特許異議申立
2023-700875
ポリアミド樹脂組成物およびポリアミド樹脂組成物の製造方法
- 審判番号
- 2023-700875
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-555460
- 登録番号
- 7236189
- 請求日
- 2023年08月25日
- 審決日
- 2024年06月04日
- 公報発行日
- 2024年09月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】ユニチカ株式会社
- 【権利者代理人】山尾 憲人
- 【権利者代理人】高岡 健
- 【異議申立人】鈴木 和男
- 審判長/審判官
- 審判長 近野 光知
- 審判官 岡谷 祐哉
- 審判官 松本 直子
- 分類
- P1652.113-YAA(C08L) / P1652.121-YAA(C08L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7236189号発明「ポリアミド樹脂組成物およびポリアミド樹脂組成物の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7236189号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4、16、17〕について訂正することを認める。
特許第7236189号の請求項2、3及び17に係る特許を維持する。
特許第7236189号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7236189号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~17に係る特許についての出願は、令和3年10月4日を国際出願日(優先日 令和2年10月6日)とする特願2022-555460号であって、令和5年3月1日にその特許権の設定登録(請求項の数17)がされ、同年同月9日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年8月25日に特許異議申立人 鈴木 和男(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1~3及び17)がされたものである。
その後、令和5年12月14日付けで取消理由通知が通知され、令和6年2月5日に特許権者であるユニチカ株式会社(以下、「特許権者」という。)により訂正請求がされると共に意見書が提出され、同年2月15日付けで特許法第120条の5第5項の通知がされ、同年3月15日に申立人により意見書が提出された。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和6年2月5日付けの訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下の(1)ないし(6)のとおりである。
(1)訂正事項1
請求項1を削除する。
(2)訂正事頃2
請求項2に、「前記成形体の線膨張係数が40×10-6(1/℃)以下である、請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。」と記載されているのを、
「ポリアミド樹脂100質量部に対してセルロース繊維50~100質量部を含有するポリアミド樹脂組成物であって、前記ポリアミド樹脂組成物から得られる成形体の引張弾性率が3.0GPaを超え、前記成形体の線膨張係数が40×10-6(1/℃)以下である、ポリアミド樹脂組成物。」に訂正する。
(請求項2の記載を引用する請求項3、4、16、17についても同様に訂正する。)
(3)訂正事項3
請求項3に、「前記セルロース繊維の含有量がポリアミド樹脂100質量部に対して50~80質量部である、請求項1または2に記載のポリアミド樹脂組成物。」と記載されているのを、
「前記セルロース繊維の含有量がポリアミド樹脂100質量部に対して50~80質量部である、請求項2に記載のポリアミド樹脂組成物。」に訂正する。
(請求項3の記載を引用する請求項4、16、17についても同様に訂正する。)
(4)訂正事項4
請求項4に、「前記セルロース繊維の平均繊維径が10μm以下である、請求項1~3のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。」と記載されているのを、
「前記セルロース繊維の平均繊維径が10μm以下である、請求項2または3のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。」に訂正する。
(請求項4の記載を引用する請求項16、17についても同様に訂正する。)
(5)訂正事項5
請求項16に、「前記ポリアミド樹脂組成物は請求項1~4のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物である、請求項5~15のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物の製造方法。」と記載されているのを、
「前記ポリアミド樹脂組成物は請求項2~4のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物である、請求項5~15のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物の製造方法。」に訂正する。
(6)訂正事項6
請求項17に、「請求項1~4のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物を成形してなる成形体。」と記載されているのを、
「請求項2~4のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物を成形してなる成形体。」に訂正する。
2 一群の請求項について
訂正前の請求項1~4、16、17について、請求項2~4、16、17は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1~4、16、17は、一群の請求項である。そして、本件訂正は、その一群の請求項ごとに請求がされたものである。
訂正後の請求項2~4、16、17については、当該請求項の訂正が認められる場合は、一群の請求項の他の請求項とは別の訂正単位とすることが求められている。
3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1による訂正について
訂正事項1による請求項1についての訂正は、請求項の削除であるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。そして、訂正事項1は、本件特許の明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2による訂正について
訂正事項2による請求項2についての訂正は、請求項1の削除に伴い、請求項間の引用関係を解消して独立形式請求項へ改めるものであるから、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項を引用しないものとすること」を目的とするものである。そして、訂正事項2は、本件特許の明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項3~6による訂正について
訂正事項3~6による請求項3、4、16及び17についての訂正は、訂正事項1による請求項1の削除に伴い、請求項3、4、16及び17の引用請求項から請求項1を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。そして、訂正事項3~6は、本件特許の明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)独立特許要件について
上記「第1」で述べたように、本件特許異議の申立ては、請求項1~3、17に係る特許に対して申立てられたものであり、訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用する請求項4及び16に係る特許に対しては申立てられていない。そして、請求項1に対する訂正事項1は、上記(1)で述べたように特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であるので、訂正前の請求項1を引用する請求項4及び16も同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正がされたといえる。
そこで、訂正後の請求項4及び16に係る発明の独立特許要件について検討する。
下記第5で述べるように、訂正後の請求項2に係る発明は取消理由及び申立理由により特許を受けることができないものでないから、訂正後の請求項2を引用する請求項4及び16に係る発明も、取消理由及び申立理由によっては特許を受けることができないとすべきものでない。また、他に請求項4及び16に係る発明は、特許を受けることができないとすべき理由は見当たらない。
したがって、本件訂正後の請求項4及び16に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができたものである。
4 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項ないし第7項の規定に適合する。
したがって、本件訂正は適法なものであり、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、一群の請求項である訂正後の請求項〔1~4、16、17〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2で示したとおり、本件訂正は認められるため、本件特許の請求項1~4、16、17に係る発明(以下、項番に従い「本件特許発明1」のようにいい、本件特許発明1~4、16、17を総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1~4、16、17に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】
(削除)
【請求項2】
ポリアミド樹脂100質量部に対してセルロース繊維50~100質量部を含有するポリアミド樹脂組成物であって、前記ポリアミド樹脂組成物から得られる成形体の引張弾性率が3.0GPaを超え、前記成形体の線膨張係数が40×10-6(1/℃)以下である、ポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
前記セルロース繊維の含有量がポリアミド樹脂100質量部に対して50~80質量部である、請求項2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
前記セルロース繊維の平均繊維径が10μm以下である、請求項2または3に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項16】
前記ポリアミド樹脂組成物は請求項2~4のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物である、請求項5~15のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物の製造方法。
【請求項17】
請求項2~4のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物を成形してなる成形体。」
第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由、証拠方法等及び取消理由通知の概要
1 申立人が提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要及び証拠方法
令和5年8月25日に申立人が提出した特許異議申立書(以下、「申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。証拠方法として、下記(3)アの甲第1号証~甲第3号証を提出する。
(1)申立理由1(甲第1号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1、3及び17に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1、3及び17に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(2)申立理由2(甲第1号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項2に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証及び甲第3号証に記載された事項に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項2に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(3)証拠方法
ア 申立書に添付された証拠方法
甲第1号証:Xiaolin Xu,「CELLULOSE FIBER REINFORCED NYLON 6 OR NYLON 66 COMPOSITES」, Thesis(Ph.D.), Georgia Institute of Technology, 2008年
甲第2号証:片岡保人,「マイクロメカニックスによる短繊維複合材料の熱膨張係数の解析」,日本機械学会論文集(A編),第62頁~第68頁,2008年74巻740号
甲第3号証:西野孝,「セルロース系材料における基礎と応用」,材料,Vol.57,No.1,第97頁~第103頁,2008年1月
イ 令和6年3月15日付け意見書で示された証拠方法
甲第4号証:Masayuki Sugimoto他,「Reinforcement of polyamide 6/66 with a 9,9’-bis(aryl)fluorene-modified cellulose nanofiber」,Polymer Journal,2019,51,p.1189-1195,2019年7月30日公開
甲第5号証:「FRP学術業界動向ポリアミド6/66の改質セルロースナノファイバーを用いたFRP特性」,2020年1月20日,URL: https://www.frp-consultant.com/2020/01/20/cnf-composite-dispersion-research/)
甲第6号証:国際公開第2019/208313号
甲第7号証:本間精一,「プラスチック材料大全」,日刊工業新聞社,2015年12月19日,初版第1刷発行,第136頁~第147頁
以下、上記「甲第1号証」等を「甲1」等という。
ウ 当審が職権調査により発見した証拠方法
参考文献1:特表2004-511608号公報
参考文献2:特表2013-542290号公報
参考文献3:特表2016-535298号公報
2 取消理由通知に記載した取消理由の概要
当審が令和5年12月14日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。
取消理由1(甲1に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1、3及び17に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲1に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1、3及び17に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
第5 当審の判断
以下に述べるように、当審が通知した取消理由通知の取消理由、及び、申立書に記載した申立理由によっては、本件特許発明2、3及び17に係る特許は取り消すことはできない。
また、本件特許発明1に係る特許に対する申立ては、本件訂正により請求項1が削除されたから却下する。
1 本件特許発明1に係る特許に対する申立ての却下
第2で示したとおり、本件特許の請求項1は本件訂正により削除され、この特許に対する申立ては、申立ての対象を欠くこととなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により決定をもって却下すべきものである。
2 取消理由通知に記載した取消理由及び申立理由について
申立理由1(甲1に基づく新規性・進歩性)及び申立理由2(甲1に基づく進歩性)は、取消理由1(甲1に基づく新規性・進歩性)と証拠を同じくするものであるから、これらを併せて検討する。
(1)甲1~甲7に記載された事項
ア 甲1に記載された事項及び甲1に記載された発明
(ア)甲1に記載された事項
甲1には、「セルロース繊維強化ナイロン6又はナイロン66複合体」に関し、以下の事項が記載されている。甲1の翻訳文は、申立人が提出した抄訳文を参考にして当審が作成した。
「Cellulose Fiber Reinforced Nylon 6 or Nylon 66 Composites」(表紙)
(当審訳:セルロース繊維強化ナイロン6又はナイロン66複合体)
「
[図:0001414179000001.jpg]
」(第26頁第1~15行)
(当審訳:
3.2 実験
3.2.1 加工
1種類のセルロース繊維TC 2500を強化繊維として用いた。TC 2500は、CreaFill Fibers Corpにより提供されているセルロース繊維の内、最も繊維長が長いものである。ナイロン6もしくはナイロン66をマトリクスとした。繊維及びポリマーペレットは120℃のオーブンで少なくとも4時間乾燥させた。マトリクスとセルロース繊維は2軸混練機を使用して混合される。図3.1は2軸混練機の概略図である。混練機は、6つに分かれた加熱ゾーンとダイを含む。ナイロン6又はナイロン66は供給口からゾーン1に加えられる。セルロース繊維は、供給口とダイ面の間の真ん中のゾーン4から供給される。スクリュー速度は、ナイロン6及びナイロン66マトリクス複合体の何れの場合も200rpmである。製造レートは、12kg/hrとし、充填率は66%である。ポリマーペレット及び繊維は比率に応じて供給する。例えば、10%複合体とするためにはペレットの供給レートを10.8kg/hrとし、セルロース繊維の供給レートを1.2kg/hrとする。ナイロン6及びナイロン66複合体用の混練機の温度プロファイルを表3.3と表3.4に示した。)
「
[図:0001414179000002.jpg]
」(第27頁第9~10行)
(当審訳:
ダイから加熱した混合物を1分間回収し、ポリマーが溶けている間に板状(plaque)に直接圧縮成形する。)
「
[図:0001414179000003.jpg]
」(第28頁第9~15行)
(当審訳:
3.2.2 機械的試験
ASTM D638、タイプ1に従って引張試験片を作製した。射出成形サンプルはドッグボーン形状に直接成形した。圧縮成形されたプラークは、まず6.5インチ×0.75インチの長方形の棒状に切断され、次にテンシカット粉砕機でドッグボーン形状に粉砕された。引張試験はすべて、インストロン4466万能試験機を用いて室温で行った。クロスヘッド速度は0.2インチ/分であった。ASTM D638の詳細な手順に従った。)
「
[図:0001414179000004.jpg]
」(第29頁第4~9行)
(当審訳:
3.2.3 繊維含有率/繊維長解析
測定に用いた試料は、小片にカットしギ酸に3日間漬けた。ナイロン6又はナイロン66はギ酸に溶解し、セルロース繊維は残った。セルロース繊維は、濾別し、ギ酸で洗浄し、その後、4時間真空オープンで乾燥した。複合体及び繊維の重量を測定することにより、実際の繊維含有率を計算することができる。)
「
[図:0001414179000005.jpg]
」(第31頁第1~4行)
(当審訳:
3.3.1セルロース繊維の特性評価
CreaFill Fibers Corp.は2種類のセルロース繊維、TC 2500とTC 150を提供した。同社が提供したデータによると、TC 2500とTC 150の平均長はそれぞれ120μmと900μmである。平均幅はいずれも20μmである。)
「
[図:0001414179000006.jpg]
」(第32頁第1~4行及びTable3.7)
(当審訳:
繊維長分布はFiber Quality Analyzer(FQA)で測定される。FQAによって測定された繊維長は、企業から提供された数値よりもずっと低い。特にTC 2500は、我々が測定した繊維長は
0.283mmで、0.9mmよりずっと短い。)
表3.7 セルロース繊維と木繊維の繊維長
[図:0001414179000007.jpg]
)
「
[図:0001414179000008.jpg]
」(第32頁第12~19行)
(当審訳:
3.3.2 繊維含有率及び加工手順の違いによる試料の色変化
図3.3は、繊維含有率と手順の違いによる色の変化を示している。繊維含有率の増加に伴い、複合体の色は濃くなる。ナイロン66/セルロース繊維複合体は、同じ繊維含有率ではナイロン6/セルロース繊維複合体より色が濃い。押出-射出成形加工では、押出-圧縮成形加工よりも試料の色が濃くなる。色が濃いということは、加工中のセルロース繊維の熱劣化がより激しいことを意味する。)
「
[図:0001414179000009.jpg]
」(第33頁)
(当審訳:
図3.3a 押出-圧縮成形によるナイロン6/セルロース繊維
(左から右ヘセルロース繊維0%,10%,20%,30%)
図3.3b 押出-射出成形によるナイロン6/セルロース繊維
(左から右ヘセルロース繊維10%,20%,30%)
図3.3c 押出-圧縮成形によるナイロン66/セルロース繊維
(左から右ヘセルロース繊維0%,10%,20%,30%))
「
[図:0001414179000010.jpg]
」(第34頁第1~6行)
(当審訳:
3.3.3 密度及び機械的特性
3.3.3.1 実際の繊維含有率及び密度
複合体の繊維含有率は、マトリックスと繊維の供給速度によって制御した。しかし、供給速度、特にセルロース繊維の供給速度は正確にキャリブレーションすることができない。表3.8は、異なる成分および異なる手順による複合体の密度と実際の繊維含有率を示している。)
「
[図:0001414179000011.jpg]
」(第35頁)
(当審訳:
[図:0001414179000012.jpg]
)
「
[図:0001414179000013.jpg]
」(第36頁)
(当審訳:
[図:0001414179000014.jpg]
)
「
[図:0001414179000015.jpg]
」(第38頁)
(当審訳:
[図:0001414179000016.jpg]
)
(イ)甲1に記載された発明
甲1には、セルロース繊維強化ナイロン6又はナイロン66複合体が記載され(表紙)、マトリクスとしてのナイロン6又はナイロン66と、セルロース繊維を2軸混練機で混練すること、及び混練機のダイから加熱した混合物を回収し、圧縮成形することが記載されている(3.2.1 加工)。
また、甲1には、繊維長0.9mm、繊維幅20μmのセルロース繊維である「TC 2500」を用いたこと、繊維長を測定したところ、算術平均で0.283mmであったことが記載されている(3.3.1 セルロースファイバーの特徴)。
さらに、甲1の表3.8には、押出-圧縮成形により得たナイロン6/セルロース繊維複合体として、N6/30%CFが記載され、複合体の実際のセルロース繊維含有率は34.2%であることが記載されている。なお、セルロース繊維の供給速度は正確にコントロールできず(3.3.3.1 実際の繊維含有率及び密度)、そのため、正確な繊維含有率は、得られた複合体をギ酸で溶かして、残ったセルロース繊維を洗浄し、真空オーブンで乾燥し、得られた繊維の重量を測定することにより求めたことが記載されている(3.2.3 繊維含有率/繊維長解析)。
そして、表3.9には、押出-圧縮成形により得られたN6/30%CF(34.2%)複合体の引張弾性率は、4.58GPaであったことが記載されている。
そうすると、甲1に記載された事項について、表3.9の「N6/30%CF(34.2%)」に着目して整理すると、甲1には、以下の発明が記載されているといえる。
「セルロース繊維を34.2%含むナイロン6/セルロース繊維混合物であって、当該混合物を押出-圧縮成形することにより得られたナイロン6/セルロース繊維複合体の引張弾性率が4.58GPaである、上記混合物。」(以下、「甲1発明1」という。)
イ 甲2に記載された事項
甲2には、「短繊維複合材料」に関し、以下の事項が記載されている。
「3・3 マトリックス樹脂のヤング率の影響 2・2節までは,マトリックス樹脂としてエポキシ樹脂を取上げ,その代表的なヤング率(Em=4.5GPa)での解析結果を示した.しかしながら,エポキシ樹脂のヤング率は樹脂材料の配合などによって変化し,またマトリックス樹脂としてほかの樹脂を用いたり,フィラーを混ぜたりして,ヤング率が変化する場合も考えられる.そこで,マトリックス樹脂のヤング率が複合材の熱膨張係数に及ぼす影響について調べた.
図6は,マトリックス樹脂のヤング率を変えた場合に,複合材の熱膨張係数がどのように変化するかを調べた結果である.強化材は炭素繊維のみ(フィラーなし)で,繊維アスペクト比100,一方向(図1中X3軸方向)配向材である.一方向配向なので配向角度の分布範囲を示す限界値β=0゜である.横軸は繊維体積含有率,縦軸はX3軸方向の複合材の熱膨張係数αc3である.図中○印は表1に示した樹脂のヤング率Em=4.5GPaの場合,△印は2倍の9.0GPa,×印は3倍の13.5GPa,□印は1/2の2.25GPaの場合の結果である.
図6において,樹脂のヤング率が小さいほうが熱膨張係数が小さくなっている.これは樹脂のヤング率が小さくなるほど,すなわち樹脂のヤング率に対する炭素繊維のヤング率の比(炭素繊維ヤング率/樹脂ヤング率の値)が大きくなるほど樹脂が変形しやすく,複合材の熱膨張係数に対する炭素繊維の熱膨張係数の影響がより顕著に現れてくるためと考えられる.また,繊維体積含有率が0.05~0.2程度と比較的小さい場合,複合材熱膨張係数に対する樹脂のヤング率の影響が大きく(樹脂のヤング率の違いによる複合材熱膨張係数の差が大きい),繊維体積含有率が0.3以上と比較的大きくなってくると,影響が小さくなってくる.これは,繊維体積含有率が小さいときは,各繊維の距離が離れており,繊維の熱膨張係数の影響がまわりの樹脂に効果的に作用するが,繊維体積含有率が大きくなってくると,各繊維が互いに干渉し合い効果が小さくなってくるためと考えられる.
これらの結果より,繊維(強化材)のヤング率に対して小さいヤング率の樹脂に,アスペクト比が比較的大きい繊維を少量入れることが,一方向短繊維複合材料の熱膨張係数を低減するのに効果的であると考えられる.
3・4 繊維の熱膨張係数の影響 本節では,繊維の熱膨張係数が表1に示した値以外に変化する場合について検討した.
図7~9は,繊維の熱膨張係数を変えた場合に,複合材の熱膨張係数がどのように変化するかを調べた結果で,それぞれ樹脂のヤング率をEm=2.25,4.5,9.0GPaとしている.強化材は炭素繊維のみ(フィラーなし)で,繊維アスペクト比100,一方向(図1中X3軸方向)配向材である(β=0°).横軸は繊維体積含有率,縦軸はX3軸方向の複合材の熱膨張係数αc3である.図中〇印は表1に示した繊維長さ方向の熱膨張係数αfL=-1.5E-6/℃の場合,△印は6.0E-6/℃(樹脂の1/10),□印は12.0E-6/℃(樹脂の1/5)の場合の結果である.
図7~9において,当然ながら繊維長さ方向の熱膨張係数が小さいほうが,複合材の熱膨張係数が小さくなっている.そして,図7の樹脂のヤング率Em=2.25の場合,繊維体積含有率が約0.1以上になると複合材の熱膨張係数はあまり変化しなくなり,ほぼ一定の値,すなわち繊維長さ方向の熱膨張係数に漸近していく.図8のEm=4.5の場合は繊維体積含有率が約0.2以上になると,また図9のEm=9.0の場合は繊維体積含有率が約0.3以上になると,複合材の熱膨張係数はあまり変化しなくなり,繊維長さ方向の熱膨張係数に漸近していく.
これらの結果からも,繊維(強化材)のヤング率に対して小さいヤング率の樹脂を選定したほうが,繊維長さ方向の熱膨張係数の効果が発現しやすく,一方向複合材料の熱膨張係数を低減するのに効果的であると考えられる.
4.結言
(中略)
(4)さらに,繊維のヤング率に比べて樹脂のヤング率を小さくし,熱膨張係数が小さくかつアスペクト比が大きい繊維を少量入れることが,短繊維複合材料の熱膨張係数低減に効果的であることを示した.」(第66頁左欄2行~第67頁右欄11行)
「
[図:0001414179000017.jpg]
」(第66頁図6~9)
ウ 甲3に記載された事項
甲3には、「セルロース」に関し、以下の事項が記載されている。
「4・1セルロースの結晶弾性率
前述のように植物をミクロに見ていくと,セルロースミクロフィブリルからセルロース分子に到る.ここで,植物から上手に取り出すことでセルロース100%の材料が得られるとする.天然,合成を問わず高分子材料は100%結晶ということはあり得ず,図4のセルロースミクロフィブリルの如く結晶領域と非晶領域が混在している.そこで仮想的にセルロースの結晶領域の分率が100%で,しかも分子が全て一方向に向いているとする.
図5には,ラミー(苧麻)繊維を分子鎖の方向に引張って実測した,セルロースI型の結晶格子の応カーひずみ曲線を示した.15)引張り応力を付加することにより分子鎖が伸長され,また,応力を解放すると元の状態へ戻った.すなわち,結晶ひずみは可逆的であった.初期勾配から弾性率が与えられ,図の天然セルロース(セルロースI型結晶)については138GPaの値が得られた.この値を結晶弾性率Elといい,その高分子についての弾性率の上限を示している.」(第100頁左欄21~38行)
「
[図:0001414179000018.jpg]
」(第100頁図5)
「5 セルロース系繊維の熱物性
構造,力学物性から眺めると,セルロース繊維は200℃程度までは熱的に安定である.
図9には,ラミー繊維を用いて測定を行った,セルロースI型の結晶弾性率El,繊維周期および単繊維の貯蔵弾性率の温度依存性を示した.3),24)El値は常温から200℃まで一定であり,同時に求めた繊維周期も一定であった.このことはセルロース結晶の熱膨張係数が鎖軸方向に実験誤差範囲内で事実上0であることを意味している.多くの高分子で高温ではEl値が低下し,繊維周期が熱膨張あるいは熱収縮する.たとえば,ナイロン6のEl値は常温で157GPaであるが,175℃では40GPaに低下する.26)代表的な剛直性高分子であるポリ(p-フェニレンベンベンゾビスオキサゾール)(PBO:商品名Zylon(R)(当審注:(R)は○の中にR))の繊維周期は温度の上昇と共に短縮し,-4.5×10-5K-1の負の熱膨張係数を有する.これらに比較して,セルロースI型の分子鎖骨格が過酷な熱環境に対して極めて安定である.さらに,結晶領域のみならず,ラミー繊維のマクロな貯蔵弾性率も200℃においても高い値を保持していることは自然のもたらした驚異である.」(第102頁左欄17行~右欄3行)
エ 甲4に記載された事項
甲4には、ポリアミド樹脂(ポリアミド6/66)及びセルロース繊維(セルロースナノファイバー:CNF、修飾セルロースナノファイバー:BCNF)を混練して得られた組成物を押出成形して得られた成形体(フィルム)の線膨張係数に関し、以下の事項が記載されている。
甲4の翻訳文は、申立人が提出した抄訳文を参考にして当審が作成した。
「
[図:0001414179000019.jpg]
(当審訳:
要約
カルド部位を有する9,9’-bis(aryl)fluorene修飾セルロースナノファイバー(BCNF)を合成し、ポリアミド6/66 (PA)複合材料の特性を評価した。その結果、BCNFはPA中に良好に分散しており、BCNFとPAの界面親和性が高いため、ガラス転移温度以上の温度域でも未修飾のCNFに比べて強い補強効果があることが判明した。)(第1189頁)
「
[図:0001414179000020.jpg]
(当審注:上記「near PA」は、表2等に「neat PA」との記載があることから、「neat PA」の誤記であると解した。)
(当審訳:
複合材料の熱特性
図6は、100℃超におけるPA/CNFおよびPA/BCNFのCTEを示している。CTEの値は、2℃ごとに分離されたTMA結果の傾きから計算した。PA/CNF複合材料で観察されたPAの融点(193℃)付近では、温度の上昇による変化はほとんどなく、CNF量の依存性はなかった。対照的に、PA/BCNFの場合、BCNFの増加により観察された変化は高温側にシフトした。100℃超におけるPA/CNFとPA/BCNFのCTEは、PA中のCNFまたはBCNFの含有量に応じて減少し、PA/BCNFのCTEは同様の含有量のPA/CNFのCTEよりも一貫して小さくなった。150℃におけるCTEは、PAの1.83×10-4K-1からPA/CNF-10の1.19×10-4K-1、PA/BCNFa-10の0.64×10-4K-1に減少した。この結果は、BPFGで修飾されたCNFの方が未修飾のCNFよりも強くPAと相互作用できることを示している。)(第1193頁)
オ 甲5に記載された事項
甲5には、ポリアミド樹脂(ポリアミド6/66)及びセルロース繊維(セルロースナノファイバー:CNF、修飾セルロースナノファイバー:BCNF)を混練して得られた組成物を押出成形して得られた成形体(フィルム)の線膨張係数に関し、以下の事項が記載されている。
「
[図:0001414179000021.jpg]
これは明らかな差が出ていますね。
私もこれほどCNFやBCNF添加で変化が発現するとは思いませんでした。
一番顕箸なのが、測定温度範囲(?200℃)における線膨張係数の安定性です。これはかなり大きな変化ですね。
そして設計的にも大きな変化です。
寸法変動が無いというのは設計上、重要になることが多くあります。特にBCNF添加の際のCTE抑制効果は素晴らしいですね。
もちろん、桁でいうと10-5K-1ですから決して小さいわけではありませんが、元々がPAであることを考えれば大いなる改善といえるでしょう。」(6/10頁)
カ 甲6に記載された事項
甲6には、以下の事項が記載されている。
「セルロースナノファイバーは、平均繊維径1000nm以下のセルロースである。」(【0019】)
「
[図:0001414179000022.jpg]
」(【0275】【表1】)
「
[図:0001414179000023.jpg]
」(【0300】【表6】)
「[樹脂組成物 実施例3-1~3-56及び比較例3-1~3-16]
先の実施例で得られたセルロース含水分散液(表7~10記載)、及びセルロース乾燥体(表7~10記載)を用い、製造-3に記載の方法で樹脂組成物(表11~21記載)を得た。得られた組成物を製造―5(当審注:「製造-4」の誤記と推測される。)に記載の方法で成形した。
表7~10記載の実施例及び比較例(実施例1-1~1-28及び比較例1-1~1-13、実施例2-1~2-28及び比較例2-1~2-13)の表示が表11~21にないものについては、(F)熱可塑性樹脂以外を各表に記載の割合で用い、製造-1~2に記載の方法で製造を行った。その後、製造-3、-4に記載の方法で組成物及び成形体を得た。」(【0324】)
「表19の実施例3-46-1は製造-1のときに、水の代わりにc-4を1質量%加えた。それ以外は実施例3-46と同様に行った。実施例3-48-1は製造-1のときに、水の代わりにc-3を1質量%加えた。それ以外は実施例3-48と同様に行った。実施例3-50-1は製造-1のときに、水の代わりにc-3を1質量%加えた。それ以外は実施例3-50と同様に行った。
上記各成形体を上述した評価方法に準拠して、評価した。」(【0325】)
「
[図:0001414179000024.jpg]
」(【0332】【表17】)
「
[図:0001414179000025.jpg]
」(【0366】【表42】)
キ 甲7に記載された事項
甲7には、以下の事項が記載されている。
「表3.9に各種プラスチックについて引張強度と曲げ強度の比較を示す。(省略)一方、曲げ弾性率についてはフックの弾性限度内の微小ひずみの範囲で測定しているので、引張弾性率とほぼ同じ値になっている。」(第145頁)
「
[図:0001414179000026.jpg]
」(第146頁表3.9)
ク 参考文献1に記載された事項
「破壊伸長(E@B)および引張強さ(TS)測定値は、ASTM D-638またはISO 527に記載されたように測定した。」(【0042】)
ケ 参考文献2に記載された事項
「39.5MPaの降伏点での引張強度、3.24%の降伏点での伸長、および1447MPaの引張係数を測定した(ASTMD638-08(ISO 527))。」(【0215】)
コ 参考文献3に記載された事項
「引張弾性率、引張応力、及び引張伸び:引張特性は、ISO試験No.527(ASTM-D638と技術的に同等)にしたがって試験した。」(【0084】)
(2)対比・判断
ア 本件特許発明2について
本件特許発明2と甲1発明1とを対比する。
ナイロンがポリアミドの別名であることは周知であるから、甲1発明1における「ナイロン6/セルロース繊維混合物」は、本件特許発明2における「ポリアミド樹脂組成物」に相当する。
また、甲1発明1の「セルロース繊維を34.2%含むナイロン6/セルロース繊維混合物」は、セルロース繊維を34.2%含むものであり、ナイロン6は65.8%(=100-34.2)と計算でき、ナイロン6 100質量部に対してセルロース繊維52質量部(=34.2×100÷65.8)含むと算出されるから、本件特許発明2における「ポリアミド樹脂100質量部に対してセルロース繊維50~100質量部を含有する樹脂組成物」に相当する。
そして、甲1発明1の「ナイロン6/セルロース繊維混合物から、押出-圧縮成形により得られたナイロン6/セルロース繊維複合体」は、押出-圧縮成形により得られたものであるから、本件特許発明2における「ポリアミド組成物から得られる成形体」に相当する。
加えて、本件特許発明2における引張弾性率は、ISO527に準拠して測定されたことが記載されており(本件明細書の【0075】)、甲1発明1は、ASTM D638に従って測定されたことが記載されている(甲1の3.2.2.機械的試験)から、両者は、弾性率の測定方法が異なるが、「ISO527」と「ASTM D638」とは、技術的に同等であるとして、当業者に広く知られているから(例えば、上記(1)ク~コを参照。)、甲1発明1の「引張弾性率が4.58GPa」は、本件特許発明2における「引張弾性率が3.0GPaを超える」に相当する。
してみると、両者は、以下の一致点で一致し、以下の相違点で相違する。
<一致点>
「ポリアミド樹脂100質量部に対してセルロース繊維50~100質量部を含有するポリアミド樹脂組成物であって、前記ポリアミド樹脂組成物から得られる成形体の引張弾性率が3.0GPaを超える、ポリアミド樹脂組成物。」
<相違点1>
本件特許発明2は、「成形体の線膨張係数が40×10-6(1/℃)以下である」のに対し、甲1発明1は、そのような特定がされていない点
そこで、上記相違点1について検討する。
甲1には、甲1発明1の成形体における密度、引張特性、曲げ特性が記載されているにとどまり、その線膨張係数については何ら記載されていない。
また、甲1発明の線膨張係数が40×10-6(1/℃)以下であることを示す技術常識も見当たらない。
そうすると、相違点1は実質的な相違点である。
次に、容易想到性について検討する。甲2には、エポキシ樹脂と炭素繊維の複合材における熱膨張係数について記載され、甲3には、セルロースI型結晶の熱膨張係数について記載されているが、甲2及び甲3には、ポリアミド樹脂とセルロース繊維の混合物の成形体における熱膨張係数について何ら記載されていない。
そうすると、甲1発明1において、甲2及び甲3の記載を基に、「成形体の熱膨張係数が40×10-6(1/℃)以下である」ことが動機付けられるとはいえない。
よって、本件特許発明2は、甲1発明1、及び甲2、3に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到しうるものとは認められない。
なお、下記3で述べるように、甲4~7の記載を考慮したとしても、甲1発明1において、「成形体の線膨張係数が40×10-6(1/℃)以下である」ことは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
イ 本件特許発明3及び17について
本件特許発明3及び17は、本件特許発明2を直接又は間接的に引用し、本件特許発明2の発明特定事項を全て有するものであるから、上記アと同様の理由により、本件特許発明3及び17は、甲1発明1に記載されたものでなく、甲1発明1、及び甲2、3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとも認められない。
ウ 小括
よって、本件特許発明3及び17は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものでないし、本件特許発明2、3及び17は、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許発明2、3及び17は、取消理由1及び申立理由1、2によっては取り消すことはできない。
3 申立人の主張について
(1)「(4)具体的理由」で主張される事項について
申立人は、申立書の17~18頁において、PA6及びセルロース繊維のヤング率(曲げ弾性率)及び線膨張係数、セルロース繊維の体積含有率を基に、甲1発明1の成形体の線膨張係数が、PA6の熱膨張係数の1/2以下程度の40×10-6/℃以下を満足する蓋然性が高い旨を主張する。
しかしながら、その算出根拠は、成形体の製造方法などを何ら考慮せず、PA6とセルロース繊維それぞれの物性値から予想したものにすぎず、何ら客観性があるとはいえないから、申立人の主張を採用することはできない。
(2)令和6年3月15日付け意見書の「異議申立人の意見」について
申立人は、上記意見書において、新たに甲4~甲7を提出し、以下の意見1及び意見2の理由を主張する。これらの理由は、訂正の請求の内容に付随して生じる理由ではないと解されるが、念のため、検討する。
ア 意見1について
(ア)意見1(甲1、4、5に基づく進歩性について)の主張
申立人は、セルロース繊維を配合しない元のポリアミド樹脂(ナイロン6)の線膨張係数は、本件特許の明細書に記載された比較例1の評価結果(表2参照)によれば80×10-6/℃であるから、甲1発明1(セルロース繊維を34.2%含むナイロン6/セルロース繊維混合物であって、当該混合物を押出-圧縮成形することにより得られたナイロン6/セルロース繊維複合体の引張弾性率が4.58GPaである、上記混合物)のように、セルロース繊維を30%超含むような場合は、甲4及び甲5の記載から、セルロース繊維を配合しない元のポリアミド樹脂(ナイロン6)の線膨張係数(80×10-6/℃)から半減した値である40×10-6/℃以下となる旨主張している(意見書2~4頁)。
(イ)上記主張についての検討
甲1発明1と甲4(甲5も同内容)に記載された樹脂組成物とは、セルロース繊維の形状も含有量も異なるもの同士であるから、甲1に記載された発明に甲4に記載された事項を結びつける動機付けはないといえる。
したがって、甲4及び甲5の記載から、甲1発明の成形体の線膨張係数が、セルロース繊維を配合しない元のポリアミド樹脂(ナイロン6)の線膨張係数(80×10-6/℃)から半減した値である40×10-6/℃以下となることが、当業者にとって明らかであるとはいえない。
イ 意見2について
(ア)意見2(甲6、7に基づく新規性・進歩性について)の主張
申立人は、「甲第6号証(国際公開第2019/208313号)には、実施例3-45(【表17】参照)において、(F)熱可塑性樹脂としてf-1(PA、宇部興産株式会社、UBEナイロン;段落【0300】、【表6】参照)を50wt%、(A)セルロースとしてa-1(セルロースナノファイバー、平均繊維径90nm、段落【O275】、【表1】参照)を40wt%含む樹脂組成物を製造-3に記載の方法(段落【0304】参照)で得たことが記載されています(段落【0324】参照)。また、この樹脂組成物を製造-5(製造-4の誤記と考えられる)に記載の方法で成形したこと、得られた成形体を上述した評価方法(段落【0306】、【0315】参照)に準拠して評価したことが記載されています(段落【0325】参照)。表17には、実施例3-45で得られた成形体の曲げ弾性率が20000Mpa(すなわち、20GPa)であったこと、線膨張係数が7ppm/K(すなわち、7×10-6/℃)であったことが記載されています。
ここで、甲第7号証(本間精一,「プラスチック材料大全」,日刊工業新聞社,2015年12月19日発行)には、「表3.9に各種プラスチックについて引張強度と曲げ強度の比較を示す。・・・(省略)・・・一方、曲げ弾性率についてはフックの弾性限度内の微小ひずみの範囲で測定しているので、引張弾性率とほぼ同じ値になっている。」との記載(第145頁、下から第4行-第8行)、及び「表3.9の記載(第146頁)があります。そうすると、セルロース繊維を配合しない場合におけるPA6については、引張弾性率≒曲げ弾性率とみなすことは、技術常識であるといえます。
すなわち、甲第6号証には、「PA50wt%に対してセルロースナノファイバー40wt%を含有する樹脂組成物であって、前記樹脂組成物から得られる成形体の曲げ弾性率(≒引張弾性率)が20GPaであり、前記成形体の線膨張係数が7×10-6(1/℃)である樹脂組成物」の発明(以下、「甲6発明1」という。)が記載されているといえます。」と主張し、甲6の実施例4-36(【表42】参照)についても同様の主張をしている(意見書の4~8頁)。
(イ)上記主張についての検討
甲6に記載の実施例3-45、実施例4-36は、PAであるf-1とセルロースナノファイバーであるa-1とを、それぞれ50%と40%又は40%と40%(質量%)で混合した樹脂組成物であり、線膨張係数がいずれも7ppm/K(7×10-6/℃)であり、それらの曲げ弾性率は記載されているが引張弾性率は不明である。そして、甲7には、PA6の引張弾性率と曲げ弾性率は記載されているが、セルロース繊維を強化材として用いたPA6の引張弾性率は記載されていないから、甲6に記載された樹脂組成物の引張弾性率は、甲7を参酌しても不明である。また、本件明細書には、セルロース繊維を強化材として用いることにより、曲げ弾性率は向上するが、引張弾性率は向上しないという問題点が記載されており(【0004】)、セルロース繊維を強化材に用いたポリアミド樹脂組成物において、その曲げ弾性率から引張弾性率を推察することは困難であるといえる。
そうすると、申立人の意見2も採用することはできない。
第6 むすび
上記第5のとおり、本件特許の請求項2、3及び17に係る特許は、当審が通知した取消理由通知及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては取り消すことはできない。
さらに、他に本件特許の請求項2、3及び17に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件特許の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700875