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特許異議申立

2026-700132

ウイルス不活化用組成物

審判番号
2026-700132
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2021-206976
登録番号
7723969
請求日
2026年02月13日
審決日
2026年04月21日
公報発行日
2026年05月29日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】株式会社大阪製薬
  • 【権利者代理人】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
  • 【異議申立人】安 銀珍
審判長/審判官
  • 審判長 冨永 保
  • 審判官 小石 真弓
  • 審判官 宮田 透
分類
P1651.121-Y (A01N) / P1651.537-Y (A01N)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7723969号発明「ウイルス不活化用組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7723969号の請求項1~4に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7723969号(以下「本件特許」という。)の請求項1~4に係る特許についての出願は、令和3年12月21日に出願され、令和7年8月6日にその特許権の設定登録がされ、同年同月15日に特許掲載公報が発行された。その後、その請求項1~4に係る特許に対し、令和8年2月13日に、特許異議申立人 安 銀珍(以下「申立人」という。)より特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件発明 本件特許の請求項1~4に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~4に記載された以下の事項により特定されるとおりのものである(以下、請求項の番号順に、「本件発明1」などといい、それらをまとめて「本件発明」ということがある。)。 「【請求項1】 (A)クエン酸、リンゴ酸、及びリン酸からなる群より選択される1種又は2種以上0.15~1w/v%、(B)クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、リンゴ酸ナトリウム、及びリン酸三ナトリウムからなる群より選択される1種又は2種以上0.05~2w/v%を含有し、(C)低級アルコール含有量が10w/v%以下、pHが3~5である、ウイルス不活化用組成物。 【請求項2】 前記(C)成分を含有しない、請求項1に記載のウイルス不活化用組成物。 【請求項3】 前記ウイルスが、エンベロープを有するRNAウイルスである、請求項1又は2に記載のウイルス不活化用組成物。 【請求項4】 (A)クエン酸、リンゴ酸、及びリン酸からなる群より選択される1種又は2種以上0.15~1w/v%、(B)クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、リンゴ酸ナトリウム、及びリン酸三ナトリウムからなる群より選択される1種又は2種以上0.05~2w/v%を含有する組成物において、(C)低級アルコール含有量を10w/v%以下、pHを3~5とすることによって、該組成物に、適用対象に対する皮膚の荒れ又は劣化抑制作用を付与する方法。」 第3 申立理由の概要 申立人は、証拠方法として、以下の甲第1号証(以下、「甲1」という。)を提出し、以下の申立理由(進歩性欠如、サポート要件違反、明確性要件違反)により請求項1~4に係る特許を取り消すべきである旨主張する。 1 証拠方法 甲1:国際公開第2021/209108号 2 申立理由 (1)申立理由1(進歩性欠如) 本件発明1~4は、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件の請求項1~4に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (2)申立理由2(明確性要件違反) 本件の特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第2号に適合するものでないから、本件の請求項1~4に係る特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 具体的な理由は次のとおりである。 本件発明1~4は、界面活性剤を含む組成を排除しているのかどうかが明確でない。 (3)申立理由3(サポート要件違反) 本件の特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に適合するものでないから、本件の請求項1~4に係る特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 具体的な理由は次のとおりである。 本件発明1~4は、界面活性剤を含み得る発明であるが、界面活性剤を任意成分として配合した場合には、本件発明の効果が得られない蓋然性が高いから、本件発明は発明の詳細な説明に記載されたものではない。 第4 当審合議体の判断 当審合議体は、本件請求項1~4についての特許は、上記第3に示した申立理由1~3によっては、取り消すことができないと判断する。その理由は以下のとおりである。 なお、以下における下線は、当審合議体が付したものである。また、「・・・」は記載の省略を表す。 1 甲1の記載事項 甲1には、以下の事項が記載されている(翻訳文で示す。なお、翻訳文は、申立人が提出した翻訳文を基に、合議体が作成した。)。 (摘記1a) 「1.0.01~1.0%w/wの乳酸、0.01~1.0%w/wのドデシル硫酸ナトリウム及び98.0~99.98%w/wの水を含む組成物。 ・・・ 7.先行する請求項のいずれか一項に記載の組成物であって、組成物のpHが3.0~5.0、好ましくは約4.0である組成物。 ・・・ 13.請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物の消毒剤としての使用。」(請求の範囲) (摘記1b) 「発明の分野 本発明は、少量の乳酸及びドデシル硫酸ナトリウムを含む消毒作用を有する洗浄組成物に関する。本発明はまた、少量の乳酸及びドデシル硫酸ナトリウムを含む消毒作用を有する洗浄組成物の製造方法、並びに当該組成物の洗浄剤及び消毒剤としての使用に関する。 発明の背景 洗浄剤及び消毒剤は従来技術において周知である。従来知られている組成物に共通するのは、多くの場合アルコールを含むことである。アルコールの問題点は、それが有害な化学物質であり、洗浄剤及び消毒剤として使用した場合、適用時に人の手の皮膚を乾燥させる傾向があることである。 発明の目的 したがって、本発明の目的は、従来技術で知られている同様の組成物の問題点を解消する消毒作用を有する洗浄組成物を提供することである。特に、本発明の目的は、非常に効果的な洗浄及び消毒組成物であると同時に、環境に優しく、人間を含む動物に対して無害であり、適用時に皮膚を乾燥させない組成物を提供することである。」(明細書1ページ2~21行) (摘記1c) 「本発明の詳細な説明 本発明者らは、驚くべきことに、少量の乳酸(2-ヒドロキシプロパン酸、C3H6O3、CAS番号:79-33-4(L-乳酸)及び/又はCAS番号:50-21-5(L乳酸とD乳酸のラセミ混合物))とドデシル硫酸ナトリウム(NaC12H25SO4、CAS番号:151-21-3)を含む組成物が、非常に効果的な洗浄効果を有すると同時に、多数の微生物に対して非常に強力な消毒剤でもあることを発見した。 ・・・ 実際、本発明の発明者は、少量の乳酸をドデシル硫酸ナトリウムと組み合わせるだけで、非常に効率的な洗浄組成物を得ることができると同時に、細菌やその他の微生物に対して消毒効果が得られることを発見した。」(明細書2ページ16~32行) (摘記1d) 「本発明の組成物は、洗浄及び消毒目的、特に表面の洗浄及び消毒に有用である。本発明の洗浄及び消毒特性の恩恵を受ける表面としては、ガラス表面、プラスチック表面、金属表面、複合材料表面、シリコーン表面などが挙げられるが、これらに限定されない。 本発明の一実施形態において、本発明の組成物は、携帯電話、タブレット、タッチスクリーン、キーボード、コンピュータキーボード、及びあらゆる形態のコンピュータ入力装箇などの携帯型コンピューティング装置の表面の洗浄及び消毒に適している。また、テレビ、時計、及びメガネの表面の洗浄及び消毒も本発明の範囲内である。 本発明の好ましい実施形態において、本発明の組成物は、携帯電話、タブレット、及びタッチスクリーンの表面を洗浄するのに適している。 本発明の組成物は、効果的な洗浄剤であるだけでなく、同時に非常に強力な消毒剤でもある。 本発明の組成物は、Clostridium、Pseudomonas aeruginosa、Proteus、Aeromonas、Flavobacterium、Xanthomonas、Acinetobacter、Entero-viruses、salmonella、Listeria、Sars virus、Mers virus、Coronavirus、E-coli、Staph.aureus、As.niger、Pe.fimiculosum、Ch.globosum、Cl.cladosporioides、Au.pullulans、G.virens、Pae.variotii、MRSA、S.Enteritidis(NBRC-3313)、V.Parahaemolyticus(NBRC-12711)、B.Sutilis(NBRC-3134)、Streptococcus、及び、Staphylococcusの群に属する微生物の成長及び/又は蔓延を除去及び/又は防止することができる。 本発明の特定の実施形態において、本発明による組成物は、Pseudomonas aeruginosa ATCC 15442、DSM939、Escherichia coli ATCC 10536、DSM682、Staphylococcusaureus ATCC 6538、DSM 799、及びEnterococcus hirae ATCC 10541、DSM3320の群に属する細菌の成長及び/又は蔓延を除去及び/又は防止することができる殺菌剤である。 本発明の組成物は、本発明の組成物を含まない対照溶液と比較して、生存微生物数を1×105CFU以上、例えば1.5×105CFU以上、例えば2×105CFU以上、例えば3×105CFU、さらには5×105CFUも減少させることができる。」(明細書3ページ30行~5ページ3行) 2 申立理由1(進歩性欠如)について (1)甲1に記載された発明 甲1には、0.01~1.0%w/wの乳酸、0.01~1.0%w/wのドデシル硫酸ナトリウム及び98.0~99.98%w/wの水を含み、pHが3.0~5.0である組成物が記載されており(摘記1aの請求項1、請求項7)、この組成物を消毒剤として使用することが記載されている(摘記1aの請求項13)から、甲1には、以下の発明(「以下、「甲1発明」及び「甲1方法発明」という。)が記載されていると認める。 甲1発明: 「0.01~1.0%w/wの乳酸、0.01~1.0%w/wのドデシル硫酸ナトリウム及び98.0~99.98%w/wの水を含み、pHが3.0~5.0である消毒剤組成物。」 甲1方法発明: 「0.01~1.0%w/wの乳酸、0.01~1.0%w/wのドデシル硫酸ナトリウム及び98.0~99.98%w/wの水を含み、pHが3.0~5.0である組成物を消毒剤として使用する方法。」 (2)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲1発明とを対比する。 (ア)甲1発明の「乳酸」は、本件発明1の「クエン酸、リンゴ酸、及びリン酸からなる群より選択される1種又は2種以上」と、「酸」である点で共通する。 (イ)甲1発明は「98.0~99.8%w/wの水を含む」から、水以外の成分の合計が2.0w/w%を超えることはない。そして、水の比重が1であることも考慮すれば、甲1発明の「低級アルコール含有量」は、「10w/v%以下」であるといえる。 (ウ)甲1発明の「pHが3.0~5.0」であることは、本件発明1の「pHが3~5である」ことに相当する。 (エ)甲1発明の「消毒剤組成物」は、本件発明1の「ウイルス不活性化用組成物」と、「組成物」である点で共通する。 イ 一致点・相違点 そうすると、本件発明1と甲1発明は、 「(A)酸を含有し、(C)低級アルコール含有量が10w/v%以下、pHが3~5である、組成物。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点1-1) 組成物が含有する「(A)酸」について、本件発明1は「(A)クエン酸、リンゴ酸、及びリン酸からなる群より選択される1種又は2種以上0.15~1w/v%」であるのに対し、甲1発明は「0.01~1.0%w/wの乳酸」である点。 (相違点1-2) 本件発明1は「(B)クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、リンゴ酸ナトリウム、及びリン酸三ナトリウムからなる群より選択される1種又は2種以上0.05~2w/v%」を含有するのに対し、甲1発明は、かかる成分を含まない点。 (相違点1-3) 「組成物」について、本件発明1は「ウイルス不活化用組成物」であるのに対し、甲1発明は「消毒剤組成物」である点。 ウ 相違点の判断 (相違点1-1について) 甲1には、消毒剤組成物に、「(A)クエン酸、リンゴ酸、及びリン酸からなる群より選択される1種又は2種以上0.15~1w/v%」を含有させる旨の記載はないし、消毒剤組成物にクエン酸、リンゴ酸及びリン酸を配合することは記載も示唆もされていない。 そうすると、甲1発明において、クエン酸、リンゴ酸、及びリン酸からなる群より選択される1種又は2種以上0.15~1w/v%を含有させることは、当業者が容易になし得た事項であるということはできない。 (相違点1-2について) 甲1には、消毒剤組成物に、「(B)クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、リンゴ酸ナトリウム、及びリン酸三ナトリウムからなる群より選択される1種又は2種以上0.05~2w/v%」を含有させる旨の記載はないし、消毒剤組成物にクエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、リンゴ酸ナトリウム及びリン酸三ナトリウムを配合することは記載も示唆もされていない。 そうすると、甲1発明において、(B)クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、リンゴ酸ナトリウム、及びリン酸三ナトリウムからなる群より選択される1種又は2種以上0.05~2w/v%を含有させることは、当業者が容易になし得た事項であるということはできない。 エ 小括 以上のとおり、相違点1-1及び1-2に係る技術的事項は、いずれも当業者が容易になし得た事項であるとはいえないから、その余の点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 オ 申立人の主張について 申立人は、特許異議申立書(7~13ページ)において、本件発明1と甲1に記載された発明の相違点として、「本願特許発明1が、(A)クエン酸、リンゴ酸、及びリン酸からなる群より選択される1種又は2種以上0.15~lw/v%、及び(B)クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、リンゴ酸ナトリウム、及びリン酸三ナトリウムからなる群より選択される1種又は2種以上0.05~2w/v%を含むのに対し、甲1号証にはその記載がないこと。」(相違点1)を挙げ、この相違点について、「本願特許発明の出願時に、甲第1号証の乳酸に変えてクエン酸、リンゴ酸、リン酸を使うことは、当業者にとって容易に想到可能であったと思料します。また、緩衝溶液を作る際に弱酸とその塩を混合して使うことは、当業者にとって周知の方法です。」と主張している。 しかしながら、上記ウで述べたとおり、甲1には、消毒剤組成物にクエン酸、リンゴ酸又はリン酸を用いることは記載も示唆もされていない。また、緩衝溶液を作る際に弱酸とその塩を混合して使うことが、当業者にとって周知の方法であったとしても、そもそも甲1には、消毒剤組成物にクエン酸、リンゴ酸又はリン酸を用いることは記載されていないのであるから、それらの酸の塩を用いることも記載ないし示唆されているとはいえない。 なお、甲1の実施例に、中和剤にリン酸緩衝液を配合することが記載されているが(明細書6ページ15~20行等)、当該中和剤は、消毒剤組成物の作用を停止させる際に用いられることが記載されており(明細書5ページ23~30行等)、消毒剤組成物の成分として配合されることは記載されていない。 そうすると、甲1発明において、クエン酸、リンゴ酸又はリン酸及びそれらの塩を含有するものとすることは当業者が容易になし得た事項であるということはできない。 したがって、申立人の主張を採用することはできない。 (3)本件発明2及び3について 本件発明2及び3は、本件発明1について、それぞれ、「(C)成分を含有しない」こと、及び「ウイルスが、エンベロープを有するRNAウイルスである」ことをさらに特定した発明であるところ、本件発明1が甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件発明2及び3は、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (4)本件発明4について ア 対比 上記(2)アで述べたことを踏まえて、本件発明4と甲1方法発明とを対比する。 (ア)甲1方法発明は、乳酸を含む組成物を消毒剤として使用する方法であり、本件発明4とは、酸を含有する組成物についての方法である点で共通する。 イ 一致点・相違点 そうすると、本件発明4と甲1方法発明は、 「(A)酸を含有する組成物についての方法。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点4-1) 組成物が含有する「(A)酸」について、本件発明4は「(A)クエン酸、リンゴ酸、及びリン酸からなる群より選択される1種又は2種以上0.15~1w/v%」であるのに対し、甲1方法発明は「0.01~1.0%w/wの乳酸」である点。 (相違点4-2) 組成物について、本件発明4は「(B)クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、リンゴ酸ナトリウム、及びリン酸三ナトリウムからなる群より選択される1種又は2種以上0.05~2w/v%」を含有するのに対し、甲1方法発明は、かかる成分を含まない点。 (相違点4-3) 「方法」について、本件発明4は「組成物において、(C)低級アルコール含有量を10w/v%以下、pHを3~5とすることによって、該組成物に、適用対象に対する皮膚の荒れ又は劣化抑制作用を付与する方法」であるのに対し、甲1方法発明は「組成物を消毒剤として使用する方法」である点。 ウ 相違点の判断 相違点4-1及び4-2は、いずれも、上記(2)イで示した相違点1-1及び1-2と同様の相違点であるから、その判断も、上記(2)ウで述べたのと同様であり、当業者が容易になし得た事項であるということはできない。 エ 小括 以上のとおり、相違点4-1及び4-2に係る技術的事項は、いずれも当業者が容易になし得た事項であるとはいえないから、その余の点について検討するまでもなく、本件発明4は、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 オ 申立人の主張について 申立人は、特許異議申立書(13ページ)において、「本願特許発明4は、本願特許発明1の組成とすることによって、適用対象に対する皮膚の荒れ又は劣化抑制作用を付与する方法の発明です。甲第1号証には、アルコールを含まず皮膚を乾燥させない、との記載がありますから、本願特許発明4は、甲第1号証から容易に想到できる発明です。」と主張している。 しかしながら、上記ウ及びエで述べたとおりであって、適用対象に対する皮膚の荒れ又は劣化抑制作用を付与する点(相違点4-3に含まれる点)について検討するまでもなく、本件発明4は、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 したがって、申立人の主張を採用することはできない。 (5)申立理由1(進歩性欠如)についてのまとめ 以上検討したとおり、本件発明1~4は、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。 よって、申立理由1によっては、請求項1~4に係る特許を取り消すことはできない。 3 申立理由2(明確性要件違反)について (1)特許請求の範囲の記載 請求項1~4の記載は、上記第2に記載したとおりであり、明確である。 (2)申立人の主張 申立人は、特許異議申立書(14ページ)において、本件発明は、界面活性剤を含む組成を排除しているのかどうかが明確でない旨主張している。 (3)申立人の主張についての判断 請求項1には、 「(A)クエン酸、・・・からなる群より選択される1種又は2種以上0.15~1w/v%、(B)クエン酸ナトリウム、・・・からなる群より選択される1種又は2種以上0.05~2w/v%を含有し、(C)低級アルコール含有量が10w/v%以下、pHが3~5である、ウイルス不活化用組成物。」 と記載されているところ、(A)~(C)の合計含有量は100w/v%に満たず、「含有し」と記載され、界面活性剤についての記載が存在しないから、請求項1の記載からは、同項に記載のウイルス不活化用組成物は界面活性剤を含んでも含まなくてもよいと解される。 念のため、本件明細書の記載を参酌すると、その【0029】には、 「(その他の成分) 本発明の効果を阻害しない限り、本発明のウイルス不活化用組成物には、(A)酸類、(B)塩類、及び(C)低級アルコールの他に、任意成分が適宜配合されていても良い。一例を挙げると、任意成分は、界面活性剤、キレート剤、高分子、防腐剤、天然物エキス、分散剤、酸化防止剤、増粘剤、減粘剤、安定化剤、消臭剤、香料、色素等が挙げられる。」 と記載されており、界面活性剤は、本発明の効果を阻害しない限りにおいて配合されていてもよい成分として記載されており、請求項1の記載に基づく上記解釈と整合する。 したがって、本件発明は、界面活性剤を含む組成を排除していないことは明らかである。 よって、申立人の主張を採用することはできない。 (4)申立理由2(明確性要件違反)についてのまとめ 以上検討したとおり、本件発明は、明確であるといえるので、本件特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たすものである。 したがって、申立理由2によっては、請求項1~4に係る特許を取り消すことはできない。 4 申立理由3(サポート要件違反)について (1)サポート要件の判断の前提 特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、その記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 (2)本件明細書の記載 本件明細書には、以下の記載がある。 (摘記a) 「【0001】 本発明は、ウイルス不活化組成物に関する。より詳細には、ウイルスに対して不活化作用を有し、かつ低級アルコールの含有量が特定量以下である、ウイルス不活化組成物に関する。 ・・・ 【0004】 現在、ウイルス不活化用組成物には、低級アルコールが広く用いられている。例えば低級アルコール、カチオン界面活性剤及びアルカリ剤を含むことを特徴とする殺菌・ウイルス不活化組成物などが提案されている(特許文献1)。 ・・・ 【0006】 エタノールを始めとする低級アルコールを含む製品の多用により、皮膚の荒れや適用対象物の性状の劣化や変化が問題となる。例えば、ウイルスに効果のあるスプレーはエタノールなどを高配合されているものが多く、対象物へスプレーした際に、付着対象物の素材によってはその対象物の品質が変性するという課題があった。 【0007】 本発明は、皮膚や対象物への影響が少ない、安全性の高いウイルス不活化用組成物を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0008】 本発明者らは、本課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、特定濃度の酸と塩を含有させpHを調整することで、エタノールなどの低級アルコール濃度を低く抑制しても、ウイルス不活化効果を発揮できることを見出し、本発明を完成するに至った。」 (摘記b) 「【0016】 ((B)塩類) 本発明のウイルス不活化用組成物には、塩類が含まれる。塩類としては、有機酸又は無機酸の塩が好ましく、その中でも、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩等が例として挙げられる。塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩が好ましく、ナトリウム塩がより好ましい。 【0017】 例えば、本発明において、塩類は、限定はされないが、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、リンゴ酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、グルコン酸カリウム、コハク酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、リン酸三ナトリウム、乳酸ナトリウム等が挙げられる。これらは単独で用いても、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、及びリン酸三ナトリウムからなる群より選択される1種又は2種以上が特に好ましい。限定はされないが、(A)成分の酸類と同じ酸の塩であることも好ましい。 ・・・ 【0029】 (その他の成分) 本発明の効果を阻害しない限り、本発明のウイルス不活化用組成物には、(A)酸類、(B)塩類、及び(C)低級アルコールの他に、任意成分が適宜配合されていても良い。一例を挙げると、任意成分は、界面活性剤、キレート剤、高分子、防腐剤、天然物エキス、分散剤、酸化防止剤、増粘剤、減粘剤、安定化剤、消臭剤、香料、色素等が挙げられる。」 (摘記c) 「【実施例】 【0038】 次に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、表における各成分量の単位は、表中特に断りがない限り、w/v%である。 【0039】 [1]ウイルス不活化効果評価試験 表1に示す実施例及び比較例の組成物を常法により調製し、それらの組成物について、ウイルス不活化効果の評価を行った。 【0040】 ウイルス不活化効果の評価は、以下のようにして行った。 【0041】 (対象ウイルス) インフルエンザウイルスA(H1N1)型 (A/PR/8/1934;ATCC VR-1469) 【0042】 (使用細胞) MDCK細胞 【0043】 (培養に用いる培地) E-MEM培地にウシ胎児血清(FBS)を添加して使用した。 【0044】 (ウイルス液の調製方法) あらかじめ用意しておいた細胞に、ウイルスを加え、一定期間培養後、培養液を凍結融解処理し、遠心分離にて得られた上清をウイルス液とした。 【0045】 (実験方法) 表1に示す実施例及び比較例の液0.9mLにウイルス液を0.1mL加え、30秒間間作用させた後反応を停止させ、段階希釈した。この希釈液0.1mLをあらかじめ細胞を培養しておいたプレートに入れ、37℃、5% CO2の条件下で3~4日間培養した。培養後、顕微鏡観察にて細胞変性効果を確認し、Reed Muench法により50%組織培養感染量ウイルス(TCID50:培養細胞にウイルスを感染させ、その50%が感染するウイルス量をTCID50という)を求め、作用液1mL当たりのウイルス感染価(TCID50/mL)に換算した。 【0046】 作用前のウイルス感染価(TCID50/mL)の対数値(logTCID50/mL)と作用後のウイルス感染価(TCID50/mL)の対数値(logTCID50/mL)の差を算出し、ウイルス感染価の減少値とした。このように得られたウイルス感染価の減少が4.0以上のものを◎と評価し、ウイルス感染価の減少が2.0以上4.0未満のものを○と評価し、ウイルス感染価の減少が2.0未満のものを×と評価した。これらのうち、◎及び○を良好、×を不良と判断した。 【0047】 この結果を表1に示す。 【表1】 [図:0001435218000001.jpg] 【0048】 評価試験の結果、実施例の組成物では、比較例の組成物と比較して、高いウイルス不活化効果が示された。 【0049】 [2]対象物への影響評価試験 表2に示す実施例及び比較例の組成物を常法により調製し、それらの組成物について、対象物に約0.5mlスプレーし、拭き取らず、直後に変化を確認した。評価基準は表3に示す通りである。下記の評価基準により評価を行った。総合的に判断し、全て〇のものを総合評価〇とし、良好とした。 【0050】 【表2】 [図:0001435218000002.jpg] 【0051】 【表3】 [図:0001435218000003.jpg] 【0052】 評価試験の結果、実施例の組成物では、比較例の組成物と比較して、対象物への影響が見られず、対象物を良好な状態に保つことが示された。 【0053】 [3]皮膚への刺激評価試験 実施例及び比較例の各組成物0.5mLを前腕に1時間間隔で5回連続塗布した後、(1)刺激性、及び(2)皮膚の乾燥(荒れ)状態を1点から3点の3段階の官能評価にて評価した。試験は5名で実施し、平均点を求めた。評価基準を以下に示す。 【0054】 <評価項目及び評価基準> (1)刺激性(灼熱感、痛み、かゆみ、など) 感じない=3点、やや感じる=2点、感じる=1点 (2)皮膚の乾燥(荒れ) 感じない=3点、やや感じる=2点、感じる=1点 【0055】 ◎:平均点が2.5以上 ○:平均店が2.0以上、2.5未満 ×:平均点が2.0未満 (1)刺激性、(2)皮膚の乾燥(荒れ)ともに〇以上のものを良好とした。 【0056】 結果を以下の表4に示す。 【表4】 [図:0001435218000004.jpg] 【0057】 評価試験の結果から、実施例の組成物は、比較例の組成物と比べて、皮膚への刺激や皮膚の乾燥を引き起こしにくいことがわかった。」 (3)本件発明の課題 本件発明は、「ウイルス不活化組成物」について、「現在、ウイルス不活化組成物には、低級アルコールが広く用いられている」ところ、「低級アルコールを含む製品の多用により、皮膚の荒れや適用対象物の性状の劣化や変化が問題となる」(摘記aの【0001】、【0004】、【0006】)ことを踏まえたものであり、本件発明の解決しようとする課題は、「皮膚や対象物への影響が少ない、安全性の高いウイルス不活化用組成物を提供すること」(摘記aの【0007】)に関するものであると認められる。 (4)判断 本件明細書には、上記課題を解決する手段について、「特定濃度の酸と塩を含有させpHを調整することで、エタノールなどの低級アルコール濃度を低く抑制しても、ウイルス不活化効果を発揮できる」(摘記aの【0008】)と記載され、本件明細書の実施例には、所定濃度のリン酸及びリン酸三Na、リンゴ酸及びリンゴ酸Na、又はクエン酸及びクエン酸Naを含み、所定濃度のエタノールを含む又はエタノールを含まない組成物(表1~3、実施例1-1~1-7、2-1~2-3の組成物)について、高いウイルス不活化効果を有し(摘記cの【0039】~【0048】)、対象物への影響が見られず(同【0049】~【0052】)、皮膚への刺激や皮膚の乾燥を起こしにくい(同【0053】~【0057】)ことが具体的に示されている。 そうすると、発明の詳細な説明の記載によって、本件発明は、ウイルス不活化効果を有し、皮膚や対象物への影響が少ないものであることを当業者が認識できるといえるから、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により、当業者は、本件発明は上記課題を解決できると認識することができるといえる。 なお、本件発明1の成分(B)のうち「クエン酸カリウム」は、実施例で用いられた化合物ではないものの、本件明細書では特に好ましい塩類として例示されている(摘記bの【0016】~【0017】)とともに、「クエン酸ナトリウム」を用いた実施例において課題を解決できることが示されており(実施例1-5)、ナトリウムイオンとカリウムイオンはアルカリ金属の陽イオンであるという点で共通し性質も類似するという技術常識からみて、「クエン酸ナトリウム」と同様の作用を発揮することを当業者は認識できるといえる。 (5)申立人の主張 申立人は、特許異議申立書(13~14ページ)において、本件発明は、界面活性剤を含み得る発明であるが、界面活性剤を任意成分として配合した場合には、本件発明の効果が得られない蓋然性が高いから、本件発明は発明の詳細な説明に記載されたものではないことを主張している。 具体的には、特許異議申立書に、「出願人殿は2025年7月15日(合議体注:正しくは、「2025年4月11日受付」である。)の意見書で、 「本願明細書の実施例においては、(A)成分及び(B)成分を、本願発明の範囲で含み、特定濃度以下の(C)成分を含む組成物が、ウイルス不活化効果を有し(表1)、さらに、プラスチック板やフローリングに変色や風合いの変化を生じさせない(表2)ことを実証しております。 さらに、実施例の組成物は皮膚への刺激と乾燥を引き起こしにくいことも実証しております。 引用文献1は、界面活性剤であるドデシル硫酸ナトリウムを必須成分としていますが、本願発明では、界面活性剤のような存在に関わらず、優れたウイルス不活性化作用をもつ点で引用発明にはない顕著な効果を有すると言えます。」と主張されており、界面活性剤を使用した場合には、プラスチック板やフローリングヘの影響、皮膚への刺激と乾燥を起こし得ると読み取れます。 従って、本願特許発明に界面活性剤を任意成分として配合した場合には、本願特許発明の効果が得られない蓋然性が高いと思料します。」と記載されている(なお、当該主張における引用文献1は、甲1と同じ文献である。)。 (6)申立人の主張についての判断 ア 本件明細書には「エタノールを始めとする低級アルコールを含む製品の多用により、皮膚の荒れや適用対象物の性状の劣化や変化が問題となる。」と記載されている(摘記a、【0006】)ところ、本件発明の組成物は、(C)低級アルコール含有量が10w/v%以下とされているから、低級アルコールの含有量を少なくすることによって、皮膚の荒れや適用対象物の性状の劣化や変化を抑制できることを当業者は理解できるといえる。 そして、そのような抑制作用は、組成物が界面活性剤を含有するか否かで異なるという理由はない。 そうすると、本件発明の組成物に界面活性剤を配合すると、本件発明の効果が得られないとはいえない。 イ 申立人が主張する、特許権者の意見書の記載は、本件発明は、引用文献1(甲1)において必須成分とされているドデシル硫酸ナトリウム(界面活性剤)が存在しなくても優れたウイルス不活性化作用を有することを述べていると解されるが、それは、ウイルス不活性化作用について述べたものであって、界面活性剤の含有の有無とプラスチック板やフローリングヘの影響、皮膚への刺激と乾燥との関係を述べたものではないから、当該記載が、界面活性剤を使用した場合には、プラスチック板やフローリングヘの影響、皮膚への刺激と乾燥を起こし得ることを意味していると解することはできない。 さらに、引用文献1(甲1)には、「非常に効果的な洗浄及び消毒組成物であると同時に、環境に優しく、人間を含む動物に対して無害であり、適用時に皮膚を乾燥させない組成物を提供すること」であると記載されているから(摘記1b)、界面活性剤であるドデシル硫酸ナトリウムを含有していても、皮膚や対象物への影響が少ない、安全性の高いウイルス不活化用組成物を提供することができることを推認できる。 仮に、界面活性剤が皮膚や対象物への影響を引き起こすものであったとしても、本件明細書には、界面活性剤等の任意成分は「本発明の効果を阻害しない限り」(【0029】)配合されるものであることが記載されているから、界面活性剤を配合したというだけで、本件発明の効果が得られないということはできない。 そうすると、本件発明の組成物に界面活性剤を配合すると、本件発明の効果が得られないとはいえない。 したがって、申立人の主張を採用することはできない。 (7)申立理由3(サポート要件違反)についてのまとめ 以上検討したとおり、本件発明は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものといえるので、本件特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。 したがって、申立理由3によっては、請求項1~4に係る特許を取り消すことはできない。 第5 むすび 以上のとおりであるから、申立人が申し立てた理由及び証拠方法によっては、請求項1~4に係る特許を取り消すことはできない。 また、ほかに本件請求項1~4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2026-700132

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