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特許異議申立

2023-700806

プレス成形体、車両用シートバックボード、およびプレス成形体製造方法

審判番号
2023-700806
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2019-016456
登録番号
7219624
請求日
2023年08月04日
審決日
2025年03月27日
公報発行日
2025年08月29日
結論
請求成立(取消)
当事者
  • 【権利者】アキレス株式会社
  • 【権利者代理人】細井 勇
  • 【権利者代理人】栗田 由貴子
  • 【権利者】デルタ工業株式会社
  • 【権利者代理人】細井 勇
  • 【権利者代理人】栗田 由貴子
  • 【異議申立人】笹野 拓馬
審判長/審判官
  • 審判長 一ノ瀬 覚
  • 審判官 筑波 茂樹
  • 審判官 八木 誠
分類
P1651.851-ZDA(B32B) / P1651.853-ZDA(B32B) / P1651.121-ZDA(B32B) / P1651.537-ZDA(B32B)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項特許法113条2号特許法120条の8第1項特許法135条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項、特許法第120条の8第1項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7219624号発明「プレス成形体、車両用シートバックボード、およびプレス成形体製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7219624号の明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。 特許第7219624号の請求項1、2、4に係る特許を取り消す。 特許第7219624号の請求項5、6に係る特許を維持する。 特許第7219624号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7219624号の請求項1~6に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、平成31年1月31日に出願され、令和5年1月31日にその特許権の設定登録がされ、同年2月8日に特許掲載公報が発行された。 請求項1~6に係る特許についての特許異議申立人笹野拓馬(以下「申立人」という。)による本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。 令和5年 8月 4日 特許異議の申立て 同年11月 2日付け 取消理由通知 令和6年 1月 5日 特許権者より意見書・訂正請求書 同年 3月18日 特許権者より手続補正書 同年 5月 9日 申立人より意見書 同年 7月11日付け 取消理由通知(決定の予告) 同年12月26日付け 取消理由通知(決定の予告) 令和7年 3月12日 特許権者より意見書・手続補正書 第2 訂正の適否 1 令和7年3月12日の手続補正について 上記手続補正(以下「本件補正」という。)は、本件補正前の訂正請求書4ページ3行及び11行並びに訂正特許請求の範囲の請求項5の「低い温で熱し」を、いずれも「低い温度で熱し」(下線は、補正箇所を示す。)と補正するものであるから、軽微な瑕疵の補正であって、訂正請求書の要旨を変更するものではない。 したがって、本件補正を認める。 2 訂正の内容 上記1のとおり、本件補正は認められたから、本件補正により補正された令和6年1月5日の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下の(1)~(5)のとおりである。なお、下線は、訂正箇所を示す。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に、 「接着層を介して積層された表皮と不織布とを有し、前記不織布は、目付が500g/m2以上800g/m2以下であり、ショアA硬度が45以上60以下であり、前記接着層がポリウレタンフォームを含むことを特徴とするプレス成形体。」 と記載されているのを、 「接着層を介して積層された表皮と不織布とを有し、前記不織布は、目付が500g/m2以上800g/m2以下であり、ショアA硬度が45以上60以下であり、融点が100℃以上120℃以下の範囲である熱可塑性樹脂を含み、前記接着層が厚み0.5mm以上5.0mm以下であるポリウレタンフォームを含み、前記表皮が合成皮革であることを特徴とするプレス成形体。」 に訂正する(請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2、4~6も同様に訂正する。)。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項3を削除する。 (3)訂正事項3 明細書段落【0010】に、 「本発明のプレス成形体は、接着層を介して積層された表皮と不織布とを有し、前記不織布は、目付が500g/m2以上800g/m2以下であり、ショアA硬度が45以上60以下であり、前記接着層がポリウレタンフォームを含むことを特徴とする。」 と記載されているのを、 「本発明のプレス成形体は、接着層を介して積層された表皮と不織布とを有し、前記不織布は、目付が500g/m2以上800g/m2以下であり、ショアA硬度が45以上60以下であり、融点が100℃以上120℃以下の範囲である熱可塑性樹脂を含み、前記接着層が厚み0.5mm以上5.0mm以下であるポリウレタンフォームを含み、前記表皮が合成皮革であることを特徴とする。」 と訂正する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項4に、 「請求項1から3のいずれか一項に記載のプレス成形体を用いてなることを特徴とする車両用シートバックボード。」 と記載されているのを、 「請求項1または2に記載のプレス成形体を用いてなることを特徴とする車両用シートバックボード。」 と訂正する。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項5に、 「請求項1から3のいずれかに記載のプレス成形体を製造するプレス成形体製造方法であって、シート状のポリウレタンフォームの両面を加熱し、一方側面に表皮を積層させるとともに、他方側面に融点が100℃以上120℃以下の範囲である熱可塑性樹脂を含む不織布を積層させて積層体を形成し、前記積層体を、前記不織布を下面にして所定温度に加熱された加熱台に載置するとともに、前記表皮を間接的に前記加熱台の温度より低い温度で熱し、前記熱可塑性樹脂を溶融させ、プレス用型に挟んでプレスし賦形することを特徴とするプレス成形体製造方法。」 と記載されているのを、 「請求項1または2に記載のプレス成形体を製造するプレス成形体製造方法であって、シート状のポリウレタンフォームの両面を加熱し、一方側面に表皮を積層させるとともに、他方側面に融点が100℃以上120℃以下の範囲である熱可塑性樹脂を含む不織布を積層させて積層体を形成し、前記積層体を、前記不織布を下面にして所定温度に加熱された加熱台に載置するとともに、前記表皮を間接的に前記加熱台の温度より低い温度で熱し、前記熱可塑性樹脂を溶融させ、プレス用型に挟んでプレスし賦形することを特徴とするプレス成形体製造方法。」 と訂正する。 (6)一群の請求項 本件訂正前の請求項1~6は、請求項2~6が、請求項1の記載を直接又は間接的に引用する関係にあるから、本件訂正の請求は、一群の請求項〔1~6〕について請求されたものである。また、明細書に係る訂正は、一群の請求項〔1~6〕について請求されたものである。 3 訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、及び、新規事項の有無 (1)訂正事項1について 訂正事項1は、訂正前の請求項1の「不織布」との事項に、「融点が100℃以上120℃以下の範囲である熱可塑性樹脂を含み」との事項を追加し、訂正前の請求項1の「接着層」との事項に、「厚み0.5mm以上5.0mm以下である」との限定を付加し、訂正前の請求項1の「表皮」との事項に、「合成皮革である」との限定を付加するのであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 また、訂正事項1は、願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)の請求項3、【0039】及び【0033】に基づくものであると認められるから、新規事項を追加するものではない。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、請求項3を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、新規事項を追加するものではない。 (3)訂正事項3について 訂正事項3は、請求項1の訂正に合わせて明細書を訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、新規事項を追加するものではない。 (4)訂正事項4、5について 訂正事項4、5は、それぞれ、請求項3を削除するのに伴って、引用する請求項から請求項3を削除するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、新規事項を追加するものではない。 4 小括 以上によれば、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記第2のとおり本件訂正は認められたから、本件訂正後の本件特許の請求項1、2、4~6に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」等といい、まとめて「本件発明」という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1、2、4~6に記載された事項により特定しようとするものであるところ、請求項1、2、4~6の記載は以下のとおりである。 「【請求項1】 接着層を介して積層された表皮と不織布とを有し、 前記不織布は、目付が500g/m2以上800g/m2以下であり、ショアA硬度が45以上60以下であり、融点が100℃以上120℃以下の範囲である熱可塑性樹脂を含み、 前記接着層が厚み0.5mm以上5.0mm以下であるポリウレタンフォームを含み、 前記表皮が合成皮革であることを特徴とするプレス成形体。 【請求項2】 単位面積当たりの質量が800g/m2以上1500g/m2以下である請求項1に記載のプレス成形体。 【請求項3】 (削除) 【請求項4】 請求項1または2に記載のプレス成形体を用いてなることを特徴とする車両用シートバックボード。 【請求項5】 請求項1または2に記載のプレス成形体を製造するプレス成形体製造方法であって、シート状のポリウレタンフォームの両面を加熱し、一方側面に表皮を積層させるとともに、他方側面に融点が100℃以上120℃以下の範囲である熱可塑性樹脂を含む不織布を積層させて積層体を形成し、前記積層体を、前記不織布を下面にして所定温度に加熱された加熱台に載置するとともに、前記表皮を間接的に前記加熱台の温度より低い温度で熱し、前記熱可塑性樹脂を溶融させ、プレス用型に挟んでプレスし賦形することを特徴とするプレス成形体製造方法。 【請求項6】 前記不織布は、当該不織布を構成する不織布構成繊維を絡み合わせて不織布本体を形成する際に、前記熱可塑性樹脂を前記不織布構成繊維に混合させて作成されたものである請求項5に記載のプレス成形体製造方法。」 第4 通知した取消理由(決定の予告)の概要 令和6年12月26日付けで当審において通知した取消理由(決定の予告)は、次の理由のとおりである。 [取消理由1](進歩性) 本件特許の下記請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、下記請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 [取消理由2](明確性要件) 本件特許の特許請求の範囲の下記請求項の記載は下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、下記請求項に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 以下、申立人提出の各甲号証は、「甲○」という。 記 甲1:特開2001-129843号公報 甲2:特開2009-291599号公報 甲5:特開2003-113569号公報 1 取消理由1(進歩性) ・請求項 1、2、4 ・引用文献 甲1、2、5 2 取消理由2(明確性要件) ・請求項 5、6 請求項5には、「前記表皮を間接的に前記加熱台の温度より低い温で熱し」と記載されており、該「温」が何を表すのか不明確であるから、請求項5及び同項を引用する請求項6に係る発明は不明確である。 第5 引用文献の記載事項等 1 甲1について (1)記載事項 甲1には、図面とともに以下の事項が記載されている(下線は当審において付与。以下同様。)。 「【要約】 【課題】十分な剛性を有する基材とこの基材に接着された表皮材とを有する繊維成形体を簡単な工程により容易に製造することができる繊維成形体の製造方法を提供することである。 【解決手段】少なくともマット状繊維体11を加熱して、表皮材30と熱可塑性繊維が溶融しているマット状繊維体11と高融点の高融点繊維シート12とがこの順序で積層された積層体40を形成して、平板型のホットプレス装置50でこの積層体40を加圧圧縮し、加圧圧縮された積層体40を所定の厚さまで拡復させ、マット状繊維体11の熱可塑性繊維が可塑性を保った状態で拡復された積層体40をコールドプレス装置60で所定の形状に成形する。」 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は内装材の製造方法に関する。特に自動車の天井材、ドアドリム等のような基材に表皮材が接着された内装材の製造方法に関する。」 「【0032】ここで用いられるマット状繊維体は熱可塑性繊維と無機繊維とを混繊して所定の形状に形成して作製したものである。 【0033】熱可塑性繊維として融点が余り高くない合成繊維を用いることができる。例えばポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリスチレン繊維、ポリエステル繊維等を用いることができる。熱可塑性繊維を溶融することの容易さを考慮すれば、熱可塑性繊維の融点は200℃以下が好ましく、例えばポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、低融点ポリエステル繊維等が好ましい。」 「【0037】次に混繊した熱可塑性繊維と無機繊維とをカッターで裁断して所定の形状のマット状繊維体を作製する。なおマット状繊維体に機械的強度を与えるために混繊した熱可塑性繊維と無機繊維とにニードルパンチングを施すことが好ましい。裁断する前にニードルパンチングを施しても、或いは裁断後にニードルパンチングを施しても良いが、成形性の観点からは先にニードルパンチングを行っておくのが好ましい。マット状繊維体の厚さは製品である内装材の厚さを考慮して適切な厚さにすればよい。マット状繊維体の目付は200~2000g/m2程度あればよく、基材の剛性を確保する点で300~1000g/m2が好ましい。 【0038】ここで用いられる高融点繊維シートは熱可塑性繊維よりも高融点の高融点繊維からなるシートである。このような高融点繊維としてはポリエチレンテレフタレート繊維等を用いることができる。この高融点繊維よりなる高融点繊維シートとしてはスパンボンド不織布、スパンレース不織布、織物、編み物等を用いることができる。なお高融点繊維シートの目付は10~50g/m2程度あればよく、10~30g/m2が好ましい。余り目付が小さいと高融点繊維シートを積層する意義は失われるし、余り目付が大きいと内装材が重くなり、またマット状繊維体と高融点繊維シートとの十分な接着が困難になるからである。 【0039】なお本発明の内装材の製造方法においては、上述したように基材は、マット状繊維体と高融点繊維シートとが積層されて一体的に接着したものである。つまりマット状繊維体に高融点繊維シートを積層し、一体的に接着することで基材が形成される。 【0040】ここで用いられる表皮材としては、天然繊維、合成繊維、ガラス繊維等からなる織布或いは不織布、例えばポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ナイロン繊維、レーヨン繊維、セルロース繊維等からなる織布或いは不織布を用いることができる。この表皮材によって内装材に意匠性が与えられる。なお内装材は一定の形状に成形されるので、表皮材は柔軟性を有しているのが好ましい。表皮材の目付は100~600g/m2であればよく、100~300g/m2が好ましい。表皮材の目付が小さいと表皮材の意匠性が低下し、表皮材の目付が大きいと内装材が重くなるからである。」 「【0051】なお表皮材と基材との接着性を確実にするために表皮材に適切な接着剤を必要に応じて塗布しておけばよいが、表皮材と基材との間に接着材層を設けておくことが好ましい。加圧圧縮工程で積層体が加圧圧縮されることにより、マット状繊維体に含まれる溶融した熱可塑性繊維によって基材と表皮材を接着することができるが、それだけでは不十分な場合には表皮材とマット状繊維体の間に接着材層を介在させて表皮材とマット状繊維体との接着性を補強することにより表皮材と基材との接着性が一体かつ強固になるからである。 【0052】接着材層としては適切なものを用いればよいが、例えば熱可塑性樹脂フィルム或いは熱可塑性樹脂からなる接着剤を用いることができる。表皮材とマット状繊維体の間に熱可塑性樹脂フィルムを積層してもよい。また表皮材の裏に熱可塑性樹脂フィルムを裏打ちしてもよい。接着剤については表皮材に塗布して用いればよい。熱可塑性樹脂フィルム或いは熱可塑性樹脂からなる接着剤を用いると積層体形成工程における加熱或いは加圧圧縮工程におけるホットプレス装置により熱可塑性樹脂が溶融して、表皮材と基材との接着をより強固にすることができる。」 「【図2】 [図:0001425704000001.jpg] 」 (2)甲1発明 上記(1)を総合すると、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 「熱可塑性繊維と無機繊維とを混繊したマット状繊維体と高融点繊維シートとを積層して形成された基材と、表皮材とを有し、基材のマット状繊維体と表皮材の間に接着材層を設けて基材と表皮材を積層し、 マット状繊維体は、目付が300~1000g/m2であり、融点が200℃以下である熱可塑性樹脂を含み、 高融点繊維シートの目付は10~30g/m2であり、 表皮材の目付は100~300g/m2であり、 接着材層は熱可塑性樹脂フィルムである、コールドプレス装置で所定の形状に成形した自動車の内装材。」 2 甲2について 甲2には、以下の事項が記載されている。 「【技術分野】 【0001】 本発明は自動車用シートのシートバック、詳しくはシートバックの表面構造に関する。」 「【課題を解決するための手段】 【0012】 以上の目的を達成するための本請求項1に係る自動車用シートバックは、シートバックの前面側を構成する前表皮とシートバックの背裏側を構成する後表皮の双方又はいずれか一方を、合成樹脂を含浸させて凹凸状に成形してなる成形不織布で形成してなることを特徴とする。」 「【0045】 成形不織布1の代わりに、ショア硬さ50程度又はそれ以下の硬さを有しかつ縫合可能な 素材から凹凸状に成形してもよい。そして、この素材は保形性を有し且つプレスなどにより凹凸状に成形可能で、少なくとも端末が縫合可能な素材、例えば、合成樹脂材に合成皮革を貼着したものなどを使用して、端末にスライドファスナーなどをミシンで縫合して前表皮と後表皮とを連結でき、また、両者の端末を一体にミシンで縫い合わせることもできるものを使用する。」 3 甲5について 甲5には、以下の事項が記載されている。 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は自動車内装用不織布および自動車内装材に関し、さらに詳しくは座席シート部材、天井部材、ドアトリム部材、ピラー部材等の各種自動車の内装材の一部に使用される、高伸長性および低モジュラス性(伸長時の応力)を有するポリアミド系長繊維不織布、およびこれを用いた追従性、成形加工性、縫製加工性、作業性、製品外観品位などに優れた自動車内装材に関する。」 「【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は、上記問題を解決し、高伸長性および低モジュラス性を有し、柔軟性に優れ、特に座席前部の丸形状部分の表皮材や発泡体の動きに追従してシワの発生を防止することができる裏基布として好適な自動車内装用不織布およびこれを用いた自動車内装材を提供することである。」 「【0013】例えば、該ポリアミド長繊維不織布と、嵩比重が0.01~0.05で、厚みが1~20mm、好ましくは1.5~10mmのウレタンフォームをフレームラミネート方式で接着するか、または接着剤等で接着し、その後、該ウレタンフォーム側に表皮材を同様に接着して表皮材/ウレタンフォーム/ポリアミド系長繊維不織布の3層構造とし、座席シート部材、ドアトリム部材、ピラー部材等の自動車内装材として使用される。またポリアミド系長繊維不織布に、厚み10~50μm のポリエチレン、ポリプロピレン等の合成樹脂フイルムを押し出しラミネート方式または接着剤等で接着し、自動車の成形用天井材の一部に使用される。例えば、表皮材、接着性フイルム、ガラス繊維不織布、断熱材および上記不織布とフイルムのラミネート品を重ね、加熱雰囲気下でプレス成形加工して成形天井材に加工される。」 第6 通知した取消理由(決定の予告)についての判断 1 取消理由1について (1)本件発明1について ア 対比 (ア)本件発明1と甲1発明とを対比すると、後者の「マット状繊維体」は、熱可塑性繊維と無機繊維とを混繊したものであるから、前者の「不織布」に相当し、以下同様に、「表皮材」は「表皮」に、「接着材層」は「接着層」に、「内装材」はコールドプレス装置で所定の形状に成形したものであるから、「プレス成形体」に、それぞれ相当する。 (イ)上記(ア)を踏まえると、後者の「基材のマット状繊維体と表皮材の間に接着材層を設けて基材と表皮材を積層」することは、前者の「接着層を介して積層された表皮と不織布とを有」することに相当し、後者の「マット状繊維体は」「融点が200℃以下である熱可塑性樹脂を含」むことは、前者の「前記不織布は」「融点が100℃以上120℃以下の範囲である熱可塑性樹脂を含」むことと、「前記不織布は熱可塑性樹脂を含む」という点で共通する。 そうすると、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。 <一致点> 「接着層を介して積層された表皮と不織布とを有し、前記不織布は熱可塑性樹脂を含むプレス成形体。」 <相違点1> 不織布について、本件発明1では、目付が「500g/m2以上800g/m2以下」であり、「ショアA硬度が45以上60以下」であり、融点が「100℃以上120℃以下」の範囲である熱可塑性樹脂を含むのに対し、甲1発明では、目付が「300~1000g/m2」であり、融点が「200℃以下」である熱可塑性樹脂を含み、硬さは特定されていない点。 <相違点2> 接着材層について、本件発明1では、「厚み0.5mm以上5.0mm以下であるポリウレタンフォームを含む」のに対し、甲1発明では、熱可塑性樹脂フィルムである点。 <相違点3> 表皮について、本件発明1では、「合成皮革」であるのに対し、甲1発明では、そのような特定はない点。 イ 相違点についての判断 (ア)相違点1について 甲1発明において、目付を300~1000g/m2の範囲内のどの値にするかは設計的事項にすぎないので、目付の500g/m2以上800g/m2以下の範囲内の値とすることには、格別の困難性を見いだせない。 また、甲2の【0045】には、自動車用シートのシートバックを構成する成形不織布について、「成形不織布1の代わりに、ショア硬さ50程度又はそれ以下の硬さを有しかつ縫合可能な素材から凹凸状に成形してもよい。」と記載されており、シートバックの適切な硬さが示されている。そして、甲2の「ショア硬さ」は、本件発明1の「ショアA硬度」に相当すること、及び、甲5の【0001】に示されるように、自動車の内装材として、座席シート部材に用いることはよく知られたことであることも勘案すると、甲2に接した当業者であれば、甲1発明において、マット状繊維体の硬さをショアA硬度50程度とすることは、適宜なし得る程度のことである。 そして、甲1の【0033】には、マット状繊維体に用いられる、融点が200℃以下の熱可塑性繊維として、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、低融点ポリエステル繊維の3つが開示されており、例えば、ポリエチレンの融点は、低密度ポリエチレンが95~130℃、高密度ポリエチレンが120~140℃であるという技術常識も勘案すると、甲1発明において、マット状繊維体の融点を100℃以上120℃以下とすることにも、格別の困難性を見いだせない。 よって、甲1発明において、相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 (イ)相違点2について 甲5(【0013】等参照。)には、自動車の座席シート部材を、表皮材とポリアミド系繊維不織布を接着層としてのウレタンフォームを介して積層した3層構造とすること(以下「甲5記載事項」という。)が記載されている。 甲5の【0001】に示されるように、自動車の内装材を、座席シート部材に用いることはよく知られたことであり、座席シート部材が適度な柔軟性を有することは、周知の課題であると認められるところ、甲1発明において、該課題を解決するために、甲5記載事項を適用し、接着材層をウレタンフォームとすることで、相違点2に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 (ウ)相違点3について 甲5の【0001】に示されるように、自動車の内装材を、座席シート部材に用いることはよく知られたことであり、座席シート部材の表皮材として合成皮革を用いることは、例示するまでもない、本件出願前の周知技術にすぎないから、甲1発明において、表皮材を合成皮革とすることで、相違点3に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 (エ)小括 以上によれば、本件発明1は、甲1発明及び甲2、5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (2)本件発明2について 甲1発明において、基材の目付(熱可塑性繊維体と高融点繊維シートの目付の和)は310~1030g/m2であり、表皮材の目付は100~300g/m2であることを勘案すると、基材と表皮材と接着材層の目付を調整して、甲1発明の目付を800g/m2以上1500g/m2以下の範囲内の値とすることには、格別の困難性を見いだせない。 したがって、本件発明2も、甲1発明及び甲2、5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (3)本件発明4について 甲5の【0001】に示されるように、自動車の内装材を、座席シート部材に用いることはよく知られたことであるから、甲1発明を座席シートのバックシートに用いることには、格別の困難性を見いだせない。 したがって、本件発明4も、甲1発明及び甲2、5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 2 取消理由2について 本件補正により補正された本件訂正によって、本件発明5において、「前記表皮を間接的に前記加熱台の温度より低い温で熱し」と事項は、「前記表皮を間接的に前記加熱台の温度より低い温度で熱し」となり、明確となり、本件発明5に従属する本件発明6も明確となった。 したがって、取消理由2は本件訂正により解消された。 第7 令和6年12月26日付けの取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について 1 特許異議申立理由の内容 申立人は、特許異議申立書において、訂正前の特許請求の範囲の請求項1~6に係る発明(以下、それぞれ「本件訂正前発明1」等という。)について、令和6年12月26日付けで通知した取消理由以外に、以下の(1)、(2)を主張する。 ただし、甲3、4、6、7は以下のとおりである。 甲3:仏国特許第3027569号公報 甲4:特開2016-221989号公報 甲6:特開平7-1666号公報 甲7:特開2015-205688号公報 (1)特許異議申立理由1(進歩性) 本件訂正前発明5、6は、甲1に記載された発明及び甲2~7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (2)特許異議申立理由2(サポート要件) 本件訂正前発明1~6は、本件明細書等の発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえない。 2 特許異議申立理由についての判断 (1)特許異議申立理由1(進歩性)について ア 甲1発明2 上記「第5 1(1)」を総合すると、甲1には、自動車の内装材の製造方法として、次の発明「以下「甲1発明2」という。」が記載されていると認められる。 「熱可塑性繊維と無機繊維とを混繊したマット状繊維体と高融点繊維シートとを積層して形成された基材と、表皮材とを有し、基材のマット状繊維体と表皮材の間に接着材層を設けて基材と表皮材を積層し、 マット状繊維体は、目付が300~1000g/m2であり、融点が200℃以下である熱可塑性樹脂を含み、 高融点繊維シートの目付は10~30g/m2であり、 表皮材の目付は100~300g/m2であり、 接着材層は熱可塑性樹脂フィルムである、コールドプレス装置で所定の形状に成形した自動車の内装材の製造方法であって、 少なくともマット状繊維体を加熱し、表皮材、熱可塑性樹脂フィルム、溶融しているマット状繊維体、高融点繊維シートをこの順で積層して積層体を形成し、該積層体を平板型のホットプレス装置で加圧圧縮し、加圧圧縮された該積層体を所定の厚さまで拡復させ、拡復された該積層体をコールドプレス装置で所定の形状に成形する、上記方法。」 イ 対比・判断 (ア)本件発明5について a 対比 本件発明5と甲1発明2とを対比すると、後者の「積層体」は前者の「積層体」に相当し、上記「第6 1(1)ア」を踏まえると、後者の「コールドプレス装置で所定の形状に成形した自動車の内装材の製造方法」は、前者の「プレス成形体を製造するプレス成形体製造方法」に相当し、後者の「所定の形状に成形する」ことは、前者の「賦形すること」に相当し、後者の「コールドプレス装置で所定の形状に成形する」ことは、前者の「プレス用型に挟んでプレスし賦形すること」に相当する。 また、後者の「融点が200℃以下である熱可塑性樹脂」は、前者の「融点が100℃以上120℃以下の範囲である熱可塑性樹脂」と、「融点が200℃以下である熱可塑性樹脂」という点で共通し、後者の「熱可塑性樹脂フィルム」は、前者の「シート状のポリウレタンフォーム」と、「シート状の熱可塑性樹脂」という点で共通する。 そうすると、両者は、相違点1~3以外に下記の点で相違し、その余の点で一致する。 <相違点4> 本件発明5では、シート状の「ポリウレタンフォームの両面」を加熱し、一方側面に表皮を積層させるとともに、他方側面に「融点が100℃以上120℃以下の範囲である」熱可塑性樹脂を含む不織布を積層させて積層体を形成するのに対し、甲1発明2では、少なくともマット状繊維体を加熱し、表皮材、熱可塑性樹脂フィルム、溶融しているマット状繊維体、高融点繊維シートをこの順で積層して積層体を形成する点。 <相違点5> 本件発明5では、前記積層体を、「前記不織布を下面にして所定温度に加熱された加熱台に載置するとともに、前記表皮を間接的に前記加熱台の温度より低い温度で熱し、前記熱可塑性樹脂を溶融させ」、プレス用型に挟んでプレスし賦形するのに対し、甲1発明2では、該積層体を平板型のホットプレス装置で加圧圧縮し、加圧圧縮された該積層体を所定の厚さまで拡復させ、拡復された該積層体をコールドプレス装置で所定の形状に成形する点。 b 相違点についての判断 事案に鑑み、相違点5から検討する。 相違点5に係る本件発明5の構成については、甲1だけでなく、甲2~7にも、記載も示唆も見いだせないので、甲1発明2において、相違点5に係る本件発明5の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 したがって、相違点5以外の相違点を検討するまでもなく、本件発明5は、甲1発明2及び甲2~7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (イ)本件発明6について 本件発明6は、本件発明5の全ての発明特定事項を含み、更なる限定を付加したものであるから、上記(ア)bで説示したのと同様の理由により、甲1発明2及び甲2~7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 ウ 小括 以上により、特許異議申立理由1は成り立たない。 (2)特許異議申立理由2(サポート要件)について ア 申立人の主張 申立人は、特許異議申立書(71~73ページ)において、本件訂正前発明1~6は、「適度な柔軟性を示しつつ充分な硬度を発揮し、かつ良好に縫製可能なプレス成形体および車両用シートバックボード、並びにプレス成形体製造方法の提供」を課題とするものであるが、例えば、表皮や不織布等の材料が何ら特定されず、表皮及び接着層の厚さや弾性率等の柔軟性に係るパラメーターも特定されておらず、本件明細書等の発明の詳細な説明において、それらが特定されていなくても、上記課題を解決できると認められるだけの具体的かつ論理的な説明が記載されていないから、本件訂正前発明1~6は、発明の詳細な説明に記載されているものではない旨主張する。 イ 申立人の主張についての判断 本件発明が解決しようとする課題は、発明の詳細な説明の【0009】にも記載されるように、適度な柔軟性を示しつつ充分な硬度を発揮し、かつ良好に縫製可能にすることであると認められる。 本件発明において、接着層に含まれるポリウレタンフォームは、特に柔軟性に関するものであるところ、本件発明1では、「厚み0.5mm以上5.0mm以下であるポリウレタンフォーム」と特定され、発明の詳細な説明の【0039】には、「柔軟性または衝撃吸収性(クッション性)の向上が顕著に期待されるという観点からは、プレス成形体150におけるポリウレタンフォーム230の厚みは、0.5mm以上であることが好ましく、1.0mm以上であることがより好ましく、2.0mm以上であることがさらに好ましい。またプレス成形体150におけるポリウレタンフォーム230の厚みの上限は、特に限定されないが、概ね5.0mm以下である。」 と記載されている。 そうすると、本件発明1及び本件発明1に従属する本件発明2、4~6は、当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものであると認められるから、発明の詳細な説明に記載されたものである。 ウ 小括 以上により、特許異議申立理由2も成り立たない。 第8 むすび 以上のとおり、請求項1、2、4に係る発明は、甲1発明及び甲2、5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。したがって、請求項1、2、4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当するから、取り消されるべきものである。 また、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由並びに特許異議申立書に記載された特許異議申立理由及び証拠によっては、本件請求項5、6に係る特許を取り消すことはできない。さらに、他に本件請求項5、6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 そして、請求項3に係る特許は、本件訂正により削除されたため、申立人による特許異議の申立てにおける請求項3に係る特許についての申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。

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2023-700806

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