特許異議申立
2016-700036
多結晶シリコン塊群および多結晶シリコン塊群の製造方法
- 審判番号
- 2016-700036
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2009-214519
- 登録番号
- 特許第5751748号(P5751748)
- 請求日
- 2016年01月20日
- 審決日
- 2017年09月28日
- 公報発行日
- 2017年12月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】信越化学工業株式会社
- 【権利者代理人】片山 健一
- 【異議申立人】星 正美
- 審判長/審判官
- 審判長 新居田 知生
- 審判官 後藤 政博
- 審判官 永田 史泰
- 分類
- P1651.121-YAA(C01B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5751748号発明「多結晶シリコン塊群および多結晶シリコン塊群の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5751748号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕、6について訂正することを認める。
特許第5751748号の請求項1~4、6~12に係る特許を維持する。
特許第5751748号の請求項5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第5751748号の請求項1~12に係る特許についての出願は、平成21年9月16日に特許出願され、平成27年5月29日にその特許権の設定登録がされ、その特許について、特許異議申立人 星 正美 により特許異議の申立てがされたものである。そして、その後の手続の経緯は以下のとおりである。
平成28年 4月 8日付け 取消理由の通知
同年 6月16日付け 訂正請求書、意見書の提出
同年 8月 9日付け 訂正拒絶理由の通知
同年 9月 9日付け 訂正請求書の手続補正書、意見書の提出
同年 9月30日付け 訂正拒絶理由の通知
同年11月 1日付け 訂正請求書の手続補正書、意見書の提出
同年12月21日付け 特許異議申立人による意見書の提出
平成29年 3月 9日付け 取消理由の通知(決定の予告)
同年 5月12日付け 訂正請求書、意見書の提出
同年 7月18日付け 訂正請求書及び意見書の手続補正書の提出 同年 8月28日付け 特許異議申立人による意見書の提出
なお、平成28年9月9日付け及び同年11月1日付けで補正された平成28年 6月16日付けの訂正請求書による訂正請求については、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。
第2 訂正請求について
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、平成29年7月18日付け手続補正書により補正された同年 5月12日付けの訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正特許請求の範囲のとおり訂正するもので、以下の訂正事項(1)~(3)からなるものである(下線部は訂正箇所)。
(1)訂正事項1
請求項1に、
「バルクから検出されるクロム、鉄、ニッケル、銅、コバルトの不純物濃度の総計が150ppta以下である多結晶シリコン塊」
とあるのを、
「バルクから検出されるクロム、鉄、ニッケル、銅、コバルトの不純物濃度の総計が150ppta以下であり、且つ、自然酸化膜ではない酸化膜で被覆された不活性な表面を有する多結晶シリコン塊」
に訂正する。
(2)訂正事項2
請求項5を削除する。
(3)訂正事項3
請求項6に、
「バルクから検出されるクロム、鉄、ニッケル、銅、コバルトの不純物濃度の総計が75ppta以下であり表面がシリコン酸化膜で被覆されている多結晶シリコン塊」
とあるのを、
「バルクから検出されるクロム、鉄、ニッケル、銅、コバルトの不純物濃度の総計が75ppta以下であり、且つ、自然酸化膜ではない酸化膜で被覆された不活性な表面を有する多結晶シリコン塊」
に訂正する。
2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、多結晶シリコン塊が「自然酸化膜ではない酸化膜で被覆された不活性な表面を有する」ことを特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正前の請求項5に「多結晶シリコン塊の表面はシリコン酸化膜で被覆されている」との記載、及び本件明細書【0072】に「多結晶シリコン塊の表面をシリコン酸化膜で被覆すると、多結晶シリコン塊の表面は不活性になる」との記載がある。
加えて、本件明細書【0066】~【0068】に「次に、周知の洗浄液を用いて、多結晶シリコン塊の表面に形成された自然酸化膜をエッチング除去する(S202)。」(【0066】)、「フッ酸過水は、多結晶シリコン塊の表面に形成された自然酸化膜をエッチング除去し、自然酸化膜中あるいは該自然酸化膜上に付着した金属粒を自然酸化膜とともにエッチング除去する・・・」(【0067】)、及び「また、フッ硝酸は、表面に形成された自然酸化膜のみならず多結晶シリコン自体もエッチング除去することができる・・・」(【0068】)との記載がある。
これらの記載に照らせば、訂正事項1の「多結晶シリコン塊」の表面を被覆して不活性化する「酸化膜」は、「自然酸化膜」と明確に区別されることは明らかであって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。
また、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項5を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面にに記載した事項の範囲内においてなされたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、「表面がシリコン酸化膜で被覆されている」という記載を、「自然酸化膜ではない酸化膜で被覆された不活性な表面を有する」という記載に訂正するものである。
本件明細書【0072】の記載に照らせば、シリコン酸化膜で被覆すると、多結晶シリコン塊の表面は不活性になるのであるから、訂正事項3の「多結晶シリコン塊」の表面を被覆して不活性化する「酸化膜」は、シリコン酸化膜を意味することは明らかである。
また、本件明細書【0066】~【0068】の記載に照らせば、上記「酸化膜」は、「自然酸化膜」と明確に区別される。
そうすると、訂正事項3は、「表面がシリコン酸化膜で被覆されている」という記載をさらに限定するものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項3は、訂正事項1と同様に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)一群の請求項について
上記訂正事項1に係る訂正前の請求項1~5は、請求項2~5が、直接又は間接的に請求項1を引用する関係にあるから、上記訂正事項1は、一群の請求項ごとに請求されたものである。
3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条
の5第2項第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~5〕、6について訂正を認める
第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1~12に係る発明(それぞれ、「本件発明1」~「本件発明12」とする。)は,次の事項により特定されるとおりのものである(下線部は、訂正箇所)。
【請求項1】
バルクから検出されるクロム、鉄、ニッケル、銅、コバルトの不純物濃度の総計が150ppta以下であり、且つ、自然酸化膜ではない酸化膜で被覆された不活性な表面を有する多結晶シリコン塊のみからなるマルチプリング法による単結晶シリコン製造用の多結晶シリコン塊群。
【請求項2】
前記不純物濃度の総計が100ppta以下である請求項1に記載の多結晶シリコン塊群。
【請求項3】
前記不純物濃度の総計が75ppta以下である請求項2に記載の多結晶シリコン塊群。
【請求項4】
前記不純物濃度は誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)法による分析値である請求項1乃至3の何れか1項に記載の多結晶シリコン塊群。
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
1回の操業で10本までの単結晶シリコンインゴットをCZ法で引き上げるマルチプリング用途の多結晶シリコン塊群であって、
バルクから検出されるクロム、鉄、ニッケル、銅、コバルトの不純物濃度の総計が75ppta以下であり、且つ、自然酸化膜ではない酸化膜で被覆された不活性な表面を有する多結晶シリコン塊のみからなる多結晶シリコン塊群。
【請求項7】
一方端が第1の電極に接続され他方端が第2の電極に接続された芯線上にシリコンを析出させて多結晶シリコン棒を成長する気相成長工程と、前記多結晶シリコン棒を反応炉外に取り出す刈取工程と、前記多結晶シリコン棒を多結晶シリコン塊とする破砕工程とを備え、
前記破砕工程に先立ち、前記反応炉外に取り出した多結晶シリコン棒の電極側端から少なくとも70mmまでの多結晶シリコン部分を除去する足切工程を備えている、多結晶シリコン塊群の製造方法。
【請求項8】
前記足切工程において、電極側端から少なくとも155mmまでの多結晶シリコン部分を除去する、請求項7に記載の多結晶シリコン塊群の製造方法。
【請求項9】
前記刈取工程において、前記多結晶シリコン棒の表面を袋状部材で被覆した状態で反応炉外に取り出す請求項7又は8に記載の多結晶シリコン塊群の製造方法。
【請求項10】
前記多結晶シリコン棒を反応炉外に取り出した後に該多結晶シリコン棒の表面を被覆した袋状部材の開口部を封止する請求項9に記載の多結晶シリコン塊群の製造方法。
【請求項11】
前記袋状部材はポリエチレン製袋である請求項9又は10に記載の多結晶シリコン塊群の製造方法。
【請求項12】
前記破砕工程の後工程として洗浄工程を備え、
該洗浄工程は、オゾン水を用いた酸化処理により前記多結晶シリコン塊の表面をシリコン酸化膜で被覆し、該多結晶シリコン塊の表面がシリコン酸化膜で被覆された状態で終了する請求項7乃至11の何れか1項に記載の多結晶シリコン塊群の製造方法。
2 当審において通知した取消理由通知の概要
訂正前の請求項1ないし6に係る特許に対して、平成28年 4月 8日付け及び平成29年 3月 9日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
訂正前の請求項1~6に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
記
甲第1号証:国際公開第2002/068732号
甲第2号証:特開2004-161595号公報
甲第3号証:特開2000-302594号公報
甲第4号証:特開2000-128692号公報
甲第5号証:特開2006-169044号公報
甲第6号証:特開2006-21973号公報
(以下、「甲第1号証」~「甲第6号証」を、それぞれ「甲1」~「甲6」という。)
3 甲各号証の記載
(1)甲1の記載事項及び甲1に記載された発明
甲1には、以下の記載がある。
1a「7. リチャージ管を用いて固形状原料の充填を行うにあたり、 成長させた単結晶を単結晶製造装置内より取り出し、固形状原料を保持したリチャージ管を前記単結晶製造装置内に取り入れ、ルツボ内の残余融液の全表面をヒーターの加熱電力を下げることにより固化させた後にヒーターの加熱電力を上げながら前記固化表面上に前記リチャージ管内の固形状原料を充填し、リチャージ管を前記単結晶製造装置内より取り出した後、前記ルツボ内の固形状原料を全て溶融し、 再び単結晶成長を行うことで複数本の単結晶を成長させることを特徴とする単結晶の製造方法。」(請求項7)
1b「9. 前記リチャージ管による固形状原料の充填操作を複数回繰り返して固形状原料を追加充填することを特徴とする請求の範囲第7項又は第8項に記載の単結晶の製造方法。」(請求項8)
1c「また、従来のバッチ式で原料追加を行なう場合の製造コストを低減する方法として、マルチプーリング(あるいはリチャージ引上げ (RCCZ) ) 法が知られている ・・・。 この方法は、抵抗規格を満足する範囲のドーパント濃度を持つシリコン単結晶を引き上げた後、 引き上げ重量分の棒 (ロッド) 状多結晶原料 (以下、 ロッド状原料と称す。)を吊り下げて石英ルツボ内に残余しているシリコン融液に浸しながら、徐々に溶融させて追加充填し、再度、同様のシリコン単結晶の引き上げを繰り返すことで、一度しか使用できない石英ルツボから複数本のシリコン単結晶を製造し、製造歩留まりを向上させると共に、石英ルツボのコストを低減させようとするものである。
しかしながら、RCCZ法では、引上げワイヤ一に原料を吊り下げるのでシリコン単結晶の取り出しを行った後でないと原料供給ができないため、原料供給とシリコン単結晶の取り出しを並行して行えない問題がある。また、溶融に時間がかかることや、石英ルツボの溶解が大きいことや、重金属が濃縮してしまう等の欠点を有し、高純度シリコン単結晶育成の観点からは融液中の不純物が堆積していくので、引上げ回数が制限される。」(2ページ13行~3ページ2行)
1d「まず、リチャージ管20内に原料を保持する。この時、原料として純度が高く溶解速度の早いナゲット状原料のみが用いられることも多いが、純度が要求されないシリコン単結晶を育成する場合は安価な粒状原料を適宜ナゲット状原料に混ぜることもあり、粒状原料のみも場合によっては存在する。ナゲット状原料のみ、ナゲット状原料および粒状原料、粒状原料のみの場合があるが、いずれも固形状原料と呼ぶ。」(12ページ12行~17行)
甲1の記載事項1a~1dによれば、マルチプーリング法により複数本のシリコン単結晶を製造する際に、純度の高い固形状原料のみを用いることが記載されている。そして、固形状原料は、複数個をリチャージ管に保持して石英るつぼに供給するものであるから、固形状原料の集合物が記載されているといえる。また、固形状原料は、多結晶であることは明らかである。
そうすると、甲1には、
「純度の高い多結晶固形状原料のみからなるマルチプーリング法によるシリコン単結晶製造用の多結晶固形状原料集合物。」
の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
(2)甲2の記載事項及び甲2に記載された発明
甲2には、以下の記載がある。
2a「【請求項6】
化学的気相成長法で製造されかつ0.03ppmaを超えないレベルのバルク不純物と15ppbaを超えないレベルの表面不純物とを有する多結晶シリコン片で構成される多結晶シリコン片群であって制御された粒度分布を有しかつ概して非球状モルフォロジィを有する多結晶シリコン片群から成る流動性チップ。
【請求項7】
・・・ 全バルク金属不純物が4.5ppba以下の量である請求項6に記載の流動性チップ。
【請求項8】
全バルク金属不純物が1ppba以下の量で存在する請求項7に記載の流動性チップ。
【請求項9】
全バルク金属不純物が0.01ppba以下の量であるCrと0.01ppba以下の量であるCuと0.01ppba 以下の量であるFeと0.01ppba以下の量であるNiとを含む請求項8に記載の流動性チップ。」
2b「【請求項11】
請求項6に記載の流動性チップを、初期装填の最大化と、初期充填と、再装填と、再装填の最大化と、再装填の充填と、これらの組合せとから選択された用途において使用することを備えた方法。」
2c「請求項13】
a)チョクラルスキー法でルツボからシリコンインゴットを引き上げる段階と;
b)ルツボ内の溶融シリコンに流動性チップを加える段階であって、該流動性チップが、化学的気相成長法で製造されかつ低レベルのバルク不純物と低レベルの表面不純物とを有する多結晶シリコン片で構成される多結晶シリコン片群であって、しかも制御された粒度分布を有しかつ概して非球状モルフォロジィを有する多結晶シリコン片群から成るところの段階と;
c)任意でルツボにドーパントを加える段階と、を備えた方法。」
2d「【0006】
CZ法の他の欠点は、ルツボが使用により劣化しかつ溶融シリコンの中に不純物が混入するおそれがあるので、通常はルツボを一回の引き上げ毎に交換しなければならないことである。新しいルツボは高価であり、使用したルツボを処分するのも高価である。このため、多数回のインゴットの引き上げに継続して使用でき、溶融シリコンへの汚染物(コンタミネーション)の混入が低減された改良型ルツボの開発が進められている。そのため、最初のインゴット及びそれ以降のインゴットの引き上げ中あるいは引き上げ後に、ルツボに効率よく再装填することが必要である。これまで、溶融物を充填し、ルツボに再装填する種々の方法が提案されてきた。」
2e「【0068】
オプションとしての汚染物除去
上述のようにして得られた制御粒度分布を有する多結晶シリコン片は、任意で汚染物を除去するために磁場に曝してもよい。例えば、汚染物を除去するために多結晶シリコン片を磁石を含むチャンバに通してもよいし、あるいは、磁石を多結晶シリコン片上を通過させてもよい。磁石は希土類磁石あるいは電磁石又はそれらの組合せでもよい。磁石は多結晶シリコン片に直接接触させてもいいし、多結晶シリコン片の近傍にあってもよい。磁石は適当な磁化率を有する微粒子の大部分を除去する。これらの粒子には、鉄やコバルトのような強磁性不純物やタングステンカーバイドのような常磁性不純物、及び、シリコンを細分化化し選別するのに用いられる装置の構成材料の生成に用いられる他の強磁性不純物及び常磁性不純物が含まれる。」
2f「【0071】
オプションとしての表面清浄
多結晶シリコン片は公知の方法で表面清浄することができる。表面清浄は、上述の汚染物除去法に加えて又はその代わりに実施してもよい。例えば、破砕ロッドは米国特許第5,851,303号明細書に開示された方法、すなわち、破砕ロッドをフッ化水素気体、少なくとも0.5%の過酸化水素を含む水溶液に連続して接触させる段階と、その後破砕ロッドを乾燥する段階とを備えた方法によって清浄にすることができる。あるいは、特開平5-4811号公報に開示された方法によって破砕ロッドを清浄にすることができる。あるいはまた、カナダ国特許第954425号明細書又は米国特許第4,971,654号明細書に開示されたような異方性エッチングによって破砕ロッドを表面清浄化することができる。他の好適な表面清浄化方法として米国特許第4,588,571号明細書及び第6,004,402号明細書に開示された方法を含む。」
2g「【0072】
製造された流動性チップはいかなる便利な手段によって、すなわち、手作業で又は自動で流動性チップをポリエチレンバッグに入れることによって包装することができる。」
2h「【0088】
本発明はさらに、CZ法で用いられるルツボを再装填する方法に関するものである。本方法は、ルツボから少なくとも一のインゴットを引き上げる段階とルツボを再装填するためにルツボに流動性チップを装填する段階とを備える。」
2i「【0107】
例1
WC、Co、GC-712(ゼネラル・カーバイド社製、12%Co及び88%WC含有、粒度0.6μmの粉末)、及び、焼結WC/Co粉末をプラスチック上に拡げる。粉末の初期重量を記録する。エリーツ(登録商標)希土類プレート磁石を、2 mm 以下の距離で各粉末状を通過させる。粉末の最終重量を記録する。結果を表1に示す。
【表1】
【0108】
例1は、磁石を用いると多結晶シリコン片から不純物を除去されることを示している。特に、図4のジャークラッシャーで導入されたWC/Co不純物が例1の方法を用いて除去されている。」
2j「【0111】
例3
多結晶シリコンのU型ロッドはジーメンス型ベルジャー反応器の冷水壁から得られる。炭素ソケット端部の除去後、ポリエチレンテーブル上で低汚染衝撃工具を使ってU型ロッド状のシリコンを4インチ片に破砕する。得られたシリコンチャンクを図4で示したジャークラッシャー400に供給する。放出スロット418の幅は最近接距離で15 mm までに制限する。多結晶シリコン片が放出スロット418を通り抜けると、それらは、多結晶シリコン片からダストを除去するように作用する空気混入ダスト収集ゾーンを通過する。得られた多結晶シリコン片はポリエチレンライニングされた瓶に収集する。収集された多結晶シリコン片を同じ装備で再び粉砕する。粉砕段階の後、シリコン片の図5のステップデッキ選別器500への流速が調整されるように作用するUHMWPEホッパーに、収集された多結晶シリコン片を移送する。デッキは、製品粒度分布が通常1mmから12mmの範囲に維持されるように調整する。40kgの量の多結晶シリコン片を処理する。バルク不純物(ホウ素、全ドナー、炭素、燐、鉄、ニッケル、銅、及びクロム)と表面不純物(鉄、ニッケル、銅、クロム、ナトリウム、及び亜鉛)とを測定する。表面純度分析に対して、多結晶シリコン片の4個の試料が酸洗されたPTFA容器に収集される。」
2k「【0112】
これらの試料はバルク不純物と表面不純物とを分析する。バルク金属値は、冷凍された探針の酸分解を用いてエッチングされたフローティングゾーンコアから得る。コアは多結晶シリコンロッドから得る。バルク金属値を得るための手順は米国特許第4,912,528号明細書に記載されている。金属濃度は原子吸収分析から測定する。」
2l 「【0116】・・・得られたシリコンの純度は以下の表3・・・に示す。・・・
【表3】
」
甲2の記載事項2i~2lによれば、バルク不純物として、鉄、ニッケル、銅、及びクロムをそれぞれ0.01ppba含む多結晶シリコン片が記載されている。 ここで、0.01ppba=10pptaである。
上記多結晶シリコン片は、記載事項2iによれば、ロッド状シリコンを破砕、細分化することで得られるものであるから、多結晶シリコン片群を構成する。
次に、記載事項2jには、バルク不純物としてコバルトの記載はないが、シリコン単結晶を製造する際に、コバルトは、鉄等と同様に除去すべき重金属不純物として周知の金属元素である。
そうすると、記載事項2jに記載の多結晶シリコン片は、コバルト含有量が検出限界値未満であるか、あるいは多くとも同じ重金属である鉄等の含有量未満であると推認されるから、甲2に記載の多結晶シリコン片のバルク不純物は、クロム、鉄、ニッケル、銅、コバルトの総計が75ppta以下の範囲であると認められる。
以上のことから、甲2には、
「バルク不純物として、クロム、鉄、ニッケル、銅、コバルトの総計が75ppta以下の範囲である単結晶シリコン製造用の多結晶シリコン片群。」の発明(以下、甲2発明という。)が記載されているといえる。
(3)甲3の記載事項
甲3には、多結晶シリコン中の重金属濃度を、ICP質量分析計により測定することが記載されている。
(4)甲4の記載事項
甲4には、塊状又は粒状のポリシリコンを溶存オゾン水溶液で洗浄してポリシリコンの表面に酸化膜を形成する工程と、前記溶存オゾン水溶液で洗浄したポリシリコンをフッ酸で洗浄して酸化膜を除去する工程とを備えたポリシリコンの洗浄方法が記載されている。
(5)甲5、6の記載事項
甲5、6には、チョクラルスキー法によりシリコン単結晶を製造する際に、シリコン単結晶を引き上げた後、多結晶原料を追加装入することを繰り返して複数本のシリコン単結晶を製造するマルチプリング法について記載されている。
4 対比・判断
(1)本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比する。
本件発明1の「多結晶シリコン塊」は、本件明細書【0006】によれば、多結晶シリコン棒全体を、粉砕装置あるいはハンマ等を用いて破砕し、CZ法による単結晶シリコンインゴットの育成に使用する石英ルツボに投入しやすい大きさとしたものである。
一方、甲1発明の「多結晶固形状原料」は、甲1の記載事項1a,1dなどによれば、ナゲット状原料や粒状原料であって、これらは、ルツボ内に投入するために適した大きさであるといえる。
そうすると、甲1発明の「多結晶固形状原料」、「多結晶固形状原料集合物」は、それぞれ本件発明1の「多結晶シリコン塊」、「多結晶シリコン塊群」に相当する。
そして、甲1発明の「マルチプーリング法」は、本件発明1の「マルチプリング法」に相当する。
以上のことから、本件発明1と甲1発明とは、
「高純度の多結晶シリコン塊のみからなるマルチプリング法による単結晶シリコン製造用の多結晶シリコン塊群」
である点で一致し、次の点で相違している。
相違点1:高純度の多結晶シリコン塊として、本件発明1は、バルクから検出されるクロム、鉄、ニッケル、銅、コバルトの不純物濃度の総計が150ppta以下であるのに対して、甲1発明は、クロム、鉄、ニッケル、銅、コバルトの不純物濃度について何ら規定されていない点。
相違点2:本件発明1は、自然酸化膜ではない酸化膜で被覆された不活性な表面を有するものであるのに対して、甲1発明は、そのような表面を有することは明らかでない点。
上記相違点について検討する。
●相違点1について
単結晶シリコン製造用の多結晶シリコンは、高純度であるほど望ましいことは、技術常識である。また、マルチプリング法において、高純度の多結晶シリコンが必要とされていることは、甲1の記載事項1c、1dからも明らかである。
一方、甲2の記載事項2b~2dによれば、甲2発明の多結晶シリコン片群は、マルチプリング法に用いることが想定されている。
そして、甲2発明の多結晶シリコン片群は、甲2の【0030】によれば、0.2mmから45mmの範囲でもよいことが記載されているのに対し、甲1発明の「多結晶固形状原料」は、甲1の記載事項1dによれば、「ナゲット状原料、ナゲット状原料及び粒状原料、粒状原料のみの場合もあるが、いずれも固形状原料と呼ぶ。」とされていることから、甲2発明の「多結晶シリコン片群」は、甲1発明の「多結晶固形状原料集合物」に相当するといえる。
そうすると、マルチプリング法に用いる甲1発明の多結晶固形状原料集合物として、甲2発明の「バルク不純物として、クロム、鉄、ニッケル、銅、コバルトの総計が75ppta以下の範囲である単結晶シリコン製造用の多結晶シリコン片群」を用いることは、当業者であれば容易に想到し得たものである。
●相違点2について
相違点2について、特許異議申立人は、平成29年8月28日付け意見書において、概略以下のように主張している。
甲2の記載事項2fによれば、多結晶シリコンを過酸化水素水で処理することが記載され、シリコンを過酸化水素を含む水溶液に接触させれば、参考資料1~3(参考資料1:特開平6-40798号公報、参考資料2:特開2002-64093号公報、参考資料3:特開昭62-293724号公報)の記載から明らかなように、シリコン表面に酸化膜が形成されるから、甲2の過酸化水素水処理によって、多結晶シリコンの表面には酸化膜が形成される。
したがって、甲2には、「自然酸化膜ではない酸化膜で被覆された表面を有する多結晶シリコン塊」が開示されているから、相違点2も、甲2に記載された事項である。
また、特許異議申立人は、特許異議申立書において、多結晶シリコン塊の表面がシリコン酸化膜で被覆されていることが特定されている訂正前の請求項5に対して、甲4には、溶存オゾン水溶液の洗浄により多結晶シリコンの表面に酸化膜が形成されることが開示されているから、シリコン酸化膜の被覆を設けることは当業者が容易に想到し得る程度のものにすぎないと主張している(特許異議申立書23ページ9行目~22行目)。
そこで検討すると、本件発明1において、多結晶シリコン塊を「自然酸化膜ではない酸化膜で被覆された不活性な表面を有する」ものとする理由は、本件明細書【0072】によれば、多結晶シリコン塊を清浄化した後においても、多結晶シリコンを清浄な状態に保つためであるといえる。
一方、甲2の記載事項2fは、多結晶シリコン片を公知の方法で表面清浄することに関するものであり、表面清浄の一つの選択肢として、破砕ロッドを気相のフッ化水素を接触させる工程、及び過酸化水素を含む水溶液に連続して接触させる工程が記載されている。
ここで、上記参考資料1~3によれば、表面にシリコン酸化膜を形成するために、シリコンを過酸化水素の水溶液で処理することは知られている。
しかし、甲2の記載事項2fにおいて、上記表面清浄処理が開示されているとして引用される米国特許第5851303号明細書(対応日本語公報:特開平10-95696号公報)を参照すると、当該表面清浄処理は、多結晶シリコンの表面の金属不純物などを除去するための処理であるといえ、実施例では、水性フッ化水素溶液をシリコン試料に添加した後、さらに過酸化水素水溶液を添加して金属不純物を回収する処理を行うことが記載されているにとどまり、本件発明1が特定事項とする多結晶シリコンを「不活性な表面」となるように酸化膜を形成しているものとまではいえない。
また、記載事項2fで挙げられている他の文献に開示の表面清浄処理においても、酸化膜で被覆された多結晶シリコン塊を得ることは開示されていない。
したがって、甲2には、多結晶シリコン塊が「自然酸化膜ではない酸化膜で被覆された不活性な表面を有する」ことが記載されているとはいえない。
次に、甲4は、溶存オゾン水溶液で洗浄してポリシリコンの表面に酸化膜を形成しているが、溶存オゾン水溶液で洗浄工程と、フッ酸で洗浄する工程を連続的に行うポリシリコンの洗浄工程において、当該酸化膜はフッ酸により洗浄で除去されるものである。
したがって、甲4は、本件発明1の「自然酸化膜ではない酸化膜で被覆された不活性な表面を有する多結晶シリコン塊」を開示しているとはいえない。
以上のことから、甲2、4、さらには甲3、5、6を参照しても、上記相違点2に係る事項を導出できるとはいえない。
そして、本件発明1は、「多結晶シリコン塊の表面をシリコン酸化膜で被覆すると、多結晶シリコン塊の表面は不活性になるので、金属粒が再付着し難くなる。また、シミと呼ばれる汚れが発生し難くなる。さらに、金属粒が付着する場合でもシリコン酸化膜を介して多結晶シリコン塊に付着するので金属粒と多結晶シリコンとの結合力は弱く、多結晶シリコン塊は上述の5元素金属の合計濃度が75ppta以下の清浄な状態に保たれる。」(本件明細書【0072】)という効果を奏するものであり、このような効果は、甲1~6からは予測し得ないものである。
よって、本件発明1は、甲1~6に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。
なお、特許異議申立人は、上記の主張の他に、平成29年8月28日付け意見書において、本件発明1は、「不活性な表面」及び「自然酸化膜ではない酸化膜」の記載は明確ではない旨主張している。
しかし、本件明細書【0032】、【0045】~【0066】の記載を参照すれば、本件発明1の「自然酸化膜」は、多結晶シリコン棒を破砕して得られた多結晶シリコン塊に、破砕工程までに自然に形成された酸化膜を意味することは明らかであり、本件明細書【0066】~【0073】を参照すると、「自然酸化膜ではない酸化膜」とは、多結晶シリコン塊の表面に形成されている上記自然酸化膜を除去することで清浄化された多結晶シリコン塊の表面を被覆したシリコン酸化膜であることも明らかである。
そして、多結晶シリコン塊が上記「自然酸化膜ではない酸化膜」を有することで「不活性」になるとされているから、「自然酸化膜ではない酸化膜」の存在が「不活性な表面」を構成することを意味することも明らかである。
したがって、本件発明1は明確であるから、上記特許異議申立人の主張も採用できない。
(2)本件発明2~4、6について
本件発明2~4は、本件発明1をさらに限定したものであるから、本件発明1と同様に、甲1~6に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。
また、本件発明6は、本件発明1で特定される事項に1回の操業で10本までの単結晶シリコンインゴットをCZ法で引き上げるマルチプリング用途であることをさらに特定した多結晶シリコン塊群の発明であるから、本件発明1と同様に、甲1~6に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。
5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
特許異議申立人は、上記取消理由以外に、以下の理由を申立てた。
特許法第29条第2項
● 請求項7~11に係る発明は、甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
● 請求項12に係る発明は、甲2、4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
上記理由について検討する。
(1)本件発明7について
特許異議申立人は、概略以下のとおり主張している。
本件発明7において、反応炉外に取り出した多結晶シリコン棒の電極端側から少なくとも70mmまでの多結晶シリコン部分を除去する足切工程を備えているのに対し、前記足切工程は、甲2に記載の炭素ソケット端部の除去と同一であるところ、甲2には、ソケット端部からどの程度の距離で切断するかの記載はないが、炭素ソケットが不純物となり得る炭素で構成されていることを考えれば、汚染低減の観点からある程度の余長をもって除去することは当然であるから、除去する端部の長さは、当業者が適宜設定しうる事項である。また、甲2の多結晶シリコン塊のバルク金属濃度を考慮すれば、本件と同程度以上の余長で切断を行っている蓋然性が高い。
したがって、本件発明7は、甲2の記載に基いて当業者が容易に想到しうる程度のものにすぎない(特許異議申立書25ページ1行目~26ページ7行目)。
上記主張について検討すると、記載事項2a、2l~2iなどによれば、甲2は、低レベルの金属のバルク不純物と表面不純物とを有する多結晶シリコン片群を開示するが、U型ロッドから除去されるシリコン部分の炭素ソケット端部からの距離について何ら記載されておらず、また、当該距離と、炭素ソケット端部を除去した後の多結晶シリコン片に含まれる不純物濃度とが関連することについて何ら記載も示唆もされていない。
これに対して、本件発明7は、「単結晶シリコンの品質低下を招く重金属不純物であるクロム、鉄、ニッケル、銅、コバルトの含有量の総計が低い清浄な高純度の多結晶シリコン塊群を提供する」(本件明細書【0025】)という課題を解決するために、「反応炉外に取り出した多結晶シリコン棒の電極側端から少なくとも70mmまでの多結晶シリコン部分を除去する足切工程を備えている」というものである。
そうすると、上記距離を設定して多結晶シリコン片の不純物濃度を制御することが何ら記載も示唆もされていない甲2から、U型ロッドから除去されるシリコン部分の炭素ソケット端部からの距離を少なくとも70mmとすることを当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
したがって、本件発明7は、甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。
(2)本件発明8~11について
本件発明8~11は、 本件発明7をさらに特定する多結晶シリコン塊群の製造方法の発明である。
そうすると、上記(1)と同様の理由により、本件発明8~11は、甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。
(3)本件発明12について
本件発明12は、 本件発明7をさらに特定する多結晶シリコン塊群の製造方法の発明である。
そして、甲4は、ポリシリコンの洗浄に関する発明を開示しているにすぎない。
そうすると、本件発明12は、甲2、4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。
第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1~4、6~12に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1~4、6~12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項5に係る特許は、訂正により削除されたため、本件特許の請求項5に対して、特許異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2016-700036