特許異議申立
2023-700663
R-T-B系焼結磁石
- 審判番号
- 2023-700663
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-160472
- 登録番号
- 7196468
- 請求日
- 2023年06月26日
- 審決日
- 2024年03月27日
- 公報発行日
- 2024年06月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】大同特殊鋼株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人上野特許事務所
- 【異議申立人】齋藤 忠胤
- 審判長/審判官
- 審判長 山田 正文
- 審判官 井上 信一
- 審判官 畑中 博幸
- 分類
- P1651.113-YAA(H01F) / P1651.121-YAA(H01F) / P1651.536-YAA(H01F) / P1651.537-YAA(H01F)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7196468号発明「R-T-B系焼結磁石」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7196468号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。
特許第7196468号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。
特許第7196468号の請求項6に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7196468号の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、平成30年8月29日に出願され、令和4年12月19日にその特許権の設定登録がなされ、同年12月27日に特許掲載公報が発行された。その後、本件特許に対して特許異議の申立てがなされたものであり、以後の本件に係る手続の概要は以下のとおりである。
令和5年 6月26日 特許異議申立人 齋藤 忠胤による請求項1な
いし6に係る特許に対する特許異議の申立て
令和5年10月 5日付け 取消理由通知
令和5年12月 8日 特許権者による訂正請求書、意見書の提出
令和6年 2月19日 特許異議申立人による意見書の提出
第2 訂正の適否
1.訂正の内容
令和5年12月8日の訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)は、特許第7196468号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし6について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は、以下の訂正事項のとおりである(なお、下線は訂正部分を示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「残部がFeおよび不可避的不純物よりなる組成を有し、」と記載されているのを、「残部がFeおよび不可避的不純物よりなる組成を有し、O、C、Nの含有量が、Oについて700ppm未満、Cについて500ppm未満、Nについて400ppm未満であり、」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~5も同様に訂正する)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「前記ホウ化物相は~エピタキシャル成長している」と記載されているのを、「前記ホウ化物相は~エピタキシャル成長しており、前記主相の結晶粒の平均粒径が、4μm以下である」に訂正する(請求項2の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3~5も同様に訂正する)。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項6を削除する。
2.訂正の適否についての判断
(1)一群の請求項について
訂正前の請求項1ないし6について、請求項2ないし6は請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1ないし6に対応する訂正後の請求項1ないし6は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア.訂正事項1について
訂正事項1は、請求項1に係る発明において、「R-T-B系焼結磁石」の組成について「O、C、Nの含有量が、Oについて700ppm未満、Cについて500ppm未満、Nについて400ppm未満」であることの限定を付加するものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、「R-T-B系焼結磁石」の組成について上記限定を付加することに関して、本件特許明細書の段落【0028】には「・・R-T-B系焼結磁石の具体的な組成は、・・それら以外の元素を含有してもよい。しかし、不純物元素であるO,C,Nの含有量は、少ない方が望ましく、・・さらには、Oについて700ppm未満、Cについて500ppm未満、Nについて400ppm未満であることが好ましい。」と記載され、また、段落【0054】には「・・また、比較例および実施例のいずれにおいても、不純物の含有量として、Oが700ppm未満、Cが500ppm未満、Nが400ppm未満であることを確認している。」と記載されている。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
また、訂正事項1は上述のとおり、請求項1に係る発明において、「R-T-B系焼結磁石」の組成について「O、C、Nの含有量が、Oについて700ppm未満、Cについて500ppm未満、Nについて400ppm未満」であることの限定を付加することによって特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
イ.訂正事項2について
訂正事項2は、請求項1を引用する請求項2に係る発明において、R-T-B系合金の結晶粒よりなる「主相」について、「結晶粒の平均粒径が、4μm以下」であることの限定を付加するものである。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、R-T-B系合金の結晶粒よりなる「主相」について上記限定を付加することに関して、本件特許明細書の段落【0040】には「・・後述するように、組織において粒界が占める割合を高め、粒界に生成するホウ化物相3の量を増加させる観点から、主相結晶粒1の平均粒径で、4μm以下となっていることが好ましい。」と記載され、また、段落【0049】にも「・・主相結晶粒1の平均粒径を、おおむね、4μm以下とすることが好ましい。」と記載されている。
したがって、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
また、訂正事項2は上述のとおり、請求項2に係る発明において、R-T-B系合金の結晶粒よりなる「主相」について、「結晶粒の平均粒径が、4μm以下」であることの限定を付加することによって特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
ウ.訂正事項3について
訂正事項3は、請求項6を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(3)独立特許要件について
訂正事項1ないし3は「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであるが、本件においては、訂正前の請求項1ないし6の全請求項について特許異議の申立てがなされているので、訂正前の請求項1ないし6に係る訂正事項1ないし3に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
3.訂正の適否についてのむすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。
第3 当審の判断
1.本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし6に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明6」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(なお、下線は訂正された箇所を示す。)。
「【請求項1】
希土類元素Rと、FeまたはFeの一部をCoで置換したものよりなる金属元素Tと、ホウ素と、希土類および金属元素Tを除く金属元素であり、ホウ化物を形成するホウ化物形成元素Mと、を含有し、
質量%で、
希土類元素の合計で、27%≦R≦33%、
0%≦Co≦5%、
0%≦Al≦1.0%、
0%≦Cu≦0.5%、
0.01%≦M≦0.5%、
0.9%≦B≦1.2%を含有し、
残部がFeおよび不可避的不純物よりなる組成を有し、
O、C、Nの含有量が、Oについて700ppm未満、Cについて500ppm未満、Nについて400ppm未満であり、
R-T-B系合金の結晶粒よりなる主相と、
前記主相の結晶粒の優先成長面に生成した、前記ホウ化物形成元素Mのホウ化物を基本とする化合物相よりなるホウ化物相と、を有し、
前記ホウ化物相は、前記主相の結晶粒の前記優先成長面のうち、2つの結晶粒が隣接する二粒子粒界に面する優先成長面と、粒界三重点に面する優先成長面の両方に形成されるR-T-B系焼結磁石。
ただし、前記組成において、Co、Al、Cuについては、含有されない場合も含む。
【請求項2】
前記ホウ化物相は、前記主相の結晶粒の前記優先成長面に、エピタキシャル成長しており、
前記主相の結晶粒の平均粒径が、4μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のR-T-B系焼結磁石。
【請求項3】
前記主相は、正方晶よりなり、優先成長方位は、a軸方向およびb軸方向であり、
前記優先成長面は、(110)面、(100)面、(010)面の少なくとも1つよりなることを特徴とする請求項1または2に記載のR-T-B系焼結磁石。
【請求項4】
前記ホウ化物形成元素Mは、Ti、Zr、Hf、Nb、Crの少なくとも1種よりなることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のR-T-B系焼結磁石。
【請求項5】
前記主相は、正方晶のNd2Fe14B相、前記ホウ化物相は、六方晶のZrB2構造を基本とする化合物相よりなり、
前記ホウ化物相は、Nd2Fe14B(110)[001]//ZrB2(001)[100]の方位関係で、前記主相の結晶粒の前記優先成長面にエピタキシャル成長していることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のR-T-B系焼結磁石。
【請求項6】
(削除)」
2.取消理由通知に記載した取消理由について
(1)取消理由の概要
令和5年10月5日付け取消理由通知に記載した取消理由の概要は、次のとおりである。
(1-1)理由1-1(新規性、引用例1を主引例とする場合)
請求項1ないし6に係る発明は、下記の引用例1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項1ないし6に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(1-2)理由1-2(新規性、引用例2を主引例とする場合)
請求項1ないし6に係る発明は、下記の引用例2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項1ないし6に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
記
引用例1:国際公開第2004/029996号(甲第1号証)
引用例2:国際公開第2013/054842号(甲第3号証)
(2)引用例の記載事項
(2-1)引用例1
取消理由通知において引用した引用例1(国際公開第2004/029996号、甲第1号証)には、「R-T-B希土類永久磁石」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「1.R2T14B相(Rは希土類元素の1種又は2種以上(但し希土類元素はYを含む概念である)、TはFe又はFe及ぴCoを必須とする1種又は2種以上の遷移金属元素)からなる主相と、
前記主相よりRを多く含み、板状又は針状の生成物が存在する粒界相とを備える焼結体からなることを特徴とするR-T-B系希土類永久磁石。
2.前記生成物は、R2T14B相に沿って存在していることを特徴とする請求項1に記載のR-T-B系系希土類永久磁石。
・・・・(中 略)・・・・
5.前記焼結体はZrを含み、前記生成物がZrに富む組成を有していることを特徴とする請求項1に記載のR-T-B系希土類永久磁石。
・・・・(中 略)・・・・
7.前記焼結体中の酸素量が2000ppm以下であることを特徴とする請求項1に記載のR-T-B系希土類永久磁石。
8.前記焼結体は、R:28~33wt%、B:0.5~1.5wt%、Al:0.03~0.3wt%、Cu:0.3wt%以下(0を含まず)、Zr:0.05~0.2wt%、Co:4wt%以下(0を含まず)、残部実質的にFeからなる組成を有することを特徴とする請求項1に記載のR-T-B系希土類永久磁石。」(特許請求の範囲、19~20頁)
イ.「本発明者はZrを含む所定組成のR-T-B系希土類永久磁石中の3重点粒界相内或いは2粒子粒界相内に特定の生成物が存在する場合に、焼結過程におけるR2T14B相(結晶粒として存在する)の成長が抑制され、焼結温度幅を適切な範囲内で広げることができることを知見した。
本発明は以上の知見に基づくものであり、R2T14B相(Rは希土類元素の1種又は2種以上 (但し希土類元素はYを含む概念である)、Tは Fe又はFe及びCoを必須とする1種又は2種以上の遷移金属元素)からなる主相と、主相よりRを多く含み、板状又は針状の生成物が存在する粒界相とを備える焼結体からなることを特徴とするR-T-B系希土類永久磁石を提供する。
本発明のR-T-B系希土類永久磁石において、生成物は、粒界相内であって、かつ R2T14B相に沿つて存在することが重要である。
・・・・(中 略)・・・・
本発明のR-T-B系希土類永久磁石において、焼結体中にZrを含み、生成物がZrに富む組成を有していることが望ましい。 この生成物は、短径方向にZrとRが周期的な組成揺らぎを有する。
板状又は針状の生成物を粒界相内に存在させることによる焼結温度幅の拡大という効果は、焼結体中の酸素量が2000ppm以下の場合に顕著となる。
本発明のR-T-B系希土類永久磁石において、R:28~33wt%、B:0.5~1.5wt%、Al:0.03~0.3wt%、Cu:0.3wt%以下(0を含まず)、Zr:0.05~0.2wt%、Co:4wt%以下(0を含まず)、残部実質的にFeからなる組成とすることが望ましい。」(2頁25行~3頁20行)
ウ.「本発明によって得られるR-T-B系希土類永久磁石は、よく知られているように、R2T14B相(Rは希土類元素の1種又は2種以上(但し、希土類元素はYを含む概念である)、TはFe又はFe及ぴCoを必須とする遷移金属元素の1種又は2種以上)からなる主相と、この主相よりRを多く含む粒界相とを少なくとも含む焼結体から構成される。
本発明のR-T-B系希土類永久磁石は、焼結体の粒界相である3重点粒界相及び2粒子粒界相を含んでいる。この3重点粒界相及び2粒子粒界相に以下の特徴を有する生成物が存在する。 」(5頁7~14行)
エ.「これに対し、Zr添加系での挙動を考える。通常のR-T-B系希土類永久磁石にZrを添加しても、粒成長を抑制する様な効果は見られず、添加量の増加に伴い残留磁束密度が低下する。しかし、Zrを添加したR-T-B系希土類永久磁石において酸素量を低減した場合、高い磁気特性が広い焼結温度範囲で得られるようになり、酸素量よりも微量のZrの添加によって十分その粒成長を抑制する効果を発揮する。
これらのことから、Zrの添加効果は酸素量が減少し、形成される希土類酸化物相の量が著しく少なくなった場合に現れると言える。つまり、希土類酸化物相が担っていた役割をZrが生成物を形成することで代替していると考えられる。」(8頁17~25行)
オ.「本発明のR-T-B系希土類永久磁石は、前述したZrに富む生成物を生成させるために、Zrを0.03~0.25wt%の範囲で含有することが望ましい。R-T-B系希土類永久磁石の磁気特性向上を図るために酸素含有量を低減する際に、Zrは焼結過程での結晶粒の異常成長を抑制する効果を発揮し、焼結体の組織を均一かつ微細にする。したがって、Zrは酸素量が低い場合にその効果が顕著になる。Zrの望ましい量は0.05~0.2wt%、さらに望ましい量は0.1~0.15wt%である。
本発明のR-T-B系希土類永久磁石は、その酸素量を2000ppm以下とする。酸素量が多いと非磁性成分である希土類酸化物相が増大して、磁気特性を低下させる。そこで本発明では、焼結体中に含まれる酸素量を、2000ppm以下、望ましくは1500ppm以下、さらに望ましくは1000ppm以下とする。但し、単純に酸素量を低下させたのでは、粒成長抑制効果を有していた酸化物相が減少し、焼結時に十分な密度上昇を得る過程で粒成長が容易に起こる。そこで、本発明では、焼結過程での結晶粒の異常成長を抑制する効果を発揮するZrを、R-T-B系希土類永久磁石中に所定量含有させる。」(10頁25行~11頁11行)
カ.「<第1実施例>
1)原料合金
第10図に示した組成の原料合金(低R合金及び高R合金)をストリップキャスト法により作製した。なお、種別Aは低R合金にZrを含み、種別BはBを含まない高R合金にZrを含むものである。Zrを含まない種別Cは、本発明に対する比較例である。
・・・・(中 略)・・・・
4)成形工程
得られた微粉末を14.0kOeの配向磁場中で1.2t/cm2の圧力で成形を行い、成形体を得た。
5)焼結、時効工程
この成形体を真空中において1010~1090℃で4時間焼結した後、急冷した。次いで得られた焼結体に800℃×1時間と550℃×2.5時間(ともにAr雰囲気中)の2段時効処理を施した。
得られた永久磁石の化学組成を第10図の焼結体組成の欄に記載してある。なお、各磁石の酸素量、窒素量を第15図に示すが、酸素量は1000ppm以下、窒素量は500ppm以下と低い値となっている。」(13頁9行~14頁11行)
キ.「
[図:0001411314000001.jpg]
」
ク.「
[図:0001411314000002.jpg]
」
上記「ア.」ないし「ク.」から以下のことがいえる。
・引用例1に記載の「R-T-B希土類永久磁石」は、上記「ア.」の請求項1、「イ.」の記載によれば、R2T14B相(Rは希土類元素の1種又は2種以上、TはFe又はFe及びCoを必須とする1種又は2種以上の遷移金属元素)からなる主相と、板状又は針状の生成物が存在する粒界相とを備える焼結体からなるR-T-B希土類永久磁石に関するものである。
・上記「ア.」の請求項8、「イ.」の記載によれば、R-T-B希土類永久磁石における焼結体の組成は、R:28~33wt%、B:0.5~1.5wt%、Al:0.03~0.3wt%、Cu:0.3wt%以下(0を含まず)、Zr:0.05~0.2wt%、Co:4wt%以下(0を含まず)、残部実質的にFeからなるものであり、上記「カ.」の記載、「キ.」(第10図)によれば、第1実施例の種別Aに係る永久磁石では、Ndが25.0wt%、Prが5.3wt%、Dyが0.3wt%、Coが0.5wt%、Cuが0.05wt%、Alが0.23wt%、Bが1.0wt%、Zrが0.10wt%、残部がFeである。
・上記「ア.」の請求項7、「イ.」、「エ.」、「オ.」の記載によれば、R-T-B希土類永久磁石における焼結体は、酸素量が2000ppm以下に低減されるものであるところ、上記「カ.」の記載、「ク.」(第15図)によれば、第1実施例の種別Aに係る永久磁石における焼結体は成形体を真空中において焼結した後、Ar雰囲気中で2段時効処理を施して得られたものであって、酸素量は670ppmであり、また、窒素量が350ppmである。
・上記「ア.」の請求項2及び請求項5、「イ.」ないし「オ.」の記載によれば、R-T-B希土類永久磁石における焼結体の粒界相である3重点粒界相及び2粒子粒界相には、Zrに富む組成の生成物がR2T14B相からなる主相に沿って存在し、Zrは焼結過程における主相の結晶粒の異常成長を抑制する効果を発揮するものである。
以上のことから、特に第10図、第15図に示される第1実施例の種別Aに係る組成の永久磁石に着目し、上記記載及び図面を総合勘案すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。
「R2T14B相(Rは希土類元素の1種又は2種以上、TはFe又はFe及びCoを必須とする1種又は2種以上の遷移金属元素)からなる主相と、板状又は針状の生成物が存在する粒界相とを備える焼結体からなるR-T-B希土類永久磁石であって、
前記焼結体の組成は、Ndが25.0wt%、Prが5.3wt%、Dyが0.3wt%、Coが0.5wt%、Cuが0.05wt%、Alが0.23wt%、Bが1.0wt%、Zrが0.10wt%、残部がFeであり、
前記焼結体は成形体を真空中において焼結した後、Ar雰囲気中で2段時効処理を施して得られたものであって、酸素量が670ppm、窒素量が350ppmであり、
前記焼結体の粒界相である3重点粒界相及び2粒子粒界相には、Zrに富む組成の前記生成物が前記R2T14B相からなる主相に沿って存在し、当該Zrは焼結過程における前記主相の結晶粒の異常成長を抑制する効果を発揮する、R-T-B希土類永久磁石。」
(2-2)引用例2
取消理由通知において引用した引用例2(国際公開第2013/054842号、甲第3号証)には、「R-T-B系焼結磁石」について、以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「[請求項1] 希土類元素、遷移元素及びホウ素を含む組成を有するR-T-B系焼結磁石であって、
前記希土類元素として、ディスプロシウムを実質的に含有せず、
前記希土類元素、前記遷移元素及びホウ素を含む組成を有する結晶粒と、該結晶粒の間に形成された粒界領域と、を備え、
3つ以上の前記結晶粒に囲まれた前記粒界領域である三重点領域は、前記希土類元素、前記遷移元素及びホウ素を含むとともに、前記結晶粒よりも希土類元素の質量比率が高い組成を有しており、
断面における前記三重点領域の面積の平均値は2μm2以下であり、当該面積の分布の標準偏差は3以下である、R-T-B系焼結磁石。
(但し、Rはディスプロシウム以外の希土類元素、Tは遷移元素、Bはホウ素を示す。)」
イ.「[0020] 図1は、本発明の好適な実施形態に係るR-T-B系焼結磁石10の斜視図である。図2は、本発明の好適な実施形態に係るR-T-B系焼結磁石10の断面構造を模式的に示す断面図である。図2に示すように、本実施形態のR-T-B系焼結磁石10は、複数の結晶粒12と、この結晶粒12間の粒界領域であって3つ以上の結晶粒12に囲まれてなる三重点領域14と、を有する。なお、図1には示していないが、隣接する2つの結晶粒12の間にも粒界領域が形成されていてもよい。」
ウ.「[0025] R-T-B系焼結磁石10は、Al,Cu,Ga,Zn及びGeから選ばれる少なくとも一種の元素を含むことが好ましい。これによって、R-T-B系焼結磁石10の保磁力を一層高くすることができる。また、R-T-B系焼結磁石10は、Ti,Zr,Ta,Nb,Mo及びHfから選ばれる少なくとも一種の元素を含むことが好ましい。このような元素を含むことによって、焼成中の粒成長を抑制することが可能となり、R-T-B系焼結磁石10の保磁力を一層高くすることができる。」
エ.「[0031] R-T-B系焼結磁石10における酸素の含有量は、磁気特性と耐食性とを一層高水準で両立する観点から、好ましくは300~3000ppmであり、より好ましくは500~1500ppmである。R-T-B系焼結磁石10における窒素の含有量は、同様の観点から、200~1500ppmであり、より好ましくは500~1500ppmである。R-T-B系焼結磁石10における炭素の含有量は、同様の観点から、500~3000ppmであり、より好ましくは800~1500ppmである。」
オ.「[0081](実施例1)<合金薄片の作製>
図4に示すような合金薄片の製造装置を用いて、次の手順でストリップキャスト法を行った。まず、合金薄片の組成が表1に示す元素の割合(質量%)となるように、各構成元素の原料化合物を配合し、高周波溶解炉10で1300℃に加熱して、R-T-B系の組成を有する合金溶湯12を調製した。この合金溶湯12を、タンディッシュを介して所定の速度で回転している冷却ロール16のロール面17上に注いだ。ロール面17上における合金溶湯12の冷却速度は、1800~2200℃/秒とした。
・・・・(中 略)・・・・
[0089]<R-T-B系焼結磁石の製造>
次に、得られた合金薄片を用いて、以下の手順でR-T-B系焼結磁石を作製した。まず、得られた合金薄片に室温で水素を吸蔵させた後、アルゴンガス雰囲気中、600℃、1時間の脱水素処理を行うことにより、水素粉砕粉を得た。この水素粉砕粉に、粉砕助剤としてオレイン酸アミドを0.1重量%添加して混合した。その後、不活性ガスを用いてジェットミルで粉砕し、粒径が2~3μmの合金粉末を得た。なお、合金粉末の粒径は粉砕機内のロータ式分級機で制御した。
[0090] この合金粉末を、電磁石中に配置された金型内に充填し、磁場中で成形して成形体を作製した。成形は、15kOeの磁場を印加しながら1.2トン/cm2に加圧して行った。その後、成形体を、真空中、930~1030℃で4時間焼成した後、急冷して焼結体を得た。得られた焼結体に、800℃で1時間、及び、540℃で1時間(ともにアルゴンガス雰囲気中)の2段階の時効処理を施して、実施例1のR-T-B系焼結磁石を得た。
・・・・(中 略)・・・・
[0092](実施例2~12)
冷却ロールのロール面を加工して、凸部の高さの平均値H、凸部の間隔の平均値W、及び表面粗さRzを表2のとおりに変更したこと、及び原料を変更して合金薄片の組成を表1のとおりに変更したこと以外は、実施例1と同様にして実施例1~12のR-T-B系合金薄片を得た。実施例1と同様にして、実施例2~12の合金薄片の評価を行った。そして、実施例1と同様にして実施例2~12のR-T-B系焼結磁石を作製し、評価を行った。これらの結果を表2,3に示す。」
・・・・(中 略)・・・・
[0100][表1]
[図:0001411314000003.jpg]
・・・・(中 略)・・・・
[0108](酸素、窒素及び炭素の含有量)
一般的なガス分析装置を用いて、各実施例及び各比較例のR-T-B系焼結磁石のガス分析を行って、酸素、窒素及び炭素の含有量を求めた。その結果を表4に示す。
・・・・(中 略)・・・・
[0110][表4]
[図:0001411314000004.jpg]
」
上記「ア.」ないし「オ.」から以下のことがいえる。
・引用例2に記載の「R-T-B系焼結磁石」は、上記「ア.」の請求項1の記載によれば、希土類元素、遷移元素及びホウ素を含む組成を有する結晶粒と、該結晶粒に囲まれた粒界領域とを備えるR-T-B系焼結磁石(但し、Rはディスプロシウム以外の希土類元素、Tは遷移元素、Bはホウ素を示す)に関するものである。
・上記「ア.」の記載によれば、粒界領域である三重点領域は希土類元素、遷移元素及びホウ素を含み、さらに上記「イ.」の記載によれば、粒界領域は、三重点領域の他に隣接する2つの結晶粒の間にも形成されていてもよいものである。
・上記「オ.」の記載(特に表1)によれば、焼結磁石の組成は、例えば実施例9ではNdが29.5質量%、Coが0.50質量%、Cuが0.10質量%、Alが0.20質量%、Zrが0.06質量%、Bが0.90質量%、Feが68.74質量%であり、上記「ウ.」の記載によれば、Zrを含むことによって、焼成中の粒成長を抑制することが可能となるものであるといえる。
・上記「エ.」の記載によれば、R-T-B系焼結磁石における酸素の含有量は300~3000ppm、より好ましくは500~1500ppmであり、窒素の含有量は200~1500ppm、より好ましくは500~1500ppmであり、炭素の含有量は500~3000ppm、より好ましくは800~1500ppmであるところ、上記「オ.」の記載(特に表4)によれば、例えば実施例9に係る焼結磁石は成形体を真空中で焼結した後、アルゴン雰囲気中で2段の時効処理を施して得られたものであって、酸素含有量が680ppm、窒素含有量が860ppm、炭素含有量が980ppmである。
以上のことから、特に表1、表4に示される実施例9に係る組成のR-T-B系焼結磁石に着目し、上記記載を総合勘案すると、引用例2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。
「希土類元素、遷移元素及びホウ素を含む組成を有する結晶粒と、該結晶粒に囲まれた粒界領域とを備えるR-T-B系焼結磁石(但し、Rはディスプロシウム以外の希土類元素、Tは遷移元素、Bはホウ素を示す)であって、
前記焼結磁石の組成は、Ndが29.5質量%、Coが0.50質量%、Cuが0.10質量%、Alが0.20質量%、Zrが0.06質量%、Bが0.90質量%、Feが68.74質量%であり、Zrを含むことによって、焼成中の粒成長を抑制することが可能となり、
前記焼結磁石は成形体を真空中で焼結した後、アルゴン雰囲気中で2段の時効処理を施して得られたものであって、酸素含有量が680ppm、窒素含有量が860ppm、炭素含有量が980ppmであり、
前記粒界領域は、三重点領域の他に隣接する2つの結晶粒の間にも形成されていてもよく、前記三重点領域は前記希土類元素、前記遷移元素及びホウ素を含む、R-T-B系焼結磁石。」
(3)取消理由についての当審の判断
(3-1)理由1-1(新規性、引用例1を主引例とする場合)について
ア.本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と引用発明1とを対比する。
a.引用発明1は焼結体からなる「R-T-B希土類永久磁石」に係るものであるところ、「R」は希土類元素の1種又は2種以上であり、本件発明1でいう「希土類元素R」に相当し、「T」はFe又はFe及びCoを必須とする1種又は2種以上の遷移金属元素であり、本件発明1でいうFeまたはFeの一部をCoで置換したものよりなる「金属元素T」に相当し、そして、「B」は本件発明1でいう「ホウ素」に相当する。
そして、引用発明1の「R-T-B希土類永久磁石」を構成する焼結体の組成には「Zr」を含むものであるところ、本件特許明細書の段落【0027】の記載によれば、当該「Zr」は本件発明1でいう希土類および金属元素Tを除く金属元素であり、ホウ化物を形成する「ホウ化物形成元素M」に相当するものであるといえる。
したがって、本件発明1と引用発明1とは、「希土類元素Rと、FeまたはFeの一部をCoで置換したものよりなる金属元素Tと、ホウ素と、希土類および金属元素Tを除く金属元素であり、ホウ化物を形成するホウ化物形成元素Mと、を含有」するものである点で一致する。
b.引用発明1の「R-T-B希土類永久磁石」を構成する焼結体の組成のうち、「Nd、Pr、Dy」は希土類元素(R)であり、その含有量の合計は30.6wt%であるから、本件発明1で特定する質量%で「27%≦R≦33%」の範囲に含まれる。
同じく焼結体の組成のうち、「Co」の含有量は0.5wt%、「Al」の含有量は0.23wt%、「Cu」の含有量は0.05wt%、ホウ化物形成元素Mである「Zr」の含有量は0.10wt%、「B」の含有量は1.0wt%であり、それぞれ本件発明1で特定する質量%で「0%≦Co≦5%」、「0%≦Al≦1.0%」、「0%≦Cu≦0.5%」、「0.01%≦M≦0.5%」、「0.9%≦B≦1.2%」の範囲に含まれる。
そして、引用発明1の焼結体の組成にあっても、「残部がFe」であり、当然、不可避的不純物は含むものである。
したがって、本件発明1と引用発明1とは、「質量%で、希土類元素の合計で、27%≦R≦33%、0%≦Co≦5%、0%≦Al≦1.0%、0%≦Cu≦0.5%、0.01%≦M≦0.5%、0.9%≦B≦1.2%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物よりなる組成を有」するものである点で一致する。
なお、本件発明1にあっては「ただし、前記組成において、Co、Al、Cuについては、含有されない場合も含む」との特定があるが、本件発明1は当然、Co、Al、Cuを含有する場合も含むものである。
c.引用発明1の「R-T-B希土類永久磁石」を構成する焼結体は、酸素量が670ppm、窒素量が350ppmであり、O、Nの含有量についてそれぞれ本件発明1が特定する「Oについて700ppm未満」、「Nについて400ppm未満」の範囲に含まれる。
したがって、本件発明1と引用発明1とは、「O、Nの含有量が、Oについて700ppm未満、Nについて400ppm未満」である点では共通する。
ただし、本件発明1では「Cの含有量が」「Cについて500ppm未満」であることを特定するのに対し、引用発明1ではC(炭素)の含有量についての特定を有していない点で相違する。
d.引用発明1の「R-T-B希土類永久磁石」にあっても、R2T14B相からなる主相を備えるものであり、当該「R2T14B相」は、本件発明1でいう「R-T-B系合金の結晶粒」に相当するものである。
したがって、本件発明1と引用発明1とは、「R-T-B系合金の結晶粒よりなる主相」を有するものである点で一致する。
e.引用発明1にあっては、本件発明1でいう主相の結晶粒の優先成長面に形成される「ホウ化物相」についての直接的な特定は有していない。
しかしながら、引用発明1は、粒界相である3重点粒界相及び2粒子粒界相にZrに富む組成の板状又は針状の生成物が主相に沿って存在するものである。そして、上記b.にも記載したように引用発明1の焼結体の組成は本件発明1の組成の範囲に含まれ、特に主相はR2T14B相からなりB(ホウ素)を含んでいること、Zrは焼結過程における主相の結晶粒の異常成長を抑制する効果を発揮するものであること、さらに、本件特許明細書の段落【0028】、【0046】~【0047】の記載を参照するに、O、C、Nといった不純物の含有量を低減する、例えばそれぞれ1000ppm未満とすることでホウ化物相が粒界三重点に加えて二粒子粒界にも生成され得ると解されるところ、引用発明1は酸素量が670ppm、窒素量が350ppmであり、いずれも1000ppm未満に低減されていること(なお、焼結体は成形体を真空中において焼結した後、Ar雰囲気中で2段時効処理を施して得られものであり、炭素量についても1000ppm未満には低減されているものと解される)、を踏まえると、引用発明1にあっても、二粒子粒界に面する優先成長面と粒界三重点に面する優先成長面の両方に、Zrのホウ化物を基本とする化合物相よりなるホウ化物相が多少なりとも形成されているものと推認し得る。
したがって、本件発明1と引用発明1とは、「前記主相の結晶粒の優先成長面に生成した、前記ホウ化物形成元素Mのホウ化物を基本とする化合物相よりなるホウ化物相と」を有し、「前記ホウ化物相は、前記主相の結晶粒の前記優先成長面のうち、2つの結晶粒が隣接する二粒子粒界に面する優先成長面と、粒界三重点に面する優先成長面の両方に形成される」ものである点で一致するということができる。
f.そして、引用発明1における「R-T-B希土類永久磁石」は焼結体からなるものであるから、本件発明1でいう「R-T-B系焼結磁石」に相当するものである。
よって、上記a.ないしf.によれば、本件発明1と引用発明1とは、
「希土類元素Rと、FeまたはFeの一部をCoで置換したものよりなる金属元素Tと、ホウ素と、希土類および金属元素Tを除く金属元素であり、ホウ化物を形成するホウ化物形成元素Mと、を含有し、
質量%で、
希土類元素の合計で、27%≦R≦33%、
0%≦Co≦5%、
0%≦Al≦1.0%、
0%≦Cu≦0.5%、
0.01%≦M≦0.5%、
0.9%≦B≦1.2%を含有し、
残部がFeおよび不可避的不純物よりなる組成を有し、
O、Nの含有量が、Oについて700ppm未満、Nについて400ppm未満であり、
R-T-B系合金の結晶粒よりなる主相と、
前記主相の結晶粒の優先成長面に生成した、前記ホウ化物形成元素Mのホウ化物を基本とする化合物相よりなるホウ化物相と、を有し、
前記ホウ化物相は、前記主相の結晶粒の前記優先成長面のうち、2つの結晶粒が隣接する二粒子粒界に面する優先成長面と、粒界三重点に面する優先成長面の両方に形成されるR-T-B系焼結磁石。」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点1]
本件発明1では「Cの含有量が」「Cについて500ppm未満」であることを特定するのに対し、引用発明1ではC(炭素)の含有量についての特定を有していない点。
(イ)判断
上記のとおり、相違点があるから、本件発明1は、引用例1に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当しない。
イ.本件発明2ないし5について
請求項2ないし5は請求項1を引用するものであり、本件発明2ないし5は、本件発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明2ないし5は、引用例1に記載された発明ではない。
ウ.まとめ
以上のとおり、本件発明1ないし5に係る発明は、引用例1に記載された発明ではなく、本件請求項1ないし5に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるということはできない。
(3-2)理由1-2(新規性、引用例2を主引例とする場合)について
ア.本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と引用発明2とを対比する。
a.引用発明2は「R-T-B系焼結磁石」に係るものであるところ、「R」はディスプロシウム以外の希土類元素であり、本件発明1でいう「希土類元素R」に相当し、「T」は遷移元素であり、焼結磁石の組成がFe、Coを含むものであることから、本件発明1でいうFeまたはFeの一部をCoで置換したものよりなる「金属元素T」に相当するといえ、そして、「B」は本件発明1でいう「ホウ素」に相当する。
そして、引用発明2の「R-T-B系焼結磁石」の組成には「Zr」を含むものであるところ、本件特許明細書の段落【0027】の記載によれば、当該「Zr」は本件発明1でいう希土類および金属元素Tを除く金属元素であり、ホウ化物を形成する「ホウ化物形成元素M」に相当するものであるといえる。
したがって、本件発明1と引用発明2とは、「希土類元素Rと、FeまたはFeの一部をCoで置換したものよりなる金属元素Tと、ホウ素と、希土類および金属元素Tを除く金属元素であり、ホウ化物を形成するホウ化物形成元素Mと、を含有」するものである点で一致する。
b.引用発明2の「R-T-B系焼結磁石」の組成のうち、「Nd」は希土類元素(R)であり、その含有量は29.5質量%であるから、本件発明1で特定する質量%で「27%≦R≦33%」の範囲に含まれる。
同じく「R-T-B系焼結磁石」の組成のうち、「Co」の含有量は0.50質量%、「Al」の含有量は0.20質量%、「Cu」の含有量は0.10質量%、ホウ化物形成元素Mである「Zr」の含有量は0.06質量%、「B」の含有量は0.90質量%であり、それぞれ本件発明1で特定する質量%で「0%≦Co≦5%」、「0%≦Al≦1.0%」、「0%≦Cu≦0.5%」、「0.01%≦M≦0.5%」、「0.9%≦B≦1.2%」の範囲に含まれる。
そして、引用発明2の「R-T-B系焼結磁石」の組成にあっても、「Fe」の含有量が68.74質量%であることから、「残部がFe」といえるものであり、また当然、不可避的不純物は含むものである。
したがって、本件発明1と引用発明2とは、「質量%で、希土類元素の合計で、27%≦R≦33%、0%≦Co≦5%、0%≦Al≦1.0%、0%≦Cu≦0.5%、0.01%≦M≦0.5%、0.9%≦B≦1.2%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物よりなる組成を有」するものである点で一致する。
なお、本件発明1にあっては「ただし、前記組成において、Co、Al、Cuについては、含有されない場合も含む」との特定があるが、本件発明1は当然、Co、Al、Cuを含有する場合も含むものである。
c.引用発明2の「R-T-B系焼結磁石」は、酸素含有量が680ppm、窒素含有量が860ppm、炭素含有量が980ppmであり、Oの含有量については、本件発明1が特定する「Oについて700ppm未満」の範囲に含まれる。
したがって、本件発明1と引用発明2とは、「Oの含有量が、Oについて700ppm未満」である点では共通する。
ただし、本件発明1では「C、Nの含有量が」「Cについて500ppm未満、Nについて400ppm未満」であることを特定するのに対し、引用発明2では窒素含有量が860ppm、炭素含有量が980ppmである点で相違する。
d.引用発明2の「R-T-B系焼結磁石」にあっても、希土類元素、遷移元素及びホウ素を含む組成を有する結晶粒を備えるものであり、当該結晶粒は、本件発明1でいう「R-T-B系合金の結晶粒」に相当するものである。
したがって、本件発明1と引用発明2とは、「R-T-B系合金の結晶粒よりなる主相」を有するものである点で一致する。
e.引用発明2にあっては、本件発明1でいう主相の結晶粒の優先成長面に形成される「ホウ化物相」についての直接的な特定は有していない。
しかしながら、上記b.にも記載したように引用発明2のR-T-B系焼結磁石の組成は本件発明1の組成の範囲に含まれ、また、引用発明2は、結晶粒に囲まれた粒界領域は三重点領域、すなわち粒界三重点の他に隣接する2つの結晶粒の間、すなわち二粒子粒界にも形成されていてもよいものであるところ、三重点領域は希土類元素、遷移元素及びホウ素を含むものであり、粒界領域が二粒子粒界にも形成されている場合には、当該二粒子粒界も希土類元素、遷移元素及びホウ素を含むと解されるものである。そして、焼結磁石の組成にZrを含むことによって、焼成中の粒成長を抑制することが可能となるものであること、さらに、本件特許明細書の段落【0028】、【0046】~【0047】の記載を参照するに、O、C、Nといった不純物の含有量を低減する、例えばそれぞれ1000ppm未満とすることでホウ化物相が粒界三重点に加えて二粒子粒界にも生成され得ると解されるところ、引用発明2は酸素含有量が680ppm、窒素含有量が860ppm、炭素含有量が980ppmであり、いずれも1000ppm未満に低減されていること、を踏まえると、引用発明2にあっても、二粒子粒界に面する優先成長面と粒界三重点に面する優先成長面の両方に、Zrのホウ化物を基本とする化合物相よりなるホウ化物相が多少なりとも形成されているものと推認し得る。
したがって、本件発明1と引用発明2とは、「前記主相の結晶粒の優先成長面に生成した、前記ホウ化物形成元素Mのホウ化物を基本とする化合物相よりなるホウ化物相と」を有し、「前記ホウ化物相は、前記主相の結晶粒の前記優先成長面のうち、2つの結晶粒が隣接する二粒子粒界に面する優先成長面と、粒界三重点に面する優先成長面の両方に形成される」ものである点で一致するということができる。
f.そして、引用発明2における「R-T-B系焼結磁石」は、本件発明1でいう「R-T-B系焼結磁石」に相当するものである。
よって、上記a.ないしf.によれば、本件発明1と引用発明2とは、
「希土類元素Rと、FeまたはFeの一部をCoで置換したものよりなる金属元素Tと、ホウ素と、希土類および金属元素Tを除く金属元素であり、ホウ化物を形成するホウ化物形成元素Mと、を含有し、
質量%で、
希土類元素の合計で、27%≦R≦33%、
0%≦Co≦5%、
0%≦Al≦1.0%、
0%≦Cu≦0.5%、
0.01%≦M≦0.5%、
0.9%≦B≦1.2%を含有し、
残部がFeおよび不可避的不純物よりなる組成を有し、
Oの含有量が、Oについて700ppm未満であり、
R-T-B系合金の結晶粒よりなる主相と、
前記主相の結晶粒の優先成長面に生成した、前記ホウ化物形成元素Mのホウ化物を基本とする化合物相よりなるホウ化物相と、を有し、
前記ホウ化物相は、前記主相の結晶粒の前記優先成長面のうち、2つの結晶粒が隣接する二粒子粒界に面する優先成長面と、粒界三重点に面する優先成長面の両方に形成されるR-T-B系焼結磁石。」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点2]
本件発明1では「C、Nの含有量が」「Cについて500ppm未満、Nについて400ppm未満」であることを特定するのに対し、引用発明2では窒素含有量が860ppm、炭素含有量が980ppmである点。
(イ)判断
上記のとおり、相違点があるから、本件発明1は、引用例2に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当しない。
イ.本件発明2ないし5について
請求項2ないし5は請求項1を引用するものであり、本件発明2ないし5は、本件発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明2ないし5は、引用例2に記載された発明ではない。
ウ.まとめ
以上のとおり、本件発明1ないし5に係る発明は、引用例2に記載された発明ではなく、本件請求項1ないし5に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるということはできない。
3.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)申立理由の概要
取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の概要は次のとおりである。
(1-1)理由1(サポート要件)
請求項1、2、4ないし6に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(1-2)理由2(進歩性、甲第1号証を主引例とする場合)
請求項1ないし6に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第1号証に記載された発明に基いて、または甲第1号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された技術事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(1-3)理由3(進歩性、甲第3号証を主引例とする場合)
請求項1ないし6に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第3号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(1-4)理由4(進歩性、甲第2号証を主引例とする場合)
請求項1ないし6に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された技術事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
記
甲第1号証:国際公開第2004/029996号
甲第2号証:特開2017-17121号公報
甲第3号証:国際公開第2013/054842号
甲第4号証:国際公開第2011/122667号
(2)甲第1号証ないし甲第4号証の記載事項
(2-1)甲第1号証
甲第1号証(国際公開第2004/029996号)の記載事項は、上記「2.(2-1)引用例1」に記載したとおりであり、甲第1号証に記載された発明(以下、「甲1発明」という。)は、上記引用発明1と同じである。
(2-2)甲第2号証
甲第2号証(特開2017-17121号公報)には、「R-T-B系焼結磁石」について、以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「【0050】
[2]R-T-B系焼結磁石
前記の通り、副合金(または副合金微粉砕粉末)の添加によって、焼結および/または熱処理において、R6T13M化合物(代表的にはNd6Fe13Ga化合物)と、Tiを含有する副合金を用いた場合はTiの硼化物(代表的にはTiBおよび/またはTiB2化合物)が、Zrを含有する副合金を用いた場合はZrの硼化物(代表的にはZrBおよび/またはZrB2化合物)が生成される。すなわち、本発明のR-T-B系焼結磁石の製造方法によって得られるR-T-B系焼結磁石は、R2T14B化合物と、R6T13M化合物と、Tiの硼化物またはZrの硼化物と、が共存する組織を有する。
【0051】
R2T14B化合物において、RはNd、Prのうち少なくとも一種でありNdを必ず含む、但し、R2T14B化合物全体の2質量%未満のDy、Tb、GdおよびHoのうち少なくとも一種を含有することができる。TはFeまたはFeとCoである。Bの一部はCで置換することができる。R2T14B化合物には、R、T、B以外に、少量のTi、V、Cr、Mn、Ni、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wなどを含有してもよい。さらに、Cu、Alを含有してもよい
【0052】
R6T13M化合物において、RはNd、Prのうち少なくとも一種でありNdを必ず含む、但し、R6T13M化合物全体の2質量%未満のDy、Tb、GdおよびHoのうち少なくとも一種を含有することができる。TはFeまたはFeとCoである。Mは主としてGaである。R6T13M化合物は代表的にはNd6Fe13Ga化合物である。R6T13M化合物はLa6Co11Ga3型結晶構造を有する。R6T13M化合物はその状態によってはR6T13-αM1+α化合物になっている場合がある。なお、MとしてGaのみを用いた場合においてもR-T-B系焼結磁石中にAl、CuおよびSiが含有される場合R6T13-α(Ga1-x-y-zCuxAlySiz)1+αになっている場合がある。」
イ.「【0059】
比較例1
微粉砕粉末における組成が表1の合金No.Aに示す組成となるように、原料を秤量し、ストリップキャスティング法により合金を作製し、得られた合金を水素粉砕法により粗粉砕し、得られた粗粉砕粉末をジェットミルにより微粉砕し、粒径D50が4.2μmの微粉砕粉末を得た。得られた微粉砕粉末を実施例1と同様にして成形、焼結、熱処理および加工し、磁気特性を測定した。測定結果を表2の試料No.2に示す。また、比較例1の試料No.2のR-T-B系焼結磁石について、実施例1と同様の方法によりR6T13M化合物の面積比率を求めた。その結果を表2に示す。
【0060】
【表1】
[図:0001411314000005.jpg]
」
ウ.「【0165】
実施例23
実施例1の試料No.1の主合金と副合金を混合する本発明の方法により製造されたR-T-B系焼結磁石と、比較例1の試料No.2の単一合金法で製造された従来のR-T-B系焼結磁石のそれぞれの任意断面について、鏡面加工を施し、さらに、クロスセクションポリッシャ(SM-09010、日本電子株式会社製)によって仕上加工を施した後、その加工面をFE-SEM(電界放射型走査電子顕微鏡、JSM-7001F、日本電子株式会社製)によって組織観察を行った。その結果(反射電子像=BSE像)を図5および図6に示す。図5が実施例1の試料No.1、図6が比較例1の試料No.2である。なお、図5の組織観察は加速電圧5kV、ワーキングディスタンス4.0mm、TTLモード、倍率10000倍の条件で、図6の組織観察は加速電圧5kV、ワーキングディスタンス4.1mm、TTLモード、倍率20000倍の条件で行った。
【0166】
図5および図6において、黒色の化合物がTiB2化合物(Tiの硼化物)、比較的暗い灰色の化合物がNd2Fe14B化合物(R2T14B化合物)、白色が粒界相(希土類リッチ相)である。なお、図5および図6においてはTiB2化合物をクローズアップしているため、Nd6Fe13Ga化合物(R6T13M化合物)は観察されていない(視野外に存在する)。図5に示す通り、主合金と副合金を混合する本発明の方法により製造されたR-T-B系焼結磁石においては、TiB2(Tiの硼化物)が塊状(図5において矢印で示した部分および図5右上に存在する微細なTiB2(Tiの硼化物)の凝集体)で存在している。これは、基本的にTiを含有しない主合金(少量のTiが含有される場合は含む)とTiを含有する副合金とをそれぞれ別々に準備した後混合することによって、焼結過程において副合金に含有されるTiが主合金のR2T14B化合物にほとんど固溶されない(固溶量が非常に少ない)ため、TiはTiB2として、主として三重点粒界相に集まり塊状または凝集体になると考えられる。この場合、Tiが主合金のR2T14B化合物にほとんど固溶されない(固溶量が非常に少ない)ので、得られるR-T-B系焼結磁石のBrの低下は小さい。また、本発明の方法により製造されたR-T-B系焼結磁石の特徴として、三重点粒界相における塊状のTiB2(TiB2の凝集体)の大きさ(面積)が小さく、例えば、最も長い部分でも3μm以下である。この三重点粒界相における塊状のTiB2の大きさが3μmを超えるとHcJの低下を招く。これは、粒界相(希土類リッチ相)が塊状のTiB2(TiB2の凝集体)の周囲に集中し、塊状のTiB2(TiB2の凝集体)が存在しない粒界(特に二つの主相の間の粒界)に粒界相(希土類リッチ相)が行き渡らない(粒界相の量が少なくなる)ためであると考えられる。一方、図6に示す通り、単一合金法で製造された従来のR-T-B系焼結磁石においては、TiB2(Tiの硼化物)は針状で存在している。これは、単一合金法において、ストリップキャスティング法を用いた場合に特に顕著である。Tiはストリップキャスティング法における合金溶湯急冷時にR2T14B化合物内に強制的に均一に固溶する。そして、焼結過程において、固溶されたTiがR2T14B化合物内から析出する際、二粒子粒界相および三重点粒界相の任意の場所に微細に針状で析出するからであると考えられる。この場合、析出するTi以外のTiは主合金のR2T14B化合物に残留したままであるので、得られるR-T-B系焼結磁石のBrの低下が大きい。このTiB2(Tiの硼化物)の存在形態の違いも、本発明により得られるR-T-B系焼結磁石がBr、HcJ、Hk/HcJの全てが高いレベルにある優れた磁気特性を有する理由の一つであると考えられる。」
上記「ア.」ないし「ウ.」から以下のことがいえる。
・甲第2号証に記載の「R-T-B系焼結磁石」は、上記「ア.」の記載によれば、R2T14B化合物と、R6T13M化合物と、Tiの硼化物と、が共存する組織を有するものであり、RはNd、Prのうち少なくとも一種でありNdを必ず含み、TはFeまたはFeとCoであり、Mは主としてGaである。
・上記「イ.」の記載によれば、比較例1に係るR-T-B系焼結磁石の組成は、Ndが23.8質量%、Prが7.1質量%、Bが0.93質量%、Tiが0.14質量%、Gaが0.40質量%、Coが0.48質量%、Alが0.14質量%、Cuが0.15質量%、残部がFeである。
・上記「ウ.」の記載によれば、比較例1に係るR-T-B系焼結磁石においては、Tiの硼化物は微細な針状のTiB2であり、焼結過程において二粒子粒界相および三重点粒界相の任意の場所に析出して存在するものである。
以上のことから、特に表1の合金No.Aに示す組成の比較例1に係るR-T-B系焼結磁石に着目し、上記記載を総合勘案すると、甲第2号証には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されている。
「R2T14B化合物と、R6T13M化合物と、Tiの硼化物と、が共存する組織を有するR-T-B系焼結磁石(RはNd、Prのうち少なくとも一種でありNdを必ず含み、TはFeまたはFeとCoであり、Mは主としてGaである)であって、
前記焼結磁石の組成は、Ndが23.8質量%、Prが7.1質量%、Bが0.93質量%、Tiが0.14質量%、Gaが0.40質量%、Coが0.48質量%、Alが0.14質量%、Cuが0.15質量%、残部がFeであり、
Tiの硼化物は微細な針状のTiB2であり、焼結過程において二粒子粒界相および三重点粒界相の任意の場所に析出して存在する、R-T-B系焼結磁石。」
(2-3)甲第3号証
甲第3号証(国際公開第2013/054842号)の記載事項は、上記「2.(2-2)引用例2」に記載したとおりであり、甲第3号証に記載された発明(以下、「甲3発明」という。)は、上記引用発明2と同じである。
(2-4)甲第4号証
甲第4号証(国際公開第2011/122667号)には、以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「[0006] 上記目的を達成するため、本発明の希土類焼結磁石は、コアと、コアを被覆するシェルとを有するR-T-B系希土類磁石の主相粒子群を備え、シェルの厚みが500nm以下であり、Rは軽希土類元素及び重希土類元素を含み、主相粒子群の粒界相及び/又はシェルにZr化合物が存在することを特徴とする。なお、主相粒子群とは、複数の主相粒子を意味する。また、軽希土類元素に対する重希土類元素の割合(重希土類元素/軽希土類元素)が、主相粒子中心部(コア)における割合の2倍以上となっている部分をシェルと規定する。
・・・・(中 略)・・・・
[0009] 上記希土類焼結磁石において、酸素元素の含有割合は2500ppm以下であり、かつ炭素元素の含有割合が500ppm以上1500ppm以下であることが好ましい。これにより、磁石の磁気特性をさらに向上させることができる。」
イ.「[0032] 焼結体における炭素元素の含有量は500ppm以上1500ppm以下であることが好ましく、700ppm以上1200ppm以下であることがより好ましい。炭素量が少ないほど、得られる焼結磁石中の不純物が少なくなり、焼結磁石の磁気特性が向上する。炭素量が多い場合、焼結体中の酸化物が、重希土類元素の拡散の妨げ、シェル6が形成され難い傾向がある。炭素量が少ないと後述の磁場成形時に配向しにくくなる。炭素元素は主に成形時の潤滑剤により添加されるため、その量により制御できる。」
上記「ア.」及び「イ.」の記載を総合勘案すると、甲第4号証には、次の技術事項が記載されている。
「コアと、コアを被覆するシェルとを有するR-T-B系希土類焼結磁石において、磁石の磁気特性を向上させるために、炭素元素の含有量を500ppm以上1500ppm以下、より好ましくは700ppm以上1200ppm以下とすること。」
(3)申立理由についての当審の判断
(3-1)理由1(サポート要件)について
特許異議申立人は、次のようなサポート要件についての理由(記載不備)を主張している。
本件請求項1には「主相の結晶粒の優先成長面」との記載がある。しかし、本件特許明細書の発明の詳細な説明に開示されているのは、本件請求項3に記載のように「前記主相は、正方晶よりなり、優先成長方位は、a軸方向およびb軸方向であり、前記優先成長面は、(110)面、(100)面、(010)面の少なくとも1つよりなる」場合のみである。
したがって、本件特許発明の出願時の技術常識に照らしても、「主相の結晶粒の優先成長面」と記載されているのみである請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえず、請求項1に係る発明は発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。
そこで、上記サポート要件についての主張について検討する。
本件請求項1に係る発明が解決しようとする課題は、「粒界三重点以外の場所にも金属ホウ化物を形成することで、異常粒成長を効果的に抑制することができるR-T-B系焼結磁石を提供すること」であり(本件特許明細書の特に段落【0008】を参照)、その課題を解決するためには、ホウ化物相が、粒界三重点に面する優先成長面だけでなく二粒子粒界に面する優先成長面にも形成されることが特定されていればよく、「優先成長面」について「(110)面、(100)面、(010)面の少なくとも1つ」よりなること等を特定(限定)する必要まではないとえる。
したがって、本件請求項1に係る発明が、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えているとはいえず、出願時の技術常識に照らしても、本件請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できないものではない。
よって、特許異議申立人の上記サポート要件についての主張は採用することはできず、本件請求項1に係る特許及び請求項1を引用する請求項2、4、5に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。
(3-2)理由2(進歩性、甲第1号証を主引例とする場合)について
ア.本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、上記「2.(3-1)ア.(ア)」に記載したとおり、次の相違点1において相違する。
[相違点1]
本件発明1では「Cの含有量が」「Cについて500ppm未満」であることを特定するのに対し、甲1発明ではC(炭素)の含有量についての特定を有していない点。
(イ)判断
そこで、上記相違点1について検討する。
甲第1号証には、11頁4~11行目に酸素量を低減することは記載されているものの、炭素量(Cの含有量)に関する記載は一切ない。また、甲第4号証には「コアと、コアを被覆するシェルとを有するR-T-B系希土類焼結磁石において、磁石の磁気特性を向上させるために、炭素元素の含有量を500ppm以上1500ppm以下、より好ましくは700ppm以上1200ppm以下とする」技術事項が記載(上記(2-4)を参照)されているが、あえてより好ましいとされる範囲の下限値である700ppmより少ない500ppm未満の範囲の値を選択すべき動機がない。なお、甲第3号証の段落[0031]にもR-T-B系焼結磁石におけるC(炭素)の含有量について記載があるが、「500~3000ppmであり、より好ましくは800~1500ppmである」と記載されており、あえてより好ましいとされる範囲の下限値である800ppmより少ない500ppm未満の値を選択すべき動機はないといえ、これら甲各号証を参照したとしても甲1発明において相違点1に係る構成を導きだすことはできない。
よって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、または甲第1号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ.本件発明2ないし5について
請求項2ないし5は請求項1を引用するものであり、本件発明2ないし5は、本件発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明2ないし5は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、または甲第1号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ.まとめ
以上のとおり、本件請求項1ないし5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということはできない。
(3-3)理由3(進歩性、甲第3号証を主引例とする場合)について
ア.本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲3発明とを対比すると、上記「2.(3-2)ア.(ア)」に記載したとおり、次の相違点2において相違する。
[相違点2]
本件発明1では「C、Nの含有量が」「Cについて500ppm未満、Nについて400ppm未満」であることを特定するのに対し、甲3発明では窒素含有量が860ppm、炭素含有量が980ppmである点。
(イ)判断
そこで、上記相違点2について検討する。
甲第3号証の段落[0031]には、R-T-B系焼結磁石におけるN(窒素)の含有量について「200~1500ppm」と記載され、本件発明1で特定する「400ppm未満」の範囲と一部重複する範囲が記載されてはいるものの、「より好ましくは500~1500ppm」であるとも記載されており、あえてより好ましいとされる範囲の下限値である500ppmより少ない400ppm未満の範囲の値を選択すべき動機がない。また、甲第3号証の段落[0031]にはC(炭素)の含有量について「500~3000ppm」と記載され、さらに「より好ましくは800~1500ppm」と記載されており、あえてより好ましいとされる範囲の下限値である800ppmより少ない500ppm未満の範囲の値を選択すべき動機がないといえ、甲3発明において上記相違点2に係る構成を導き出すことはできない。
よって、本件発明1は、甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ.本件発明2ないし5について
請求項2ないし5は請求項1を引用するものであり、本件発明2ないし5は、本件発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明2ないし5は、甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ.まとめ
以上のとおり、本件請求項1ないし5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということはできない。
(3-4)理由4(進歩性、甲第2号証を主引例とする場合)について
ア.本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
a.甲2発明は「R-T-B系焼結磁石」に係るものであるところ、「R」はNd、Prのうち少なくとも一種でありNdを必ず含む、すなわちNdまたはNdとPrであり、これらは本件発明1でいう「希土類元素R」に相当し、「T」はFeまたはFeとCoであるから、本件発明1でいうFeまたはFeの一部をCoで置換したものよりなる「金属元素T」に相当し、そして、「B」は本件発明1でいう「ホウ素」に相当する。
そして、甲2発明の「R-T-B系焼結磁石」の組成には「Ti」を含み、Tiの硼化物(TiB2)を形成していることから、当該「Ti」は本件発明1でいう希土類および金属元素Tを除く金属元素であり、ホウ化物を形成する「ホウ化物形成元素M」に相当するものであるといえる。
したがって、本件発明1と甲2発明とは、「希土類元素Rと、FeまたはFeの一部をCoで置換したものよりなる金属元素Tと、ホウ素と、希土類および金属元素Tを除く金属元素であり、ホウ化物を形成するホウ化物形成元素Mと、を含有」するものである点で一致する。
b.甲2発明の「R-T-B系焼結磁石」の組成のうち、「Nd、Pr」は希土類元素(R)であり、その含有量の合計は30.9質量%であるから、本件発明1で特定する質量%で「27%≦R≦33%」の範囲に含まれる。
同じく「R-T-B系焼結磁石」の組成のうち、「Co」の含有量は0.48質量%、「Al」の含有量は0.14質量%、「Cu」の含有量は0.15質量%、ホウ化物形成元素Mである「Ti」の含有量は0.14質量%、「B」の含有量は0.93質量%であり、それぞれ本件発明1で特定する質量%で「0%≦Co≦5%」、「0%≦Al≦1.0%」、「0%≦Cu≦0.5%」、「0.01%≦M≦0.5%」、「0.9%≦B≦1.2%」の範囲に含まれる。
そして、甲2発明の「R-T-B系焼結磁石」の組成にあっても、「残部がFe」であり、また当然、不可避的不純物も含むものである。
したがって、本件発明1と甲2発明とは、「質量%で、希土類元素の合計で、27%≦R≦33%、0%≦Co≦5%、0%≦Al≦1.0%、0%≦Cu≦0.5%、0.01%≦M≦0.5%、0.9%≦B≦1.2%を含有し、残部にFeおよび不可避的不純物を含む組成を有」するものである点では共通する。
ただし、R-T-B系焼結磁石の組成について、本件発明1では「Ga」を含有し得ることの特定はないことから、「Ga」は含有しないものと解されるのに対し、甲2発明では「Gaが0.40質量%」含まれるものである点で相違するといえる。
なお、本件発明1にあっては「ただし、前記組成において、Co、Al、Cuについては、含有されない場合も含む」との特定があるが、本件発明1は当然、Co、Al、Cuを含有する場合も含むものである。
c.本件発明1では「O、C、Nの含有量が、Oについて700ppm未満、Cについて500ppm未満、Nについて400ppm未満」であることを特定するのに対し、甲2発明ではO、C、Nの含有量についての特定を有していない点で相違する。
d.甲2発明の「R-T-B系焼結磁石」にあっても、R2T14B化合物を有するものであり、技術常識からしてかかる化合物は、本件発明1でいう「R-T-B系合金の結晶粒」に相当するものである。
したがって、本件発明1と甲2発明とは、「R-T-B系合金の結晶粒よりなる主相」を有するものである点で一致する。
e.甲2発明にあっても、微細な針状のTiB2が、焼結過程において二粒子粒界相および三重点粒界相の任意の場所に析出して存在するものであり、かかる二粒子粒界相および三重点粒界相の任意の場所に析出して存在する微細な針状の「TiB2」は、本件発明1でいう主相の結晶粒の優先成長面に形成される「ホウ化物相」に相当するといえる。
したがって、本件発明1と甲2発明とは、「前記主相の結晶粒の優先成長面に生成した、前記ホウ化物形成元素Mのホウ化物を基本とする化合物相よりなるホウ化物相と」を有し、「前記ホウ化物相は、前記主相の結晶粒の前記優先成長面のうち、2つの結晶粒が隣接する二粒子粒界に面する優先成長面と、粒界三重点に面する優先成長面の両方に形成される」ものである点で一致するということができる。
f.そして、甲2発明における「R-T-B系焼結磁石」は、本件発明1でいう「R-T-B系焼結磁石」に相当するものである。
よって、上記a.ないしf.によれば、本件発明1と甲2発明とは、
「希土類元素Rと、FeまたはFeの一部をCoで置換したものよりなる金属元素Tと、ホウ素と、希土類および金属元素Tを除く金属元素であり、ホウ化物を形成するホウ化物形成元素Mと、を含有し、
質量%で、
希土類元素の合計で、27%≦R≦33%、
0%≦Co≦5%、
0%≦Al≦1.0%、
0%≦Cu≦0.5%、
0.01%≦M≦0.5%、
0.9%≦B≦1.2%を含有し、
残部にFeおよび不可避的不純物を含む組成を有し、
R-T-B系合金の結晶粒よりなる主相と、
前記主相の結晶粒の優先成長面に生成した、前記ホウ化物形成元素Mのホウ化物を基本とする化合物相よりなるホウ化物相と、を有し、
前記ホウ化物相は、前記主相の結晶粒の前記優先成長面のうち、2つの結晶粒が隣接する二粒子粒界に面する優先成長面と、粒界三重点に面する優先成長面の両方に形成されるR-T-B系焼結磁石。」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点3]
R-T-B系焼結磁石の組成について、本件発明1では「Ga」は含有しないものと解されるのに対し、甲2発明では「Gaが0.40質量%」含まれるものである点。
[相違点4]
本件発明1では「O、C、Nの含有量が、Oについて700ppm未満、Cについて500ppm未満、Nについて400ppm未満」であることを特定するのに対し、甲2発明ではO、C、Nの含有量についての特定を有していない点。
(イ)判断
そこで、上記相違点について検討する。
[相違点3]について
甲第2号証の【請求項1】ないし【請求項5】に記載のように、甲2発明に係る「R-T-B系焼結磁石」は「Ga」を必ず含むことを前提としており、甲第3号証の段落[0028]に「R-T-B系焼結磁石10は、保持力を一層高くする観点から、Al,Cu,Ga,Zn及びGeから選ばれる少なくとも一種の元素を、合計で0.2~2質量%含有することが好ましい。」ことが記載されているとしても、甲2発明において、「Ga」を既に含有するAlやCuに置換して「Ga」を含まないものとすることの動機がなく、むしろ阻害要因があるといえる。さらに、そもそも甲2発明は甲第2号証において比較例として記載されたものにすぎず、わざわざ比較例として記載された発明に着目しこれを基礎としてさらに発明をしようとは通常考えないことであることも踏まえると、甲2発明において相違点3に係る構成とすることは当業者であっても容易に想到できたものではない。
[相違点4]について
甲第2号証には、「O、C、N」といった不純物の含有量に関する記載は一切ない。ここで、甲第3号証の段落[0031]には、R-T-B系焼結磁石におけるO(酸素)、N(窒素)、C(炭素)それぞれの含有量についての記載があるが、特に、N(窒素)の含有量については「200~1500ppm」と記載され、本件発明1で特定する「400ppm未満」の範囲と一部重複する範囲が記載されてはいるものの、「より好ましくは500~1500ppm」であるとも記載されており、あえてより好ましいとされる範囲の下限値である500ppmより少ない400ppm未満の範囲の値を選択すべき動機がない。また、C(炭素)の含有量については「500~3000ppm」と記載され、さらに「より好ましくは800~1500ppm」と記載されており、あえてより好ましいとされる範囲の下限値である800ppmより少ない500ppm未満の値を選択すべき動機がないといえる。加えて、上記「[相違点3]について」にも記載したとおり、そもそも甲2発明は甲第2号証において比較例として記載されたものにすぎず、わざわざ比較例として記載された発明に着目しこれを基礎としてさらに発明をしようとは通常考えないことであることも踏まえると、甲2発明において相違点4に係る構成は導き出すことはできない。
よって、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ.本件発明2ないし5について
請求項2ないし5は請求項1を引用するものであり、本件発明2ないし5は、本件発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明2ないし5は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ.まとめ
以上のとおり、本件請求項1ないし5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということはできない。
4.その他の特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、令和6年2月19日に提出した意見書において、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が概略以下の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない旨主張している。
訂正後の請求項1に係る発明には「Cの含有量が」「Cについて500ppm未満」であることが記載されている。しかしながら、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、段落【0048】、【0053】~【0054】において、Cを含む不純物の含有量の低減は、例えばPLP法の採用によって達成できることが記載されているのみである。特許権者による訂正請求とともに提出した意見書における主張によれば、Cの含有量を低減するためには、PLP法を用いる際に昇温過程をArなどの不活性ガス中で行うことが必須条件であるといえるが、本件特許明細書の発明の詳細な説明にはかかる必須条件が何ら記載されておらず、また、PLP法において昇温過程をArなどの不活性ガス中で行う技術が当該技術分野においてよく知られているものともいえないことから、昇温過程をArなどの不活性ガス中で行うことが本件特許の実施例において当然に参照されるものではない。したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は本件特許の出願時の技術常識を考慮しても、訂正後の請求項1に係る発明及び請求項1を引用する請求項2ないし5に係る発明について当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
そこで、上記主張について検討する。
特許異議申立人も述べているとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、段落【0048】に例えばPLP法の採用によってCを含む不純物の含有量の低減できることが記載されている。ここで、特許異議申立人が主張するように、本件特許明細書には単に「PLP法」を採用することが記載されているにすぎず、昇温過程をArなどの不活性ガス中で行うことまでは記載されてはいないが、一般に「PLP法」(プレスレス法)は、粉砕から焼結までを無酸素雰囲気(真空又は不活性ガス雰囲気)の雰囲気制御中で実施することで酸素などの不純物を低減できる特徴があることは当業者おいてよく知られた技術事項であるといえるところ、粉砕から焼結までの間に制御される雰囲気としては真空だけでなく不活性ガス雰囲気も適宜採用され得るものであることや、Cの含有量を低減するためにはそもそものCの発生源となる有機物の添加剤を極力少なくすればよいことは当業者であれば当然想到し得ることであることを踏まえると、過度な試行錯誤を要することなく当業者であれば「PLP法」を採用し、さらに必要に応じてCの発生源となる有機物の添加剤を調節することによってCの含有量が「500ppm未満」であるものを製造することができるものと認められる。
よって、特許異議申立人の実施可能要件について上記主張は採用することはできず、本件請求項1ないし5に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとまではいえない。
第4 むすび
以上のとおり、本件請求項1ないし5に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由、及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。また、他に本件請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件請求項6に係る特許については訂正により削除され、本件特許の請求項6に対して特許異議申立人がした特許異議申立てについてはその対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700663