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特許異議申立

2023-700876

抗ウィルス部材

審判番号
2023-700876
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2020-176731
登録番号
7229215
請求日
2023年08月28日
審決日
2024年02月20日
公報発行日
2024年03月29日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】イビデン株式会社
  • 【権利者代理人】弁理士法人WisePlus
  • 【異議申立人】土田 裕介
  • 【異議申立人代理人】長谷川 芳樹
  • 【異議申立人代理人】黒木 義樹
  • 【異議申立人代理人】須藤 康洋
  • 【異議申立人代理人】三上 敬史
  • 【異議申立人代理人】杉浦 崇仁
審判長/審判官
  • 審判長 木村 敏康
  • 審判官 宮崎 大輔
  • 審判官 野田 定文
分類
P1651.121-Y (A01N) / P1651.537-Y (A01N)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

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特許第7229215号発明「抗ウィルス部材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7229215号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7229215号(以下「本件特許」という。)の請求項1~9に係る特許についての出願は、平成30年11月16日に出願した特願2018-215708号の一部を令和2年10月21日に新たに特願2020-176731号として特許出願としたものであって、令和5年2月16日に特許権が設定登録され、同年同月27日にその特許掲載公報が発行され、その後、その請求項1~9(全請求項)に係る特許に対して、同年8月28日に特許異議申立人 土田 裕介から、特許異議の申立てがされたものである。 特許異議の申立て以後の手続の経緯は次のとおりである。 令和5年11月 6日付け 取消理由通知 令和6年 1月 9日 意見書(特許権者) 第2 本件発明 本件特許の請求項1~9に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1~9に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明1」等といい、まとめて「本件発明」という。)。 「【請求項1】 基材表面に抗ウィルス成分として銅化合物を含み、前記銅化合物は、X線光電子分光分析法により、925~955eVの範囲にあるCu(I)とCu(II)に相当する結合エネルギーを5分間測定することでCu(I)とCu(II)の共存が確認されるとともに、脂肪酸で被覆された一価の銅化合物粒子を含まないバインダ硬化物が固着形成されてなり、前記バインダ硬化物を含む基材表面のJIS Z 8741に準拠した光沢度が、45%未満であることを特徴とする抗ウィルス部材。 【請求項2】 前記抗ウィルス成分は、TiO2を含まない請求項1に記載の抗ウィルス部材。 【請求項3】 前記銅化合物は、光触媒物質の表面に担持された一価の銅化合物と二価の銅化合物の混合物を含まない請求項1又は2に記載の抗ウィルス部材。 【請求項4】 前記バインダ硬化物は、膜状に基材表面に固着されてなるか、島状に分散して基材表面に固着されてなるか、もしくは、基材表面に前記バインダ硬化物が形成された領域と前記バインダ硬化物が形成されていない領域とが混在して設けられてなる請求項1~3のいずれかに記載の抗ウィルス部材。 【請求項5】 前記バインダ硬化物は、有機バインダ、無機バインダ、及び、有機・無機ハイブリッドバインダからなる群から選択される少なくとも1種以上のバインダ硬化物を含む請求項1~4のいずれか1項に記載の抗ウィルス部材。 【請求項6】 前記有機バインダは、熱硬化性樹脂及び電磁波硬化型樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である請求項5に記載の抗ウィルス部材。 【請求項7】 前記無機バインダは、シリカゾル、アルミナゾル、チタニアゾル、ジルコニアゾル、及び、ケイ酸ナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種である請求項5に記載の抗ウィルス部材。 【請求項8】 前記抗ウィルス部材は、拭き取り処理される態様で使用される請求項1~7のいずれか1項に記載の抗ウィルス部材。 【請求項9】 前記請求項1~7に記載の抗ウィルス部材の拭き取り処理される態様での使用。」 第3 取消理由通知の概要 令和5年11月6日付けの取消理由通知で通知された取消理由は、次の理由1からなるものである。 〔理由1〕本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 ・本件特許明細書の実施例の記載からみて、光沢度が10~43%である場合以外をも含む本件発明1~9は、発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものとはいえない。 ・本件特許とは別件の特許第7229216号公報の試験例の実験結果の記載からみて、本件発明1~7は、発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものとはいえない。 よって、本件特許の請求項1~9に係る発明に係る特許は、同法第36条第6項の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定に該当し取り消されるべきものである。 第4 当審の判断 1.取消理由通知で示した取消理由(理由1(サポート要件))について (1)判断の前提 特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである〔平成17年(行ケ)10042号判決参照。〕。 (2)本件発明の課題 本件特許明細書の【0001】には、「本発明は、抗微生物性を備え、同時に拭き取りに対しての耐久性も備えた抗微生物部材に関する。」と記載され、同【0007】には、「本発明は・・・高額な合成設備を必要とせず、簡便に施工済の据え付け品等に対しても現場施工により、信頼性の高い抗ウィルス性等の抗微生物性能を持続的に発揮する抗微生物部材を提供することを目的とする。」と記載されている。 また、同【0144】~【0145】によれば、実施例、試験例、比較例の抗ウィルス性の評価は、拭き取り処理後の抗微生物部材に対して行ったとされている。 してみると、本件発明1~9の課題は、「高額な合成設備を必要とせず、簡便に施工済の据え付け品等に対しても現場施工により、信頼性の高い抗ウィルス性の抗微生物性能を持続的に発揮する抗微生物部材を提供すること」であり、かつ、「拭き取り処理後であっても、抗ウィルス活性が低下せず、その効果が持続的に発揮できる抗ウィルス部材を提供すること」であると認められる。 (3)本件特許明細書に記載の実施例との関係について 本件発明では、抗ウィルス部材において「基材表面に抗ウィルス成分として銅化合物を含み、前記銅化合物は、X線光電子分光分析法により、925~955eVの範囲にあるCu(I)とCu(II)に相当する結合エネルギーを5分間測定することでCu(I)とCu(II)の共存が確認されるとともに、脂肪酸で被覆された一価の銅化合物粒子を含まないバインダ硬化物が固着形成されてな」ること、及び「バインダ硬化物を含む基材表面のJIS Z 8741に準拠した光沢度が、45%未満であること」が特定されている。 そして、本件特許明細書の【0011】及び【0012】において、バインダ硬化物を含む基材表面のJIS Z 8741に準拠した光沢度が45%未満であることと、抗ウィルス活性を含む抗微生物活性や拭き取り処理耐性が向上することとの技術的関係が説明され、また、同【0128】において、バインダ硬化物においてCu(I)とCu(II)の共存が確認されることで、抗微生物活性が向上することが記載され、その上で、同【0149】【表1】の「 [図:0001407850000001.jpg] 」との記載にある実施例、比較例、及び試験例の評価結果(【0132】~【0150】)において、光沢度が10~43%の場合(実施例1~6)に、そうでない場合と比較して、拭き取り処理後の抗ウィルス活性値に優れることや、バインダ硬化物においてCu(I)とCu(II)の共存が確認される場合(実施例1~4)に、そうでない場合と比較して、拭き取り処理後の抗ウィルス活性値に優れることが示されている。 また、上記評価結果から、光沢度が45%以下の範囲において、光沢度が小さいほど抗ウィルス活性値が大きくなるという傾向が読み取れるから、光沢度が45%未満であれば、光沢度が45%である場合(試験例1)よりは、抗ウィルス活性値が大きくなると当業者は認識できる。 したがって、バインダ硬化物を含む基材表面のJIS Z 8741に準拠した光沢度が45%未満であること、及びバインダ硬化物においてCu(I)とCu(II)の共存が確認されることを特定した本件発明1~9は、当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。 (4)特許第7229216号公報に記載の実施例との関係について 本件特許とは別件の特許第7229216号公報の【0148】の【表1】には、本件発明の発明特定事項を満たす試験例4の抗ウィルス部材において、光沢度が40%である場合に、拭き取り試験を行っていない抗ウィルス部材の抗ウィルス活性値が3.2であることが記載されている。 そして、別件公報の試験例4の活性値(3.2)は、同公報の実施例1~5の活性値(3.5~5)よりも低いものの、本件特許明細書の試験例1~4の活性値(2~3)よりも高いものであるから、別件公報の試験例4の試験結果によっては、本件発明1~9が、発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えているとまではいえない。 (5)まとめ したがって、本件発明は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていないものに該当せず、上記〔理由1〕に理由はない。 2.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について (1)申立理由1(進歩性) ア 特許異議申立人が主張する理由の概要 特許異議申立書で特許異議申立人が主張する申立理由1の要旨は、本件発明1~5及び7~9は、甲第1号証に記載された発明及び出願時の技術常識(甲第2号証)から当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明6は、甲第1号証に記載された発明及び出願時の技術常識(甲第2~3号証)から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1~9は特許法第29条第2項の規定に違反しており、本件特許は同法第113条第2号の規定に該当し取り消されるべきものである、というものである。そして、証拠として、次の甲第1~3号証を提示している。 甲第1号証:特開平8-25548号公報 甲第2号証:特表2008-534708号公報 甲第3号証:特開平9-111020号公報 イ 甲第1~3号証の記載事項 甲第1号証には、以下の記載がある(下線及び枠線は、当審合議体による。以下同じ。)。 摘記1a: 「【請求項1】 金属板に、鉛筆硬度7B~2H、厚み10~300μmの着色あるいは印刷された樹脂層と、さらに最外層に抗菌剤を0.1~20wt%有する樹脂層を1~100μmを有する着色あるいは印刷された抗菌性塗覆装エンボス化粧金属板。」 摘記1b: 「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は抗菌性を有する塗覆装エンボス化粧金属板に関する。 【0002】 【従来の技術】近年、室内の壁や床材などに抗菌性塗料あるいは接着剤などを塗装する用途が増加しつつある。 【0003】その目的は公共施設、特に病院などで室内の壁や床材などが微生物の生息場所になる例が多く、院内の細菌感染が大きな問題となっている。従ってこれらの対策の一つとして、抗菌性塗料を塗装する方法が実施されている。 【0004】しかし、壁や床に塗装する方法では塗装作業あるいは乾燥工程において、環境を悪くし、抗菌性塗料による人体への悪影響を無視することはできない。また、作業性、経済性を非常に悪くしている。 【0005】したがって、あらかじめ抗菌性を有する樹脂層を金属板に積層する方法が考えられる。・・・ 【0008】 【発明が解決しようとする課題】本発明は上記の欠点を解消するもので、最外層に抗菌性および防汚性を有し、意匠性すなわちエンボス性および印刷性に優れた金属板を提供することにある。」 摘記1c: 「【0019】抗菌剤の種類としては塗覆装時に熱履歴を受けるので、一般に無機系の抗菌剤が好ましいが、前述しているように限定されるものではない。無機系の抗菌剤としては例えばAg、Cu、Zn、Sn、Hg、Pb、Fe、Co、Ni、Mn、As、Sb、Bi、Ca、Crやその化合物が含まれる。・・・」 摘記1d: 「【0026】エンボス加工は最外層の表面積を大きくし、抗菌性がさらに効果的となる。エンボス加工の形状は特に制限されない。意匠性のなかで鏡面ロールでエンボス加工すると塗覆装金属板の表面は平滑となり、表面積の増加は期待できないが、その際は抗菌層中の含有量を増加しなければならない。」 摘記1e: 「【0028】 【実施例】 ・・・ 実施例2 銅シリカゲル系の抗菌剤を10wt%配合したポリエチレン系の着色した70μmのフィルムと200μmの透明なポリエチレン系のフィルムを押し出し法によって、2層フィルムを作成した。次に、10g/m2のZn-2%Coめっきを行い、さらにCrとして0.015g/m2クロメート処理を施した0.5mmの軟鋼板に、このフィルムを透明なポリエチレンが鋼板側になるように、接着剤を介して、積層し、板温140℃で加熱した後、エンエンボスロールは表面光沢度が60°グロスで0.5を示すものを用い、50kg/cmで圧着し、直ちに水冷し、本発明の鋼板を作成した。・・・本発明の鋼板は次に示す方法で密着性、加工性およびエンボス性を評価した。 ・・・ エンボス性:スガ試験機(株)のデジタル変角光沢計を用い、60°グロスで測定、および肉眼で判定した。 塗覆装金属板の抗菌性:本発明の塗覆装金属板を試験菌として、ブドウ球菌および大腸菌をシェイクフラスコ法で、室温25℃で2日経時した後、生菌数の増減により効果を判定した。 表1~6は本発明の塗覆装金属板の作成条件であり、表7は皮膜密着性およびエンボス性の評価結果で、表8は抗菌性試験についての結果である。 ・・・ 【0033】 【表5】 [図:0001407850000002.jpg] 【0034】 【表6】 [図:0001407850000003.jpg] 【0035】 【表7】 [図:0001407850000004.jpg] 実施例1~3、5、7~10は表面光沢が60°グロスで0.5を示すエンボスロール,実施例4、6は鏡面ロールを使用してエンボスを施した。 【0036】 【表8】 [図:0001407850000005.jpg] 」 甲第2号証には、以下の記載がある。 摘記2a: 「【請求項1】 抗菌性(antimicrobal)かつ抗真菌性かつ抗ウイルス性のポリマー材料を製造するためのポリマーマスターバッチであって、 熱可塑性樹脂のスラリー、イオン性酸化銅の水不溶性粒子から本質的になる抗菌性(antimicrobal)かつ抗真菌性かつ抗ウイルス性薬剤、ポリマーワックス、並びに、イオン性酸化銅の電荷を占めるための薬剤を含む、ポリマーマスターバッチ。」 摘記2b: 「【0099】 Cu+のイオン型とCu++のイオン型との間の区別は明確である。さらに、出願人により実施された実験において、CuO粉末(Cu+を放出する)は大腸菌又は黄色ブドウ球菌に対する抗菌性の薬剤として有効ではなかった一方で、驚くべきことにCu2O(Cu++を放出する)は有効であり、かつ驚くべきことにCu2O及びCuOの組み合わせが、Cu2O自体より有効であった。・・・」 甲第3号証には、以下の記載がある。 摘記3a: 「【請求項1】プラスチックフィルムの片面若しくは両面に、JIS-B0601におけるRaが0.1~3.0μmであって、かつJIS-K5400における鉛筆硬度がH以上である抗菌性を有する硬化型樹脂層を有してなることを特徴とするハードコートフィルム。」 摘記3b: 「【0013】このような抗菌性を有する硬化型樹脂層は、主として熱硬化型樹脂または電離放射線硬化型樹脂からなる高分子バインダー及び抗菌性金属イオンを含有する抗菌剤により形成される。」 ウ 甲第1号証に記載された発明 甲第1号証の摘記1aには「金属板に、鉛筆硬度7B~2H、厚み10~300μmの着色あるいは印刷された樹脂層と、さらに最外層に抗菌剤を0.1~20wt%有する樹脂層を1~100μmを有する・・・抗菌性塗覆装エンボス化粧金属板」が記載されており、摘記1eには、その具体例として、「鉛筆硬度7B~2H、厚み10~300μmの着色あるいは印刷された樹脂層」がポリエチレン系フィルムであり、「抗菌剤を0.1~20wt%有する樹脂層」が銅シリカゲル系の抗菌剤を10wt%含むポリエチレン系フィルムであり、エンボス性が60度グロス測定で1.7である例(実施例2)が記載されている。 よって、甲第1号証には、 「クロメート処理を施した0.5mmの軟鋼板に、接着剤を介して、200μmの透明なポリエチレン系フィルムと、銅シリカゲル系の抗菌剤を10wt%配合した着色した70μmのポリエチレン系フィルムを積層した、エボンス性が60度グロス測定で1.7である、抗菌性塗覆装エボンス化粧金属板。」 の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。 エ 本件発明1と甲1発明との対比・判断 本件発明1と、甲1発明とを対比する。 甲1発明の「軟鋼板」は、本件発明1の「基材」に相当する。 甲1発明の「銅シリカゲル系の抗菌剤」は、本件発明1の「銅化合物」に相当する。 甲1発明の「200μmの透明なポリエチレン系フィルムと、銅シリカゲル系の抗菌剤を10wt%配合した着色した70μmのポリエチレン系フィルム」は、本件発明1の「バインダ硬化物」に相当し、また、「脂肪酸で被覆された一価の銅化合物粒子」に相当するものを含んでいない。 甲1発明の「抗菌剤」及び「抗菌性塗覆装エンボス化粧金属板」は、本件特許明細書の【0009】の「抗微生物部材」における「抗微生物」が「抗ウィルス」や「抗菌」を含む概念であるとの記載からみて、本件発明1の「抗ウィルス成分」及び「抗ウィルス部材」と、「抗微生物成分」及び「抗微生物部材」であるという点で共通する。 してみると、本件発明1と甲1発明は、 「基材表面に抗微生物成分として銅化合物を含み、脂肪酸で被覆された一価の銅化合物粒子を含まないバインダ硬化物が固着形成されてなる、抗微生物部材。」 であるという点において一致し、次の点において相違する。 相違点1:本件発明1では、銅化合物は「抗ウィルス成分」であり、部材が「抗ウィルス部材」であるのに対して、甲1発明では、銅化合物は「抗菌剤」であり、部材が「抗菌性塗覆装エンボス化粧金属板」である点。 相違点2:本件発明1では、バインダ硬化物を含む基材表面の光沢度が「JIS Z 8741に準拠した光沢度」で「45%未満」であるのに対して、甲1発明では、エンボス性が「60度グロス測定で1.7」である点。 相違点3:本件発明1では、銅化合物は「X線光電子分光分析法により、925~955eVの範囲にあるCu(I)とCu(II)に相当する結合エネルギーを5分間測定することでCu(I)とCu(II)の共存が確認される」のに対して、甲1発明では、銅化合物の共存が不明である点。 上記相違点1について検討すると、甲第1号証は「抗菌性塗覆装エンボス化粧金属板」の発明について記載されたものであり(摘記1a)、発明の課題の記載、銅化合物の作用の記載及びエンボス加工の作用の記載のいずれにおいても、抗菌性についてのものであって(摘記1b~1d)、抗ウィルス性についての言及はなく、実施例においても、抗ウィルス性は評価されていない(摘記1e)。そして、抗菌性を示す部材が、必ず抗ウィルス性を示すといえる技術常識の存在は、甲第1~3号証の全ての記載を精査しても見当たらない。 してみると、甲第1号証には、甲1発明の「抗菌性塗覆装エンボス化粧金属板」を、「抗ウィルス部材」として用いることに関して記載も示唆もされておらず、甲第1~3号証に記載された技術事項をどのように組み合わせても、上記相違点1に係る構成を導き出すことが当業者にとって容易になし得たとはいえない。 さらに、上記相違点2~3について検討するに、本件発明1は、抗ウィルス性の観点から、バインダ硬化物を含む基材表面の光沢度を「JIS Z 8741に準拠した光沢度」で「45%未満」とし、銅化合物を「X線光電子分光分析法により、925~955eVの範囲にあるCu(I)とCu(II)に相当する結合エネルギーを5分間測定することでCu(I)とCu(II)の共存が確認される」ものに特定しているものであるところ、抗ウィルス性について考慮していない甲第1~3号証に記載された技術事項をどのように組み合わせても、上記相違点2~3に係る構成を導き出すことが当業者にとって容易になし得たとはいえない。 次に、本件発明1の効果について検討する。 本件特許明細書には、バインダ硬化物を含む基材表面のJIS Z 8741に準拠した光沢度が45%未満であることにより、拭き取り処理後の抗ウィルス性が向上すること(【0011】及び【0012】)、及び、バインダ硬化物でCu(I)とCu(II)の共存が確認されることで、抗微生物活性が向上すること(【0128】)が記載され、実施例(【0132】~【0150】)においては、光沢度が10~43%の場合(実施例1~6)に、そうでない場合と比較して、拭き取り処理後の抗ウィルス活性値に優れることや、バインダ硬化物においてCu(I)とCu(II)の共存が確認される場合(実施例1~4)に、そうでない場合と比較して、拭き取り処理後の抗ウィルス活性値に優れることが示されている。 してみると、本件特許明細書の記載から、抗ウィルス部材において、バインダ硬化物でCu(I)とCu(II)の共存が確認されること、及び、バインダ硬化物を含む基材表面のJIS Z 8741に準拠した光沢度が45%未満であることにより、拭き取り処理後の抗ウィルス性に優れるという効果を奏することが把握される。 一方、甲第1号証には、抗ウィルス部材は記載されておらず、抗ウィルス性の用途について何も記載されていない。 また、「バインダ硬化物においてCu(I)とCu(II)の共存が確認されること」の効果に関して、甲第2号証には、「抗菌性(antimicrobal)かつ抗真菌性かつ抗ウイルス性のポリマー材料を製造するためのポリマーマスターバッチ」において、「CuO粉末(Cu+を放出する)は大腸菌又は黄色ブドウ球菌に対する抗菌性の薬剤として有効ではなかった一方で、驚くべきことにCu2O(Cu++を放出する)は有効であり、かつ驚くべきことにCu2O及びCuOの組み合わせが、Cu2O自体より有効であった」と記載されているから(摘記2a及び2b)、甲第2号証から、Cu2O及びCuOの組み合わせ(本件発明の「Cu(I)とCu(II)の共存」に相当する。)が「大腸菌又は黄色ブドウ球菌に対する抗菌性」について優れていることは理解できるものの、Cu(I)とCu(II)の共存が、(抗菌性ではなく)抗ウィルス性に優れることは理解できない。 さらに、「バインダ硬化物を含む基材表面のJIS Z 8741に準拠した光沢度が45%未満であること」の効果に関して、光沢度が拭き取り処理後の抗ウィルス性を左右することは、甲第1~3号証を含め、特許異議申立書で提示されたいずれの証拠にも記載されていない。 よって、本件発明1の上記効果は、当業者が予測可能なものでない。 以上のことから、本件発明1は、上記相違点1~3に係る構成を具備することにより、つまり、抗ウィルス部材において、バインダ硬化物でCu(I)とCu(II)の共存が確認されること、及び、バインダ硬化物を含む基材表面のJIS Z 8741に準拠した光沢度が45%未満であることにより、拭き取り処理後の抗ウィルス性に優れるという効果を奏するという、当業者が予測できない顕著な効果を奏するに至ったものといえるから、「抗ウィルス部材」とすることが技術的に無意味な構成の付加にすぎないとはいえない。 したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2~3号証に記載の技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 オ 本件発明2~9について 本件発明2~9は、本件発明1の発明特定事項を全て含む発明であって、それをさらに限定したものであり、本件発明1の進歩性が甲第1号証に記載された発明及び周知技術(甲第2~3号証)によって否定できないことから、本件発明2~9についても進歩性を否定することはできない。 したがって、本件発明2~9は、甲第1号証に記載された発明及び周知技術(甲第2~3号証)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえない。 カ まとめ よって、本件発明1~9についての申立理由1には理由がない。 キ 特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は、特許異議申立書の第17~18頁において、「銅イオンは抗ウィルス性も有しているから抗ウィルス成分でもある」と述べ、銅化合物が「抗ウィルス成分」である点、及び、部材が「抗ウィルス部材」である点を、本件発明1と甲第1号証に記載された発明との相違点とせず、一致点である旨主張している。 しかし、銅イオンが一般に抗ウィルス性を有しているとしても、抗菌性部材と抗ウィルス性部材は用途として異なり区別されるから、相違点となる。 そして、この点(相違点1)が、当業者にとって容易になし得たことであったとはいえないことについては、上記エで説示したとおりである。 よって、特許異議申立人の主張は採用できない。 (2)申立理由2(サポート要件) ア 特許異議申立人が主張する理由の概要 特許異議申立書で特許異議申立人が主張する申立理由2の要旨は、本件発明1~9が解決しようとする課題は、抗微生物性を備え、同時に拭き取りに対しての耐久性も備えた抗ウィルス部材及びその使用方法を提供することであると認定できるところ、本件明細書全体及び出願当時の技術常識を参酌しても本件発明1~9に含まれる発明の態様全体に亘りそのような課題が解決できるとは理解できないから、本件特許は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、同法第113条第4号の規定に該当し取り消されるべきものである、というものである。そして、証拠として、次の甲第4~7号証を提示している。 甲第4号証:佐野塗料株式会社のインターネットサイト 甲第5号証:「色材,28」、第298~308頁 甲第6号証:株式会社島津製作所のインターネットサイト 甲第7号証:岩崎電気株式会社のインターネットサイト イ 判断 サポート要件の判断の前提及び本件発明の課題は、上記第4の1(1)及び(2)で示したとおりである。 そして、本件特許明細書【0011】、【0012】及び【0128】の記載並びに本願特許明細書の実施例の記載からみて、バインダ硬化物を含む基材表面のJIS Z 8741に準拠した光沢度が45%未満であり、かつバインダ硬化物においてCu(I)とCu(II)の共存が確認されることを特定した本件発明が、当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであると認められる点について、上記第4の1(3)で説示したとおりである。 なお、バインダ硬化物を含む基材表面の光沢度が、基材の材質及び表面状態等や、固着するバインダ硬化物の基材表面における割合や形態等に影響されるとしても、また、拭き取り耐性が、バインダ硬化物の種類や基材との密着性によっても変化するものであるとしても、それらは、そもそも本件発明の発明特定事項とはされていないものである。 すなわち、本件発明1は、専ら、抗ウィルス成分としてCu(I)とCu(II)が共存し、なおかつ、基材表面の光沢度を45%未満とすることで、上記「高額な合成設備を必要とせず、簡便に施工済の据え付け品等に対しても現場施工により、信頼性の高い抗ウィルス性の抗微生物性能を持続的に発揮する抗微生物部材を提供すること」及び「拭き取り処理後であっても、抗ウィルス活性が低下せず、その効果が持続的に発揮できる抗ウィルス部材を提供すること」という課題の解決に至ったものであって、バインダ硬化物の種類を工夫するなどして、当該課題を解決するに至ったものではないから、バインダ硬化物の種類などを特定するか否かは、本件発明1が上記課題を解決できると認識できる範囲にあるかのサポート要件の適否に関係がない。 よって、本件発明についての申立理由2には理由がない。 第5 まとめ 以上のとおり、請求項1~9に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。さらに、ほかに請求項1~9に係る特許を取り消すべき理由は発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2023-700876

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