特許異議申立
2023-700804
樹脂成形体及び樹脂製品
- 審判番号
- 2023-700804
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-245394
- 登録番号
- 7218895
- 請求日
- 2023年08月03日
- 審決日
- 2023年12月11日
- 公報発行日
- 2024年01月26日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】住化エンバイロメンタルサイエンス株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人藤本パートナーズ
- 【異議申立人】大村 豊
- 審判長/審判官
- 審判長 阪野 誠司
- 審判官 井上 典之
- 審判官 赤澤 高之
- 分類
- P1651.537-Y (A01N) / P1651.113-Y (A01N) / P1651.121-Y (A01N)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7218895号発明「樹脂成形体及び樹脂製品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7218895号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7218895号(以下「本件特許」という。)に係る出願(特願2018-245394号)は、平成30年12月27日に出願され、令和5年1月30日に特許権の設定の登録がされ(請求項の数:2)、同年2月7日に特許掲載公報が発行された。
その後、令和5年8月3日に特許異議申立人 大村 豊 (以下「申立人」という。)により、本件特許の請求項1~2に係る特許に対して、特許異議の申立てがされた。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~2に係る発明は、それぞれ本件特許の特許請求の範囲の請求項1~2(以下「本件請求項1」等ということがある。)に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、請求項の番号順に「本件発明1」等といい、これらを総称して「本件発明」ということがある。)。
「【請求項1】
常温揮散性ピレスロイド系防虫成分を含有する樹脂成形体と、前記樹脂成形体から揮散した前記常温揮散性ピレスロイド系防虫成分を通過させつつ前記樹脂成形体を収納する収納容器とを備えた樹脂製品であって、
前記樹脂成形体は、ポリオレフィン系樹脂及びオレフィンとカルボン酸エステルとの共重合体を含み、前記ポリオレフィン系樹脂と前記共重合体との重量比が1:0.5~8であり、
前記樹脂成形体は、水の接触角が84~95°であり、且つ、
流動パラフィンの接触角が20~30°である、樹脂製品。
【請求項2】
前記常温揮散性ピレスロイド系防虫成分が、トランスフルトリン又はメトフルトリンである、請求項1に記載の樹脂製品。」
第3 申立理由の概要及び証拠
申立人は、特許異議申立書(以下「申立書」という。)において、本件請求項1~2に係る特許を取り消すべき理由として、下記1に概要を示す(1)~(3)の申立ての理由(以下「申立理由1」等という。)を主張するとともに、証拠方法として、下記2に示す甲第1~4号証(以下「甲1」等と略記することがある。)を提出した。
1 申立理由の概要
(1) 申立理由1(サポート要件違反)
本件請求項1~2に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(2) 申立理由2(甲1に基づく新規性欠如)
本件発明1~2は、本件特許出願前に日本国内において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、本件請求項1~2に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3) 申立理由3(甲1を主引例とする進歩性欠如)
本件発明1~2は、本件特許出願前に日本国内において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明、及び、本件特許出願前に日本国内において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲3~4に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1~2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 申立人が提出した証拠(証拠方法)
甲第1号証 国際公開第2014/065150号
(2014年5月1日発行)
甲第2号証 国際公開第2018/135476号
(2018年7月26日発行)
甲第3号証 特開2010-150147号公報
(2010年7月8日発行)
甲第4号証 「汚れ防止シリーズ第5編 汚染防止性を付与した機能性
フィルム」,塗料の研究,131号,(1998),51~
58頁,<URL:https://www.kansai.co.jp/rd/token/
pdf/131/10.pdf>
(1998年10月発行)
なお、甲2~甲4は、周知技術を示すために提出された文献であり、甲2は、申立理由1の主張において引用されているが、申立理由2~3の主張においては引用されていない。
第4 当審の判断
当審合議体は、本件請求項1~2に係る特許は、上記第3に示した申立ての理由及び証拠によっては、取り消すことはできないものと判断する。その理由の詳細は以下のとおりである。
1 申立理由1(サポート要件違反)について
(1) サポート要件の判断の前提
特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆる「サポート要件」)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2) 特許請求の範囲の記載
本件請求項1~2の記載は、上記第2に摘記したとおりであり、申立書における申立人の主張に則して次のように分説することができる(以下、分説した事項ごとに、例えば「構成要件(A)」等ということがある。)。
【請求項1】
(A) 常温揮散性ピレスロイド系防虫成分を含有する樹脂成形体と、
(B) 前記樹脂成形体から揮散した前記常温揮散性ピレスロイド系防虫成分を通過させつつ前記樹脂成形体を収納する収納容器とを備えた樹脂製品であって、
(C) 前記樹脂成形体は、ポリオレフィン系樹脂及びオレフィンとカルボン酸エステルとの共重合体を含み、前記ポリオレフィン系樹脂と前記共重合体との重量比が1:0.5~8であり、
(D) 前記樹脂成形体は、水の接触角が84~95°であり、且つ、
(E) 流動パラフィンの接触角が20~30°である、樹脂製品。
【請求項2】
前記常温揮散性ピレスロイド系防虫成分が、トランスフルトリン又はメトフルトリンである、請求項1に記載の樹脂製品。
(3) 発明の詳細な説明の記載
本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)には、発明の詳細な説明として、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審合議体が付したものであり、「・・・」は摘記の省略を示す。
・摘記A
「【背景技術】
【0002】
従来、常温揮散性ピレスロイド系防虫成分を含有する樹脂成形体が知られている。このような樹脂成形体によれば、樹脂成形体の表面にブリードしたピレスロイド系防虫成分が周囲に揮散されるため、害虫を忌避し又はノックダウンすることができる。
【0003】
・・・、この種の樹脂成形体は、ピレスロイド系防虫成分が通過可能な開口が形成された収納容器に収納されて、樹脂製品として提供されている。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、前記樹脂成形体は、使用時において、前記収納容器の開口を通して周囲の環境に曝された状態となるため、表面に埃や汚れが付着することがあり、これによって、防虫成分の揮散が減少してしまい、防虫効果が低下するという問題点を有している。特に、樹脂成形体が屋外で使用される場合、雨や埃などによって表面が汚れ易くなるため、防虫成分の揮散がさらに減少するおそれがある。
【0006】
上記問題点に鑑み、本発明は、防虫成分の揮散の減少が抑えられ、優れた防虫効果を発揮し得る樹脂成形体及び樹脂製品を提供することを課題とする。」
・摘記B
「【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく、本発明者らは、鋭意検討を行った結果、驚くべきことに、樹脂成形体の接触角が防虫成分の揮散に影響を与えることを見出し、本発明を完成するに至った。
・・・
【0009】
斯かる構成によれば、水の接触角が84~95°であり、且つ、流動パラフィンの接触角が20~30°であることによって、ピレスロイド系防虫成分の揮散の減少が抑えられ、優れた防虫効果を発揮し得る。
・・・
【0011】
斯かる構成によれば、常温揮散性ピレスロイド系防虫成分が、トランスフルトリン又はメトフルトリンであることによって、より優れた防虫効果を発揮し得る。
・・・
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明によれば、防虫成分の揮散の減少が少なく、優れた防虫効果を発揮し得る樹脂成形体及び樹脂製品を提供することができる。」
・摘記C
「【0016】
本実施形態に係る樹脂成形体は、熱可塑性樹脂と常温揮散性ピレスロイド系防虫成分とを含有しており、水の接触角が84~95°であり、且つ、流動パラフィンの接触角が20~30°である。水の接触角は、84~92°であることがより好ましく、84~90°であることがより一層好ましい。また、流動パラフィンの接触角は、20~25°であることがより好ましい。
【0017】
接触角は、接触角計(・・・)を用いて測定され、接線法により算出される。
接触角を測定するための検体は、樹脂成形体を、混練機(・・・)を使用して160℃で5分間溶融混練後、・・・プレスして15cm×15cmのシート状(厚み0.5mm)に成形し、5×7cmの大きさに切り出したものとする。
・・・
【0018】
・・・。熱可塑性樹脂は、接触角が上記値に設定され得るという観点から、・・・、ポリオレフィン系樹脂、オレフィンとカルボン酸エステルとの共重合体、又はこれらの混合物がより好ましい。
【0019】
・・・。ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン系樹脂(PE)、及びポリプロピレン系樹脂(PP)が挙げられる。
【0020】
オレフィンとカルボン酸エステルとの共重合体の場合は、ポリオレフィン単量体を主なモノマー成分とし、カルボン酸エステル単量体をモノマー単位として含有する重合体である。
カルボン酸エステル単量体の含有量は、好ましくは、共重合体の全重量に対して1~25重量%である。カルボン酸エステル単量体の含有量が小さいほど、共重合体の親水性が低下(親油性が向上)するため、樹脂成形体の水の接触角が大きくなり、流動パラフィンの接触角が小さくなり得る。また、カルボン酸エステル単量体の含有量が大きいほど、共重合体の親水性が向上(親油性が低下)するため、樹脂成形体の水の接触角が小さくなり、流動パラフィンの接触角が大きくなり得る。
【0021】
カルボン酸エステル単量体としては、カルボン酸ビニルエステル及び不飽和カルボン酸エステルが挙げられる。
カルボン酸ビニルエステルとしては、酢酸ビニル等の低級脂肪酸のビニルエステルが挙げられる。また、不飽和カルボン酸エステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等のアクリル酸の低級アルキルエステル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル等のメタクリル酸の低級アルキルエステルが挙げられる。
【0022】
カルボン酸ビニルエステル単量体をモノマー単位として含有するポリエチレン系共重合体としては、例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)が挙げられる。また、不飽和カルボン酸エステル単量体をモノマー単位として含有するポリエチレン系共重合体としては、例えば、エチレン-アクリル酸メチル共重合体(EMA)、エチレン-アクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン-アクリル酸ブチル共重合体、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体(EMMA)、及びエチレン-メタクリル酸エチル共重合体が挙げられる。
【0023】
カルボン酸エステル単量体をモノマー単位として含有するポリプロピレン系共重合体としては、例えば、プロピレン-アクリル酸メチル共重合体、プロピレン-アクリル酸エチル共重合体、プロピレン-アクリル酸ブチル共重合体、プロピレン-メタクリル酸メチル共重合体、及びプロピレン-メタクリル酸エチル共重合体が挙げられる。
【0024】
ポリオレフィン系樹脂と、オレフィンとカルボン酸エステルとの共重合体との混合物(ポリマーブレンド)としては、例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体とポリエチレンとのポリマーブレンド、エチレン-アクリル酸メチル共重合体とポリエチレンとのポリマーブレンド、エチレン-アクリル酸エチル共重合体とポリエチレンとのポリマーブレンド、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体とポリエチレンとのポリマーブレンド、及びエチレン-メタクリル酸エチル共重合体とポリエチレンとのポリマーブレンドが挙げられる。この場合、ポリオレフィン系樹脂と、オレフィンとカルボン酸エステルとの共重合体との混合重量比は、1:0.5~8が好ましく、1:0.9~8がより好ましい。ポリオレフィン系樹脂に対して、オレフィンとカルボン酸エステルとの共重合体の比率が大きいほど、樹脂成形体の水及び流動パラフィンの接触角が大きくなり得る。
・・・
【0029】
熱可塑性樹脂の含有量は、樹脂成形体の全重量に対して、好ましくは70重量%以上、より好ましくは75重量%以上、さらに好ましくは80重量%以上である。」
・摘記D
「【0030】
本実施形態の樹脂成形体は、常温揮散性ピレスロイド系防虫成分を含有している。常温揮散性とは、Donovan法による25℃における蒸気圧が1.33×10-4Pa(1×10-6mmHg)以上であること意味する。常温揮散性ピレスロイド系防虫成分は、揮散性能の観点から、25℃における蒸気圧が0.1Pa以下であるものが好ましい。具体的には、トランスフルトリン(蒸気圧(25℃)3.5×10-3Pa)、メトフルトリン(蒸気圧(25℃)1.8×10-3Pa)、エンペントリン(蒸気圧(25℃)0.02Pa)、プロフルトリン(蒸気圧(25℃)0.01Pa)等が挙げられる
・・・
【0032】
常温揮散性ピレスロイド系防虫成分の含有量は、樹脂成形体の全重量に対して、通常0.1~20重量%、好ましくは0.1~15重量%、より好ましくは4~15重量%である。」
・摘記E
「【0034】
本実施形態では、接触角が上記値に設定され得るという観点から、無機充填剤が含有されてもよい。無機充填剤としては、シリカ又は炭酸カルシウムが好ましい。シリカは、疎水性シリカであってもよく、親水性シリカであってもよい。疎水性シリカとしては、例えば、AEROSIL(登録商標)90G(日本エアロジル株式会社製)が挙げられる。また、親水性シリカとしては、例えば、カープレックス(登録商標)#80シリカ(EVONIK社製)が挙げられる。シリカが疎水性シリカであることによって、樹脂成形体の水及び流動パラフィンの接触角が大きくなり得る。また、シリカが親水性シリカであることによって、樹脂成形体の水及び流動パラフィンの接触角が小さくなり得る。炭酸カルシウムとしては、例えば、NN#200(日東粉化工業株式会社製)及びNN#500(日東粉化工業株式会社製)が挙げられる。通常、炭酸カルシウムは親水性であるため、樹脂成形体に含有されることによって、樹脂成形体の水の接触角が小さくなり得る。
【0035】
無機充填剤の含有量は、樹脂成形体の全重量に対して、通常0.5~10重量%、好ましくは1~5重量%である。」
・摘記F
「【0038】
本実施形態の樹脂成形体は、例えば、熱可塑性樹脂に常温揮散性ピレスロイド系防虫成分を練り込んで成形することによって、又は、熱可塑性樹脂を所定の形状に成形した後に常温揮散性ピレスロイド系防虫成分を塗布したり含浸させたりすることによって製造することができる。
【0039】
例えば、熱可塑性樹脂、常温揮散性ピレスロイド系防虫成分及び無機充填剤等の他の成分を、通常60~220℃の温度に調整した単軸押出機又は二軸押出機等の押出機により溶融・混練することによって樹脂組成物を調製し、該樹脂組成物を通常60~220℃の温度で射出成形等により所定の形状に成形することによって製造することができる。
成形方法としては、射出成形の他、押出成形、プレス成形、真空成形等を用いることもできる。」
・摘記G
「【0040】
接触角の調整方法としては、まず、熱可塑性樹脂、常温揮散性ピレスロイド系防虫成分及び無機充填剤等の他の成分をある割合で混錬し、基準としての樹脂成形体を作製する。次に、基準としての樹脂成形体の接触角を算出し、水又は流動パラフィンに対する接触角が上記範囲から外れている場合は、上記した熱可塑性樹脂、常温揮散性ピレスロイド系防虫成分及び無機充填剤それぞれの接触角に及ぼし得る性質を考慮して、それらの割合又は種類を適宜変更し、接触角を調節すればよい。」
・摘記H
「【0042】
本実施形態に係る樹脂製品は、上記樹脂成形体と、該樹脂成形体から揮散した常温揮散性ピレスロイド系防虫成分を通過させつつ該樹脂成形体を収納する収納容器とを備えている。
【0043】
収納容器は、樹脂成形体から揮散した常温揮散性ピレスロイド系防虫成分が通過可能な開口を有している。また、収納容器は、害虫を忌避等させたい場所に設置するためのフック部や面ファスナー等を備えている。このような収納容器としては、従来公知のものが使用され得る。」
・摘記I
「【0050】
(製造例)
・エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA、共重合体の全重量に対する酢酸ビニルの割合:20%、商品名:エバテートH4011、住友化学株式会社製)75重量部とポリエチレン(PE、スミカセンFV405、住友化学株式会社製)13重量部とを混練機(LABO PLASTOMILL 4C150-01、株式会社東洋精機製作所製)を使用して、160℃、50rpmで1分間混練し、続いて、常温揮散性ピレスロイド系防虫成分としてトランスフルトリン(商品名:バイオスリン、住友化学株式会社製)10重量部と無機充填剤としてシリカ(商品名:カープレックス#80、EVONIK社製)2重量部とを投入し、160℃、60rpmで5分間混練した。混練終了後、混錬物を取り出し、アルミ板でサンドイッチ状に挟み、プレス機(・・・)で160℃にて、50kg/cm2の圧力で180秒、続いて100kg/cm2の圧力で180秒プレスしてシート状に成形し(厚み0.5mm)、5×7cmの大きさに切り出し、実施例1の検体とした。
また、表1に示す配合割合とした以外は実施例1と同様にして、実施例2~4及び比較例1~4の検体を作成した。
【0051】
【表1】
[図:0001405835000001.jpg]
【0052】
・表1に示す各検体の接触角を上記した方法により測定した。結果を表2に示す。
【0053】
(評価方法)
下記埃の付着方法により埃を付着させて調製した埃有りの検体、及び、埃無しの検体(製造例で得られた検体そのもの)について、下記方法により防虫効果を観察した。
[埃を付着させる方法]
埃としてのタルクを各検体に付着させることによって、埃有りの検体を調製した。具体的には、検体をトレイに入れ、茶こしを使用して埃としてのタルク約500mgを表面に均一に振りかけた後、ピンセットで検体を持ち上げ、検体の角でトレイを軽く3回叩いて余分なタルクを落とし、埃有りの検体を調製した。
[防虫効果の観察]
直径10cm、高さ1.6cmのアルミ皿内に検体を設置した。次に、直径10cm、高さ4.4cmのポリカップ内にアカイエカ10匹を放ち16メッシュの網で蓋をし、アルミ皿の上に被せて試験開始とした。アカイエカを観察し、下記式1)により算出される15分経過後ノックダウン(KD)率、及びKT50値(供試したアカイエカのうち半数がノックダウンするまでにかかる時間)を求めた。
また、試験開始15分の時点で、網で蓋をしたポリカップを回収し、5%砂糖水を含ませた綿をアカイエカの餌としてポリカップ内に入れ、25℃環境下に3日間静置した後、下記式2)により算出される3日後苦死虫率(3日後に苦死したアカイエカの割合)を求めた。
式1) 15分経過後KD率(%)=[15分後にノックダウンしたアカイエカの数]/[供試したアカイエカの数]×100
式2) 3日後苦死虫率(%)=[3日後に苦死したアカイエカの数]/[供試したアカイエカの数]×100
[評価基準1]
[埃有りの検体のKT50値]/[埃無しの検体のKT50値]×100により算出される値が、70より大きい場合、防虫効果が維持されていると評価し(○)、70以下の場合、防虫効果が維持されていないと評価した(×)。
[評価基準2]
[埃有りの検体の3日後苦死虫率]/[埃無しの検体の3日後苦死虫率]×100により算出される値が、100より大きい場合、防虫効果が維持されていると評価し(○)、100以下の場合、防虫効果が維持されていないと評価した(×)。
結果を表2に示す。
【0054】
【表2】
[図:0001405835000002.jpg]
【0055】
表2に示すように、実施例の検体は、水の接触角が84~95°であり、且つ、流動パラフィンの接触角が20~30°であることによって、埃(タルク)が付着して表面が汚れた状態であっても、防虫成分の揮散の減少が抑えられており、優れた防虫効果を発揮することが示された。一方、比較例の検体は、水又は流動パラフィンの接触角の少なくともいずれか一方が上記範囲から外れており、実施例の検体よりも防虫効果が劣ることが示された。
接触角が防虫成分の効力に影響する要因としては、接触角が上記範囲であることによって、樹脂成形体の表面にブリードした防虫成分が、該表面上において揮散し易い状態を保つことができるためであると推察される。」
・摘記J
「【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、害虫が侵入し得る場所に設置され、害虫が付着し得る箇所に装着されること等によって、それらの場所等において害虫を忌避又はノックダウンするために利用することができる。」
(4) 本件発明の課題
本件請求項1~2の記載、及び、上記(3)に摘記した本件明細書の発明の詳細な説明(特に、摘記A【0002】~【0006】及び摘記I【0055】)の記載からみて、従来、ピレスロイド系防虫成分が通過可能な開口が形成された収納容器に収納された樹脂製品として提供されている常温揮散性ピレスロイド系防虫成分を含有する樹脂成形体においては、収納容器の開口を通して周囲の環境に曝された状態となるため、表面に埃や汚れが付着することによって、防虫成分の揮散が減少し、防虫効果が低下するという問題点があったところ、本件発明1~2が解決しようとする課題は、いずれも共通して、
「埃や汚れが付着して表面が汚れた状態であっても、防虫成分の揮散の減少が抑えられ、優れた防虫効果を発揮し得る樹脂成形体及び樹脂製品を提供すること」
であると認められる。
(5) サポート要件の判断
ア 本件発明1について
(ア) 課題の解決に関する発明の詳細な説明の記載
上記(3)で摘記した事項によれば、本件明細書の発明の詳細な説明には、上記(4)で認定した本件発明の課題の解決に関して、概略、次のことが記載されていると認められる。
a 課題解決手段としての樹脂成形体の接触角について
「樹脂成形体の接触角が防虫成分の揮散に影響を与えることを見出し、本発明を完成するに至った」ことが記載されており(摘記B【0007】)、「水の接触角が84~95°であり、且つ、流動パラフィンの接触角が20~30°であること」により、「ピレスロイド系防虫成分の揮散の減少が抑えられ、優れた防虫効果を発揮し得る」ことが記載されている(摘記B【0009】)。
b 熱可塑性樹脂と接触角の関係について
実施形態に係る樹脂成形体は、熱可塑性樹脂と常温揮散性ピレスロイド系防虫成分とを含有することが記載され(摘記C【0016】)、熱可塑性樹脂は、接触角が上記値に設定され得るという観点から、ポリオレフィン系樹脂及びオレフィンとカルボン酸エステルとの共重合体の混合物がより好ましいこと(摘記C【0018】)、が記載されている。
ポリオレフィン系樹脂として、ポリエチレン系樹脂(PE)が挙げられること(摘記C【0019】)、オレフィンとカルボン酸エステルとの共重合体におけるカルボン酸エステル単量体の含有量が小さいほど、共重合体の親水性が低下(親油性が向上)するため、樹脂成形体の水の接触角が大きくなり流動パラフィンの接触角が小さくなり得る一方、カルボン酸エステル単量体の含有量が大きいほど、共重合体の親水性が向上(親油性が低下)するため、樹脂成形体の水の接触角が小さくなり流動パラフィンの接触角が大きくなり得ること(摘記C【0020】)、が記載されている。
カルボン酸エステル単量体として、カルボン酸ビニルエステル及び不飽和カルボン酸エステルが挙げられ、カルボン酸ビニルエステルとしては、酢酸ビニル等の低級脂肪酸のビニルエステルが挙げられること(摘記C【0021】)、カルボン酸ビニルエステル単量体をモノマー単位として含有するポリエチレン系共重合体として、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)等が挙げられること(摘記C【0022】)、が記載されている。
ポリオレフィン系樹脂及びオレフィンとカルボン酸エステルとの共重合体の混合物(ポリマーブレンド)としては、ポリエチレンとエチレン-酢酸ビニル共重合体とのポリマーブレンドが挙げられ、ポリオレフィン系樹脂と、オレフィンとカルボン酸エステルとの共重合体との混合重量比は、1:0.5~8が好ましく、ポリオレフィン系樹脂に対して、オレフィンとカルボン酸エステルとの共重合体の比率が大きいほど、樹脂成形体の水及び流動パラフィンの接触角が大きくなり得ること(摘記C【0024】)、が記載されている。
熱可塑性樹脂の含有量は、樹脂成形体の全重量に対して、好ましくは70重量%以上であること(摘記C【0029】)、が記載されている。
c 常温揮散性ピレスロイド系防虫成分について
実施形態の樹脂成形体が含有する常温揮散性ピレスロイド系防虫成分として、具体的には、トランスフルトリン(蒸気圧(25℃)3.5×10-3Pa)、メトフルトリン(蒸気圧(25℃)1.8×10-3Pa)、エンペントリン(蒸気圧(25℃)0.02Pa)及びプロフルトリン(蒸気圧(25℃)0.01Pa)等が挙げられること(摘記D【0030】)、常温揮散性ピレスロイド系防虫成分の含有量は、樹脂成形体の全重量に対し、通常0.1~20重量%であること(摘記D【0032】)、が記載されている。
d 無機充填剤と接触角の関係について
実施形態では、接触角が上記値に設定され得るという観点から、シリカ等の無機充填剤が含有されてもよく、シリカは疎水性でも親水性でもよく、疎水性シリカとしてAEROSIL90Gが挙げられ、親水性シリカとしてカープレックス #80が挙げられ、シリカが疎水性シリカであることによって、樹脂成形体の水及び流動パラフィンの接触角が大きくなり得る一方、シリカが親水性シリカであることによって、樹脂成形体の水及び流動パラフィンの接触角が小さくなり得ることが記載され(摘記E【0034】)、無機充填剤の含有量は、樹脂成形体の全重量に対して通常0.5~10重量%であること、が記載されている(摘記E【0035】)。
e 接触角の調整方法について
接触角の調整方法としては、まず、熱可塑性樹脂、常温揮散性ピレスロイド系防虫成分及び無機充填剤等の他の成分をある割合で混錬し、基準としての樹脂成形体を作製し、次に、基準としての樹脂成形体の接触角を算出し、水又は流動パラフィンに対する接触角が上記範囲から外れている場合は、熱可塑性樹脂、常温揮散性ピレスロイド系防虫成分及び無機充填剤それぞれの接触角に及ぼし得る性質を考慮して、それらの割合又は種類を適宜変更し、接触角を調節すればよいこと、が記載されている(摘記G【0040】)。
f 製造例について
樹脂成形体の製造例として、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA、共重合体の全重量に対する酢酸ビニルの割合:20%)75重量部と、ポリエチレン(PE)13重量部とを混練し、続いて、常温揮散性ピレスロイド系防虫成分としてトランスフルトリン10重量部及び無機充填剤としてシリカ(カープレックス#80)2重量部を投入して混練し、混錬物をプレスしてシート状に成形し、実施例1の検体としたこと、また、表1に示す配合割合とした以外は実施例1と同様にして、実施例2~4及び比較例1~4の検体を作成し、各検体の接触角を測定したこと、が記載されている(摘記I【0050】~【0052】)。
g 防虫効果の評価試験について
実施例1~4及び比較例1~4の検体を、埃としてのタルクを付着させた埃有りの検体と、埃無しの検体とし、アルミ皿内に設置して、ポリカップ内にアカイエカ10匹を放って16メッシュの網で蓋をし、防虫効果の観察を行い、15分経過後ノックダウン(KD)率及びKT50値(供試したアカイエカのうち半数がノックダウンするまでにかかる時間)を求め、試験開始15分の時点でポリカップを回収して、3日後苦死虫率(3日後に苦死したアカイエカの割合)を求め、それらの結果を表2に示したこと、が記載されている(摘記I【0053】~【0055】)。
なお、摘記I【0053】には、
「[評価基準1]
[埃有りの検体のKT50値]/[埃無しの検体のKT50値]×100により算出される値が、70より大きい場合、防虫効果が維持されていると評価し(○)、70以下の場合、防虫効果が維持されていないと評価した(×)。」
と記載されているが、KT50値は、供試したアカイエカ(10匹)のうち半数(5匹)がノックダウンするまでにかかる時間であることから、数字が小さいほど(時間が短いほど)防虫効果が高いことを示しており、上記KT50値の比も、数字が小さいほど防虫効果が維持されていることを示すことになるため、上記【0053】の説明は矛盾する。その一方で、【表2】の「評価基準○1」(当審注:「○1」は丸数字の1を示す。以下同様。)の欄の全ての数値は、上記【0053】の「評価基準1」の式から算出される値とは異なる、「15分経過後ノックダウン(KD)率」の比の数値が記載されている(例えば、実施例1の「評価基準○1」の欄に記載されている値は、「KT50値」の比である「105.2」(=(14.1/13.4)×100)ではなく、「15分経過後ノックダウン(KD)率」の比である「84.6」(=(55.0/65.0)×100)とされている。)。
そうすると、上記【0053】における、
「[埃有りの検体のKT50値]/[埃無しの検体のKT50値]×100」との記載は、
「[埃有りの検体の15分経過後KD率]/[埃無しの検体の15分経過後KD率]×100」
とすべきところを、誤記したものであると解される。
また、摘記I【0053】には、
「[評価基準2]
[埃有りの検体の3日後苦死虫率]/[埃無しの検体の3日後苦死虫率]×100により算出される値が、100より大きい場合、防虫効果が維持されていると評価し(○)、100以下の場合、防虫効果が維持されていないと評価した(×)。」
と記載されているが、同じ検体については、「埃有り」のほうが「埃無し」よりも、防虫成分の揮散が減少して、防虫効果が低下するものと考えられるから(摘記A【0005】を参照。)、上記の3日後苦死虫率の比は、誤差等でなければ100より大きい場合を想定し難いところ、【表2】の「評価基準○2」の欄では、数値が「100.0」の複数の例について、「○」と表記されており、上記【0053】の「評価基準2」の説明とは整合しない評価が示されている。
そうすると、上記【0053】における、
「100より大きい場合、防虫効果が維持されていると評価し(○)、100以下の場合、防虫効果が維持されていないと評価した(×)。」
との記載は、
「100以上の場合、防虫効果が維持されていると評価し(○)、100より小さい場合、防虫効果が維持されていないと評価した(×)。」
等の誤記であると解される。
以下では、上記の摘記I【0053】における[評価基準1]及び[評価基準2]の記載が上記の誤記を含むものであるとの前提で検討を行う。
(イ) 実施例の樹脂成形体による課題の解決と本件発明1の対応関係
【表1】及び【表2】の記載によれば、実施例1~4の検体の樹脂成形体は、「常温揮散性ピレスロイド系防虫成分」に該当する「トランスフルトリン」(実施例1、3~4)又は「メトフルトリン」(実施例2)を含有しているから、本件発明1の構成要件(A)を満たしており、「ポリオレフィン系樹脂」に該当する「ポリエチレン(PE)」と、「オレフィンとカルボン酸エステルとの共重合体」に該当する「エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)」を、「1:0.5~8」の範囲内の重量比で含有するから(「PE:EVA」の比が、実施例1は「1:5.8」、実施例2は「1:7.5」、実施例3は「1:0.9」、実施例4は「1:1.6」である。)、同構成要件(C)を満たしており、いずれの実施例も、「水の接触角」が「84~95°」の範囲内であり、「流動パラフィンの接触角」が「20~30°」の範囲内であるから、同構成要件(D)及び(E)も満たしている。
そして、【表2】の記載によれば、実施例1~4の全ての検体の樹脂成形体は、「評価基準○1」(上記(ア)gの指摘のとおり、「15分経過後KD率」の「埃無し」に対する「埃有り」の比に基づく評価基準と解する。)、及び、「評価基準○2」(「埃無し」に対する「埃有り」の「3日後苦死虫率」の比に基づく評価基準である。)が、いずれも「防虫効果が維持されている(○)」という評価結果であったとされている。
これに対して、比較例1~4の検体の樹脂成形体は、「トランスフルトリン」(比較例1)又は「メトフルトリン」(比較例2~4)を含有し、いずれも「PE」と「EVA」を含有しており、比較例1~3では、「PE」と「EVA」の重量比が「1:0.5~8」の範囲内であるが、比較例1と4では、「水の接触角」が「84~95°」の範囲外であって、「流動パラフィンの接触角」も「20~30°」の範囲外であり、比較例2及び3では、「流動パラフィンの接触角」が「20~30°」の範囲外であるため、本件発明1の構成要件(D)又は(E)を満たしていないところ、比較例1の検体の樹脂成形体は、「評価基準○1」が「防虫効果が維持されていない(×)」という評価結果であり、比較例2~4の検体の樹脂成形体は、「評価基準○2」が「防虫効果が維持されていない(×)」という評価結果であったとされている。
これらの防虫効果の評価試験の結果からみて、実施例1~4の検体の樹脂成形体を用い、樹脂成形体から揮散した常温揮散性ピレスロイド系防虫成分が通過可能な開口を有する従来公知の収納容器(摘記H【0042】~【0043】)に収納した樹脂製品(構成要件(B)も満たす。)とすれば、上記(4)で認定した「埃や汚れが付着して表面が汚れた状態であっても、防虫成分の揮散の減少が抑えられ、優れた防虫効果を発揮し得る樹脂成形体及び樹脂製品を提供すること」という本件発明1の課題を解決することができると、当業者が認識し得るといえる。
(ウ) 実施例以外の樹脂成形体による課題の解決と本件発明1の対応関係
本件発明1における樹脂成形体は、実施例1~4の検体の樹脂成形体における「トランスフルトリン」や「メトフルトリン」以外の「常温揮散性ピレスロイド系防虫成分」も含有し得るものであり(構成要件(A))、「PE」以外の「ポリオレフィン系樹脂」及び「EVA」以外の「オレフィンとカルボン酸エステルとの共重合体」も含有し得るものである(構成要件(C))。
本件明細書には、本件発明1における常温揮発性ピレスロイド系防虫成分を含有する樹脂成形体について、その水の接触角及び流動パラフィンの接触角を特定の範囲とすることにより、常温揮発性ピレスロイド系防虫成分の揮散の減少が抑えられ、優れた防虫効果を発揮し得るものであることが記載され(摘記A【0005】~【0006】及び摘記B【0007】~【0009】)、上記(イ)のとおり、実施例において、常温揮発性ピレスロイド系防虫成分として、トランスフルトリン又はメトフルトリンを用いた樹脂成形体が、樹脂成形体の水の接触角及び流動パラフィンの接触角を本件発明1で特定する範囲内とすることにより、揮散の減少が抑えられ、優れた防虫効果を発揮することが、実際に示されている。また、接触角が防虫成分の効力に影響する要因について、接触角が上記の範囲内であることによって、樹脂成形体の表面にブリードした防虫成分が、その表面上において揮散し易い状態を保つことができるためであると推察されるという、理論的な説明も記載されている(摘記I【0055】)。
そして、「トランスフルトリン」又は「メトフルトリン」以外の「常温揮散性ピレスロイド系防虫成分」の具体例が、好適な含有量とともに記載されており(摘記D【0030】及び【0032】)、「PE」以外の「ポリオレフィン系樹脂」及び「EVA」以外の「オレフィンとカルボン酸エステルとの共重合体」の具体例も、好適な含有量とともに記載され(摘記C【0019】、【0021】~【0023】)、上記(ア)bのとおり、オレフィンとカルボン酸エステルとの共重合体におけるカルボン酸エステル単量体の含有量、及び、オレフィンとカルボン酸エステルとの共重合体の比率と、樹脂成形体の水の接触角及び流動パラフィンの接触角との関係についての説明も記載されている。また、本件明細書には、上記(ア)dのとおり、樹脂成形体に含有されてもよい無充填剤としてのシリカの親水性・疎水性と、樹脂成形体の水の接触角及び流動パラフィンの接触角との関係についての説明も記載されている。さらに、上記(ア)eのとおり、本件明細書には、接触角の調整方法について、熱可塑性樹脂、常温揮散性ピレスロイド系防虫成分及び無機充填剤それぞれの接触角に及ぼし得る性質を考慮して、それらの割合又は種類を適宜変更することにより、接触角を調節すればよいことが記載されている。
このような本件明細書の記載に接した当業者ならば、「トランスフルトリン」及び「メトフルトリン」以外の「常温揮散性ピレスロイド系防虫成分」を用いる場合や、「PE」以外の「ポリオレフィン系樹脂」及び「EVA」以外の「オレフィンとカルボン酸エステルとの共重合体」を用いる場合においても、実施例1~4及び比較例1~4の記載を参考にしつつ、それぞれの成分が接触角に及ぼし得る性質を考慮して、それらの割合又は種類を適宜変更することにより、「水の接触角が84~95°」であり、且つ、「流動パラフィンの接触角が20~30°」であるという条件を満たす樹脂形成体を調製することができ、接触角を調節した樹脂成形体は、表面にブリードした防虫成分をその表面上において揮散し易い状態に保つことができるから、上記(4)で認定した「埃や汚れが付着して表面が汚れた状態であっても、防虫成分の揮散の減少が抑えられ、優れた防虫効果を発揮し得る樹脂成形体及び樹脂製品を提供すること」という、本件発明1の課題を解決することができると、認識し得るといえる。
(エ) 小括
したがって、本件発明1は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載又はその示唆により、当業者がその課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、本件請求項1の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合するものである。
イ 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の樹脂製品において、「常温揮散性ピレスロイド系防虫成分」を、「トランスフルトリン又はメトフルトリン」に特定したものである。
したがって、上記アで説示したのと同様の理由により、本件発明2は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載又はその示唆により、当業者がその課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、本件請求項2の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合するものである。
(6) 申立人の主張について
ア 構成要件(A):防虫成分について
申立人は、本件発明1における「常温揮散性ピレスロイド系防虫成分」には多種多様な防虫成分が含まれ得るところ、本件明細書においては、トランスフルトリンとメトフルトリンしか実際に効果が確認されておらず、比較例1と比較例3を比べた場合、他の組成が全く同じで、同じ含有量の防虫成分がトランスフルトリンとメトフルトリンで異なるだけで、流動パラフィンの接触角が20°以上も異なるから、トランスフルトリン又はメトフルトリン以外の、これらと蒸気圧が大きく異なるエンペントリンやプロフルトリン、さらに具体的に例示されていない常温揮散性ピレスロイド系防虫成分の概念に包含される成分を用いた場合にまで、所望の効果が得られるとは到底考えられないこと、及び、本件発明では常温揮散性ピレスロイド系防虫成分の含有量も規定されていないが、実施例1~4において、トランスフルトリン又はメトフルトリンの含有量は、10~13重量%であり、ほぼ一定の含有量であるところ、このような含有量と大きくかけ離れた含有量まで所望の効果が得られるかは不明であること、を主張している。(申立書の3~5頁)
しかしながら、上記(5)ア(ウ)で説示したように、トランスフルトリン及びメトフルトリン以外の「常温揮散性ピレスロイド系防虫成分」を用いる場合にも、当業者ならば、樹脂成形体の接触角を調節することにより、本件発明の課題を解決できると認識し得るといえる。
申立人は、防虫効果の試験結果において、トランスフルトリンを用いた比較例1と、メトフルトリンを用いた比較例3との間で、樹脂成形体の流動パラフィンの接触角が大きく異なっていることを理由に、具体的に例示されていない常温揮散性ピレスロイド系防虫成分についてまで、所望の効果が得られるとは考えられないと主張するが、トランスフルトリンを用いた実施例1、3~4と、メトフルトリンを用いた実施例2は、違った物性を有する常温揮散性ピレスロイド系防虫成分であっても、樹脂成形体の接触角を調節することにより、本件発明の課題を解決できることを示すものであるから、申立人の主張には理由がない。
また、上記(5)ア(ウ)で説示したように、トランスフルトリン又はメトフルトリン以外の「常温揮散性ピレスロイド系防虫成分」を用いる場合にも、当業者ならば、実施例1~4及び比較例1~4の記載を参考にしつつ、それぞれの成分が接触角に及ぼし得る性質を考慮して、それらの割合(含有量)又は種類を適宜変更することにより、樹脂成形体の接触角を調節できる。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
イ 構成要件(B):樹脂成形体を収納する収納容器を備える樹脂製品に
ついて
申立人は、本件発明で用いられる容器を備える樹脂製品は従来公知のものであり、開口部の作成やピレスロイド系防虫成分を通過させる方法なども、通常に行われる方法に過ぎないから、構成要件(B)の有無のみでは、発明の効果への影響及び課題解決に対する貢献等は特にないと考えられる旨を主張している。(申立書の5~6頁)
しかしながら、上記(4)で説示したように、本件発明は、従来公知の収納容器に収納された樹脂製品として提供されている常温揮散性ピレスロイド系防虫成分を含有する樹脂成形体において、表面に埃や汚れが付着することによって、防虫成分の揮散が減少し、防虫効果が低下するという問題点に対処したものであり、構成要件(B)は、本件発明の前提となる構成を示したものと認められる。そして、本件発明がサポート要件を満たすためには、構成要件(A)~(E)の全てを備えた樹脂製品が本件発明の課題を解決できることを当業者が認識できればよいから、構成要件(B)の有無のみに基づいて、本件発明が課題を解決することができるかどうかを論ずることは意味がない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
ウ 構成要件(C):ポリオレフィン系樹脂と共重合体との重量比について
申立人は、比較例1~3も、PEとEVAとの重量比が1:5~5.8であり、本件発明の範囲(1:0.5~8)を満たしているから、本件発明のポリオレフィン系樹脂と共重合体との重最比の範囲のみでは、発明の効果に対する影響は特になく、この範囲の上限値及び下限値付近の臨界的意義などが示されたわけでもないため、構成要件(C)の有無による課題解決に対する貢献等はほとんどないと考えられること、ポリオレフィン系樹脂と共重合体の樹脂成形体の全体に占める割合や他の樹脂成分の配合によっては、水及び流動パラフィンの接触角が大きく変わる可能性があるが、本件明細書には、PEとEVAの効果しか記載されていないため、本件発明の構成要件(C)に包含され得る、あらゆる態様まではサポートされていないこと、及び、実施例1~4は、いずれも熱可塑性樹脂の含有量が【0029】に記載の樹脂成形体の全重量に対して80重量%以上という特徴を満たすが、当該特徴を有しない場合にまで、所望の効果が得られるかどうかは不明であるし、他の樹脂成分を含む場合まではサポートされていないこと、を主張している。(申立書の5~8頁)
しかしながら、本件明細書の記載全体からみて、本件発明の課題を解決するための主たる手段は、樹脂成形体の水の接触角及び流動パラフィンの接触角を、それぞれ特定の範囲とすること(構成要件(D)及び(E))であると解され(特に、摘記B【0007】、【0009】及び摘記I【0055】を参照。)、構成要件(C)における「ポリオレフィン系樹脂とオレフィンとカルボン酸エステルとの共重合体との重量比」が「1:0.5~8」であることは、構成要件(D)及び(E)を満たす樹脂成形体の態様について、好ましい要件を付加的に規定したものといえるから、比較例1~3も構成要件(C)を満たしており、当該要件の上限値及び下限値に特に臨界的な意義が認められないとしても、何ら不合理なことではない。
そして、ポリオレフィン系樹脂及びオレフィンとカルボン酸エステルとの共重合体の樹脂成形体の全体に占める割合や他の樹脂成分の配合によって、水及び流動パラフィンの接触角が大きく変わる可能性があるとしても、上記(5)ア(ウ)で説示したように、当業者は、実施例1~4及び比較例1~4の記載を参考にしつつ、各成分が接触角に及ぼし得る性質を考慮して、それらの割合又は種類を適宜変更することにより、「水の接触角が84~95°」であり、且つ、「流動パラフィンの接触角が20~30°」であるとの条件を満たす樹脂形成体を調製することができ、そのような樹脂成形体を用いた場合に本件発明の課題を解決できると認識し得るといえる。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
エ 構成要件(D):水の接触角について
申立人は、比較例2及び3は、水の接触角がそれぞれ84.2゜及び88.7゜であり、これらは本件発明の構成要件(D)の範囲内(84~95°)であるが、評価基準2において防虫効果を維持できなかったから、本件発明の水の接触角の範囲は、発明の効果に対する影響は特になく、構成要件(D)の有無による発明の効果への影響及び課題解決に対する貢献等はほとんどないと考えられること、及び、本件明細書【0053】における「[評価基準1]」の「KT50値」との記載を含む計算式について、表2の「評価基準○1」の欄に、上記「[評価基準1]」と異なる「15分経過後ノックダウン(KD)率」の比率で計算された値が記載されており、当該「[評価基準1]」の計算式は正しくないから、表2に記載されたデータは、全体として信頼性に欠けること、を主張している。(申立書の8~9頁)
しかしながら、上記(5)ア(イ)で説示したように、実施例1~4の樹脂成形体は、いずれも「水の接触角が84~95°」(構成要件(D))及び「流動パラフィンの接触角が20~30°」(構成要件(E))を満たしており、これらの樹脂成形体を用いた樹脂製品は、本件発明の課題を解決することができると当業者が認識し得るといえる。これに対し、比較例2及び3の樹脂成形体は、構成要件(D)を満たしているが、構成要件(E)を満たしていないから、評価基準2において防虫効果を維持できなかったとしても、何ら矛盾はない。
そして、上記(5)ア(ア)gで説示したとおり、本件明細書【0053】の「[評価基準1]」の計算式における「KT50値」との記載は、「15分経過後KD率」の誤記であると認められ、このことは同【0053】の記載と表2の記載との不整合に接した当業者ならば理解し得ることであるから、表2に記載されたデータが、全体として信頼性に欠けるものとはいえない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
オ 構成要件(E):流動パラフィンの接触角について
申立人は、実施例1~4の全てにカープレックス#80(親水性シリカ)が含まれている一方で、比較例1~3では、当該成分が含まれておらず、代わりにAEROSIL 90 G(疎水性シリカ)が含まれており、実施例1~2と比較例1~3は、これらシリカ以外の組成はほとんど同じであるところ、本件発明において、カープレックス#80(親水性シリカ)が含まれない場合や、その代わりにAEROSIL 90 G(疎水性シリカ)を用いる場合にまで、所望する範囲の流動パラフィンの接触角が得られることについて、本件明細書にサポートされていないこと、特に、実施例1と比較例1を対比すると、他の成分及びその含有量が全く同じでも、シリカ(親水性/疎水性)が相違することのみによって、流動パラフィンの接触角が10°以上も異なっていること、並びに、本件明細書【0034】における、無充填剤としてのシリカの親水性・疎水性と樹脂成形体の水及び流動パラフィンの接触角との関係の記載内容、並びに、滑剤及びシリカを含むオレフィン系樹脂に関する甲2の記載内容を確認する限り、本件発明において、親水性/疎水性シリカによる影響は無視できず、むしろ所望のパラフィンの接触角を得るための必須構成の1つであるといえること、を主張している。(申立書の9~11頁)
しかしながら、上記(5)ア(ウ)で説示したように、当業者ならば、実施例1~4及び比較例1~4の記載を参考にしつつ、無充填剤として含有されてもよい親水性/疎水性シリカを含めた各成分が接触角に及ぼし得る性質を考慮して、それらの成分の添加の有無を含め、その割合や種類を適宜変更することにより、「水の接触角が84~95°であり」且つ「流動パラフィンの接触角が20~30°である」という条件を満たす樹脂形成体を調製でき、そのような樹脂成形体を用いた樹脂製品は、本件発明の課題を解決できると認識し得るといえる。
申立人が指摘する、甲2の[0023]及び[0012]~[0013]には、粘稠な含水物質を収容する容器等に使用するオレフィン系樹脂により形成された表面を有する基材に配合された滑剤(脂肪酸アミド等)が、当該基剤の表面にブリードすることを防止するための添加剤として、シリカ粒子を当該オレフィン系樹脂に配合することが記載されている。
これに対して、本件発明においては、常温揮散性ピレスロイド系防虫成分が樹脂成形体の表面にブリードすることを前提とするものであって(摘記A【0002】及び摘記I【0055】)、シリカは任意に含有されてもよい無機充填剤に過ぎないから(摘記E【0034】)、甲2に記載された基材と本件発明における樹脂成形体は、その技術分野もシリカを配合する目的も全く異なるものである。
そうすると、甲2に記載された滑剤のブリーディング防止用添加剤としてのシリカに関する事項は、本件発明における任意の無充填剤としてのシリカが接触角に及ぼす影響について参酌することはできず、本件発明において、カープレックス#80等の親水性シリカが、所望のパラフィンの接触角を得るための必須構成の1つであると認めるに足る根拠なない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
(7) 申立理由1(サポート要件違反)についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1~2は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載又はその示唆により、当業者がそれらの発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、本件請求項1~2の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものである。
よって、本件請求項1~2に係る発明についての特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえず、同法第113条第4号に該当しないから、申立理由1によって取り消されるべきものではない。
2 申立理由2(甲1に基づく新規性欠如)及び申立理由3(甲1を主引例
とする進歩性欠如)について
(1) 甲各号証の記載事項
上記第3の2に列記した申立人が提出した甲1~4のうち、甲1、3及び4について、申立理由2及び3の判断に必要な範囲で記載事項を以下に摘記する。なお、下線は当審合議体が付したものであり、「・・・」は摘記の省略を示す。
ア 甲1の記載事項
甲1(国際公開第2014/065150号)には、次の事項が記載されている。
・摘記1a
「技術分野
[0001] 本発明は、蚊、ブユ等の飛翔害虫を駆除および忌避するための薬剤揮散体に係り、更に詳しくは、繊維状物からなり、常温揮散性ピレスロイド系防虫成分を含有するメッシュを構成した薬剤揮散体に関するものである。
背景技術
[0002] 従来から、常温揮散性の防虫剤を空気中に揮散させることによって、害虫の駆除や忌避を行う防虫剤が知られている。
・・・
発明が解決しようとする課題
[0004] ・・・
[0005] ・・・。また、防虫剤成分は撚り糸の表面付近にあるので、屋外での使用に際しては、雨の影響を受け易く、防虫剤成分の流出ロスが避けられないという問題もあった。
[0006] 一方、特許文献2に記載の害虫防除用成形体は、害虫防除活性成分が樹脂担体に混錬した状態で担持されているため、特許文献1に記載の薬剤揮散体に比べて害虫防除活性成分の揮散速度を抑え安定化できるという特徴がある。しかしながら、この揮散速度は、雨がかかった場合、水により害虫防除活性成分の揮散が阻害される場合があり、防除効果が低下するおそれがある。
[0007] ・・・。即ち、本発明は、この薬剤揮散体に雨がかかった場合においても、揮散性能を保持する薬剤揮散体を提供することを目的とする。」
・摘記1b
「課題を解決するための手段
[0008] 本発明は、以下の構成が前記目的を達成するために優れた効果を奏することを見出したものである。
(1)常温揮散性ピレスロイド系防虫成分を含有する繊維状物からなるメッシュを有する構造体からなる薬剤揮散体において、前記繊維状物は、樹脂フィラメントからなり、前記構造体の重量に対する、前記構造体が保水し得る量である保水比が、0.005以上0.5以下であることを特徴とする薬剤揮散体。
(2)・・・
(3)前記樹脂フィラメントは、前記常温揮散性ピレスロイド系防虫成分を樹脂担体に混練した後、成形したものであることを特徴とする(1)又は(2)に記載の薬剤揮散体。」
・摘記1c
「発明の効果
[0009] 本発明の薬剤揮散体は、構造体の重量に対する、前記構造体が保水し得る量、すなわち保水比を所定範囲内としたので、屋外に設置した際、雨の付着による常温揮散性ピレスロイド系防虫成分の揮散の抑制を改善することができる。」
・摘記1d
「発明を実施するための形態
[0011] 本発明の薬剤揮散体は、常温揮散性ピレスロイド系防虫成分を含有する繊維状物からなる平面状もしくは立体状メッシュを有する構造体からなる薬剤揮散体である。
[0012] [常温揮散性ピレスロイド系防虫成分]
前記の常温揮散性ピレスロイド系防虫成分としては、常温において空気中に揮散する性質を有し、25℃における蒸気圧が0.001Pa以上0.1Pa以下程度であるものが好ましい。具体的には、擢散性能と安全性等の点から、メトフルトリン、プロフルトリン、トランスフルトリン、及びエムペントリンの少なくとも1種があげられる。・・・。」
・摘記1e
「[0013] [繊維状物]
上記繊維状物は、繊維状に構成されたものをいい、長繊維(フィラメント)そのものや、長繊維や短繊維を撚り合わせて繊維状としたもの等があげられる。・・・。この発明においては、・・・、特に材料として後述する樹脂担体を含有する樹脂組成物を用いて成形して得られる樹脂製の長繊維(樹脂フィラメント)を用いると、耐久性が高くなり好ましい。
[0014] この発明においては、上記樹脂フィラメントに、前記常温揮散性ピレスロイド系防虫成分が含有される。この常温揮散性ピレスロイド系防虫成分の含有方法としては、後記樹脂担体にこの常温揮散性ピレスロイド系防虫成分を混練させて、後記樹脂組成物を調製し、次いで成形して樹脂フィラメントを得る方法や、・・・、上記常温揮散性ピレスロイド系防虫成分を含浸させる方法等が挙げられる。
・・・
[0016] [樹脂組成物]
樹脂組成物は、樹脂担体に、必要に応じて微粉末担体、及び他の樹脂担体を混練したものである。なお、この樹脂組成物は、一旦、ペレットに成形された後、上記の成形を行うことが効率上好ましい。」
・摘記1f
「[0017] [樹脂担体]
樹脂担体としては、常温揮散性ピレスロイド系防虫成分を練り込むか、又は含浸させるかによって幾分異なる。即ち、前者の場合、担体の内部に混入された防虫成分が徐々に表面にブリードして揮散することができるものであれば特に限定されず、例えば、ポリエチレン系樹脂やポリプロピレン樹脂のようなポリオレフィン系樹脂、あるいはこれらにカルボン酸エステル等の単量体を重合させて成形したものを挙げることができる。ここでカルボン酸エステル等の単量体は、前記防虫成分の樹脂担体表面からの揮散をコントロールするのに効果的なものであり、例えば、・・・、酢酸ビニル等が挙げられる。
[0018] なお、ポリオレフィン系樹脂に対するこれらのカルボン酸エステル単量体の配合比率は、一般に、カルボン酸エステル単量体配合比率が高くなるほど防虫成分のブリードの速度を遅らせる傾向があることから、使用する防虫成分の種類や含有量、あるいは使用目的等に応じ、ポリオレフィン系樹脂に対して1~30質量%の範囲で適宜調整すればよい。
[0019] また、前記の樹脂担体は、あらかじめカルボン酸エステル単量体を多く含有するポリオレフィン系共重合体とオレフィンの単独重合体を、その含有比率を調整して混合したポリマーブレンドを用いることもできるし、・・・。
[0020] 本発明では、性能や使用性等の点から、エチレン-ビニルアセテート共重合体が好適であり、その中のエチレン単位とビニルアセテート単立との数比は、90:10~70:30であると好ましい。ビニルアセテート単位が少なすぎると、・・・、本発明で必要とするプリード調整効果がほとんど期待できなくなってしまうからである一方、ビニルアセテート単位が多すぎると樹脂ペレット状に成形しづらくなる。」
・摘記1g
「[0023] [微粉末担体]
・・・前記の微粉末担体は、樹脂ペレット内に常温撰散性ピレスロイド系防虫成分を担持するために添加することができる成分である。例えば、いわゆるホワイトカーボンとよばれる微結晶シリカ・・・等が挙げられる。
・・・
[0025] ホワイトカーボンのような微結晶シリカなどを含む微粉末担体は、防虫成分と反応せず、表面積の広い微粉末を用いることができる。これらの微粉末担体は防虫成分を担持してベタツキを抑え、その結果、樹脂成分と共に混練して得られる樹脂組成物も、全体がべたつきにくくなりマスターバッチとして好適に利用できるものとなる。」
・摘記1h
「[0026] [他の樹脂担体]
更に、前記樹脂組成物の重量調整や物性の調整のために、前記のエチレン-ビニルアセテート共重合体等の樹脂担体の他に、他の樹脂担体を混練させてもよい。他の樹脂担体として、ポリオレフィン系樹脂・・・を含有してもよい。このポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン(PE)、・・・などがあげられるが、エチレン-ビニルアセテート共重合体・・・との親和性から、ポリエチレンが好ましく、成形性の点で特に低密度ポリエチレン、具体的には分岐低密度ポリエチレン(LDPE)、鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)が好ましい。」
・摘記1i
「[0027] [配合割合]
前記樹脂担体の配合量は、前記樹脂組成物全体に対して、10質量%以上含有すると好ましく、20質量%以上であるとより好ましい。・・・。本発明によれば、10質量%以上90質量%以下のエチレン-ビニルアセテート共重合体・・・と混練させることにより、得られる樹脂ペレットのブリードを適度な範囲で調整することが可能となる。
[0028] 前記微粉末担体の含有量は、前記樹脂組成物全体に対して、30質量%以下であると好ましく、・・・。30質量%を超えると、樹脂担体との配合比上、前記樹脂組成物をペレット化したとき、ペレットとしての形を維持するのが難しくなってしまう。また、前記樹脂組成物を用いた成形品にも含有されることになるので、多すぎると薬剤揮散体の物性に影響を及ぼす危惧が避けられない。
また、前記微粉末担体の前記樹脂組成物全体に対する含有量の下限値は、特に限定されるものではないが、過度なブリードを抑制する必要があるような場合においては、10質量%以上に設定するのが好ましい。・・・。」
・摘記1j
「[0029] [樹脂組成物及びペレットの製造]
上記樹脂組成物は、前記樹脂担体を加熱し、ここに前記常温揮散性ピレスロイド系防虫成分、必要に応じて、微粉末担体や、加熱した他の樹脂担体を混練することにより得られる。そして、これをペレット化して冷却することによりペレットを得ることができる。
・・・
[0031] ・・・、樹脂組成物の代表的な組成としては、10質量%以上60質量%以下の常温揮散性ピレスロイド系防虫成分と、30質量%以下の微粉末担体と、10質量%以上60質量%以下のエチレン-ビニルアセテート共重合体等の樹脂担体とを含有させた組合せがあげられる。」
・摘記1k
「[0032] [他の樹脂担体の混合時期]
ところで、上記の他の樹脂担体は、前記の通り、前記樹脂組成物のペレットの製造段階に含有させてもよく、また、この他の樹脂担体を含有させずに前記樹脂組成物のペレットを成形し、次いで、このペレットを前記他の樹脂担体を用いて希釈し、混練・成形することにより、前記薬剤揮散体を得てもよい。
[0033] このときの希釈倍率は、1.5倍以上で上限は5倍程度が好ましい。1.5倍より小さいと希釈する工程上のメリットがなくなり、・・・。」
・摘記1l
「[0034] [薬剤揮散体]
前記の樹脂組成物からなるペレットは、成形されて薬剤揮散体とする。また、前記のとおり、前記の防虫成分含有樹脂ペレットに前記他の樹脂担体が含有されていない場合は、前記防虫成分含有樹脂ペレットを前記他の樹脂担体を用いて希釈し、混練・成形して薬剤揮散体としてもよい。
[0035] この薬済剤揮散体は、樹脂フィラメントを組み合わせて好ましくは立体状メッシュに構成した形状を有する構造体である。この成形方法としては、まず、前記ペレットを押出成形や射出成形等によって成形して樹脂フィラメントを得、次いで、メッシュを構成する方法や、前記の防虫成分含有樹脂ペレットを射出成形等によって直接、複数の樹脂フィラメントを交差させてメッシュを成形する方法があげられる。
[0036] 前記のメッシュ構造の例としては、図1に示すような平面状のネット1や、図2(a)~(c)に示すような、立体状の構造体2をあげることができる。・・・。
[0037] 図1に示す平面状のネットは、前記フィラメントを、格子状に交差させて、平面状の格子構造を形成させたものである。
[0038] また、図2(a)~(c)に示す立体状の構造体2は、図2(c)に示される矩形状の波状体21のフィラメントを、頂部において2本の波状体21をほぼ直角に交差するようにしたものである。・・・。」
・摘記1m
「図面の簡単な説明
[0010] [図1]平面状ネットの例を示す斜視図である。
[図2](a)は立体構造体の例を示す斜視図、(b)は(a)の正面図、(c)は(b)のc-c断面図である。」
「符号の説明
[0094] 1 平面状ネット
2 立体構造体
21 矩形波状体
21a 第1頂部
21b 第2頂部
22 補強材 」
「[図1]
[図:0001405835000003.jpg]
[図2]
[図:0001405835000004.jpg]
[図:0001405835000005.jpg]
[図:0001405835000006.jpg]
」
・摘記1n
「[0040] [保水比]
前記構造体の保水比、すなわち、前記構造体の重量に対する、前記構造体が保水し得る量(構造体が保水し得る量(重彙部)/構造体の重量(重量部))は、0.005以上がよく、・・・。0.005より小さいと、メッシュ成形等製造上の不都合を生じる場合がある。一方、保水比の上限は、0.5がよく、・・・。0.5より大きいと、雨水が常温揮散性防虫成分の揮散を著しく抑制し、期待する防虫効果が得られないという問題点を生じる場合がある。なお、構造体が保水し得る量とは、構造体のくぼみや隙間に物理的に付着する水の量を意味する。」
・摘記1o
「[0041] [メッシュの大きさ]
上記メッシュの大きさは、前記構造体のメッシュ部分の目の大きさ、すなわち、前記構造体のメッシュ部分であって、各樹脂フィラメントで囲まれた1つの目(最小網目)が構成する表面積・・・は、10mm2以上がよく、・・・。10mm2より狭いと、付着した水が張力により網目を塞ぐ可能性が高くなり、網目を通る空気の流れが遮断される結果、防虫成分の揮散が抑制されるという問題点を生じる場合がある。一方、表面積の上限は、200mm2がよく、・・・。
・摘記1p
「[0068] [収納容器]
・・・、薬剤揮散体は、収納容器に収納されて使用される。この薬剤揮散体を収納するプラスチック容器としては、常温揮散性ピレスロイド系防虫成分を安定的に揮散できるものであれば、特に形状や大きさには限定されないが、揮散効率の点から、開口部の容器に占める比率(開口率)が、容器の全表面積に対し10~50%の範囲となるようにすることが好ましい。」
・摘記1q
「実施例
[0084] 次に、実施例を用いて、本発明の薬剤揮散体を説明する。なお、以下に述べる実施例は本発明を具体化した一例に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものでない。
まず、使用した薬剤、及び性能の評価方法について説明する。
[0085] <使用薬剤>
・・・
・微結晶シリカ(EVONIK社製:カープレックス#80、ホワイトカーボン、平均粒子径:15μm、以降「シリカ」と記す。)
・エチレン-ビニルアセテート共重合体(東ソー(株)製:ウルトラセン
710、エチレン:酢酸ビニル単位比=72:28、以降「EVA」と記す。)
・低密度ポリエチレン(旭化成(株)製:サンテックLDM6520、以降
「LDPE-A」と記す。)
・低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン(株)製:ノバテックLDLJ802、以降「LDPE-B」と記す。)
・ポリエチレンテレフタレート(・・・、以降「PET」と称す。)
[0086] <保水比の測定>
得られた薬剤揮散体を水に3分間浸漬した後、ゆっくりと引き上げ、下記の式にて保水比を算出した。
保水比=(薬剤揮散体に付着した水の重量)/(薬剤揮散体の重量)
[0087] <保水比試験前後の揮散量測定>
得られた薬剤揮散体を25℃の室内で、風速1m/秒の条件下で1日間揮散させ、薬剤揮散体中に含まれる有効成分量をガスクロマトグラフィーにより測定し、揮散量を算出した。更に、上記の保水比測定試験後、直ちに同条件下で2日間揮散させ、2日間の薬剤揮散量を算出し、1日当たりに換算した。保水比試験前後における薬剤揮散量を対比して保水比との関連性を調べた。」
・摘記1r
「[0088] (実施例1~5、7~9、比較例1)
<樹脂ペレットの製造方法>
表1に記載の常温揮散性ピレスロイド系防虫成分10重量部を50℃に加温してシリ力6重量部に担持させた後、これにEVA40重量部、及びLDPE-A44重蓋部を、(株)テクノベル製:二軸押出し成形機を用いて、120~140℃で混練・押出成形し、直径3mm、長さ5mmの常温揮散性ピレスロイド系防虫成分含有樹脂ペレットを製造した。
[0089] <成形体の製造>
前記常温揮散性ピレスロイド系防虫成分含有樹脂ペレット100重量部とLDPE-B300重量部(着色剤ペレット10重量部を含む)を120~140℃で混練後、インジェクション又は押出し成形機に投入し、図1に示す平面状ネット(実施例7~9)及び図2に示す立体構造体(実施例1~5、比較例1)からなる薬剤揮散体を得た。
なお、薬剤揮散体の重量、大きさ、最小網目の面積は、表1に示すとおりである。
得られた薬剤揮散体を用いて、・・・、保水比及び保水比試験前後の揮散量を測定した。その結果を表1に示す。
[0090]
[表1]
[図:0001405835000007.jpg]
[0091] (実施例6、比較例2、3)
薬剤含浸体としてPET加工糸を用いてプレーン組織を両面に編成し、この両面を撚り合わせたフィラメントで繋ぎ、表1に示す大きさの立体構造体(編地)を作製した。
なお、立体構造体の重量、大きさ、最小網目の面積は、表1に示すとおりである。
表1に記載の量の常温揮散性ピレスロイド系防虫成分をアセトン0.25gに溶解した薬液を前記立体構造体に保持させた。得られた薬剤揮散体を用いて、・・・、保水比及び保水比試験前後の揮散量を測定した。その結果を表1に示す。」
・摘記1s
「[0092] 試験の結果、保水比が0.005以上0.5以下の範囲にある本発明実施例は、保水比試験直後においても防虫成分揮散量の低減程度は小さく、雨水の付着による防虫成分揮散性への影響は僅かであった。・・・。
これに対し、保水比が0.5を超える比較例1から比較例3では、保水比試験直後の揮散量が著しく抑制され、防虫効果の低下が危惧された。」
イ 甲3の記載事項
甲3(特開2010-150147号公報)には、次の事項が記載されている。
・摘記3a
「【要約】
【課題】・・・、簡便な構造で防虫剤の空気中への揮散量を一定の範囲に維持し、安定した防虫性能を実現する薬剤揮散体および薬剤揮散体を用いた防虫方法が望まれていた。
【解決手段】・・・、蒸気圧が25℃において0.001Pa以上である常温揮散性防虫剤を保持させた担体を薬剤容器の内部に収納した薬剤揮散体であって、常温揮散性防虫剤を保持させた担体が樹脂メッシュであり、かつ、樹脂メッシュの線径が0.1~2mmであり、薬剤容器の全表面積に対する開口部の面積が10~50%であることを特徴とし、開口部を通過する風速を0.1~3m/秒とすることにより、常温揮散性防虫剤を0.5~15mg/日揮散させることを特徴とする。」
・摘記3b
「【請求項1】
蒸気圧が25℃において0.001Pa以上である常温揮散性防虫剤を保持させた担体を略直方体状の開口部を有する薬剤容器の内部に収納した薬剤揮散体であって、前記常温揮散性防虫剤を保持させた担体がポリオレフィン系樹脂からなる樹脂メッシュであり、かつ、前記樹脂メッシュの線径が0.1~2mmであり、前記薬剤容器の全表面積に対する前記開口部の面積が10~50%であることを特徴とする薬剤揮散体。
【請求項2】
請求項1に記載の薬剤揮散体を用い、前記開口部を通過する風速を0.1~3m/秒とすることにより、前記常温揮散性防虫剤を0.5~15mg/日揮散させることを特徴とする薬剤揮散体を用いた防虫方法。
【請求項3】
常温揮散性防虫剤が常温揮散性ピレスロイド系防虫剤であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の薬剤揮散体及び薬剤揮散体を用いた防虫方法。
【請求項4】
常温揮散性ピレスロイド系防虫剤がトランスフルトリン、メトフルトリン、エンペントリン及びプロフルトリンのうち少なくとも1種からなる薬剤を用いたものであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の薬剤揮散体及び薬剤揮散体を用いた防虫方法。」
ウ 甲4の記載事項
甲4(「汚れ防止シリーズ第5編 汚染防止性を付与した機能性フィルム」,塗料の研究,131号,(1998),51~58頁,<URL:https://www.kansai.co.jp/rd/token/pdf/131/10.pdf>)には、次の事項が記載されている。
・摘記4a
(51頁左欄「1.まえがき」「表1」)
「1.まえがき
・・・
・・・。一例として表1に各種フィルムをラミネートした鋼板の用途を示す。・・・。
当社では機能性フィルムシリーズの一つとして、汚染防止を目的として有害物を発生しないPETフィルムに撥水撥油性クリヤーを塗装した内装用汚染易除去性フィルム「ECフィルム」を開発している。レンジフード用、システムキッチン、ユニットバス用として、ユーザーの性能評価で良好な結果を得ている。」
「
[図:0001405835000008.jpg]
」
・摘記4b
(51頁右欄「2.内装用汚染易除去性フィルム「ECフィルム」」「2.1用途」)
「2.内装用汚染易除去性フィルム「ECフィルム」
2.1 用途
・・・。当社で開発した撥水撥油性クリヤーコーティングPETフィルム「ECフィルム」は表面に付着した汚染物の拭き取り除去が容易であり、レンジフードの油汚れ、キッチンの食品のシミ汚れ、ユニットバスの垢汚れ等の汚染除去に有効である。
ECフィルムはラミネート鋼板用のフィルムであり、その構成例を図1に示す。・・・」
・摘記4c
(51頁「図1」)
「
[図:0001405835000009.jpg]
」
・摘記4d
(52頁左欄「2.2 汚染易除去性能」)
「2.2 汚染易除去性能
ECフィルムの汚染易除去性について以下に説明する。
汚染物は油性マジック、天ぷら油を酸化させたもの、カレーの3種を用いた。比較対象として耐汚染材料のETFE、一般材料のPET、PVCフィルムを用いた。」
・摘記4e
(52頁右欄~53頁左欄「2.3 汚染易除去のメカニズム」)
「2.3 汚染易除去のメカニズム
汚染のメカニズムを表3にまとめた。
汚染物を容易に除去するために以下の3つの手段が考えられる。まず表面を撥水撥油性にして汚染物をはじかせる。次に塗膜の架橋を密にして汚染物の染着を防ぐ1)。そして硬度を上げて汚染物のめり込みを防ぐと共に拭き取り時の磨耗、粗面化を防ぐことである。
例に挙げた汚染テストのうち、酸化油汚染に対してはECフィルムは撥油性により油をはじかせ、拭き取りを容易にしている。カレー汚染については撥水性によりカレー(水溶液)をはじかせ、塗膜の架橋を密にしてカレーの色素の染着を防いでいる。そしてマジック汚染に関しては、撥油性、架橋密度アップに加え、表面硬度を上げてペン先のフェルトによるキズ、磨耗を防いでいる。
ECフィルムの特徴である表面の撥水撥油性について簡単に説明する。ECフィルム、比較としてETFE、PET、PVCフィルムの水、パラフィンの接触角を測定し、そこから算出した表面エネルギーのデータを図2a~eに示す。ECフィルムの水、パラフィンの接触角はETFEフィルムとほぼ同等であり、PET、PVCフィルムより撥水性、撥油性は高い。」
・摘記4f
(52頁「表3」)
「
[図:0001405835000010.jpg]
」
・摘記4g
(54頁「図2a」「図2b」)
「
[図:0001405835000011.jpg]
」
「
[図:0001405835000012.jpg]
」
(2) 甲1に記載された発明
甲1は、雨がかかった場合にも揮散性能を保持する、常温揮散性ピレスロイド系防虫成分を含有する、繊維状物からなるメッシュを有する構造体からなる、飛翔害虫を駆除及び忌避するための薬剤揮散体に関するものであって(摘記1a)、上記薬剤揮散体において、上記繊維状物は樹脂フィラメントからなるものであり、上記構造体の重量に対する上記構造体が保水し得る量(保水比)が0.005以上0.5以下であることを特徴とするものである(摘記1b)。
そして、上記薬剤揮散体を具体化した実施例(特に、実施例1~2、4~5、7~9)の記載からみて(摘記1q~1r)、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
≪甲1発明≫
「トランスフルトリン又はメトフルトリンである常温揮散性ピレスロイド系防虫成分10重量部を、微結晶シリカ(EVONIK社製:カープレックス#80)6重量部に担持させた後、これに、エチレン-ビニルアセテート共重合体(東ソー(株)製:ウルトラセン710、エチレン:酢酸ビニル単位比=72:28、「EVA」)40重量部、及び、低密度ポリエチレン(旭化成(株)製:サンテックLDM6520、「LDPE-A」)44重量部を、混練・押出成形して製造した、常温揮散性ピレスロイド系防虫成分含有樹脂ペレット100重量部と、低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン(株)製:ノバテックLDLJ802、「LDPE-B」)300重量部とを、混練後、インジェクション又は押出成形して得た、平面状ネット又は立体構造体構造である構造体からなり、前記構造体の重量に対する前記構造体が保水し得る量(保水比)が0.01~0.28の範囲である、薬剤揮散体。」
(3) 本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明における「低密度ポリエチレン(旭化成(株)製:サンテックLDM6520、「LDPE-A」)」及び「低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン(株)製:ノバテックLDLJ802、「LDPE-B」)」は、いずれも本件発明1における「ポリオレフィン系樹脂」に相当する。
甲1発明における「エチレン-ビニルアセテート共重合体(東ソー(株)製:ウルトラセン710、エチレン:酢酸ビニル単位比=72:28、「EVA」)」は、本件発明1における「オレフィンとカルボン酸エステルとの共重合体」に相当する。
甲1発明の「薬剤揮散体」において、「ポリオレフィン系樹脂」に相当する「LDPE-A」と「LDPE-B」の合計の割合は「86(重量部)」(=[44×100/(100+300)]+[100×300/(100+300)])であり、「オレフィンとカルボン酸エステルとの共重合体」に相当する「EVA」の割合は「10(重量部)」(=40×100/(100+300))であるから、前者と後者の重量比は「1:0.12」(≒86:10)である。
甲1発明の「薬剤揮散体」は、「トランスフルトリン又はメトフルトリンである常温揮散性ピレスロイド系防虫成分」を含有するとともに、その主な構成成分は樹脂(「EVA」、「LDPE-A」及び「LDPE-B」)であって、インジェクション又は押出成形により平面状ネット又は立体構造体とされたものであるから、本件発明1における「常温揮散性ピレスロイド系防虫成分を含有する樹脂成形体」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明の間には、以下の一致点及び相違点があるものと認められる。
<一致点>
「常温揮散性ピレスロイド系防虫成分を含有する樹脂成形体であって、
ポリオレフィン系樹脂及びオレフィンとカルボン酸エステルとの共重合体を含む、樹脂成形体」
に関するものである点。
<相違点1>
樹脂成形体における、ポリオレフィン系樹脂と、オレフィンとカルボン酸エステルとの共重合体との重量比が、本件発明1では「1:0.5~8」であるのに対して、甲1発明では当該範囲外の「1:0.12」である点。
<相違点2>
本件発明1は、樹脂成形体について「水の接触角が84~95°であり、且つ、流動パラフィンの接触角が20~30°である」と特定されているのに対して、甲1発明は、そのような接触角の特定がされていない点。
<相違点3>
本件発明1は、「樹脂成形体」と、当該「樹脂成形体」から「揮散」した「常温揮散性ピレスロイド系防虫成分を通過させつつ」当該「樹脂成形体」を収納する「収納容器」と、を備えた「樹脂製品」であるのに対して、甲1発明は、そのような「収納容器」も備えた「樹脂製品」であることが特定されていない点。
イ 相違点についての判断
(ア) 新規性について
上記アのとおり、本件発明1と甲1発明とは、相違点1~3において相違するところ、相違点1は、樹脂成形体を構成する樹脂の成分の組成比の違いであり、相違点3は、樹脂成形体を収納する収納容器を備えるか否かの違いであるから、いずれも実質的な相違点である。また、甲1の記載全体を参照しても、薬剤揮散体の接触角については何らの記載も示唆もなく、甲1発明の薬剤揮散体が、「水の接触角が84~95°であり、且つ、流動パラフィンの接触角が20~30°である」と推認し得るに足るような根拠は見いだせないから、相違点2も実質的な相違点である。
したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明ではない。
(イ) 進歩性について
a 相違点1及び相違点2について
事案に鑑み、相違点1と相違点2とを併せて検討する。
相違点1に係る本件発明1の「1:0.5~8」の重量比の構成に関し、本件明細書には、「ポリオレフィン系樹脂と、オレフィンとカルボン酸エステルとの共重合体との混合重量比は、1:0.5~8が好ましく、・・・。ポリオレフィン系樹脂に対して、オレフィンとカルボン酸エステルとの共重合体の比率が大きいほど、樹脂成形体の水及び流動パラフィンの接触角が大きくなり得る。」(摘記C【0024】)と記載されていることから、当該重量比の範囲は、樹脂成形体の水及び流動パラフィンの接触角に影響を及ぼす要素の一つであると解される。そして、本件明細書に記載された実施例1~4の樹脂成形体は、当該重量比の条件を満たすとともに、相違点2に係る本件発明1の「水の接触角が84~95°」且つ「流動パラフィンの接触角が20~30°」との条件も満たすものであり、これらの条件のいずれかを満たさない比較例1~4の樹脂成形体と比べて、「埃や汚れが付着して表面が汚れた状態であっても、防虫成分の揮散の減少が抑えられ、優れた防虫効果を発揮し得る」ものである(上記1(5)ア(イ)を参照。)。
これに対して、甲1発明の薬剤揮散体は、雨がかかった場合にも揮散性能を保持するために、保水比を0.005以上0.5以下としたことを特徴とする技術を具体化した実施例であるから(摘記1a~1b、1q~1r)、本件発明とは課題もその解決手段とした構成も異なるものであり、ポリオレフィン系樹脂に対するオレフィンとカルボン酸エステルとの共重合体の比率は、相違点1に係る本件発明1の「1:0.5~8」の重量比の下限値より小さい「1:0.12」であって、上記(ア)で説示したとおり、甲1の記載全体を参照しても、甲1発明の薬剤揮散体が、相違点2に係る本件発明1の「水の接触角が84~95°」且つ「流動パラフィンの接触角が20~30°」との条件を満たすと推認し得るに足るような根拠は見いだせない。
また、甲1には、薬剤揮散体が、繊維状物からなるメッシュを有する構造体からなるものであること(摘記1d[0011])、当該繊維状物が、樹脂担体を含有する樹脂組成物を用いて成形して得られること(摘記1e[0013])、当該樹脂組成物は、一旦ペレットに成形された後、上記の成形を行うことが好ましいこと(摘記1e[0016])、当該樹脂担体は、あらかじめカルボン酸エステル単量体を多く含有するポリオレフィン系共重合体と、オレフィンの単独重合体とを、含有比率を調整し混合したポリマーブレンドを用いることもできること(摘記1f[0019])、樹脂組成物の重量や物性の調整のため、エチレン-ビニルアセテート共重合体等の樹脂担体の他に、ポリオレフィン系樹脂等の「他の樹脂担体」を混練させてもよいこと(摘記1h[0026])、及び、当該「他の樹脂担体」は、樹脂組成物のペレットの製造段階に含有させてもよく、また、当該「他の樹脂担体」を含有させずに樹脂組成物のペレットを成形し、次いで、このペレットを当該「他の樹脂担体」を用いて希釈し、混練・成形することにより薬剤揮散体を得てもよく、このときの希釈倍率は、1.5倍より小さいと希釈する工程上のメリットがなくなること(摘記1k[0032]~[0033]及び摘記1l[0034])、が記載されている。そして、甲1においては、当該「他の樹脂担体」を用いない場合について、利点は特に記載されておらず、それに対応する実施例等の具体的な記載も全くない。
これらの甲1の記載によれば、薬剤揮散体を構成する樹脂組成物は、エチレン-ビニルアセテート共重合体等に加えて、最終的には希釈のためのポリオレフィン系樹脂等の「他の樹脂担体」を含有するとしたものが、より好適とされていると認められるから、甲1発明の薬剤揮散体を構成する樹脂組成物を製造する際に、その重量や物性を調整するために、「常温揮散性ピレスロイド系防虫成分含有樹脂ペレット」を希釈している「LDPE-B」(ポリオレフィン系樹脂)について、これを敢えて含有しないものとしたり、含有量を大幅に低減したりして、ポリオレフィン系樹脂に対するオレフィンとカルボン酸エステルとの共重合体の比率を「1:0.5~8」の範囲内とするような動機付けがあるとはいえない。また、甲1に何らの記載も示唆もない、薬剤揮散体の水や流動パラフィンの接触角について、「水の接触角が84~95°」且つ「流動パラフィンの接触角が20~30°」という条件を満たすものとするような動機付けがあるともいえず、それらの接触角を調整するとの観点から、ポリオレフィン系樹脂に対するオレフィンとカルボン酸エステルとの共重合体の比率を高めるような動機付けがあるともいえない。
なお、甲3には、常温揮散性防虫剤を保持させた、ポリオレフィン系樹脂からなる樹脂メッシュである担体を、略直方体状の開口部を有する薬剤容器の内部に収納した、薬剤揮散体について記載され(摘記3a~3b)、甲4には、内装用汚染易除去性フィルム「ECフィルム」について、比較対象の耐汚染材料のETFE(エチレン4フッ化エチレン共重合体)、一般材料のPET(ポリエチレンテレフタレート)及びPVC(ポリ塩化ビニル)フィルムとともに、水及びパラフィンの接触角並びに汚染易除去性能のデータが記載されているが(摘記4a~4g)、それらの甲3及び甲4に記載された周知技術を考慮しても、上記の相違点1及び相違点2についての判断は何ら左右されるものではない。
b 小括
上記aのとおり、甲1発明について、相違点1に係る本件発明1の「1:0.5~8」の重量比を満たすものとすることも、相違点2に係る本件発明1の「水の接触角が84~95°」且つ「流動パラフィンの接触角が20~30°」との条件も満たすものとすることも、動機付けがあるとはいえず、当業者が容易に想到し得たものとはいえないし、本件発明1は、上記相違点1及び2に係る構成を採用したことにより、「埃や汚れが付着して表面が汚れた状態であっても、防虫成分の揮散の減少が抑えられ、優れた防虫効果を発揮し得る」という効果を奏するものと認められるから(上記1(5)ア(イ)~(ウ)を参照。)、相違点3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲3~甲4に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4) 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の樹脂製品において、「常温揮散性ピレスロイド系防虫成分」を、「トランスフルトリン又はメトフルトリン」に特定したものである。
したがって、上記(3)で説示したのと同様の理由により、本件発明2は、甲1に記載された発明ではなく、甲1に記載された発明及び甲3~甲4に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(5) 申立人の主張について
ア 対比判断の手法について
申立人は、申立書の13~18頁の「3-3.本件特許発明1と甲1との対比」の項目において、本件発明1と甲1の記載事項とを対比して縷々主張しているが、申立人は、甲1に記載された事項から纏まりのある一の発明を認定しないまま、本件発明1の構成要件(A)~(E)について、それぞれ構成要件ごとに、甲1の様々な記載箇所を抽出して対比し、同一であるか否か、容易に想到し得るか否かを検討しているため、そもそも前提として、適切な対比判断の手法によるものであるとはいえない。
イ 構成要件(C)について
申立人は、申立書の14~15頁の「(3)構成要件(C):ポリオレフィン系樹脂と共重合体との重量比」の項目において、甲1に記載の「樹脂ペレット」の「PE:EVA」の重量比は、「LDPE-A」が44重量部、「EVA」が40重量部であるから、「44:40」≒「1:0.91」であり、本件発明1の構成要件(C)の「1:0.5~8」の範囲内となることから、本件発明1と同一であること、本件発明1の当該「1:0.5~8」の特徴は、甲1の[0017]~[0018]及び[0020]等の記載の内容から、当業者が他の含有成分などと総合考慮して適宜調製可能なものに過ぎないこと、及び、当該「1:0.5~8」の範囲について、格別顕著な効果や上限値及び下限値の付近における臨界的意義が示されたわけでもないこと、等を主張している。
しかしながら、申立人が主張する甲1に記載の「樹脂ペレット」は、甲1に記載された実施例の「薬剤揮散体」を製造する工程において、「LDPE-B」によって希釈され混練され成形される「製造中間体」というべき位置付けのものであり、それ自体が「薬剤揮散体」を構成するものでないから、本件発明1の「樹脂成形体」と対比することは適切ではないし、甲1発明において、「樹脂ペレット」の希釈に用いられる「LDPE-B」を、敢えて含有しないものとしたり、含有量を大幅に低減したりする動機付けがあるといえないことは、上記(3)イ(イ)aで説示したとおりである。
そして、本件発明1の構成要件(C)の「1:0.5~8」の範囲における格別顕著な効果や上限値及び下限値の付近の臨界的意義の有無は、当該範囲を満たすことの動機付けがあるとはいえないという上記判断を左右するものではない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
ウ 構成要件(D)及び(E)について
申立人は、申立書の15~18頁の「(4)構成要件(D)(E):水及び流動パラフィンの接触角」の項目において、甲1には、水及びパラフィンの接触角の記載はされていないが、[0040]に樹脂の「保水比」について記載されており、樹脂からの防虫成分の揮散と樹脂付近の水分量とは関係があることが知られているといえること、本件明細書の【0005】の記載から、樹脂成形体に埃や汚れが付着することによって、防虫効果が低下するという問題は公知であり、樹脂成形体への埃や汚れや付着を防止することは公知の課題であること、甲4には、汚染防止の目的で「ECフィルム」等の樹脂が所望の撥油性や撥水性の性質を有することを確認するため、水やパラフィンの接触角を指標としたことなどが記載されていること、本件発明1は、樹脂成形体への埃や汚れの付着を防止する、という公知の課題を、樹脂の水及びパラフィン接触角を調整する、という公知の方法で解決しているに過ぎないこと、及び、甲1の[OO34]の記載から、樹脂ペレットは、そのまま成形されて薬剤揮散体となることが示されていること、等を主張している。
しかしながら、甲1の摘記1n[0040]の記載によれば、甲1発明における「保水比」にいう「構造体が保水し得る量」とは、「構造体のくぼみや隙間に物理的に付着する水の量」を意味し、また、甲1の摘記1o[0041]の記載によれば、各樹脂フィラメントで囲まれた1つの目(最小網目)が構成する表面積が10mm2より狭いと、付着した水が張力により網目を塞ぐ可能性が高くなるとされていることからすると、甲1発明における「保水比」は、構造体を構成する樹脂組成物それ自体の物性よりも、樹脂組成物を成形して得られた繊維状物からなるメッシュの構造に大きく依存するものと解されるから、樹脂成形体の水及びパラフィンの接触角に基づく防虫成分の揮散との直接的な対応関係があるものとはいえない。
また、本件明細書の摘記A【0005】の記載からは、本件特許の発明者が、樹脂成形体の表面に埃や汚れが付着することによって、防虫成分の揮散が減少して防虫効果が低下するという問題点を有している、と認識していたことが読み取れるに留まり、そのような問題点が既に公知であったかは不明であるうえ、上記1(4)で認定したとおり、本件発明が解決すべき課題は、「埃や汚れが付着して表面が汚れた状態であっても、防虫成分の揮散の減少が抑えられ、優れた防虫効果を発揮し得る樹脂成形体及び樹脂製品を提供すること」であって、「樹脂成形体への埃や汚れや付着を防止すること」ではないから、甲4に記載された、樹脂の汚染防止の目的で樹脂が所望の撥油性や撥水性の性質を有することを確認するために、水やパラフィンの接触角を指標としたとの事実は、本件発明の想到容易性の根拠となるものではない。
そして、甲1において、「樹脂ペレット」の希釈に用いられている「LDPE-B」を敢えて含有しないものとする動機付けがあるとはいえないことは、上記(3)イ(イ)aで説示したとおりであるから、甲1において、「樹脂ペレット」をそのまま成形して「薬剤揮散体」とすることは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
エ 本件発明の効果について
申立人は、申立書の18~20頁の「3-4.本件特許発明の効果について」の項目において、本件明細書に記載された防虫効果の試験結果は、バラつきがあるため、比較例3や実施例2について、実質的には効果に差がないといえること、本件明細書に記載された防虫効果の評価結果において、本来重視されるべきは、「KT50値」の短さと「15分経過後のKD率」の高さであり、これらに着目すると、本件発明に優れた効果はないこと、及び、そもそも、本件明細書の表2のデータ(特に、評価基準1のデータ)は信頼できないこと、等を縷々主張している。
しかしながら、これらの主張は、いずれも本件明細書に記載の防虫効果の記載に対する申立人の独自の解釈や見解を述べたものに留まり、本件明細書の表2のデータ評価基準1のデータについては、本件明細書【0053】の「[評価基準1]」の計算式の一部に誤記があるに過ぎないものであって、信頼性に欠けるものとはいえないことは、上記1(6)エで説示したとおりである。そして、上記(3)~(4)で詳述したとおり、本件発明1~2の構成自体が、甲1発明からは容易に想到し得たとはいえないのであるから、申立人の上記主張は、いずれも前提を欠くものであり、採用の限りではない。
(6) 申立理由2(甲1に基づく新規性欠如)及び申立理由3(甲1を主
引例とする進歩性欠如)についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1~2は、甲1に記載された発明ではなく、甲1に記載された発明及び甲3~甲4に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
よって、本件請求項1~2に係る発明についての特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものとはいえず、同法第113条第2号に該当しないから、申立理由2又は3によって取り消されるべきものではない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、申立人による特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1~2に係る特許を取り消すことはできない。
また、その他に本件請求項1~2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700804