特許異議申立
2023-700853
純水又は超純水の製造方法
- 審判番号
- 2023-700853
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-027933
- 登録番号
- 7225544
- 請求日
- 2023年08月18日
- 審決日
- 2023年11月21日
- 公報発行日
- 2023年12月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】栗田工業株式会社
- 【権利者代理人】重野 剛
- 【権利者代理人】重野 隆之
- 【異議申立人】根本 学
- 審判長/審判官
- 審判長 原 賢一
- 審判官 松井 裕典
- 審判官 金 公彦
- 分類
- P1651.113-Y (C02F) / P1651.121-Y (C02F) / P1651.536-Y (C02F) / P1651.537-Y (C02F)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項特許法29条2項特許法36条4項1号特許法36条6項1号特許法36条6項2号特許法113条2号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7225544号発明「純水又は超純水の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7225544号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7225544号の請求項1~6に係る特許についての出願は、平成30年 2月20日を出願日とする出願であり、令和 5年 2月13日にその特許権の設定登録がされ、同年同月21日に特許掲載公報が発行され、その後、同年 8月18日に、その請求項1~6に係る特許を対象として、特許異議申立人根本 学(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがなされたものである。
第2 本件発明
異議申立ての対象である本件の請求項1~6に係る発明(以下、各請求項に係る発明及び特許を項番に対応させて「本件発明1」、「本件特許1」などといい、併せて「本件発明」、「本件特許」ということがある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
ホウ素含有水をホウ素選択性吸着体が充填されたホウ素吸着塔に通水してホウ素を除去するホウ素の除去方法によりホウ素を除去する工程を有する純水又は超純水の製造方法であって、
該ホウ素を除去する工程において、該ホウ素吸着塔の給水のホウ素濃度と該ホウ素吸着塔への該ホウ素含有水の通水SVとの積が所定値以下となる条件で該ホウ素含有水を通水し、
予め設定された該ホウ素吸着塔のホウ素BTPに応じて、該所定値を設定することにより、ホウ素濃度1~10ng/Lの純水又は超純水を製造することを特徴とする純水又は超純水の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、前記通水SVと給水ホウ素濃度との積が所定値以下となるように、該通水SV、及び/又は、前記ホウ素吸着塔に充填するホウ素選択性吸着体量を設定することを特徴とする純水又は超純水の製造方法。
【請求項3】
ホウ素含有水をホウ素選択性吸着体が充填されたホウ素吸着塔に通水してホウ素を除去するホウ素の除去方法によりホウ素を除去する工程を有する純水又は超純水の製造方法であって、
該ホウ素を除去する工程において、該ホウ素吸着塔の給水のホウ素濃度と該ホウ素吸着塔への該ホウ素含有水の通水SVと該ホウ素含有水の通水時間との積が所定値以下となる条件で該ホウ素含有水を通水し、
予め設定された該ホウ素吸着塔のホウ素BTPに応じて、該所定値を設定することにより、ホウ素濃度1~10ng/Lの純水又は超純水を製造することを特徴とする純水又は超純水の製造方法。
【請求項4】
請求項3において、前記通水SVと給水ホウ素濃度と通水時間との積が所定値以下となるように、該通水SVの設定、前記ホウ素吸着塔に充填するホウ素選択性吸着体量の設定、及び通水時間の制御のいずれかを行うことを特徴とする純水又は超純水の製造方法。
【請求項5】
請求項3において、複数の前記ホウ素吸着塔を用い、該複数のホウ素吸着塔のうちの一部のホウ素吸着塔に前記給水の通水を継続しながら、前記通水SVと給水ホウ素濃度と通水時間との積が所定値以下となるように、他のホウ素吸着塔に通水の停止期間を設定することを特徴とする純水又は超純水の製造方法。
【請求項6】
請求項5において、前記複数のホウ素吸着塔が並列に接続されており、該複数のホウ素吸着塔のうちの一部のホウ素吸着塔に前記給水の通水を継続しながら、他のホウ素吸着塔に通水の停止期間を設定することを特徴とする純水又は超純水の製造方法。」
第3 申立人による特許異議の申立理由の概要
1 特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)(申立理由1)
(1)請求項1、2に係る発明は、後記第4の1(1)アの点で特許請求の範囲の記載が不備のため、その特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(2)請求項3~6に係る発明は、後記第4の1(2)アの点で特許請求の範囲の記載が不備のため、その特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)(申立理由2)
後記第4の2(1)の点で発明の詳細な説明の記載が不備のため、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
3 特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)(申立理由3)
請求項1~6に係る発明は、後記第4の3(1)の点で特許請求の範囲の記載が不備のため、その特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
4 特許法第29条第1項第3号所定の規定違反(新規性欠如)(申立理由4)
(1)請求項1、2、4に係る発明は、下記に記載の甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(2)請求項1に係る発明は、下記に記載の甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
5 特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)(申立理由5)
(1)請求項1~6に係る発明は、下記に記載の甲第1号証に記載された発明、あるいは、甲第1号証に記載された発明及び周知技術(甲第3~14号証)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(2)請求項1、3に係る発明は、下記に記載の甲第2号証に記載された発明、あるいは、甲第2号証に記載された発明及び周知技術(甲第3~14号証)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
記
甲第1号証:特開2015-136685号公報
甲第2号証:特開2016-47496号公報
甲第3号証:中野専次,他3名,合成樹脂工業技術 10 イオン交換樹脂 フェノール樹脂,誠文堂新光社,昭和38年9月15日,第20~23頁
甲第4号証:Evaldo L. Kothny,Trace Elements in the Environment,AMERICAN CHEMICAL SOCIETY,1971年9月15日,第139~143頁
甲第5号証:田辺円,他3名,超純水システムへのほう素選択樹脂の適用,第27回超LSIウルトラクリーンテクノロジーシンポジウム,UCS半導体基板技術研究会,1996年3月21日,第96~103頁
甲第6号証:特開平10-249330号公報
甲第7号証:イオン交換樹脂 その技術と応用,オルガノ株式会社,昭和60年7月30日,第96~101頁
甲第8号証:特開昭62-250987号公報
甲第9号証:特許第4766459号公報
甲第10号証:特開2009-35668号公報
甲第11号証:Lewatit CNP 80,Bayer AG,1973年5月1日,第1~4、7、22頁
甲第12号証:特開2003-80269号公報
甲第13号証:特開平8-84986号公報
甲第14号証:特開2002-361244号公報
(以下、甲第1号証を略して、「甲1」などという。)
第4 当審の判断
当審は、上記申立理由1~5のいずれにも理由がないと判断する。
以下、その理由について詳述する。
1 申立理由1(サポート要件違反)について
(1)上記第3の1(1)の理由について
ア 異議申立書に記載の論拠
申立理由1に関し、異議申立書には以下のとおり記載されている。
「【請求項1】
A ホウ素含有水をホウ素選択性吸着体が充填されたホウ素吸着塔に通水してホウ素を除去するホウ素の除去方法によりホウ素を除去する工程を有する
B 純水又は超純水の製造方法であって、
C 該ホウ素を除去する工程において、該ホウ素吸着塔の給水のホウ素濃度と該ホウ素吸着塔への該ホウ素含有水の通水SVとの積が所定値以下となる条件で該ホウ素含有水を通水し、
D 予め設定された該ホウ素吸着塔のホウ素BTPに応じて、該所定値を設定することにより、
E ホウ素濃度1~10ng/Lの純水又は超純水を製造することを特徴とする
B 純水又は超純水の製造方法。」(6頁11~23行)
「・本件特許の請求項1は、「所定値」(構成要件C、D)としての具体的数値やその決定手法を定めておらず、発明の詳細な説明を見てもそれらを定義する記載はない。
また、「ホウ素BTPに応じて、該所定値を設定する」具体的な方法(数式など)を定めておらず、発明の詳細な説明を見てもそれらを定義する記載はない。
したがって、請求項1の「ホウ素BTPに応じて、該所定値を設定する」の記載はあらゆる所定値の決定方法を含み、「所定値」の記載はすべての値を含むと解される。
・なお、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「処理水ホウ素濃度即ちホウ素BTPを10ng/Lに設定したい時は、通水SV(1/h)と給水ホウ素濃度(μg/L)の積を120以下・・・となるように条件設定する。また処理水ホウ素濃度即ち、ホウ素BTPを1ng/Lに設定したい時は、通水SV(1/h)と給水ホウ素濃度(μg/L)の積を80以下・・・になるように条件設定する。」とのBTPに応じた「所定値」の定め方が記載されている(【0027】)。
・また、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「ホウ素BTP1ng/Lの場合は通水SVと給水ホウ素濃度との積は80μg/L/h以下に、ホウ素BTP10ng/Lの場合は通水SVと給水ホウ素濃度との積は120μg/L/h以下に、ホウ素BTP100ng/Lの場合には通水SVと給水ホウ素濃度との積は200μg/L/h以下となるように条件設定する」との、BTPに応じた「所定値」の定め方が記載されている(【0038】)。
・しかしながら、発明の詳細な説明には、上記以外のBTPの場合の「所定値」の具体的な値、また、BTPに応じた給水ホウ素濃度と通水SVの積の定め方に関する記載や示唆はない。
・また、例えば、実験例2(【0038】)の結果によれば、BTPが1ng/Lの場合に、その値に応じて、通水SVと給水ホウ素濃度との積を、80μg/L/hを超える値に設定した場合、「ホウ素選択性吸着体を充填したホウ素吸着塔のホウ素BTCを高め、ホウ素選択性吸着体の吸着容量を最大限に活用し、より少ない樹脂量でより多くのホウ素を除去すること」が達成できず、課題を解決できないことが、図2(a)から自明である。
同様に、BTPが10ng/Lの場合に、その値に応じて、通水SVと給水ホウ素濃度との積を120μg/L/hを超える値に設定した場合や、BTPが100ng/Lの場合に、その値に応じて、通水SVと給水ホウ素濃度との積を、200μg/L/hを超える値に設定した場合に、「ホウ素選択性吸着体を充填したホウ素吸着塔のホウ素BTCを高め、ホウ素選択性吸着体の吸着容量を最大限に活用し、より少ない樹脂量でより多くのホウ素を除去すること」が達成できず、課題を解決できないことが、それぞれ図2(b)(c)から自明である。
・以上のことから、BTPと「所定値」の関係、及び「所定値」の定め方の規定のない本件発明1によっては、課題を解決できるとは認識できない。また、発明の詳細な説明に記載された特定の給水ホウ素濃度と通水SVの積とは大きく異なる条件を包含する本件発明1の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化するための根拠も見いだせない。
したがって、本件発明1及びこれに従属する本件発明2は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。」(52頁5行~53頁25行)
イ 第3の1(1)の理由に関する当審の判断
(ア)サポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(イ)本件発明1の課題について
本件発明1の課題は「特別な装置設備や薬品、エネルギー等を必要とすることなく、ホウ素選択性吸着体を充填したホウ素吸着塔のホウ素BTCを高め、ホウ素選択性吸着体の吸着容量を最大限に活用し、より少ない樹脂量でより多くのホウ素を除去することを可能とするホウ素の除去方法と、このホウ素の除去方法を用いた純水又は超純水の製造方法を提供すること」(【0008】)であると認められる。
(ウ)本件発明1の課題を解決することができることに関する発明の詳細な説明の記載について
a 本件明細書【0009】の「本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ホウ素選択性吸着体を充填したホウ素吸着塔にホウ素含有水を通水してホウ素を除去する処理において、同じホウ素BTPを設置しても、通水SVによって、ホウ素BTCが異なるものとなること、給水負荷や通水SVを下げることで、ホウ素BTCを高めることができることを見出し、本発明を完成させた。」との記載、及び、【0021】の「ホウ素キレート樹脂等のホウ素選択性吸着体の一般的な物性として、次のようなことが挙げられる。即ち、例えば、吸着容量0.7eq/L-Rの樹脂を1L用いた場合、理論上は7.5g程度のホウ素を吸着除去できるはずであるが、超純水として求められるホウ素濃度1~10ng/Lの処理水を得るべくホウ素BTPを1~10ng/Lに設定した場合、ホウ素は50~300mg程度しか除去できない(即ち、吸着容量50~300mg/L-R)。これは、ホウ素の反応が遅いので、樹脂であれば外周部に吸着したホウ素が樹脂内に拡散する速度が非常に遅くなることから、樹脂内部をホウ素の吸着除去に活用できていないためである。給水負荷を極端に下げたり、非常にゆっくり通水すると、ホウ素が樹脂内を拡散し、樹脂の内部を効率的にホウ素の吸着に使うことができるようになり、ホウ素BTCを高くすることができるようになる。」との記載からは、通水SVを下げると、樹脂の内部を効率的にホウ素の吸着に使うことができ、ホウ素BTCを高めることができることがわかる。
b そして、本件明細書【0023】の「本発明では、ホウ素選択性吸着体を充填したホウ素吸着塔にホウ素含有水を通水してホウ素含有水中のホウ素を除去するに当たり、予め設定したホウ素BTPに応じて、給水ホウ素含有水(ホウ素吸着塔に流入する水)のホウ素濃度と通水SVとの積、或いは給水ホウ素濃度と通水SVと通水時間との積が、所定値以下となるような条件で処理を行う。」との記載、及び、【0024】の「前述の通り、ホウ素選択性吸着体は、同じホウ素BTP、同じ給水ホウ素濃度であっても、通水SVが異なるとホウ素BTCが大幅に異なるものとなる。そこで、本発明では、例えば、予め設定されたホウ素BTP(この値は目的とするホウ素除去処理水のホウ素濃度となる。)に対して所望のホウ素BTCを設定し、このホウ素BTCを得るために、通水SVと給水ホウ素濃度との積(時間あたり負荷量)を設定し、この設定値を満たすように通水SVや、ホウ素吸着塔に充填するホウ素選択性吸着体量(用いるホウ素選択性吸着体量)を決定する。」との記載からは、通水SVを下げるために、具体的には、「ホウ素濃度と通水SVとの積、或いは給水ホウ素濃度と通水SVと通水時間との積が、所定値以下となる」条件で処理を行っていることがわかる。
c してみると、上記(イ)の課題を解決するためには、「ホウ素濃度と通水SVとの積、或いは給水ホウ素濃度と通水SVと通水時間との積が、所定値以下となる」条件で処理を行うことが肝要であるとわかる。
(エ)本件明細書の発明の詳細な説明に記載される本件発明の課題を解決することができると認識できる範囲と本件発明1の対比
上記(ウ)に記載したとおり、上記(イ)の課題を解決するためには、「ホウ素濃度と通水SVとの積、或いは給水ホウ素濃度と通水SVと通水時間との積が、所定値以下となる」条件で処理を行うことが必要である。
これに対し、本件発明1には「該ホウ素を除去する工程において、該ホウ素吸着塔の給水のホウ素濃度と該ホウ素吸着塔への該ホウ素含有水の通水SVとの積が所定値以下となる条件で該ホウ素含有水を通水」する点が特定されている。
そうすると、本件発明1は、上記(イ)の発明の課題を解決するために必要な手段である、「ホウ素濃度と通水SVとの積、或いは給水ホウ素濃度と通水SVと通水時間との積が、所定値以下となる」条件で処理を行う点を含んでいるといえ、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであって、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるといえるから、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合するものということができる。
(オ)上記アの異議申立書に記載の論拠について
本件における特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合していることは、上記(ア)~(エ)で述べたとおりであるが、異議申立書に記載の論拠についても念のため検討する。
a 本件発明1には「予め設定された該ホウ素吸着塔のホウ素BTPに応じて、該所定値を設定する」との特定事項が記載されている。そのため「所定値」を設定する方法は「予め設定された該ホウ素吸着塔のホウ素BTPに応じ」た設定方法に限られる。同様に、「所定値」は、「予め設定された該ホウ素吸着塔のホウ素BTPに応じ」た値に限られる。
そのため、異議申立書に記載の「請求項1の「ホウ素BTPに応じて、該所定値を設定する」の記載はあらゆる所定値の決定方法を含み、「所定値」の記載はすべての値を含むと解される」との論拠は妥当ではない。
b 次に、異議申立書に記載の「本件特許の請求項1は、「所定値」(構成要件C、D)としての具体的数値やその決定手法を定めておらず、発明の詳細な説明を見てもそれらを定義する記載はない。」「また、「ホウ素BTPに応じて、該所定値を設定する」具体的な方法(数式など)を定めておらず、発明の詳細な説明を見てもそれらを定義する記載はない。」「BTPと「所定値」の関係、及び「所定値」の定め方の規定のない本件発明1によっては、課題を解決できるとは認識できない。」との論拠について検討する。
(a)本件明細書を見てみると、以下の記載がある。
「【0023】
<ホウ素吸着塔の運転方法>
本発明では、ホウ素選択性吸着体を充填したホウ素吸着塔にホウ素含有水を通水してホウ素含有水中のホウ素を除去するに当たり、予め設定したホウ素BTPに応じて、給水ホウ素含有水(ホウ素吸着塔に流入する水)のホウ素濃度と通水SVとの積、或いは給水ホウ素濃度と通水SVと通水時間との積が、所定値以下となるような条件で処理を行う。
【0024】
前述の通り、ホウ素選択性吸着体は、同じホウ素BTP、同じ給水ホウ素濃度であっても、通水SVが異なるとホウ素BTCが大幅に異なるものとなる。そこで、本発明では、例えば、予め設定されたホウ素BTP(この値は目的とするホウ素除去処理水のホウ素濃度となる。)に対して所望のホウ素BTCを設定し、このホウ素BTCを得るために、通水SVと給水ホウ素濃度との積(時間あたり負荷量)を設定し、この設定値を満たすように通水SVや、ホウ素吸着塔に充填するホウ素選択性吸着体量(用いるホウ素選択性吸着体量)を決定する。
・・・
【0038】
[実験例2]
実験例1において、ホウ素BTPを1ng/L、10ng/L又は100ng/Lに設定したこと以外は同様にして実験を行い、通水SV(1/h)と給水ホウ素濃度(μg/L)の積と、ホウ素BTCとの関係を調べ、結果を図2(a),(b),(c)に示した。
図2(a),(b),(c)より、いずれのホウ素BTPの場合も、通水SVと給水ホウ素濃度との積を所定値以下とすることで、ホウ素BTCを大きくすることができることが分かる。
具体的には、ホウ素BTP1ng/Lの場合は通水SVと給水ホウ素濃度との積は80μg/L/h以下に、ホウ素BTP10ng/Lの場合は通水SVと給水ホウ素濃度との積は120μg/L/h以下に、ホウ素BTP100ng/Lの場合には通水SVと給水ホウ素濃度との積は200μg/L/h以下となるように条件設定することが好ましいことが分かる。
・・・
【図2】
[図:0001404845000001.jpg]
」
(b)上記(a)で摘記した本件明細書【0023】及び【0024】の記載からは、「予め設定されたホウ素BTP」に対して「所望のホウ素BTC」が設定され、さらに、設定された所望のホウ素BTCを得るための「所定値」(通水SVと給水ホウ素濃度との積)が設定されることがわかる。
(c)また、上記(a)で摘記した【図2】(a)~(c)からは、ホウ素BTPの値に応じて、ホウ素BTC(縦軸)と、所定値(通水SV×給水ホウ素濃度、横軸)の関係が変わることが読み取れる。
(d)さらに、上記(a)で摘記した【0038】には「ホウ素BTP1ng/Lの場合は通水SVと給水ホウ素濃度との積は80μg/L/h以下に、ホウ素BTP10ng/Lの場合は通水SVと給水ホウ素濃度との積は120μg/L/h以下に、ホウ素BTP100ng/Lの場合には通水SVと給水ホウ素濃度との積は200μg/L/h以下」と記載されており、この記載と【図2】とを見比べると、「ホウ素BTP1ng/Lの場合は通水SVと給水ホウ素濃度との積は80μg/L/h」、「ホウ素BTP10ng/Lの場合は通水SVと給水ホウ素濃度との積は120μg/L/h」、「ホウ素BTP100ng/Lの場合には通水SVと給水ホウ素濃度との積は200μg/L/h」を満たすのは、いずれもホウ素BTCの数値が略150.00mg-B/L-Rの場合である。このことから、150.00mg-B/L-Rが所望のホウ素BTCであり、ホウ素BTP1ng/Lの場合(【図2】(a))、ホウ素BTP10ng/Lの場合(【図2】(b))、ホウ素BTP100ng/Lの場合(【図2】(c))に、それぞれ所望のホウ素BTP150.00mg-B/L-Rを指定することで、対応する所定値(通水SV×給水ホウ素濃度)である80μg/L/h、120μg/L/h、200μg/L/hを得ていたことが伺える。
(e)上記(a)~(d)を踏まえると、所定値の設定の流れは、
(i)まず、ホウ素BTPの値に応じて、ホウ素BTCと、所定値(通水SV×給水ホウ素濃度)の関係(予め調べられたもの)を選択し、
(ii)次いで、選択されたホウ素BTCと所定値(通水SV×給水ホウ素濃度)の関係(【図2】のようなグラフ)に対して、所望のホウ素BTC(縦軸の値)を定めることで、対応する所定値(通水SV×給水ホウ素濃度)を得る
というものであることが把握できる。
(f)発明の詳細な説明の記載から、予め設定されたBTP(と所望のホウ素BTC)に応じて所定値(通水SV×給水ホウ素濃度)を設定する方法が把握可能であることは、上記(e)で述べたとおりであるから、異議申立書に記載の「ホウ素BTPに応じて、該所定値を設定する」具体的な方法(数式など)を定めておらず、発明の詳細な説明を見てもそれらを定義する記載はない。」との論拠は妥当ではない。
(g)また、本件発明の課題を解決するために必要とされる事項は、上記イ(ウ)cに記載したとおりであり、「所定値」の具体的数値、BTPと「所定値」の関係、及び、「所定値」の定め方の規定は、課題を解決するために必要とされる事項に含まれるものではない。そのため、異議申立書に記載の「本件特許の請求項1は、「所定値」(構成要件C、D)としての具体的数値やその決定手法を定めておらず、発明の詳細な説明を見てもそれらを定義する記載はない。」、「また、「ホウ素BTPに応じて、該所定値を設定する」具体的な方法(数式など)を定めておらず、発明の詳細な説明を見てもそれらを定義する記載はない。」、「BTPと「所定値」の関係、及び「所定値」の定め方の規定のない本件発明1によっては、課題を解決できるとは認識できない。」との論拠も妥当ではない。
c 続いて、異議申立書に記載の「実験例2(【0038】)の結果によれば、BTPが1ng/Lの場合に、その値に応じて、通水SVと給水ホウ素濃度との積を、80μg/L/hを超える値に設定した場合、「ホウ素選択性吸着体を充填したホウ素吸着塔のホウ素BTCを高め、ホウ素選択性吸着体の吸着容量を最大限に活用し、より少ない樹脂量でより多くのホウ素を除去すること」が達成できず、課題を解決できないことが、図2(a)から自明である。」「同様に、BTPが10ng/Lの場合に、その値に応じて、通水SVと給水ホウ素濃度との積を120μg/L/hを超える値に設定した場合や、BTPが100ng/Lの場合に、その値に応じて、通水SVと給水ホウ素濃度との積を、200μg/L/hを超える値に設定した場合に、「ホウ素選択性吸着体を充填したホウ素吸着塔のホウ素BTCを高め、ホウ素選択性吸着体の吸着容量を最大限に活用し、より少ない樹脂量でより多くのホウ素を除去すること」が達成できず、課題を解決できないことが、それぞれ図2(b)(c)から自明である。」との論拠について検討する。
(a)上記b(d)で記載したように、本願明細書【0038】における所望のホウ素BTCは150.00mg-B/L-Rである。通水SVと給水ホウ素濃度との積が80μg/Lの場合、所望のホウ素BTC150.00mg-B/L-Rと、通水SVと給水ホウ素濃度との積80μg/Lとの交点は、【図2】(a)に図示されたBTPが1ng/Lの場合の曲線上に位置するため、通水SVと給水ホウ素濃度との積80μg/Lというのは、BTP1ng/Lに応じた所定値であるといえる。
(b)他方で、通水SVと給水ホウ素濃度との積が80μg/Lを超える値の場合、所望のホウ素BTC150.00mg-B/L-Rと、通水SVと給水ホウ素濃度との積が80μg/Lを超える値との交点は、【図2】(a)に図示されたBTPが1ng/Lの場合の曲線上に位置しない。そのため、通水SVと給水ホウ素濃度との積が80μg/Lを超える値であるというのは、BTP1ng/Lに応じた所定値であるとはいえない。
(c)そのため、異議申立書に記載の論拠は、「実験例2(【0038】)の結果によれば、BTPが1ng/Lの場合に、その値に応じて、通水SVと給水ホウ素濃度との積を、80μg/L/hを超える値に設定した場合」という前提部分に誤りがあることから、この前提に基づく「「ホウ素選択性吸着体を充填したホウ素吸着塔のホウ素BTCを高め、ホウ素選択性吸着体の吸着容量を最大限に活用し、より少ない樹脂量でより多くのホウ素を除去すること」が達成できず、課題を解決できない」との論拠は妥当ではない。
「BTPが10ng/Lの場合」「BTPが100ng/Lの場合」についても同様である。
(2)上記第3の1(2)の理由について
ア 異議申立書に記載の論拠
申立理由1に関し、異議申立書には以下のとおり記載されている。
「【請求項3】
A ホウ素含有水をホウ素選択性吸着体が充填されたホウ素吸着塔に通水してホウ素を除去するホウ素の除去方法によりホウ素を除去する工程を有する
B 純水又は超純水の製造方法であって、
G 該ホウ素を除去する工程において、該ホウ素吸着塔の給水のホウ素濃度と該ホウ素吸着塔への該ホウ素含有水の通水SVと該ホウ素含有水の通水時間との積が所定値以下となる条件で該ホウ素含有水を通水し、
D 予め設定された該ホウ素吸着塔のホウ素BTPに応じて、該所定値を設定することにより、
E ホウ素濃度1~10ng/Lの純水又は超純水を製造することを特徴とする
B 純水又は超純水の製造方法。」(7頁1~14行)
「・上記と同様に、本件発明3にはBTPに応じた「所定値」の定め方の規定がないため、本件発明は発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。
・本件特許明細書の発明の詳細な説明には「処理水ホウ素濃度即ちホウ素BTPを10ng/Lに設定したい時は・・・通水SV(1/h)と給水ホウ素濃度(μm/L)と運転時間(h)の積を2880以下となるように条件設定する。また、処理水ホウ素濃度即ち、ホウ素BTPを1ng/Lに設定したい時は、・・・通水SV(1/h)と給水ホウ素濃度(μm/L)と運転時間(h)の積を1920以下になるように条件設定する。」との、BTPに応じた「所定値」の定め方が記載されている(【0027】)。
・しかしながら、発明の詳細な説明には、上記以外のBTPの場合の、所定値の値や、BTPに応じた給水ホウ素濃度と通水SVと運転時間の積の定め方に関する記載や示唆はない。
・すなわち、構成要件GのBTPに応じた「所定値」の具体的な値又はその決定方法が不明であるため、本件発明3によっては、課題を解決できるとは認識できない。また、発明の詳細な説明に記載された特定の給水ホウ素濃度と通水SVと通対時間との積とは大きく異なる条件を包含する本件発明3の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化するための根拠も見出せない。
・よって、本件発明3及びこれに従属する本件発明4~6は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。」(53頁27行~54頁18行)
イ 第3の1(2)の理由に関する当審の判断
(ア)サポート要件の判断手法
サポート要件の判断手法については、上記(1)イ(ア)に記載したとおりである。
(イ)本件発明3の課題について
本件発明3の課題は、上記(1)イ(イ)に記載した課題と同様である。
(ウ)本件発明3の課題を解決することができることに関する発明の詳細な説明の記載について
本件発明3の課題を解決することができることに関する発明の詳細な説明の記載については、上記(1)イ(ウ)の記載と同様であり、上記(イ)の課題を解決するためには、「ホウ素濃度と通水SVとの積、或いは給水ホウ素濃度と通水SVと通水時間との積が、所定値以下となる」条件で処理を行うことが必要である。
(エ)本件明細書の発明の詳細な説明に記載される本件発明の課題を解決することができると認識できる範囲と本件発明3の対比
上記(ウ)に記載したとおり、上記(イ)の課題を解決するためには、「ホウ素濃度と通水SVとの積、或いは給水ホウ素濃度と通水SVと通水時間との積が、所定値以下となる」条件で処理を行うことが必要である。
これに対し、本件発明3には「該ホウ素を除去する工程において、該ホウ素吸着塔の給水のホウ素濃度と該ホウ素吸着塔への該ホウ素含有水の通水SVと該ホウ素含有水の通水時間との積が所定値以下となる条件で該ホウ素含有水を通水」する点が特定されている。
そうすると、本件発明3は、上記(イ)の発明の課題を解決するために必要な手段である、「ホウ素濃度と通水SVとの積、或いは給水ホウ素濃度と通水SVと通水時間との積が、所定値以下となる」条件で処理を行う点を含んでいるといえ、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであって、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるといえるから、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合するものということができる。
ウ 上記アの異議申立書に記載の論拠について
(ア)上記アに記載の論拠は、要は、発明の詳細な説明にはBTPに応じた給水ホウ素濃度と通水SVと運転時間の積の定め方に関する記載や示唆はなく、BTPに応じた「所定値」の具体的な値又はその決定方法が不明であるため、本件発明3によっては、課題を解決できるとは認識できない、というものである。
(イ)そこで検討を行うと、まず、上記(1)ウ(カ)で記載したとおり、発明の詳細な説明の記載からは、所定値の設定の流れが、
(i)まず、ホウ素BTPの値に応じて、ホウ素BTCと、所定値(通水SV×給水ホウ素濃度)の関係(予め調べられたもの)を選択し、
(ii)次いで、選択されたホウ素BTCと所定値(通水SV×給水ホウ素濃度)の関係(【図2】のようなグラフ)に対して、所望のホウ素BTC(縦軸の値)を定めることで、対応する所定値(通水SV×給水ホウ素濃度)を得る
というものであることが把握できる。
(ウ)次に、上記(1)ウ(イ)で摘記した【0023】の記載からは「所定値」が「給水ホウ素含有水(ホウ素吸着塔に流入する水)のホウ素濃度と通水SVとの積」以外にも「給水ホウ素濃度と通水SVと通水時間との積」であってもよいことがわかる。
(エ)上記(イ)及び(ウ)からは、発明の詳細な説明の記載からは、所定値の設定の流れとして、
(i)まず、ホウ素BTPの値に応じて、ホウ素BTCと、所定値(給水ホウ素濃度と通水SVと通水時間との積)の関係(予め調べられたもの)を選択し、
(ii)次いで、選択されたホウ素BTCと所定値(給水ホウ素濃度と通水SVと通水時間との積)の関係に対して、所望のホウ素BTCを定めることで、対応する所定値(給水ホウ素濃度と通水SVと通水時間との積)を得る
という態様についても把握可能である。
そのため、発明の詳細な説明には、BTPに応じた給水ホウ素濃度と通水SVと運転時間の積の定め方に関する記載や示唆はないとする異議申立書に記載の論拠は妥当ではない。
(オ)また、本件発明の課題を解決するために必要とされる事項は、上記イ(ウ)に記載したとおりであり、所定値の具体的な値や所定値の決定方法は、課題を解決するために必要とされる事項に含まれるものではない。
そのため、所定値の具体的な値や所定値の決定方法がないことをもって、課題を解決できるとはいえないとする異議申立書に記載の論拠は妥当ではない。
2 申立理由2(実施可能要件違反)について
(1)異議申立書に記載の論拠
申立理由2に関し、異議申立書には以下のとおり記載されている。
「【請求項1】
A ホウ素含有水をホウ素選択性吸着体が充填されたホウ素吸着塔に通水してホウ素を除去するホウ素の除去方法によりホウ素を除去する工程を有する
B 純水又は超純水の製造方法であって、
C 該ホウ素を除去する工程において、該ホウ素吸着塔の給水のホウ素濃度と該ホウ素吸着塔への該ホウ素含有水の通水SVとの積が所定値以下となる条件で該ホウ素含有水を通水し、
D 予め設定された該ホウ素吸着塔のホウ素BTPに応じて、該所定値を設定することにより、
E ホウ素濃度1~10ng/Lの純水又は超純水を製造することを特徴とする
B 純水又は超純水の製造方法。
・・・
【請求項3】
A ホウ素含有水をホウ素選択性吸着体が充填されたホウ素吸着塔に通水してホウ素を除去するホウ素の除去方法によりホウ素を除去する工程を有する
B 純水又は超純水の製造方法であって、
G 該ホウ素を除去する工程において、該ホウ素吸着塔の給水のホウ素濃度と該ホウ素吸着塔への該ホウ素含有水の通水SVと該ホウ素含有水の通水時間との積が所定値以下となる条件で該ホウ素含有水を通水し、
D 予め設定された該ホウ素吸着塔のホウ素BTPに応じて、該所定値を設定することにより、
E ホウ素濃度1~10ng/Lの純水又は超純水を製造することを特徴とする
B 純水又は超純水の製造方法。」(6頁11~7頁14行)
「・6(2)ウで説明した通り、構成要件B及び構成要件Eの「所定値」の具体的な値やその決定方法は不明であるし、発明の詳細な説明を参酌しても、「所定値」の定め方に関する記載や示唆はない。
・また、BTPに応じて「所定値」を決定する方法、言い換えれば、BTPと「所定値」の関係も不明である。
・そうすると「所定値」の意義は不明であると言わざるを得ず、発明の詳細な説明を参酌しても、当業者はBTPに応じて「所定値」を決定することができない。すなわち、当業者は、発明の詳細な説明によって本件発明1、3を実施することができない。
・よって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件違反するものである。」(54頁24行~55頁4行)(当審注:「構成要件B及び構成要件E」は「構成要件C及び構成要件G」の誤記である。)
(2)上記第3の2の理由に関する当審の判断
(ア)実施可能要件の判断手法
発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に係る規定(実施可能要件)に適合するというためには、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が、明細書の発明の詳細な説明及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載があることを要すると解される。
そこで、本件発明1及び3で特定された純水又は超純水の製造方法を、当業者が、明細書の発明の詳細な説明及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく実施できる程度の記載があるか否かで判断する。
(イ)本件明細書の発明の詳細な説明の記載、及び、実施可能要件の判断
a 本願明細書【0010】には「ホウ素含有水をホウ素選択性吸着体が充填されたホウ素吸着塔に通水してホウ素を除去する方法において、予め設定された該ホウ素吸着塔のホウ素BTPに応じて、該ホウ素吸着塔の給水のホウ素濃度と該ホウ素吸着塔への該ホウ素含有水の通水SVとの積が所定値以下となる条件で該ホウ素含有水を通水する」点が、【0012】には「ホウ素含有水をホウ素選択性吸着体が充填されたホウ素吸着塔に通水してホウ素を除去する方法において、予め設定された該ホウ素吸着塔のホウ素BTPに応じて、該ホウ素吸着塔の給水のホウ素濃度と該ホウ素吸着塔への該ホウ素含有水の通水SVと該ホウ素含有水の通水時間との積が所定値以下となる条件で該ホウ素含有水を通水する」点が、それぞれ記載されている。
b そして、上記aの「所定値」については、上記1(1)イ(オ)b(a)~(f)、及び、上記1(2)ウ(イ)~(エ)に記載したとおり、
(i)まず、ホウ素BTPの値に応じて、ホウ素BTCと、所定値(通水SV×給水ホウ素濃度)の関係(予め調べられたもの)を選択し、
(ii)次いで、選択されたホウ素BTCと所定値(通水SV×給水ホウ素濃度)の関係に対して、所望のホウ素BTCを定めることで、対応する所定値(通水SV×給水ホウ素濃度)を得る
あるいは、
(i)まず、ホウ素BTPの値に応じて、ホウ素BTCと、所定値(給水ホウ素濃度と通水SVと通水時間との積)の関係(予め調べられたもの)を選択し、
(ii)次いで、選択されたホウ素BTCと所定値(給水ホウ素濃度と通水SVと通水時間との積)の関係に対して、所望のホウ素BTCを定めることで、対応する所定値(給水ホウ素濃度と通水SVと通水時間との積)を得る
ことにより設定可能であることが、発明の詳細な説明の記載から把握可能である。
c そして、上記a及びbを総合すると、「予め設定された該ホウ素吸着塔のホウ素BTPに応じて、該ホウ素吸着塔の給水のホウ素濃度と該ホウ素吸着塔への該ホウ素含有水の通水SVとの積が所定値以下となる条件で該ホウ素含有水を通水」し、この「所定値」について、まず、ホウ素BTPの値に応じて、ホウ素BTCと、所定値(通水SV×給水ホウ素濃度)の関係(予め調べられたもの)を選択し、次いで、選択されたホウ素BTCと所定値(通水SV×給水ホウ素濃度)の関係に対して、所望のホウ素BTCを定めることで、対応する所定値を得ることを行うこと、あるいは、「ホウ素含有水をホウ素選択性吸着体が充填されたホウ素吸着塔に通水してホウ素を除去する方法において、予め設定された該ホウ素吸着塔のホウ素BTPに応じて、該ホウ素吸着塔の給水のホウ素濃度と該ホウ素吸着塔への該ホウ素含有水の通水SVと該ホウ素含有水の通水時間との積が所定値以下となる条件で該ホウ素含有水を通水」し、この「所定値」について、まず、ホウ素BTPの値に応じて、ホウ素BTCと、所定値(給水ホウ素濃度と通水SVと通水時間との積)の関係(予め調べられたもの)を選択し、次いで、選択されたホウ素BTCと所定値(給水ホウ素濃度と通水SVと通水時間との積)の関係に対して、所望のホウ素BTCを定めることで、対応する所定値(給水ホウ素濃度と通水SVと通水時間との積)を得ることを行うことによって、最終的にホウ素を除去した純水又は超純水を製造できることが、発明の詳細な説明の記載から把握可能である。
d 上記cで記載したとおり、純水又は超純水を製造する具体的な方法について、発明の詳細な説明の記載から把握可能である。
無論、上記cで記載した、純水又は超純水の製造方法を実施するためには、ホウ素BTCと、所定値(給水ホウ素濃度と通水SVの積、あるいは、給水ホウ素濃度と通水SVと通水時間との積)の関係をホウ素BTPの値毎に予め実験で測定しておく必要はあるものの、この事前実験は、実際、本件明細書に記載される【図2】(a)~(c)において、数点の実測値から「ホウ素BTC」と「通水SV×給水ホウ素濃度」の関係のグラフが作成されているように、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤又は複雑高度な実験等に該当するものとはいえない。
そうすると、本件発明1及び3で特定された純水又は超純水の製造方法を実施するのに、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤又は複雑高度な実験等をする必要があるとはいえず、当業者であれば、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により、本件発明を実施することができるというべきであるから、本件明細書の詳細な説明の記載は、本件発明について実施可能要件を満たしているといえる。
e 上記(1)の異議申立書に記載の論拠について
「所定値」の定め方、BTPと「所定値」の関係が、発明の詳細な説明の記載から把握可能であることは、上記b及びcで述べたとおりであるので、上記(1)の異議申立書に記載の論拠は妥当ではない。
3 申立理由3(明確性要件違反)について
(1)異議申立書に記載の論拠
申立理由3に関し、異議申立書には以下のとおり記載されている。
「【請求項1】
A ホウ素含有水をホウ素選択性吸着体が充填されたホウ素吸着塔に通水してホウ素を除去するホウ素の除去方法によりホウ素を除去する工程を有する
B 純水又は超純水の製造方法であって、
C 該ホウ素を除去する工程において、該ホウ素吸着塔の給水のホウ素濃度と該ホウ素吸着塔への該ホウ素含有水の通水SVとの積が所定値以下となる条件で該ホウ素含有水を通水し、
D 予め設定された該ホウ素吸着塔のホウ素BTPに応じて、該所定値を設定することにより、
E ホウ素濃度1~10ng/Lの純水又は超純水を製造することを特徴とする
B 純水又は超純水の製造方法。
・・・
【請求項3】
A ホウ素含有水をホウ素選択性吸着体が充填されたホウ素吸着塔に通水してホウ素を除去するホウ素の除去方法によりホウ素を除去する工程を有する
B 純水又は超純水の製造方法であって、
G 該ホウ素を除去する工程において、該ホウ素吸着塔の給水のホウ素濃度と該ホウ素吸着塔への該ホウ素含有水の通水SVと該ホウ素含有水の通水時間との積が所定値以下となる条件で該ホウ素含有水を通水し、
D 予め設定された該ホウ素吸着塔のホウ素BTPに応じて、該所定値を設定することにより、
E ホウ素濃度1~10ng/Lの純水又は超純水を製造することを特徴とする
B 純水又は超純水の製造方法。」(6頁11~7頁14行)
「・6(2)ウで説明した通り、構成要件B及び構成要件Eの「所定値」の具体的な値やその決定方法は不明であるし、発明の詳細な説明を参酌しても、「所定値」の定め方に関する記載や示唆はない。
・また、BTPに応じて所定値を決定する方法、言い換えれば、BTPと「所定値」の関係も不明であると言わざるを得ない。
・したがって、請求項1、3は明確性を欠いており、請求項1及びそれに従属する請求項2、請求項3及びそれに従属する請求項4~6は明確性要件に違反して特許されたものである。」(55頁7~14行)(当審注:「構成要件B及び構成要件E」は「構成要件C及び構成要件G」の誤記である。)
(2)第3の3の理由に関する当審の判断
ア 本件発明1の「ホウ素を除去する工程において、該ホウ素吸着塔の給水のホウ素濃度と該ホウ素吸着塔への該ホウ素含有水の通水SVとの積が所定値以下となる条件で該ホウ素含有水を通水」との記載によれば、ホウ素濃度と通水SVとの積が所定値以下となるように通水されるものであることが把握でき、同時に「所定値」が一種の閾値として扱われているものであることがわかるため、「所定値」という語句の意味するところは明確であるといえる。
イ また、本件発明1の「予め設定された該ホウ素吸着塔のホウ素BTPに応じて、該所定値を設定することにより、ホウ素濃度1~10ng/Lの純水又は超純水を製造する」との記載からは、所定値がホウ素BTPに応じて設定される、言い換えると、所定値の設定に際して少なくともホウ素BTPの値が参酌されることがわかるため、「所定値」と「BTP」の関係性についても明確であるといえる。
ウ 申立人は、「所定値」の具体的な値が不明であると述べるが、上記アで記載したとおり、「所定値」という語句の意味するところは明確であり、具体的な値が記載されていないことをもって不明確であるとするのは道理がなく、申立人の主張は採用できない。
エ また、申立人は、BTPに応じて所定値を決定する方法、言い換えれば、BTPと「所定値」の関係も不明であると述べているが、BTPと「所定値」の関係が明確であることは上記イで述べたとおりであり、申立人の主張は採用できない。
オ さらに、申立人は、「発明の詳細な説明を参酌しても、「所定値」の定め方に関する記載や示唆はない」と述べているが、発明の詳細な説明から所定値の定め方を把握可能であることは、上記1(1)イ(オ)b(a)~(f)及び上記1(2)ウ(イ)~(エ)で述べたとおりであり、申立人の主張は採用できない。
カ 上記ア~オで述べたとおり、本件発明1の記載は明確であり、また、申立人の主張はいずれも採用できるものではないから、本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明2は明確である。
また、本件発明3については、上記ア~オにおける「該ホウ素吸着塔の給水のホウ素濃度と該ホウ素吸着塔への該ホウ素含有水の通水SVとの積」を「該ホウ素吸着塔の給水のホウ素濃度と該ホウ素吸着塔への該ホウ素含有水の通水SVと該ホウ素含有水の通水時間との積」と読み替える以外は同様であるため、本件発明3及び本件発明3を直接的又は間接的に引用する本件発明4~6についても同様に明確である。
4 申立理由4、5(新規性欠如及び進歩性欠如)について
(1)甲1~14に記載の事項(「・・・」は省略を表す。下線は当審にて付与した。)
ア 甲1に記載の事項
(ア)「【請求項6】
ホウ素を含む被処理水を処理するための被処理水の処理方法であって、
前記被処理水を強塩基性アニオン交換樹脂に通水して処理する第1の処理工程と、
前記第1の処理工程により処理された前記被処理水をホウ素選択性イオン交換樹脂に通水して処理する第2の処理工程と、
を含み、
前記被処理水は、積層された状態の前記強塩基性アニオン交換樹脂と前記ホウ素選択性イオン交換樹脂に順に通水されることを特徴とする被処理水の処理方法。」
(イ)「【0001】
本発明は、被処理水の処理装置等に関し、より詳しくは、ホウ素を含む被処理水をイオン交換樹脂に通して処理する被処理水の処理装置等に関する。
・・・
【0006】
しかしながら、非再生式イオン交換装置では、ホウ素選択性イオン交換樹脂の再生を行なわないため、ホウ素選択性イオン交換樹脂を順に交換していく必要がある。また半導体デバイスの製造工程等で使用するために必要な濃度以下になるようにホウ素を除去するためには、ホウ素を非常に低い濃度とする高度処理が必要である。この場合、ホウ素よりホウ素選択性イオン交換樹脂に吸着しやすいアニオンが含まれると、ホウ素選択性イオン交換樹脂にこのアニオンが優先的に吸着し、ホウ素選択性イオン交換樹脂へのホウ素の吸着を阻害する場合がある。そのためホウ素を吸着する分のホウ素選択性イオン交換樹脂が足りなくなり、早期にホウ素の漏出が生じやすい。よってホウ素選択性イオン交換樹脂を頻繁に交換する必要があり、装置の安定的な運用や純水の製造費用の点で問題が生じやすい。
【0007】
本発明は、従来の技術が有する上記の問題点に鑑みてなされたものであり、ホウ素を含む被処理水を処理する被処理水の処理装置においてホウ素選択性イオン交換樹脂を使用する場合でも、ホウ素選択性イオン交換樹脂の耐用期間を長くしやすい被処理水の処理装置等を提供しようとするものである。
・・・
【0015】
(純水)
本実施の形態で製造される純水は、上述の通り半導体デバイス製造工程等において洗浄などの用途に使用される。この場合、純水中に含まれるホウ素の濃度は、例えば、1ppt未満~10ppt未満とする必要がある。なおこの場合、純水は、超純水と呼ばれることがある。
ただし、本実施の形態において製造される純水は、半導体デバイス製造工程で使用される場合に限らず、例えば、薬品製造工程、食品製造工程等においても使用可能である。
・・・
【0018】
(ホウ素選択性イオン交換樹脂)
本実施の形態で使用されるホウ素選択性イオン交換樹脂は、N-メチルグルカミン基を交換基として有するキレート樹脂からなるものである。ホウ素選択性イオン交換樹脂は、ホウ素イオンをより吸着しやすい性質を有するが、ホウ素イオンに限らず他のアニオンも吸着する場合がある。
本実施の形態では、ホウ素選択性イオン交換樹脂として、三菱化学株式会社製のダイヤイオンCRBT03等を使用することができる。
・・・
【0022】
また二次純水系は、一般的には、一次純水系で処理された水を、TOC(全有機体炭素)を分解するための紫外線酸化装置と、微量のイオン成分を除去する非再生式イオン交換装置と、溶存酸素を除去する脱気装置と、微粒子を除去する限外ろ過膜装置で処理する設備である。本実施の形態では、非再生式イオン交換装置で、一次純水系により処理され、ホウ素を含む水を処理する。
・・・
【0044】
以上説明したように2種類のイオン交換樹脂を充填することで、被処理水は、まず強塩基性アニオン交換樹脂Aと接触し、次にホウ素選択性イオン交換樹脂Bに接触することになる。そのため被処理水中に含まれるアニオンは、まず強塩基性アニオン交換樹脂Aと接触してその多くが取り除かれる。そして次にホウ素選択性イオン交換樹脂Bに接触して、特にホウ素イオンが選択的に取り除かれる。つまりアニオンの中には、ホウ素イオンよりホウ素選択性イオン交換樹脂Bに吸着しやすいものがあり(特に炭酸イオン(CO2-))、ホウ素選択性イオン交換樹脂Bへのホウ素イオンの吸着を阻害する場合がある。しかし本実施の形態では、ホウ素選択性イオン交換樹脂Bに被処理水が到達する段階で、ホウ素イオンの吸着を阻害する他のアニオンが大部分取り除かれているため、ホウ素イオンをより効率的に吸着することができる。」
(ウ)「【0053】
(実施例1)
本実施例では、第1イオン交換樹脂塔23として、図2で示すものを用いた。このとき外殻部231としては、直径が20mmφで、高さが1000mmのサイズのものを用いた。
そして第1イオン交換樹脂塔23の外殻部231内部に、強塩基性アニオン交換樹脂Aとホウ素選択性イオン交換樹脂Bを図2で示すように充填した。このとき強塩基性アニオン交換樹脂Aとして三菱化学株式会社製のダイヤイオンSAT20Lを使用し、層高HAが300mmとなるようにした。またホウ素選択性イオン交換樹脂Bとして、三菱化学株式会社製のダイヤイオンCRBT03を使用し、層高HBが870mmとなるようにした。
そして被処理水としてホウ素濃度が1ppbのものを、通水流量6.28L/h、通水線速度20m/hで通水した。
・・・
【0055】
(評価)
第1イオン交換樹脂塔23の排出部233から排出される処理後の水について、オンライン型ホウ素計およびICP-MS分析計(誘導結合プラズマ質量分析計)を用いてホウ素の濃度を測定した。そして通水を継続し耐用期間(ライフ)について調査した。
【0056】
またイオン交換樹脂1Lあたりのホウ素吸着量として平衡吸着量を算出した。これは処理後のイオン交換樹脂をマイクロウェーブで酸分解後、ICP-MS分析計を用いて吸着したホウ素の量を測定し、それから算出することで行なった。平衡吸着量は、大きい値である方が、より多くのホウ素を吸着できたことを表し、良い結果であると言える。
【0057】
結果を表1に示す。
【0058】
【表1】
[図:0001404845000002.jpg]
【0059】
表1に示したように、排出部233から排出される水に含まれるホウ素の濃度は、実施例1の場合でも比較例1の場合でも、1ppt未満となった。ただし耐用期間(ライフ)については、実施例1の場合は、425日経過しても、1ppt以上のホウ素の漏出は認められなかった。対して比較例1の場合は、39日経過後にホウ素の漏出が増加し、1ppt以上となった。」
(エ)「【図2】
[図:0001404845000003.jpg]
」
イ 甲2に記載の事項
(ア)「【請求項14】
原水を前処理した、ホウ素成分と、全有機炭素成分とを含む被処理水を、ホウ素吸着性樹脂及び強塩基性陰イオン交換樹脂を混合してなるホウ素吸着/陰イオン交換混床樹脂に通流することで、ホウ素の低減された処理水を得ることを特徴とする純水製造方法。」
(イ)「【0001】
本発明は、純水製造装置、超純水製造システム及び純水製造方法に関する。
・・・
【0007】
しかしながら、ホウ素を高度に除去するために、TOC-UVと混床式イオン交換装置の組合せを2組備える超純水製造システムにホウ素選択性イオン交換樹脂を設置する場合に、TOC-UVの処理水をホウ素選択性イオン交換樹脂で処理するように構成すると、TOC-UVの処理水に含まれる低分子量の有機酸等が、ホウ素選択性イオン交換樹脂でのホウ素の吸着を阻害し、ホウ素除去能が早期に低下するという課題があった。
【0008】
また、混床式イオン交換装置の処理水をホウ素選択性イオン交換樹脂で処理するように構成すると、ホウ素選択性イオン交換樹脂からの溶出物(有機物)により、処理水中のTOC濃度が上昇してしまうという課題があった。
【0009】
また、ホウ素選択性イオン交換樹脂を、一次純水システムの前段側(前処理装置の後)に設置すると、ホウ素選択性樹脂がホウ素以外の不純物成分を吸着してしまい、ホウ素の除去能を得られないという課題があった。
【0010】
このように、従来のホウ素選択性イオン交換樹脂を用いた超純水製造システムでは、例えば高純度の純水を製造する場合に、ホウ素の除去能が十分に得られないという課題や、ホウ素除去能が早期に低下し、ホウ素選択性イオン交換樹脂やこれを用いたイオン交換樹脂の交換頻度、再生頻度が増大するという課題があった。
【0011】
本発明は上記した課題を解消するためになされたものであって、長期間にわたってホウ素を高度に除去することができる純水製造装置、超純水製造システム及び純水製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の純水製造装置は、前処理装置で処理されて、ホウ素成分と全有機炭素成分とを含む被処理水を処理して純水を製造する純水製造装置であって、ホウ素吸着性樹脂及び強塩基性陰イオン交換樹脂を混合してなるホウ素吸着/陰イオン交換混床樹脂を備えるホウ素吸着性樹脂混合イオン交換装置を具備することを特徴とする。」
(ウ)「【0065】
こうして、ホウ素吸着性樹脂混合イオン交換装置12の処理水として、例えば、ホウ素濃度が1.0ng/L(as B)以下、TOC濃度が5.0μg/L(as C)以下の純水を得ることができる。」
(エ)「【実施例】
【0091】
次に、実施例について説明する。例1,2は実施例であり、例3,4は比較例である。なお、例1~4においては、図8に示す装置を用いた。
【0092】
(例1)
内径φ50mmのカラムに、ホウ素吸着性樹脂(ダイヤイオンCRB03、三菱化学(株)社製、交換容量:0.8meq/mL)750mL及び強塩基性陰イオン交換樹脂(Duolite AGP、ローム・アンド・ハース社製、交換容量:1.1meq/mL)12450mLを充填し、ホウ素吸着/陰イオン交換混床樹脂塔(B・SA塔)61aを構成した。B・SA塔61aにおける樹脂層の高さは1630mmであった。
【0093】
比抵抗値18.0MΩ・cm以上、ホウ素(B)濃度10ng/L(as B)以下の超純水に、TOC成分として、濃度15μg/Lとなる量のイソプロピルアルコール(IPA)、ホウ素(B)濃度が0.41μg/Lとなる量のホウ酸(H3BO3)を添加し、紫外線酸化装置(TOC-UV)70に通水した。次いで、TOC-UV処理水を、B・SA塔61aに流量1700mL/min(空間速度SV=32/h、線速度LV=52m/L)で通水した。
【0094】
B・SA塔61aの出口水を定期的に採取し、ホウ素濃度を測定した。結果を、B・SA塔61aへの通水日数を横軸、B・SA塔61aの処理水のホウ素濃度を縦軸として、図9のグラフに示す。
【0095】
例1では、約140日経過後にもB・SA塔61aの出口水のホウ素濃度は0.001ngB/L以下であった。なお、B・SA塔61aの出口水中にホウ素が検出されるまでの間に、B・SA塔61a内の単位体積当たりのイオン交換樹脂が吸着したホウ素の量(ホウ素吸着量)は45mg/L(as B)以上と計算される。
・・・
【0101】
(例4)
強酸性陽イオン交換樹脂及び強塩基性陰イオン交換樹脂を混合した混床式イオン交換樹脂と、ホウ素吸着性樹脂との積層樹脂を模擬し、B・SA塔61aに代えて、ホウ素吸着性樹脂を750mL充填したホウ素樹脂塔(B塔)63と、強酸性陽イオン交換樹脂530mL及び強塩基性陰イオン交換樹脂1920mLを混合して充填した混床式イオン交換樹脂塔(MB塔)64とを上流側からこの順に直列に接続した。その他は例1と同様の条件で試験を行い、B塔63の出口水、MB塔4の出口水のホウ素濃度を例1と同様に測定した。結果を図9に示す。
【0102】
例4では、B塔63では通水から約30日後、MB塔64では通水から約70日後に出口水中のホウ素濃度が上昇を始めた。この結果から、混床式イオン交換樹脂と、ホウ素吸着性樹脂とを積層した場合にも、これらを混合した場合に比べて、ホウ素の除去率が早期に低下することが分かる。なお、B塔63又はMB塔64のそれぞれの出口水中にホウ素が検出されるまでの間にB塔63、MB塔64内の単位体積当たりのイオン交換樹脂が吸着したホウ素の量(ホウ素吸着量)は、B塔63及びMB塔64の合計で、22mg/L(as B)と計算される。
【0103】
例1~例4における処理条件及び単位体積当たりのイオン交換樹脂によるホウ素の吸着量(ホウ素吸着量)を表1に示す。
なお、例1~4において、TOC濃度は、TOC濃度計(Anatel社製、AnatelA1000XP)、ホウ素濃度は、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)装置、抵抗率は抵抗率計(HORIBA社製、HE-960RW)によって測定した。
【0104】
【表1】
[図:0001404845000004.jpg]
」
(オ)「【0108】
(実験例2)
例1と同様の超純水に、ホウ素(B)濃度が0.4μg/L(as B)となる量のホウ酸(H3BO3)を添加したサンプル水(IPAの添加と、紫外線酸化装置(TOC-UV)での処理を行っていないサンプル水)を、例4と同様のB塔63に、空間速度SV=90(1/h)、線速度LV=18(m/h)で通水し、B塔63の出口水の水質を測定した。B塔63の出口水のホウ素濃度と、サンプル水の通水量(B.V.)を、ホウ素濃度を縦軸、通水量を横軸として実験例1と併せて図10に示す。また、実験例2において、B塔63の出口水中にホウ素が検出されるまでの、B塔63内の単位体積当たりのイオン交換樹脂のホウ素吸着量(mgB/L)を算出した。実験例2における通水条件及び吸着されたホウ素の量を、実験例1と併せて表2に示す。
【0109】
(実験例3)
実験例2において、B塔63への被処理水の通水条件を、空間速度SV=45(1/h)、線速度LV=9(m/h)として実験を行った。実験例3における、B塔63の出口水中にホウ素が検出されるまでの、B塔63内の単位体積当たりのイオン交換樹脂のホウ素吸着量(mg/L(as B))を算出した。実験例3における通水条件及びホウ素吸着(mg/L(as B))を実験例1、2と併せて表2に示す。
【0110】
【表2】
[図:0001404845000005.jpg]
【0111】
実験例1~実験例3より、超純水に、IPAを添加した後、紫外線酸化装置(TOC-UV)で処理し、ホウ素(B)を添加したサンプル水では、IPA添加及びTOC-UV処理を行わないサンプル水を用いた場合に比べて、ホウ素吸着性樹脂によるホウ素の吸着量が少なくなることが分かる。これは、IPAが紫外線酸化装置(TOC-UV)で分解されることで生じる二酸化炭素及び/又はカルボン酸化合物がホウ素吸着性樹脂に吸着されることで、ホウ素吸着性樹脂によるホウ素イオンの吸着を阻害するためであると考えられる。」
(カ)「【図8】
[図:0001404845000006.jpg]
【図9】
[図:0001404845000007.jpg]
」
ウ 甲3に記載の事項
(ア)「イオン交換樹脂の単位量を筒に詰め,再生,洗浄してイオンを含む稀薄溶液を流し,流出液1定量毎にイオンの濃度を測定してみると,はじめはイオンの漏れはほとんど認められないが,流出液が多くなり樹脂のイオンの吸着量が増加するにつれて,イオンの漏出がはじまり,この濃度が漸次増加し,ついには原液と同じ濃度になる.この関係を示すと第10図のとおりである.流出液のイオンの濃度が急激に増加する点を,貫流点(Break through point)とよんでいる.第10図において充填した樹脂が交換したイオンの量は,□で示す面積に相当し,これが全交換容量とよばれる.実際に被処理液中のイオンを交換樹脂で除く場合には,処理液中のイオンの漏出を極度に制限することが多く,このような場合には貫流点までしか通液できないことになる.貫流点までに交換した交換容量を貫流交換容量(Break through capacity)といい,■で示す面積に相当する.」(21頁2~18行)(当審注:上記「□」及び「■」は、四角形の内部を斜線で塗りつぶした図形である。)
(イ)「
[図:0001404845000008.jpg]
」(21頁)
(ウ)「貫流交換容量は樹脂の使用条件によって値が相当変動するものである.即ち再生剤の使用量が少ないほど,(第14図)樹脂層の高さが低いほど(第11図)原液イオン濃度が高いほど(第12図)通液流速が早いほど(第13図)低値が得られる.」(22頁21~29行)
エ 甲4に記載の事項
(ア)「The columnar operationg capacities of Amberlite XE-243 for removing boron from a synthetic irrigation water(1000 ppm NaCl and 10 ppm B) are described in Figure 3.」(141頁13~15行)(訳:合成灌漑水(1000ppmのNaClと10ppmのB)からホウ素を除去するためのアンバーライトXE-243の柱状操作能力は、図3に記載されている。)
(イ)「
[図:0001404845000009.jpg]
Figure 3. Flow rate dependence of Amberlite XE-243 capacity.● Rohm & Haas; ○ Aerojet-General data(4)」(143頁)(訳:図3 アンバーライト XE-243の交換容量の流量による影響 ●ローム&ハース; ○ エアロジェット公式データ(4))
オ 甲5に記載の事項
(ア)「そこで本報では,二次純水系へのほう素の流入を防ぐことにより,結果として,製造される超純水中にほう素を含むことがない超純水システムについて報告する.本超純水システムは,Rohm & Haas社製ほう素選択樹脂Amberlite IRA-743Tを利用しており,長期間安定して,ほう素濃度を10ppt以下に低減することができる。」(96頁18~21行)
(イ)「
[図:0001404845000010.jpg]
Figure 5 Calculated life of the boron polisher」(102頁)(訳:図5 ホウ素ポリッシャーの寿命の算出値)
カ 甲6に記載の事項
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、石炭燃焼時の排出ガス処理時に出るホウ素含有廃水の処理方法に関する。
・・・
【0015】水中のホウ素は通常ホウ酸イオンとして存在するが、ホウ酸イオンはマンニットなどの多価アルコール化合物の前記した反応を利用するもので、交換基を構成しているn-methyl-glucamineとホウ酸イオンとを反応させることにより、ホウ素を吸着するものである。また、この反応は選択的に進行するので、海水などの共存塩類濃度の極めて濃い水から少量のホウ素を選択的に除去することができる。このホウ素選択性イオン交換樹脂の使用方法は、通常のイオン交換樹脂と同様にカラムに充填し、これにホウ素含有廃水を通水したり、ホウ素含有廃水にこの樹脂を添加してバッチ反応を行わせたりして、ホウ素を吸着させる。該ホウ素選択性イオン交換樹脂としては、アンバーライト(登録商標)IRA-743Tがある。
・・・
【0019】
【発明の実施の形態】次に、ホウ素含有廃水の処理方法について、図3のフロー図に基づいて説明する。石炭燃焼時の排出ガス処理など種々の由来のホウ素含有廃水は、ライン1から一旦廃水貯槽2に受けられて下流側の負荷が調節される。この廃水貯槽2からホウ素含有廃水はライン3にて正抽出槽4に送られ、その際ホウ素濃度及び流量が測定され、運転管理装置に送られる。同時にライン3で測定したホウ素濃度及び流量に基づいて、BEPDとEHAとの混合物貯槽5から混合物がその必要量を制御されてライン6にて正抽出槽4に送られ、撹拌によりホウ素含有廃水と混合物とが混合される。このような操作により、ホウ素が混合物に正抽出され、次いで静置すると、正抽出槽4の液は2層に分離される。上層液はホウ素含有廃水中のホウ素の約90%が混合物に移行したもの、すなわち油相分であり、下層液は残り約10%のホウ素を含有する処理液である。
【0020】下層の処理液は、ライン7にてアンバーライトIRA-743Tを用いたホウ素選択性イオン交換樹脂充填塔8に送られ、その際ホウ素濃度が測定され、運転管理装置に送られ、充填塔8の運転設定値、例えば、ホウ素濃度(mg/l)×処理倍量(通液量l/ホウ素選択性イオン交換樹脂量l)=約1600となるまで、処理液の通液量を自動制御される。処理液は、ホウ素選択性イオン交換樹脂充填塔8を通過する間にホウ素濃度1mg以下に処理されるから、ホウ素に関してはそのままライン9により公共水域に放流できる(実施例1参照)。ここで、ホウ素選択性イオン交換樹脂は、処理液のホウ素濃度が低くはなっているが通液し続けることにより、ホウ素の吸着限界に達するから、再生液貯槽18からライン19にて硫酸をホウ素選択性イオン交換樹脂充填塔8に送り接触させると、ホウ素選択性イオン交換樹脂から大半のホウ素を脱着して濃縮ホウ素を含む再生廃液が出る。この再生廃液はpHが低いから中和されて、ライン9から分岐するライン20にて前記廃水貯槽2に戻される。」
(イ)「【図3】
[図:0001404845000011.jpg]
」
キ 甲7に記載の事項
(ア)「漏出曲線からイオン交換帯の長さ(hz)を求める場合は式(1.48)7)に従って算出する。
[図:0001404845000012.jpg]
……(1.48)
ここに hz:イオン交換帯の長さ(m)
CA:Aイオンの濃度(g当量/l)
LV:通液流速(m/h)
qA:Aイオンを吸着可能な,イオン交換樹脂の有効イオン交換容量(g当量/l-R)
ΔT:図1.67の漏出曲線におけるv1~v2にいたる所要時間(h)
qAは漏出曲線におけるAイオンの飽和吸着容量に等しく,いい変えれば任意の再生剤量で再生を行った再生後のイオン交換樹脂の有効なイオン交換容量(総交換容量×再生率)に相当する。」(98頁6~16行)
(イ)「貫流点においてイオン交換帯に相当する部分にまだ未反応なイオン交換基を残しているが貫流容量と飽和吸着容量との比(有効利用率)は,イオン交換帯の長さ(h2)とイオン交換樹脂層の高さ(h)との関連から近似的に式(1.48)8)で表すことができる。
[図:0001404845000013.jpg]
……(1.49)」(99頁4~8行)
ク 甲8に記載の事項
(ア)「<産業上の利用分野>
本発明は強酸性陽イオン交換樹脂と強塩基性陰イオン交換樹脂とを用いる2床式純水製造装置、2床3塔式純水製造装置、混床式純水製造装置、復水脱塩装置などの純水製造装置の改良に関するものであり、粒子径を特定の範囲に限定したイオン交換樹脂を用いる純水製造装置に関するものである。」(1頁左欄10~17行)
(イ)「(1)反応速度が速くなる。そのために交換帯長さが短くなり結果的に貫流容量が増加する。」(3頁右下欄9~10行)
ケ 甲9に記載の事項
(ア)「【0001】
本発明は、イオン交換装置の運転方法及びイオン交換装置に関する。」
(イ)「【0046】
イオン交換樹脂床2の深さD1を300~1500mmとするのは、次の理由による。まず、下限値について説明する。イオン交換樹脂床2の深さD1が極端に低い場合、再生剤の偏流やショートパスが起こりやすくなるため、再生効率が低下してしまう。また、イオン交換反応が起こる領域(イオン交換帯)の長さが伸びると、有効に利用できるイオン交換樹脂床2が少なくなるため、イオン交換容量(貫流交換容量)が少なくなる。従って、イオン交換樹脂床2の容量が20Lを超えるような硬水軟化装置の設計では、通常は800mm以上の深さが推奨される。しかしながら、特に小容量の硬水軟化装置であれば、300mm以上の深さを確保すれば実用できる。このため、300mmを下限値とする。次に、上限値について説明する。本来、上限値は不要である。ただし、イオン交換樹脂床2の深さD1が高過ぎると、通水時の圧力損失が上昇したり、装置高さが高くなって運送上の問題が発生したりする。このような事情から、イオン交換樹脂床2の深さが1500mmを超える硬水軟化装置は、製造される可能性は低い。このため、1500mmを上限値とする。」
コ 甲10に記載の事項
(ア)「【0001】
本発明は、化学的に安定で、流体透過時の圧力損失が低く、イオン交換容量を大きくできるモノリス状有機多孔質イオン交換体、その使用方法、製造方法及び製造方法で用いる鋳型に関するものである。」
(イ)「【0066】
イオン交換帯長さは、次式;h=C×LV×Δt/(q+0.5×C)に従って求めたものである。なお式中、hはイオン交換帯長さ、Cはイオン濃度、LVは通水線速度、Δtは破過開始から終了までの時間、qはイオン交換容量を表す。なお本来測定にはイオン交換帯長さの2倍以上のイオン交換体の充填高さで測定することが好ましいが、本発明では針の長さが7cmであるため、20cm以上の高さの充填層を作製することが困難であり、上式で見積もらざるを得なかった。」
サ 甲11に記載の事項(訳文は、申立人が提出したものである。)
(ア)「Mass flow rate
・・・
For determining the mass flow rate, multiply the alkalinty (ppm as CaCO3) with the service flow rate (l/h/l of resin) and divide the product by the number 1000.*) This results in parameters which generally range between 1.5 and 10.They allow the operating capacity of Lewatit CNP 80 to be read from Figure 2 for the decarbonization of waters of different alkalinities.」(7頁19~26行)(訳:負荷イオン流速 ・・・負荷イオン流速を求めるために炭酸塩(ppmCaCO3)×採水流速(l/H/l-R)/1000*を計算し、このパラメータは通常1.5~10になります。これを用いればLewatit CNP 80で脱炭酸する場合の交換容量が図2から求まります。)
(イ)「
[図:0001404845000014.jpg]
」(22頁)
シ 甲12に記載の事項
(ア)「【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、ホウ素含有水を凝集沈殿処理及び/又はイオン交換処理により処理するに際して、使用する薬剤の量とイオン交換樹脂の再生頻度を低減し、効率的にホウ素を除去することができるホウ素含有水の処理方法を提供することを目的としてなされたものである。」
(イ)「【0006】本発明方法に用いるイオン交換樹脂としては、例えば、アニオン交換樹脂、ホウ素選択吸着樹脂などを挙げることができる。ホウ素含有水中のホウ素が、オルトホウ酸イオンBO33-、テトラフルオロホウ酸イオンBF4などとして存在する場合は、アニオン交換樹脂を好適に用いることができる。アニオン交換樹脂は、強塩基性アニオン交換樹脂、弱塩基性アニオン交換樹脂のいずれをも用いることができるが、弱塩基性アニオン交換樹脂の方が再生効率は良好である。アニオン交換樹脂はSO4形又はOH形とし、イオン交換樹脂層にホウ素含有水を通水してホウ素を交換吸着させることができる。ホウ素選択吸着樹脂としては、例えば、グルカミン型イオン交換樹脂などを挙げることができる。ホウ素選択吸着樹脂を用いると、ホウ素含有水中のホウ素を選択的に吸着して除去することができる。本発明方法においては、イオン交換樹脂に通水するホウ素含有水中のホウ素濃度を分析して、ホウ素濃度(g/m3)と通水量(m3)の積として算出されるホウ素負荷量が、イオン交換樹脂の交換容量に近づいたとき、あるいは、交換容量に達したときに、自動制御によりホウ素含有水の通水を中止してイオン交換樹脂の再生に移行する。例えば、ホウ素含有水のホウ素濃度を1時間ごとに自動分析し、その間の通水量との積からイオン交換樹脂に送られたホウ素の量を算出し、ホウ素の量を積算することにより、イオン交換樹脂の再生時機を自動制御することができる。ホウ素を吸着したアニオン交換樹脂は、再生剤を通液して吸着されたホウ素を溶離することにより、再生することができる。再生剤としては、例えば、硫酸、塩酸などを用いることができる。硫酸を再生剤として通液することにより、樹脂からホウ素が溶離し、樹脂がSO4形となって再生される。さらに、必要に応じて水酸化ナトリウム水溶液などを通液することにより、樹脂をOH形にすることができる。」
ス 甲13に記載の事項
(ア)「【0039】またほう素選択性イオン交換樹脂を有するイオン交換塔を複数直列に接続してこれらに順次通水することによってほう素の除去を行なうと共に、最前段のイオン交換塔のほう素選択性イオン交換樹脂が定収量に達する時点(あるいは最前段のイオン交換塔の処理水中のほう素濃度を監視してほう素濃度が所定値に達した時点)において、最前段のイオン交換塔を再生して最後段に配置するか、又は最前段のイオン交換塔を除きかつ最後段のイオン交換塔の後段に当該イオン交換樹脂を再生した又は新たなイオン交換塔を連結するいわゆるメリーゴーランド方式で装置を運転することもできる。このメリーゴーランド方式の操作は配管及び弁の切換えにより容易に行なうことができる。」
セ 甲14に記載の事項
(ア)「【請求項1】受水した水道水をイオン交換樹脂粒子層を充填した軟水化槽を通過させることにより軟水化して出水する軟水化給水系と、前記軟水化槽に塩水を供給してイオン交換樹脂粒子層を通過させることによりイオン交換樹脂粒子のイオン交換能力を回復させる再生系と、前記軟水化給水系と再生系を制御する制御系を備えた水道水軟水化装置において、
前記軟水化給水系は、並列に接続した複数の軟水化槽と、水道水を前記複数の軟水化槽に選択的に通水するように水道水通水路を切り替える水道水給水電磁弁を備え、
前記再生系は、塩を溶解して生成した再生塩水を前記複数の軟水化槽に選択的に通水するように再生塩水通水路を切り替える再生塩水給水電磁弁を備え、
前記制御系は、軟水化した出水の硬度を検出する出水硬度検出センサと、この出水硬度検出センサの検出信号を参照して、出水の硬度が所定の値以上のときには水道水を通水する軟水化槽を他の軟水化槽に切り替えるように給水電磁弁を切り替え、通水を終えた軟水化槽に再生塩水を通水するように前記再生塩水供給電磁弁を切り替える制御装置を備えたことを特徴とする水道水軟水化装置。」
(2)甲1、2に記載された発明
ア 甲1に記載された発明
(ア)甲1の請求項6には以下の被処理水の処理方法が記載されている。
「ホウ素を含む被処理水を処理するための被処理水の処理方法であって、
前記被処理水を強塩基性アニオン交換樹脂に通水して処理する第1の処理工程と、
前記第1の処理工程により処理された前記被処理水をホウ素選択性イオン交換樹脂に通水して処理する第2の処理工程と、
を含み、
前記被処理水は、積層された状態の前記強塩基性アニオン交換樹脂と前記ホウ素選択性イオン交換樹脂に順に通水されることを特徴とする被処理水の処理方法。」
(イ)上記(1)ア(イ)で摘記した【0015】には「本実施の形態で製造される純水は、上述の通り半導体デバイス製造工程等において洗浄などの用途に使用される。この場合、純水中に含まれるホウ素の濃度は、例えば、1ppt未満~10ppt未満とする必要がある。なおこの場合、純水は、超純水と呼ばれることがある。」と記載されており、さらに上記(1)ア(ウ)で摘記した【0059】には「排出部233から排出される水に含まれるホウ素の濃度は、実施例1の場合でも比較例1の場合でも、1ppt未満となった。」と記載されている。これらの記載から、上記(ア)の被処理水の処理方法で処理されて排出される水は、ホウ素の濃度が1ppt未満の超純水であることがわかる。
(ウ)上記(1)ア(ウ)で摘記した【0053】には「第1イオン交換樹脂塔23の外殻部231内部に、強塩基性アニオン交換樹脂Aとホウ素選択性イオン交換樹脂Bを図2で示すように充填した。このとき強塩基性アニオン交換樹脂Aとして三菱化学株式会社製のダイヤイオンSAT20Lを使用し、層高HAが300mmとなるようにした。またホウ素選択性イオン交換樹脂Bとして、三菱化学株式会社製のダイヤイオンCRBT03を使用し、層高HBが870mmとなるようにした。」との記載があることから、上記(ア)の「強塩基性アニオン交換樹脂」が「三菱化学株式会社製のダイヤイオンSAT20L」かつ「層高HAが300mm」であることがわかる。同様に上記(ア)の「ホウ素選択性イオン交換樹脂」が「三菱化学株式会社製のダイヤイオンCRBT03」かつ「層高HBが870mm」であることがわかる。また、上記(ア)の「強塩基性アニオン交換樹脂」及び「ホウ素選択性イオン交換樹脂」が「外殻部」「内部」に「充填」されていることもわかる。
(エ)上記(1)ア(ウ)で摘記した【0053】には「被処理水としてホウ素濃度が1ppbのものを、通水流量6.28L/h、通水線速度20m/hで通水した。」との記載があることから、上記(ア)の「被処理水」が「ホウ素濃度が1ppb」であり、「通水流量6.28L/h、通水線速度20m/hで通水」されることがわかる。
(オ)上記(ア)~(エ)を踏まえると、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
「ホウ素を含む被処理水を処理するための被処理水の処理方法であって、
前記被処理水を強塩基性アニオン交換樹脂に通水して処理する第1の処理工程と、
前記第1の処理工程により処理された前記被処理水をホウ素選択性イオン交換樹脂に通水して処理する第2の処理工程と、
を含み、
前記被処理水は、ホウ素濃度が1ppbであり、積層された状態の前記強塩基性アニオン交換樹脂と前記ホウ素選択性イオン交換樹脂に順に、通水流量6.28L/h、通水線速度20m/hで通水され、
前記強塩基性アニオン交換樹脂は、三菱化学株式会社製のダイヤイオンSAT20Lを使用し、層高HAが300mmであり、
前記ホウ素選択性イオン交換樹脂は、三菱化学株式会社製のダイヤイオンCRBT03を使用し、層高HBが870mmであり、
前記強塩基性アニオン交換樹脂及び前記ホウ素選択性イオン交換樹脂は外殻部内部に充填され、
処理後に排出される水は、ホウ素の濃度が1ppt未満の超純水である、
被処理水の処理方法。」
イ 甲2に記載された発明
(ア)甲2の請求項14には、以下の純水製造方法が記載されている。
「原水を前処理した、ホウ素成分と、全有機炭素成分とを含む被処理水を、ホウ素吸着性樹脂及び強塩基性陰イオン交換樹脂を混合してなるホウ素吸着/陰イオン交換混床樹脂に通流することで、ホウ素の低減された処理水を得ることを特徴とする純水製造方法。」
(イ)上記(ア)の「純水」に関し、上記(1)イ(ウ)で摘記した【0065】には「ホウ素濃度が1.0ng/L(as B)以下、TOC濃度が5.0μg/L(as C)以下の純水」であることが記載されている。
(ウ)上記(1)イ(オ)で摘記した【0108】には、実験例2として「サンプル水(IPAの添加と、紫外線酸化装置(TOC-UV)での処理を行っていないサンプル水)を、例4と同様のB塔63に、空間速度SV=90(1/h)、線速度LV=18(m/h)で通水し、B塔63の出口水の水質を測定した」ことが記載されている。さらに、上記「B塔63」に関し、上記(1)イ(エ)で摘記した【0101】には「ホウ素吸着性樹脂を750mL充填したホウ素樹脂塔」であることが記載されている。
このことから、実験例2では、上記(ア)の「ホウ素吸着性樹脂」が「ホウ素樹脂塔」に「750mL充填」されており、上記(ア)の「被処理水」が「空間速度SV=90(1/h)、線速度LV=18(m/h)で通水」されることがわかる。
(エ)上記(1)イ(オ)で摘記した【0109】には、実験例3として「実験例2において、B塔63への被処理水の通水条件を、空間速度SV=45(1/h)、線速度LV=9(m/h)として実験を行った。」ことが記載されている。この点と上記(ウ)を踏まえると、実験例3では、上記(ア)の「ホウ素吸着性樹脂」が「ホウ素樹脂塔」に「750mL充填」されており、上記(ア)の「被処理水」が「空間速度SV=45(1/h)、線速度LV=9(m/h)で通水」されることがわかる。
(オ)上記(ア)~(ウ)を踏まえると、甲2には、次の発明(以下、「甲2実験例2発明」という。)が記載されているといえる。
「原水を前処理した、ホウ素成分と、全有機炭素成分とを含む被処理水を、ホウ素吸着性樹脂及び強塩基性陰イオン交換樹脂を混合してなるホウ素吸着/陰イオン交換混床樹脂に通流することで、ホウ素の低減された処理水を得る純水製造方法であって、
前記純水は、ホウ素濃度が1.0ng/L(as B)以下、TOC濃度が5.0μg/L(as C)以下であり、
前記ホウ素吸着性樹脂がホウ素樹脂塔に750mL充填されており、
前記被処理水が空間速度SV=90(1/h)、線速度LV=18(m/h)で通水される、
純水製造方法。」
(カ)また、上記(ア)、(イ)、(エ)を踏まえると、甲2には、次の発明(以下、「甲2実験例3発明」という。)も記載されているといえる。
「原水を前処理した、ホウ素成分と、全有機炭素成分とを含む被処理水を、ホウ素吸着性樹脂及び強塩基性陰イオン交換樹脂を混合してなるホウ素吸着/陰イオン交換混床樹脂に通流することで、ホウ素の低減された処理水を得る純水製造方法であって、
前記純水は、ホウ素濃度が1.0ng/L(as B)以下、TOC濃度が5.0μg/L(as C)以下であり、
前記ホウ素吸着性樹脂がホウ素樹脂塔に750mL充填されており、
前記被処理水が空間速度SV=45(1/h)、線速度LV=9(m/h)で通水される、
純水製造方法。」
(3)甲1を主引用文献とする場合
ア 本件発明1について
(ア)対比
a 甲1発明の「被処理水の処理方法」は、処理後に「ホウ素の濃度が1ppt未満」の「超純水」を得ているものであるから、処理により超純水を製造しているものであるといえる。そのため、甲1発明の、処理後に「超純水を得ている「被処理水の処理方法」は、本件発明1の「純水又は超純水の製造方法」に相当する。
b 甲1発明の「ホウ素濃度が1ppb」の「被処理水」は、ホウ素を1ppb含む水であるから、本件発明1の「ホウ素含有水」に相当する。
c 甲1発明の「ホウ素選択性イオン交換樹脂」は、ホウ素を吸着除去する樹脂であるから、本件発明1の「ホウ素選択性吸着体」に相当する。
d 甲1発明の「外殻部」は、「ホウ素選択性イオン交換樹脂」が充填されるものである。他方、本件発明1の「ホウ素吸着塔」は「ホウ素選択性吸着体が充填され」たものである。「外殻部」と「ホウ素吸着塔」はいずれもホウ素を除去する物体が充填されるものであるから、甲1発明の「外殻部」は、本件発明1の「ホウ素吸着塔」に相当する。
e 甲1発明の「被処理水をホウ素選択性イオン交換樹脂に通水して処理する第2の処理工程」は、ホウ素選択性イオン交換樹脂への通水という手段により、ホウ素を除去する工程である。そのため、甲1発明の「被処理水をホウ素選択性イオン交換樹脂に通水して処理する第2の処理工程」は、本件発明1の「ホウ素の除去方法によりホウ素を除去する工程」に相当する。
f 上記a~eを踏まえると、甲1発明の、「ホウ素濃度が1ppb」の「被処理水」を「外殻部内部に充填され」た「ホウ素選択性イオン交換樹脂」に通水する「第2の処理工程」によりホウ素が除去されて「ホウ素の濃度が1ppt未満」となった「超純水」を得る「被処理水の処理方法」は、本件発明1の「ホウ素含有水をホウ素選択性吸着体が充填されたホウ素吸着塔に通水してホウ素を除去するホウ素の除去方法によりホウ素を除去する工程を有する純水又は超純水の製造方法」に相当する。
g そうすると、本件発明1と甲1発明は、
「ホウ素含有水をホウ素選択性吸着体が充填されたホウ素吸着塔に通水してホウ素を除去するホウ素の除去方法によりホウ素を除去する工程を有する純水又は超純水の製造方法であって、
純水又は超純水を製造することを特徴とする純水又は超純水の製造方法。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
ホウ素を除去する工程において、本件発明1は、ホウ素吸着塔の給水のホウ素濃度とホウ素吸着塔へのホウ素含有水の通水SVとの積が所定値以下となる条件でホウ素含有水を通水し、予め設定された該ホウ素吸着塔のホウ素BTPに応じて、該所定値を設定しているのに対し、甲1発明はそのような制御を行っていない点。
<相違点2>
純水又は超純水のホウ素濃度が、本件発明1では1~10ng/Lであるのに対し、甲1発明では1ppt未満(1ng/L未満)である点。
(イ)判断
前記(ア)の相違点1から検討する。
a 甲1には、「ホウ素吸着塔の給水のホウ素濃度とホウ素吸着塔へのホウ素含有水の通水SVとの積が所定値以下となる条件でホウ素含有水を通水し、予め設定された該ホウ素吸着塔のホウ素BTPに応じて、該所定値を設定」するような制御について、記載も示唆もない。そのため、甲1発明から、「ホウ素吸着塔の給水のホウ素濃度とホウ素吸着塔へのホウ素含有水の通水SVとの積が所定値以下となる条件でホウ素含有水を通水し、予め設定された該ホウ素吸着塔のホウ素BTPに応じて、該所定値を設定」するような制御を行うことを想起することは、当業者といえども困難である。
b 申立人は異議申立書において、
「なお、甲第1号証の実施例1における給水(被処理水)ホウ素濃度と通水SVを算出すると、下記(計算式1)のとおり、甲第1号証の実施例1において、通水SVは23(1/h)であり、下記(計算式2)のとおり被処理水のホウ素濃度と通水SVとの積は23である。
(計算式1)
通水SV=通水流量/樹脂体積
=6.28/[(0.01)2×3.14x0.87×1000]=23(1/h)
(計算式2)
給水のホウ素×通水SV=1×23=23
したがって、甲第1号証は、純水又は超純水の製造方法において、「被処理水のホウ素濃度と通水SVとの積を所定値(23)として、「ホウ素選択性イオン交換樹脂B」に通水することを開示しており、これは、本件発明1の構成要件Cが「所定値」の決定方法を特定していないことからして、本件発明1の構成要件Cの「該ホウ素吸着塔の給水のホウ素濃度と該ホウ素吸着塔への該ホウ素含有水の通水SVとの積が所定値以下となる条件で該ホウ素含有水を通水」に相当する。」
と主張している。
ここで、上記樹脂体積の計算で用いられている「0.01」は、上記(1)ア(ウ)の「外殻部231としては、直径が20mmφ」(【0053】)の記載に基づくものであると推察されるが、直径20mm(半径0.01m)はあくまで外殻部の径であって、外殻部の内部に充填された樹脂の径については、甲1で特定されていない。
そのため、甲1においては、樹脂体積、通水SV、「給水のホウ素×通水SV」はいずれも計算不可能であり、通水SV及び「給水のホウ素×通水SV」の値は開示されていないと認められる。
よって、上記申立人の主張は採用できず、上記aで記載したように、甲1発明には、「ホウ素吸着塔の給水のホウ素濃度とホウ素吸着塔へのホウ素含有水の通水SVとの積が所定値以下となる条件でホウ素含有水を通水し、予め設定された該ホウ素吸着塔のホウ素BTPに応じて、該所定値を設定」するような制御について、記載も示唆もない。
c 本件発明1は「ホウ素の反応が遅いので、樹脂であれば外周部に吸着したホウ素が樹脂内に拡散する速度が非常に遅くなることから、樹脂内部をホウ素の吸着除去に活用できていない」(【0022】)という課題を解決するために、「通水SVによって、ホウ素BTCが異なるものとなる」(【0009】)点に着目し、「ホウ素吸着塔の給水のホウ素濃度と該ホウ素吸着塔への該ホウ素含有水の通水SVとの積が所定値以下となる条件で該ホウ素含有水を通水」(【0010】)することにより、「ホウ素選択性吸着体の吸着容量を最大限に活用し、より少ない樹脂量でより多くのホウ素を除去することを可能」(【0008】)としたものである。
他方で、甲1発明は、「ホウ素よりホウ素選択性イオン交換樹脂に吸着しやすいアニオンが含まれると、ホウ素選択性イオン交換樹脂にこのアニオンが優先的に吸着し、ホウ素選択性イオン交換樹脂へのホウ素の吸着を阻害する場合がある」(【0006】)という課題を解決するために、「2種類のイオン交換樹脂を充填」(【0044】)し、「被処理水中に含まれるアニオン」を、先に「強塩基性アニオン交換樹脂」に接触させて取り除くことにより、「ホウ素イオンをより効率的に吸着」できるようにしたものである。
ここで、相違点となっている「ホウ素吸着塔の給水のホウ素濃度とホウ素吸着塔へのホウ素含有水の通水SVとの積が所定値以下となる条件でホウ素含有水を通水し、予め設定された該ホウ素吸着塔のホウ素BTPに応じて、該所定値を設定」するという制御について検討してみると、この制御は樹脂内部への吸着に影響を与えるものであるが、アニオンがホウ素より優先的にホウ素選択性イオン交換樹脂に吸着することを阻害したり、アニオンを予め除去したりするような作用はないものと認められる。
そのため、「ホウ素よりホウ素選択性イオン交換樹脂に吸着しやすいアニオンが含まれると、ホウ素選択性イオン交換樹脂にこのアニオンが優先的に吸着し、ホウ素選択性イオン交換樹脂へのホウ素の吸着を阻害する場合がある」という課題を有する甲1発明において、課題の解決に寄与しない「ホウ素吸着塔の給水のホウ素濃度とホウ素吸着塔へのホウ素含有水の通水SVとの積が所定値以下となる条件でホウ素含有水を通水し、予め設定された該ホウ素吸着塔のホウ素BTPに応じて、該所定値を設定」するという制御を採用する動機はないといえる。
そうすると、周知技術(甲3~14)の如何にかかわらず、上記相違点1に係る本件発明1の事項は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。
d 念のため、周知技術として挙げられている甲3~14について検討すると、甲3には貫流交換容量は通液流速が早いほど低値となる点が、甲4にはフローレートと交換容量が反比例する点が、甲5には運転時間(ホウ素ポリッシャーの寿命)と濃度が反比例する点が、甲6にはホウ素濃度(mg/l)×処理倍量(通液量l/ホウ素選択性イオン交換樹脂量l)=約1600となるまで、処理液の通液量を自動制御する点が、甲7にはイオン交換帯の長さ(Hz)が下式にて計算可能な点が、
[図:0001404845000015.jpg]
甲8には交換帯長さが短くなると貫流容量が増加する点が、甲9にはイオン交換反応が起こる領域の長さが伸びるとイオン交換容量が少なくなる点が、甲10にはイオン交換帯長さが次式;h=C×LV×Δt/(q+0.5×C)によって求められる点が、甲11にはバイエル社製Lewatit CNP 80における運転交換容量(Operationg capacity)と負荷イオン流速(Mass flow rate)の関係が、甲12にはホウ素濃度(g/m3)と通水量(m3)の積として算出されるホウ素負荷量が、イオン交換樹脂の交換容量に近づいたとき、あるいは、交換容量に達したときに、自動制御によりホウ素含有水の通水を中止してイオン交換樹脂の再生に移行する点が、甲13にはイオン交換塔を複数直列に接続してこれらに順次通水する点が、甲14には並列に接続した複数の軟水化槽に選択的に通水する点が記載されているものの、「ホウ素吸着塔の給水のホウ素濃度とホウ素吸着塔へのホウ素含有水の通水SVとの積が所定値以下となる条件でホウ素含有水を通水し、予め設定された該ホウ素吸着塔のホウ素BTPに応じて、該所定値を設定」する点については甲3~14のいずれの文献にも記載されていない。そのため、甲1発明に、甲3~14に記載された事項(周知技術)を適用したとしても、相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとするには至らない。
e してみれば、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲1発明及び周知技術(甲3~14)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(ウ)小括
本件発明1は、甲1発明ではないし、甲1発明及び周知技術(甲3~14)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明2について
本件発明2は本件発明1を引用し、かつ、本件発明1の構成をすべて具備するものであるから、本件発明1と同様に、本件発明2は、甲1発明ではないし、甲1発明及び周知技術(甲3~14)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件発明3について
(ア)対比
a 甲1発明の「被処理水の処理方法」は、処理後に「ホウ素の濃度が1ppt未満」の「超純水」を得ているものであるから、処理により超純水を製造しているものであるといえる。そのため、甲1発明の、処理後に「超純水を得ている「被処理水の処理方法」は、本件発明3の「純水又は超純水の製造方法」に相当する。
b 甲1発明の「ホウ素濃度が1ppb」の「被処理水」は、ホウ素を1ppb含む水であるから、本件発明3の「ホウ素含有水」に相当する。
c 甲1発明の「ホウ素選択性イオン交換樹脂」は、ホウ素を吸着除去する樹脂であるから、本件発明3の「ホウ素選択性吸着体」に相当する。
d 甲1発明の「外殻部」は、「ホウ素選択性イオン交換樹脂」が充填されるものである。他方、本件発明3の「ホウ素吸着塔」は「ホウ素選択性吸着体が充填され」たものである。「外殻部」と「ホウ素吸着塔」はいずれもホウ素を除去する物体が充填されるものであるから、甲1発明の「外殻部」は、本件発明3の「ホウ素吸着塔」に相当する。
e 甲1発明の「被処理水をホウ素選択性イオン交換樹脂に通水して処理する第2の処理工程」は、ホウ素選択性イオン交換樹脂への通水という手段により、ホウ素を除去する工程である。そのため、甲1発明の「被処理水をホウ素選択性イオン交換樹脂に通水して処理する第2の処理工程」は、本件発明3の「ホウ素の除去方法によりホウ素を除去する工程」に相当する。
f 上記a~eを踏まえると、甲1発明の、「ホウ素濃度が1ppb」の「被処理水」を「外殻部内部に充填され」た「ホウ素選択性イオン交換樹脂」に通水する「第2の処理工程」によりホウ素が除去されて「ホウ素の濃度が1ppt未満」となった「超純水」を得る「被処理水の処理方法」は、本件発明3の「ホウ素含有水をホウ素選択性吸着体が充填されたホウ素吸着塔に通水してホウ素を除去するホウ素の除去方法によりホウ素を除去する工程を有する純水又は超純水の製造方法」に相当する。
g そうすると、本件発明3と甲1発明は、
「ホウ素含有水をホウ素選択性吸着体が充填されたホウ素吸着塔に通水してホウ素を除去するホウ素の除去方法によりホウ素を除去する工程を有する純水又は超純水の製造方法であって、
純水又は超純水を製造することを特徴とする純水又は超純水の製造方法。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点3>
ホウ素を除去する工程において、本件発明3は、ホウ素吸着塔の給水のホウ素濃度とホウ素吸着塔へのホウ素含有水の通水SVと該ホウ素含有水の通水時間との積が所定値以下となる条件でホウ素含有水を通水し、予め設定された該ホウ素吸着塔のホウ素BTPに応じて、該所定値を設定しているのに対し、甲1発明はそのような制御を行っていない点。
<相違点4>
純水又は超純水のホウ素濃度が、本件発明3では1~10ng/Lであるのに対し、甲1発明では1ppt未満(1ng/L未満)である点。
(イ)判断
前記(ア)の相違点3から検討する。
a 甲1には、「ホウ素吸着塔の給水のホウ素濃度とホウ素吸着塔へのホウ素含有水の通水SVと該ホウ素含有水の通水時間との積が所定値以下となる条件でホウ素含有水を通水し、予め設定された該ホウ素吸着塔のホウ素BTPに応じて、該所定値を設定」するような制御について、記載も示唆もない。そのため、甲1発明から、「ホウ素吸着塔の給水のホウ素濃度とホウ素吸着塔へのホウ素含有水の通水SVと該ホウ素含有水の通水時間との積が所定値以下となる条件でホウ素含有水を通水し、予め設定された該ホウ素吸着塔のホウ素BTPに応じて、該所定値を設定」するような制御を行うことを想起することは、当業者といえども困難である。
b 本件発明3は「ホウ素の反応が遅いので、樹脂であれば外周部に吸着したホウ素が樹脂内に拡散する速度が非常に遅くなることから、樹脂内部をホウ素の吸着除去に活用できていない」(【0022】)という課題を解決するために、「通水SVによって、ホウ素BTCが異なるものとなる」(【0009】)点に着目し、「ホウ素吸着塔の給水のホウ素濃度と該ホウ素吸着塔への該ホウ素含有水の通水SVと該ホウ素含有水の通水時間との積が所定値以下となる条件で該ホウ素含有水を通水」(【0012】)することにより、「ホウ素選択性吸着体の吸着容量を最大限に活用し、より少ない樹脂量でより多くのホウ素を除去することを可能」(【0008】)としたものである。
他方で、甲1発明は、「ホウ素よりホウ素選択性イオン交換樹脂に吸着しやすいアニオンが含まれると、ホウ素選択性イオン交換樹脂にこのアニオンが優先的に吸着し、ホウ素選択性イオン交換樹脂へのホウ素の吸着を阻害する場合がある」(【0006】)という課題を解決するために、「2種類のイオン交換樹脂を充填」(【0044】)し、「被処理水中に含まれるアニオン」を、先に「強塩基性アニオン交換樹脂」に接触させて取り除くことにより、「ホウ素イオンをより効率的に吸着」できるようにしたものである。
ここで、相違点となっている「ホウ素吸着塔の給水のホウ素濃度とホウ素吸着塔へのホウ素含有水の通水SVとホウ素含有水の通水時間との積が所定値以下となる条件でホウ素含有水を通水し、予め設定された該ホウ素吸着塔のホウ素BTPに応じて、該所定値を設定」するという制御について検討してみると、この制御は樹脂内部への吸着に影響を与えるものであるが、アニオンがホウ素より優先的にホウ素選択性イオン交換樹脂に吸着することを阻害したり、アニオンを予め除去したりするような作用はないものと認められる。
そのため、「ホウ素よりホウ素選択性イオン交換樹脂に吸着しやすいアニオンが含まれると、ホウ素選択性イオン交換樹脂にこのアニオンが優先的に吸着し、ホウ素選択性イオン交換樹脂へのホウ素の吸着を阻害する場合がある」という課題を有する甲1発明において、課題の解決に寄与しない「ホウ素吸着塔の給水のホウ素濃度とホウ素吸着塔へのホウ素含有水の通水SVとホウ素含有水の通水時間との積が所定値以下となる条件でホウ素含有水を通水し、予め設定された該ホウ素吸着塔のホウ素BTPに応じて、該所定値を設定」するという制御を採用する動機はないといえる。
そうすると、周知技術(甲3~14)の如何にかかわらず、上記相違点3に係る本件発明1の事項は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。
c 念のため、周知技術として挙げられている甲3~14について検討すると、甲3~14には、上記ア(イ)dで述べた事項が記載されているが、「ホウ素吸着塔の給水のホウ素濃度とホウ素吸着塔へのホウ素含有水の通水SVとホウ素含有水の通水時間との積が所定値以下となる条件でホウ素含有水を通水し、予め設定された該ホウ素吸着塔のホウ素BTPに応じて、該所定値を設定」する点については甲3~14のいずれの文献にも記載されていない。
なお、申立人が異議申立書で特に紙面を割いて言及している甲12について更に検討すると、甲12における「イオン交換樹脂の交換容量」という値は、「予め設定された該ホウ素吸着塔のホウ素BTPに応じて」設定された値であるか否か甲12には記載されていないため、相違点3に係る「予め設定された該ホウ素吸着塔のホウ素BTPに応じて、該所定値を設定」する点を甲12に記載されたものは充足していない。また、甲12に記載の「ホウ素濃度(g/m3)と通水量(m3)の積として算出されるホウ素負荷量が、イオン交換樹脂の交換容量に近づいたとき、あるいは、交換容量に達したときに、自動制御によりホウ素含有水の通水を中止してイオン交換樹脂の再生に移行する」(【0006】)という制御は、イオン交換樹脂が再生されるものであることを前提とし、それに用いる制御であり、この制御を、イオン交換樹脂の再生を行わない「非再生式」(上記(1)ア(イ)の【0022】)である甲1発明に適用する動機付けがないといえる。
そのため、甲1発明に、甲3~14に記載された事項(周知技術)を適用したとしても、相違点3に係る本件発明3の発明特定事項を有するものとするには至らない。
d してみれば、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明3は甲1発明及び周知技術(甲3~14)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件発明4~6について
本件発明4~6は本件発明3を直接的又は間接的に引用し、かつ、本件発明3の構成をすべて具備するものであるから、本件発明3と同様に、本件発明4~6は、甲1発明ではないし、甲1発明及び周知技術(甲3~14)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)甲2(甲2実験例2発明)を主引用文献とする場合
ア 本件発明1について
(ア)対比
a 甲2実験例2発明の「純水製造方法」は、本件発明1の「純水又は超純水の製造方法」に相当する。
b 甲2実験例2発明の「ホウ素成分と、全有機炭素成分とを含む被処理水」は、本件発明1の「ホウ素含有水」に相当する。
c 甲2実験例2発明の「ホウ素吸着性樹脂」は被処理水からホウ素を吸着除去するものであるので、本件発明1の「ホウ素選択性吸着体」に相当する。
d 甲2実験例2発明の「ホウ素吸着性樹脂」を充填している「ホウ素樹脂塔」は、本件発明1の「ホウ素吸着塔」に相当する。
e 甲2実験例2発明の純水製造方法における、「被処理水を、ホウ素吸着性樹脂及び強塩基性陰イオン交換樹脂を混合してなるホウ素吸着/陰イオン交換混床樹脂に通流することで、ホウ素の低減された処理水を得る」点は、被処理水を樹脂に通流させるという方法によりホウ素を除去している工程であるから、本件発明1の「ホウ素の除去方法によりホウ素を除去する工程」に相当する。
f 上記a~eを踏まえると、甲2実験例2発明の「ホウ素成分と、全有機炭素成分とを含む被処理水を」、「ホウ素樹脂塔」に「充填」された「ホウ素吸着性樹脂及び強塩基性陰イオン交換樹脂を混合してなるホウ素吸着/陰イオン交換混床樹脂に通流することで、ホウ素の低減された処理水を得る純水製造方法」は、本件発明1の「ホウ素含有水をホウ素選択性吸着体が充填されたホウ素吸着塔に通水してホウ素を除去するホウ素の除去方法によりホウ素を除去する工程を有する純水又は超純水の製造方法」に相当する。
g そうすると、本件発明1と甲2実験例2発明は、
「ホウ素含有水をホウ素選択性吸着体が充填されたホウ素吸着塔に通水してホウ素を除去するホウ素の除去方法によりホウ素を除去する工程を有する純水又は超純水の製造方法であって、
純水又は超純水を製造することを特徴とする純水又は超純水の製造方法。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点5>
ホウ素を除去する工程において、本件発明1は、ホウ素吸着塔の給水のホウ素濃度とホウ素吸着塔へのホウ素含有水の通水SVとの積が所定値以下となる条件でホウ素含有水を通水し、予め設定された該ホウ素吸着塔のホウ素BTPに応じて、該所定値を設定しているのに対し、甲2実験例2発明はそのような制御を行っていない点。
<相違点6>
純水又は超純水のホウ素濃度が、本件発明1では1~10ng/Lであるのに対し、甲2実験例2発明では1.0ng/L以下である点。
(イ)判断
前記(ア)の相違点5から検討する。
a 甲2には、「ホウ素吸着塔の給水のホウ素濃度とホウ素吸着塔へのホウ素含有水の通水SVとの積が所定値以下となる条件でホウ素含有水を通水し、予め設定された該ホウ素吸着塔のホウ素BTPに応じて、該所定値を設定」するような制御について、記載も示唆もない。そのため、甲2実験例2発明から、「ホウ素吸着塔の給水のホウ素濃度とホウ素吸着塔へのホウ素含有水の通水SVとの積が所定値以下となる条件でホウ素含有水を通水し、予め設定された該ホウ素吸着塔のホウ素BTPに応じて、該所定値を設定」するような制御を行うことを想起することは、当業者といえども困難である。
b 申立人は異議申立書において、
「・甲第2号証の実験例2において、空間速度SVは90(1/h)である(【0108】)。下記(計算式3)により、甲第2号証の実験例2におけるサンプル水のホウ素濃度と通水SVとの積は36と算出される。
(計算式3)
給水のホウ素×通水SV=0.4×90=36
・甲第2号証の実験例3において、空間速度SVは45(1/h)である(【0109】)。同様に、下記(計算式4)により、甲第2号証の実験例3におけるサンプル水のホウ素濃度と通水SVとの積は18と算出される。
(計算式4)
給水のホウ素×通水SV=0.4×45=18
したがって、甲第2号証の実験例2及び実験例3の方法においては、被処理水のホウ素濃度と通水SVとの積を所定の値(36及び18)として、「ホウ素樹脂塔」に通水しており、これは、本件発明1の構成要件Cが「所定の値」の決定方法を特定していないことからして、本件発明1の構成要件Cの「該ホウ素吸着塔の給水のホウ素濃度と該ホウ素吸着塔への該ホウ素含有水の通水SVとの積が所定値以下となる条件で該ホウ素含有水を通水」に相当する。
・甲第2号証の純水の製造方法は、「処理水として、例えば、ホウ素濃度が1.0ng/L(as B)以下・・・の純水」(【0065】)を得るものであり、これは、本件発明1の構成要件Dの「予め設定された・・・ホウ素BTP」に相当する。そして、甲第2号証の実験例2及び実験例3の方法では、上記BTPに至るように、被処理水のホウ素濃度と通水SVとの積(=36及び18)を調整してホウ素選択性イオン交換樹脂の通水条件を決定している(【0108】、【0109】)から、これらは、本件発明1の構成要件Dの「予め設定された該ホウ素吸着塔のホウ素BTPに応じて、該所定値を設定することにより」に相当する。」
と主張する。
上記主張は、「「処理水として、例えば、ホウ素濃度が1.0ng/L(as B)以下・・・の純水」(【0065】)を得る」ことが「予め設定・・・ホウ素BTP」に相当することを前提としているが、「予め設定された・・・ホウ素BTP」は、予め設定されたイオン交換塔の貫流点(BTPを意味するもので、「処理水として、例えば、ホウ素濃度が1.0ng/L(as B)以下・・・の純水」を得ることと、「予め設定された・・・ホウ素BTP」は全く異なる内容であるから、上記主張は前提に誤りがある。
また、甲2の実験例2及び実験例3では、実験をするにあたり条件を定める必要があることから、ホウ素濃度と空間速度SVをそれぞれ指定してはいるものの、被処理水のホウ素濃度と通水SVとの積を指定しているわけではなく、いわんや、BTPに至るように、被処理水のホウ素濃度と通水SVとの積を調整しているわけでもない。そのため、「甲第2号証の実験例2及び実験例3の方法では、上記BTPに至るように、被処理水のホウ素濃度と通水SVとの積(=36及び18)を調整してホウ素選択性イオン交換樹脂の通水条件を決定している(【0108】、【0109】)から、これらは、本件発明1の構成要件Dの「予め設定された該ホウ素吸着塔のホウ素BTPに応じて、該所定値を設定することにより」に相当する」との申立人の主張も採用できない。
よって、上記aで述べたように、甲2には、「ホウ素吸着塔の給水のホウ素濃度とホウ素吸着塔へのホウ素含有水の通水SVとの積が所定値以下となる条件でホウ素含有水を通水し、予め設定された該ホウ素吸着塔のホウ素BTPに応じて、該所定値を設定」するような制御について、記載も示唆もないといえる。
c 本件発明1は「ホウ素の反応が遅いので、樹脂であれば外周部に吸着したホウ素が樹脂内に拡散する速度が非常に遅くなることから、樹脂内部をホウ素の吸着除去に活用できていない」(【0022】)という課題を解決するために、「通水SVによって、ホウ素BTCが異なるものとなる」(【0009】)点に着目し、「ホウ素吸着塔の給水のホウ素濃度と該ホウ素吸着塔への該ホウ素含有水の通水SVとの積が所定値以下となる条件で該ホウ素含有水を通水」(【0010】)することにより、「ホウ素選択性吸着体の吸着容量を最大限に活用し、より少ない樹脂量でより多くのホウ素を除去することを可能」(【0008】)としたものである。
他方で、甲2実験例2発明は、「TOC-UVの処理水をホウ素選択性イオン交換樹脂で処理するように構成すると、TOC-UVの処理水に含まれる低分子量の有機酸等が、ホウ素選択性イオン交換樹脂でのホウ素の吸着を阻害し、ホウ素除去能が早期に低下する」(【0007】)、「混床式イオン交換装置の処理水をホウ素選択性イオン交換樹脂で処理するように構成すると、ホウ素選択性イオン交換樹脂からの溶出物(有機物)により、処理水中のTOC濃度が上昇してしまう」(【0008】)、「ホウ素選択性イオン交換樹脂を、一次純水システムの前段側(前処理装置の後)に設置すると、ホウ素選択性樹脂がホウ素以外の不純物成分を吸着してしまい、ホウ素の除去能を得られない」(【0009】)という課題を解決するために、「ホウ素吸着性樹脂及び強塩基性陰イオン交換樹脂を混合してなるホウ素吸着/陰イオン交換混床樹脂」(【0012】)を利用したものである。
ここで、相違点となっている「ホウ素吸着塔の給水のホウ素濃度とホウ素吸着塔へのホウ素含有水の通水SVとの積が所定値以下となる条件でホウ素含有水を通水し、予め設定された該ホウ素吸着塔のホウ素BTPに応じて、該所定値を設定」するという制御について検討してみると、この制御は樹脂内部への吸着に影響を与えるものであるが、TOC-UVの処理水に含まれる低分子量の有機酸によるホウ素の吸着阻害を抑制したり、イオン交換樹脂からの溶出物(有機物)の溶出を抑制したり、ホウ素以外の不純物成分の吸着を抑制したりするような作用はないものと認められる。
そのため、「TOC-UVの処理水をホウ素選択性イオン交換樹脂で処理するように構成すると、TOC-UVの処理水に含まれる低分子量の有機酸等が、ホウ素選択性イオン交換樹脂でのホウ素の吸着を阻害し、ホウ素除去能が早期に低下する」、「混床式イオン交換装置の処理水をホウ素選択性イオン交換樹脂で処理するように構成すると、ホウ素選択性イオン交換樹脂からの溶出物(有機物)により、処理水中のTOC濃度が上昇してしまう」、「ホウ素選択性イオン交換樹脂を、一次純水システムの前段側(前処理装置の後)に設置すると、ホウ素選択性樹脂がホウ素以外の不純物成分を吸着してしまい、ホウ素の除去能を得られない」という課題を有する甲2実験例2発明において、課題の解決に寄与しない「ホウ素吸着塔の給水のホウ素濃度とホウ素吸着塔へのホウ素含有水の通水SVとの積が所定値以下となる条件でホウ素含有水を通水し、予め設定された該ホウ素吸着塔のホウ素BTPに応じて、該所定値を設定」するという制御を採用する動機はないといえる。
そうすると周知技術(甲3~14)の如何にかかわらず、上記相違点5に係る本件発明1の事項は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。
d 念のため、周知技術として挙げられている甲3~14について検討すると、甲3~14には、上記(3)ア(イ)dで述べた事項が記載されているが、「ホウ素吸着塔の給水のホウ素濃度とホウ素吸着塔へのホウ素含有水の通水SVとの積が所定値以下となる条件でホウ素含有水を通水し、予め設定された該ホウ素吸着塔のホウ素BTPに応じて、該所定値を設定」する点については甲3~14のいずれの文献にも記載されていない。そのため、甲2実験例2発明に、甲3~14に記載された事項(周知技術)を適用したとしても、相違点5に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとするには至らない。
e してみれば、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲2実験例2発明及び周知技術(甲3~14)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(ウ)小括
本件発明1は、甲2実験例2発明ではないし、甲2実験例2発明及び周知技術(甲3~14)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明3について
(ア)対比
a 甲2実験例2発明の「純水製造方法」は、本件発明3の「純水又は超純水の製造方法」に相当する。
b 甲2実験例2発明の「ホウ素成分と、全有機炭素成分とを含む被処理水」は、本件発明3の「ホウ素含有水」に相当する。
c 甲2実験例2発明の「ホウ素吸着性樹脂」は被処理水からホウ素を吸着除去するものであるので、本件発明3の「ホウ素選択性吸着体」に相当する。
d 甲2実験例2発明の「ホウ素吸着性樹脂」を充填している「ホウ素樹脂塔」は、本件発明3の「ホウ素吸着塔」に相当する。
e 甲2実験例2発明の純水製造方法における、「被処理水を、ホウ素吸着性樹脂及び強塩基性陰イオン交換樹脂を混合してなるホウ素吸着/陰イオン交換混床樹脂に通流することで、ホウ素の低減された処理水を得る」点は、被処理水を樹脂に通流させるという方法によりホウ素を除去している工程であるから、本件発明3の「ホウ素の除去方法によりホウ素を除去する工程」に相当する。
f 上記a~eを踏まえると、甲2実験例2発明の「ホウ素成分と、全有機炭素成分とを含む被処理水を」、「ホウ素樹脂塔」に「充填」された「ホウ素吸着性樹脂及び強塩基性陰イオン交換樹脂を混合してなるホウ素吸着/陰イオン交換混床樹脂に通流することで、ホウ素の低減された処理水を得る純水製造方法」は、本件発明3の「ホウ素含有水をホウ素選択性吸着体が充填されたホウ素吸着塔に通水してホウ素を除去するホウ素の除去方法によりホウ素を除去する工程を有する純水又は超純水の製造方法」に相当する。
g そうすると、本件発明3と甲2実験例2発明は、
「ホウ素含有水をホウ素選択性吸着体が充填されたホウ素吸着塔に通水してホウ素を除去するホウ素の除去方法によりホウ素を除去する工程を有する純水又は超純水の製造方法であって、
純水又は超純水を製造することを特徴とする純水又は超純水の製造方法。」
の点で一致し、以下の点で一応相違する。
<相違点7>
ホウ素を除去する工程において、本件発明3は、ホウ素吸着塔の給水のホウ素濃度とホウ素吸着塔へのホウ素含有水の通水SVと該ホウ素含有水の通水時間との積が所定値以下となる条件でホウ素含有水を通水し、予め設定された該ホウ素吸着塔のホウ素BTPに応じて、該所定値を設定しているのに対し、甲2実験例2発明はそのような制御を行っていない点。
<相違点8>
純水又は超純水のホウ素濃度が、本件発明3では1~10ng/Lであるのに対し、甲2実験例2発明では1.0ng/L以下である点。
(イ)判断
前記(ア)の相違点7から検討する。
a 甲2には、「ホウ素吸着塔の給水のホウ素濃度とホウ素吸着塔へのホウ素含有水の通水SVと該ホウ素含有水の通水時間との積が所定値以下となる条件でホウ素含有水を通水し、予め設定された該ホウ素吸着塔のホウ素BTPに応じて、該所定値を設定」するような制御について、記載も示唆もない。そのため、甲2実験例2発明から、「ホウ素吸着塔の給水のホウ素濃度とホウ素吸着塔へのホウ素含有水の通水SVと該ホウ素含有水の通水時間との積が所定値以下となる条件でホウ素含有水を通水し、予め設定された該ホウ素吸着塔のホウ素BTPに応じて、該所定値を設定」するような制御を行うことを想起することは、当業者といえども困難である。
b 本件発明3は「ホウ素の反応が遅いので、樹脂であれば外周部に吸着したホウ素が樹脂内に拡散する速度が非常に遅くなることから、樹脂内部をホウ素の吸着除去に活用できていない」(【0022】)という課題を解決するために、「通水SVによって、ホウ素BTCが異なるものとなる」(【0009】)点に着目し、「ホウ素吸着塔の給水のホウ素濃度と該ホウ素吸着塔への該ホウ素含有水の通水SVと該ホウ素含有水の通水時間との積が所定値以下となる条件で該ホウ素含有水を通水」(【0012】)することにより、「ホウ素選択性吸着体の吸着容量を最大限に活用し、より少ない樹脂量でより多くのホウ素を除去することを可能」(【0008】)としたものである。
他方で、甲2実験例2発明は、「TOC-UVの処理水をホウ素選択性イオン交換樹脂で処理するように構成すると、TOC-UVの処理水に含まれる低分子量の有機酸等が、ホウ素選択性イオン交換樹脂でのホウ素の吸着を阻害し、ホウ素除去能が早期に低下する」(【0007】)、「混床式イオン交換装置の処理水をホウ素選択性イオン交換樹脂で処理するように構成すると、ホウ素選択性イオン交換樹脂からの溶出物(有機物)により、処理水中のTOC濃度が上昇してしまう」(【0008】)、「ホウ素選択性イオン交換樹脂を、一次純水システムの前段側(前処理装置の後)に設置すると、ホウ素選択性樹脂がホウ素以外の不純物成分を吸着してしまい、ホウ素の除去能を得られない」(【0009】)という課題を解決するために、「ホウ素吸着性樹脂及び強塩基性陰イオン交換樹脂を混合してなるホウ素吸着/陰イオン交換混床樹脂」(【0012】)を利用したものである。
ここで、相違点となっている「ホウ素吸着塔の給水のホウ素濃度とホウ素吸着塔へのホウ素含有水の通水SVとホウ素含有水の通水時間との積が所定値以下となる条件でホウ素含有水を通水し、予め設定された該ホウ素吸着塔のホウ素BTPに応じて、該所定値を設定」するという制御について検討してみると、この制御は樹脂内部への吸着に影響を与えるものであるが、TOC-UVの処理水に含まれる低分子量の有機酸によるホウ素の吸着阻害を抑制したり、イオン交換樹脂からの溶出物(有機物)の溶出を抑制したり、ホウ素以外の不純物成分の吸着を抑制したりするような作用はないものと認められる。
そのため、「TOC-UVの処理水をホウ素選択性イオン交換樹脂で処理するように構成すると、TOC-UVの処理水に含まれる低分子量の有機酸等が、ホウ素選択性イオン交換樹脂でのホウ素の吸着を阻害し、ホウ素除去能が早期に低下する」、「混床式イオン交換装置の処理水をホウ素選択性イオン交換樹脂で処理するように構成すると、ホウ素選択性イオン交換樹脂からの溶出物(有機物)により、処理水中のTOC濃度が上昇してしまう」、「ホウ素選択性イオン交換樹脂を、一次純水システムの前段側(前処理装置の後)に設置すると、ホウ素選択性樹脂がホウ素以外の不純物成分を吸着してしまい、ホウ素の除去能を得られない」という課題という課題を有する甲2実験例2発明において、課題の解決に寄与しない「ホウ素吸着塔の給水のホウ素濃度とホウ素吸着塔へのホウ素含有水の通水SVとの積が所定値以下となる条件でホウ素含有水を通水し、予め設定された該ホウ素吸着塔のホウ素BTPに応じて、該所定値を設定」するという制御を採用する動機はないといえる。
そうすると、周知技術(甲3~14)の如何にかかわらず、上記相違点5に係る本件発明1の事項は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。
c 念のため、周知技術として挙げられている甲3~14について検討すると、甲3~14には、上記(3)ア(イ)dで述べた事項が記載されているが、「ホウ素吸着塔の給水のホウ素濃度とホウ素吸着塔へのホウ素含有水の通水SVと該ホウ素含有水の通水時間との積が所定値以下となる条件でホウ素含有水を通水し、予め設定された該ホウ素吸着塔のホウ素BTPに応じて、該所定値を設定」する点については甲3~14のいずれの文献にも記載されていない。
なお、申立人が異議申立書で特に紙面を割いて言及している甲12について更に検討すると、甲12の「イオン交換樹脂の交換容量」における「交換容量」は、(BTPと関係する)貫流交換容量を指すのか、全交換容量を指すのか、ユーザが定めた(貫流交換容量や全交換容量とは異なる)交換容量を指すのか定かではないこともあり、甲12における「イオン交換樹脂の交換容量」が本件発明3の「予め設定された該ホウ素吸着塔のホウ素BTPに応じて」設定された値であるとはいえない。
そのため、甲2実験例2発明に、甲3~14に記載された事項(周知技術)を適用したとしても、相違点7に係る本件発明3の発明特定事項を有するものとするには至らない。
d してみれば、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明3は甲2実験例2発明及び周知技術(甲3~14)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(ウ)小括
本件発明3は、甲2実験例2発明ではないし、甲2実験例2発明及び周知技術(甲3~14)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(5)甲2(甲2実験例3発明)を主引用文献とする場合
甲2実験例3発明は、甲2実験例2発明と、空間速度SV及び線速度LVの値が異なる以外は同一内容である。よって、甲2実験例3発明と本件発明1、3を対比した場合の一致点、相違点は、甲2実験例2発明と本件発明1、3を対比した場合の一致点、相違点と同一内容となる。
そのため、上記(4)で記載した理由と同様の理由により、本件発明1、3は、甲2実験例3発明ではないし、甲2実験例3発明及び周知技術(甲3~14)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第5 むすび
上記第4で検討したとおり、本件特許1~6は、特許法第29条第1項及び第2項の規定に違反してされたものであるとも、同法第36条第6項第1号及び第2号並びに同法同条第4項第1号に規定にする要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるともいうことはできず、同法第113条第2号又は第4号に該当するものではないから、上記申立理由1~5では、本件特許1~6を取り消すことはできない。
また、他に本件特許1~6を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2023-700853