特許異議申立
2024-700768
窒化珪素基板
- 審判番号
- 2024-700768
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-165914
- 登録番号
- 7435892
- 請求日
- 2024年08月14日
- 審決日
- 2025年01月14日
- 公報発行日
- 2025年03月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社プロテリアル
- 【異議申立人】小松 茂夫
- 審判長/審判官
- 審判長 宮澤 尚之
- 審判官 増山 淳子
- 審判官 後藤 政博
- 分類
- P1651.537-Y (C04B) / P1651.121-Y (C04B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第44条第1項、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7435892号発明「窒化珪素基板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7435892号の請求項1~4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7435892号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~4に係る特許についての出願は、令和4年2月25日を出願日とする特願2022-27436号の一部を特許法第44条第1項の規定により、令和5年3月10日に新たな特許出願(特願2023-37626号)として分割し、さらにその一部を、同年7月6日に新たな特許出願(特願2023-111250号)として分割し、さらにその一部を、同年9月27日に新たな特許出願(特願2023-165914号)としたものであって、令和6年2月13日に特許権の設定登録がされ、同年同月21日に特許掲載公報が発行され、その後、同年8月14日に、請求項1~4に係る特許について、特許異議申立人 小松茂夫(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがなされたものである。
第2 本件特許請求の範囲の記載(本件発明)
本件特許請求の範囲の記載は、次のとおりである(以下、各請求項に係る発明を、項番号に合わせて「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」という。)。
「【請求項1】
第1面と、前記第1面とは反対側の第2面とを有し、
平面形状は、それぞれの辺が100mm以上の矩形形状であり、
熱伝導率は、110W/(m・K)以上であり、
前記第1面と前記第2面のうちの少なくとも一方の面において、中央部と、各角部から中央部の方向に15mm内側の位置である縁部のすべてで、明度が70以上であり、彩度が10以上である、
窒化珪素基板。
【請求項2】
請求項1に記載の窒化珪素基板において、
前記中央部と前記縁部のすべてで、クロマティクネス指数b*が10以上である、窒化ケイ素基板。
【請求項3】
請求項2に記載の窒化珪素基板において、
前記中央部と前記縁部のすべてで、クロマティクネス指数a*が―2以上0以下である、窒化ケイ素基板。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の窒化珪素基板において、
厚さが0.15mm以上0.8mm以下である、窒化珪素基板。」
第3 特許異議の申立てについて
1 特許異議申立理由
申立人が主張する特許異議申立理由は、概略、以下のとおりである。
ここで、申立人が提出した証拠方法は、次のものである。
甲第1号証 特開2002-29851号公報
甲第2号証 特開2014-58445号公報
甲第3号証 特開2000-272968号公報
(以下、「甲第1号証」などを「甲1」などという。)
(1)申立理由1(サポート要件違反)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
記
本件発明1の「窒化珪素基板」は、「珪素粉末を使用したシート状の成形体を窒化処理した後で緻密化焼結して生成される窒化珪素基板」及び「窒化珪素粉末を使用したシート状の成形体を窒化処理することなく緻密化焼結して生成される窒化珪素基板」の両方を含むが、本件特許の願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という。)の発明の詳細な説明には、「珪素粉末を使用したシート状の成形体を窒化処理した後で緻密化焼結して生成される窒化珪素基板」しか記載されていない。
そうすると、発明の詳細な説明に記載されていない「窒化珪素粉末を使用したシート状の成形体を窒化処理することなく緻密化焼結して生成される窒化珪素基板」をも含む本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものではないし、本件発明2~4についても同様である。
(2)申立理由2(甲1を主たる証拠とした進歩性欠如)
本件発明1~4は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である甲1に記載された発明、及び、甲2、3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1~4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
第4 当審の判断
1 申立理由1(サポート要件違反)について
(1)サポート要件判断の規範
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
(2)本件発明の課題
本件明細書の発明の詳細な説明の記載によれば、本件発明の課題は、「窒化珪素基板の外観検査の異物あるいは汚れの検出精度を向上できるようにすること」(【0008】)であるといえる。
(3)本件発明の課題に対応する本件明細書の発明の詳細な説明の記載
ア 上記(2)の発明の課題に対応して、【0065】には、「異物や汚れの窒化珪素基板への付着を検出するために、外観検査が行われている。ところが、図6に示すような色むらが発生すると、色むらを異物や汚れの付着として誤検出するおそれがある。具体的に、異物や汚れは黒色領域(黒色点)として認識されることが多いことを考慮すると、例えば、図6に示す窒化珪素基板の縁部は黒味を帯びていることから、この縁部の領域が異物や汚れが付着した領域と誤検出されるおそれがある。」と記載されており、窒化珪素基板の外観検査において、異物や汚れは黒色領域として認識されることが多いため、色むらが発生し黒味を帯びた領域は、異物や汚れが付着した領域として誤検出されるおそれがあることが記載されているといえる(下線は、当審で付した。以下、同様。)。
イ また、【0081】には、色むらを評価するに当たり、「色空間」を使用することが記載され、【0083】には、色空間の構成パラメータとして以下に示すパラメータがあることが記載され、【0084】~【0088】には、パラメータとして、明度L*、彩度C*が記載され、明度L*については、【0084】に、「「明度L*」の値が小さくなると、色調は暗くなり、黒味を帯びる」ことが記載されている。また、【0088】には、彩度C*はクロマティクネス指数a*とクロマティクネス指数b*から「C*=√{(a*)2+(b*)2}」で算出されること、【0085】には、「「クロマティクネス指数a*」の絶対値が小さくなる程、くすんだ色調となる」こと、【0086】には、「「クロマティクネス指数b*」の絶対値が小さくなる程、くすんだ色調となる」ことが記載されている。そうすると、√{(a*)2+(b*)2}で表される彩度C*は、値が小さくなる程、くすんだ色調となるといえる。
ウ さらに、【0102】には、「実施例1および実施例2において、中央部(位置1)と縁部(位置2~位置5)のそれぞれの「明度L*」は70以上であるともに、「彩度C*」は10以上である。これにより、異物や汚れとのコントラストが明瞭となる結果、外観検査の異物あるいは汚れの検出精度を向上できるという顕著な効果を得ることができる。」と記載されている。
エ 上記アによれば、窒化珪素基板の外観検査において、窒化珪素基板の、色むらが発生し黒味を帯びた領域は、異物や汚れが付着した領域として誤検出されるおそれがあることが記載されている。
そして、上記イによれば、明度L*の値が小さくなると、色調は暗くなり、黒味を帯びること、彩度C*は、値が小さいほどくすんだ色調となることが記載されているといえる。つまり、明度L*、彩度C*の値が大きければ色調は明るく、黒味や、くすみがなくなることが記載されているといえる。この点を、上記アの記載事項と合わせて考えれば、明度L*、彩度C*の値が大きければ色調は明るく、黒味や、くすみがなくなり、異物や汚れが付着した領域として誤検出されるおそれがなくなるといえる。
そして、上記ウによれば、中央部(位置1)と縁部(位置2~位置5)のそれぞれの「明度L*」は70以上であるともに、「彩度C*」は10以上であれば、異物や汚れとのコントラストが明瞭となる結果、外観検査の異物あるいは汚れの検出精度を向上できるといえる。
そうすると、上記ア~ウによれば、本件明細書の発明の詳細な説明には、明度L*、彩度C*の値が大きいこと、そして、中央部(位置1)と縁部(位置2~位置5)のそれぞれの「明度L*」は70以上であるともに、「彩度C*」は10以上であることで、異物や汚れが付着した領域として誤検出されるおそれがなくなり、外観検査の異物あるいは汚れの検出精度が向上できることが記載されているといえる。
(4)特許請求の範囲の記載と本件明細書の発明の詳細な説明の記載との対比
上記(3)エで述べたように、発明の詳細な説明の記載によれば、本件発明の課題を解決するには、明度L*、彩度C*の値が大きいこと、そして、中央部(位置1)と縁部(位置2~位置5)のそれぞれの「明度L*」は70以上であるともに、「彩度C*」は10以上であることが肝要であると理解される。
これに対し、本件発明1では「前記第1面と前記第2面のうちの少なくとも一方の面において、中央部と、各角部から中央部の方向に15mm内側の位置である縁部のすべてで、明度が70以上であり、彩度が10以上である」ことが特定されている。
したがって、本件発明1及びこれ引用する本件発明2~4は、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
(5)小括
上記(4)について、上記(1)のサポート要件判断の規範への当てはめを行うと、本件発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであり、サポート要件を満たしているといえる。
(6)申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書において、上記第3の1(1)に記載した理由で、本件発明は発明の詳細な説明に記載されたものではない旨主張している。
しかし、上記(1)~(5)で検討したとおり、本件発明は発明の詳細な説明に記載されたものであり、サポート要件を満たすため、上記申立人の主張は採用できない。
2 申立理由2(甲1を主たる証拠とした進歩性欠如)について
(1)甲号証に記載された事項及び甲号証に記載された発明
ア 甲1に記載された事項及び甲1に記載された発明
(ア)甲1に記載された事項
甲1には、以下の事項が記載されている(下線は当審で付した。)。
「【0050】
【実施例】以下、実施例と比較例をあげて、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0051】〔実施例1~19、比較例1~9〕表1に示す粉体特性の異なる窒化珪素粉末A~Dに、表2に示す組成の酸化物を添加し、更にメタノールを添加してボールミルで30分間湿式混合した。次に、これらの混合粉末を濾過・乾燥後、20MPaの成形圧で金型成形した後、200MPaの成形圧でCIP成形して、50×30×5mmの成形体を得た。得られた成形体は、窒化ホウ素(BN)製の坩堝に充填し、カーボンヒーターの電気炉で表2に示す窒素ガス圧力、焼成温度、焼成時間の条件で焼結し、焼結体を作製した。
【0052】
【表1】
[図:0001420337000001.jpg]
【0053】
【表2】
[図:0001420337000002.jpg]
・・・
【0062】〔実施例28〕実施例1と同一配合の原料粉を混合し、プレス成形法にて110×60×3mmの板状成形体を作成し、実施例1と同じ焼成条件で焼成し、板状焼結体を作成した。この板状焼結体をダイヤモンドホイールで研削し、90×45×1mmのサイズに加工した。得られた焼結体の熱伝導率は110W/mK、三点曲げ強度625MPaであった。また、焼結体の色調は均一で、色ムラは観察されなかった。」
(イ)甲1に記載された発明
上記(ア)によれば、甲1には、実施例28として、実施例1と同一の原料配合である窒化珪素粉末A+Bを99.34質量%、Y2O3を6質量%、MgOを0.66質量%含有する原料粉を混合し、プレス成形法にて板状成形体を作成し、焼成し、板状焼結体を作成し、90×45×1mmのサイズに加工したこと、得られた焼結体の熱伝導率は110W/mKであり、焼結体の色調は均一で、色ムラは観察されないものだったことが記載されている。
そうすると、甲1には、以下の発明が記載されているといえる(以下、「甲1発明」という。)。
「90×45×1mmの板状であり、
110W/mKの熱伝導率であり、
色調が均一で、色ムラが観察されない、
窒化珪素板状焼結体。」
イ 甲2に記載された事項
甲2には、以下の事項が記載されている。
「【0028】
次に、本実施形態にかかる窒化珪素基板の製造方法について説明する。
【0029】
本発明で用いる原料粉末として窒化珪素粉末は、平均粒子径を1.0μm以下、比表面積を15m2/g以下の範囲とする。また、窒化珪素焼結体の高熱伝導化には、含有酸素量を1.5wt.%以下、特にFe成分およびAl成分はそれぞれ1000ppm以下とする。
また、焼結助剤として添加するMgO粉末およびY2O3粉末は、それぞれ、平均粒子径を1.0μm以下、比表面積を30m2/g以下の範囲とする。また、不純物量は窒化珪素粉末と同様にFe成分およびAl成分は、それぞれ1000ppm以下とする。
まず、原料調整・混合工程として、含有酸素量2質量%以下の窒化珪素原料粉に酸化マグネシウム(MgO)が6.7~12.8mol%、少なくとも1種の希土類元素酸化物(RE2O3)が1.1~2.9mol%を合計7.9~15.1mol%、かつ(RE2O3)/(MgO)のモル比が0.09~0.3となるように混合し、溶剤、有機バインダー、可塑剤等とともにボールミル等で混合する。MgO、RE2O3及び合計の添加量と(RE2O3)/(MgO)の添加量のモル比が上記範囲以外の場合、MgO、RE2O3及び合計の含有量と(RE2O3)/(MgO)の含有量のモル比も上記範囲外となり、上述したように曲げ強度と熱伝導率の一方もしくは両方が低下する。従って、MgO、RE2O3、その合計の添加量及び(RE2O3)/(MgO)のモル比は上記範囲が好適である。
【0030】
次に、成形工程として、上記混合した原料スラリーを脱泡・増粘した後、これを公知のドクターブレード法等により所定厚さの板にシート成形する。このときのシート成形体の板厚は、用途に応じて適宜決定できるが、例えば0.2~1.0mm程度とすることができる。また、シート成形体寸法については収縮量を考慮し、かつシート成形体を載せるBNセッターおよび焼成容器の寸法および容量も考慮して適宜選定する。本発明では、シート成形体寸法は170mm×140mmとした。
【0031】
次に、焼結工程として、上記シート成形体を1枚もしくはBN等の剥離剤を介して複数枚重ね、焼結炉内を0.5~1.0MPaの窒素加圧雰囲気とし、1600℃から300℃/h以下の速度で昇温し、1800~2000℃の温度で2~10時間保持した後、100℃/h以上の速度で1500℃まで冷却することで焼結し、窒化珪素基板とする。また、焼結後の窒化珪素基板はそのまま用いてもよいが、焼結温度より低い温度での熱処理や、ブラスト加工等による表面処理を施してもよい。なお、焼結温度が1800℃未満だと焼結が不十分で強度や熱伝導率の低下が起こる。また、焼結温度が2000℃より高いと異常粒成長が起こり、強度の低下を招く。従って、焼結温度は上記範囲が好適である。さらに、焼結炉内の雰囲気が0.5MPa未満では焼結時に窒化珪素の分解が起こりやすく、強度や熱伝導率の低下が起こる。また、1.0MPaより高い圧力とするためには高価な焼結炉が必要となりコスト高となる。従って、焼結炉内の雰囲気は上記範囲が好適である。さらに、1600℃からの昇温速度を300℃/hより速くした場合、詳細な理由は不明であるがMgSiN2結晶相の生成が抑制され、熱伝導率が低下する。従って、昇温速度は上記範囲が好適である。さらに、1500℃までの冷却速度が100℃/h未満の場合は粒界相の結晶化が促進され、粒界にREを含んだ結晶相が析出し、窒化珪素粒子間の結合が弱くなり曲げ強度が低下する。従って、冷却速度は上記範囲が好適である。また、焼結時の基板の総厚み(複数枚の基板を重ねるときは、総厚みはそれらを合計した厚さのこと)が40mmより大きい場合も、試料の見掛けの体積が大きくなり、結果として試料内部の冷却速度は100℃/h未満になるので、焼結時の基板の総厚みは40mm以下であることが好ましく、更に好ましくは30mm以下である。さらに、焼結時間が2時間より短い場合はMgSiN2結晶相の生成が抑制され、熱伝導率が低下し、また、焼結も不十分であり曲げ強度も低下する。また、焼結時間が5時間より長い場合、粒界相の結晶化が促進され、粒界にREを含んだ結晶相が析出し、窒化珪素粒子間の結合が弱くなり曲げ強度が低下する。従って、焼結時間は上記範囲が好適である。
【0032】
なお、Mg成分を含んだ粒界相は蒸気圧が高いため、高温での焼結時に揮発や偏析を起こしやすく、焼結体表面層で気孔生成による密度低下や局部的な色調むらを生じる。このため、Mg成分を基板中に留めておくためには密閉式のセラミックス製の焼成容器を、望ましくは、BN製の焼成容器を用い、それらの内部におけるMg成分のガス濃度を一定に保つことで揮発するMg成分を抑制することで、極端な強度低下が回避できかつ高熱伝導相であるMgSiN2相を適度に析出させることが肝要である。それに対して、REを含んだ粒界相は蒸気圧が低く、Mgを含んだ粒界相に比べて、窒化珪素粒子間に均一に安定して存在し易く、非晶質相12として窒化珪素粒子間の強固な結合を保つのに重大な役割を担っている。そのため、REを含んだ粒界相の一部が結晶化することにより、窒化珪素粒子間の結合が不十分となり粒界相に粗大な欠陥が生じやすい。結果として窒化珪素基板の機械的強度が低下してしまい、窒化珪素基板と金属回路板及び金属放熱板との接合工程、パワー半導体モジュールの作製工程、もしくはパワー半導体モジュールの稼働に伴う熱サイクルにより窒化珪素基板に応力が働いた場合にクラックが発生しやすくなる。また、REを含んだ粒界相の熱伝導率は結晶化することで、僅かには改善されるが、窒化珪素粒子に比べた場合に著しく低く、窒化珪素基板の高熱伝導率化にはほとんど貢献しない。そのため、REを含んだ粒界相は窒化珪素粒子間の強固な結合を保つために、非晶質相として存在していることが好適である。REとしては、Y、Yb、Er,Dy、Gd,Sm,NdおよびLuの酸化物が選択できるが、窒化珪素粒子と粒界相との結合強度が優れるため、Y酸化物の選択が望ましい。」
ウ 甲3に記載された事項
甲3には、以下の事項が記載されている。
「【0033】実施例2
上記実施例1と同じSi3N4粉末を使用し、下記表3に示す各焼結助剤粉末を酸化物換算モル比率において第一成分が6モル%、同じく第二成分が3モル%、残部の91モル%がSi3N4となるように添加し、エタノール中で分散させた。その後、実施例1と同様にペレット状の成形体を作製した後、窒素含有非酸化性雰囲気中にて1800℃、5時間の条件で焼結させた。
【0034】
【表3】使用焼結助剤の種類
試料 第一成分 第二成分
12 Y2O3 MgO
13 Y2O3 CaCO3
14 Y2O3 BaO
15 Y2O3 SrO
16 Y2O3 LiO
17 Sm2O3 MgO
18 Er2O3 MgO
19 Dy2O3 MgO
20 Ho2O3 MgO
21 Tm2O3 MgO
22 Lu2O3 MgO
【0035】得られた各Si3N4焼結体について、上記実施例1と同様にして、焼結前後での重量減少、助剤成分の平均的な含有量(酸化物に換算したモル%)、開気孔率、熱伝導率(室温)、及びJIS R160に準拠する4点曲げ強度をそれぞれ測定し、その結果を下記表4に示した。また、実施例1と同様にして、各焼結体中の中心部と表面部における助剤成分の濃度分布を求めたところ、いずれの試料においても、第一成分は中心部よりも表面部が高濃度であり、第二成分は表面部よりも中心部が高濃度であった。
【0036】この結果から、実施例1とは別の焼結助剤であっても、第一成分が希土類元素の少なくとも1種、及び第二成分がアルカリ土類元素、Li、Srの少なくとも1種であれば、高い曲げ強度で且つ高い熱伝導率を示すSi3N4焼結体が得られることが分かる。尚、試料19~22については、焼結体に若干の色ムラの発生が認められた。」
(2)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明の対比
(ア)甲1発明の、「90×45×1mmの板状」の「窒化珪素板状焼結体」は、本件発明1の、「第1面と、前記第1面とは反対側の第2面とを有し、平面形状は」「矩形形状であ」る「窒化珪素基板」に相当する。
(イ)甲1発明の、「110W/mKの熱伝導率であり」は、本件発明1の、「熱伝導率は、110W/(m・K)以上であり」に相当する。
(ウ)そうすると、本件発明1と甲1発明は、
「第1面と、前記第1面とは反対側の第2面とを有し、
平面形状は、矩形形状であり、
熱伝導率は、110W/(m・K)以上である、
窒化珪素基板。」の点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
本件発明1は、「それぞれの辺が100mm以上」の矩形形状であるのに対し、甲1発明は、「90×45×1mm」の板状である点。
(相違点2)
本件発明1は、「前記第1面と前記第2面のうちの少なくとも一方の面において、中央部と、各角部から中央部の方向に15mm内側の位置である縁部のすべてで、明度が70以上であり、彩度が10以上である」のに対し、甲1発明は、「色調が均一で、色ムラが観察されない」ものであるが、明度及び彩度が明らかでない点。
イ 相違点の検討
事案に鑑み、上記相違点2について検討する。
甲1には、窒化珪素板状焼結体の明度、彩度について記載はなく、甲1発明は、明度、彩度になんら着目するものではない。
また、甲2、3には、窒化珪素基板において、「第1面と前記第2面のうちの少なくとも一方の面において、中央部と、各角部から中央部の方向に15mm内側の位置である縁部のすべてで、明度が70以上であり、彩度が10以上である」ようにすることは記載されていないし、このようなことが技術常識であるとの証拠もない。
そうすると、甲1発明は、明度、彩度について何らの記載も示唆もないのであるから、甲1発明において相違点2に係る本件発明1の構成を採用する動機はないし、甲2、3の記載事項を検討しても事情は変わらない。
したがって、甲1発明において、相違点2に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得るものではない。
ウ 小括
以上のとおりであるから、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲2、3に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。
(3)本件発明2~4について
本件発明2~4は、本件発明1の全ての特定事項を含むものであるから、上記(2)で検討したのと同様の理由により、本件発明2~4も、甲1発明及び甲2、3に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。
(4)申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書において、甲1には、色調が均一で、色ムラが観察されていない窒化珪素焼結体からなる窒化珪素基板が記載されており、窒化珪素基板の表面の色ムラを低減するという課題はこの技術分野において一般的な課題であるところ、本件発明1の「前記第1面と前記第2面のうちの少なくとも一方の面において、中央部と、各角部から中央部の方向に15mm内側の位置である縁部のすべてで、明度が70以上であり、彩度が10以上である」との規定は、一定の課題を解決するための数値範囲の最適化又は好適化にすぎない旨、主張している。
しかし、甲1~3には、窒化珪素基板の表面の色ムラを低減するという課題を解決する手段として、「前記第1面と前記第2面のうちの少なくとも一方の面において、中央部と、各角部から中央部の方向に15mm内側の位置である縁部のすべてで、明度が70以上であり、彩度が10以上」とすることは記載されていないし、このことが技術常識であるといえる証拠もない。
してみれば、窒化珪素基板の表面の色ムラを低減するという課題を解決するために、数値範囲の最適化又は好適化を行うことで、「前記第1面と前記第2面のうちの少なくとも一方の面において、中央部と、各角部から中央部の方向に15mm内側の位置である縁部のすべてで、明度が70以上であり、彩度が10以上である」ようにすることを、当業者が容易に想到し得るとはいえない。
したがって、上記申立人の主張は採用できない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、請求項1~4に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由及び証拠によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1~4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700768