特許異議申立
2023-700854
希土類焼結磁石
- 審判番号
- 2023-700854
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-218668
- 登録番号
- 7226281
- 請求日
- 2023年08月18日
- 審決日
- 2024年06月26日
- 公報発行日
- 2024年09月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】信越化学工業株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人英明国際特許事務所
- 【異議申立人】星 正美
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 信一
- 審判官 山本 章裕
- 審判官 ▲高▼橋 徳浩
- 分類
- P1651.113-YAA(H01F) / P1651.121-YAA(H01F) / P1651.536-YAA(H01F) / P1651.537-YAA(H01F) / P1651.851-YAA(H01F) / P1651.853-YAA(H01F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第1項、特許法第120条の5第4項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7226281号発明「希土類焼結磁石」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7226281号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。
特許第7226281号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7226281号の請求項1ないし7に係る発明についての出願は、令和1年12月3日に出願され、令和5年2月13日にその特許権が設定登録され、同年2月21日に特許掲載公報が発行された。その後、本件特許異議の申立てがなされ、以後の手続の経緯は、次のとおりである。
令和5年 8月18日 :特許異議申立人 星 正美(以下、「異議申立人」という。)による請求項1ないし7に係る特許に対する特許異議の申立て
令和5年12月 6日付け:取消理由通知
令和6年 2月 5日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出。
令和6年 4月 3日 :異議申立人による意見書の提出
第2 訂正の適否
1.訂正の内容
令和6年2月5日の訂正請求の趣旨は、特許第7226281号の明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の明細書、請求項1ないし7について訂正することを求めるものであり、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示す。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1において、「該希土類焼結磁石の平均結晶粒径が4.0μm以下であり、」とあるのを、
「該希土類焼結磁石の平均結晶粒径が2.8μm以上4.0μm以下であり、」
に訂正する。請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2ないし7も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
本件明細書の段落【0015】を、以下のとおり訂正する。
「【0015】
従って、本発明は、下記の希土類焼結磁石を提供する。
〔1〕
R(Rは希土類元素から選ばれる1種以上の元素であり、Ndを必須とする。)、T(Tは鉄族元素から選ばれる1種以上の元素であり、Feを必須とする。)、X(XはB、Cから選ばれる1種又は2種の元素であり、Bを必須とする。)、M1(M1はAl、Si、Cr、Mn、Cu、Zn、Ga、Ge、Mo、Sn、W、Pb、Biから選ばれる1種以上の元素である。)を含む希土類焼結磁石であって、0.1質量%以下のO、0.05質量%以下のN、0.07質量%以下のCを含み、該希土類焼結磁石の平均結晶粒径が2.8μm以上4.0μm以下であり、かつ配向度について、配向度をOr[%]、平均結晶粒径をD[μm]とした場合に、次の関係式(1)
0.26×D+97≦Or≦0.26×D+99 ・・・(1)
を満たすことを特徴とする希土類焼結磁石。
〔2〕
上記Rの一部として、焼結後の磁石に粒界拡散により導入されたR元素を含む〔1〕の希土類焼結磁石。
〔3〕
上記粒界拡散により導入されたR元素が、Dy、Tb及びHoから選ばれる1種以上の元素である〔2〕の希土類焼結磁石。
〔4〕
上記R、T、Xの原子百分率をそれぞれ[R]、[T]、[X]とした場合に、次の関係式(2)
[T]/14≦[X]≦[R]/2 ・・・(2)
を満たす〔1〕~〔3〕のいずれかの希土類焼結磁石。
〔5〕
M2(M2はTi、V、Zr、Nb、Hf、Taから選ばれる1種以上の元素である。)を更に含み、上記R、T、X、M2の原子百分率をそれぞれ[R]、[T]、[X]、[M2]とした場合に、次の関係式(3)
([T]/14)+([M2]×2)≦[X]≦([R]/2)+([M2]×2) ・・・(3)
を満たす〔1〕~〔3〕のいずれかの希土類焼結磁石。
〔6〕
上記M2が0.5原子%以下である〔5〕の希土類焼結磁石。
〔7〕
Rは12.5原子%~16.0原子%、M1は0.1原子%~2.0原子%である〔1〕~〔6〕のいずれかの希土類焼結磁石。」
2.訂正の適否についての判断
(1)一群の請求項について
本件訂正前の請求項1ないし7は、請求項2ないし7が、訂正の対象となる請求項1を直接又は間接的に引用しているものであるから、一群の請求項であり、これら訂正前の請求項1ないし7に対応する訂正後の請求項1ないし7も特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア.訂正事項1について
(ア)訂正の目的
訂正事項1は該希土類焼結磁石の平均結晶粒径について本件訂正前は上限が4.0μm以下と規定され下限が限定されていなかったものを2.8μm以上4.0μm以下と下限を2.8μm以上に限定する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
(イ)新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
本件訂正前の明細書の段落【0050】には【表1】に本件実施例1ないし3の結晶粒径が順に3.6、3.1、2.8μmであり、結晶粒径が2.8μm以上であることが記載されているといえる。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、新たな技術的事項を追加するものではない。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
【表1】
[図:0001414178000001.jpg]
イ.訂正事項2について
(ア)訂正の目的
訂正事項2は、上記訂正事項1に係る訂正に伴って、特許請求の範囲と明細書の発明の詳細な説明との記載の整合性を図るため、明細書の段落【0015】において「希土類焼結磁石の平均結晶粒径が2.8μm以上4.0μm以下」と訂正するものであるから、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
(イ)新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記「ア.(イ)」において検討したように、本件訂正前の明細書の段落【0050】の【表1】には、結晶粒径が2.8μm以上であることが記載されているから、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。
よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(3)独立特許要件について
訂正事項1は、上記「ア.(ア)」に示したとおり、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするところ、本件においては、訂正前の請求項1ないし7について特許異議の申立てがされているから、対応する訂正後の請求項1ないし7に係る発明について、特許法120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
(4)小括
上記のとおり、訂正事項1に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
また、訂正事項2に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
本件訂正により訂正された請求項1ないし7に係る発明(以下、請求項に付された番号と同一の番号を付し、順に「本件発明1」のようにいう。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。なお、下線は訂正された箇所を示す。
「【請求項1】
R(Rは希土類元素から選ばれる1種以上の元素であり、Ndを必須とする。)、T(Tは鉄族元素から選ばれる1種以上の元素であり、Feを必須とする。)、X(XはB、Cから選ばれる1種又は2種の元素であり、Bを必須とする。)、M1(M1はAl、Si、Cr、Mn、Cu、Zn、Ga、Ge、Mo、Sn、W、Pb、Biから選ばれる1種以上の元素である。)を含む希土類焼結磁石であって、0.1質量%以下のO、0.05質量%以下のN、0.07質量%以下のCを含み、該希土類焼結磁石の平均結晶粒径が2.8μm以上4.0μm以下であり、かつ配向度について、配向度をOr[%]、平均結晶粒径をD[μm]とした場合に、次の関係式(1)
0.26×D+97≦Or≦0.26×D+99 ・・・(1)
を満たすことを特徴とする希土類焼結磁石。
【請求項2】
上記Rの一部として、焼結後の磁石に粒界拡散により導入されたR元素を含む請求項1記載の希土類焼結磁石。
【請求項3】
上記粒界拡散により導入されたR元素が、Dy、Tb及びHoから選ばれる1種以上の元素である請求項2記載の希土類焼結磁石。
【請求項4】
上記R、T、Xの原子百分率をそれぞれ[R]、[T]、[X]とした場合に、次の関係式(2)
[T]/14≦[X]≦[R]/2 ・・・(2)
を満たす請求項1~3のいずれか1項に記載の希土類焼結磁石。
【請求項5】
M2(M2はTi、V、Zr、Nb、Hf、Taから選ばれる1種以上の元素である。)を更に含み、上記R、T、X、M2の原子百分率をそれぞれ[R]、[T]、[X]、[M2]とした場合に、次の関係式(3)
([T]/14)+([M2]×2)≦[X]≦([R]/2)+([M2]×2) ・・・(3)
を満たす請求項1~3のいずれか1項に記載の希土類焼結磁石。
【請求項6】
上記M2が0.5原子%以下である請求項5に記載の希土類焼結磁石。
【請求項7】
Rは12.5原子%~16.0原子%、M1は0.1原子%~2.0原子%である請求項1~6のいずれか1項に記載の希土類焼結磁石。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1.取消理由の概要
令和5年12月6日付けで通知した取消理由は以下のとおりである。
「(サポート要件)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
記
●理由1(サポート要件)について
本件発明は、段落【0013】に記載されているように、高いBrと高いHcjを達成することを目的としているところ、段落【0009】に記載されているように平均結晶粒径を一定以上微細化すると、不純物濃度の増大や粒界拡散法の適用が困難となることによりHcjが低下したり、あるいは、段落【0050】【0051】の表1,2に記載された実施例1ないし3をみれば、平均結晶粒径を3.6μmから2.8μmへと小さくするに従い、Brの値が14.1kGから13.8kGへと低下していることからみて、高いBrと高いHcjという本件効果を奏するためには、平均結晶粒径を一定以上にすることが必要であることは明らかである。そして、本件明細書において実施例3の2.8μmより平均結晶粒径を小さくして本件効果を奏することについては開示がない。
一方、本件請求項1には、希土類焼結磁石の平均結晶粒径に関して、「4.0μm以下」と上限が特定されているものの下限については特定がない。
そうしてみると、平均結晶粒径の下限に関して何ら特定のない本件請求項1に係る発明では、本件発明の効果を得られない発明をも含むこととなり、出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
したがって、請求項1に係る発明は発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。
請求項1を引用する請求項2ないし7についても同様である。」
2.当審の判断
本件訂正により、本件請求項1及びこれを引用する請求項2ないし7は、希土類焼結磁石の平均結晶粒径が「2.8μm以上4.0μm以下」とされ、下限についても特定された。したがって、本件発明の効果を得られない発明は含まれないこととなったといえ、上記の取消理由は解消した。
第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1.異議申立人の主張
異議申立人は特許異議申立書において、概略次のような申立の理由を主張している。
(1)理由1(サポート要件)
請求項1ないし7に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでないため、それらの特許は第36条第6項第1号の規定に違反してされたものである。(特許異議申立書8ページ下から2行ないし12ページ1行)
(2)理由2(実施可能要件)
請求項1ないし7に係る発明は、発明の詳細な説明の記載がその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないため、それらの特許は特許法第36条第4項第1号の規定に違反してされたものである。(特許異議申立書12ページ2行ないし末行)
(3)理由3(進歩性)
請求項1ないし7に係る発明は下記の甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし7係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。(特許異議申立書15ページ24行ないし20ページ15行)
(4)理由4(進歩性)
請求項1ないし7に係る発明は下記の甲第2号証及び甲第1号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし7係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。(特許異議申立書20ページ16行ないし23ページ5行)
(5)理由5(新規性)
請求項1、4ないし7に係る発明は下記の甲第3号証に記載された発明であるから、請求項1、4ないし7に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。(特許異議申立書23ページ6行ないし24ページ24行)
(6)理由6(進歩性)
請求項1ないし7に係る発明は下記の甲第3号証及び甲第1号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし7係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。(特許異議申立書24ページ25行ないし26ページ9行)
(証拠方法)
異議申立人が提出した証拠は以下のとおりである。
甲第1号証: 特開2017-147426号公報
甲第2号証: 国際公開第2013/146781号
甲第3号証: 特開2017-183318号公報
2.当審の判断
(1)理由1(サポート要件)について
ア.異議申立人は、本件発明の詳細な説明に、M1としてCu、Al、SiおよびGaを含む場合以外の場合については実施例が示されておらず、M1としてCu、Al、SiおよびGaを含む場合以外の場合についても粒界拡散後のHcjが27kOeを超えること、および、Brが13.7kGを上回ることが本件特許発明には示されていないことから、請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないと主張している。(特許異議申立書8ページ下から2行ないし9ページ21行)
しかしながら、本件発明1の効果は、段落【0016】に記載されているように「高いBrと高いHcjを両立した優れた磁気特性を得ることができる」というものであり、Hcjが27kOeを超え、Brが13.7kGを上回ることは必ずしも必要とされてはいない。そして、特許請求の範囲に特定された「M1はAl、Si、Cr、Mn、Cu、Zn、Ga、Ge、Mo、Sn、W、Pb、Biから選ばれる1種以上の元素である。」ことは、発明の詳細な説明の段落【0023】に記載されており、O、N、Cの含有量、平均結晶粒径が特許請求の範囲の請求項1で特定された範囲を満たし、かつ、配向度が関係式(1)を満たしさえすれば、M1が同じく請求項1に特定された範囲の元素において本件発明の効果を奏し得るものと認識することができる。
したがって、請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できないとはいえず、異議申立人の主張を採用することはできない。請求項1を引用する請求項2ないし7に係る発明についても同様である。
イ.異議申立人は、本件訂正前の請求項1の「該希土類焼結磁石の平均結晶粒径が4.0μm以下」との記載について、発明の詳細な説明に平均結晶粒径が2.8μmよりも小さい場合、および、3.6~4.0μmの場合については実施例が示されていないから、請求項1に係る発明の範囲まで発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないと主張している。(特許異議申立書9ページ22行ないし10ページ23行、令和6年4月3日に提出した意見書2ページ下から12行ないし3ページ15行)
しかしながら、上記「第4」で述べたように平均結晶粒径が2.8μmよりも小さい場合については、本件訂正により請求項1ないし7の範囲に含まれないものとなり、異議申立人の主張は解消された。
また、平均結晶粒径が3.6~4.0μmの場合については、発明の詳細な説明の段落【0025】に「平均結晶粒径が4μmを超える場合、高いHcjを得ることが難しく、本発明の目的を達成し得ない場合がある。」と記載され、本件発明の効果との関係において平均結晶粒径を4μm以下とすることが開示されているから、請求項1に係る発明の範囲まで発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できないとまではいえず、異議申立人の主張を採用することはできない。請求項1を引用する請求項2ないし7に係る発明についても同様である。
ウ.異議申立人は、請求項1の「配向度について、配向度をOr[%]、平均結晶粒径をD[μm]とした場合に、次の関係式(1) 0.26×D+97≦Or≦0.26×D+99 ・・・(1) を満たす」との特定に関し、実施例に含まれない範囲を含むから、請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないと主張している。(特許異議申立書10ページ24行ないし11ページ16行)
しかしながら、発明の詳細な説明の段落【0026】【0027】には、上記した請求項1の配向度についての特定事項を満たすことにより高いBrと高いHcjを得ることができることが記載されており、その理由についても記載されていることからみて、出願時の技術常識に照らし請求項1の配向度についての特定事項は発明の詳細な説明に開示された内容の範囲のものであるといえる。
したがって、実施例に含まれない範囲を含むからといって、請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することができないとはいえず、異議申立人の主張を採用することはできない。請求項1を引用する請求項2ないし7に係る発明についても同様である。
エ.異議申立人は、本件発明の詳細な説明に、M2としてZrを含む場合以外の場合については実施例がなく、M2としてZrを含む場合以外の場合についても粒界拡散後のHcjが27kOeを超えること、および、Brが13.7kGを上回ることが本件特許発明には示されていないことから、請求項5に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないと主張している。(特許異議申立書11ページ17行ないし12ページ1行)
しかしながら、上記「(1)ア.」で述べたようにHcjが27kOeを超え、Brが13.7kGを上回ることは必ずしも必要とされることではなく、発明の詳細な説明の段落【0029】には「本発明の希土類焼結磁石には、M2としてTi、V、Zr、Nb、Hf、Taから選ばれる1種以上の元素を含有させることができる。」と記載されていることを踏まえれば、請求項5に係るM2の範囲まで発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できないとはいえず、異議申立人の主張を採用することはできない。請求項5を引用する請求項6、7に係る発明についても同様である。
オ.まとめ
よって、本件請求項1ないし7に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものであるということはできない。
(2)理由2(実施可能要件)について
ア.異議申立人は、本件請求項1には「配向度について、配向度をOr[%]、平均結晶粒径をD [μm]とした場合に、次の関係式(1)0.26×D+97≦Or≦0.26×D+99 ・・・(1) を満たす」との記載があるが、実施例に示されているのは0.26×D+97.664~Or~0.26×D+97.694である場合のみであり、Or=0.26×D+99である実験例が記載されていないから、少なくともOr=0.26×D+99である場合について、その実施をすることができる程度に発明の詳細な説明が明確かつ十分に記載されていない旨の主張をしている。(特許異議申立書12ページ2行ないし14行)
しかしながら、発明の詳細な説明は当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていれば足り、実施例を用いなくても当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいて発明を実施できるように発明の詳細な説明が記載されている場合は、実施例の記載は必要ではない。
そうしてみると、本件発明の詳細な説明にはパラメータが0.26×D+97.664~Or~0.26×D+97.694である場合についての実施例については記載されており、異議申立人の主張するOr=0.26×D+99の場合についても、これと同様に実施できることは当業者にとって明らかであるから、実施可能要件に違反するということはできず、異議申立人の主張を採用することはできない。請求項1を引用する請求項2ないし7に係る発明に関連する発明の詳細な説明の記載についても同様である。
イ.また、異議申立人は、本件請求項1の「配向度について、配向度をOr[%]、平均結晶粒径をD [μm]とした場合に、次の関係式(1)0.26×D+97≦Or≦0.26×D+99 ・・・(1) を満たす」ように配向度を調整するためには、ステアリン酸の添加量以外の各種パラメータも同時に制御する必要がある。しかし、本件特許発明にはどのように各種パラメータを制御するのか、何ら記載も示唆もないから実施可能要件に違反する旨の主張をしている。(特許異議申立書12ページ15行ないし末行)
しかしながら、潤滑剤や、成形時の印加磁場等を、適宜調整することにより配向度の調整が可能であることは技術常識であり、配向度の調整に当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤、複雑高度な実験等が必要であるともいえないから、実施可能要件に違反するとはいえず、異議申立人の主張を採用することはできない。請求項1を引用する請求項2ないし7に係る発明に関連する発明の詳細な説明の記載についても同様である。
ウ.まとめ
よって、本件請求項1ないし7に係る特許は、特許法第36条第4項第1号の規定に違反してされたものであるということはできない。
(3)理由3(進歩性)について
ア.甲第1号証の記載事項、甲1発明
甲第1号証には、「R-Fe-B系焼結磁石」について以下の各記載がある。なお、下線は当審で付与した。
「【0001】
本発明は、高保磁力を有するR-Fe-B系焼結磁石及びその製造方法に関するものである。」
「【0048】
[実施例1~12、比較例1~7]
希土類金属(Nd又はジジム)、電解鉄、Co、その他メタル及び合金を使用し、所定の組成となるように秤量し、アルゴン雰囲気中、高周波誘導炉で溶解し、水冷銅ロール上で溶融合金をストリップキャストすることによって合金薄帯を製造した。得られた合金薄帯の厚さは約0.2~0.3mmであった。次に、作製した合金薄帯を常温で水素吸蔵処理を行った後、真空中600℃で加熱し、脱水素化を行って合金を粉末化した。得られた粗合金粉末に潤滑剤としてステアリン酸を0.07質量%加えて混合した。次に得られた粗粉末を窒素気流中のジェットミルで微粉砕して平均粒径3μm程度の微粉末を作製した。その後、不活性ガス雰囲気中でこれらの微粉末を成形装置の金型に充填し、15kOeの磁界中で配向させながら、磁界に対して垂直方向に加圧成形した。得られた圧粉成形体を真空中において1050~1100℃で3時間焼結し、200℃以下まで冷却した。得られた焼結体は、900℃で1時間焼結後熱処理を行い、200℃まで冷却し、引き続き2時間の時効処理を行った。表1に磁石の組成を示す(但し、酸素、窒素、炭素濃度は表2に示す)。表2に900~200℃までの冷却速度、時効処理温度及び磁気特性を示す。更に、結晶配向度、8kOeの磁場の印加時のPc=1における着磁率と焼結体の平均結晶粒径を表2に示す。また、表3にR-Fe(Co)-M1相の組成を示す。」
「【0050】
【表1】
[図:0001414178000002.jpg]
」
「【0051】
【表2】
[図:0001414178000003.jpg]
」
上記記載から特に実施例1、2、4ないし9に関連して次のことがいえる。
・段落【0001】によれば、R-Fe-B系焼結磁石が記載されている。
・【表1】によれば、実施例1、2、4ないし9は、Nd、Fe、B、Al、Si、Cu、Gaをいずれも有している。
・【表2】によれば、実施例1、2、4ないし9の酸素濃度(at%)は順に、0.75、0.62、0.79、0.75、0.66、0.54、0.75、0.60、窒素濃度(at%)は順に、0.09、0.09、0.06、0.06、0.06、0.09、0.06、0.06、炭素濃度(at%)は順に、0.06、0.06、0.06、0.06、0.06、0.06、0.06、0.06である。
・【表2】によれば、実施例1、2、4ないし9の平均結晶粒径(μm)は順に、3.8、3.8、3.6、3.6、3.6、3.8、3.8、4.0である。
・【表2】によれば、実施例1、2、4ないし9の結晶配向度(%)は順に、98.2、98.2、98.2、98.2、98.2、98.2、98.2、98.3である。
以上のことから、特に実施例1、2、4ないし9に関して、上記記載および明細書の記載を総合勘案すると、甲第1号証には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「Nd、Fe、B、Al、Si、Cu、Gaを有しているR-Fe-B系焼結磁石であって、
酸素濃度(at%)は順に、0.75、0.62、0.79、0.75、0.66、0.54、0.75、0.60、
窒素濃度(at%)は順に、0.09、0.09、0.06、0.06、0.06、0.09、0.06、0.06、
炭素濃度(at%)は順に、0.06、0.06、0.06、0.06、0.06、0.06、0.06、0.06、
平均結晶粒径(μm)は順に、3.8、3.8、3.6、3.6、3.6、3.8、3.8、4.0であり、
結晶配向度(%)は順に、98.2、98.2、98.2、98.2、98.2、98.2、98.2、98.3である、
R-Fe-B系焼結磁石。」
イ.対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
a.甲1発明はR-Fe-B系焼結磁石であり、Ndを有するから希土類磁石といえ、本件発明1の「希土類焼結磁石」に相当する。
b.甲1発明の「Nd」は、本件発明1の「R(Rは希土類元素から選ばれる1種以上の元素であり、Ndを必須とする。)」に相当する。甲1発明の「Fe」は、本件発明1の「T(Tは鉄族元素から選ばれる1種以上の元素であり、Feを必須とする。)」に相当する。甲1発明の「B」は、本件発明1の「X(XはB、Cから選ばれる1種又は2種の元素であり、Bを必須とする。)」に含まれる。また、甲1発明の「Al、Si、Cu、Ga」は、本件発明1の「M1(M1はAl、Si、Cr、Mn、Cu、Zn、Ga、Ge、Mo、Sn、W、Pb、Biから選ばれる1種以上の元素である。)」に相当する。
したがって、本件発明1と甲1発明とは「R(Rは希土類元素から選ばれる1種以上の元素であり、Ndを必須とする。)、T(Tは鉄族元素から選ばれる1種以上の元素であり、Feを必須とする。)、X(XはB、Cから選ばれる1種又は2種の元素であり、Bを必須とする。)、M1(M1はAl、Si、Cr、Mn、Cu、Zn、Ga、Ge、Mo、Sn、W、Pb、Biから選ばれる1種以上の元素である。)を含む希土類焼結磁石」である点で共通する。
c.甲1発明の酸素濃度は原子%(at%)で表示されているが、本件発明1と同様の質量%に変換すると順に以下のようになる。
0.181、0.150、0.191、0.181、0.159、0.130、0.181、0.145(質量%)
そうしてみると、本件発明1と甲1発明とは酸素を含有する点では共通するものの、本件発明1の酸素含有量は0.1質量%以下であるのに対して、甲1発明の酸素含有量は0.1質量%より大きくなっている点で相違する。
d.甲1発明の窒素濃度は原子%(at%)で表示されているが、本件発明1と同様の質量%に変換すると順に以下のようになる。
0.019、0.019、0.013、0.013、0.013、0.019、0.013、0.013(質量%)
そうしてみると、甲1発明の窒素含有量は大きくても0.019質量%であるから、本件発明1で特定する窒素含有量0.05質量%以下の範囲に含まれる。
e.甲1発明の炭素濃度は原子%(at%)で表示されているが、本件発明1と同様の質量%に変換すると順に以下のようになる。
0.011、0.011、0.011、0.011、0.011、0.011、0.011、0.011
そうしてみると、甲1発明の炭素含有量は0.011質量%であるから、本件発明1で特定する炭素含有量0.07質量%以下の範囲に含まれる。
f.甲1発明の希土類焼結磁石の平均結晶粒径(μm)は順に、3.8、3.8、3.6、3.6、3.6、3.8、3.8、4.0であり、本件発明1の「該希土類焼結磁石の平均結晶粒径が2.8μm以上4.0μm以下」に含まれる。
g.甲1発明の平均結晶粒径(μm)は順に、3.8、3.8、3.6、3.6、3.6、3.8、3.8、4.0であり、結晶配向度(%)は順に、98.2、98.2、98.2、98.2、98.2、98.2、98.2、98.3である。
そこで、本件発明1の関係式(1)「0.26×D+97≦Or≦0.26×D+99」(Or[%]は配向度、D[μm]は平均結晶粒径)を満たすか否か検討すると、関係式は順に、
0.26×3.8+97(=97.99)≦98.2≦0.26×3.8+99(=99.99)
0.26×3.8+97(=97.99)≦98.2≦0.26×3.8+99(=99.99)
0.26×3.6+97(=97.94)≦98.2≦0.26×3.6+99(=99.94)
0.26×3.6+97(=97.94)≦98.2≦0.26×3.6+99(=99.94)
0.26×3.6+97(=97.94)≦98.2≦0.26×3.6+99(=99.94)
0.26×3.8+97(=97.99)≦98.2≦0.26×3.8+99(=99.99)
0.26×3.8+97(=97.99)≦98.2≦0.26×3.8+99(=99.99)
0.26×4.0+97(=98.04)≦98.3≦0.26×4.0+99(=100.04)
となり、いずれも関係式(1)を満たしているから、本件発明1は「配向度について、配向度をOr[%]、平均結晶粒径をD[μm]とした場合に、次の関係式(1)
0.26×D+97≦Or≦0.26×D+99 ・・・(1)」を満たしており、この点で甲1発明に含まれる。
したがって、本件発明1と甲1発明とは以下の点で、一致ないし相違する。
(一致点)
「R(Rは希土類元素から選ばれる1種以上の元素であり、Ndを必須とする。)、T(Tは鉄族元素から選ばれる1種以上の元素であり、Feを必須とする。)、X(XはB、Cから選ばれる1種又は2種の元素であり、Bを必須とする。)、M1(M1はAl、Si、Cr、Mn、Cu、Zn、Ga、Ge、Mo、Sn、W、Pb、Biから選ばれる1種以上の元素である。)を含む希土類焼結磁石であって、Oを含有し、0.05質量%以下のN、0.07質量%以下のCを含み、該希土類焼結磁石の平均結晶粒径が2.8μm以上4.0μm以下であり、かつ配向度について、配向度をOr[%]、平均結晶粒径をD[μm]とした場合に、次の関係式(1)
0.26×D+97≦Or≦0.26×D+99 ・・・(1)
を満たすことを特徴とする希土類焼結磁石。」
(相違点1)
本件発明1の酸素含有量は0.1質量%以下であるのに対して、甲1発明の酸素含有量はこれを満たしていない点。
ウ.判断
上記相違点1について検討する。
異議申立人は、特許異議申立書において以下のように主張している。
「甲第3号証の段落0038~0040には、窒素量および酸素量が大きすぎると磁気特性が低下しやすくなる旨、および、炭素量が特定の範囲内であると良好な磁気特性が得られやすくなる旨、開示されている。すなわち、甲第3号証には、良好な磁気特性を得るためには窒素量および酸素量を低減し、かつ、炭素量を特定の範囲内に制御する旨が開示されているに等しい。
第3号証の段落0075~0082、0084~0085、表1、表2には実験例6のR-T-B系焼結磁石が開示されている。
甲第3号証の段落0082には、実験例6は、段落0075~0081に開示された第1粗粉と第2粗粉を90:10で混合し、微粉砕での分級条件を変え主相結晶粒子の平均粒径が3.5μmとなるよう微粉粒径の制御を行い、成型条件、焼結条件、時効条件は実験例1~5と同じくした旨、開示されている。
甲第3号証の段落0075~0081には実験例1~5の実施方法について記載されている。甲第3号証の段落0076には、第1粗粉および第2粗粉は、得られた原料合金に水素を吸蔵させた後、Ar雰囲気で500℃、1時間の脱水素を行う水素粉砕処理を行い得られる旨、開示されている。
甲第3号証の段落0085、表2に開示された実験例6のR-T-B系焼結磁石の組成は、Nd:30.98質最%、Pr:0.04質量%、Dy:0.01質量%、Co:1.52質量%、Cu:0.20質量%、Al:0.21質量%、Ga:0.20質量%、Zr:0.40質量%、B:0.90質量%、N:0.04質量%、O:0.09質量%、C:0.07質量%、Fe:残部である。
すなわち、甲第3号証には、本件特許発明の上記要件(B)(当審注:請求項1の以下の要件、「0.1質量%以下のO、0.05質量%以下のN、0.07質量%以下のCを含み」)を満たす実験例6のR-T-B系焼結磁石が開示されている。また、甲第3号証の段落0076には、得られた原料合金に水素を吸蔵させた後、Ar雰囲気で500℃、1時間の脱水素を行う水素粉砕処理を行い得られる旨、開示されている。
甲第3号証には良好な磁気特性を得るためには窒素量および酸素量を低減し、かつ、炭素量を特定の範囲内に制御する旨が開示されているに等しいことを考慮すれば、甲第1号証の実施例1~2、4~9において、本件特許発明の上記要件(B)を満たすようにすることは甲第3号証から容易である。」(特許異議申立書17ページ22行ないし18ページ15行)
すなわち、異議申立人の主張は、甲第3号証には、良好な磁気特性を得るために窒素量および酸素量を低減し、かつ、炭素量を特定の範囲内に制御する旨が開示され、本件発明1の「0.1質量%以下のO」の要件を満たす、Oを0.09質量%含有する実験例6が記載されていることから、甲1発明の酸素の含有量を0.1質量%以下とすることは容易であるというものである。
しかしながら、甲第3号証には以下の記載がある。
「【0039】
本実施形態に係るR-T-B系焼結磁石においては、0.50質量%以下程度の酸素(O)を含んでもよい。酸素量は耐食性の観点から、0.05質量%以上が好ましく、磁気特性の観点からは0.20質量%以下であることがより好ましい。」
「【表2】
[図:0001414178000004.jpg]
」
段落【0039】によれば、R-T-B系焼結磁石において酸素含有量は磁気特性の観点からは0.20質量%以下が好ましいとされるが、耐食性の観点から0.05質量%以上が好ましく、酸素含有量は低ければ低いほど良いというものではないことが読み取れ、積極的に0.1%以下にすることが記載されているとはいえない。また【表2】によれば、酸素を0.09質量%含有する実験例6は比較例であって甲第3号証に係る発明の実施例ではなく、さらに、他の実施例についてみると、全ての実施例で酸素の組成は0.1質量%を越えており、0.1質量%以下の実施例は存在しないから、甲第3号証にR-T-B系焼結磁石において酸素の含有量を0.1質量%以下とする技術が記載されているということはできない。
また、甲第1号証においても段落【0026】に「酸素含有量が1.5原子%以下、特に1.2原子%以下、とりわけ1.0原子%以下、最も好ましくは0.8原子%以下、・・・まで許容し得る。」と記載されており、これに対して甲1発明の酸素含有量は0.54~0.7原子%であるから、甲1発明の酸素含有量は甲第1号証においてすでに十分に許容し得る程度に小さくされているから、さらに酸素含有量を少なくして本件発明1のように0.1質量%以下にしようとする積極的な動機は甲第1号証にはないというべきである。
そうしてみると、異議申立人の上記主張は採用できず、相違点1に係る構成は、甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易になし得たものとはいえない。
エ.本件発明2ないし7について
本件発明2ないし7は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加えたものであるから、本件発明2ないし7と甲1発明とを対比すると、両者は少なくとも上記相違点1を有する。
そして、上記「ウ.」で検討したとおり、相違点1に係る構成は、甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたものではない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2ないし7は、甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
オ.まとめ
よって、本件請求項1ないし7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということはできない。
(4)理由4(進歩性)について
ア.甲第2号証の記載事項、甲2発明
甲第2号証には、特に試料T1のNdFeB系焼結磁石について、以下の各記載がある。なお、下線は当審で付与した。
「[0032]以下、本実施例のNdFeB系焼結磁石の製造方法について、図1(a)を参照しつつ、具体例を挙げて説明する。
本実施例では、平均ラメラ間隔が3.7μmのNdFeB系合金(以下、「3μmラメラ合金」と呼ぶ)を用い、水素吸蔵工程(ステップA1)と微粉砕工程(ステップA3)により、レーザ回折法で測定した粒度分布の中央値D50が3μmとなるNdFeB系合金粉末を作製した。また、ラメラ間隔が4.5μmのNdFeB系合金(以下、「4μmラメラ合金」と呼ぶ)に対し、レーザ回折法で測定した粒度分布の中央値D50が3μmとなるNdFeB系合金粉末を作製した。なお、平均ラメラ間隔の評価は特許第2665590号公報に記載の方法で行った。また、3μmラメラ合金と4μmラメラ合金の合金組成は、それぞれ以下の表1の通りである。
[表1]
[図:0001414178000005.jpg]
・・・略・・・
[0035]以上の工程により、磁極面が7mm角、厚みが3mmの基材を、3μmラメラ合金と4μmラメラ合金に対してそれぞれ8個ずつ作製し、それらの磁気特性を調べた。その結果を以下の表2及び表3に示す。
[表2]
[図:0001414178000006.jpg]
([表3]は略)
なお、表中の基材S1~S8は、3μmラメラ合金から作製した基材であり、基材C1~C8は、4μmラメラ合金から作製した基材である。・・・
・・・略・・・
[0039]以上の基材S1~S8及びC1~C8に対し、それぞれ粒界拡散処理を行う(ステップA7)。粒界拡散処理の具体的な条件は、以下の通りである。
まず、Tb(RH):92wt%、Ni:4.3wt%、Al:3.7wt%のTbNiAl合金粉末とシリコーングリースを重量比で80:20の割合で混合した混合物10gにシリコーンオイルを0.07g添加したペーストを基材の両磁極面(7mm角の面)にそれぞれ10mgずつ塗布する。
次に、上記ペーストを塗布した直方体基材を、複数の尖形状の支持部が設けられたモリブデン製のトレイに載せ、直方体基材を該支持部によって支持しつつ、10-4Paの真空中で加熱する。加熱温度は800-950℃、加熱温度は4時間である。その後室温付近まで急冷して、次に480-560℃で1.5時間加熱して、再度室温まで急冷する。
[0040]以上の粒界拡散処理により、T1~T8とD1~D8の計16種類の試料を作製した。T1~T8は、基材S1~S8にそれぞれ対応する試料であり、D1~D8は、基材C1~C8にそれぞれ対応する試料である。これらの試料についてパルス磁化測定装置により測定した結果を以下の表4及び表5に示す。
[表4]
[図:0001414178000007.jpg]
([表5]は略)
・・・略・・・
[0046]なお、試料T1のNdFeB系焼結磁石について、炭素と酸素と窒素の含有量をそれぞれ測定したところ、炭素含有量は950ppm、酸素含有量は820ppm、窒素含有量は170ppmであった。また、この試料の光学顕微鏡写真を撮ったところ、粗大粒は発生していなかった(図6)。また、この試料の主相粒子の平均粒径を算出したところ、2.8μmであった。」
上記記載から試料T1に関連して次のことがいえる。
・段落[0046]によると、試料T1はNdFeB系焼結磁石である。
・段落[0040]によると試料T1は基材S1に対応して作製された試料であり、段落[0035]によれば、基材S1は3μmラメラ合金から作製されたものである。そして、3μmラメラ合金の組成は[表1]のとおりであるから、試料T1は、Nd、Pr、Dy、Co、Cu、Al、B、Feを含有しているといえる。
・段落[0046]によると、試料T1において、炭素含有量は950ppm、酸素含有量は820ppm、窒素含有量は170ppm、平均粒径は2.8μmである。
・[表4]によると、試料T1の配向度(Br/Js)は95.7%である。
以上のことから、特に試料T1に関連して、上記記載および明細書の記載を総合勘案すると、甲第2号証には次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「Nd、Pr、Dy、Co、Cu、Al、B、Feを含み、
炭素含有量は950ppm、酸素含有量は820ppm、窒素含有量は170ppm、平均粒径は2.8μmであり、
配向度(Br/Js)は95.7%である、
NdFeB系焼結磁石。」
イ.対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
・甲2発明のNdFeB系焼結磁石はNdを有するから希土類磁石といえ、本件発明1の「希土類焼結磁石」に相当する。
・甲2発明の「Nd」「Pr」「Dy」は希土類元素であり、本件発明1の「R(Rは希土類元素から選ばれる1種以上の元素であり、Ndを必須とする。)」に相当する。甲2発明の「Co」「Fe」は鉄族元素であり、本件発明1の「T(Tは鉄族元素から選ばれる1種以上の元素であり、Feを必須とする。)」に相当する。甲2発明の「B」は、本件発明1の「X(XはB、Cから選ばれる1種又は2種の元素であり、Bを必須とする。)」に相当する。また、甲2発明の「Al、Cu」は、本件発明1の「M1(M1はAl、Si、Cr、Mn、Cu、Zn、Ga、Ge、Mo、Sn、W、Pb、Biから選ばれる1種以上の元素である。)」に相当する。
したがって、本件発明1と甲2発明の焼結磁石とは「R(Rは希土類元素から選ばれる1種以上の元素であり、Ndを必須とする。)、T(Tは鉄族元素から選ばれる1種以上の元素であり、Feを必須とする。)、X(XはB、Cから選ばれる1種又は2種の元素であり、Bを必須とする。)、M1(M1はAl、Si、Cr、Mn、Cu、Zn、Ga、Ge、Mo、Sn、W、Pb、Biから選ばれる1種以上の元素である。)を含む希土類焼結磁石」である点で共通する。
・甲2発明の酸素含有量は820ppm(=0.082%)であり、0.1質量%以下であるから、本件発明1で特定する酸素の含有量0.1質量%以下の範囲に含まれる。
・甲2発明の炭素含有量は950ppm(=0.095%)であり、0.07質量%以下にはならないから、本件発明1と甲2発明とは炭素を含有する点では共通するものの、本件発明1の炭素の含有量は0.07質量%以下であるのに対して、甲2発明の炭素含有量は0.07質量%より大きな0.095%である点で相違する。
・甲2発明の窒素含有量は170ppm(=0.017%)であり、0.05質量%以下であるから、本件発明1で特定する窒素の含有量0.05質量%以下の範囲に含まれる。
・甲2発明の平均粒径は2.8μmであり、本件発明1で特定する希土類焼結磁石の平均結晶粒径の「2.8μm以上4.0μm以下」の範囲に含まれる。
・甲2発明が、本件発明1の関係式(1)「0.26×D+97≦Or≦0.26×D+99」(Or[%]は配向度、D[μm]は平均結晶粒径)を満たすか否か検討すると、甲2発明の平均粒径は2.8μm、配向度は95.7%であるから、関係式は、
0.26×2.8+97(=97.728)≧95.7≦0.26×2.8+99(=99.728)
となり、関係式(1)を満たしていない。
したがって、本件発明1と甲2発明とは以下の点で、一致ないし相違する。
(一致点)
「R(Rは希土類元素から選ばれる1種以上の元素であり、Ndを必須とする。)、T(Tは鉄族元素から選ばれる1種以上の元素であり、Feを必須とする。)、X(XはB、Cから選ばれる1種又は2種の元素であり、Bを必須とする。)、M1(M1はAl、Si、Cr、Mn、Cu、Zn、Ga、Ge、Mo、Sn、W、Pb、Biから選ばれる1種以上の元素である。)を含む希土類焼結磁石であって、0.1質量%以下のO、0.05質量%以下のNを含み、Cを含み、該希土類焼結磁石の平均結晶粒径が2.8μm以上4.0μm以下である、
希土類焼結磁石。」
(相違点2)
本件発明1の炭素の含有量は0.07質量%以下であるのに対して、甲2発明の炭素含有量は0.07質量%より大きな0.095%である点。
(相違点3)
本件発明1の関係式(1)「0.26×D+97≦Or≦0.26×D+99」(Or[%]は配向度、D[μm]は平均結晶粒径)を甲2発明が満たさない点。
ウ.判断
事案に鑑み上記相違点3について先に検討する。
異議申立人は、特許異議申立書において以下のように主張している。
「結晶配向度を高める主な要因としては、潤滑剤の添加量と、成形時に印加する磁場と、が挙げられる。甲第2号証の段落0032~0035、表1、表2には、基材No.S1が3μmラメラ合金から作製した基材であり、3μmラメラ合金の組成がNd:2 3.9wt%、Pr:5.06wt%、Dy:2.42wt%、Co:0.01wt%、Cu:0.12wt%、Al:0.17wt%、B:0.94wt%、Fe:残部である旨、開示されている。さらに、水素吸蔵工程において3μmラメラ合金を水素吸蔵により脆化させた後、脱水素加熱を行わないまま、得られた金属片にカルボン酸アルキルを0.05wt%混合した旨、開示されている。さらに、微粉砕工程の後は、作製した合金粉末にカルボン酸アルキルを0.07wt%混合した旨、開示されている。成形時に印加する磁場は不明である。
ここで、甲第1号証の段落0035には、甲第1号証の焼結磁石の結晶配向度が98%以上である旨、開示されている。甲第1号証の段落0048には、甲第1号証の上記の実施例1、2、4~9等の各実施例において、粗合金粉末に潤滑剤としてステアリン酸を0.07質量%加えた旨、および、15kOeの磁界中で配向させながら、磁界に対して垂直方向に加圧成形した旨、開示されている。そして、上記の実施例1、2、4~9では、結晶配向度が98.2~98.3%である旨、開示されている。
以上より、甲第2号証の試料Tlに対して、炭素量を低減させて磁気特性を向上させるために甲第1号証に記載された分量に潤滑剤を低減することは容易に想到できる。また、印加磁場の大きさも甲第1号証に記載の大きさとすることは容易に想到できる。そして、そのようにして得られた試料の結晶配向度は98%以上であり、かつ、甲第1号証の実施例1、2、4~9と同程度である蓋然性が高い。
したがって、甲第2号証に記載の発明において甲第1号証および周知技術を適用して本件特許発明の上記要件(B)、(D)を満たすようにすることは容易に想到できる。
以上より、本件特許発明の請求項1は甲第2号証および甲第1号証から進歩性がない。」(特許異議申立書22ページ1ないし下から12行)
しかしながら、相違点3の関係式(1)を満たすように甲2発明において結晶配向度を高めるため、潤滑剤の添加量を増加すれば潤滑剤に由来する炭素の増加によって上記相違点2を克服することがより困難となり、また、成形時に印加する磁場を増加させようとすると、磁場を発生させる磁石が大型化し、工業的な効率化を図れず、本件発明1の目的に反することとなる(本件明細書段落【0007】参照。)。
そうしてみると、甲第1号証に結晶配向度が98%以上ある焼結磁石が開示されていたとしても、甲2発明において相違点3に係る構成を容易に想到することができたものとはいえない。
したがって、異議申立人の上記主張は採用できず、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第2号証及び甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易になし得たものとはいえない。
エ.本件発明2ないし7について
本件発明2ないし7は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加えたものであるから、本件発明2ないし7と甲2発明とを対比すると、両者は少なくとも上記相違点2及び3を有する。
そして、上記「ウ.」で検討したとおり、相違点3に係る構成は、甲第2号証及び甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたものではない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2ないし7は、甲第2号証及び甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
オ.まとめ
よって、本件請求項1ないし7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということはできない。
(5)理由5(新規性)及び理由6(進歩性)について
ア.甲第3号証の記載事項、甲3発明
甲第3号証には、特に実験例6に関連して、以下の各記載がある。なお、下線は当審で付与した。
「【0075】
(実験例1~5)
まず、表1に示す組成でストリップキャスティング法(SC法)により、第1合金(a-1)と第2合金(a-2)を準備した。第1合金は主に焼結体の主相となるような組成で作製し、第2合金は主に焼結体の粒界相を形成するような組成で作製した。
【0076】
得られた原料合金に水素を吸蔵させた後、Ar雰囲気で500℃、1時間の脱水素を行う水素粉砕処理を行い第1合金から第1粗粉を、第2合金から第2粗粉を得た。その後、得られた粉砕物をAr雰囲気下で室温まで冷却した。今後の焼結までの工程はすべてO2濃度が50ppm以下の雰囲気下で粗粉、微粉及び成形体を取り扱っている。
【0077】
得られた第2粗粉の一部を分取し、N2濃度が1vol%であるAr雰囲気下で600℃、3時間の窒化処理を行い第3粗粉を得た。
【0078】
得られた第1粗粉、第2粗粉、第3粗粉と粉砕助剤であるオレイン酸アミドをナウタミキサを用いて混合した。粗粉の混合比率は表1の通りで、第1粗粉:(第2粗粉+第3粗粉)=90:10となるようにした。第2粗粉と第3粗粉比率は表1のように変えた。オレイン酸アミドは粗粉に対し0.25質量%とした。
【0079】
得られた混合粗粉に対し高圧Arを用いたジェットミルを使い微粉を得た。微粉砕での分級条件を変えることで焼結後の主相結晶粒子の平均粒径が2.8μm以下となるよう微粉粒径の制御を行った。
【0080】
得られた微粉をN2雰囲気下において、配向磁場1.5T、成形圧力150MPaの条件で磁場中成形を行い成形体を得た。
【0081】
得られた成形体を焼結した。焼結においては成形体を真空中1040℃8時間保持した後、急冷し焼結体を得た。そして、得られた焼結体を850℃1時間、及び500℃1時間の2段階で時効処理を施すことにより、実験例1~5のR-T-B系焼結磁石を得た。
【0082】
(実験例6)
上記の第1粗粉と第2粗粉を90:10で混合し微粉砕での分級条件を変え主相結晶粒子の平均粒径が3.5μmとなるよう微粉粒径の制御を行い、成型条件、焼結条件、時効条件は実験例1~5と同じくし、実験例6のR-T-B系焼結磁石を得た。」
「【0085】
【表2】
[図:0001414178000008.jpg]
」(再掲)
上記記載から実験例6に関連して次のことがいえる。
・段落【0082】によると、実験例6はR-T-B系焼結磁石である。
・段落【0085】【表2】によると、実験例6はNd、Pr、Dy、Co、Cu、Al、Ga、Zr、B、Feを含有している。また、実験例6の窒素含有量は0.04質量%、酸素含有量は0.09質量%、炭素含有量は0.07質量%である。
・段落【0082】によると、実験例6の平均粒径は3.5μmである。
以上のことから、特に実験例6に関して、上記記載および明細書の記載を総合勘案すると、甲第3号証には次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
「Nd、Pr、Dy、Co、Cu、Al、Ga、Zr、B、Feを含有するR-T-B系焼結磁石であって、
窒素含有量は0.04質量%、酸素含有量は0.09質量%、炭素含有量は0.07質量%であり、
平均粒径が3.5μmである、
R-T-B系焼結磁石。」
イ.対比
本件発明1と甲3発明とを対比する。
・甲3発明はR-T-B系焼結磁石であり、Ndを有するから希土類磁石といえ、本件発明1の「希土類焼結磁石」に相当する。
・甲3発明の「Nd」「Pr」「Dy」は希土類元素であり、本件発明1の「R(Rは希土類元素から選ばれる1種以上の元素であり、Ndを必須とする。)」に相当する。甲3発明の「Co」「Fe」は鉄族元素であり、本件発明1の「T(Tは鉄族元素から選ばれる1種以上の元素であり、Feを必須とする。)」に相当する。甲3発明の「B」は、本件発明1の「X(XはB、Cから選ばれる1種又は2種の元素であり、Bを必須とする。)」に相当する。また、甲3発明の「Cu、Al、Ga」は、本件発明1の「M1(M1はAl、Si、Cr、Mn、Cu、Zn、Ga、Ge、Mo、Sn、W、Pb、Biから選ばれる1種以上の元素である。)」に相当する。
したがって、本件発明1と甲3発明の焼結磁石とは「R(Rは希土類元素から選ばれる1種以上の元素であり、Ndを必須とする。)、T(Tは鉄族元素から選ばれる1種以上の元素であり、Feを必須とする。)、X(XはB、Cから選ばれる1種又は2種の元素であり、Bを必須とする。)、M1(M1はAl、Si、Cr、Mn、Cu、Zn、Ga、Ge、Mo、Sn、W、Pb、Biから選ばれる1種以上の元素である。)を含む希土類焼結磁石」である点で共通する。
・甲3発明の酸素含有量は0.09質量%であり、0.1質量%以下であるから、本件発明1で特定する酸素の含有量0.1質量%以下の範囲に含まれる。
・甲3発明の炭素含有量は0.07質量%であり、0.07質量%以下であるから、本件発明1で特定する炭素の含有量0.07質量%以下の範囲に含まれる。
・甲3発明の窒素含有量は0.04質量%であり、0.05質量%以下であるから、本件発明1で特定する窒素の含有量0.05質量%以下の範囲に含まれる。
・甲3発明の平均粒径は3.5μmであり、本件発明1で特定する希土類焼結磁石の平均結晶粒径の「2.8μm以上4.0μm以下」の範囲に含まれる。
・本件発明1が「配向度をOr[%]、平均結晶粒径をD[μm]とした場合に、次の関係式(1) 0.26×D+97≦Or≦0.26×D+99 ・・・(1) を満たす」のに対して、甲3発明においては当該関係式(1)を満たすか否かが明らかではない点で相違する。
したがって、本件発明1と甲3発明とは以下の点で、一致ないし相違する。
(一致点)
「R(Rは希土類元素から選ばれる1種以上の元素であり、Ndを必須とする。)、T(Tは鉄族元素から選ばれる1種以上の元素であり、Feを必須とする。)、X(XはB、Cから選ばれる1種又は2種の元素であり、Bを必須とする。)、M1(M1はAl、Si、Cr、Mn、Cu、Zn、Ga、Ge、Mo、Sn、W、Pb、Biから選ばれる1種以上の元素である。)を含む希土類焼結磁石であって、0.1質量%以下のO、0.05質量%以下のN、0.07質量%以下のCを含み、該希土類焼結磁石の平均結晶粒径が2.8μm以上4.0μm以下である、
希土類焼結磁石。」
(相違点4)
本件発明1が「配向度をOr[%]、平均結晶粒径をD[μm]とした場合に、次の関係式(1) 0.26×D+97≦Or≦0.26×D+99 ・・・(1) を満たす」のに対して、甲3発明においては当該関係式(1)を満たすか明らかではない点。
ウ.判断
(新規性について)
上記相違点4について検討する。
異議申立人は、特許異議申立書において以下のように主張している。
「結晶配向度を高める主な要因としては、潤滑剤の添加量と、成形時に印加する磁場と、が挙げられる。上記の通り、甲第3号証の実験例6では、配向磁場(成形時に印加する磁場)が1.5Tである。また、粉砕助剤(潤滑剤と実質的に同等)として、オレイン酸アミドを0.25質量%、添加している。
本件特許発明の段落0037には、潤滑剤として飽和脂肪酸もしくはそのエステルからなる潤滑剤を適宜添加することができる旨、開示されている。本件特許発明の段落0044、0050、表1には、本件特許発明の実施例ではステアリン酸を0.20wt%、添加している旨、開示されている。
ここで、本件特許発明の実施例で用いられるステアリン酸が含まれる飽和脂肪酸と、甲第3号証の実施例で用いられているオレイン酸アミドとでは、低温での流動性が同等であることが周知技術である。当該周知技術が存在することは特開2019-176012号公報の表2等において動摩擦係数μが同等であることにより裏付けられる。
さらに、結晶配向度は潤滑剤の種類にはほとんど依存しないことも周知技術である。当該周知技術が存在することは、例えば特開2004-6761号公報において、オレイン酸アミドを0.1wt%添加した実施例6と、ステアリン酸亜鉛を0.1wt%添加した実施例12とで、残留磁束密度Brが同等であることにより裏付けられる。
以上より、甲第3号証の実敷例6は結晶配向度が本件特許発明と同程度である98.4~98.6%である蓋然性が高い。甲第3号証の段落0082より、甲第3号証の実験例6では結晶粒径が3.5μmである。したがって、上記要件(D)におけるOrの数値範囲は97.91~Or~99.91である。甲第3号証の実験例6は上記要件(D)を満たす蓋然性が高い。
以上より、本件特許発明の請求項1は甲第3号証から新規性がない。」(特許異議申立書23ページ末行ないし24ページ21行)
また、異議申立人は令和6年4月3日に提出した意見書において以下のように主張している。
「一般的に、希土類焼結磁石において配向度に影響する要素には潤滑剤の種類、潤滑剤の量、成形時に印加する磁場が挙げられる。本件特許の発明の詳細な説明には、配向度の向上に関しては段落0037において『磁場中での成形において粉の配向性を上げるため、例えば、飽和脂肪酸もしくはそのエステルからなる潤滑剤を適宜添加することができる。』と記載されているのみである。
本件特許発明の段落0044、0050、表1より、本件特許発明の実施例1ではステアリン酸亜鉛を0.20wt%添加している。本件特許発明の段落0045より、本件特許発明の実施例1で成形時に印加する磁場は1.5kOeである。単位を換算すると1.5Tである。
これに対し、甲第3号証の実験例6では、粉砕助剤(潤滑剤と実質的に同等)として、オレイン酸アミドを0.25質量%添加している。また、配向磁場(成形時に印加する磁場)が1.5Tである。
ステアリン酸とオレイン酸アミドの構造式および分子量を下表1に示す。
(【表1】略)
表1より、ステアリン酸とオレイン酸アミドとを比較すると、いずれも直線状の構造を有しており、分子量も同等である。したがって、ステアリン酸とオレイン酸アミドとでは、流動性も同程度である。
以上より、本件特許発明の実施例1と甲第3号証の実験例6とでは、潤滑剤の種類、潤滑剤の量、および成形時に印加する磁場が全て同等である。したがって、本件特許発明の実施例1と甲第3号証の実験例6とでは、結晶配向度が同等である蓋然性が高い。すなわち、甲第3号証の実験例6の結晶配向度が98.6%と同等である蓋然性が高い。甲第3号証の段落0082より、甲第3号証の実験例6では結晶粒径が3.5μmである。したがって、上記要件(D)におけるOrの数値範囲は97.91≦Oe≦99.91である。甲第3号証の実験例6は上記要件(D)を満たす蓋然性が高い。
以上より、本件特許発明の請求項1は甲第3号証から新規性がない。」(意見書4ページ10行ないし5ページ7行)
異議申立人の主張は、要するに、結晶配向度を高める要因には、潤滑剤の添加量と、成形時に印加する磁場があり、甲第3号証と本件発明1とで、同じ磁場(=1.5T)を印加し、潤滑剤はステアリン酸とオレイン酸アミドとで異なるものの、ステアリン酸とオレイン酸アミドは、いずれも直線状の構造を有しており、分子量も同等であるから、流動性も同程度であり、甲第3号証の実験例6の結晶配向度が98.6%と同等であるといえるから、関係式(1)を満たす蓋然性が高いというものである。
しかしながら、潤滑剤の流動性が同程度であったとしても、添加量は本件発明実施例では0.20質量%、甲第3号証の実験例6は0.25質量%であって同量ではなく、また、結晶配向度には、磁場中成形する際の圧力などのその他の条件も影響するものと考えられるから、甲第3号証の実験例6の結晶配向度が98.6%と同等であるとまではいえず、本件発明1の関係式(1)を満たす蓋然性が高いとはいえない。
したがって、異議申立人の上記主張は採用できず、本件発明1は、甲第3号証に係る発明と同一であるということはできない。本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加えた請求項4ないし7に係る発明についても同様である。
よって、本件請求項1、4ないし7に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるということはできない。
(進歩性について)
進歩性に関して、異議申立人は令和6年4月3日に提出した意見書において以下のように主張している。
「仮に、甲第3号証の実験例6の結晶配向度が97.91%より低いとしても、97.91%以上にすることは当業者にとって容易である。
例えば、甲第1号証(特開2017-147426号公報)の段落0048には、甲第1号証の実施例1、2、4~9等の各実施例において、粗合金粉末に潤滑剤としてステアリン酸を0.07質量%加えた旨、および、15kOeの磁界中で配向させながら、磁界に対して垂直方向に加圧成形した旨、開示されている。そして、甲第1号証の実施例1、2、4~9では、結晶配向度が98.2~98.3%である旨、開示されている。そして、上記の実施例1、2、4~9は優れた磁気特性を有する。
すなわち、甲第3号証の実験例6について、優れた磁気特性を得るためにステアリン酸の添加量および/または磁界の大きさを制御して結晶配向度を98.2~98.3%に上昇させることは容易に想到できる。
以上より、本件特許発明の請求項1は甲第3号証および甲第1号証から進歩性がない。」(意見書5ページ12ないし25行)
異議申立人の主張は、仮に甲第3号証の実験例6の結晶配向度が本件発明1の関係式(1)を満たしていなくても、甲第1号証の実施例1、2、4~9等の各実施例に、潤滑剤としてステアリン酸を使い、15kOeの磁界中で配向させながら、磁界に対して垂直方向に加圧成形して、結晶配向度が98.2~98.3%とした技術について開示されているから、当該技術を採用して潤滑剤の添加量や磁界を制御して結晶配向度を98.2~98.3%に上昇させることは容易に想到できるというものである。
しかしながら、甲3発明として認定した甲第3号証の実験例6は段落【0085】【表2】から明らかなように比較例であって、そもそも甲第3号証が開示しようとしている発明の実施例ではない。したがって、当該実験例6にあえて別の技術を適用しようとする動機付けはないというべきである。仮に甲第3号証の実験例6が実施例であったとしても、結晶配向度について記載のない甲第3号証に記載の発明に対して、結晶配向度を98.2~98.3%にしようとする甲1号証に記載の技術を適用する動機もない。
したがって、異議申立人の上記主張は採用できず、本件発明1は、甲第3号証及び甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易になし得たものとはいえない。本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加えた請求項2ないし7に係る発明についても同様である。
よって、本件請求項1ないし7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということはできない。
第6 むすび
以上のとおり、本件請求項1ないし7に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由、及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2023-700854