特許異議申立
2023-700860
パターン形成方法
- 審判番号
- 2023-700860
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-564719
- 登録番号
- 7226336
- 請求日
- 2023年08月21日
- 審決日
- 2023年12月06日
- 公報発行日
- 2024年01月26日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】JSR株式会社
- 【権利者代理人】池田 義典
- 【権利者代理人】天野 一規
- 【異議申立人】松山 徳子
- 審判長/審判官
- 審判長 瀧内 健夫
- 審判官 棚田 一也
- 審判官 中野 浩昌
- 分類
- P1651.121-Y (H01L) / P1651.537-Y (H01L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7226336号発明「パターン形成方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7226336号の請求項1~6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7226336号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~6に係る特許についての出願は、2019年(平成31年)1月9日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2018年1月10日、アメリカ合衆国(US))を国際出願日とする出願であって、令和5年2月13日にその特許権の設定登録がされ、令和5年2月21日に特許掲載公報が発行された。
その後、請求項1~6に係る特許に対して、令和5年8月21日に特許異議申立人松山徳子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
第2 本件発明について
本件特許の請求項1~6に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明6」といい、これらを合わせて「本件発明」という。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
互いに異なる素材を含む複数種の領域を表層に有する基材を準備する工程と、
上記基材における一部の領域の表面に、この一部の領域の表層に存在する原子と結合する第1官能基を含む基を主鎖又は側鎖の末端に有する第1重合体を含有する塗膜を形成する工程と、
上記塗膜形成工程後の基材の表面に、蒸着法を用いた薄膜形成により原子層を形成する工程と
を備え、
上記第1重合体が主鎖中に、ビニル芳香族化合物、(メタ)アクリル酸、及び(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種の単量体に由来する構造単位を有するパターン形成方法。
【請求項2】
上記基材が、金属単体を含む領域と、シリコンオキサイドを含む領域とを有する請求項1に記載のパターン形成方法。
【請求項3】
上記第1重合体における第1官能基が金属原子と結合する請求項1又は請求項2に記載のパターン形成方法。
【請求項4】
上記原子層形成工程後に、
上記原子層形成工程後の基材における上記塗膜とこの塗膜の表面に形成された原子層とをエッチングにより除去する工程
をさらに備える請求項1、請求項2又は請求項3に記載のパターン形成方法。
【請求項5】
上記塗膜形成工程が、
上記基材の表面全体に、上記第1重合体及び溶媒を含有する組成物を塗工する工程と、
上記塗工工程により形成された塗工膜のうち上記一部の領域以外の領域に形成された部分をリンスにより除去する工程と
を備える請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のパターン形成方法。
【請求項6】
上記リンス除去工程前又は上記リンス除去工程後に、
上記塗工工程後の基材を加熱する工程
をさらに備える請求項5に記載のパターン形成方法。」
第3 特許異議の申立ての概要
1 特許異議の申立ての理由(以下、「申立理由」という。)の概要は、次のとおりである。
(1)申立理由1(進歩性)
本件発明1~3、5及び6は、甲第1号証に記載された発明と甲第2号証に記載された公知技術とに基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明4は、甲第1号証に記載された発明と甲第2、3号証に記載された公知技術とに基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1~6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきである。
(2)申立理由2(サポート要件)
ア 本件発明1は、「第1重合体」について、「基材における一部の領域の表層に存在する原子と結合する第1官能基を含む基を主鎖又は側鎖の末端に有する」こと、及び、「主鎖中にビニル芳香族化合物、(メタ)アクリル酸、及び(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種の単量体に由来する構造単位を有する」ことのみしか特定されていないが、原子層の形成抑制効果の程度には重合体の分子量が影響すると考えられ、また、重合体の構造単位の割合や、他の単量体の種類や割合によっては、塗膜形成に使用できない重合体となるから、本件特許の願書に添付された明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の発明の詳細な説明に開示された内容を本件特許の請求項1の範囲まで拡張ないし一般化できるとはいえない。したがって、本件特許の請求項1に係る特許、及び請求項1を引用する請求項2~6に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきである。(申立理由2-1)
イ 本件発明1は、第1重合体が基材の一部の領域以外の領域の表層に存在する原子と結合するかどうかは何も特定されていないが、高い領域選択性で原子層を形成するためには、第1重合体が基板の一部の領域のみと結合し、かつ他の領域とは結合しないことが必要であるから、本件発明1は、本件発明の課題を解決するための手段が反映されておらず、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものである。したがって、本件特許の請求項1に係る特許、及び請求項1を引用する請求項2~6に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきである。(申立理由2-2)
ウ 本件発明1のパターン形成方法は、互いに異なる素材を含む複数種の領域を表層に有する基材を準備する工程と、基材における一部の領域の表面に、この一部の領域の表層に存在する原子と結合する第1官能基を含む基を主鎖又は側鎖の末端に有する第1重合体を含有する塗膜を形成する工程とを含むものであるが、本件特許明細書の発明の詳細な説明の実施例には、銅の単一素材からなる基板とシリコンオキサイドの単一素材からなる基板上に塗布した結果が示されているのみであり、「互いに異なる素材を含む複数種の領域を表層に有する基材」を用いた例は示されていないから、本件発明1が本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されているとはいえない。したがって、本件特許の請求項1に係る特許、及び請求項1を引用する請求項2~6に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきである。(申立理由2-3)
2 申立人が提出した証拠は次のとおりである(以下、甲第1号証~甲第3号証を「甲1」~「甲3」という。)。
甲1:Cian Cummins et.al.,“Area Selective Polymer Brush Deposition”,Macromolecular Rapid Communications, 2017年, 第38号, P.1700252(1-6)
甲2:Elina Farm et.al., “Selective-Area Atomic Layer Deposition Using Poly(methyl methacrylate) Films as Mask Layers”, The Journal of Physical Chemistry C, 2008年,第112号, p.15791-15795
甲3:特開2014-5325号公報
第4 甲号証の記載、技術事項
1 甲1の記載
(1)甲1には以下の記載がある。(下線は、当審で付した。以下同じ。)
「Brushes with end terminated sites composed of amine (-NH2) or thiol (-SH) were chosen due to their affinity to attach to Cu surfaces.Patterned Cu/SiO2 stripe substrates were used as the model system in our study. Using X-ray photoelectron spectroscopy (XPS) and SEM we show that uniform films of PS-NH2 polymer brushes attach to the Cu regions selectively of patterned Cu/SiO2 wafers after 1.5 h grafting period. The process is highly reproducible. By contrast, P2VP-NH2 polymer brushes display mixed selectivity. While attachment of P2VP-NH2 to Cu is confirmed, evidence of small areas or islands of P2VP-NH2 on SiO2 is also present. We also introduce a P2VP-SH polymer brush that selectively grafts to Cu. The P2VP-SH brush was then infiltrated with a spin-coated metal nitrate ethanolic solution to fabricate a uniform cobalt oxide (Co3O4) film, as schematically shown in Scheme 1.」
(第1700252(2)頁左欄第7行~第21行、当審訳:アミン(-NH2)またはチオール(-SH)で構成される末端部位を有するブラシは、Cu表面に付着する親和性があることから選択された。本研究では、モデルシステムとして、パターン化されたCu/SiO2ストライプ基板を用いた。X線光電子分光法(XPS)とSEMを用いて、PS-NH2ポリマーブラシの均ーな膜が、1.5時間グラフトを行った後、パターン化されたCu/SiO2ウェーハのCu領域に選択的に付着することを示す。このプロセスは再現性が高い。対照的に、P2VP-NH2ポリマーブラシは複合的な選択性を示す。CuへのP2VP-NH2の付着が確認される一方で、SiO2上のP2VP-NH2の小さな領域または島も確認されている。また、Cuに選択的にグラフトするP2VP-SHポリマーブラシも使用する。次に、スキーム1に概略的に示すように、P2VP-SHブラシに、スピンコートされた金属硝酸塩のエタノール溶液を浸透させ、均ーな酸化コバルト(Co3O4)膜を作製した。)
「
[図:0001405840000001.jpg]
Scheme 1. Schematic representation of area selective polymer brush deposition.」
(当審訳:スキーム1.領域選択的ポリマーブラシ堆積の概略図。)」
(2)上記(1)によれば、甲1には、以下の技術事項が記載されている。
ア 甲1には、「アミン(-NH2)またはチオール(-SH)で構成される末端部位を有するブラシは、Cu表面に付着する親和性があることから選択された。」、「PS-NH2ポリマーブラシの均ーな膜が、1.5時間グラフトを行った後、パターン化されたCu/SiO2ウェーハのCu領域に選択的に付着する」及び「Cuに選択的にグラフトするP2VP-SHポリマーブラシも使用する。」と記載されている。
よって、Cu表面に付着する親和性がある、チオール(-SH)で構成される末端部位を有するブラシであり、Cuに選択的にグラフトするP2VP-SHポリマーブラシの均一な膜を、グラフトを行い、パターン化されたCu/SiO2ウェーハのCu領域に選択的に付着させることが記載されている。
イ 甲1には、「スキーム1に概略的に示すように、P2VP-SHブラシに、スピンコートされた金属硝酸塩のエタノール溶液を浸透させ、均ーな酸化コバルト(Co3O4)膜を作製した。」と記載され、「スキーム1」として示された図より、パターン化されたCu/SiO2ウェーハのCu領域に選択的に付着されたP2VP-SHポリマーブラシが酸化コバルト(Co3O4)膜に置き換えられていることが見て取れる。
よって、パターン化されたCu/SiO2ウェーハのCu領域に選択的に付着されたP2VP-SHポリマーブラシに、スピンコートされた金属硝酸塩のエタノール溶液を浸透させ、P2VP-SHポリマーブラシが形成されていた領域に酸化コバルト(Co3O4)膜を作製しているといえる。
ウ 上記ア及びイより、甲1には以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲1発明>
「Cu表面に付着する親和性があるチオール(-SH)で構成される末端部位を有するブラシであり、Cuに選択的にグラフトするP2VP-SHポリマーブラシの均一な膜を、グラフトを行い、パターン化されたCu/SiO2ウェーハのCu領域に選択的に付着させ、
パターン化されたCu/SiO2ウェーハのCu領域に選択的に付着されたP2VP-SHポリマーブラシに、スピンコートされた金属硝酸塩のエタノール溶液を浸透させ、P2VP-SHポリマーブラシが形成されていた領域に酸化コバルト(Co3O4)膜を作製する方法。」
2 甲2の記載
(1)甲2には以下の記載がある。
「2. Experimental Methods
PMMA films were prepared on silicon (100) surfaces by spincoating from 2% PMMA (Alfa Aesar, average Mw 350 000) in toluene solution. After preparation, the samples were baked at first on a hot plate at 100 ℃ for 5 min and then in an oven at 100 ℃ for 60 min to ensure removal of the solvent. The PMMA film thicknesses were 70-100 nm as measured by a Hitachi U-2000 spectrophotometer.
PMMA films were patterned by UV lithography through a mechanical mask. The mask has three sizes of holes, the diameters of which are 500, 250, and 50 μm. Patterning was done by a UV lamp that produced UV light at wavelengths 254 and 190 nm. Patterning time was typically 60 min. The exposed areas were developed in 1:1 isopropyl alcohol/methyl isopropyl ketone solution for 5 s. Samples were rinsed with isopropyl alcohol and water and predried with nitrogen stream. Samples were dried in an oven at 100 ℃ for 60 min. After the ALD processes, the PMMA film was removed typically by ultrasonicating in warm acetone for 60 min.
The patterned PMMA samples were tested in several ALD processes. Iridium18was deposited from Ir(acac)3 (acac ) 2,4-pentanedione) and O2 at 250 ℃ for 1000 cycles and at 300 ℃ for 500 cycles, platinum19from MeCpPtMe3 (Cp = cyclopentadienyl) and O2 at 300 ℃ for 2700 cycles, and ruthenium20 from RuCp2 (Cp = cyclopentadienyl) and air at 300 ℃ for 1000 cycles and at 350 ℃ for 500 cycles. Al2O3 was deposited by two processes: from AlCl3 and H2O at 250 and 300 ℃ for 500 cycles, and from trimethylaluminum (TMA) and H2O at 250 ℃ for 500 cycles. TiO2 was deposited from Ti(OMe)4 and H2O21 at 250 and 275 ℃ for 500 cycles. The films were grown in an F120 reactor (ASM Microchemistry, Ltd., Finland) and a SUNALE reactor (Picosun Oy, Finland). Nitrogen was used as a carrier and purging gas. The reactors were operated at pressures of about 10 mbar.
The patterned films were studied with a Hitachi S-4800 field emission scanning electron microscope and INCA 350 EDX spectrometer. The film thicknesses were calculated from the EDX results using GMR electron-probe thin film microanalysis program22 using bulk densities for Ir, Pt, Ru, and anatase TiO2. The thicknesses of the Al2O3 films were calculated using a density of 2.8 g/cm3. Film thicknesses were measured from the dots which had a diameter of 500 μm.」
(第15792頁左欄第8行~右欄第20行、当審訳:「2%PMMA(A1fa Aesar、平均Mw:350000)のトルエン溶液をスピンコーティングすることによって、PMMAフィルムをシリコン(100)表面上に作製した。作製後、サンプルをまずホットプレート上で100℃で5分間焼成し、次にオーブンで100℃で60分間焼成し、溶媒を確実に除去した。PMMA膜の厚さをHitachi U-2000分光光度計で測定したところ、70~100nmであった。
UVリソグラフィーによって、メカニカルマスクを介して、PMMAフィルムにパターンを形成した。上記マスクは、直径が500μm、250μm、50μmの3つのサイズの穴を有する。パターニングは、254nmおよび190nmの波長のUV光を生成するUVランプを用いて行った。パターニング時間は通常60分であった。露光領域をイソプロピルアルコール/メチルイソプロビルケトン(1:1)溶液中で5秒間現像した。サンプルをイソプロピルアルコールおよび水で洗浄し、窒素流で予備乾燥した。サンプルをオーブンで100℃で60分間乾燥させた。ALDプロセス後、通常、温アセトン中で60分間超音波処理することによってPMMAフィルムを除去した。
パターンが形成されたPMMAサンプルについて、いくつかのALDプロセスで試験を行った。イリジウム18は、Ir(acac)3(acac=2,4-ペンタンジオン)とO2を用いて、250℃、1000サイクルおよび300℃、500サイクルで蒸着させ、プラチナ19は、MeCpPtMe3(Cp=シクロペンタジエニル)とO2とを用いて、300℃、2700サイクルで蒸着させ、ルテニウム20は、RuCp2(Cp=シクロペンタジエニル)と空気とを用いて、300℃、1000サイクルおよび350℃、500サイクルで蒸着させた。A12O3は、AlC13とH2Oとを用いて250℃および300℃で500サイクル、トリメチルアルミニウム(TMA)とH2Oとを用いて250℃で500サイクルの二工程で蒸着させた。TiO2は、Ti(OMe)4とH2O21とを用いて250℃および275℃で500サイクルで蒸着させた。これらの膜を、F120反応器(ASM Microchemistry, Ltd.、フィンランド)およびSUNALE反応器(Picosun Oy、フィンランド)内で成長させた。キャリアおよび置換ガスとして窒素を用いた。反応器は約10ミリバールの圧力で操作した。上記パターンが形成された膜を、Hitachi S-4800電界放出走査型電子顕微鏡とINCA 350 EDX分光計を用いて分析した。膜厚を、Ir、Pt、Ru、およびアナターゼTiO2のかさ密度を用いたGMR電子プロープ薄膜微細分析プログラム22 を用いて、EDX結果から算出した。A12O3フィルムの厚さを、2.8g/cm3の密度を用いて算出した。膜厚は直径500μmのドットから測定した。)
「Platinum film was grown at the temperature of 300 ℃ (Figure 2a). EDX measurement in Figure 2b shows that the PMMA film prevented the growth on top of the PMMA film and below it. PMMA film might have, however, affected the growth process of platinum. The thickness of platinum on the patterned areas was 71 nm, while it was expected to be 100 nm. The thickness might be smaller because patterned areas may have traces of polymer after the patterning process, which slows down the start of the growth process.」
(第15793頁左欄第25行~右欄第5行、当審訳:プラチナ膜を300℃の温度で成長させた(図2a)。図2bのEDX測定は、PMMA膜がPMMA膜の上部およびその下のプラチナ膜の成長を防止したことを示す。しかし、PMMA膜はプラチナ膜の成長プロセスに影響を及ぼした可能性がある。パターン化領域上のプラチナ膜の厚さは71nmであったが、100nmであると予想された。パターニングされた領域は、パターニングプロセス後にポリマーの痕跡を有することがあり、これにより成長プロセスの開始が遅くなるため、厚さはより小さくなり得る。)
「
[図:0001405840000002.jpg]
Figure 2. (a) SEM micrograph of a patterned platinum film. Lighter areas are platinum and darker silicon. (b) EDX measured on a Pt dot, on the PMMA film after the Pt process, and on the Si surface after PMMA removal. 」
(当審訳:図2.(a)パターンが形成されたプラチナ膜のSEM顕微鏡写真。薄い部分はプラチナ、濃い部分はシリコンである。(b)Ptプロセス後のPMMA膜の上側のPtドット、およびPMMA除去後のSi表面のEDX測定。)
(2)上記(1)より、甲2には以下の技術事項が記載されている。
「PMMAフィルムをシリコン(100)表面上に作製した後、焼成して溶媒を確実に除去し、UVリソグラフィーによって、PMMAフィルムにパターンを形成し、露光領域を現像し、PMMAフィルムを除去してパターンが形成されたPMMAサンプルについて、ALDプロセスでプラチナを蒸着させ、プラチナ膜を300℃の温度で成長させた場合、PMMA膜がPMMA膜の上部およびその下のプラチナ膜の成長を防止すること。」
3 甲3の記載
(1)甲3には以下の記載がある。
「【請求項1】
主鎖にケイ素原子を含まない2種以上の重合体を含有し、
上記2種以上の重合体のうちの少なくとも1種が、上記主鎖の末端に結合しかつヘテロ原子を含む基を有するパターン形成用自己組織化組成物。」
「【請求項7】
(1)請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のパターン形成用自己組織化組成物を用い、相分離構造を有する自己組織化膜を形成する工程、及び
(2)上記自己組織化膜の一部の相を除去する工程
を有するパターン形成方法。」
「【0105】
[(2)工程]
本工程は、上記自己組織化膜105の一部の相を除去する工程である。この除去は、自己組織化により相分離した各相105a、105bのエッチングレートの差を利用することで、エッチング処理により行われる。図5は、相分離構造のうちの相105a及びプレパターン103を除去した後の状態を示している。」
(2)上記(1)より、甲3には以下の技術事項が記載されている。
「主鎖にケイ素原子を含まない2種以上の重合体を含有し、2種以上の重合体のうちの少なくとも1種が、主鎖の末端に結合しかつヘテロ原子を含む基を有するパターン形成用自己組織化組成物を用い、相分離構造を有する自己組織化膜を形成する工程、及び自己組織化膜の一部の相を除去する工程を有するパターン形成方法。」
第5 当審の判断
1 申立理由1(進歩性)について
(1) 本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
a 甲1発明の「パターン化されたCu/SiO2ウェーハ」は、パターン化されたCu領域及びSiO2領域を有するウェーハであるから、本件発明1の「互いに異なる素材を含む複数種の領域を表層に有する基材」に相当し、甲1発明の「膜を」「「パターン化されたCu/SiO2ウェーハに付着させ」ることは、「パターン化されたCu/SiO2ウェーハ」を準備することを含むといえるから、本件発明1の「互いに異なる素材を含む複数種の領域を表層に有する基材を準備する工程」に相当する。
b 甲1発明の「Cu表面に付着する親和性があるチオール(-SH)で構成される末端部位を有する」ことは、パターン化されたCu/SiO2ウェーハのCu領域に存在するCu原子に付着する親和性があるチオール(-SH)で構成される末端部位を有することであるから、本件発明1の「上記基材における一部の領域」「の表層に存在する原子と結合する第1官能基を含む基を主鎖又は側鎖の末端に有する」ことに相当する。そして、甲1発明の「P2VP-SHポリマー」は重合体であるといえるから、甲1発明の「Cu表面に付着する親和性があるチオール(-SH)で構成される末端部位を有するブラシであり、Cuに選択的にグラフトするP2VP-SHポリマーブラシの均一な膜を、グラフトを行い、パターン化されたCu/SiO2ウェーハのCu領域に選択的に付着させ」ることは、本件発明1の「上記基材における一部の領域の表面に、この一部の領域の表層に存在する原子と結合する第1官能基を含む基を主鎖又は側鎖の末端に有する第1重合体を含有する」「膜を形成する工程」に相当する。
しかし、本件発明1が「塗膜を形成する工程」を備えるのに対し、甲1発明は「膜を」「付着させ」る方法が塗布であることが特定されていない点で、相違する。
c 本件発明1は「上記塗膜形成工程後の基材の表面に、蒸着法を用いた薄膜形成により原子層を形成する工程」を備えるのに対し、甲1発明は、「パターン化されたCu/SiO2ウェーハのCu領域に選択的に付着されたP2VP-SHポリマーブラシに、スピンコートされた金属硝酸塩のエタノール溶液を浸透させ、P2VP-SHポリマーブラシが形成されていた領域に酸化コバルト(Co3O4)膜を作製する」ものであり、「P2VP-SHポリマーブラシの均一な膜」が形成された「パターン化されたCu/SiO2ウェーハ」の領域のうち、「P2VP-SHポリマーブラシが形成されていた領域」に、スピンコートにより、原子層であることが特定されない酸化コバルト(Co3O4)膜を作製するものである点で、相違する。
d 甲1発明の「P2VP」は、ポリ-2-ビニルピリジンポリマーであり、ビニル芳香族化合物である。よって、甲1発明の「P2VP-SHポリマー」は、本件発明1の「上記第1重合体が主鎖中に、ビニル芳香族化合物、(メタ)アクリル酸、及び(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種の単量体に由来する構造単位を有する」ことに相当する。
e 甲1発明の「方法」は、「パターン化されたCu/SiO2ウェーハのCu領域に選択的に付着されたP2VP-SHポリマーブラシ」「が形成されていた領域に酸化コバルト(Co3O4)膜を作製する」ものであり、パターン化された酸化コバルト(Co3O4)膜を形成するものであるといえるから、本件発明1の「パターン形成方法」に相当する。
f 上記a~eより、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で一致し、相違する。
<一致点>
「互いに異なる素材を含む複数種の領域を表層に有する基材を準備する工程と、
上記基材における一部の領域の表面に、この一部の領域の表層に存在する原子と結合する第1官能基を含む基を主鎖又は側鎖の末端に有する第1重合体を含有する膜を形成する工程と、
を備え、
上記第1重合体が主鎖中に、ビニル芳香族化合物、(メタ)アクリル酸、及び(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種の単量体に由来する構造単位を有する、
パターン形成方法。」
<相違点1>
本件発明1が「塗膜を形成する工程」を備えるのに対し、甲1発明は「膜を」「付着させ」る方法が塗布であることが特定されていない点。
<相違点2>
本件発明1は「上記塗膜形成工程後の基材の表面に、蒸着法を用いた薄膜形成により原子層を形成する工程」を備えるのに対し、甲1発明は、「パターン化されたCu/SiO2ウェーハのCu領域に選択的に付着されたP2VP-SHポリマーブラシに、スピンコートされた金属硝酸塩のエタノール溶液を浸透させ、P2VP-SHポリマーブラシが形成されていた領域に酸化コバルト(Co3O4)膜を作製する」ものであり、「P2VP-SHポリマーブラシの均一な膜」が形成された「パターン化されたCu/SiO2ウェーハ」の領域のうち、「P2VP-SHポリマーブラシが形成されていた領域」に、スピンコートにより、原子層であることが特定されない酸化コバルト(Co3O4)膜を作製するものである点。
イ 相違点についての判断
事案に鑑み、相違点2から検討する。
甲2には、「パターンが形成されたPMMAサンプルについて、ALDプロセスでプラチナを蒸着させ、プラチナ膜を300℃の温度で成長させた場合、PMMA膜がPMMA膜の上部およびその下のプラチナ膜の成長を防止すること」、すなわち、蒸着法の一種であるALDプロセスでプラチナを蒸着した場合、パターン化されたPMMA膜の下にはプラチナ膜が成長しないことが記載されている。
ここで、甲1発明は、「P2VP-SHポリマーブラシの均一な膜」が形成された「パターン化されたCu/SiO2ウェーハ」の領域のうち、「P2VP-SHポリマーブラシが形成されていた領域」に、スピンコートにより、酸化コバルト膜を作製するものであるところ、甲1発明のスピンコートを、甲2に記載のALDプロセスに変えた場合、「P2VP-SHポリマーブラシ」の下、すなわち、「P2VP-SHポリマーブラシが形成されていた領域」には、酸化コバルト膜が作製されないことになるから、そのようにする動機付けはなく、むしろ阻害要因があるといえる。
なお、甲3の記載事項は、上記の判断を左右するものではない。
よって、甲1発明に甲2及び3に記載された技術事項を適用して相違点2に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たものとはいえない。
ウ 小括
以上のとおり、甲2及び3に記載された技術事項を参照しても、甲1発明を、相違点2に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。よって、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲2及び3に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件発明2~6について
本件特許の請求項2~6は、いずれも直接的又は間接的に請求項1を引用するものであり、本件発明2~6は本件発明1の構成を有するものであるから、本件発明2~6は、少なくとも相違点2の点で甲1発明と相違する。そして、相違点2については、上記(1)イにおいて検討したとおりであるから、本件発明2~6は、甲1発明と、甲2及び3に記載された技術事項とに基づき当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)申立理由1についてのまとめ
上記(1)及び(2)のとおり、本件発明1~6は、甲1発明と、甲2及び3に記載された技術事項とに基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。
2 申立理由2(サポート要件)について
(1)本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載
ア 本件特許明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。(下線は、当審で付した。)
「【発明が解決しようとする課題】
・・・(中略)・・・
【0007】
本発明は、上述のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、基材表面に簡便にかつ高い領域選択性で原子層を形成することができるパターン形成方法を提供することにある。」
「【0012】
<パターン形成方法>
当該パターン形成方法は、基材準備工程と、塗膜形成工程と、原子層形成工程とを備える。
【0013】
当該パターン形成方法は、上記各工程を備えることで、基材表面に簡便にかつ高い領域選択性で原子層を形成することができる。当該パターン形成方法が上記構成を備えることで上記効果を奏する理由については必ずしも明確ではないが、例えば以下のように推察することができる。すなわち、当該パターン形成方法によれば、基材における一部の領域(I)の表層に存在する原子(I)と結合する官能基(A)を含む基(I)を主鎖又は側鎖の末端に有する[A]重合体を用いることによって、図1に示すように、塗膜形成工程によって、オクタデシルホスホン酸等の低分子を用いた自己組織化単分子膜(Self-Assembled Monolayer(SAM))によるLangmuir-Blodgett法を用いる場合と比較して、上記領域(I)の表面に、より短時間でより選択的に、蒸着法を用いた薄膜形成を抑制するブロッキング膜を形成することができる。その結果、原子層形成工程によって、上記領域(I)以外の領域(以下、「領域(II)」ともいう)に選択的に原子層(Y)を形成することができる。このように、当該パターン形成方法によれば、基材表面に簡便にかつ高い領域選択性で原子層を形成することができる。
【0014】
また、当該パターン形成方法は、上記原子層形成工程後に、上記原子層形成工程後の基材(X)における上記塗膜(P)とこの塗膜(P)の表面に形成された原子層(Y)とをエッチングにより除去する工程(以下、「エッチング除去工程」ともいう)をさらに備えることが好ましい。
以下、各工程について説明する。
【0015】
<基材準備工程>
本工程では、基材(X)を準備する。この基材(X)は、互いに異なる素材を含む複数の領域を表層に有する。各領域が含む素材が「互いに異なる」とは、各素材が組成、性質等において互いに区別することができ、表層における元素の存在形態が異なることなどを意味する。」
「【0024】
基材(X)としては、表層に金属原子(a)が存在する領域(I)と、表層に金属原子(a)が存在せず実質的に非金属原子(b)のみからなる領域(II)とを有するものが好ましく、金属単体を含む領域(I)と、非金属酸化物を含む領域(II)とを有するものがより好ましく、銅単体を含む領域(I)と、シリコンオキサイドを含む領域(II)とを有するものがさらに好ましい。
・・・(中略)・・・
【0027】
<塗膜形成工程>
本工程では、上記基材(X)における領域(I)の表面に、[A]重合体を含有する塗膜(P)を形成する。この[A]重合体は、主鎖又は側鎖の末端に基(I)を有する。この基(I)は、領域(I)の表層に存在する原子(I)と結合する官能基(A)を含む。
【0028】
本工程により、例えば表層に金属原子(a)を含む領域(I)の表面に、金属原子(a)と結合する官能基(A)を含む基(I)を有する[A]重合体を含有する塗膜(P)が選択的に形成される。」
「【0049】
(構造単位(I))
[A1]重合体は主鎖中に通常、単量体(以下、「単量体(I)」ともいう)に由来する構造単位(以下、「構造単位(I)」ともいう)を有する。[A1]重合体は、構造単位(I)を1種又は2種以上有していてもよい。
【0050】
単量体(I)としては、例えばビニル芳香族化合物、(メタ)アクリル酸又は(メタ)アクリル酸エステル、置換又は非置換のエチレン等が挙げられる。」
「【0071】
塗膜形成工程は、具体的には、例えば上記基材(X)の表面全体に、上記[A]重合体及び溶媒(以下、「[B]溶媒」ともいう)を含有する組成物(以下、「組成物(S)」ともいう)を塗工する工程(以下、「塗工工程」ともいう)と、上記塗工工程により形成された塗工膜(以下、「塗工膜(Q)」ともいう)のうち上記領域(I)以外の領域(II)に形成された部分をリンスにより除去する工程(以下、「リンス除去工程」ともいう)とを備える。
【0072】
上記リンス除去工程前又は上記リンス除去工程後に、上記塗工工程後の基材(X)を加熱する工程(以下、「加熱工程」ともいう)を備えることが好ましい。
以下、各工程について説明する。」
「【0092】
<原子層形成工程>
本工程では、上記塗膜形成工程後の基材(X)の表面に、蒸着法を用いた薄膜形成により原子層(Y)を形成する。」
イ 本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された課題
段落0007には「本発明は、上述のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、基材表面に簡便にかつ高い領域選択性で原子層を形成することができるパターン形成方法を提供することにある。」と記載されており、本件発明が解決する課題は、基材表面に簡便にかつ高い領域選択性で原子層を形成することができるパターン形成方法を提供することであると認められる。
ウ 本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明
(ア)段落0012には、「パターン形成方法は、基材準備工程と、塗膜形成工程と、原子層形成工程とを備える。」と記載され、基材準備工程と、塗膜形成工程と、原子層形成工程とを備えパターン形成方法が記載されている。
(イ)段落0015には、「<基材準備工程>」について「本工程では、基材(X)を準備する。この基材(X)は、互いに異なる素材を含む複数の領域を表層に有する。」と記載され、互いに異なる素材を含む複数の領域を表層に有する基材(X)を準備する基材準備工程が記載されている。
(ウ)段落0027には「<塗膜形成工程>」について「本工程では、上記基材(X)における領域(I)の表面に、[A]重合体を含有する塗膜(P)を形成する。この[A]重合体は、主鎖又は側鎖の末端に基(I)を有する。この基(I)は、領域(I)の表層に存在する原子(I)と結合する官能基(A)を含む。」と記載され、基材(X)における領域(I)の表面に、領域(I)の表層に存在する原子(I)と結合する官能基(A)を含む基(I)を主鎖又は側鎖の末端に有する重合体を含有する塗膜(P)を形成する塗膜形成工程が記載されている。
(エ)段落0049には「重合体は主鎖中に通常、単量体(以下、「単量体(I)」ともいう)に由来する構造単位」「を有する。」と記載され、段落0050には「単量体(I)としては」「ビニル芳香族化合物、(メタ)アクリル酸又は(メタ)アクリル酸エステル」「が挙げられる。」と記載され、重合体は主鎖中にビニル芳香族化合物、(メタ)アクリル酸又は(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位を有することが記載されている。」
(オ)段落0092には「<原子層形成工程>」について、「本工程では、上記塗膜形成工程後の基材(X)の表面に、蒸着法を用いた薄膜形成により原子層(Y)を形成する。」と記載され、塗膜形成工程後の基材(X)の表面に、蒸着法を用いた薄膜形成により原子層(Y)を形成する原子層形成工程が記載されている。
(カ)よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、以下の発明が記載されている。
「互いに異なる素材を含む複数の領域を表層に有する基材(X)を準備する基材準備工程と、
基材(X)における領域(I)の表面に、領域(I)の表層に存在する原子(I)と結合する官能基(A)を含む基(I)を主鎖又は側鎖の末端に有する重合体を含有する塗膜(P)を形成する塗膜形成工程と、
塗膜形成工程後の基材(X)の表面に、蒸着法を用いた薄膜形成により原子層(Y)を形成する原子層形成工程と、
を備え、
重合体は主鎖中にビニル芳香族化合物、(メタ)アクリル酸又は(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位を有する、
パターン形成方法。」
(2)本件発明1について
ア 上記(1)ウ(カ)に示した発明の詳細な説明に記載された発明は、本件発明1と同じ内容であるから、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明である。
イ 本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落0013には、「当該パターン形成方法によれば、基材における一部の領域(I)の表層に存在する原子(I)と結合する官能基(A)を含む基(I)を主鎖又は側鎖の末端に有する[A]重合体を用いることによって」、「塗膜形成工程によって、」「上記領域(I)の表面に、より短時間でより選択的に、蒸着法を用いた薄膜形成を抑制するブロッキング膜を形成することができる。その結果、原子層形成工程によって、上記領域(I)以外の領域(以下、「領域(II)」ともいう)に選択的に原子層(Y)を形成することができる。」と記載されていること、及び、上記「基材における一部の領域(I)の表層に存在する原子(I)と結合する官能基(A)を含む基(I)を主鎖又は側鎖の末端に有する[A]重合体を用いる」「塗膜形成工程」は、本件発明1の「上記基材における一部の領域の表面に、この一部の領域の表層に存在する原子と結合する第1官能基を含む基を主鎖又は側鎖の末端に有する第1重合体を含有する塗膜を形成する工程」に対応することから、当業者は、本件発明1の構成により、「上記領域(I)の表面に、より短時間でより選択的に、蒸着法を用いた薄膜形成を抑制するブロッキング膜を形成することができ」、「原子層形成工程によって、上記領域(I)以外の領域(以下、「領域(II)」ともいう)に選択的に原子層(Y)を形成することができ」、上記(1)イに示した課題を解決できることを理解できる。
ウ 上記ア及びイより、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
エ 申立人の主張について
(ア)申立理由2-1について
本件発明1は、「第1重合体を含有する塗膜を形成する工程」を備える「パターン形成方法」であるから、「第1重合体」に、塗膜形成に使用できない重合体は含まれない。
また、本件発明1は「上記塗膜形成工程後の基材の表面に」「原子層を形成する工程」を備える「パターン形成方法」であり、「塗膜形成工程後の基材の表面」は、塗膜が形成された基材の表に露出する面であるから、本件発明1は、塗膜が形成された基材の表に露出する面に、原子層を形成するパターン形成方法であるといえる。そうすると、請求項1には、塗膜が形成された基材の領域に原子層は形成されないことが特定されているといえるから、請求項1に記載された「第1重合体」には、原子層の形成抑制効果がない塗膜を形成する重合体は含まれない。
そして、重合体の分子量や構造単位を必要に応じて適宜調整または変更できることは、本件特許の優先日当時における技術常識であるから、重合体を塗膜形成に使用できるものとするとともに、塗膜が形成された領域に原子層が形成されないよう、重合体の分子量や構造単位を設定することは、当業者が実施し得た範囲内のことである。
よって、申立理由2-1についての申立人の主張を採用することはできない。
(イ)申立理由2-2について
本件発明1は「この一部の領域の表層に存在する原子と結合する第1官能基を含む基を主鎖又は側鎖の末端に有する第1重合体を含有する塗膜を形成する工程」を備える「パターン形成方法」であるから、「第1官能基」は、全部の領域ではなく、「一部の領域」の表層に存在する原子と結合するものであるといえる。
よって、申立理由2-2についての主張を採用することはできない。
(ウ)申立理由2-3について
本件特許明細書の段落0013には「基材における一部の領域(I)の表層に存在する原子(I)と結合する官能基(A)を含む基(I)を主鎖又は側鎖の末端に有する[A]重合体を用いる」「塗膜形成工程によって」、「上記領域(I)の表面に、より短時間でより選択的に、蒸着法を用いた薄膜形成を抑制するブロッキング膜を形成することができる。その結果、原子層形成工程によって、上記領域(I)以外の領域(以下、「領域(II)」ともいう)に選択的に原子層(Y)を形成することができる。」と記載され、薄膜形成を抑制するブロッキング層を短時間で選択的に形成できるのは、重合体が有する基の官能基の、基材における一部の領域(I)の表層に存在する原子(I)と結合するという特性によることが開示されている。そして、上記特性に鑑みれば、当業者は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された銅の単一素材からなる基板上とシリコンオキサイドの単一素材からなる基板上とに、組成物(S-1)又は組成物(S-2)を塗布した場合と同様の結果を、「互いに異なる素材を含む複数種の領域を表層に有する基材」を用いた場合にも得られることを、理解できる。
よって、申立理由2-3についての申立人の主張を採用することはできない。
オ 本件発明1についてのまとめ
上記イ~エより、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
(3)本件発明2~6について
請求項2~6は請求項1の記載を引用するものであるところ、本件発明2については、段落0024の「基材(X)としては・・・(中略)・・・金属単体を含む領域(I)と、非金属酸化物を含む領域(II)とを有するものがより好ましく、銅単体を含む領域(I)と、シリコンオキサイドを含む領域(II)とを有するものがさらに好ましい。」との記載から、本件発明3については、段落0028の「金属原子(a)と結合する官能基(A)を含む基(I)を有する[A]重合体を含有する塗膜(P)が選択的に形成される。」との記載から、本件発明4については、段落0014の「上記原子層形成工程後に、上記原子層形成工程後の基材(X)における上記塗膜(P)とこの塗膜(P)の表面に形成された原子層(Y)とをエッチングにより除去する工程(以下、「エッチング除去工程」ともいう)をさらに備えることが好ましい。」との記載から、本件発明5については、段落0071の「塗膜形成工程は、具体的には、例えば上記基材(X)の表面全体に、上記[A]重合体及び溶媒(以下、「[B]溶媒」ともいう)を含有する組成物(以下、「組成物(S)」ともいう)を塗工する工程(以下、「塗工工程」ともいう)と、上記塗工工程により形成された塗工膜(以下、「塗工膜(Q)」ともいう)のうち上記領域(I)以外の領域(II)に形成された部分をリンスにより除去する工程(以下、「リンス除去工程」ともいう)とを備える。」との記載から、本件発明6については、段落0072の「上記リンス除去工程前又は上記リンス除去工程後に、上記塗工工程後の基材(X)を加熱する工程(以下、「加熱工程」ともいう)を備えることが好ましい。」との記載から、それぞれ発明の詳細な説明に記載されているといえる。
また、上記(2)イにおける本件発明1についての検討と同様に、当業者は、本件発明2~6が、上記(1)イに示した課題を解決することを理解するといえる。
(4)申立理由2についてのまとめ
上記(2)及び(3)のとおり、本件発明1~6は、発明の詳細な説明に記載した発明であり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、申立理由2によっては取り消すことはできない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、本件の特許異議申立書に記載した特許異議申立理由及び証拠によっては、本件請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700860