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特許異議申立

2018-700103

電子部品及びその製造方法

審判番号
2018-700103
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2016-535982
登録番号
特許第6176405号(P6176405)
請求日
2018年02月08日
審決日
2018年11月21日
公報発行日
2019年02月22日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】株式会社村田製作所
  • 【権利者代理人】岡田 全啓
  • 【権利者代理人】扇谷 一
  • 【異議申立人】土屋 篤志
  • 【異議申立人代理人】廣田 浩一
  • 【異議申立人】山▲崎▼ 浩一郎
審判長/審判官
  • 審判長 酒井 朋広
  • 審判官 國分 直樹
  • 審判官 山澤 宏
分類
P1651.113-YAA(H01F) / P1651.121-YAA(H01F) / P1651.536-YAA(H01F) / P1651.537-YAA(H01F)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第126条第5項、特許法第126条第6項、特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第4項、特許法第113条第2号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第1項、特許法第36条、特許法第36条第6項第1号
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第6176405号発明「電子部品及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

【結 論】 特許第6176405号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕、〔3-8〕について訂正することを認める。 特許第6176405号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 特許第6176405号の請求項1ないし8に係る特許についての出願は、平成27年7月24日(優先権主張平成26年7月25日、平成27年2月6日)に特許出願され、平成29年7月21日にその特許権の設定登録がされ、同年8月9日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、平成30年2月8日に特許異議申立人土屋篤志(以下、「特許異議申立人A」という。)により特許異議の申立て(申立番号01)がされ、また、同年同月同日に特許異議申立人山▲崎▼浩一郎(以下、「特許異議申立人B」という。)により特許異議の申立て(申立番号02)がされた。そして、当審は、平成30年5月10日付けで取消理由を通知し、特許権者は、その指定期間内である同年7月13日に意見書の提出及び訂正の請求を行い、その訂正の請求に対して、特許異議申立人Bは、同年9月14日に意見書を提出した。なお、その訂正の請求に対して、特許異議申立人Aからは意見書は提出されなかった。 第2 訂正の適否についての判断 1.訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は、以下の(1)及び(2)のとおりである。 (1)請求項1及び2からなる一群の請求項に係る訂正 ア.訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に 「前記コーティング膜は、前記金属磁性粉を構成する元素のカチオンと樹脂とを含む」とあるのを、 「前記コーティング膜は、前記素体に含まれる前記金属磁性粉を構成する元素がイオン化したことにより生じたカチオンと樹脂との反応物を含む」に訂正する。 イ.訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2に 「前記金属磁性粉は、Fe又はFe合金の粉であり、前記内部導体は、Cu又はAgであること、を特徴とする請求項1に記載の電子部品。」とあるのを、 「前記金属磁性粉は、Fe又はFe合金の粉であり、前記内部導体は、Cu又はAgであり、前記素体と前記外部電極との界面には、前記コーティング膜が存在しないこと、を特徴とする請求項1に記載の電子部品。」に訂正する。 (2)請求項3ないし8からなる一群の請求項に係る訂正 ア.訂正事項1 特許請求の範囲の請求項3に 「前記樹脂エマルジョンを前記本体に塗布し、乾燥する工程と」とあるのを、 「前記樹脂エマルジョンを前記本体に塗布することにより、前記素体に含まれる前記金属磁性粉を構成するカチオン性の元素をイオン化させ、前記樹脂エマルジョン中の樹脂成分と反応させて前記本体にコーティング膜を形成し、前記コーティング膜が形成された前記本体を乾燥する工程と」に訂正する。 イ.訂正事項2 特許請求の範囲の請求項4に 「前記金属磁性粉は、Fe又はFe合金の粉であり、前記内部導体は、Cu又はAgであること、を特徴とする、請求項3に記載の電子部品の製造方法。」とあるのを、 「前記金属磁性粉は、Fe又はFe合金の粉であり、前記内部導体は、Cu又はAgであり、前記素体と前記外部電極との界面には、前記コーティング膜が存在しないこと、を特徴とする、請求項3に記載の電子部品の製造方法。」に訂正する。 2.訂正の適否についての判断 (1)請求項1及び2からなる一群の請求項に係る訂正について ア.一群の請求項について 訂正前の請求項1ないし2において、請求項2は、訂正する請求項1を引用しているものであるから、請求項1ないし2は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 イ.訂正事項1について (ア)訂正の目的について 訂正事項1は、訂正前の請求項1において、コーティング膜に含まれるとされていた「カチオン」と「樹脂」について、前者が「前記素体に含まれる前記金属磁性粉を構成する元素がイオン化したことにより生じた」ものであることを特定するとともに、両者が「反応物」として含まれることを特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (イ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて コーティング膜が、素体に含まれる金属磁性粉を構成する元素がイオン化したことにより生じたカチオンと樹脂との反応物を含むことは、明細書の段落【0048】及び【0058】等に記載されている。 したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。 (ウ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であるか否かについて 上記(ア)に示したとおり、訂正事項1は特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。 なお、特許異議申立人Bは、平成30年9月14日付けの意見書において、「「カチオン」、「樹脂」及び「反応物」はそれぞれ対象が異なるものであることから、訂正前後のコーティング膜における成分が変更されているということができます。」として、訂正事項1が実質上特許請求の範囲を変更するものである旨を主張している。 しかしながら、上記(ア)で述べたとおり、訂正事項1は、「カチオン」と「樹脂」が、「反応物」として含まれることを特定するものであって、上記「カチオン」と「樹脂」とは全く異なる物質が含まれることを特定するものではないから、特許異議申立人Bの上記主張を採用することはできない。 ウ.訂正事項2について (ア)訂正の目的について 訂正事項2は、訂正前の請求項2が引用する請求項1に記載されていた「素体」と「外部電極」について、それらの「界面には、前記コーティング膜が存在しないこと」を特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (イ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて 素体と外部電極との界面にコーティング膜が存在しないことは、明細書の段落【0017】に記載されている。 したがって、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。 (ウ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であるか否かについて 上記(ア)に示したとおり、訂正事項2は特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。 (2)請求項3ないし8からなる一群の請求項に係る訂正について ア.一群の請求項について 訂正前の請求項3ないし8において、請求項4ないし8は、訂正する請求項3を直接又は間接的に引用しているものであるから、請求項3ないし8は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 イ.訂正事項1について (ア)訂正の目的について 訂正事項1は、訂正前の請求項3における「前記樹脂エマルジョンを前記本体に塗布し、乾燥する工程」について、上記塗布によって、「前記素体に含まれる前記金属磁性粉を構成するカチオン性の元素をイオン化させ、前記樹脂エマルジョン中の樹脂成分と反応させて前記本体にコーティング膜を形成」すること、及び、上記乾燥する対象物である本体が「前記コーティング膜が形成された」ものであることを特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (イ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて 樹脂エマルジョンを本体に塗布することにより、素体に含まれる金属磁性粉を構成するカチオン性の元素をイオン化させ、前記樹脂エマルジョン中の樹脂成分と反応させて前記本体にコーティング膜を形成し、前記コーティング膜が形成された前記本体を乾燥することは、明細書の段落【0046】ないし【0049】に記載されている。 したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。 (ウ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であるか否かについて 上記(ア)に示したとおり、訂正事項1は特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。 ウ.訂正事項2について (ア)訂正の目的について 訂正事項2は、訂正前の請求項4が引用する請求項3に記載されていた「素体」と「外部電極」について、それらの「界面には、前記コーティング膜が存在しないこと」を特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (イ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて 素体と外部電極との界面にコーティング膜が存在しないことは、明細書の段落【0017】に記載されている。 したがって、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。 (ウ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であるか否かについて 上記(ア)に示したとおり、訂正事項2は特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。 3.まとめ 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。なお、訂正前の全ての請求項に対して特許異議の申立てがなされているので、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。 よって、訂正後の請求項〔1、2〕、〔3ないし8〕について訂正を認める。 第3 訂正後の本件発明 本件訂正請求により訂正された請求項1ないし8に係る発明(以下「本件発明1ないし8」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 金属磁性粉と絶縁性樹脂とから形成される素体と、前記素体の内部に位置する内部導体と、を備える本体と、 前記本体を覆うコーティング膜と、 前記内部導体と接続された外部電極と、 を備え、 前記コーティング膜は、前記素体に含まれる前記金属磁性粉を構成する元素がイオン化したことにより生じたカチオンと樹脂との反応物を含む電子部品。 【請求項2】 前記金属磁性粉は、Fe又はFe合金の粉であり、 前記内部導体は、Cu又はAgであり、 前記素体と前記外部電極との界面には、前記コーティング膜が存在しないこと、 を特徴とする請求項1に記載の電子部品。 【請求項3】 金属磁性粉と絶縁性樹脂とから形成される素体と、前記素体の内部に位置する内部導体と、を備える本体を準備する工程と、 前記金属磁性粉を構成する金属をイオン化させるエッチング成分と、アニオン性界面活性剤と、樹脂成分とを含む樹脂エマルジョンを準備する工程と、 前記樹脂エマルジョンを前記本体に塗布することにより、前記素体に含まれる前記金属磁性粉を構成するカチオン性の元素をイオン化させ、前記樹脂エマルジョン中の樹脂成分と反応させて前記本体にコーティング膜を形成し、前記コーティング膜が形成された前記本体を乾燥する工程と、 前記内部導体に接続される外部電極を形成する工程と、 を備えることを特徴とする、電子部品の製造方法。 【請求項4】 前記金属磁性粉は、Fe又はFe合金の粉であり、 前記内部導体は、Cu又はAgであり、 前記素体と前記外部電極との界面には、前記コーティング膜が存在しないこと、 を特徴とする、請求項3に記載の電子部品の製造方法。 【請求項5】 前記エッチング成分は、フッ化水素酸、硫酸、酢酸、硝酸又は塩酸である、請求項3または請求項4に記載の電子部品の製造方法。 【請求項6】 前記アニオン性界面活性剤は、スルホン酸基を有すること、を特徴とする、請求項3ないし請求項5のいずれかに記載の電子部品の製造方法。 【請求項7】 前記樹脂エマルジョンは、さらに、エッチング促進成分として酸化剤を含むこと、を特徴とする、請求項3ないし請求項6のいずれかに記載の電子部品の製造方法。 【請求項8】 前記樹脂エマルジョンは、さらに、添加剤としてフッ化鉄を含むこと、を特徴とする、請求項3ないし請求項7のいずれかに記載の電子部品の製造方法。」 第4 取消理由通知に記載した取消理由について 1.取消理由の概要 訂正前の請求項1ないし8に係る特許に対して、当審が平成30年5月10日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 (1)請求項1及び2に係る発明は、下記の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。よって、請求項1及び2に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (2)請求項1ないし8に係る発明は、下記の引用文献1に記載された発明と下記の引用文献2又は3に記載された技術事項とに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。よって、請求項1ないし8に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 記 引用文献1:特開2013-225718号公報(特許異議申立人Bが提出した甲第1号証) 引用文献2:特許第3648320号公報(特許異議申立人Aが提出した甲第1号証) 引用文献3:特開2003-145034号公報(特許異議申立人Bが提出した甲第2号証) 2.引用文献の記載 (1)引用文献1(特開2013-225718号公報) 引用文献1には、「コイル部品の製造方法」について、図面とともに以下の記載がある。(なお、下線は当審で付与した。) ア.「【0001】 本発明は、コイル部品の製造方法に関し、特に、電源用インダクタンスとして好ましく用いられるコイル部品の製造方法に関する。」 イ.「【0027】 図1~図3に示すように、第1の実施形態によるコイル部品10は、絶縁基板11と、絶縁基板11の一方の主面(上面11a)に形成された第1のスパイラル導体12と、絶縁基板11の他方の主面(裏面11b)に形成された第2のスパイラル導体13と、第1及び第2のスパイラル導体12,13をそれぞれ覆う絶縁樹脂層14a,14bと、絶縁基板11の上面11a側を覆う上部コア15と、絶縁基板11の裏面11b側を覆う下部コア16と、一対の端子電極17a,17bとを備えている。 (中略) 【0030】 絶縁基板11、上部コア15及び下部コア16からなる積層体の対向する2つの側面18a,18bには一対の端子電極17a,17bがそれぞれ設けられている。第1のスパイラル導体12の外周端12bは第1の側面18aまで引き出されて一方の端子電極17aに接続されている。また、第2のスパイラル導体13の外周端13bは第2の側面18bまで引き出されて他方の端子電極17bに接続されている。さらに、第1のスパイラル導体12の内周端12aと第2のスパイラル導体13の内周端13aは絶縁基板11を貫通するスルーホール導体11iを介して互いに接続されている。これにより、第1及び第2のスパイラル導体12,13は互いに直列接続された単一のコイルを構成している。」 ウ.「【0032】 上部コア15及び下部コア16は金属磁性粉含有樹脂からなる。本実施形態においては、上部コア15及び下部コア16は同一材料であり、一体的に成形されるため、両者の境界は外観上明確でなないが、ここでは上部コア15は平板部分とそれよりも下方に突起する柱状部分(連結部)を含むE型コアであるものとし、下部コア16は板状部分からなるI型コアであるものとする。」 エ.「【0034】 金属磁性粉含有樹脂とは、樹脂に金属磁性粉が混入されてなる磁性材料である。金属磁性粉としてはパーマアロイ系材料を用いることが好ましい。具体的には、第1の金属磁性粉として平均粒径が20~50μmであるPb-Ni-Co合金を用い、第2の金属磁性粉として平均粒径が3~10μmであるカルボニル鉄を用い、これらを所定の比率、例えば70:30~80:20、好ましくは75:25の重量比で含む金属磁性粉を用いることが好ましい。金属磁性粉の含有率は90~96重量%であることが好ましい。樹脂に対して金属磁性粉の量を少なくすれば飽和磁束密度は小さくなり、逆に金属磁性粉の量を多めにすれば飽和磁束密度は大きくなるので、金属磁性粉の量だけで飽和磁束密度を調整することができる。 (中略) 【0036】 金属磁性粉含有樹脂に含まれる樹脂は絶縁結着材として機能する。樹脂の材料としては液状エポキシ樹脂又は粉体エポキシ樹脂を用いることが好ましい。また、樹脂の含有率は4~10重量%であることが好ましい。」 オ.「【0059】 図12は、本発明の第5の実施の形態によるコイル部品の構成を示す略側面断面図である。 【0060】 図12に示すように、第5の実施形態によるコイル部品50は、上部コア15及び下部コア16を構成する金属磁性粉含有樹脂の表面(露出面)にNi系フェライト含有樹脂の絶縁被膜51が形成されている点にある。特に限定されるものではないが、絶縁被膜51の厚さは約50μmである。Ni系フェライト含有樹脂の絶縁被膜51は、絶縁被膜としてだけでなく、金属磁性粉含有樹脂と共に閉磁路の一部としても機能する。 【0061】 上記のように、閉磁路を構成するための磁性コアとして金属磁性粉含有樹脂を用いた場合には、金属磁性粉が導体であることから、端子電極17a,17b間の絶縁性が問題となる。しかし、本実施形態によれば、金属磁性粉含有樹脂の表面が絶縁被覆されているので、端子電極17a,17b間の絶縁性を十分に確保することができる。さらに、第1の実施形態によるコイル部品10では、上部コア15及び下部コア16の表面が化成処理によって絶縁被覆されていたが、この部分は閉磁路として機能するものではなかった。しかし、本実施形態によれば、絶縁性を確保しつつ、絶縁被膜を閉磁路の一部として機能させることができ、最終的にはインダクタンス特性の向上を図ることができる。 【0062】 コイル部品50の製造では、TFC基板21の両面に金属磁性粉含有樹脂を形成する(図6参照)。次に、図13(a)及び(b)に示すように、金属磁性粉含有樹脂が埋め込まれたスリット11gの幅方向中央部にスリット52を形成する。このスリット52を形成する際のブレード幅は例えば100μmとする。 【0063】 次に、図14に示すように、スリット52の内部を含む基板全面にNi系フェライト含有樹脂ペーストをスクリーン印刷し、これを本硬化させる。樹脂ペーストはスリット52内にも入り込むので、樹脂ペーストは上部コア15及び下部コア16が形成されたTFC基板21の上下面のみならず側面にも形成された状態となる。 【0064】 次いで、切断ラインCx及びCyの位置でTFC基板21をダイシングすることによって個片化する(図7参照)。このときのブレード幅は例えば50μmであり、スリット形成時のブレード幅よりも狭いので、Ni系フェライト含有樹脂を部分的に残すことができる。その後、個々のチップの側面に一対の端子電極17a,17bを形成することにより、磁性コアの上下面のみならず側面までもがNi系フェライト含有樹脂の絶縁被膜51で被覆されたコイル部品50が完成する。」 そして、上記ア及びイと図1とによれば、コイル部品は、上部コア15及び下部コア16と、それらの間に位置する第1のスパイラル導体12及び第2のスパイラル導体13を備えている。また、前記上部コア15は絶縁基板11の上面11a側を覆い、前記下部コア16は前記絶縁基板11の裏面11b側を覆っている。 また、上記ウによれば、前記上部コア15及び下部コア16は、金属磁性粉含有樹脂からなる。 ここで、上記エによれば、前記金属磁性粉含有樹脂は、絶縁結着剤として機能する樹脂にパーマアロイ系材料を用いた金属磁性粉が混入されてなる磁性材料である。 また、上記イと図1ないし図3とによれば、前記第1のスパイラル導体12及び第2のスパイラル導体13は、一対の端子電極17a,17bに接続されている。 そして、上記オと図12ないし図14とによれば、第5の実施形態として、前記上部コア15及び下部コア16を構成する前記金属磁性粉含有樹脂の表面(露出面)に、すなわち、前記上部コア15及び下部コア16の表面に、Ni系フェライト含有樹脂の絶縁被膜51を形成することも記載されている。 以上の事項を総合すると、引用文献1には、コイル部品について、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 「絶縁基板11の上面11a側を覆う上部コア15及び絶縁基板11の裏面11b側を覆う下部コア16であって、絶縁結着材として機能する樹脂にパーマアロイ系材料を用いる金属磁性粉が混入されてなる金属磁性粉含有樹脂からなる上部コア15及び下部コア16と、 前記絶縁基板11の上面11aに形成された第1のスパイラル導体12と、前記絶縁基板11の裏面11bに形成された第2のスパイラル導体13と、 前記上部コア15及び下部コア16の表面に形成されたNi系フェライト含有樹脂の絶縁被膜51と、 一方は前記第1のスパイラル導体12に接続され、他方は前記第2のスパイラル導体13に接続された一対の端子電極17a,17bと を含むコイル部品。」 (2)引用文献2(特許第3648320号公報) 引用文献2には、「積層モーターコア表面に電気絶縁被膜を被覆する方法」について、図面とともに以下の記載がある。(なお、下線は当審で付与した。) ア.「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、積層モーターコア表面に電気絶縁被膜を被覆する方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、鋼板を積層して作成されたモーターコアの表面に自己析出型水性被覆組成物を接触させることにより、該表面に電気絶縁特性の優れた絶縁被膜を形成させることができる積層モーターコア表面に電気絶縁被膜を被覆する方法に関する。」 イ.「【0002】 【従来の技術】 小型モーター等に使用されるモーターコアは、従来プレス加工によって金属板を積層し所定形状に成形されている。積層モーターコアとしては、例えば図1に示すようなモータのコアAが挙げられる。図1のコアAは複数の突極bを有し、各突極bの先端部は円弧状の部位となっており、各突極bに巻線cが巻かれている。このようなコアはモーターの回転子として用いられるが、コアAの突極bと巻線cとの間が絶縁されていないような場合には、各巻線c同士はコアAを通じて短絡されてモーター自身が機能しなくなるので、コアAと巻線cとの間は絶縁する必要がある。このため、コアAのような積層鋼板表面はあらかじめ絶縁処理がなされているのが通常である。」 ウ.「【0005】 【課題を解決するための手段】 本発明者らは、上記従来の抱える課題を解決すべく鋭意検討した結果、積層モーターコア表面に被膜形成用樹脂エマルション、酸、酸化剤、金属イオン、水を含有する自己析出型水性被覆組成物を接触させ、ついで加熱乾燥させることにより、従来より薄膜で絶縁特性に優れた被膜を形成でき、さらに絶縁処理工程を短縮できることを見い出し、本発明を完成させた。」 エ.「【0012】 本発明で使用する被膜形成用樹脂エマルションは、通常乳化重合によって得られる樹脂エマルションそのものであることが多いが、種々の重合法によって得た樹脂を水に乳化分散させた樹脂エマルションであってもよい。 乳化重合により樹脂エマルションを得る場合の重合条件も特に制限されず、常法に従えばよいが、一例として、少なくとも水、アニオン性界面活性剤及び/またはノニオン性界面活性剤、上記樹脂成分モノマー、及び重合開始剤よりなる混合物を重合反応に付すことにより、被膜形成用樹脂エマルションを得ることができる。」 オ.「【0020】 本発明の被覆方法によれば、被膜形成は電着のごとく外部からの電気を使用することなく、被塗金属表面上の自己析出型被覆組成物の化学作用(エッチングにより金属表面から溶出した金属イオンが被覆組成物中の樹脂粒子に作用して該樹脂粒子が金属表面上に析出する)により達成されるため、積層鋼板表面に未硬化の樹脂被膜が形成される際、該自己析出型被覆組成物が該鋼板表面に接した個所は、ほとんど均一に被膜が形成される。また、該鋼板表面のエッジ部の被覆性は該未硬化の樹脂被膜を加熱乾燥した後も優れているため、絶縁特性の優れた絶縁被膜を形成させることができる。」 上記アないしオの記載を総合すると、引用文献2には以下の技術事項が記載されている。 「金属板(鋼板)を積層して作成された積層モーターコアの表面に、アニオン性界面活性剤を含む被膜形成用樹脂エマルションと酸とを含有する自己析出型水性被覆組成物を接触させることによって、エッチングにより金属表面から溶出した金属イオンが被覆組成物中の樹脂粒子に作用して該樹脂粒子が金属表面上に析出し、ついで、加熱乾燥させることによって、絶縁皮膜を形成すること。」 (3)引用文献3(特開2003-145034号公報) 引用文献3には、「電子部品及びマイクロ機器部品の表面の自己析出型表面処理被覆方法、及び自己析出型表面処理被膜を有する電子部品及びマイクロ機器部品」について、図面とともに以下の記載がある。(なお、下線は当審で付与した。) ア.「【0004】 【発明が解決しようとする課題】本発明は、従来技術では達し得なかった高い作業性、生産性、経済性に富んだ環境型表面処理システムを用いて優れた絶縁性、付き廻り性、耐食性、耐熱性、耐溶剤性、及び高い表面硬度を有する被膜を形成する方法、及び該方法で処理された被膜を有する電子部品及びマイクロ機器部品を提供するものである。」 イ.「【0005】 【課題を解決するための手段】本発明者らは、従来技術の抱える問題に鑑みて鋭意検討した結果、電子部品及びマイクロ機器部品の表面を少なくとも1種の水溶性、若しくは水分散性有機高分子樹脂(a)を含有する自己析出型表面処理液(A)に接触させて該表面に有機被膜を析出形成させる工程と、析出形成した有機被膜の表面を硬化し得る少なくとも1種の硬化剤(e)を含有する後処理液(B)に接触させる工程と、溶媒を除去し、塗膜を形成する工程とを含む表面処理工程によって、電子部品及びマイクロ機器部品の表面に有機被膜を形成させる自己析出型表面処理被覆方法が有効であることを見いだし、本発明を完成させるに至った。(以下、省略。)」 ウ.「【0006】自己析出型表面処理液(A)は、水溶性、若しくは水分散性有機高分子樹脂(a)の他に、さらに酸成分(b)を含有することがより好ましく、酸化剤(c)を含有することがさらに好ましく、さらには、金属イオン(d)を含有することが特に好ましい。自己析出型処理液(A)に用いられる有機高分子樹脂(a)は、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂から選ばれる少なくとも1種であることがより好ましく、さらにはその少なくとも1種がアニオン性ポリエステルであることがより好ましく、多価アルコールと酸化合物が縮合して得られるアニオン性のポリエステル樹脂であることが特に好ましい。」 エ.「【0010】 【発明の実施の形態】以下、本発明の構成について詳述する。本発明は、鋼板、珪素鋼板、またはフェライト系、ネオジウム鉄ボロン系等の粉末冶金で得られる焼結素材など鉄系素材から成る、自動車用、家電用、OA機器などに使用される中型モーターや、精密電子部品、AV機器、家電製品に搭載されるステッピングモーターなどの電子部品、また携帯電話のバイブレーター、フロッピーディスク、ハードディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、CDROMなどのドライブモーターに用いられる精密マイクロモーターコアなどのマイクロ機器部品の表面に適応し得る。」 オ.「【0012】水溶性、若しくは水分散性有機高分子樹脂(a)は、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂から選ばれる少なくとも1種で、界面活性剤などの乳化剤を用いて水系化した強制乳化型有機高分子樹脂、若しくはその構造の一部がカルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、ホスホン酸基等のアニオン性官能基で変性された水溶性、又は自己乳化性の有機高分子樹脂である。さらに、これらの樹脂から選ばれる少なくとも1種が、アニオン性のポリエステル樹脂であることがより好ましい。」 カ.「【0061】次に処理工程、処理条件について説明する。下記に示した工程を以下の順で行った。 (中略) 4.自己析出型表面処理 自己析出型表面処理液(A)に浸漬して被膜を析出させた。処理液温度22±2℃、180秒浸漬。処理液中で被処理物を上下に静かに揺動した(1回/秒)。 (中略) 8.溶媒除去および塗膜形成 熱風循環式乾燥炉((株)タバイ製 パーフェクトオーブンPS112)を用いて下記条件で行った。 [条件8(当審注:「8」は丸囲み数字)]80℃で5分間加熱乾燥した後、炉内の温度を10分間で180℃まで昇温させ、180℃に昇温してからさらに5分間炉内に放置した(風速:2m/分)。 [条件9(当審注:「9」は丸囲み数字)]100℃で5分間加熱乾燥した後、炉内の温度を10分間で200℃まで昇温させ、200℃に昇温してからさらに5分間炉内に放置した(風速:2m/分)。 [条件▲10▼]110℃で20分間加熱乾燥した(風速:2m/分)。」 上記アないしカの記載を総合すると、引用文献3には以下の技術事項が記載されている。 「鋼板、珪素鋼板、またはフェライト系、ネオジウム鉄ボロン系等の粉末冶金で得られる焼結素材など鉄系素材から成る電子部品及びマイクロ機器部品の表面を、界面活性剤を含む水溶性、若しくは水分散性有機高分子樹脂(a)及び酸成分(b)を含有する自己析出型表面処理液(A)に接触させて該表面に有機被膜を析出形成させ、その後、加熱乾燥させることによって、絶縁性を有する皮膜を形成すること。」 3.当審の判断 (1)特許法第29条第1項第3号について ア.請求項1(本件発明1)について 本件発明1と引用発明とを対比する。 (ア)引用発明の「上部コア15及び下部コア16」は「絶縁結着材として機能する樹脂にパーマアロイ系材料を用いる金属磁性粉が混入されてなる金属磁性粉含有樹脂」からなり、上記「パーマアロイ系材料を用いる金属磁性粉」は本件発明1の「金属磁性粉」に相当し、また、上記「絶縁結着材として機能する樹脂」は本件発明1の「絶縁性樹脂」に相当する。 そうすると、引用発明の「絶縁結着材として機能する樹脂にパーマアロイ系材料を用いる金属磁性粉が混入されてなる金属磁性粉含有樹脂からなる上部コア15及び下部コア16」は、本件発明1の「金属磁性粉と絶縁性樹脂とから形成される素体」に相当する。 (イ)引用発明の「第1のスパイラル導体12」及び「第2のスパイラル導体13」は絶縁基板11に形成されており、当該絶縁基板は上部コア15及び下部コア16に覆われているから、上記「第1のスパイラル導体12」及び「第2のスパイラル導体13」は上部コア15及び下部コア16の「内部に位置する」ということができる。 そして、上記(ア)で述べたとおり、引用発明の「上部コア15及び下部コア16」が本件発明1の「素体」に相当することも勘案すると、引用発明の「第1のスパイラル導体12」及び「第2のスパイラル導体13」は、本件発明1の「前記素体の内部に位置する内部導体」に相当する。 (ウ)上記(ア)で述べたとおり、引用発明の「上部コア15及び下部コア16」が本件発明1の「素体」に相当し、また、上記(イ)で述べたとおり、引用発明の「第1のスパイラル導体12」及び「第2のスパイラル導体13」が本件発明1の「内部導体」に相当することを勘案すると、引用発明の「上部コア15及び下部コア16」及び「内部導体」からなるものは、本件発明1の「本体」に相当する。 (エ)引用発明の「一対の端子電極17a,17b」は、第1のスパイラル導体12及び第2のスパイラル導体13に接続されていることを勘案すると、本件発明1の「前記内部導体と接続された外部電極」に相当する。 (オ)上記(ウ)で述べたとおり、引用発明の「上部コア15及び下部コア16」が「本体」を構成するものであることも勘案すると、引用発明の「Ni系フェライト含有樹脂の絶縁被膜51」は、本体を構成する前記上部コア15及び下部コア16の表面に形成されたものであるから、本件発明1の「前記本体を覆うコーティング膜」に相当する。 ここで、引用発明の「Ni系フェライト含有樹脂の絶縁被膜51」の形成工程についてみてみると、上記「2.引用文献の記載」の(1)のオで摘示した段落【0063】にあるように「スリット52の内部を含む基板全面にNi系フェライト含有樹脂ペーストをスクリーン印刷し、これを本硬化させる。」ことによって形成されるから、Ni系フェライト及びそれに含まれるFeは、スクリーン印刷される樹脂ペーストにもともと含まれているものである。すなわち、引用発明の「Ni系フェライト含有樹脂」の「Ni系フェライト」は、本件発明1の「前記素体に含まれる前記金属磁性粉を構成する元素がイオン化したことにより生じたカチオンと樹脂との反応物」ではない。 したがって、引用発明の「絶縁被膜51」は、本件発明1の「コーティング膜」ように「前記素体に含まれる前記金属磁性粉を構成する元素がイオン化したことにより生じたカチオンと樹脂との反応物を含む」ものではない。 (カ)引用発明の「コイル部品」は、本件発明1の「電子部品」に相当する。 以上を総合すると、本件発明1と引用発明は、 「金属磁性粉と絶縁性樹脂とから形成される素体と、前記素体の内部に位置する内部導体と、を備える本体と、 前記本体を覆うコーティング膜と、 前記内部導体と接続された外部電極と、 を備える、 電子部品。」 である点で一致し、次の点(以下、「相違点1」という。)で相違する。 <相違点1> 上記コーティング膜が、本件発明1においては、「前記素体に含まれる前記金属磁性粉を構成する元素がイオン化したことにより生じたカチオンと樹脂との反応物を含む」ものであるのに対して、引用発明においては、「Ni系フェライト含有樹脂」であって、「前記素体に含まれる前記金属磁性粉を構成する元素がイオン化したことにより生じたカチオンと樹脂との反応物を含む」ものではない点。 したがって、本件発明1は、引用発明に対して上記相違点1を有しているから、引用文献1に記載された発明であるということはできない。 イ.請求項2(本件発明2)について 上記請求項1を引用する請求項2に係る発明である本件発明2も、引用発明に対して上記相違点1を有しているから、本件発明2も、引用文献1に記載された発明であるということはできない。 ウ.まとめ 以上のとおりであるから、本件発明1及び2は、引用文献1に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当しない。 よって、請求項1及び2に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。 (2)特許法第29条第2項について ア.請求項1及び2(本件発明1及び2)について 本件発明1と引用発明の相違点は、上記(1)アで説示した次のとおりのものである。 <相違点1> 上記コーティング膜が、本件発明1においては、「前記素体に含まれる前記金属磁性粉を構成する元素がイオン化したことにより生じたカチオンと樹脂との反応物を含む」ものであるのに対して、引用発明においては、「Ni系フェライト含有樹脂」であって、「前記素体に含まれる前記金属磁性粉を構成する元素がイオン化したことにより生じたカチオンと樹脂との反応物を含む」ものではない点。 そこで、上記相違点1について検討すると、上記「2.引用文献の記載」の(2)で説示したように引用文献2には、 「金属板(鋼板)を積層して作成された積層モーターコアの表面に、アニオン性界面活性剤を含む被膜形成用樹脂エマルションと酸とを含有する自己析出型水性被覆組成物を接触させることによって、エッチングにより金属表面から溶出した金属イオンが被覆組成物中の樹脂粒子に作用して該樹脂粒子が金属表面上に析出し、ついで、加熱乾燥させることによって、絶縁皮膜を形成すること。」 が記載されており、 上記「2.引用文献の記載」の(3)で説示したように引用文献3には、 「鋼板、珪素鋼板、またはフェライト系、ネオジウム鉄ボロン系等の粉末冶金で得られる焼結素材など鉄系素材から成る電子部品及びマイクロ機器部品の表面を、界面活性剤を含む水溶性、若しくは水分散性有機高分子樹脂(a)及び酸成分(b)を含有する自己析出型表面処理液(A)に接触させて該表面に有機被膜を析出形成させ、その後、加熱乾燥させることによって、絶縁性を有する皮膜を形成すること。」 が記載されているが、いずれも、「金属板(鋼板)」や「鋼板、珪素鋼板、またはフェライト系、ネオジウム鉄ボロン系等の粉末冶金で得られる焼結素材」からなる金属製品の表面に、絶縁皮膜を形成する技術であって、引用発明のような「金属磁性粉含有樹脂」からなる上部コア15及び下部コア16の表面に絶縁皮膜を形成する技術ではない。 また、引用発明の上部コア15及び下部コア16は金属磁性粉含有樹脂からなるものであるから、その表面も、樹脂に金属磁性粉が混入されている状態であると解されるが、金属のみで構成されていない引用発明の上記上部コア15及び下部コア16の表面に、金属のみで構成された製品についての上記引用文献2又は引用文献3に記載の技術事項を適用した場合に、その表面がどのようになるかは引用文献2又は引用文献3の記載から自明であるともいえない。 さらに、引用発明のNi系フェライト含有樹脂の絶縁被膜51の機能及び効果について検討すると、上記「2.引用文献の記載」の(1)のオで摘示したように、「Ni系フェライト含有樹脂の絶縁被膜51は、絶縁被膜としてだけでなく、金属磁性粉含有樹脂と共に閉磁路の一部としても機能する。」ものであり、「絶縁性を確保しつつ、絶縁被膜を閉磁路の一部として機能させることができ、最終的にはインダクタンス特性の向上を図ることができる。」という効果を奏するものである。そうすると、絶縁被膜を閉磁路の一部として機能させるために、樹脂にNi系フェライトを含有させているのであるから、当該Ni系フェライト含有樹脂の絶縁被膜51に代えて、引用文献2又は引用文献3に記載の技術事項を適用してNi系フェライトを含まない絶縁被膜を形成する動機を見いだすこともできない。 したがって、引用発明に引用文献2又は引用文献3に記載の技術事項を適用することは、当業者といえども容易に想到することはできない。 よって、本件発明1は、引用発明と引用文献2又は3に記載された技術事項とに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 また、上記請求項1を引用する請求項2に係る発明である本件発明2も、同様の理由によって、引用発明と引用文献2又は3に記載された技術事項とに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ.請求項3ないし8(本件発明3ないし8)について 本件発明3は電子部品の製造方法についての発明であり、 「前記金属磁性粉を構成する金属をイオン化させるエッチング成分と、アニオン性界面活性剤と、樹脂成分とを含む樹脂エマルジョンを準備する工程と、 前記樹脂エマルジョンを前記本体に塗布することにより、前記素体に含まれる前記金属磁性粉を構成するカチオン性の元素をイオン化させ、前記樹脂エマルジョン中の樹脂成分と反応させて前記本体にコーティング膜を形成し、前記コーティング膜が形成された前記本体を乾燥する工程と」 を備えるものであるが、上記(1)ア及び(2)アで説示したように、引用発明の絶縁被膜51(コーティング膜)は「Ni系フェライト含有樹脂」であり、「Ni系フェライト含有樹脂ペーストをスクリーン印刷し、これを本硬化させる」ことによって形成されている。 そうすると、本件発明3と、引用文献1に記載のコイル部品の製造方法の発明と対比すると、コーティング膜を形成するための工程が以下の点(以下、「相違点2」という。)で相違し、その余の点で一致する。 <相違点2> 本件発明3においては、「前記金属磁性粉を構成する金属をイオン化させるエッチング成分と、アニオン性界面活性剤と、樹脂成分とを含む樹脂エマルジョンを準備する工程と、前記樹脂エマルジョンを前記本体に塗布することにより、前記素体に含まれる前記金属磁性粉を構成するカチオン性の元素をイオン化させ、前記樹脂エマルジョン中の樹脂成分と反応させて前記本体にコーティング膜を形成し、前記コーティング膜が形成された前記本体を乾燥する工程」であるのに対して、引用文献1に記載のコイル部品の製造方法の発明においては、「Ni系フェライト含有樹脂ペーストをスクリーン印刷し、これを本硬化させる」工程である点。 そして、上記アで説示したとおり、引用文献1に記載の上部コア15及び下部コア16は金属磁性粉含有樹脂からなるものであって金属のみで構成されていない点、及び、絶縁被膜を閉磁路の一部として機能させるために、樹脂にNi系フェライトを含有させている点を考慮すると、引用文献1のコイル部品の製造方法の発明についても、引用文献2又は引用文献3に記載の技術事項を適用することは、当業者といえども容易に想到することはできない。 よって、本件発明3は、引用文献1に記載されたコイル部品の製造方法の発明と引用文献2又は3に記載された技術事項とに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 また、上記請求項3を直接又は間接的に引用する請求項4ないし8に係る発明である本件発明4ないし8も、同様の理由によって、引用文献1に記載されたコイル部品の製造方法の発明と引用文献2又は3に記載された技術事項とに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ.特許異議申立人の意見について 上記ア及びイで述べたとおり、引用文献1に記載の上部コア15及び下部コア16は金属磁性粉含有樹脂からなるものであって金属のみで構成されてはいないが、その点に関して、特許異議申立人Bは、平成30年9月14日付け意見書において、「引用文献1に記載のコイル部品のような金属磁性粉含有樹脂により形成された絶縁体が、表層に金属磁性粉が焼結された層と下層に絶縁樹脂からなる層を有するものである場合、外絶縁体の表面に、引用文献2の「自己析出型水性被膜組成」や引用文献3の「自己析出型表面処理液 を用いた被膜形成技術を作用させると、引用文献2あるいは引用文献3に記載されるような単一の導体のみにより形成されたモーターコアに作用させた場合と同様に作用することや、当該コイル部品の絶縁体の表面に絶縁被膜が一様に形成されることは、当業者であれば容易に予測できるものと思料いたします。」と主張している。 しかしながら、引用文献1の段落【0032】ないし【0036】の記載からみて、引用文献1に記載の上部コア15及び下部コア16が、特許異議申立人Bが主張するような「表層に金属磁性粉が焼結された層と下層に絶縁樹脂からなる層を有するもの」ではないことは明らかであるから、特許異議申立人Bの上記主張は採用することができない。 エ.まとめ 以上のとおりであるから、本件発明1ないし8は、引用文献1に記載されたコイル部品又はその製造方法の発明と引用文献2又は3に記載された技術事項とに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 よって、請求項1ないし8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。 第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由等について 1.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について (1)特許法第29条第2項について 特許異議申立人Aは、訂正前の特許請求の範囲に関し、特許異議申立書において、本件発明3ないし8は、上記引用文献2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、本件発明1及び2は、上記引用文献2に記載された発明と甲第2号証として提出した「日本パーカライジング技報No.23(2011)第35頁~第41頁、精密モータ用絶縁被膜処理剤「パルミック7000」の開発」の記載事項とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨を主張している。 しかしながら、上記第4の「3.当審の判断」の(2)で説示したように、引用文献2に記載の技術は、「金属板(鋼板)」の表面に絶縁皮膜を形成する技術であって、本件発明1ないし8のような「金属磁性粉と絶縁性樹脂とから形成される素体」に絶縁皮膜を形成する技術ではないし、特許異議申立人Aが提出した上記甲第2号証にもその点についての記載はない。 したがって、特許異議申立人Aの上記主張を採用することはできない。 一方、特許異議申立人Bは、訂正前の特許請求の範囲に関し、特許異議申立書において、上記引用文献1及び引用文献3に加えて、特表2005-537338号公報(甲第3号証)及び特開2005-252141号公報(甲第4号証)も提出して、本件発明1ないし8は、引用文献1に記載された発明、引用文献2及び引用文献3に記載の技術事項、並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨を主張している。 しかしながら、上記第4の「3.当審の判断」の(2)で説示したように、引用文献3に記載の技術は、「鋼板、珪素鋼板、またはフェライト系、ネオジウム鉄ボロン系等の粉末冶金で得られる焼結素材」の表面に絶縁皮膜を形成する技術であって、本件発明1ないし8のような「金属磁性粉と絶縁性樹脂とから形成される素体」に絶縁皮膜を形成する技術ではないし、上記甲第3号証及び甲第4号証にもその点についての記載はない。 したがって、特許異議申立人Bの上記主張を採用することはできない。 (2)特許法第36条について 特許異議申立人Aは、訂正前の特許請求の範囲に関し、特許異議申立書において、請求項1ないし8に係る発明は「電子部品の製造において、金属磁性粉含有樹脂体(絶縁体)の切削加工時における、加工面から金属磁性粉が脱離することにより表面に凹部が生ずることに基づく課題を解決する」ものであるから、当該凹部や当該凹部を形成する工程が規定されておらず、かつ、金属磁性粉を構成する金属のイオン化傾向と内部導体を構成する金属のイオン化傾向の大小関係が規定されていない請求項1ないし8に係る発明は、特許法第36条第6項第1号に規定される要件(サポート要件)を満たしていない旨を主張している。 しかしながら、請求項1ないし8に係る発明が解決しようとする課題は、本件特許の明細書の段落【0002】に記載されているように「従来の電子部品では、絶縁体に含まれる金属磁性粉の防錆等を目的として、リン酸塩による化成処理が行われている。ただし、リン酸塩による化成処理によって形成されたコーティング膜は一般的に薄く、電子部品に要求されるコーティング膜の品質に対して、耐湿性、耐薬品性等が不十分である。」ということであり、特許異議申立人Aが主張するような凹部の有無やイオン化傾向の大小関係にかかわらず、段落【0007】や【0057】に記載の効果を奏するものである。 したがって、特許異議申立人Aの上記主張を採用することはできない。 2.特許異議申立人の意見について 特許異議申立人Aからは、上記第1で述べたとおり、訂正の請求に対する意見書は提出されなかった。 一方、特許異議申立人Bは、平成30年9月14日付け意見書において、上記第2の2の(1)イ(ウ)や上記第4の3の(2)ウで検討した主張に加え、訂正後の発明である本件発明1ないし8について、以下の点も主張している。 (1)本件発明1の「前記素体に含まれる前記金属磁性粉を構成する元素がイオン化したことにより生じたカチオンと樹脂との反応物」という発明特定事項に関して、上記「反応物」は明細書の記載を参酌すると「中和反応物」を意味するものと解される。また、上記「樹脂」の種類として、一般的にアニオン性樹脂や両性樹脂以外に、カチオン性樹脂やノニオン性樹脂が知られている。しかしながら、アニオン性樹脂や両性樹脂は、カチオンと反応(中和)するが、カチオン性樹脂やノニオン性樹脂は、カチオンと反応(中和)しないから、本件発明1及び2は、特許法第36条第6項第2号、同条第4項第1号、及び同条第6項第1号に規定する各要件(明確性要件、実施可能要件、サポート要件)を満たしていない。 また、本件発明3の「前記素体に含まれる前記金属磁性粉を構成するカチオン性の元素をイオン化させ、前記樹脂エマルジョン中の樹脂成分と反応させて」という発明特定事項についても同様で、上記「樹脂成分」のうち、カチオン性樹脂やノニオン性樹脂は、カチオンと反応(中和)しないから、本件発明3ないし8は、特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第1号に規定する各要件(実施可能要件、サポート要件)を満たしていない。 (2)本件発明2、4ないし8は、「前記素体と前記外部電極との界面」が何を意味するのか不明であるから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件(明確性要件)を満たしていない。 そこで、上記各主張について検討する。 上記(1)については、特許異議申立人Bが主張するように、カチオン性樹脂やノニオン性樹脂がカチオンとは反応(中和)しないのであれば、すなわち、カチオン性樹脂やノニオン性樹脂がカチオンとは反応(中和)しないことが技術常識であるのならば、上記「カチオンと樹脂との反応物」における「樹脂」や上記「・・・カチオン性の元素をイオン化させ、・・・樹脂成分と反応させて」における「樹脂成分」に、カチオン性樹脂やノニオン性樹脂が含まれないことは当業者にとって明らかである。したがって、特許異議申立人Bの上記(1)の主張を採用することはできない。 上記(2)については、「界面」は「二つの物質の境の面」(岩波書店 広辞苑 第五版)を意味する言葉であるから、「前記素体と前記外部電極との界面」が、素体と外部電極との境の面を意味することは、本件特許発明2及び4に前記素体と前記外部電極の位置関係を特定する他の記載がなくとも理解できることである。したがって、特許異議申立人Bの上記(2)の主張を採用することはできない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし8に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1ないし8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2018-700103

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