に該当)に記載された配向性のある窒化物焼結体(窒化珪素基板)に係る発明を除くために特定されたものである。
そして、上記引用された文献(「甲2-5」参照)には、次の記載がある。
「【0008】
本開示の目的は、窒化物結晶粒子が所定方向に配向している、窒化物焼結体を提供することである。」
「【0028】
窒化珪素(Si3N4)結晶は、熱伝導率に異方性を有する。すなわち、窒化珪素結晶は、c軸方向に極めて高い熱伝導率を示す。上記のように酸化された窒化珪素結晶粒子は、弱磁場中でも、c軸方向に配向し得る。すなわち、窒化珪素結晶粒子が原料であることにより、所定方向の熱伝導率に優れる窒化物焼結体が提供され得る。」
「【0085】
窒化物結晶粒子301は、所定方向に配向している。図4では、窒化物結晶粒子301は、c軸が基板の厚さ方向に配向している。この場合、窒化物焼結体1000は、たとえば、基板の厚さ方向に高い熱伝導率を示す。あるいは、窒化物結晶粒子301は、c軸が基板の面内方向に配向していてもよい。面内方向とは、厚さ方向と直交する任意の方向を示す。
【0086】
本明細書において「窒化物結晶粒子が所定方向に配向している」とは、窒化物焼結体に含まれる、全ての窒化物結晶粒子が所定方向に配向していることのみを示すものではない。すなわち、窒化物焼結体において、一部の窒化物結晶粒子が、所定方向に配向していなくてもよい。」
「【0107】
XRD(X-Ray Diffraction)分析により、Si3N4結晶粒子の配向性が評価された。XRD分析は、成形時、磁場に垂直であった面に対して実施された。分析結果は、上記表1に示されている。
【0108】
No.1等では、Si3N4結晶粒子が、主に(10-11)面および(0002)面に配向していることが確認された。Si3N4結晶粒子が、主に(10-11)面および(0002)面に配向していることは、Si3N4結晶粒子が、実質的にc軸方向のみに配向していることを示している。一方、No.7および8では、このような配向性は観測されなかった。」
上記引用文献(「甲2-5」)の記載からすると、XRD分析等の慣用手段を用いて、技術常識にしたがって窒化珪素基板の配向性の有無を判断することができ、このような判断に基づいて、本件発明において、配向性がある窒化珪素基板が除外されることは明らかである。
以上のことから、本件発明は明確である。
したがって、申立理由2-3(明確性要件違反)には理由がない。
(4) 申立理由2-4(実施可能要件違反)について
本件明細書の【0014】~【0036】には、「窒化珪素基板の製造方法」について記載されている。そして、「(1)スラリーを作製する工程」(【0014】~【0026】)では、珪素粉末に、焼結助剤として希土類元素酸化物及びマグネシウム化合物を添加して得られる原料粉末を、粉砕してスラリーを作製する工程、「(2)シート状の成形体を得る工程(成形工程)」(【0027】~【0031】)では、得られたスラリーに、必要に応じて分散媒、有機系バインダー、分散剤等を加えて、粘度を所定の範囲内に調整し、塗工用のスラリーを作製し、これをシート状に成形し、所定の大きさに切断した後、乾燥することによってシート状成形体を得る工程、及び「(3)成形体を焼結する工程(焼結工程)」(【0032】~【0036】)では、得られたシート状の成形体を加熱することにより、成形体に含まれる珪素を窒化した後、緻密化し焼結する工程についてそれぞれ記載されている。
そして、実施例(【0047】~【0062】)では、上記各工程にしたがってシート状成形体を得た後、所定の縦枠部材を適用することで基板の窒化を均一化することにより、本件発明に係る所定の窒化珪素基板を製造することができる(【0058】)ことが説明されている。
そうすると、本件明細書の記載に接した当業者であれば、上記【0014】~【0036】の記載を参照して、スラリーを調製しシート状成形体を得た後、特に焼結工程において、実施例と同様な窒化工程を採用することで、本件発明に係る窒化珪素基板を製造可能であると理解することができる。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものである。
よって、申立理由2-4(実施可能要件違反)は理由がない。
(5) 申立理由2-5(サポート要件違反)について
本件発明において、窒化珪素基板のサイズ、及び基板の中心部及び端部の熱伝導率λe、λcの上限は特定されていないが、上記(4)に記載したように、本件明細書には、本件明細書に係る窒化珪素基板の製造方法が具体的に記載されているところ、特定された下限以上の範囲で本件発明に係る窒化珪素基板について製造されているから、「基板内での熱伝導率の偏りを抑制し、高い歩留まりで窒化珪素基板を提供する」という課題を解決できたことを当業者であれば理解することができる。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
よって、申立理由2-5(サポート要件違反)は理由がない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、申立人1及び申立人2による特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1~4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700883